特許第6861567号(P6861567)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861567
(24)【登録日】2021年4月1日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】車両用回路体
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20210412BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20210412BHJP
   H03H 7/01 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   H01B7/00 301
   H01B7/00 304
   H01B7/00 305
   H01B7/00 306
   B60R16/02 620Z
   H03H7/01 Z
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-82996(P2017-82996)
(22)【出願日】2017年4月19日
(65)【公開番号】特開2018-181732(P2018-181732A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2018年6月19日
【審判番号】不服2020-3450(P2020-3450/J1)
【審判請求日】2020年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池谷 浩二
【合議体】
【審判長】 辻本 泰隆
【審判官】 ▲吉▼澤 雅博
【審判官】 小田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−519686(JP,A)
【文献】 特開昭55−62611(JP,A)
【文献】 特開2004−164945(JP,A)
【文献】 特開2004−164944(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/104848パンフレット(WO,A1)
【文献】 特開2006−224772(JP,A)
【文献】 特開2011−113939(JP,A)
【文献】 特開2003−17335(JP,A)
【文献】 特公昭50−16517(JP,B2)
【文献】 特開昭62−170104(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0034377(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
B60R 16/02
H03H 7/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源ラインとしての第1の導体と、
アースラインとしての第2の導体と、
前記第1の導体と前記第2の導体との間に位置する誘電体と、
を備え、
前記第1の導体は、メイン電源ラインとしてのメイン電源導体、及び、サブ電源ラインとしてのサブ電源導体からなり、
前記メイン電源導体、前記サブ電源導体、前記第2の導体、及び、前記誘電体それぞれが、断面形状が扁平な帯状の形状を有し、
前記メイン電源導体、前記サブ電源導体、及び、前記第2の導体それぞれの周囲が、絶縁被覆によって覆われ、
前記サブ電源導体、前記メイン電源導体、前記誘電体、及び、前記第2の導体が、この順に厚み方向に積層され、
前記誘電体が、前記第1の導体及び前記第2の導体の一端と前記第1の導体及び前記第2の導体の他端の間に位置し、
前記誘電体が、前記第1の導体及び前記第2の導体の一端と前記第1の導体及び前記第2の導体の他端の間の少なくとも一箇所に設けられ、
前記第1の導体及び前記第2の導体が、前記第1の導体及び前記第2の導体の一端と前記第1の導体及び前記第2の導体の他端の間において、前記誘電体が挟まれた箇所と、前記誘電体が挟まれていない箇所と、を有し、
前記誘電体が挟まれていない箇所には、空気層が形成されている、
車両用回路体。
【請求項2】
電源ラインとしての第1の導体と、
アースラインとしての第2の導体と、
前記第1の導体と前記第2の導体との間に位置する誘電体と、
を備え、
前記第1の導体は、メイン電源ラインとしてのメイン電源導体、及び、サブ電源ラインとしてのサブ電源導体からなり、
前記メイン電源導体、前記サブ電源導体、前記第2の導体、及び、前記誘電体それぞれが、断面形状が円形の形状を有し、
前記メイン電源導体、前記サブ電源導体、及び、前記第2の導体それぞれの周囲は、絶縁被覆によって覆われ、
前記サブ電源導体、前記メイン電源導体、前記誘電体、及び、前記第2の導体が、この順に一方向に並べられ、
前記第1の導体、前記誘電体、及び、前記第2の導体の周囲が一括して、絶縁被覆によって更に覆われ、
前記誘電体が、前記第1の導体及び前記第2の導体の一端と前記第1の導体及び前記第2の導体の他端の間に位置し、
前記誘電体が、前記第1の導体及び前記第2の導体の一端と前記第1の導体及び前記第2の導体の他端の間の少なくとも一箇所に設けられ、
前記第1の導体及び前記第2の導体が、前記第1の導体及び前記第2の導体の一端と前記第1の導体及び前記第2の導体の他端の間において、前記誘電体が挟まれた箇所と、前記誘電体が挟まれていない箇所と、を有し、
前記誘電体が挟まれていない箇所には、空気層が形成されている、
車両用回路体。
【請求項3】
電源ラインとしての第1の導体と、
アースラインとしての第2の導体と、
前記第1の導体と前記第2の導体との間に位置する誘電体と、
を備え、
前記第1の導体は、メイン電源ラインとしてのメイン電源導体、及び、サブ電源ラインとしてのサブ電源導体からなり、
前記メイン電源導体、前記サブ電源導体、前記第2の導体、及び、前記誘電体それぞれが、断面形状が中空円形の形状を有し、
前記第2の導体、前記誘電体、前記メイン電源導体、及び、前記サブ電源導体が、中心軸が一致するように、この順に径方向に積層され、
前記サブ電源導体の周囲が、絶縁被覆によって更に覆われ、
前記誘電体が、前記第1の導体及び前記第2の導体の一端と前記第1の導体及び前記第2の導体の他端の間に位置し、
前記誘電体が、前記第1の導体及び前記第2の導体の一端と前記第1の導体及び前記第2の導体の他端の間の少なくとも一箇所に設けられ、
前記第1の導体及び前記第2の導体が、前記第1の導体及び前記第2の導体の一端と前記第1の導体及び前記第2の導体の他端の間において、前記誘電体が挟まれた箇所と、前記誘電体が挟まれていない箇所と、を有し、
前記誘電体が挟まれていない箇所には、空気層が形成されている、
車両用回路体。
【請求項4】
前記第1の導体、前記第2の導体及び前記誘電体には、負荷を駆動するための電力量が蓄電される、
請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用回路体。
【請求項5】
前記第1の導体に接続され、前記第1の導体、前記第2の導体及び前記誘電体に蓄電された電力量を放電するための放電回路をさらに備える、
請求項1から4のいずれか一項に記載の車両用回路体。
【請求項6】
前記放電回路が、当該放電回路を制御する装置からの制御信号を受けて、前記第1の導体、前記第2の導体及び前記誘電体に蓄電された電力量を放電する、
請求項5に記載の車両用回路体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用回路体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車載ネットワークシステムは、多様になり、簡素化されたワイヤハーネス形態を維持することが困難になりつつある。このような状況において、特許文献1には、ネットワーク上の機器構成が多様になった場合でも対応することが可能なワイヤハーネスについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−78962号公報
【特許文献2】特開2012−129631号公報
【特許文献3】特開2015−204530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車載ネットワークシステムは、ワイヤハーネス形態が複雑になるほど、車両に搭載される様々な機器、スイッチ等がノイズ源となって発生する高周波の電磁ノイズ(以下ノイズと称する。)に対する処置を施すことが困難になる。特許文献2、3には、ワイヤハーネスに対してなされるノイズ対策について開示されている。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、より簡易な構造によってノイズ対策を施すことができる車両用回路体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するために、本発明に係る車両用回路体は、下記(1)〜(6)を特徴としている。
(1)
電源ラインとしての第1の導体と、
アースラインとしての第2の導体と、
前記第1の導体と前記第2の導体との間に位置する誘電体と、
を備え、
前記第1の導体は、メイン電源ラインとしてのメイン電源導体、及び、サブ電源ラインとしてのサブ電源導体からなり、
前記メイン電源導体、前記サブ電源導体、前記第2の導体、及び、前記誘電体それぞれが、断面形状が扁平な帯状の形状を有し、
前記メイン電源導体、前記サブ電源導体、及び、前記第2の導体それぞれの周囲が、絶縁被覆によって覆われ、
前記サブ電源導体、前記メイン電源導体、前記誘電体、及び、前記第2の導体が、この順に厚み方向に積層され、
前記誘電体が、前記第1の導体及び前記第2の導体の一端と前記第1の導体及び前記第2の導体の他端の間に位置し、
前記誘電体が、前記第1の導体及び前記第2の導体の一端と前記第1の導体及び前記第2の導体の他端の間の少なくとも一箇所に設けられ、
前記第1の導体及び前記第2の導体が、前記第1の導体及び前記第2の導体の一端と前記第1の導体及び前記第2の導体の他端の間において、前記誘電体が挟まれた箇所と、前記誘電体が挟まれていない箇所と、を有し、
前記誘電体が挟まれていない箇所には、空気層が形成されている、
車両用回路体。
(2)
電源ラインとしての第1の導体と、
アースラインとしての第2の導体と、
前記第1の導体と前記第2の導体との間に位置する誘電体と、
を備え、
前記第1の導体は、メイン電源ラインとしてのメイン電源導体、及び、サブ電源ラインとしてのサブ電源導体からなり、
前記メイン電源導体、前記サブ電源導体、前記第2の導体、及び、前記誘電体それぞれが、断面形状が円形の形状を有し、
前記メイン電源導体、前記サブ電源導体、及び、前記第2の導体それぞれの周囲は、絶縁被覆によって覆われ、
前記サブ電源導体、前記メイン電源導体、前記誘電体、及び、前記第2の導体が、この順に一方向に並べられ、
前記第1の導体、前記誘電体、及び、前記第2の導体の周囲が一括して、絶縁被覆によって更に覆われ、
前記誘電体が、前記第1の導体及び前記第2の導体の一端と前記第1の導体及び前記第2の導体の他端の間に位置し、
前記誘電体が、前記第1の導体及び前記第2の導体の一端と前記第1の導体及び前記第2の導体の他端の間の少なくとも一箇所に設けられ、
前記第1の導体及び前記第2の導体が、前記第1の導体及び前記第2の導体の一端と前記第1の導体及び前記第2の導体の他端の間において、前記誘電体が挟まれた箇所と、前記誘電体が挟まれていない箇所と、を有し、
前記誘電体が挟まれていない箇所には、空気層が形成されている、
車両用回路体。
(3)
電源ラインとしての第1の導体と、
アースラインとしての第2の導体と、
前記第1の導体と前記第2の導体との間に位置する誘電体と、
を備え、
前記第1の導体は、メイン電源ラインとしてのメイン電源導体、及び、サブ電源ラインとしてのサブ電源導体からなり、
前記メイン電源導体、前記サブ電源導体、前記第2の導体、及び、前記誘電体それぞれが、断面形状が中空円形の形状を有し、
前記第2の導体、前記誘電体、前記メイン電源導体、及び、前記サブ電源導体が、中心軸が一致するように、この順に径方向に積層され、
前記サブ電源導体の周囲が、絶縁被覆によって更に覆われ、
前記誘電体が、前記第1の導体及び前記第2の導体の一端と前記第1の導体及び前記第2の導体の他端の間に位置し、
前記誘電体が、前記第1の導体及び前記第2の導体の一端と前記第1の導体及び前記第2の導体の他端の間の少なくとも一箇所に設けられ、
前記第1の導体及び前記第2の導体が、前記第1の導体及び前記第2の導体の一端と前記第1の導体及び前記第2の導体の他端の間において、前記誘電体が挟まれた箇所と、前記誘電体が挟まれていない箇所と、を有し、
前記誘電体が挟まれていない箇所には、空気層が形成されている、
車両用回路体。
(4)
前記第1の導体、前記第2の導体及び前記誘電体には、負荷を駆動するための電力量が蓄電される、
上記(1)から(3)のいずれか一項に記載の車両用回路体。
(5)
前記第1の導体に接続され、前記第1の導体、前記第2の導体及び前記誘電体に蓄電された電力量を放電するための放電回路をさらに備える、
上記(1)から(4)のいずれか一項に記載の車両用回路体。
(6)
前記放電回路が、当該放電回路を制御する装置からの制御信号を受けて、前記第1の導体、前記第2の導体及び前記誘電体に蓄電された電力量を放電する、
上記(5)に記載の車両用回路体。
【0007】
上記(1)〜(3)の構成の車両用回路体によれば、電源ラインとアースラインとの間にコンデンサが形成されることにより、電源ラインを伝搬するノイズがアースラインにバイパスされる。すなわち、コンデンサがバイパスコンデンサとして機能する。こうして、電源ラインを伝搬するノイズを除去することができる。さらに、電源ラインとアースラインとの間に誘電体を挟むだけという簡単な構造でコンデンサを形成することできるため、車両用回路体にノイズ対策を簡易に施すことができる。
更に、上記(1)〜(3)の構成の車両用回路体によれば、電源ラインとアースラインとの間に形成されるコンデンサの静電容量を簡易に調整することができる。
上記()の構成の車両用回路体によれば、電源ラインとアースラインとの間に形成されるコンデンサをバックアップ電源用コンデンサとして機能させることができる。
上記()、()の構成の車両用回路体によれば、車両衝突等によって電源ラインが断線した場合に、コンデンサに蓄電された電力量を放電回路によって放電することによって、車両衝突等の1次事故後に、コンデンサCの放電に起因する2次事故が発生することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両用回路体によれば、より簡易な構造によってノイズ対策を施すことができる。
【0009】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明に係る実施形態の車両用回路体を車体上に配索した状態における各部のレイアウトおよび接続状態、並びに車体上に搭載される各モジュールの概要を示す分解斜視図である。
図2図2は、図1に示した各モジュールが車体上に搭載された状態を示す斜視図である。
図3図3は、本発明に係る実施形態の車両用回路体における配索材を説明する図であり、図3(a)は配索材の斜視図であり、図3(b)は図3(a)のIIIb線で示される配索材の縦断面図であり、図3(c)は図3(a)のIIIc線で示される配索材の横断面図である。
図4図4は、本発明に係る実施形態の車両用回路体における配索材の等価回路を示す図である。
図5図5は、本発明に係る実施形態の車両用回路体における放電回路の等価回路を示す図である
図6図6は、本発明に係る実施形態の車両用回路体におけるECUの判断フローを示す図である。
図7図7は、本発明に係る変形例1の車両用回路体における配索材を説明する図である。
図8図8は、本発明に係る変形例2の車両用回路体における配索材を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本出願人は、平成28年9月26日に特許出願をしている(特願2016−187627)。本発明に係る実施形態の車両用回路体は、特願2016−187627に記載された車両用回路体に適用することができる。本発明に係る実施形態の車両用回路体についての理解を深めるため、当該車両用回路体を具体的に説明するに先立って特願2016−187627に記載された車両用回路体の概略を説明する。
【0012】
<特願2016−187627に記載された車両用回路体の概略>
(車両用回路体)
まず、車両用回路体の基本的な構成について説明する。
車両用回路体10を車体上に配索した状態における各部のレイアウトおよび接続状態の概要を図1に示す。
車両用回路体は、車載バッテリなどの主電源の電力を車体各部の補機(電装品)に対してそれぞれ供給したり、電装品同士の間で信号のやりとりを行うために必要な伝送経路としたりして利用されるものである(図1参照)。即ち、機能的には車両に搭載される一般的なワイヤハーネスと同様であるが、形状や構造が一般的なワイヤハーネスとは大きく異なる。
【0013】
具体的には、構造を簡素化するために、所定の電流容量を有する電源ラインと、所定の通信容量を有する通信ラインと、アースラインとを有する幹線が、背骨(バックボーン)のような形状が単純な配索材20で構成されている。なお、「所定の電流容量」とは、例えば取付対象車両に搭載可能な全ての電装品が搭載されて使用される際に必要十分な電流容量であり、「所定の通信容量」とは、例えば取付対象車両に搭載可能な全ての電装品が搭載されて使用される際に必要十分な通信容量である。そして、この幹線に沿って分散配置された複数の制御ボックスに接続される枝線を介して様々な補機(電装品)を接続できるように構成している。
【0014】
図1及び図2に示す車両用回路体10は、基本的な構成要素として、電源ライン21と通信ライン29とを有して車体1に配索される幹線(バックボーン幹線部15)と、車体各部の電装品に接続される枝線(インパネ枝線サブハーネス31、フロントドア枝線サブハーネス63、リアドア枝線サブハーネス65、センターコンソール枝線サブハーネス66、フロントシート枝線サブハーネス67、リアシート枝線サブハーネス68、ラゲージ枝線サブハーネス69)と、幹線に供給される電源ライン21の電力及び通信ライン29の信号を幹線に接続される枝線へ分配するための制御部を有し、幹線に沿って分散配置された複数の制御ボックス(供給側制御ボックス51、分岐制御ボックス53、中間制御ボックス57、制御ボックス55,59)と、を備える。
【0015】
更に、車両用回路体10のバックボーン幹線部15は、インパネバックボーン幹線部11と、フロアバックボーン幹線部13とに大別される。
インパネバックボーン幹線部11は、ダッシュパネル50の面に沿った箇所で、図示しないリーンホースの上方の位置にリーンホースとほぼ平行になるように左右方向に向かって直線的に配置されている。なお、インパネバックボーン幹線部11は、リーンホースに固定されてもよい。
また、フロアバックボーン幹線部13は、車室内フロアに沿って車体1の左右方向のほぼ中央部において車体1の前後方向に延びるように配置されており、ダッシュパネル50の面に沿った箇所では上下方向に直線的に延びてインパネバックボーン幹線部11の中間部に先端が接続されている。インパネバックボーン幹線部11とフロアバックボーン幹線部13との接続部は、後述する分岐制御ボックス53における分岐部を経由して互いに電気的に接続可能な状態になっている。つまり、バックボーン幹線部15は、インパネバックボーン幹線部11とフロアバックボーン幹線部13とでT字状に似た形状に構成されている。
【0016】
さらに、上記インパネバックボーン幹線部11には、バックボーン幹線部15の上流である車体1の左側に配置される供給側制御ボックス51を介してエンコパサブハーネス61が接続されている。エンコパサブハーネス61は、エンジンルーム(エンジンコンパートメント)41内に配置された主電源であるメインバッテリ5及びオルタネータ3を互いに電気的に接続する主電源ケーブル81を有している。
【0017】
ここで、エンジンルーム41と車室43との境界にはダッシュパネル50があり、電気接続部材がダッシュパネル50を貫通する箇所については完全にシールすることが求められる。すなわち、ダッシュパネル50は、車室43内の快適性を保つために、エンジンルーム41からの振動の絶縁、サスペンションからの振動や騒音の低減、高熱、騒音、臭い等の遮断の機能を備える必要があり、この機能を損なわないように、電気接続部材の貫通箇所にも十分な配慮が求められる。
【0018】
上述したように、車両用回路体10は、その主要な構成要素であるインパネバックボーン幹線部11及びフロアバックボーン幹線部13、並びに供給側制御ボックス51、分岐制御ボックス53、中間制御ボックス57及び制御ボックス55,59の全てが車室43側の空間に配置されている。そして、インパネバックボーン幹線部11の左端に設けた供給側制御ボックス51に接続した主電源ケーブル81が、ダッシュパネル50の貫通孔に嵌挿したグロメット85を通過するように配索され、エンジンルーム41内のエンコパサブハーネス61に接続される。これにより、主電源の電力を供給側制御ボックス51に供給することができる。また、主電源ケーブル81については曲げやすい材料を用いたり、断面形状を円形にしたり、断面積がインパネバックボーン幹線部11より小さくなるように構成することが可能であるので、グロメット85によるシールを容易に行うことができ、配索作業を実施する際の作業性の悪化も回避できる。
【0019】
また、車室43内のインパネバックボーン幹線部11にエンジンルーム41内の様々な電装品を接続する場合には、例えば供給側制御ボックス51に接続したサブハーネス71がダッシュパネル50を貫通するように設置したり、制御ボックス55に接続したサブハーネス73がダッシュパネル50を貫通するように設置したりすることで、所望の電気接続経路を実現できる。この場合、サブハーネス71,73等は断面積が小さく、曲げることも容易であるため、ダッシュパネル50を貫通する箇所をシールすることは容易である。
【0020】
また、インパネバックボーン幹線部11には、供給側制御ボックス51及び制御ボックス55を介してインパネ枝線サブハーネス(枝線)31及びフロントドア枝線サブハーネス(枝線)63が接続されている。
インパネ枝線サブハーネス31は、インパネモジュール30に搭載されたメータパネルやエアコン等の電装品の制御部に電気的に接続されているインパネハーネス30aのモジュールドライバ30bに対して、モジュールコネクタCを介して電気的に接続される。
フロントドア枝線サブハーネス33aは、フロントドア33に搭載されたドアロックやパワーウィンド等の電装品の制御部に電気的に接続されているフロントドア枝線サブハーネス33aのモジュールドライバ33bに対して、非接触給電可能及び近接無線通信可能に接続されることが望ましい。
【0021】
更に、フロアバックボーン幹線部13には、中間制御ボックス57を介してリアドア枝線サブハーネス(枝線)65、センターコンソール枝線サブハーネス(枝線)66、フロントシート枝線サブハーネス(枝線)67、リアシート枝線サブハーネス(枝線)68、及びサブバッテリ7が接続されている。
【0022】
リアドア枝線サブハーネス65は、リアドア35に搭載されたドアロックやパワーウィンド等の電装品の制御部に電気的に接続されているリアドアハーネス35aのモジュールドライバ35bに対して、非接触給電可能及び近接無線通信可能に接続されることが望ましい。
【0023】
センターコンソール枝線サブハーネス66は、センターコンソール39に搭載されたエアコンやオーディオの操作パネル等の電装品の制御部に電気的に接続されているセンターコンソールハーネス39aのモジュールドライバ39bに対して、モジュールコネクタCを介し電気的に接続される。
【0024】
フロントシート枝線サブハーネス67は、フロントシート37に搭載された電動リクライニングやシートヒータ等の電装品の制御部に電気的に接続されているフロントシートハーネス37aのモジュールドライバ37bに対して、モジュールコネクタCを介し電気的に接続される。
【0025】
リアシート枝線サブハーネス68は、リアシート38に搭載された電動リクライニングやシートヒータ等の電装品の制御部に電気的に接続されているリアシートハーネス38aのモジュールドライバ38bに対して、モジュールコネクタCを介し電気的に接続される。
【0026】
更に、フロアバックボーン幹線部13には、幹線の下流である車体1の後方に配置される制御ボックス59を介してラゲージ枝線サブハーネス(枝線)69が接続されている。
ラゲージ枝線サブハーネス69は、ラゲージルーム内の様々な電装品の制御部に電気的に接続されているラゲージハーネスのモジュールドライバ(図示せず)に対して、モジュールコネクタCを介し電気的に接続される。
なお、上記モジュールコネクタCは、バックボーン幹線部15と各補機に電力と信号を効率的に送付することができるように、電源及びアースの電力と信号とをまとめて制御ボックスに接続することができる。
【0027】
(配索材)
車両用回路体10のバックボーン幹線部15は、電源ライン21と、通信ライン29と、アースライン27とを有しており、それぞれ平型導体100を有する配索材20で構成されている。
また、図1に示した構成においては、サブバッテリ(サブ電源)7が存在する場合を想定しているので、車両用回路体10のバックボーン幹線部15には、電源ライン21としてメイン電源系(電源ライン)23とサブ電源系(電源ライン)25とが含まれている。
【0028】
配索材20は、バックボーン幹線部15内の電源ライン21、アースライン27及び通信ライン29については、断面形状が扁平な帯状の金属材料(例えば銅合金やアルミニウム)からなる平型導体100を採用し、周囲が絶縁被覆110で覆われたこれらの平型導体100が厚み方向に積層されて構成されている(図1参照)。即ち、電源ライン21を構成するサブ電源系25の上にメイン電源系23が積層され、メイン電源系23の上に積層されたアースライン27の上には、例えば一対の平型導体が並設された通信ライン29が積層されている。
【0029】
これにより、配索材20は、大電流の通過を許容可能になり、且つ厚み方向に対する曲げ加工が比較的容易になる。また、配索材20は、電源ライン21とアースライン27を隣同士で並走させたまま配索することができると共に、通信ライン29と電源ライン21との間にアースライン27が積層されることによって、電源ノイズの回り込みを防止できる。
【0030】
また、バックボーン幹線部15の電源ライン21は、所定の電流容量を確保するために大きな断面積が必要であるが、電源ライン21は、断面形状が偏平な帯状の平型導体100を有する配索材20で構成されており、厚み方向の折り曲げが容易になり、所定の配索経路に沿って配索するための作業が容易になる。
【0031】
(制御ボックス)
車両用回路体10は、バックボーン幹線部15の上流端(インパネバックボーン幹線部11の左端)に配置される供給側制御ボックス51と、バックボーン幹線部15の途中の分岐部(インパネバックボーン幹線部11とフロアバックボーン幹線部13との接続部)に配置される分岐制御ボックス53と、バックボーン幹線部15の途中(フロアバックボーン幹線部13の中間部)に配置される中間制御ボックス57と、バックボーン幹線部15の下流端(インパネバックボーン幹線部11の右端及びフロアバックボーン幹線部13の後端)に配置される制御ボックス55,59とからなる5つの制御ボックスを備えている。
【0032】
(モジュール)
車両用回路体10は、バックボーン幹線部15に枝線として接続されるインパネ枝線サブハーネス31、フロントドア枝線サブハーネス63、リアドア枝線サブハーネス65、センターコンソール枝線サブハーネス66、フロントシート枝線サブハーネス67、及びリアシート枝線サブハーネス68等が、インパネモジュール30、フロントドア33、リアドア35、センターコンソール39、フロントシート37、及びリアシート38等と一体のモジュールとして構成されている。
【0033】
即ち、インパネ枝線サブハーネス31は、インパネモジュール30に搭載された電装品の制御部に電気的に接続されているインパネハーネス30aのモジュールドライバ30bに接続されることで、インパネモジュール30と一体のモジュールで構成することができる。
また、フロントドア枝線サブハーネス63は、フロントドア33に搭載された電装品の制御部に電気的に接続されているフロントドア枝線サブハーネス33aのモジュールドライバ33bに対して、非接触給電可能及び近接無線通信可能に接続されることで、フロントドア33と一体のモジュールで構成することができる。
【0034】
また、リアドア枝線サブハーネス65は、リアドア35に搭載された電装品の制御部に電気的に接続されているリアドアハーネス35aのモジュールドライバ35bに対して、非接触給電可能及び近接無線通信可能に接続されることで、リアドア35と一体のモジュールで構成することができる。
また、センターコンソール枝線サブハーネス66は、センターコンソール39に搭載された電装品の制御部に電気的に接続されているセンターコンソールハーネス39aのモジュールドライバ39bに接続されることで、センターコンソール39と一体のモジュールで構成することができる。
【0035】
また、フロントシート枝線サブハーネス67は、フロントシート37に搭載された電装品の制御部に電気的に接続されているフロントシートハーネス37aのモジュールドライバ37bに接続されることで、フロントシート37と一体のモジュールで構成することができる。
また、リアシート枝線サブハーネス68は、リアシート38に搭載された電装品の制御部に電気的に接続されているリアシートハーネス38aのモジュールドライバ38bに接続されることで、リアシート38と一体のモジュールで構成することができる。
【0036】
更に、インパネモジュール30は、図1に示したように、インパネ本体と伴にグローブボックス32、センタークラスタ34、ステアリング36等の複数のインパネサブモジュールにより構成されている。
グローブボックス32が取付けられるインパネモジュール30の車体1の左側には、インパネバックボーン幹線部11の左側に配置された供給側制御ボックス51が位置している。
そこで、主電源ケーブル81を介してメインバッテリ5に電気的に接続された供給側制御ボックス51の内部に電源分配用のメカリレーやメカヒューズが設けられた場合には、グローブボックス32を外すことで、供給側制御ボックス51内のメカリレーやメカヒューズに容易にアクセスすることができ、これらを交換するためのメンテナンスが容易となる。
【0037】
(車両用回路体態の効果)
上述したように、車両用回路体10によれば、所定の電流容量及び所定の通信容量を有して車体1に配索されるバックボーン幹線部15と、このバックボーン幹線部15に沿って分散配置された5つの制御ボックス(供給側制御ボックス51、分岐制御ボックス53、中間制御ボックス57、及び制御ボックス55,59)を介して車体各部の電装品をバックボーン幹線部15に接続する枝線(インパネ枝線サブハーネス31、フロントドア枝線サブハーネス63、リアドア枝線サブハーネス65、センターコンソール枝線サブハーネス66、フロントシート枝線サブハーネス67、リアシート枝線サブハーネス68、ラゲージ枝線サブハーネス69等)とによって、単純な構造の車両用回路体を構成することができる。
【0038】
即ち、車体1の左右方向に延びるインパネバックボーン幹線部11と、車体1のほぼ中央部において車体1の前後方向に延びるフロアバックボーン幹線部13とで構成されたシンプルな全体形状のバックボーン幹線部15は、製造が容易である。なお、バックボーン幹線部15は、各制御ボックス間で分割可能な分割構造とされ、制御ボックスを介して互いに接続される構造とすることもできる。
【0039】
以上、特願2016−187627に記載された車両用回路体の概略について説明した。このように、これまでにない単純な構造である車両用回路体に対してノイズ対策を施すにあたっては、[発明が解決しようとする課題]において述べた従来のワイヤハーネスに対するノイズ対策(特許文献2、3を参照のこと。)を適用することはできず、従来とは異なるアプローチが必要となる。以降では、本発明に係る実施形態のノイズ対策が施された車両用回路体について詳細に説明する。
【0040】
<本発明に係る実施形態の車両用回路体>
(バイパスコンデンサとしての役割)
本発明に係る実施形態の車両用回路体は、図1及び図2を参照して説明した車両用回路体10において、配索材20にノイズ対策が施されている。本発明に係る実施形態の車両用回路体における配索材を説明する図を図3に示す。図3(a)は配索材の斜視図であり、図3(b)は図3(a)のIIIb線で示される配索材の縦断面図であり、図3(c)は図3(a)のIIIc線で示される配索材の横断面図である。図3では、図1及び図2に示される中間制御ボックス57と制御ボックス59との間に位置する配索材を示している。尚、特願2016−187627に記載された配索材20との混同を防ぐため、本発明に係る実施形態では、配索材及び配索材を構成する部材に参照符号を付与し直すこととする。
【0041】
本発明に係る実施形態の車両用回路体10における配索材200は、電源ライン221と、通信ライン229と、アースライン227とを有している。配索材200は、バックボーン幹線部15内の電源ライン221、アースライン227及び通信ライン229が、断面形状が扁平な帯状の金属材料(例えば銅合金やアルミニウム)からなる平型導体300を有している。そして、電源ライン221と、通信ライン229と、アースライン227とは、これらの平型導体300それぞれの周囲が絶縁被覆310によって覆われている。
【0042】
また、図3(b)、(c)に示した構成においては、図1及び図2に示されるようにサブバッテリ(サブ電源)7が存在する場合を想定しているので、配索材200には、電源ライン221としてメイン電源系(電源ライン)223とサブ電源系(電源ライン)225とが含まれている。メイン電源系223、サブ電源系225、アースライン227及び通信ライン229は、図3(b)に示されるように、それぞれの平型導体300が中間制御ボックス57及び制御ボックス59に向かって延設されている。
【0043】
さらに、配索材200は、図3(b)、(c)に示されるように、断面形状が扁平な帯状の誘電体(アルミ酸化皮膜 等)によって形成された誘電層226を有する。誘電層226は、配索材200の厚み方向においては、メイン電源系223とアースライン227との間に位置する。また、誘電層226は、図3(a)において点線で示されているが、配索材200の延在方向(長手方向)においては、平型導体300のように中間制御ボックス57及び制御ボックス59を結ぶ全長に亘って設けられておらず、平型導体300の長手方向の間の一箇所に位置している。このため、メイン電源系223とアースライン227は、その延在方向に沿ってみると、その間に誘電層226が挟まれる箇所P1と、誘電層226が挟まれていない箇所P2と、に分かれる。メイン電源系223とアースライン227は、誘電層226が挟まれていない箇所P2には空気層が形成されている。
【0044】
メイン電源系223、サブ電源系225、誘電層226、アースライン227及び通信ライン229は、厚み方向に積層されて構成されている(図3(b)、(c)参照のこと)。即ち、サブ電源系225の上にメイン電源系223が積層され、メイン電源系223の上に誘電層226が積層され、誘電層226の上にアースライン227が積層され、アースライン227の上に、一対の平型導体が並設された通信ライン229が積層されている。
【0045】
本発明に係る実施形態の車両用回路体10の配索材200は、以上のように構成される。このように構成された配索材200は、メイン電源系223とアースライン227との間に誘電層226が挟まれた箇所P1が、コンデンサとして機能する。この箇所P1は、配索材200によって形成される回路では、図4の本発明に係る実施形態の車両用回路体における配索材の等価回路に示されるように、コンデンサCとして機能する。すなわち、上記箇所P1によって形成されるコンデンサCは、一端がメイン電源系223に、他端がアースライン227に接続された素子として機能する。
【0046】
このようにメイン電源系223とアースライン227との間にコンデンサCが形成されることにより、メイン電源系223を伝搬するノイズがアースライン227にバイパスされる。すなわち、コンデンサCがバイパスコンデンサとして機能する。こうして、本発明に係る実施形態の車両用回路体10の配索材200によって、メイン電源系223を伝搬するノイズを除去することができる。さらに、車両用回路体10自体が単純な構造であることによって、メイン電源系223とアースライン227との間に誘電層226を挟むだけという簡単な構造でコンデンサCを形成することできる。このため、車両用回路体10にノイズ対策を簡易に施すことができる。
【0047】
ところで、従来のワイヤハーネスには、電線によって形成された電源ラインと、電線によって形成されたアースラインとが並走する区間が生じ得る。このような区間において、電源ラインとアースラインとの間に誘電体を設置することは難しい。というのも、径の異なる様々な電線が束となったワイヤハーネスにおいて、電源ラインとアースラインとの間に当たる箇所を特定することが難しく、仮に特定できたとしてもその箇所には別の電線が位置しているためである。他方で、メイン電源系223とアースライン227との間に誘電層226を挟むだけでコンデンサCを形成することできる本発明に係る実施形態の車両用回路体10は、車両用回路体10自体が単純な構造であることを最大限に活用していると言える。
【0048】
上記箇所P1によって形成されるコンデンサCの静電容量は、誘電層226の比誘電率、誘電層226の厚み(メイン電源系223とアースライン227との離間距離)、誘電層226の面積(メイン電源系223とアースライン227とに対向する面積)によって簡易に調整することができる。このように静電容量を適宜調整することにより、所望の周波数成分のノイズを除去することができる。また、上記箇所P1を配索材200の複数箇所に設けることも可能である。上記箇所P1を設ける数によっても配索材200の全体としてのコンデンサの静電容量を調整することもできる。
【0049】
(バックアップ電源用コンデンサとしての役割)
以降では、メイン電源系223とアースライン227との間に形成されたコンデンサCが蓄電装置として機能する点に着目する。配索材200は、図1及び図2に示されるようにメイン電源系223の一端が主電源ケーブル81を介してメインバッテリ5に接続され、他端がラゲージ枝線サブハーネス69を介してラゲージルーム内の様々な電装品(負荷)に接続される。メインバッテリ5からメイン電源系223を経由して電力がラゲージルーム内の電装品に供給されている間、メイン電源系223とアースライン227との間に形成されたコンデンサCに蓄電される。その後、メインバッテリ5からの電力の供給が停止されると、コンデンサCが放電し、リアドア枝線サブハーネス65、センターコンソール枝線サブハーネス66、フロントシート枝線サブハーネス67、リアシート枝線サブハーネス68、ラゲージ枝線サブハーネス69を経由して電装品へ電力が供給される。
【0050】
メイン電源系223とアースライン227との間に形成されたコンデンサCは、上述したように静電容量を簡易に調整することができる。これはすなわち、当該コンデンサCに蓄えたい電力量を簡易に調整することができることを意味する。こうして、電装品を駆動させるために必要な所定の電力量を当該コンデンサCに蓄電・放電させることによって、当該コンデンサCをバックアップ電源用コンデンサとして機能させることができる。
【0051】
上述のようにメイン電源系223とアースライン227との間に形成されたコンデンサCを蓄電装置として機能させる場合、車両衝突等によってメイン電源系223が断線した場合に、電装品に電力が供給されてしまうことが起こり得る。このような場合に備え、コンデンサCに蓄電された電力量を放電するための放電回路を設けることが好ましい。本発明に係る実施形態の車両用回路体における放電回路の等価回路を図5に示す。図5に示されるように、メイン電源系223とアースライン227にはコンデンサCと並列に放電回路400が接続されている。放電回路400は、スイッチ401、抵抗403が直列に接続されている。メインバッテリ5からメイン電源系223への電力の供給が停止し、且つ放電回路400のスイッチ401が閉じているとき、コンデンサCに蓄電された電力量が抵抗403によって消費される。
【0052】
スイッチ401は、各制御ボックス51、53、55、57、59内の各ECU(Electronic Control Unit)から通信ライン229を介して送信される制御信号に応じて、開閉がなされる。ECUは、車両内に設けられた各種センサからの信号が枝線サブハーネス65、66、67、68、69を経由して入力されており、その入力された信号に基づいてスイッチ401の開閉を判断し、スイッチ401の開閉を命令する制御信号をスイッチ401に出力する。ECUがスイッチ401の開閉を判断する具体例を図6を参照して説明する。本発明に係る実施形態の車両用回路体におけるECUの判断フローを図6に示す。
【0053】
ECUは、車両衝突による事故の発生の有無を検出する(S601)。事故の発生を検出しなければ(S601、NO)、ECUはスイッチ401を開くと判断する(S602)。他方、事故の発生を検出すれば(S601、YES)、ECUは、メインバッテリ5の動作が正常か否かを判断する(S603)。メインバッテリ5の動作が正常と判断すれば(S603、YES)、ECUはスイッチ401を開くと判断する(S602)。他方、メインバッテリ5の動作が正常でないと判断すれば(S603、NO)、ECUはスイッチ401を閉じると判断する(S604)。以上のようにしてECUがスイッチ401の開閉を判断する。
【0054】
以上、本発明に係る実施形態の車両用回路体について詳細に説明した。本発明に係る実施形態の車両用回路体10の配索材200によれば、メイン電源系223を伝搬するノイズを除去することができる。さらに、車両用回路体10自体が単純な構造であることによって、メイン電源系223とアースライン227との間に誘電層226を挟むだけという簡単な構造でコンデンサCを形成することできるため、車両用回路体10にノイズ対策を簡易に施すことができる。
【0055】
また、本発明に係る実施形態の車両用回路体10の配索材200によれば、メイン電源系223とアースライン227との間に形成されたコンデンサCに、電装品を駆動させるために必要な所定の電力量を蓄電・放電させることによって、当該コンデンサCをバックアップ電源用コンデンサとして機能させることができる。当該コンデンサCはその構造上静電容量を簡易に調整することができるため、当該コンデンサに蓄える電力量を容易に調整することができる。
【0056】
また、本発明に係る実施形態の車両用回路体10の配索材200によれば、車両衝突等によってメイン電源系223が断線した場合に、コンデンサCに蓄電された電力量を放電回路400によって放電することができる。このため、車両衝突等の1次事故後に、コンデンサCの放電に起因する2次事故が発生することを抑制することができる。
【0057】
尚、本発明に係る実施形態の車両用回路体10の配索材200では、メイン電源系223及びアースライン227を用いてコンデンサCを形成する形態について詳細に説明した。サブ電源系225及びアースライン227を用いてコンデンサを形成することも可能である。この構成にするためには、配索材200の厚み方向にサブ電源系225、誘電層226、アースライン227の順で積層すればよい。さらに、メイン電源系223とアースライン227との間、及びサブ電源系225とアースライン227との間の両方にコンデンサを形成することも可能である。この構成にするためには、誘電体を2層用いて、配索材の厚み方向にメイン電源系、誘電体、アースライン、誘電体、サブ電源系の順で積層すればよい。このように、電源ライン、アースライン及び誘電体の積層順序を適宜入れ替えて、電源ラインとアースラインとの間にコンデンサを形成することができる。
【0058】
上述した<本発明に係る実施形態の車両用回路体>では、配索材200において、メイン電源系223、サブ電源系225、及びアースライン227を構成する導体が平型導体300である形態について説明した。本発明の車両用回路体は、電源ライン及びアースラインを構成する導体が平型に限られるものではない。以後説明する本発明に係る変形例1の車両用回路体では、配索材の変形例を詳細に説明する。
【0059】
<本発明に係る変形例1の車両用回路体>
本発明に係る変形例1の車両用回路体における配索材を説明する図を図7に示す。図7に示されるように、本発明に係る変形例1の車両用回路体10における配索材200Bは、電源ライン221Bと、通信ライン229Bと、アースライン227Bとを有している。配索材200Bは、バックボーン幹線部15内の電源ライン221B、アースライン227B及び通信ライン229Bが、断面形状が円形の金属材料(例えば銅合金やアルミニウム)からなる丸棒導体300Bを有している。そして、電源ライン221Bと、通信ライン229Bと、アースライン227Bとは、これらの丸棒導体300Bそれぞれの周囲が絶縁被覆310Bによって覆われている。そして、電源ライン221Bと、通信ライン229Bと、アースライン227Bは、さらに絶縁被覆320Bによって覆われている。
【0060】
また、図7に示されるように、配索材200Bには、電源ライン221Bとしてメイン電源系(電源ライン)223Bとサブ電源系(電源ライン)225Bとが含まれている。
【0061】
さらに、配索材200Bは、図7に示されるように、断面形状が円形の誘電体(アルミ酸化皮膜 等)によって形成された誘電層226Bを有する。誘電層226Bは、各ラインが横並びされる配索材200Bの幅方向においては、メイン電源系223Bとアースライン227Bとの間に位置する。また、誘電層226Bは、図7において点線で示されているが、配索材200Bの長手方向においては、丸棒導体300Bのように全長に亘って設けられておらず、丸棒導体300Bの長手方向の間の一箇所に位置している。このため、メイン電源系223Bとアースライン227Bは、その延在方向に沿ってみると、その間に誘電層226Bが挟まれる箇所P1と、誘電層226Bが挟まれていない箇所P2と、に分かれる。メイン電源系223Bとアースライン227Bは、誘電層226Bが挟まれていない箇所P2には空気層が形成されている。
【0062】
メイン電源系223B、サブ電源系225B、誘電層226B、アースライン227B及び通信ライン229Bは、幅方向に並べられて構成されている(図7参照のこと)。即ち、サブ電源系225Bの右隣にメイン電源系223Bが配置され、メイン電源系223Bの右隣に誘電層226Bが配置され、誘電層226Bの右隣にアースライン227Bが配置され、アースライン227Bの右隣に通信ライン229Bが配置されている。
【0063】
本発明に係る変形例1の車両用回路体10の配索材200Bは、以上のように構成される。このように構成された配索材200Bは、メイン電源系223Bとアースライン227Bとの間に誘電層226Bが挟まれた箇所P1が、コンデンサとして機能する。
【0064】
このようにメイン電源系223Bとアースライン227Bとの間にコンデンサCが形成されることにより、メイン電源系223Bを伝搬するノイズがアースライン227Bにバイパスされる。すなわち、コンデンサCがバイパスコンデンサとして機能する。こうして、本発明に係る変形例1の車両用回路体10の配索材200Bによって、メイン電源系223Bを伝搬するノイズを除去することができる。さらに、車両用回路体10自体が単純な構造であることによって、メイン電源系223Bとアースライン227Bとの間に誘電層226Bを挟むだけという簡単な構造でコンデンサCを形成することできるため、車両用回路体10にノイズ対策を簡易に施すことができる。
【0065】
尚、本発明に係る変形例1の車両用回路体10の配索材200Bでは、メイン電源系223B及びアースライン227Bを用いてコンデンサCを形成する形態について詳細に説明した。サブ電源系225B及びアースライン227Bを用いてコンデンサを形成することも可能である。この構成にするためには、配索材200Bの幅方向にサブ電源系225B、誘電層226B、アースライン227Bの順で並べればよい。さらに、メイン電源系223Bとアースライン227Bとの間、及びサブ電源系225Bとアースライン227Bとの間の両方にコンデンサを形成することも可能である。この構成にするためには、誘電体を2層用いて、配索材の幅方向にメイン電源系、誘電体、アースライン、誘電体、サブ電源系の順で並べればよい。このように、電源ライン、アースライン及び誘電体の並び順序を適宜入れ替えて、電源ラインとアースラインとの間にコンデンサを形成することができる。
【0066】
<本発明に係る変形例2の車両用回路体>
本発明に係る変形例2の車両用回路体における配索材を説明する図を図8に示す。図8に示されるように、本発明に係る変形例2の車両用回路体10における配索材200Cは、電源ライン221Cと、通信ライン229Cと、アースライン227Cとを有している。配索材200Cは、バックボーン幹線部15内の通信ライン229Cが、断面形状が円形の金属材料(例えば銅合金やアルミニウム)からなる丸棒導体320Cを有している。また、配索材200Cは、バックボーン幹線部15内の電源ライン221C及びアースライン227Cが、断面形状が中空円形の金属材料(例えば銅合金やアルミニウム)からなる筒状導体300Cを有している。電源ライン221C、アースライン227C及び通信ライン229Cは、中心軸が一致するように設けられており、通信ライン229C、アースライン227C、電源ライン221Cの順で径が大きくなるそれぞれが、径の小さいものが中央寄りに径の大きいものが外側よりに配置されている。
【0067】
また、図8に示されるように、配索材200Cには、電源ライン221Cとしてメイン電源系(電源ライン)223Cとサブ電源系(電源ライン)225Cとが含まれている。メイン電源系223C及びサブ電源系225Cは、メイン電源系223C、サブ電源系225Cの順で径が大きくなり、メイン電源系223Cが中央寄りにサブ電源系225Cが外側よりに配置されている。
【0068】
通信ライン229Cとアースライン227Cの間、及びメイン電源系223Cとサブ電源系225Cの間には、中空円形の絶縁被覆310Cが配置されており、サブ電源系225Cの周囲が絶縁被覆310Cによって覆われている。
【0069】
さらに、配索材200Cは、図8に示されるように、断面形状が中空円形の誘電体(アルミ酸化皮膜 等)によって形成された誘電層226Cを有する。誘電層226Cは、メイン電源系223Cとアースライン227Cとの間に位置する。また、誘電層226Cは、図8において点線で示されているが、配索材200Cの長手方向においては、筒状導体300Cのように全長に亘って設けられておらず、筒状導体300Cの長手方向の間の一箇所に位置している。このため、メイン電源系223Cとアースライン227Cは、その延在方向に沿ってみると、その間に誘電層226Cが挟まれる箇所P1と、誘電層226Cが挟まれていない箇所P2と、に分かれる。メイン電源系223Cとアースライン227Cは、誘電層226Cが挟まれていない箇所P2には空気層が形成されている。
【0070】
メイン電源系223C、サブ電源系225C、誘電層226C、アースライン227C及び通信ライン229Cは、中心軸が一致するように設けられている(図8参照のこと)。即ち、通信ライン229Cの外側にアースライン227Cが配置され、アースライン227Cの外側に誘電層226Cが配置され、誘電層226Cの外側にメイン電源系223Cが配置され、メイン電源系223Cの外側にサブ電源系225Cが配置されている。
【0071】
本発明に係る変形例2の車両用回路体10の配索材200Cは、以上のように構成される。このように構成された配索材200Cは、メイン電源系223Cとアースライン227Cとの間に誘電層226Cが挟まれた箇所P1が、コンデンサとして機能する。
【0072】
このようにメイン電源系223Cとアースライン227Cとの間にコンデンサCが形成されることにより、メイン電源系223Cを伝搬するノイズがアースライン227Cにバイパスされる。すなわち、コンデンサCがバイパスコンデンサとして機能する。こうして、本発明に係る変形例2の車両用回路体10の配索材200Cによって、メイン電源系223Cを伝搬するノイズを除去することができる。さらに、車両用回路体10自体が単純な構造であることによって、メイン電源系223Cとアースライン227Cとの間に誘電層226Cを挟むだけという簡単な構造でコンデンサCを形成することできるため、車両用回路体10にノイズ対策を簡易に施すことができる。
【0073】
尚、本発明に係る変形例2の車両用回路体10の配索材200Cでは、メイン電源系223C及びアースライン227Cを用いてコンデンサCを形成する形態について詳細に説明した。サブ電源系225C及びアースライン227Cを用いてコンデンサを形成することも可能である。この構成にするためには、配索材200Cの径方向にサブ電源系225C、誘電層226C、アースライン227Cの順で並べればよい。さらに、メイン電源系223Cとアースライン227Cとの間、及びサブ電源系225Cとアースライン227Cとの間の両方にコンデンサを形成することも可能である。この構成にするためには、誘電体を2層用いて、配索材の径方向にメイン電源系、誘電体、アースライン、誘電体、サブ電源系の順で並べればよい。このように、電源ライン、アースライン及び誘電体の並び順序を適宜入れ替えて、電源ラインとアースラインとの間にコンデンサを形成することができる。
【0074】
ここで、上述した本発明に係る車両用回路体の実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]〜[6]に簡潔に纏めて列記する。
[1]
電源ライン(221、221B、221C)としての第1の導体(平型導体300、丸棒導体300B、筒状導体300C)と、
アースライン(227、227B、227C)としての第2の導体(平型導体300、丸棒導体300B、筒状導体300C)と、
前記第1の導体と前記第2の導体との間に位置する誘電体(誘電層226、誘電層226B、誘電層226C)と、
を備える車両用回路体(10)。
[2]
前記誘電体(誘電層226、誘電層226B、誘電層226C)が、前記第1の導体及び前記第2の導体の一端と前記第1の導体及び前記第2の導体の他端の間に位置する、
上記[1]に記載の車両用回路体(10)。
[3]
前記誘電体(誘電層226、誘電層226B、誘電層226C)が、前記第1の導体及び前記第2の導体の一端と前記第1の導体及び前記第2の導体の他端の間の少なくとも一箇所(P1)に設けられ、
前記第1の導体及び前記第2の導体が、前記第1の導体及び前記第2の導体の一端と前記第1の導体及び前記第2の導体の他端の間において、前記誘電体が挟まれた箇所(P1)と、前記誘電体が挟まれていない箇所(P2)と、を有する、
上記[2]に記載の車両用回路体。
[4]
前記第1の導体、前記第2の導体及び前記誘電体(コンデンサC)には、負荷を駆動するための電力量が蓄電される、
上記[2]または[3]に記載の車両用回路体。
[5]
前記第1の導体に接続され、前記第1の導体、前記第2の導体及び前記誘電体に蓄電された電力量を放電するための放電回路(400)をさらに備える、
上記[1]から[4]のいずれか一項に記載の車両用回路体。
[6]
前記放電回路(400)が、当該放電回路を制御する装置からの制御信号を受けて、前記第1の導体、前記第2の導体及び前記誘電体に蓄電された電力量を放電する、
上記[5]に記載の車両用回路体。
【符号の説明】
【0075】
1 車体
3 オルタネータ
5 メインバッテリ
7 サブバッテリ
10 車両用回路体
20 配索材
21 電源ライン
23 メイン電源系(電源ライン)
25 サブ電源系(電源ライン)
27 アースライン
29 通信ライン
100 平型導体
110 絶縁被覆
200、200B、200C 配索材
221、221B、221C 電源ライン
223、223B、223C メイン電源系
225、225B、225C サブ電源系
226、226B、226C 誘電層
227、227B、227C アースライン
229、229B、229C 通信ライン
300 平型導体
300B 丸棒導体
300C 筒状導体
310、310B、310C、320B 絶縁被覆
320C 丸棒導体
400 放電回路
401 スイッチ
403 抵抗
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8