(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、アクリル系樹脂フィルムや、アクリル系樹脂フィルムの製造方法等について、第1の実施形態、第2の実施形態、第3の実施形態の順に説明する。
以下、アクリル系樹脂フィルムについて、単に「フィルム」と記載する場合がある。
【0012】
≪第1の実施形態≫
<アクリル系樹脂フィルム>
以下、第1の実施形態に係るアクリル系樹脂フィルムについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、フィルムの構成を模式的に示す側面図である。
図2は、フィルムの構成を模式的に示す断面図である。
図3は、フィルムの構成を模式的に示す上面図である。
図4は、ハードコート層を備えるフィルムの構成を模式的に示す断面図である。なお、
図1〜
図4において、ゴム弾性体粒子は、フィルム表面から露出する粒子のみを図示し、
図2〜
図4においては、フィルム表面の一部分のみを図示する。
【0013】
フィルム10は、
図1〜
図3に示されるように、マトリックス部分を構成するアクリル系樹脂11と、マトリックス部分に分散されるゴム弾性体粒子12とを含むアクリル系樹脂組成物からなる。フィルム10をフィルム10の厚さ方向から観察した場合に、フィルム10の表面10a及び表面10bには、環状の凹部10cと、凹部10cが形成する環の内側に位置する凸部10dとが観察される。凹部10cは、表面10a及び表面10bにおいて、フィルム10の厚さ方向に窪む。凸部10dは、表面10a及び表面10bにおいて、フィルム10の厚さ方向に突出する。
典型的には、凸部10dは、表面10a及び表面10bから突出するゴム弾性体粒子12から主に構成され、凹部10cは、ゴム弾性体粒子12を囲むように環状に形成される。
なお、
図1〜
図4においては、ゴム弾性体粒子12が表面10a及び表面10bから露出している態様で図示されているが、アクリル系樹脂11とゴム弾性体粒子12とは相溶性がよく、ゴム弾性体粒子12の突出している部分は極薄いアクリル系樹脂11の層により被覆されている場合がある。また、
図3においては、凹部10cが全て環状に形成されているが、凹部10cの形状は、必ずしも環状である必要はなく、環が途切れている形状、例えばC字型に形成されていてもよい。この場合、環が途切れている箇所は1箇所には限定されない。凹部10cの形状が、概ね環状であると認識できる限りにおいて、環は、2箇所、又は3箇所程度途切れていてもよい。
【0014】
このように、フィルム10の表面10a又は表面10bに、凹部10cと凸部10dとからなる微細な構造を備え、その表面性が制御されたフィルム10においては、表面10a又は表面10bにコート層形成用の塗工液等を塗布する際に、塗工液が凹部10cに浸透しやすく、塗工性が良好である。また、塗工液を用いてフィルム10の表面10a又は表面10bにコート層を形成する場合、コート層が凹部10cに入り込むことでアンカー効果が生じる。このため、コート層と、フィルム10との密着性が高い。その結果、例えば、
図4に示されるように、積層体13では、フィルム10上に塗工液を用いてコート層14を形成する際に、表面10aとコート層14との密着性が強いため、エアの巻き込み(ボイド)や塗工スジが発生しにくく、視認性に優れる。
【0015】
以下、凹部10cと凸部10dとについて詳細に説明する。
図2に示されるように、フィルム10の表面における、フィルム10の面方向と平行な面を基準面Xとする場合に、凹部10cの基準面Xからの深さの平均Rd(以下、単に「Rd」という。)は、1.0nm以上50nm以下であり、3nm以上30nm以下が好ましく、5nm以上20nm以下がより好ましい。Rdが上記範囲であることにより、塗工液をフィルム10の表面10a又は表面10bに塗工する際に塗工液が凹部10cに浸透しやすく、フィルム10は塗工性に優れる。また、フィルム10の表面10a又は表面10bに塗工液を塗工して被膜を形成し、形成された被膜からコート層14を形成する場合には、凹部10cと凸部10dとの存在に起因して、コート層14がフィルム10に良好に密着する。その結果、塗工液を用いて形成されるコート層14を有するフィルム10(積層体13)においては、エアの巻き込みが抑制され、塗工スジの発生も抑制されるため、視認性に優れる。
【0016】
また、フィルム10の表面における、フィルム10の面方向と平行な面を基準面Xとする場合に、凸部10dの基準面Xからの高さの平均Rh(以下、単に「Rh」という。)は、0.1nm以上100nm以下であり、10nm以上90nm以下が好ましく、20nm以上80nm以下がより好ましい。Rhが上記範囲内である場合、塗工性が良好である。その結果、塗工液を用いて形成されるコート層14を有するフィルム10(積層体13)においては、エアの巻き込みが抑制され、塗工スジの発生も抑制されるため、視認性に優れる。
【0017】
フィルム10のヘイズは、2%未満が好ましく、1.5%以下がより好ましい。かかるフィルム10の一方の面である表面10aと、他方の面である表面10bの算術平均粗さRaの差の絶対値であるΔRa(以下、単に「ΔRa」という、)は、0.01nm以上5.0nm未満が好ましく、0.5nm以上4.5nm未満がより好ましい。ΔRaが上記範囲である場合、フィルム10に白化が少なく、光学特性が良好である。
【0018】
フィルム10の表面における、隣接する凸部10dの平均間隔Smは、0.01μm以上5μm以下が好ましく、0.05μm以上4.5μm以下がより好ましい。なお、
図3に示されるように、平均間隔Smは、複数の凸部10d間の間隔Sm1、Sm2,Sm3・・・を計測し、計測された間隔の数平均値として求めることができる。
凸部10dの平均間隔Smが上記範囲である場合、フィルム10の表面10a又は表面10bに塗工液を塗工して被膜を形成し、形成された被膜からコート層14を形成する場合に、フィルム10とコート層14との密着性が良好である。その結果、塗工液を用いて形成されるコート層14を有するフィルム10(積層体13)においては、エアの巻き込みが抑制され、塗工スジの発生も抑制され、視認性にも優れる。
【0019】
フィルム10の表面積1μm
2当たりの凸部10dの数は、0.1個以上5個以下が好ましく、0.3個以上3.0個以下がより好ましい。上述したように、凸部10dの数が上記範囲であることにより、フィルム10の塗工性が良好であり、塗工によりフィルム10表面にコート層14を形成する場合にコート層14のフィルム10への密着性が良好である。その結果、塗工液を用いて形成されるコート層14を有するフィルム10(積層体13)においては、エアの巻き込みが抑制され、塗工スジの発生も抑制され、視認性にも優れる。
【0020】
なお、フィルム10のRd、Rh、ΔR、及びSmは、原子間力顕微鏡により、視野サイズ5μm×5μmに存置する粒子について、JIS B 0601−1994に準拠して測定した数値の平均値とする。
【0021】
フィルム10においては、上述した塗工性や視認性の点から、ゴム弾性体粒子12の体積平均粒子径は、100nm以上300nm以下が好ましく、120nm以上280nm以下がより好ましい。
【0022】
アクリル系樹脂フィルムの厚さは、上述した塗工性や視認性の点から、5μm以上300μm以下が好ましく、20μm以上280μm以下がより好ましい。
【0023】
ここで、フィルム10には、表面10a及び/又は表面10b上にコート層14が形成されるのが好ましいが、コート層14は、一般にフィルム10の一方の面に形成されれば足りる。
フィルム10は、表面10a及び表面10bの双方において、上述した条件を満たす凹部10cと凸部10dを有していてもよい。しかし、上記の理由から、例えば、一方の表面10aにのみコート層14を形成する場合には、一方の表面10aのみが上述した条件を満たす凹部10cと凸部10dとを有していてもよい。
【0024】
<アクリル系樹脂フィルムの製造方法>
図5は、アクリル系樹脂フィルムの製造装置の構成の一部を模式的に示す図である。
図5に示されるように、第1の実施形態に係るアクリル系樹脂フィルムの製造方法は、アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とを含むアクリル系樹脂組成物をダイ5より押出してフィルム状溶融物10’とする溶融押出と、フィルム状溶融物10’をキャストロール6とタッチロール7との間で挟み込みフィルムに成形する挟み込み成形とを含む。そして、溶融押出において、アクリル系樹脂組成物のガラス転移温度をTgとしたときに、ダイ5の出口でのアクリル系樹脂組成物の温度がTg+130℃以上Tg+150℃以下である。また、挟み込み成形において、フィルム状溶融物10’の流れ方向の速度であるラインスピードは、5m/分以上50m/分以下が好ましく、10m/分以上30m/分以下がより好ましく、13m/分以上18m/分以下がさらに好ましい。
【0025】
アクリル系樹脂組成物のガラス転移温度Tgは、以下の測定方法で算出する。セイコーインスツルメンツ製の示差走査熱量分析装置(DSC)SSC−5200を用い、試料(アクリル系樹脂組成物)を一旦200℃まで25℃/分の速度で昇温した後10分間ホールドし、25℃/分の速度で50℃まで温度を下げる予備調整を経て、10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する間の測定を行い、得られたDSC曲線から積分値を求め(DDSC)、その極大点からガラス転移温度を求める。
【0026】
このように、ダイ5の出口でのアクリル系樹脂組成物の温度と、挟み込み成形時におけるラインスピードとを上記範囲に設定することにより、フィルム10のRdとRhとを上記範囲に制御しやすい。後述するように、アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とで、弾性率が異なるからである。ラインスピードは、生産性を考慮すると速い方が好ましいが、上述したフィルム10のRd,Rhの制御、諸物性(ヘイズや位相差)、破断リスク、及び実績ベース等の観点からは、13m/分以上18m/分以下が好ましい。
【0027】
ダイ5の出口でのアクリル系樹脂組成物の温度が低すぎると、Rdが過大であり、Rhが過小である傾向がある。この場合、ΔRaが大きくなりやすい。
また、ダイ5の出口でのアクリル系樹脂組成物の温度が高すぎると、Rdが過小であり、Rhが過大である傾向がある。この場合も、ΔRaが大きくなりやすい。
【0028】
フィルム状溶融物10’のラインスピードが遅過ぎると、Rdが過大であり、Rhも過大である傾向がある。他方、フィルム状溶融物10’のラインスピードが速過ぎると、Rdが過大となり、Rhも過大となる凹部10cと凸部10dが形成されやすく、ΔRaも大きくなりやすい。
【0029】
アクリル系樹脂組成物の温度は、ダイ5での加熱温度により調整してもよく、ダイ5の出口での吐出量やリップクリアランスによっても調整可能である。
【0030】
以下、
図6〜
図9を参照しつつ、フィルム状溶融物10’での凹部10c又は凸部10dが形成される挙動について説明する。
図6〜
図9において、フィルム状溶融物10’の表面に近い部分のみを図示し、フィルム状溶融物10’の表面に近接するゴム弾性体粒子12のみを図示する。また、
図7〜
図9において、図中細矢印で示される力F2及び力F3は、一部のゴム弾性体粒子12に向けてのみ図示されている。なお、
図7〜
図9において、細矢印が記されていない他のゴム弾性体粒子12に対しても力F2及び力F3と同様の力がかかっていることは言うまでもない。
【0031】
図6に示されるように、溶融押出直後のフィルム状溶融物10’では、ゴム弾性体粒子12がアクリル系樹脂11に取り囲まれた状態で存在する。このため、溶融押出直後のフィルム状溶融物10’の表面では、ゴム弾性体粒子12がアクリル系樹脂11に覆われた状態でわずかに突出している。
【0032】
図7に示されるように、溶融押出されたアクリル系樹脂組成物(フィルム状溶融物10’)がTgにて、キャストロール6及びタッチロール7により引き取られる場合、アクリル系樹脂11とゴム弾性体粒子12とが共に図中太矢印方向の張力F1を受ける。このとき、アクリル系樹脂11が殆ど軟化していないことに起因して、ゴム弾性体粒子12を中心に、フィルム状溶融物10’の表面を窪ませるような力F2が図中細矢印方向に生じ、ゴム弾性体粒子12が底部に存在する大きな凹部が形成される。その結果、ゴム弾性体粒子12は、基準面Xである平面部分より突出せず、Rdが過大であるフィルム10が形成される。
【0033】
図8に示されるように、アクリル系樹脂組成物(フィルム状溶融物10’)がTg+140℃にて、キャストロール6及びタッチロール7により引き取られる場合、図中太矢印方向の張力F1を受ける。このとき、アクリル系樹脂11が若干軟化していることによって、
図7に示されるような凹部の形成が進行しながらも、凹部の中央に存在するゴム弾性体粒子12を押し上げる力F3が図中細矢印方向に働き、凹部の中央部において、ゴム弾性体粒子12が極薄いアクリル系樹脂11の層で被覆された状態で表面10aから突出する。これにより、RdとRhとがそれぞれ所望する範囲内である、凹部10cと凸部10dとが形成される。
【0034】
一方、
図9に示されるように、アクリル系樹脂組成物(フィルム状溶融物10’)がTg+180℃にて、キャストロール6及びタッチロール7により引き取られる場合、図中太矢印方向の張力F1を受けると、アクリル系樹脂11がかなり軟化していることに起因して、ゴム弾性体粒子12を押し上げる力F3が図中矢印方向に強く働き、Rhが過大となってしまう。
【0035】
このように、ダイ5の出口でのアクリル系樹脂組成物の温度と、挟み込み成形時におけるラインスピードとを上記範囲に設定することにより、表面10aに露出するゴム弾性体粒子12の突出割合を制御することができ、RdとRhとを上記範囲に制御することができる。
【0036】
<積層体>
以下、第1の実施形態に係るフィルムを用いた積層体について説明する。
図4に示されるように、積層体13は、上述したフィルム10の表面10a上に、表面10aに接してコート層14を備える。かかる積層体13によれば、上述したように、表面10aとコート層14との密着性が高いことから、塗工スジやエア巻き込みがなく、視認性に優れる。
【0037】
コート層14としては、特に限定されないが、ハードコート層、高屈折率層、低屈折率層、帯電防止層等が好ましく挙げられる。
コート層14の材料は、特に限定されないが、例えば、ハードコート層の場合には、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂等を、塗布・硬化させたもの等を適宜に用いることができる。
【0038】
コート層14の厚さは、特に制限されない。積層体13を形成する際の塗工性が良好であり、積層体13の視認性が良好である点から、コート層14の厚さは、1μm以上10μm以下が好ましく、1μm以上8μm以下がより好ましく、1μm以上5μm以下がさらに好ましい。
【0039】
<積層体の製造方法>
積層体13の製造方法は、上述したフィルム10の表面10aに、塗工液を塗工して被膜を形成する塗工と、被膜からコート層を形成するコート層形成とを含む。かかる積層体の製造方法によれば、フィルム10の表面10aのRdとRhとが上記範囲に制御されていることから、フィルム10の塗工性に優れる。また、かかる積層体の製造方法によれば、表面10aと塗工液を用いて形成されるコート層14との密着性が高いことから、コート層が形成された場合であっても、塗工スジや、エア巻き込みがなく、視認性に優れた積層体13(コート層付フィルム)を得ることができる。
ここで、コート層形成の方法には、種々の方法を広く適用することができるが、例えば、自然乾燥や熱による乾燥、熱による熱硬化法、紫外線等の電磁波による光硬化法等が挙げられる。
【0040】
<塗工方法>
塗工方法は、上述したフィルム10の少なくとも一方の面である表面10a又は表面10bに、塗工液を塗工する。
【0041】
かかる塗工方法によれば、例えば、フィルム10の表面10aのRdとRhとが上記範囲に制御されていることから、上述したように塗工性に優れる。また、表面10aと塗工液との密着性に優れることから、塗工液を用いてコート層14が形成された場合でも、塗工スジや、エア巻き込みがなく、積層体13の視認性に優れる。
【0042】
ここで、塗工液の塗工には、種々の塗工方法を広く適用することができ、例えば、スロットダイコート法、ロールコート法、バーコート法、スピンコート法、ブレードコート法等が挙げられる。
塗工液としては、ハードコート層形成用の塗工液のように、フィルム10の表面にコート層14を形成する塗工液であってもよく、例えば、親水化剤や撥水化剤のように、塗工の結果、フィルム10の表面にコート層を形成しない塗工液であってもよい。
【0043】
以上説明した本発明の第1の実施形態によれば、
(1−1)アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とを含むアクリル系樹脂組成物からなるアクリル系樹脂フィルムであって、
アクリル系樹脂フィルムをアクリル系樹脂フィルムの厚さ方向から観察した場合に、アクリル系樹脂フィルムの表面に、環状の凹部と、凹部が形成する環の内側に位置する凸部とが観察され、
凹部は、表面において、アクリル系樹脂フィルムの厚さ方向に窪み、
凸部は、表面において、アクリル系樹脂フィルムの厚さ方向に突出し、
表面における、アクリル系樹脂フィルムの面方向と平行な面を基準面とする場合に、凹部の基準面からの深さの平均Rdが、1.0nm以上50nm以下であり、凸部の基準面からの高さの平均Rhが、0.1nm以上100nm以下である、アクリル系樹脂フィルム、
(1−2)ヘイズが2%未満であり、
アクリル系樹脂フィルムの一方の面及び他方の面の算術平均粗さRaの差の絶対値であるΔRaが0.01nm以上5.0nm未満である、(1−1)に記載のアクリル樹脂フィルム、
(1−3)隣接する凸部の平均間隔Smが0.01μm以上5μm以下である、(1−1)又は(1−2)に記載のアクリル系樹脂フィルム、
(1−4)フィルムの表面積1μm
2当たりの凸部の数が、0.1個以上5個以下である、(1−1)〜(1−3)のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルム、
(1−5)ゴム弾性体粒子の体積平均粒子径が100nm以上300nm以下であり、
アクリル系樹脂組成物が、アクリル系樹脂の質量に対して5質量%以上20質量%以下のゴム弾性体粒子を含み、
アクリル系樹脂フィルムの厚さが、5μm以上300μm以下である、(1−1)〜(1−4)のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルム、
(1−6)アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とを含むアクリル系樹脂組成物を用いるアクリル系樹脂フィルムの製造方法であって、
アクリル系樹脂組成物をダイより押出してフィルム状溶融物とする溶融押出と、
フィルム状溶融物をキャストロールとタッチロールとの間で挟み込みフィルムに成形する挟み込み成形と、を含み、
溶融押出において、アクリル系樹脂組成物のガラス転移温度をTgとしたときに、ダイの出口でのアクリル系樹脂組成物の温度がTg+130℃以上Tg+150℃以下であり、
挟み込み成形において、フィルム状溶融物の流れ方向の速度であるラインスピードが13m/分以上18m/分以下である、アクリル系樹脂フィルムの製造方法、
(1−7)(1−1)〜(1−5)のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、塗工液を塗工する、塗工方法、
(1−8)塗工液が、ハードコート層形成用の塗工液である、(1−7)に記載の塗工方法、
(1−9)(1−1)〜(1−5)のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、塗工液を塗工して被膜を形成する、塗工と、
被膜から、コート層を形成する、コート層形成と、
を含む、積層体の製造方法、
(1−10)コート層がハードコート層である、(1−9)に記載の積層体の製造方法、
(1−11)(1−1)〜(1−5)のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルムの少なくとも一方の面上に、面に接してコート層を備える、積層体、及び、
(1−12)コート層がハードコート層である、(1−11)に記載の積層体、
が提供される。
【0044】
上述したように、第1の実施形態に係るアクリル系樹脂フィルム、当該アクリル系樹脂フィルムの製造方法、当該アクリル系樹脂フィルムへの塗工方法、当該アクリル系樹脂フィルムを含む積層体の製造方法、及び当該アクリル系樹脂フィルムを含む積層体によれば、フィルム表面の微細な構造により、その表面性が制御されているため、特に、塗工性が良好であり、かつ表面に塗工液を塗布してコート層を形成しても視認性が良好である。
【0045】
≪第2の実施形態≫
<アクリル系樹脂フィルム>
第2の実施形態に係るアクリル系樹脂フィルムは、アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とを含むアクリル系樹脂組成物からなるフィルムである。そして、算術平均粗さが小さい方の面を第1面とし、算術平均粗さが大きい方の面を第2面とする場合に、第1面の算術平均粗さRa1と、第2面の算術平均粗さRa2との合計、及びRa1とRa2との差の絶対値が、所定の範囲内に設定される。
【0046】
フィルムを巻き取り、フィルムロール形態の製品とする場合、フィルムロールにおいて、第1面と第2面とが接触する。本発明者らの検討の結果、第1面でのゴム弾性体粒子の突出量と、第2面でのゴム弾性体粒子の突出量との和等に起因して、両面間での算術平均粗さの和が大きい場合に、第1面と第2面とが滑りやすく、貼り付き欠陥が生じにくいことが見出された。
さらに、第1面の算術平均粗さと第2面の算術平均粗さとの差が小さい場合に、透明性に優れるフィルムを得やすいことが見出された。フィルム両面において、光線の入射状態、透過状態、散乱状態等の差が小さいためと思われる。
【0047】
かかるフィルムにおいて、Ra1とRa2との合計は、6.5nm以上8.9nm以下であり、6.9nm以上8.5nm以下が好ましい。
Ra1とRa2との合計値が上記範囲であるフィルムでは、第1面と第2面とでゴム弾性体粒子が、フィルムの透明性を損なわない程度に適度に突出しており、フィルムをロールとする場合でも、第1面と第2面との間の滑り性が良好である。このため、かかるフィルムでは、貼り付き欠陥が少なく、透明性が良好である。
【0048】
かかるフィルムにおいて、Ra2−Ra1の値は、1.0nm以下であり、0.9nm以下がより好ましく、0.5
nm以下がより好ましい。Ra2−Ra1の値が1.0nm以下であれば、第1面でのゴム弾性体粒子の突出量と、第2面でのゴム弾性体粒子の突出量との和が大きくても、透明性が良好なフィルムを形成できる。
【0049】
かかるフィルムのヘイズは、良好な透明性を得る点から、1.0%以下であり、0.8%以下であることが好ましい。ここで、ヘイズは、JIS K 7105に準拠して測定される値である。
【0050】
かかるフィルムにおいて、第1面と第2面との間の静摩擦係数は、2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.2以下が特に好ましい。第1面と第2面との間の静摩擦係数が2.0以下である場合、フィルム両面の滑り性がそれぞれ良好であり、フィルムロール形態においてフィルム貼り付きが抑制されるため好ましい。
ここで、静摩擦係数は、アクリル系樹脂フィルムの第1面と第2面とを接触させ、加重500g、接触面積60mm×60mm、測定速度2000mm/min、温度23℃±2℃、湿度50%±5%の条件にて測定される静摩擦係数である。
【0051】
フィルムの厚さは特に限定されない。一般的な傾向として、アクリル系樹脂フィルムの厚さが薄いほど、光学特性等の種々のフィルムの特性に対して貼り付き欠陥が与える悪影響が大きい。しかしながら、フィルムが上記の所定の要件を満たす場合、厚さ30μm以上100μm以下、好ましくは35μm以上70μm以下、より好ましくは40μm以上60μm以下といった極めて薄いアクリル系樹脂フィルムにおいても、貼り付き欠陥の発生を顕著に抑制できる。
【0052】
<アクリル系樹脂フィルムの製造方法>
第2の実施形態に係るアクリル系樹脂フィルム10の製造方法は、
図5に示すように、アクリル系樹脂組成物をダイ5より押出してフィルム状溶融物10’とする溶融押出と、フィルム状溶融物10’をキャストロール6とタッチロール7との間で挟み込みフィルム10に成形する挟み込み成形とを含む。キャストロール6の表面の可とう性は、後述するように、タッチロール7の表面の可とう性よりも低い。
【0053】
そして、フィルム10の算術平均粗さが小さい方の面である第1面の算術平均粗さをRa1とし、フィルム10の算術平均粗さが大きい方の面である第2面の算術平均粗さをRa2とする場合に、挟み込み成形によって、Ra1とRa2との差(Ra2−Ra1)の値を1.0nm以下とする。
なお、第1の実施形態におけるフィルム、キャストロール、タッチロールと、第2の実施形態におけるフィルム、キャストロール、タッチロールとは、その表面形状が異なる場合があるが、基本的な性状は同じであり、便宜上、同一図面を参照しながら説明する。
【0054】
キャストロール6は、ダイ5から吐出されたフィルム状溶融物10’を表面で支持し、フィルム状溶融物10’を冷却する機能を有する。また、キャストロール6は、フィルム状溶融物10’をタッチロール7とともに圧力をかけつつ挟み込んで平滑なフィルム10に製膜する機能も有している。キャストロール6の表面は、通常は、金属等の硬質の材料で構成されている。
タッチロール7は、フィルム状溶融物10’をキャストロール6とともに圧力をかけつつ挟み込んで平滑なフィルム10に製膜する機能を有する。タッチロール7では、通常、ゴム等の弾性体からなるロールの表面が金属膜で覆われている。
【0055】
このように、キャストロール6の表面の可とう性はタッチロール7の表面の可とう性よりも低いことが多い。また、フィルム状溶融物10’がキャストロール6と接触する時間は、フィルム状溶融物10’がタッチロール7と接触する時間よりも長いことが多い。
このような条件下で、キャストロール6とタッチロール7とによるフィルム状溶融物10’の挟み込み成形を行うと、キャストロール6とタッチロール7との表面粗さが同じか近い場合には、フィルム10のキャストロール6と接触する面でのゴム弾性体粒子12の突出量は、フィルム10のタッチロール7と接触する面でのゴム弾性体粒子12の突出量よりも少ない傾向にある。
以下、フィルム10のキャストロール6と接触する面を「キャストロール面」とも記す。フィルム10のタッチロール7と接触する面を「タッチロール面」とも記す。
【0056】
上述したように、キャストロール面の算術平均粗さとタッチロール面の算術平均粗さの差が小さい場合に、透明性に優れるフィルムを得やすい。
よって、フィルム10のキャストロール面の算術平均粗さとタッチロール面の算術平均粗さとの差、すなわち第1面の算術平均粗さと第2面の算術平均粗さとの差である、Ra2−Ra1の値を1.0nm以下とするような挟み込み成形を行うことにより、透明性が良好なフィルム10を形成する。Ra2−Ra1の値が1.0nm以下であれば、キャストロール面でのゴム弾性体粒子12の突出量と、タッチロール面でのゴム弾性体粒子12の突出量との和が大きくても、透明性が良好なフィルム10を形成できる。Ra2−Ra1の値は、0.7
nm以下が好ましく、0.5
nm以下がより好ましい。
【0057】
Ra1と、Ra2との少なくとも一方を調整して、Ra2−Ra1の値を所定の範囲内に調整する方法は特に限定されない。このような方法の好適な例としては、キャストロール6及び/又はタッチロール7の表面粗さ、具体的には算術平均粗さRa、又は最大高さRyを増減させる方法が好ましい。キャストロール6の表面の算術平均粗さRa、又は最大高さRyの増減に応じて、Ra1又はRa2も増減する。同様に、タッチロール7の表面の算術平均粗さRa、又は最大高さRyの増減に応じて、Ra1又はRa2も増減する。
一般に、キャストロール6及び/又はタッチロール7の表面が平滑であるほど、挟み込み成形時にフィルム10両面において、ゴム弾性粒子がフィルム10内に埋没しやすい。
【0058】
また、上述したように、フィルム10を巻き取り、フィルムロール形態の製品とする場合、フィルムロールにおいて、キャストロール面とタッチロール面とが接触する。
フィルム10のキャストロール面とタッチロール面との間で、算術平均粗さの和が大きい場合に、キャストロール面とタッチロール面とが滑りやすく、貼り付き欠陥が生じにくい。
よって、フィルム10のキャストロール面の算術平均粗さとタッチロール面の算術平均粗さとの合計、すなわち第1面の算術平均粗さと第2面の算術平均粗さとの合計である、Ra1とRa2との合計が、6.5nm以上8.9nm以下であるように挟み込み成形を行うのが好ましい。Ra1とRa2との合計は、6.9nm以上8.5nm以下がより好ましい。
Ra1とRa2との合計値を上記範囲内とすると、キャストロール面とタッチロール面とでゴム弾性体粒子12が、アクリル系樹脂フィルムの透明性を損なわない程度に適度に突出しており、アクリル系樹脂フィルムをロールとする場合でも、キャストロール面とタッチロール面との間の滑り性が良好である。このため、貼り付き欠陥が少なく、透明性が良好なアクリル系樹脂フィルムを製造できる。
【0059】
Ra1とRa2との合計の値は、Ra2−Ra1の値と同様に、Ra1と、Ra2との少なくとも一方を調整することにより調製することができる。
【0060】
ここで、フィルム10の算術平均粗さRa2及びRa1は、原子間力顕微鏡により、JIS B 0601−1994に基づいて測定される。キャストロール6、又はタッチロール7の表面の最大高さRy及び算術平均粗さRaは、表面粗さ測定機により、JIS B 0601−1994に基づいて測定される。
【0061】
前述のRa2−Ra1の値を1.0nm以下とするためには、キャストロール6の表面の最大高さRyは、0.15μm以上0.40μm以下が好ましく、0.16μm以上0.30μm以下がより好ましく、0.16μm以上0.26μm以下が特に好ましい。
【0062】
また、Ra2−Ra1の値を1.0nm以下とするためには、キャストロール6の表面の算術平均粗さRaは、0.015μm以上0.040μm以下が好ましく、0.018μm以上0.035μm以下がより好ましく、0.020μm以上0.030μm以下が特に好ましい。
【0063】
前述のRa2−Ra1の値を1.0nm以下とするためには、タッチロール7の表面の最大高さRyは、0.10μm以下が好ましく、0.02μm以上0.08μm以下がより好ましく、0.04μm以上0.06μm以下が特に好ましい。
【0064】
また、前述のRa2−Ra1の値を1.0nm以下とするためには、タッチロール7の表面の算術平均粗さRaは、0.010μm以下が好ましく、0.003μm以上0.009μm以下がより好ましく、0.005μm以上0.008μm以下が特に好ましい。
【0065】
キャストロール6及びタッチロール7の表面温度は、アクリル系樹脂組成物のガラス転移温度をTgとして、Tg−70℃以上Tg以下が好ましく、Tg−60℃以上Tg−10℃以下がより好ましく、Tg−50℃以上Tg−20℃以下が特に好ましい。
キャストロール6及びタッチロール7の表面温度がTg以下であると、フィルム状溶融物10’が、キャストロール6及びタッチロール7により挟み込まれると同時に、良好に固化される。その結果、フィルム10の表面粗さを好ましい範囲内に制御することが容易である。
一方、キャストロール6及びタッチロール7の表面温度がTg−70℃以上であると、フィルム10がキャストロール6から下流の冷却ロールに搬送される際に、フィルム10がキャストロール6に粘着することなく、剥離時のフィルム表面欠陥(剥離紋)を抑制できる観点からも好ましい。
【0066】
アクリル系樹脂フィルムの製造方法において、キャストロール6の表面の温度をタッチロール7の表面の温度よりも下げることで、前述のRa2−Ra1の値を1.0nm以下に調整してもよい。前述の通りフィルム10のキャストロール面でのゴム弾性体粒子12の突出量は、フィルム10のタッチロール面でのゴム弾性体粒子12の突出量よりも少ない傾向にある。
しかし、キャストロール6の表面の温度をタッチロール7の表面の温度よりも下げると、フィルム状溶融物10’の挟み込み成形において、フィルム状溶融物10’のキャストロール6側の面が、タッチロール7側の面よりも硬い。このため、キャストロール面におけるゴム弾性体粒子12が埋没しにくい。その結果、キャストロール面とタッチロール面とで、ゴム弾性体粒子12の突出量が均一化される。
【0067】
また、アクリル系樹脂フィルムの製造方法において、フィルム状溶融物10’のキャストロール6側の面の温度を、フィルム状溶融物10’のタッチロール7側の面の温度よりも下げることで、前述のRa2−Ra1の値を1.0nm以下に調整してもよい。
キャストロール6の表面の温度をタッチロール7の表面の温度よりも下げる場合と同様の理由により、キャストロール面とタッチロール面とで、ゴム弾性体粒子12の突出量が均一化される。
フィルム状溶融物10’のキャストロール面の温度、及びタッチロール面の温度の制御は、例えば、ダイ5の出口において、キャストロール面側とタッチロール面側にそれぞれ加熱手段や冷却手段等の温度調節装置23、24を設置することで行ってもよい。
【0068】
以上説明した本発明の第2の実施形態によれば、
(2−1)アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とを含むアクリル系樹脂組成物を用いるアクリル系樹脂フィルムの製造方法であって、
アクリル系樹脂組成物をダイより押出してフィルム状溶融物とする溶融押出と、フィルム状溶融物をキャストロールとタッチロールとの間で挟み込みフィルムに成形する挟み込み成形と、を含み、
キャストロールの表面の可とう性が、前記タッチロールの表面の可とう性よりも低く、
アクリル系樹脂フィルムの算術平均粗さが小さい方の面の算術平均粗さをRa1とし、前記アクリル系樹脂フィルムの算術平均粗さが大きい方の面の算術平均粗さをRa2とする場合に、前記挟み込み成形によって、Ra2−Ra1の値を1.0nm以下とする、アクリル系樹脂フィルムの製造方法、
(2−2)Ra1と、Ra2との合計が、6.5nm以上8.9nm以下である、(2−1)に記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法、
(2−3)キャストロールの表面の最大高さRyが0.15μm以上0.40μm以下であり、タッチロールの表面の最大高さRyが0.10μm以下である、(2−1)又は(2−2)に記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法、
(2−4)キャストロールの表面の算術平均粗さRaが0.020μm以上0.040μm以下であり、タッチロールの表面の算術平均粗さRaが0.010μm以下である、(2−1)又は(2−2)に記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法、
(2−5)フィルム状溶融物における、キャストロールに接触する面の温度が、タッチロールに接触する面の温度よりも低い、(2−1)〜(2−4)のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法、
(2−6)アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とを含むアクリル系樹脂組成物を用いてフィルムを製造する製造装置であって、
押出機とダイとキャストロールとタッチロールとを備え、キャストロールの表面の可とう性が、タッチロールの表面の可とう性よりも低く、
キャストロールの表面の最大高さRyが0.15μm以上0.40μm以下であり、タッチロールの表面の最大高さRyが0.10μm以下である、アクリル系樹脂フィルムの製造装置、
(2−7)アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とを含むアクリル系樹脂組成物を用いてフィルムを製造する製造装置であって、
押出機とダイとキャストロールとタッチロールとを備え、キャストロールの表面の可とう性が、タッチロールの表面の可とう性よりも低く、
キャストロールの表面の算術平均粗さRaが0.015μm以上0.040μm以下であり、タッチロールの表面の算術平均粗さRaが0.010μm以下である、アクリル系樹脂フィルムの製造装置、
(2−8)アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とを含むアクリル系樹脂組成物からなるアクリル系樹脂フィルムであって、
アクリル系樹脂フィルムの算術平均粗さが小さい方の面を第1面とし、算術平均粗さが大きい方の面を第2面とする場合に、第1面の算術平均粗さRa1と、第2面の算術平均粗さRa2との合計が、6.5nm以上8.9nm以下であり、
Ra2−Ra1の値が、1.0nm以下であり、
アクリル系樹脂フィルムのヘイズが、1.0以下である、アクリル系樹脂フィルム、
(2−9)第1面と、第2面との間の静摩擦係数が2.0以下である、(2−8)に記載のアクリル系樹脂フィルム、
(2−10)アクリル系樹脂組成物が、アクリル系樹脂組成物の重量に対して5重量%以上20重量%以下のゴム弾性体粒子を含み、
ゴム弾性体粒子の体積平均粒子径が80nm以上450nm以下である、(2−8)又は(2−9)に記載のアクリル系樹脂フィルム、及び
(2−11)厚さが100μm以下である、(2−8)〜(2−10)のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルム、
が提供される。
【0069】
上述したように、第2の実施形態に係るアクリル系樹脂フィルムの製造方法及びアクリル系樹脂フィルムによれば、フィルムの表面粗さ等の表面性が制御されているため、特に、良好な透明性と、貼り付き欠陥の抑制とを両立させることができる。
【0070】
≪第3の実施形態≫
<アクリル系樹脂フィルム>
第3の実施形態に係るアクリル系樹脂フィルムは、アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とを含むアクリル系樹脂組成物からなるフィルムである。そして、フィルムにおいて、一方の面が平滑面であり、他方の面が粗面である。
図11に、平滑面と粗面とを有する片面平滑フィルムと、粗面上に形成されたコート層とからなる積層体の構成を示す。ここで、平滑面と粗面とは、絶対的な平滑性の評価に基づいて定められるものではなく、両面間での相対的な粗さの違いにより定められるものである。
【0071】
図11に示すように、フィルム20の少なくとも一方の面に、コート層22等のコート層が積層されて積層体21とされる場合が多々ある。コート層22が積層される面では、突出したゴム弾性体粒子12がコート層22内に埋め込まれるため、ゴム弾性体粒子12の突出に基づくフィルム20表面の凹凸に起因する、積層体21の透明性の低下が緩和される。
このように、コート層22が積層される面におけるゴム弾性体粒子12の突出が積層体21の透明性に与える影響は小さいため、コート層22が積層される面では、フィルムロール形態での貼り付き欠陥の発生を抑制するために、ゴム弾性体粒子12の突出量を多くしてフィルム20に滑性を付与することができる。
一方、コート層22が積層されない面では、ゴム弾性体粒子12の過度の突出が積層体21の透明性に悪影響を与えるため、ゴム弾性体粒子12の突出量を少なくするのが好ましい。
【0072】
よって、フィルム20では、平滑面20aの外部ヘイズH
i1と粗面20bの外部ヘイズH
i2とが、それぞれ以下に示す範囲内である。
平滑面20aの外部ヘイズH
i1は、0.1%以上0.8%以下であり、0.1%以上0.6%以下が好ましい。平滑面20aの外部ヘイズH
i1が、かかる範囲内であると、貼り付き欠陥の発生が抑制されやすく、かつ透明性に優れる積層体21を得やすい。
粗面20bの外部ヘイズH
i2は、0.6%以上1.5%以下であり、0.8%以上1.5%以下が好ましく、1.0%超1.5%以下がより好ましい。粗面20bの外部ヘイズH
i2が、かかる範囲内であると、貼り付き欠陥の発生が抑制されやすく、かつ透明性に優れる積層体21を得やすい。
H
i2−H
i1の値は、0.3%以上である。H
i2−H
i1の値が0.3%以上であることにより、フィルム20の貼り付き欠陥の抑制と、少なくともフィルム20の粗面20bにコート層22を積層して積層体21を得る場合の、積層体21の良好な透明性とを両立しやすい。
【0073】
また、アクリル系樹脂組成物のガラス転移温度をTgとしたときに、フィルム20をTg−10℃で、5分間熱処理した後に測定された、平滑面20aの外部ヘイズH
h1と、粗面20bの外部ヘイズH
h2とについて、H
h1とH
i1との差の絶対値、及びH
h2とH
i2との差の絶対値は、いずれも0.2%以下である。
つまり、上記のフィルム20は、加熱された場合においても、透明性が変化しにくい。
【0074】
上記のフィルム20は、典型的には、前述の通り、フィルム状溶融物20’の両面の表面温度を異ならせることにより製造される。この場合、アクリル系樹脂11が十分に軟化している状態で、ゴム弾性体粒子12がフィルム状溶融物20’の表面に埋没する。このため、上記のフィルム20ではゴム弾性体粒子12の埋没状態が、熱処理によって変化しにくいと思われる。
他方で、例えば、キャストロール6と、タッチロール7との表面温度に差をつけることのみで、フィルム20表面の両面でのゴム弾性体粒子12の埋没度合いに差を生じさせる場合、やや硬いアクリル系樹脂11に強制的にゴム弾性体粒子12を埋没させるため、熱処理によりアクリル系樹脂11が若干軟化した場合に、ゴム弾性体粒子12がフィル20ム表面に浮き上がり、突出量が増しやすいと思われる。
【0075】
ここで、平滑面20aの外部ヘイズH
i1、H
h1、及び粗面20bの外部ヘイズH
i2、H
h2の測定方法についてそれぞれ説明する。
図11は、平滑面の外部ヘイズH
i1及びH
h1の測定方法を模式的に説明する図である。
図12は、粗面の外部ヘイズH
i2及びH
h2の測定方法を模式的に説明する図である。なお、
図11及び
図12では、フィルム表面に露出するゴム弾性体粒子の一部を図示している。
【0076】
図11に示されるように、フィルム20において、平滑面20aの外部ヘイズH
i1及びH
h1は、粗面20bに平板状の透明なガラス30を純水により貼り付けた状態で、ガラス30に向けてヘイズ測定用の光源31から光線を照射して、JIS K 7105に準拠して測定されたヘイズである。粗面20bにガラス30を貼り付けて測定することにより、粗面20bのヘイズへの影響をキャンセルしつつ、平滑面20aの表面粗さと、フィルム20内部での光線の散乱とに基づく、平滑面20aの外部ヘイズの値を測定することができる。
【0077】
一方、
図12に示されるように、フィルム20において、粗面20bの外部ヘイズH
i2及びH
h2は、平滑面20aに平板状の透明なガラス30を純水により貼り付けた状態で、ガラス30に向けてヘイズ測定用の光源31から光線を照射して、JIS K 7105に準拠して測定されたヘイズである。平滑面20aにガラス30を貼り付けて測定することにより、平滑面20aのヘイズへの影響をキャンセルしつつ、粗面20bの表面粗さと、フィルム20内部での光線の散乱とに基づく、粗面20bの外部ヘイズの値を測定することができる。
【0078】
なお、ガラス30は、薄く平板状で、かつ無色で透明度が高い、いわゆるカバーグラスであれば特に限定されないが、例えば、松浪硝子工業株式会社製の角カバーグラス(40×50mm角、厚み公差0.12〜0.17mm)等を用いることができる。
【0079】
このようなフィルム20において、平滑面20aの算術平均粗さをRa1とし、粗面20bの算術平均粗さをRa2とする場合に、Ra2−Ra1の値が5nm以下であることが好ましく、1.5nm以上3.5nm以下がより好ましい。
Ra2−Ra1の値が5nm以下であるフィルム20では、貼り付き欠陥の発生を良好に抑制しつつ、透明性に優れる積層体を製造しやすい。
ここで、フィルム20の平滑面20aの算術平均粗さRa1と、粗面20bの算術平均粗さRa2は、JIS B 0601−1994に基づいて測定される。
【0080】
<アクリル系樹脂フィルムの製造方法>
第3の実施形態に係るアクリル系樹脂フィルムの製造方法は、アクリル系樹脂組成物をダイより押出してフィルム状溶融物とする溶融押出と、フィルム状溶融物を、ロールにより支持してロールの表面に沿って移動させつつ冷却してフィルムとするフィルム形成とを含む。
そして、ダイの出口からロールまでの区間のいずれかの位置において、フィルム状溶融物の一方の面の表面温度と他方の面の表面温度とを、10℃以上30℃以下異ならせる。
【0081】
溶融押出しにおいては、アクリル系樹脂組成物をダイ5より押出してフィルム状溶融物20’とする。フィルム状溶融物20’の一方の面の表面温度と他方の面の表面温度とを異ならせることにより、フィルム状溶融物20’において両面それぞれでのゴム弾性体粒子12の突出量を異ならせることができる。具体的には、フィルム状溶融物20’において、表面温度の高い面では、アクリル系樹脂11が柔らかいことに起因してゴム弾性体粒子12が埋没しやすい。表面温度の低い面では、反対の面よりもアクリル系樹脂11が硬いことに起因して、ゴム弾性体粒子12が反対の面よりも埋没しにくい。
その結果、フィルム状溶融物20’において、温度が高い面では、ゴム弾性体粒子12が突出しにくく、温度が低い面ではゴム弾性体粒子12が突出しやすい。
【0082】
上述したように、コート層22が積層される面におけるゴム弾性体粒子12の突出が積層体21の透明性に与える影響は小さいため、コート層22が積層される面では、フィルムロール形態での貼り付き欠陥の発生を抑制するために、ゴム弾性体粒子12の突出量を多くしてフィルム20に滑性を付与することができる。
一方、コート層22が積層されない面では、ゴム弾性体粒子12の過度の突出が積層体21の透明性に悪影響を与えるため、ゴム弾性体粒子12の突出量を少なくするのが好ましい。
【0083】
このため、ダイ5の出口からキャストロール6までの区間において、フィルム状溶融物20’における、コート層22等のコート層が積層される予定の面では、コート層22が積層されない予定の面よりも、表面温度を低くするのが好ましい。
【0084】
具体的には、ダイ5の出口の直後において、フィルム状溶融物20’の一方の面の表面温度と他方の面の表面温度とを、10℃以上30℃以下、好ましくは10℃以上20℃以下異ならせる。
フィルム状溶融物20’の一方の面の表面温度と他方の面の表面温度との差が10℃以上であることにより、フィルム20の一方の面では、貼り付き欠陥の発生を十分に抑制できる程度にゴム弾性体粒子12を突出させやすく、他方の面では、フィルム20を用いて製造される積層体21の透明性に著しい悪影響を与えない程度であり、かつ、貼り付き欠陥の発生を十分に抑制できる程度にゴム弾性体粒子12を突出させやすい。
フィルム状溶融物20’の一方の面の表面温度と他方の面の表面温度との差が30℃以下である場合、フィルム状溶融物20’の熱劣化を抑制しやすい。熱劣化が生じると、フィルム20の表面にスジが現れる場合がある。
【0085】
溶融押出において、アクリル系樹脂組成物のガラス転移温度をTgとしたときに、ダイ5の出口に供給される溶融状態のアクリル系樹脂組成物の温度は、Tg+120℃以上であることが好ましい。溶融状態のアクリル系樹脂組成物の温度がこの範囲内であることにより、フィルム状溶融物20’中のゴム弾性体粒子12の突出量を調整しやすい。
【0086】
フィルム状溶融物20’の一方の面の表面温度と他方の面の表面温度とを異ならせる方法は、特に限定されない。
図13に示されるように、フィルム状溶融物20’の両面の温度は、それぞれダイ5の出口(ダイリップ)の近傍に設けられた、補助加熱装置としての温度調節装置23、及び温度調節装置24の少なくともいずれか一方により、調節されるのが好ましい。
温度調節装置23は、キャストロール6と接触する面側のフィルム表面温度を調整する装置である。温度調節装置24は、キャストロール6と接触しない面側のフィルム表面温度を調整する装置である。
温度調節装置23及び温度調節装置24としては、ダイ5の出口から押出された直後のフィルム状溶融物20’の温度を調節する非接触式の装置であってもよい。非接触式の装置としては、例えば、赤外線ヒーター等の加熱装置や、冷媒が流通するパイプ等の冷却装置が挙げられる。なお、
図13では、ダイ5の出口に温度調節装置23、及び温度調節装置24を設置した例が示されているが、どちらか一方のみが設置されてもよい。
【0087】
また、ダイ5とキャストロール6との、中間地点付近や、キャストロール6の近傍に温度調節装置を設置して、フィルム状溶融物20’の一方の面の表面温度と、他方の面の表面温度とを異ならせてもよい。温度調節装置としては、ダイ5の出口で使用され得る非接触式の温度調節装置と同様の装置を使用することができる。
【0088】
前述したように、フィルム状溶融物20’の一方の面の表面温度と他方の面の表面温度とを異ならせる方法は、加熱及び冷却のいずれであってもよい。ゴム弾性体粒子12の突出量を調整しやすい点から、加熱により、フィルム状溶融物20’の両面の表面温度を異ならせるのが好ましい。
【0089】
さらに、溶融押出において、フィルム状溶融物20’の幅方向におけるフィルム状溶融物20’の両端部の温度を、フィルム状溶融物20’の幅方向におけるフィルム状溶融物20’の中央部の温度よりも高くしてもよい。
この場合、得られるフィルム20の中央部では、フィルム20の両端部よりもゴム弾性体粒子12の突出量が多い。そうすると、フィルム20の中央部では滑性が高い一方で、フィルム20の両端部では滑性が低いため、フィルム20がロールにより搬送される際に、横滑りが発生しにくい。
なお、ここで、フィルム状溶融物20’の端部及び中央部とは、フィルム状溶融物20’の一方の面における端部及び中央部であっても、他方の面における端部及び中央部であってもよい。フィルム状溶融物20’の少なくとも一方の面において、端部と中央部との温度に差が有ることで、フィルム20がロールにより搬送される際の横滑りを抑制しやすい。
【0090】
フィルム形成では、フィルム状溶融物20’を、ロール(例えばキャストロール6)により支持してロールの表面に沿って移動させつつ冷却してフィルム20とする。
フィルム形成においては、
図13に示すように、フィルム状溶融物20’をキャストロール6により支持しつつ、キャストロール6とタッチロール7との間で挟み込みフィルム20に成形してもよい。
このように、キャストロール6とタッチロール7との間に挟み込んでフィルム形成を行うことにより、フィルム20の両面におけるゴム弾性体粒子12の突出量をそれぞれ調整することがより容易である。
【0091】
フィルム状溶融物20’をキャストロール6とタッチロール7との間で挟み込みフィルム20に成形する場合には、キャストロール6の表面の温度とタッチロール7の表面の温度とに差が有ってもよい。キャストロール6とタッチロール7との表面温度によっても、フィルム20の両面におけるゴム弾性体粒子12の突出量をそれぞれ調整することが可能である。
例えば、キャストロール6の表面温度が高いほど、フィルム状溶融物20’のキャストロール6と接触する表面において、ゴム弾性体粒子12が埋没しやすい。タッチロール7においても同様である。
【0092】
フィルム状溶融物20’においては、ゴム弾性体粒子12を埋没させやすいことを目的に一方の表面温度が高めに設定され、ゴム弾性体粒子12を埋没させにくいことを目的に他方の表面温度が低めに設定される。
この点を考慮すると、キャストロール6表面とタッチロール7表面とで温度差がある場合には、フィルム状溶融物20’の温度の高い方の面が、キャストロール6とタッチロール7とのうちの表面温度が高い方と接するのが好ましい。
【0093】
<積層体>
以下、第3の実施形態に係るフィルムを用いた積層体について説明する。上述したように、
図11に示す積層体21は、アクリル系樹脂フィルム20と、コート層22とを含む。コート層22は、少なくともアクリル系樹脂フィルムの粗面20bを被覆していることが好ましく、粗面20bと平滑面20aの両面を被覆してもよい。このような積層体21は、コート層22が被覆される前のロール形態で貼り付き欠陥の発生が抑制されていることから、貼り付き欠陥のない状態でコート層22の積層が可能であり、かつ上述したように透明性が良好である。
コート層22としては、上述したコート層14と同様に形成することができる。
なお、
図7(側面図)に示すフィルム20には、
図4(断面図)に示すフィルム10における凹部10cが図示されていないが、フィルム10と同様に、ゴム弾性体粒子12の周囲に凹部が形成されていてもよいことは言うまでもない。
【0094】
以上説明した本発明の第3の実施形態によれば、
(3−1)アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とを含むアクリル系樹脂組成物を用いるアクリル系樹脂フィルムの製造方法であって、
アクリル系樹脂組成物をダイより押出してフィルム状溶融物とする溶融押出と、
フィルム状溶融物を、ロールにより支持してロールの表面に沿って移動させつつ冷却してフィルムとするフィルム形成と、を含み、
ダイの出口からロールまでの区間のいずれかの位置において、フィルム状溶融物の一方の面の表面温度と他方の面の表面温度とを、10℃以上30℃以下異ならせる、アクリル系樹脂フィルムの製造方法、
(3−2)ダイの出口の直後において、フィルム状溶融物の一方の面の表面温度と他方の面の表面温度とを異ならせる、(3−1)に記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法、
(3−3)溶融押出において、アクリル系樹脂組成物のガラス転移温度をTgとしたときに、ダイの出口に供給される溶融状態のアクリル系樹脂組成物の温度が、Tg+120℃以上である、(3−1)又は(3−2)に記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法、
(3−4)ダイの出口近傍に設けられた温度調節装置により温度調節を行い、フィルム状溶融物の一方の面の表面温度と他方の面の表面温度とを異ならせる、(3−1)〜(3−3)のいずれかに1つに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法、
(3−5)フィルム形成において、フィルム状溶融物の温度が高い方の面がロールに接する、(3−1)〜(3−4)のいずれか1つに記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法、
(3−6)フィルム形成において、フィルム状溶融物をキャストロールとタッチロールとの間で挟み込みフィルムに成形する、(3−1)〜(3−5)のいずれかに1つに記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法、
(3−7)キャストロールの表面の温度とタッチロールの表面の温度とに差が有り、
フィルム状溶融物の温度の高い方の面が、キャストロールとタッチロールとのうちの表面温度が高い方と接する、(vi)に記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法、
(3−8)溶融押出において、フィルム状溶融物の幅方向におけるフィルム状溶融物の両端部の温度を、フィルム状溶融物の幅方向におけるフィルム状溶融物の中央部の温度よりも高くする、(3−1)〜(3−7)のいずれか1つに記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法、
(3−9)アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とを含むアクリル系樹脂組成物からなるアクリル系樹脂フィルムであって、
一方の面が平滑面であり、他方の面が粗面であり、
平滑面の外部ヘイズH
i1が0.1%以上0.8%以下であり、
粗面の外部ヘイズH
i2が0.6%以上1.5%以下であり、
H
i2−H
i1の値が0.3%以上であり、
アクリル系樹脂組成物のガラス転移温度をTgとしたときに、アクリル系樹脂フィルムをTg−10℃で、5分間熱処理した後に測定された、平滑面の外部ヘイズH
h1と、粗面の外部ヘイズH
h2とについて、H
h1とH
i1との差の絶対値、及びH
h2とH
i2との差の絶対値がいずれも0.2%以下であり、
H
i1及びH
h1は、それぞれ、粗面に平板状の透明なガラスを貼り付けた状態で、ガラスに向けてヘイズ測定用の光源から光線を照射して、JIS K 7105に準拠して測定されたヘイズであり、
H
i2及びH
h2は、それぞれ、平滑面に平板状の透明なガラスを貼り付けた状態で、ガラスに向けてヘイズ測定用の光源から光線を照射して、JIS K 7105に準拠して測定されたヘイズである、アクリル系樹脂フィルム、
(3−10)平滑面の算術平均粗さをRa1とし、粗面の算術平均粗さをRa2とする場合に、Ra2−Ra1の値が5nm以下である、(3−9)に記載のアクリル系樹脂フィルム、及び、
(3−11)(3−9)又は(3−10)に記載のアクリル系樹脂フィルムと、被覆層とを含む、積層体であって、被覆層が、アクリル系樹脂フィルムの粗面を被覆する、積層体、
が提供される。
【0095】
上述したように、第3の実施形態に係るアクリル樹脂フィルムの製造方法、当該アクリル系樹脂フィルム、及び当該アクリル系樹脂フィルムを含む積層体によれば、フィルム表面の表面粗さ等の表面性が制御されているため、特に、貼り付き欠陥の発生を抑制でき、かつ透明性に優れる積層体を与え得る。
【0096】
以上説明した第1の実施形態、第2の実施形態、及び第3の実施形態についての各構成は、所望する課題の解決を阻害しない範囲において、各実施形態間において、相互に適用され得る。
【0097】
以下、第1の実施形態、第2の実施形態、及び第3の実施形態において共通する、アクリル系樹脂フィルムの製造装置と、アクリル系樹脂組成物とについて説明する。
【0098】
≪アクリル系樹脂フィルムの製造装置≫
以下、第1乃至第3の実施形態に係るフィルム10、20の製造装置は、アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とを含むアクリル系樹脂組成物を用いてフィルムを製造する製造装置である。
アクリル系樹脂フィルムの製造装置は、押出機と、ダイと、キャストロールと、タッチロールとを必須に備える。アクリル系樹脂フィルムの製造装置は、これらの必須の構成以外に、アクリル系樹脂フィルムの製造装置に従来適用されている種々の構成を備えていてもよい。
【0099】
図14は、アクリル系樹脂フィルムの製造装置の好適な一例を模式的に示す図である。
図14に示されるアクリル系樹脂フィルムの製造装置は、必須の構成として、押出機2と、ダイ5と、キャストロール6と、タッチロール7とを備え、任意の構成として、押出機ホッパー1と、ギアポンプ3と、フィルター装置4と、冷却ロール8とを備える。
図14では、温度調節機能付きの押出機ホッパー1と、押出機2と、ギアポンプ3と、フィルター装置4と、ダイ5と、キャストロール6及びタッチロール7と、冷却ロール8とが、この順に配設されている。
【0100】
アクリル系樹脂とゴム弾性体粒子とを含むアクリル系樹脂組成物は、温度調節機能付きの押出機ホッパー1内で所定樹脂温度に調節された後、押出機2に供給される。アクリル系樹脂組成物は、押出機2にて加熱と混練とにより溶融状態とされる。次いで、溶融したアクリル系樹脂組成物は、ギアポンプ3で計量された後、フィルター4aを含むフィルター装置4で濾過される。濾過後の溶融したアクリル系樹脂組成物は、ダイ5に供給されフィルム状溶融物10’となって吐出される。続いて、フィルム状溶融物10’は、キャストロール6とタッチロール7とにより挟み込まれ、表面が平滑化されると同時に、ガラス転移温度Tg以下の温度に冷却されることにより、フィルム10に成形される。得られたフィルム10は、複数の冷却ロール8によって冷却されながら搬送され、巻き取り機9によって巻き取られ、フィルムロール形態となって取得される。キャストロール6以降の冷却ロール8は、フィルム搬送速度に応じて、フィルムが十分に冷却固化されるように1本から複数本の間で任意に設置することができる。
【0101】
押出機2としては、特に限定されず、従来公知の各種押出機を使用できる。例えば、単軸押出機、同方向噛合型2軸押出機、同方向非噛合型2軸押出機、異方向噛合型2軸押出機、異方向非噛合型2軸押出機、多軸押出機等の各種押出機を用いることができる。その中でも、単軸押出機が押出機内における樹脂滞留部が少ないため押出中におけるアクリル系樹脂組成物の熱劣化を抑制しやすいこと、また設備費が安価であることから好ましい。また、アクリル系樹脂組成物中の残存揮発分、押出機2における加熱発生物を除去するためにベント機構を有する押出機を使用することが好ましい。押出機2のサイズ(口径)は所望の吐出量に合わせて選定される。
【0102】
単軸押出機で使用するスクリューとしては、ベント無し又は有り押出機用の圧縮比2以上3以下程度の一般的なフルフライト構成のものを用いることができるが、未溶融物が残存しないように特殊な混練機構(ミキシングエレメント)を持たせてもよい。
【0103】
押出機2内でのアクリル系樹脂組成物の滞留時間は、滞留時間増加による樹脂熱劣化を防止する点から、好ましくは10分以内であり、より好ましくは5分以内であり、特に好ましくは2分以内である。
滞留時間は、押出機2の種類、押出条件にも左右されるが、材料の供給量やL/D、スクリュー回転数、スクリューの溝の深さ等を調整することにより短縮することが可能である。
【0104】
押出機2により得られた溶融したアクリル系樹脂組成物は、次いでダイ5に供給される。溶融したアクリル系樹脂組成物の供給は、
図14に示されるように、ギアポンプ3を用いて行われることが好ましい。ギアポンプ3を用いることで押出機2における吐出量変動が吸収され、供給の定量性が著しく向上し、経時的なフィルム厚さの安定性向上に効果がある。
【0105】
ギアポンプ3より定量的に供給される溶融したアクリル系樹脂組成物、あるいは押出機2から直接供給される溶融したアクリル系樹脂組成物は、例えば管状の流路を通りダイ5に供給され、ダイ出口からフィルム状に吐出される。ギアポンプ3からダイ5までの流路中、あるいはギアポンプ3等を介さない場合は押出機2からダイ5までの流路中に、
図14に示されるように、フィルター装置4を設けることが好ましい。これにより、原料であるアクリル系樹脂組成物中に含まれていた異物や押出機2やギアポンプ3で発生した異物がトラップされ、フィルム10中の異物欠陥の発生を低減しやすい。フィルター装置4のフィルター4aとしては、リーフディスクフィルター、スクリーンメッシュ、プリーツ型フィルター等を用いることができる。
【0106】
ダイ5としては、各種構造のものを使用することができる。ダイ5としては、Tダイが好ましく、例えば一般的なコートハンガーダイを用いることができる。さらに幅方向厚さ調整機構としてボルト等の押し込みによりリップの幅方向任意部分の隙間を調節できるダイが好ましい。
さらに、フィルム10の厚さをオンラインで測定し、任意の厚さプロファイルとの偏差がある部分を自動で調整可能な、熱作動式ボルト等を用いることができる。熱作動式ボルト等を用いて自動で厚さプロファイルの調整をすることは、経時的な変化を人の手を介さずに精度よく行うことができるため好ましい。
【0107】
押出機2からダイ5出口からの吐出までにかかる溶融したアクリル系樹脂組成物の滞留時間は、好ましくは15分以下、より好ましくは10分以下である。アクリル系樹脂組成物の熱劣化を抑制する観点からは、溶融したアクリル系樹脂組成物の滞留時間は短いほどよい。
【0108】
以上説明したアクリル系樹脂フィルムの製造装置の構成は、
図14に示される構成に限定されない。アクリル系樹脂フィルムの製造装置は、例えば、必要に応じて、さらに、フィルム端部にナーリングを行う装置や、保護フィルムの貼り合わせを行う装置、フィルム両端部をスリットし所望の製品幅に裁断する装置、フィルムを延伸する装置を備えていてもよい。
【0109】
≪アクリル系樹脂組成物≫
以下、上記のアクリル系樹脂フィルムの材質であるアクリル系樹脂組成物について説明する。以下、説明するアクリル系樹脂組成物は、前述のアクリル系樹脂フィルムの製造方法においてもアクリル系樹脂フィルムの原料として用いられる。
【0110】
アクリル系樹脂組成物は、ゴム弾性体粒子及びアクリル系樹脂を有する。
ゴム弾性体粒子の体積平均粒子径は、80nm以上450nm以下が好ましく、100nm以上350nm以下がより好ましく、200nm以上300nm以下が特に好ましい。ゴム弾性体粒子の体積平均粒子径が80nm以上である場合、アクリル系樹脂組成物を用いて、十分に強度が高いフィルムを得やすい。ゴム弾性体粒子の体積平均粒子径が450nm以下である場合、透明性に優れるフィルムを得やすい。なお、体積平均粒子径は、動的散乱法により、例えば、MICROTRAC UPA150(日機装株式会社製)を用いることにより測定することができる。
【0111】
アクリル系樹脂組成物中のゴム弾性体粒子の含有量は、アクリル系樹脂組成物の重量に対して5重量%以上20重量%以下が好ましく、8重量%以上18重量%以下がより好ましい。アクリル系樹脂の重量に対するゴム弾性体粒子の配合量が5重量%以上である場合、強度に優れるフィルムを得やすい。また、この場合、フィルム表面に所望する程度にゴム弾性体粒子を突出させることによって所望する表面性を有するフィルムを得やすい。アクリル系樹脂の重量に対するゴム弾性体粒子の配合量が20重量%以下である場合、透明性に優れるフィルムを得やすい。
【0112】
[アクリル系樹脂]
アクリル系樹脂は、フィルムにおけるマトリックス部分を構成する材料であり、優れた光学特性、耐熱性、成形加工性等の面で好ましく用いられる。
【0113】
アクリル系樹脂は、特に制限されないが、メタクリル酸メチルを単量体成分としたメタクリル系樹脂を使用できる。メタクリル系樹脂は、メタクリル酸メチル由来の構成単位を、30重量%以上100重量%以下、好ましくは50重量%以上100重量%以下含有し、メタクリル酸メチルと共重合可能なモノマー由来の構成単位を、0重量%以上70重量%以下、好ましくは0重量%以上50重量%以下含有するのが好ましい。メタクリル酸メチル由来の構成単位の含有量が30重量%以上であれば、良好なアクリル系樹脂特有の光学特性、外観性、耐候性、耐熱性が得られる。
メタクリル酸メチルを単量体成分としたメタクリル系樹脂を用いる場合、メタクリル系樹脂のガラス転移温度Tgは、使用する条件、用途に応じて設定することができる。好ましくはガラス転移温度Tgが100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは115℃以上、最も好ましくは120℃以上である。
【0114】
また、耐熱性のアクリル系樹脂としては、例えば、
1)共重合成分としてN−置換マレイミド化合物が共重合されているアクリル系樹脂、
2)無水グルタル酸アクリル系樹脂、
3)ラクトン環構造を有するアクリル系樹脂、
4)グルタルイミドアクリル系樹脂、
5)水酸基及び/又はカルボキシル基を含有するアクリル系樹脂、
6)芳香族ビニル単量体及びそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られる芳香族ビニル含有アクリル系重合体(例えば、スチレン単量体及びそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン含有アクリル系重合体)、
7)上記6)の芳香族環を部分的に又は全て水素添加して得られる水添芳香族ビニル含有アクリル系重合体(例えば、スチレン単量体及びそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン含有アクリル系重合体の芳香族環を部分水素添加して得られる部分水添スチレン含有アクリル系重合体)、及び
8)環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体、
を挙げることができる。
【0115】
特に、耐熱性及び光学特性の観点から、メタクリル酸メチル97重量%以上100重量%以下及びアクリル酸メチル0重量%以上3重量%以下で構成されるアクリル系重合体や、4)グルタルイミドアクリル系樹脂をより好ましく用いることができる。
【0116】
[ゴム弾性体粒子]
ゴム弾性体粒子を構成する樹脂は、特に限定されない。樹脂としては、例えば、ガラス転移温度Tgが20℃未満である重合体が挙げられ、具体的には、例えば、ブタジエン系架橋重合体、(メタ)アクリル系架橋重合体、オルガノシロキサン系架橋重合体等のゴム状重合体が挙げられる。なかでも、フィルムの耐候性、透明性の面で、(メタ)アクリル系架橋重合体(以下、単に「アクリル系ゴム状重合体」ということがある。)が特に好ましい。
【0117】
アクリル系ゴム状重合体としては、例えばABS樹脂ゴム、ASA樹脂ゴムが挙げられる。透明性等の観点から、以下に示すアクリル酸エステル系ゴム状重合体を含むアクリル系グラフト共重合体(以下、単に「アクリル系グラフト共重合体」ということがある。)を好ましく用いることができる。アクリル系グラフト共重合体は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体の存在下に、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物を少なくとも1段以上重合して得ることができる。
【0118】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体は、アクリル酸エステルを主成分としたゴム状重合体である。具体的には、アクリル酸エステル50重量%以上100重量%以下、及び共重合可能な他のビニル系単量体0重量%以上50重量%以下からなる単量体混合物(100重量%)並びに、1分子あたり2個以上の非共役な反応性二重結合を有する多官能性単量体0.05重量部以上10重量部以下(単量体混合物100重量部に対して)を重合させてなる、アクリル酸エステル系ゴム状重合体が好ましい。単量体を全部混合して使用してもよく、また単量体組成を変化させて2段以上で使用してもよい。
【0119】
アクリル酸エステルがアクリル酸と、R−OH(Rは炭化水素基)で表されるアルコールとのエステルである場合、Rとしての炭化水素基の炭素数は、重合性やコストの点より、1以上12以下が好ましい。このようなアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、及びアクリル酸n−オクチル等が挙げられる。これらのアクリル酸エステルは2種以上併用してもよい。
【0120】
共重合可能な他のビニル系単量体としては、耐候性、透明性の点より、(メタ)アクリル酸エステル類が特に好ましく、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸フェニル等が挙げられる。また、芳香族ビニル類及びその誘導体、及びシアン化ビニル類も好ましく、例えば、スチレン、メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。その他、無置換及び/又は置換無水マレイン酸類、(メタ)アクリルアミド類、ビニルエステル、ハロゲン化ビニリデン、(メタ)アクリル酸及びその塩、(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0121】
多官能性単量体は、通常使用されるものでよい。多官能性単量としては、例えばアリルメタクリレート、アリルアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチルロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート及びこれらのアクリレート類等を使用することができる。これらの多官能性単量体は2種以上併用してもよい。
【0122】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体へのメタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物の重合、つまり、グラフト共重合に用いられる単量体としては、前述のメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、これらを共重合可能なビニル系単量体を同様に使用でき、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルが好適に使用される。アクリル系樹脂との相溶性の観点からメタクリル酸メチル、ジッパー解重合を抑制する点からアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチルが好ましい。
【0123】
アクリル系グラフト共重合体は、一般的な乳化重合法によって製造できる。具体的には、水溶性重合開始剤の存在下、乳化剤を用いてアクリル酸エステル単量体を連続的に重合させる方法を例示できる。
【0124】
乳化重合法においては、通常の重合開始剤を使用できる。例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物や、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物、さらにアゾビスイソブチロニトリル等の油溶性開始剤も使用される。これらは単独又は2種以上併用してもよい。これらの開始剤は亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒド、スルフォキシレート、アスコルビン酸、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム錯体なとの還元剤と併用した通常のレドックス型重合開始剤として使用してもよい。
【0125】
重合開始剤と合わせて連鎖移動剤を併用してもよい。連鎖移動剤としては、炭素数2以上20以下のアルキルメルカプタン、メルカプト酸類、チオフェノール、四塩化炭素等が挙げられる。これらは単独又は2種以上併用してもよい。
【0126】
乳化重合法にて使用する乳化剤に関して特に制限はなく、通常の乳化重合用の乳化剤であれば使用することが出来る。例えば、アルキル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩系界面活性剤、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、アルキルスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホン酸塩系界面活性剤、アルキルリン酸ナトリウムエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウムエステル等のリン酸塩系界面活性剤といったアニオン系界面活性剤が挙げられる。また上記ナトリウム塩は、カリウム塩等の他のアルカリ金属塩やアンモニウム塩でもよい。これらの乳化剤は、単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。さらに、ポリオキシアルキレン類又はその末端水酸基のアルキル置換体又はアリール置換体に代表される、非イオン性界面活性剤を使用又は一部併用しても差し支えない。その中でも、重合反応安定性、粒子系制御性の点から、スルホン酸塩系界面活性剤、又はリン酸塩系界面活性剤が好ましく、中でも、ジオクチルスルホコハク酸塩、又はポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩がより好ましく用いることができる。
【0127】
なお、ゴム弾性体粒子を含有するアクリル系樹脂組成物には、熱や光に対する安定性を向上させるための酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤等を添加してもよい。これらの添加剤は、単独で、又は2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【実施例】
【0128】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されない。
以下、実施例1−1〜実施例1−3は、上記の第1の実施形態に関する試験であり、比較例1−1〜比較例1−3は、これらの実施例との比較のための試験である。実施例2−1〜実施例2−2は、上記の第2の実施形態に関する試験であり、比較例2−1〜比較例2−5は、これらの実施例との比較のための試験である。実施例3−1〜実施例3−6は、上記の第3の実施形態に関する試験であり、比較例3−1〜比較例3−6は、これらの実施例との比較のための試験である。
【0129】
<実施例1−1〜実施例1−3及び比較例1−1〜比較例1−3>
ダイ出口のフィルム状溶融物の温度と、ダイ出口からタッチロール及びキャストロールまでのラインスピードとを各種設定し、フィルムの表面形状(Rd、Rh、ΔRa)と、塗工性及び視認性の評価を、以下の方法を用いて行った例について説明する。
【0130】
[実施例1−1]
(製造例1:ゴム弾性体粒子(アクリル系グラフト共重合体)の調製)
撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 180重量部
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸(乳化剤) 0.031重量部
ホウ酸 0.4725重量部
炭酸ナトリウム 0.04725重量部
水酸化ナトリウム 0.0098重量部
重合機内を窒素ガスで充分に置換した後、内温を80℃にし、重合開始剤である過硫酸カリウム0.027重量部を2重量%水溶液の形態で添加した。次いで、単量体混合物27重量部(メタクリル酸メチル93.2重量%、アクリル酸ブチル6重量%、スチレン0.8重量%)、多官能性単量体であるメタクリル酸アリル0.135重量部、連鎖移動剤であるn−オクチルメルカプタン0.3重量部、乳化剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸0.0934重量部を81分かけて連続的に添加した。さらに60分重合を継続することにより、重合物(I)を得た。
【0131】
その後、重合物(I)に、水酸化ナトリウム0.0267重量部を2重量%水溶液の形態で添加し、過硫酸カリウム0.08重量部を2重量%水溶液の形態で添加した。次いで、単量体混合物(アクリル酸ブチル82重量%、スチレン18重量%)、メタクリル酸アリル0.75重量部、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸0.2328重量部を150分かけて連続的に添加した。添加終了後、開始剤である過硫酸カリウム0.015重量部を2%水溶液の形態で添加し、120分重合を継続し、重合物(II)を得た。
【0132】
その後、重合物(II)に、過硫酸カリウム0.023重量部を2重量%水溶液の形態で添加した。次いで、単量体混合物15重量部(メタクリル酸メチル95重量%、アクリル酸ブチル5重量%)を45分かけて連続的に添加し、さらに30分間重合を継続した。
次いで、単量体混合物8重量部(メタクリル酸メチル52重量%、アクリル酸ブチル48重量%)を25分かけて連続的に添加し、さらに60分重合を継続することにより、多段重合グラフト共重合体ラテックスを得た。
得られたラテックスを硫酸マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状の多段重合アクリル系グラフト重合体を得た。得られたアクリル系グラフト共重合体の平均粒子径は221nmであった。
【0133】
(製造例2:アクリル系樹脂組成物の調製)
製造例1で得られたゴム弾性体粒子(アクリル系グラフト共重合体)と、ポリメタクリル酸メチル構造単位100%のアクリル系樹脂(Mw:10.5万)とを15:85の重量比にて混合した。続いて、この混合物を、φ58mmベント式二軸押出機にて、溶融押出を行い、押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を水槽で冷却し、ペレタイザでペレット化したアクリル系樹脂組成物を得た。得られたアクリル系樹脂組成物のガラス転移温度Tgは、120℃であった。
【0134】
(フィルム製造装置)
上流側から順に、φ90mmベント式単軸押出機とギアポンプ、Tダイ、最大高さRy=0.260μm、算術平均粗さRa=0.030μmのキャストロールと、最大高さRy=0.050μm、算術平均粗さRa=0.007μmのタッチロールとが配列されたフィルム製造装置を用いた。
【0135】
製造例2で得られたアクリル系樹脂組成物と、上述したフィルム製造装置とを用いて、ダイ出口のフィルム状溶融物の温度を250℃(Tg+130℃)として溶融押出を行った(
図8参照)。フィルム状溶融物に対して、表面温度が95℃であるタッチロールとキャストロールを用いて、挟み込み成形を行い、厚さ80μm、幅1500mm、長さ1000mのフィルムロール形態のアクリル系樹脂フィルムを取得した。ダイ出口から、タッチロール及びキャストロールまでのラインスピードは13m/分であった。
【0136】
(コート層形成)
フィルム製造装置で得られたアクリル系樹脂フィルムに、ハードコート層形成用の塗工液(ウレタンアクリレート系樹脂(成形加工フィルム用UVハードコート剤)/溶剤メチルエチルケトン/固形成分30質量%)をバーコータ―により1μm厚で塗工した。そして、80℃で3分間乾燥し、積算光量300〜400mJ/cm
2で紫外線を照射し、ハードコート層を形成し、積層体(ハードコート層付フィルム)を取得した。
【0137】
[実施例1−2]
ダイ出口でのフィルム状溶融物の温度を260℃(Tg+140℃)に変えることと、ラインスピードを15m/分に変えることとの外は、実施例1−1と同様の方法で、積層体(ハードコート層付フィルム)を取得した。
【0138】
[実施例1−3]
ダイ出口でのフィルム状溶融物の温度を270℃(Tg+150℃)に変えることと、ラインスピードを18m/分に変えることとの外は、実施例1−1と同様の方法で、積層体(ハードコート層付フィルム)を取得した。
【0139】
[比較例1−1]
ダイ出口でのフィルム状溶融物の温度を200℃(Tg+80℃)に変えて、溶融押出を行った(
図7参照)。そして、ラインスピードを13m/分に変えることの外は、実施例1−1と同様の方法で、積層体(ハードコート層付フィルム)を取得した。
【0140】
[比較例1−2]
ラインスピードを30m/分に変えることの外は、実施例1−1と同様の方法で、積層体(ハードコート層付フィルム)を取得した。
【0141】
[比較例1−3]
ダイ出口でのフィルム状溶融物の温度を300℃(Tg+180℃)に変えて、溶融押出を行った(
図9参照)。そして、ラインスピードを15m/分に変えることの外は、実施例1−1と同様の方法で、積層体(ハードコート層付フィルム)を取得した。
【0142】
[実施例1−1〜実施例1−3及び比較例1−1〜比較例1−3の結果]
実施例1−1〜実施例1−3及び比較例1−1〜比較例1−3で取得したアクリル系樹脂フィルムの表面形状を、以下の方法に従って測定した。
【0143】
図15に、実施例1−2で得たアクリル系樹脂フィルムの表面のAFM観察により取得された、凹凸を含むフィルム断面についての高さ曲線を示す。
図16に、比較例1−1で得たアクリル系樹脂フィルムの表面のAFM観察により取得された、凹凸を含むフィルム断面についての高さ曲線を示す。
図17に、比較例1−3で得たアクリル系樹脂フィルムの表面のAFM観察により取得された、凹凸を含むフィルム断面についての高さ曲線を示す。
図18に、実施例1−2で得たアクリル系樹脂フィルムの表面のAFM観察画像を示す。
【0144】
また、実施例1−1〜実施例1−3及び比較例1−1〜比較例1−3で取得した積層体(ハードコート層付フィルム)を、以下の基準に従って評価した。これらの評価結果を表1に示す。
【0145】
(表面形状)
原子間力顕微鏡(AFM、NanoCute SII(日立ハイテクサイエンス製))を使用して、フィルムの表面形状(Rd、Rh、ΔRa)を、視野サイズ5μm×5μmにおいて、JIS B 0601−1994に準拠して測定した。
【0146】
(塗工性)
ボイド(サイズ0.3mm未満の気泡)と、塗工液の塗工方向に現れるライン状の塗工スジの発生の有無を観察した。
ライン状の塗工スジの有無は、照度1000Lux条件下でスジが観察されるか否かで判定した。
塗工性の評価基準は以下の通りである。
A:ボイド及び塗工スジのいずれも観察されなかった。
B:ボイド又は塗工スジのいずれかが観察された。
C:ボイド及び塗工スジがいずれも観察された。
【0147】
(視認性)
干渉縞(ハードコート層の厚みムラが±0.3μ以上)と、白化(ヘイズ1%以上)の発生の有無を観察した。なお、厚みムラは、表面形状と同様に原子間力顕微鏡で観察した。フィルムのヘイズは、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製、NDH2000)を使用して、JIS K 7136(ISO 14782)に準拠して測定した。測定条件は、温度23℃±2℃、湿度50%±5%であった。
視認性の評価基準は以下の通りである。
A:干渉稿及び白化のいずれも観察されなかった。
B:干渉縞又は白化のいずれかが観察された。
C:干渉稿及び白化のいずれも観察された。
【0148】
【表1】
【0149】
図15及び
図18によれば、実施例1−2で得られたアクリル系樹脂フィルムでは、アクリル系樹脂フィルムをアクリル系樹脂フィルムの厚さ方向から観察した場合に、アクリル系樹脂フィルムの表面に、環状の凹部と、凹部が形成する環の内側に位置する凸部とからなる微細構造が観察され、凹部は、表面において、アクリル系樹脂フィルムの厚さ方向に窪み、凸部が、表面において、アクリル系樹脂フィルムの厚さ方向に突出していることが分かる。
【0150】
また、表1から分かるように、ダイの出口でのフィルム状溶融物(アクリル系樹脂組成物)の温度がTg+130℃以上Tg+150℃以下であり、挟み込み成形において、ラインスピードが13m/分以上18m/分以下である実施例1−1〜実施例1−3においては、いずれもRdが、1.0nm以上50nm以下であり、Rhが、0.1nm以上100nm以下である、アクリル系樹脂フィルムを得ることができた。実施例1−1〜実施例1−3で得られたアクリル系樹脂フィルムについては、塗工性に優れ、視認性に優れる積層体(ハードコート層付フィルム)を形成できることが確認された。
【0151】
対して、表1、及び
図16〜
図17によれば、アクリル系樹脂組成物の温度が低過ぎたり、高過ぎたり、ラインスピードが速すぎたりする比較例1−1〜比較例1−3では、Rd及びRhが所望する範囲内であるアクリル系樹脂フィルムが得られなかった。比較例1−1〜比較例1−3で得られたアクリル系樹脂フィルムについては、アクリル系樹脂フィルムへの塗工液の塗工性も悪く、積層体(ハードコート層付フィルム)の視認性も良好でなかった。
【0152】
<実施例2−1〜実施例2−2及び比較例2−1〜比較例2−5>
タッチロール及びキャストロールの表面粗さ(最大高さRy、算術平均粗さRa)を各種設定し、表面粗さ、静摩擦係数、貼り付き、及び透明性についてのフィルムの評価を、以下の方法を用いて行った例について説明する。
【0153】
[実施例2−1〜実施例2−2及び比較例2−1〜比較例2−5]
キャストロール及びタッチロールについて、表2に示す最大高さRy、及び算術平均粗さRaを有するものを用いた以外は、実施例1−1と同様に、フィルム状溶融物を挟み込み成形し、厚さ80μm、幅1500mm、長さ1000mのフィルムロール形態のアクリル系樹脂フィルムを取得した。なお、比較例2−5においては、タッチロールを設置しなかった。
【0154】
[実施例2−1〜実施例2−2及び比較例2−1〜比較例2−5の結果]
実施例2−1〜実施例2−2及び比較例2−1〜比較例2−5で使用したキャストロール及びタッチロールの表面粗さ(Ry、Ra)、フィルムのキャストロール面及びフィルムのタッチロール面の表面粗さ(Ra1、Ra2)を以下の方法に従って測定した。また、実施例2−1〜実施例2−2及び比較例2−1〜比較例2−5で得られたフィルムについて、静摩擦係数、貼り付き欠陥、透明性を、以下の基準に従って評価した。これらの測定結果及び評価結果を表2に示す。
【0155】
(表面粗さ)
フィルムのキャストロール面及びフィルムのタッチロール面の表面粗さ(算術平均粗さRa1、Ra2)は、原子間力顕微鏡((株)日立ハイテクサイエンス製、NanoCute SII)を使用して、視野サイズ5μm×5μmにおいて、JIS B 0601−1994に準拠して測定した。
キャストロール及びタッチロールの表面粗さ(最大高さRy、算術平均粗さRa)は、表面粗さ・輪郭形状測定機((株)東京精密製、サーフコム130A)を使用して、JIS B 0601−1994に準拠して測定した。
【0156】
(静摩擦係数)
フィルムロールからカットしたフィルムを試料として用いた。表面性測定機(新東科学株式会社製、14DR)を使用して、試料フィルムのキャストロール面とタッチロール面とを接触させ、静摩擦係数を測定した。測定条件は、加重500g、接触面積60mm×60mm、測定速度2000mm/min、温度23℃±2℃、湿度50%±5%であった。
【0157】
(貼り付き欠陥)
黒色の板上に、フィルムロールからカットしたフィルムを載せ、照度4000luxの光源下でフィルム全幅を目視観察し、凹凸欠陥の有無によりフィルム貼り付き欠陥を評価した。以下の基準に従い、フィルム貼り付き欠陥を評価した。
A:フィルム表面に凹凸欠陥が視認されない
B:フィルム表面に凹凸欠陥が視認される
【0158】
(透明性)
フィルムロールからカットしたフィルム片のヘイズを、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製、NDH2000)を使用して、JIS K 7136(ISO 14782)に準拠して測定した。測定条件は、温度23℃±2℃、湿度50%±5%であった。以下の基準に従い、フィルム透明性を評価した。
A:ヘイズ1.0%未満
B:ヘイズ1.0%以上
【0159】
【表2】
【0160】
表2の結果からわかるように、キャストロールとタッチロールの表面粗さ(最大高さRy、算術平均粗さRa)とを調整することにより、フィルムのキャストロール面とタッチロール面の表面粗さ(Ra1、Ra2)を調整することができる。
特に、Ra2−Ra1の値を1.0nm以下にできる条件で製造された実施例2−1及び実施例2−2のアクリル系樹脂フィルムは、貼り付き欠陥の発生が抑制されており、透明性が良好であった。
比較例2−1及び比較例2−2から、Ra2−Ra1の値が1.0nmを超え、かつ、Ra1+Ra2の値が6.5nm未満と低い条件で製造されたアクリル系樹脂フィルムでは、貼り付き欠陥の発生を抑制しにくいことが分かる。
比較例2−3及び比較例2−4から、Ra2−Ra1の値が1.0nmを超え、かつ、Ra1+Ra2の値が8.9nm超と高い条件で製造されたアクリル系樹脂フィルムでは、透明性が損なわれやすいことが分かる。
比較例2−5から、Ra2−Ra1の値を1.0nm以下にできる条件でアクリル系樹脂フィルムを製造しても、フィルム状溶融物に対して挟み込み成形を行わない場合、透明性に優れるフィルムを得にくいことが分かる。
【0161】
<実施例3−1〜実施例3−6、及び比較例3−1〜比較例3−6>
ダイ出口に温度調節装置である加熱装置を設置し、加熱装置の温度と、タッチロール及びキャストロールの温度とを各種設定し、ヘイズ、表面粗さ、透明性、及び貼り付きについてのフィルムの評価を、以下の方法を用いて行った例について説明する。
【0162】
[実施例3−1]
Tダイの出口に、フィルム状溶融物の、キャストロールに接触する面を加熱するキャストロール側加熱装置と、タッチロールに接触する面を加熱するタッチロール側加熱装置とをそれぞれ設置した(
図13参照)。
実施例3−1では、フィルムのうちキャストロールと接触するキャストロール面が平滑面であり、タッチロールと接触するタッチロール面が粗面であった。
【0163】
上述したフィルム製造装置を用いて、製造例2で得られたアクリル系樹脂組成物を250℃でダイに供給して溶融押出し、キャストロール側加熱装置により、フィルム状溶融物のキャストロール面の温度を270℃に加温した。そして、表面温度95℃のキャストロールと表面温度85℃のタッチロールとを用いて、フィルム状溶融物を挟み込んでフィルム形成を行った以外は、実施例1−1と同様に、厚さ80μm、幅1500mm、長さ1000mのフィルムロール形態のアクリル系樹脂フィルムを取得した。
【0164】
[実施例3−2、及び実施例3−3]
フィルム状溶融物の温度条件を、表3に記載の条件に変更することの他は、それぞれ、実施例3−1と同様に、フィルムロール形態のアクリル系樹脂フィルムを取得した。
【0165】
[実施例3−4、及び実施例3−6]
フィルム状溶融物の温度条件を、表3に記載の条件に変更することと、タッチロールの表面温度を表3に記載の温度に変更することとの他は、それぞれ、実施例3−1と同様にフィルムロール形態のアクリル系樹脂フィルムを取得した。
なお、実施例3−6では、キャストロール面が粗面であり、タッチロール面が平滑面であった。
【0166】
[実施例3−5]
タッチロールを備えないフィルム製造装置(表3中、「オープン」と記す。)を用いたことの他は、実施例3−1と同様にフィルムロール形態のアクリル系樹脂フィルムを取得した。
【0167】
[比較例3−1]
フィルム状溶融物の温度条件を、表4に記載の条件に変更することと、タッチロールの表面温度を表4に記載の温度に変更することとの他は、実施例3−1と同様にフィルムロール形態のアクリル系樹脂フィルムを取得した。
【0168】
[比較例3−2]
ダイへ供給するアクリル系樹脂組成物の温度を表4に記載の温度に変更することと、フィルム状溶融物の温度条件を、表4に記載の条件に変更することと、タッチロールの表面温度を表4に記載の温度に変更することとの他は、実施例3−1と同様にフィルムロール形態のアクリル系樹脂フィルムを取得した。
【0169】
[比較例3−3]
タッチロールを備えないフィルム製造装置(表4中、「オープン」と記す。)を用いたことと、フィルム状溶融物の温度条件を、表4に記載の条件に変更することと、実施例3−1と同様にフィルムロール形態のアクリル系樹脂フィルムを取得した。
【0170】
[比較例3−4及び比較例3−5]
フィルム状溶融物の温度条件を、表4に記載の条件に変更することの他は、それぞれ、実施例3−1と同様にフィルムロール形態のアクリル系樹脂フィルムを取得した。
【0171】
[比較例3−6]
ダイへ供給するアクリル系樹脂組成物の温度を表4に記載の温度に変更することと、フィルム状溶融物の温度条件を、表4に記載の条件に変更することと、キャストロール及びタッチロールの表面温度を表4に記載の温度に変更することとの他は、実施例3−1と同様にフィルムロール形態のアクリル系樹脂フィルムを取得した。
【0172】
[実施例3−1〜実施例3−6及び比較例3−1〜比較例3−6の結果]
実施例3−1〜実施例3−6及び実施例3−1〜実施例3−6で得られたフィルムについて、以下の方法に従って、ヘイズ(全ヘイズ、平滑面外部ヘイズ、粗面外部ヘイズ)、及び表面粗さを測定した。
また、実施例3−1〜実施例3−6及び実施例3−1〜実施例3−6で得られたフィルムについて、透明性と、貼り付き欠陥とを、以下の基準に従って評価した。これらの評価結果を表3及び表4に示す。
【0173】
(全ヘイズ測定)
フィルムロールからカットしたフィルム片を測定試料として用いて、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製、NDH2000)により、JIS K 7105に準拠して、フィルムの全ヘイズを測定した。測定条件は、温度23℃±2℃、湿度50%±5%であった。
【0174】
(平滑面の外部ヘイズH
i1及びH
h1測定)
製造後のフィルムの平滑面の外部ヘイズH
i1と、熱処理されたフィルムの平滑面の外部ヘイズH
h1とは、
図5に示されるように、フィルムロールからカットしたフィルム片の粗面にガラスを貼り付けた状態で、ガラスに向けてヘイズ測定用の光線を照射して測定した。その他の測定条件は、全ヘイズ測定と同様である。
なお、加熱処理後のフィルムの平滑面外部ヘイズであるH
h1の測定用の試料は、フィルムを110℃(Tg−10℃)で、5分間熱処理して得た。
【0175】
(粗面の外部ヘイズH
i2及びH
h2測定)
製造後のフィルムの粗面の外部ヘイズH
i2と、熱処理されたフィルムの粗面の外部ヘイズH
h2とは、
図6に示されるように、フィルムロールからカットしたフィルム片の平滑面にガラスを貼り付けた状態で、ガラスに向けてヘイズ測定用の光線を照射して測定した。その他の測定条件は、全ヘイズ測定と同様である。
なお、加熱処理後のフィルムの粗面外部ヘイズであるH
h2の測定用の試料は、フィルムを110℃(Tg−10℃)で、5分間熱処理して得た。
【0176】
(表面粗さ)
原子間力顕微鏡(日立ハイテクサイエンス製、NanoCute SII)を用いて、フィルムの平滑面の算術平均粗さRa1と、粗面の算術平均粗さRa2とを、それぞれ、視野サイズ5μm×5μmにおける算術平均粗さとして、JIS B 0601−1994に準拠して測定した。
【0177】
(フィルム透明性)
以下の基準に従い、フィルム透明性を評価した。なお、評価基準として用いた平滑面の外部ヘイズH
i1は、フィルムの粗面にコート層が設けられた積層体の透明性を想定したヘイズである。
A:平滑面の外部ヘイズH
i1が0.5%以下である。
B:平滑面の外部ヘイズH
i1が0.5%超0.9以下である。
C:平滑面の外部ヘイズH
i1が0.9超である。
【0178】
(フィルム貼り付き欠陥)
黒色の板上に、フィルムロールからカットしたフィルムを載せ、照度4000luxの光源化でフィルム全幅を目視観察し、凹凸欠陥の有無によりフィルム貼り付き欠陥を以下の基準に従い、評価した。
A:フィルムロール形態で3ケ月経過した時点において凹凸欠陥が視認されない
B:フィルムロール形態で1ケ月経過した時点において凹凸欠陥が視認されないが、2ケ月経過した時点において凹凸欠陥が視認された。
C:フィルムロール形態となった直後では凹凸欠陥が視認されないが、1ケ月経過した時点において凹凸欠陥が視認された。
D:フィルムロール形態となった直後で凹凸欠陥が視認された。
【0179】
【表3】
【0180】
【表4】
【0181】
表3の結果から分かるように、フィルム状溶融物のキャストロール面の表面温度とタッチロール面の表面温度とを異ならせて製造された実施例3−1〜実施例3−6のフィルムは、粗面にコート層を設けることを想定した平滑面外部ヘイズH
i1の値が低く透明性の評価結果が良好であり(評価A及びB)、貼り付き欠陥の発生も抑制され(評価A〜C)、加熱後の外部ヘイズの変化も小さかった。
これに対し、表4の結果からわかるように、フィルム状溶融物のキャストロール面の表面温度とタッチロール面の表面温度とが同じ状態で製造された比較例3−1〜比較例3−6のフィルムは、良好な透明性の評価(A及びB)と、貼り付き欠陥の抑制(評価A〜C)と、加熱後の外部変化の小ささ(0.2%以下)との全てを満たすことができなかった。