(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記放射面となる前記紫外反射層の前記誘電体は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、五酸化ニオブのいずれかから選択される請求項2または3に記載の放射冷却装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1が開示する従来の放射冷却装置は、太陽光を受光した際に、赤外線放射層や太陽光反射層(光反射層)に太陽光に含まれる紫外光が吸収される場合がある。また、銀のような金属の直上に、膜状の層による多層構造を備えると、太陽光反射層(光反射層)において当該多層構造による表面プラズモン共鳴により紫外光の吸収が増幅される場合がある。
そのため、従来の放射冷却装置では、十分な冷却性能が得られない場合があり、改善が望まれる。
【0007】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、紫外光の吸収を抑
制した放射冷却装置および放射冷却方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る放射冷却装置の特徴構成は、
紫外光を反射する紫外反射層と、可視光及び赤外光を反射する光反射層と、赤外光を放射する赤外放射層とを備え、放射面から赤外光を放射する放射冷却装置において、
前記放射面の側から見て、前記紫外反射層、前記赤外放射層、および前記光反射層の順に積層して成
り、
前記紫外反射層が、大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高い点にある。
【0009】
上記構成によれば、放射冷却装置の放射面の側から入射する太陽光などの光に含まれる紫外光は、放射面の側にある紫外反射層で反射され、放射面から系外へ逃がされる。そのため紫外光が赤外放射層や光反射層に入射することを回避することができる。また、光反射層の直上に、膜状の層による多層構造を設けることを要しないため、光反射層における表面プラズモン共鳴による紫外光の吸収増加を回避することができる。したがって、上記構成によれば、紫外光の吸収を抑制することができる。
なお、本明細書の記載において、単に光と称する場合、当該光の概念には赤外光、可視光、紫外光を含む。これらを電磁波としての光の波長で述べると、その波長が10nmから20000nmの電磁波を含む。
【0010】
また、上記光に含まれる、紫外光以外の光は、光反射層で反射され、放射面から系外へ逃がされる。そして、放射冷却装置への入熱は、赤外放射層で赤外線に変換されて、放射面から系外へ逃がされる。
このように、上記構成によれば、放射冷却装置へ照射される光を反射し、また、放射冷却装置への伝熱(例えば、大気からの伝熱や、放射冷却装置が冷却する冷却対象物からの伝熱)を赤外光として系外へ放射することができる。
すなわち、紫外光の吸収を抑制した放射冷却装置を提供することができる。
【0011】
本発明に係る放射冷却装置の更なる特徴構成は、
前記紫外反射層は、二種以上の誘電体を積層して成り、
前記誘電体は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、二酸化ジルコニウム、
二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ハフニウム、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、五酸化ニオブのいずれかから選択される点にある。
【0012】
導電性よりも誘電性の方が優位な物質のことを誘電体という。屈折率の異なる誘電体を多層重ねると任意の波長の光を反射させられる。これら誘電体としては、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム(サファイア)、窒化ケイ素、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ハフニウム、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、五酸化ニオブを用いることが好ましい。
さらに、先述の通り屈折率の異なる二種以上の誘電体を積層すると、紫外反射層での紫外光の反射率が向上するため好ましい。紫外反射層を形成するそれぞれの誘電体の境界からの反射光の干渉を利用することで紫外反射層全体の反射率が向上するためである。
したがって、上記構成によれば、紫外光の吸収を抑制した放射冷却装置を提供することができる。
【0013】
本発明に係る放射冷却装置の更なる特徴構成は、
前記誘電体の層厚が、200nm未満である点にある。
【0014】
上記構成によれば、紫外反射層で効率良く紫外光を反射することができる。紫外光の波長は約400nm未満であるが、当該波長の半波長、すなわち200nm未満の厚みとすると、紫外光を効率よく反射することができるためである。
【0015】
具体的に述べると、紫外線の反射を増やすためには、反射させたい紫外線の波長の4分の1波長程度、あるいは2分の1波長程度の光路長が得られる厚みの膜を多数積層させるのが望ましい。
紫外線は一般的に10から400nmと定義されることが多く、太陽光スペクトルは300nmよりも短波長側の光が殆ど含まれない。つまり、屈折率が当該波長域で1程度の誘電体を用いる場合は75から100nm程度あるいは150から200nm、屈折率が当該波長域で3程度の誘電体を用いる場合は25から33nm程度あるいは50から66nmとなる。
【0016】
すなわち、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム(サファイア)、窒化ケイ素、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ハフニウム、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、五酸化ニオブは、数百nmの膜厚で紫外線の吸収率が殆どない紫外線反射層に適した誘電体であるが、このような誘電体により効率良く紫外光を反射するためには、これら誘電体の層厚を、200nm未満とするのが好ましいのである。
【0017】
本発明に係る放射冷却装置の更なる特徴構成は、
前記放射面となる前記紫外反射層の前記誘電体は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、五酸化ニオブのいずれかから選択される点にある。
【0018】
上記構成によれば、外部環境に直接に接する放射面の対候性を向上させることができる。二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、五酸化ニオブは、環境中の水分で加水分解を生じにくく、また、大気中の酸素による酸化に強く、対候性が高いためである。また、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、五酸化ニオブは、酸化物の中では酸素移動性が低く、経時的(継時的)な変化が少なく材料(物質)として安定しているためである。
【0019】
本発明に係る放射冷却装置の更なる特徴構成は、
前記赤外放射層は、二酸化ケイ素で成る点にある。
【0020】
放射冷却においては、いわゆる大気の窓の領域(光の波長8000nmから20000nmの領域)における放射の効率を高めると、冷却効率が向上する。放射冷却装置が放射した赤外線が大気に吸収されて、再度放射冷却装置に伝熱することが回避できるためである。
光を透過し、8000nmから20000nmの赤外線の放射を生じる好ましい材料(物質)としては、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、二酸化ハフニウムがある。特に、二酸化ケイ素は、波長10000nm付近に大きな吸収ピークを有しており、波長8000nmから20000nmの間である波長10000nmの赤外線を効率よく放射する。そのため、赤外放射層に用いる材料(物質)としては、二酸化ケイ素を用いることが好ましい。
すなわち、上記構成によれば、光を受けて発熱することを回避し、また、放射冷却装置の熱を効率よく赤外線として放射して、冷却性能を向上させることができる。
【0021】
本発明に係る放射冷却装置の更なる特徴構成は、
前記赤外放射層の厚みが1μmを超える厚みである点にある。
【0022】
上記構成によれば、赤外放射層において、十分な赤外放射能が得られ、高い冷却性能が得られる。
なお、光反射層の厚みは、1μmを超える厚みであればよく、経済的側面を考慮して10000μm以下に形成される。通常は20μmから10000μmの厚みに形成すると、経済的側面と、制作上ないし作製上の技術的側面の点でバランスが良い。
【0023】
本発明に係る放射冷却装置の更なる特徴構成は、
前記光反射層が、銀またはアルミニウムで成る点にある。
【0024】
上記構成によれば、広い波長域で高い反射率を得て、光を受光した場合に発熱を回避することができる。
【0025】
本発明に係る放射冷却装置の更なる特徴構成は、
前記光反射層の厚みが80nmを超える厚みである点にある。
【0026】
上記構成によれば、光反射層において波長2000nm以下で透過を生ずることなく可視光及び赤外光反射することができる。
なお、光反射層の厚みは、80nmを超える厚みであればよく、経済的側面を考慮して1000nm以下に形成される。通常は200nm前後の厚みに形成すると、経済面と、対候性および耐久性の点でバランスが良い。
【0027】
上記目的を達成するための本発明に係る放射冷却方法の特徴構成は、
紫外光を反射
し且つ大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高い紫外反射層と、可視光及び赤外光を反射する光反射層と、赤外光を放射する赤外放射層とを、前記紫外反射層、前記赤外放射層、および前記光反射層の順に積層して成る放射冷却装置を用いて、前記赤外光を前記紫外反射層の前記赤外放射層と接する面とは反対側の放射面から放射する点にある。
【0028】
上記構成によれば、上述の放射冷却装置を用いた場合と同様の効果を得ることができる。
【0029】
本発明に係る放射冷却方法の更なる特徴構成は、
前記放射面を空に向け、当該空に向けた放射面から放射する点にある。
【0030】
上記構成によれば、放射面から系外へ逃がされる赤外線を空に向けて放射し、空、すなわち宇宙に対して放出することができる。したがって、放射した赤外線が大気層に吸収されることを抑制し、冷却性能を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
〔実施形態の説明〕
図面に基づいて、本発明の実施形態に係る放射冷却装置100および放射冷却方法について説明する。
図1に示す放射冷却装置100は、冷却効果を得るための冷却装置である。たとえば、放射冷却装置100は、冷却対象物(図示せず)を冷却する。
【0033】
放射冷却装置100は、放射冷却装置100に入射した光L(たとえば、太陽光)を反射し、また、放射冷却装置100への入熱(例えば、大気の雰囲気や冷却対象物からの熱伝導による入熱)を赤外線に変換して放射することで、冷却効果を実現する。
なお、本実施形態において光とは、その波長が10nmから20000nmの電磁波のことを言う。つまり、光Lには、紫外光UV、赤外光IRおよび可視光VLが含まれる。
【0034】
本実施形態に係る放射冷却装置100は、
図1に示すように、紫外光UVを反射する紫外反射層10と、可視光及び赤外光を反射する光反射層20と、赤外光IRを放射する赤外放射層30とを備え、放射面40から赤外光IRを放射する。
そして、放射冷却装置100は、放射面40の側から見て、紫外反射層10、赤外放射層30、および光反射層20の順に積層されて成る。
なお、放射面40とは、本実施形態においては、紫外反射層10における、赤外放射層30と接する面とは反対側の面である。
【0035】
つまり、本実施形態に係る放射冷却方法は、紫外光UVを反射する紫外反射層10と、可視光及び赤外光を反射する光反射層20と、赤外光IRを放射する赤外放射層30とを、紫外反射層10、赤外放射層30、および光反射層20の順に積層し、赤外光IRを紫外反射層10の赤外放射層30と接する面とは反対側の放射面40から放射する。
【0036】
紫外反射層10は、紫外光UVを反射し、可視光VLおよび赤外光IRを透過する光学構造を有する、誘電体で成る層である。本実施形態では、紫外反射層10は、
図2に示すように、二種以上の誘電体を積層して成る。
図2に示す紫外反射層10は、誘電体でなる層として、誘電体層11から誘電体層15を積層して備える。
紫外反射層10は、一方の面が、赤外放射層30と密接している。
【0037】
なお、本実施形態において紫外光UVとは、その波長が10nmから400nmの電磁波のことを言う。また、本実施形態において赤外光IRとは、その波長がおよそ700nmから20000nmの電磁波のことを言う。また、本実施形態において可視光VLとは、その波長がおよそ400nmから700nmの電磁波のことを言う。
【0038】
紫外反射層10の誘電体としては、二酸化ケイ素(SiO
2)、酸化アルミニウム(サファイア)、窒化ケイ素(SiN)、二酸化ジルコニウム(ZnO)、二酸化チタン(TiO
2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ハフニウム(HfO
2)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化亜鉛(ZnO)、五酸化ニオブ(Nb
2O
5)のいずれかから選択される。
【0039】
紫外反射層10の誘電体の層は、それぞれの層が200nm未満の膜状でなる。この膜状の層は、例えば、いわゆるCVD法や、スパッタリング法で形成可能であり、その形成方法については問わない。
【0040】
紫外反射層10の赤外放射層30と接する面とは反対側の面、すなわち、雰囲気に開放されている側の面は、放射冷却装置100において、赤外光IRを放射する放射面40としても機能する。つまり、紫外反射層10の赤外放射層30と接する面に対して反対側(他端側)にある誘電体の層における、当該層の雰囲気に開放されている側の面が、放射面40である。言い換えると、紫外反射層10の、雰囲気に開放されている側の誘電体の層の表面が、放射冷却装置100の放射面40となる。
【0041】
放射面40となる誘電体層11は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、二酸化ジルコニウムのいずれかから選択される材料(物質)で成る。
図2には、誘電体層11が酸化アルミニウムとしてのサファイアで形成される場合を図示している。
【0042】
図2の誘電体層11から誘電体層15はそれぞれ順に、サファイア、二酸化ケイ素、サファイア、二酸化ケイ素、サファイアで成る場合を図示している。
また、
図2には、誘電体の厚み(層厚)が200nm未満である具体例として、誘電体層11から誘電体層15の厚みがそれぞれ順に、30nm、50nm、50nm、40nm、40nmである場合を例示して図示している。
尚、
図7及び
図8に、
図2で示す紫外反射層10の反射率、透過率、吸収率を示す。紫外反射層10は、大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高く、10000nm付近の波長域の赤外光を放射することになる。
【0043】
赤外放射層30は、光Lを透過し、また赤外光IRを放射する層である。
赤外放射層30は、一方の面が紫外反射層10と密接し、他方の面が光反射層20と密接している。
なお、本実施形態において「光を透過する」などの記載する場合は、その光の一部を吸収および反射し、大部分を透過する場合を含む。たとえば、入射した光のエネルギーの90%以上を透過する場合は、単に「光を透過する」などと記載する。
【0044】
赤外放射層30は、紫外反射層10および光反射層20と熱伝導可能に接続されている。つまり、赤外放射層30は、自身の有する熱エネルギーと、紫外反射層10からの入熱(熱エネルギー)と、光反射層20からの入熱(熱エネルギー)とを、赤外光IRに変換して放射する。
【0045】
赤外放射層30は、本実施形態では、光Lを透過し、大気の窓の領域である波長8000nmから20000nmの間における、波長10000nm付近の赤外光IRを効率よく放射する、二酸化ケイ素で成る。
【0046】
赤外放射層30は、その厚みが1μmを超えるように形成される。通常は、赤外放射層30は、その厚みが1μmを超えていればよく、10000μm以下程度とするのが経済的であり、特に20μm以上10000μm以下の範囲とすると、経済面と性能面のバランスが良い。
【0047】
図3に、二酸化ケイ素で成る赤外放射層30の層厚(厚み)を、1μm、20μm、100μmとした場合の、赤外放射層30の放射スペクトルを示す。縦軸は、赤外放射層30の光の吸収率ABを示し、横軸が波長WLを示す。なお、1μmの二酸化ケイ素の赤外放射層30はスパッタリングにより作製された膜状の層であり、20μm、100μmの二酸化ケイ素の赤外放射層30は溶融固化して形成した層である。
【0048】
なお、キルヒホッフの法則により、任意の波長における光の吸収率と光の放射率は等しいため、
図3において赤外放射層30の吸収率ABが示す分布は、赤外放射層30が放射する場合の放射光の強度の分布に等しい。
【0049】
光反射層20は、光Lを反射する金属で成る層であり、いわゆる鏡として機能する層である。
本実施形態では、光反射層20は、金属としての銀またはアルミニウムのいずれかで形成する。本実施形態では、光反射層20は、銀である場合を説明している。
【0050】
光反射層20は、その層厚が80nmよりも厚く形成して用いる。
光反射層20が、80nm以下の膜厚となると、波長2000nm以下の波長域において透過が生じはじめ、光の反射性能が発揮されなくなるためである。
なお、光反射層20の厚みが、80nmを超えると、光の透過は生じず、光の反射率は変化しない。すなわち、光反射層20の厚みに係る技術的な上限は存在しない。しかし、経済面では、光反射層20の厚みは、1mm以下で足りる。
なお、
図1には、光反射層20が80nmを超える厚みである場合の具体例として、光反射層20が、厚み200nmの銀である場合を示している。
【0051】
〔実施例の説明〕
以下では、本実施形態における実施例を説明する。
以下で説明する実施例1、実施例2および実施例3はそれぞれ、
図1に示す構造を備えた、本実施形態に係る放射冷却装置100の一つの態様である。この放射冷却装置100は、上述のとおり、放射面40の側から見て、紫外反射層10、赤外放射層30、および光反射層20の順に積層されている。
【0052】
以下で説明する比較例1および比較例2はそれぞれ、
図4に示す構造を備えた、従来の放射冷却装置200である。この放射冷却装置200は、放射面40の側から見て、赤外放射層30、紫外反射層10、および光反射層20の順に積層されている。
【0053】
以下では、実施例1、実施例2および実施例3の放射冷却装置100と、比較例1および比較例2の従来の放射冷却装置200との、雰囲気温度が30℃の場合の冷却性能を比較する。
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1および比較例2のいずれの場合も、放射冷却装置100または放射冷却装置200の放射面40を天上(空、宇宙)に向けて、放射面40を鉛直方向上向きに設置する。
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1および比較例2のいずれの場合も、光として太陽光が、材料の鉛直方向からおよそ1000W/m
2のエネルギーで入射する環境下に置く。太陽光は、主として放射面40から、放射冷却装置100または放射冷却装置200に対して入射する。
【0054】
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1および比較例2における、冷却性能の比較を表1から表5に示す。
表1には、実施例1の場合の冷却性能を示す。
表2には、実施例2の場合の冷却性能を示す。
表3には、実施例3の場合の冷却性能を示す。
表4には、比較例1の場合の冷却性能を示す。
表5には、比較例2の場合の冷却性能を示す。
なお、表1から表5に示す項目はそれぞれ同じである。
【0055】
実施例1、実施例2および実施例3の放射冷却装置100と、比較例1および比較例2の従来の放射冷却装置200とに共通する構成を説明する。
光反射層20は以下の構成で比較する。
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1および比較例2の光反射層20はいずれも、厚み200nmの銀の層で成る。
以下では光反射層20についての説明を省略する。
【0056】
赤外放射層30は以下の構成で比較する。
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1および比較例2の赤外放射層30を形成する材料(物質)はいずれも、二酸化ケイ素である。
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1および比較例2のそれぞれの場合において、赤外放射層30の厚みが、1μm、10μm、20μm、100μm、1000μm、10000μm、100000μmである場合を比較する。なお、1μm、10μmの二酸化ケイ素の赤外放射層30はスパッタリングにより作製された膜状の層である。20μm、100μm、1000μm、10000μm、100000μmの二酸化ケイ素の赤外放射層30は溶融固化して形成した層である。
以下では赤外放射層30についての説明を省略する。
以下、実施例1、実施例2、実施例3、比較例1および比較例2の異なる構成部分を説明する。
【0057】
〔実施例1〕
実施例1の放射冷却装置100は、以下の構成で成る。
紫外反射層10は、
図2に示すように、誘電体でなる層として、誘電体層11から誘電体層15を積層して備える。
誘電体層11から誘電体層15はそれぞれ順に、サファイア、二酸化ケイ素、サファイア、二酸化ケイ素、サファイアで成る。
また、誘電体層11から誘電体層15の厚みはそれぞれ順に、30nm、50nm、50nm、40nm、40nmである。
【0058】
〔実施例2〕
実施例2の放射冷却装置100は、以下の構成で成る。
実施例2は、実施例1と、紫外反射層10の積層構造が異なる。
紫外反射層10は、
図5に示すように、誘電体でなる層として、誘電体層51から誘電体層66を備える。
誘電体層51から誘電体層66はそれぞれ順に、二酸化ケイ素、二酸化チタンを交互に16層積層したものである。
また、誘電体層51から誘電体層66の厚みはそれぞれ順に、100nm、33nm、65nm、13nm、80nm、37nm、23nm、46nm、180nm、106nm、172nm、88nm、172nm、104nm、175nm、103nmである。
【0059】
〔実施例3〕
実施例3は、実施例1や実施例2と、紫外反射層10の積層構造が異なる。
紫外反射層10は、
図6に示すように、誘電体でなる層として、誘電体層71から誘電体層74を備える。
誘電体層71から誘電体層74はそれぞれ順に、二酸化ケイ素、五酸化ニオブを交互に4層積層したものである。
また、誘電体層71から誘電体層74の厚みはそれぞれ順に、111nm、25nm、56nm、29nmである。
【0060】
尚、
図9及び
図10に、
図6で示す紫外反射層10の反射率、透過率、吸収率を示す。紫外反射層10は、大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高く、10000nm付近の波長域の赤外光を放射することになる。
【0061】
〔比較例1〕
比較例1の放射冷却装置200は、実施例1の場合と同じ積層構造の紫外反射層10を備える。
比較例1の放射冷却装置200は、実施例1の場合と、紫外反射層10が配置される位置が異なる。
【0062】
〔比較例2〕
比較例2の放射冷却装置200は、実施例2の場合と同じ積層構造の紫外反射層10を備える。
比較例2の放射冷却装置200は、実施例2の場合と、紫外反射層10が配置される位置が異なる。
【0063】
表1から表5の以下のP1からP4は、放射冷却装置100または放射冷却装置200における以下の特性を示す。
t :赤外放射層30の厚み(μm)
P1:放射のエネルギーの密度(W/m
2)
P2:太陽光からの入熱のエネルギーの密度(W/m
2)
P3:雰囲気(大気)からの入熱のエネルギーの密度(W/m
2)
P4:冷却能力のエネルギーの密度(W/m
2)
T :放射冷却装置100または放射冷却装置200の平衡温度(℃)
なお、上述の「密度」は、放射面40の表面の面積に対するエネルギーの出入りの密度を意味する。
また、P2は、およそ1000W/m
2のエネルギーで入射された太陽光のエネルギーのうち、放射冷却装置100または放射冷却装置200で反射されなかったエネルギーを意味する。
また、P4の値は、P1の値から、P2の値とP3の値との合計を差し引いた値である。
P1及びP3の値は、放射面40に対する放射角が60度であるとして計算した値である。
【0069】
表1から表5によれば、実施例1、実施例2および実施例3の放射冷却装置100は、比較例1および比較例2の放射冷却装置200に比べて、冷却能力が高いことがわかる。
したがって、放射冷却装置200のように、放射面40の側から見て、赤外放射層30、紫外反射層10、および光反射層20の順に積層するよりも、放射冷却装置100のように、放射面40の側から見て、紫外反射層10、赤外放射層30、および光反射層20の順に積層する方が、冷却能力が高いと判断できる。
つまり、本実施形態にかかる放射冷却装置100と、従来の放射冷却装置200との冷却能力の差は、本実施形態にかかる放射冷却装置100の場合には、紫外光の吸収が抑制されたためであると考えられる。
【0070】
実施例1の表1と、実施例2の表2と、実施例3の表3との比較によれば、紫外反射層10の誘電体でなる層が適切に積層されれば、積層の層数によらず、良好な冷却能力を発揮すると言える。しかも、紫外反射層10を形成する材料(物質)が同じであれば、積層の層数が増加すると、冷却能力が向上する傾向にあることがわかる。
【0071】
実施例1の表1と、実施例2の表2と、実施例3の表3とによれば、赤外放射層30の厚みは、1μm以上、好ましくは1μmを超えると、十分な冷却性能を発揮することがわかる。特に、赤外放射層30の厚みが、10μm以上であると、特に良好な冷却性能を発揮することがわかる。
【0072】
また、赤外放射層30の厚みは、100000μmに達する場合でも良好な冷却性能を発揮し、赤外放射層30の厚みは100000μmを超える場合においても良好な冷却性能を発揮するものと想定される。ただし、通常は、赤外放射層30の厚みは100000μmあれば十分に足りる。
【0073】
以上のようにして、紫外光の吸収を抑制した放射冷却装置および放射冷却方法を提供す
ることができる。
【0074】
[別実施形態]
(1)上記実施形態では、紫外反射層10の誘電体でなる層が5層の場合、または16層の場合を例示したが、紫外反射層10の誘電体でなる層はこれらの積層の層数に限られない。
紫外反射層10の誘電体でなる層は、異なる誘電体が1層以上、好ましくは2層以上であればよい。また、紫外反射層10の誘電体でなる層の層数は偶数でも奇数でもよい。
【0075】
(2)上記実施形態では、光反射層20が銀である場合を説明したが、光反射層20がアルミニウムや、金である場合にも同様の効果を奏することができる。
【0076】
(3)上記実施形態では、紫外反射層10における放射面40を有する誘電体でなる層が、二酸化ケイ素または酸化アルミニウムである場合を例示した。
しかし、放射面40を有する誘電体でなる層が、窒化ケイ素や二酸化ジルコニウム、または二酸化チタンである場合もある。
【0077】
(4)上記実施形態では、紫外反射層10における誘電体でなる層が、二酸化ケイ素、酸化アルミニウムまたは二酸化チタンである場合を例示した。
しかし、紫外反射層10における誘電体でなる層を形成する材料(物質)が、窒化ケイ素、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ハフニウム、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、五酸化ニオブである場合もある。また、紫外反射層10における誘電体でなるそれぞれの層を形成する材料(物質)の組み合わせも、上記実施形態における記載の範囲に限られない。
【0078】
(5)上記実施形態では、赤外線放射層30を形成する材料が、二酸化ケイ素である場合を例示したが、赤外線放射層30を形成する材料としては、ホウケイ酸ガラスであるテンパックス(登録商標、以下同じ)等の他の材料を用いても良い。
尚、
図11に、テンパックスに関する波長と吸収率との関係、つまり、テンパックスの吸収率、テンパックスと光反射層20としての銀とを積層した場合の吸収率、実施例1の紫外線反射層とテンパックスと光反射層20としての銀とを本発明の形態で積層した場合の吸収率、実施例1の紫外線反射層とテンパックスとを積層した場合の吸収率、及び、テンパックスと実施例1の紫外線反射層と光反射層20としての銀とを従来の形態で積層した場合の吸収率、並びに、銀の吸収率の夫々を示す。
【0079】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。