特許第6861626号(P6861626)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861626
(24)【登録日】2021年4月1日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】摺動部品
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20210412BHJP
【FI】
   F16J15/34 F
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-512277(P2017-512277)
(86)(22)【出願日】2016年4月7日
(86)【国際出願番号】JP2016061342
(87)【国際公開番号】WO2016167170
(87)【国際公開日】20161020
【審査請求日】2018年11月21日
【審判番号】不服2020-5302(P2020-5302/J1)
【審判請求日】2020年4月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-83809(P2015-83809)
(32)【優先日】2015年4月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201259
【弁理士】
【氏名又は名称】天坂 康種
(72)【発明者】
【氏名】板谷 壮敏
(72)【発明者】
【氏名】砂川 和正
(72)【発明者】
【氏名】岡田 哲三
(72)【発明者】
【氏名】千葉 啓一
(72)【発明者】
【氏名】吉柳 健二
(72)【発明者】
【氏名】古賀 晶子
【合議体】
【審判長】 田村 嘉章
【審判官】 杉山 健一
【審判官】 内田 博之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−57725(JP,A)
【文献】 特開2004−225725(JP,A)
【文献】 特開2002−372127(JP,A)
【文献】 特開平6−10135(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/133197(WO,A1)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側に固定される円環状の固定側密封環と,回転軸とともに回転する円環状の回転側密封環とを備え,前記固定側密封環及び前記回転側密封環の対向する各摺動面を相対回転させることにより,当該相対回転摺動する前記摺動面の径方向の一方側に存在する被密封流体を密封する摺動部品において,
前記被密封流体はシリケートが添加された不凍液を含む流体であって,
前記固定側密封環又は前記回転側密封環の少なくともいずれか一方の摺動面は0.34at%以下の珪素を含む非晶質炭素膜を備え,前記被密封流体中の前記シリケート成分の堆積を防止することを特徴とする摺動部品。
【請求項2】
前記固定側密封環又は前記回転側密封環の基材が炭化珪素であることを特徴とする請求項1に記載の摺動部品。
【請求項3】
前記非晶質炭素膜は、プラズマCVD法において有機珪素化合物ガスを含まない炭化水素ガスを用いて成膜された膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えば,メカニカルシール,軸受,その他,摺動部に適した摺動部品に関する。特に,摺動面に流体を介在させて摩擦を低減させるとともに,摺動面から流体が漏洩するのを防止する必要のある密封環または軸受などの摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動部品の一例である,メカニカルシールにおいて,その性能は,漏れ量,摩耗量,及びトルクによって評価される。従来技術ではメカニカルシールの摺動材質や摺動面粗さを最適化することにより性能を高め,低漏れ,高寿命,低トルクを実現している。しかし,近年の環境問題に対する意識の高まりから,メカニカルシールの更なる性能向上が求められており,従来技術の枠を超える技術開発が必要となっている。
【0003】
従来,メカニカルシールの摺動材としては,カーボン,炭化珪素(SiC)及び超硬合金などが使用されている。中でも,炭化珪素は耐食性及び耐摩耗性等に優れているという理由から用いられることが多い(例えば,特許文献1及び2参照。)。
【0004】
また,メカニカルシールの摺動材として炭化珪素は好適な材料であるが,高価であり,加工性が悪いことから,廉価で,より耐食性,耐摩耗性に優れ,加工性の向上を図るため,密封環の摺動面にダイヤモンドライクカーボン(以下,「DLC]ということがある。)を被覆したものが提案されている(例えば,特許文献3参照。)。
さらに,メカニカルシールの密封環の摺動面同士の初期馴染みを向上させるため,密封環の摺動面にDLCが被覆されたものも知られている(例えば,特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−132478号公報
【特許文献2】特開平5−163495号公報
【特許文献3】特開2014−185691号公報
【特許文献4】特開平11−108199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方,例えば,水冷式エンジンの冷却に用いられるウォーターポンプのメカニカルシールにおいては,時間の経過とともに不凍液の一種であるLLCの添加剤,例えばシリケート(ケイ酸塩)やリン酸塩などが,摺動面で濃縮され,堆積物が生成され,メカニカルシールの機能が低下されるおそれのあることが確認されている。この堆積物の生成は薬品やオイルを扱う機器のメカニカルシールにおいても同様に発生する現象と考えられる。
【0007】
本発明者は,上記の特許文献1及び2に記載の炭化珪素からなる材料は珪素を含んでいることことから,被密封流体がシリケート含有のLLCではシリケート化合物が摺動面に堆積し,摺動面の平滑さが失われることで,LLCの漏れにつながるといった問題が生じるという知見を得た。
また,上記の特許文献3及び4に記載のDLCは,基材との密着性の向上,及び,摩擦係数の低下を図るために珪素を含有させるところに特徴があり,この場合も上記の炭化珪素の場合と同様に,シリケート化合物が摺動面に堆積し,摺動面の平滑さが失われ,LLCの漏れにつながるといった問題があった。
【0008】
本発明は,シリケートが添加されたLLC等のシリケート含有の被密封流体を密封するメカニカルシールなどの摺動部品において,摺動面にシリケート化合物が堆積し,平滑さが失われることにより被密封流体の漏れにつながるといった問題を防止できる摺動部品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明の摺動部品は,第1に,
固定側に固定される円環状の固定側密封環と,回転軸とともに回転する円環状の回転側密封環とを備え,前記固定側密封環及び前記回転側密封環の対向する各摺動面を相対回転させることにより,当該相対回転摺動する前記摺動面の径方向の一方側に存在する被密封流体を密封する摺動部品において,
前記被密封流体はシリケートが添加された不凍液を含む流体であって,
前記固定側密封環又は前記回転側密封環の少なくともいずれか一方の摺動面は0.34at%以下の珪素を含む非晶質炭素膜を備え,前記被密封流体中の前記シリケート成分の堆積を防止することを特徴としている。
この特徴によれば,シリケートが添加されたLLC等のシリケート含有の被密封流体を密封するメカニカルシールなどの摺動部品において,固定側密封環又は記回転側密封環の少なくともいずれか一方の摺動面には微量の珪素を含む非晶質炭素膜を形成することにより,被密封流体中のシリケート成分の堆積を防止でき,延いては,平滑さが失われることにより被密封流体の漏れにつながるといった問題を防止できる摺動部品を提供することができる。
【0010】
また,本発明の摺動部品は,第2に,第1の特徴において,前記固定側密封環又は前記回転側密封環の基材が炭化珪素であることを特徴としている。
この特徴によれば,メカニカルシール等の摺動材として放熱性が良く,耐摩耗性に優れた好適な材料である炭化珪素を固定側密封環又は回転側密封環の基材として用いた場合であっても,シリケート含有の被密封流体の漏れを防止できる。
【0011】
また,本発明の摺動部品は,第3に,第1又は第2の特徴において,前記非晶質炭素膜は、プラズマCVD法において有機珪素化合物ガスを含まない炭化水素ガスを用いて成膜された膜であることを特徴としている。
この特徴によれば,プラズマCVD法において有機珪素化合物ガスを含まない炭化水素ガスを用いて成膜された非晶質炭素膜が積層されてなることにより,シリケートが添加されたLLC等のシリケート含有の被密封流体を密封するメカニカルシールなどの摺動部品において,摺動面にシリケート化合物が摺動面に堆積し,平滑さが失われることにより被密封流体の漏れにつながるといった問題を防止できる摺動部品を提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は,以下のような優れた効果を奏する。
(1)固定側密封環又は前記回転側密封環の少なくともいずれか一方の摺動面には,プラズマCVD法において有機珪素化合物ガスを含まない炭化水素ガスを用いて成膜された非晶質炭素膜が積層されてなることにより,シリケートが添加されたLLC等のシリケート含有の被密封流体を密封するメカニカルシールなどの摺動部品において,摺動面にシリケート化合物が摺動面に堆積し,平滑さが失われることにより被密封流体の漏れにつながるといった問題を防止できる摺動部品を提供することができる。
【0013】
(2)固定側密封環又は前記回転側密封環の基材が炭化珪素であることにより,メカニカルシール等の摺動材として放熱性が良く,耐摩耗性に優れた好適な材料である炭化珪素を固定側密封環又は回転側密封環の基材として用いた場合であっても,シリケート含有の被密封流体の漏れを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例1に係るメカニカルシールの一例を示す縦断面図である。
図2図1の要部を拡大した図であって,固定側密封環及び回転側密封環の基材の表面にDLC膜を積層した状態を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面等を参照して,この発明を実施するための形態を例示的に説明する。
ただし,この実施形態に記載されている構成部品の寸法,材質,形状,その相対的配置などは,特に明示的な記載がない限り,本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0016】
図1及び図2を参照して,本発明の摺動部品について説明する。
なお,本実施形態においては,摺動部品の一例であるメカニカルシールを例にして説明する。また,メカニカルシールを構成する摺動部品の外周側を高圧流体側(被密封流体側),内周側を低圧流体側(大気側)として説明するが,本発明はこれに限定されることなく,高圧流体側と低圧流体側とが逆の場合も適用可能である。
【0017】
図1は,メカニカルシールの一例を示す縦断面図であって,摺動面の外周から内周方向に向かって漏れようとする高圧流体側の被密封流体を密封する形式のインサイド形式のものであり,高圧流体側のポンプインペラ(図示省略)を駆動させる回転軸1側にスリーブ2を介してこの回転軸1と一体的に回転可能な状態に設けられた一方の摺動部品である円環状の回転側密封環3と,ポンプのハウジング4に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられた他方の摺動部品である円環状の固定側密封環5とが設けられ,固定側密封環5を軸方向に付勢するコイルドウェーブスプリング6及びベローズ7によって,摺動面S同士で密接摺動するようになっている。すなわち,このメカニカルシールは,回転側密封環3と固定側密封環5との互いの摺動面Sにおいて,被密封流体が回転軸1の外周から大気側へ流出するのを防止するものである。
なお,図1では,回転側密封環3の摺動面の幅が固定側密封環5の摺動面の幅より広い場合を示しているが,これに限定されることなく,逆の場合においても本発明を適用出来ることはもちろんである。
【0018】
被密封流体は,シリケートが添加されたLLC等のシリケート含有の流体である。
【0019】
通常,回転側密封環3及び固定側密封環5の材質は,耐摩耗性に優れた炭化珪素(SiC)及び自己潤滑性に優れたカーボンなどから選定されるが,例えば,両者が炭化珪素,あるいは,回転側密封環3が炭化珪素であって固定側密封環5がカーボンの組合せが可能である。
【0020】
特に,炭化珪素はメカニカルシール等の摺動材として放熱性が良く,耐摩耗性に優れた好適な材料であることが知られている。ところが,上記したように,炭化珪素からなる材料は珪素を含んでいることことから,被密封流体がシリケート含有のLLC等の流体ではシリケート化合物が摺動面に堆積し,摺動面の平滑さが失われ,LLCの漏れにつながるという問題がある。
また,従来のメカニカルシールの摺動材の表面に被覆されるDLC膜は,基材との密着性の向上,及び,摩擦係数の低下を図るために珪素を含有させるところに特徴があり,炭化珪素の場合と同様に,シリケート化合物が摺動面に堆積し,摺動面の平滑さが失われ,LLCの漏れにつながるという問題がある。
【0021】
そのため,本発明においては,回転側密封環3又は固定側密封環5の少なくともいずれか一方の摺動面Sには,プラズマCVD法(化学気相成長法)において有機珪素化合物ガスを含まない炭化水素ガス(原料ガス)を用いて成膜された非晶質炭素膜を積層するようにしたものである。すなわち,本発明の非晶質炭素膜にはできるだけ珪素を含有させないところに特徴がある。
なお,後記するように,有機珪素化合物ガスを含まない炭化水素ガスを用いて成膜する場合でも,基材由来のきわめて微量の珪素が非晶質炭素膜に含有されることがある。
非晶質炭素膜は,ダイヤモンドとグラファイトの両方の結合をもつアモルファス構造(非晶質構造)の炭素膜であり,ダイヤモンド.ライク.カーボン(DLC)と総称されるものである。
【0022】
本実施形態においては,図2に示すように,回転側密封環3及び固定側密封環5の表面に有機珪素化合物ガスを含まない原料ガスを用いて成膜された非晶質炭素膜10が積層されている。
この非晶質炭素膜10は,例えば,直流プラズマCVD法などのプラズマCVD法(化学気相成長法)によって形成される。
このプラズマCVD法では,回転側密封環3及び固定側密封環5の基材を収容する処理室内にアセチレンガス,エチレンガス,プロピレンガス,メタンガス等の炭化水素ガスからなる原料ガスを導入しつつ,原料ガスに電離電圧以上のエネルギーを持つ電子を衝突させ,化学的に活性なイオンを生成する。これにより,回転側密封環3及び固定側密封環5の基材表面の周辺に,プラズマ化した原料ガスが存在するようになる。このとき,プラズマ化した原料ガスは,電極側に配置された回転側密封環3及び固定側密封環5の基材上に積層され,非晶質炭素膜10が形成される。
【0023】
その際,エチレンガス,プロピレンガス等の炭化水素ガスからなる原料ガスには有機珪素化合物ガスは,一切,含まれていない。成膜された非晶質炭素膜は珪素を含有しないものとなる。そのため,被密封流体がシリケートの添加されたLLC等のシリケート含有の流体であっても,摺動面にシリケート化合物が堆積することはない。
【0024】
回転側密封環3及び固定側密封環5の基材の材質が炭化珪素である場合には,原料ガス中に有機珪素化合物ガスが含まれない場合であっても,炭化珪素の基材からプラズマ処理によってアウトガスとして珪素成分が放出される。このため,成膜された非晶質炭素膜には微量の珪素が含有される。
しかし,その場合であっても,本発明においては,プラズマCVD法において炭化水素ガスからなる原料ガス中に有機珪素化合物ガスが含まれないことから,成膜された非晶質炭素膜に含まれる珪素はきわめて微量なものとなる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが,本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
本発明におけるその他の用語や概念は,当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり,本発明を実施するために使用する様々な技術は,特にその出典を明示した技術を除いては,公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。
【0026】
(実施例1)
回転側密封環3及び固定側密封環5用に成形された炭化珪素からなる環状の基材の表面をラップ仕上げにより平滑に加工した。プラズマCVD装置にて有機珪素化合物ガスを含まない炭化水素ガスを用いて796nmの厚さの非晶質炭素膜を回転側密封環3及び固定側密封環5の基材の表面に積層させ,以下の摺動試験条件で摺動試験を行った。
この場合,プラズマ処理によってアウトガスとして炭化珪素からなる基材から放出されて非晶質炭素膜に含まれる珪素含有量は0.34at%であった。
なお,非晶質炭素膜に含まれる珪素含有量はX線光電子分光法(XPS)(アルバックファイ株式会社製PHIQuanteraSMX)でナロー測定することにより求めた。また,膜厚は断面試料作成装置(CP)で断面出しを行い,FE−SEM(株式会社日立製作所製SU8220)で観察することで求めた。
【0027】
摺動試験条件
a摺動面圧:0.3MPa
b被密封流体:シリケート含有LLC50wt%水溶液
c被密封流体の圧力:0.1MPaG
d周速:0m/s(3秒)⇔1m/s(3秒)
e試験時間:500時間
摺動試験結果を下記(表1)に示す。
【0028】
(実施例2)
実施例1において,非晶質炭素膜を固定側密封環5の基材の表面にのみ積層し,回転側密封環3には積層させることなく,実施例1の摺動試験条件で試験を実施した。
摺動試験結果を下記(表1)に示す。
【0029】
(実施例3)
実施例1において,プラズマCVDの処理時間を1/5に変更して(有機珪素化合物ガスを含まない原料ガスを用いる点は実施例1と同じ。)非晶質炭素膜に含まれる珪素含有量が0.07at%,膜厚が174nmの非晶質炭素膜を回転側密封環3及び固定側密封環5の基材の表面に積層させ,実施例1の摺動試験条件で試験を実施した。
摺動試験結果を下記(表1)に示す。
【0030】
(実施例4)
実施例3において,非晶質炭素膜を固定側密封環5の基材の表面にのみ積層させ,回転側密封環3には積層させることなく,実施例1の摺動試験条件で試験を実施した。
摺動試験結果を下記(表1)に示す。
【0031】
(比較例1)
回転側密封環3及び固定側密封環5用に成形された炭化珪素からなる環状の基材の表面をラップ仕上げにより平滑に加工した後,基材の表面に成膜処理を行うことなく,実施例1の摺動試験条件で試験を実施した。
摺動試験結果を下記(表1)に示す。
【0032】
(比較例2)
プラズマCVD装置にて有機珪素化合物ガスを含む炭化水素ガスからなる原料ガスを用いて非晶質炭素膜に含まれる珪素含有量が1.69at%,膜厚が117nmの非晶質炭素膜を固定側密封環5の基材の表面にのみ積層させ,回転側密封環3には積層させることなく,実施例1の摺動試験条件で試験を実施した。
摺動試験結果を下記(表1)に示す。
【0033】
(比較例3)
プラズマCVD装置にて有機珪素化合物ガスを含む炭化水素ガスからなる原料ガスを用いて非晶質炭素膜に含まれる珪素含有量が1.85at%,膜厚が1400nmの非晶質炭素膜を固定側密封環5の基材の表面にのみ積層させ,回転側密封環3には積層させることなく,実施例1の摺動試験条件で試験を実施した。
摺動試験結果を下記(表1)に示す。
【0034】
(比較例4)
水素フリー非晶質炭素膜が形成できるPVD(物理気相成長法)成膜装置にて,薄膜となる材料を板状や円盤状にしたカーボンターゲットを用いて基材由来により非晶質炭素膜に含まれる珪素含有量が2.3at%,膜厚が280nmの非晶質炭素膜を,回転側密封環3及び固定側密封環5の基材の表面に積層させ,実施例1の摺動試験条件で試験を実施した。
摺動試験結果を下記(表1)に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
以上の結果から,回転側密封環3及び固定側密封環5の基材として炭化珪素を用いた場合であっても,プラズマCVD装置にて有機珪素化合物ガスを含まない炭化水素ガスを用いて成膜された非晶質炭素膜を回転側密封環3及び固定側密封環5の少なくとも一方の基材の表面に積層させた場合,シリケート化合物堆積によるリークが発生しないことが確認された。一方,回転側密封環3及び固定側密封環5の基材として炭化珪素を用いた場合であって,プラズマCVD装置にて有機珪素化合物ガスを含む炭化水素ガスを用いて成膜された非晶質炭素膜を回転側密封環3及び固定側密封環5の少なくとも一方の基材の表面に積層させた場合,シリケート化合物堆積によるリークが発生することが確認された。また,回転側密封環3及び固定側密封環5の基材として炭化珪素を用いた場合であって,基材の表面に成膜処理を行わない場合もシリケート化合物堆積によるリークが発生することが確認された。
【0037】
以上,本発明を実施例及び図面により説明してきたが,具体的な構成はこれらに限られるものではなく,本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0038】
例えば,前記実施の形態では,摺動部品をメカニカルシール装置における一対の回転用密封環及び固定用密封環のいずれかに用いる例について説明したが,円筒状摺動面の軸方向一方側に潤滑油を密封しながら回転軸と摺動する軸受の摺動部品として利用することも可能である。
【0039】
また,例えば,前記実施の形態では,外周側に高圧の被密封流体が存在する場合について説明したが,内周側が高圧流体の場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0040】
1 回転軸
2 スリーブ
3 回転側密封環
4 ハウジング
5 固定側密封環
6 コイルドウェーブスプリング
7 ベローズ
10 非晶質炭素膜
図1
図2