特許第6861659号(P6861659)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861659
(24)【登録日】2021年4月1日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】クラッチ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/067 20060101AFI20210412BHJP
   F16D 41/06 20060101ALI20210412BHJP
   F16D 41/08 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   F16D41/067
   F16D41/06 A
   F16D41/08 Z
   F16D41/08 A
   F16D41/06 D
   F16D41/06 E
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-43610(P2018-43610)
(22)【出願日】2018年3月9日
(65)【公開番号】特開2019-86145(P2019-86145A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2019年3月19日
(31)【優先権主張番号】特願2017-49773(P2017-49773)
(32)【優先日】2017年3月15日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-227753(P2017-227753)
(32)【優先日】2017年11月28日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】木本 優
(72)【発明者】
【氏名】美濃羽 未紗樹
(72)【発明者】
【氏名】北澤 秀訓
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−366036(JP,A)
【文献】 米国特許第05297450(US,A)
【文献】 特開2011−080485(JP,A)
【文献】 特開2013−053644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/00−47/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に配置される入力部材と、
半径方向において前記入力部材と間隔をあけて回転可能に配置される出力部材と、
半径方向において前記入力部材と前記出力部材との間に配置され、前記入力部材からのトルクを前記出力部材に伝達する係合状態と、前記トルクの伝達を遮断する非係合状態とを取り得る、円柱状のローラである伝達部材と、
前記入力部材との間に前記伝達部材を保持する保持部材と、
前記伝達部材を前記入力部材と接する位置に付勢するように前記伝達部材と前記保持部材との間に配置される付勢部材と、
を備え、
前記保持部材の慣性力によって、前記伝達部材は前記係合状態と前記非係合状態との間で状態が遷移し、
前記入力部材は、
入力部材本体部と、
駆動源側からのトルクが入力される入力軸と係合し、前記入力部材本体部から軸方向に延びるボス部と、を有し、
前記保持部材は、中央部に貫通孔を有するプレート状であって、
前記ボス部は、前記保持部材の前記貫通孔内を貫通し、
前記ボス部の外周面の少なくとも一部は、前記保持部材の前記貫通孔の内周面と接触している、
クラッチ装置。
【請求項2】
前記保持部材は、前記付勢部材を介して前記伝達部材を保持する、
請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記保持部材は、一つの部材で形成された環状である、
請求項1又は2に記載のクラッチ装置。
【請求項4】
前記伝達部材は、前記非係合状態において、前記出力部材と間隔をあけて配置される、
請求項1から3のいずれかに記載のクラッチ装置。
【請求項5】
前記出力部材は、半径方向において前記入力部材の外側に配置される、
請求項1から4のいずれかに記載のクラッチ装置。
【請求項6】
前記出力部材は、半径方向において前記入力部材の内側に配置される、
請求項1から4のいずれかに記載のクラッチ装置。
【請求項7】
前記係合状態における前記伝達部材を前記出力部材と前記入力部材との間に噛み込ませるカム機構をさらに備え、
前記カム機構は、前記出力部材と前記入力部材との半径方向の間隔が前記ローラの直径よりも大きい部分と、前記間隔が前記ローラの直径よりも小さい部分とを含む、
請求項1から5のいずれかに記載のクラッチ装置。
【請求項8】
筒状の出力部材と、
半径方向において前記出力部材の内側に配置される入力部材と、
半径方向において、前記出力部材と前記入力部材との間に配置されるローラと、
前記ローラを周方向から挟んで前記入力部材側に付勢するように配置される一対の付勢部材と、
前記入力部材と相対回転可能に配置され、前記ローラ及び前記一対の付勢部材を保持する保持部材と、
前記入力部材が前記保持部材と相対回転したときに、前記ローラを前記出力部材と前記入力部材との間で噛ませるカム機構と、
を備え、
前記付勢部材は、前記ローラと前記保持部材との間に配置され、
前記入力部材は、
入力部材本体部と、
駆動源側からのトルクが入力される入力軸と係合し、前記入力部材本体部から軸方向に延びるボス部と、を有し、
前記保持部材は、中央部に貫通孔を有するプレート状であって、
前記ボス部は、前記保持部材の前記貫通孔内を貫通し、
前記ボス部の外周面の少なくとも一部は、前記保持部材の前記貫通孔の内周面と接触している、
クラッチ装置。
【請求項9】
前記カム機構は、前記入力部材の外周面に形成されたカム面を有する、
請求項7又は8に記載のクラッチ装置。
【請求項10】
前記保持部材は、樹脂製である、
請求項1から9のいずれかに記載のクラッチ装置。
【請求項11】
前記保持部材に作用する第1方向への慣性力および前記第1方向とは反対の第2方向への慣性力によって前記伝達部材は係合状態となる、
請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項12】
前記保持部材に作用する第1方向への慣性力によって、前記伝達部材は係合状態となり、
前記保持部材に作用する前記第1方向とは反対の第2方向への慣性力によって、前記伝達部材は非係合状態となる、
請求項1に記載のクラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、カム機構などを利用してトルクの伝達と遮断を行うワンウェイクラッチやツーウェイクラッチのような、回転やトルクなどの入力状態に応じてトルク伝達状態が変わるクラッチ装置(以下、単にクラッチ装置という。)が知られている。ある種のクラッチ装置は、アクチュエータなどの動作によってトルク伝達方向が切り替わるワンウェイクラッチとして構成される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−216230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ハイブリッド型など、電動モータを有する電動式の自動二輪車が提案されている。電動式の自動二輪車では、電動モータを制御することによって発進時のトルクを円滑に変化させることができるため、従来、遠心クラッチなどにより実現されていた半クラッチ機能が不要である。そこで、遠心クラッチを省略することが考えられる。しかし、遠心クラッチを省略すると駆動輪と駆動源とが直接連結されることになり、その結果、停車中の車両を押して移動させることが困難になる。遠心クラッチを省略しつつ停車中の車両を押して移動可能にするには、駆動輪と駆動源との間のトルク伝達を停車中に遮断する必要がある。このため、アクチュエータによりトルク伝達方向を切り替えられる従来のクラッチ装置を自動二輪車の駆動系に適用することが考えられる。
【0005】
しかしながら、従来のクラッチ装置は、アクチュエータを備えるなど構造が複雑であったため、自動二輪車の駆動系に従来のクラッチ装置を適用することは難しい。更には、アクチュエータが高速に動作するものでなければ自動二輪車の発進時にエンジン回転数を上げてもクラッチ装置でのトルクの伝達開始が遅れ、操作応答性が悪化する恐れがある。したがって、簡易な構成であっても、短い時間で入力トルクの伝達を開始できるクラッチ装置が望まれる。
【0006】
本発明は、簡易な構成であっても、短い時間で入力トルクの伝達を開始可能なクラッチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1側面に係るクラッチ装置は、入力部材と、出力部材と、伝達部材と、保持部材とを備えている。入力部材は、回転可能に配置される。出力部材は、半径方向において、入力部材と間隔をおいて回転可能に配置される。伝達部材は、半径方向において入力部材と出力部材との間に配置される。また、伝達部材は、入力部材と出力部材との間でトルクを伝達する係合状態と、トルクの伝達を遮断する非係合状態とをとり得る。保持部材は、入力部材との間に伝達部材を保持する。保持部材の慣性力によって、伝達部材は係合状態と非係合状態との間で状態が遷移する。
【0008】
この構成によれば、伝達部材が非係合状態で出力部材にトルクが入力されても、トルクは入力部材に伝達されない。一方、伝達部材が非係合状態で入力部材にトルクが入力されると、入力部材との間に伝達部材を保持する保持部材が回転し、その慣性力によって伝達部材が係合状態となる。この結果、入力部材に入力されたトルクは、伝達部材を介して出力部材に伝達される。ここで、保持部材の慣性力は、角加速度に比例するものであるため、入力部材の回転速度がゼロの状態からでも速やかに立ち上げられる。このため、本発明に係るクラッチ装置は、簡易な構成であっても、短い時間で入力トルクの伝達を開始可能である。なお、保持部材に作用する慣性力によって、入力部材と保持部材に相対回転が発生する。
【0009】
好ましくは、クラッチ装置は、伝達部材を入力部材と接する位置に付勢する付勢部材をさらに備える。より好ましくは、保持部材は、付勢部材を介して伝達部材を保持する。
【0010】
好ましくは、クラッチ装置は、出力部材と入力部材との間に係合状態の伝達部材を噛み込ませるカム機構をさらに備える。そして、伝達部材は、ローラである。さらには、カム機構は、出力部材と入力部材との半径方向の間隔がローラの直径よりも大きい部分と、前記間隔がローラの直径よりも小さい部分とを含む。
【0011】
好ましくは、伝達部材は、自転により前記半径方向での寸法が変化するスプラグであり、係合状態で出力部材と入力部材との間に噛み込む。
【0012】
好ましくは、保持部材は、一つの部材で形成された環状である。
【0013】
好ましくは、伝達部材は、非係合状態において、出力部材と間隔をあけて配置される。
【0014】
好ましくは、出力部材は、半径方向において入力部材の外側に配置される。
【0015】
好ましくは、出力部材は、半径方向において入力部材の内側に配置される。
【0016】
本発明の第2側面に係るクラッチ装置は、筒状の出力部材と、入力部材と、ローラと、一対の付勢部材と、保持部材と、カム機構とを備える。入力部材は、半径方向において出力部材の内側に配置される。ローラは、半径方向において、出力部材と入力部材との間に配置される。一対の付勢部材は、ローラを周方向から挟んで入力部材側に付勢する。保持部材は、入力部材と相対回転可能に配置され、ローラ及び一対の付勢部材を保持する。カム機構は、入力部材が保持部材と相対回転したときに、ローラを出力部材と入力部材との間で噛ませる。
【0017】
好ましくは、カム機構は、入力部材の外周面に形成されたカム面を有する。
【0018】
好ましくは、入力部材は、入力部材本体部と、ボス部とを有する。ボス部は、駆動源側からのトルクが入力される入力軸と係合し、入力部材本体部から軸方向に延びる。
【0019】
好ましくは、保持部材は、中央部に貫通孔を有するプレート状である。そして、ボス部は、保持部材の貫通孔内を貫通する。
【0020】
好ましくは、ボス部の外周面の少なくとも一部は、保持部材の貫通孔の内周面と接触している。
【0021】
好ましくは、保持部材は、樹脂製である。
【0022】
好ましくは、保持部材の第1方向への慣性力および第1方向とは反対の第2方向への慣性力によって、伝達部材は係合状態となる。
【0023】
好ましくは、保持部材の第1方向への慣性力によって、伝達部材は係合状態となり、第1方向とは反対の第2方向への慣性力によって、伝達部材は非係合状態となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、簡易な構成であっても、短い時間で入力トルクの伝達を開始可能なクラッチ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】クラッチ装置の正面図。
図2】クラッチ装置の斜視図。
図3】出力部材の斜視図。
図4】入力部材の斜視図。
図5】保持部材の斜視図。
図6】非係合状態に位置するローラを示す図。
図7】増速時において係合状態となるローラを示す図。
図8】減速時において係合状態となるローラを示す図。
図9】変形例に係るクラッチ装置の拡大図。
図10】変形例に係るクラッチ装置の拡大図。
図11】変形例に係るクラッチ装置の拡大図。
図12】変形例に係るクラッチ装置の拡大図。
図13】変形例に係るクラッチ装置の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係るクラッチ装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態に係るクラッチ装置は、電動モータ及びエンジンを駆動源とするハイブリッド自動二輪車に適用される。また、以下の説明において、軸方向とは、クラッチ装置の回転軸Oが延びる方向を意味する。また、半径方向とは、回転軸Oを中心とした円の半径方向を意味し、周方向とは、回転軸Oを中心とした円の周方向を意味する。また、半径方向の内側とは、半径方向において回転軸Oに近い側を意味し、半径方向の外側とは、半径方向において回転軸Oから遠い側を意味する。
【0027】
図1及び図2に示すように、クラッチ装置100は、出力部材1、入力部材2、複数のローラ3(伝達部材の一例)、複数対の付勢部材4、保持部材5、及びカム機構6を備えている。出力部材1が駆動輪側と接続されており、入力部材2が駆動源側と接続されている。
【0028】
[出力部材]
出力部材1は、筒状である。出力部材1は、駆動輪へとトルクを出力する。出力部材1は、回転軸Oを中心に回転可能である。出力部材1は、入力部材2と同軸上に配置されている。出力部材1は、半径方向において入力部材2と間隔をあけて配置されている。詳細には、出力部材1は、半径方向において、入力部材2の外側に配置される。
【0029】
図3に示すように、出力部材1は、円板部11と、筒状部12とを有している。筒状部12は、円筒状であって、円板部11の外周縁から軸方向に延びている。この筒状部12は、クラッチ装置100の外壁を構成している。出力部材1は、例えば、機械構造用炭素鋼、機械構造用工具鋼、炭素工具鋼、又は合金工具鋼などによって形成されている。
【0030】
[入力部材]
図1及び図2に示すように、入力部材2は、半径方向において出力部材1の内側に配置されている。詳細には、入力部材2は、半径方向において出力部材1の筒状部12の内側に配置されている。入力部材2は、回転軸Oを中心に回転可能である。また、入力部材2は、出力部材1に対して、相対回転可能である。入力部材2は、電動モータ又はエンジンなどの駆動源からのトルクが入力される。
【0031】
図4に示すように、入力部材2は、入力部材本体部21と、ボス部22とを有している。入力部材2は、例えば、機械構造用炭素鋼、機械構造用工具鋼、炭素工具鋼、又は合金工具鋼などによって形成されている。
【0032】
入力部材本体部21は、円板状である。入力部材本体部21の外周面211は、出力部材1の内周面と間隔をあけて配置されている。ローラ3、付勢部材4,及び保持部材5を取り除いた状態において、入力部材本体部21の外周面211は、出力部材1の内周面と対向している。なお、出力部材1の内周面とは、出力部材1の筒状部12の内周面を意味する。
【0033】
入力部材本体部21の外周面211には、複数のカム面212が形成されている。各カム面212は、周方向において間隔をあけて形成されている。好ましくは、各カム面212は、周方向において、等間隔に配置されている。
【0034】
各カム面212は、半径方向において内側に凹むように構成されている。カム面212の周方向の中央部が最も出力部材1の内周面から離れている。また、各カム面212は、周方向の両端部に近付くにつれて、出力部材1に近付くように構成されている。具体的には、各カム面212は、軸方向視において、円弧状に形成されている。
【0035】
また、入力部材本体部21は、複数の第1貫通孔213を有している。各第1貫通孔213は、入力部材本体部21を軸方向に貫通している。各第1貫通孔213は、周方向において間隔をあけて配置されている。好ましくは、各第1貫通孔213は、周方向において等間隔に配置されている。各第1貫通孔213は、同一の円周上に配置されている。各第1貫通孔213は、周方向に延びる長孔形状である。
【0036】
ボス部22は、円筒状であって、入力部材本体部21から軸方向に延びている。ボス部22は、入力部材本体部21と同軸上に配置されている。ボス部22は、入力部材本体部21よりも半径が小さい。
【0037】
ボス部22は、電動モータ又はエンジン側などの駆動源側からのトルクが入力される入力軸(図示省略)と係合するように構成されている。詳細には、ボス部22は、第2貫通孔221を有している。第2貫通孔221は、入力軸が係合されるように構成されている。例えば、第2貫通孔221は、内周面において、対向する一対の平面を有している。そして、入力軸は、外周面において対向する一対の平面を有している。この構成によって、入力軸は、第2貫通孔221と係合して一体的に回転可能となる。なお、第2貫通孔221は、ボス部22のみならず、入力部材本体部21も貫通している。
【0038】
[保持部材]
図1及び図2に示すように、保持部材5は、入力部材2との間にローラ3を保持している。保持部材5は、定常状態ではローラ3を非係合状態で保持する。保持部材5は、付勢部材4を介してローラ3を保持している。保持部材5は、入力部材2及び出力部材1と相対回転可能に配置されている。保持部材5は、樹脂製であり、具体的には、PA系樹脂、POM系樹脂、PPS系樹脂、PBT系樹脂、PEEK樹脂、又はPTFE系樹脂などによって形成することができる。保持部材5は、軸方向において、入力部材2と並んでいる。
【0039】
図5に示すように、保持部材5は、円板プレート状であって、その中央部に第3貫通孔51(本発明の貫通孔の一例)を有している。保持部材5は、保持部材本体部52と、保持部53とを有している。保持部材本体部52は、円板状であって、中央部に第3貫通孔51を有している。第3貫通孔51は、軸方向において、保持部材本体部52を貫通している。また、第3貫通孔51は、軸方向視において、円形である。
【0040】
保持部材5の第3貫通孔51内を、入力部材2のボス部22が貫通している。すなわち、ボス部22は、第3貫通孔51を介して、保持部材5を越えて軸方向に延びている。ボス部22の外径は、第3貫通孔51の内径よりも小さい。保持部材5は、第3貫通孔51の内周面がボス部22の外周面と当接することによって、入力部材2に支持されている。具体的には、第3貫通孔51の内周面の上端部と、ボス部22の外周面の上端部とが、接触している。
【0041】
保持部材本体部52は、複数の第4貫通孔521を有している。各第4貫通孔521は、周方向に互いに間隔をあけて配置されている。好ましくは、各第4貫通孔521は、週方向において等間隔に配置されている。
【0042】
保持部53は、周方向において、ローラ3及び付勢部材4を保持するように構成されている。保持部53は、円筒状であって、保持部材本体部52から軸方向に延びている。保持部53は、半径方向において、出力部材1と入力部材2との間に配置されている。詳細には、保持部53は、半径方向において、出力部材1の筒状部12と、入力部材2の入力部材本体部21との間に配置されている。
【0043】
保持部53は、複数の第5貫通孔531を有している。各第5貫通孔531は、半径方向において、保持部53を貫通している。このため、ローラ3と一対の付勢部材4とを取り除いた状態において、この第5貫通孔531を介して、出力部材1と入力部材2とが対向する。各第5貫通孔531は、周方向に間隔をあけて配置されている。好ましくは、各第5貫通孔531は、周方向に等間隔に配置されている。
【0044】
各第5貫通孔531は、一対の内壁面によって構成されている。この一対の内壁面は、保持面532を構成している。ローラ3及び一対の付勢部材4を取り除いた状態において、一対の保持面532は、周方向において対向している。この一対の保持面532は、ローラ3及び一対の付勢部材4を保持する。
【0045】
[ローラ]
図1及び図2に示すように、ローラ3は、保持部材5に保持されている。詳細には、ローラ3は、一対の付勢部材4を介して、保持部材5に保持されている。ローラ3は、保持部材5の第5貫通孔531内に配置されている。
【0046】
各ローラ3は、軸方向に延びる円柱状である。ローラ3は、半径方向において、出力部材1と入力部材2との間に配置されている。詳細には、ローラ3は、半径方向において、出力部材1の筒状部12と、入力部材本体部21との間に配置されている。
【0047】
ローラ3は、係合状態と非係合状態とを取り得る。図6に示すように、非係合状態とは、ローラ3が入力部材2から出力部材1へのトルクの伝達を遮断する状態をいう。すなわち、非係合状態では、ローラ3は、出力部材1と入力部材2との間で噛合わない状態となっている。なお、ローラ3は、非係合状態にあるとき、周方向においてカム面212の中央部に位置するとともに入力部材と接するように、付勢部材4に付勢されている。そして、ローラ3は、非係合状態において、出力部材1と間隔をあけて配置されている。すなわち、非係合状態のローラ3は、出力部材1と接触していない。
【0048】
図7又は図8に示すように、係合状態とは、ローラ3が入力部材2からのトルクを出力部材1に伝達する状態を言う。すなわち、係合状態では、ローラ3は、出力部材1と入力部材2との間で噛合う状態となっている。なお、ローラ3は、係合状態にあるとき、カム面212の中央部から両端部のいずれかに移動した位置に位置している。そして、ローラ3は、出力部材1と接触している。
【0049】
[付勢部材]
図1及び図2に示すように、付勢部材4は第5貫通孔531内に配置されている。付勢部材4は、ローラ3を非係合状態に付勢している。本実施形態では、一対の付勢部材4によって、ローラ3を周方向から挟んで入力部材2側に付勢するように構成されている。
【0050】
付勢部材4は、周方向において第1端部と第2端部とを有している。そして、ローラ3と接触する第1端部は、保持面532と接触する第2端部よりも半径方向において内側に配置されている。付勢部材4は、保持部材5によって保持されている。付勢部材4は、例えば、板バネであってもよいし、コイルスプリングであってもよい。
【0051】
[カム機構]
カム機構6は、入力部材2が保持部材5と相対回転したときに保持部材5に作用する慣性力によって、ローラ3を出力部材1と入力部材2との間で噛ませるように構成されている。具体的には、カム機構6は、入力部材2の外周面に形成されたカム面212を有する(図6参照)。入力部材2の外周面に形成されたカム面212と出力部材1の内周面との間隔は、円周方向において異なる。具体的には、カム面212の円周方向の中央付近での間隔はローラ3の直径よりも大きく、カム面212の円周方向の両端付近での間隔はローラ3の直径よりも小さい。
【0052】
[クラッチ装置の動作]
上述したように構成されたクラッチ装置100は、例えば自動二輪車に適用されて、自動二輪車の発進時に以下のように動作する。まず、入力部材2にトルクが入力されていない状態では、図6に示すように、ローラ3は非係合状態とされる。すなわち、ローラ3は、カム面212の中央部に位置しており、出力部材1と入力部材2との間で噛合っていない。このため、出力部材1からトルクが入力しても、入力部材2には伝達されない。例えば、停車中の自動二輪車を押して移動させたい場合、自動二輪車を押すことによって駆動輪が回転しても、出力部材1のみが回転し、入力部材2は回転しないため、駆動源を回転させることがない。この結果、容易に自動二輪車を移動させることができる。なお、図6中の矢印は、出力部材1の回転方向を示す。
【0053】
ローラ3が非係合状態にあるクラッチ装置100に、電動モータ又はエンジンなどの駆動源からトルクが入力されると、入力部材2が回転する。これにより、入力部材2との間にローラ3を保持する保持部材5が回転する。保持部材5は慣性によって入力部材2よりも回転速度が遅くなるため、保持部材5が慣性力によって入力部材2と相対回転する。すなわち、保持部材5が第1方向において入力部材2と相対回転する。
【0054】
すると、図7に示すように、保持部材5に作用する慣性力によってローラ3が非係合状態から係合状態に遷移し、ローラ3が出力部材1と入力部材2との間で噛合う。この結果、出力部材1と入力部材2とは一体的に回転する。すなわち、入力部材2から各ローラ3を介して出力部材1へとトルクが伝達される。
【0055】
この際、保持部材5の慣性力は、角加速度に比例するものであるため、入力部材2の回転速度がゼロの状態からでも速やかに立ち上げられる。このためクラッチ装置100は、簡易な構成であっても、低い回転速度から入力トルクの伝達を開始でき、駆動源からのトルクが駆動輪へと速やかに伝達される。なお、図7中の矢印は、クラッチ装置100の回転方向を示す。また、上記第1方向とは、クラッチ装置100の回転方向とは逆方向を意味する。
【0056】
図7に示すように、ローラ3が係合状態にあり、車両が走行している状態からの減速時において保持部材5は慣性によって入力部材2よりも回転速度が速くなるため、慣性力によって保持部材5は入力部材2と相対回転する。すなわち、保持部材5が第1方向とは反対の第2方向において入力部材2と相対回転する。
【0057】
すると、図8に示すように、ローラ3が瞬間的に非係合状態を経由して再び係合状態となり、ローラ3が出力部材1と入力部材2との間で噛合う。この結果、出力部材1と入力部材2とは一体的に回転する。すなわち、出力部材1と入力部材2との間でローラ3を介してトルクが伝達される。なお、図8中の矢印は、クラッチ装置100の回転方向を示す。また、上記第2方向とは、クラッチ装置100の回転方向と同じ方向を意味する。
【0058】
以上のように、駆動源が増速又は減速したとき、保持部材5が慣性力によって、第1方向又は第2方向において入力部材2と相対回転する。その結果、ローラ3が出力部材1と入力部材2との間で噛合い、出力部材1と入力部材2との間でトルクが伝達される。また、保持部材5が第1方向及び第2方向のどちらの方向において入力部材2と相対回転しても、ローラ3は係合状態となる。
【0059】
保持部材5の慣性質量が大きいほど、増速時及び減速時において保持部材5は入力部材2に対してより確実に相対回転することができる。よって、保持部材5の慣性質量を大きくするため、本実施形態では、保持部材5の体積を大きくしている。具体的には、保持部材5の保持部材本体部52を、ボス部22から出力部材1まで延びる円板のプレート状としている。
【0060】
また、入力部材2と保持部材5との摺動抵抗をより小さくして入力部材2と保持部材5とをより確実に相対回転させるために、入力部材2と保持部材5との接触点を半径方向の内側に持ってきている。具体的には、入力部材2のボス部22と保持部材5の第3貫通孔51の内周面とで接触させている。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0062】
[変形例1]
上記実施形態では、1つのローラ3につき、一対の付勢部材4で付勢していたが、この構成に限定されない。例えば、図9に示すように、1つのローラ3につき、1つの付勢部材4で付勢していてもよい。この場合、ローラ3は、周方向において、付勢部材4と保持部材5の保持面532によって挟まれる。この構成では、付勢部材4の数が減ることにより、ローラ3や付勢部材4の組み付け時に、組み付け作業が容易になる。なお、付勢部材4はローラ3に対して第1方向側に配置されてもよく、第2方向側に配置されてもよい。
【0063】
[変形例2]
上記実施形態では、ローラ3と付勢部材4とは直接接触するようにしていたがで、この構成に限定されない。図9に示すように、付勢部材4は、ローラ3と接触する側の端部にスプリングシート7が装着されていてもよい。スプリングシート7を設けることにより、付勢部材4とローラ3とを安定した接触状態で維持することができる。また、保持部材5は、付勢部材4とスプリングシート7との外周側を覆うカバー部54を備えてもよい。カバー部54を設けることで、付勢部材4及びスプリングシート7が外周の出力部材1に摺接することがなくなり、ローラ3の位置を適切に維持することができる。なお、この構成は上記変形例1においても適用できる。
【0064】
[変形例3]
上記実施形態では、軸方向視において、カム面212は円弧状に形成されているが、カム面212はV字状に形成されていてもよいし、他の形状に形成されていてもよい。また、上記実施形態では、保持部材5が慣性力によって第1方向及び第2方向のどちらの方向において入力部材2と相対回転しても、ローラ3が係合状態となるが、この構成に限定されない。例えば、図10に示すように、カム面212を第1方向の側でなだらかな形状とし、第2方向の側でローラ3の外面形状と沿うような形状とすれば、保持部材5が慣性力によって第1方向において入力部材2と相対回転したときのみ、ローラ3が係合状態となる。そして、保持部材5が慣性力によって第2方向において入力部材2と相対回転しようとしても、ローラ3が相対回転せずに非係合状態を維持することになる。なお、カム面212の形状を第1方向側と第2方向側とが逆になるように変更すれば、保持部材5が慣性力によって第2方向において入力部材2と相対回転したときのみ、ローラ3が係合状態となるように構成することもできる。なお、この構成は上記変形例1または2においても適用できる。
【0065】
[変形例4]
上記実施形態では、伝達部材としてローラ3を用いているが、伝達部材はローラ3ではなく他の形状であってもよい。例えば、図11に示すように、伝達部材としてスプラグ31を設けることもできる。スプラグ31は、自転によりクラッチ装置の半径方向での寸法が変化する扁平形状を有する。スプラグ31を用いる場合も、非結合状態ではスプラグ31が出力部材1に対して隙間を開けて保持され、保持部材5の慣性力によって、スプラグ31が自転して係合状態となって入力部材2と出力部材1との間に噛み込むように構成するとよい。スプラグ31を用いることで、入力部材2と出力部材1とのいずれにもカム面を設ける必要が無くなり、入力部材2と出力部材1との構成が簡易になる。なお、この構成は上記変形例1から3のいずれにおいても適用できる。例えば、図12に示すように、2つのスプラグ31を1つの付勢部材4の両端に配置してもよい。この構成では、保持部材5が慣性力によって第1方向及び第2方向のどちらの方向において入力部材2と相対回転しても、スプラグ31を係合状態にすることができる。
【0066】
[変形例5]
上記実施形態では、入力部材2を内周側に設け、出力部材1を外周側に設けるように構成したが、入力部材2と出力部材1との配置は逆であってもよい。例えば、図13に示すように、半径方向において、出力部材1と入力部材2との配置を上記実施形態と逆であってもよい。すなわち、半径方向において、出力部材1が入力部材2の内側に配置されていてもよい。この場合も、伝達部材3は、入力部材2側に付勢され、出力部材1とは間隔をあけて配置される。なお、この構成は上記変形例1から4のいずれにおいても適用できる。
【0067】
その他、上記実施形態では、伝達部材3と保持部材5との間に付勢部材4を設ける場合を示したが、伝達部材3と保持部材5とを直接接触させて、伝達部材3または保持部材5を介して付勢部材4が両者を付勢するようにしてもよい。
【0068】
電動モータ又はエンジンからのトルクを入力部材2に入力するための入力軸と、ボス部22の第2貫通孔221とは、スプライン嵌合やその他の構造で係合していてもよい。
【0069】
また、入力部材本体部21は、第1貫通孔213を有していなくてもよい。同様に、保持部材5は、第4貫通孔521を有していなくてもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、出力部材1が駆動輪側に接続され、入力部材2が駆動源側に接続されているが、この構成に限定されない。例えば、出力部材1が駆動源に接続され、入力部材2が駆動輪に接続されていてもよい。この場合、入力部材2は、駆動輪側からのトルクを入力し、出力部材1は駆動源側へとトルクを出力する。
【0071】
また、保持部材5が入力部材2に対してスムーズに相対回転するように、入力部材2と保持部材5との間に軸受部材を介在させてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 出力部材
2 入力部材
21 入力部材本体部
22 ボス部
3 ローラ
4 付勢部材
5 保持部材
51 第3貫通孔
6 カム機構
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
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図13