【文献】
松田博之,レールきしみ割れ発生寿命予測,鉄道総研月例発表会講演要旨,日本,鉄道総研,2009年 6月18日,第224回,p.1-4,URL,https://www.rtri.or.jp/events/getsurei/2009/Getsu6_J.html
【文献】
辻江正弘 et al.,MBDソフトを援用したレール摩耗形状予測とその考察,日本機械学会論文集(C編),日本,日本機械学会,2013年10月,79巻, 806号,p.87-99,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/kikaic/79/806/79_3376/_pdf/-char/ja
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記摩耗進展解析部は、前記車両運動解析部により算出された前記力を用いて前記模擬車両と前記模擬レールとの接触面内における接触応力を算出するレール接触解析部と、前記レール接触解析部により算出された前記接触応力に基づいて前記模擬レールの前記摩耗の進展速度を算出する摩耗量算出部とを有することを特徴とする請求項1に記載のきしみ割れ推定装置。
前記き裂進展解析部は、前記レール接触解析部により算出された前記接触応力に基づいて前記模擬レールに前記き裂が発生するか否かを判定するき裂発生条件判定部と、前記き裂発生条件判定部により前記き裂が発生すると判定されたら前記模擬レールに生じうる前記き裂の進展速度を算出するき裂進展量算出部とを有することを特徴とする請求項2または3に記載のきしみ割れ推定装置。
前記き裂進展解析部は、前記き裂発生条件判定部による判定動作に必要なパラメータの初期値を設定する初期値設定部を有し、前記き裂発生条件判定部は前記初期値設定部により設定された前記パラメータの初期値を用いて前記模擬レールに前記き裂が発生するか否かを判定することを特徴とする請求項4に記載のきしみ割れ推定装置。
模擬車両のモデルを設定する車両モデルデータ及び模擬レールのモデルを設定するレールモデルデータが格納される記憶部を有するきしみ割れ推定装置により実行され、ゲージコーナー部ならびにレール頭頂部に生じうるきしみ割れの発生を推定するきしみ割れ推定方法であって、
前記車両モデルデータ及び前記レールモデルデータを用いて前記模擬レール上を前記模擬車両が走行した際の前記模擬レールに作用する力を算出し、算出した前記力を用いて前記模擬レールの摩耗の進展速度を算出し、算出した前記力を用いて前記模擬レールに生じうるき裂の進展速度を算出し、前記摩耗の進展速度と前記き裂の進展速度とを用いて前記模擬レールにきしみ割れが生じるか否かを推定することを特徴とするきしみ割れ推定方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(きしみ割れ推定システムの概略説明)
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施の形態であるきしみ割れ推定システムSの概略構成を示すブロック図である。
【0024】
本実施の形態のきしみ割れ推定システムSは、きしみ割れ推定装置10、入力装置11及び表示装置12を有する。
【0025】
本実施の形態のきしみ割れ推定装置(以下、推定装置と省略する)10は、例えばパーソナルコンピュータ等であり、制御部20、記憶部21、入力インタフェース(I/F)22及び出力インタフェース(I/F)23を有する。
【0026】
制御部20はCPU等の演算素子を有する。記憶部21内に格納されている図略の制御用プログラムが推定装置10の起動時に実行され、この制御用プログラムに基づいて、制御部20は記憶部21等を含む推定装置10全体の制御を行うとともに、表示制御部30、車両運動解析部31、摩耗進展解析部32、き裂進展解析部33及びきしみ割れ推定部34としての機能を実行する。これら各機能部の動作については後述する。
【0027】
記憶部21はハードディスクドライブ等の大容量記憶媒体、及びROM、RAM等の半導体記憶媒体を有する。この記憶部21には上述の制御用プログラムが格納されているとともに、制御部20の制御動作時に必要とされる各種データが一時的に格納される。
【0028】
また、この記憶部21には、車両モデルデータ40、レールモデルデータ41、レール形状データ42、応力データ43、摩耗量データ44、き裂発生初期値データ45及びき裂進展量データ46が格納されている。これらデータのうち、応力データ43、摩耗量データ44、及びき裂進展量データ46については少なくとも一時的に記憶部21に格納されればよい。これらデータの詳細については後述する。
【0029】
入力インタフェース22は、推定装置10に接続された入力装置11からの各種入力を受け入れ、これを制御部20に出力する。本実施例の入力装置11は例えばキーボードやマウス等であり、後述する表示装置12の表示画面に対して座標指定入力を行いうるものである。
【0030】
出力インタフェース23は、制御部20、特に表示制御部30から出力された出力信号を受け入れ、これを表示装置12に出力する。本実施例の表示装置12は例えば液晶ディスプレイ装置であり、出力インタフェース23を介して出力された表示制御信号に基づいて図略の表示面に表示画面を表示する。
【0031】
次に、制御部20に構成される各機能部の説明をする。
【0032】
表示制御部30は、制御部20及びこの制御部20に構成される各機能部による処理の結果、表示装置12に表示画面を生成するための表示制御信号を生成して、この表示制御信号を出力インタフェース23を介して表示装置12に出力する。
【0033】
車両運動解析部31は、記憶部21に格納された車両モデルデータ40及びレールモデルデータ41を用いて、レールモデルデータ41により設定された模擬レール上を、同様に車両モデルデータ40により設定された模擬車両が走行した際の、この模擬レールに作用する力を算出する。具体的には、車両運動解析部31による算出処理は、SIMPACKやVAMPIRE(いずれも商品名)に代表されるマルチボディダイナミクス解析ソフトにより実施可能である。
【0034】
このマルチボディダイナミクス解析ソフトは、弾性体を含むマルチボディモデルの動的解析を効率よく行うためのツールである。より詳細には、マルチボディダイナミクス解析ソフトは、任意の車両モデルで、車輪やレールの実測形状を適用し、レール通過時の車両の挙動や車輪/レール間の接触を解析する。
【0035】
本実施の形態である車両運動解析部31では、対象区間の曲線半径や線形、レール形状等のレールモデルデータ41及び車両諸元や列車速度等の車両モデルデータ40をマルチボディダイナミクス解析ソフトに入力し、走行シミュレーション結果から、レールモデルデータ41により設定された模擬レール上を、同様に車両モデルデータ40により設定された模擬車両が走行した際の、この模擬レールに作用する力を算出する。本実施の形態である車両運動解析部31の処理内容、さらにマルチボディダイナミクス解析ソフトそのものは既知のものであるから、本明細書ではこれ以上の詳細な説明は簡略化する。
【0036】
摩耗進展解析部32は、車両運動解析部31により算出された力を用いて模擬レールの摩耗の進展速度を算出する。本実施の形態である摩耗進展解析部32は、レール接触解析部32a、摩耗量算出部32b及びレールモデルデータ更新部32cを有する。
【0037】
レール接触解析部32aは、車両運動解析部31により算出された力を用いて、模擬車両50と模擬レール51との接触面内における接触応力を算出する。摩耗量算出部32bは、レール接触解析部32aにより算出された接触応力に基づいて、模擬レールの摩耗の進展速度を算出する。レールモデルデータ更新部32cは、摩耗量算出部32bにより算出された摩耗量に基づいてレールモデルデータ41(レール形状データ42を含む)を更新する。そして、車両運動解析部31は、レールモデルデータ更新部32cにより更新されたレールモデルデータ41を用いて模擬レール51に作用する力を算出する。
【0038】
き裂進展解析部33は、車両運動解析部31により算出された力を用いて、模擬レール51に生じうるき裂の進展速度を算出する。本実施の形態であるき裂進展解析部33は、初期値設定部33a、き裂発生条件判定部33b及びき裂進展量算出部33cを有する。
【0039】
初期値設定部33aは、後述するき裂発生条件判定部33bによる判定動作に必要なパラメータの初期値を設定する。き裂発生条件判定部33bは、レール接触解析部32aにより算出された接触応力に基づいて模擬レール51にき裂が発生するか否かを判定する。好ましくは、き裂発生条件判定部33bは、初期値設定部33aにより設定されたパラメータの初期値を用いて、模擬レール51にき裂が発生するか否かを判定する。き裂進展量算出部33cは、き裂発生条件判定部33bによりき裂が発生すると判定されたら、模擬レールに生じうるき裂の進展速度を算出する。
【0040】
きしみ割れ推定部34は、摩耗進展解析部32、特に摩耗量算出部32bにより算出された摩耗の進展速度と、き裂進展解析部33、特にき裂進展量算出部33cにより算出されたき裂の進展速度とを用いて、模擬レールにきしみ割れが生じるか否かを推定する。
【0041】
制御部20を構成する各機能部については、後に再度詳細に説明する。
【0042】
(きしみ割れ推定装置の動作)
次に、
図2〜
図3のフローチャートを参照して、本実施の形態であるきしみ割れ推定システムSの動作について説明する。なお、制御部20を構成する各部の説明について詳述した内容については繰り返しの説明を省略することがある。
【0043】
図2は、本実施の形態であるきしみ割れ推定装置10を説明するための図である。きしみ割れ推定装置10の動作が開始されると、まず、ステップS10において、車両運動解析部31による、記憶部21に格納された車両モデルデータ40及びレールモデルデータ41を用いた車両運動解析処理、より詳細には、模擬レール51上を模擬車両が走行した際の模擬レールに作用する力を算出する処理が行われる。
【0044】
(A)車両運動解析
ステップS10において用いられる模擬車両及び模擬レールの概略を
図4に、模擬レールの断面形状、つまりレール形状データ42の詳細を
図5〜
図7に示す。模擬車両50(
図4では台車部分のみ図示している)は在来線通勤形車両を模擬し、平均的な走行速度で走行させた。模擬車両50の車輪形状は修正円弧踏面の設計形状を用い、模擬レール51の断面形状はJIS50kgNレールのものを採用した。車両運動解析部31による算出処理では、X軸を模擬レール51の延長方向、Y軸を模擬レールのまくらぎ方向、Z軸を鉛直方向として絶対座標系を設定した。
【0045】
なお、レールの摩耗形状は、軌道諸元のほか、走行する車両条件、とりわけ車輪とレールとが接する面(以下、「車輪踏面」と記す)の影響を大きく受ける。しかし、車輪踏面はレールと同様に走行する距離に応じて摩耗するが、その状況は走行する線区(例えば直線と曲線の割合)によって大きく異なる。本実施の形態である車両運動解析部31では、摩耗によるレールの形状変化に着目するため、車輪形状については摩耗による形状変化を考慮せず、設計形状の踏面を有する車輪のみが通過するものとした。
【0046】
模擬レール51の形状を構成する座標データであるレール形状データ42は、一例として
図5に示すように、レール頭頂面と頭頂面から25mm下の側面まで0.4mm間隔で400点配置した。レールの摩耗を考慮しない場合は、
図6のようにレール形状を一定としてモデル化すればよいが、本実施の形態である車両運動解析部31のように長手方向にも摩耗が変化する場合は、逐次、断面形状を変化させなければならない。そこで本実施の形態では、レール長手方向にレール断面の着目点を例えば5mおきに配置し、隣り合う着目点の断面形状をスプライン補間することで、長手方向のレール断面を生成した(
図7)。レール形状データ42は事前に記憶部21に格納されていてもよく、ステップS10の処理において作成されてもよい。後述するように、レールモデルデータ更新部32cによりレール形状データ42の更新が行われる。
【0047】
(B)レール接触解析
次に、ステップS11では、摩耗進展解析部32のレール接触解析部32aが、ステップS10において車両運動解析部31により算出された力を用いて、模擬車両50と模擬レール51との接触面内における接触応力を算出する処理を行う。
【0048】
車両運動解析部31により、模擬車両50の車輪と模擬レール51との接触位置や接触部に作用する力が算出されるが、接触応力の分布については、詳細な結果は得られない。そこで本実施の形態であるレール接触解析部32aでは、Hertzの接触理論により算出された断面方向の接触半径を用いて、接触面内における応力の分布を算出した。
【0049】
車両運動解析部31による解析の結果、接触点Cおよび接触点における法線方向の力(以下、「接触力」と記す)Nが、
図8のように与えられているとする。
図8の観測点は、模擬レール51の断面形状のY−Z座標系である。本実施の形態であるレール接触解析部32aでは、一例として接触点Cを最大10点まで考慮することとし、それぞれY軸の正の方向に向かって1,2,3,…,i,…,10とする。模擬レール51の断面形状を構成する観測点を、Y軸の負の方向から1,2,3,…,i,…,400とする。
図8の接触部CPを拡大したものを
図9に示す。各接触点Cにおいて、接触面と平行な軸をη(i)と定義し、接触力Nは接触点Cの中心を最大値として楕円形に分布すると考える。
車両運動解析部31より算出された模擬車両50の車輪と模擬レール51の接触力N(i)を用いて、各接触点の最大応力P
Max(i)を表すことが出来る。レールと車輪の接触点Cの数をQと仮定すると、最大応力は以下のように考えられる。
【数1】
ここでa(i)、b(i)は、それぞれ接触部CPの楕円の長径(レール長手方向)、短径(断面方向)の接触半幅である。
【0050】
接触面に平行な軸η(i)とY軸のなす角をθ
iとすると、Y軸での接触範囲は以下の式のように表される。
【数2】
ここでC(i)は車両運動解析部31により算出される接触点中心である。
【0051】
接触応力は、接触面内においては
図9のように分布することから、次式のように記述できる。
【数3】
【0052】
式(4)により算出された接触応力P(i,j)は、記憶部21に応力データ43として少なくとも一時的に格納される。
【0053】
(C)摩耗量算出
次に、ステップS12では、摩耗進展解析部32の摩耗量算出部32bが、ステップS11においてレール接触解析部32aにより算出された接触応力P(i,j)に基づいて、模擬レール51の摩耗の進展速度を算出する。
【0054】
車輪とレールの転がり接触による摩耗は主に凝着摩耗であると考えられ,凝着摩耗を表す摩耗則はこれまでにいくつか提案されている.本実施の形態である摩耗量算出部32bでは,Archardの摩耗予測式(J.F.Archard,“Contact and Rubbing of Flat Surface”,J.Appl.Phys,Vol.24,1953,pp.981-988)を適用した.Archardの摩耗予測式は,次の式(5)で与えられる。
【数4】
ただし、Wは摩耗体積、Fは接触荷重、Hは接触する物体のうち柔らかい方の材料硬さ(ここではレール材のビッカーズ硬さ)である。またsはすべり距離である。kは摩耗係数であり、材料固有の値である。
【0055】
式(5)より、模擬レール51の各接触点Cにおける摩耗深さは、次の式(6)で与えられる。
【数5】
ここでdは摩耗深さ、Pは接触面圧、δは単位長さあたりのすべり距離(すべり率と等価)であり、本発明者らが行った室内摩耗試験結果より2.54×10
-4とした。
【0056】
なお、本実施の形態である摩耗量算出部32bにおける摩耗形状予測モデルは、車輪/レール間の巨視的な摩耗に着目するため、接触面内におけるすべり/固着領域の区別は行わず、一定とした。
【0057】
ステップS12で算出された摩耗量(摩耗深さd)は、摩耗量データ44として記憶部21に少なくとも一時的に格納される。
【0058】
次に、ステップS13では、き裂進展解析部33が、ステップS10において車両運動解析部31により算出された力を用いて、模擬レール51に生じうるき裂の進展速度を算出する。
【0059】
(D)き裂進展解析
ステップS13におけるき裂進展解析処理の詳細について、
図3のフローチャートを参照して説明する。
【0060】
(D−1)初期値設定
ステップS20では、き裂進展解析部33の初期値設定部33aが、後述するステップS21において行われる、き裂発生条件判定部33bによる判定動作に必要なパラメータの初期値を設定する。初期値設定部33aが設定する初期値とは、模擬レール51内のフェライト相・パーライト相・非金属材料の分布の計算、結晶粒のゆがみ、き裂の原点、スリップラインの向きに関するパラメータである。初期値設定部33aは、これらパラメータを乱数を発生して設定している。
【0061】
初期値設定部33aにより設定されたパラメータの初期値は、き裂発生初期値データ45として記憶部21に少なくとも一時的に格納される。
【0062】
(D−2)き裂発生条件判定
次に、ステップS21では、き裂進展解析部33のき裂発生条件判定部33bが、初期値設定部33aにより設定されたパラメータの初期値を用いて、ステップS11においてレール接触解析部32aにより算出された接触応力Pに基づいて模擬レール51にき裂が発生する条件を算出し、ついでステップS22では、き裂発生条件判定部33bが模擬レール51にき裂が発生するか否かを判定する。そして、模擬レール51にき裂が発生したと判定した(ステップS22においてYES)場合は、プログラムはステップS23に進み、模擬レール51にき裂が発生しないと判定したらプログラムはステップS14に戻る。
【0063】
き裂の種となるフェライト相・パーライト相・非金属材料の分布、及びき裂方向(スリップライン)となる偏向方向(層方向)や境界方向は、ステップS20において初期値設定部33aにより乱数で決定されるが、これらのき裂が実際に進展するかどうかは、塑性流動方向に対し定められた閾値角度内にき裂方向が存在するかどうかによる。この条件を満たした場合、その結晶粒のき裂の種は活性化し、き裂発生条件が評価できるようになる。
【0064】
模擬レール51におけるレール鋼は、(a)フェライト相、(b)パーライト相及び(c)非鉄金属材料から構成される。ここでは各相のき裂の種の活性条件、進展ルールについて説明する。
【0065】
(a)フェライト相
フェライト相は結晶粒内部をき裂が進展する。結晶粒内部にき裂の種を持ち、偏向方向(層方向)をき裂方向(スリップライン)とする。塑性流動方向に対し定められた閾値角度内にき裂方向がある場合、き裂の種は活性化する。
【0066】
(b)パーライト相
パーライト相は結晶粒内部または境界をき裂が進展する。パーライト相では、き裂の種は境界上に配置する。パーライト相のき裂の種の発生ルールを図示すると
図10のようになる。
【0067】
パーライト相におけるき裂の種60は、ランダムに生成した点61と重心62を結ぶ直線63と境界線64の交点とする(ステップ1)。パーライト相が隣り合う場合において、すでに隣接する要素のき裂の種60が境界線64上に存在する場合は、別の境界線64上にき裂の種60が生成されるようにする(ステップ2)。
【0068】
パーライト相のき裂の種の活性と進展は以下のルールに従うものとする。
(1)界面進展き裂:き裂の種が配置された結晶粒界面の方向が、塑性流動方向に対し定められた閾値角度内の場合、き裂の種は活性化し、き裂は結晶粒界面上を進展する。
(2)結晶粒内部進展き裂:結晶粒の偏向方向(層方向)が塑性流動方向に対し定められた閾値角度以内なら、き裂の種は活性し、結晶粒内をき裂が進展する。(1)と(2)とでは(1)が優先される。
(3)パーライト相の結晶粒界面を進展したき裂がフェライト相にぶつかったときは、フェライト相中を進展したき裂と合体するまでは止まっていることとする。
(4)き裂の進展則は、フェライト相と同じものを使う。
【0069】
(c)非金属材料
非金属材料はパーライト相にのみ存在するものとし、その位置はき裂の種の位置とする。そのため、非金属材料の種の発生条件はパーライト相と同様である。いくつかのパーライト相の中で非金属材料を包含することになったものは、その種が非金属材料の種として利用されるイメージである。
【0070】
非金属材料のき裂は結晶粒界面を進展する。き裂の種の結晶粒界面の方向が、塑性流動方向に対し定められた閾値角度内の場合、き裂の種は活性化する。
【0071】
ステップ1におけるき裂の進展ルールはパーライト相と同様であるが、ステップ2の考え方が異なる。累積せん断歪みが大きくなり、変形が進み変形後の非金属の長いほうの対角線が規定値(結晶粒径の3倍)を超えた場合、ステップ2のルールに従いき裂が進展する。
【0072】
非金属材料におけるステップ2のき裂は、連結されたき裂の先端どうしを結んだ方向をき裂方向とする。この方向が塑性流動方向に対し定められた閾値角度内にない場合は進展しないものとする。
【0073】
本実施の形態であるき裂発生条件判定部33bでは、非金属材料について累積せん断歪みを算出し、その値から変形量を計算している。
図11に示すように、正方形であったものが、変形によりひし形に歪んだ場合、塑性流動方向に対し定められた閾値角度は見かけ上大きくなる。また、ステップ2に進む際にき裂の先端距離で連結の判定を行うが、変形に伴いこの距離も変わってくる。変形に伴い閾値角度およびき裂先端距離の評価を再度行なうことを、種と距離の動的判定と呼ぶことにする。
【0074】
閾値角度θは
【数6】
で補正させる。先端座標は1次変換行列
【数7】
により写像させた点で評価する。
【0075】
本実施の形態であるき裂発生条件判定部33bにおいて判定されるき裂発生条件は、(a)ラチェッティングによるき裂発生条件と、(b)疲労によるき裂発生条件と、(c)これらのうち早いものの3つの条件が存在する。ラチェッティングは累積せん断歪みが規定値を超えた場合の条件であり、変形による発生条件である。疲労は各種モデルで計算された限界サイクル数を実際のサイクル数が超えた場合の条件である。
【0076】
(a)ラチェッティングによるき裂発生条件
(a−1)累積せん断ひずみモデル
フェライト、パーライトの各要素には、材料特性(初期せん断降伏応力、破壊の限界せん断ひずみ)を割り当てる。初期せん断降伏応力は以下の式に従う。
[数8]
k
0=0.8×10
6H
n (7)
ここで、
k
0:初期せん断降伏応力
H
n:ナノ硬さ
である。H
nはフェライト相、パーライト相で以下の値とする。
【表1】
【0077】
破壊の限界せん断ひずみγ
cは、フェライト、パーライト共に以下の値とする。
[数9]
γ
c=11 (8)
【0078】
本実施の形態であるき裂発生条件判定部33bでは、荷重サイクルが進むにつれてせん断ひずみが累積するモデルを採用する。モデルは、以下のものを採用する。
【数10】
ここで、
【数11】
である。
【0079】
式(7)により求められたフェライト・パーライトの各要素における全累積せん断ひずみγ
ijが、要素毎に初期に割り当てられた破壊の限界せん断ひずみγ
cを超えた場合に、き裂が発生するものとする。
【0080】
また、パラメータα、βはフェライト、パーライトで以下の値とする。
【表2】
【0081】
累積せん断ひずみは、レール接触解析部32aにより算出された車輪/レール接触の応力値より算出する。累積せん断ひずみの算出には最大直交せん断応力τ
jzx(max)が必要であるが、この応力値はレール接触解析部32aによる車輪/レール接触解析の結果を用いる。
【0082】
ここで、累積せん断ひずみは粒界フェライト部分についても考慮している。フェライト相の場合、その結晶粒の累積せん断ひずみはフェライトの材料特性より算出したものを用いるが、パーライト相の場合は、粒界と結晶粒のそれぞれの材料特性より求めた累積せん断ひずみに体積比を乗じて合計する。
【0083】
ここで、パーライトの累積せん断歪みをrp、フェライト相の累積せん断歪みをrfとすると、全体の累積せん断歪みは
[数12]
rp×(1-Ab/Aa)+rf×Ab/Aa (12)
となる。このような計算で求めた累積せん断歪みを各結晶粒に保持する。ラチェッティングによるき裂の発生判定には、上記で求めた全体の累積せん断歪みの値を利用する。
【0084】
(a−2)累積垂直ひずみモデル
き裂の発生条件には関係しないが、垂直方向の変形算出に際して累積せん断ひずみと同様の方法を用いている。
【数13】
上記の式は式(7)〜(11)に対応したものである。これらの式からある行(同じ高さの粒子群)のひずみを求めることができ、車輪通過ごとの垂直方向の変位は、Δε
ij×(ある行の高さ)で求められる。
【0085】
(b)疲労によるき裂発生条件
疲労によるき裂発生は、荷重サイクル数が下式(17)で得られるNを超えた際に発生するものとする。
【数14】
ここで、すべり帯の長さdは、
図12に示すように、各結晶粒において、重心62を通り塑性流動方向に伸ばした直線63がそれぞれ界面64と交わる線分の長さとする。
【0086】
また、下式(18)により、分解せん断応力範囲Δτ
resを算出する。
[数15]
Δτ
res=τ
max−τ
min (18)
ここで、τ
max、τ
minはレール接触解析部32aによる車輪/レール接触解析の結果から取得することができる。応力の評価の座標は仮想的なき裂の種、方向は仮想的なき裂進展方法とする。
【0087】
(D−3)き裂進展量算出
ステップS23では、き裂発生条件判定部33bによりき裂が発生すると判定されたので(ステップS22においてYES)、き裂進展解析部33のき裂進展量算出部33cが模擬レール51に生じうるき裂の進展速度を算出する。
【0088】
き裂進展量算出部33cにおいて算出されるき裂進展量におけるき裂進展規則は、フェライト相・パーライト相・非金属材料に共通である。
【0089】
本実施の形態であるき裂進展量算出部33cにおけるき裂進展のアルゴリズムは、H. A. Suharutono,K. Potter,A. Schram and H. Zenner,“Multiaxial Fatigue and Deformation: Testing and Prediction”,ASTM STP 1387,2000,pp.323を基にしている。
【0090】
(a)第1ステップ
結晶粒内を進展するき裂は、
図13に示すように、き裂65の原点(き裂の種)60から、スリップライン(き裂方向)66に沿って式(19)に従って進展する。ここで、aはき裂の長さであり、Nは応力の負荷回数である。
【数16】
式(20)は、スリップラインに沿って働くせん断応力の変動幅を表しており、Δσ
x、Δσ
y、Δσ
xyはX、Y軸で定義される垂直応力とせん断応力の変動幅である。き裂進展量算出部33cでは、き裂発生条件判定部33bで求めた値を用いてき裂進展量を算出する。
【0091】
(b)第2ステップ
複数のき裂は、その先端の距離が結晶粒径の25%以内であり、且つ、き裂自身の長さが結晶粒径の75%に達すると互いに結合する。ただし、結合直前のき裂の形状は、結合後に変化することはない。また、き裂の長さが結晶粒径の3倍に達したとき今度は、き裂は次式(21)に従って進展する。
【数17】
ただし、複数のき裂が結合した場合、き裂の長さを、最も長くなる先端同士の直線距離で定義する。また、き裂面はその直線方向で定義し、θはその角度である。き裂の角度が塑性流動方向に対し定められた閾値角度内に含まれない場合は進展しない。Δεは、この面にかかる垂直歪みの変動幅である。
【0092】
この段階では、き裂はき裂面に対する垂直歪みが引張時においてのみ進展するため、式(22)の歪みの値が負になった場合は、計算上Δεは0で置き換えられる。また、式(19)で計算されるき裂の進展が式(21)の結果よりも大きい場合には、式(19)の値を用いている。
【0093】
本実施の形態であるき裂進展量算出部33cでは、初期構造として正六角形状からの結晶粒のゆがみを与えることができる。このゆがみ形状は、星出敏彦、河端享介、井上達雄、日本機械学会論文集A編、55巻、1989年、pp.222を基にしたアルゴリズムを用いて与えられ、
図14に示すように、六角形の各頂点を0<r<ζLの範囲内でランダムに移動させている。ここでLは正六角形の一辺の長さであり、各結晶粒の大きさを決める。ζは、歪みの大きさを表すパラメータである。
【0094】
結晶粒を正六角形から歪ませると、結晶粒径を正しく定義することはできない。そのため、き裂の結合判定やき裂の進展速度式の選択に使われる結晶粒径は、本実施の形態では、結晶粒を歪ませる前の半径の2倍(つまり2L)として定義している。
【0095】
本実施の形態であるき裂進展量算出部33cでは、以下の摩耗モデルを実装している。摩耗された領域においてき裂が進展することは物理的にありえないので、き裂進展量算出部33cにおいて、摩耗された領域のき裂が進展しない処理が行われている。
【0096】
上述したArchard摩耗モデルの摩耗深さは以下の式で求めることができる。
【数18】
この摩耗深さΔz(x,y)は接触面が一要素分移動する際に摩耗する量である。車輪の接触面は、ある面積を持って移動するため、車輪通過1サイクルにおいて一要素が摩耗する量は、接触面積分を重ね合わせた量となる。
【0097】
また、本実施の形態であるき裂進展量算出部33cでは、粗さ接触モデルを実装している。粗さ接触は、以下の式を直交せん断応力(垂直応力)に乗じることによって定義する(第1ステップおよび第2ステップ共通)。
【数19】
ここで、zは接触面からの深さ、A=2、d=15μm(影響深さ)とする。
【0098】
ステップS13及び
図3に示すステップにおいて算出されたき裂進展量は、き裂進展量データ46として記憶部21に少なくとも一時的に格納される。
【0099】
(E)きしみ割れ推定
図2に戻って、ステップS14では、きしみ割れ推定部34が、摩耗進展解析部32、特に摩耗量算出部32bにより算出された摩耗の進展速度と、き裂進展解析部33、特にき裂進展量算出部33cにより算出されたき裂の進展速度とを用いて、模擬レール51にきしみ割れが生じるか否かを推定する。そして、模擬レール51にきしみ割れが生じると推定したら(ステップS14においてYES)、ステップS15においてきしみ割れ推定部34が模擬レール51にきしみ割れが推定する旨の表示を表示装置12に表示する。一方、模擬レール51にきしみ割れが生じないと推定したら(ステップS14においてNO)、プログラムはステップS16に進む。
【0100】
(F)レールモデルデータ更新
ステップS16において、摩耗進展解析部32のレールモデルデータ更新部32cは、摩耗量算出部32bにより算出された摩耗量に基づいてレールモデルデータ41(含むレール形状データ42)を更新する。そして、プログラムはステップS10に戻り、車両運動解析部31は、レールモデルデータ更新部32cにより更新されたレールモデルデータ41を用いて模擬レール51に作用する力を算出する。
【0101】
(本実施の形態の効果)
このように構成された本実施の形態のきしみ割れ推定装置10では、車両モデルデータ40及びレールモデルデータ41を用いて模擬レール51上を模擬車両50が走行した際の模擬レール51に作用する力を算出する車両運動解析部31と、車両運動解析部31により算出された力を用いて模擬レール51の摩耗の進展速度を算出する摩耗進展解析部32と、車両運動解析部31により算出された力を用いて模擬レール51に生じうるき裂の進展速度を算出するき裂進展解析部33と、摩耗の進展速度とき裂の進展速度とを用いて模擬レール51にきしみ割れが生じるか否かを推定するきしみ割れ推定部34とを有する。
【0102】
このようにすることで、模擬レール51と模擬車両50の車輪との接触状態に基づいてきしみ割れの発生を定量的に推定することができる。
【0103】
ここで、摩耗進展解析部32が、車両運動解析部31により算出された力を用いて模擬車両50と模擬レール51との接触面内における接触応力を算出するレール接触解析部32aと、レール接触解析部32aにより算出された接触応力に基づいて模擬レール51の摩耗の進展速度を算出する摩耗量算出部32bとを有するので、摩耗進展解析部32による模擬レール51の摩耗の進展速度算出処理をより正確に定量的に行うことができ、結果として、きしみ割れの発生をより定量的に推定することができる。
【0104】
また、摩耗進展解析部32が摩耗量算出部32bにより算出された摩耗量に基づいてレールモデルデータ41を更新するレールモデルデータ更新部32cを有し、車両運動解析部31がレールモデルデータ更新部32cにより更新されたレールモデルデータ41を用いて模擬レール51に作用する力を算出するので、模擬レール51の摩耗量を的確にフィードバックして模擬レール51に作用する力を算出することができ、結果として、きしみ割れの発生をより定量的に推定することができる。
【0105】
さらに、き裂進展解析部33が、レール接触解析部32aにより算出された接触応力に基づいて模擬レール51にき裂が発生するか否かを判定するき裂発生条件判定部33bと、き裂発生条件判定部33bによりき裂が発生すると判定されたら模擬レール51に生じうるき裂の進展速度を算出するき裂進展量算出部33cとを有するので、き裂進展解析部33による、模擬レール51に生じうるき裂の進展速度算出処理をより正確に定量的に行うことができ、結果として、きしみ割れの発生をより定量的に推定することができる。
【0106】
そして、き裂進展解析部33がき裂発生条件判定部33bによる判定動作に必要なパラメータの初期値を設定する初期値設定部33aを有し、き裂発生条件判定部33bが初期値設定部33aにより設定されたパラメータの初期値を用いて模擬レール51にき裂が発生するか否かを判定するので、模擬レール51と模擬車両50の車輪との接触状態に基づいてきしみ割れの発生を定量的に推定することができる。
【0107】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態及び実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0108】
例えば、上述の実施の形態であるきしみ割れ推定システムSでは、推定装置10内に記憶部21を設けていたが、記憶部21を推定装置10とは別体に構成することも可能である。
【0109】
そして、上述の実施例において、推定装置10を動作させるプログラムは記憶部21に格納されて提供されていたが、不図示の光学ディスクドライブ等を用いて、プログラムが格納されたDVD(Digital Versatile Disc)、USB外部記憶装置、メモリーカード等を接続し、このDVD等からプログラムを推定装置10に読み込んで動作させてもよい。また、インターネット上のサーバ装置内にプログラムを格納しておき、推定装置10に通信部を設けてこのプログラムを推定装置10に読み込んで動作させてもよい。さらに、上述の実施例において、推定装置10は複数のハードウェア要素により構成されていたが、これらハードウェア要素の一部の動作を制御部20がプログラムの動作により実現することも可能である。