(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1,2は実施の形態1に係る超音波スピーカ1の構成例を示す図であり、
図3は実施の形態1における振動膜12の構成例を示す図であり、
図4は実施の形態1における電極膜123〜125の接続例を示す図である。
図1は超音波スピーカ1の組立て前の状態を示す図であり、
図2は超音波スピーカ1の組立て後の状態を示す図である。また、
図1〜3では、印加部13の図示を省略している。
超音波スピーカ1は、超音波を空気中に放射する。この超音波スピーカ1は、
図1〜4に示すように、フレーム11、振動膜12及び印加部13を備えている。また、振動膜12は、圧電性膜(第1の圧電性膜)121、圧電性膜(第2の圧電性膜)122、電極膜(第1の電極膜)123、電極膜(第2の電極膜)124及び電極膜(第3の電極膜)125を有するバイモルフ構造の振動膜である。
【0014】
フレーム11は、主面に1つ以上の開口111を有する板状部材である。
図1,2では、開口111は、矩形状の溝に構成され、フレーム11の主面において横方向に沿って所定の間隔で複数設けられている。このフレーム11は、主面に振動膜12が搭載され、当該振動膜12を固定する。
【0015】
圧電性膜121は、フィルム状に構成された分極した圧電素子である。
図1,2では、圧電性膜121は、フレーム11の主面と略同一の大きさに構成されている。
【0016】
圧電性膜122は、フィルム状に構成された分極した圧電素子である。圧電性膜122は、一面(上面)が圧電性膜121の一面(下面)に対向し、分極方向が圧電性膜121と同じ方向である。
図1,2では、圧電性膜122は、圧電性膜121と同一(略同一の意味を含む)の大きさ及び厚みに構成されている。
【0017】
圧電性膜121,122は、例えば、高分子樹脂圧電材又は複合物圧電材から構成される。高分子樹脂圧電材は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の部材である。また、複合物圧電材は、硬質である無機質圧電材の粉末が高分子樹脂に混合された部材である。
【0018】
電極膜123は、導電性を有する膜であり、圧電性膜121の他面(上面)に設けられている。電極膜123は、1つ以上のスリット1231を有している。
図1,2では、スリット1231は、上辺からT字状に形成され、横方向に沿って所定の間隔で複数設けられている。このスリット1231により、
図2,3に示すように、電極膜123は、振動膜12がフレーム11に搭載された際に、開口111における左右一対の辺から各々突出した凸部1232,1233を有する形状に構成される。
図1,2では、振動膜12がフレーム11に搭載された際に、電極膜123の下辺がフレーム11の下辺に位置し、電極膜123の上辺が開口111の上辺よりも下側に位置するように、電極膜123の長さが設計されている。また、
図1,2では、振動膜12がフレーム11に搭載された際に、スリット1231のうちのT字の縦棒部分が開口111内に位置し、T字の横棒部分が開口111の下辺に位置するように、電極膜123上でのスリット1231の位置が設計されている。
【0019】
電極膜124は、導電性を有する膜であり、圧電性膜121の一面(下面)と圧電性膜122の一面(上面)との間に設けられている。電極膜124は、1つ以上のスリット1241を有している。
図1,2では、スリット1241は、下辺からT字状に形成され、横方向に沿って所定の間隔で複数設けられている。このスリット1241により、
図3に示すように、電極膜124は、振動膜12がフレーム11に搭載された際に、開口111における左右一対の辺から各々突出した凸部1242,1243を有する形状に構成される。
図1,2では、振動膜12がフレーム11に搭載された際に、電極膜124の上辺がフレーム11の上辺に位置し、電極膜124の下辺が開口111の下辺よりも上側に位置するように、電極膜124の長さが設計されている。また、
図1,2では、振動膜12がフレーム11に搭載された際に、スリット1241のうちのT字の縦棒部分が開口111内に位置し、T字の横棒部分が開口111の上辺に位置するように、電極膜124上でのスリット1241の位置が設計されている。
【0020】
電極膜125は、導電性を有する膜であり、圧電性膜122の他面(下面)に設けられている。電極膜125は、1つ以上のスリット1251を有している。
図1,2では、スリット1251は、上辺からT字状に形成され、横方向に沿って所定の間隔で複数設けられている。このスリット1251により、
図3に示すように、電極膜125は、振動膜12がフレーム11に搭載された際に、開口111における左右一対の辺から各々突出した凸部1252,1253を有する形状に構成される。また、
図4に示すように、電極膜125は、電極膜123と電気的に接続されている。
図1,2では、振動膜12がフレーム11に搭載された際に、電極膜125の下辺がフレーム11の下辺に位置し、電極膜125の上辺が開口111の上辺よりも下側に位置するように、電極膜125の長さが設計されている。また、
図1,2では、振動膜12がフレーム11に搭載された際に、スリット1251のうちのT字の縦棒部分が開口111内に位置し、T字の横棒部分が開口111の下辺に位置するように、電極膜125上でのスリット1251の位置が設計されている。
【0021】
このように、電極膜123〜125は、圧電性膜121,122を挟み込むように配置されている。そして、電極膜123〜125は、圧電性膜121,122に対する導電性パターンとなる。
なお
図1,2では、電極膜123〜125は全て同一(略同一の意味を含む)形状に構成されている。
【0022】
なお、圧電性膜121,122に対する導電性パターン(電極膜123〜125)の成形方法としては、圧電性膜121,122に対するアルミ等の導電材の真空蒸着又はスパッタリング或いは導電材が混合された銀ペースト等のインクを用いたスクリーン印刷等がある。
また、振動膜12のうちの導電性パターンのない領域における圧電性膜121,122同士の接合は、接着又は圧着等により実施される。
図3,4では、圧電性膜121,122間における接着剤の図示を省略している。
【0023】
印加部13は、
図4に示すように、電極膜123及び電極膜125と電極膜124との間に、電気信号を印加する。印加部13が電極膜123〜125に対して電気信号を印加すると、振動膜12には電極膜123〜125で挟まれた領域に電界が生じる。
図4に示すように、電極の極性は、電極膜123及び電極膜125が同じ極性になる。
図4において、(+)及び(−)は極性を示している。
【0024】
次に、
図1〜4に示す超音波スピーカ1の動作例について、
図5,6を参照しながら説明する。なお、圧電性膜121,122は、分極方向が同じ向きである。
まず、印加部13が、電極膜123,125を+極とし、電極膜124を−極とするように電気信号を印加した場合について説明する。この場合、
図5に示すように、振動膜12の電極膜123〜125で挟まれた領域に生じた電界による圧電効果によって、上側の圧電性膜121は縮み、下側の圧電性膜122は伸びる。その結果、振動膜12は、フレーム11の開口111における一対の辺を固定点として中央に向かって上方向に反り曲り、略台形の断面形状で上方向に突き出る。
【0025】
一方、振動膜12は、略台形の断面形状に変形するため、上底部分(
図5に示す符号501部分)である圧電性膜121,122のみの部分に伸びが生じる。すなわち、圧電性膜121,122に左右に引っ張られる張力が生じる。しかしながら、この張力は、振動膜12が開口111における一対の辺を固定点として中央に向かって上方向に曲がる構造であり、且つ、圧電材料自体の変位は極めて小さいため、振動膜12が略台形の断面形状で変形するのに問題ない程度に小さい。
【0026】
また、振動膜12の上方向への変位の高さは、下式(1)から予測可能である。式(1)において、ΔLは振動膜12の上方向への変位の高さを示し、Lは開口111における凸部1232,1233,1242,1243,1252,1253の突出長さを示し、tは圧電性膜121,122の厚みを示し、d
31は圧電性膜121,122の圧電定数を示し、Vは印加部13による印加電圧を示している。そして、ΔLから振動膜12の上底の伸びの長さを予測可能である。振動膜12の上底の伸びの長さは、振動膜12の動作に影響を与えない上底の伸び代を設定する際に重要な値となる。
ΔL=(3/4)×(L/t)
2×d
31×V (1)
【0027】
次に、印加部13が、電極膜123,125を−極とし、電極膜124を+極とするように電気信号を印加した場合について説明する。この場合、
図6に示すように、振動膜12の電極膜123〜125で挟まれた領域に生じた電界による圧電効果によって、上側の圧電性膜121は伸び、下側の圧電性膜122は縮む。その結果、振動膜12は、フレーム11の開口111における一対の辺を固定点として中央に向かって下方向に反り曲り、略逆台形の断面形状で下方向に凹む。
【0028】
また、この場合、圧電性膜121,122に張力が生じる点、及び、振動膜12の下方向への変位の高さ及び振動膜12の上底部分の伸びの長さの予測方法については、上記と同様である。
【0029】
したがって、印加部13が電極膜123〜125に交流のオーディオ信号を印加すると、フレーム11の開口111に対向した圧電性膜121,122は、その電圧の強さに応じて伸縮し、また、電界の極性に応じた方向に曲がる。その結果、振動膜12は振幅を行い、超音波スピーカ1は音を放射する。
【0030】
なお、圧電性膜121,122としてPVDFから成るフィルムを用いた場合、このフィルムは、厚いほど電気インピーダンスが高くなり、また、薄いほどΔLが大きくなる。よって、この場合には、超音波スピーカ1としては、薄いフィルムのものを選択することが好ましい。
【0031】
なお上記では、電極膜123〜125のうちの全てに凸部1232,1233,1242,1243,1252,1253を構成した場合を示した。しかしながら、これに限らず、開口111における一対の辺から各々突出した凸部の領域で電界が発生すればよく、電極膜123〜125のうちの一部の電極膜に対してのみ凸部を構成してもよい。
【0032】
図7,8では、電極膜124には凸部1242,1243が構成されず(スリット1241が形成されず)、電極膜123及び電極膜125のみ凸部1232,1233,1252,1253が構成された(スリット1231,1251が形成された)場合を示している。
図7,8では、電極膜124には凸部1242,1243が構成されず、圧電性膜121,122のほぼ全面が電極とされている。この場合でも、振動膜12のうちの電極膜123〜125が対向する領域だけに電界が生じるため、上記と同様に、必要な領域だけに電界が生じることになる。
【0033】
以上のように、この実施の形態1によれば、超音波スピーカ1は、振動膜12と、主面に開口111を有し、主面に振動膜12が搭載されたフレーム11と、振動膜12に電気信号を印加する印加部13とを備え、振動膜12は、分極した圧電性膜121と、一面が圧電性膜121の一面に対向し、分極方向が当該圧電性膜121と同じ方向である圧電性膜122と、圧電性膜121の他面に設けられた電極膜123と、圧電性膜121の一面と圧電性膜122の一面との間に設けられた電極膜124と、圧電性膜122の他面に設けられた電極膜125とを有し、印加部13は、電極膜123及び電極膜125と電極膜124との間に電気信号を印加し、電極膜123、電極膜124及び電極膜125のうちの1つ以上の電極膜は、スリットを有することで開口111における一対の辺から各々突出した凸部を有する形状に構成された。これにより、実施の形態1に係る超音波スピーカ1は、平坦な振動膜12で、圧電性膜121,122の面方向の伸縮を面方向に垂直な方向への振幅運動に変換可能となる。その結果、実施の形態1に係る超音波スピーカ1は、高い音圧の超音波が得られる。
【0034】
また、実施の形態1に係る超音波スピーカ1では、振動膜12が平坦な形状であり、振動膜12のうちの音を放射する部分を円弧状に突き出した形状又は凹んだ形状とする必要はない。よって、実施の形態1に係る超音波スピーカ1では、空気及びグラスウールの充填が不要となり、また、直流バイアスを印加するための電気回路が不要となる。
【0035】
実施の形態2.
図9,10は実施の形態2に係る超音波スピーカ1の構成例を示す図である。
図9,10に示す実施の形態2に係る超音波スピーカ1は、
図1,2に示す実施の形態1に係る超音波スピーカ1に対し、圧電性膜121,122の形状を変更している。
図9,10に示す実施の形態2に係る超音波スピーカ1のその他の構成は、
図1,2に示す実施の形態1に係る超音波スピーカ1の構成と同様であり、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0036】
実施の形態2における圧電性膜121は、実施の形態1における圧電性膜121に対し、1つ以上のスリット1211を有している。
図9では、スリット1211は、H字状に形成され、横方向に沿って所定の間隔で複数設けられている。このスリット1211により、
図10に示すように、圧電性膜121は、振動膜12がフレーム11に搭載された際に、開口111における左右一対の辺から各々突出した凸部1212,1213を有する形状に構成される。
図9では、振動膜12がフレーム11に搭載された際に、スリット1211のうちのH字の横棒部分が開口111内に位置し、H字の一方の縦棒部分が開口111の下辺に位置し、H字の他方の縦棒部分が開口111の上辺に位置するように、圧電性膜121上でのスリット1211の位置が設計されている。
【0037】
実施の形態2における圧電性膜122は、実施の形態1における圧電性膜122に対し、1つ以上のスリット1221を有している。
図9では、スリット1221は、H字状に形成され、横方向に沿って所定の間隔で複数設けられている。このスリット1221により、
図10に示すように、圧電性膜122は、振動膜12がフレーム11に搭載された際に、開口111における左右一対の辺から各々突出した凸部1222,1223を有する形状に構成される。
図9では、振動膜12がフレーム11に搭載された際に、スリット1221のうちのH字の横棒部分が開口111内に位置し、H字の一方の縦棒部分が開口111の下辺に位置し、H字の他方の縦棒部分が開口111の上辺に位置するように、圧電性膜122上でのスリット1221の位置が設計されている。
【0038】
なお
図9,10では、圧電性膜122は圧電性膜121と同一(略同一の意味を含む)形状に構成されている。
【0039】
ここで、実施の形態1に係る超音波スピーカ1では、圧電スピーカとしての防水効果を高めるため、振動膜12が密閉状態となるように、圧電性膜121,122を隙間のないフィルム状としている。一方、実施の形態2に係る超音波スピーカ1では、圧電性膜121,122にスリット1211,1221を形成している。これによっても、実施の形態2に係る超音波スピーカ1は、実施の形態1に係る超音波スピーカ1と同様の効果が得られる。また、実施の形態2に係る超音波スピーカ1は、振動膜12にスリット1211,1221による隙間ができるため、防水効果は無くなるが、実施の形態1に係る超音波スピーカ1と同等以上の音圧が得られる。
【0040】
次に、
図9に示す超音波スピーカ1の動作例について、
図10を参照しながら、実施の形態1と異なる動作を主に説明する。なお、圧電性膜121,122は、分極方向が同じ向きである。
印加部13が、電極膜123,125を+極とし、電極膜124を−極とするように電気信号を印加すると、振動膜12の電極膜123〜125で挟まれた領域に生じた電界による圧電効果によって、上側の圧電性膜121は縮み、下側の圧電性膜122は伸びる。その結果、振動膜12は、フレーム11の開口111における一対の辺を固定点として中央に向かって上方向に反り曲り、略台形の断面形状で上方向に突き出る。この際、振動膜12における略台形の断面形状の上底部分(
図10に示す符号1001部分)はスリット1211,1221により隙間があるため、実施の形態1では生じた張力が、実施の形態2では生じない。すなわち、実施の形態2に係る超音波スピーカ1では、振動膜12が上方向に曲がるのを抑制する力が発生しない。印加部13が、電極膜123,125を−極とし、電極膜124を+極とするように電気信号を印加した場合についても同様である。よって、実施の形態2に係る超音波スピーカ1では、実施の形態1に係る超音波スピーカ1に対し、振動膜12が振幅し易くなり、より高い音圧を得ることができる。
【0041】
以上のように、この実施の形態2によれば、圧電性膜121は、スリット1211を有することで開口111における一対の辺から各々突出した凸部1212,1213を有する形状に構成され、圧電性膜122は、スリット1221を有することで開口111における一対の辺から各々突出した凸部1222,1223を有する形状に構成された。これにより、実施の形態2に係る超音波スピーカ1は、実施の形態1に係る超音波スピーカ1に対し、防水効果はなくなるものの、同等以上の音圧が得られる。
【0042】
また
図1,2,7,9では、開口111が直線状に配列されている。しかしながら、これに限らず、開口111が、例えば超音波スピーカ1の外形形状に応じて同心円状又は曲線状に配列されていてもよく、上記と同様の効果が得られる。
【0043】
なお実施の形態1,2では、超音波スピーカ1は、音を放射する送信用のものを想定して説明を行った。しかしながら、これに限らず、超音波スピーカ1は、超音波帯域を使用した超音波センサの受信用としても利用可能である。
【0044】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組合わせ、或いは各実施の形態の任意の構成要素の変形、若しくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。