特許第6861696号(P6861696)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6861696モリブデンおよびビスマスを含有する混合金属酸化物触媒の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861696
(24)【登録日】2021年4月1日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】モリブデンおよびビスマスを含有する混合金属酸化物触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/192 20060101AFI20210412BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20210412BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20210412BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20210412BHJP
   C07C 45/35 20060101ALI20210412BHJP
   C07C 47/22 20060101ALI20210412BHJP
   C07C 51/21 20060101ALI20210412BHJP
   C07C 57/05 20060101ALI20210412BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20210412BHJP
【FI】
   B01J27/192 Z
   B01J37/02 301M
   B01J37/04 102
   B01J37/08
   C07C45/35
   C07C47/22 A
   C07C51/21
   C07C57/05
   !C07B61/00 300
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-502745(P2018-502745)
(86)(22)【出願日】2016年7月19日
(65)【公表番号】特表2018-521851(P2018-521851A)
(43)【公表日】2018年8月9日
(86)【国際出願番号】EP2016067180
(87)【国際公開番号】WO2017013115
(87)【国際公開日】20170126
【審査請求日】2019年7月16日
(31)【優先権主張番号】15177519.4
(32)【優先日】2015年7月20日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アヒム フィッシャー
(72)【発明者】
【氏名】アクセル メッシャー
(72)【発明者】
【氏名】ハラルト ヤーコプ
【審査官】 佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−523809(JP,A)
【文献】 特開2010−207803(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/050615(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第104193582(CN,A)
【文献】 特開2012−110806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C07B 61/00
C07C 45/34
C07C 47/21
C07C 51/21
C07C 57/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンの部分酸化による不飽和アルデヒドおよび/または酸の製造用混合酸化物触媒の製造方法であって、
a)混合酸化物触媒の成分の前駆体化合物の溶液および/または懸濁液を準備する工程、ここで前記溶液および/または懸濁液はビスマスの前駆体化合物およびモリブデンの前駆体化合物またはビスマスおよびモリブデンの前駆体化合物を含有し、懸濁液がスプレー乾燥される場合、前記懸濁液中の固形分の濃度は10〜50質量%である、
b)工程a)で準備した溶液および/または懸濁液を、スプレー乾燥機への入口温度が160±10℃〜200±10℃でありかつスプレー乾燥機からの出口温度が90±10℃〜105±10℃であるガス流と一緒に並流でスプレー乾燥する工程、ここで前記ガス流はスプレー乾燥機において2.0±0.3cm/s〜4.5±0.3cm/sの平均流速を有する、または
b’)工程a)で準備した溶液および/または懸濁液を、スプレー乾燥機への入口温度が260±10℃〜300±10℃でありかつスプレー乾燥機からの出口温度が115±10℃〜130±10℃である主要ガス流と一緒に実質的に並流でスプレー乾燥する工程、ここで前記主要ガス流はスプレー乾燥機において2.0±0.3cm/s〜4.5±0.3cm/sの平均流速を有し、ここで、100℃未満でかつ30℃以下の入口温度を有する追加のガス流を、主要ガス流のスプレー乾燥機への入口点と、スプレー乾燥機からの出口点との間でスプレー乾燥機中に供給し、その際、追加のガス流は2.0cm/s未満の平均流速を有する、および
c)工程b)またはb’)から得られたスプレー粒子を焼成して触媒活性物質を得る工程
を含
前記スプレー粒子の残留水分含有率が8%以上20%未満である、前記製造方法。
【請求項2】
工程b’)において、追加のガス流を、スプレー乾燥機の軸方向において上方でスプレー乾燥機の壁に対して90±5°〜0°の角度で供給する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程b’)において、追加のガス流を、スプレー乾燥機中の主要ガス流のための入口点と出口点との間の距離の1/3〜3/4の間の点でスプレー乾燥機中に供給する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
スプレー乾燥機中にスプレーされる溶液および/または懸濁液のスループットが1〜6kg/hである、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
工程a)において準備した溶液および/または懸濁液が混合酸化物触媒のすべての成分の前駆体化合物を含む、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
工程a)における溶液および/または懸濁液が、鉄、タングステン、リン、コバルト、ニッケル、アルカリ金属、アルカリ土類金属、セリウム、マンガン、クロム、バナジウム、ニオブ、セレン、テルリウム、ガドリニウム、ランタン、イットリウム、パラジウム、白金、ルテニウム、銀、金、サマリウム、シリコン、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムからなる群から選択される元素の前駆体化合物も少なくとも1種含有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
工程a)において、混合酸化物触媒の異なる成分ごとに前駆体化合物を含む溶液および/または懸濁液を使用し、工程a)およびb)、または工程a)およびb’)を1回より多く繰り返す、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
d)前駆体化合物の溶液および/または懸濁液を、混合酸化物触媒の異なる成分ごとに工程b)またはb’)で使用する場合、工程c)から得られた触媒活性物質を混合して、混合酸化物触媒のすべての成分を含む触媒活性物質を得る工程をさらに含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
e)成形剤および/または結合剤を、工程c)またはd)から得られた触媒活性物質に添加する工程、
f)工程e)から得られた触媒活性物質を成形して混合酸化物触媒を含む成形体を得る工程、および
g)工程f)から得られた触媒成形体を乾燥および/または焼成および/または熱処理する工程
をさらに含む、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
h)工程c)から得られた触媒活性物質を含むウォッシュコート懸濁液を準備する工程、
i)工程h)からの前記ウォッシュコート懸濁液を担体材料に適用する工程、および
j)工程i)から得られた前記担体材料を乾燥および/または焼成および熱処理して担持型混合酸化物触媒を得る工程
をさらに含む、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項に従って得られるまたは得ることができる混合酸化物触媒の、オレフィンの部分酸化による不飽和アルデヒドおよび/または酸の製造における使用。
【請求項12】
前記オレフィンがC〜Cオレフィンである、請求項11記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合酸化物触媒の製造方法、この方法により得られる混合酸化物触媒、およびオレフィンの部分酸化におけるこれらの触媒の使用に関する。
【0002】
混合酸化物触媒、特に酸化モリブデンおよび酸化ビスマスをベースにした触媒は、アクロレインおよびアクリル酸またはメタクロレインおよびメタクリル酸、さらにはアクリロニトリルの工業的製造に使用されている。これらの化合物は、それぞれの混合酸化物触媒を主に含む触媒固定床にわたって気相中で、プロペンまたはイソブテンまたはtert−ブタノールを、空気またはアンモニアによって不均一系触媒作用により部分酸化する形で調製される。
【0003】
本発明の文脈では、「部分酸化」、「部分気相酸化」および「気相部分酸化」という用語は、分子酸素の反応作用下での有機化合物の転化を指すものとして使用されており、その際、反応が完了した後に部分的に酸化されるべき有機化合物は、部分酸化または部分気相酸化または気相部分酸化の実施前よりも多くの、少なくとも1つの化学的に結合された酸素原子を含有する。
【0004】
部分酸化、部分気相酸化または気相部分酸化とは対照的に、「完全酸化」という用語は、本発明の文脈では、有機化合物中に存在するすべての炭素原子が炭素の酸化物に転化するおよび/または有機化合物中に存在するすべての水素原子が水素の酸化物に転化する、分子酸素の反応作用下での有機化合物の転化を指すものとして使用される。
【0005】
酸化反応を開始するのに必要なエネルギーは、外部熱媒体を介して反応物に供給され、工業規模では、例えば、混合酸化物触媒を含有しかつ反応ガスが流れる反応管を囲む塩浴を介して反応物に供給される。酸化反応が開始した後、外部熱媒体は一般に発生した反応熱を除去する役割をする。なぜなら、気相部分酸化は通常、発熱的に進行するからである。市販の混合酸化物触媒は、通常、数年間の耐用年数を有する。この間に触媒はエージングが進み、このことは触媒が反応において使用開始時と同じ活性をもたなくなり、したがって使用済みの触媒床を新しい触媒に交換する必要があることを意味する。
【0006】
このエージングは、水または蒸気の存在下で部分気相酸化を行う際に、酸化状態のモリブデンを含有する活性物質を有する混合酸化物触媒を使用する場合に特に見られる。ほとんどの場合、蒸気は部分気相酸化で生成される。部分気相酸化中に存在する蒸気は揮発性のMoO(OH)を形成し、モリブデンは酸化状態で触媒固定床に存在すると考えられる。したがって、専門家の文献は、不均一系触媒による部分気相酸化の長期運転中に、モリブデンが混合酸化物触媒の活性物質からMoO(OH)として連続的に昇華するという見方を示す(Investigations of the mechanism and kinetics leading to a loss of molybdenum from bismuth molybdate catalysts、L. Zhangら、Applied Catalysis A: General (1994年)、117、163〜171頁を参照のこと)。混合酸化物触媒中の活性モリブデン成分の損失は、特に触媒固定床のホットスポットと呼ばれる領域で最も顕著である。ホットスポットとは、一般的に、触媒固定床の領域であって、触媒固定床全体にわたって進行する反応中の熱の発生がガス状の反応混合物の流れ方向において最も強い触媒固定床の領域を意味することが不均一系触媒の分野の当業者には理解されている。触媒固定床は複数のホットスポットを有し得る。これらの領域を通過した後、ガスの流れ方向の温度も著しく低下し、酸化モリブデンは、反応管の内壁のより冷たい地点で薄いコーティングまたはフィルムとして再び析出する(欧州特許第2155376号明細書(EP 2 155 376 A1)を参照)。
【0007】
固定触媒床の領域が活性成分からモリブデンを浸み出させると、ホットスポットは、ガスの流れ方向で触媒固定床の温度がこれまでよりも低く、したがってモリブデンが浸み出されていない領域に触媒固定床に沿ってさらに移動する。次に、これらの領域またはゾーンからも同様にモリブデンが段階的に浸み出す。触媒からの活性モリブデン成分のゾーンごとの浸み出しにより、このプロセスはゾーンエージング(バンドエージング)とも呼ばれる。
【0008】
したがって、運転時間の増加に伴い、触媒の活性物質中のモリブデンの割合だけでなく、触媒作用をもたらすべき転化のための混合酸化物触媒の活性も低下する。このことは有機反応物の低下した転化に現れる。その他の点では反応条件を変更しない前提で、反応器を1回通過することで酸化される化合物について、混合酸化物触媒の活性が低下する前と同じ転化率を達成する値まで、特定の転化に必要な塩浴の温度を上昇させることによって転化率の低下を抑制することができる。
【0009】
したがって、混合酸化物触媒の活性または混合酸化物触媒を含む触媒固定床の活性の目安は、混合酸化物触媒を含む反応管を取り囲む塩浴の温度であり、これは例えばプロペンまたはイソブテンの有機反応物の特定の転化を達成するのに必要とされる。
【0010】
しかしながら、モリブデン含有混合酸化物触媒の失活を防止するために塩浴の温度を上げることは、問題の混合酸化物触媒の寿命にとって逆効果である。なぜなら、触媒床の温度が高いほど触媒のエージングまたは失活が加速し、使用済み触媒固定床をあまりにも早く新しい触媒と完全にまたは少なくとも部分的に交換する必要があるからである。このことは次に固定触媒床のより頻繁な交換とより頻繁な運転停止につながる。関連する生産損失だけでなく、使用済み触媒の廃棄および新しい触媒の製造も、かなりの追加的な財政負担となる。
【0011】
この問題を解決するために、国際公開第2005/049200号(WO 2005/049200 A1)は、個々のスプレー粉末から製造されかつ2〜4のコバルト/鉄比および0.3〜0.7のコバルト/モリブデン比を有する環状の非担持型触媒を提案する。コバルトの鉄に対する特定の比とコバルトのモリブデンに対する特定の比とを互いに組み合わせると、触媒の活性が低下すると言われている。このことはホットスポット温度の低下につながり、触媒の長期安定性およびアクロレイン形成の選択性にプラスの効果をもたらすと言われている。しかしながら、活性物質中の触媒活性元素の特定の比は、製造可能な触媒の数を著しく制限する。
【0012】
国際公開第2010/028977号(WO 2010/028977 A1)の環状混合酸化物触媒はまた、粒径および組成が異なる2種の出発組成物から製造される。国際公開第2010/028977号(WO 2010/028977 A1)の技術的な教示によれば、触媒の製造の間、2種の出発組成物の特定の粒子サイズの比率および1種の出発組成物の化学量論係数の製造に関する特定の数字を観察し、触媒の適切な安定性を確保することが必要である。しかしながら、関連する製造プロセスは非常に複雑であり、同時に生産可能な触媒の数をかなり制限する。
【0013】
国際公開第2005/049200号(WO 2005/049200 A1)および国際公開第2010/028977号(WO 2010/028977 A1)の触媒のさらなる欠点は、プロペンの酸化活性が低下しているため、未転化プロペンの量が増加することである。転化されていないプロペンは、サイクルガスと呼ばれる部分気相酸化にリサイクルされなければならず、このことはかなりの資本およびエネルギーコストに関連する。サイクルガスの量をできるだけ少なく保つために、工業規模で行われる部分気相酸化では、この目標は、原則として国際公開第2005/049200号(WO 2005/049200 A1)または国際公開第2010/028977号(WO 2010/028977 A1)の触媒を用いて達成できるプロペン転化率よりも高いプロペン転化率である。
【0014】
公開された特許出願の欧州特許第2902105号明細書(EP 2 902 105 A1)も混合酸化物触媒から出てくるモリブデンの問題に取り組む。この文献によれば、モリブデンは反応中に複合酸化物触媒から出て、その触媒中のバナジウムの量を相対的に増加させ、原料への活性を過剰に増加させ、このことは副反応の速度を増加させる。この文献は、複合酸化物触媒がモリブデンのバナジウムに対する特定の比およびバナジウムのアンチモンに対する特定の比を有する場合、複合酸化物触媒の性能が向上し、過剰のバナジウム含量が低下することを教示している。欧州特許第2902105号明細書(EP 2 902 105 A1)は、プロパンまたはイソブタンを気相アンモ酸化反応させて不飽和ニトリルを得るための複合酸化物触媒の使用をさらに開示する。
【0015】
モリブデン含有複合酸化物触媒、および不飽和酸または不飽和ニトリルを製造するためのアルカンの気相酸化におけるそれらの使用も、公開された特許出願の特開2006−055682号明細書(JP 2006 055682 A1)に開示されている。この文献では、アルカリ土類金属元素と希土類元素から選ばれた非常に少量の少なくとも一種の元素を触媒に添加すると、触媒の性能が向上することが教示されている。具体的には、この文献はアルカリ土類金属元素および希土類金属元素のモリブデンに対する原子比が0<d<0.01であることを教示している。
【0016】
公開された国際特許出願の国際公開第2008/046843号(WO 2008/046843 A1)は、モリブデン含有混合酸化物触媒ならびに対応する不飽和アルデヒドおよび酸を得るためのアルカンの気相酸化におけるそれらの使用を開示している。この文献によれば、混合酸化物触媒は、アクロレインの生成に有用な選択性を提供するために、非常に特定量のリンまたはコバルトを含有すべきである。
【0017】
したがって、これらの文献の焦点は触媒の極めて特別な組成にある。しかしながら、これは得られる触媒の幅をかなり少数の有用な触媒に著しく制限する。さらに、これは触媒の製造プロセスがかなり複雑であり、制御が容易ではないという欠点も有する。
【0018】
したがって、部分的な気相酸化反応の実施中に、特に触媒のホットスポットにおいて発熱量が減少し、工業規模のプロセスでの使用にも適している混合酸化物触媒が必要である。
【0019】
本発明によれば、この問題は、溶液および/または懸濁液の形で準備される複合酸化物触媒の成分の前駆体化合物を、特定の温度領域でスプレー乾燥操作に付し、次に、このようにして得られたスプレー粒子を焼成して触媒活性物質を得ることによって解決される。
【0020】
したがって本発明は混合酸化物触媒の製造方法であって、
a)混合酸化物触媒の成分の前駆体化合物溶液および/または懸濁液を準備する工程、
b)工程a)で準備した溶液および/または懸濁液を、スプレー乾燥機への入口温度が150±10℃〜220±10℃でありかつスプレー乾燥機からの出口温度が80±10℃〜110±10℃であるガス流と一緒に並流でスプレー乾燥する工程、または
b’)工程a)で準備した溶液および/または懸濁液を、スプレー乾燥機への入口温度が250±10℃〜350±10℃でありかつスプレー乾燥機からの出口温度が110±10℃〜140±10℃である主要ガス流と一緒に実質的に並流でスプレー乾燥する工程、ここで100℃未満の入口温度を有する追加のガス流を、主要ガス流のスプレー乾燥機への入口点と、スプレー乾燥機からの出口点との間でスプレー乾燥機に供給する、および
c)工程b)またはb’)から得られたスプレー粒子を焼成して触媒活性物質を得る工程
を含む、前記製造方法を提供する。
【0021】
本発明の文脈では、スプレー乾燥操作は、溶液、懸濁液またはペースト状材料を乾燥させる方法を意味すると理解される。スプレー乾燥操作は、いわゆるスプレー塔またはスプレー乾燥機内で行われ、その上部にスプレー装置がある。スプレー装置は、液体圧力、圧縮空気または不活性ガスによって作動するノズル、または回転アトマイザーディスクまたは回転ディスクを有し、これにより、乾燥されるべき材料は高温ガス流に導入され、数分の一秒以内に乾燥して細かい粉末をもたらす。スプレー乾燥から得られた粉末がその後の焼成で混合酸化物触媒に転化され得るためには、スプレー粉末の前駆体化合物中に存在する製造されるべき触媒の成分が確実に減少しないようにしなければならない。したがって、本発明によるスプレー乾燥では、酸素含有ガス、特に空気、酸素富化空気または純粋な酸素が高温ガスとして使用される。コスト上の理由で、単に空気を使用するのが好ましい。本発明による方法では、高温ガスは、溶液および/または懸濁液がスプレー塔にスプレーされる噴流の方向、すなわち並流に流れるか、または高温ガスは、スプレージェットの方向に部分的に流れ、さらなる高温ガスがスプレー乾燥機の壁の一点からスプレージェットに流れる。ガス流と共に並流する溶液および/または懸濁液のスプレー乾燥は、本発明の文脈では、溶液および/または懸濁液がスプレー塔にスプレーされるジェットの方向に高温ガスが流れるスプレー乾燥操作を意味するものと理解される。溶液および/または懸濁液を実質的に並流で主要ガス流と共にスプレー乾燥する操作は、本発明の文脈では、溶液および/または懸濁液がスプレー塔にスプレーされるジェットの方向に主な割合の高温ガスが流れ、さらなるガスが主要ガス流よりも少量で、主要ガスについてスプレー乾燥機への入口点と、スプレー乾燥機からの出口点との間の点でスプレー乾燥機に供給されるスプレー乾燥操作を意味するものと理解される。得られた乾燥材料は、通常、スプレー乾燥機の下部でサイクロンセパレーターにより気流から分離され、その時点で除去され得る。スプレー乾燥機は連続運転またはバッチ運転され得る。
【0022】
本発明の文脈では、並流という用語は、平行流または直流モードと同義で使用され、ガス流ならびに溶液および/または懸濁液が同じ方向の流れにスプレーされることを意味する。比較すると、ガス流が、乾燥されるべき溶液および/または懸濁液とは反対方向に専らまたは実質的に流れるモードは、本発明の文脈では向流と考えられる。
【0023】
本発明の文脈では、高温ガスがスプレー乾燥機を流れる方向と高温ガスの入口温度および出口温度との両方が、製造された混合酸化物触媒に影響を及ぼすことが分かった。例えば、スプレー乾燥機に高温ガスが流れる方向がスプレー粒子の大きさに影響を与えた。高温ガスが、乾燥されるべき溶液および/または懸濁液と専らまたは実質的に並流でスプレー乾燥機を流れるスプレー乾燥操作は、一般に、高温ガスが乾燥されるべき溶液および/または懸濁液と専らまたは実質的に向流でスプレー乾燥機を流れるスプレー乾燥操作よりも小さなスプレー粒子を生成する。より詳細には、本発明による温度領域でのスプレー乾燥は、有利な特性を本発明による方法によって製造される混合酸化物触媒にもたらすスプレー粒子を生成することが分かった。したがって、本発明による方法によって製造された混合酸化物触媒は、オレフィンの部分気相酸化に使用される場合、特に触媒固定床のホットスポットにおいて、それらの調製において本発明によるものとは異なるスプレー乾燥操作に付された比較の触媒よりも低い最大温度につながる。オレフィンの部分気相酸化に使用する場合の最高温度の低下のために、本発明による方法によって製造された混合酸化物触媒は、より低い熱応力にさらされ、これは触媒のエージング、特に触媒のゾーンエージングを遅くする。
【0024】
オレフィンの不均一触媒部分気相酸化における従来の混合酸化物触媒の使用の場合、触媒固定床は通常、不活性材料で希釈される。このことは、触媒固定床の希釈により、問題の部分気相酸化のために使用される触媒の濃度とその活性との両方が低下し、同時に酸化における触媒の最高温度の低下にもつながるからである。しかしながら、触媒固定床を希釈すると、オレフィンの転化率や所望の目的化合物の収率が時として著しく低下することもある。対照的に、本発明による方法によって製造された混合酸化物触媒の使用は、分散されるべき不活性材料を用いて触媒固定床を希釈することを可能にする。これにより、所望の酸化生成物の収率が向上する。それにもかかわらず、不活性材料で触媒固定床を希釈することが有益または不可避である反応の場合、本発明による方法によって製造された触媒を使用すると、目標とされかつ十分に投与される不活性材料の使用が可能となる。これにより、従来のものよりも小さな反応器容積で作業することが可能になる。しかしながら、特に、これは、問題の部分気相酸化のための固定触媒床の活性を、従来のプロセスよりも低い程度に低下させる。したがって、不活性材料による分散、または少なくとも固定触媒床での不活性材料の減少した使用が、部分気相酸化のための対応するプロセスの経済的魅力を高める。
【0025】
したがって、本発明による方法は、触媒製造のかなり初期の段階で最終触媒の特性に影響を与えることができる。
【0026】
本発明による方法の工程a)において準備された溶液および/または懸濁液を有する前駆体化合物は、所望の混合酸化物の元素成分の供給源として働く。混合酸化物の元素成分の供給源は、既に酸化物の形になっている化合物および/または加熱によって好ましくは分子状酸素および/または酸素含有酸化剤の存在下で酸化物に転化可能な化合物である。
【0027】
酸化物に転化可能な適切な化合物は、特に、酸化物を除いてさらなる固形分を残さないが完全にガスの形で出て行く化合物に比例的に破壊および/または分解し得る化合物である。これらは特に硝酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、炭酸塩、有機アミン化合物、アンモニウム塩および/または水酸化物である。
【0028】
既に酸化物の形である前駆体化合物、例えば酸化サマリウムを使用する場合、酸または塩基、好ましくは酸を添加して、酸化物を溶解するか、またはその水への溶解性または懸濁性を少なくとも改善することが適切である。問題の酸または塩基が、加熱の過程で、特に焼成の過程でガスの形で完全に出て行く化合物に破壊および/または分解する場合、酸または塩基の添加により特定の元素を混合酸化物にさらに組み込むことができる。
【0029】
前駆体化合物を介して所望の混合酸化物に導入される元素または成分に関して、本発明による方法はいかなる制限も受けない。むしろ、工程a)において対応する前駆体化合物によって準備される所望の混合酸化物の元素成分は、その選択およびその使用量の両方に関して所望の混合酸化物の化学量論によって定義される。触媒中に存在する混合酸化物触媒または混合酸化物の化学量論は、むしろそれが意図される使用に依存する。
【0030】
オレフィンの部分酸化に使用される複合酸化物触媒は、多種多様な種類のモリブデン酸塩を含有する。これらの中でも、モリブデン酸ビスマスが、通常、最も一般的である。本発明による方法によって製造される混合酸化物触媒がオレフィンの部分酸化に使用される場合、工程a)で準備される溶液または懸濁液は、必然的にビスマスの前駆体化合物およびモリブデンの前駆体化合物またはビスマスとモリブデンとの両方を含む前駆体化合物を含有する。ビスマスの適切な供給源は、例えば、硝酸ビスマスであり、モリブデンの適切な供給源はヘプタモリブデン酸アンモニウムである。また、工程a)で準備される溶液および/または懸濁液は、鉄、タングステン、リン、コバルト、ニッケル、アルカリ金属、アルカリ土類金属、セリウム、マンガン、クロム、バナジウム、ニオブ、セレン、テルリウム、ガドリニウム、ランタン、イットリウム、パラジウム、白金、ルテニウム、銀、金、サマリウム、シリコン、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムからなる群から選択される元素の前駆体化合物も少なくとも1種含有する。好ましくは、工程a)で準備される溶液および/または懸濁液は、ビスマス、モリブデン、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、カリウム、リン、サマリウムおよびシリコンの元素の前駆体化合物を含有する。
【0031】
工程a)で準備される溶液および/または懸濁液は、通常、問題の元素または成分の個々の前駆体化合物を、スプレー乾燥に使用するのに適した液体媒体に溶解または懸濁することによって調製される。この必要条件のために、溶液または懸濁液の調製には水を溶媒として使用することが好ましい。また、使用される酸または塩、例えば、硝酸、リン酸または炭酸を、それらのより良好な溶解のために対応する前駆体化合物の溶液に添加することが可能である。
【0032】
本発明の文脈では、工程a)で準備される懸濁液は、好ましくは、以下の方法によって調製される:
【0033】
第一に、鉄、コバルト、ニッケル、マンガンおよびカリウムの硝酸塩を水に溶解し、得られた溶液を加熱、好ましくは50℃に加熱し、Sm(III)の供給源の水溶液を添加することによって溶液Iを調製する。Sm(III)の供給源は、硝酸サマリウム(III)または酸化サマリウム(III)であり得るが、酸化サマリウム(III)の場合、酸化物の溶解のために硝酸を添加するのが好ましい。
【0034】
溶液IIについては、モリブデンの供給源、好ましくはヘプタモリブデン酸アンモニウムを加熱された水に溶解し、好ましくは50℃に加熱し、次いでリン酸を添加する。
【0035】
また、さらなる溶液IIIを硝酸ビスマスおよび硝酸から調製する。
【0036】
溶液IIを準備し、この溶液に溶液IIIを徐々に加えて撹拌し、新しい混合物を得る。この混合物に溶液Iを加えることにより、触媒の活性物質を生成するための混合成分を含む沈殿物が得られる。
【0037】
沈殿物を含む懸濁液を直接スプレー乾燥に供給することができる。任意に、沈殿物を懸濁液から分離し、これを別の液体媒体に懸濁することおよび/または酸を加えて沈殿物を溶液にすることも可能である。
【0038】
懸濁液が本発明による方法でスプレー乾燥される場合、この懸濁液中の固形物の濃度は、懸濁液の全質量を基準として10質量%〜50質量%、好ましくは20質量%〜40質量%である。
【0039】
ポンプを使用して、溶液および/または懸濁液をスプレー塔に供給し、回転アトマイザーディスクのリザーバからスプレーする。このようにスプレー塔にスプレーされる溶液および/または懸濁液のスループットは、1〜6kg/h、好ましくは1.5〜5.5kg/hである。回転アトマイザーディスクの回転速度は、30000rpm±10%〜50000rpm±10%、好ましくは45000rpm±10%(1分当たりの回転数)の範囲内である。
【0040】
本発明の文脈では、スプレー乾燥機へのガス入口温度160±10℃〜200±10℃およびスプレー乾燥機からのガス出口温度90±10℃〜105±10℃の並流で行われるスプレー乾燥操作は、オレフィン、特にプロペンの部分気相酸化において20℃近く低い最大温度を有する混合酸化物触媒の製造を可能にすることが分かった。また、本発明の文脈では同様に、スプレー乾燥機への主要ガス流の入口温度260±10℃〜300±10℃およびスプレー乾燥機からの出口温度115±10℃〜130±10℃の実質的に並流で行われるスプレー乾燥操作は、オレフィン、特にプロペンの部分気相酸化において15℃近く低い最大温度を有する混合酸化物触媒の製造を可能にすることが分かった。
【0041】
したがって、本発明による方法の一実施形態では、工程b)において、ガス流は、スプレー乾燥機への入口温度160±10℃〜200±10℃およびスプレー乾燥機からの出口温度90±10℃〜105±10℃を有する。好ましくは、本発明による方法の工程b)において、ガス流は、スプレー乾燥機への入口温度180±10℃〜200±10℃およびスプレー乾燥機からの出口温度90±10℃〜105±10℃を有する。
【0042】
さらに、本発明に従って生成されたスプレー粒子は、特に、スプレー粒子の残留水分含有率が20%未満であるが少なくとも8%である場合に、最終混合酸化物触媒に有利な特性を導入することが分かった。この種のスプレー粒子は、特に、本発明による方法の工程b)またはb’)におけるスプレー乾燥のための高温ガスの比体積流量の使用の場合に得られる。体積流量は、以下の関係によって平均流量と相関する:
Q=v・A
ここで
Q:体積流量(m/s)、
:断面にわたる平均流量(m/s)、および
A:この部位の断面積(m)。
【0043】
本発明の文脈では、有利な特性を有する触媒は、本発明による方法の工程b)ではスプレー乾燥機におけるガス流の平均流量2.0±0.3cm/s〜4.5±0.3cm/sで得られ、本発明による方法の工程b’)ではスプレー乾燥機における主要ガス流の平均流量2.0±0.3cm/s〜4.5±0.3cm/sで得られる。これらの流量は、長さ0.62mおよび直径0.8mの円筒形の乾燥領域を有するスプレー乾燥機、例えばGEA Niro製のMobile Minor(登録商標)型の回転ディスクスプレー塔を使用する場合、本発明による方法の工程b)またはb’)において約40±5Nm/h〜約80±5Nm/hの体積流量に相当する。標準立方メートル(Nm)での体積の数値は、特定のガスが標準的な条件下で、すなわち標準温度および圧力とも呼ばれる25℃および1バールでスプレー乾燥に使用される立方メートルでの体積を表す。
【0044】
本発明による方法のさらなる実施態様では、工程b)でのガス流は、したがってスプレー乾燥機中の平均流速2.0±0.3cm/s〜4.5±0.3cm/sを有する。
【0045】
好ましくは、工程b)でのガス流は、スプレー乾燥機における平均流速2.5±0.3cm/s〜4.2±0.3cm/s、特に2.8±0.3cm/s〜4.0±0.3cm/sを有する。これらの流量は、長さ0.62mおよび直径0.8mの円筒形の乾燥領域を有するスプレー乾燥機を使用する場合、約45±5Nm/h〜約75±5Nm/hまたは約51±5Nm/h〜約71±5Nm/hの体積流量に相当する。
【0046】
本発明による方法の別の実施形態では、工程b’)の主要ガス流は、スプレー乾燥機への入口温度260±10℃〜300±10℃およびスプレー乾燥機からの出口温度115±10℃〜130±10℃を有する。好ましくは、工程b’)における主要ガス流は、スプレー乾燥機への入口温度270±10℃〜290±10℃およびスプレー乾燥機からの出口温度115±10℃〜130±10℃を有する。
【0047】
本発明による方法のさらに別の実施形態では、工程b’)では、30℃以下の入口温度を有する追加のガス流がスプレー乾燥機に供給される。
【0048】
本発明による方法のさらに別の実施形態では、工程b’)での主要ガス流は、2.0±0.3cm/s〜4.5±0.3cm/sのスプレー乾燥機における平均流速を有する。これらの流量は、長さ0.62mおよび直径0.8mの円筒状の乾燥領域を有するスプレー乾燥機を使用する場合、約40±5Nm/h〜約80±5Nm/hの体積流量に相当する。
【0049】
好ましくは、工程b’)における主要ガス流は、2.5±0.3cm/s〜3.5±0.3cm/s、特に2.8±0.3cm/sのスプレー乾燥機における平均流速を有する。これらの流量は、長さ0.62mおよび直径0.8mの円筒状の乾燥領域を有するスプレー乾燥機を使用する場合、約50±5Nm/h〜約60±5Nm/hまたは約51±5Nm/hの体積流量に相当する。
【0050】
本発明による方法の別の代替の実施形態では、工程b’)での追加ガス流は2.0cm/s未満の平均流速を有する。この流量は、長さ0.62mおよび直径0.8mの円筒状の乾燥領域を有するスプレー乾燥機を使用する場合、約35Nm/hの体積流量に相当する。好ましくは、工程b’)での追加ガスは、1.5±0.3cm/s以下の平均流速、特に1.0±0.3cm/sの流量を有する。これらの流量は、長さ0.62mおよび直径0.8mの円筒状の乾燥領域を有するスプレー乾燥機を使用する場合、約27Nm/hまたは約20±5Nm/hの体積流量に相当する。
【0051】
追加のガス流がスプレー乾燥機に入るスプレー乾燥機の壁に対する方向に関して、本発明による方法は原則的にいかなる制限も受けない。したがって、追加のガス流は、並流で、向流で、主ガス流に対して直角で、またはこれらの方向の組み合わせもしくは重ね合わせでスプレー乾燥機に入り得る。追加のガス流が、スプレー乾燥機の軸方向においてスプレー乾燥機の上端に対して上方向でスプレー乾燥機の壁に対して90±5°〜0°の角度で供給される場合に、本発明による方法に照らして良好な結果が達成される。追加のガス流の角度がスプレー乾燥機の壁に対して90°よりも大きい場合、追加のガス流は、スプレー乾燥機の軸方向において、スプレー乾燥機の下端に対してわずかに下向きである。スプレー乾燥機の上端を指す上方向からのこの種のずれは、本発明の文脈では、主要ガス流等から生じた渦による誤差許容範囲である。また、本発明の文脈では、追加のガス流の角度も同様にスプレー乾燥機の軸に対して傾斜することも可能である。溶液および/または懸濁液を、回転スプレーディスクによってスプレー乾燥機内にスプレーする場合、一実施態様では、追加のガス流が、溶液および/または懸濁液がスプレー乾燥機中にスプレーされる方向を指すように、追加のガス流の角度はスプレー乾燥機の軸から傾斜される。代替的な実施形態では、追加のガス流が、スプレー乾燥機中にスプレーされる溶液および/または懸濁液がスプレー乾燥操作を通して進む方向を指すように、追加のガス流の角度はスプレー乾燥機の軸から傾斜される。
【0052】
したがって、本発明による方法の一実施形態では、工程b’)での追加のガス流は、スプレー乾燥機の軸方向において上方でスプレー乾燥機の壁に対して90±5°〜0°の角度で供給される。
【0053】
好ましくは、工程b’)での追加ガス流は、スプレー乾燥機の軸方向において上方でスプレー乾燥機の壁に対して90°〜0°の角度で、特に90°または0°の角度で、より好ましくは90°の角度で供給される。
【0054】
スプレー乾燥機中への追加のガスの入口点に関して、本発明による方法はいかなる制限も受けない。しかしながら、主要ガス流と追加のガス流との混合の非常に実質的な均質性を達成するために、追加のガス流は、好ましくは、スプレー乾燥機における主要ガス流のための入口点と出口点との間の距離の1/3〜3/4の点でスプレー乾燥機中に供給される。このようにして、スプレー乾燥に利用できるスプレー乾燥機の全体積は、容易に調節可能な温度勾配を有する2つの領域に分けられる。好ましくは、追加のガス流は、スプレー乾燥機における主要ガス流の入口点と出口点との間の距離の半分の点でスプレー乾燥機中に供給される。結果として、スプレー乾燥に利用可能なスプレー乾燥機の全体積は、容易に調節可能な温度勾配を有する等しいサイズの2つの領域に分けられる。
【0055】
したがって、別の実施形態では、工程b’)では、追加ガス流は、スプレー乾燥機内の主要ガス流のための入口点と出口点との間の距離の1/3〜3/4の点でスプレー乾燥機中に供給される。
【0056】
本発明による方法の工程a)で準備される溶液および/または懸濁液は、混合酸化物触媒のすべての成分の前駆体化合物を既に含み得る。これにより、均一なスプレー粉末から直接混合酸化物触媒を製造することができる。対照的に、国際公開第2005/049200号(WO 2005/049200 A1)および国際公開第2010/028977号(WO 2010/028977 A1)の方法による、混合酸化物触媒、特にオレフィンの酸化のためのものは、通常、それぞれ異なる粒度分布を有する2つのスプレー粉末から製造される。これらの方法と比較して、本発明による方法は、明確なプロセスの単純化を成す。
【0057】
混合酸化物触媒の触媒活性物質が触媒活性物質の単一層のみでバッチ式で製造される場合、本発明による方法の工程は、必要とされる量の触媒活性物質の製造に必要な頻度で実施される。
【0058】
したがって、本発明による方法のさらなる実施形態では、工程a)で準備される溶液および/または懸濁液は、混合酸化物触媒の全成分の前駆体化合物を含む。
【0059】
あるいは、工程a)で準備される溶液および/または懸濁液がそれぞれ混合酸化物触媒の異なる成分の前駆体化合物を含むことも当然ながらさらに可能である。これは、例えば、異なる組成の層を有するシェル触媒の製造を可能にする。この場合、個々のスプレー乾燥操作では、いずれの場合も異なる溶液からスプレー粒子が最初に生成され、こうして得られたスプレー粒子はそれ自身で個々に焼成され、次に個々の層として互いに重なり合って担体に適用される。例えば、このようにして、様々な活性の層を有するシェル触媒が、触媒作用をもたらすべき反応のために製造され得る。
【0060】
本発明による方法の別の実施形態では、溶液および/または懸濁液は前駆体化合物を含み、前記混合酸化物触媒の異なる成分はそれぞれ工程a)で使用され、工程a)およびb)、またはa)およびb’)は複数回繰り返される。
【0061】
焼成後に得られた混合酸化物触媒が、部分気相酸化に実際に使用される触媒を成す例はほとんどない。むしろ、焼成から得られた粉末状の触媒は、実際の触媒を生み出す成形工程に付される。
【0062】
さらに別の実施形態では、本発明による方法は、したがって以下の工程:
d)前駆体化合物の溶液および/または懸濁液を、混合酸化物触媒の異なる成分ごとに工程b)またはb’)で使用する場合、工程c)から得られた触媒活性物質を任意に混合して、混合酸化物触媒のすべての成分を含む触媒活性物質を得る工程、
e)成形剤および/または結合剤を工程c)またはd)から得られた触媒活性物質に添加する工程、
f)工程e)から得られた触媒活性物質を成形して、混合酸化物触媒を含む成形体を得る工程、および
g)工程f)から得られた触媒成形体を乾燥および/または焼成および/または熱処理する工程
をさらに含む。
【0063】
通常、100℃を上回る温度で行われる乾燥操作により、工程f)から得られた成形体になおも存在する残留水分が除去される。焼成は、通常、約430℃以上の温度で行われ、添加された成形剤および/または結合剤を成形体から除去または燃焼する働きをする。さらに、製造プロセスにおける別の焼成操作は、前駆体化合物の形をしたままの混合酸化物触媒のそれらの成分が最終的に対応する酸化物に転化されることを保証する。粉末状の触媒活性物質の成形操作では、触媒は、好ましくは、活性物質を後で工業用反応装置において使用するためにまたは任意の程度まで十分に凝固するように、450〜600℃の温度範囲内で熱的に後処理されるべきである。これは一般的に最終熱処理によって行われる。
【0064】
工業用としては、市販の成形剤および結合剤を添加した後、粉末状の触媒活性物質を成形することが特に適切である。これはタブレット化または押出成形によって、あるいは担体のコーティングによって達成され得る。幾何学的形状に関しては、担体は特定の形状または特定の形状の数に限定されない。むしろ、担体の幾何学的形状は、反応器の仕様(例えば、管径、触媒床の長さ等)に依存する。例えば、担体は、円柱、球、ピラミッド、サドルまたは多面体の形を取り得るが、反応空間の壁であってもよい。好ましくは、担体は球の形状を有する。
【0065】
使用される結合剤は、様々な油、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、サッカリド、アクリレートおよびそのアルキル誘導体、それらの混合物または縮合物であり得る。アクリレート、ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体を使用することが好ましく、アクリレートおよび/またはセルロースおよびそれらの混合物の誘導体および縮合物を使用することが特に好ましい。
【0066】
あるいは、工程c)で得られた触媒活性物質を使用して、ウォッシュコート懸濁液と呼ばれるものを製造し、後者を担体材料に適用し、コーティングされた担体材料を乾燥および/または焼成によって担持された混合酸化物触媒に転化することも可能である。したがって、本発明の文脈では、ウォッシュコート懸濁液とは、本発明による方法によって得られるまたは得ることができる触媒活性物質を含む任意の種類の懸濁液を指す。
【0067】
別の実施形態では、本発明による方法は、したがって、
h)工程c)から得られた触媒活性物質を含むウォッシュコート懸濁液を準備する工程、
i)工程h)からのウォッシュコート懸濁液を担体材料に適用する工程、および
j)工程i)から得られた担体材料を乾燥および/または焼成および/または熱処理して、担持型混合酸化物触媒を得る工程
をさらに含む。
【0068】
好ましくは、上記のような市販の成形剤および結合剤を、工程h)のウォッシュコート懸濁液に添加して、粉末状の触媒活性物質を担体材料上に固定することを容易にするかまたは可能にする。
【0069】
この本発明による方法の別の実施形態でも、その幾何学的形状に関して、担体は特定の形状または特定の数の形状に制限されない。むしろ、担体の幾何学的形状は、反応器の仕様(例えば、管径、触媒床の長さ等)に依存する。例えば、担体は、円柱、球、ピラミッド、サドルまたは多面体の形を取り得るが、反応空間の壁であってもよい。好ましくは、担体は球の形状を有する。
【0070】
また、本発明は、本発明による方法により得られるまたは得ることができる触媒活性物質を含むウォッシュコート懸濁液も提供する。
【0071】
本発明によるウォッシュコート懸濁液を製造するために、本発明による方法によって得られるまたは得ることができる触媒活性物質は脱イオン水に懸濁される。必要に応じて、このようにして得られたウォッシュコート懸濁液は分散装置で処理されて、懸濁液への均質な粒子分布を保証する。その後、上記のような結合剤がウォッシュコート懸濁液に加えられる。
【0072】
最も単純な場合、本発明によるウォッシュコート懸濁液の担体材料への適用は、ウォッシュコート懸濁液のスプレー塗布によって行われる。好ましくは、ウォッシュコート懸濁液の適用は、工程h)で準備されるウォッシュコート懸濁液または本発明によるウォッシュコート懸濁液が循環運動する担体の床上にスプレーされるような方法で行われる。
【0073】
適切な担体は、セラミック材料、特に酸化アルミニウム、酸化チタン、または二酸化ケイ素で作られているか、またはケイ酸塩、例えば粘土、カオリン、軽石、ケイ酸アルミニウムおよびケイ酸マグネシウムで作られているか、または炭化ケイ素および二酸化ジルコニウムで作られている。担体はその形状に関して制限されている。したがって、これは球、リング、ピラミッド、円柱、サドル、または多角形の形であっても、または壁であっても、または各反応が行われる反応器の壁に付けられていてもよい。
【0074】
このようにして得られた担持型混合酸化物触媒は、担体と、この担体を包む触媒的に活性な材料を含むシェルとを含む。本発明による方法によって得られるこのような担持型触媒はシェル触媒とも呼ばれる。
【0075】
本発明による方法によって得られるおよび/または得ることができる混合酸化物触媒は、不飽和アルデヒドおよび/または不飽和酸へのオレフィンの、触媒作用による部分気相酸化に適している。
【0076】
好ましくは、本発明による方法によって得られるおよび/または得ることができる触媒活性物質または混合酸化物触媒は、一般式
(Mo12BiFe(Ni+Co))O (I)
(式中、
Moはモリブデンであり、
Biはビスマスであり、
Dはタングステンおよび/またはリンであり、
Eは、リチウム、カリウム、ナトリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムおよびストロンチウムからなる群から選択される成分のうち少なくとも1種であり、
Fは、セリウム、マンガン、クロムおよびバナジウムからなる群から選択される成分のうち少なくとも1種であり、
Gは、ニオブ、セレン、テルル、サマリウム、ガドリニウム、ランタン、イットリウム、パラジウム、白金、ルテニウム、銀および金からなる群から選択される成分のうち少なくとも1種であり、
Hはケイ素、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムからなる群から選択される成分のうち少なくとも1種であり、
Oは酸素であり、かつ
a=0〜5.0
b=0.5〜5.0
c=2〜15
d=0.01〜5.0
e=0.001〜2
f=0.001〜5
g=0〜1.5
h=0〜800であり、かつ
x=酸素以外の成分の原子価と頻度によって決まる数)
に相当する。
【0077】
より好ましくは、本発明による方法によって得られるおよび/または得ることができる触媒活性物質または混合酸化物触媒は、組成物(Mo12Bi1.5(Co+Ni)8.0Fe1.8Mn0.010.060.04Si0.66Sm0.1)Oに相当する。
【0078】
したがって、本発明はまた、本発明による方法によって得られるおよび/または得ることができる触媒活性物質または複合酸化物触媒をさらに提供する。
【0079】
したがって、本発明はさらに、オレフィンの部分酸化による不飽和アルデヒドおよび/または酸の製造における本発明による方法によって得られるまたは得ることができる混合酸化物触媒の使用、ならびにオレフィンの部分酸化による不飽和アルデヒドおよび/または酸の製造方法であって、本発明による方法によって製造されるまたは得ることができる混合酸化物触媒の存在下でまたは本発明による混合酸化物触媒の存在下でオレフィンを酸化させる、前記製造方法も提供する。
【0080】
オレフィンの部分酸化は、一般に250〜450℃の温度および1〜3バールの圧力で行われる。これは、共反応物(オレフィン、空気または酸素または酸素富化空気および不活性ガス)を、好ましくは1:6〜9:3〜18のモル比で、1時間当たり触媒床1リットルにつき2〜10モルのオレフィンの空間速度で触媒床に供給することを含む。
【0081】
好ましくは、オレフィンはC〜Cオレフィンであり;より好ましくは、オレフィンはプロペンである。プロペンは、特に化学グレードまたはポリマーグレードの形でアクロレインおよびアクリル酸の調製に使用されるが、精製グレードのプロペンを使用することも可能である。使用される不活性ガスは、記載された反応条件の下で不活性な挙動を有するガス状化合物であり得る。例えば、不活性ガスは窒素、ヘリウム、エタン、プロパンまたはそれらの混合物であり得る。同様に、反応で転化されない成分を循環させることができ、これらを凝縮させることにより生成ガス混合物から取り除かれる。
【0082】
特に良好な結果は、シェル状および管状、プレート状またはウォール状反応器を使用する場合に得られ、後者の場合、触媒は壁状物に適用される。
【0083】
本発明は、以下の項目によってさらに説明される:
1.混合酸化物触媒の製造方法であって、
a)混合酸化物触媒の成分の前駆体化合物溶液および/または懸濁液を準備する工程、
b)工程a)で準備した溶液および/または懸濁液を、スプレー乾燥機への入口温度が150±10℃〜220±10℃でありかつスプレー乾燥機からの出口温度が80±10℃〜110±10℃であるガス流と一緒に並流でスプレー乾燥する工程、または
b’)工程a)で準備した溶液および/または懸濁液を、スプレー乾燥機への入口温度が250±10℃〜350±10℃でありかつスプレー乾燥機からの出口温度が110±10℃〜140±10℃である主要ガス流と一緒に実質的に並流でスプレー乾燥する工程、ここで100℃未満の入口温度を有する追加のガス流を、主要ガス流のスプレー乾燥機への入口点と、スプレー乾燥機からの出口点との間でスプレー乾燥機に供給する、および
c)工程b)またはb’)から得られたスプレー粒子を焼成して触媒活性物質を得る工程
を含む、前記製造方法。
2.工程b)において、ガス流が、160±10℃〜200±10℃のスプレー乾燥機への入口温度および90±10℃〜105±10℃のスプレー乾燥機からの出口温度を有する、項目1記載の方法。
3.工程b)において、ガス流が2.0±0.3cm/s〜4.5±0.3cm/sのスプレー乾燥機における平均流速を有する、項目1または2記載の方法。
4.工程b’)において、主要ガス流が260±10℃〜300±10℃のスプレー乾燥機への入口温度および115±10℃〜130±10℃のスプレー乾燥機からの出口温度を有する、項目1記載の方法。
5.工程b’)において、追加のガス流を30℃以下の入口温度でスプレー乾燥機中に供給する、項目1または4記載の方法。
6.工程b’)において、主要ガス流が2.0±0.3cm/s〜4.5±0.3cm/sのスプレー乾燥機における平均流速を有する、項目1、4または5のいずれか1つに記載の方法。
7.工程b’)において、追加のガス流が2.0cm/s未満の平均流速を有する、項目1または項目4から6までのいずれか1つに記載の方法。
8.工程b’)において、追加のガス流を、スプレー乾燥機の軸方向において上方でスプレー乾燥機の壁に対して90±5°〜0°の角度で供給する、項目1または項目4から7までのいずれか1つに記載の方法。
9.工程b’)において、追加のガス流を、スプレー乾燥機中の主要ガス流のための入口点と出口点との間の距離の1/3〜3/4の間の点でスプレー乾燥機中に供給する、項目1または項目4から8までのいずれか1つに記載の方法。
10.工程a)において準備した溶液および/または懸濁液が混合酸化物触媒のすべての成分の前駆体化合物を含む、項目1から9までのいずれか1つに記載の方法。
11.前駆体化合物を含む溶液および/または懸濁液を、混合酸化物触媒の異なる成分ごとに工程a)、ならびに工程a)およびb)、または工程a)およびb’)で使用し、これを1回より多く繰り返す、項目1から9までのいずれか1つに記載の方法。
12.d)前駆体化合物の溶液および/または懸濁液を、混合酸化物触媒の異なる成分ごとに工程b)またはb’)で使用する場合、工程c)から得られた触媒活性物質を任意に混合して、混合酸化物触媒のすべての成分を含む触媒活性物質を得る工程、
e)成形剤および/または結合剤を、工程c)またはd)から得られた触媒活性物質に添加する工程、
f)工程e)から得られた触媒活性物質を成形して混合酸化物触媒を含む成形体を得る工程、および
g)工程f)から得られた触媒成形体を乾燥および/または焼成および/または熱処理する工程
をさらに含む、項目1から11までのいずれか1つに記載の方法。
13.h)工程c)から得られた触媒活性物質を含むウォッシュコート懸濁液を準備する工程、
i)工程h)からのウォッシュコート懸濁液を担体材料に適用する工程、および
j)工程i)から得られた担体材料を乾燥および/または焼成および熱処理して、担持型混合酸化物触媒を得る工程
をさらに含む、項目から11までのいずれか1つに記載の方法。
14.項目1から11までのいずれか1つに記載の方法によって得られるまたは得ることができる触媒活性物質を含むウォッシュコート懸濁液。
15.項目1から11までのいずれか1つに記載の方法によって得られるまたは得ることができる触媒活性物質。
16.請求項1から13までのいずれか1項記載の方法によって得られるまたは得ることができる触媒。
17.項目1から13までのいずれか1つに従って得られるまたは得ることができる混合酸化物触媒の、オレフィンの部分酸化による不飽和アルデヒドおよび/または酸の製造における使用。
18.オレフィンがC〜Cオレフィンである、項目17記載の使用。
【0084】
実施例:
I.複合酸化物触媒の製造
1.1触媒の製造のための懸濁液の準備
実施例1:
まず、鉄、コバルト、ニッケル、マンガンおよびカリウムの硝酸塩を、3.5リットルの水に23.2:47.26:29.28:0.0646:0.2067の質量分率で溶解し、得られた混合物を撹拌しながら50℃に加熱し、次いで0.1モルのSm3+および2モルのHNOの硝酸溶液を添加することによって第1の溶液(以下、溶液Iと呼ぶ)を調製した。
【0085】
七モリブデン酸アンモニウム2118.6gを水2.7リットルに溶解し、次いで1リットルの水に4.4gのリン酸溶液を加えることによって別の第2の溶液(以下、溶液IIと呼ぶ)を調製した。
【0086】
1280gの硝酸ビスマスおよび0.72モルのHNOからさらに別の溶液(以下、溶液IIIと呼ぶ)を調製した。
【0087】
溶液IIを用意し、溶液IIIを撹拌しながらこれに徐々に加えた。溶液Iをこのようにして得られた混合物に添加して懸濁液を得た。
【0088】
1.2触媒の活性物質の製造
触媒のすべての活性物質を、GEA−Niro(GEA Germany、GEA Group Aktiengesellschaft、Peter-Mueller-Str.12, 40468 Duesseldorf, 独国)製のMobile Minor(登録商標)型(http://www.niro.com/niro/cmsdoc.nsf/WebDoc/ndkk5j9c7h)の回転ディスク塔でスプレー乾燥することによって製造した。このスプレー乾燥機は、スプレー乾燥が行われる直径0.8mおよび高さ0.62mの円筒部と、その下端に隣接する長さ0.72mの逆円錐部とを有し、生成されたスプレー粒子を収集する役割を果たす。
【0089】
本発明によれば、特定の粒径分布は、国際基準のISO13320に従ってレーザー散乱によって湿式分散で測定される。本発明の文脈では、粒径分布を、PIDS(Polarization Intensity Differential Scattering)データを用いて、Beckmann Coulter(ブレア、カリフォルニア)製のLS(登録商標)13320シリーズおよびユニバーサル液体モジュールの粒度分析器を用いて測定した。スプレー粒子をエタノールに分散させ、約31%の相対ポンピング率で超音波浴処理を行わずに粒度分布を測定した。粒度測定の光学モデルはフラウンホーファーモデルである。粒度測定の測定時間は約82秒である。
【0090】
測定結果として報告される粒子直径dは、全粒子体積のX%がより小さな直径の粒子からなると定義されている。このことは全粒子体積の(100−X)%が直径≧dの粒子からなることを意味する。
【0091】
実施例2a(本発明):
実施例1で得られた懸濁液をGEA−Niro Mobile Minor(登録商標)回転ディスクスプレー乾燥機で乾燥させた:この懸濁液を、45000min−1の回転速度を有する回転ディスクを通して200℃のスプレー乾燥機中への入口温度を有する51±2.5Nm/h(約2.8±0.3cm/sのスプレー乾燥機中への平均流速に相当する)の空気と一緒に、2±0.1l/hの測定速度で、流入空気と並流で、上から下へスプレー乾燥機中にスプレーした。スプレー乾燥機からの空気の出口温度は105℃であった。得られたスプレー乾燥粒子は14.5%の残留水分含有率を有していた。得られたスプレー粉末の粒度分布は、d=11.22μm、d10=13.86μm、d50=26.33μm、d90=46.39μmおよびd95=56.90μmであった。粒度分布の平均は29.39μm、中央値は26.33μmであった。粒度分布の最大値は28.70μmであった。
【0092】
実施例2b(本発明):
実施例1で得られた懸濁液をGEA−Niro Mobile Minor(登録商標)回転ディスクスプレー乾燥機で乾燥させた:この懸濁液を、45000min−1の回転速度を有する回転ディスクを通して180℃のスプレー乾燥機中への入口温度を有する51±2.5Nm/h(約2.8±0.3cm/sのスプレー乾燥機中への平均流速に相当する)の空気と一緒に、2±0.1l/hの測定速度で、流入空気と並流で、上から下へスプレー乾燥機中にスプレーした。スプレー乾燥機からの空気の出口温度は92±5℃であった。得られたスプレー乾燥粒子は16.4%の残留水分含有率を有していた。得られたスプレー粉末の粒度分布は、d=10.74μm、d10=16.20μm、d50=33.00μm、d90=60.74μm、およびd95=91.39μmであった。粒度分布の平均は37.99μm、中央値は33.00μmであった。粒度分布の最大値は34.59μmであった。
【0093】
実施例2c(本発明):
実施例1で得られた懸濁液を、GEA−Niro Mobile Minor(登録商標)回転ディスクスプレー乾燥機で乾燥させた:この懸濁液を、45000min−1の回転速度を有する回転ディスクを通して180℃のスプレー乾燥機中への入口温度を有する71±2.5Nm/h(約4.0±0.3cm/sのスプレー乾燥機中への平均流速に相当する)の空気と一緒に、2±0.1l/hの測定速度で、流入空気と並流で、上から下へスプレー乾燥機中にスプレーした。スプレー乾燥機からの空気の出口温度は99±5℃であった。得られたスプレー乾燥粒子は14%の残留水分含有率を有していた。得られたスプレー粉末の粒度分布は、d=13.20μm、d10=16.16μm、d50=30.25μm、d90=51.33μm、およびd95=63.76μmであった。粒度分布の平均は33.71μm、中央値は30.25μmであった。粒度分布の最大値は31.51μmであった。
【0094】
実施例3a(比較例):
実施例1の懸濁液を、GEA−Niro Mobile Minor(登録商標)回転ディスクスプレー乾燥機で乾燥させた:この懸濁液を、45000min−1の回転速度を有する回転ディスクを通して300℃のスプレー乾燥機中への入口温度を有する51±2.5Nm/h(約2.8±0.3cm/sのスプレー乾燥機中への平均流速に相当する)の空気と一緒に、2±0.1l/hの測定速度で、流入空気と並流で、上から下へスプレー乾燥機中にスプレーした。スプレー乾燥機からの空気の出口温度は180±5℃であった。得られたスプレー乾燥粒子は2.2%の残留水分含有率を有していた。得られたスプレー粉末の粒度分布は、d=0.503μm、d10=6.970μm、d50=19.87μm、d90=37.10μmおよびd95=41.86μmであった。平均は21.31μm、中央値は19.87μmであった。粒度分布の最大値は19.76μmであった。
【0095】
実施例3b(比較例):
実施例1の懸濁液を、GEA−Niro Mobile Minor(登録商標)回転ディスクスプレー乾燥機で乾燥させた:この懸濁液を、45000min−1の回転速度を有する回転ディスクを通して212℃のスプレー乾燥機中への入口温度を有する51±2.5Nm/h(約2.8±0.3cm/sのスプレー乾燥機中への平均流速に相当する)の空気と一緒に、2±0.1l/hの測定速度で、流入空気と並流で、上から下へスプレー乾燥機中にスプレーした。スプレー乾燥機からの空気の出口温度は120℃であった。得られたスプレー乾燥粒子は6.4%の残留水分含有率を有していた。得られたスプレー粉末の粒度分布は、d=3.25μm、d10=10.54μm、d50=24.90μm、d90=45.86μmおよびd95=59.07μmであった。平均は27.81μm、中央値は24.90μmであった。粒度分布の最大値は28.70μmであった。
【0096】
実施例4a(本発明):
実施例1からの懸濁液を、GEA−Niro Mobile Minor(登録商標)回転ディスクスプレー乾燥機で乾燥させた:この懸濁液を、45000min−1の回転速度を有する回転ディスクを通して275℃のスプレー乾燥機中への入口温度を有する51±2.5Nm/h(約2.8±0.3cm/sのスプレー乾燥機中への平均流速に相当する)の空気と一緒に、2±0.1l/hの測定速度で、流入空気と並流で、上から下へスプレー乾燥機中にスプレーした。スプレー乾燥機の乾燥空間の高さの半分での垂直供給により、20℃のスプレー乾燥機中への入口温度を有する20Nm/h(約1.0±0.3cm/sのスプレー乾燥機での平均流速に相当する)の追加の空気を、乾燥機の壁に対して90°の角度でスプレー乾燥機中にスプレーした。スプレー乾燥機からの空気の出口温度は、スプレー乾燥機に上から下へ、または側面から入ってきたかどうかにかかわらず125℃であった。得られたスプレー乾燥粒子は、11.2%の残留水分含有率を有していた。得られたスプレー粉末の粒度分布は、d=9.646μm、d10=12.30μm、d50=23.00μm、d90=38.93μmおよびd95=44.58μmであった。平均は24.94μm、中央値は23.00μmであった。粒度分布の最大値は23.82μmであった。
【0097】
実施例4b(本発明):
実施例1からの懸濁液を、GEA−Niro Mobile Minor(登録商標)回転ディスクスプレー乾燥機で乾燥させた:この懸濁液を、45000min−1の回転速度を有する回転ディスクを通して275℃のスプレー乾燥機中への入口温度を有する51±2.5Nm/h(約2.8±0.3cm/sのスプレー乾燥機中への平均流速に相当する)の空気と一緒に、2±0.1l/hの測定速度で、流入空気と並流で、上から下へスプレー乾燥機中にスプレーした。スプレー乾燥機の乾燥空間の高さの半分での垂直供給により、20℃のスプレー乾燥機中への入口温度を有する20Nm/h(約1.0±0.3cm/sのスプレー乾燥機での平均流速に相当する)の追加の空気を、(主要ガス流の方向でスプレー乾燥機の乾燥機の壁に対して0°の角度で)上から下へスプレー乾燥機中にスプレーした。スプレー乾燥機からの空気の出口温度は、スプレー乾燥機に上から下へ、または側面から入ってきたかどうかにかかわらず125℃であった。得られたスプレー乾燥粒子は11.2%の残留水分含有率を有していた。得られたスプレー粉末の粒度分布は、d=2.046μm、d10=8.712μm、d50=22.00μm、d90=38.66μmおよびd95=44.54μmであった。平均は23.60μm、中央値は22.00μmであった。粒度分布の最大値は38.82μmであった。
【0098】
1.3スプレー乾燥粉末からの触媒の製造
実施例5:
実施例2a〜2c、3a〜3bおよび4a〜4bで製造した粉末を、空気循環炉内で430±5℃の温度で1時間焼成した。次に得られた混合酸化物を、水性懸濁液として、SiOで作られたセラミックの球状触媒担体上にスプレーし、空気流において60℃で乾燥させた。このようにして得られたペレットを続いてドラム内で循環させて均質化した。適用した活性物質を固化するために、得られた材料についても520℃の温度で5時間熱処理を行った。このようにして製造されたすべての触媒は、(Mo12Bi1.5(Co+Ni)8.0Fe1.8Mn0.010.060.04Si0.66Sm0.1)Oの組成を有していた。
【0099】
II.混合酸化物触媒の試験
実施例6:
実施例2a〜2cおよび3a〜3bの活性物質から実施例5で製造された触媒を、プロペンの部分気相酸化で使用した。この目的のために、管内径20.5mmの管状反応器に、いずれの場合も長さ285cmの触媒固定床を装入した。触媒固定床の温度および触媒固定床を流れる反応混合物の温度を調節した浴で管状反応器を囲んだ。プロペン(約7体積%、化学グレード)、空気および不活性物質から構成される供給ガス流を、管状反応器に導入し、プロペンを固定触媒床にわたって転化した。供給されるプロペンの量を、1時間当たりのプロペンガスの流量(リットル)および使用した触媒充填量(リットル)の商が146h−1の値になるように選択した。プロペン転化率を、97±0.5%の値までの浴温を選ぶことによって調整した。また、確立したプロペン転化率で、反応器を1回通過した後のガス流中の残留酸素含有率が6体積%であるように、酸化の空気速度を調整した。すべての触媒について、アクロレインおよびアクリル酸の累積収率は常に90%を超え、アクロレインの収率は常に少なくとも84%であった。実施例2a〜2cおよび3a〜3bの活性物質に基づく触媒を用いるすべての試験において、触媒固定床におけるそれぞれの最高温度を特定した。
【表1】
【0100】
実施例7:
実施例2a〜2cおよび3a〜3bの活性物質から実施例5において製造された触媒を、プロペンの部分気相酸化に使用した。この目的のために、管内径20.5mmの管状反応器に、いずれの場合も長さ285cmの触媒固定床を装入した。管状反応器を、固定触媒床および触媒固定床を流れる反応混合物の温度を調節した浴で囲んだ。プロペン(約7体積%、化学グレード)、空気および不活性物質から構成される供給ガス流を管状反応器に導入し、プロペンを固定触媒床にわたって転化した。供給されるプロペンの量を、1時間当たりのプロペンガスの流量(リットル)および使用した触媒充填量(リットル)の商が153h−1の値になるように選択した。プロペン転化率を、97±0.5%の値までの浴温を選ぶことによって調整した。また、確立したプロペン転化率で、反応器を1回通過した後のガス流中の残留酸素含有率が6体積%であるように、酸化の空気速度を調整した。すべての触媒について、アクロレインおよびアクリル酸の累積収率は常に少なくとも91%であり、アクロレインの収率は常に少なくとも84%であった。実施例2a〜2cおよび3a〜3bの活性質量に基づく触媒を用いるすべての試験において、触媒固定床におけるそれぞれの最高温度を特定した。
【表2】
【0101】
実施例8:
実施例3a〜3bおよび4a〜4bの活性物質から実施例5で製造した触媒を、プロペンの部分気相酸化で使用した。この目的のために、管内径20.5mmの管状反応器に、いずれの場合も長さ285cmの触媒固定床を装入した。触媒固定床の温度および触媒固定床を流れる反応混合物の温度を調節した浴で管状反応器を囲んだ。プロペン(約7体積%、化学グレード)、空気および不活性物質から構成される供給ガス流を管状反応器に導入し、プロペンを固定触媒床にわたって転化した。供給されるプロペンの量を、1時間当たりのプロペンガスの流量(リットル)および使用した触媒充填量(リットル)の商が146h−1の値になるように選択した。プロペン転化率を、97±0.5%の値までの浴温を選ぶことによって調整した。また、確立したプロペン転化率で、反応器を1回通過した後のガス流中の残留酸素含有率が6体積%であるように、酸化の空気速度を調整した。すべての触媒について、アクロレインおよびアクリル酸の累積収率は常に少なくとも90%であり、アクロレインの収率は常に少なくとも84%であった。実施例4a〜4bおよび3a〜3bの活性物質に基づく触媒を用いるすべての試験において、触媒固定床におけるそれぞれの最高温度を測定した。
【表3】