特許第6861708号(P6861708)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861708
(24)【登録日】2021年4月1日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】除脂肪体重を測定するための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20210412BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20210412BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20210412BHJP
   G01N 24/08 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   G01N33/68
   G01N33/50 Z
   G01N27/62 V
   G01N24/08 510Q
【請求項の数】17
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-529111(P2018-529111)
(86)(22)【出願日】2016年12月20日
(65)【公表番号】特表2019-502908(P2019-502908A)
(43)【公表日】2019年1月31日
(86)【国際出願番号】EP2016081841
(87)【国際公開番号】WO2017114686
(87)【国際公開日】20170706
【審査請求日】2019年12月10日
(31)【優先権主張番号】15203045.8
(32)【優先日】2015年12月30日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】マーティン, フランソア―ピエール
(72)【発明者】
【氏名】コミネッティ, オルネラ
(72)【発明者】
【氏名】ゴーディン, ジーン―フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】エズリ, ジェシカ
(72)【発明者】
【氏名】ナイデッジャー, アンドレアス
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−504571(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/045180(WO,A1)
【文献】 特表2011−528117(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0286034(US,A1)
【文献】 特開平01−143874(JP,A)
【文献】 Paul Elliott et al.,Urinary metabolic signatures of human adiposity,Science Translational Medicine,2015年 4月29日,Vol.7, Issue 285 285ra62,pp.1-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 − 33/98
G01N 24/08
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小児対象における除脂肪体重(FFM)のレベルを測定するための方法であって、前記対象から得られたサンプル中のフェニルアセチルグルタミン(PAG)のレベルを測定するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記対象が、前記対象においてFFMの低下を引き起こす病態に罹患している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記病態が、炎症性腸疾患(IBD)、体質性成長遅延、栄養不良、セリアック病、胆汁うっ滞性肝疾患、又はホルモン欠乏症である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記病態が、IBDである、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
(a)前記対象から得られたサンプル中のPAGのレベルを測定するステップと、
(b)前記サンプル中のPAGのレベルを基準値と比較するステップと、を含み、
前記基準値と比較した前記サンプル中のPAGのレベルが前記対象におけるFFMのレベルを示す、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(a)タウリン、PAG対シス−アコニテートの比、及びPAG対尿素の比から選択される1つ以上のバイオマーカーのレベルを測定するステップと、
(b)前記サンプル中の前記1つ以上のバイオマーカーのレベルを1つ以上の基準値と比較するステップと、を更に含み、
前記1つ以上の基準値と比較された前記サンプル中の前記1つ以上のバイオマーカーのレベルは、前記対象におけるFFMのレベルを示す、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記対象由来の前記サンプルにおける、タウリン、PAG対シス−アコニテートの比、及びPAG対尿素の比から選択される少なくとも2つのバイオマーカーのレベルを測定するステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記対象由来のサンプルにおける、タウリン、PAG対シス−アコニテートの比、及びPAG対尿素の比の各々のレベルを測定するステップを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
PAGのレベルが測定され、前記基準と比較した前記対象由来の前記サンプルにおけるPAGのレベルの増加が、FFMのレベルがより高いことを示している、請求項〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
タウリンのレベルが測定され、前記1つ以上の基準と比較した前記対象由来の前記サンプルにおけるタウリンのレベルの増加が、FFMのレベルがより高いことを示している、請求項6〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
PAG対シス−アコニテートの比が測定され、前記1つ以上の基準と比較した前記対象由来の前記サンプルにおける前記PAG対シス−アコニテートの比の増加が、FFMのレベルがより高いことを示している、請求項6〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
PAG対尿素の比が測定され、前記1つ以上の基準と比較した前記対象由来の前記サンプルにおける前記PAG対尿素比の増加が、FFMのレベルがより高いことを示している、請求項6〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記バイオマーカー(複数可)のレベルが、NMR分光法又は質量分析法によって測定される、請求項6,7,8,10,11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記サンプルが、尿又は血液サンプルである、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法によって、FFMのレベルを増加させる処置を必要とすると認められた小児対象におけるFFMのレベルを調節する方法であって、FFMのレベルを調節するために前記対象の生活習慣を改善するステップを含む、方法。
【請求項16】
前記対象の生活習慣を改善するステップが、食事の変更を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記食事の変更が、FFMの増加を促進する食事の一部として前記対象に少なくとも1種の栄養製剤を投与するステップを含む、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小児対象における除脂肪体重(fat−free body mass、FFM)のレベルを測定するための方法に関する。特に、本発明は、分子バイオマーカーを用いて、小児対象におけるFFMのレベルを測定するための非侵襲的方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
炎症性腸疾患(inflammatory boweldisease、IBD)患者の約25パーセントが小児期(思春期性成長スパート)中に診断されている(Ezri et al;2012;Digestion 85(4):308−319)。
【0003】
成長は、小児科対象にとって重要なプロセスであり、成長障害/成長遅延は小児IBDの共通の特徴である。この成長障害の病因は、複雑であり、カロリー摂取量の減少、吸収不良、微量栄養素欠乏症、思春期遅発症、身体活動の低下、及び炎症性サイトカインの産生の増加が挙げられる(Sauer and Kugathasan;2009;Gastroenterol Clin North Am 38(4):611−628及びEzri et al.;前掲書)。この文脈では、IBDである小児の身体成分の正確な評価は、特に、疾患の寛解を誘導し、成長及び栄養状態を回復するための薬物療法及び栄養補給(nutritional support)の関連性を考慮すると、非常に重要である。
【0004】
IBDである小児の身体成分を報告している研究はごく少数である(例えば、Boot et al.;Gut 42(2):188−194;1998;Azcue et al.;Gut 41(2):203−208;1997;Burnham et al.;Am J Clin Nutr 82(2):413−420;2005;Thayu et al.;Inflamm Bowel Dis 13(9):1121−1128;2007)。これらの研究の殆どは、年齢、身長、及び成熟度に応じて調整された除脂肪体重(fat free mass、FFM)が、一般的に、健常児と比較してIBDである小児では減少し、一方、体脂肪量はより安定であることを示した。この悪液質状態はまた、疾患活動スコア(すなわち、小児CD活動指数(Pediatric CD Activity Index、PCDAI))と逆相関し、骨の健康、筋肉の性能、及び生活の質に長期間にわたって重大な影響を及ぼす可能性がある(Bernstein et al.;Ann Intern Med 133(10):795−799;2000,van Staa,et al;Gastroenterology 125(6):1591−1597;2003;Bryant et al.;Aliment Pharmacol Ther 38(3):213−225;2013)。
【0005】
単一のパラメータとしての体重又は肥満度指数(bodymass index、BMI)は、疾患又は栄養不均衡(nutritional unbalance)によって誘発される身体成分の変化を反映しない(Wiskin et al.;Clin Nutr 30(1):112−115;2011)。従って、身体成分の評価は、特に小児集団における介護提供者(care provider)及び栄養士にとって価値のある見通しを提供する。
【0006】
身体成分を評価するための研究の設定又はクリニックで使用できる高度に洗練された技術がいくつか存在する。すべてのこれらの技術は測定誤差(1〜6%の間)があり、わずかに異なっていることがある基本的な仮説を有する。
【0007】
小児集団における身体成分の評価の殆どは、より多量の水と、より少ない割合のミネラル及びタンパク質によって引き起こされる(成人と比較した)小児の生化学的未熟性(biochemical immaturity)に起因する体脂肪の割合(%)を過剰推定する2つのコンパートメント(すなわち、体脂肪及びFFM)に基づいている。水分補給及びミネラル含量における個体間の変動性を考慮するために、マルチコンパートメントモデルは、身体成分のより正確な推定値を生成する。成人と小児集団におけるゴールドスタンダード法と考えられる4−コンパートメントモデルアプローチは、身体を、水、タンパク質、ミネラル、及び脂肪等の4つの要素に分割する。水、タンパク質、ミネラル、及びグリコーゲンの合計は、除脂肪体重(FFM)と呼ばれる。それは、体脂肪量は直接測定されないが、体重からFFMを引くことによって得られることを意味している(Fields and Allison;Obesity(Silver Spring)20(8):1732−1737;2012)。このモデルでは、二重エネルギーX線吸収測定法(dual−energy X−rayabsorptiometry、DXA)、同位体希釈、及びハイドロデンシトメトリー(hydrodensitometry)等のいくつかの技術によって測定される体密度、骨ミネラル含量、及び体内総水分量等の様々な入力が必要である。係るマルチコンパートメントモデルは、高コストで(技術的に大変な労力を要する)時間がかかる欠点を有し、主に研究目的に用いられる。
【0008】
小児集団では、DXA、空気置換プレチスモグラフィ、同位体希釈、及び生体電気インピーダンス分析(bioelectrical impedance analysis、BIA)等の技術、及び人体計測方程式(anthropometric equation)による皮下脂肪厚を用いることができる。高価なDXAは魅力的な技術ではあるが、推定のばらつきは、サプライヤー間、ソフトウェア間、及びデータ収集間で変化することがあるため、ゴールドスタンダードとして確立することは依然として困難である。人体計測方程式を用いる皮下脂肪厚の値は、実施するのが簡単かつ容易な方法であるため、小児介護提供者にとっては依然として最も一般的な手法のままである。しかしながら、一般的に、小児集団で使用するための最も感度が高くかつ特異的な方法、特にIBDは、依然として議論の対象である。
【0009】
この文脈では、医師は、身体成分を測定するために様々なコストとパフォーマンスの複数の方法に直面する。
【0010】
小児対象においてFFMを測定するための更なる方法が必要である。
【発明の概要】
【0011】
本発明者らは、特定の代謝産物のレベルが小児対象におけるFFMのレベルと相関があることを確認した。代謝産物プロファイルを評価し、また、特定の身体成分、特にFFMと関連がある複合代謝シグネチャを評価するために、核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance、NMR)分光法が用いられてきた。
【0012】
従って、第1の態様では、本発明は、対象から得られたサンプル中のフェニルアセチルグルタミン(phenylacetylglutamine、PAG)のレベルを測定することを含む、小児対象における除脂肪体重(FFM)のレベルを測定するための方法を提供する。
【0013】
対象は、当該対象においてFFMの低下を引き起こす病態に苦しむ場合がある。例えば、その病態は、炎症性腸疾患(IBD)、体質性成長遅延、一般的な栄養不良、セリアック病、胆汁うっ滞性肝疾患、又はホルモン欠乏症であり得る。
【0014】
好ましい実施形態では、その病態はIBDである。
【0015】
本方法は、次のステップ、すなわち
(a)対象から得られたサンプル中のPAGのレベルを測定するステップと、
(b)サンプル中のPAGのレベルを基準値と比較するステップと、を含むことができ、
基準値と比較したサンプル中のPAGのレベルが対象におけるFFMのレベルを示す。
【0016】
本方法は、(a)タウリン、PAG対シス−アコニテートの比、及びPAG対尿素の比から選択される1つ以上のバイオマーカーのレベルを測定するステップと、(b)サンプル中の1つ以上のバイオマーカーのレベルを1つ以上の基準値と比較するステップと、を更に含むことができ、基準値と比較されたサンプル中の1つ以上のバイオマーカーのレベルが対象におけるFFMのレベルを示す。
【0017】
本方法は、当該対象由来のサンプルにおける、タウリン、PAG対シス−アコニテートの比、及びPAG対尿素の比から選択される少なくとも2つのバイオマーカーのレベルを測定するステップを含むことができる。本方法は、当該対象由来のサンプルにおける、タウリン、PAG対シス−アコニテートの比、及びPAG対尿素の比の各々のレベルを測定するステップを含むことができる。
【0018】
一実施形態では、PAGのレベルが測定され、基準サンプルと比較した対象由来のサンプル中のPAGのレベルの増加は、FFMのレベルがより高いことを示している。
【0019】
一実施形態では、タウリンのレベルが測定され、基準サンプルと比較した対象由来のサンプルにおけるタウリンのレベルの増加は、FFMのレベルがより高いことを示している。
【0020】
一実施形態では、PAG対シス−アコニテートの比が測定され、基準サンプルと比較した対象由来のサンプル中のPAG対シス−アコニテートの比の増加は、FFMのレベルがより高いことを示している。
【0021】
一実施形態では、PAG対尿素の比が測定され、基準サンプルと比較した対象由来のサンプル中のPAG対尿素の比の増加は、FFMのレベルがより高いことを示している。
【0022】
一実施形態では、基準値は、対象の対照集団におけるバイオマーカーの平均レベルに基づいている。
【0023】
バイオマーカーのレベルは、NMR分光法又は質量分析法によって測定することができる。
【0024】
サンプルは、尿又は血液サンプルであってよい。
【0025】
更なる態様では、本発明は、本方法によってFFMのレベルを増加させるための処置が必要であると認められた小児対象におけるFFMのレベルを調節するための方法であって、FFMのレベルを調節するためにその対象の生活習慣を改善するステップを含む、方法に関する。その方法は、対象の生活習慣を改善した後に、上記方法を繰り返すステップを含むことができる。
【0026】
一実施形態では、対象の生活習慣を改善するステップは、食事の変更を含む。食事の変更は、FFMの増加を促進する食事の一部として、対象に対して少なくとも1種の栄養製剤を投与するステップを含むことができる。
【0027】
更なる態様では、本発明は、小児対象においてFFMを増加させるために使用するための栄養組成物であって、該対象は、本発明の方法によってFFMを増加させる処置が必要であると認められるものである、栄養組成物を提供する。
【0028】
更なる態様では、本発明は、本発明の方法によりFFMを増加させる処置が必要であると認められる小児対象においてFFMを増加させるために栄養組成物を使用することに関する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
除脂肪体重(FFM)
一態様では、本発明は、小児対象におけるFFMのレベルを測定するための方法に関する。
【0030】
FFMは、一般的に、体内における、水、タンパク質、ミネラル、及びグリコーゲンの合計を総合的に調べるために用いられる。言い換えれば、FFMは、脂肪以外の身体の成分から構成されている。FFMは除脂肪量とも呼ぶことができる。
【0031】
FFMのレベルの低下は、成長遅延をもたらすいくつかの小児病態と関連がある。係る成長遅延は、骨の健康、筋肉の能力、及び生活の質に長期間にわたって重大な影響を及ぼす可能性がある。
【0032】
本方法を用いて、低レベルのFFMを有する小児対象を同定し、生活習慣への介入(例えば、FFMのレベルを増加させるための栄養製剤の投与)中に当該対象におけるFFMのレベルをモニターすることができる。特に、本発明は、対象由来のサンプルにおける特定の代謝産物のレベルを測定してFFMのレベルを評価するステップを含む。従って、本方法は、栄養溶液及び/又は治療溶液を最適化し、生活の質を回復させるために、例えば臨床状況又は研究状況において、有効で個別的なFFM管理のために用いることができる迅速かつ信頼性の高いバイオマーカーを提供する非侵襲的方法であるという利点を提供する。
【0033】
サンプル
本方法は、対象から得たサンプル中のバイオマーカーのレベルを測定するステップを含む。このサンプルは「試験サンプル」と呼ばれることもある。従って、本方法は、典型的には、ヒト又は動物の身体の外側で、例えば、試験を行う対象から事前に得た体液サンプルに対して行われる。
【0034】
サンプルは、例えば、尿、血清、又は血漿サンプルであってよい。
【0035】
サンプルは、血液から得てもよく、すなわち、サンプルは、全血又は血液画分を含む。サンプルは、血漿又は血清を含むことができる。
【0036】
血液サンプルを採取し、かつ血液画分を分離する技術は当技術分野において既知である。例えば、静脈血サンプルは、針を使用して患者から採取され、プラスチックチューブ内に堆積させることができる。採取チューブは、例えば、スプレーコーティングしたシリカ、及び血清分離のためのポリマーゲルを含むことができる。血清は、室温において、1300RCFで10分間の遠心分離によって分離され、−80℃で小さなプラスチックチューブに保管することができる。
【0037】
好ましい実施形態では、サンプルは尿サンプルである。
【0038】
検出方法
サンプル中のPAG及び本明細書で言及される任意の他のバイオマーカーのレベルは、任意の適切な方法を用いて、測定又は決定することができる。例えば、核磁気共鳴(NMR)分光法を用いてもよい。代替実施形態では、他の方法、例えば他の質量分析法、クロマトグラフ法、標識技術、又は定量化学的方法を用いてもよい。典型的には、サンプル中のバイオマーカーのレベル及び基準値は、同じ分析方法を使用して測定する。
【0039】
対象
本発明によれば、対象は小児対象である。
【0040】
好ましくは対象は哺乳動物、好ましくはヒトである。対象は、あるいはヒト以外の哺乳動物(例えば、ウマ、ウシ、ヒツジ、又はブタ等)であってもよい。一実施形態では、対象はコンパニオンアニマル、例えば、イヌ又はネコであってもよい。
【0041】
一実施形態では、対象はヒトであり、小児という用語は18歳未満の対象を指す。対象は、例えば、10〜18歳、8〜12歳、8〜14歳、又は10〜12歳であり得る。
【0042】
バイオマーカー
本発明は、対象由来のサンプル中のバイオマーカーのレベル、特にPAGのレベルを測定することを含む。追加のバイオマーカーは、タウリン、PAG対シス−アコニテートの比及びPAG対尿素の比から選択することができる。
【0043】
従って、本発明の方法は、少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを測定するステップを含む。バイオマーカーの測定値を組み合わせることによって、FFMの改善されたバイオマーカーシグネチャを得ることができる。
【0044】
フェニルアセチルグルタミン(PAG)
本方法は、対象由来のサンプル中のPAGのレベルを測定するステップを含む。
【0045】
PAG(5−アミノ−5−オキソ−2−[(1−オキソ−2−フェニルエチル)アミノ]ペンタン酸)は、フェニルアセテートとグルタミンとの抱合によって形成される生成物である。フェニルアセテートは、宿主又は腸内微生物代謝のいずれかから生成される。グルタミンは、主としてクレブス回路においてα−ケトグルタレートから生成される。
【0046】
PAGは、例えば尿中に見出すことができる主要な窒素代謝産物である。そのレベルは、尿素サイクルにおける中間体を厳密に反映し、窒素代謝の変化を反映している可能性がある。
【0047】
一実施形態では、基準サンプルと比較した対象由来のサンプル中のPAGレベルの増加は、FFMのレベルがより高いことを示している。
【0048】
タウリン
一実施形態では、本方法は、タウリンのレベルを測定するステップを含むことができる。
【0049】
タウリン(2−アミノエタンスルホン酸)は組織に広く分布された有機酸である。それは胆汁の主要成分であり、大腸で見出すことができる。タウリンは、胆汁酸の抱合、抗酸化、浸透圧調節、膜安定化、及びカルシウムシグナリングの調節等の多くの基本的な生物学的役割を有する。それは、心臓血管機能、及び骨格筋、網膜、並びに中枢神経系の発達及び機能にとって不可欠である。生物学的に発生する酸の大部分はより弱い酸性のカルボキシル基を含有するが、タウリンは、生体分子の中では珍しくスルホン酸である。
【0050】
タウリンはシステイン誘導体である。哺乳動物のタウリン合成は、システインスルフィン酸経路を介して膵臓で起こる。この経路では、酵素システインジオキシゲナーゼによって、システインのチオール基が最初にシステインスルフィン酸へと酸化される。システインスルフィン酸は、次に、スルフィノアラニンデカルボキシラーゼによって脱カルボキシル化されて、ヒポタウリンを形成する。次いで、ヒポタウリンが自発的又は酵素的に酸化されてタウリンを生成するかどうかははっきりしていない。
【0051】
一態様では、本発明は、小児対象における除脂肪体重(FFM)のレベルを測定するための方法を提供し、その方法は、対象から得られたサンプル中のタウリンのレベルを測定するステップを含む。
【0052】
その方法は、(a)対象から得られたサンプル中のタウリンのレベルを測定するステップと、(b)サンプル中のタウリンのレベルを基準値と比較するステップと、を含むことができ、基準値と比較したサンプル中のタウリンのレベルが対象におけるFFMのレベルを示す。
【0053】
一実施形態では、基準サンプルと比較した対象由来のサンプル中のタウリンのレベルの増加は、FFMのレベルがより高いことを示している。
【0054】
一実施形態では、タウリンは、本発明の方法においてPAGの代わりに用いることができる。
【0055】
PAG対シス−アコニテートの比
一実施形態では、本方法は、シス−アコニテートのレベルを測定するステップを含むことができる。
【0056】
シス−アコニテートは、シス−アコニット酸(プロプ−1−エン−1,2,3−トリカルボン酸)の共役塩基である。それは、クエン酸サイクルでのシトレートのイソシトレートへの異性化における中間体であり、酵素アコニターゼによって触媒される。
【0057】
本発明は、小児対象由来のサンプル中のPAG対シス−アコニテートの比(PAG対シス−アコニテートの比)を測定することを含むことができる。
【0058】
一実施形態では、基準サンプルと比較したサンプル中のシス−アコニテートレベルの減少は、FFMのレベルがより高いことを示している。一実施形態では、基準サンプルと比較した対象由来のサンプル中のPAG対シス−アコニテートの比の増加は、FFMのレベルがより高いことを示している。
【0059】
PAG対尿素の比
一実施形態では、本方法は、尿素のレベルを測定するステップを含むことができる。
【0060】
尿素(カルバミド)は、化学式CO(NHを有する有機化合物である。その分子は、カルボニル(C=O)官能基によって結合された2つのNH基を有する。
【0061】
尿素は、動物による窒素含有化合物の代謝において重要な役割を果たしており、哺乳類の尿における主な窒素含有物質である。それは、多くの生化学的プロセス、特に窒素排泄に関与している。
【0062】
本発明は、小児対象由来のサンプル中のPAG対尿素の比を測定するステップを含むことができる。
【0063】
一実施形態では、基準サンプルと比較したサンプル中の尿素レベルの減少は、FFMのレベルがより高いことを示している。一実施形態では、基準サンプルと比較した対象由来のサンプル中のPAG対尿素の比の増加は、FFMのレベルがより高いことを示している。
【0064】
バイオマーカーの組み合わせ
PAGのレベルを測定することは、本発明の方法では予測値を有することであるが、方法の品質及び/又は予測能力は、複数のバイオマーカーからの値を組み合わせることによって改善することができる。
【0065】
従って、本発明の方法は、本明細書で規定されるバイオマーカーから少なくとも2種のバイオマーカーのレベルを測定するステップを含むことができる。例えば、その方法は、PAG及びタウリンのレベル;PAGのレベル及びPAG対シス−アコニテートの比、又はPAGのレベル及びPAG対尿素の比を測定するステップを含むことができる。
【0066】
その方法は、PAGのレベル、タウリンのレベル、及びPAG対シス−アコニテートの比を測定するステップを含むことができる。
【0067】
その方法は、PAGのレベル、タウリンのレベル、及びPAG対尿素の比を測定するステップを含むことができる。
【0068】
その方法は、PAGのレベル、PAG対シス−アコニテートの比、及びPAG対尿素の比を測定するステップを含むことができる。
【0069】
その方法は、PAGのレベル、タウリンのレベル、及びPAG対シス−アコニテートの比、及びPAG対尿素の比を測定するステップを含むことができる。
【0070】
特に好ましい実施形態では、その方法は、PAGのレベル、タウリンのレベル、PAG対シス−アコニテートの比、及びPAG対尿素の比を測定するステップを含み、PAG及びタウリンのレベルの増加、PAG対シス−アコニテートの比の増加、及びPAG対尿素の比の増加は、FFMのレベルがより高いことを示している。
【0071】
基準レベルとの比較
本方法は、試験サンプル中のPAG及び/又はタウリン及び/又はPAG対シス−アコニテートの比及び/又はPAG対尿素の比のレベルを、1つ以上の基準値又は対照値と比較するステップを含むことができる。基準レベルという用語は、「対照レベル」と同義であり、当業者が技術データの正確な解釈を容易にするために使用するデータを広範に含む。
【0072】
典型的には、本方法において測定された各個体バイオマーカーに関する特定の基準値が使用される。基準値は、そのバイオマーカーの正常レベル、例えば、正常な対象における同じサンプルタイプ(例えば、尿、血清、又は血漿)中のバイオマーカーのレベルであってもよい。例えば、基準値は、対象の対照集団、例えば(試験対象に対し、年齢及び/若しくは性別が一致しているか、又は一致していない場合がある−例えば性別、人種、遺伝的遺産、健康状態、又は年齢によって変化するので、正しい基準値をどのように割り当てるかは、当技術分野で知られている)5、10、100、1000以上の正常な対象におけるバイオマーカーの平均値レベル又は中央値レベルに基づくことができる。
【0073】
いくつかの実施形態では、基準値は同じ対象から前もって得られた値である。これにより、介入前の以前のレベルと比較した介入(例えば食事の変更)の効果又はFFMと関連があるバイオマーカーのレベルに関する異なる介入の効果を直接比較することができ、結果として改善を直接評価することができる。
【0074】
基準値を、試験サンプル中のバイオマーカーのレベルを測定する対応方法を用いて、例えば、正常な対象から採取した1つ以上のサンプルを用いて、測定することができる。例えば、いくつかの実施形態では、対照サンプルにおけるバイオマーカーのレベルを、試験サンプルに対する並行分析で測定することができる。あるいは、いくつかの実施形態では、特定のサンプルタイプ(例えば、尿、血清、又は血漿)中の個々のバイオマーカーのレベルに関する基準値を、例えば、公表された研究から前もって入手することもできる。従って、いくつかの実施形態では、基準値は前もって測定してもよいし、又は得られた各試験サンプルに関する対照サンプルについて対応する測定を実施することなく、計算若しくは推測してもよい。
【0075】
特定のサンプルにおける本明細書に記載のバイオマーカーに対する対照レベル又は基準レベルは、データベースに保存することができ、対象について実施した方法の結果を解釈するために使用することができる。
【0076】
試験サンプル中のバイオマーカーのレベル、例えば、対象由来のサンプル中のPAGのレベルは、対照群の1つ以上のコホート(集団/群)における同じ標的のそれぞれのレベルと比較することができる。対照の対象は、FFMが低下していると診断されたコホートと、対象がFFMが低下していないと前もって判定されたコホートと、から選択することができる。
【0077】
本明細書に記載のバイオマーカーのレベルに関する基準値は、好ましくは、試験サンプル中のバイオマーカーのレベルを特徴付けるのに使用される単位と同じ単位を使用して測定される。従って、本明細書に記載のバイオマーカーのレベルが、μmol/l(μM)の単位等の絶対値である場合、基準値もまた、一般集団又は対象の選択された対照集団における個体のμmol/l(μM)単位に基づく。
【0078】
一実施形態では、サンプルは尿であり、本明細書に記載のバイオマーカーのレベルは典型的にはμmol/mmolクレアチニンとして表される。
【0079】
本方法は、基準レベルと比較した試験サンプルにおける本明細書に記載のバイオマーカーのレベル差がFFMのレベルを示すことを提供する。
【0080】
対象のバイオマーカーのレベルと、対応する基準値との差の程度もまた、どちらの対象が、ある種の介入から最も利益を得ることになるかを判定するのに有用である。試験サンプルにおけるバイオマーカーのレベルは、例えば、基準値と比較して、少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、又は少なくとも50%、又は少なくとも100%増加又は減少し得る。
【0081】
一実施形態では、基準レベルと比較した試験サンプルにおける本明細書に記載のバイオマーカーのレベルがより高いということは、FFMのレベルがより高いことを示すことができる。本明細書に記載のバイオマーカーのレベルは、例えば、基準値と比較して、試験サンプルにおいて、少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、又は少なくとも100%を超える場合がある。
【0082】
一実施形態では、基準レベルと比較して、試験サンプルにおける本明細書に記載のバイオマーカーのレベルの低下は、FFMのレベルが低下していることを示すことができる。本明細書に記載のバイオマーカーのレベルは、例えば、基準レベルと比較して、試験サンプルにおいて、少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、又は少なくとも100%を超える場合がある。
【0083】
FFMに対するバイオマーカーのレベルの関連性
一般的に、基準値と比較して、試験サンプルにおける本明細書に記載のバイオマーカーのレベルの増加は、FFMのレベルがより高いことを示すことができる。
【0084】
FFMの全レベルは、上記のような異なるバイオマーカーのレベルを測定することによって評価することができる。例えば、対象は、対照と関連して、及び/又はバイオマーカーが上昇する程度と関連して調節される個々のバイオマーカーの数に従って、FFMのレベルの低、中、高、及び/又は非常に高い予測に階層化することができる。
【0085】
病態
一実施形態では、小児対象は、当該対象においてFFMの低下を引き起こす病態に罹患している。
【0086】
FFMの低下と関連がある病態としては、例えば、炎症性腸疾患(IBD)、体質性成長遅延、一般的な栄養不良、セリアック病、胆汁うっ滞性肝疾患、又はホルモン欠乏症が挙げられる。
【0087】
一実施形態では、対象はIBDに罹患している。IBDは、結腸及び小腸の炎症病態の一群を指す。IBDの基本的な原因のタイプ(principle types)は、クローン病(CD)及び潰瘍性大腸炎である。クローン病は、小腸及び大腸に影響を及ぼし、口、食道、胃、及び肛門にも影響を及ぼす場合があり、潰瘍性大腸炎は主に結腸及び直腸に影響を及ぼす。他のタイプのIBDとしては、膠原性大腸炎、リンパ球性大腸炎、転位大腸炎(diversion colitis)、ベーチェット病、及び不確定大腸炎(indeterminatecolitis)が挙げられる。
【0088】
IBD病態は、次の症状、すなわち腹痛、嘔吐、下痢、直腸出血、骨盤領域の重度の内部痙攣/筋肉痙攣、及び体重減少のいずれかの症状を呈することがある。IBDの最も一般的な腸外の合併症は貧血である。
【0089】
IBDは、環境因子及び遺伝因子の相互作用の結果として発症する。腸内細菌の変化が一因となっている場合があり、IBDに罹患した個体は、ファーミクテス門(Firmicutes)(すなわちラクノスピラ科(Lachnospiraceae)及びバクテロイデス属(Bacteroidetes)(Mukhopadhya et al.;Nature Reviews Gastroenterology&Hepatology 9(4):219−230)等の片利共生細菌の生物多様性が30〜50%低下することが見出されている。
【0090】
一実施形態では、当該対象においてFFMの低下を引き起こす病態に罹患している小児対象は、FFMのレベルを増加させるための処置を必要とする場合がある。
【0091】
対象におけるFFMの低下を引き起こす病態は、対象における成長遅延と関連する病態である場合がある。本明細書で使用される場合、成長遅延は、成長障害又は発育遅延とも呼ぶことができる。
【0092】
成長遅延とは、小児の成長が、その年齢の小児にとって一般的に期待される成長を下回っている状態を指す。成長遅延の原因は、典型的には複雑であるが、カロリー摂取量の減少、吸収不良、微量栄養素欠乏症、思春期遅発症、ホルモン不均衡(hormonal imbalance)、身体活動の低下、炎症性サイトカインの産生増加を含む場合がある。成長遅延は、対象におけるFFMのレベルの低下と関連があり得る。
【0093】
FFMのレベルを増加させる処置が必要な病態に罹患している対象は、追いつき成長を促進するための処置が必要であると判定される場合がある。追いつき成長とは、一般的に、以前から成長遅延に罹患している対象の成長期間を指す。追いつき成長のその後の期間では、対象は、追いつき成長期間の前に対象が有していたものよりも、対照である年齢が一致した基準対象の成長レベルとより同様な成長のレベルを有する。追いつき成長は、同じ年齢の対象について期待される成長を対象にもたらすことができる。追いつき成長によって、対象が追いつき成長期間前に有していたが、同じ年齢の対象について期待される成長には達していないものに比べて、同じ対象(subject the same)について期待される成長のレベルにより近い成長レベルを有する対象となり得る。
【0094】
一実施形態では、FFMを増加させる処置を必要とする対象は、成長遅延、又は成長遅延と関連がある病態に罹患している。
【0095】
一実施形態では、FFMを増加させる処置を必要とする対象は、追いつき成長を促進する処置が必要である。
【0096】
FFMの健康的なレベルを促進するための方法
一態様では、本発明は、本方法によってFFMのレベルの調節を必要とすると認められた小児対象におけるFFMのレベルを調節するための方法を提供する。好ましくは、その方法は、FFMのレベルを調節するためにその対象の生活習慣を改善するステップを含む。
【0097】
別の態様では、本発明は、小児対象におけるFFMのレベルを調節するための方法を提供し、その方法は、(a)本発明の方法によって、対象におけるFFMのレベルを測定するステップと、(b)評価されたリスクレベルに基づいて、対象のための適切な介入戦略(例えば、生活習慣及び/又は食事の変更)を選択するステップと、を含む。
【0098】
典型的には、対象がFFMの許容可能なレベルを有すると予測される場合は、介入は必要ではない場合がある。例えば、対象のFFMの予測レベルが基準値と同様である場合、薬学的又は栄養学的療法は必要ないことがある。基準値は、例えば、対照小児集団のFFMの正常レベル又は平均レベルと一致し得る。
【0099】
あるいは、対象が、減少したFFMのレベルを有すると予測される場合、方法は、対象の生活習慣を改善するステップを含むことができる。対象における生活習慣の改善は、本明細書に記載の任意の変更であってもよく、例えば食事の変更であってもよい。
【0100】
一実施形態では、対象における生活習慣の改善は、食事の変更を含む。好ましくは、食事の変更は、FFMのレベルを調節する、例えばFFMの増加を促進する食事の一部である少なくとも1種の栄養製剤を対象に投与するステップを含む。
【0101】
本明細書で使用される場合、用語「FFMの増加を促進する」は、FFMの減少を予防することも包含する。
【0102】
栄養製剤としては、例えば、食料製品、飲料、ペットフード製品、食品、栄養機能食品、食品添加物、又は栄養配合物から選択することができる。
【0103】
栄養製剤は、通常は、経口、胃内、又は静脈内の方法で投与されるべきである。好ましくは、本発明で使用するための栄養製剤は、経口の方法で摂取されるべきである。
【0104】
一実施形態では、栄養製剤は、例えば、モジュレン(Modulen)IBD、ペプタメン(Peptamen)、又はネストロビット(Nestrovit)であり得る。
【0105】
好ましくは、食事の変更は、以前は消費していない栄養製剤又は異なる量で消費していた栄養製剤のうちの少なくとも1種の栄養製剤の使用であり、例えば、FFMのレベルに影響を及ぼす栄養製剤の使用である。特に好ましい実施形態では、食事の変更は、FFMの増加を促進する栄養組成物を投与するステップを含む。
【0106】
生活習慣の改善(例えば、食事の変更)は、対象のFFMのレベルを調節することを目標とする特定のプログラムと組み合わせて、FFMのレベルをモニターする方法で、対象に合わせて個別化することができる。例えば、その方法は、治療の有効性を評価するために、対象におけるFFMのレベルを(再)測定する(即ち、食事に基づく介入後に)更なるステップを含むことができる。例えば、対象が初期介入フェーズの後にFFMのレベルの増加を示す場合、その介入は増加を維持し続ける可能性がある。
【0107】
しかしながら、対象が初期介入に対して十分に応答しない場合(例えば、FFMのレベルの有意な変化を示さない場合)、対象は、代替プログラムに、例えば異なる食事又は栄養剤に切り替えることができる。例えば、対象が初期栄養レジメンにあまり反応しない場合、別の栄養製剤を対象に投与することができる。FFMのレベルの所望の変化が達成されるまで、個々の薬剤の異なる用法用量を選択することを含むこのプロセスを反復することができる。典型的には、対象は、FFMのレベルの測定が繰り返される前に、少なくとも1週間、2週間、1ヶ月間、又は3ヶ月間、特定のレジメ(例えば、上で定義した栄養剤)を維持することができる。
【0108】
更なる態様では、本発明は、対象におけるFFMのレベルを調節する時に使用するための、上で定義した栄養剤(例えば、食料製品、飲料、ペットフード製品、食品、栄養機能食品、食品添加物、又は栄養配合物から選択される)を提供し、対象におけるFFMのレベルは上記の方法によって予測した。
【0109】
更なる態様では、本発明は、対象におけるFFMのレベルを調節するための薬剤を製造するための、上で定義した栄養剤の使用を提供し、対象におけるFFMのレベルは上記の方法によって予測した。
【0110】
KITS
更なる態様では、本発明は、小児対象におけるFFMのレベルを予測するためのキットを提供する。キットは、例えば、本明細書に記載の方法で使用するための1種以上の試薬、標準品、及び/又は対照サンプルを含むことができる。例えば、一実施形態では、そのキットは、(i)PAG;(ii)タウリン、シス−アコニテート、及び尿素の1つ以上の所定のレベルを含む1つ以上の基準サンプルと、対象から採取したサンプル中のバイオマーカーのレベルを基準サンプルの所定レベルと比較することによって小児対象におけるFFMを予測するためのキットに関する使用説明書と、を含む。
【0111】
当業者であれば理解されるように、当業者は、開示される本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の本発明のすべての特徴を自由に組み合わせることができる。本発明を、以下の特定の実施形態に関して、単に例として説明する。
【実施例】
【0112】
実施例1−FFMと相関する尿バイオマーカーの測定
身体測定評価(Anthropometricassessment)及び尿代謝産物分析を、IBDの小児対象コホート及び対照コホートに関して実施した。
【0113】
ピアソン相関分析は、PAG及びタウリンのレベルがFFMと正の相関があることを示した(表1を参照されたい)。更に、PAG対シス−アコニテートの比及びPAG対尿素の比もまたFFMと正の相関があった(表1を参照されたい)。
【0114】
【表1】
【0115】
材料及び方法
実験計画
この研究はスイスのローザンヌ大学の倫理委員会(theEthical Committee of the University of Lausanne, Switzerland)(プロトコル69/10)によって承認され、スイスのローザンヌ大学病院の小児消化器外来診療部(the Pediatric Gastroenterology outpatient clinic of the UniversityHospital of Lausanne, Switzerland)で実施された。適格患者は、国際基準に従って確認されたCD又はUCと診断された10歳〜18歳の年齢の患者であった(Levin et al.;Journal of pediatric gastroenterology and nutrition;2014 Jun;58(6):795−806)。対照群は、炎症性腸疾患又は他の慢性炎症性疾患の家族歴無しの10〜18歳の健康な対象からなっていた。両親からは文書によるインフォームドコンセントが得られ、各小児から同意が得られた。
【0116】
身体測定評価
体重は、較正されたデジタルスケール(Seca,Hamburg,Germany)を用いて0.1kgの位まで測定した。身長は、壁に取り付けたスタジオメータ(Holtain,Crosswell,UK)を用いて0.1cmの位まで測定した。肥満度指数(BMI,kg/m)は、キログラム単位の体重をメートル単位の身長の2乗で割って求めた。身長成長速度(Height velocity)は、センチメートル単位の成長量を、数年の測定間の時間間隔で割って計算した。すべての値はzスコアで表した。思春期段階はTannerスコアに従って評価した。
【0117】
身体成分
生体インピーダンス分析(bioimpedanceanalysis、BIA)はBody Impedance Analyzer Akern(Florence,Italy)を用いて行った。対象は手足が触れないように楽に横たわり、身体電極(body electrode)は、利き手の背側の中央の指節骨−中手骨関節のすぐ下に配置され、また同じ側の足の上側の中足弓(metatarsal arch)のすぐ下に配置された。次いで、製造者によって供給された(重量、年齢、及びインピーダンス指数(身長/抵抗)を使用する)ソフトウェアBodyGram Pro(登録商標)を用いて除脂肪体重(FFM)を計算した。
【0118】
IBD患者に関する疾病活動指数(Disease activityindex)と生活の質
疾病活動は、スコア>30が重度の疾患を示す100ポイントスケールの小児クローン病活動指数(Pediatric Crohn’s Disease Activity Index、PCDAI)及びスコア>35が重度の疾患を示す85ポイントスケールの小児潰瘍性大腸炎活動指数(Pediatric Ulcerative Colitis Activity Index、PUCAI)(31)を用いて評価した。
【0119】
メタボノミクス分析
朝の時点の(Morning spot)の尿サンプルを、すべての対象についてベースライン時に採取し、IBD患者の6ヶ月及び12ヶ月の訪問時に採取した。尿サンプル(1mL)を滅菌プラスチックチューブを用いて採取し、分析前に−80℃で保管した。40μLの尿を、1mMの3−(トリメチルシリル)−[2,2,3,3−2H]−1−プロピオネート(TSP、化学シフト基準δ=0.0ppm)を含有する、20μLの重水素化したホスフェート緩衝液0.6MのKHPOと混合した。ホモジネートを17,000gで10分間遠心分離し、60μLの上清を1.7mmのNMRチューブに移した。H NMR代謝プロフィールは、水の抑制を伴う標準的なパルスシーケンスを用いて、1.7mmのプローブヘッド300K(BrukerBiospin,Rheinstetten,Germany)を備えたBrukerAvance II 600MHz分光計で取得し、そしてTOPSPIN(バージョン2.1、Bruker,Germany)ソフトウェアパッケージを使用して処理した。
【0120】
統計的分析
化学分析は、ソフトウェアパッケージSIMCA−P+(バージョン12.0、Umetrics AB,Umea,Sweden)を用いて行った。主成分分析(principal componentanalysis、PCA)、及びフィッティングプロセス中に応答変数に対して直交するすべての情報を除去する部分的最小二乗回帰(Partial Least Squares Regression、PLSR)の改良版を用いた。この変形である潜在構造に対する直交射影(O−PLS)は、PLSRと同じ程度の適合度でより狭いモデル(それらの解釈可能範囲の改善)を提供する。モデルにおける個々の変数の重みを強調するために、射影における変数重要度(Variable Importance in Projection、VIP)を使用し、1を超える値は慣例により閾値として使用した。影響のある代謝産物は、信号積分によって相対的に定量化し、t検定を用いて分析した。多変量データ分析を介して得られた影響のある代謝産物のリストに対して、ウェブベースのMetaboAnalyst 3.0ツールを用いて代謝産物セット濃縮分析(metabolite set enrichment analysis)を行うことによって、代謝経路分析を行った。主成分(PC)空間における軌跡の可視化は、Plotly(Plotfly Technologies Inc.,Montreal,Quebec)を用いて行った。
【0121】
上記明細書で言及したすべての出版物は、本明細書に参照により組み込まれる。本発明に記載する方法の様々な修正及び変更は、本発明の範囲及び主旨から逸脱することなく、当業者には明白であろう。本発明について特に好ましい実施形態に関連して記載してきたが、特許請求する本発明は、このような特定の実施形態に不当に限定されるものではないことを理解すべきである。実際、当業者には自明の、記載した、本発明を実施するためのモードの種々の改変は以下の特許請求の範囲内であることを意図している。