特許第6861718号(P6861718)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861718
(24)【登録日】2021年4月1日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】電気機械変換器
(51)【国際特許分類】
   H02N 1/00 20060101AFI20210412BHJP
【FI】
   H02N1/00
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-542601(P2018-542601)
(86)(22)【出願日】2017年9月26日
(86)【国際出願番号】JP2017034776
(87)【国際公開番号】WO2018062195
(87)【国際公開日】20180405
【審査請求日】2020年5月28日
(31)【優先権主張番号】特願2016-191261(P2016-191261)
(32)【優先日】2016年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100161089
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 良一
(72)【発明者】
【氏名】池田 智夫
【審査官】 末續 礼子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−059235(JP,A)
【文献】 特開2014−217178(JP,A)
【文献】 特開2014−176282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電部と対向電極との間の静電的な相互作用を利用して電力と動力の間の変換を行う電気機械変換器であって、
一方の面に第1の複数の電極および第1の複数の溝部が形成され、他方の面に第2の複数の溝部が形成された可動部材と、
第2の複数の電極が形成され、前記可動部材の前記一方の面に対向して配置された固定基板と、を有し、
前記第1および第2の複数の電極のうちの一方は静電荷を保持する複数の帯電部であり、前記第1および第2の複数の電極のうちの他方は前記複数の帯電部に対向する複数の対向電極であり、
前記第1および第2の複数の電極のそれぞれは、前記可動部材の移動方向に互いに間隔を空けて配置され、
前記第1および第2の複数の溝部は、いずれも前記可動部材を厚さ方向に貫通せず、前記移動方向に互い違いに配置されている、
ことを特徴とする電気機械変換器。
【請求項2】
前記可動部材は、前記一方の面における前記第1の複数の溝部同士の間の部分である第1の複数の基台部と、前記他方の面側における前記第2の複数の溝部同士の間の部分である第2の複数の基台部と、を有し、
前記第1の複数の電極は前記第1の複数の基台部に形成され、
前記第1の複数の基台部と前記第2の複数の基台部とは、前記移動方向における端部同士が互いに連結している、請求項1に記載の電気機械変換器。
【請求項3】
前記第1および第2の複数の溝部の少なくとも一方の深さは、前記可動部材の厚さの2分の1以上である、請求項2に記載の電気機械変換器。
【請求項4】
前記可動部材は、中央層と、前記中央層上の前記一方の面側に形成された第1の複数の基台部と、前記中央層上の前記他方の面側に形成された第2の複数の基台部と、を有し、
前記第1の複数の電極は前記第1の複数の基台部に形成されている、請求項1に記載の電気機械変換器。
【請求項5】
前記可動部材の厚さ方向の断面における前記第1および第2の複数の溝部の少なくとも一方の幅は、前記厚さ方向の中央側から前記可動部材の上面または下面に向かうにつれて次第に大きくなる、請求項2〜4のいずれか1項に記載の電気機械変換器。
【請求項6】
前記第1および第2の複数の溝部の少なくとも一方の角部は曲面である、請求項2〜5のいずれか1項に記載の電気機械変換器。
【請求項7】
前記可動部材の前記他方の面では、さらに、前記第2の複数の基台部に第3の複数の電極が形成されており、
前記可動部材の前記他方の面に対向して配置され、前記移動方向に互いに間隔を空けて第4の複数の電極が形成された第2の固定基板をさらに有し、
前記第1および第3の複数の電極が前記複数の帯電部でありかつ前記第2および第4の複数の電極が前記複数の対向電極であるか、または、前記第1および第3の複数の電極が前記複数の対向電極でありかつ前記第2および第4の複数の電極が前記複数の帯電部である、請求項2〜6のいずれか1項に記載の電気機械変換器。
【請求項8】
前記第1の複数の電極と前記第2の複数の溝部との位置が前記可動部材の両面で一致し、かつ前記第3の複数の電極と前記第1の複数の溝部との位置が前記可動部材の両面で一致している、請求項7に記載の電気機械変換器。
【請求項9】
前記可動部材は、回転軸の周りに回転可能な回転部材であり、
前記複数の帯電部および前記複数の対向電極は、それぞれ前記回転軸を中心として放射状に配置されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電気機械変換器。
【請求項10】
極性が交互に切り替わる電圧を前記複数の対向電極に印加して、前記複数の帯電部と前記複数の対向電極との間で発生する静電気力により前記可動部材を移動させる駆動部をさらに有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の電気機械変換器。
【請求項11】
前記可動部材の移動に応じて前記複数の帯電部と前記複数の対向電極との間の静電誘導により発生した電力を蓄積する蓄電部をさらに有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の電気機械変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電部と対向電極との間の静電的な相互作用を利用して電力と動力の間の変換を行う電気機械変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
半永久的に電荷を保持するエレクトレットを利用することで発生する静電的な相互作用により電力と動力の間の変換を行う電気機械変換器が知られている。例えば、特許文献1には、互いに絶縁され、その中心に対し放射する方向に延在し、周方向に間隔を設けて配置された、導電部材からなる第1の電極を有する固定子と、互いに絶縁され、その回転中心に対し放射する方向に延在し、周方向に間隔を設けて配置された、エレクトレット材料からなる第2の電極を有する可動子とを有し、固定子と可動子が対向して配置され、第1の電極に所定の電圧パターンを印加し、固定子と可動子との間の静電気によるクーロン力で可動子を回転させる静電電動機が記載されている。
【0003】
特許文献2には、回転力を発生させる板状の回転体と、回転体の両面にそれぞれ設けられた第1および第2の各発電機構を備え、第1および第2の各発電機構は、第1および第3の各電極と、これらの各電極と対向する位置にそれぞれ設けられた第2および第4の各電極と、第1および第3の各電極および第2および第4の各電極のいずれか一方に設けられた電荷保持体とを備え、第1および第3の各電極と第2および第4の各電極との相対的な回転により電荷保持体に電荷の変化を生じさせて、この電荷の変化を電気エネルギーとして取り出す発電装置が記載されている。
【0004】
上記のような電気機械変換器では、可動部材(可動子、回転体)と固定基板(固定子)のうちの一方に複数の帯電部が形成され、他方に複数の対向電極が形成される。これらの帯電部と対向電極は、それぞれ、可動部材の移動方向に間隔を空けて配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−126557号公報
【特許文献2】特開2011−078214号公報
【発明の概要】
【0006】
上記のような電気機械変換器では、変換効率を高めるためには、可動部材のうちで帯電部または対向電極が形成されていない領域を溝部または貫通孔として、可動部材を軽量化することが望ましい。しかしながら、そうした可動部材は、脆性材料で構成される場合には特に、部品サイズが小型になるほど、多少の衝撃でも割れやすくなる。
【0007】
そこで、本発明は、可動部材を軽量化しつつ可動部材の耐衝撃性を向上させた電気機械変換器を提供することを目的とする。
【0008】
帯電部と対向電極との間の静電的な相互作用を利用して電力と動力の間の変換を行う電気機械変換器であって、一方の面に第1の複数の電極および第1の複数の溝部が形成され、他方の面に第3の複数の電極および第2の複数の溝部が形成された可動部材と、第2の複数の電極が形成され、可動部材の一方の面に対向して配置された第1の固定基板と、第4の複数の電極が形成され、可動部材の他方の面に対向して配置された第2の固定基板とを有し、第1および第3の複数の電極が静電荷を保持する第1および第2の複数の帯電部であり、かつ第2および第4の複数の電極が第1および第2の複数の帯電部に対向する第1および第2の複数の対向電極であるか、または、第1および第3の複数の電極が第1および第2の複数の対向電極であり、かつ第2および第4の複数の電極が第1および第2の複数の帯電部であり、第1の複数の電極および第1の複数の溝部は、可動部材の移動方向に交互に配置され、第3の複数の電極および第2の複数の溝部は、移動方向に交互に配置され、かつ第1の複数の電極および第1の複数の溝部とは互い違いに配置されていることを特徴とする電気機械変換器が提供される。
【0009】
上記の電気機械変換器では、第1の複数の電極と第2の複数の溝部との位置が可動部材の両面で一致し、かつ第3の複数の電極と第1の複数の溝部との位置が可動部材の両面で一致していることが好ましい。
【0010】
上記の電気機械変換器では、第1の複数の電極は、可動部材の一方の面における第1の複数の基台部に形成され、第3の複数の電極は、可動部材の他方の面における第2の複数の基台部に形成され、移動方向における第1および第2の複数の基台部の幅は、移動方向における第1および第2の複数の溝部の幅よりも大きく、第1の複数の基台部と第2の複数の基台部とは、移動方向における端部同士が互いに連結していることが好ましい。
【0011】
上記の電気機械変換器では、可動部材は、中央層と、中央層上の一方の面側に形成された第1の複数の基台部と、中央層上の他方の面側に形成された第2の複数の基台部とを有し、第1の複数の電極は第1の複数の基台部に形成され、第3の複数の電極は第2の複数の基台部に形成され、移動方向における第1および第2の複数の基台部の幅と第1および第2の複数の溝部の幅とが互いに等しいことが好ましい。
【0012】
また、帯電部と対向電極との間の静電的な相互作用を利用して電力と動力の間の変換を行う電気機械変換器であって、一方の面に第1の複数の電極および第1の複数の溝部が形成され、他方の面に第2の複数の溝部が形成された可動部材と、第2の複数の電極が形成され、可動部材の一方の面に対向して配置された固定基板とを有し、第1および第2の複数の電極のうちの一方は静電荷を保持する複数の帯電部であり、第1および第2の複数の電極のうちの他方は複数の帯電部に対向する複数の対向電極であり、第1および第2の複数の電極のそれぞれは、可動部材の移動方向に互いに間隔を空けて配置され、第1および第2の複数の溝部は、いずれも可動部材を厚さ方向に貫通せず、移動方向に互い違いに配置されていることを特徴とする電気機械変換器が提供される。
【0013】
上記の電気機械変換器では、可動部材は、一方の面における第1の複数の溝部同士の間の部分である第1の複数の基台部と、他方の面側における第2の複数の溝部同士の間の部分である第2の複数の基台部とを有し、第1の複数の電極は第1の複数の基台部に形成され、第1の複数の基台部と第2の複数の基台部とは、移動方向における端部同士が互いに連結していることが好ましい。
【0014】
上記の電気機械変換器では、第1および第2の複数の溝部の少なくとも一方の深さは、可動部材の厚さの2分の1以上であることが好ましい。
【0015】
上記の電気機械変換器では、可動部材は、中央層と、中央層上の一方の面側に形成された第1の複数の基台部と、中央層上の他方の面側に形成された第2の複数の基台部とを有し、第1の複数の電極は第1の複数の基台部に形成されていることが好ましい。
【0016】
上記の電気機械変換器では、可動部材の厚さ方向の断面における第1および第2の複数の溝部の少なくとも一方の幅は、厚さ方向の中央側から可動部材の上面または下面に向かうにつれて次第に大きくなることが好ましい。
【0017】
上記の電気機械変換器では、第1および第2の複数の溝部の少なくとも一方の角部は曲面であることが好ましい。
【0018】
上記の電気機械変換器では、可動部材の他方の面では、さらに、第2の複数の基台部に第3の複数の電極が形成されており、可動部材の他方の面に対向して配置され、移動方向に互いに間隔を空けて第4の複数の電極が形成された第2の固定基板をさらに有し、第1および第3の複数の電極が複数の帯電部でありかつ第2および第4の複数の電極が複数の対向電極であるか、または、第1および第3の複数の電極が複数の対向電極でありかつ第2および第4の複数の電極が複数の帯電部であることが好ましい。
【0019】
上記の電気機械変換器では、第1の複数の電極と第2の複数の溝部との位置が可動部材の両面で一致し、かつ第3の複数の電極と第1の複数の溝部との位置が可動部材の両面で一致していることが好ましい。
【0020】
上記の電気機械変換器では、可動部材は、回転軸の周りに回転可能な回転部材であり、複数の帯電部および複数の対向電極は、それぞれ回転軸を中心として放射状に配置されていることが好ましい。
【0021】
上記の電気機械変換器は、極性が交互に切り替わる電圧を複数の対向電極に印加して、複数の帯電部と複数の対向電極との間で発生する静電気力により可動部材を移動させる駆動部をさらに有することが好ましい。
【0022】
上記の電気機械変換器は、可動部材の移動に応じて複数の帯電部と複数の対向電極との間の静電誘導により発生した電力を蓄積する蓄電部をさらに有することが好ましい。
【0023】
上記の電気機械変換器によれば、可動部材が軽量化するとともに可動部材の耐衝撃性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】電気機械変換器1の概略構成図である。
図2】(A)および(B)は、アクチュエータ10の模式的な斜視図および側面図である。
図3】(A)〜(D)は、回転部材12A,12Bの上面図および断面図である。
図4】(A)〜(D)は、比較例の回転部材12E,12Fの上面図および断面図である。
図5】(A)〜(E)は、回転部材12Aの製造工程の例を説明するための断面図である。
図6】(A)〜(E)は、回転部材12Bの製造工程の例を説明するための断面図である。
図7】(A)〜(F)は、回転部材12Bの製造工程の他の例を説明するための断面図である。
図8】(A)〜(C)は、他のアクチュエータ10’,10’’,10’’’の模式的な側面図である。
図9】電気機械変換器2の概略構成図である。
図10】(A)〜(C)は、電気機械変換器3の概略構成図である。
図11】(A)〜(D)は、他の回転部材12A’,12C,12D,12D’の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、電気機械変換器について詳細に説明する。ただし、本発明は図面または以下に記載される実施形態には限定されないことを理解されたい。
【0026】
図1は、電気機械変換器1の概略構成図である。図1に示すように、電気機械変換器1は、アクチュエータ10および駆動部20を有する。アクチュエータ10は、主要な構成要素として、回転部材12、固定基板13,14、エレクトレット部15,16および対向電極17,18を有する。電気機械変換器1は、駆動部20に入力された電気信号をもとに、エレクトレット部15,16と対向電極17,18との間の静電気力を利用して回転部材12を回転させることにより電力から動力を取り出す駆動装置(エレクトレットモータ)である。
【0027】
図2(A)および図2(B)は、それぞれ、アクチュエータ10の模式的な斜視図および側面図である。図2(A)に示すように、アクチュエータ10は、円板状の回転部材12が2枚の固定基板13,14に挟まれて構成される。図2(B)に示すように、アクチュエータ10では、回転部材12の上面121側にエレクトレット部15と対向電極17の組が、回転部材12の下面122側にエレクトレット部16と対向電極18の組が、それぞれ配置されている。図2(B)では、図示を簡単にするために、図の横方向が回転部材12,固定基板13,14の円周方向(図2(A)の矢印C方向)に相当するように変形された側面図を示している。図1では、アクチュエータ10として、図の上から順に、固定基板13の下面132、回転部材12の上面121、回転部材12の下面122、および固定基板14の上面141を並べて示している。
【0028】
図2(A)に示す回転軸11は、回転部材12の回転中心となる軸であり、回転軸11は回転部材12の中心を貫通している。回転軸11の上下端は、軸受けを介して、図示しない電気機械変換器1の筐体に固定されている。なお、図1図2(B)では、回転軸11の図示を省略している。
【0029】
回転部材12は、可動部材の一例であり、ガラスまたはシリコン(Si)などの周知の基板材料で構成される。図2(A)に示すように、回転部材12は、例えば円板状の形状を有し、その中心で回転軸11に接続している。回転部材12は、駆動部20に入力された電気信号に応じてエレクトレット部15,16と対向電極17,18との間で発生する静電気力により、回転軸11の周りを、図2(A)の矢印C方向(すなわち、時計回りおよび反時計回り)に回転可能である。
【0030】
固定基板13,14は、第1および第2の固定基板の一例であり、ガラスエポキシ基板などの周知の基板材料で構成された基板である。図2(A)に示すように、固定基板13,14は、例えば円板状の形状を有する。固定基板13は、回転部材12の上面121(一方の面)に対向して回転部材12の上側に配置され、固定基板14は、回転部材12の下面122(他方の面)に対向して回転部材12の下側に配置されている。回転軸11が固定基板13,14の中心を貫通しているが、固定基板13,14は、回転部材12とは異なり、電気機械変換器1の筐体に対して固定されている。
【0031】
エレクトレット部15,16は、第1および第3の複数の電極、ならびに第1および第2の複数の帯電部の一例であり、それぞれ、静電荷を保持する複数の帯電部で構成される。これらの帯電部は、図1に示すように、略台形の形状を有する。図1および図2(B)に示すように、エレクトレット部15は、回転部材12の上面121に形成され、エレクトレット部16は、回転部材12の下面122に形成されている。エレクトレット部15,16は、回転部材12の回転方向(円周方向、矢印C方向)に間隔を空けて回転軸11の周りに等間隔に配置され、かつ回転軸11を中心として放射状に配置されている。また、図2(B)に示すように、アクチュエータ10では、エレクトレット部15のパターンとエレクトレット部16のパターンとは、円周方向に互い違いに配置されている。
【0032】
対向電極17,18は、第2および第4の複数の電極、ならびに第1および第2の複数の対向電極の一例であり、図1に示すように、それぞれ、エレクトレット部15,16と同様に略台形の形状を有する。対向電極17は、エレクトレット部15に対向するように、固定基板13の下面132に形成され、対向電極18は、エレクトレット部16に対向するように、固定基板14の上面141に形成されている。対向電極17,18も、円周方向に間隔を空けて回転軸11の周りに等間隔に配置され、かつ回転軸11を中心として放射状に配置されている。また、図2(B)に示すように、アクチュエータ10では、対向電極17のパターンと対向電極18のパターンとは、円周方向における同じ位置に配置されている。
【0033】
エレクトレット部15と対向電極17を構成する各電極(帯電部)の個数は互いに等しく、かつエレクトレット部16と対向電極18を構成する各電極(帯電部)の個数も互いに等しい。図1および図2(B)では、エレクトレット部15,16と対向電極17,18をそれぞれ4個ずつしか記載していないが、実際には、これらはより多数の電極(帯電部)で構成される。
【0034】
駆動部20は、アクチュエータ10を駆動するための回路であり、クロック21および比較器22,23を有する。駆動部20は、極性が交互に切り替わる電圧を対向電極17,18に印加して、エレクトレット部15と対向電極17の間、およびエレクトレット部16と対向電極18の間で発生する静電気力により、回転部材12を回転させる。
【0035】
図1に示すように、クロック21の出力は比較器22,23の入力に接続され、比較器22の出力は対向電極17に、比較器23の出力は対向電極18に、それぞれ電気配線を介して接続されている。比較器22,23は、それぞれクロック21からの入力信号の電位と接地電位とを比較し、その結果を2値で出力するが、比較器22,23の出力信号は互いに逆の符号である。クロック21からの入力信号がHのときには、対向電極17は+V、対向電極18は−Vの電位になり、入力信号がLのときには、対向電極17は−V、対向電極18は+Vの電位になる。
【0036】
図2(B)に示すように、アクチュエータ10の駆動時には、駆動部20は、一方のエレクトレット部15と円周方向における同じ位置にある対向電極17には、エレクトレット部15の帯電と同じ符号の電圧を印加する。このとき、他方の対向電極18は、他方のエレクトレット部16とは円周方向における位置がずれた状態にある。駆動部20は、対向電極18には、エレクトレット部16の帯電とは異なる符号の電圧を印加する。図2(B)では、エレクトレット部15,16が負に帯電し、対向電極17には−の、対向電極18には+の電圧が印加されるときの状態を示している。こうして、駆動部20は、極性が交互に切り替わる電圧を対向電極17と対向電極18の間に印加することにより、回転部材12を回転させる。
【0037】
次に、図1図2(B)に示した回転部材12の詳細な構造について説明する。
【0038】
図3(A)〜図3(D)は、回転部材12A,12Bの上面図および断面図である。図3(A)は回転部材12Aの上面を示し、図3(B)は、図3(A)のIIIB−IIIB線に沿った回転部材12Aの切断面を示す。図3(C)は回転部材12Bの上面を示し、図3(D)は、図3(C)のIIID−IIID線に沿った回転部材12Bの切断面を示す。アクチュエータ10の回転部材12として、回転部材12A,12Bのどちらを用いてもよい。
【0039】
図3(A)および図3(B)に示すように、回転部材12Aには、上面121に複数の基台部123Aおよび複数の溝部125Aが、下面122に複数の基台部124Aおよび複数の溝部126Aが、それぞれ円周方向に交互に形成されている。基台部123A,124Aは、第1および第2の複数の基台部の一例であり、それぞれ、溝部125A同士および溝部126A同士の間の部分である。溝部125A,126Aは、第1および第2の複数の溝部の一例であり、回転部材12Aの基板が厚さ方向に削られることで形成された凹部である。各溝部の深さは回転部材12Aの基板の厚さの2分の1程度であり、溝部125A,126Aは、いずれも回転部材12Aを厚さ方向に貫通していない。
【0040】
回転部材12Aでは、エレクトレット部15は基台部123Aに形成され、エレクトレット部16は基台部124Aに形成されている。すなわち、回転部材12Aでは、エレクトレット部15および溝部125A、ならびにエレクトレット部16および溝部126Aは、回転部材12Aの回転方向(円周方向)に交互に配置されている。さらに、回転部材12Aでは、エレクトレット部16および溝部126Aは、エレクトレット部15および溝部125Aとは互い違いに配置されている。より詳細には、エレクトレット部15と溝部126Aとの位置が回転部材12Aの両面で一致し、かつエレクトレット部16と溝部125Aとの位置が回転部材12Aの両面で一致している。これにより、回転部材12Aでは、エレクトレット部15とエレクトレット部16とが、円周方向に互い違いに配置されている。
【0041】
基台部123Aと基台部124Aは、互いに同じ形状および大きさを有し、溝部125Aと溝部126Aも、互いに同じ形状および大きさを有する。図3(B)に示すように、回転部材12Aでは、基台部123Aと基台部124Aとは、円周方向における端部同士が互いに連結している。このため、回転部材12Aでは、回転軸11を中心とする同じ円周上では、円周方向における基台部123A,124Aの幅は、円周方向における溝部125A,126Aの幅よりも大きい。
【0042】
エレクトレット部15,16については、同一円周上では、エレクトレット部15,16が配置されている部分と配置されていない部分との幅が互いに等しい。このため、図3(B)に示すように、同一円周上では、エレクトレット部15,16の幅は基台部123A,124Aの幅よりも小さく、基台部123A,124Aの円周方向における端部には、エレクトレット部15,16が配置されていない部分がある。すなわち、エレクトレット部15,16の円周方向における端部は、基台部123A,124Aの円周方向における端部とはわずかにずれている。
【0043】
回転部材12Aの上面および下面において回転軸11を取り囲む円環状の中央部121cは、エレクトレット部も溝部も形成されていない平坦な領域である。この点は、以下で説明するすべての回転部材についても同様である。
【0044】
回転部材12Bは、SOI(Silicon on Insulator)基板を材料として構成されたものである。図3(C)および図3(D)に示すように、回転部材12Bは、中央層127Bと、複数の基台部123Bと、複数の溝部125Bと、複数の基台部124Bと、複数の溝部126Bとを有する。中央層127Bは、SOI基板に含まれるSiO層に相当する。基台部123Bは、第1の複数の基台部の一例であり、中央層127Bの上面側において、円周方向に等間隔に形成されている。溝部125Bは、第1の複数の溝部の一例であり、中央層127Bの上面側における基台部123Bが形成されていない部分に相当する。基台部124Bは、第2の複数の基台部の一例であり、中央層127Bの下面側において、円周方向に等間隔に形成されている。溝部126Bは、第2の複数の溝部の一例であり、中央層127Bの下面側における基台部124Bが形成されていない部分に相当する。
【0045】
回転部材12Bでは、エレクトレット部15は基台部123Bに形成され、エレクトレット部16は基台部124Bに形成されている。すなわち、回転部材12Bでも、エレクトレット部15および溝部125B、ならびにエレクトレット部16および溝部126Bは、回転部材12Bの回転方向(円周方向)に交互に配置されている。また、回転部材12Bでも、回転部材12Aと同様に、エレクトレット部16および溝部126Bは、エレクトレット部15および溝部125Bとは互い違いに配置されている。これにより、回転部材12Bでも、エレクトレット部15とエレクトレット部16とは、円周方向に互い違いに配置されている。
【0046】
基台部123Bと基台部124Bは、互いに同じ形状および大きさを有し、溝部125Bと溝部126Bも、互いに同じ形状および大きさを有する。ただし、回転部材12Bでは、回転部材12Aとは異なり、同一円周上では、円周方向における基台部123B,124Bの幅と溝部125B,126Bの幅とが互いに等しい。すなわち、回転部材12Bでは、エレクトレット部15,16の円周方向における端部は、基台部123A,124Aの円周方向における端部と一致している。
【0047】
例えば、回転部材12A,12Bの直径は5〜20mm程度である。また、例えば、エレクトレット部15,16を除いた回転部材12A,12Bの基板部分の厚さは100〜500μm程度であり、エレクトレット部15,16の厚さは15〜20μm程度である。これらの寸法は、以下で説明するすべての回転部材についても同様である。また、例えば、回転部材12Bの中央層127Bの厚さは、5μm程度である。
【0048】
図4(A)〜図4(D)は、比較例の回転部材12E,12Fの上面図および断面図である。図4(A)は回転部材12Eの上面を示し、図4(B)は、図4(A)のIVB−IVB線に沿った回転部材12Eの切断面を示す。図4(C)は回転部材12Fの上面を示し、図4(D)は、図4(C)のIVD−IVD線に沿った回転部材12Fの切断面を示す。
【0049】
図4(A)および図4(B)に示すように、回転部材12Eには、回転部材12A,12Bと同様に、上面にエレクトレット部15が、下面にエレクトレット部16が、それぞれ円周方向に等間隔、かつ回転軸11を中心として放射状に配置されている。ただし、回転部材12Eは、回転部材12A,12Bとは異なり、溝部のない平坦な基板で構成されている。回転部材12Eでは、エレクトレット部15とエレクトレット部16は、円周方向における同じ位置に配置されている。
【0050】
図4(C)および図4(D)に示すように、回転部材12Fには、回転部材12A,12Bと同様に、上面にエレクトレット部15が、下面にエレクトレット部16が、それぞれ円周方向に等間隔、かつ回転軸11を中心として放射状に配置されている。回転部材12Fでも、エレクトレット部15とエレクトレット部16は、円周方向における同じ位置に配置されている。回転部材12Fでは、重量を軽くするために、エレクトレット部15,16が形成されていない部分に、円周方向に沿って等間隔に、略台形状の複数の貫通孔128Fが形成されている。
【0051】
回転部材12Eは貫通孔や溝部が形成されていない分だけ重量が大きくなり、回転しにくいため、回転部材12Fを使用する方が望ましい。しかしながら、回転部材12Fでは、貫通孔128F同士の間におけるエレクトレット部15,16が形成されている部分の幅が狭い。このため、回転部材がセラミックス、ガラスまたはシリコンなどの脆性材料で構成されている場合には、回転部材12Fの形状では、特に、回転軸11に近い中心部分が割れやすいという課題がある。
【0052】
回転部材12A,12Bでは、溝部125A,125Bおよび溝部126A,126Bが形成されていることにより、それらの溝部がない場合と比べて重量が軽くなる。さらに、回転部材12A,12Bでは、エレクトレット部15および溝部125A,125Bとエレクトレット部16および溝部126A,126Bとは、互い違いに配置されている。これにより、回転部材がセラミックス、ガラスまたはシリコンなどの脆性材料で構成されている場合であっても、両面の溝部が円周方向における同じ位置に形成されている場合と比べて、割れが発生しにくくなる。このため、回転部材12A,12Bでは、耐衝撃性が向上するので、エレクトレットモータの信頼性や製造上の取扱性も向上する。
【0053】
また、回転部材12A,12Bでは、エレクトレット部15のパターンとエレクトレット部16のパターンとが円周方向に互い違いに配置され、かつ、対向電極17のパターンと対向電極18のパターンとは、円周方向における同じ位置に配置されている。すなわち、回転部材12A,12Bでは、エレクトレット部15,16と対向電極17,18のうちで、エレクトレット部16のパターンだけが、エレクトレット部15のパターンに対して半ピッチだけずれて配置されている。これにより、回転部材12A,12Bの回転中には、エレクトレット部15および対向電極17の間の静電気力と、エレクトレット部16および対向電極18の間の静電気力とが交互に発生するので、連続的な駆動力が得られる。したがって、回転部材12Aまたは回転部材12Bを使用することにより、エレクトレットモータの回転をスムーズにすることができる。
【0054】
また、一般に、湿度が高い環境では、エレクトレットが保持する静電荷が空気中の水分に起因して電荷が抜けることがある。しかしながら、回転部材12A,12Bでは、回転部材12E,12Fと比べて、エレクトレット部15,16の静電荷が抜けにくく、エレクトレット部が経時劣化しにくいという特徴もある。
【0055】
次に、上記した各回転部材の製造方法について順に説明する。
【0056】
図5(A)〜図5(E)は、回転部材12Aの製造工程の例を説明するための断面図である。これらの図および以下で製造工程の説明に使用する各断面図は、図示を簡単にするために、図の横方向が回転部材の円周方向(図2(A)の矢印C方向)に相当するように変形されている。
【0057】
回転部材12Aの製造時には、まず、図5(A)に示すように、Si基板またはガラス基板などの基板60の上面と下面に、フォトリソグラフィまたは電子ビーム加工などにより、レジストまたはSiOなどのマスク層61,62がそれぞれパターニングされる。次に、図5(B)および図5(C)に示すように、深掘りエッチングまたはブラスト加工などにより、基板60の両面を削り取ることで、上面側に複数の溝部63が形成され、下面側に複数の溝部64が形成される。
【0058】
その後、図5(D)に示すように、マスク層61,62が除去される。溝部63,64の部分が図3(B)の溝部125A,126Aに相当し、基板60のうちで除去されずに残った上面側の部分が基台部123Aに、下面側の部分が基台部124Aにそれぞれ相当する。この状態で、印刷またはインクジェット法などにより基板60の上面と下面にエレクトレット膜を塗布することで、エレクトレット部15,16が形成される。以上の工程により、図3(A)および図3(B)に示す回転部材12Aが得られる。
【0059】
図6(A)〜図6(E)は、回転部材12Bの製造工程の例を説明するための断面図である。回転部材12Bの製造時には、まず、図6(A)に示すように、SOI基板70の上面と下面に、フォトリソグラフィまたは電子ビーム加工などにより、レジストまたはSiOなどのマスク層71,72がそれぞれパターニングされる。次に、図6(B)および図6(C)に示すように、深掘りエッチングまたはブラスト加工などにより、SOI基板70の両面を削り取ることで、上面側に複数の溝部73が形成され、下面側に複数の溝部74が形成される。
【0060】
その後、図6(D)に示すように、マスク層71,72が除去される。溝部73,74の部分が図3(D)の溝部125B,126Bに相当し、SOI基板70のうちで除去されずに残った上面側の部分が基台部123Bに、下面側の部分が基台部124Bにそれぞれ相当する。また、SOI基板70の内部のSiO層が中央層127Bに相当する。この状態で、印刷またはインクジェット法などにより基台部123B,124Bにエレクトレット膜を塗布することで、エレクトレット部15,16が形成される。以上の工程により、図3(C)および図3(D)に示す回転部材12Bが得られる。
【0061】
図7(A)〜図7(F)は、回転部材12Bの製造工程の他の例を説明するための断面図である。回転部材12Bは、以下の工程により製造することも可能である。
【0062】
まず、図7(A)に示すように、SOI基板70の上面と下面に、塗布またはスプレーコートなどにより、エレクトレット膜15’,16’がそれぞれ形成される。次に、図7(B)に示すように、フォトリソグラフィなどにより、エレクトレット膜15’,16’の上にレジストなどのマスク層71,72がそれぞれパターニングされる。続いて、図7(C)に示すように、アッシング法などにより、マスク層71,72が形成されていない部分のエレクトレット膜15’,16’を除去することで、エレクトレット膜15’,16’がパターニングされ、エレクトレット部15,16が形成される。
【0063】
さらに、図7(D)および図7(E)に示すように、深掘りエッチングなどにより、マスク層71,72が形成されていない部分のSOI基板70を削り取ることで、上面側に複数の溝部73が形成され、下面側に複数の溝部74が形成される。最後に、図7(F)に示すように、マスク層71,72が除去される。以上の工程により、図3(C)および図3(D)に示す回転部材12Bが得られる。
【0064】
図8(A)〜図8(C)は、それぞれ、他のアクチュエータ10’,10’’,10’’’の模式的な側面図である。これらの図は、図2(B)と同様に、横方向が回転部材の円周方向(矢印C方向)に相当するように変形された側面図である。
【0065】
図8(A)に示すアクチュエータ10’は、エレクトレット部15と対向電極17の位置が入れ替わり、かつエレクトレット部16と対向電極18の位置が入れ替わっている点が図2(B)に示したアクチュエータ10とは異なる。その他の点では、アクチュエータ10’は、アクチュエータ10と同様の構成を有する。アクチュエータ10’のように、エレクトレット部15,16を固定基板13の下面132と固定基板14の上面141にそれぞれ配置し、対向電極17,18を回転部材12の上面121と下面122にそれぞれ配置してもよい。
【0066】
アクチュエータ10’では、対向電極17,18が第1および第3の複数の電極に、エレクトレット部15,16が第2および第4の複数の電極に、それぞれ相当する。アクチュエータ10’では、エレクトレット部15,16が回転部材12の回転方向(円周方向、矢印C方向)における同じ位置に配置され、対向電極17,18が円周方向に互い違いに配置されている。アクチュエータ10’の回転部材12’には、エレクトレット部15,16が対向電極17,18に入れ替わっている点を除いて、図3(A)〜図3(D)に示した回転部材12Aまたは回転部材12Bと同様のものを用いてもよい。
【0067】
図8(B)に示すアクチュエータ10’’は、回転部材12’’、固定基板13、エレクトレット部15および対向電極17を有する。アクチュエータ10’’は、固定基板14、エレクトレット部16および対向電極18がない点を除いて、アクチュエータ10と同様の構成を有する。得られる駆動力はアクチュエータ10の場合と比べて小さくなるが、エレクトレット部と対向電極の組は、アクチュエータ10’’のように、回転部材の片面側だけに配置されていてもよい。回転部材12’’には、固定基板13とは反対側の面(下面122)にエレクトレット部16が形成されていない点を除いて、回転部材12Aまたは回転部材12Bと同様のものを用いてもよい。そうすれば、回転部材の片面側だけにエレクトレット部と対向電極の組が配置されているアクチュエータでも、回転部材の軽量化と耐衝撃性の向上の両方が実現される。
【0068】
図8(C)に示すアクチュエータ10’’’は、エレクトレット部15と対向電極17の位置が入れ替わっている点を除いて、アクチュエータ10’’と同様の構成を有する。エレクトレット部と対向電極の組を回転部材の片面側の1組だけにする場合には、アクチュエータ10’’’のように、エレクトレット部15を固定基板13の下面132に配置し、対向電極17を回転部材12’’’の上面121に配置してもよい。回転部材12’’’には、エレクトレット部15が対向電極17に入れ替わり、かつエレクトレット部16が形成されていない点を除いて、回転部材12Aまたは回転部材12Bと同様のものを用いてもよい。
【0069】
図9は、電気機械変換器2の概略構成図である。図9に示すように、電気機械変換器2は、発電部30および蓄電部40を有する。発電部30は、アクチュエータ10と同様に、主要な構成要素として、回転部材12、固定基板13,14、エレクトレット部15,16および対向電極17,18を有する。電気機械変換器2は、外部環境の運動エネルギーを用いて回転部材12を回転させ、発電部30内で静電誘導により静電気を発生させることで動力から電力を取り出す発電装置(エレクトレット発電機)である。
【0070】
回転部材12、固定基板13,14、エレクトレット部15,16および対向電極17,18は、アクチュエータ10のものと同じであるが、例えば、発電部30の回転部材12には、重量バランスの偏りを有する図示しない回転錘が取り付けられる。電気機械変換器2の対向電極17,18は、それぞれ電気配線を介して蓄電部40に接続されている。発電部30では、例えば電気機械変換器2を携帯する人体の運動または電気機械変換器2が取り付けられた機械などの振動を動力源として、回転錘付きの回転部材12がその円周方向に回転する。
【0071】
回転部材12が回転すると、それに伴い、エレクトレット部15,16と対向電極17,18の間の重なり面積が増減する。例えば、エレクトレット部15,16の内面に負電荷が保持されているとすると、回転部材12の回転に伴い、対向電極17,18に引き寄せられる正電荷が増減して、対向電極17と対向電極18の間に交流電流が発生する。このようにして電流を発生させることにより、発電部30は静電誘導を利用した発電を行う。
【0072】
蓄電部40は、整流回路41および二次電池42を有し、回転部材12の回転に応じてエレクトレット部15,16と対向電極17,18との間の静電誘導により発生した電力を蓄積する。対向電極17と対向電極18からの出力は整流回路41に接続され、整流回路41は二次電池42に接続されている。整流回路41は、4個のダイオードを有するブリッジ式の回路であり、対向電極17と対向電極18の間で生成された電流を整流する。二次電池42は、リチウム二次電池などの充放電可能な電池であり、発電部30によって発電された電力を蓄積し、図示しない駆動対象の回路にその電力を供給する。
【0073】
発電部30でも、回転部材12として、上記した回転部材12Aまたは回転部材12Bが使用される。これにより、発電部30の回転部材12についても、軽量化と耐衝撃性の向上の両方が実現される。
【0074】
図10(A)〜図10(C)は、電気機械変換器3の概略構成図である。図10(A)に示すように、電気機械変換器3は、アクチュエータ50および駆動部20を有する。アクチュエータ50は、主要な構成要素として、筐体51、スライド板52、固定基板53,54、エレクトレット部55,56および対向電極57,58を有する。図10(B)および図10(C)は、エレクトレット部55,56および対向電極57,58の配置、ならびにスライド板52の移動方向を示す平面図である。
【0075】
電気機械変換器3は、駆動部20に入力された電気信号をもとに、エレクトレット部55,56と対向電極57,58との間の静電気力を利用して、スライド板52を往復移動させることにより、電力から動力を取り出す駆動装置である。電気機械変換器の可動部材は、電気機械変換器1,2の回転部材12のように回転するものに限らず、電気機械変換器3のスライド板52のようにスライド移動するものであってもよい。
【0076】
図10(A)に示すように、固定基板53,54は、箱型の筐体51の上面および底面にそれぞれ配置されている。スライド板52は、可動部材の一例であり、筐体51内において、図示しない可動支持部により支持され、固定基板53と固定基板54の間を、固定基板53,54に平行な方向(水平方向)に往復移動可能である。スライド板52の上面には溝部55Aが、スライド板52の下面には溝部56Aが、それぞれスライド板52の移動方向(矢印A方向)に間隔を空けて、その移動方向と直交する方向に帯状に形成されている。溝部55A,56Aは、第1および第2の複数の溝部の一例であり、スライド板52の基板が厚さ方向に削られることで形成された凹部である。これらの溝部は、いずれもスライド板52を厚さ方向に貫通していない。
【0077】
エレクトレット部55,56は、第1および第3の複数の電極、ならびに第1および第2の複数の帯電部の一例である。図10(A)〜図10(C)に示すように、エレクトレット部55,56は、スライド板52の上面および下面における溝部55A,56Aが形成されていない領域に、スライド板52の移動方向に間隔を空けて、その移動方向と直交する方向に帯状に形成されている。アクチュエータ50のスライド板52では、エレクトレット部55および溝部55Aと、エレクトレット部56および溝部56Aとは、互い違いに配置されている。これにより、アクチュエータ50でも、スライド板52の軽量化と耐衝撃性の向上の両方が実現される。
【0078】
対向電極57,58は、第2および第4の複数の電極、ならびに第1および第2の複数の対向電極の一例である。図10(A)に示すように、対向電極57,58は、それぞれ、固定基板53の下面および固定基板54の上面に、スライド板52の移動方向に間隔を空けて、その移動方向と直交する方向に帯状に形成されている。アクチュエータ50では、対向電極57,58は、スライド板52の移動方向における同じ位置に配置されている。
【0079】
駆動部20は、アクチュエータ50を駆動するための回路であり、対向電極57,58のそれぞれに電気配線を介して接続されている。駆動部20は、電気機械変換器1のものと同様の構成を有し、極性が交互に切り替わる電圧を対向電極57,58に印加することにより、図10(B)および図10(C)に示すように、スライド板52を筐体51内で水平方向(矢印A方向)にスライド移動させる。
【0080】
なお、電気機械変換器2,3でも、図8(B)および図8(C)に示したアクチュエータ10’’,10’’’と同様に、エレクトレット部と対向電極の組は、回転部材12またはスライド板52の両面側ではなく、片面側だけに配置されていてもよい。
【0081】
図11(A)〜図11(D)は、それぞれ、他の回転部材12A’,12C,12D,12D’の断面図である。これらの図では、各回転部材について、図3(B)および図3(D)に示したものと同様の切断面を示している。電気機械変換器1,2の回転部材12には、図3(A)〜図3(D)の回転部材12A,12Bに代えて、回転部材12A’,12C,12D,12D’のいずれかを用いてもよい。電気機械変換器3のスライド板52にも、これらの回転部材と同様の構成のものを用いてもよい。
【0082】
図11(A)の回転部材12A’は、回転部材12Aと同様の複数の基台部123A’,124A’、複数の溝部125A’,126A’およびエレクトレット部15,16を有する。溝部125A’,126A’も回転部材12A’を厚さ方向に貫通していないが、各溝部の深さdは、回転部材12A’の基板の厚さtの2分の1よりも大きい。このように、各溝部の深さを回転部材12Aの溝部と比べて大きくすれば、一定の強度を保ちながら、回転部材をさらに軽量化することが可能である。なお、例えば、回転部材の一方の面における溝部の深さを厚さtの2分の1よりも小さくし、回転部材の他方の面における溝部の深さを厚さtの2分の1よりも大きくするなど、一方の面の溝部を他方の面の溝部よりも深く形成してもよい。また、必ずしも各面におけるすべての溝部の深さが同じでなくてもよく、溝部ごとにその深さが異なっていてもよい。
【0083】
図11(B)の回転部材12Cは、回転部材12Aと同様の複数の基台部123C,124C、複数の溝部125C,126Cおよびエレクトレット部15,16を有する。回転部材12Cでは、その厚さ方向の断面における溝部125C,126Cの幅は、厚さ方向の中央側から回転部材12Cの上面121および下面122に向かうにつれて次第に大きくなる。言い換えると、回転部材12Cの円周方向に沿った縦断面において、溝部125Cは上面121側の方が幅広の、溝部126Cは下面122側の方が幅広の台形状(テーパ形状)である。回転部材12Cのように、基台部123C,124Cおよび溝部125C,126Cの側面は、回転部材12Cの上面121および下面122に対して傾斜していてもよい。
【0084】
回転部材12Cでは、回転部材12A,12Bと比べて、さらにエレクトレット部15,16の静電荷が抜けにくく、エレクトレット部が経時劣化しにくいという特徴がある。ただし、各基台部および溝部の側面の傾斜を大きくしすぎると、基台部123C,124Cの上面に形成できるエレクトレット部15,16の面積が小さくなるため、傾斜の大きさは、必要な電気機械変換器の出力の大きさを考慮して選択するとよい。なお、例えば、断面が台形状の溝部は回転部材の一方の面側だけであってもよく、断面が矩形の溝部と台形状の溝部とが1つの回転部材の中で混在していてもよい。また、溝部ごとにその形状が異なっていてもよい。
【0085】
図11(C)および図11(D)の回転部材12D,12D’も、回転部材12Aと同様の形状を有するが、符号c,dで示す部分の形状が回転部材12Aとは異なる。回転部材12Dでは、その厚さ方向の中央側における各溝部125D,126Dの角部c(言い換えると、各溝部の底の角部、あるいは基台部123Dと基台部124Dとの接続部分の表面)が曲面になっている。回転部材12D’では、その上面121側および下面122側における各溝部125D’,126D’の角部d(各基台部123D’,124D’の角部)が曲面になっている。
【0086】
このように、各溝部の角部c,dを直角などの尖った形状にせず、丸みを帯びた曲面にすると、回転部材にかかる応力が緩和され、回転部材の強度が向上する。なお、角部が曲面の溝部は回転部材の一方の面側だけであってもよく、角部が丸みを帯びている溝部と角部が尖っている溝部とが1つの回転部材の中で混在していてもよい。また、1つの回転部材の中で、各溝部の角部c,dの両方が曲面になっていてもよい。
【0087】
なお、上記の回転部材の材質は、ガラスまたはシリコンに限らず、例えば、アルミニウムもしくはその合金、またはステンレス鋼(SUS:special use stainless steel)であってもよい。これらの材料を使用する場合には、放電加工、エッチング加工またはプレス加工で回転部材を形成してもよい。特に、金属材料で回転部材を作製する場合には、軽量化のために、比重が軽い金属を使用することが好ましい。回転部材として金属材料などを使用する場合でも、上記した両面側に互い違いに複数の基台部および溝部を有する形状にすることで、反りや曲りなどを低減でき、回転部材の強度を向上させることができる。これらのことは、電気機械変換器3のスライド板52についても同様である。
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