特許第6861728号(P6861728)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861728
(24)【登録日】2021年4月1日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】サーメット又は超硬合金の三次元印刷
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20060101AFI20210412BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20210412BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20210412BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20210412BHJP
   B22F 3/15 20060101ALI20210412BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20210412BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20210412BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20210412BHJP
【FI】
   B22F1/00 Q
   B22F3/00 A
   B22F3/02 M
   B22F3/16
   B22F3/15 M
   B33Y70/00
   B33Y10/00
   B33Y80/00
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-554115(P2018-554115)
(86)(22)【出願日】2016年11月30日
(65)【公表番号】特表2019-513901(P2019-513901A)
(43)【公表日】2019年5月30日
(86)【国際出願番号】EP2016079339
(87)【国際公開番号】WO2017178084
(87)【国際公開日】20171019
【審査請求日】2019年10月2日
(31)【優先権主張番号】16165640.0
(32)【優先日】2016年4月15日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ フロン, ジョン
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−525501(JP,A)
【文献】 特開平05−179310(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/194678(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/162206(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/073081(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00−8/00
C22C 29/00−29/18
C22C 1/04−1/05
C22C 1/10
B33Y 10/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金又はサーメット物体の三次元印刷用の粉末であって、前記粉末は、D90が15−35μmの超硬合金及び/又はサーメット粒子からなり前記サーメット及び/又は超硬合金粒子が金属結合相を含み、直径20μm以上のサーメット及び/又は超硬合金粒子の平均気孔率が10−40vol%であり、粒子の30−70vol%が直径10μm未満である、粉末。
【請求項2】
超硬合金及び/又はサーメット粒子のD50が5−20μmである、請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
超硬合金及び/又はサーメット粒子のD10が1−5μmである、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項4】
粉末における超硬合金及び/又はサーメット粒子の粒度分布が単峰性である、請求項1から3の何れか一項に記載の粉末。
【請求項5】
末における金属結合相の平均含有量が8−14wt%である、請求項1から4の何れか一項に記載の粉末。
【請求項6】
記金属結合相がCoを含む、請求項1から5の何れか一項に記載の粉末。
【請求項7】
3D印刷されたサーメット又は超硬合金物体を製造する方法であって、
− サーメット又は超硬合金粉末と有機バインダーを混合する工程、
− 前記粉末を噴霧乾燥することにより、粒状原料粉末を形成する工程、
− 前記噴霧乾燥させた原料粉末を予備焼結して前記有機バインダーを除去することにより、直径20μm以上のサーメット及び/又は超硬合金粒子の平均気孔率が10−40vol%である、予備焼結された粒状粉末の脆弱なケーキを形成する工程、
− 前記予備焼結された粒状粉末の脆弱なケーキを粒子の30−70vol%が直径10μm未満となるまで粉砕することにより、粉末を形成する工程、
− 前記粉末を印刷バインダーと共に用いて物体を3D印刷することにより、3D印刷されたサーメット又は超硬合金グリーン体を形成する工程、
− 前記グリーン体を焼結することにより、3D印刷されたサーメット又は超硬合金物体を形成する工程
を含む、方法。
【請求項8】
3D印刷する工程の後であって焼結する工程の前に、
− 3D印刷された物体を不活性雰囲気中150−230℃で硬化させる工程、及び
− 3D印刷された物体を脱粉して物体の表面から結合していない粒子を除去する工程を更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
焼結する工程が、印刷バインダーを燃焼除去する脱バインダー工程を含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
予備焼結する工程の前に、噴霧乾燥させた粉末を篩い分けし、直径42μmを超える粒子を除去する、請求項7から9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
焼結する工程に続いて又は組み入れて、サーメット又は超硬合金物体を焼結HIPする工程を更に含む、請求項7から10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
三次元印刷がバインダージェッティングである、請求項7から11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
物体が金属切削用の切削工具、又は鉱業用途用の切削工具、又は摩耗部品である、請求項7から12の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーメット又は超硬合金物体の三次元印刷方法に関する。本発明はまた、三次元印刷に使用すべき粉末に関する。粉末は、サーメット及び/又は超硬合金粉末を含み、粉末粒子の30−70vol%は直径10μm未満であり、直径20μmを超える粒子は多孔質である。
【背景技術】
【0002】
三次元(3D)印刷又は積層造形は、三次元物体を印刷することを可能にする有望な製造技術である。物体のモデルは、典型的にはコンピュータプログラムにおいて創出され、次いで、このモデルは三次元印刷機又は装置において印刷される。三次元印刷は、従来の製造プロセスでは達成できない複雑な構造物及び物体の製造を可能とするため、有望な製造技術である。
【0003】
三次元印刷の1つのタイプは、バインダージェッティングに基づくものであり、インクジェットタイプのプリンタヘッドを使用してバインダーを粉末の薄層に噴霧し、これが、硬化されると対象物の所定の層のための一体に接着された粉末のシートを形成する。バインダーが硬化された後、次の粉末の薄層が元の層の上に広げられ、バインダーの印刷噴射がその層のパターンで繰り返される。バインダーを用いて印刷されなかった粉末は、元の堆積させた場所に留まり、印刷された構造物の基礎及び支持体として機能する。対象物の印刷が完了すると、バインダーをより高い温度で硬化させ、続いてバインダーを用いてで印刷されなかった粉末が、例えば気流又はブラッシングにより除去される。
【0004】
サーメット及び超硬合金材料は、例えばCoの金属結合相中の炭化物及び/又は窒化物の硬質成分、例えばWC又はTiCからなる。これらの材料は、高靱性と組み合わさったその高硬度及び高摩耗耐性から、要求の厳しい用途に有用である。適用分野の例は、金属切削用の切削工具、削岩用のドリルビット、及び摩耗部品である。
【0005】
サーメット及び超硬合金物体を首尾よく三次元印刷できる方法を見出す必要がある。難題の1つは、最終製品が、構造及び組成において均質であることが求められる点である。もう1つの難題は、気孔の密度が非常に限定されている必要があることである。
【0006】
Kernanらによる「Three dimensional printing of tungsten carbide-10 wt% cobalt using cobalt oxide precursor」、International Journal of Refractory Metals and Hard Materials 25(2007)、p.82−94は、焼結工程中にコバルト金属に還元される酸化コバルトを使用した、超硬合金インサートのスラリーベースの三次元印刷を開示する。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、サーメット又は超硬合金物体の三次元印刷への使用に適する粉末を提供することである。
【0008】
本発明の更なる目的は、均質な組成及び最小限の気孔を有する、三次元(3D)印刷されたサーメット又は超硬合金物体を製造する方法を提供することである。
【0009】
本発明の目的はまた、気孔が最小限の3D印刷された物体を提供することである。
【0010】
これらの目的のうちの少なくとも1つが、請求項1に記載の粉末、請求項7に記載の方法、及び請求項14に記載の3D印刷された物体により達成される。好適な実施態様は、従属請求項に列挙される。
【0011】
本発明は、サーメット又は超硬合金物体の三次元印刷用の粉末であって、D90が15−35μm、好ましくは17−30μmの超硬合金及び/又はサーメット粒子を含み、直径20μm以上のサーメット及び/又は超硬合金粒子の平均気孔率が10−40vol%、好ましくは15−30vol%、より好ましくは20−25vol%であり、粒子の30−70vol%又は30−65vol%、好ましくは40−65又は45−65vol%は直径10μm未満である、粉末に関する。
【0012】
本発明の粉末は、気孔率及び/又は金属結合相富化領域に関して申し分のない特性を有するサーメット又は超硬合金の三次元物体を首尾よく印刷できるという点で利点を示している。十分な粒子気孔率と適合する粒度分布の組み合わせが、サーメット又は超硬合金物体の最終的な密度及び均質性にとって重要であることが見出されている。
【0013】
より大きな粒子における10−40vol%、又は15−30vol%、又は17−30vol%若しくは15−25vol%の平均気孔率は、焼結活性を三次元印刷されたグリーン体に加えるのに有利である。粒子における気孔率は、印刷されたグリーン体の焼結時の焼結活性に寄与する。粒子の気孔率が低すぎると、焼結時のグリーン体における焼結活性が低下して焼結する工程の後に残留気孔率及び/又は開気孔率が出現し得る。気孔率は、好ましくは、結合相含有率に基づき調節される。一般に、十分な焼結活性を実現するには、結合相含有率が低いほど、サーメット又は超硬合金粒子の気孔率が高くなければならない。気孔率は、例えばLOMにおいて倍率1000倍で測定することができる。
【0014】
粒子の気孔率が高すぎると、グリーン体は比較的脆弱となる。グリーン体を脆弱にする理由はおそらく、毛細管力によって印刷バインダーが多孔質粒子の中に吸い上げられ、各多孔質粒子の表面により少ない印刷バインダーが残されることで、粒子同士の結びつきが弱まるためである。
【0015】
更に、粉末が選択された粒子分布の粒子を含む場合、印刷されたグリーン体の生強度を十分なレベルにまで高められることが見出されている。直径10μm未満の粒子を70vol%より多く粉末が含む場合、印刷時の粉末の流動性が不均一となり、過大な労力を要する。これら10μm未満の粒子の量が30wt%未満の場合、印刷されたグリーン体の生強度が不十分となる。微粒子も焼結活性に寄与し、それによって残留気孔率の低下に寄与する。10μm未満の微細な粒子は、印刷時に印刷バインダー(接着剤)による粉末の固定を強化することに寄与し、従って生強度が十分となる。
【0016】
本発明の粉末の超硬合金及び/又はサーメット粒子は、比較的高い割合の微粒子を含む。これらの微粒子は、その微細なサイズに粉砕され、粉砕することはまた、微粒子の形状が不規則である、即ち、典型的には非球形であることを意味する。これらの粒子の利点は、印刷時に形成される粉末床が安定することである。
【0017】
サーメット又は超硬合金物体の三次元印刷は、その目的に適する任意の形状の物体をもたらすものであってもよい。サーメット及び超硬合金は何れも、金属結合相中に硬質成分を含む。超硬合金の場合、硬質成分の少なくとも一部がWCからなる。三次元印刷され焼結されたサーメット又は超硬合金物体の気孔の数及びサイズは、好ましくはISO4505−1978に定義されるA06及び/又はB06未満であり、好ましくはA04及び/又はB04未満、より好ましくはA02及び/又はB02未満である。三次元印刷され焼結されたサーメット又は超硬合金物体の気孔の数及びサイズは、好ましくはA02B00C00、A00B02C00、又はA02B02C00未満である。最も好ましくは、三次元印刷され焼結されたサーメット又は超硬合金物体に気孔は存在しない。
【0018】
多孔質粒子のD90は、15−35μm、好ましくは、17−30μmである。これは、印刷時に良好な流動性を有する粉末と、金属結合相富化領域に関する問題のリスクの低減を実現するという点で有利である。大き過ぎる多孔質粒子は、焼結されたサーメット又は超硬合金物体における金属結合相富化領域の形成の一因となる傾向がある。焼結されたサーメット又は超硬合金物体は、Coなどの金属結合相中のWCなどの硬質成分から構成される材料からなり、金属結合相は、物体内部に均一又は均質に分布し、何れの金属結合相富化領域も、均質又は均一に分布することが理想である。
【0019】
本発明の一実施態様において、超硬合金及び/又はサーメット粒子のD50は5−20μm、好ましくは7−15μm、より好ましくは9−13μmである。
【0020】
本発明の一実施態様において、超硬合金及び/又はサーメット粒子のD10は、1−5μmである。
【0021】
本発明の一実施態様において、粉末における超硬合金及び/又はサーメット粒子の粒度分布は単峰性である。これは、粉末を粉砕して好適な粒度分布に到達させることができるという点で有利である。
【0022】
本発明の一実施態様において、サーメット及び/又は超硬合金粒子は金属結合相を含み、粉末における金属結合相の平均含有率は、8−14wt%、好ましくは9−13wt%又は10−13wt%である。金属結合相含有率は、本明細書において、有機バインダーを除外し、粉末中の硬質成分及び金属バインダー含有量にのみに基づいて計算される。この範囲内の金属結合相含有率は、焼結されたサーメット又は超硬合金物体における気孔の密度が非常に限定されたものとなり得、物体はそれでも、サーメット又は超硬合金物体に特徴的な硬度及び靱性から利益を得ることができるという点で有利である。液相焼結中に溶融するのが金属結合相であるため、通常、金属結合相の含有率がより高い気孔のない物体を製造する方が容易である。サーメット又は超硬合金はまた、典型的には硬質成分を含む。これらの硬質成分はセラミックであり、例えばTiN、TiCN、TiC及び/又はWCの任意の組み合わせとすることができる。
【0023】
一実施態様において、金属結合相含有量は8−11wt%であり、サーメット又は超硬合金粒子の50−70vol%は直径10μm未満である。
【0024】
一実施態様において、金属結合相含有量は11−14wt%であり、サーメット又は超硬合金粒子の35−50vol%は直径10μm未満である。
【0025】
本発明の一実施態様において、サーメット及び/又は超硬合金粒子は金属結合相を含み、前記金属結合相はCoを含む。本発明の一実施態様において、金属結合相は、90wt%を超えるCoを含む。本発明の一実施態様において、金属結合相は、Coからなる。
【0026】
本発明の一実施態様において、超硬合金粒子はWCを含み、平均WC粒度は0.5−5μm又は0.5−2μmである。好ましくは、硬質成分の90wt%超がWCである。
【0027】
本発明はまた、3D印刷されたサーメット又は超硬合金物体を製造する方法であって、
− サーメット又は超硬合金原料粉末と有機バインダー、例えばPEGを混合する工程、
− 前記原料粉末を噴霧乾燥することにより、粒状原料粉末を形成する工程、
− 前記噴霧乾燥させた原料粉末を予備焼結して有機バインダーを除去することにより、直径20μm以上のサーメット及び/又は超硬合金粒子の平均気孔率が10−40vol%、好ましくは15−30vol%、より好ましくは20−25vol%である予備焼結された粒状粉末を形成する工程、
− 前記予備焼結された粒状粉末を粒子の20−70vol%、好ましくは45−65vol%が直径10μm未満となるまで粉砕することにより、粉末を形成する工程、
− 前記粉末を印刷バインダーと共に用いて物体を3D印刷することにより、3D印刷されたサーメット又は超硬合金グリーン体を形成する工程、
− 前記グリーン体を焼結することにより、3D印刷されたサーメット又は超硬合金物体を形成する工程
を含む、方法に関する。
【0028】
本発明の一実施態様において、方法は、3D印刷する工程の後であって焼結する工程の前に、
− 3D印刷された物体を不活性雰囲気中150−230℃で硬化させる工程、及び
− 3D印刷された物体を脱粉して物体の表面から結合していない粒子を除去する工程を更に含む。
【0029】
硬化は通常、印刷する工程の一部として行われる。印刷バインダーが硬化され、それによってグリーン体は十分なグリーン強度を得る。硬化は、過剰な粉末を除去する前に、印刷されたグリーン体をより高い温度、例えば150−250℃に曝すことで行うことができる。一実施態様において、硬化は、非酸化環境において、例えばAr又はN中で行われる。
【0030】
本発明の一実施態様において、焼結する工程は、印刷バインダーを燃焼除去する脱バインダー工程を含む。印刷バインダーは印刷時に部分的に蒸発する溶媒を含む。印刷バインダーは、水ベースとすることができる。
【0031】
本発明の一実施態様において、予備焼結する工程の前に噴霧乾燥させた粉末を篩い分けし、好ましくは、篩い分けして直径42μmを超える粒子を除去する。これは、粉末中の非常に大きな粒子に伴う問題のリスクを低減させるという点で有利である。
【0032】
一実施態様において、三次元印刷は、三次元印刷機、例えばバインダージェット三次元印刷機において行われる。
【0033】
一実施態様において、焼結は、焼結炉において行われる。
【0034】
本発明の一実施態様において、方法は、焼結する工程に続いて、又は組み入れて、サーメット又は超硬合金物体をいわゆる焼結HIP又はGPS(ガス圧焼結)する工程を更に含む。焼結HIPは、1300−1500℃の温度で行ってもよい。焼結HIPは、20−100barの圧力で行ってもよい。例えば、通常の真空焼結に続き、圧力が加えられる。焼結HIPする工程の目的は、材料を圧縮することにより焼結後に残った気孔率を低下させることである。焼結された物体中の密閉気孔率は何れも密閉されており、加えられた圧力が気孔率を低下させる。他方、開気孔率は、焼結HIPを用いて低下させることはできない。
【0035】
本発明の一実施態様において、三次元印刷は、バインダージェッティングである。バインダージェッティングは、比較的安価な三次元印刷法であるという点で有利である。
【0036】
物体を研削又は研磨する工程を焼結する工程後の最終工程として追加することができる。
【0037】
本発明の一実施態様において、3D印刷された物体は金属切削用の切削工具、又は鉱業用途用の切削工具、又は摩耗部品である。
【0038】
本発明はまた、インサート、ドリル若しくはエンドミルなどの金属切削用の切削工具、又はドリルビットなどの鉱業用途用の切削工具、又は摩耗部品の三次元印刷における前記粉末の使用に関する。
【0039】
本発明はまた、分類A00B00C00の微細構造を有する3D印刷されたサーメット又は超硬合金物体に関する。
【0040】
一実施態様において、3D印刷されたサーメット又は超硬合金物体は結合相中の硬質成分から構成され、結合相含有量は物体中において、物体の少なくとも1つの表面から物体の中心への垂直な方向での結合相含有量測定値が、周期Pでの周期的な結合相含有量変動を示すように変化し、周期Pは40−140μmである。周期性は、典型的には層状印刷プロセスに由来する。
【0041】
本発明の一実施態様において、平均結合相含有量は、15の隣接周期の平均として、物体中の平均結合相含有量から10−20%の差を示す。
【0042】
一実施態様において、平均結合相含有量は、15の隣接周期の平均として、物体中の平均結合相含有量から10−50%の差を示す。
【0043】
一実施態様において、物体中の平均金属結合相含有量は8−14wt%である。一実施態様において、金属結合相はCoを含む。一実施態様において、硬質成分は好ましくは平均WC粒度が0.5−5μmのWCを含む。
【0044】
一実施態様において、物体は金属切削用の切削工具、又は摩耗部品である。
【0045】
金属結合相含有量の変動は、例えばWDS(波長分散型X線分光法)又はEDS(エネルギー分散型X線分光法)によって測定することができる。サーメット又は超硬合金物体は金属結合相と硬質成分を含む複合材料であるため、結合相含有量は、平均として測定しなければならない。結合相含有量の値を与えるために必要な領域は当業者が選択すべきであるが、例えば、200μmの走査幅とすることができる。
【0046】
金属結合相含有量の周期的変動は、グリーン体の印刷時に粉末を1層ずつ堆積させることに由来する。硬質かつ耐摩耗特性を有する稠密で気孔のないサーメット又は超硬合金を達成するには、40−140μmの周期が適切であることが見出されている。
【0047】
本発明の更に他の目的及び特徴は、添付図面と合わせて検討される下記の詳細な説明から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】試料B4SHの断面のLOM(光学顕微鏡)画像である。周期性が水平の明るい層と暗い層として視認できる。
図2】マイクロプローブ分析においてWDSにより測定された、試料A2SSHの物体の深さ方向に関するCoの強度のプロットを示す図である。測定は、下記の実施例に開示されるように、印刷された層に対して垂直になされる。
図3】予備焼結された粉末のケーキは、手で破壊することができたことを示す写真である。
図4】粉末B4の予備焼結された粒子の切削面のLOM画像である。
図5】試料A1Sの断面のSEM(走査型電子顕微鏡)画像である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
定義
「サーメット」という用語は、本明細書において、金属結合相中に硬質成分を含む材料を意味することを意図しており、硬質成分は、Ta、Ti、Nb、Cr、Hf、V、Mo及びZrのうちの一又は複数の炭化物又は炭窒化物、例えばTiN、TiC及び/又はTiCNを含む。
【0050】
「超硬合金」という用語は、本明細書において、金属結合相中に硬質成分を含む材料を意味することを意図しており、硬質成分はWC結晶粒を含む。硬質成分は、Ta、Ti、Nb、Cr、Hf、V、Mo及びZrのうちの一又は複数の炭化物又は炭窒化物、例えばTiN、TiC及び/又はTiCNを更に含むこともできる。
【0051】
サーメット又は超硬合金における金属結合相は、金属又は金属合金であり、金属は、例えばCr、Mo、Fe、Co若しくはNiから単独で、又は任意の組み合わせで選択することができる。好ましくは、金属結合相は、Co、Ni及びFeの組み合わせ、CoとNiの組み合わせ、又はCoのみを含む。金属結合相は、当業者に公知の他の適切な金属を含むことができる。
【0052】
粒度分布は、本明細書において、D10、D50及びD90値により提示される。D50、即ち中央値、は、母集団の半分がこの値よりも小さなサイズを有する粒子径であると定義される。同様に、粒度分布の90パーセントはD90値よりも小さく、母集団の10パーセントはD10値よりも小さい。
【実施例】
【0053】
本発明の実施態様を下記の実施例に関連してより詳細に開示する。実施例は、例示的であって実施態様を限定するものではないとみなすべきである。
【0054】
Co、Cr及びWCの粉末を混合して超硬合金原料粉末を形成した。また、PEGをこの原料粉末に添加した。
【0055】
次の工程として、前記原料粉末の噴霧乾燥を行い、WC、Co、Cr及びPEGの球形顆粒を形成した。噴霧乾燥させた顆粒の粉末を篩い分けして、直径42μmを超える顆粒を除去した。
【0056】
次いで、噴霧乾燥した顆粒を予備焼結し、PEGを除去したが、予備焼結された顆粒に残留気孔率を保持した。予備焼結は、1230℃で1時間行った。予備焼結により、予備焼結された顆粒、即ち超硬合金多孔質粒子の脆弱なケーキが得られた。ケーキは手で破壊することができた。図3を参照されたい。
【0057】
幾つかの粒子の切削面を調査することにより粒子の気孔率を分析した。粒子をベークライトに埋め込み、研磨し、ImageJを用いて倍率1000倍で画像分析を行った。一例である粉末B4を図4に示す。
【0058】
次いで、超硬合金多孔質粒子の粉末を30リットルボールミルで4時間粉砕した。50−100kgの超硬合金シルペッブを使用した。この粉砕工程において、比較的高い割合の直径10μm未満の粒子が形成された。小さな割合の量は、例えば粉砕時間を調整することにより調節することができる。
【0059】
粒度分布(D10、D50及びD90)並びに直径10μm未満の粒子の割合を、レーザー回折とRHODOS乾燥分散システムを備えたSympatec HELOS/BR粒径分析を用いて分析した。結果を表1に提示する。
【0060】
Co含有率及びCr含有率は、ICP−MS又はXRFで調査した。結果を表1に提示する。超硬合金粉末は、表1のCo及び/又はCr値から合計で100%となる量のWCも含む。
【0061】
バインダージェット印刷機において、印刷時の層厚100μmで印刷を行った。試料A1S、A2S、A3S、A1SSH、A2SSH、A3SSH、B1SSH、B2SSH、B1S、B2Sには「ExOne X1−lab」を使用し、試料B3S、A4SH、B3SSH、B4SHには「ExOne Innovent」を使用した。印刷時の飽和度は、90−97%の間であった。印刷バインダーの飽和度は、特定の粉末充填密度(ここでは、粉末充填密度は60%に設定されている)のときに印刷バインダーで満たされる空隙の体積のパーセントとして定義される。多孔質粒子の割合が低い場合と比較して、高い割合の多孔質粒子を含む粉末を用いて印刷を行う場合、より高い飽和度が必要である。水ベースの印刷用インクX1−Lab(商標)水性バインダー(7110001CL)を印刷バインダーとして使用した。印刷時、各層の配列は下記の通りであった:粉末の100μmの層を床上に広げ、印刷バインダーをCADモデルにおいて定義されたパターンに広げた後、印刷バインダーを乾燥させて印刷バインダーの溶媒を除去した。これを、グリーン体の全高が印刷されるまで繰り返した。その後、アルゴン雰囲気中195℃で8時間硬化を行った。脱粉を小型ブラシと加圧空気を用いて手作業で行った。
【0062】
続いて、印刷され硬化させたグリーン体を焼結し、焼結された超硬合金試料(物体)を得た。焼結は、DMK80焼結炉においてYでコーティングしたグラファイトトレーで行った。第1の焼結プロセスにおいて、500l/時間のHが流れる焼結チャンバにおいて温度を室温から550℃まで上昇させた脱バインダー工程を物体に施した。この後、温度を550℃から1380℃に上昇させ、30分間保持した真空工程を行った。その後、温度を1410℃に上昇させ、1時間保持した。その後、チャンバを冷却し、焼結された試料をチャンバから取り出した。このプロセスで処理した試料は*S、例えば、A1Sと命名される。結果を表2に提示する。
【0063】
次いで、焼結された試料のいくつかに、温度を1410℃に1時間保持する工程と、その後のチャンバに圧力が55barに到達するまでArを約13分間導入し、その後この圧力を15分間保持する加圧工程を含む焼結HIPプロセスを施した。その後チャンバを冷却し、焼結され焼結HIPプロセスを施された試料をチャンバから取り出した。このプロセスで処理した試料は*SSH、例えば、A1SSHと命名される。結果を表3に提示する。
【0064】
代替的なプロセスにおいては、試料を単一のプロセスで焼結し焼結HIPプロセスを施した。即ち、1410℃に2時間保持した直後に55barへの圧力上昇を加え、この上昇させた圧力を15分間保持した。このプロセスで処理した試料は*SH、例えば、A4SHと命名される。結果を表3に提示する。
【0065】
各試料の線収縮は、グリーン体から焼結及び/又は焼結HIPプロセスを施された物体(試料)までで約25−30%であった。焼結され焼結HIPプロセスを施された各試料の断面を調査した。気孔率は、ISO4505−1978による超硬合金のABC分類及びImageJを用いた画像分析の両方で調べた。
【0066】
試料A1SSH、A4SH及びB1SSHは、A00B00C00に分類された。実施例からわかるように、稠密で気孔のない3D印刷された超硬合金を達成するには、気孔率と10μm未満の粒子の量の両方が重要である。
【0067】
結合相含有率は、3D印刷された物体において実際に周期的に変化していた。これは、JEOL JXA−8530Fマイクロプローブを用いたEDS及びWDSラインスキャンにより詳細に調査された。ラインは、印刷された層の方向に対して垂直に測定された。機器設定及びそれぞれの分析された元素に使用されたWDS結晶は、表4及び5に見ることができる。
【0068】
典型的なCo変動の例を図1(試料B4S)及び図2(試料A2SSH)に示す。15の隣接周期の平均としての平均結合相含有量は、試料A1SSH、A2SSH及びB2SSHそれぞれにおいて、物体中の平均結合相含有量から17%、17%及び16%の差を示した。図5は、試料A1Sの切削面を示す。
【0069】
本発明を様々な例示の実施態様に関連して記載したが、当然ながら本発明は開示された例示の実施態様に限定されるものではなく、それどころか、添付の請求項の範囲内の様々な変形例及び等価配置を包含することを意図している。
図1
図2
図3
図4
図5