特許第6861730号(P6861730)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イーグル工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6861730-しゅう動部品 図000002
  • 特許6861730-しゅう動部品 図000003
  • 特許6861730-しゅう動部品 図000004
  • 特許6861730-しゅう動部品 図000005
  • 特許6861730-しゅう動部品 図000006
  • 特許6861730-しゅう動部品 図000007
  • 特許6861730-しゅう動部品 図000008
  • 特許6861730-しゅう動部品 図000009
  • 特許6861730-しゅう動部品 図000010
  • 特許6861730-しゅう動部品 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861730
(24)【登録日】2021年4月1日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】しゅう動部品
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20210412BHJP
   F16C 17/04 20060101ALI20210412BHJP
   F16C 33/12 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   F16J15/34 G
   F16C17/04 Z
   F16C33/12 Z
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-554968(P2018-554968)
(86)(22)【出願日】2017年12月1日
(86)【国際出願番号】JP2017043225
(87)【国際公開番号】WO2018105505
(87)【国際公開日】20180614
【審査請求日】2020年6月22日
(31)【優先権主張番号】特願2016-237217(P2016-237217)
(32)【優先日】2016年12月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201259
【弁理士】
【氏名又は名称】天坂 康種
(74)【代理人】
【識別番号】100116506
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 義宏
(72)【発明者】
【氏名】根岸 雄大
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】前谷 優貴
(72)【発明者】
【氏名】細江 猛
(72)【発明者】
【氏名】井上 秀行
【審査官】 竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/199171(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/050920(WO,A1)
【文献】 特開平6−066374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34−15/38
F16C 17/04
F16C 33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相対しゅう動する一対のしゅう動部品を備え、前記一対のしゅう動部品の一方の側には高圧の気体が、他方の側には低圧の液体が存在するものにおいて、少なくとも一方のしゅう動部品のしゅう動面には、正圧発生溝を備えた正圧発生機構が設けられると共に、前記高圧の気体側には円環状の深溝が配設され、前記円環状の深溝は、前記高圧の気体側とはランド部により隔離され、半径方向の深溝により前記低圧の液体側と連通されることを特徴とするしゅう動部品。
【請求項2】
前記円環状の深溝及び前記半径方向の深溝の溝深さは前記正圧発生溝の溝深さの250倍〜500倍であることを特徴とする請求項1に記載のしゅう動部品。
【請求項3】
前記半径方向の深溝は、周方向に複数設けられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のしゅう動部品。
【請求項4】
前記正圧発生溝は、円環状の深溝より前記低圧の液体側に配設されると共に前記低圧の液体側に連通され、前記高圧の気体側とはランド部により隔離されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のしゅう動部品。
【請求項5】
前記正圧発生溝は、レイリーステップ機構を構成するグルーブ部から形成され、少なくとも一部のグルーブ部は前記半径方向の深溝の周方向の両側に対称に形成されることを特徴とする請求項4に記載のしゅう動部品。
【請求項6】
前記正圧発生溝は、レイリーステップ機構を構成するグルーブ部から形成され、少なくとも一部のグルーブ部は周方向の中央部分に液体導入補助溝が形成されることを特徴とする請求項4に記載のしゅう動部品。
【請求項7】
前記一方側のしゅう動面には、負圧発生溝を備えた負圧発生機構が設けられることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のしゅう動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、メカニカルシール、軸受、その他、しゅう動部に適したしゅう動部品に関する。特に、しゅう動面に流体を介在させて摩擦を低減させるとともに、しゅう動面から流体が漏洩するのを防止する必要のある密封環または軸受などのしゅう動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
しゅう動部品の一例である、メカニカルシールにおいて、その性能は、漏れ量、摩耗量、及びトルクによって評価される。従来技術ではメカニカルシールのしゅう動材質やしゅう動面粗さを最適化することにより性能を高め、低漏れ、高寿命、低トルクを実現している。しかし、近年の環境問題に対する意識の高まりから、メカニカルシールの更なる性能向上が求められており、従来技術の枠を超える技術開発が必要となっている。
そのような中で、本出願人は、静止時に漏れず、回転初期を含み回転時には流体潤滑で作動するとともに漏れを防止し、密封と潤滑とを両立させることのできるしゅう動部品の発明を特許出願している(以下、「従来技術」という。特許文献1参照)。
【0003】
この従来技術の一実施形態として、特許文献1の図13に示すような、一対の摺動部品の互いに相対摺動する一方側の摺動面の高圧側には正圧発生溝からなる正圧発生機構3を、低圧側には負圧発生溝からなる負圧発生機構4を設けるとともに、正圧発生溝5と負圧発生溝6との間に圧力開放溝15を設け、正圧発生溝5、圧力開放溝15及び負圧発生溝6は高圧流体側と連通し、低圧流体側とはシール面により隔離されているしゅう動部品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2012/046749号(図13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の従来技術は、静止時に漏れず、回転初期を含み回転時には流体潤滑で作動するとともに漏れを防止し、密封と潤滑とを両立させることのできるようにした点できわめて優れたものであるが、高圧流体側には被密封流体である液体が、また、低圧流体側には気体(大気)が存在する場合を想定したものであるため、高圧流体側が気体、低圧流体側が液体の場合、しゅう動面の相対しゅう動により正圧が発生し、しゅう動面間がわずかながら開くと、高圧の気体がしゅう動面に進入し、しゅう動面間の液膜を保持したまましゅう動することが難しくなり、液膜切れを起こすおそれがあった。また、高圧流体側の気体が低圧流体側の液体側へ漏れる可能性もあった。
【0006】
本発明は、高圧流体側が気体、低圧流体側が液体の場合において、しゅう動面全体に積極的に低圧流体側の液体を導入し、液膜を保持したままのしゅう動を可能とし、高圧側及び低圧側の両流体を密封することにより、密封と潤滑という相反する条件を両立させることのできるしゅう動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のしゅう動部品は、第1に、互いに相対しゅう動する一対のしゅう動部品を備え、前記一対のしゅう動部品の一方の側には高圧の気体が、他方の側には低圧の液体が存在するものにおいて、少なくとも一方のしゅう動部品のしゅう動面には、正圧発生溝を備えた正圧発生機構が設けられると共に、前記高圧の気体側には円環状の深溝が配設され、前記円環状の深溝は、前記高圧の気体側とはランド部により隔離され、半径方向の深溝により前記低圧の液体側と連通されることを特徴としている。
この特徴によれば、しゅう動面全体に積極的に低圧の液体を導入すると同時に、しゅう動面への高圧の気体の進入を阻止し、液膜を保持したままのしゅう動を可能とし、高圧側及び低圧側の両流体を密封することができ、密封と潤滑という相反する条件を両立させたしゅう動部品を提供することができる。
【0008】
また、本発明のしゅう動部品は、第2に、第1の特徴において、前記円環状の深溝及び前記半径方向の深溝の溝深さは前記正圧発生溝の溝深さの250倍〜500倍であることを特徴としている。
この特徴によれば、しゅう動面全体に、より積極的に低圧流体側の液体を導入できると同時に、高圧の気体の進入を阻止ことができる。
【0009】
また、本発明のしゅう動部品は、第3に、第1又は第2の特徴において、前記半径方向の深溝は、周方向に複数設けられることを特徴としている。
この特徴によれば、しゅう動面全体に均一に液体を導入することができ、また、円環状の深溝に対しても十分に液体を導入することができる。
【0010】
また、本発明のしゅう動部品は、第4に、第1ないし第3のいずれかの特徴において、前記正圧発生溝は、円環状の深溝より前記低圧の液体側に配設されると共に前記低圧の液体側に連通され、前記高圧の気体側とはランド部により隔離されることを特徴としている。
この特徴によれば、低圧の液体の粘性を利用してしゅう動面に十分な正圧を発生することができる。
【0011】
また、本発明のしゅう動部品は、第5に、第4の特徴において、前記正圧発生溝は、レイリーステップ機構を構成するグルーブ部から形成され、少なくとも一部のグルーブ部は前記半径方向の深溝の周方向の両側に対称に形成されることを特徴としている。
この特徴によれば、回転側密封環が両方向に回転する機器に適したものとすることができる。
【0012】
また、本発明のしゅう動部品は、第6に、第4の特徴において、前記正圧発生溝は、レイリーステップ機構を構成するグルーブ部から形成され、少なくとも一部のグルーブ部は周方向の中央部分に液体導入補助溝が形成されることを特徴としている。
この特徴によれば、しゅう動面に対する液体の導入を補助すると共にグルーブ部における正圧発生のための液体の供給を補助することができ、高圧流体と低圧流体との圧力差が大きい場合でも、しゅう動面Sにおける液膜切れを防止することができる。
【0013】
また、本発明のしゅう動部品は、第7に、第1ないし第6のいずれかの特徴において、前記一方側のしゅう動面には、負圧発生溝を備えた負圧発生機構が設けられることを特徴としている。
この特徴によれば、高圧の気体の低圧側への漏洩を低減することができ、密封機能を増大することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)一対のしゅう動部品の一方の側には高圧の気体が、他方の側には低圧の液体が存在するものにおいて、少なくとも一方のしゅう動部品のしゅう動面には、正圧発生溝を備えた正圧発生機構が設けられると共に、高圧の気体側には円環状の深溝が配設され、円環状の深溝は、高圧の気体側とはランド部により隔離され、半径方向の深溝により低圧の液体側と連通されることにより、しゅう動面全体に積極的に低圧の液体を導入すると同時に、しゅう動面への高圧の気体の進入を阻止し、液膜を保持したままのしゅう動を可能とし、高圧側及び低圧側の両流体を密封することができ、密封と潤滑という相反する条件を両立させたしゅう動部品を提供することができる。
【0015】
(2)円環状の深溝及び半径方向の深溝の溝深さは正圧発生溝の溝深さの250倍〜500倍であることにより、しゅう動面全体に、より積極的に低圧流体側の液体を導入できると同時に、高圧の気体の進入を阻止ことができる。
【0016】
(3)半径方向の深溝は、周方向に複数設けられることにより、しゅう動面全体に均一に液体を導入することができ、また、円環状の深溝に対しても十分に液体を導入することができる。
【0017】
(4)正圧発生溝は、円環状の深溝より低圧の液体側に配設されると共に低圧の液体側に連通され、高圧の気体側とはランド部により隔離されることにより、低圧の液体の粘性を利用してしゅう動面に十分な正圧を発生することができる。
【0018】
(5)正圧発生溝は、レイリーステップ機構を構成するグルーブ部から形成され、少なくとも一部のグルーブ部は半径方向の深溝の周方向の両側に対称に形成されることにより、回転側密封環が両方向に回転する機器に適したものとすることができる。
【0019】
(6)正圧発生溝は、レイリーステップ機構を構成するグルーブ部から形成され、少なくとも一部のグルーブ部は周方向の中央部分に液体導入補助溝が形成されることにより、しゅう動面に対する液体の導入を補助すると共にグルーブ部における正圧発生のための液体の供給を補助することができ、高圧流体と低圧流体との圧力差が大きい場合でも、しゅう動面Sにおける液膜切れを防止することができる。
【0020】
(7)一方側のしゅう動面には、負圧発生溝を備えた負圧発生機構が設けられることにより、高圧の気体の低圧側への漏洩を低減することができ、密封機能を増大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施例1に係るメカニカルシールの一例を示す縦断面図である。
図2】本発明の実施例1に係るメカニカルシールのしゅう動部品のしゅう動面を示す平面図である。
図3図2(a)は図2のA断面図、図2(b)は図2のB−B断面図である。
図4】レイリーステップ機構などからなる正圧発生機構及び逆レイリーステップ機構などからなる負圧発生機構を説明するためのものであって、図(a)はレイリーステップ機構を、図(b)は逆レイリーステップ機構を示したものである。
図5】本発明の実施例2に係るメカニカルシールのしゅう動部品のしゅう動面を示す平面図である。
図6】本発明の実施例3に係るメカニカルシールのしゅう動部品のしゅう動面を示す平面図である。
図7】本発明の実施例4に係るメカニカルシールのしゅう動部品のしゅう動面を示す平面図である。
図8】本発明の実施例5に係るメカニカルシールのしゅう動部品のしゅう動面を示す平面図である。
図9】本発明の実施例6に係るメカニカルシールのしゅう動部品のしゅう動面を示す平面図である。
図10】本発明の実施例7に係るメカニカルシールのしゅう動部品のしゅう動面を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置などは、特に明示的な記載がない限り、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0023】
図1ないし図4を参照して、本発明の実施例1に係るしゅう動部品について説明する。
なお、以下の実施例においては、しゅう動部品の一例であるメカニカルシールを例にして説明する。また、メカニカルシールを構成するしゅう動部品の外周側を低圧の液体側(低圧流体側ともいう。)、内周側を高圧の気体側(高圧流体側ともいう。)として説明するが、本発明はこれに限定されることなく、低圧流体側と高圧流体側とが逆の場合も適用可能である。
【0024】
図1は、メカニカルシールの一例を示す縦断面図であって、しゅう動面の内周から外周方向に向かって漏れようとする高圧の気体を密封する形式のアウトサイド形式のものであり、回転軸1側にスリーブ2を介してこの回転軸1と一体的に回転可能な状態に設けられた一方のしゅう動部品である円環状の回転側密封環3と、ハウジング4に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられた他方のしゅう動部品である円環状の固定側密封環5とが設けられ、固定側密封環5を軸方向に付勢するコイルドウェーブスプリング6及びベローズ7によって、しゅう動面S同士で密接しゅう動するようになっている。すなわち、このメカニカルシールは、回転側密封環3と固定側密封環5との互いのしゅう動面Sにおいて、高圧の気体が内周側から外周側へ流出するのを防止するものである。
【0025】
図2は、本発明の実施例1に係るしゅう動部品のしゅう動面を示したものであって、ここでは、図1の固定側密封環5のしゅう動面に本発明が適用された場合を例にして説明する。
なお、回転側密封環3のしゅう動面に本発明が適用された場合も基本的には同様であるが、その場合、後記する半径方向の深溝等の低圧の液体側に連通する必要のあるものは、回転側密封環3のしゅう動面の外周側まで設けられる必要はない。
【0026】
図2において、固定側密封環5のしゅう動面Sの外周側が低圧の液体側(以下、低圧流体側ともいう。)であり、また、内周側が高圧の気体側(以下、高圧流体側ともいう。)であり、相手しゅう動面は反時計方向に回転するものとして説明する。
【0027】
固定側密封環5のしゅう動面Sには、正圧発生溝11を備えた正圧発生機構10がそれぞれ独立して複数配列されており、正圧発生溝11の外周縁が低圧流体側に連通され、高圧流体側とはランド部R(しゅう動面Sの平滑な部分)により隔離されている。
図2においては、正圧発生溝11は、レイリーステップ機構を構成するグルーブ部11から形成され、その平面形状は、径方向にはしゅう動面の幅の半分以上の幅を有し、周方向には径方向の幅よりやや長い略矩形状をしており、また、周方向において隣接するグルーブ部11とはランド部Rにより隔離されており、周方向に16等配で設けられている。
なお、グルーブ部11は1以上あればよく、また、等配でなくともよい。
レイリーステップ機構については、後記において詳述する。
また、正圧発生機構を構成するものとしては、レイリーステップ機構に限らず、たとえば、スパイラルグルーブからなるスパイラル機構でもよい。
【0028】
また、しゅう動面Sには、高圧流体側(図2においては、内周側)には円環状の深溝14が配設され、円環状の深溝14は、高圧流体側とはランド部Rにより隔離され、半径方向の深溝13を介して低圧流体側と連通されている。
円環状の深溝14と高圧流体側との間のランド部Rの幅は、高圧流体と低圧流体との圧力差に応じて最適な値に設定される。
【0029】
半径方向の深溝13は、外周側が低圧流体側と連通され、内周側が円環状の深溝14と連通されている。
図2においては、半径方向の深溝13は、周方向に4等配(図2においては垂直方向の上下及び水平方向の左右の4個)で配設されており、グルーブ部11の周方向の中心部に位置するように形成されている。このため、半径方向の深溝13が形成されている個所のグルーブ部11は、半径方向の深溝13により分断されて半径方向の深溝13の周方向の両側に対称に形成されることになる。
なお、半径方向の深溝13は1以上あればよく、また、等配でなくともよい。
たとえば、高圧流体と低圧流体との圧力差が小さい場合は4等配に、また、圧力差が大きい場合は12等配にするなどして、しゅう動面への低圧流体の導入を調整する。
【0030】
円環状の深溝14及び半径方向の深溝13の溝幅及び溝深さは、高圧流体と低圧流体との圧力差が小さい場合は小さく、圧力差が大きい場合は大きく設定される。
また、図3(a)(b)に示すように、円環状の深溝14及び半径方向の深溝13の溝深さd1は正圧発生溝11の溝深さd2より深く、およそd1=250d2〜500d2である。
【0031】
図2に示した例では、相手しゅう動面の回転方向が反時計方向の場合に限らず、時計方向の場合にもしゅう動部品として同様の機能を奏することができるため、両方向に回転する機器に適している。
【0032】
図示は省略しているが、しゅう動面には、密封機構(漏れ防止機構)として逆レイリーステップ機構やポンピンググルーブ等の負圧発生機構を設けてもよい。
なお、逆レイリーステップ機構については後記において詳述する。
【0033】
次に、図4を参照しながら、レイリーステップ機構などからなる正圧発生機構及び逆レイリーステップ機構などからなる負圧発生機構を説明する。
図4(a)において、相対するしゅう動部品である回転側密封環3、及び、固定側密封環5が矢印で示すように相対しゅう動する。固定側密封環5のしゅう動面には、相対的移動方向と垂直かつ上流側に面して狭まり隙間(段差)を構成するレイリーステップ11aが形成され、該レイリーステップ11aの上流側には正圧発生溝であるグルーブ部11が形成されている。相対する回転側密封環3及び固定側密封環5のしゅう動面Sは平坦である。
回転側密封環3及び固定側密封環5が矢印で示す方向に相対移動すると、回転側密封環3及び固定側密封環5のしゅう動面S間に介在する流体が、その粘性によって、回転側密封環3または固定側密封環5の移動方向に追随移動しようとするため、その際、レイリーステップ11aの存在によって破線で示すような正圧(動圧)を発生する。
なお、Rはランド部を示す。
【0034】
図4(b)においても、相対するしゅう動部品である回転側密封環3、及び、固定側密封環5が矢印で示すように相対しゅう動するが、回転側密封環3及び固定側密封環5のしゅう動面には、相対的移動方向と垂直かつ下流側に面して拡がり隙間(段差)を構成する逆レイリーステップ12aが形成され、該逆レイリーステップ12aの下流側には負圧発生溝であるグルーブ部12が形成されている。相対する回転側密封環3及び固定側密封環5のしゅう動面は平坦である。
回転側密封環3及び固定側密封環5が矢印で示す方向に相対移動すると、回転側密封環3及び固定側密封環5のしゅう動面S間に介在する流体が、その粘性によって、回転側密封環3または固定側密封環5の移動方向に追随移動しようとするため、その際、逆レイリーステップ12aの存在によって破線で示すような負圧を発生する。
【0035】
図1及び2において、回転軸1が駆動されずに回転側密封環3と固定側密封環5とのしゅう動面Sの相対しゅう動のない静止状態においては、低圧流体側の液体がしゅう動面Sに設けられた半径方向の深溝13を介して円環状の深溝14に導入された状態にある。
次に、回転軸1が駆動され、回転側密封環3が回転されると、回転側密封環3と固定側密封環5とのしゅう動面Sが相対しゅう動され、正圧発生機構10により正圧が発生されてしゅう動面S同士がわずかに離間され、高圧流体側の気体がしゅう動面Sに流入しようとするが、円環状の深溝14に導入されている液体が周方向に旋回されるため、高圧の気体はここでブロックされてしゅう動面Sの内部に進入することができない。
同時に、しゅう動面Sには、低圧流体側の液体が進入して液膜が形成される。
本発明者らの試験によると、円環状の深溝14の高圧流体側の付近に円環状の気液界面が形成され、しゅう動面では液膜切れを起こすことなく流体潤滑を維持したまましゅう動していることが確認された。
【0036】
本発明の実施例1に係るしゅう動部品は上記のとおりであり、以下のような優れた効果を奏する。
(1)互いに相対しゅう動する一対のしゅう動部品3、5を備え、一対のしゅう動部品3、5の一方の側には高圧の気体が、他方の側には低圧の液体が存在するものにおいて、少なくとも一方のしゅう動部品のしゅう動面Sには、正圧発生溝11を備えた正圧発生機構10が設けられると共に、高圧の気体側には円環状の深溝14が配設され、円環状の深溝14は、高圧の気体側とはランド部Rにより隔離され、半径方向の深溝13により低圧の液体側と連通されることにより、しゅう動面S全体に積極的に低圧の液体を導入すると同時に、しゅう動面Sへの高圧の気体の進入を阻止し、液膜を保持したままのしゅう動を可能とし、高圧側及び低圧側の両流体を密封することができ、密封と潤滑という相反する条件を両立させたしゅう動部品を提供することができる。
(2)円環状の深溝14及び半径方向の深溝13の溝深さd1は正圧発生溝11の溝深さd2の250倍〜500倍であることにより、しゅう動面S全体に、より積極的に低圧流体側の液体を導入できると同時に、高圧の気体の進入を阻止ことができる。
(3)半径方向の深溝13は、周方向において等配に複数設けられることにより、しゅう動面全体に均一に液体を導入することができ、また、円環状の深溝14に対しても十分に液体を導入することができる。
(4)正圧発生溝11は、円環状の深溝14より低圧の液体側に配設されると共に低圧の液体側に連通され、高圧の気体側とはランド部Rにより隔離されることにより、低圧の液体の粘性を利用してしゅう動面に十分な正圧を発生することができる。
(5)正圧発生溝11は、レイリーステップ機構を構成するグルーブ部から形成され、少なくとも一部のグルーブ部は半径方向の深溝13の周方向の両側に対称に形成されることにより、回転側密封環が両方向に回転する機器に適したものとすることができる。
【実施例2】
【0037】
図5を参照して、本発明の実施例2に係るしゅう動部品について説明する。
実施例2は、正圧発生溝を構成するレイリーステップ機構のグルーブ部の周方向の中央部分が一段と低く形成される点で実施例1と相違するが、その他の基本構成は実施例1と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0038】
図5において、固定側密封環5のしゅう動面Sには、グルーブ部11を備えたレイリーステップ機構10がそれぞれ独立して複数配列されており、グルーブ部11の外周縁が低圧流体側に連通され、高圧流体側とはランド部Rにより隔離されている。
図5においては、グルーブ部11は周方向に12等配設けられている。
また、半径方向の深溝13は、外周側が低圧流体側と連通され、内周側が円環状の深溝14と連通されており、周方向に4等配(図5においては垂直方向の上下及び水平方向の左右の4個)で配設されており、グルーブ部11の周方向の中心部に位置するように形成されている。このため、半径方向の深溝13が形成されている4個所のグルーブ部11は、半径方向の深溝13により分断されて半径方向の深溝13の周方向の両側に対称に形成されることになる。
【0039】
半径方向の深溝13が設けられていない残りの8個のグルーブ部11において、それぞれのグルーブ部11の周方向の中央部分にグルーブ部11の溝深さよりも深い液体導入補助溝15が設けられている。このため、グルーブ部11の中央部分は一段低い状態となっている。
【0040】
液体導入補助溝15は、グルーブ部11と同様に低圧流体側の端部は低圧流体側に連通され、高圧流体側の端部はランド部Rにより円環状の深溝14と隔離されている。
液体導入補助溝15の溝幅及び溝深さは高圧流体と低圧流体との圧力差が大きい場合は大きく、小さい場合は小さく設定される。
【0041】
液体導入補助溝15は、しゅう動面Sに対する液体の導入を補助すると共にグルーブ部11における正圧発生のための液体の供給を補助する機能を有する。
そのため、高圧流体と低圧流体との圧力差が大きい場合でも、しゅう動面Sにおける液膜切れを防止することができる。
【実施例3】
【0042】
図6を参照して、本発明の実施例3に係るしゅう動部品について説明する。
実施例3は、正圧発生溝を構成するレイリーステップ機構のグルーブ部の低圧流体側の端部がランド部Rにより低圧流体側と隔離される点で実施例2と相違するが、その他の基本構成は実施例2と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0043】
図6において、固定側密封環5のしゅう動面Sには、グルーブ部17を備えたレイリーステップ機構16がそれぞれ独立して複数配列されており、正圧発生溝を構成するグルーブ部17の外周縁はランド部Rにより低圧流体側と隔離され、高圧流体側ともランド部Rにより隔離されている。
【実施例4】
【0044】
図7を参照して、本発明の実施例4に係るしゅう動部品について説明する。
実施例4は、半径方向の深溝は、周方向に4等配で配設され、正圧発生溝を構成するレイリーステップ機構のグルーブ部は半径方向の深溝の周方向の両側にのみ対称に形成される点で実施例2と相違するが、その他の基本構成は実施例2と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0045】
図6において、半径方向の深溝13は、周方向に4等配で配設され、レイリーステップ機構18を構成するグルーブ部19は半径方向の深溝の周方向の両側にのみ対称に形成されている。
グルーブ部19の外周縁は低圧流体側に連通され、高圧流体側とはランド部Rにより隔離されている。
【0046】
グルーブ部19の平面形状は、径方向にはしゅう動面の幅の略半分の幅を有し、周方向には径方向の幅より長く、全体として略アーチ状をしており、また、周方向において隣接するグルーブ部19とはランド部Rにより隔離されている。
【実施例5】
【0047】
図8を参照して、本発明の実施例5に係るしゅう動部品について説明する。
実施例5は、正圧発生溝を構成するレイリーステップ機構のグルーブ部の低圧流体側の端部がランド部Rにより低圧流体側と隔離される点で実施例4と相違するが、その他の基本構成は実施例4と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0048】
図8において、固定側密封環5のしゅう動面Sには、グルーブ部19を備えたレイリーステップ機構18がそれぞれ独立して複数配列されており、正圧発生溝を構成するグルーブ部19の外周縁はランド部Rにより低圧流体側と隔離され、高圧流体側ともランド部Rにより隔離されている。
【実施例6】
【0049】
図9を参照して、本発明の実施例6に係るしゅう動部品について説明する。
実施例6は、正圧発生溝を構成するレイリーステップのグルーブ部が半径方向の深溝の下流側にのみ設けられる点で上記実施例1〜5と相違するが、その他の基本構成は上記実施例1〜5と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0050】
図9において、固定側密封環5のしゅう動面Sには、グルーブ部21を備えたレイリーステップ機構20がそれぞれ独立して複数配列されており、グルーブ部21の外周縁が低圧流体側に連通され、高圧流体側とはランド部Rにより隔離されている。
【0051】
また、しゅう動面Sには、高圧流体側に円環状の深溝14が配設され、円環状の深溝14は、高圧流体側とはランド部Rにより隔離され、半径方向の深溝13を介して低圧流体側と連通されている。
【0052】
半径方向の深溝13は、外周側が低圧流体側と連通され、内周側が円環状の深溝14と連通されている。
図9においては、半径方向の深溝13は、周方向に12等配で配設されており、グルーブ部21の上流側の端部が半径方向の深溝13に連通されている。
【0053】
グルーブ部21は、半径方向の深溝13の下流側にのみ設けられるため、相手しゅう動面の回転方向が反時計方向の場合の片方向に回転する機器に適している。
【実施例7】
【0054】
図10を参照して、本発明の実施例7に係るしゅう動部品について説明する。
実施例7は、正圧発生溝を構成するレイリーステップ機構のグルーブ部の低圧流体側の端部がランド部Rにより低圧流体側と隔離される点で実施例6と相違するが、その他の基本構成は実施例6と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0055】
図10において、固定側密封環5のしゅう動面Sには、グルーブ部21を備えたレイリーステップ機構20がそれぞれ独立して複数配列されており、正圧発生溝を構成するグルーブ部21の外周縁はランド部Rにより低圧流体側と隔離され、高圧流体側ともランド部Rにより隔離されている。
【0056】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0057】
例えば、前記実施例では、しゅう動部品をメカニカルシール装置における一対の回転用密封環及び固定用密封環のいずれかに用いる例について説明したが、円筒状しゅう動面の軸方向一方側に潤滑油を密封しながら回転軸としゅう動する軸受のしゅう動部品として利用することも可能である。
【0058】
また、例えば、前記実施例では、外周側に低圧の液体が、内周側に高圧の気体が存在する場合について説明したが、逆の場合にも適用できる。
【0059】
また、例えば、前記実施例では、しゅう動部品を構成するメカニカルシールの固定側密封環に正圧発生機構、負圧発生機構及び深溝を設ける場合について説明したが、これとは逆に、回転側密封環に設けてもよい。
【0060】
また、例えば、前記実施例では、正圧発生機構がレイリーステップ機構により構成される場合について説明したが、これに限らず、たとえば、スパイラル機構により構成されてもよい。
【0061】
また、例えば、前記実施例では、半径方向の深溝が周方向に4等配で設けられる場合について説明したが、これに限らず、内外周の流体の圧力差が大きい場合はより多く、小さい場合は少なく配設してもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 回転軸
2 スリーブ
3 回転側密封環
4 ハウジング
5 固定側密封環
6 コイルドウェーブスプリング
7 ベローズ
10 正圧発生機構(レイリーステップ機構)
11 正圧発生溝(レイリーステップ機構を構成するグルーブ部)
11a レイリーステップ
12 逆レイリーステップ機構を構成するグルーブ部
12a 逆レイリーステップ
13 半径方向の深溝
14 円環状の深溝
15 液体導入補助溝
16、18、20 正圧発生機構(レイリーステップ機構)
17、18、21 正圧発生溝(レイリーステップ機構を構成するグルーブ部)
S シール面
R ランド部



















図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10