【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成30年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
情報伝達量の増大に伴い、光配線技術が注目されている。光配線技術では、光ファイバや光導波路を伝送媒体とした光デバイスを用いて、情報処理装置内のラック間、ボード間又はチップ間等の情報伝達を光信号で行う。光配線技術を用いることにより、高速信号処理を要する情報処理機器においてボトルネックとなっている、電気配線を用いることによる帯域制限を改善することができる。
【0003】
光の伝送媒体としてのシリコン(Si)は、通信波長域において透明で、かつ導波路コアとして屈折率が高い、という特徴がある。Siを材料とする光導波路素子(Si導波路素子)では、実質的に光の伝送路となる光導波路コアを、Siを材料として形成する。そして、Siよりも屈折率の低い例えば酸化シリコン(SiO
2)等を材料としたクラッドで、光導波路コアの周囲を覆う。
【0004】
Siの光導波路コアの周囲をSiO
2のクラッドで覆うことにより構成されるSi導波路では、光導波路コアとクラッドとの比屈折率差が非常に大きく確保される。このため、Si導波路の伝搬モードの等価屈折率はクラッドの屈折率から離れた値をとる。この結果、Siの光導波路コア内部に光を強く閉じ込めることができる。このように、強い閉じ込めができることにより、曲げ導波路の曲率半径、及び、並走する導波路間の最小配線ピッチを数μm程度まで抑えることができる。このため、光配線のレイアウトサイズを小さくできる。
【0005】
また、半導体製造装置を用いた高精度なフォトリソグラフィやエッチング技術によるSi導波路の微細加工が可能である。さらに、イオンドーピングで形成したPN−Si領域への電圧印加によるキャリア増幅に伴う屈折率変化(プラズマキャリア効果)を応用した変調器、及び、Siよりもバンドギャップの狭いゲルマニウム(Ge)をSi上に選択成長させた受光素子(PD:Photo Diode)など、多様な機能デバイスを同一基板上にモノリシック的に集積形成でき、大量生産も容易である。このため、Si導波路は光モジュールを小型・低コストで実現するためのプラットフォームとして有望視されており、これに関する様々な研究がなされている(例えば特許文献1、非特許文献1又は非特許文献2参照)。
【0006】
一般に光モジュールの作製工程では、半導体製造工程により光導波路デバイスを基板上に形成した後、基板をダイシングしてチップとして個片化する。個片化されたチップには光導波路デバイス単体の特性を評価するためのTEG(Test Elemental Group)パターンが形成されたTEGチップや、光モジュールに搭載するための集積デバイスが形成された集積チップがある。
【0007】
TEGチップや集積チップについて、光導波路デバイスの光学特性を評価する場合、これらチップに対して両端から光ファイバを突き合わせて、一方の光ファイバは光源に、他方の光ファイバはスペクトルアナライザやパワーメータなどと光学的に接続する。光源から送信された光信号はチップ上の光導波路デバイスを経由してスペクトルアナライザ又はパワーメータで受光されて評価される。
【0008】
なお、集積チップでは光導波路がPDで終端されていることがある。この場合、光源と接続された光ファイバを集積チップの一端に突き合わせ、光源から送信された光信号は、チップ上のPDで光電変換されて電圧/電流計などで評価される。例えば、集積チップの偏光特性を評価するための、光信号モニタリングモジュールが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
ここで、Si導波路は上述したように光導波路コアとクラッドとの比屈折率差が大きいことに起因し、シングルモード伝送条件を満たすための断面サイズが一辺数百nmオーダと小さい。スポットサイズ変換器(SSC:Spot Size Converter)を用いても、拡大できる光のモードフィールド径(MFD:Mode Field Diameter)はせいぜい3μm程度にとどまる。このため、Si導波路で構成されるSi光導波路デバイスでは、光軸調整を要する光学特性の評価が、他の光導波路デバイスと比較して難しい。
【0010】
また、Si光導波路デバイスは材料の吸収波長帯域との兼ね合いから、主に通信波長帯域(λ=1.31〜1.55μm)での使用が想定されている。光学特性の評価に用いる光信号が赤外光であり、この赤外光が目視で確認できないことも光軸調整の難しさの一因となっている。
【0011】
図9を参照して、従来のTEGチップの光学特性の評価手順を説明する。
【0012】
TEGチップの評価では、
図9に示すようにTEGチップに対して、入力側と出力側の2本の光ファイバの光軸調整を行う必要がある。光軸調整は、具体的には、例えば、以下の過程で行われる。
【0013】
先ず、TEGチップ10をサンプルステージ20上に載置する。そして、TEGチップ10に形成された、評価対象となる光導波路デバイス30を含むSi導波路40に対して、TEGチップ10の上方に設置されたCCDカメラ50で、TEGチップ10及び入力側の光ファイバ60を見ながら可視的に入力側の光ファイバ60を、X−Z平面内で調整する。ここで、X−Z平面は、TEGチップ10の上面に平行な面を指す。また、Y方向は、X−Z平面に直交する方向、すなわち、TEGチップ10の上面に直交する方向を指す。
【0014】
次に、TEGチップ10の上方から赤外線カメラ55を用いて、Si導波路40からの散乱光強度が最大となるように入力側の光ファイバ60のY方向の位置を調整する。
【0015】
次に、入力側の光ファイバ60を固定した状態で、スペクトルアナライザ又はパワーメータの受信強度が最大となるように出力側の光ファイバ62を、X、Y、Zの各方向について調整する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
図9を参照して説明した従来の光軸調整の方法では、入力側の光ファイバのY方向の光軸調整に、赤外線カメラを用いている。
【0019】
ここで、赤外線カメラでモニタしているものは、Si導波路からの散乱光である。この場合、Si導波路に光が完全に閉じ込められていれば、本来観測されないものを目安にしているという点に課題がある。また、通信波長帯の光の場合、Si導波路からの散乱光は赤外光であり、赤外光の観測には、一台数百万円程度の高額な赤外線カメラが必要となる点も課題である。
【0020】
この発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものである。この発明の目的は、Si導波路に光が完全に閉じ込められている場合でも光軸調整が可能となる、光導波路素子と、光軸調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上述した目的を達成するために、この発明の光導波路素子は、支持基板と、光導波路コアと、支持基板上に、光導波路コアを包含して形成されるクラッドとを備えて構成される。光導波路コアには、光軸調整用パターンが設けられている。光軸調整用パターンに、プロービングフィルタ部と、放射部とを備える。
【0022】
プロービングフィルタ部は、信号光と検証光とを含む入力光から、信号光を透過させ、かつ、検証光を抽出する。放射部は、プロービングフィルタ部で抽出された検証光を、プロービングフィルタ部における入力光の伝搬方向に直交する方向であって、当該光導波路素子の端面に直交する方向に放射する。
【0023】
この発明の光導波路素子の好適実施形態によれば、プロービングフィルタ部は、グレーティングと、モード変換部を備える。グレーティングは、入力光のうち、信号光の波長よりも短波長である検証光の波長にBragg波長が設定され、かつ、0次モードの成分である検証光を、i(iは1以上の整数)次モードに変換して反射する。モード変換部は、グレーティングで反射されたi次モードの検証光を、0次モードに変換する。
【0024】
また、この発明の光導波路素子の好適実施形態によれば、放射部は、プロービングフィルタ部から離れるに従って、幅が連続的に縮小するテーパ部を備える。さらに、放射部は、テーパ部のプロービングフィルタ部とは反対側の端部と光導波路素子の端面に設けられる放射端とを接続する一定幅の延伸部を備えていてもよい
。
【0025】
また、この発明の光軸調整方法は、上述の光導波路素子と、光ファイバとの光軸調整を行う方法であり、以下の過程を備えて構成される。
【0026】
先ず、第1過程において、光導波路素子の上面側から、光導波路素子の上面を見ながら、光導波路素子と、入力側の光ファイバとの、光導波路素子の上面に平行な面内における位置合わせを行う。次に、第2過程において、光導波路素子の端面に設けられた放射部の放射端に対面させて、赤外線蛍光検体を配置する。次に、第3過程において、入力側の光
ファイバから検証光を含む入力光を入力し、放射部から放射される検証光により、赤外線蛍光検体を発光させ、発光を目安に、光導波路素子と、入力側の光ファイバとの、光導波路素子の上面に直交する方向における位置合わせを行う。
【0027】
また、この発明の光軸調整方法の好適実施形態によれば、第3過程の後に行われる、第4過程及び第5過程を備える。
【0028】
第4過程では、光導波路素子の上面側から、光導波路素子の上面を見ながら、光導波路素子と、出力側の光ファイバの、光導波路素子の上面に平行な面内で位置合わせを行う。
【0029】
第5過程では、出力側の光ファイバに、光強度測定器を接続し、光強度測定器での受信光強度が最大となるように、光導波路素子と、出力側の光ファイバとの、光導波路素子の上面に直交する方向における位置合わせを行う。
【発明の効果】
【0030】
この発明の光導波路素子及び光軸調整方法によれば、CCDカメラなどを用いながら、光導波路素子の上面に平行な平面内で位置調整した後、放射部から放射された検証光の強度をモニタして、光導波路素子の上面に直交する方向の位置合わせを行うことができる。このため、Si導波路に光が完全に閉じ込められている場合でも光軸調整が可能となる。また、入力光が赤外光である場合であっても、高価な赤外線カメラを用いることなく光軸調整を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0033】
図1及び
図2を参照して、この発明の光導波路素子について説明する。
図1及び
図2は、この発明の光導波路素子の一構成例を示す模式図である。
図1は、後述する支持基板及びクラッドを省略し、光導波路コアのみを示している。
図2は、
図1に示す放射部をI−I線で切り取った概略的端面図である。
【0034】
光導波路素子5は、支持基板110、クラッド120、及び、光導波路コア130を備える光導波路を基本構造として有している。
【0035】
支持基板110は、例えば単結晶Siを材料とした平板状体で構成されている。
【0036】
クラッド120は、支持基板110上に設けられている。クラッド120は、支持基板110の上面を被覆し、かつ、光導波路コア130を包含して形成されている。クラッド120は、例えば酸化シリコン(SiO
2)を材料として形成されている。
【0037】
光導波路コア130は、クラッド120よりも高い屈折率を有する例えばSiを材料として形成されている。その結果、光導波路コア130は、光の伝送路として機能し、光導波路コア130に入力された光が光導波路コア130の平面形状に応じた伝播方向に伝播する。
【0038】
光導波路素子5は、光軸調整用パターン100を備えている。光軸調整用パターン100は、光導波路コア130の平面形状に応じて、構成される。ここでは、光導波路コア130の平面形状に応じて定まる光路をSi導波路とも称する。
【0039】
光軸調整用パターン100は、プロービングフィルタ部200と、放射部として放射用スポットサイズ変換器(SSC)300とを備えて構成されている。また、設計に応じて、入力側の光ファイバに接続される入力用導波路510、プロービングフィルタ部200とSSC300間を接続する引き回し導波路530、及び、評価対象の光導波路デバイスに接続される出力用導波路540を備える。
【0040】
この光軸調整用パターン100を備える光導波路素子5では、プロービングフィルタ部200によって、入力側の光ファイバを経て入力された光に含まれる検証光を選択的に取り出し、取り出された検証光をSSC300から放射する。このSSC300から放射された検証光をモニタすることで光軸調整を行う。ここでは、光軸調整用パターン100を備える光導波路素子5をチップとも称する。上述した光軸調整用パターン100は、TEGパターンが形成されたTEGチップや、発光素子(LD:Laser Diode)やPDなどを実装した集積チップなどに形成される。
【0041】
プロービングフィルタ部200は、グレーティング210とモードフィルタ220とを有している。グレーティング210は、Si導波路に周期的に屈折率変調領域が形成されて構成されている。グレーティング210は、特定の波長(Bragg波長)の光に対して、伝搬する基本モード(0次モード)光をi次モード(i>0))光に変換して反射させる。ここで、グレーティング210はBragg波長よりも長波長の光信号に対してはオールスルー(全透過)の特性を持っており、後段の光導波路デバイスには光学的な影響を及ぼさないという特徴がある。このため、実際の評価対象となる光導波路デバイスの動作波長帯域よりもやや短波長にグレーティング210のBragg波長を設定することが好ましい。
【0042】
モードフィルタ220は、メイン導波路221とサブ導波路222とを備えて構成されている。メイン導波路221とサブ導波路222とは、互いに光の結合が可能な程度に離間して並列配置されている。メイン導波路221を伝搬するi次モード光は、サブ導波路222を伝搬する基本モード光へと変換されて経路が切り替わる。
【0043】
i=1として、プロービングフィルタ部200の動作を説明する。
【0044】
グレーティング210と、モードフィルタ220が備えるメイン導波路221とは光学的に接続されている。信号光及び検証光を含む入力光は、入力用導波路510からモードフィルタ220のメイン導波路に入力される。メイン導波路221を伝播する入力光は、
グレーティング210に送られる。入力光のうち、グレーティング210のBragg波長よりも長波長の基本モードの成分である信号光は、グレーティング210を透過する。一方、入力光のうち、Bragg波長よりも短波長の基本モードの成分である検証光は、グレーティング210で1次モード光に変換されて反射される。グレーティング210で反射された1次モードの検証光は、モードフィルタ220が備えるメイン導波路221を伝搬する間に基本モード光へと変換されて、モードフィルタ220が備えるサブ導波路222に移る。サブ導波路222は、SSC300に光学的に接続されている。
【0045】
SSC300は、光導波路コアの幅寸法が光の伝搬方向に沿って連続的に縮小するテーパ部310を有している。テーパ部310のプロービングフィルタ部200と接続される側の幅は、プロービングフィルタ部200とSSC300との間を光学的に接続する導波路(引き回し導波路)530の幅となっている。また、テーパ部310の、プロービングフィルタ部200とは反対側の幅(終端幅)は、Si導波路を伝搬する固有モードが存在出来ないほど小さい。すなわち、テーパ部310の終端幅は、モードカットオフ条件を満たしている。
【0046】
テーパ部310の終端側には、一定幅の延伸部320が接続されているのが良い。延伸部320の幅は、テーパ部310の終端幅と同じである。延伸部320は、光導波路素子5の端面(チップ端)まで延伸している。延伸部320を設けると、チップ個片化の際の切り出し位置の誤差を吸収できる。ここで、SSC300のチップ端における幅を放射端幅とも称する。放射端幅と終端幅とは同じ大きさである。
【0047】
SSC300は、プロービングフィルタ部200で選択的に取り出された検証光を放射端から光導波路素子5(チップ)外に放射する。このSSC300から放射された検証光(放射光とも称する。)は、検体に照射される。検体として、赤外光が照射されると照射された部分において可視光を発光する、赤外線蛍光検体(フォスファーカード)を用いることができる。ここでは、検体としてフォスファーカードを用いる例を説明する。
【0048】
SSC300の放射端幅が大きくなるほど、SSC300からの放射光の広がり角度(FFP角度:Far Field Pattern)が大きくなる。SSC300からの放射光のFFP角度が広いと、放射光を検出するフォスファーカードで受ける面は大きくなる。この場合、強度が分散してしまうため、単位面積あたりの発光強度が弱くなる。また、フォスファーカードには最小検出感度が存在する。このため、入力側の光ファイバと光軸調整用パターン100の入力用導波路510との光軸がほぼ完全に一致していないとフォスファーカードが感光せず、光軸調整が難しくなる。すなわち放射光のFFP角度が狭い方が、フォスファーカードを局所的に強く照射できるため好ましい。
【0049】
一方、SSC300の放射端幅を小さくしすぎると、SSC300を伝送する光のモードフィールド径(MFD)が広がりすぎるという問題が浮き上がる。光導波路素子5には、
図2に示すように光導波路コア130の下部には有限な距離だけ離れて支持基板110が存在する。このため、広がりすぎた光は支持基板110へ移行し、伝送損失の原因となる。
【0050】
このように、放射端幅が小さいと、FFP角度が狭くなるという利点がある一方、伝搬損失が大きくなるという欠点がある。逆に、放射端幅が大きいと、伝搬損失が小さくなるという利点がある一方で、FFP角度が広くなるという欠点がある。このため、伝搬損失が少なく、かつ、可能な限りFFP角度が小さくなるように放射端幅を設定することが好ましい。
【0051】
SSC300からの放射光の、フォスファーカードでの視認、及び、光軸調整を容易に
するために、SSC300からの放射光は、チップの端面(側面)に対して直交する方向に放射されるのが良い。すなわち、SSC300は、チップの側面に対して直交する方向に延在して形成されるのが良い。
【0052】
また、SSC300は、プロービングフィルタ部200の光の伝搬方向と直交する方向に延在して設けるのが良い。これは、プロービングフィルタ部200の光の伝搬方向に接続される、入力側の光ファイバや出力側の光ファイバが、フォスファーカードを配置する際の邪魔になるからである。また、SSC300をプロービングフィルタ部200の出力側に設けると、入力側の光ファイバと光軸調整用パターン100の入力用導波路510との光軸が合っていない段階では、ファイバからの漏れ光強度が強いため、それをフォスファーカードが受光し光軸調整の妨げとなるからである。
【0053】
図3を参照して、この光軸調整用パターンを利用した光軸調整の手順について説明する。
図3は、光軸調整用パターンが形成されたTEGチップでの光軸調整方法を説明するための模式図である。以下、
図1を適宜参照して説明する。
【0054】
先ず、第1過程において、TEGチップ10の上方に設置されたCCDカメラ50でTEGチップ10を上面側から見ながら、TEGチップ10に対して、入力側の光ファイバ60をX−Z平面内で位置合わせを行う。ここで、X−Z平面は、TEGチップ10の上面に平行な面を指す。また、Y方向は、X−Z平面に直交する方向、すなわち、TEGチップ10の上面に直交する方向を指す。
【0055】
次に、第2過程において、SSC300の放射端に対面する位置にフォスファーカード400を設置する。
【0056】
次に、第3過程において、光源で生成された送信信号光がTEGチップ10の光軸調整用パターン100に入力される。送信信号光のうち、プロービングフィルタ部200のBragg波長である検証光が、プロービングフィルタ部200で取り出され、SSC300に送られる。SSC300に送られた検証光は、放射端から放射されて放射光としてフォスファーカード400に照射される。この結果、フォスファーカード400が発光するため、この発光(
図3中、Aで示す。)を目安に入力側の光ファイバ60のY方向の位置、すなわち高さを調整することが可能となる。このようにして、TEGチップ10に対して入力側の光ファイバ60の光軸調整(調芯)が可能となる。
【0057】
その後、第4過程において、TEGチップ10の上面側から、TEGチップ10の上面を見ながら、TEGチップ10と、出力側の光ファイバ62との、TEGチップ10の上面に平行な面内における位置合わせを行う。この第4過程は、第1過程と同様に行われる。
【0058】
次に、第5過程において、出力側の光ファイバ62に光強度測定器を接続し、光強度測定器での受信光強度が最大となるように、TEGチップ10と出力側の光ファイバ62との、TEGチップ10の上面に直交する方向における位置合わせを行う。光強度測定器として、例えば、スペクトルアナライザ又はパワーメータを用いることができる。
【0059】
このようにして、TEGチップ10と出力側の光ファイバ62の光軸調整が、X、Y、Zの各方向について行われる。
【0060】
上述の光軸調整手法では、Si導波路からの散乱光を頼りにする従来の赤外線カメラを用いた方法と比べて、一度Si導波路を通過してチップ端面から放射される光を直接観測している点で調芯の精度が高いといえる。また、従来必要であった、高額でかつ比較的大
きく設置場所を選ぶ赤外線カメラが不要となる。このため従来の光軸調整方法に比べて簡易にTEGチップの評価が可能となる。
【0061】
次に、
図4及び
図5を参照して、集積チップの評価を行う例を説明する。
図4は、光軸調整用パターンが形成された集積チップの構成例を説明するための模式図である。
図5は、光軸調整用パターンが形成された集積チップでの光軸調整方法を説明するための模式図である。
【0062】
ここでは、集積チップ11として、波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)システムに用いられる、WDM用チップの例を説明する。
【0063】
WDM用チップである集積チップ11には、入力インタフェースとしての入出力用SSC600、WDMフィルタ610、LD620及びPD630が集積されている。
【0064】
入出力用SSC600は、伝送用の光ファイバとの入出力に用いられる。WDMフィルタ610は、波長により経路を切り分ける。LD620で生成された送信光信号は、WDMフィルタ610及び入出力用SSC600を経て送信される。一方、入出力SSC600に入力された受信光信号は、WDMフィルタ610を経てPD630に送られ受信される。
【0065】
光軸調整用パターン100は、入出力用SSC600とWDMフィルタ610の間に配置される。光軸調整は、上述したTEGチップと同様に第1過程から第3過程により行われる。このとき、光軸調整用パターン100のプロービングフィルタ部200が備えるグレーティング210については、WDM通信で用いられる最短波長の光信号よりも短波長にBragg波長が設定される。
【0066】
その後、PD630にプローブ針を落とし、PD630で光電変換された電流値を電流/電圧計670でモニタするなどして、光導波路デバイスの光学特性を評価する。
【0067】
従来の集積チップの評価では、まず光源と接続された入力側の光ファイバを、集積チップの上方に設置されたCCDカメラを見ながら集積チップに対してX−Z方向に可視的に調整し、高さ(Y)方向の位置合わせはPDにプローブ針を落とし、PDで光電変換された電流値を電流/電圧計でモニタしながらY方向調芯をする。この従来の評価では常に電流/電圧計に表示される光電変換値を目で追っている必要がある。このため、光ファイバと集積チップとのY方向の位置が合っていることが直感的(視覚的)には分かりにくい。
【0068】
これに対して、この発明の光軸調整用パターン100を備える集積チップ11では、ファイバのY方向の調芯時に、TEGチップ10と同様に赤外線検体(フォスファーカード)400の発光の様子を見ながらY方向の位置合わせが可能となる。このため、直感的(視覚的)に集積チップ11と入力側の光ファイバ60の光軸が一致したことが確認できる。この結果、集積チップ11の評価に関わるファイバの調芯スループットを向上させることが可能となる。
【0069】
以上説明したように、この発明の光軸調整用パターンを備える光導波路素子及び光軸調整方法によれば、TEGチップの光学特性評価時、又は、光モジュール組み立てにおける集積チップとファイバとの光軸調整において、従来の調芯システムで必要であった赤外線カメラを用いることなく、入手が容易なフォスファーカードにより直感的に光ファイバと集積チップとの光軸が一致したことを確認することができる。この結果、光モジュール組み立てに関わる実装工程を簡略化することが出来る。
【0070】
ここでは、TEGチップとして、信号光が光導波路デバイスを経て出力される例を説明し、集積チップとして、信号光がPDで終端される例を説明したがこれに限定されない。TEGチップとして、PDの特性評価を行う場合もある。この場合は、
図4及び5を参照して説明した光軸調整方法を行えばよい。また、集積チップとして、信号光が光導波路デバイスを経て出力される場合もある。この場合は、
図3を参照して説明した光軸調整方法を行えばよい。
【0071】
(実施例)
この発明に係る、光軸調整用パターンを備える光導波路素子の一例として、FTTH(Fiber To The Home)などに代表されるTWDM(Tmie Wavelength Division Multiplexing)−PON(Passive Optical Network)システムに用いる場合の構成例を説明する。ここで、TWDM−PONシステムは、加入者アクセスネットワークとしてITU−Tにより標準化が進められている。
【0072】
TWDM−PONでは、加入者端末(ONU:Optical NetworkUnit)から通信基地局(OLT:Optical Line Terminal)への上り信号として、1524〜1544nmの波長帯域が割り当てられている。また、OLTからONUへの下り信号として、1596〜1604nmの波長帯域が割り当てられている。さらに、上り信号及び下り信号のそれぞれに、50〜200GHzの周波数間隔で4チャネル分の波長信号が重畳される(例えば、非特許文献3参照)。
【0073】
ここで、TWDM−PONにおける最短波長は1524nmであるため、プロービングフィルタ部200が備えるグレーティング210のBragg波長を、1524nmよりも短波長に設定すればよい。
【0074】
ここで示す例では、グレーティング210のBragg波長をTE(Transverse Electric)偏波の1500−1520nmとして設計した。
図6は、FDTD(Finite Differntial Time Domain)シミュレーションにより得られた、グレーティング210の透過スペクトル及び反射スペクトルを示す図である。
図6は、横軸に波長[単位:μm]をとって示し、縦軸にグレーティング210の透過光及び反射光の出力強度[単位:dB]をとって示している。
【0075】
ここで、入力光はTE偏波及びTM(Transverse Magnetic)偏波の基本モード光としている。
図6中、TE偏波の1次モードの反射光を実線Iで示し、TE偏波の基本モードの透過光を破線IIで示している。
【0076】
ここで光軸調整用パターン100の厚さを0.2μmとした。また、プロービングフィルタ部200のグレーティング210については、グレーティング周期を0.37μmとし、0.52μm幅の直線状の光導波路コアに対し、左右への光導波路コアの突出量を0.1μmとした。なお、左右への突出は、反対称となるように、グレーティング周期の1/2だけずらして設けている。
【0077】
また、モードフィルタ220については、メイン導波路221のグレーティング210側の端部の幅を0.58μm、反対側の端部の幅を0.46μmとし、サブ導波路の222のSSC300側の端部の幅を0.3μm、反対側の端部の幅を0.1μmとした。また、メイン導波路221及びサブ導波路222の長さを80μmとし、平均間隔を0.3μmとした。
【0078】
図6に示されるように、設計波長1.5−1.52μmにおいてTE偏波の基本モードが1次モードに変化して反射され、かつ、1.52μm以上の長波長光は全て透過することが確認できる。なお、TE偏波の1次モード反射光の強度がピークで0dBにならないのは、FDTDシミュレーション時の計算機の容量制限のため、計算上のグレーティングの長さを十分に確保できなかったことにある。FDTDシミュレーションでは、グレーティングの長さを200μm程度として計算しているが、実際にはグレーティング210の長さを大きくとることでピーク強度の損失を減らし、反射光の強度をピークで0dB又はこれにより近い値にできると考えられる。TE偏波の1次モード反射光はグレーティングに接続されたモードフィルタ220によりサブ導波路222の基本モード光へと遷移し検証光として放射用SSC300へと送り出される。
【0079】
また、図示は省略しているが、直交するTM偏波に対しても基本モード光は全透過特性を示している。
【0080】
次に、SSC300の実施例について解説する。
図7は、BPM(Beam Propagation Method)シミュレーションに基づいて、放射端幅Wtipと放射光(FFP)角度との関係を計算した結果を示す図である。
図7では、横軸に放射端幅Wtip[単位:nm]をとって示し、縦軸に、FFP角度[単位:degree]をとって示している。なお、Si導波路コアの厚みは一般的なSOI(Si on Insulator)基板と同等な厚みとして220nmとしている。縦軸のFFP角度としては、放射光の電解分布のピーク強度の1/e全幅値で定義している。
図8中の実線IはX方向(幅方向)、破線IIはY方向(厚み方向)のFFP角度をそれぞれ示している。
【0081】
また、
図8は、BPM(Beam Propagation Method)シミュレーションに基づいて、導波路長さ1cmあたりの伝搬損失を示す図である。
図8では、横軸に放射端幅Wtip[単位:nm]をとって示し、縦軸に、伝搬損失[単位:dB/cm]をとって示している。
【0082】
ここでは、Si導波路コア下部にクラッドを挟んで3μmの位置に支持基板(Si)が存在するものとしている。
【0083】
図8に示されるように、放射端幅Wtipが大きくなるほどFFP角度が大きくなる傾向がみられる。FFP角度が広いとフォスファーカードで受ける面は大きくなるが、強度が分散するため、単位面積あたりの発光強度が弱くなってしまう。フォスファーカードには最小検出感度が存在するため、光源側ファイバとSi導波路との光軸がほぼ完全に一致していないとフォスファーカードが感光しない。従って、FFP角度が大きいと調芯が難しくなってしまう。すなわち放射角度は小さいほうが検体エリアを局所的に強く照射できるため好ましい。
【0084】
一方、
図8に示されるように放射端幅Wtipが小さくなると伝搬損失が大きくなるという問題が浮き上がる。これは、放射端幅Wtipが小さくなると、MFDが大きくなり、広がりすぎた光は支持基板へ移行するためである。
【0085】
従って、Si導波路コアと支持基板との距離を考慮し、伝搬損失が少なくかつ、可能な限りFFP角度が小さくなるように放射端幅Wtipを設定することが好ましい。
図7及び
図8に示される例によれば、SSCの放射端幅Wtipの最適値として160-180nm付近に設定することができる。