(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
全体固形分100重量%を基準に、ムライト5〜70重量%、および残部を酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムを含むことを特徴とする方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤組成物。
前記方向性電磁鋼板基材は、シリコン(Si):2.8〜4.5重量%、アルミニウム(Al):0.020〜0.040重量%、マンガン(Mn):0.01〜0.20重量%およびアンチモン(Sb)、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)またはこれらの組み合わせを0.01〜0.15重量%含み、残部はFeおよびその他不可避不純物からなることを特徴とする請求項7乃至請求項15のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
前記2次再結晶焼鈍する段階以後に、ムライトおよびフォルステライトを含む被膜上にセラミック層を形成する段階をさらに含むことを特徴とする請求項17に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1、第2および第3等の用語は、多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用しているが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で叙述する第1の部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2の部分、成分、領域、層またはセクションとして説明している。
【0019】
ここで使用される専門用語は、単に特定の実施例を説明するためのものであって、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数表現は、文言がこれと明確に反対の意味を示さない限り複数のものをも含んでいる。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、定数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、定数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外するものではない。
【0020】
ある部分が他の部分「上に」または「の上に」あると言及する場合、これは他の部分のすぐ上にまたは上方にあるか、その間に他の部分が伴うことができる。対照的に、ある部分が他の部分の「すぐ上に」あると言及する場合、その間に他の部分が介在しない。
また、本発明において1ppmは0.0001%を意味する。
本発明の一実施例において追加成分をさらに含むことの意味は、追加成分の追加量分だけ残部に代替して含むことを意味する。
別に定義していないが、ここに使用される技術用語および科学用語を含む全ての用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同一の意味を有する。普通使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示されている内容に合う意味を持つものと追加解釈され、定義されていない限り理想的や公式的過ぎる意味に解釈されない。
【0021】
以下、本発明の実施例について本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳しく説明する。しかし、本発明は様々に相異する形態で具現され得、ここで説明する実施例に限定されない。
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤組成物は、固形分を基準に、ムライト5〜70重量%、および残部を酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムを含む。ここで固形分基準とは、溶媒などの成分を除いた固形分を100重量%に設定したことを意味する。
【0022】
以下では本発明の一実施例による焼鈍分離剤組成物を各成分別に具体的に説明する。
本発明の一実施例による焼鈍分離剤組成物は、方向性電磁鋼板基材10に塗布され、ムライトおよびフォルステライトを含む被膜20を形成する。ムライトは、シリカとアルミナとの間に安定して存在する唯一の化合物であり、3Al
2O
3・2SiO
2の組成からなる。ムライトは、熱膨張率が小さいため(5×10
−6/℃)被膜張力付与による鉄損改善が容易である。また、ムライトは、弾性率が比較的低いため、耐熱衝撃抵抗に優れる。
【0023】
従来の1次被膜であるフォルステライト(Mg
2SiO
4)被膜は、高温焼鈍時にコイルに存在する内部酸化層(SiO
2)と焼鈍分離剤内の酸化マグネシウム(MgO)の化学反応によって形成される。従来のフォルステライト被膜は、高温焼鈍工程のうちコイル間の接触による板接着防止機能は優れるが、被膜張力付与能と絶縁特性が劣位して限界が存在する。
【0024】
本発明の一実施例では酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムに加え、ムライトを添加することによって、被膜張力付与能と絶縁特性を画期的に改善することができる。ただし、ムライトのみを焼鈍分離剤として単独で用いる場合、2次再結晶焼鈍過程で膨張係数差が大きく、被膜が剥離される問題がある。また、ムライト成分は、焼鈍分離剤として使用時に比重が高いため溶媒に分散されず、沈む問題があり、電磁鋼板の表面に均一に塗布しにくい。本発明の一実施例ではムライトを単独で用いず、酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムと混合して用いる。
【0025】
カオリナイト(Al
4Si
4O
10(OH)
8)を焼鈍分離剤として含む場合、2次再結晶焼鈍工程で制御が困難であるため、均一な品質形成が困難であり、カオリナイトの分解によって下部に形成されるシリカ被膜により密着性が劣る問題がある。
【0026】
本発明の一実施例において、焼鈍分離剤組成物はムライトを、固形分を基準に5〜70重量%含む。ムライトが少なく含まれるとき、被膜張力付与能と絶縁特性の改善が充分でない場合もある。ムライトが過度に多く含まれるとき、焼鈍分離剤の均一な塗布に問題が発生し得る。したがって、前述した範囲でムライトを含み得る。
【0027】
水酸化金属は、ムライトの表面との化学反応により表面性質を疏水性から親水性に変化させる役割をする。したがって、ムライトの分散性を画期的に向上させ、均一なフォルステライト被膜の形成を助ける。また、水酸化金属は、融点を低下させて2次再結晶焼鈍工程で被膜形成温度が低くなり、良好な品質の表面特性を確保することができる。また、低い温度領域で生成されたフォルステライト被膜は、2次再結晶の形成に決定的な影響を及ぼすAlN系インヒビタの分解を抑制する効果があるため優れた磁性品質を確保することができる。
【0028】
本発明の一実施例において、焼鈍分離剤組成物は水酸化金属を0.1〜20重量%さらに含み得る。水酸化金属の含有量が少なすぎる場合、前述した効果を充分発揮させるに問題が生じ得る。水酸化金属が過度に多く含まれる場合、金属成分が内部に拡散されて膜を形成するので、フォルステライト形成挙動が不均一になる問題が生じ得る。
この時、水酸化金属は、前述した水酸化マグネシウムを除いた水酸化金属を意味する。具体的に水酸化金属は、Ni(OH)
2、Co(OH)
2、Cu(OH)
2、Sr(OH)
2、Ba(OH)
2、Pd(OH)
2、In(OH)
3、Bi(OH)
3およびSn(OH)
2の中から選ばれる1種以上を含み得る。
【0029】
酸化マグネシウム(MgO)または水酸化マグネシウム(Mg(OH)
2)は被膜にMgを供給する役割をする。本発明の一実施例において、焼鈍分離剤組成物は、方向性電磁鋼板基材の表面に容易に塗布するためにスラリー形態で存在し得る。スラリーの溶媒として水を含む場合、酸化マグネシウムは水に容易に溶解され、水酸化マグネシウム形態で存在することもできる。したがって、本発明の一実施例では酸化マグネシウムと水酸化マグネシウムを一つの成分として取り扱う。
【0030】
本発明の一実施例による焼鈍分離剤組成物は、セラミック粉末を0.5〜10重量%さらに含み得る。セラミック粉末は、MnO、Al
2O
3、SiO
2、TiO
2およびZrO
2の中から選ばれる1種以上を含み得る。セラミック粉末を適正量さらに含む場合、形成される被膜20の絶縁特性がさらに向上することができる。
【0031】
本発明の一実施例による焼鈍分離剤組成物は、Sb
2(SO
4)
3、SrSO
4、BaSO
4またはこれらの組み合わせを1〜10重量%さらに含み得る。Sb
2(SO
4)
3、SrSO
4、BaSO
4またはこれらの組み合わせを適正量さらに含むことによって、表面光沢に優れ、粗さが非常に綺麗な方向性電磁鋼板を製造することができる。
【0032】
焼鈍分離剤組成物は、固形物の均等な分散および容易な塗布のために溶媒をさらに含み得る。溶媒としては水、アルコールなどを用いることができ、固形分100重量部に対して300〜1000重量部含み得る。このように焼鈍分離剤組成物はスラリー形態であり得る。
【0033】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板100は、方向性電磁鋼板基材10の一面または両面にムライトおよびフォルステライトを含む被膜20が形成される。
図1は本発明の一実施例による方向性電磁鋼板の概略的な側断面図を示す。
図1では方向性電磁鋼板基材10の上面に被膜20が形成された場合を示す。
【0034】
ムライトおよびフォルステライトを含む被膜20は、従来のフォルステライト被膜に対して被膜張力付与能と絶縁特性に優れ、融点が低下して2次再結晶焼鈍工程で被膜20の形成温度が低くなり良好な品質の表面特性を確保することができる。また、低い温度領域で生成された被膜20は2次再結晶の形成に決定的な影響を及ぼすAlN系インヒビタの分解を抑制する効果があるため、優れた磁性品質を確保することができる。これについては前述したので、重複する説明は省略する。
【0035】
被膜20は、ムライトおよびフォルステライトの他にAl−Mg−Si複合物をさらに含み得る。被膜20は、Alを0.5〜50重量%含み得る。被膜20内のAl含有量が過度に少ないと方向性電磁鋼板の鉄損が大きくなる。被膜20内のAl含有量が過度に多いと耐食性が劣ってくる。したがって、前述した範囲でAlを含むことが好ましい。Alは、前述した焼鈍分離剤組成物および方向性電磁鋼板基材10から由来する。
【0036】
被膜20は、Mgを3〜80重量%、Siを3〜80重量%、Oを3〜80重量%およびFeを残部としてさらに含み得る。Mg、Si、Fe元素組成は基材内の成分および焼鈍分離剤の成分から由来する。Oの場合、焼鈍分離剤の成分から由来するか、熱処理過程で浸透し得る。その他の炭素(C)等の不純物成分をさらに含み得る。
【0037】
被膜20は、厚さが0.1〜10μmであることができる。被膜20の厚さが過度に薄いと、被膜張力付与能が低下して鉄損が劣る問題が生じ得る。被膜20の厚さが過度に厚いと、占積率が低下して変圧器特性が劣る問題が生じ得る。したがって、フォルステライト被膜20の厚さを前述した範囲に調整し得る。より具体的にはフォルステライト被膜20の厚さは0.8〜6μmである。
【0038】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板100は、被膜20上にセラミック層30がさらに形成されることができる。
図1ではフォルステライト被膜20上にセラミック層30がさらに形成された一例を示す。
【0039】
セラミック層30の厚さは0.5〜5μmとする。セラミック層30の厚さが過度に薄いと、セラミック層30の絶縁効果が少なく現れる問題が生じることがある。セラミック層30の厚さが過度に厚いと、セラミック層30の密着性が低くなり、剥離が起こることがある。したがって、セラミック層30の厚さを前述した範囲に調整する。より具体的にはセラミック層30の厚さは0.8〜3.2μmである。
【0040】
セラミック層30はセラミック粉末を含み得る。セラミック粉末は、代表的にAl
2O
3、SiO
2、TiO
2、ZrO
2、Al
2O
3・TiO
2、Y
2O
3、9Al
2O
3・2B
2O
3、BN、CrN、BaTiO
3、SiCおよびTiCの中から選ばれる1種以上である。セラミック粉末の粒径は、2〜900nmであり得る。セラミック粉末の粒径が過度に小さいと、セラミック層の形成が困難になることがある。セラミック粉末の粒径が過度に大きいと、表面粗さが粗くなり表面欠陥が発生することがある。したがって、セラミック粉末の粒径を前述した範囲に調整する。
セラミック粉末は、球状、板状、および針状を含む群より選ばれるいずれか一つ以上の形態であり得る。
【0041】
セラミック層30は、金属リン酸塩をさらに含み得る。金属リン酸塩は、Mg、Ca、Ba、Sr、ZN、AlおよびMnの中から選ばれる1種以上を含み得る。金属リン酸塩をさらに含む場合、セラミック層30の絶縁性がさらに向上する。
【0042】
金属リン酸塩は、金属水酸化物およびリン酸(H
3PO
4)の化学的な反応による化合物からなるものであり得る。金属リン酸塩は、金属水酸化物およびリン酸(H
3PO
4)の化学的な反応による化合物からなるものであり、金属水酸化物は、Ca(OH)
2、Al(OH)
3、Mg(OH)
2、B(OH)
3、Co(OH)
2およびCr(OH)
3を含む群より選ばれた少なくとも1種以上であり得る。具体的には、前記金属水酸化物の金属原子は、リン酸のリンと置換反応して単一結合、二重結合、または三重結合を形成してなるものであり、未反応リン酸(H
3PO
4)の量が25重量%以下の化合物からなるものであり得る。
【0043】
金属リン酸塩は、金属水酸化物およびリン酸(H
3PO
4)の化学的な反応による化合物からなるものであり、リン酸に対する金属水酸化物の重量比は1:100〜40:100で表されるものであり得る。金属水酸化物が過度に多く含まれる場合には化学的な反応が完結されず、沈殿物が生じる問題が発生することがあり、金属水酸化物が過度に少なく含まれる場合には耐食性が劣る問題が生じることがあり、上記の範囲にするのがよい。
【0044】
本発明の一実施例において、方向性電磁鋼板基材10の成分とは関係なく焼鈍分離剤組成物および被膜20の効果が現れる。さらに方向性電磁鋼板基材10の成分について説明する。
【0045】
方向性電磁鋼板基材10は、シリコン(Si):2.8〜4.5重量%、アルミニウム(Al):0.020〜0.040重量%、マンガン(Mn):0.01〜0.20重量%およびアンチモン(Sb)、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)またはこれらの組み合わせを0.01〜0.15重量%含み、残部はFeおよびその他不可避不純物からなる。以下では方向性電磁鋼板基材10成分の限定理由について説明する。
【0046】
Si:2.8〜4.5重量%
シリコン(Si)は、鋼の比抵抗を増加させて鉄損を減少させる役割をするが、Siの含有量が過度に少ない場合には鋼の比抵抗が小さくなり、鉄損特性が損なわれ、高温焼鈍時の相変態区間が存在して2次再結晶が不安定になる問題が生じ得る。Siの含有量が過度に多い場合には脆性が大きくなり、冷間圧延が難しくなる問題が生じ得る。したがって、前述した範囲でSiの含有量を調整し得る。より具体的には、Siは3.0〜4.0重量%である。
【0047】
Al:0.020〜0.040重量%
アルミニウム(Al)は、最終的にAlN、(Al,Si)N、(Al,Si,Mn)N形態の窒化物になり抑制剤として作用する成分である。Alの含有量が過度に少ない場合には抑制剤として十分な効果を期待し難い。また、Alの含有量が過度に多い場合にはAl系の窒化物が過度に粗大に析出、成長するので、抑制剤としての効果が充分に発揮されない。したがって、前述した範囲でAlの含有量を調整する。
【0048】
Mn:0.01〜0.20重量%
マンガン(Mn)は、Siと同一に比抵抗を増加させて鉄損を減少させる効果があり、Siと共に窒化処理によって導入される窒素と反応して(Al,Si,Mn)Nの析出物を形成することで、1次再結晶粒の成長を抑制して2次再結晶を起こすのに重要な元素である。しかし、Mnの含有量が過度に多い場合、熱延途中にオーステナイト相変態を促すので、1次再結晶粒の大きさを減少させて2次再結晶を不安定にする。また、Mnの含有量が過度に少ない場合、オーステナイト形成元素として熱延再加熱時にオーステナイトの分率を高めて析出物の固溶量を多くして再析出時の析出物微細化とMnS形成による1次再結晶粒が粗大すぎないようにする効果が不充分である。したがって、前述した範囲でMnの含有量を調整し得る。
【0049】
Sb、SN、Niまたはこれらの組み合わせ:0.01〜0.15重量%
アンチモン(Sb)、錫(Sn)、ニッケル(Ni)は、結晶粒界偏析元素として結晶粒界の移動を妨害する元素であるため、結晶粒成長抑制剤として{110}<001>方位のゴス結晶粒の生成を促進して2次再結晶がよく発達するようにするので、結晶粒の大きさの制御に重要な元素である。仮に、Sb、SnまたはNiを単独または複合添加した含有量が過度に少ない場合、その効果が劣る問題が生じることがある。Sb、SnまたはNiを単独または複合添加した含有量が過度に多い場合、結晶粒界偏析が過度に起きて鋼板の脆性が大きくなり、圧延時の板破断が発生することがある。より具体的には、Sbを0.01〜0.05重量%、Snを0.01〜0.12重量%、Niを0.01〜0.06重量%含み得る。
【0050】
C:0.01重量%以下
Cは、本発明による実施例における方向性電磁鋼板の磁気的特性の向上に大きく役に立たない成分であるため、できるだけ除去することが好ましい。しかし、一定の水準以上含まれている場合、圧延過程では鋼のオーステナイト変態を促進して熱間圧延時の熱間圧延組織を微細化させて均一な微細組織の形成を助ける効果があるので、スラブでのC含有量は0.03重量%以上で含まれることが好ましい。しかし、C含有量が多すぎると粗大な炭化物が生成され、脱炭時の除去が困難になるので、0.08重量%以下であることが好ましい。方向性電磁鋼板の製造過程で脱炭焼鈍過程により炭素が脱炭され、最終的に製造される方向性電磁鋼板内にはCが0.01重量%以下で含まれることになる。
【0051】
N:0.005〜0.05重量%
Nは、Alなどと反応して結晶粒を微細化させる元素である。これらの元素が適切に分布する場合には上述した通り、冷間圧延以後に組織を適切に微細にして適切な1次再結晶粒度の確保を助ける。しかし、その含有量が過度である場合、1次再結晶粒が過度に微細化し、その結果微細な結晶粒によって2次再結晶時に結晶粒成長を招く駆動力が大きくなり好ましくない方位の結晶粒まで成長し得る。また、N含有量が多すぎると最終焼鈍過程で除去にも多くの時間が必要とされるので好ましくない。したがって、スラブ内の前記窒素含有量の上限は0.005重量%とし、スラブ再加熱時に固溶される窒素の含有量が0.001重量%以上でならなければならないので、スラブ内の窒素含有量の下限は0.001重量%とすることが好ましい。方向性電磁鋼板の製造過程で浸窒焼鈍過程により窒素が一部浸透し、最終的に製造される方向性電磁鋼板内にはNが0.005〜0.05重量%で含まれることになる。
【0052】
図2は本発明の一実施例による方向性電磁鋼板の製造方法のフロチャートを概略的に示す。
図2の方向性電磁鋼板の製造方法のフロチャートは、単に本発明を例示するものであり、本発明はこれに限定されるものではない。したがって、方向性電磁鋼板の製造方法を多様に変形することができる。
【0053】
図2に示すように、方向性電磁鋼板の製造方法は、鋼スラブを準備する段階(S10);鋼スラブを加熱する段階(S20);加熱した鋼スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階(S30);熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階(S40);冷延板を1次再結晶焼鈍する段階(S50);1次再結晶焼鈍した鋼板の表面上に焼鈍分離剤を塗布する段階(S60);および焼鈍分離剤が塗布された鋼板を2次再結晶焼鈍する段階(S70)を含む。そのほかに、方向性電磁鋼板の製造方法は、他の段階をさらに含み得る。
【0054】
先ず、段階(S10)では鋼スラブを準備する。鋼スラブの成分については上で方向性電磁鋼板の成分について具体的に説明したので、重複する説明は省略する。次に、段階(S20)では鋼スラブを加熱する。この時、スラブ加熱は1,200℃以下で低温スラブ法で加熱し得る。
【0055】
次に、段階(S30)では加熱した鋼スラブを熱間圧延して熱延板を製造する。段階(S30)以後、製造された熱延板を熱延焼鈍し得る。次に、段階(S40)では熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する。段階(S40)は、冷間圧延を1回実施するか、中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延を実施し得る。
【0056】
次に、段階(S50)では冷延板を1次再結晶焼鈍する。この時、冷延板を1次再結晶焼鈍する段階は、冷延板を同時に脱炭焼鈍および窒化焼鈍する段階を含むか、脱炭焼鈍以後に窒化焼鈍する段階を含み得る。
【0057】
次に、段階(S60)では1次再結晶焼鈍した鋼板の表面上に焼鈍分離剤を塗布する。焼鈍分離剤については具体的に前述したので、重複する説明は省略する。
【0058】
焼鈍分離剤の塗布量は1〜20g/m
2であり得る。焼鈍分離剤の塗布量が過度に少ないと、被膜形成が円滑に行われない。焼鈍分離剤の塗布量が過度に多いと、2次再結晶に影響を与える。したがって、焼鈍分離剤の塗布量を前述した範囲に調整し得る。
【0059】
次に、段階(S70)では焼鈍分離剤が塗布された鋼板を2次再結晶焼鈍する。2次再結晶焼鈍する過程でムライトおよびフォルステライトを含む被膜20を形成する。2次再結晶焼鈍時の1次亀裂温度は650〜750℃、2次亀裂温度は1100〜1250℃であり得る。昇温区間の温度区間では15℃/hr条件で制御し得る。また、気体雰囲気は、1次亀裂段階までは220〜30体積%の窒素および70〜80体積%の水素を含む雰囲気で行い、2次亀裂段階には100%水素雰囲気で15時間の間維持した後に炉冷(furnace cooling)し得る。前述した条件により被膜20が円滑に形成され得る。
【0060】
段階(S70)以後にセラミック層30を形成する段階をさらに含み得る。セラミック層30についても具体的に前述したので、重複する説明は省略する。セラミック層30を形成する方法として被膜20上にセラミック粉末を噴射してセラミック層を形成し得る。具体的にはプラズマスプレーコーティング(Plasma spray)、HVOFコーティング(High velocity oxy fuel)、エアロゾルデポジション(Aerosol deposition)、コールドスプレーコーティング(Cold spray)の方法を適用し得る。より具体的には、Ar、H
2、N
2、またはHeを含むガスを20〜300kWの出力でプラズマ化した熱源にセラミック粉末を供給してセラミック層を形成するプラズマスプレー塗装方法を用い得る。また、プラズマスプレーコーティング方法として、Ar、H
2、N
2、またはHeを含むガスを20〜300kWの出力でプラズマ化した熱源にセラミック粉末および溶媒の混合物サスペンション形態で供給してセラミック層30を形成し得る。この時、溶媒は水またはアルコールであり得る。
【0061】
また、セラミック層30を形成する方法として、セラミック粉末および金属リン酸塩を含むセラミック層形成組成物を塗布してセラミック層を形成する方法を用い得る。セラミック層30の形成後、必要に応じて磁区微細化を行い得る。
【実施例】
【0062】
以下では実施例により本発明をさらに詳細に説明する。しかし、このような実施例は本発明を単に例示するものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0063】
実験例1:焼鈍分離剤の成分およびセラミック層の種類別特性
実施例1
シリコン(Si)を3.4重量%、アルミニウム(Al):0.03重量%、マンガン(Mn):0.05重量%アンチモン(Sb)を0.04重量%、錫(Sn)を0.09重量%、およびニッケル(Ni)を0.02重量%、炭素(C)を0.06重量%、窒素(N)を40重量ppm含み、残部はFeおよびその他不可避不純物からなるスラブを準備した。スラブを1150℃で220分間加熱した後2.3mmの厚さに熱間圧延して熱延板を製造した。
【0064】
熱延板を1120℃まで加熱した後920℃で95秒間維持した後、水に急冷して酸洗した後、0.23mmの厚さに冷間圧延して冷延板を製造した。冷延板を850℃に維持した炉(Furnace)の中に投入した後、74体積%の水素と25体積%の窒素および1体積%の乾燥したアンモニアガス混合雰囲気に180秒間維持し、脱炭浸窒および1次再結晶焼鈍を同時に行って、1次再結晶焼鈍した鋼板を製造した。
【0065】
焼鈍分離剤組成物としてムライト30重量%、水酸化コバルト(Co(OH)
2)3重量%、酸化チタン5重量%、Sb
2(SO
4)
35重量%および残部を酸化マグネシウム(MgO)を蒸溜水と混合してスラリー形態に製造し、ロールを用いてスラリーを1次再結晶焼鈍した鋼板に塗布した後、2次再結晶焼鈍した。
【0066】
2次再結晶焼鈍時の1次亀裂温度は、700℃、2次亀裂温度は1200℃とし、昇温区間の温度区間では15℃/hrとした。また、1200℃までは窒素50体積%および水素50体積%の混合気体雰囲気とし、1200℃に到達した後には100体積%の水素気体雰囲気で20時間維持した後、炉冷(furnace cooling)した。
【0067】
その後、アルゴン(Ar)ガスを250kWの出力でプラズマ化した熱源にセラミック粉末としてTiO
2を供給し、最終焼鈍板の表面に0.9μm厚さのセラミック層を形成した。
【0068】
実施例2〜実施例8
実施例1と同様に実施するが、焼鈍分離剤内のムライトおよび金属水酸化物の成分を下記表1のように交替して被膜を形成した。フォルステライト被膜の表面に下記表1に整理したセラミック粉末を適用した。
【0069】
実施例9
実施例1と同様に実施するが、セラミック層は形成しなかった
【0070】
比較例1
実施例1と同様に実施するが、マグネシウム酸化物90重量%、酸化チタン5重量%およびSb
2(SO
4)
35重量%を含む焼鈍分離剤組成物を用いた。
【0071】
比較例2
実施例1と同様に実施するが、ムライト100重量%を含む焼鈍分離剤組成物を用いた。
【0072】
比較例3
実施例1と同様に実施するが、ムライト90重量%、酸化チタン5重量%およびSb
2(SO
4)
35重量%を含む焼鈍分離剤組成物を用いた。
【0073】
実施例および比較例で製造した方向性電磁鋼板を1.7T、50Hz条件で、磁気特性および騒音特性を評価し、その結果を下記表1に示した。電磁鋼板の磁気特性は、通常W
17/50とB
8を用いる。W
17/50は周波数50Hzの磁場を1.7Teslaまで交流で磁化させた時に現れる電力損失(W/kg)を意味する。ここで、Teslaは単位面積当たりの磁束(flux)を意味する磁束密度の単位である。B
8は電磁鋼板の周囲を巻いた巻線に800A/m大きさの電流量を流した時、電磁鋼板に流れる磁束密度値(Tesla)を示す。また、絶縁特性は、ASTM A717国際規格に従いFranklin測定機を用いてコーティング上部を測定した。また、密着性は、試験片を10〜100mmの円弧に接して180°曲げるときに被膜剥離がない最小円弧直径で示したものである。また、表面特徴は、均一な被膜を形成して色相の均一な程度を肉眼で評価した結果である。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示すように、比較例1〜比較例3より実施例1〜9の特性が優れることが確認できる。また、ムライトを単独で用いる場合の比較例2では被膜剥離が激しく発生して磁気的特性が劣ることが確認できる。
【0076】
図3は実施例9で製造した方向性電磁鋼板の被膜の走査電子顕微鏡(SEM)の写真を示す。欠陥がなく均一に被膜が形成されたことが確認できる。
図4は実施例9で製造した方向性電磁鋼板の被膜のX線回折分析(XRD)の結果を示す。Al、Mg、Siに対応するピークが形成されたことが確認できる。
【0077】
図5は比較例2で製造した方向性電磁鋼板の被膜の走査電子顕微鏡(SEM)の写真を示す。亀裂が多数形成されたことが確認でき、そのために表面剥離が激しくなったことが確認できる。
【0078】
実験例2:1000kVA変圧器の磁気特性、占積率および騒音特性の評価
実施例10
シリコン(Si)を3.3重量%、アルミニウム(Al):0.03重量%、アンチモン(Sb)を0.03重量%、スズ(Sn)を0.05重量%、およびニッケル(Ni)を0.02重量%、炭素(C)を0.05重量%、窒素(N)を30重量ppm含み、残部はFeおよびその他不可避不純物からなるスラブを準備した。
【0079】
スラブを1150℃で220分間加熱した後2.3mmの厚さに熱間圧延して熱延板を製造した。熱延板を1120℃まで加熱した後920℃で95秒間維持した後、水に急冷して酸洗した後、0.23mmの厚さに冷間圧延して冷延板を製造した。冷延板を850℃に維持した炉(Furnace)の中に投入した後、74体積%の水素と25体積%の窒素および1体積%の乾燥したアンモニアガス混合雰囲気に180秒間維持し、脱炭浸窒および1次再結晶焼鈍を同時に行って、1次再結晶焼鈍した鋼板を製造した。
【0080】
焼鈍分離剤組成物としてムライト18重量%、水酸化ニッケル3.8重量%、酸化チタン5重量%、Sb
2(SO
4)
35重量%および残部の酸化マグネシウム(MgO)を蒸溜水と混合してスラリー形態に製造し、ロールを用いてスラリーを1次再結晶焼鈍した鋼板に塗布した後、2次再結晶焼鈍した。2次再結晶焼鈍時の1次亀裂温度は700℃、2次亀裂温度は1200℃とし、昇温区間の温度区間では15℃/hrとした。また、1200℃までは窒素50体積%および水素50体積%の混合気体雰囲気とし、1200℃に到達した後には100体積%の水素気体雰囲気で20時間維持した後、炉冷(furnace cooling)した。
【0081】
その後、コロイダルシリカ45重量%、第1リン酸アルミニウム45重量%、酸化クロム5重量%、水酸化ニッケル5重量%で混合されたセラミック層形成組成物を攪拌し、最終焼鈍板の表面に4.5g/m
2になるように塗布した後、860℃に設定された乾燥炉で120秒間処理した後、レーザー磁区微細化処理を行い、1000kVA変圧器を製作して設計磁束密度に応じて60Hz条件で評価した結果を下記表2に示した。
【0082】
比較例4
実施例10と同様に実施するが、マグネシウム酸化物90重量%、酸化チタン5重量%およびSb
2(SO
4)
35重量%を含む焼鈍分離剤組成物を用いた。
占積率は、JIS C2550国際規格に従い測定機を用いて測定した。電磁鋼板試験片を複数積層した後に表面に1MPaの均一な圧力を加えた後、試験片の4面の高さの精密測定により電磁鋼板積層による実際の重量比を理論重量で割って測定した。
騒音評価方法は、国際規程IEC61672−1と同様に評価するが、音圧の代わりに電磁鋼板の震え(振動)データを得て騒音換算値[dBA]で評価する。電磁鋼板の震えは周波数60Hzの磁場を1.7Teslaまで交流で磁化させたとき、レーザドップラー方式を用いて非接触式で時間に応じて振動パターンを測定する。
【0083】
【表2】
【0084】
表2に示すように、比較例4より実施例10の特性がはるかに優れることが確認できる。
【0085】
本発明は実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で製造され得、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更せず、他の具体的な形態で実施できることを理解することができる。したがって、上記の実施例はすべての面で例示的なものであり、限定的なものではないと理解しなければならない。