特許第6861856号(P6861856)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6861856軸を軸受けするためのノイズ最適化および摩耗最適化された転がり軸受
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861856
(24)【登録日】2021年4月1日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】軸を軸受けするためのノイズ最適化および摩耗最適化された転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/62 20060101AFI20210412BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20210412BHJP
   F16C 35/12 20060101ALI20210412BHJP
   F16C 19/54 20060101ALI20210412BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20210412BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   F16C33/62
   F16C19/06
   F16C35/12
   F16C19/54
   C22C38/00 304
   C22C33/02 B
   C22C33/02 A
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-568739(P2019-568739)
(86)(22)【出願日】2018年4月16日
(65)【公表番号】特表2020-527677(P2020-527677A)
(43)【公表日】2020年9月10日
(86)【国際出願番号】DE2018100357
(87)【国際公開番号】WO2018233747
(87)【国際公開日】20181227
【審査請求日】2019年12月12日
(31)【優先権主張番号】102017113701.7
(32)【優先日】2017年6月21日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル パウシュ
(72)【発明者】
【氏名】スヴェン クラウス
(72)【発明者】
【氏名】トビアス ホック
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン ヒルビンガー
(72)【発明者】
【氏名】マークス ディンケル
(72)【発明者】
【氏名】マーティン フォル
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許第02825783(EP,B1)
【文献】 特開2011−196543(JP,A)
【文献】 特表2016−505123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
F16C 33/30−33/66
C22C 33/02
C22C 38/00
F16C 35/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸(7)を軸受けするための転がり軸受(1)であって、1つのレース材料から形成されているインナレース(2)とアウタレース(3)とを含み、前記インナレース(2)は外周面に、前記アウタレース(3)は内周面に、ボール(6)をガイドするためのそれぞれ1つの軌道(4,5)を有しており、前記ボール(6)は前記各軌道(4,5)に沿って転動し、前記レース材料は、0.5〜2重量%の炭素、最大0.035重量%の硫黄、3〜5重量%のクロム、1〜4重量%のバナジウム、1〜12重量%のタングステン、および2〜12重量%のモリブデンを含んでおり、前記各軌道(4,5)の表面の硬度は少なくとも62HRCであって、前記インナレース(2)における前記軌道(4)と前記ボール(6)との間の接触および/または前記アウタレース(3)における前記軌道(5)と前記ボール(6)との間の接触は、1.05〜1.13である、転がり軸受(1)において、
前記転がり軸受(1)は、220〜250MPaの弾性率を有する前記インナレース(2)および前記アウタレース(3)を形成することにより、ならびに0.005〜0.03の算術平均粗さRと、0.3〜−5のスキューネスRskと、3〜15のクルトシスRkuとを有する表面粗さを有する少なくとも前記インナレース(2)における前記軌道(4)および/または少なくとも前記アウタレース(3)における前記軌道(5)を形成することにより、減少した作動ノイズを有することを特徴とする、転がり軸受(1)。
【請求項2】
前記ボール(6)は、セラミック材料または前記レース材料から形成されている、請求項1記載の転がり軸受(1)。
【請求項3】
前記インナレース(2)と前記アウタレース(3)とは少なくとも部分的に粉末冶金により製造されている、請求項1または2記載の転がり軸受(1)。
【請求項4】
軸(7)と、請求項1からまでのいずれか1項記載の少なくとも1つの転がり軸受(1)を含む軸受装置であって、前記軸(7)は、工作機械のスピンドル軸として形成されている、軸受装置。
【請求項5】
軸(7)と、請求項1からまでのいずれか1項記載の少なくとも1つの転がり軸受(1)を含む軸受装置であって、前記軸(7)は、ターボ圧縮機またはコンプレッサのコンプレッサ軸として形成されている、軸受装置。
【請求項6】
軸(7)と、請求項1からまでのいずれか1項記載の少なくとも1つの転がり軸受(1)を含む軸受装置であって、前記軸(7)は、電気機械のロータ軸として形成されている、軸受装置。
【請求項7】
スピンドル軸を軸受けするための、またはコンプレッサ軸を軸受けするための、またはロータ軸を軸受けするための、請求項1からまでのいずれか1項記載の転がり軸受(1)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸を軸受けするための転がり軸受に関する。さらに本発明は、転がり軸受によって回転可能に支持された軸を含む軸受装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
欧州特許第2825783号明細書には、車両または航空機用の伝動装置の、少なくとも1つのローラ軸受を含むピニオン軸受装置が開示されている。ローラ軸受の少なくとも1つはボールベアリングであり、このボールベアリングは、インナレースとアウタレースとを有している。両レースは、レースの内側に位置するボールのための軌道を有している。少なくとも1つの軌道は、曲率半径を有しており、ボールは直径を有している。ボールの直径に対する軌道の曲率半径の比は0.53である。さらに、レースのうちの少なくとも1つは、粉末冶金法により製作されたボールベアリング鋼から形成されている。このためには、0.5〜2.0重量%のC、最大0.035重量%のS、3.0〜5.0重量%のCr、1.0〜4.0重量%のV、1.0〜12.0重量%のW、および2.0〜12.0重量%のMoを含有する粉末冶金の成分が使用される。軌道の表面は、65HRC〜70HRCの硬度を有し、少なくとも1つのボールベアリングのボールは、セラミック材料から製作されており、各軌道の表面の硬度は少なくとも62HRCであって、インナレース(2)における軌道(4)とボール(6)との間の接触および/またはアウタレース(3)における軌道(5)とボール(6)との間の接触は、少なくとも1.05である
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、ノイズ最適化および摩耗最適化された転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題は、請求項1の特徴を有する転がり軸受によって解決される。本発明の好適なまたは有利な実施形態は、以下の説明の従属請求項ならびに添付の図面から明らかになる。
【0005】
本発明による軸を軸受けするための転がり軸受は、1つのレース材料から形成されているインナレースとアウタレースとを含み、インナレースは外周面に、アウタレースは内周面に、それぞれボールをガイドするための軌道を有しており、ボールは各軌道に沿って転動し、レース材料は、0.5〜2重量%の炭素、最大0.035重量%の硫黄、3〜5重量%のクロム、1〜4重量%のバナジウム、1〜12重量%のタングステン、および2〜12重量%のモリブデンを含んでおり、各軌道の表面の硬度は少なくとも62HRCであって、インナレースおよびアウタレースは、220〜250MPaの弾性率を有していて、さらにインナレースにおける軌道もしくはインナレースにおける玉溝直径とボールとの間の接触(Schmiegung)および/またはアウタレースにおける軌道もしくはアウタレースにおける玉溝直径とボールとの間の接触は、少なくとも1.05であって、少なくともインナレースにおける軌道および/またはアウタレースにおける軌道は、0.005〜0.03の算術平均粗さRと、0.3〜−5のスキューネスRskと、3〜15のクルトシスRkuと、を有する表面粗さを有している。
適な実施例によると、レース材料は鋼合金M62である。
【0006】
算術平均粗さRとは、表面の粗さプロファイルの全てのプロファイル値の複数の値の算術的中間値であると理解されたい。さらに、スキューネスRskとは、表面粗さの振幅密度曲線の非対称性に関する尺度であると理解されたい。マイナスのスキューネスは、良好な支持挙動を有する表面を特徴とする。クルトシスRkuとは、表面粗さの振幅密度曲線の尖度に関する尺度に相当する。通常のプロファイル値の分布では、クルトシスRkuは3である。スキューネスRskおよびクルトシスRkuの特性値は、表面粗さに関するプロファイルの個々の山および谷によって大きく影響を受ける。
【0007】
ボールは、インナレースおよびアウタレースにおける、好適には溝状に形成された軌道内で転動するので、アウタレースおよびインナレースは、1つの回転軸線を中心として互いに回転可能である。接触(Schmiegung)は、軌道の曲率半径とボール直径との間の比を表す。したがって、各軌道の曲率半径とボール直径との間の商を求めることにより接触を計算することができる。本発明によれば、インナレースにおける軌道とボールとの間の接触は少なくとも1.05であるか、またはアウタレースにおける軌道とボールとの間の接触は少なくとも1.05であるか、またはインナレースにおける軌道とボールとの間の接触とアウタレースにおける軌道とボールとの間の接触の両方が少なくとも1.05である。
【0008】
各軌道の曲率半径と、その軌道に沿って転動するボールの直径とが同じであるならば、接触は1である。したがって、軌道の曲率半径が増加すると接触は増加する。接触の増加に伴い、ボールと軌道におけるコンタクト領域との間のコンタクト面積は減少し、このことは摩擦損失においては有利に作用する。接触が減少すると、ボールと軌道におけるコンタクト領域との間のコンタクト面積は相応に増大し、同時に摩擦損失が増加する。
【0009】
好適には、インナレースにおける軌道とボールとの間の接触および/またはアウタレースにおける軌道とボールとの間の接触は、1.05〜1.13である。驚くべきことに、軌道の曲率半径とボール直径との間の比が最小で1.05かつ最大で1.13であるとき、転がり軸受のノイズ最適化および摩耗最適化が最良であることがわかった。したがって、ノイズ最適化と摩耗最適化との間の妥協点は、各軌道と各ボールとの間の接触が1.05〜1.13の場合にある。
【0010】
説明した接触範囲により、転動体またはボールと各軸受レースとの間に、規定された小さい圧着面積が生じる。小さな圧着面積の結果として、摩擦が殆ど生じず、摩耗面積はごく僅かである。さらに、粗さ規定により、軸受レースとボールとの間に最適な潤滑状態が達成される。このためには、平坦な表面(Rskマイナス)に基づくオイル保持作用が重要である。粗さ・接触・材料の組み合わせが、転がり軸受の摩耗最適化およびノイズ最適化にとって決定的要素である。
【0011】
好適には、ボールはセラミック材料またはレース材料から形成されている。したがって、ボールはセラミックから形成されている、または0.5〜2重量%の炭素、最大0.035重量%の硫黄、3〜5重量%のクロム、1〜4重量%のバナジウム、1〜12重量%のタングステン、および2〜12重量%のモリブデンを含むレース材料から形成されている。セラミックの転動体またはレース材料から成る耐摩耗性の高い特殊鋼転動体を使用することにより、圧着面積の大きさがさらに減少し、レース材料とボールとの間の改善された摩耗対が実現される。
【0012】
さらに好適には、インナレースとアウタレースとは少なくとも部分的に粉末冶金により製造されている。換言すると、インナレースとアウタレースの製造における少なくとも1つの方法ステップは、0.5〜2重量%の炭素、最大0.035重量%の硫黄、3〜5重量%のクロム、1〜4重量%のバナジウム、1〜12重量%のタングステン、および2〜12重量%のモリブデンの少なくとも部分的に粉末状の構成成分の混合およびさらなる処理に関する。
【0013】
好適な実施例によれば、本発明は、軸と、請求項1による少なくとも1つの転がり軸受とを含む軸受装置であって、軸は、工作機械のスピンドル軸として形成されている軸受装置に関する。特に、軸は、主スピンドル軸、送りスピンドル軸、および/または仕上げスピンドル軸として形成されている。さらに、駆動される工具を、少なくとも1つの本発明による転がり軸受により軸受けすることも考えられる。
【0014】
別の好適な実施例によれば、本発明は、軸と、本発明による少なくとも1つの転がり軸受を含む軸受装置であって、軸は、ターボ圧縮機またはコンプレッサのコンプレッサ軸として形成されている軸受装置に関する。
【0015】
別の好適な実施例によれば、本発明は、軸と、本発明による少なくとも1つの転がり軸受を含む軸受装置であって、軸は、電気機械の、特に電気モータおよび/またはジェネレータのロータ軸として形成されている軸受装置に関する。ロータ軸には、電気機械のロータが相対回動不能に配置されており、ロータは、ハウジングに位置固定されたステータを中心として、好適にはハウジングに位置固定されたステータの内側で回転する。
【0016】
スピンドル軸を軸受けするための、またはコンプレッサ軸を軸受けするための、またはロータ軸を軸受けするための、本発明による転がり軸受の使用が提案される。したがって、この転がり軸受は特に、高速回転する軸の軸受のために良好に適している。本発明による転がり軸受により、軸のノイズ最適化および摩耗最適化された軸受が可能となる。高速回転では、回転数は1分間につき100万回転以上であり、この場合、n×dmに相当し、nは回転数、dmは平均的な軸受直径である。例えば、高速回転とは、100mmの平均軸受直径の場合に、毎分10000回転であると理解されたい。
【0017】
本発明を改善するさらなる措置について、次に図面に基づき本発明の好適な実施例の説明と共に詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明による転がり軸受を概略的に示す斜視図である。
図2図1の本発明による転がり軸受と軸とを備えた軸受装置を概略的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1によれば、ここには図示されていない工作機械のための本発明による転がり軸受1は、インナレース2、およびアウタレース3、ならびに半径方向でインナレース2とアウタレース3との間に配置された転動体としてのボール6を含む。ボール6は、リテーナ8によってガイドされている。転がり軸受1は、深溝ボールベアリングとして形成されている。
【0020】
図2では、図1の転がり軸受1が軸7を軸受けしている。軸7は、工作機械のスピンドル軸として形成されていて、部分的にしか示されていない。インナレース2は外周面に、ボール6をガイドするための軌道4を有している。さらに、アウタレース3も内周面に、ボール6をガイドするための軌道5を有している。ボール6は、インナレース2とアウタレース3との間で各軌道4,5に沿って転動し、ボール6はセラミック材料から形成されている。
【0021】
インナレース2とアウタレース3とはレース材料から形成されており、レース材料は、粉末冶金により、0.5〜2重量%の炭素、最大0.035重量%の硫黄、3〜5重量%のクロム、1〜4重量%のバナジウム、1〜12重量%のタングステン、2〜12重量%のモリブデンおよび鉄から形成されている。各軌道4,5の表面の硬度は62HRCである。インナレース2およびアウタレース3は、230MPaの弾性率を有している。インナレース2における軌道4とボール6との間の接触は、アウタレース3における軌道5とボール6との間の接触と同様に、1.05である。さらに、インナレース2における軌道4とアウタレース3における軌道5とは、0.005〜0.03の算術平均粗さRと、0.3〜−5のスキューネスRskと、3〜15のクルトシスRkuを有する表面粗さを有している。
【符号の説明】
【0022】
1 転がり軸受
2 インナレース
3 アウタレース
4 軌道
5 軌道
6 ボール
7 軸
8 リテーナ
図1
図2