【発明が解決しようとする課題】
【0004】
音あてクイズについての音色変更はつまり、ある基音成分に対し倍音成分やその他の周波数成分をどのように含ませたものを出題するかという点に関する変更である。音色変更によって音あてクイズの難易度が変化するのは、練習者が普段聴きなれている音色に関する判別課題が比較的容易である一方で、聴きなれていない音色に関する判別課題は比較的難しい、という理由によるものである。一般に音に含まれる周波数成分の数が多くなるほど、その全ての周波数成分を弁識することは難しくなってゆくという関係があるといえるかもしれないが、含まれる倍音成分等によって、必ずしも基音自体の判別が難しくなるという性質のものではない。たとえばピアノのド音に含まれる周波数成分がいかに複雑であっても、普段そのピアノ音を聴き慣れている人にとってみれば、その複合的な音は、普段聴き慣れているドの音、として単純に認識されるだろう。
【0005】
和音に関する音あてクイズも、ある基音に対しどのような倍音または倍音に近い成分を加えた音であるかを判別する課題といえる。つまり和音の種類を弁識するのは音色の種類を弁識するのと似た性質を持っているといえる。たとえば一般的に、自分が使い慣れた和音とその構成音を弁識する課題は容易である一方で、使ったことのない和音とその構成音を弁識する課題は比較的に難しい。またたとえばあるメジャーコードの響きを聴いたときに、それをマイナーコードでなくメジャーコードである、と判別するのは容易である。このように音色や和音にかかる弁識課題は定性的課題としての側面が強い。
【0006】
AIを用いて練習負荷をパーソナライズしようとする観点からすると、練習の難易度設定にかかる負荷は、定量可能な負荷であることが好ましい。音あてクイズシステムの難易度を定量的に規定する上で、どのような負荷要素に着目すべきかについて課題があるといえる。
ところで、出題される音の音色のほか、出題音候補の間隔も音あてクイズの成績を左右する負荷になりうる。たとえばドの音とそれより1オクターブ高いドの音と1オクターブ低いドの音の3音を判別する課題より、隣接したシドレの3音を判別する課題の方が難しいが、その理由は前者に比べ後者の方が出題音候補間の間隔が狭いからであると説明できる。
ドミソの3音を判別するよりも、隣接する半音階の3音(ドド#レなど)を判別する方が難しいが、半音階判別課題よりもさらに、セント単位でファインピッチを再現させる課題の方が、より細やかな音感が要求されるという点で難しいといえる。
また複数の音から成る和音を出題する方式のほか、複数の音から成る音楽的フレーズを出題し、そのフレーズ長さ(フレーズに含まれる音の数とフレーズ提示テンポ)を調整することにより音あてクイズの負荷を調整する方式がありえる。たとえば出題された単音を再現する課題よりも、出題された複数音から成るフレーズを再現する課題の方が難しい。一般的に、フレーズ提示テンポが等しい場合、フレーズに含まれる音の数が多くなるほど、そのフレーズ再現課題はワーキングメモリに大きな負荷をかける難しいものになるといえる。また一般的に、フレーズの各音を弁識する課題はフレーズの提示テンポがゆっくりの場合よりもはやい場合の方が難しい。
本発明は、この「出題音候補の間隔ないしファインピッチ(音の間隔)」および「フレーズ提示テンポとフレーズに含まれる音の数(フレーズの長さ)」に着目して負荷制御を行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、音あてクイズにかかる負荷としての、出題音候補の間隔、一つのフレーズに含まれる音の数、フレーズ提示テンポ、に着目しつつ、フレーズを形成する自動作曲アルゴリズムを音あてクイズに応用する技術、およびファインピッチ再現課題に応答するための応答手段、などを含む新たな音あてクイズにかかる技術を提案することを課題とする。
【0008】
一般的に、音あてクイズは、出題→応答→判定を繰り返す流れによって行われる。
【0009】
一般的に、音あてクイズの出題内容には「単音」と「和音」と「フレーズ」がある。
音あてクイズの出題内容が単音であるときは一音ごとの入力について正誤判定を行う。
音あてクイズの出題内容が和音であるときは、一般に一定の時間内に入力された複数の音の入力を判定対象とし、和音としての複数音単位で正誤判定を行う。
音あてクイズの出題内容がフレーズであるときは、一般に一定の時間内に入力された一連の複数の音の入力を判定対象とする。
もっとも、出題された和音のトニック(主音)を答えさせる態様等の音あてクイズがあってもよいし、フレーズの最初の音の音名のみを答えさせる態様等の音あてクイズがあってもよい。
運指練習等に前置し、2分程度の、練習者の実力にフィットする態様で十分に整理された短時間の音あてクイズを行う習慣は、音感向上の上で有意義である可能性が示唆される。
【0010】
本発明の音あてクイズシステムは、
クイズ出題手段(基準音クイズ出題手段、
フレーズ出題手段、候補音クイズ出題手段)、
クイズ応答情報入力手段(基準音クイズ応答情報入力手段、
フレーズ再現情報入力手段、候補音クイズ応答情報入力手段)、および
正誤判定手段(基準音クイズ正誤判定手段、
フレーズ正誤判定手段、候補音クイズ正誤判定手段)、
を基本の構成要素とし、
該問題出題手段は、基準音設定手段、出題範囲設定手段、または出題候補音設定手段によってユーザーにより設定された、基準音によって決まる出題候補音、出題範囲によって画される出題候補音、または具体的な出題候補音の情報を用いて、単音または複数の出題候補音から成るフレーズを出題する。
また本発明の音あてクイズシステムにおけるゲーム制御手段は、単位回数(基準音単位回数
フレーズ単位回数)のクイズ出題がなされるごとに、ROMなどに保持される出題数の値を更新して、練習負荷を調整するゲーム制御に用いる手段であることが意図される。
【0011】
本発明では音あてクイズの課題として、システムが出題した単音をユーザーに判別させる課題(単音判別課題)と、システムが出題したフレーズをユーザーに再現させる課題(フレーズ再現課題)と、単音とフレーズにかかるファインピッチ再現課題を扱う。単音判別課題では出題音に対応する鍵盤等の操作があったかどうかを判定し、フレーズ再現課題では出題されたフレーズに含まれる音と同じ音が同じ順序で入力されたかどうかを判定する。ファインピッチ再現課題ではユーザーが入力した単音のファインピッチないしフレーズ各音のファインピッチを判定対象とする。
複数の音の入力を判定対象とする場合には、システムによる出題開始と同時に入力を受け付けるようにしてもよいし、出題が済んだ時点以降に入力を受け付けるようにしてもよい。
音あてクイズの出題内容がフレーズである場合の正誤判別タイミングについては、ユーザーによるフレーズの入力完了を待つのではなく、好ましくは、誤入力が検出された時に逐一入力が誤りである旨の提示と、フレーズの再提示を行うようにする。
【0012】
以下、本稿において音を表す際、ドレミファソラシ表記のほか、たとえばC(60)のような要領で音名を記述する。C(60)とはmidi規格におけるnote number=60のCの音をさす。
【0013】
本発明の一態様は、設定された基準音からの間隔を基準として出題音候補を定める難易度序列を有することを特徴とする(請求項1)。
【0014】
[技術的意義] 出題音候補の間隔に着目して難易度序列を定め、その序列に対応する内容の出題を行う工夫は音あてクイズの難易度調整を行う上で有意義である。また、単位回数の出題ごとに出題音候補の間隔を徐々に狭めていくことにより、定量的な態様で難度逓増させるという工夫が意図されている。
【0015】
たとえば単位回数が4である場合、4音の出題と応答がなされるごとに、より高順位の難易度序列がある場合には、難易度序列を高順位に変更しながら音あてクイズを続ける。
その場合、もし初期の難易度序列が第二順位であれば、C(60)→C(72)→G(67)→C(72)などの順序で4回の単音判別課題が実施された後、
難易度序列が第三順位に移行してC(60)→G(67)→E(64)→C(60)などと出題が続き、さらに難易度序列が第四順位に移行してD(62)→F(65)→A(69)→F(65)などと、
4回音あてクイズがなされるごとに難易度序列を高順位に移行しながら出題が続いてゆく。
ここでは単位回数が4である場合を例示したが、単位回数の具体的な値は任意である。単位回数をユーザーによって指定できるようにしてもよい。
また先の単位回数の出題についてユーザーの応答内容が全て正解だった場合のみ難度逓増処理を行い、ユーザーの応答内容に不正解がふくまれていた場合には難度逓増しない、などとしてもよい。
【0016】
なお初期の難易度序列と終端の難易度序列にかかる設定は任意である。つまり具体的練習プロセスにおいては必ずしも第一順位から練習を始めて第六順位まで練習を行わなければならないというわけではない。
たとえば第二順位から開始して第四順位が終了した時点で練習完了としてもよいし、第三順位から開始して第五順位が終了した時点で練習完了等としてもよい。
また各難易度序列順位の練習長さは異なる値を個別に設定できるようにしてもよい。たとえば第二順位を1回、第三順位を1回、第四順位は2回実施する、などとしてもよい。
初期の難易度序列や各難易度序列順位の練習長さをボタンやトラックバー等によりユーザーから設定可能とする工夫は有意義である。初期の難易度序列指定は練習者の実力に負荷強度をフィットさせる上でエッセンシャルであり、各難易度序列順位の練習長さ指定は重点をどの負荷レベルに置く練習を行うかをデザインする上でエッセンシャルだからである。
【0017】
本発明の一態様は、設定された出題範囲を基準として自動作曲アルゴリズムにより音楽的フレーズを作成しフレーズ再現課題を出題する機能を有することを特徴とする(請求項2)。
【0018】
[技術的意義] 自動作曲アルゴリズムの適用はフレーズ再現課題による音あてクイズを実施する上で有意義である。
【0019】
本発明の一態様は、フレーズ再現課題におけるフレーズに含まれる音の数とその提示テンポとを逓増させる機能を有することを特徴とする(請求項3)。
【0020】
[技術的意義] 「フレーズ長さ」を調整して練習者の脳のワーキングメモリ等にかかる負荷制御を行う。出題するフレーズに含まれる音の数を逓増させてゆくために自動作曲の技術を応用する。
フレーズに含まれる音の数が多くなるに従ってフレーズを提示するテンポ(フレーズ提示テンポ)をはやくしてゆくことでフレーズ提示にかかる時間を短くしてゆく工夫は有意義である。
【0021】
本発明の一態様は、クイズ応答情報入力手段として階層化された作音コントローラを含むことを特徴とする(請求項4、請求項5、請求項6、請求項7)。
【0022】
[技術的意義] コントローラを階層化して表示デバイスのピクセル幅より大きなパラメータを扱う工夫はファインピッチ再現課題に応答する上で有意義である。
【0023】
たとえば表示デバイスのピクセル幅が900の場合、階層化されていないトラックバーコントローラによって表現できるパラメータの上限幅は900であるが、たとえば第一階層の幅を900、第二階層の幅を200とするコントローラであれば、たとえば二つのコントローラ値の乗算により900×200=180000のパラメータを扱うことができるようになる。さらに偶数値だけを扱うとするならその2倍、nの倍数値だけを扱うとするならそのn倍のパラメータ幅を扱うことができる。このような工夫は表示デバイスの限られたサイズにおいて幅の大きなパラメータ入力を扱う際に有意義である。
【0024】
本発明における階層化された作音コントローラは、幅を持つ画面上のフォームに表示されることを前提とし、第一階層の幅をフォーム幅とし、第二階層をフォーム幅以下の幅とするコントローラであることが意図される。該階層化された作音コントローラは、操作により対応するコントローラ値が変更されるのに伴って対応するピッチベンドを送信し音を発する機能を有する。
【0025】
本発明はプログラム発明としての態様をもつ(請求項8、請求項9)。
【0026】
[技術的意義] 該態様は、コンピュータまたは構成要素としてコンピュータを持つシステム等のシステムを、本発明の音あてクイズシステムとして機能させるための手順を指示するプログラム又はプログラムを記憶した記録媒体であることが意図される。