(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861936
(24)【登録日】2021年4月2日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】誘虫ランプ、捕虫方法及び捕虫器
(51)【国際特許分類】
A01M 1/04 20060101AFI20210412BHJP
A01M 1/14 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
A01M1/04 A
A01M1/14 V
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-5252(P2017-5252)
(22)【出願日】2017年1月16日
(65)【公開番号】特開2018-113870(P2018-113870A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年4月9日
【審判番号】不服2020-3532(P2020-3532/J1)
【審判請求日】2020年3月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594120157
【氏名又は名称】アース環境サービス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】512184593
【氏名又は名称】株式会社エバーライツ
(74)【代理人】
【識別番号】100081558
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 晴男
(74)【代理人】
【識別番号】100154287
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 貴広
(72)【発明者】
【氏名】弘中 満太郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 吉雄
(72)【発明者】
【氏名】美山 和宏
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 徳美
【合議体】
【審判長】
住田 秀弘
【審判官】
西田 秀彦
【審判官】
有家 秀郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−164439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M1/04-1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピーク波長が320〜400nmの範囲の紫外光と、ピーク波長が500〜600nmの範囲の緑色光の両方の光を均一に発する誘虫ランプであって、
昆虫の可視域である300〜700nmにおいて、紫外光の全フォトン数と緑色光の全フォトン数の総和に対する緑色光の全フォトン数の比である緑色光の含有率が、55〜20%の範囲であることを特徴とする誘虫ランプ。
【請求項2】
昆虫の可視域である300〜700nmにおいて、紫外光の全フォトン数と緑色光の全フォトン数の総和に対する緑色光の全フォトン数の比である緑色光の含有率が、50〜20%の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の誘虫ランプ。
【請求項3】
ケーシング内に少なくとも一つの紫外LEDチップと少なくとも一つの緑LEDチップとを所定の間隔で配設したLEDモジュールを配装して成ることを特徴とする、請求項1又は2に記載の誘虫ランプ。
【請求項4】
ケーシング内に複数の紫外LEDチップと複数の緑LEDチップとを直線軸上に適宜間隔置きに配設したLEDモジュールを配装して成ることを特徴とする、請求項1又は2に記載の誘虫ランプ。
【請求項5】
前記LEDモジュールにおける複数の前記紫外LEDチップ同士は所定の同一間隔で直線軸上に配設され、複数の前記緑LEDチップ同士は所定の同一間隔で前記直線軸上に配設され、複数の前記紫外LEDチップと複数の前記緑LEDチップの中の少なくとも一つが他の色のLEDチップ同士の間に配設されていることを特徴とする、請求項4に記載の誘虫ランプ。
【請求項6】
前記LEDモジュールは、紫外LEDチップ6個と緑LEDチップ15個を配設したものであるか、または、紫外LEDチップ4個と緑LEDチップ9個を配設したものであることを特徴とする、請求項4又は5に記載の誘虫ランプ。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか一項に記載のLEDモジュールが、前記直線軸の垂直方向に、各々の前記LEDモジュールの前記直線軸が同一間隔になるように複数並列配置されていることを特徴とする誘虫ランプ。
【請求項8】
紫外LEDチップと緑LEDチップとの関係において隣接する距離の最大値は5.2cm以内であることを特徴とする、請求項4乃至7のいずれか一項に記載の誘虫ランプ。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の誘虫ランプを搭載したことを特徴とする捕虫器。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の誘虫ランプを用い、粘着シートにより虫を捕獲することを特徴とする捕虫方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘虫ランプ、捕虫方法及び捕虫器に関するものであり、より詳細には、例えば、食品工場、医薬品工場、容器包材工場等のように、昆虫の侵入を極力阻止する必要のある工場や施設に設置される捕虫器に用いるのに好適で、人に対する生理的及び心理的障害が少なく、且つ、コスト的に有利な誘虫ランプと、それを用いた捕虫器及び捕虫方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記用途の捕虫器には、主に直管型の誘虫ランプが利用される。従来一般に用いられている誘虫ランプとしては、蛍光灯とLEDが知られており、その波長帯は300〜400nmの紫外域、即ち紫外線を強調したものか、あるいは、その紫外域に限定されている。これは、この波長帯が昆虫の正の走光性に強く寄与しており、広い分類群の昆虫の強い誘引反応を引き起こすとの知見に基づくものである。しかし、低コストで紫外域の波長帯の光を作り出すことは技術的に難易度が高く、捕虫用途に必要な光強度を有する光源を低コストで実現することは難しい。
【0003】
また、既存の誘虫ランプの場合は、紫外域から青色域までの光を多く発光するため、人によっては紫外線により生理的影響や心理的影響を受けたり、その存在が人に認識されることで昆虫が近くに集まっていることを意識することに起因して、心理的障害が引き起こされたりするといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−154500号公報
【特許文献2】特開2008−154499号公報
【特許文献3】特開2006−087371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来の捕虫器に用いられる誘虫ランプの場合には、低コストで紫外域の波長帯の光を作り出すことは技術的に難易度が高く、捕虫用途に必要な光強度を有する光源を低コストで実現することは難しいという問題がある。また、紫外線の光強度が大きいために人が生理的影響を受ける場合があった。更に、紫外域から青色域までの光を発するために人に認識されやすく、捕虫器の存在が認識されやすいので、紫外線に暴露されている、あるいは、昆虫が近くに集まっているとの意識が生じて心理的障害が引き起こされるという問題があった。
【0006】
本発明はこれらの問題を解決するためになされたもので、従来の捕虫効果を維持しながらも、光強度を大きくすることなくコストをかけないままに、紫外線による生理的及び心理的影響や、昆虫が存在することの意識に起因する心理的障害の発生のおそれがない誘虫ランプ、捕虫器及び捕虫方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、ピーク波長が320〜400nmの範囲の紫外光と、ピーク波長が500〜600nmの範囲の緑色光の両方の光を
均一に発する誘虫ランプであって、昆虫の可視域である300〜700nmにおいて、紫外光の全フォトン数と緑色光の全フォトン数の総和に対する緑色光の全フォトン数の比である緑色光の含有率が、
55〜20%の範囲であることを特徴とする誘虫ランプである。この発明によれば、紫外光の光源と緑色光の光源を有することで、高額な紫外LEDチップを減らしてコストダウンを図ることができる。
【0009】
一実施形態においては、緑色光の含有率
は50〜20%の範囲である。この実施形態によれば、緑色光の含有率が62.6%以下であることにより、少なくとも50%以上の誘引率を確保しつつ、従来のような紫外光のみを用いた誘虫ランプより低コストの誘虫ランプを提供することが可能となり、緑色光の含有率が55〜20%の範囲であることで、効果的に昆虫をランプの方へ誘引することができ、更に50〜20%の範囲の場合は、一層効果的に昆虫をランプの方へ誘引することができる。
【0010】
一実施形態における誘虫ランプは、ケーシング内に少なくとも一つの紫外LEDチップと少なくとも一つの緑LEDチップとを所定の間隔で配置したLEDモジュールを配装して成ることを特徴とする。その場合のLEDモジュールは、ケーシング内に複数の紫外LEDチップと複数の緑LEDチップとを直線軸上に適宜間隔置きに配置したものとすることができる。この実施形態によれば、市販の紫外LEDチップと緑LEDチップとを入手して容易に誘虫ランプを提供することができ、また、複数の紫外LEDチップと複数の緑LEDチップとを適宜間隔置きに配設したLEDモジュールを内装していることで、均一発光の誘虫ランプを提供することができる。
【0011】
また、一実施形態においては、前記LEDモジュールにおける複数の前記紫外LEDチップ同士は所定の同一間隔で直線軸上に配置され、複数の前記緑LEDチップ同士は所定の同一間隔で前記直線軸上に配置され、複数の前記紫外LEDチップと複数の前記緑LEDチップの中の少なくとも一つが他の色のLEDチップ同士の間に配置される。この実施形態によれば、各々の波長のLEDからの光をその波長毎に均一化した直線状の光源を実現することができる。また、それらの波長の均一光源をオーバーラップさせることになるので、混色された均一の直線状光源を提供することができる。
【0012】
一実施形態においては、前記LEDモジュールは、紫外LEDチップ6個と緑LEDチップ15個を配設したものであるか、または、紫外LEDチップ4個と緑LEDチップ9個を配設したものとされる。この実施形態によれば、前記LEDモジュールとして、紫外LEDチップ6個と緑LEDチップ15個を配設し、あるいは、紫外LEDチップ4個と緑LEDチップ9個を配設したものを用いることで、緑色光の含有率を略50%にした誘虫ランプを提供することが可能となる。
【0013】
一実施形態においては、請求項
4乃至6のいずれか一項に記載のLEDモジュールが、前記直線軸の垂直方向に、各々の前記LEDモジュールの前記直線軸が同一間隔になるように複数並列配置される。この実施形態によれば、上記の直線状のLEDモジュールを、その直線軸の垂直方向に、各々の前記LEDモジュールの前記直線軸が同一間隔になるように複数並列されることで、二次元状に均一に発光する誘虫ランプを提供することができる。
【0014】
一実施形態においては、紫外LEDチップと緑LEDチップとの関係において隣接する距離の最大値は5.2cm以内とされる。この実施形態によれば、紫外LEDチップと緑LEDチップとの関係において隣接する距離の最大値を5.2cm以内に設定することで、昆虫が各色のLEDチップを弁別しないようにできるので、拡散板を使用せずに混色でき、拡散板における光の吸収損や反射損などを発生させないで有効に用いることができる誘虫ランプを提供することができる。
【0015】
上記課題を解決するための請求項9に記載の発明は、請求項1乃至
8のいずれか一項に記載の誘虫ランプを搭載したことを特徴とする捕虫器である。この発明によれば、上記誘虫ランプを搭載することで、誘虫効果に優れた捕虫器を提供することができる。
【0016】
また、上記課題を解決するための請求項10に記載の発明は、請求項1乃至
8のいずれか一項に記載の誘虫ランプを用い、粘着シートにより虫を捕獲することを特徴とする捕虫方法である。この発明によれば、上記誘虫ランプを用い、粘着シートにより虫を捕獲することで、誘虫効果に優れた捕虫方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は上記のとおりであって、本発明に係る誘虫ランプ、捕虫器及び捕虫方法によれば、光強度を上げることなく、捕虫効果を確保しながら、高額な紫外LEDチップを減らしてコストダウンを図ることができると共に、それらの光源があることの生理的影響を低下させ得る効果と心理的影響を取り除く効果があり、また、緑色光の増加に伴って人の目に見える青色光が覆い隠されることで、捕虫器があることの心理的障害を取り除くことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る誘虫ランプの構成例を示す概略図である。
【
図2】本発明に係る誘虫ランプのLEDチップの配置の概略図である。
【
図3】二次元状のLEDチップが配置されたLEDチップモジュールの概略図である。
【
図4】本発明に係る誘虫ランプの有効性を確認するために行った実験方法を示す概略図である。
【
図5】本発明に係る誘虫ランプの有効性を確認するために行った実験結果(波長と光強度の違いと誘引率の関係)を示すグラフである。
【
図6】本発明に係る誘虫ランプの有効性を確認するために行った実験結果(波長の組み合わせと誘引率の関係)を示すグラフである。
【
図7】本発明に係る誘虫ランプの有効性を確認するために行った実験結果(紫外光の比率と誘引率の関係)を示すグラフである。
【
図8】実験光源における緑色光の比率と、誘引率の関係を示した図である。
【
図9】本発明に係る誘虫ランプを搭載した捕虫器の一構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態につき、添付図面を参照しつつ説明する。
図9は、本発明に係る誘虫ランプを搭載した捕虫器の一構成例を示すものである。その捕虫器は、虫が進入し得る大きさの開口を有していて、内部に捕虫シート22を定着する内面を備えたケース21と、ケース21内に具備される誘虫ランプ23とから成る。誘虫ランプ23は、後述するように、紫外光と緑色光とを発する機能を有する。捕虫シート22は粘着性を有する捕虫手段である。
【0020】
捕獲対象である昆虫は本発明に係る捕虫器に接近した際に、誘虫ランプ23の誘虫機能により誘われて誘虫ランプ23に接近し、捕虫シート22に粘着してしまうことで捕獲される。
【0021】
本発明に係る誘虫ランプ23は、紫外と緑の両方の光を発する誘虫ランプである。言い換えると、紫外と緑の両方の色を混色して発色することを特徴とする誘虫ランプである。その場合、紫外光を一つの光源が発し、緑色光を他の光源が発する構成を採用することができ、また、一つの光源が紫外光と緑色光を発する構成を採用することもできる。
【0022】
この誘虫ランプは、例えば、直管型ケーシング1内に 少なくとも一つの紫外LEDチップと少なくとも一つの緑LEDチップとが適宜間隔置きに配設されて構成される。また、直管型ケーシング1内に複数の紫外LEDチップ2と複数の緑LEDチップ3とを適宜間隔置きに配置したLEDモジュール4を内装することによって構成することもできる(
図1参照)。その場合、複数の紫外LEDチップ2同士は所定の同一間隔で直線軸上に配置され、複数の緑LEDチップ3同士は所定の同一間隔で前記直線軸に配置され、複数の紫外LEDチップ2と複数の緑LEDチップ3の中の少なくとも一つが他の色のLEDチップ同士の間に配置される。
【0023】
具体的には、LEDモジュール4は、例えば、紫外チップ2が6個、緑LEDチップ3が15個(
図2(A))、あるいは、紫外LEDチップ2が4個、緑LEDチップ3が9個(
図2(B))、それぞれケーシング1の全体に亘るように規則的に配置されたものである。このような構成とすることにより、均一発光が可能となる。紫外のLEDチップ2の個数と緑LEDチップ3の個数は、紫外のLEDチップ2と緑LEDチップ3の市販品の光強度を制御した上で、「紫外光の全フォトン数と緑色光の全フォトン数の総和に対する緑色光の全フォトン数の比」を緑色光の含有率と定義した場合に、緑色光の含有率を略50%にできるような個数にしたものである。
【0024】
LEDチップを均一発光になるように二次元的に配置してもよい。
図3は、上記のようにLEDチップを直線軸上に配置してなるLEDモジュール4が、前記直線軸の垂直方向に、各々の前記誘虫ランプの前記直線軸が同一間隔になるように複数並列されて成る誘虫ランプである。このように均一発光の直線状の誘虫ランプを並列させることで、光の均一性を確保しながら二次元状の光源とすることができ、限られた面積の中で光を集中させた誘虫ランプを実現することができる。
【0025】
なお、ケーシングに拡散板を用いない場合には、昆虫が誘虫ランプを見た際に、各色のLEDチップを弁別して混色による誘虫効果を生じない場合も想定される。そのため、各色のLEDチップを昆虫が弁別できない間隔に設定することが望ましい。
【0026】
この点を考察すると、捕虫器の対象となる害虫の眼の空間分解能を規定する受容角と個眼間角度は最も小さくとも1度であることが知られている(Land 1997; Land & Nilsson 2002)。昆虫が光に誘引される距離を測定した研究のうち、最短の結果は3メートル程度である(Baker and Sadovy 1978)。これらの研究結果を前提にして計算すると、3m先の5.2cm離れた2つの点光源を、最も空間分解能の高い昆虫の眼でも弁別できないことが示唆される。従って、異なる色である紫外と緑LEDチップの間隔は5.2cm以内に配置することが、拡散板を使用せずに混色するためには必要であると言える。
【0027】
一方、ケーシングに拡散板を入れて拡散機能を付与することとすれば、拡散板の吸収損や反射損によって利用できる紫外光の光強度がやや減じられて誘虫効果に影響を及ぼすが、拡散によって人間の目に与えるグレア効果を減じ、人間への生理的及び心理的影響を低減することができる。従って、拡散板の採用の有無は、人間への影響の除去や誘虫効果の具合を比較して決定すればよい。
【0028】
ケーシング1内には点灯回路5とノイズフィルター6が配備され、両端がキャップ7で封止される。
【0029】
ところで、好ましい実施形態においては、紫外光はピーク波長が320〜400nmの範囲とされ、緑色光はピーク波長が500〜600nmの範囲とされる。このような誘虫ランプの構成を導き出すために本発明者らは、以下のとおりの実験を行った。
【0030】
その実験は、昆虫の正の走光性による誘引反応、即ち、誘引効果を低下させることなく、紫外光の含有率を低下させることが可能な、混色のための最適な波長帯とその含有比率を明らかにすることを目的とするものである。その実験においては、紫外375nmの波長帯の光を発する単色LED光源を1.0×l0
13photons/cm
2/secの光強度で発光させたものを既存の誘虫ランプのモデルと想定し、この光源に対する様々な混色光源の誘引効果を確認した。
【0031】
<LEDパネル光源を使用した2灯選択実験>
この実験は、対照光源11となるLEDパネル光源と実験光源12であるLEDパネル光源とを用意し、これらを暗室内に、パネル間の角度を60度にして配置し、その間に昆虫の飛翔台13を置き、そこから昆虫を飛翔させることにより行った(
図4参照)。この実験において飛翔させた昆虫は、農業害虫であり、時折大発生してはコンビニエンスストアなどに誘引されて問題になるチャバネアオカメムシである。
【0032】
より具体的には、LEDパネル光源として、60×60cmの黒色板材の中央部に30×30cmの正方形の窓を設け、その窓からLED光を発するようにした。既存の誘虫ランプのモデルとしての対照光源11は、常に紫外375nmの波長帯の光を光強度1.0×l0
13photons/cm
2/sec で発光させた。一方、その横に配置した実験光源12は、様々な波長と光強度で発光させた。そして、そのすべての条件において、対照光源11と実験光源12との中間部から、チャバネアオカメムシ40個体を飛翔させて、対照光源11と実験光源12のどちらの光源にどのくらいの割合で誘引されるかを調べた。
【0033】
<実験1:光強度に対する反応>
紫外375nmの対照光源11と緑525nmの実験光源12の選択では、光強度が半分(0.5×10
13)になっても紫外単色の対照光源11を強く選択した(
図5(C)、(D)参照)。対照光源11と紫外375nm単色光源を同じ光強度で選択させた場合は、その誘引率はランダムとなり、それぞれおよそ50%となった(
図5(A)参照)。そして、紫外375nm単色光源の光強度を1/2(0.5×10
13)にした場合は、1/1の条件と比べて誘引率は大きく変わらず(
図5(B)参照)、有意差はなかった。
【0034】
<実験2:波長に対する反応>
紫外375nmの単色の対照光源11と紫外375nmと他の波長を混ぜた混色の実験光源12を選択させた。その際、混色の実験光源12の光強度は2つの波長を合わせて、対照光源11と同様の1.0×l0
13photons/cm
2/secとした。紫外と青450nmを50:50で混色させた実験光源12の場合は、紫外単色の対照光源11を強く選択した(80%の誘引率)(
図6(A)参照)。紫外と白460+570nmを50:50で混色させた実験光源12の場合、紫外単色の対照光源11を選択した(
図6(C)参照)。
【0035】
紫外と緑525nmを50:50で混色させた実験光源12の場合は、どちらかと言えば混色の実験光源12を選択した(
図6(B)参照)。それゆえ、ピーク波長が450〜460nmとなるような青色光を含むことは誘引において負の効果をもたらすと考えられ、好ましくないことが分かった。一方、ピーク波長が525nmにある緑色光を含むことは、紫外の単色光の0.5×10
13photons/cm
2/secと比較して有意な差があるため、混色することによる正の誘引効果があることが判明した。
【0036】
<実験3:緑色光の比率に対する反応>
紫外光と緑色光の比率に対する反応をみるため、紫外375nmの単色の対照光源11と、紫外と緑525nmの混色の実験光源12を選択させた。実験光源12の紫外と緑の比率は100:0から0:100まで5段階に分け、それぞれの誘引率の違いを明らかにした。紫外と緑の比率が100:0、即ち、全て紫外光で構成された実験光源12の場合、対照光源11に47.1%が、実験光源12に52.9%がそれぞれ誘引され、カメムシは2つの光源をランダムに選択した(
図7(A)参照)。紫外と緑の比率が100:0(
図7(A))、80:20(
図7(B))、50:50(
図7(C))では有意差はなく、含有率の変化による顕著な反応の変化は認められなかった。一方で、紫外と緑の比率を20:80として、緑の比率が高い混色にした場合、74.3%が対照光源11に誘引された(
図7(D))。それゆえ、誘引力を低下させない理想的な緑の比率は、50〜80%のどこかにあると考えられた。
【0037】
<実験結果から導き出された結論>
紫外375nmの単色光源の1.0×l0
13photons/cm
2/secを既存の誘虫ランプのモデルと見立てた場合、別の波長帯の光を混色させることで、昆虫に対する誘引力を低下させることなく、紫外光の含有率を減らすことができる可能性がある。これにより、高額な紫外LEDチップを減らしてコストダウンを図ることができると同時に、紫外及び青色の波長帯の光が存在することを隠蔽することで、それらの光源が存在することに起因して生理的障害がもたらされるという心理的障害を除去する効果が得られる。
【0038】
また、別の波長帯の光の増加に伴って人の目に見える青色光が覆い隠されることで、捕虫器(即ち、虫)が存在することの心理的障害を取り除くこともできる。別の波長帯の光とは525nmを中心とした緑色光であり、その範囲は理想的には500〜600nmと想定される。また、その好適な含有比率は、理想的には
図7の結果から、50〜20%と想定される。
【0039】
更に詳しく解析すると、
図7における(A)から(E)までのデータを用いれば、
図8のようなグラフを作成することができる。
図8は、実験光源における緑色光の比率と、誘引率の関係を示した図である。ここで、データは
図7における(A)から(E)までの5点であるところ、多項式近似を採用し、前記5点を含んだ近似曲線を得ている。該近似曲線は以下となる。
y=490x4−986.67x3+485.9x2−42.133x+52.9
ここで、xは実験光源における緑色光の比率であり、yは誘引率である。
【0040】
またここで、データとして実験光源における緑色光の比率0.2の時に誘引率56.8%という誘虫効果がある数値が得られている。実験光源における緑色光の比率が0.2より大きくなると誘引率はピークを迎え、その後下がっていく。緑色光の比率を大きくしていった場合に、緑色光の比率0.2の時に誘引率56.8%という効果と同じ効果となる誘引率を探すと、かかる多項式から、例えば、実験光源における緑色光の比率が0.55の時に57.3%という誘引率を得られているところであることが分かる。従って、最適な含有比率は55〜20%であると言える。
【0041】
ところで、一般に緑色光を発するLEDは、紫外光を発するLEDより低コストで入手できるので、緑色光の含有率を増やせば増やすほど、誘虫ランプとして低コストとなると言うことができる。このコスト面を重視すると、従来のような紫外光のみを用いた誘虫ランプと同じ誘引率の誘虫ランプであっても、緑色光を混ぜた誘虫ランプの方が低コスト化できるので有利であると言える。
【0042】
この観点で、上記式より誘引率が略50%になる緑色光の含有比率を算出したところ、緑色光の含有比率が62.6の時に、誘引率が50.1%となるところがあることが判明した。これより、緑色光の含有比率が62.6%以下の時に、少なくとも50%以上の誘引率を確保しつつ、従来のような紫外光のみを用いた誘虫ランプよりも低コストの誘虫ランプを実現することが可能と言うことができる。
【0043】
以上のように本発明によれば、紫外光と緑色光の両方の光を発するランプを用いることで、紫外光とそれに付随した青色光を発するランプを用いるよりも誘虫性を高めることができ、且つ、生理的及び心理的障害を低減し得る効果があり、また、紫外光及び青色光が存在することを隠蔽し、捕虫器があることの心理的障害を取り除くことができるという効果がある誘虫ランプを提供することができ、その産業上の利用可能性は大である。
【符号の説明】
【0044】
1 直管型ケーシング
2 紫外LEDチップ
3 緑LEDチップ
4 LEDモジュール
5 点灯回路
6 ノイズフィルター
7 キャップ
11 対照光源
12 実験光源
13 飛翔台
21 ケース
22 捕虫シート
23 誘虫ランプ