特許第6861942号(P6861942)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6861942固体電解質シート及びその製造方法、並びにナトリウムイオン全固体二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861942
(24)【登録日】2021年4月2日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】固体電解質シート及びその製造方法、並びにナトリウムイオン全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20210412BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20210412BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20210412BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20210412BHJP
   C04B 35/113 20060101ALI20210412BHJP
   C04B 35/622 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   H01M10/0562
   H01M10/054
   H01B1/06 A
   H01B13/00 501Z
   C04B35/10 A
   C04B35/00 G
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-157936(P2015-157936)
(22)【出願日】2015年8月10日
(65)【公開番号】特開2017-37769(P2017-37769A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2018年7月2日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池尻 純一
(72)【発明者】
【氏名】山内 英郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 史雄
【審査官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−154414(JP,A)
【文献】 特開2000−143330(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0141879(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0147621(US,A1)
【文献】 国際公開第2015/087734(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/177088(WO,A1)
【文献】 特開平11−049562(JP,A)
【文献】 特開平11−012028(JP,A)
【文献】 Conductive ceramics,INNOVATION WITH ELECTROCERAMICS,英国,Ionotec Ltd,2019年 5月29日,Conductive ceramics,URL,http://www.ionotec.com/conductive-ceramics.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00−10/39
H01B 1/06
H01B 13/00
C04B 35/10−35/119
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナを含有し、厚みが0.5mm未満であり、かつ空隙率が20%以下であることを特徴とするナトリウムイオン全固体二次電池用の固体電解質シートであって、
モル%で、Al 65〜79.4%、NaO 2〜20%、MgO+LiO 0.3〜10%を含有する固体電解質シート。
【請求項2】
さらに、ZrOを1〜15%含有することを特徴とする請求項1に記載の固体電解質シート。
【請求項3】
さらに、Yを0.01〜5%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の固体電解質シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の固体電解質シートの一方の面に正極層、他方の面に負極層が形成されてなるナトリウムイオン全固体二次電池。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載の固体電解質シートを製造するための方法であって、
(a)モル%で、Al 65〜79.4%、NaO 2〜20%、MgO+LiO 0.3〜10%を含有する原料粉末をスラリー化する工程、
(b)前記スラリーを基材上に塗布、乾燥してグリーンシートを得る工程、
(c)前記グリーンシートを等方圧プレスした後、焼成することにより、β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナを生成する工程、
を含むことを特徴とする固体電解質シートの製造方法。
【請求項6】
原料粉末が、モル%で、ZrOを1〜15%含有することを特徴とする請求項5に記載の固体電解質シートの製造方法。
【請求項7】
原料粉末が、モル%で、Yを0.01〜5%含有することを特徴とする請求項5または6に記載の固体電解質シートの製造方法。
【請求項8】
グリーンシートを5MPa以上の圧力でプレスすることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の固体電解質シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウムイオン二次電池等の蓄電デバイスに用いられるベータアルミナ系の固体電解質シート及びその製造方法、並びにナトリウムイオン全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、モバイル機器や電気自動車等に不可欠な、高容量で軽量な電源としての地位を確立している。しかし、現行のリチウムイオン二次電池には、電解質として可燃性の有機系電解液が主に用いられているため、発火等の危険性が懸念されている。この問題を解決する方法として、有機系電解液に代えて固体電解質を使用したリチウムイオン全固体電池の開発が進められている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、リチウムは世界的な原材料の高騰の懸念がある。そこで、リチウムに代わる材料としてナトリウムが注目されており、固体電解質としてNASICON型のNaZrSiPO12からなるナトリウムイオン伝導性結晶を使用したナトリウムイオン全固体電池が提案されている(例えば特許文献2参照)。その他、β−アルミナやβ’’−アルミナといったベータアルミナ系固体電解質も高いナトリウムイオン伝導性を示すことが知られており、これらの固体電解質はナトリウム−硫黄電池用固体電解質としても使用されている。
【0004】
上記の固体電解質は、ナトリウムイオン全固体電池等の単位体積あたりのエネルギー密度向上の観点から、シート化することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−205741号公報
【特許文献2】特開2010−15782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シート化した固体電解質は、例えば原料粉末をスラリー化してグリーンシートを得た後、焼成する方法(グリーンシート法)により製造される。しかしながら、ベータアルミナ系固体電解質シートを上記の方法により製造した場合、イオン伝導値が低下しやすいという問題があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、イオン伝導値が高いベータアルミナ系固体電解質シート及びそれを用いたナトリウムイオン全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の固体電解質シートは、β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナを含有し、厚みが1mm以下であり、かつ空隙率が20%以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の固体電解質シートは、厚みが1mm以下と小さいため、固体電解質中のイオン伝導に要する距離が短い。しかも空隙率が20%以下と小さいため、固体電解質シート中におけるβ−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナの各粒子の緻密性が高い。以上により、本発明の固体電解質シートはイオン伝導性に優れている。なお、本発明において固体電解質シートの「空隙率」は、破断面の観察画像における空隙部分の面積割合を指す。
【0010】
本発明の固体電解質シートは、イオン伝導値が1S以上であることが好ましい。なお、本発明において「イオン伝導値」は、固体電解質シートのイオン伝導度(S/cm)に厚みを乗じた値を指す。
【0011】
本発明の固体電解質シートは、β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナを含有し、厚みが1mm以下であり、かつイオン伝導値が1S以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明の固体電解質シートは、モル%で、Al 65〜98%、NaO 2〜20%、MgO+LiO 0.3〜15%を含有することが好ましい。なお、「MgO+LiO」は、MgOとLiOの含有量の合量を意味する。
【0013】
本発明の固体電解質シートは、さらに、ZrOを1〜15%含有することが好ましい。
【0014】
本発明の固体電解質シートは、さらに、Yを0.01〜5%含有することが好ましい。
【0015】
本発明の固体電解質シートは、ナトリウムイオン全固体二次電池用として好適である。
【0016】
本発明のナトリウムイオン全固体二次電池は、上記の固体電解質シートの一方の面に正極層、他方の面に負極層が形成されてなることを特徴とする。
【0017】
本発明は、β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナを含有する厚み1mm以下の固体電解質シートを製造するための方法であって、(a)主成分としてAlを含有する原料粉末をスラリー化する工程、(b)スラリーを基材上に塗布、乾燥してグリーンシートを得る工程、(c)グリーンシートを等方圧プレスした後、焼成することにより、β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナを生成する工程、を含むことを特徴とする。
【0018】
上述したように、ベータアルミナ系固体電解質シートをグリーンシート法により製造した場合、イオン伝導値が低下しやすいという問題がある。この理由は明らかではないが、本発明者等は以下のように推察している。グリーンシート作製の際のプレスには通常、一軸プレスが利用されるが、この場合、グリーンシートに対して圧力が特定方向のみからかかるため、原料粉末が圧力のかかっていない方向に流動して、粉末間の密着性に劣る。そのため、焼成時に固相反応によるβ−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナの生成が生じにくくなるとともに、焼成後に得られる固体電解質の緻密性に劣る傾向がある。一方、グリーンシートを焼成する前に等方圧プレスを行うことにより、原料粉末の密着性が向上するため、焼成時にβ−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナがより生成しやすくなり、かつ、焼成後に得られる固体電解質の緻密性にも優れる。結果として、固体電解質のイオン伝導性が向上しやすくなる。
【0019】
本発明の固体電解質シートの製造方法において、原料粉末がモル%で、Al 65〜98%、NaO 2〜20%、MgO+LiO 0.3〜15%を含有することが好ましい。
【0020】
本発明の固体電解質シートの製造方法において、原料粉末が、モル%で、ZrOを1〜15%含有することが好ましい。ZrOは、焼成時におけるβ−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナの異常粒成長を抑制する効果があるため、焼成後に得られる固体電解質シートの緻密性をより一層向上させることができる。
【0021】
本発明の固体電解質シートの製造方法において、原料粉末が、モル%で、Yを0.01〜5%含有することが好ましい。YもZrOと同様に、焼成時におけるβ−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナの異常粒成長を抑制する効果があるため、焼成後に得られる固体電解質シートの緻密性をより一層向上させることができる。
【0022】
本発明の固体電解質シートの製造方法において、グリーンシートを5MPa以上の圧力でプレスすることが好ましい。このようにすることで、原料粉末同士を密着させることができ、焼成時に固相反応が生じやすくなるため、β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナの生成が促進されるとともに、焼成後に得られる固体電解質シートの緻密性をより一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、イオン伝導値が高いベータアルミナ系固体電解質シートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例におけるNo.6の試料の断面のSEM(走査型電子顕微鏡)画像である。
図2】実施例におけるNo.15の試料の断面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の固体電解質シートは、β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナを含有し、厚みが1mm以下であり、かつ空隙率が20%以下であることを特徴とする。
【0026】
固体電解質シートの厚みが小さいほど固体電解質中のイオン伝導に要する距離が短くなり、イオン伝導性が向上するため好ましい。また、固体電解質シートの厚みを均一化しやすくなる。さらに、ナトリウムイオン全固体電池用固体電解質とした場合、ナトリウムイオン全固体電池の単位体積当たりのエネルギー密度が高くなる。具体的には、本発明の固体電解質シートの厚みは1mm以下であり、0.8mm以下、特に0.5mm未満であることが好ましい。固体電解質シートの厚みの下限は特に限定されないが、現実的には0.01mm以上、さらには0.03mm以上である。
【0027】
固体電解質シートの空隙率は20%以下であり、18%以下、特に15%以下であることが好ましい。空隙率が高すぎると、固体電解質シート中においてβ−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナの各粒子の密着性が不十分になり、イオン伝導値が低下しやすくなる。空隙率の下限は特に限定されないが、現実的には0.1%以上である。
【0028】
固体電解質シートの密度は3.26〜3.4g/cmであることが好ましい。固体電解質シートの密度が低すぎると、β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナの密着性に劣り、イオン伝導性に劣る傾向がある。一方、ベータアルミナ系固体電解質の密度が大きすぎると、β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナの生成量が少なく、イオン伝導性に劣る傾向がある。
【0029】
本発明の固体電解質シートは、β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナを含有するとともに、上述の特定のパラメータを満たすため、良好なイオン伝導性を示す。具体的には、固体電解質シートの厚み方向のイオン伝導値は1S以上、1.5S以上、特に2S以上であることが好ましい。
【0030】
本発明の固体電解質シートは、モル%で、Al 65〜98%、NaO 2〜20%、MgO+LiO 0.3〜15%を含有することが好ましい。組成を上記のように限定した理由を以下に説明する。
【0031】
Alはβ−アルミナ及びβ’’−アルミナを構成する主成分である。Alの含有量は65〜98%、特に70〜95%であることが特に好ましい。Alが少なすぎると、固体電解質のイオン伝導性が低下しやすくなる。一方、Alが多すぎると、ナトリウムイオン伝導性を有さないα−アルミナが残存し、固体電解質のイオン伝導性が低下しやすくなる。
【0032】
NaOは固体電解質にナトリウムイオン伝導性を付与する成分である。NaOの含有量は2〜20%、3〜18%、特に4〜16%であることが好ましい。NaOが少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、NaOが多すぎると、余剰のナトリウムがNaAlO等のイオン伝導性に寄与しない化合物を形成するため、イオン伝導性が低下しやすくなる。
【0033】
MgO及びLiOはβ−アルミナ及びβ’’−アルミナの構造を安定化させる成分(安定化剤)である。MgO+LiOの含有量は、0.3〜15%、0.5〜10%、特に0.8〜8%であることが好ましい。MgO+LiOが少なすぎると、固体電解質中にα−アルミナが残存してイオン伝導性が低下しやすくなる。一方、MgO+LiOが多すぎると、安定化剤として機能しなかったMgOまたはLiOが固体電解質中に残存して、イオン伝導性が低下しやすくなる。
【0034】
本発明の固体電解質シートは、上記成分以外にも、ZrOやYを含有することが好ましい。ZrO及びYは、焼成時におけるβ−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナの異常粒成長を抑制し、β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナの各粒子の密着性を向上させる効果がある。ZrOの含有量は0〜15%、1〜13%、特に2〜10%であることが好ましい。また、Yの含有量は0〜5%、0.01〜4%、特に0.02〜3%であることが好ましい。ZrOまたはYが多すぎると、β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナの生成量が低下して、固体電解質のイオン伝導性が低下しやすくなる。
【0035】
次に、本発明の固体電解質シートの製造方法について説明する。本発明は、β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナを含有する厚み1mm以下の固体電解質シートを製造するための方法であって、(a)主成分としてAlを含有する原料粉末をスラリー化する工程、(b)スラリーを基材上に塗布、乾燥してグリーンシートを得る工程、(c)グリーンシートを等方圧プレスした後、焼成することにより、β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナを生成する工程、を含むことを特徴とする。
【0036】
原料粉末は主成分としてAlを含有する。具体的には、原料粉末は、モル%で、Al 65〜98%、NaO 2〜20%、MgO+LiO 0.3〜15%を含有することが好ましい。このように組成を限定した理由は既述の通りであるため、説明を割愛する。
【0037】
原料粉末の平均粒子径(D50)は10μm以下であることが好ましい。原料粉末の平均粒子径が大きすぎると、原料粉末同士の接触面積が低下するため固相反応が十分に進行しにくくなる。また、固体電解質シートの薄型化が困難になる傾向がある。原料粉末の平均粒子径の下限は特に限定されないが、現実的には0.1μm以上である。
【0038】
原料粉末を乾式または湿式により混合した後、バインダー、可塑剤、溶媒等を添加して混錬することによりスラリー化する。
【0039】
溶剤は水あるいはエタノールやアセトン等の有機溶媒のいずれでも構わない。ただし、溶剤として水を用いた場合、ナトリウム成分が原料粉末から溶出してスラリーのpHが上昇し、原料粉末が凝集するおそれがある。そのため、有機溶媒を用いることが好ましい。
【0040】
次に、得られたスラリーをPET(ポリエチレンテレフタレート)等の基材上に塗布、乾燥することによりグリーンシートを得る。スラリーの塗布はドクターブレードやダイコータ等により行うことができる。グリーンシートの厚みは0.05〜2.0mm、特に0.1〜1.8mmであることが好ましい。グリーンシートの厚みが小さすぎると、固体電解質の機械的強度に劣る傾向がある。一方、グリーンシートの厚みが大きすぎると、固体電解質の厚みが大きくなって、固体電解質中のイオン伝導に要する距離が長くなり、単位セル当たりのエネルギー密度が低下しやすくなる。
【0041】
さらに、グリーンシートを等方圧プレスした後、焼成することにより、β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナを生成し、固体電解質シートを得る。既述の通り、グリーンシートを焼成する前に等方圧プレスを行うことにより、β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナの各粒子の密着性が向上し、イオン伝導値が向上しやすくなると考えられる。プレス時の圧力は5MPa以上、特に10MPa以上であることが好ましい。プレス時の圧力が低すぎると、原料粉末同士の密着が不十分となり、焼成時に固相反応が生じにくくなるため、β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナが生成しにくくなる。また、固体電解質中において、β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナの各粒子の密着性が不十分になり、イオン伝導値が低下しやすくなる。
【0042】
焼成温度は1400℃以上、特に1500℃以上であることがより好ましい。焼成温度が低すぎると、原料粉末の反応が不十分となり、β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナの生成量が低下しやすくなる。また、固体電解質中において、β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナの各粒子の密着性が不十分になり、イオン伝導値が低下しやすくなる。焼成温度の上限は、1750℃以下、特に1700℃以下であることが好ましい。焼成温度が高すぎるとナトリウム成分等の蒸発量が多くなり、異種結晶が析出したり、緻密性が低下する傾向がある。その結果、固体電解質のイオン伝導性が低下しやすくなる。なお、焼成時間は、β−アルミナ及び/またはβ’’−アルミナが十分生成されるよう適宜調整される。具体的には、10〜120分間、特に20〜80分間であることが好ましい。
【0043】
本発明の固体電解質シートはナトリウムイオン全固体二次電池用として好適である。ナトリウムイオン全固体二次電池は、本発明の固体電解質シートの一方の面に正極層、他方の面に負極層が形成されてなる。正極層及び負極層には活物質が含まれる。活物質は、正極活物質または負極活物質として作用するものであり、充放電の際には、ナトリウムイオンの吸蔵・放出を行うことができる。
【0044】
正極活物質としては、NaCrO、Na0.7MnO、NaFe0.2Mn0.4Ni0.4等の層状ナトリウム遷移金属酸化物結晶やNaFeP、NaFePO、Na(PO等の、Na、M(MはCr、Fe、Mn、Co及びNiから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素)、P、Oを含むナトリウム遷移金属リン酸塩結晶等の活物質結晶を挙げることができる。
【0045】
特に、Na、M、P及びOを含む結晶は、高容量で化学的安定性に優れるため好ましい。なかでも、空間群P1またはP−1に属する三斜晶系結晶、特に一般式NaMyP(1.20≦x≦2.80、0.95≦y≦1.60)で表される結晶が、サイクル特性に優れるため好ましい。
【0046】
負極活物質としては、Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶、Sn、Bi及びSbから選ばれる少なくとも1種の金属結晶等の活物質結晶を挙げることができる。
【0047】
Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶は、サイクル特性に優れるため好ましい。さらに、Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶が、Na及び/またはLiを含むと、充放電効率(充電容量に対する放電容量の比率)が高まり、高い充放電容量を維持することができるため好ましい。なかでも、Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶が、斜方晶系結晶、六方晶系結晶、立方晶系結晶または単斜晶系結晶、特に空間群P21/mに属する単斜晶系結晶であれば、大電流で充放電しても容量の低下が起こりにくいため好ましい。斜方晶系結晶としては、NaTi等が、六方晶系結晶としては、NaTiO、NaTi13、NaTiO、LiNbO、LiNbO、LiNbO、LiNbO、LiTi等が、立方晶系結晶としては、NaTiO、NaNbO、LiTi12、LiNbO等が、単斜晶系結晶としては、NaTi13、NaTi、NaTiO、NaTi12、NaTi、NaTi19、NaTi、NaTi、Li1.7Nb、Li1.9Nb、Li12Nb1333、LiNb等が、空間群P21/mに属する単斜晶系結晶としては、NaTi等が挙げられる。
【0048】
Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶は、さらに、B、Si、P及びGeから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの成分は、活物質結晶とともに非晶質相を形成させやすくし、ナトリウムイオン伝導性を向上させる効果を有する。
【0049】
その他に、Sn、Bi及びSbから選ばれる少なくとも1種の金属結晶、またはSn、Bi及びSbから選ばれる少なくとも1種を含有するガラスを使用することができる。これらは、高容量であり、大電流で充放電しても容量の低下が起こりにくいため好ましい。
【0050】
正極層及び負極層は、活物質とナトリウムイオン伝導性固体電解質とのコンポジットからなる電極合材層としてもよい。ナトリウムイオン伝導性固体電解質は、活物質と対極との間のナトリウムイオン伝導パスとして作用し、ナトリウムイオンの伝導性に優れ、電子絶縁性の高い結晶である。ナトリウムイオン伝導性固体電解質がなければ、活物質と対極との間のナトリウムイオンの移動抵抗が高くなり、充放電容量や電池電圧が低下しやすくなる。
【0051】
ナトリウムイオン伝導性固体電解質としては、上述のベータアルミナ系固体電解質の粉末を使用することができる。その他、ナトリウムイオン伝導性固体電解質として、Al、Y、Zr、Si及びPから選ばれる少なくとも1種、Na及びOを含む結晶が挙げられる。当該ナトリウムイオン伝導性固体電解質はナトリウムイオン伝導性に優れ、電子絶縁性が高く、さらに安定性に優れるため好ましい。
【0052】
ナトリウムイオン伝導性結晶としては、一般式NaA1A2(A1はAl、Y、Yb、Nd、Nb、Ti、Hf及びZrから選択される少なくとも1種、A2はSi及びPから選択される少なくとも1種、s=1.4〜5.2、t=1〜2.9、u=2.8〜4.1、v=9〜14)で表される化合物からなることが好ましい。ここで、A1はY、Nb、Ti及びZrから選択される少なくとも1種であることが好ましく、s=2.5〜3.5、t=1〜2.5、u=2.8〜4、v=9.5〜12の範囲であることが好ましい。このようにすることでイオン伝導性に優れた結晶を得ることができる。
【0053】
特に、ナトリウムイオン伝導性結晶はNASICON結晶であることが好ましい。NASICON結晶としては、NaZrSiPO12、Na3.2Zr1.3Si2.20.810.5、NaZr1.6Ti0.4SiPO12、NaHfSiPO12、Na3.4Zr0.9Hf1.4Al0.6Si1.21.812、NaZr1.7Nb0.24SiPO12、Na3.6Ti0.20.8Si2.8、NaZr1.880.12SiPO12、Na3.12Zr1.880.12SiPO12、Na3.6Zr0.13Yb1.67Si0.112.912等の結晶が好ましく、特にNa3.12Zr1.880.12SiPO12がナトリウムイオン伝導性に優れるため好ましい。
【0054】
ナトリウムイオン伝導性結晶が、単斜晶系結晶、六方晶系結晶または三方晶系結晶であると、ナトリウムイオンの伝導性がさらに高くなるため好ましい。
【0055】
その他にも、ナトリウムイオン伝導性固体電解質として、NaYSi12を用いることができる。
【0056】
正極層及び負極層はさらに導電助剤を含有することが好ましい。導電助剤は、電極の高容量化やハイレート化を達成するために添加される成分である。導電助剤の具体例としては、アセチレンブラックやケッチェンブラック等の高導電性カーボンブラック、黒鉛、コークス等や、Ni粉末、Cu粉末、Ag粉末等の金属粉末等が挙げられる。なかでも、極少量の添加で優れた導電性を発揮する高導電性カーボンブラック、Ni粉末、Cu粉末のいずれかを用いることが好ましい。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
表1〜3は実施例(No.1〜10)及び比較例(No.11〜15)を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
(a)スラリーの作製
炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化イットリウム(Y)を用いて、表1〜3に記載の組成となるように原料粉末を調製した。エタノールを媒体として、原料粉末を4時間湿式混合した。エタノールを蒸発させた後、バインダーとしてアクリル酸エステル系共重合体(共栄社化学製オリコックス1700)、可塑剤としてフタル酸ベンジルブチルを用い、原料粉末:バインダー:可塑剤=83.5:15:1.5(質量比)となるように秤量し、N−メチルピロリドンに分散させた後、自転・公転ミキサーで十分に撹拌してスラリー化した。
【0063】
(b)グリーンシートの作製
PETフィルム上に、ドクターブレードを用いて上記で得られたスラリーを塗布し、70℃で乾燥することによりグリーンシートを得た。
【0064】
(c)グリーンシートのプレス及び焼成
得られたグリーンシートを、等方圧プレス装置を用いて90℃かつ表1〜3に記載の圧力で5分間プレスした。プレス後のグリーンシートを1600℃で30分間焼成することにより固体電解質シートを得た。なお、No.14ではプレスを行わなかった。また、No.15では、一軸プレス装置(NPaシステム製N4028−00)を用いて90℃かつ表3に記載の圧力で5分間プレスを行った。No.6及びNo.15の試料の断面のSEM画像を図1及び2に示す。
【0065】
(d)イオン伝導値の測定
固体電解質シートの表面にイオンブロッキング電極として金電極を形成した後、交流インピーダンス法により1〜10Hzの周波数範囲で測定を行い、コールコールプロットから抵抗値を求めた。得られた抵抗値からイオン伝導値を算出した。なお、測定は18℃で行った。結果を表1に示す。
【0066】
(e)空隙率の測定
固体電解質シートの破断面をSEM(日立S−3400N type II)にて3000倍で観察し、SEM画像を得た。次いで、得られたSEM画像を画像処理ソフト(三谷商事株式会社製Winroof)を用いて、判別分析法により二値化処理した。さらに、二値化した画像について空隙部分の面積割合を算出し、その値を空隙率とした。結果を表1〜3に示す。
【0067】
(f)ナトリウムイオン全固体二次電池の作製
(f−1)正極活物質結晶前駆体粉末の作製
メタリン酸ナトリウム(NaPO)、酸化第二鉄(Fe)及びオルソリン酸(HPO)を原料とし、モル%で、NaO 40%、Fe 20%、P 40%となるように原料粉末を調合し、1250℃にて45分間、大気雰囲気中にて溶融を行った。その後、一対のロールに溶融ガラスを流し込み、急冷しながらフィルム状に成形することにより、正極活物質結晶前駆体を作製した。
【0068】
得られた正極活物質結晶前駆体について、φ20mmのZrO玉石を使用したボールミル粉砕を5時間行い、目開き120μmの樹脂製篩に通過させ、平均粒子径3〜15μmのガラス粗粉末を得た。次いで、このガラス粗粉末に対し、粉砕助剤にエタノールを用い、φ3mmのZrO玉石を使用したボールミル粉砕を80時間行うことで、平均粒子径0.7μmの正極活物質結晶前駆体粉末を得た。
【0069】
析出される活物質結晶を確認するため、質量%で、得られた正極活物質結晶前駆体粉末 93%、アセチレンブラック(TIMCAL社製 SUPER C65) 7%を十分に混合した後、窒素と水素の混合ガス雰囲気(窒素96体積%、水素4体積%)中450℃にて1時間熱処理を行った。熱処理後の粉末について粉末X線回折パターンを確認したところ、空間群P−1に属する三斜晶系結晶(NaFeP)由来の回折線が確認された。なお、粉末X線回折パターンは、X線回折装置(RIGAKU社 RINT2000)を用いて測定した。
【0070】
(f−2)ナトリウムイオン伝導性結晶粉末(ナトリウムイオン伝導性固体電解質粉末)の作製
炭酸ナトリウム(NaCO)、酸化アルミニウム(Al)及び酸化マグネシウム(MgO)を原料とし、モル%で、NaO 13.0%、Al 80.2%、MgO 6.8%となるように原料粉末を調合し、大気雰囲気中1250℃にて4時間焼成を行った。焼成後の粉末について、φ20mmのAl玉石を使用したボールミル粉砕を24時間行った。その後、空気分級することにより、平均粒子径D50 2.0μmの粉末を得た。得られた粉末を、大気雰囲気中1640℃にて1時間熱処理を行うことにより、ナトリウムイオン伝導性結晶粉末を得た。得られたナトリウムイオン伝導性結晶粉末は、速やかに露点−40℃以下の環境に移し、保存した。
【0071】
(f−3)試験電池の作製
質量%で、正極活物質結晶前駆体粉末 60%、ナトリウムイオン伝導性結晶粉末 35%、アセチレンブラック(TIMCAL社製 SUPER C65) 5%となるように秤量し、メノウ製の乳鉢及び乳棒を用いて約30分間混合した。混合した粉末100質量部に、10質量%のポリプロピレンカーボネート(住友精化株式会社製)を含有したN−メチルピロリドンを20質量部添加して、自転公転ミキサーを用いて十分に撹拌し、スラリー化した。なお、上記の操作はすべて露点−40℃以下の環境で行った。
【0072】
得られたスラリーを、上記で得られた固体電解質シートの一方の表面に、1cmの面積、200μmの厚さで塗布し、70℃にて3時間乾燥させた。次に、窒素と水素の混合ガス雰囲気(窒素96体積%、水素4体積%)中450℃にて1時間焼成することで固体電解質シートの一方の表面に正極層を形成した。得られた正極層についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(NaFeP)及びナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3mに属する三方晶系結晶(β”−アルミナ[(Al10.32Mg0.6816)(Na1.68O)])由来の回折線が確認された。
【0073】
正極層の表面にスパッタ装置(サンユー電子株式会社製 SC−701AT)を用いて厚さ300nmの金電極からなる集電体を形成した。その後、露点−60℃以下のアルゴン雰囲気中にて、対極となる金属ナトリウムを固体電解質シートの正極層が形成された層とは反対の表面に圧着し、コインセルの下蓋に載置した後、上蓋を被せてCR2032型試験電池を作製した。
【0074】
(f−4)充放電試験
得られた試験電池を用いて30℃で充放電試験を行い、単位体積あたりの放電容量を測定した。結果を表1に示す。充放電試験において、充電(正極活物質からのナトリウムイオン放出)は、開回路電圧(OCV)から4.3VまでのCC(定電流)充電により行い、放電(正極活物質へのナトリウムイオン吸蔵)は、4.3Vから2VまでCC放電により行った。Cレートは0.01Cとした。なお、放電容量は、ナトリウムイオン全固体二次電池の単位体積当たりから放電された電気量とした。
【0075】
表1〜3から明らかなように、No.1〜10の試料は厚みが0.15〜0.45mm、空隙率が5.2〜7.2%であり、イオン伝導値が2.0〜6.5Sと大きくなった。また、放電容量も0.52〜1.67Ah/cmと大きくなった。一方、No.11〜13の試料は厚みが1.1〜1.7mm、No.15の試料は空隙率が64.7%であり、イオン伝導値が0.1〜0.81Sと小さかった。また、放電容量も0.08〜0.23Ah/cmと小さかった。図1及び2を比較すると、実施例であるNo.6の試料(図1)のほうが、比較例であるNo.15(図2)の試料よりも、構成粒子の密着性が高く、緻密性に優れることがわかる。なお、No.14の試料は、焼成時の収縮によりシート形状を維持できなかったため、イオン伝導値を測定できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の方法により得られる固体電解質シートは、ナトリウムイオン全固体二次電池、ナトリウム−硫黄電池等の電池用途の他、COセンサやNOセンサ等のガスセンサ用の固体電解質としても好適である。
図1
図2