特許第6861952号(P6861952)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電気硝子株式会社の特許一覧

特許6861952波長変換部材及びそれを用いてなる発光デバイス
<>
  • 特許6861952-波長変換部材及びそれを用いてなる発光デバイス 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861952
(24)【登録日】2021年4月2日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】波長変換部材及びそれを用いてなる発光デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/50 20100101AFI20210412BHJP
   C03C 14/00 20060101ALI20210412BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20210412BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20210412BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20210412BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   H01L33/50
   C03C14/00
   C03C3/091
   C03C3/093
   C09K11/08 G
   C09K11/64
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-191631(P2019-191631)
(22)【出願日】2019年10月21日
(62)【分割の表示】特願2015-32745(P2015-32745)の分割
【原出願日】2015年2月23日
(65)【公開番号】特開2020-23438(P2020-23438A)
(43)【公開日】2020年2月13日
【審査請求日】2019年10月21日
(31)【優先権主張番号】特願2014-75123(P2014-75123)
(32)【優先日】2014年4月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 克
【審査官】 山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−055269(JP,A)
【文献】 特開2007−016171(JP,A)
【文献】 特開2012−121968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
C09K 11/00−11/89
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスマトリクス中に無機蛍光体が分散してなる波長変換部材であって、
前記ガラスマトリクスが、モル%で、SiO 40〜53%、B 0.1〜35%、Al 0.1〜10%、LiO 0〜10%、NaO 0〜10%、KO 0〜10%、LiO+NaO+KO 0.1〜10%(ただしLiO、NaO、KOから選ばれる少なくとも2種以上を含む)、MgO 0〜45%、CaO 0〜45%、SrO 0〜45%、BaO 0〜45%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.1〜45%、及びZnO 0〜15%を含有し、
(LiO+NaO+KO)/(SiO+B+Al)が0.04〜0.09であり、
前記無機蛍光体が、α−SiAlONであることを特徴とする波長変換部材。
【請求項2】
前記ガラスマトリクスが、SiO+B+Al 55%以上含有することを特徴とする、請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
前記ガラスマトリクスが、LiO、NaO及びKOをそれぞれ0.1%以上含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の波長変換部材。
【請求項4】
前記ガラスマトリクスの軟化点が400〜800℃であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項5】
前記無機蛍光体を0.01〜30質量%含有することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項6】
粉末焼結体からなることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項7】
請求項1〜に記載の波長変換部材、及び、前記波長変換部材に励起光を照射する光源を備えてなることを特徴とする発光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)やレーザーダイオード(LD:Laser Diode)等の発光素子の発する光の波長を別の波長に変換するための波長変換部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、蛍光ランプや白熱灯に変わる次世代の光源として、低消費電力、小型軽量、容易な光量調節という観点から、LEDやLDを用いた光源に対する注目が高まってきている。そのような次世代光源の一例として、例えば特許文献1には、青色光を出射するLED上に、LEDからの光の一部を吸収して黄色光に変換する波長変換部材が配置された光源が開示されている。この光源は、LEDから出射された青色光と、波長変換部材から出射された黄色光との合成光である白色光を発する。
【0003】
波長変換部材としては、従来、樹脂マトリクス中に無機蛍光体を分散させたものが用いられている。しかしながら、当該波長変換部材を用いた場合、LEDからの光により樹脂が劣化し、光源の輝度が低くなりやすいという問題がある。特に、LEDが発する熱や高エネルギーの短波長(青色〜紫外)光によって樹脂マトリクスが劣化し、変色や変形を起こすという問題がある。
【0004】
そこで、樹脂に代えてガラスマトリクス中に無機蛍光体を分散固定した完全無機固体からなる波長変換部材が提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。当該波長変換部材は、母材となるガラスがLEDチップの熱や照射光により劣化しにくく、変色や変形といった問題が生じにくいという特徴を有している。
【0005】
しかしながら、特許文献2及び3に記載の波長変換部材は、製造時の焼成により無機蛍光体が劣化し、輝度劣化しやすいという問題がある。特に、一般照明、特殊照明等の用途においては、高い演色性が求められるため、赤色や緑色といった比較的耐熱性の低い無機蛍光体を使用する必要があり、無機蛍光体の劣化が顕著になる傾向がある。そこで、ガラス組成中にアルカリ金属酸化物を含有させることにより、ガラス粉末の軟化点を低下させた波長変換部材が提案されている(例えば、特許文献4参照)。当該波長変換部材は、比較的低温での焼成により製造可能なため、焼成時における無機蛍光体の劣化を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−208815号公報
【特許文献2】特開2003−258308号公報
【特許文献3】特許第4895541号公報
【特許文献4】特開2007−302858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献4に記載の波長変換部材は、発光強度が経時的に低下しやすいという問題がある。近年のLEDやLD等の光源のさらなる出力増大に伴って、発光強度の経時的な低下はますます顕著になっている。
【0008】
そこで、本発明は、LEDやLDの光を照射した場合に、経時的な発光強度の低下の少ない波長変換部材及びそれを用いてなる発光デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の波長変換部材は、ガラスマトリクス中に無機蛍光体が分散してなり、ガラスマトリクスが、モル%で、SiO 40〜60%、B 0.1〜35%、Al 0.1〜10%、LiO 0〜10%、NaO 0〜10%、KO 0〜10%、LiO+NaO+KO 0.1〜10%、MgO 0〜45%、CaO 0〜45%、SrO 0〜45%、BaO 0〜45%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.1〜45%、及びZnO 0〜15%を含有し、無機蛍光体が、酸化物蛍光体、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体、塩化物蛍光体、酸塩化物蛍光体、ハロゲン化物蛍光体、アルミン酸塩蛍光体及びハロリン酸塩化物蛍光体からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0010】
本発明者等は、波長変換部材における発光強度の経時的な低下が、特にガラス組成中に含まれるアルカリ金属成分やSiO成分の影響を受けることを突き止めた。そのメカニズムは以下のように推察される。
【0011】
組成中にアルカリ金属元素を含有するガラスマトリクスに励起光が照射されると、励起光のエネルギーにより、ガラスマトリクス中の酸素イオンの最外殻に存在する電子が励起され、酸素イオンから離れる。その一部は、ガラスマトリクス中のアルカリイオンと結合して着色中心を形成する(ここで、アルカリイオンが抜けた後には空孔が形成される)。一方、電子が抜けることにより生成した正孔はガラスマトリクス中を移動し、一部はアルカリイオンが抜けた後に形成された空孔に捕えられて着色中心を形成する。ガラスマトリクス中に形成されたこれらの着色中心が励起光や蛍光の吸収源となり、波長変換部材の発光強度が低下すると考えられる。さらに、無機蛍光体から発生する熱(波長変換ロスが原因となって発生する熱)によって、ガラスマトリクス中の電子、正孔、アルカリイオンの移動が活発になる傾向がある。それにより、着色中心の形成が加速され、発光強度が低下しやすくなる。そこで、本発明では、アルカリ金属元素を必須成分として含有しながら、その含有量を上記の通り少なく規制することにより、軟化点の上昇を抑制しつつ、着色中心の発生を抑制している。
【0012】
また、組成中にSiO含有量が多い場合、ガラスマトリクス中においてネットワークフォーマーであるSi−O−Si結合の割合が多くなり、ガラスマトリクス構造が安定化する。そのため、Si−O−Si結合におけるSiとOの間の結合が切断されることによって形成される非架橋酸素が安定して保持され、当該非架橋酸素が着色中心となり発光強度の低下の原因となる。一方、組成中にSiO含有量が少ない場合は、相対的に他の成分の含有量が多くなり、Si−O−Si結合以外の結合が増える(例えば、SiとOの間にBaやNa等の他の元素が入り込む)ことによって、ガラスマトリクス構造の安定性が低下する。その状態において非架橋酸素が形成された場合、Si元素周りの結合状態の安定性が低下しているために、非架橋酸素が安定して保持されにくくなる。その結果、着色中心の形成が抑制される。
【0013】
なお、本発明の波長変換部材におけるガラスマトリクスはアルカリ土類酸化物(MgOを含む)を必須成分として含有する。アルカリ土類酸化物は、ガラスマトリクス中のアルカリ金属イオンや他のイオンの移動を阻害する。その結果、着色中心が形成されにくくなり、発光強度の経時的な低下を抑制することができる。
【0014】
本発明の波長変換部材において、ガラスマトリクスが、LiO、NaO及びKOをそれぞれ0.1%以上含有することが好ましい。
【0015】
本発明の波長変換部材において、ガラスマトリクスの軟化点が400〜800℃であることが好ましい。
【0016】
本発明の波長変換部材は、無機蛍光体を0.01〜30質量%含有することが好ましい。
【0017】
本発明の波長変換部材は、粉末焼結体からなることが好ましい。
【0018】
本発明の発光デバイスは、上記の波長変換部材、及び、波長変換部材に励起光を照射する光源を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、LEDやLDの光を照射した場合に、経時的な発光強度の低下の少ない波長変換部材及びそれを用いてなる発光デバイスを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る発光デバイスの模式的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の波長変換部材は、ガラスマトリクス中に無機蛍光体が分散してなるものである。ガラスマトリクスは、モル%で、SiO 40〜60%、B 0.1〜35%、Al 0.1〜10%、LiO 0〜10%、NaO 0〜10%、KO 0〜10%、LiO+NaO+KO 0.1〜10%、MgO 0〜45%、CaO 0〜45%、SrO 0〜45%、BaO 0〜45%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.1〜45%、及びZnO 0〜15%を含有する。このようにガラス組成範囲を限定した理由を以下に説明する。
【0022】
SiOはガラスネットワークを形成する成分である。SiOの含有量は40〜60%であり、45〜55%であることが好ましい。SiOの含有量が少なすぎると、耐候性や機械的強度が低下する傾向がある。一方、SiOの含有量が多すぎると、発光強度が経時的に低下しやすくなる。また、波長変換部材製造時において焼結温度が高温になり、無機蛍光体が劣化しやすくなる。
【0023】
は溶融温度を低下させて溶融性を著しく改善する成分である。Bの含有量は0.1〜35%であり、1〜30%であることが好ましい。Bの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。また、波長変換部材製造時において焼結温度が高温になり、無機蛍光体が劣化しやすくなる。一方、Bの含有量が多すぎると、発光強度が経時的に低下しやすくなる。また耐候性が低下しやすくなる。
【0024】
なお、SiOとBの割合SiO/B(モル比)の値は1〜7、1〜6.5、1.1〜6、1.15〜5、1.2〜4、1.5〜3.5、特に1.7〜2.5であることが好ましい。SiO/Bの値が大きすぎると、SiOの割合が大きくなって、O元素脱離に起因する着色中心が形成されやすくなり、発光強度が経時的に低下する傾向がある。一方、SiO/Bの値が小さすぎると、Bの割合が大きくなって、耐候性が低下しやすくなる。
【0025】
Alは耐候性や機械的強度を向上させる成分である。Alの含有量は0.1〜10%であり、2〜8%であることが好ましい。Alの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、Alの含有量が多すぎると、溶融性が低下する傾向がある。
【0026】
なお、高い耐候性を達成するためには、SiO+B+Alの含有量を55%以上とすることが好ましく、60%以上とすることがより好ましく、65%以上とすることがさらに好ましく、67%以上とすることが特に好ましく、70%以上とすることが最も好ましい。SiO+B+Alの含有量の上限は特に限定されないが、多すぎると溶融性が低下しやすくなるため、85%以下とすることが好ましく、84%以下とすることがより好ましく、83%以下とすることがさらに好ましい。
【0027】
LiO、NaO及びKOは溶融温度を低下させて溶融性を改善し、軟化点を低下させる成分である。これらの成分の含有量はそれぞれ0〜10%であり、0〜5%であることが好ましく、0.1〜2%であることがより好ましい。これらの成分の含有量が多すぎると、耐候性が低下する傾向がある。
【0028】
なお、LiO+NaO+KOの含有量は0.1〜10%であり、1〜7%であることが好ましく、2〜5%であることがより好ましい。LiO+NaO+KOの含有量が少なすぎると、軟化点が低下しにくくなる。一方、LiO+NaO+KO含有量が多すぎると、耐候性が低下しやすくなり、かつ、LEDやLDの光照射により発光強度が経時的に低下しやすくなる。LiO、NaO及びKOは、2種以上、特に3種を混合して用いることが好ましい。具体的には、LiO、NaO及びKOをそれぞれ0.1%以上含有することが好ましい。このようにすれば、混合アルカリ効果により、軟化点を効率良く低下させることが可能になる。また、各アルカリ酸化物の含有量は同等にすると、混合アルカリ効果が得られやすい。
【0029】
高い耐候性を達成するため、耐候性向上に寄与する成分であるSiO、B及びAlの合量と、耐候性低下の原因となるアルカリ金属酸化物(LiO、NaO及びKO)の含量の比率を適宜調整することが好ましい。具体的には、(LiO+NaO+KO)/(SiO+B+Al)(モル比)が0.2以下であることが好ましく、0.18以下であることがより好ましく、0.15以下であることがさらに好ましい。
【0030】
MgO、CaO、SrO及びBaOは溶融温度を低下させて溶融性を改善し、軟化点を低下させる成分である。また、LEDやLDの光照射による着色中心形成の原因となるイオンの移動を阻害するため、発光強度の経時的な低下を抑制する効果も有する。これらの成分の含有量はそれぞれ0〜45%であり、10〜45%、特に15〜35%であることが好ましい。これらの成分の含有量が多すぎると、耐候性が低下する傾向がある。なお、質量数の大きいBaOは、着色中心形成の原因となるイオンの移動を阻害する効果が大きく、発光強度の経時的な低下を効果的に抑制できる。
【0031】
なお、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量は0.1〜45%であり、0.1〜40%であることが好ましく、0.1〜35%であることがより好ましく、1〜30%であることがさらに好ましく、5〜25%であることが特に好ましい。MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が少なすぎると、軟化点が低下しにくくなり、かつ、発光強度の経時的な低下を抑制する効果が得られにくくなる。一方、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が多すぎると、耐候性が低下しやすくなる。
【0032】
ZnOは溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分である。ZnOの含有量は0〜15%であり、0〜12%であることが好ましく、0〜10%であることがより好ましく、1〜7%であることがさらに好ましい。ZnOの含有量が多すぎると、耐候性が低下する傾向がある。
【0033】
また、上記成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で種々の成分を含有させることができる。例えば、P、La、Ta、TeO、TiO、Nb、Gd、Y、CeO、Sb、SnO、Bi及びZrO等をそれぞれ15%以下、さらには10%以下、特に5%以下、合量で30%以下の範囲で含有させてもよい。またFを含有させることもできる。Fは軟化点を低減する効果があるため、着色中心形成の原因の1つであるアルカリ金属成分の代わりに含有させることにより、軟化点を維持したまま、発光強度の経時的な低下を抑制することができる。Fの含有量はアニオン%で0〜20%、0〜10%、特に0.1〜5%であることが好ましい。
【0034】
ガラスマトリクスの軟化点は400〜800℃であることが好ましく、450〜750℃であることがより好ましく、500〜700℃であることがさらに好ましい。軟化点が低すぎると、機械的強度及び耐候性が低下しやすくなる。一方、軟化点が高すぎると、製造時の焼成により無機蛍光体が劣化しやすくなる。
【0035】
なお一般に、無機蛍光体はガラスよりも屈折率が高い場合が多い。波長変換部材において、無機蛍光体とガラスマトリクスの屈折率差が大きいと、無機蛍光体とガラスマトリクスの界面で励起光が散乱されやすくなる。その結果、無機蛍光体に対する励起光の照射効率が高くなり、発光効率が向上しやすくなる。ただし、無機蛍光体とガラスマトリクスの屈折率差が大きすぎると、励起光の散乱が過剰になり、散乱損失となって逆に発光効率が低下する傾向がある。以上に鑑み、無機蛍光体とガラスマトリクスの屈折率差は0.001〜0.5程度であることが好ましい。また、ガラスマトリクスの屈折率(nd)は1.45〜1.8であることが好ましく、1.47〜1.75であることがより好ましく、1.48〜1.6であることがさらに好ましい。
【0036】
本発明における無機蛍光体は、酸化物蛍光体(YAG蛍光体等のガーネット系蛍光体を含む)、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体、塩化物蛍光体、酸塩化物蛍光体、ハロゲン化物蛍光体、アルミン酸塩蛍光体及びハロリン酸塩化物蛍光体からなる群より選択される少なくとも1種である。これらの無機蛍光体のうち、酸化物蛍光体、窒化物蛍光体及び酸窒化物蛍光体は耐熱性が高く、焼成時に比較的劣化しにくいため好ましい。なお、窒化物蛍光体及び酸窒化物蛍光体は、近紫外〜青の励起光を緑〜赤という幅広い波長領域に変換し、しかも発光強度も比較的高いという特徴を有している。そのため、窒化物蛍光体及び酸窒化物蛍光体は、特に白色LED素子用波長変換部材に用いられる無機蛍光体として有効である。無機蛍光体から発生した熱がガラスマトリクスに伝導するのを抑制するため、被覆処理された無機蛍光体を用いても良い。これにより、ガラスマトリクス中の電子、正孔、アルカリイオンの移動の活発化を抑制し、結果として着色中心の形成を抑制することができる。被覆材としては酸化物が好ましい。なお、上記以外の蛍光体として硫化物蛍光体が挙げられるが、硫化物蛍光体は経時的に劣化したり、ガラスマトリクスと反応したりして発光強度が低下しやすいため、本発明では使用しない。
【0037】
上記無機蛍光体としては、波長300〜500nmに励起帯を有し波長380〜780nmに発光ピークを有するもの、特に青色(波長440〜480nm)、緑色(波長500〜540nm)、黄色(波長540〜595nm)、赤色(波長600〜700nm)に発光するものが挙げられる。
【0038】
波長300〜440nmの紫外〜近紫外の励起光を照射すると青色の発光を発する無機蛍光体としては、(Sr,Ba)MgAl1017:Eu2+、(Sr,Ba)MgSi:Eu2+等が挙げられる。
【0039】
波長300〜440nmの紫外〜近紫外の励起光を照射すると緑色の蛍光を発する無機蛍光体としては、SrAl:Eu2+、SrBaSiO:Eu2+、Y(Al,Gd)12:Ce3+、SrSiON:Eu2+、BaMgAl1017:Eu2+,Mn2+、BaMgSi:Eu2+、BaSiO:Eu2+、BaLiSi:Eu2+、BaAl:Eu2+等が挙げられる。
【0040】
波長440〜480nmの青色の励起光を照射すると緑色の蛍光を発する無機蛍光体としては、SrAl:Eu2+、SrBaSiO:Eu2+、Y(Al,Gd)12:Ce3+、SrSiON:Eu2+、β−SiAlON:Eu2+等が挙げられる。
【0041】
波長300〜440nmの紫外〜近紫外の励起光を照射すると黄色の蛍光を発する無機蛍光体としては、LaSi11:Ce3+等が挙げられる。
【0042】
波長440〜480nmの青色の励起光を照射すると黄色の蛍光を発する無機蛍光体としては、Y(Al,Gd)12:Ce3+、SrSiO:Eu2+が挙げられる。
【0043】
波長300〜440nmの紫外〜近紫外の励起光を照射すると赤色の蛍光を発する無機蛍光体としては、MgSrSi:Eu2+,Mn2+、CaMgSi:Eu2+,Mn2+等が挙げられる。
【0044】
波長440〜480nmの青色の励起光を照射すると赤色の蛍光を発する無機蛍光体としては、CaAlSiN:Eu2+、CaSiN:Eu2+、(Ca,Sr)Si:Eu2+、α−SiAlON:Eu2+等が挙げられる。
【0045】
なお、励起光や発光の波長域に合わせて、複数の無機蛍光体を混合して用いてもよい。例えば、紫外域の励起光を照射して白色光を得る場合は、青色、緑色、黄色、赤色の蛍光を発する無機蛍光体を混合して使用すればよい。
【0046】
波長変換部材の発光効率(lm/W)は、無機蛍光体の種類や含有量、さらには波長変換部材の厚み等によって変化する。無機蛍光体の含有量と波長変換部材の厚みは、発光効率が最適になるように適宜調整すればよい。無機蛍光体の含有量が多くなりすぎると、焼結しにくくなったり、気孔率が大きくなって、励起光が効率良く無機蛍光体に照射されにくくなったり、波長変換部材の機械的強度が低下する等の問題が生じるおそれがある。一方、無機蛍光体の含有量が少なすぎると、所望の発光強度を得ることが困難になる。このような観点から、本発明の波長変換部材における無機蛍光体の含有量は、0.01〜30質量%であることが好ましく、0.05〜25質量%であることがより好ましく、0.08〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0047】
なお、波長変換部材において発生した蛍光を、励起光入射側へ反射させ、主に蛍光のみを外部に取り出すことを目的とした波長変換部材においては、上記の限りではなく、発光強度が最大になるように、無機蛍光体の含有量を多くする(例えば、30〜80質量%、さらには40〜75質量%)ことができる。
【0048】
本発明の波長変換部材には、無機蛍光体以外にも、アルミナ、シリカ、マグネシア等の光拡散材を合量で30質量%まで含有していてもよい。
【0049】
本発明の波長変換部材は粉末焼結体からなることが好ましい。具体的には、ガラス粉末と無機蛍光体粉末を含む混合粉末の焼結体からなることが好ましい。このようにすれば、ガラスマトリクス中に無機蛍光体が均一に分散した波長変換部材を容易に作製することが可能となる。
【0050】
ガラス粉末の最大粒子径Dmaxは200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、105μm以下であることがさらに好ましい。ガラス粉末の平均粒子径D50は0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、2μm以上であることがさらに好ましい。ガラス粉末の最大粒子径Dmaxが大きすぎると、得られる波長変換部材において、励起光が散乱しにくくなり発光効率が低下しやすくなる。また、ガラス粉末の平均粒子径D50が小さすぎると、得られる波長変換部材において、励起光が過剰に散乱して発光効率が低下しやすくなる。
【0051】
なお、本発明において、最大粒子径Dmax及び平均粒子径D50はレーザー回折法により測定した値を指す。
【0052】
ガラス粉末及び無機蛍光体を含む混合粉末の焼成温度は、ガラス粉末の軟化点±150℃以内であることが好ましく、ガラス粉末の軟化点±100℃以内であることがより好ましい。焼成温度が低すぎると、ガラス粉末が流動せず、緻密な焼結体が得られにくい。一方、焼成温度が高すぎると、無機蛍光体成分がガラス中に溶出して発光強度が低下したり、無機蛍光体成分がガラス中に拡散してガラスが着色して発光強度が低下するおそれがある。
【0053】
また、焼成は減圧雰囲気中で行うことが好ましい。具体的には、焼成中の雰囲気は1.013×10Pa未満であることが好ましく、1000Pa以下であることがより好ましく、400Pa以下であることがさらに好ましい。それにより、波長変換部材中に残存する気泡の量を少なくすることができる。その結果、波長変換部材内の散乱因子を低減することができ、発光効率を向上させることができる。なお、焼成工程全体を減圧雰囲気中で行ってもよいし、例えば焼成工程のみを減圧雰囲気中で行い、その前後の昇温工程や降温工程を、減圧雰囲気ではない雰囲気(例えば大気圧下)で行ってもよい。
【0054】
本発明の波長変換部材の形状は特に制限されず、例えば、板状、柱状、半球状、半球ドーム状等、それ自身が特定の形状を有する部材だけでなく、ガラス基板やセラミック基板等の基材表面に形成された被膜状の焼結体等も含まれる。
【0055】
図1に、本発明の発光デバイスの実施形態を示す。図1に示すように、発光デバイス1は波長変換部材2及び光源3を備えてなる。光源3は、波長変換部材2に対して励起光L1を照射する。波長変換部材2に入射した励起光L1は、別の波長の蛍光L2に変換され、光源3とは反対側から出射する。この際、波長変換されずに透過した励起光L1と、蛍光L2との合成光を出射させるようにしてもよい。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
(1)ガラス粉末の作製 表1及び2は実施例で使用するガラス粉末(試料A〜M)及び比較例で使用するガラス粉末(試料N〜P)を示している。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
まず、表1及び2に示すガラス組成となるように原料を調合した。原料を白金坩堝を用いて800〜1500℃の温度で1〜2時間溶融してガラス化し、溶融ガラスを一対の冷却ローラー間に流し出すことによりフィルム状に成形した。フィルム状ガラス成形体をボールミルで粉砕した後、分級して平均粒子径D50が2.5μmのガラス粉末を得た。得られたガラス粉末につき、下記の方法により、軟化点及び耐候性を測定した。
【0061】
軟化点は、ファイバーエロンゲーション法を用い、粘度が107.6dPa・sとなる温度を採用した。
【0062】
耐候性は次のようにして評価した。ガラス粉末を金型で加圧成型して直径1cmの円柱状予備成型体を作製し、表1及び2に記載の焼成温度で焼成することにより円柱状の焼結体試料を得た。平山製作所製HAST試験機PC−242HSR2を用いて試料を121℃、95%RH、2気圧の条件下、300時間保持し、試料表面を観察することによって耐候性を評価した。具体的には、光学顕微鏡観察(×500)にて、試験前後で試料表面に変化がないものは「○」、試料表面にガラス成分が析出していたり、光沢が失われたりしたものを「×」として評価した。
【0063】
(2)波長変換部材の作製 表3〜6は本発明の実施例(試料1〜13、17〜29)及び比較例(14〜16、30〜32)を示している。
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
表1及び2に記載の各ガラス粉末試料に、表3〜6に示す無機蛍光体粉末を所定の質量比で混合して混合粉末を得た。混合粉末を金型で加圧成型して直径1cmの円柱状予備成型体を作製した。予備成型体を焼成した後、得られた焼結体に加工を施すことにより、直径8mm、厚さ0.2mmの円盤状の波長変換部材を得た。なお、焼成温度は、使用したガラス粉末に応じて、表1及び2に記載の焼成温度を採用した。得られた波長変換部材について発光スペクトルを測定し、発光効率を算出した。結果を表3〜6に示す。
【0069】
発光効率は次のようにして求めた。まず、励起波長460nmの光源上に波長変換部材を設置し、積分球内で、波長変換部材上面から発せられる光のエネルギー分布スペクトルを測定した。次に、得られたスペクトルに標準比視感度を掛け合わせて全光束を計算し、全光束を光源の電力で除して発光効率を算出した。
【0070】
次に、上記の波長変換部材を1.2mm角に加工を施し、小片の波長変換部材を得た。小片の波長変換部材を、650mAで通電した発光波長445nmのLEDチップ上に載置し、100時間連続光照射を行った。光照射前及び100時間光照射後の波長変換部材について、積分球内で波長変換部材上面から発せられる光のエネルギー分布スペクトルを、汎用の発光スペクトル測定装置を用いて測定した。得られた発光スペクトルに標準比視感度を掛け合わせることにより、全光束値を算出した。全光束値の変化率は、100時間光照射後の全光束値を、光照射前の全光束値で除して、100を掛けた値(%)で表し、表3〜6に示した。
【0071】
表3及び4から明らかなように、無機蛍光体としてα−SiAlONを使用した場合、実施例である1〜13の波長変換部材は、100時間の光照射後の全光束値が、光照射前の98%以上を維持していたのに対し、比較例である14〜16の波長変換部材は、100時間の光照射後の全光束値が、光照射前の96.5%以下と大きく低下した。
【0072】
表5及び6から明らかなように、無機蛍光体としてYAGを使用した場合、実施例である17〜29の波長変換部材は、100時間の光照射後においても全光束値の低下が確認されなかったのに対し、比較例である30〜32の波長変換部材は、100時間の光照射後の全光束値が、光照射前の98.5%以下と大きく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の波長変換部材は、白色LED等の一般照明、特殊照明(例えば、プロジェクター光源、自動車のヘッドランプ光源)等の構成部材として好適である。
【符号の説明】
【0074】
1 発光デバイス
2 波長変換部材
3 光源
図1