特許第6861953号(P6861953)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6861953-ガラス材及びその製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861953
(24)【登録日】2021年4月2日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】ガラス材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/15 20060101AFI20210412BHJP
   C03C 3/19 20060101ALI20210412BHJP
   C03C 3/068 20060101ALI20210412BHJP
   C03B 19/00 20060101ALI20210412BHJP
   C03B 8/00 20060101ALI20210412BHJP
   G02F 1/09 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   C03C3/15
   C03C3/19
   C03C3/068
   C03B19/00 Z
   C03B8/00 Z
   G02F1/09 501
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2020-43077(P2020-43077)
(22)【出願日】2020年3月12日
(62)【分割の表示】特願2015-228487(P2015-228487)の分割
【原出願日】2015年11月24日
(65)【公開番号】特開2020-114793(P2020-114793A)
(43)【公開日】2020年7月30日
【審査請求日】2020年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太志
【審査官】 長谷川 真一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−150208(JP,A)
【文献】 特開2015−147719(JP,A)
【文献】 L.E. TOPOL et al.,Formation of New Lanthanide Oxide Glasses by Laser Spin Melting and Free-Fall Cooling,Journal of Non-Crystalline Solids,NL,1974年,Volume 15,p. 116-124
【文献】 Narottam P. et al.,Handbook of Glass Properties,英国,Elsevier,1986年,p. 83
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Ybを73%以上、B 1〜27%を含有することを特徴とするガラス材。
【請求項2】
さらに、質量%で、P 0〜27%、SiO 0〜27%を含有することを特徴とする請求項1に記載のガラス材。
【請求項3】
質量%で、B+P+SiO 1〜27%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のガラス材。
【請求項4】
磁気光学素子として用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のガラス材。
【請求項5】
ファラデー回転素子として用いられることを特徴とする請求項4に記載のガラス材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のガラス材を製造するための方法であって、ガラス原料塊を浮遊させて保持した状態で、前記ガラス原料塊を加熱融解させて溶融ガラスを得た後に、前記溶融ガラスを冷却する工程を備えることを特徴とする、ガラス材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光アイソレータ、光サーキュレータ、磁気センサ等の磁気デバイスを構成する磁気光学素子に好適なガラス材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性材料に対して磁場をかけることで、ファラデー効果を示すことが知られている。ファラデー効果とは、磁場中におかれた材料を通過する直線偏光の偏光面を回転させる効果である。このような効果は光アイソレータや磁界センサなどに利用されている。
【0003】
ファラデー効果による旋光度(偏光面の回転角)θは、磁場の強さをH、偏光が通過する物質の長さをLとして、以下の式により表される。式中において、Vは物質の種類に依存する定数であり、ベルデ定数と呼ばれる。ベルデ定数は反磁性体の場合は正の値、常磁性体の場合は負の値となる。ベルデ定数の絶対値が大きいほど、旋光度の絶対値も大きくなり、結果として大きなファラデー効果を示す。
【0004】
θ=VHL
【0005】
従来、ファラデー効果を示すガラス材として、常磁性を示すSiO−B−Al−Tb系のガラス材(特許文献1参照)、P−B−Tb系のガラス材(特許文献2参照)、あるいはP−TbF−RF(Rはアルカリ土類金属)系のガラス材(特許文献3参照)等が知られている。また反磁性を示すガラス材としてPbO−SiO系のガラス材が知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭51−46524号公報
【特許文献2】特公昭52−32881号公報
【特許文献3】特公昭55−42942号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Properties of Glass, Volume 1, (1954), p.545
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のようなテルビウムを含有する常磁性のガラス材は、温度によって磁化率が変化するため、ファラデー回転角が変動するという問題がある。一方、反磁性のガラス材の磁化率は温度依存性が小さいことが知られている。そのため、反磁性ガラス材からなるファラデー回転ガラスを用いることで、温度変化によるファラデー回転角の変化が少ない磁気光学素子を提供することができる。
【0009】
しかしながら、従来の反磁性ガラス材は、常磁性ガラス材と比較して、ベルデ定数の絶対値が小さいという問題がある。近年では磁気デバイスの小型化が進んでいることから、小さな部材でも十分な旋光度を示すよう、さらなるファラデー効果の向上が要求されている。
【0010】
以上に鑑み、本発明は、従来よりも大きいファラデー効果を示す、反磁性のガラス材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のガラス材は、質量%で、Ybを73%以上含有することを特徴とする。 本発明のガラス材は、上記の通りYbを多量に含有することに起因してベルデ定数が正に大きくなり、反磁性を示す。その結果、従来の反磁性ガラス材よりも大きいファラデー効果を示す。また、Ybは波長300〜900nmにおいてほとんど光吸収を持たないため、上記の通り多量に含有しても高い透過率を示しやすいという特徴も有する。なお、上記の通り多量にYbを含有するガラス材は、一般にガラス化が困難である。しかしながら、後述の無容器浮遊法によれば、このようにガラス化困難な組成であっても容易にガラス化することが可能となる。
【0012】
本発明のガラス材は、さらに、質量%で、B 0〜27%、P 0〜27%、SiO 0〜27%、Al 0〜27%を含有することが好ましい。B、P、SiO、Alはガラス骨格を構成する成分であるため、これらの成分を含有させることにより、比較的容易にガラス化を行うことができる。
【0013】
本発明のガラス材は、質量%で、B+P+SiO 0〜27%を含有することが好ましい。なお、本明細書において、「○+○+・・・」は該当する各成分の合量を意味する。
【0014】
本発明のガラス材は、磁気光学素子として用いることができる。例えば、本発明のガラス材は、磁気光学素子の一種であるファラデー回転素子として用いることができる。上記の用途に用いることにより、本発明の効果を享受することができる。
【0015】
本発明のガラス材の製造方法は、上記のガラス材を製造するための方法であって、ガラス原料塊を浮遊させて保持した状態で、ガラス原料塊を加熱融解させて溶融ガラスを得た後に、溶融ガラスを冷却する工程を備えることを特徴とする。
【0016】
一般に、ガラス材は原料を坩堝等の溶融容器内で溶融し、冷却することにより作製される(溶融法)。しかしながら、本発明のガラス材は、基本的にガラス骨格を構成しないYbを上記の通り多量に含有する組成を有しており、ガラス化しにくい材料であるため、溶融法では、溶融容器との接触界面を起点として結晶化が進行してしまうという問題がある。
【0017】
ガラス化しにくい組成であっても、溶融容器との界面での接触をなくすことによりガラス化が可能となる。このような方法として、原料を浮遊させた状態で溶融、冷却する無容器浮遊法が知られている。当該方法を用いると、溶融ガラスが溶融容器にほとんど接触することがないため、溶融容器との界面を起点とする結晶化を防止することができ、ガラス化が可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来よりも大きいファラデー効果を示す、反磁性のガラス材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のガラス材を製造するための装置の一実施形態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のガラス材は、質量%でYbを73%以上含有することを特徴とする。Ybの含有量が少なすぎると、ベルデ定数の絶対値が小さくなり、十分なファラデー効果が得られにくくなる。Ybの含有量は75%以上、特に77%以上であることが好ましい。一方、Ybの含有量が多すぎると、ガラス化が困難になる傾向があるため、95%以下、94%以下、特に92%以下であることが好ましい。
【0021】
本発明のガラス材には、Yb以外にも、以下に示す種々の成分を含有させることができる。なお、以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0022】
は主なガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げる成分である。ただし、Bはベルデ定数の向上に寄与しないため、その含有量が多すぎると十分なファラデー効果が得られにくくなる。従ってBの含有量は0〜27%、1〜25%、特に2〜20%であることが好ましい。
【0023】
はガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げる成分である。ただし、Pはベルデ定数に寄与しないため、その含有量が多すぎると十分なファラデー効果が得られにくくなる。従って、Pの含有量は0〜27%、0〜25%、0〜20%、0〜10%、特に0〜10%(ただし0%を含まない)であることが好ましい。
【0024】
Alは中間酸化物としてガラス骨格を形成し、ガラス化範囲を広げる成分である。ただし、Alはベルデ定数の向上に寄与しないため、その含有量が多すぎると十分なファラデー効果が得られにくくなる。従って、Alの含有量は0〜27%、0〜25%、0〜20%、0〜10%、特に0〜10%(ただし0%を含まない)であることが好ましい。
【0025】
SiOはガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げる成分である。ただし、SiOはベルデ定数に寄与しないため、その含有量が多すぎると十分なファラデー効果が得られにくくなる。従って、SiOの含有量は0〜27%、0〜27%(27%は含まない)、0〜25%、0〜20%、0〜10%、特に0〜10%(ただし0を含まない)であることが好ましい。
【0026】
なお、SiO+Bの含有量は0〜27%、1〜25%、特に2〜20%であることが好ましい。B+Pの含有量は0〜27%、1〜25%、特に2〜20%であることが好ましい。SiO+B+Pの含有量は0〜27%、1〜25%、特に2〜20%であることが好ましい。
【0027】
MgO、CaO、SrO、BaOはガラス化の安定性を高める効果や、化学的耐久性を高める効果がある。ただし、ベルデ定数の向上に寄与しないため、その含有量が多すぎると十分なファラデー効果が得られにくくなる。従って、これらの成分の含有量は各々0〜10%、特に0〜5%であることが好ましい。
【0028】
、Laはガラス化の安定性を高める効果があるが、その含有量が多すぎるとかえってガラス化しにくくなってしまう。よって、これらの成分の含有量は各々0〜10%、特に0〜5%であることが好ましい。
【0029】
Gaはガラス形成能を高め、ガラス化範囲を広げる効果を有する。ただし、その含有量が多すぎると失透しやすくなる。また、Gaはベルデ定数の向上に寄与しないため、その含有量が多すぎると十分なファラデー効果が得られにくくなる。従って、Gaの含有量は0〜6%、特に0〜5%であることが好ましい。
【0030】
フッ素はガラス形成能を高め、ガラス化範囲を広げる効果を有する。ただし、その含有量が多すぎると溶融中に揮発して組成変動したり、ガラス化の安定性に影響を及ぼす恐れがある。従って、フッ素の含有量(F換算)は0〜10%、0〜7%、特に0〜5%であることが好ましい。
【0031】
本発明のガラス材は上記の組成を有することにより、良好なベルデ定数及び可視光透過率を有する。具体的には、本発明のガラス材のベルデ定数は、波長400nmにおいて0.25min/Oe・cm以上、0.28min/Oe・cm以上、0.30min/Oe・cm以上、特に0.32min/Oe・cm以上であることが好ましく、波長600nmにおいて0.08min/Oe・cm以上、0.085min/Oe・cm以上、0.090min/Oe・cm以上、0.095min/Oe・cm以上、特に0.100min/Oe・cm以上であることが好ましい。また、本発明のガラス材の可視光透過率は、波長400nmにおいて50%以上、特に60%以上であることが好ましく、波長600nmにおいて60%以上、70%以上、特に80%以上であることが好ましい。
【0032】
本発明のガラス材は、例えば無容器浮遊法により作製することができる。図1は、無容器浮遊法によりガラス材を作製するための製造装置の一例を示す模式的断面図である。以下、図1を参照しながら、本発明のガラス材の製造方法について説明する。
【0033】
ガラス材の製造装置1は成形型10を有する。成形型10は溶融容器としての役割も果たす。成形型10は、成形面10aと、成形面10aに開口している複数のガス噴出孔10bとを有する。ガス噴出孔10bは、ガスボンベなどのガス供給機構11に接続されている。このガス供給機構11からガス噴出孔10bを経由して、成形面10aにガスが供給される。ガスの種類は特に限定されず、例えば、空気や酸素であってもよいし、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、水素を含有した還元性ガスであってもよい。
【0034】
製造装置1を用いてガラス材を製造するに際しては、まず、ガラス原料塊12を成形面10a上に配置する。ガラス原料塊12としては、例えば、原料粉末をプレス成型等により一体化したものや、原料粉末をプレス成型等により一体化した後に焼結させた焼結体や、目標ガラス組成と同等の組成を有する結晶の集合体等が挙げられる。
【0035】
次に、ガス噴出孔10bからガスを噴出させることにより、ガラス原料塊12を成形面10a上で浮遊させる。すなわち、ガラス原料塊12を、成形面10aに接触していない状態で保持する。その状態で、レーザー光照射装置13からレーザー光をガラス原料塊12に照射する。これによりガラス原料塊12を加熱溶融してガラス化させ、溶融ガラスを得る。その後、溶融ガラスを冷却することにより、ガラス材を得ることができる。ガラス原料塊12を加熱溶融する工程と、溶融ガラス、さらにはガラス材の温度が少なくとも軟化点以下となるまで冷却する工程においては、少なくともガスの噴出を継続し、ガラス原料塊12、溶融ガラス、さらにはガラス材と成形面10aとの接触を抑制することが好ましい。なお、磁場を印加することにより発生する磁力を利用してガラス原料塊12を成形面10a上に浮遊させてもよい。また、加熱溶融する方法としては、レーザー光を照射する方法以外にも、輻射加熱であってもよい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
表1は本発明の実施例及び比較例を示している。
【0038】
【表1】
【0039】
各試料は次のようにして作製した。まず表に示すガラス組成になるように調合した原料をプレス成型し、800〜1400℃で12時間焼結することによりガラス原料塊を作製した。
【0040】
次に、乳鉢中でガラス原料塊を粗粉砕し、0.05〜0.5gの小片とした。得られたガラス原料塊の小片を用いて、図1に準じた装置を用いた無容器浮遊法によってガラス材(直径約1〜15mm)を作製した。なお、熱源としては100W COレーザー発振器を用いた。また、原料塊を浮遊させるためのガスとしてOガスを用い、流量1〜30L/分で供給した。
【0041】
得られたガラス材について、ベルデ定数と透過率を以下のようにして測定した。
【0042】
ベルデ定数は回転検光子法を用いて測定した。具体的には、得られたガラス材を1mmの厚さとなるよう研磨加工し、15kOeの磁場中で波長400〜1100nmでのファラデー回転角を測定し、ベルデ定数を算出した。なお、波長の掃引速度は6nm/分とした。
【0043】
光透過率は分光光度計(島津製作所製UV−3100)を用いて測定した。具体的には、得られたガラス材を1mmの厚さとなるよう研磨加工し、波長300〜1400nmでの透過率を測定することにより得られた光透過率曲線から波長400nm、500nm、600nm、800nmにおける光透過率を読み取った。なお、光透過率は反射も含んだ外部透過率である。
【0044】
表1から明らかなように実施例1〜5のガラス材のベルデ定数は400nmにおいて0.326〜0.494min/Oe・cm、600nmにおいて0.105〜0.159min/Oe・cmであった。なお、実施例1〜5のガラス材は、ベルデ定数の値が正であるため反磁性であることがわかる。また、光透過率はいずれも波長400nmにおいて60%を超えており、また波長500〜800nmにおいては80%を超えており、良好な可視光透過率を示していた。
【0045】
一方、比較例1のガラス材のベルデ定数は400nmにおいて0.241min/Oe・cm、600nmにおいて0.079min/Oe・cmと小さかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のガラス材は、光アイソレータ、光サーキュレータ、磁気センサ等の磁気デバイスを構成する磁気光学素子として好適である。
【符号の説明】
【0047】
1:ガラス材の製造装置
10:成形型
10a:成形面
10b:ガス噴出孔
11:ガス供給機構
12:ガラス原料塊
13:レーザー光照射装置
図1