【実施例1】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
<弾性波送受信プローブを用いた測定装置の構成>
図1は本発明の弾性波送受信プローブを用いた測定装置を示す正面図である。
図2は本発明の弾性波送受信プローブを用いた測定装置を示す背面図である。
本発明の弾性波送受信プローブ1は、発振子として機能する強磁性体コア2と、この強磁性体コア2を受振子として機能させる受信センサ3とから成る磁歪センサ4と、この強磁性体コア2の一部を底部から突出させた有底筒形状の液体充填筒部5と、液体充填筒部5の開口側に形成されたカップ部6とから構成されたウォーターチャンバー7とを備えた送受信プローブである。ウォーターチャンバー7は、カップ部6を検査対象物mに水密にして当て、この液体充填筒部5内に水などの液体を充填した状態で使用する。
【0025】
発明の弾性波送受信プローブ1を用いた測定装置8は、この弾性波送受信プローブ1に、これを試験対象物mであるコンクリート構造物の表面に固定するための吸着機構、位置調節機構14、パルス電流発生装置22等を備えた装置である。
【0026】
図示例の吸着機構は、ウォーターチャンバー7を支持する本体部9の上方に2か所、下方に1か所それぞれに吸着パッド10が取り付けられたものである。これらの3か所に配置された吸着パッド10の中央位置に、送受信プローブ1として機能するウォーターチャンバー7が配置されている。ウォーターチャンバー7のカップ部6が検査対象物mの表面に均等な圧力で接し易くするためである。なお、吸着機構を構成する吸着パッド10は3個に限定されない。
【0027】
それぞれの吸着パッド10は、例えばシリコーンゴム製のような柔軟な合成樹脂素材で構成されている。弾性波送受信プローブ1を検査対象物mに当てる構成(吸着機構)は、ウォーターチャンバー7のカップ部6を検査対象物mの表面に均等な圧力で当てることができれば、図示例のような吸着パッド10に限定されずその他の構成のものを用いることができる。例えば、本体部9を後方から押圧する構造のものを用いることができる。
【0028】
吸着機構を構成する各吸着パッド10には、その中心位置に穴11が開けられ、この穴11にチューブ12を連結し、このチューブ12から吸引装置(図示せず)により吸引するようになっている。そこで、シリコーンゴム製等の柔軟な素材で構成されている吸着パッド10は検査対象物mに容易に吸着させることができる。
【0029】
この本体部9には、この弾性波送受信プローブ1を用いた測定装置8を、検査対象物mに当てる際に持ち手となるハンドル13が2か所に取り付けられている(
図2の背面図参照)。
【0030】
更に、本体部9には位置調節機構14が設けられている。図示例の位置調節機構14は、ウォーターチャンバー7のカップ部6に隣接するように2個のシリコーンゴム製等の柔軟な素材で構成された調節子15が、ウォーターチャンバー7と磁歪センサ4とを収容支持する略箱状のホルダー16と共に、回転板16aに取り付けられている。この回転板16aが回転台16bに回動自在に取り付けられている。この回転台16bは本体部9に取り付けられている。
【0031】
回転板16aには、操作レバー17がカップ部6と反対方向に突出するように取り付けられている。この位置調節機構14により、ウォーターチャンバー7と磁歪センサ4とを収容支持するホルダー16全体が、検査対象物mの表面に均等に接するように調節することができる。
なお、図示例の位置調節機構14は水平方向(xy軸方向)の角度を調節する構成である。これに上下方向(伏角・仰角)への角度を調節する構成を加えて良い。より精緻に位置調節が可能になる。
【0032】
弾性波送受信プローブ1の構成は、ウォーターチャンバー7(カップ部6)を安定した状態で検査対象物mの表面に当てることができる構造であれば、本体部9の形状、吸着パッド10の配置状態は、図示する形状、配置に限定されない。同様に位置調節機構14の構成も図示例に限定されない。
【0033】
<ウォーターチャンバーの構成>
図3は本発明の弾性波送受信プローブ部分を断面にした状態を示す測定装置の側面図である。
図4はウォーターチャンバーの実施例を示し、(a)は平断面図、(b)は側断面図である。
ウォーターチャンバー7は、磁歪センサ4の強磁性体コア2の一部を底部から突出させた有底筒形状の液体充填筒部5と、液体充填筒部5に形成された、検査対象物mに水密状に当てるカップ部6とから成るものである。ウォーターチャンバー7は、磁歪センサ4と共に箱型のホルダー16に収容されている。
【0034】
図示例の液体充填筒部5は、一端にリング状の底板18に強磁性体コア2が貫通固定され、他端の開口にカップ形状のカップ部6を有する。この底板18とカップ部6はベローズ19のようなフレキシブルな構成の部材で連結されている。カップ部6にはシールパッキン20が取り付けられている。検査対象物mと液体充填筒部5から形成された空間に液体を充填したときに水密にするためである。なお、カップ部6が首振り可能であればベローズ19に限定されない。
【0035】
カップ部6は、このベローズ19により磁歪センサ4に対して首振り可能になる。検査対象物mの表面がある程度の傾斜した状態でも適正な角度でカップ部6をその表面に当てることができる。
また、ベローズ19は伸縮が自在になり、検査対象物m表面と磁歪センサ4(強磁性体コア2)先端との間隔を調整することができる。
【0036】
<磁歪センサの構成>
図5は磁歪センサの実施例を示し、(a)は平面図、(b)は側面図である。
ウォーターチャンバー7の液体充填筒部5内の液体を駆動させる磁歪センサ4は、発振子として機能させる導線21が巻回された強磁性体コア2と、強磁性体コア2を受振子として機能させる受信センサ3とから構成されている。図示例の強磁性体コア2は、細長い略コの字型のエレメントを複数枚に積層したものである。各エレメントの間はポリイミド樹脂等の絶縁材により絶縁処理している。積層したエレメント即ち強磁性体コア2の各脚部2aには、それぞれ導線21を巻回してある。
【0037】
例えば、磁歪センサ4は、厚さ0.35mmのエレメントを51枚積層し、各エレメントの間は絶縁材より絶縁処理する。積層したエレメント(強磁性体コア2)の脚部2aには、直径1mmの導線21を片脚あたり15回巻回したものを用いた。但し、これらの数値は一例であってこれに限定されないことは勿論である。
【0038】
<ウォーターチャンバー内における水の充填>
図6はウォーターチャンバー内に水を充填した状態を示す側断面図である。水はグレー部分で表示している。
ウォーターチャンバー7のカップ部6には、液体を注入する注入口6aと、液体を排出する排出口6bをそれぞれ具備している。この注入口6aから水などの液体を注入し、検査対象物mと液体充填筒部5から形成された空間に液体が常時充填されるようにする。なお、余分な液体は排出口6bから排出することで、水圧によりカップ部6(シールパッキン20)と検査対象物mとの接触面から液体が漏れないになっている。このときは内部の液体に気泡が入らないようにする。
なお、一旦検査対象物mと液体充填筒部5から形成された空間に液体を注入した後は、サイホンの原理を利用して、常にこの空間内に液体が充填されるように構成することもできる。
【0039】
本発明の弾性波送受信プローブ1は、磁歪現象を活用したものであり、 水を発信子として駆動かつ検査対象物mであるコンクリート構造物に当てる(カップリング)に利用して、コンクリート構造物(検査対象物m)中へ弾性波を入力する。カップ部6内の水の非圧縮性流体としての特性を利用したものであれば、ウォーターチャンバー7の形状は、検査対象物mと液体充填筒部5から形成された空間に液体(水)が充填され、液体(水)の非圧縮性流体としての特性を利用した構成と磁歪現象を生成する機構を有するものであれば、図示した形状に限定されない。
また、検査対象物mと液体充填筒部5から形成された空間に充填する液体には水を利用したが、非圧縮性流体としての特性を有するものであれば、この水以外のものでも利用できる。
【0040】
本発明の弾性波送受信プローブ1には、コンクリート構造物等の検査対象物mに接する個所が液体(水)であるため、この検査対象物mの表面に凹凸があっても、その凹凸に影響されずに正確な測定ができる。また、送信プローブが液体(水)であるため、従来の打音ハンマ等による検査対象物mを破損、ひび割れといった不具合も生じない。
同様に、検査対象物mからの弾性波について、ウォーターチャンバー7の液体(水)を受信プローブとして受信センサ3で受信する。
【0041】
<弾性波送受信プローブの衝撃弾性波法としての利用方法の動作説明>
図7は本発明の弾性波送受信プローブを駆動させる状態を示す概略構成図である。
本発明の弾性波送受信プローブ1を衝撃弾性波法の測定に利用する方法について説明する。
先ず、検査対象物mの表面に、ウォーターチャンバー7のカップ部6を検査対象物mの表面に当てる。
この検査対象物mと液体充填筒部5から形成された空間に液体を充填する。
液体充填筒部5内に液体を充填した状態で、パルス電流等の電流発生装置22を用いて磁歪センサ4の強磁性体コア2に巻き付けた導線21に、所定電圧の電流を流す。これにより強磁性体コア2が磁化され、この磁化する過程において、強磁性体コア2の結晶は磁化方向に歪む(磁歪現)。強磁性体コア2が歪むことにより、磁歪センサ4が駆動し、弾性波が発生する。
この弾性波が非圧縮性流体の水を発信子として駆動させ、コンクリート構造物(検査対象物m)の表面に衝撃を与える。これによりコンクリート構造物中へ弾性波が入力される。
【0042】
検査対象物mで伝播した弾性波は、検査対象物mの表面に当てた液体充填筒部5内の液体を受信プローブとして、受信センサ3で受信する。受信した弾性波について、反射エコーや波の周波数、位相などを分析し、内部の欠陥、背面空洞の有無、欠陥の位置までの距離を測定する。弾性波の周波数は、20KHz以下で超音波域より低い周波数域を使用する。
【0043】
本発明の弾性波送受信プローブ1を用いた衝撃弾性波法では、衝撃波エネルギーの減衰が少ないため、遠くまで弾性波を伝搬させることができる。この弾性波は超音波より周波数が低いため、厚いコンクリートの探査、大規模なコンクリート構造物の試験、点検が可能である。
【0044】
<弾性波送受信プローブを超音波法としての利用方法>
本発明の弾性波送受信プローブ1を超音波法の測定に利用する方法について説明する。
先ず、検査対象物mの表面に、ウォーターチャンバー7のカップ部6を検査対象物mの表面に当てる。
この検査対象物mと液体充填筒部5から形成された空間に液体を充填する。
液体充填筒部5内に液体を充填した状態で、この状態で、パルス電流等の電流発生装置22を用いて磁歪センサ4の強磁性体コア2に巻き付けた導線21に、所定電圧の電流を流す。これにより強磁性体コア2が磁化され、この磁化する過程において、強磁性体コア2の結晶は磁化方向に歪む(磁歪現)。強磁性体コア2が歪むことにより、磁歪センサ4が駆動し、弾性波が発生する。
この弾性波が非圧縮性流体の水を発信子として駆動させ、コンクリート構造物(検査対象物m)の表面に衝撃を与える。これによりコンクリート構造物中へ弾性波が入力される。
【0045】
検査対象物mで伝播した弾性波は、検査対象物mの表面に当てた液体充填筒部5内の液体を受信プローブとして、受信センサ3で受信する。この受信した弾性波について、その到達時間、波形、周波数、位相などの変化を測定位置で読み取り、欠陥を検出する。弾性波の周波数は20KHz以上の超音波域を使用する。
【0046】
弾性波送受信プローブ1を用いた超音波法では、コンクリート内部のひび割れの測定に適している。この測定方法(超音波法)は、コンクリート構造物の測定の形状・寸法にあまり制約がない。
【0047】
<弾性波伝搬速度の測定試験>
次に、本発明の弾性波送受信プローブ1の弾性波に関する物性の1つである弾性波伝搬速度について測定した結果を示す。
パルス電流発生装置22により磁歪センサ4の導線21に、印加電圧が150V、パルス幅が5μsの電流を流して動作させた。ピーク値(絶対値):15Aの電流を流し、強磁性体コア2の表面に貼付けた加速度センサ(図示せず)により、磁歪現象により生じる振動の計測を行った。加速度センサは、図示していないが、例えばシアノアクリレートを主成分とした接着剤により強磁性体コア2の表面に貼付けている。使用した加速度センサの周波数応答(±3dB)は、0.2〜20000Hzである。加速度センサで受信した信号は、サンプリング時間間隔0.05μs、サンプリング数200000個でデジタル化した後、波形収集装置に電圧の時刻歴応答波形として記録した。測定ごとのばらつきを把握するため、測定回数は10回に設定した。
【0048】
<弾性波伝搬速度の測定結果>
図8は測定時にモニタリングした電流波形と加速度センサで受信した時刻歴波形を加速度に変換した振動波形を示すグラフであり、(a)は電流波形、(b)は磁歪センサの振動波形である。
ここで、
図8(b)に示す加速度波形、すなわち磁歪センサ4の振動波形に着目する。先ず、縦軸の最大加速度は、約80Gと極めて大きい値になっていることが確認できる。一方、横軸の時間は、長時間(約1500μs)に渡って磁歪センサ4の振動が継続していることがわかる。
【0049】
図8(a)に示すように、導線21に電流を流すと、強磁性体コア2が磁化方向に歪む。この現象が磁歪であり、これは瞬間的な現象である。磁歪現象が終了した後、磁化方向へ歪んだ強磁性体コア2には、元の状態に戻ろうとする復元力が働く。最大加速度約80Gで振動している強磁性体コア2が元の状態に戻るまでには、慣性力の作用により、当然多くの時間が必要となる。そのため、加速度波形の振動継続時間が長くなった。
【0050】
図9は
図8に示す各波形の立ち下がり、立ち上がり時刻付近(波頭部)を示すグラフであり、(a)は電流波形、(b)は磁歪センサの振動波形である。
続いて、導線21に電流を流し始めた時刻、磁歪現象により磁歪センサ4が振動を開始する時刻及び両者の時刻の差(タイムラグ)の確認をした。図示するように、電流波形の立ち下がり時刻から数μs経過した後に磁歪センサ4が振動していることが確認できる。このタイムラグを算出するため、電流波形の立ち下がり及び磁歪センサ4の振動波形の立ち上がり時刻を所定の方法で求めた。
【0051】
まず、両者の波形を自己回帰モデルで表現した。続いて、それぞれに対して、赤池情報量規準(Akaike Information Criteria、 IC)を適用し、この値が最小になった時刻を立ち下がりあるいは立ち上がり時刻とした。なお、任意の点i=kでのAICkは数1の数式により算出できる。
【0052】
【数1】
【0053】
図示するように、電流波形および磁歪センサの振動波形それぞれに対して数1の数式を適用して得られたAICの時間変動を示す。AICkが最小値を示す時刻が、電流波形の立ち下がりおよび磁歪センサ4の振動波形の立ち上がり時刻になっていることがわかる。表1に、10回の測定で得られた電流波形の立ち下がり時刻、磁歪センサ4の振動波形の立ち上がり時刻及び両者の差分であるタイムラグをそれぞれ示す。
【0054】
【表1】
【0055】
この表より、 推定した立ち下がりあるいは立ち下がり時刻のばらつきは極めて小さいことがわかる。そのため、弾性波伝搬速度を算出する際に使用するタイムラグは、10回の測定から算出したタイムラグの平均値21.9μsを採用した。
【0056】
図10は加速度波形に対して高速フーリエ変換(FFT)を行って算出した周波数スペクトルの一例を示すグラフである。
磁歪センサ4の振動成分の把握を試みた。図示するように、周波数スペクトルは、加速度波形の平均値を算出し、加速度波形の各振幅値からこの平均値を差し引き、直流成分を除去した時刻歴波形に対してFFTを行ったものである。図より、17kHzと18kHzに、単独の鋭いピークが出現していることが確認できる。なお、10回測定した加速度波形から算出した全ての周波数スペクトルにおいて、17kHzおよび18kHzに単独のピークが出現しており、再現性は極めて高かった。これより、磁歪センサ4の振動としては
図9に示す周波数特性を有しており、このような特性を有する弾性波をコンクリート中へ入力しているものと推察できる。
【0057】
<コンクリートの弾性波伝搬速度の測定>
図11は弾性波伝搬速度を測定するためのコンクリートの供試体の概要を示す概略斜視図である。
弾性波伝搬速度を測定するためのコンクリートの供試体31は、高さ1000mm×幅300mm×奥行き1000mmのコンクリート製のものを2本使用した。各供試体31においても、コンクリート表面(高さ1000mm×奥行き1000mm)から深さ50mmの位置に、外形63mmのスパイラルシース32を1本埋設した。また、いずれのスパイラルシース32の内部にも、呼び径32mmのPC鋼棒33を挿入した。スパイラルシース32に対して、PCグラウトを完全に充填したもの(充填供試体)と充填していないもの(未充填供試体)をそれぞれ作製した。なお、弾性波伝搬速度の測定は、図示するように、いずれの供試体31においても、スパイラルシース32が埋設されていないコンクリートのみの箇所で行った。
【0058】
<コンクリートの弾性波伝搬速度の測定方法>
測定は、充填供試体31および未充填供試体31のスパイラルシース32が設置されていないコンクリート部分でそれぞれ実施した。本発明の弾性波送受信プローブ1は、
図12に示すように、スパイラルシース32のかぶり50mm側のコンクリート表面(高さ1000mm×奥行き1000mm)にエアーコンプレッサーを使用して吸着させた。
【0059】
吸着後、本発明の弾性波送受信プローブ1のウォーターチャンバー7内を、アスピレータにより水の中に含まれる空気を極力少なくした水で満たした。これは、空気が多いとコンクリートへ入力する弾性波のエネルギーが小さくなるためである。その後、強磁性体コア2の表面とコンクリート表面との距離が5mmとなるように、位置調節機構14(xy軸ステージ)により磁歪センサ4の位置を微調整した。
【0060】
一方、 弾性波の受信側である加速度センサは、本発明の弾性波送受信プローブ1(磁歪センサ4)を設置したコンクリート表面と対向する面(高さ1000mm×奥行き1000mm)に、磁歪センサ4と加速度センサの両センサの中心が一致するように設置した(図示せず)。
【0061】
パルス電流発生装置22の設定(電圧、パルス幅、電流)、加速度センサの仕様、波形収集装置の設定(サンプリング時間間隔、サンプリング数など)は、上述した測定と全て同じである。なお、測定ごとのばらつきを把握するため、測定回数は10回に設定した。
【0062】
<コンクリートの弾性波伝搬速度の測定結果>
図12は未充填供試体のコンクリート部分において計測した際のコンクリート表面に貼付けた加速度センサで受信した時刻歴波形を加速度に変換した波形を示すグラフであり、(a)は電流波形、(b)は加速度センサの振動波形である。
図12と
図8(b)に示す加速度波形における最大加速度を比較すると、コンクリート表面で受信した最大加速度が、磁歪センサ表面で受信したそれよりも1.5倍程度大きくなった。
【0063】
図13は
図12に示す加速度センサで受信した波形の立ち上がり時刻付近(波頭部)を拡大したものを示すグラフである。数(1)を適用して得られたAICkの時間変動も示し、(a)は電流波形、(b)は加速度センサの受信波形である。
図示するように、AICkが最小値を示す時刻が、加速度センサで受信した波形の立ち上がり時刻に一致していることがわかる。この結果と上述したタイムラグ(導線21に電流を流し始めた時刻と磁歪現象により本発明の弾性波送受信プローブ1(磁歪センサ4)が振動を開始する時刻の差)から、コンクリートの弾性波伝搬速度を算出した。この算出式は数2に示すものである。なお、厳密には、水の弾性波伝搬速度も考慮してコンクリートの弾性波伝搬速度を算出する必要があるが、水が振動する部分の厚さ(磁歪センサ4とコンクリート表面との距離)がいずれの計測でも5mmと一定かつ極めて小さいため、ここではこの影響を無視して計算した。
【0064】
【数2】
【0065】
図14は充填供試体及び未充填供試体で得られた弾性波伝搬速度の10回の平均値をそれぞれ示すグラフである。
図14に、充填供試体31および未充填供試体31で得られた弾性波伝搬速度の10 回の平均値をそれぞれ示す。また、図中には、各供試体で得られた弾性波伝搬速度の最大値と最小値をエラーバーで併せて示している。図より、両供試体ともにばらつき(ここでは、最大値から最小値を引いたものと定義)は100m/s程度と小さく、平均値の差も約80m/sと小さい。しかも、各供試体31で得られた弾性波伝搬速度の全ての値は、衝撃弾性波法や超音波法などのその他の弾性波法で測定したコンクリートの弾性波伝搬速度と概ね同程度の値であることも確認できる。
このように、本発明の弾性波送受信プローブ1は、 コンクリート中に弾性波を入力できることが裏付けられ、かつ、弾性波伝搬速度の測定も可能であることが明らかとなった。
【0066】
<PCグラウト充填状況の評価への適用>
次に、上述した充填供試体31及び未充填供試体31を用いてPCグラウト充填状況の評価への適用について試験した。
【0067】
<PCグラウト充填状況の評価の測定方法>
測定は、
図11に示したように、充填供試体31および未充填供試体31のいずれの場合においても、シース上でそれぞれ計測を行った。本発明の弾性波送受信プローブ1の磁歪センサ4は、シース上のかぶり50mm側のコンクリート表面に設置した。加速度センサは、本発明の弾性波送受信プローブ1(磁歪センサ4)を設置したコンクリート表面と対向する面に、磁歪センサ4と加速度センサの両センサの中心が一致するように設置した。パルス電流発生装置の設定(電圧、パルス幅、電流)、加速度センサの仕様、加速度センサの固定方法、波形収集装置の設定(サンプリング時間間隔、サンプリング数など)は、上述したものと全て同じである。なお、ここでも測定ごとのばらつきを把握することを目的に、測定回数は10回に設定した。
【0068】
<PCグラウト充填状況の評価の測定結果>
図15は充填供試体および未充填供試体のシース上で得られた弾性波伝搬速度の10回の平均値をそれぞれ示すグラフである。
図15に、充填供試体および未充填供試体のシース上で得られた弾性波伝搬速度の10回の平均値をそれぞれ示す。図示するように弾性波伝搬速度は、数1の数式に基づき電流波形の立ち下がりおよび加速度センサで受信した波形の立ち上がり時刻を推定し、それらの結果とタイムラグの値を数2の数式にそれぞれ代入することにより算出した。図中には、各供試体で得られた弾性波伝搬速度の最大値と最小値をエラーバーでそれぞれ示している。
【0069】
図15に示すように、充填供試体31および未 充填供試体31におけるばらつき(最大値から最小値を引いた値)は、それぞれ、約160m/sと約180m/sであった。これらのばらつきは、
図14に示すコンクリート部分でのばらつきよりも、若干ではあるが大きくなった。一方、
図15に示す充填供試体での弾性波伝搬速度の平均値は、
図15の各供試体での平均値よりも小さくなった。これは、弾性波が伝搬する経路内に、シース、PCグラウト、PC鋼棒があることより、弾性波が減衰したことによる影響と推察できる。
【0070】
続いて、
図15に示すように、充填および未充填供試体での平均値を比較すると、未充填供試体31での弾性波伝搬速度が充填供試体でのそれよりも小さくなっていることがわかる。弾性波の伝搬経路内に空洞、すなわちPCグラウト未充填部が存在するため、弾性波が迂回して伝搬した結果、弾性波伝搬速度が小さくなったと考えられる。なお、未充填供試体での弾性波伝搬速度が充填供試体のそれよりも小さくなる傾向は、10回測定したばらつきを考慮しても成立している。
【0071】
続いて、充填供試体31および未充填供試体31で得られた弾性波伝搬速度の各平均値に有意な差があるかを把握するため、統計的帰無仮説検定を行った。その結果,2つの母集団の平均値に有意差があることがわかった。これは、充填供試体31での弾性波伝搬速度の平均値と未充填供試体31でのそれは、異なる母集団から取り出されたものであることを意味している。従って、本発明の弾性波送受信プローブ1(磁歪センサ4)で測定した弾性波伝搬速度からPCグラウト充填状況を適確に評価できることが明らかとなった。
【0072】
なお、本発明は、水の非圧縮性流体としての特性を利用し、衝撃弾性波法と超音波法の特長をそれぞれ有する弾性波の発受信プローブ1として用いることで、再現性のある弾性波特性から、コンクリートの実構造物における内部欠陥や品質の評価への適用が可能であり、精度の高い評価結果が得られれば、上述した発明の実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。