特許第6861972号(P6861972)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6861972乾燥セルロースナノファイバーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861972
(24)【登録日】2021年4月2日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】乾燥セルロースナノファイバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/04 20060101AFI20210412BHJP
   C08B 11/12 20060101ALI20210412BHJP
   C08B 5/00 20060101ALI20210412BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20210412BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20210412BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20210412BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20210412BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20210412BHJP
   C08L 1/04 20060101ALI20210412BHJP
   C08L 1/28 20060101ALI20210412BHJP
   C08L 1/16 20060101ALI20210412BHJP
   C08J 3/03 20060101ALI20210412BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   C08B15/04
   C08B11/12
   C08B5/00
   A61K8/60
   A61K8/73
   A61K47/38
   A61K47/26
   A61K47/10
   C08L1/04
   C08L1/28
   C08L1/16
   C08J3/03
   C08L71/02
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-565538(P2018-565538)
(86)(22)【出願日】2018年1月30日
(86)【国際出願番号】JP2018002847
(87)【国際公開番号】WO2018143150
(87)【国際公開日】20180809
【審査請求日】2020年7月15日
(31)【優先権主張番号】特願2017-18835(P2017-18835)
(32)【優先日】2017年2月3日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】藤槻 薫麗
(72)【発明者】
【氏名】半埜 賢治
【審査官】 三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−140738(JP,A)
【文献】 特開昭63−075001(JP,A)
【文献】 西独国特許出願公開第02509173(DE,A)
【文献】 英国特許出願公開第02061996(GB,A)
【文献】 英国特許出願公開第02021143(GB,A)
【文献】 中国特許出願公開第101589710(CN,A)
【文献】 特開平02−241534(JP,A)
【文献】 特開2015−134873(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/107995(WO,A1)
【文献】 特開2014−118521(JP,A)
【文献】 特開2010−037348(JP,A)
【文献】 特開平11−263877(JP,A)
【文献】 特開平11−106402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 15/04
C08B 5/00
C08B 11/12
C08J 3/03
C08L 1/04
C08L 1/16
C08L 1/28
C08L 71/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン変性セルロースナノファイバーと再分散性改善剤とを混合してアニオン変性セルロースナノファイバーの水性懸濁液を得ること、及び
前記水性懸濁液を乾燥させて乾燥セルロースナノファイバーを得ることを含み、
前記セルロースナノファイバーは、カルボキシル化セルロースナノファイバー、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー及びリン酸エステル化セルロースナノファイバーからなる群から選択されるアニオン変性セルロースナノファイバーであり、
前記再分散性改善剤は、水溶性のノニオン界面活性剤である、
水性分散媒へ再分散させるための乾燥セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
アニオン変性セルロースナノファイバーと再分散性改善剤とを混合してアニオン変性セルロースナノファイバーの水性懸濁液を得ること、及び
前記水性懸濁液を乾燥させることを含み、
前記アニオン変性セルロースナノファイバーは、カルボキシル化セルロースナノファイバー、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー及びリン酸エステル化セルロースナノファイバーからなる群から選択されるアニオン変性セルロースナノファイバーであり、
前記再分散性改善剤は、水溶性のノニオン界面活性剤である、
アニオン変性セルロースナノファイバーの水性分散媒への再分散性改善する方法。
【請求項3】
乾燥セルロースナノファイバーの水性分散媒への再分散性を向上又は改善するための薬剤であって、水溶性のノニオン界面活性剤を含み、
前記乾燥セルロースナノファイバーは、カルボキシル化セルロースナノファイバー、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー及びリン酸エステル化セルロースナノファイバーからなる群から選択されるアニオン変性セルロースナノファイバーである、再分散性改善剤。
【請求項4】
請求項1記載の製造方法により得られる、アニオン変性セルロースナノファイバーと再分散性改善剤を含む水性分散媒へ再分散させるための乾燥組成物であって、
前記アニオン変性セルロースナノファイバーは、カルボキシル化セルロースナノファイバー、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー及びリン酸エステル化セルロースナノファイバーからなる群から選択されるアニオン変性セルロースナノファイバーであり、
前記再分散性改善剤が、水溶性のノニオン界面活性剤を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、乾燥セルロースナノファイバーの製造方法、及び乾燥セルロースナノファイバーの再分散性の改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバー(CNF)は、数nm〜数百nm程度の繊維径までに微細化した植物由来の繊維である。CNFは、環境負荷が少なく、軽量、高強度、高ガスバリア性、熱による小寸法変形、高い比表面積、高い透性、及び水中での高粘性等といった様々な特徴を備える。このため、CNFは、自動車の部材及び食品包装材のみならず、食品、医薬品及び化粧品等といった幅広い分野での利用が見込まれている。
【0003】
CNFは、通常、低濃度の水分散体(湿潤状態)として製造される。しかしながら、水分散体の場合、移送及び保管コストが高いという問題や、菌による汚染といった問題等がある。このため、CNFを乾燥する方法が提案されている(例えば、特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2015/107995
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
乾燥させたCNFは、通常、水等の分散媒に再分散させて使用される。この再分散を行うにあたり、CNFが十分に再分散されないという問題が生じる場合がある。特に、乾燥させたCNFの中でも、乾燥させたアニオン変性CNF、特に2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシラジカル(TEMPO)酸化CNFの再分散性が低いという問題がある。このため、十分な再分散性を維持した状態でCNFを乾燥可能な新たな方法が求められている。
【0006】
本開示は、一態様において、再分散性が向上した乾燥CNFの製造方法及びCNFの再分散性を向上可能な方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一態様において、アニオン変性セルロースナノファイバーと再分散性改善剤とを混合してアニオン変性セルロースナノファイバーの水性懸濁液を得ること、及び前記水性懸濁液を乾燥させて乾燥セルロースナノファイバーを得ることを含み、前記再分散性改善剤は、水溶性のノニオン界面活性剤である、乾燥セルロースナノファイバーの製造方法に関する。
【0008】
本開示は、一態様において、アニオン変性セルロースナノファイバーと再分散性改善剤とを混合してアニオン変性セルロースナノファイバーの水性懸濁液を得ること、及び前記水性懸濁液を乾燥させることを含み、前記再分散性改善剤は、水溶性のノニオン界面活性剤であるセルロースナノファイバーの再分散性改善方法に関する。
【0009】
本開示は、一態様において、乾燥セルロースナノファイバーの水性分散媒への再分散性を向上又は改善するための薬剤であって、水溶性のノニオン界面活性剤を含む再分散性改善剤に関する。
【0010】
本開示は、一態様において、アニオン変性セルロースナノファイバーと再分散性改善剤を含む乾燥組成物であって、前記再分散性改善剤が、水溶性のノニオン界面活性剤を含む乾燥組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、再分散性が向上した乾燥CNFの製造方法、及びCNFの再分散性を向上可能な方法を提供できる。本開示によれば、好ましくは、再分散性が向上した乾燥TEMPO酸化CNFの製造方法、及び乾燥TEMPO酸化CNFの再分散性を向上可能な方法を提供できる。また、本開示によれば、再分散時の分散性が向上した乾燥カルボキシメチル(CM)化CNFの製造方法、及び乾燥CM化CNFの再分散時の分散性を改善可能な方法を提供できる。また、本開示によれば、再分散時の分散性が向上した乾燥リン酸エステル化CNFの製造方法、及び乾燥リン酸エステル化CNFの再分散時の分散性を改善可能な方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、アニオン変性CNFと水溶性のノニオン界面活性剤とを混合した水性懸濁液を乾燥することによって、得られる乾燥CNFの再分散性が改善され、得られる乾燥CNFを水等の分散媒と接触させると、分散性が向上した乾燥CNFの再分散液を得ることができるという知見に基づく。
【0013】
本開示は、水溶性のノニオン界面活性剤が、乾燥CNFを再分散する際の再分散性改善剤として使用できるという知見に基づく。
【0014】
本開示における「再分散性の向上又は改善」としては、一又は複数の実施形態において、本開示の乾燥CNFの製造方法により得られた乾燥CNFを、分散媒と混合して得られる分散液(又は懸濁液)が、水に分散している状態(湿潤状態)のアニオン変性CNFをそのまま(薬剤を添加することなく)乾燥して得られた乾燥物と分散媒とを混合して得られる分散液(又は懸濁液)と比較して、濁度が低い、又は未分散状態のCNF片若しくはゲル化物の量が少ないことをいう。本開示の乾燥CNFの製造方法により得られた乾燥CNFによれば、一又は複数の実施形態において、水等の分散媒に再分散させると、CNFがミクロフィブリル単位又はミクロフィブリル単位に近いレベルでバラバラに分離して再分散させることができる。
【0015】
[アニオン変性CNF]
本開示において「アニオン変性CNF」としては、セルロースを化学処理して得られるセルロースナノファイバーをいい、より具体的には繊維表面が化学処理されたセルロール繊維を解繊することによってナノファイバー化された微細繊維(ナノファイバー)をいう。本開示におけるアニオン変性CNFは、一又は複数の実施形態において、化学処理によりセルロース繊維の表面に電荷を有する。本開示におけるアニオン変性CNFは、一又は複数の実施形態において、バクテリアから生産されるバクテリアセルロース等といった自然由来のセルロースナノファイバーは含まない。
【0016】
化学処理としては、一又は複数の実施形態において、カルボキシメチル(CM)化処理、カルボキシル化(酸化)処理、リン酸エステル化処理等があげられる。
【0017】
[カルボキシメチル(CM)化]
セルロース原料または解繊セルロース繊維のカルボキシメチル化の方法としては、例えば、発底原料としてのセルロースをマーセル化し、その後エーテル化する方法が挙げられる。カルボキシメチル化反応の際は通常溶媒を用いる。溶媒としては、例えば、水、アルコール(例、低級アルコール)およびこれらの混合溶媒が挙げられる。低級アルコールとしては、例えば、具体的にはメタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノールが挙げられる。混合溶媒における低級アルコールの混合割合は、通常下限が60重量%以上であり、通常上限が95重量%以下であり、好ましくは60重量%〜95重量%である。溶媒の量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維に対して、通常3重量倍以上である。また、溶媒の量の上限は特に限定されないが、セルロース原料または解繊セルロース繊維に対して、通常20重量倍以下である。したがって、溶媒の量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維に対して、好ましくは3重量倍〜20重量倍である。
【0018】
マーセル化は、通常セルロース原料または解繊セルロース繊維とマーセル化剤とを混合して行う。マーセル化剤としては、例えば、水酸化アルカリ金属(例、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)が挙げられる。
【0019】
マーセル化剤の使用量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維の無水グルコース残基当たり、下限が通常0.5倍モル以上である。また、上限は通常20倍モル以下である。したがって、マーセル化剤の使用量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維の無水グルコース残基当たり、好ましくは0.5倍モル〜20倍モルである。
【0020】
マーセル化の反応温度の下限は、通常0℃以上であり、好ましくは10℃以上である。上限は、通常70℃以下であり、好ましくは60℃以下である。したがって、マーセル化の反応温度は、通常0℃〜70℃であり、好ましくは、10℃〜60℃である。
【0021】
マーセル化の反応時間の下限は、通常15分間以上であり、好ましくは30分間以上である。下限は、通常8時間以下であり、好ましくは7時間以下である。したがって、マーセル化の反応時間は、通常15分間〜8時間であり、好ましくは、30分間〜7時間である。
【0022】
エーテル化反応は、通常カルボキシメチル化剤をマーセル化後に反応系に添加して行う。カルボキシメチル化剤としては、例えば、モノクロロ酢酸ナトリウムが挙げられる。
【0023】
カルボキシメチル化剤の添加量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維のグルコース残基当たり、下限が、通常0.05倍モル以上である。上限は、通常10.0倍モル以下である。したがって、カルボキシメチル化剤の添加量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維のグルコース残基当たり、通常0.05倍モル〜10.0倍モルである。エーテル化の反応温度は、下限が、通常30℃以上であり、好ましくは40℃以上である。上限は、通常90℃以下であり、好ましくは80℃以下である。したがって、エーテル化の反応温度は、通常30℃〜90℃であり、好ましくは40℃〜80℃である。
【0024】
エーテル化の反応時間は、下限が、通常30分間以上であり、好ましくは1時間以上である。上限は、通常10時間以下であり、好ましくは4時間以下である。したがって、エーテル化の反応時間は、通常30分間〜10時間であり、好ましくは1時間〜4時間である。
【0025】
カルボキシメチル化セルロース繊維またはカルボキシメチル化セルロースナノファイバーの、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定方法としては、例えば、次の方法によって得ることができる。すなわち、1)カルボキシメチル化セルロース繊維またはカルボキシメチル化セルロースナノファイバー(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えて得られた硝酸メタノール溶液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(CM化セルロース塩:例えばNa−CMC)をH−CM化セルロースにする(H−CMC)。3)H−CM化セルロース(絶乾)を1.5〜2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLでH−CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのHSOで過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’−(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(H−CM化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1−0.058×A)
A:H−CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F’:0.1NのNaOHのファクター
F:0.1NのH2SOのファクター
【0026】
なお、本明開示において、変性CNFの調製に用いる変性セルロースの一種である「カルボキシメチル化セルロース」は、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものをいう。したがって、後述する水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロース(CMC)とは区別される。「カルボキシメチル化セルロース」の水分散液を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができる。一方、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースの水分散液を観察しても、繊維状の物質は観察されない。また、「カルボキシメチル化セルロース」はX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるが、水溶性高分子のカルボキシメチルセルロースではセルロースI型結晶はみられない。
【0027】
[カルボキシル化]
本開示において、変性セルロースとしてカルボキシル化(酸化)したセルロースを用いる場合、カルボキシル化セルロース(酸化セルロースとも呼ぶ)は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシル化(酸化)することにより得ることができる。特に限定されるものではないが、カルボキシル化の際には、アニオン変性CNFの絶乾質量に対して、カルボキシル基の量が0.6mmol/g〜2.0mmol/gとなるように調整することが好ましく、1.0mmol/g〜2.0mmol/gになるように調整することがさらに好ましい。
【0028】
カルボキシル化(酸化)方法の一例として、セルロース原料を、N−オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物との存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基(−COOH)またはカルボキシレート基(−COO−)とを有するセルロース繊維を得ることができる。反応時のセルロースの濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。
【0029】
N−オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシラジカル(TEMPO)およびその誘導体(例えば4−ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。
【0030】
N−オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であればよく、特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01mmol〜10mmolが好ましく、0.01mmol〜1mmolがより好ましく、0.05mmol〜0.5mmolがさらに好ましい。また、反応系に対し0.1mmol〜4mmol/L程度が好ましい。
【0031】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.1mmol〜100mmolが好ましく、0.1mmol〜10mmolがより好ましく、0.5mmol〜5mmolがさらに好ましい。
【0032】
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。酸化剤の使用量としては、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.5mmol〜500mmolが好ましく、0.5mmol〜50mmolがより好ましく、1mmol〜25mmolがさらに好ましく、3mmol〜10mmolが最も好ましい。また、例えば、N−オキシル化合物1molに対して1mmol〜40molが好ましい。
【0033】
セルロースのカルボキシル化(酸化)は、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させられる。よって、反応温度は4℃〜40℃が好ましく、また15℃〜30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを8〜12、好ましくは10〜11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱容易性や、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。
【0034】
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5時間〜6時間、例えば、0.5時間〜4時間程度である。
【0035】
また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0036】
カルボキシル化(酸化)方法の別の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50g/m3〜250g/m3であることが好ましく、50g/m3〜220g/m3であることがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100質量部とした際に、0.1質量部〜30質量部であることが好ましく、5質量部〜30質量部であることがより好ましい。オゾン処理温度は、0℃〜50℃であることが好ましく、20℃〜50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1分〜360分程度であり、30分〜360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化および分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、溶液中にセルロース原料を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
【0037】
酸化セルロースのカルボキシル基の量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。
【0038】
[リン酸エステル化]
変性セルロースとして、リン酸エステル化したセルロースを使用できる。当該セルロースは、セルロース原料にリン酸系化合物Aの粉末や水溶液を混合する方法、セルロース原料のスラリーにリン酸系化合物Aの水溶液を添加する方法により得られる。
【0039】
リン酸系化合物Aとしては、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらのエステルが挙げられる。これらは塩の形態であってもよい。これらの中でも、低コストであり、扱いやすく、またパルプ繊維のセルロースにリン酸基を導入して、解繊効率の向上が図れるなどの理由からリン酸基を有する化合物が好ましい。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。これらは1種、あるいは2種以上を併用できる。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊しやすく、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩がより好ましい。特にリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムが好ましい。また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから前記リン酸系化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。リン酸系化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましいが、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3〜7が好ましい。
【0040】
リン酸エステル化セルロースの製造方法の一例として以下の方法を挙げることができる。固形分濃度0.1質量%〜10質量%のセルロース原料の分散液に、リン酸系化合物Aを撹拌しながら添加してセルロースにリン酸基を導入する。セルロース原料を100質量部とした際に、リン酸系化合物Aの添加量はリン元素量として、0.2質量部〜500質量部であることが好ましく、1質量部〜400質量部であることがより好ましい。リン酸系化合物Aの割合が前記下限値以上であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。しかし、前記上限値を超えると収率向上の効果は頭打ちとなるのでコスト面から好ましくない。
【0041】
この際、セルロース原料、リン酸系化合物Aの他に、これ以外の化合物Bの粉末や水溶液を混合してもよい。化合物Bは特に限定されないが、塩基性を示す窒素含有化合物が好ましい。ここでの「塩基性」は、フェノールフタレイン指示薬の存在下で水溶液が桃〜赤色を呈すること、または水溶液のpHが7より大きいことと定義される。本開示で用いる塩基性を示す窒素含有化合物は、本開示の効果を奏する限り特に限定されないが、アミノ基を有する化合物が好ましい。例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられるが、特に限定されない。この中でも低コストで扱いやすい尿素が好ましい。化合物Bの添加量はセルロース原料の固形分100質量部に対して、2質量部〜1000質量部が好ましく、100質量部〜700質量部がより好ましい。反応温度は0℃〜95℃が好ましく、30℃〜90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、1分〜600分程度であり、30分〜480分がより好ましい。リン酸エステル化反応の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度にリン酸エステル化されて溶解しやすくなることを防ぐことができ、リン酸エステル化セルロースの収率が良好となる。得られたリン酸エステル化セルロース懸濁液を脱水した後、セルロースの加水分解を抑える観点から、100℃〜170℃で加熱処理することが好ましい。さらに、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下、好ましくは110℃以下で加熱し、水を除いた後、100℃〜170℃で加熱処理することが好ましい。
【0042】
リン酸エステル化されたセルロースのグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001〜0.40であることが好ましい。セルロースにリン酸基置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、リン酸基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。なお、グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.001より小さいと、十分にナノ解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.40より大きいと、膨潤あるいは溶解するため、ナノファイバーとして得られなくなる場合がある。解繊を効率よく行なうために、上記で得たリン酸エステル化されたセルロース系原料は煮沸した後、冷水で洗浄することで洗浄されることが好ましい。
【0043】
[解繊]
本開示において、解繊する装置は特に限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置を用いて、変性セルロースの水分散体に強力なせん断力を印加することが好ましい。特に、効率よく解繊するには、前記水分散体に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザでの解繊・分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサーなどの公知の混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて、上記の変性セルロースに予備処理を施すことも可能である。解繊装置での処理(パス)回数は、1回でもよいし2回以上でもよく、2回以上が好ましい。
【0044】
変性セルロースの分散処理においては通常、溶媒に変性セルロースを分散する。溶媒は、変性セルロースを分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒(例えば、メタノール等の親水性の有機溶媒)、それらの混合溶媒が挙げられる。食品に使用することから、溶媒は水であることが好ましい。
【0045】
分散体中の変性セルロースの固形分濃度は、通常は0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上、より好ましくは0.3重量%以上である。これにより、セルロース繊維原料の量に対する液量が適量となり効率的である。上限は、通常10重量%以下、好ましくは6重量%以下である。これにより流動性を保持することができる。
【0046】
本開示において、アニオン変性CNFの繊維幅は、一又は複数の実施形態において、1nm〜500nm又は2nm〜100nm程度であり、好ましくは1nm以上20nm未満、2nm以上15nm以下、又は3nm以上5nm以下である。また、アニオン変性CNFの平均アスペクト比は通常100以上である。平均アスペクト比の上限は特に限定されないが、通常は1000以下である。平均アスペクト比は、下記の式により算出することができる:
平均アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0047】
セルロース原料としては、一又は複数の実施形態において、植物性材料、動物性材料、又は藻類等が挙げられる。植物性材料としては、一又は複数の実施形態において、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、布、パルプ、再生パルプ、又は古紙等が挙げられる。パルプとしては、一又は複数の実施形態において、クラフトパルプ(KP)、硫酸パルプ(SP)、溶解亜硫酸パルプ(DSP)、溶解クラフトパルプ(DKP)、粉末セルロース、微結晶セルロース粉末等が挙げられる。動物性材料としては、一又は複数の実施形態において、ホヤ等が挙げられる。本開示におけるアニオン変性CNFは、一又は複数の実施形態においてバクテリアから生産されるバクテリアセルロース及びこれに由来するセルロースは含まない。
【0048】
[乾燥CNFの製造方法]
本開示は、一態様において、アニオン変性CNFと再分散性改善剤とを混合してアニオン変性CNFの水性懸濁液を得ること、及び前記水性懸濁液を乾燥させて乾燥CNFを得ることを含む乾燥CNFの製造方法(本開示の乾燥CNFの製造方法)に関する。本開示の乾燥CNFの製造方法によれば、一又は複数の実施形態において、十分な再分散性を有するフィルム状の乾燥CNF及び/又は粉末状の乾燥CNFを得ることができる。本開示の乾燥CNFの製造方法は、一又は複数の実施形態において、アニオン変性CNFの中でもTEMPO酸化CNFに好ましく利用できる。本開示の乾燥CNFの製造方法によれば、一又は複数の実施形態において、TEMPO酸化CNFの乾燥物(乾燥CNF)の再分散性を向上又は改善することができる。
【0049】
また、本開示の乾燥CNFの製造方法は、一又は複数の実施形態において、CM化CNFに利用できる。本開示の乾燥CNFの製造方法によれば、一又は複数の実施形態において、CM化CNFの乾燥物(乾燥CNF)の再分散時の分散性を向上又は改善することができる。
また、本開示の乾燥CNFの製造方法は、一又は複数の実施形態において、リン酸エステル化CNFに利用できる。本開示の乾燥CNFの製造方法によれば、一又は複数の実施形態において、リン酸エステル化CNFの乾燥物(乾燥CNF)の再分散時の分散性を向上又は改善することができる。
【0050】
本開示の乾燥CNFの製造方法によれば、一又は複数の実施形態において、再分散性が向上された乾燥CNFを得ることができる。得られる乾燥CNFは、特に限定されない一又は複数の実施形態において、十分な再分散性を有しうる。「十分な再分散性を有する」としては、一又は複数の実施形態において、乾燥前のアニオン変性CNF懸濁液と同程度又は遜色のないレベルでの水性分散媒への再分散性を有することが挙げられる。得られる乾燥CNFは、一又は複数の実施形態において、各種化学用品、食品、化粧品、医薬品、飲料、補強材(紙関係を含む)、断熱材、自動車部材、塗料、農薬、建築、電池、家庭雑貨、水処理、洗浄剤等に使用することができる。
【0051】
本開示において「水溶性のノニオン界面活性剤」とは、一又は複数の実施形態において、1%又は5%の濃度で25℃の水と混合した場合に、透明又は曇った状態で溶解するノニオン界面活性剤をいう。
【0052】
水溶性のノニオン界面活性剤のHLBとしては、一又は複数の実施形態において、10以上、12以上、14以上若しくは16以上であり、又は19.5以下である。本開示において「HLB(hydrophilic lipophilic balance)」は、一又は複数の実施形態において、グリフィン式を用いて算出することができる。また、HLBとしては、界面活性剤の製造メーカのカタログ等に記載されている値を使用することもできる。
【0053】
水溶性のノニオン界面活性剤の分子量は、一又は複数の実施形態において、200以上、500以上若しくは1000以上であり、又は5000以下、4000以下若しくは3000以下である。
【0054】
水溶性のノニオン界面活性剤としては、一又は複数の実施形態において、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、又はソルビタン脂肪酸エステルのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0055】
本開示の乾燥CNFの製造方法は、一又は複数の実施形態において、湿潤状態(水に分散している状態)のアニオン変性CNFと、水溶性のノニオン界面活性剤とを混合することを含む。これにより、アニオン変性CNFと水溶性のノニオン界面活性剤とを含む水性懸濁液を得ることができる。
【0056】
アニオン変性CNF(絶乾固形分、100質量部)に対する水溶性のノニオン界面活性剤の配合比率は、一又は複数の実施形態において、5質量部以上、5質量部〜500質量部、5質量部〜400質量部、5質量部〜300質量部又は10質量部〜200質量部であり、より好ましくは30質量部〜350質量部又は30質量部〜150質量部である。
【0057】
アニオン変性CNFがTEMPO酸化CNF等のカルボキシル化CNFである場合、アニオン変性CNF(絶乾固形分、100質量部)に対する水溶性のノニオン界面活性剤の配合比率は、一又は複数の実施形態において、5質量部以上、5質量部〜500質量部、5質量部〜400質量部、5質量部〜300質量部又は10質量部〜200質量部であり、好ましくは30質量部〜250質量部又は45質量部〜150質量部である。
【0058】
アニオン変性CNFがCM化CNFである場合、アニオン変性CNF(絶乾固形分、100質量部)に対する水溶性のノニオン界面活性剤の配合比率は、一又は複数の実施形態において、5質量部以上、10質量部〜500質量部又は30質量部〜400質量部であり、好ましくは50質量部〜350質量部又は75質量部〜350質量部である。
【0059】
アニオン変性CNFがリン酸エステル化CNFである場合、アニオン変性CNF(絶乾固形分、100質量部)に対する水溶性のノニオン界面活性剤の配合比率は、一又は複数の実施形態において、5質量部以上、5質量部〜500質量部、5質量部〜400質量部、5質量部〜300質量部又は10質量部〜200質量部であり、好ましくは30質量部〜250質量部又は45質量部〜150質量部である。
【0060】
本開示の乾燥CNFの製造方法は、一又は複数の実施形態において、アニオン変性CNFとノニオン界面活性剤とを含む水性懸濁液を乾燥させることを含む。水性懸濁液は、一又は複数の実施形態において、薄膜を形成して乾燥させてもよいし、噴霧乾燥させてもよい。これによりアニオン変性CNFとノニオン界面活性剤とを含む乾燥フィルム及び/又は乾燥粉体を得ることができる。
【0061】
本開示において、水性懸濁液の乾燥方法は、特に限定されるものではなく、一又は複数の実施形態において、噴霧乾燥、風乾、熱風乾燥、真空乾燥、及び圧搾等が挙げられる。
【0062】
本開示の乾燥CNFの製造方法により得られた乾燥CNFは、一又は複数の実施形態において、1〜2mm程度に微細化した乾燥CNF0.1gを蒸留水5gに添加し、ポイントミキサーで1分間程度攪拌後、室温で24時間程度放置し、ついで再度ポイントミキサーで1分間程度攪拌した場合に、少なくとも、乾燥前のCNFと同程度又は遜色ないレベルでの再分散性を有する。
【0063】
本開示の乾燥CNFの製造方法により得られた乾燥CNFは、乾燥物であればよく、再分散させる分散媒への分散性をさらに向上させる点から、一又は複数の実施形態において、フィルム状であってもよいし、粉末状であってもよい。
【0064】
[乾燥CNF]
本開示は、一態様において、水溶性のノニオン界面活性剤とアニオン変性CNFとを含む乾燥CNF(本開示の乾燥CNF)に関する。本開示の乾燥CNFは、一又は複数の実施形態において、本開示の乾燥CNFの製造方法により得られることができる。本開示の乾燥CNFは、特に限定されない一又は複数の実施形態において、アニオン変性CNFを主成分とする。本開示の乾燥CNFは、一又は複数の実施形態において、フィルム状であってもよいし、粉末状であってもよい。
【0065】
[CNF再分散物の製造方法]
本開示は、一態様において、CNF再分散物の製造方法(本開示のCNF再分散物の製造方法)に関する。本開示のCNF再分散物の製造方法は、一又は複数の実施形態において、アニオン変性CNFと再分散性改善剤とを含む水性懸濁液を得ること、前記水性懸濁液を乾燥させること、及び得られた乾燥物を分散媒に再分散させることを含む。本開示のCNF再分散液の製造方法は、一又は複数の実施形態において、本開示の乾燥CNFの製造方法により得られた乾燥CNFを分散媒に再分散させることを含む。本開示のCNF再分散物の製造方法によれば、一又は複数の実施形態において、乾燥状態を経ないCNF水性懸濁液又は水性分散液と分散性が同程度又は遜色ないレベルのCNF再分散物を得ることができる。再分散物は、一又は複数の実施形態において、液体であってもよいし、ゲル状物であってもよい。
【0066】
分散媒としては、一又は複数の実施形態において、水等の水性分散媒等があげられる。分散媒は、一又は複数の実施形態において、CNF以外の各種ポリマー等を含んでいてもよい。
【0067】
[CNF再分散性改善方法]
上記の通り、アニオン変性CNFを再分散性改善剤とともに乾燥させることによって、得られる乾燥CNFの再分散性を向上又は改善することができる。よって、本開示は、その他の態様において、アニオン変性CNFと再分散性改善剤とを混合してアニオン変性セルロースナノファイバーの水性懸濁液を得ること、及び前記水性懸濁液を乾燥させることを含むCNFの再分散性改善方法に関する。本開示のCNF再分散性改善方法によれば、一又は複数の実施形態において、アニオン変性CNFの中でもTEMPO酸化CNF、CM化CNF及びリン酸エステル化CNFの乾燥物の再分散性をより向上又は改善することができる。再分散性改善剤及び配合比率は、本開示の乾燥CNFの製造方法と同様である。
【0068】
前記水性懸濁液は、一又は複数の実施形態において、アニオン変性CNF及び再分散時の再分散性改善剤以外の第3の成分を含んでいてもよい。第3の成分としては、一又は複数の実施形態において、水溶性ポリマー等が挙げられる。
【0069】
水性懸濁液の乾燥は、一又は複数の実施形態において、本開示の乾燥CNFの製造方法と同様に行うことができる。
【0070】
[再分散性改善剤]
本開示は、その他の態様において、乾燥セルロースナノファイバーの水性分散媒への再分散性を向上又は改善するための再分散性改善剤(本開示の再分散性改善剤)に関する。本開示の再分散性改善剤は、水溶性のノニオン界面活性剤を含む。本開示の再分散性改善剤は、一又は複数の実施形態において、水性分散媒への再分散性が向上又は改善された乾燥セルロースナノファイバイーの製造において使用することができる。水溶性のノニオン界面活性剤は、上記の通りである。
【0071】
[乾燥組成物]
本開示は、一態様において、アニオン変性セルロースナノファイバーと再分散性改善剤を含む乾燥組成物であって、前記再分散性改善剤が、水溶性のノニオン界面活性剤を含む乾燥組成物(本開示の乾燥組成物ともいう)に関する。
【0072】
本開示の乾燥組成物における再分散性改善剤の割合は、一又は複数の実施形態において、アニオン変性CNF(絶乾固形分)に対して、5質量%以上、5〜500質量%、5〜400質量%、5〜300質量%、又は20〜300質量%10〜200質量%又は20〜300質量%、好ましくは30〜350質量%又は30〜150質量%である。
【0073】
アニオン変性CNFがTEMPO酸化CNFである場合、本開示の乾燥組成物における再分散性改善剤の割合は、一又は複数の実施形態において、TEMPO酸化CNF(絶乾固形分)に対して、5質量%以上、5質量%〜500質量%、5質量%〜400質量%、5質量%〜300質量%又は10質量%〜200質量%であり、好ましくは30質量%〜250質量%又は45質量%〜150質量%である。
【0074】
アニオン変性CNFがCM化CNFである場合、本開示の乾燥組成物における再分散性改善剤の割合は、一又は複数の実施形態において、CM化CNF(絶乾固形分)に対して、5質量%以上、10質量%〜500質量%又は30質量%〜400質量%であり、好ましくは50質量%〜350質量%又は75質量%〜350質量%である。
【0075】
アニオン変性CNFがリン酸エステル化CNFである場合、本開示の乾燥組成物における再分散性改善剤の割合は、一又は複数の実施形態において、リン酸エステル化CNF(絶乾固形分)に対して、5質量%以上、5質量%〜500質量%、5質量%〜400質量%、5質量%〜300質量%又は10質量%〜200質量%であり、好ましくは30質量%〜250質量%又は45質量%〜150質量%である。
【0076】
本開示の乾燥組成物は、一又は複数の実施形態において、アニオン変性CNF及び再分散性改善剤以外の第3の成分を含んでいてもよい。第3の成分としては、一又は複数の実施形態において、水溶性ポリマー等が挙げられる。
【0077】
本開示の乾燥組成物は、一又は複数の実施形態において、フィルム状であっても、固形状であっても、粉末状であってもよい。本開示の乾燥組成物の膜厚は、一又は複数の実施形態において、50μm以上若しくは100μm以上であり、又は1000μm以下若しくは300μm以下である。
【0078】
本開示の乾燥組成物は、一又は複数の実施形態において、アニオン変性CNF及び再分散性改善剤、並びに必要に応じて前記第3の成分を混合し、それを乾燥させることにより製造してもよいし、又は本開示の乾燥CNFと前記第3の成分とを混合し、それを乾燥させることにより製造してもよい。
【0079】
本開示はさらに以下の一又は複数の実施形態に関する。
〔1〕 アニオン変性CNFと再分散性改善剤とを混合してアニオン変性CNFの水性懸濁液を得ること、及び
前記水性懸濁液を乾燥させて乾燥CNFを得ることを含み、
前記再分散性改善剤は、水溶性のノニオン界面活性剤である、乾燥CNFの製造方法
〔2〕 前記アニオン変性CNFが、カルボキシル化CNF又はCM化CNF又はリン酸エステル化セルロースナノファイバーである、〔1〕記載の乾燥CNFの製造方法。
〔3〕 アニオン変性CNFと再分散性改善剤とを混合してアニオン変性CNFの水性懸濁液を得ること、及び
前記水性懸濁液を乾燥させることを含み、
前記再分散性改善剤は、水溶性のノニオン界面活性剤である、CNFの再分散性改善方法。
〔4〕 前記アニオン変性CNFが、カルボキシル化CNF、CM化CNF又はリン酸エステル化CNFである、〔3〕記載の再分散性改善方法。
〔5〕 乾燥CNFの水性分散媒への再分散性を向上又は改善するための薬剤であって、水溶性のノニオン界面活性剤を含む再分散性改善剤。
〔6〕 アニオン変性CNF及び再分散性改善剤を含む乾燥組成物であって、
前記再分散性改善剤が、水溶性のノニオン界面活性剤を含む、乾燥組成物。
〔7〕 前記アニオン変性CNFが、カルボキシル化CNF、CM化CNF又はリン酸エステル化CNFである、〔6〕記載の組成物。
【0080】
以下、実施例及び比較例を用いて本開示をさらに説明する。ただし、本開示は以下の実施例に限定して解釈されない。
【実施例】
【0081】
[カルボキシル化セルロースナノファイバー(アニオン変性CNF1)の製造]
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸ナトリウムが5.5mmol/gになるように添加し、室温にて酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。
反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.6mmol/gであった。これを水でパルプ固形分1.1%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150Mpa)で3回処理して、カルボキシル化セルロースナノファイバー(以下、T−CNFという)の水分散液を得た。平均繊維径は3nm、アスペクト比は250であった。
【0082】
[カルボキシメチル化セルロースナノファイバー(アニオン変性CNF2)の製造]
パルプを混ぜることができる撹拌機に、針葉樹晒クラフトパルプ(日本製紙株式会社製)を乾燥質量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥質量で111g(発底原料の無水グルコース残基当たり2.25倍モル)加え、パルプ固形分が20%(w/v)になるように水を加えた。その後、30℃で30分撹拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを216g(有効成分換算、パルプのグルコース残基当たり1.5倍モル)添加した。30分撹拌した後に、70℃まで昇温し1時間撹拌した。その後、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25のカルボキシメチル化したパルプを得た。これを水でパルプ固形分1.2%(w/v)とし、高圧ホモジナイザにより20℃、150MPaの圧力で5回処理することにより解繊しカルボキシメチル化セルロースナノファイバー(以下、CM−CNFという)を得た。平均繊維径は12nm、アスペクト比は130であった。
【0083】
[リン酸エステル化セルロースナノファイバー(アニオン変性CNF3)の製造]
リン酸二水素ナトリウム二水和物6.75g、リン酸水素二ナトリウム4.83gを19.62gの水に溶解させ、リン酸系化合物の水溶液(以下、「リン酸化試薬」という。)を得た。針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP、水分80%、JIS P8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)580ml)に、パルプ固形分が4%(w/v)になるように水を加えた。その後、ダブルディスクリファイナーを用いて、変則CSF(平織り80メッシュ、パルプ採取量を0.3gとした以外はJIS P8121に準ずる)が200ml、長さ平均繊維長が0.66mmになるまで叩解した。これにより得たセルロース懸濁液をパルプ固形分0.3%(w/v)に希釈し、含水率90%、固形分(絶乾質量)3gのパルプシート(厚み200μm)を抄紙法で得た。このパルプシートを前記リン酸化試薬31.2g(乾燥パルプ100質量部に対してリン元素量として80質量部)に浸漬させ、105℃の送風乾燥機(ヤマト科学株式会社 DKM400)で1時間加熱後、さらに150℃で1時間加熱処理して、セルロース繊維にリン酸基を導入した。次いで、セルロース繊維にリン酸基を導入したパルプシートに500mlのイオン交換水を加え、攪拌洗浄後、脱水した。脱水後のシートを300mlのイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液5mlを少しずつ添加し、pHが12〜13のセルロース懸濁液を得た。その後、このセルロース懸濁液を脱水し、500mlのイオン交換水を加えて洗浄を行った。この脱水洗浄をさらに2回繰り返した。洗浄脱水後に得られたシートにイオン交換水を添加した後、攪拌し、0.5質量%のセルロース懸濁液にした。このセルロース懸濁液を、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス−2.2S)を用いて、21500回転/分の条件で30分間解繊処理して、解繊セルロース(リン酸エステル化セルロースナノファイバー)懸濁液を得た。解繊セルロース懸濁液に含まれるセルロースについて透過型電子顕微鏡により観察したところ、幅4nmの微細繊維状セルロースが含まれていることが確認された。また、X線回折により、セルロースはセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、FT−IRによる赤外線吸収スペクトルの測定により、1230cm-1〜1290cm-1にリン酸基に基づく吸収が見られ、リン酸基の付加が確認された。この時のリン酸基導入量は微細繊維状セルロース1g(質量)あたり2.1mmol/gであった。
【0084】
(実施例1)
表1に示す薬剤を用いて、乾燥アニオン変性CNF(乾燥CNF)の製造及び乾燥CNFの再分散性の評価を行った。アニオン変性CNFは、アニオン変性CNF1(T−CNF、平均繊維幅:3nm、アスペクト比:250)を使用した。
【0085】
[乾燥CNFの製造]
アニオン変性CNF1のパツプ固形分1%(w/v)水性懸濁液に、表1に示す薬剤を粉末のまま添加した。薬剤は、CNF100質量部に対して表1の量(質量部)となるように添加した。表1の実施例で使用した薬剤は、1%又は5%の濃度で25℃の水と混合した場合に、透明又は曇った状態で溶解したことから、いずれも水溶性であった。
薬剤は、懸濁液中のCNF固形分と等量となるように添加した。次いで、スターラー又はポイントミキサーで透明性を帯びる状態になるまで攪拌混合した。得られた液体をテフロン(商標)板又はテフロン(商標)皿の上に塗布し、60℃〜105℃の温風で乾燥し、フィルム状の乾燥CNFを得た。
ブランクでは、薬剤を添加しない以外は、上記と同様に行った。
【0086】
[乾燥CNFの再分散]
フィルム状の乾燥CNFを1mm〜2mm程度に手で微細化し、0.1gを試験管に量り取った。蒸留水5gを添加し、ポイントミキサーで1分間程度攪拌した後、室温で24時間程度放置した。これを再度ポイントミキサーで1分間程度攪拌してアニオン変性CNFを再分散した水性分散液又は水性懸濁液を得た(固形分濃度2%(w/v))。
【0087】
[再分散性の評価]
試験管中の水性分散液又は水性懸濁液を目視により再分散性を評価した。評価は下記の評価基準に基づき行った。その結果を下記表1に示す。
<評価基準>
A:未分散CNF片が完全に認められない
B:微細な未分散CNF片が極微量認められる
C:CNFの分散が全く認められない
【0088】
【表1】
【0089】
表1に示す通り、アニオン系、カチオン系及び両性の薬剤とともに乾燥させた比較例では、いずれも、得られた乾燥CNFを分散させることができなかった。一方、水溶性のノニオン界面活性剤とともに乾燥させた実施例では、得られた乾燥CNFを分散させることができ、再分散性が改善されることが確認できた。
また、ブランクや比較例では、未分散CNFが確認された。これに対し、実施例の試験管では、いずれも、未分散CNFの沈殿物や未分散状態のゲル状物がほとんど確認されなかった。中でも再分散性の評価がAの試験管では、未分散CNFの沈殿物や未分散状態のゲル状物は確認されなかった。また、実施例で使用したノニオン系の薬剤はいずれも、水に対して高い溶解性を示した。
【0090】
[再フィルム化及びゲル化の評価]
表1における再分散性の評価でA又はBと評価された水性分散液について、再フィルム化及びゲル化の評価を行った。
再フィルム化は、水性分散液(再分散液)をテフロン(商標)板の上に2g程度量り取り、70℃〜80℃の温風で十分に乾燥させることにより行った。ゲル化は、水性分散液(再分散液)を入れた試験管中に、20%塩化カルシウム溶液を数滴添加することにより行った。
その結果、いずれもフィルム及びゲルを形成した。つまり、本開示の製造方法により得られた乾燥CNFの物性は、未処理(乾燥処理を行う前)のアニオン変性CNFとは大きな変化がないことが示唆された。
【0091】
(実施例2)
表2に示す薬剤を用いて、アニオン変性CNFとしてアニオン変性CNF2(CM−CNF、平均繊維幅:12nm、アスペクト比:130以上)を使用した以外は、実施例1と同様に乾燥CNFの製造及び再分散性の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0092】
【表2】
【0093】
表2に示す通り、水溶性のノニオン界面活性剤とともにCM化CNFを乾燥させることによって、得られた乾燥CNFを分散させることができ、さらには再分散性が改善されることが確認できた。