特許第6862031号(P6862031)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6862031
(24)【登録日】2021年4月2日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】超高分子量ポリエチレン融着糸
(51)【国際特許分類】
   D02J 1/22 20060101AFI20210412BHJP
   D02G 3/02 20060101ALI20210412BHJP
   D02G 3/26 20060101ALI20210412BHJP
   D02G 3/40 20060101ALI20210412BHJP
   D04C 1/02 20060101ALI20210412BHJP
   D06M 13/02 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   D02J1/22 L
   D02G3/02
   D02G3/26
   D02G3/40
   D04C1/02
   D06M13/02
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2021-500478(P2021-500478)
(86)(22)【出願日】2020年10月20日
(86)【国際出願番号】JP2020039430
【審査請求日】2021年1月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502109267
【氏名又は名称】株式会社デュエル
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】特許業務法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョイエリックユンハ
【審査官】 橋本 有佳
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−517168(JP,A)
【文献】 特表2008−526406(JP,A)
【文献】 特開平9−98698(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104521915(CN,A)
【文献】 特開2005−76149(JP,A)
【文献】 特開平6−211923(JP,A)
【文献】 特開昭60−151311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02J1/00−13/00
D01F6/04
D02G1/00−3/48
D04C1/00−7/00
D06M13/00−15/715
A01K91/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントを含む融着糸であって、
平均分子量が400以上の流動パラフィンを15重量%以上含む、超高分子量ポリエチレン融着糸。
【請求項2】
前記流動パラフィンの平均分子量が430以上である、請求項1に記載の超高分子量ポリエチレン融着糸。
【請求項3】
前記流動パラフィンの平均分子量が450以上490以下である、請求項1に記載の超高分子量ポリエチレン融着糸。
【請求項4】
前記融着糸の単糸繊度が0.7dtex以上2.5dtex以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の超高分子量ポリエチレン融着糸。
【請求項5】
前記融着糸が0を越え2200以下の撚り係数で撚られている、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の超高分子量ポリエチレン融着糸。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の超高分子量ポリエチレン融着糸の複数本が編紐されている、超高分子量ポリエチレン融着糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の超高分子量ポリエチレンフィラメントが融着されている融着糸に関する。
【背景技術】
【0002】
釣り糸や漁業用網などの水産用資材、ロープ、ラケット用ガットなどに使用される糸としては、モノフィラメント糸、及び、複数本のモノフィラメントからなるマルチフィラメント糸が知られている。
例えば、モノフィラメント糸は、表面平滑性に優れ、摩擦抵抗も少ない。このため、モノフィラメント糸を釣り糸として使用した場合、仕掛けを遠くへキャスティングできる。さらに、モノフィラメント糸は、内部に水を抱き込むことがないので、水切れも良い。しかし、モノフィラメント糸は、一般に剛性が高いため、太くすればするほど柔軟性が低下し、釣り糸として利用し難くなる。中でも超高分子量ポリエチレンフィラメントは、高強度であるが、太さに比例して製造が難しくなる上、剛性が大きくなるため、取り扱い難いという問題点がある。
【0003】
一方、マルチフィラメント糸は、モノフィラメントの本数や太さを適宜設定することにより、所望の太さで且つ柔軟性に優れた糸となる。従って、マルチフィラメント糸は、取り扱い易く、例えば、釣り糸として好適に使用できる。特に、超高分子量ポリエチレンマルチフィラメント糸は、高強度でありながら取り扱い易いという利点がある。しかし、超高分子量ポリエチレンマルチフィラメント糸は、内部に水を抱き込みやすいため水切れが悪いという問題点がある。さらに、超高分子量ポリエチレンマルチフィラメント糸は、切断部分のフィラメントがバラけ、毛羽状になるおそれがあるという問題点がある。なお、「バラけ」とは、1つに纏まっていたものが複数のものに分かれることをいう。
モノフィラメント糸のごとく1本の糸のような形態を有するマルチフィラメント糸は、水切れが良く、フィラメントのバラけも抑制できる。以下、モノフィラメント糸のごとく1本の糸のような形態を「モノフィラメント様」という。
【0004】
このような超高分子量ポリエチレンマルチフィラメント糸の問題点を解消するため、マルチフィラメントの各モノフィラメントを融着させた超高分子量ポリエチレン融着糸が知られている(特許文献1乃至4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3669527号公報
【特許文献2】特開2008−75239号公報
【特許文献3】特開2019−31754号公報
【特許文献4】特表2008−517168号公報
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、各フィラメントが十分に融着している超高分子量ポリエチレン融着糸は未だ提供されていない。さらに、仕掛けなどに結んで使用される釣り糸は、高い結節強さが求められる。従って、各フィラメントがバラけないほどに融着性に優れ、さらに、結節強さに優れた超高分子量ポリエチレン融着糸の提供が望まれている。
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の第1の目的は、融着性に優れた超高分子量ポリエチレン融着糸を提供することである。
本発明の第2の目的は、結節強さに優れた超高分子量ポリエチレン融着糸を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的の下、超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントの融着を促進又は補助する物質について様々な角度から検討した。そして、多くの実験を行なった結果、所定の分子量の流動パラフィンを所定量使用することにより、上記目的を達成できることを見出した。
【0009】
本発明の超高分子量ポリエチレン融着糸は、超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントを含む融着糸であって、平均分子量が400以上の流動パラフィンを15重量%以上含む。
【0010】
本発明の好ましい超高分子量ポリエチレン融着糸は、前記流動パラフィンの平均分子量が430以上である。
本発明の好ましい超高分子量ポリエチレン融着糸は、前記流動パラフィンの平均分子量が450以上490以下である。
本発明の好ましい超高分子量ポリエチレン融着糸は、その単糸繊度が0.7dtex以上2.5dtex以下である。
本発明の好ましい超高分子量ポリエチレン融着糸は、0を越え2200以下の撚り係数で撚られている。
本発明の好ましい超高分子量ポリエチレン融着糸は、上記いずれかの超高分子量ポリエチレン融着糸の複数本が編紐されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の超高分子量ポリエチレン融着糸は、融着性に優れているため、各フィラメントにバラけ難い。かかる超高分子量ポリエチレン融着糸は、モノフィラメント様を成し、水切れがよく、さらに、表面平滑性に優れている。
また、本発明の超高分子量ポリエチレン融着糸は、結節強さに優れており、例えば、釣り糸として好適に利用できる。さらに、本発明の好ましい超高分子量ポリエチレン融着糸は、結節強さが糸の結び方に依存し難いため、釣り糸として特に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントの1つの形態を示す正面図。
図2】超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントのもう1つの形態を示す正面図。
図3】超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントのもう1つの形態を示す正面図。
図4】超高分子量ポリエチレン融着糸の製造装置を示す参考図。
図5】含浸装置及び余剰分除去装置の方式を示す参考図。
図6】結節強さを測定する際の糸の結び方を示す参考図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、適宜図面を参照しつつ説明する。
本明細書において、下限値以上上限値以下という表記の数値範囲が、別個に複数記載されている場合、任意の下限値と任意の上限値を選択し、「任意の下限値以上任意の上限値以下」の数値範囲を設定できるものとする。また、「略」は、本発明の属する技術分野において許容される範囲を意味する。
【0014】
[超高分子量ポリエチレン融着糸の概要]
本発明の超高分子量ポリエチレン融着糸は、超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントと、流動パラフィンと、を含み、前記超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントが融着されている。本発明の超高分子量ポリエチレン融着糸は、平均分子量が400以上の流動パラフィンを15重量%以上含んでいることを1つの特徴とする。所定の分子量の流動パラフィンを所定量含む本発明の融着糸は、融着性に優れ、モノフィラメント様を成す。
ここで、「超高分子量ポリエチレン融着糸」は、超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントを構成する各超高分子量ポリエチレンモノフィラメントを融着して得られる糸をいう。「超高分子量ポリエチレンマルチフィラメント」は、各モノフィラメントが融着される前の状態をいい、「超高分子量ポリエチレンモノフィラメント」は、超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントを構成する超高分子量ポリエチレン製長繊維をいう。以下、「超高分子量ポリエチレン」を「UHPE」と記す。
【0015】
[UHPEマルチフィラメント(融着前のUHPEマルチフィラメント)]
UHPEマルチフィラメントは、複数本のUHPEモノフィラメントから構成される。
UHPEは、分子量を高めたポリエチレンであり、例えば、分子量が40万以上のポリエチレンであり、好ましくは分子量が60万以上のポリエチレンである。前記UHPEとしては、140℃以上の融点を有するものが用いられる。UHPEモノフィラメントは、UHPEをいわゆるゲル紡糸して作製されたフィラメントである。
UHPEマルチフィラメントの引張り強度は、19.6cN/dtex以上、好ましくは24.5cN/dtex以上49.0cN/dtex以下、より好ましくは29.4cN/dtex以上39.2cN/dtex以下である。このような高強度なUHPEマルチフィラメントは、例えば、市販品を用いることができる。市販品の例としては、DSM社製の商品名「ダイニーマ」、ハネウエル社製の商品名「スペクトラ」、東洋紡社製の商品名「イザナス」などが挙げられる。
前記引張り強度は、JIS L 1013(2010年)−8.5に準じて測定できる。
【0016】
UHPEモノフィラメントの繊度は、特に限定されない。UHPEモノフィラメントの繊度が余り小さいと、マルチフィラメントにおいて隣接するモノフィラメントの隙間が相対的に小さくなり、流動パラフィンがマルチフィラメントの内部に均等に含浸し難くなって、融着性が低下するおそれがある。かかる観点から、UHPEモノフィラメントの繊度は、例えば、0.5dtex以上であり、好ましくは、1.0dtex以上である。一方、UHPEモノフィラメントの繊度が余り大きいと、マルチフィラメントにおいて隣接するモノフィラメントの隙間が相対的に大きくなり、単位体積当たりのフィラメント間の接合点(融着)が低くなるおそれがある。かかる観点から、UHPEモノフィラメントの繊度は、例えば、5.0dtex以下であり、好ましくは、4.0dtex以下である。
なお、本明細書において、繊度(太さ)の単位である「tex」は、1000m当たりの重量(グラム単位)であり、繊度(太さ)の単位である「dtex」は、10000m当たりの重量(グラム単位)である。本発明において、繊度は、JIS L 1013(2010年)−8.3.1−b)B法に準じて測定できる。
【0017】
UHPEマルチフィラメントは、前記UHPEモノフィラメントの複数本から構成されている。UHPEマルチフィラメントを構成するUHPEモノフィラメントの本数は、特に限定されず、例えば、5本以上5000本以下であり、好ましくは、10本以上2500本以下である。なお、UHPEマルチフィラメントの繊度は、概ね、UHPEモノフィラメントの繊度×UHPEモノフィラメントの本数、で求められる。
UHPEマルチフィラメントは、それを構成する複数本のUHPEモノフィラメントを単に引き揃えた形態でもよく、或いは、複数本のUHPEモノフィラメントを引き揃え且つ撚りを加えた形態でもよく、或いは、複数本のUHPEモノフィラメントを編紐した形態でもよい。前記撚りは、S撚り(右撚り)又はZ撚り(左撚り)のいずれでもよい。また、前記編紐としては、複数本のフィラメントを交互に編み込んだ態様、芯材となるフィラメントの周りに複数本のフィラメントで編み込んだ態様などが挙げられる。なお、編紐に用いるフィラメントに予め撚りが加えられていてもよい。
図1は、引き揃えた複数本のUHPEモノフィラメント3からなるUHPEマルチフィラメント21を示し、図2は、引き揃えた複数本のUHPEモノフィラメント3をS撚りしたUHPEマルチフィラメント22を示し、図3は、引き揃えた複数本のUHPEモノフィラメント3をZ撚りしたUHPEマルチフィラメント23を示す。
【0018】
UHPEマルチフィラメントが加撚されている場合、その撚り係数K1は、特に限定されないが、0を越え5500以下であることが好ましく、1000以上5000以下であることがより好ましく、2000以上4500以下であることがさらに好ましい。前記範囲の撚り係数K1を有するUHPEマルチフィラメントを用いることにより、結節強さ比a/bが0.9以上1.1以下の範囲となるUHPE融着糸を得ることができる。なお、複数本のUHPEモノフィラメントを単に引き揃えた形態のUHPEマルチフィラメントは、撚り係数K1が零である。
UHPEマルチフィラメントの撚り係数K1は、式1:K1=t×D1/2で求められる。ただし、前記式1のtは、UHPEマルチフィラメントの撚り数(回/m)を表し、前記式1のDは、UHPEマルチフィラメントの繊度(tex)を表す。
【0019】
[流動パラフィン]
流動パラフィンは、標準状態下(23℃、1気圧、50%RH)で、無色の液状のパラフィンである。流動パラフィンは、主として炭素数20以上のアルカンの集合物である。
なお、鉱油は、石油、天然ガス及び石炭などの地下資源由来の炭化水素化合物と不純物との混合物の総称である。流動パラフィンは、炭素数20以上のアルカンを精製している点で鉱油とは異なる。
本発明では、平均分子量が400以上の流動パラフィンが用いられ、好ましくは、平均分子量が420以上の流動パラフィンが用いられ、より好ましくは、平均分子量が430以上の流動パラフィンが用いられ、さらに好ましくは、平均分子量が450以上の流動パラフィンが用いられる。このような流動パラフィンをUHPEマルチフィラメントに所定量含有させることにより、融着性に優れたUHPE融着糸を得ることができる。流動パラフィンの平均分子量の上限は、特にないが、余りに大きいと流動性が低下し、マルチフィラメントの内部(各モノフィラメントの隙間)に流動パラフィンが均等に含浸し難くなるおそれがある。かかる観点から、流動パラフィンの平均分子量の上限は、800以下であり、好ましくは、700以下であり、より好ましくは、600以下であり、さらに好ましくは、490以下である。流動パラフィンは、例えば、市販品を用いることができる。市販品の例としては、MORESCO社の商品名「モレスコホワイト」などが挙げられる。
ここで、流動パラフィンの平均分子量は、ガスクロマトグラフィーを用い、標準物質としてノルマルパラフィンを用いて得られた検量線からノルマルパラフィン換算で算出できる。流動パラフィンの平均分子量の具体的な測定方法は、下記実施例に記載の通りである。
【0020】
[UHPE融着糸の製造方法]
本発明のUHPE融着糸の製造方法は、例えば、UHPEマルチフィラメントに平均分子量400以上の流動パラフィンを含浸させる工程、前記流動パラフィンを含むUHPEマルチフィラメントを加熱延伸する工程、を有する。
図4は、UHPE融着糸の製造装置6の一例を示す参考図である。図4中の矢印は、UHPEマルチフィラメント2の進行方向を示す(図5も同様)。
原糸であるUHPEマルチフィラメント2は、糸繰り出し装置61に装填されている。上述のように、撚りが加えられたUHPEマルチフィラメント2を装填してよく、或いは、撚りが加えられていないUHPEマルチフィラメント2を装填してもよい。なお、糸繰り出し装置61と第1延伸装置62の間で、UHPEマルチフィラメント2に撚りを加えてもよい。糸繰り出し装置61から引き出されたUHPEマルチフィラメント2は、第1延伸装置62から第2延伸装置66へと送られている間に延伸される。第1及び第2延伸装置62,66としては、例えば、複数のローラーからなる延伸装置を用いることができる。第1延伸装置62と第2延伸装置66の間には、含浸装置63と、余剰分除去装置64と、加熱装置65と、がこの順で配置されている。前記含浸装置63は、UHPEマルチフィラメント2に流動パラフィンを含浸させる。流動パラフィンの含浸方式は、特に限定されず、例えば、不織布、織布、刷毛又はスポンジなどを用いて流動パラフィンをUHPEマルチフィラメント2に塗布する、流動パラフィンを貯めた浴中にUHPEマルチフィラメント2を通過させる(ディッピング)、スプレーなどを用いて流動パラフィンをUHPEマルチフィラメント2に吹き付ける、などの方式が挙げられる。前記余剰分除去装置64は、流動パラフィンを含浸させた後のUHPEマルチフィラメント2から余分な流動パラフィンを取り除く。その除去方式は、特に限定されず、不織布又は織布などを用いて流動パラフィンを拭い取る、ローラーなどを用いてUHPEマルチフィラメント2の表面の流動パラフィンを取り除く、などの方式が挙げられる。加熱装置65は、流動パラフィンを含浸させた後のUHPEマルチフィラメント2に熱を加える。加熱装置65としては、特に限定されず、オーブンなどが挙げられる。
【0021】
図5は、含浸装置63及び余剰分除去装置64の一例を示す参考図である。
図5の例では、含浸装置63は、流動パラフィンを供給する供給部631と、前記供給部631から供給される流動パラフィンを貯める貯留部632と、前記貯留部632に貯められた流動パラフィンをUHPEマルチフィラメント2に含浸させる含浸部633と、を有する。なお、流動パラフィンが存在する部分に無数のドットを付している。
貯留部632中の流動パラフィンの液面が所定の高さを維持するように、供給部631から貯留部632に流動パラフィンが供給される。含浸部633としては、流動パラフィンが含浸し得る布状体が用いられる。前記布状体としては、流動パラフィンが含浸し得る不織布、フェルト又は不織布とフェルトの複合素材などが挙げられる。その布状体の一方の部分が、貯留部632の流動パラフィン中に浸され、且つ、その布状体の反対部分が、UHPEマルチフィラメント2に接触されている。貯留部632の流動パラフィンは、含浸部633である布状体を伝って、UHPEマルチフィラメント2に接触され且つそれに含浸される。前記含浸部633は、前記貯留部632の液面からUHPEマルチフィラメント2までの距離、並びに、前記UHPEマルチフィラメント2に対する前記布状体の接触面積及び接触圧(接触強さ)などが適宜設定できるように構成されている。含浸部633の前記事項を設定することにより、UHPEマルチフィラメント2に対して流動パラフィンを含浸させる量を調整できる。
余剰分除去装置64は、前記含浸部633の下流側に配置されている。余剰分除去装置64としては、流動パラフィンを吸収し得る布状体が用いられる。前記布状体としては、流動パラフィンを吸収し得る不織布、フェルト又は不織布とフェルトの複合素材などが挙げられる。このような布状体をUHPEマルチフィラメント2の周囲に巻き付けるようにすることにより、UHPEマルチフィラメント2の余剰な流動パラフィンを除去できる。余剰分除去装置64は、前記UHPEマルチフィラメント2に対する前記布状体の接触面積及び接触圧(接触強さ)が適宜設定できるように構成されている。余剰分除去装置64の前記事項を設定することにより、UHPEマルチフィラメント2から余分な流動パラフィンを除去する量を調整できる。
【0022】
糸繰り出し装置61から引き出したUHPEマルチフィラメント2に、含浸装置63及び余剰分除去装置64にて平均分子量400以上の流動パラフィンを含浸させ且つ余剰分を除去する。流動パラフィンをUHPEマルチフィラメント2に含浸させる量と流動パラフィンの除去量とを適宜調整することにより、最終製造物であるUHPE融着糸中に含まれる流動パラフィン量を設定できる。流動パラフィンを含浸させたUHPEマルチフィラメント2を、加熱装置65にて加熱する。前記UHPEマルチフィラメント2の温度が140℃以上158℃以下の範囲となるように、加熱することが好ましい。加熱後、第2延伸装置66にてUHPEマルチフィラメント2を長手方向に延伸することにより、UHPE融着糸1を作製できる。得られたUHPE融着糸1は、糸巻き取り装置67に巻き取られる。第2延伸装置66のローラーの周速を、第1延伸装置62のローラーの周速よりも速くすることにより、適切にUHPEマルチフィラメント2を延伸することができる。延伸倍率は、UHPEの分子鎖の配向を保存又は増加させるために、1.5倍以上2.5倍以下の範囲が好ましい。
なお、図示例では、1段加熱延伸装置を例示したが、延伸の段数、加熱装置の数及び長さなどは適宜変更できる。
【0023】
[UHPE融着糸]
UHPE融着糸は、上述のUHPEマルチフィラメントと、上述の平均分子量が400以上の流動パラフィンと、を含み、前記流動パラフィンの含有率が15重量%以上である。流動パラフィンの含有率は、好ましくは、18重量%であり、より好ましくは、20重量%以上である。流動パラフィンの含有率が余りに大きいと、UHPE融着糸の表面に流動パラフィンが滲み出るおそれがある。かかる観点から、流動パラフィンの含有率は、40重量%以下が好ましく、35重量%以下がより好ましく、25重量%以下がさらに好ましい。
ここで、流動パラフィンの含有率(%)は、含有率(重量%)=(M−N)/N×100、で求められる。前記Mは、流動パラフィンを含むUHPE融着糸の単位長さ当たりの重量を表し、前記Nは、流動パラフィンを含浸させないで加熱延伸処理して得られたUHPE融着糸の単位長さ当たりの重量を表す。流動パラフィンの含有率の具体的な測定方法は、下記実施例に記載の通りである。
【0024】
UHPE融着糸の単糸繊度は、特に限定されないが、余りに小さい又は大きいと融着性が低下するおそれがある。かかる観点から、UHPE融着糸の単糸繊度は、0.7dtex以上2.5dtex以下であることが好ましく、さらに、0.7dtex以上2.2dtex以下がより好ましく、1.0dtex以上1.5dtex以下がさらに好ましい。
UHPE融着糸の単糸繊度は、UHPEマルチフィラメント(融着前のUHPEマルチフィラメント)の繊度を延伸倍率で除し、さらにフィラメント数で除した値をいう。
【0025】
UHPEマルチフィラメントが加撚されている場合、加撚されたUHPE融着糸が得られる。この場合、UHPE融着糸の撚り係数K2は、特に限定されないが、0を越え2200以下であることが好ましく、400以上2100以下であることがより好ましく、900以上2050以下であることがさらに好ましい。前記範囲の撚り係数K2を有するUHPE融着糸は、結節強さ比a/bが0.9以上1.1以下の範囲となる。結節強さ比(a/b)が0.9以上1.1以下のUHPE融着糸は、結び方による糸強度の優劣が極めて小さい。このような範囲の結節強さ比を有するUHPE融着糸は、釣り糸として好適に使用できる。なお、複数本のUHPEモノフィラメントを単に引き揃えた形態のUHPEマルチフィラメントから得られるUHPE融着糸の撚り係数K2は零である。
UHPE融着糸の撚り係数K2は、式2:K2=t×D1/2で求められる。ただし、前記式2のtは、UHPE融着糸の撚り数(回/m)を表し、前記式2のDは、融着糸から含有するパラフィン量を除いた、長さ1000m当たりの融着糸の重量(単位グラム)を表す。UHPE融着糸の撚り係数K2の具体的な測定方法は、下記実施例に記載の通りである。
【0026】
本発明のUHPE融着糸は、融着性に優れている。融着性は、融着前のUHPEマルチフィラメントを構成する各モノフィラメントが融着によって互いに接合している度合いをいう。融着性に優れたUHPE融着糸は、モノフィラメント様を有する。このため、本発明のUHPE融着糸は、水切れが良く、表面平滑性に優れている上、切断した際にも毛羽立ち難く、耐摩耗性にも優れている。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を更に詳述する。但し、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0028】
<使用したUHPEマルチフィラメント>
マルチフィラメント(1):96本のUHPEモノフィラメントを引き揃えたマルチフィラメントであって、繊度が22.2texのUHPEマルチフィラメント。東洋紡社製の商品名「イザナス」。
マルチフィラメント(2):192本のUHPEモノフィラメントを引き揃えたマルチフィラメントであって、繊度が22.2texのUHPEマルチフィラメント。東洋紡社製の商品名「イザナス」。
マルチフィラメント(3):120本のUHPEモノフィラメントを引き揃えたマルチフィラメントであって、繊度が22.2texのUHPEマルチフィラメント。
マルチフィラメント(4):64本のUHPEモノフィラメントを引き揃えたマルチフィラメントであって、繊度が22.2texのUHPEマルチフィラメント。東洋紡社製の商品名「イザナス」。
マルチフィラメント(5):32本のUHPEモノフィラメントを引き揃えたマルチフィラメントであって、繊度が22.2texのUHPEマルチフィラメント。東洋紡社製の商品名「イザナス」。
【0029】
<使用した補助剤>
流動パラフィン:表1に示す平均分子量が異なる7種の流動パラフィン。MORESCO社製。
ナフテン系ベースオイル(鉱油):分子量は348。三共油化工業社製。
グリセリン:分子量は92。阪本薬品工業社製。
デカリン:デカヒドロナフタレン。分子量は138。キシダ化学社製。
ポリエチレングリコール:分子量は400。三洋化成工業社製。
植物油:ココナッツオイル。平均分子量は200。ココウェル社製。
シリコーンオイル:分子量2000及び6000のシリコーンオイル。信越シリコーン社製。
【0030】
<補助剤の分子量の測定>
流動パラフィンの平均分子量は、ガスクロマトグラフ(島津製作所社製、商品名「GC−2010」)を使用し、標準物質であるノルマルパラフィン(SIGMA−ALDRICH社製、商品名「ASTM5442(C12−C60)Quantitative Linearity Standard」)の検量線からノルマルパラフィン換算で算出した。
具体的には、標準物質であるノルマルパラフィン(SIGMA−ALDRICH社製、商品名「ASTM5442(C12−C60)Quantitative Linearity Standard」)をガスクロマトグラフ(島津製作所社製、商品名「GC−2010」)で測定し、標準物質のピーク値の保持時間(リテンションタイム)と標準物質の分子量から検量線を作成した。
次に、測定対象である流動パラフィンを同様にガスクロマトグラフで測定した。クロマトグラフィーの原理によって、流動パラフィンは、その分子量に応じた保持時間(リテンションタイム)で検出器に移動した後、検出器で電気信号に変換される。サンプルを投入してからの経過時間を横軸に、検出器から得られた信号強度を縦軸にとることにより、クロマトグラムが得られ、その信号強度のピーク値の保持時間(リテンションタイム)を測定した。このピーク値の保持時間と上記検量線から、測定対象である流動パラフィンの分子量を決定した。
ガスクロマトグラフの測定条件の一例を下記に示す。
検出器タイプ:FID。
カラム:キャピラリーカラム(フロンティアラボ社製、商品名「Ultra alloy−SIMDIS(HT)」)。長さ:10m、内径:0.53mm、膜厚:0.1μm。
キャリアガス:ヘリウムガス。流量:24.0(ml/min)、線速度:140.5cm/s。
カラム初期温度:35℃。レート:10℃/min、最終温度:410℃、検出器温度:420℃。
注入方法:全量注入。サンプル注入量:0.5μl(マイクロリットル)。
【0031】
ココナッツオイルの平均分子量についても、流動パラフィンと同様の方法で分子量が決定した。
ナフテン系ベースオイルの分子量は、ASTM D3238に規定されるn−d−M法により平均分子量を算出した。
グリセリン及びデカリンの分子量は、分子式から特定した。
ポリエチレングリコールの分子量は、水酸化カリウム1mol当たりのmg×ポリエチレングリコール中の水酸基の数/ポリエチレングリコールの水酸基価、で算出した。なお、ポリエチレングリコールの水酸基価は、ポリエチレングリコール1g中の水酸基と当量の水酸化カリウムのmg数である。
シリコーンオイルの分子量は、A.J.Barryの式(Logη=1.00+0.0123M0.5)から算出した。ただし、ηは、25℃における動粘度(mm/s)を、Mは、シリコーンオイルの分子量を表す。
【0032】
<使用した製造装置>
図4に示すような、糸繰り出し装置61、第1延伸装置62、含浸装置63、余剰分除去装置64、加熱装置65、第2延伸装置66及び糸巻き取り装置67をこの順で有する製造装置6を使用した。この製造装置6の含浸装置63及び余剰分除去装置64は、図5に示すような方式であった。すなわち、含浸装置63は、補助剤(流動パラフィンなど)を含ませた不織布をUHPEマルチフィラメントの表面に接触させる方式であり、余剰分除去装置64の除去方式は、乾燥した不織布をUHPEマルチフィラメントの表面に接触させる方式であった。前記含浸装置63は、前記不織布に連続的に補助剤を供給する供給部631が具備されており、その供給部631によって不織布に対する補助剤供給量を任意に設定できる。また、加熱装置は、輻射熱方式の長さ5mのオーブンが2基連なったものを用い、延伸装置は、図4に示すような1段延伸方式を用いた。
【0033】
[実施例1]
室温下(23℃)に設置した前記製造装置6の糸繰り出し装置61に、マルチフィラメント(1)を装填し、含浸装置63に、補助剤として平均分子量400の流動パラフィンを供給した。マルチフィラメント(1)を引き出し、これに前記流動パラフィンを塗布し、さらに余剰の流動パラフィンをマルチフィラメント(1)から除去した後、約155℃に加熱しながら延伸処理することにより、実施例1のUHPE融着糸を作製した。なお、延伸倍率が約1.7倍となるように、第1延伸装置62の周速を10m/minに設定し、第2延伸装置66の周速を17m/minに設定した。
【0034】
[実施例2乃至7、及び、比較例1乃至10]
表1に示すような補助剤に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2乃至7及び比較例1乃至10のUHPE融着糸をそれぞれ作製した。実施例2乃至7及び比較例3については、貯留部632の液面(貯留部632に貯められる流動パラフィンの液面)からマルチフィラメントまでの距離、及び、含浸装置63及び余剰分除去装置64のそれぞれの不織布のマルチフィラメントに対する接触圧を、実施例1とそれぞれ変化させた。
なお、表1の「MF」は、マルチフィラメントを表し、「FY」は、UHPE融着糸を表す(以下、表2乃至表4も同様)。
【0035】
【表1】
















































【0036】
<UHPE融着糸の含有率の測定>
各実施例及び比較例で得られた各UHPE融着糸に含まれる補助剤の含有率を測定した。具体的には、各UHPE融着糸を1m切り出し、その重量を0.1mg単位で計測した。別途、補助剤を塗布しなかったこと以外は、実施例1と同様にして糸(以下、対照糸という)を作製し、この対照糸を1m切り出し、その重量を0.1mg単位で計測した。そして、下記式に代入することにより、流動パラフィンなどの補助剤の含有率を求めた。その結果を表1に示す。
UHPE融着糸中の補助剤の含有率(重量%)=(M−N)/N×100。
ただし、Mは、各実施例及び比較例のUHPE融着糸の重量を表し、Nは、対照糸の重量を表す。
【0037】
<UHPE融着糸の融着性の評価>
各実施例及び比較例で得られた各UHPE融着糸の表面を目視で観察すると共に、各融着糸を指で強く擦り、フィラメントの融着度合いを評価し、さらに、釣り糸として適するかどうかを評価した。その結果を表1に示す。
AA:融着糸の表面は十分に平滑であった。各モノフィラメントは十分に融着しており、融着糸がバラけることはなかった。釣り糸として非常に好適に利用できる。
A:融着糸の表面は十分に平滑であった。各モノフィラメントは十分に融着しており、融着糸はほぼバラけることはなかった。釣り糸として好適に利用できる。
B:融着糸の表面は平滑であった。融着糸の一部分(100m当たり1箇所又は2箇所)が少しバラけ、その部分において幾つかのモノフィラメントに分離した。釣り糸として利用できる。
C:融着糸の表面に多少の凹凸が確認された。融着糸の多くの部分(100m当たり3箇所以上)がバラけ、それらの部分において幾つかのモノフィラメントに分離した。釣り糸として利用できる可能性がある。
D:マルチフィラメントを構成する各モノフィラメントが融着しておらず、全ての部分で各モノフィラメントがバラけ、融着糸の態を成していなかった。釣り糸として利用できないと評価できる。
【0038】
<UHPE融着糸の単糸繊度の測定>
各実施例及び比較例で得られた各UHPE融着糸の単糸繊度を決定した。その結果を表1に示す。
UHPE融着糸の単糸繊度は、次の計算式から求めた。
UHPE融着糸の単糸繊度=(G1/G2)/G3
ただし、前記G1は、マルチフィラメント(融着前のマルチフィラメント)の繊度を、前記G2は、延伸倍率を、前記G3は、前記マルチフィラメントのモノフィラメント数をそれぞれ表す。
例えば、マルチフィラメント(1)を用いた実施例1乃至7及び比較例1乃至10のUHPE融着糸の単糸繊度は、(22.2tex/1.7)/96=約0.136tex=約1.36dtexとなる。
【0039】
<UHPE融着糸の引張強さ及び伸び率の測定>
各実施例及び比較例で得られた各UHPE融着糸の引張強さ及び伸び率を、JIS L 1013(2010年)−8.5に準じて測定した。その結果を表1に示す。なお、引張強さ及び伸び率は、引張破断強度及び破断伸度とも呼ばれる。引張強さは、数値が大きいほど好ましいと評価できる。
【0040】
[UHPE融着糸の結節強さ及び結節したときの伸び率の測定]
各実施例及び比較例で得られた各UHPE融着糸の結節強さa,bを、JIS L 1013(2010年)−8.6に準じて測定した。その結果を表1に示す。なお、結節強さaは、前記JIS L 1013(2010年)−8.6の結び方a)で糸を結んだときの強さであり、結節強さbは、前記JIS L 1013(2010年)−8.6の結び方b)で糸を結んだときの強さである。参考のため、結び方a)の状態を図6(a)に示し、結び方b)の状態を図6(b)に示す。
結節強さ比(a/b)=結節強さa/結節強さb、で求められる。
また、UHPE融着糸を結び方a)及び結び方b)で結んだときの伸び率a,bを、JIS L 1013(2010年)−8.5に準じて測定した。その結果を表1に示す。なお、伸び率aは、前記結び方a)で糸を結んだ状態で、それをJIS L 1013(2010年)−8.5に準じて測定したときの伸び率である。伸び率bは、前記結び方b)で糸を結んだ状態で、それをJIS L 1013(2010年)−8.5に準じて測定したときの伸び率である。
【0041】
<UHPE融着糸の取り扱い性の評価>
各実施例及び比較例で得られた各UHPE融着糸を、釣り糸として使用したときの取り扱い易さを評価した。その結果を表1に示す。
○:融着糸を釣り糸として利用し且つルアーをキャスティングしたときに、釣り竿のガイドと釣り糸との摩擦抵抗が低く、より遠くへ投げることができた。また、100回/日でキャスティングしている間、釣り糸の切断や釣り糸が釣り竿のガイドに絡まることがなかった。
×:融着糸を釣り糸として利用し且つルアーをキャスティングしたときに、釣り竿のガイドと釣り糸との摩擦抵抗が高く、余り遠くへ投げることができなかった。また、100回/日でキャスティングしている間、釣り糸の切断や釣り糸が釣り竿のガイドに絡まることが、1回以上生じた。
【0042】
実施例1乃至7のように、平均分子量が400以上の流動パラフィンを15重量%以上含むUHPE融着糸は、融着性が良好であった。さらに、平均分子量が430以上の流動パラフィンを15重量%以上含むUHPE融着糸(実施例2乃至7)は、融着性に優れ、特に平均分子量が450以上500以下の流動パラフィンを15重量%以上含むUHPE融着糸(実施例3乃至5)は、より融着性に優れていた。また、実施例2乃至5の対比から、平均分子量が450以上490以下の流動パラフィンを18重量%以上含有した融着糸は融着性に特に優れていた。
結節強さ比(a/b)が1に近いほど、結び方の違いが結節強さに影響しない融着糸と言える。換言すると、結節強さ比(a/b)が1に近いほど、結節強さが結び方に依存しない融着糸(以下、結節強さが等方性の融着糸という)と言える。一般に、結節強さ比(a/b)が0.9以上1.1以下の範囲であれば、結節強さが等方性の融着糸と言える。実施例1乃至7は、結節強さが等方性の融着糸であった。
融着性が良好な実施例1乃至7は、取り扱い性に優れていた。融着性が良好な実施例1乃至7の融着糸は、モノフィラメント様を有し、バラけ難く且つ表面平滑性に優れているためと推定される。
【0043】
[実施例8]
マルチフィラメント(1)に代えてマルチフィラメント(2)を用いたこと以外は、実施例5と同様にして、実施例8のUHPE融着糸をそれぞれ作製した。
【0044】
[実施例9]
マルチフィラメント(1)に代えてマルチフィラメント(3)を用いたこと以外は、実施例5と同様にして、実施例9のUHPE融着糸をそれぞれ作製した。
【0045】
[実施例10]
マルチフィラメント(1)に代えてマルチフィラメント(4)を用いたこと以外は、実施例5と同様にして、実施例10のUHPE融着糸をそれぞれ作製した。
【0046】
[実施例11]
マルチフィラメント(1)に代えてマルチフィラメント(5)を用いたこと以外は、実施例5と同様にして、実施例11のUHPE融着糸をそれぞれ作製した。
【0047】
<UHPE融着糸の含有率などの測定及び融着性などの評価>
実施例8乃至11で得られた各UHPE融着糸に含まれる流動パラフィンの含有率を、実施例1と同様にして測定した。また、実施例8乃至11で得られた各UHPE融着の、融着性、単糸繊度、引張強さ、伸び率、結節強さ、取り扱い性などについても、実施例1と同様にして測定及び評価した。その結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
実施例8乃至11から、単糸繊度が融着性に影響していることが判った。実施例8乃至10と実施例11の対比から、単糸繊度が0.7dtex以上2.5dtex以下である場合に融着性に優れ、1.0dtex以上1.5dtex以下である場合に融着性に特に優れていた。
【0050】
[実施例12乃至16]
マルチフィラメント(3)を糸繰り出し装置に装填する前に、表3に示す撚り係数K1で前記マルチフィラメント(3)をS撚りしたこと以外は、実施例9と同様にして、実施例12乃至16のUHPE融着糸を作製した。
【0051】
[実施例17乃至21]
マルチフィラメント(1)を糸繰り出し装置に装填する前に、表3に示す撚り係数K1で前記マルチフィラメント(1)をS撚りしたこと以外は、実施例5と同様にして、実施例17乃至21のUHPE融着糸を作製した。
【0052】
[実施例22乃至26]
マルチフィラメント(4)を糸繰り出し装置に装填する前に、表3に示す撚り係数K1で前記マルチフィラメント(4)をS撚りしたこと以外は、実施例10と同様にして、実施例22乃至26のUHPE融着糸を作製した。
【0053】
[比較例11及び12]
表4に示す撚り係数K1でS撚りしたマルチフィラメント(3)を用いたこと、及び表4に示す補助剤に変更したこと以外は、実施例9と同様にして、比較例11及び12のUHPE融着糸を作製した。
【0054】
[比較例13及び14]
表4に示す撚り係数K1でS撚りしたマルチフィラメント(3)を用いたこと以外は、実施例9と同様にして、比較例13及び14のUHPE融着糸を作製した。
【0055】
[比較例15及び16]
表4に示す撚り係数K1でS撚りしたマルチフィラメント(1)を用いたこと、及び表4に示す補助剤に変更したこと以外は、実施例5と同様にして、比較例15及び16のUHPE融着糸を作製した。
【0056】
[比較例17及び18]
表4に示す撚り係数K1でS撚りしたマルチフィラメント(1)を用いたこと以外は、実施例5と同様にして、比較例17及び18のUHPE融着糸を作製した。
【0057】
[比較例19及び20]
表4に示す撚り係数K1でS撚りしたマルチフィラメント(4)を用いたこと、及び表4に示す補助剤に変更したこと以外は、実施例10と同様にして、比較例19及び20のUHPE融着糸を作製した。
【0058】
[比較例21及び22]
表4に示す撚り係数K1でS撚りしたマルチフィラメント(4)を用いたこと以外は、実施例10と同様にして、比較例21及び22のUHPE融着糸を作製した。
【0059】
<UHPE融着糸の撚り係数K2の算出>
実施例12乃至26及び比較例11乃至22で得られた各UHPE融着糸の撚り係数K2を算出した。その結果を表3及び表4に示す。また、UHPE融着糸の繊度(パラフィンを含んだUHPE融着糸そのものの繊度)の結果も表3及び表4に併せて示す(この繊度は、表3及び表4において撚り係数K2の直下に記載)。
UHPE融着糸の撚り係数K2は、式2:K2=t×D1/2で算出した。前記式2のtは、UHPE融着糸の撚り数(回/m)を表し、前記式2のDは、含有するパラフィン量を除いた、長さ1000m当たりのUHPE融着糸の重量(g)を表す。
具体的には、UHPE融着糸の任意の箇所から長さ10cmを取り出し、その10cm長のUHPE融着糸を光学顕微鏡で観察してその撚り数を計測し、1m当たりに換算して融着糸の撚り数t(回/m)を決定した。また、パラフィン量を除いたUHPE融着糸の長さ1000m当たりの重量Dは、次のようにして求めた。JIS L 1013(2010年)−8.3.1−b)B法に準じてUHPE融着糸の繊度を測定した。この繊度は、(パラフィンを除去せずに)パラフィンを含んだUHPE融着糸そのものの繊度である。その融着糸の流動パラフィンの含有率に基づいて、その融着糸のパラフィン含有量を算出し、前記測定された繊度から算出したパラフィン含有量を除外することにより、パラフィン量を除いたUHPE融着糸の1000m当たりの重量を決定した。得られた撚り数tと1000m当たりの重量Dを式2に代入することにより、UHPE融着糸の撚り係数K2を決定した。
【0060】
<UHPE融着糸の含有率などの測定及び融着性などの評価>
実施例12乃至26及び比較例11乃至22で得られた各UHPE融着糸の、含有率、融着性、単糸繊度などを、実施例1と同様にして測定及び評価した。その結果を表3及び表4に示す。
【0061】
【表3】
















































【0062】
【表4】
【0063】
実施例12乃至26で得られた各UHPE融着糸は、いずれも融着性に優れ、引張強さや伸び率が良好である。ただし、撚り係数K2が2000程度の実施例15、20及び25は、結節強さ比が0.9以上1.1以下の範囲内であるのに対し、撚り係数K2が2500を越える程度の実施例16、21及び26は、結節強さ比が前記範囲外となった。このことから、撚り係数K2を2200以下とすることにより、結節節強さが等方性の融着糸を得ることができると考えられる。
なお、比較例11乃至22のように、流動パラフィンの平均分子量が400未満及び/又はその含有量が15重量%未満の場合には、融着性が悪く、釣り糸として利用できるものではなかった。
実施例12乃至26では、S撚りしたマルチフィラメントを用いた。仮に、Z撚りしたマルチフィラメントを用いた場合には、その結節強さaの値と結節強さbの値が、S撚りした場合の対応する各値と逆転すると推定される。
【0064】
[実施例27]
実施例14で得られたUHPE融着糸を、約300mに切り出したものを4本作製した。この4本の実施例14の融着糸を1本の紐状に編紐することによって、実施例27のUHPE融着糸を作製した。この実施例27のUHPE融着糸の結節強さa及び結節強さbを実施例1と同様にして測定した。その結果、実施例27の結節強さ比(a/b)は、0.95であった。
【0065】
[実施例28]
実施例19で得られたUHPE融着糸を、約300mに切り出したものを4本作製した。この4本の実施例19の融着糸を1本の紐状に編紐することによって、実施例28のUHPE融着糸を作製した。この実施例28のUHPE融着糸の結節強さa及び結節強さbを実施例1と同様にして測定した。その結果、実施例28の結節強さ比(a/b)は、0.99であった。
【0066】
[実施例29]
実施例24で得られたUHPE融着糸を、約300mに切り出したものを4本作製した。この4本の実施例24の融着糸を1本の紐状に編紐することによって、実施例29のUHPE融着糸を作製した。この実施例29のUHPE融着糸の結節強さa及び結節強さbを実施例1と同様にして測定した。その結果、実施例29の結節強さ比(a/b)は、0.92であった。
【0067】
実施例27乃至29の融着糸は、結節強さが等方性の融着糸であった。また、これらの融着糸を指先で強く擦っても、毛羽立ちが生じなかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の超高分子量ポリエチレン融着糸は、レジャー用又は漁業用の釣り糸、漁業用網、延縄などの水産用資材;ロープ、たこ糸などの産業用資材;テニスラケットなどのガット、洋弓弦などのスポーツ用資材;ギターの弦などの楽器用資材;防護服を形成する糸;などに利用できる。特に、本発明の超高分子量ポリエチレン融着糸は、レジャー用又は漁業用の釣り糸(フィッシングライン)として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0069】
1 超高分子量ポリエチレン融着糸
2,21,22,23 超高分子量ポリエチレンマルチフィラメント
3 超高分子量ポリエチレンモノフィラメント
6 融着糸の製造装置
【要約】
超高分子量ポリエチレンマルチフィラメントを含む融着糸(1)であって、平均分子量が400以上の流動パラフィンを15重量%以上含む。本発明の超高分子量ポリエチレン融着糸(1)は、融着性に優れている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6