(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
ヒトの眼は、常に30〜150Hzの振動数で振動していることが知られている。これは、焦点を振動させることで、任意の方向にすばやくピント調節を行うことができるようにするためと考えらえる。また、蛍光灯などの照明器具は、供給される電源の周波数に応
じて高速で点滅しているが、ヒトの眼には当該点滅は感知されない。すなわち、ヒトの脳には、30Hz以上の振動数で振動する像は、振動する像としてではなく、連続的に動く像として認識される。
【0017】
また、ハイブリッドイメージと呼ばれるヒトの錯視を利用する画像が存在する。これは、高周波成分のみで描画された画像、すなわち画像内の対象の輪郭を際立たせた画像と、低周波成分のみで描画された画像、すなわち画像内の対象の輪郭をぼかした画像とを合成した画像である。輪郭がぼけている画像と輪郭が際立っている画像とを互いに重ね合わせた場合、ヒトの眼には輪郭の際立っている画像が認識されやすく、輪郭がぼけている画像は認識されにくい。すなわち、ヒトの視機能によれば、輪郭の際立っている像が脳に伝達されていれば、輪郭がぼけている像が存在しても、輪郭の際立っている像が認識されると考えられる。
【0018】
一方、ハイブリッドイメージを眼から離していくと、眼には、高周波成分のみで描画された画像の微細な各要素がぼやけて見えにくくなり、低周波成分のみで描画された画像の要素の方が見えやすくなる。すなわち、調節機能が劣化した眼球でピントの合った画像と、当該画像より近方にあるピントのずれた画像とを見た場合、眼には、ピントの合った画像が認識されやすく、近方のぼやけた画像は認識されにくいと考えられる。
【0019】
そこで、調節機能が劣化した眼球に、30Hz以上の振動数で焦点が移動する可変焦点型の光学素子を適用するなど、眼球の光学系の焦点距離を30Hz以上で変動させることにより、変動範囲内の複数の焦点距離に同時にフォーカスを合わせることができ、脳には、当該焦点距離の変動範囲内にある像のピントが合っていると認識される。すなわち、眼球の調節機能が失われている場合でも、上記の構成を採用することで、脳には、近方から遠方までピントの合った像を伝達させることができる。
【0020】
本実施形態においては、光学素子の焦点距離を高速で変動させることにより、眼球の調節機能が劣化している場合でも、広い焦点距離の範囲内で焦点を合わせることができ、かつ、固定焦点の多焦点レンズを用いた場合のような視機能が低下する中間域は存在せず、ハローやグレアなどの不具合を良好に回避することができる。なお、本実施形態に係る眼用装置の具体的な構成については後述する。
【0021】
次に、眼球の光学系における焦点距離が高速で変動する場合に像がどのように見えるかについて、以下の実験装置を用いたシミュレーションを行う。本実施形態では、
図1に示す実験装置1を使用する。まず、互いに異なる指標が記されている2枚のチャート10、20を互いに2.3mm離して振動試験機30に固定する。チャート10は光透過性を有する四角形の板状部材であり、チャート10の四隅付近にそれぞれ格子図形が付されている。また、チャート20も光透過性を有する四角形の板状部材であり、チャート20の中央付近に格子図形が付されている。チャート10、20の大きさは互いに同一であるとする。ここで、振動試験機30は、チャート10、20を50Hz以上の振動数で振動させることが可能な装置である。なお、
図1においては、チャート10、20に付されている格子図形は同一模様として示す。
【0022】
チャート10、20の前段には、光源40が設置されている。光源40は、一例としてハロゲンランプ40aおよび集光レンズ40bを有する。チャート10、20に十分な光量の光が照射されるように、光源40の位置、光源40の出射光量、集光レンズ40bの光軸の向きなどが調整される。また、チャート10、20の後段には、単焦点レンズ50が配置される。単焦点レンズ50は、焦点距離fが16mm、絞り値Fが1.8のレンズである。なお、単焦点レンズ50の絞りは開放(F1.8)で使用する。集光レンズ40bと単焦点レンズ50の光軸方向は同一である。そして、振動試験機30は、チャート1
0、20を、集光レンズ40bと単焦点レンズ50の光軸方向において前後に振動させる。なお、チャート10、20は、集光レンズ40bと単焦点レンズ50の光軸方向において、互いに重なり合うように振動試験機30に固定される。
【0023】
また、単焦点レンズ50の後段には、スクリーン60が設置されている。単焦点レンズ50を透過した光は、スクリーン60に到達する。単焦点レンズ50のピントは、振動試験機30によりチャート10、20が振動している間に、交互に一方のチャートに合うように設定されている。したがって、振動試験機30によりチャート10、20が振動しているときに、スクリーン60には一方のチャートにピントが合った像と他方のチャートにピントが合った像とが交互に繰り返し現れる。
【0024】
上記のように構成された実験装置1において、振動試験機30を約60Hzの振動数で集光レンズ40と単焦点レンズ50の光軸方向に振動させ、スクリーン60に投影されるチャート10、20の像を目視により観察した。この結果、振動試験機30を動作させず、単焦点レンズ50の焦点をチャート10、20の一方のチャートに合わせる場合は、両方のチャート10、20の像を同時にスクリーン60で認識することはできなかった。しかし、振動試験機30によりチャート10、20を振動させる場合は、両方のチャート10、20の像を同時にスクリーン60で認識することができた。この実験を行った光学系においてチャート位置を光軸方向に振動させることは、光学素子の焦点距離を変化させることに相当する。
【0025】
次に、
図2に示す実験装置2を用いて上記と同様の実験を行う。なお、実験装置2において実験装置1と同じ構成については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。実験装置2においては、チャート10、20と単焦点レンズ50との間に液体レンズ70を配置する。液体レンズ70は、一例としてOptotune社製EL−8−16を用いる。液体レンズ70は、印加される電流の大きさに応じて焦点距離が変化する。なお、実験装置2においては振動試験機30は不要である。
【0026】
実験装置2においては、チャート10、20を集光レンズ40bと単焦点レンズ50の光軸方向において互いに0.7mm離して固定する。なお、実験装置2においてチャート10、20の間隔を0.7mmにすることは約5D(Diopter)程度の焦点深度に相当する。
【0027】
実験装置2においては、光源40から射出された光は、集光レンズ40bを経由してチャート10、20、液体レンズ70、単焦点レンズ50の順に透過してスクリーン60に到達する。液体レンズ70に印加される電流の電流値については、0mAのときにスクリーン60にチャート10、20の一方に付されている格子図形が投影され、50mAのときにスクリーン60にチャート10、20の他方に付されている格子図形が投影されるように液体レンズ70を構成する。また、液体レンズ70に印加される電流値は、0mAから50mAの間を35Hzの周波数で変化するように構成する。
【0028】
上記のように構成された実験装置2においてスクリーン60に投影されるチャート10、20の格子図形の像を目視により確認したところ、両方のチャート10、20の格子図形の像をスクリーン60において認識することができた。また、液体レンズ70に対する電流の印加を開始した直後よりも、開始後一定時間観察し続けた後の方が、スクリーン60に投影されるチャート10、20の格子図形の像をより良好に認識することができることがわかった。また、スクリーン60に投影されるチャート10、20の格子図形のうち、チャートの中央にいくほど像がより鮮明に現れ、チャートの周辺にいくほど像が劣化して現れることがわかった。これは、液体レンズ70の焦点距離の変化に伴って像の倍率が変化することによるものと考えられる。
【0029】
上記の実験結果を踏まえ、本実施形態に係る実施例を以下に説明する。
【0030】
(実施例1)
本実施形態の実施例1に係る眼用装置の一例としての眼鏡レンズ100について
図3を参照しながら説明する。眼鏡レンズ100は、電圧または電流の変化に伴って曲率半径または屈折率が変化することで眼球160の光学系の焦点距離を変化させる光学素子である。眼鏡レンズ100が、眼球の光学系内に挿入される焦点距離を電気的に変化させることができるレンズの一例に相当する。眼鏡レンズ100には電源供給ユニット110および任意波形発生器120が接続されている。なお、電源供給ユニット110および任意波形発生器120が、所定の増減幅で変化する電力を眼球の時間分解能より短い時間間隔でレンズに供給する電力供給部の一例に相当する。任意波形発生器120としてはファンクションジェネレータが例示される。電源供給ユニット110および任意波形発生器120により、眼鏡レンズ100には、30Hz以上、好ましくは60Hz以上の周波数で変化する電圧または電流が供給される。
【0031】
眼鏡レンズ100としては、いわゆるダイナモルフレンズや、液体レンズであるOptotune社製EL−8−16などのように、上記の周波数で焦点距離、すなわち屈折力が変化するレンズを採用することができる。なお、ダイナモルフレンズとは、液体同士の界面を高精度屈折面として利用し、積層型ピエゾ素子により液体に圧力を加えることで焦点距離が変化する可変焦点レンズである。眼鏡レンズ100の屈折力の変化が5D以上となるように構成されていると、いわゆる若年者の平均的な眼球が有する調節力を眼鏡レンズ100により実現できると考えられる。
【0032】
電源供給ユニット110および任意波形発生器120は、眼鏡レンズ100の焦点距離(屈折力)を変化させる電圧または電流を眼鏡レンズ100に供給でき、1秒間に30回以上、このましくは1秒間に60回以上、眼鏡レンズ100の屈折力を5D以上変化させることが可能な電圧または電流を経時的に増減することができる装置であればよい。
【0033】
上記の眼鏡レンズ100を任意の材質、形状、デザイン等で作製された眼鏡フレーム130に設けて、眼鏡140として装用することで、眼鏡140の装用者は、水晶体の調整力が失われている場合でも遠方から近方の範囲にわたってピントの合った像を脳に伝達させることができる。
【0034】
好ましくは、眼鏡レンズ100は、φ3.0mm以下の開口絞りを有する。または、眼鏡レンズ100は、人の虹彩より小さい開口絞りを有する。眼鏡レンズ100を含む眼球光学系においては、焦点距離が変化する光学素子の位置が光束を制限する絞りの位置に近いほど、焦点距離の変化による像の大きさの変化は小さくなるため、より良好な視界を装用者に提供できると言える。眼鏡の場合は目線の変化により使用する光学部領域が異なるため、複数の開口絞りを有してもよい。
【0035】
また、好ましくは、上記の通り構成された眼鏡140に視野絞り150を設ける。眼鏡レンズ100を含む眼球光学系においては、焦点距離の変化に伴う像の大きさ(倍率)の変化は、眼鏡レンズ100の光軸付近よりも軸外の周辺部の方が大きい。したがって、本実施例に係る眼鏡に視野絞りを設けて、装用者の視野を制限することにより、眼鏡に複雑な光学部領域を設けることなく、像の倍率の変化を小さくして装用者に認識される像の劣化を低減することができる。なお、本実施例においては、眼鏡レンズ100のみをフレーム130に保持させ、他の構成を別体として、例えば装用者の身体に着用することとしてもよい。
【0036】
(実施例2)
本実施形態の実施例2に係る眼用装置の一例としてのコンタクトレンズ200について
図4を参照しながら説明する。コンタクトレンズ200には、電圧または電流の変化に合わせてコンタクトレンズ200の曲率半径または屈折率を変化させる電気回路210がプリントされている。コンタクトレンズ200が、眼球の光学系内に挿入される焦点距離を電気的に変化させることができるレンズの一例に相当する。コンタクトレンズ200の曲率半径または屈折率が変化することで眼球260の光学系の焦点距離が変化する。電気回路210には、電源供給ユニット220およびファンクションジェネレータなどの任意波形発生器230が電気的に接続されている。電源供給ユニット220および任意波形発生器230が、所定の増減幅で変化する電力を眼球の時間分解能より短い時間間隔でレンズに供給する電力供給部の一例に相当する。電源供給ユニット220および任意波形発生器230により、電気回路210には、30Hz以上、好ましくは60Hz以上の周波数で変化する電圧または電流が、有線または無線により供給される。
【0037】
コンタクトレンズ200としては、いわゆるスマートコンタクトレンズのように、コンタクトレンズの外部と電気的な情報を交換することができるコンタクトレンズであり、電気的な情報の交換に基づいて焦点距離(屈折力)を変化させることが可能なコンタクトレンズであればよい。
【0038】
また、例えば、ズーム可能なコンタクトレンズを用いることもできる。当該コンタクトレンズにはズーム機能が搭載されている。また、コンタクトレンズは、ズーム機能が設けられている領域と反射望遠鏡が設けられていない領域とを有する。
【0039】
また、当該コンタクトレンズの装用者は、液晶ガラスを搭載した眼鏡も装用する。当該眼鏡は、コンタクトレンズに搭載されているズーム機能と連動する。具体的には、液晶ガラスの電源がオンになると、液晶ガラスに入射した光が偏光されて反射望遠鏡が設けられている領域に進行する。ズーム機能が設けられている領域に進行した光により形成される像は、例えば望遠機能により拡大される。また、液晶ガラスの電源がオフになると、液晶ガラスに入射した光が偏光されてズーム機能が設けられていない領域に進行する。ズーム機能が設けられていない領域に進行した光により形成される像は、ズーム機能により拡大されることなく装用者に認識される。したがって、液晶ガラスの電源を30Hz以上、好ましくは60Hz以上の周波数でオンとオフを繰り返すことにより、コンタクトレンズおよび液晶ガラスの装用者は、水晶体の調整力が劣化している場合でも遠方から近方の範囲にわたってピントの合った像を脳に伝達させることができる。なお、本実施例においては、コンタクトレンズと眼鏡の機能、役割を逆にしても構わない。
【0040】
また、本実施例では上記の実施例1と同様、好ましくは、コンタクトレンズ200は、φ3.0mm以下の開口絞りを有する。または、コンタクトレンズ200は、人の虹彩より小さい開口絞りを有する。コンタクトレンズ200を含む眼球光学系においても、焦点距離が変化する光学素子の位置が光束を制限する絞りの位置に近いほど、焦点距離の変化による像の大きさの変化は小さくなるため、より良好な視界を装用者に提供できると言える。したがって、コンタクトレンズ200が有する絞り径を、装用者の眼球の虹彩よりも小さくなるように構成することが好ましい。
【0041】
また、好ましくは、上記の通り構成されたコンタクトレンズ200に視野絞りを設けてもよい。コンタクトレンズ200を含む眼球光学系においても、焦点距離の変化に伴う像の大きさ(倍率)の変化は、コンタクトレンズ200の光軸付近よりも軸外の周辺部の方が大きい。したがって、本実施例に係るコンタクトレンズに視野絞りを設けて、装用者の視野を制限することにより、像の倍率の変化を小さくして装用者に認識される像の劣化を低減することができる。
【0042】
(実施例3)
本実施形態の実施例3に係る眼用装置の一例としての空気噴流発生装置300について
図5を参照しながら説明する。空気噴流発生装置300は、例えば眼圧計のように空気噴流の空気圧よって眼球360の角膜360aの形状を一時的に変形させる装置である。空気噴流発生装置300は、眼球の角膜に空気を眼球の時間分解能より短い時間間隔で噴射する空気噴射部300aを有する。一般に眼圧計は、瞬間的に噴射された空気噴流を角膜360aに当てて角膜360aを一時的に変形させ、元の形状に復帰するまでの時間を計測することで眼圧を算出する。一般的なヒトの眼球の角膜における変形からの復元時間は、10〜20msであることが知られている。そこで、角膜360aの変形からの復元時間に合わせて空気噴流を角膜360aに当てることで、角膜360aは変形と復元を繰り返すと考えられる。したがって、本実施例では、空気噴流発生装置300により角膜360aが変形および復元することで眼球360の光学系の焦点距離が変化する。
【0043】
ここで、空気噴流発生装置は眼鏡のように眼球の直前に配置する構成以外にも、 空気
噴流が届く範囲で角膜から離れていてもよい。例えば会議等でスクリーンとPC(Personal Computer)を見る場合には、装置の使用者の目前の机上に空気噴流発生装置を配置し
、眼球の動きを画像処理などを用いて追跡しながら、追跡結果に基づいて空気噴流発生装置から角膜に空気を噴射してもよい。また、使用者が調節機能を必要とした場合に空気噴流発生装置を使用できるよう、空気噴流発生装置を手で持つ構成にしてもよい。また、乗用車などに空気噴流発生装置を設け、運転の際に空気噴流発生装置を使用することを想定した場合は、ハンドルや計器付近に空気噴流発生装置を配置してもよい。
【0044】
角膜は、空気噴流が当てられていない状態では所定の曲率を有するが、空気噴流が当てられると、角膜の形状が略平面になるまで変形することが知られている。また、一般に角膜の屈折力は約43Dであることが知られている。これらのことから、空気噴流による角膜表面の形状の変化が約40Dの変化に相当すると考えられる。
【0045】
そこで、本実施例では、空気噴流発生装置300において空気噴流の発生間隔を上記の復元時間に合わせて設定して、空気噴流を角膜360aに当てることで、角膜360aの形状の変形と復元を繰り返し行うことができる。このように角膜360aの形状が変形と復元を繰り返すことで、空気噴流発生装置300の使用者の水晶体の調整力が失われている場合でも遠方から近方の範囲にわたってピントの合った像を脳に伝達させることができる。
【0046】
なお、一般的な角膜前面の曲率半径が7.7mmである場合に、曲率半径が8.5mmまで大きくなると眼球の屈折力は約5Dだけ変化すると考えられる。この場合に、角膜頂点の位置は角膜の曲率中心に向かって約20μmだけ移動すると考えられるが、この移動量は、上記の空気噴流による最大の形状変化量よりは小さいと考えられる。
【0047】
(実施例4)
本実施形態の実施例4に係る眼用装置の一例としての超音波集束装置400について
図6を参照しながら説明する。超音波集束装置400は、非接触作用力としての超音波を発生する装置である。超音波集束装置400は、例えば数十mNの非接触作用力を発生する。なお、超音波集束装置400は、眼球の角膜前面に集束する超音波を時間間隔で発生する超音波発生部400aを有する。
【0048】
角膜の変形のしやすさは眼圧の大きさに影響する。一般的な眼圧の正常範囲は10〜21mmHg(1333〜2800Paに相当)であることが知られている。また、一例として、眼圧計のJIS(Japanese Industrial Standards)によれば、空気噴流によって
形状を変化させることが許容される角膜の範囲は、角膜の直径φ3.06mm以内の範囲と定められている。ここで、φ3.06mmの円の面積と眼圧の大きさとから、眼圧計の空気噴流が角膜に与える力Nは、以下の式(1)により算出される。
角膜に与える力(N)=眼圧(Pa)×角膜形状が変化する面積(mm
2)・・・(1)
【0049】
上記の眼圧および角膜形状が変化する面積を用いると、式(1)より、空気噴流が角膜に与える力は9.8〜21mNと見積もることができる。したがって、超音波集束装置400が発生する超音波によりこの程度の大きさの非接触作用力を角膜に与えることができれば、角膜の形状を変化させることができると考えられる。
【0050】
上記の通り、本実施例の超音波集束装置400によれば、上記の大きさの力を非接触作用力として眼球460の角膜460aに与えることができる。また、超音波集束装置400は、高周波数で超音波の発生を制御することができることから、上記の実施例3の空気噴流発生装置300と同様に、超音波集束装置400における超音波の発生間隔を上記の復元時間に合わせて設定して、超音波を角膜460aに当てることで、角膜460aの形状の変形と復元を繰り返し行うことができる。したがって、本実施例では、超音波集束装置400により角膜460aが変形および復元することで眼球460の光学系の焦点距離が変化する。
【0051】
本実施例では、超音波集束装置400から発生される超音波の角膜460aにおける集束を変更することで、超音波集束装置400と角膜460aとの間隔を調整できる。例えば、超音波集束装置400として超音波発生素子を採用し、超音波集束装置400を眼鏡フレーム410に取り付けた眼鏡420を作製する。そして、超音波集束装置400から発生される超音波が角膜前面に集束するように超音波集束装置400を調整する。なお、超音波集束装置400は眼球460の視野の外側の位置に配置し、超音波を眼球460の光学軸AXに対して所定の角度θの方向から角膜460aに当てる。したがって、このように作製された眼鏡420の装用者の水晶体の調整力が失われている場合でも遠方から近方の範囲にわたってピントの合った像を脳に伝達させることができる。
【0052】
(実施例5)
次に、本実施形態の実施例5に係る眼用装置の一例としてのコンタクトレンズ500について
図7を参照しながら説明する。コンタクトレンズ500は、例えばソフトコンタクトレンズであり、コンタクトレンズ500の装用時に、眼球560の角膜560aとコンタクトレンズ500との間に涙液層510(あるいは涙膜)が形成されることが好ましい。
【0053】
本実施例では、コンタクトレンズ500の装用者は、コンタクトレンズ500のレンズ形状を変形させる眼用装置520を併用する。眼用装置520は、一例として、上記の実施例の空気噴流発生装置300または超音波集束装置400である。そして、眼用装置520を上記の空気噴流発生装置300または超音波集束装置400と同様に構成し、眼用装置520によって角膜560aの代わりにコンタクトレンズ500の表面を変形させることで、眼球560の光学系の焦点距離が変化する。したがって、このように構成されたコンタクトレンズ500および眼用装置520の装用者の水晶体の調整力が失われている場合でも遠方から近方の範囲にわたってピントの合った像を脳に伝達させることができる。
【0054】
以上が本実施形態に関する説明である。本実施形態において関連するヒトの眼に特有の現象として、残像効果、色の恒常性、色順応、明るさの恒常性、明順応、暗順応が挙げられる。
【0055】
残像効果とは、ヒトの眼球の時間分解能以下の点滅は連続点灯しているように知覚される現象である。一般にヒトの眼球の時間分解能は約50Hzであることが知られている。例えば、一般的な蛍光灯は、50Hz(1秒に100回点滅)または60Hz(1秒に120回点滅)で点滅しているため、蛍光灯の点滅はヒトの眼には連続点灯として知覚される。このことを踏まえると、ヒトの眼において、焦点距離が高速で変化する場合、ある距離に物体Aにピントが合った後、物体Aの残像現象が生じている間に、焦点距離の変化範囲内の任意の物体にピントが合い、再度物体Aにピントが合う。この結果、ヒトの眼には物体Aにピントが合っているように知覚される。同様に、ヒトの眼には、焦点距離の変化範囲内の任意の物体についても、ピントが合っているように知覚される。
【0056】
次に、色の恒常性とは、例えばトマトは赤いという色彩感覚を有する人が色フィルタ越しにトマトを見たときにも赤いと認識する現象を言う。例えば、トマトをモニタに表示して観察する場合であって、トマトは赤いという色彩感覚を有する人が、色フィルタを通したトマトをモニタで観察したときに、モニタ上では灰色や青色に分類される色をしたトマトを赤いと認識することがある。このことを踏まえると、上記の実施形態では焦点距離が高速で変化するが、焦点距離が変化しているときに瞬間的にピントが合っていない像の色が混在しても、人の色彩感覚により、混在した色はピントが合っているときの像の色として知覚される。また、ヒトの眼はピントの合った像をピントの合っていない像よりもより強く知覚する点も踏まえると、本実施形態の眼用装置を用いることで、違和感を与える可能性が低い視界をヒトの眼に提供することができると考えられる。
【0057】
次に、色順応とは、周囲の分光分布に応じて錐体の感度を調節し、色の見えを一定に保とうとする働きを言う。ある色彩が施された画像を数十秒見続けた直後にグレースケールの同じ画像を見ると、色彩が施された画像として認識される現象である。また、ある色を数十秒見続けた直後に、当該色を含む色彩が施された画像を見ると、画像から当該色が消失して知覚される現象でもある。このことを踏まえると、本実施形態の眼用レンズを用いることで、色の恒常性の上記の効果とともに、高速に焦点距離が変化した場合に違和感を与える可能性が低い視界をヒトの眼に提供することができる。
【0058】
例えば、焦点距離が変化することでピントが合っていない像が混在することで、対象物の色が本来の色と異なった色として認識される場合でも、色の恒常性という特徴により、ヒトの眼には、対象物の色が変わったと認識せずに本来の色のままであると認識する傾向がある。また、異なった色と認識する状態が続いたとしても、色順応が働き、次第に元の色として認識されるようになる。
【0059】
次に、明るさの恒常性とは、ヒトの眼は光の明るさを絶対的な光強度を基準としてではなく、光の反射率に基づいて知覚する現象を言う。ヒトの眼が知覚する光の明るさは、絶対的な光学量よりも対象の周辺からの相対的な変化量に依存することが知られている。すなわち、同じ明るさの色でも周囲の色が暗い場合はより明るい色として知覚され、周囲の色が明るい場合はより暗い色として相対的に知覚される。このことを踏まえると、本実施形態の眼用装置を用いる場合に、瞬間的にピントの合っていない像により視界全体におけるコントラストが低下する可能性があるが、ヒトの眼の有する明るさの恒常性により当該コントラストが改善されると考えられる。例えば、焦点距離が高速で変化している場合に、ピントの合った像とピントの合っていない像とが混在して知覚されることで、視界における像のコントラストが低下して黒色と白色がそれぞれ灰色に近づく場合でも、焦点距離の変化範囲内においてあらゆる焦点距離において同様にコントラストが低下すると考えられる。この結果、当該コントラストの低下は、明るさの恒常性によりヒトの眼には認識されにくくなる。
【0060】
また、ヒトの眼は、ピントの合った像をより強く認識するため、ヒトの眼が注目してい
る対象とその周辺との間とで同じ色には明るさの差が存在するため、その相対的な差に基づいて対象の境界などを認識する。例えば、ランドルト環を用いた視力検査において、ヒトの眼は、ランドルト環の像のピントが若干合っていない場合でも、ランドルト環を見続けている間にコントラストの低下を脳が補正する結果ランドルト環の切れ目を知覚することができる。このようにヒトの眼は視界におけるコントラストの低下を補正することができるため、上記の実施形態の眼用レンズを用いる際に、視界全体におけるコントラストの低下が発生してもコントラストを改善し、視界における焦点深度が増大する効果が期待できる。
【0061】
ここで、明るさの恒常性が深度増大に及ぼす効果について詳述する。焦点距離を高速で変化させると、ヒトの眼には、ピントの合った像とピントのずれた像が同時に認識される。このとき、ピントの合った像にピントのずれた像が重ね合わされているため、ヒトの眼には、一時的にコントラストの低下した暗い像が認識される。しかし、焦点距離の変化に伴って増大された焦点深度範囲においては、ピントのずれた像によるコントラスト低下は、視野に対して一様のコントラスト低下、すなわち、視野全体において一様に明るさが低下した状態と同等であると考えられる。一方で、ヒトの眼には、対象物にピントが合った像が認識されやすいため、ピントのずれた像に比べてピントが合った像が相対的に強く明るく知覚される。このようにヒトの眼には、ピントがずれた像よりもピントが合った対象物の像が相対的に強く明るく知覚されることにより、当該対象物以外は周辺情報と認識される。この状態において、明るさの恒常性が働くと、ヒトの眼により、周辺情報の暗さと対象物との相対的な明るさとが比較されて、対象物がより認識されやすくなる。つまり、ヒトの眼においては、ピントがずれた像によるコントラスト低下が改善されるため、焦点距離が変化することで生じる深度増大効果を期待することができる。
【0062】
次に、明順応とは、例えば明るい場所から暗い場所へ移動したときに、最初は何も見えないが次第に目が慣れて少しずつ見えるようになる現象である。また、暗順応とは、暗い場所から明るい場所へ移動したときに、同様に目が慣れて徐々に見えるようになる現象である。なお、ヒトの眼は、明順応は約1分で、暗順応は約1時間でそれぞれ発揮することが知られている。このことから、上記の実施形態の眼用装置を用いる際に、瞬間的にピントが合っていない像により視界全体が暗くなった場合でも、これらの順応が発揮されることで、視界全体の暗さが改善されると考えられる。
【0063】
本実施形態に係る眼用レンズは、上記のヒトの眼の各現象の特徴を考慮して構成されているが、このようにヒトの眼の各現象を利用した眼用装置について明示した文献はない。また、従来技術では、カメラなどの撮像素子やモニタを用いて画像処理によりコントラストの低下を改善するのみである。カメラなどを眼用装置の構成要素とすると、生成される画像はシャッタースピードや画素感度の影響を受ける。また、画素は光の強度を積算して電荷に変換する。画像の重ね合わせにより画像間のコントラスト差ができるため、ヒトの脳にはコントラストの高い部分が意識に残る結果、深度が深くなると認識される可能性はあるが、網膜や脳の視覚情報処理としての残像現象とは異なる。本発明における網膜や視覚情報処理としての残像現象では、脳がカメラなどの画像生成装置を介さずに直にピントの合った像を連続して認識することで、順応や恒常性といった現象を利用してよりよい視界を提供できるものである。
【0064】
なお、上記の眼用装置に備えられる構成は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想と同一性を失わない範囲内において種々の変更が可能である。以下に上記の実施形態の変形例を3例示す。なお、上記の実施例に記載の構成と下記に説明する変形例に記載の構成を自由に組み合わせることができる。また、以下の説明において上記の実施例と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0065】
(変形例1)
本実施形態の変形例1に係る電源供給ユニット600について
図8を参照しながら説明する。電源供給ユニット600は、一例として、有機薄膜を利用した光透過性を有する太陽電池フィルムである。電源供給ユニット600は、上記の実施例に記載の眼用レンズやコンタクトレンズの内部に搭載される。例えば、
図8に示すように上記の眼鏡レンズ100に接続される電源供給ユニット110の代わりに、本変形例に係る電源供給ユニット600を眼鏡レンズ100内に設けて眼鏡610を構成することができる。
【0066】
太陽光のエネルギーは約1kW/m
2であり、一般的な太陽電池の変換効率は約10%であることが知られている。すなわち、太陽電池の発電力は1mm
2あたり0.1mWと見積もることができる。上記の実施例の眼鏡レンズ100の一例であるOptotune社の液体レンズEL−8−16において、約5Dの屈折力変化を達成するには、1.8Vで約50mA、すなわち90mWの消費電力が必要となる。
【0067】
眼鏡レンズ100に電源供給ユニット600を設ける場合、電源供給ユニット600の面積を1000mm
2(例えば5cm×2cm)とすると、電源供給ユニッ600の発電力は0.1mW×1000=100mWと見積もることができる。すなわち、電源供給ユニット600は、眼鏡レンズ100の一例としてOptotune社の液体レンズEL−8−16を用いる場合に必要な消費電力を上回る電力を発生させることができると言える。
【0068】
(変形例2)
次に、本実施形態の変形例2に係る眼用レンズ700について
図9を参照しながら説明する。眼用レンズ700は、光透過性を有するスピーカ用フィルムを含んで形成される。スピーカ用フィルムは、圧電性物質からなる光透過性を有する薄膜フィルムが振動伝達特性の良好な光透過フィルムにより挟まれて形成されている。圧電性物質からなる薄膜フィルムは、電力が供給されることで振動板として機能する。
【0069】
スピーカ用フィルムは、音の周波数によって振動する。また、ヒトが聞き取れる音の周波数は20Hz〜20kHzであることが知られており、スピーカ用フィルムにはこの周波数範囲で振動するよう電力が供給される。したがって、スピーカ用フィルムを用いて60Hz以上の振動を実現することができる。
【0070】
すなわち、例えば
図9に示すように、上記の実施例のコンタクトレンズ200の代わりに眼用レンズ700を用いることで、眼用レンズ700の装用者の水晶体の調整力が失われている場合でも遠方から近方の範囲にわたってピントの合った像を脳に伝達させることができる。
【0071】
(変形例3)
次に、本実施形態の変形例3に係る眼内レンズ800について
図10を参照しながら説明する。上記の実施例2では、コンタクトレンズ200に視野絞りを設けて、装用者の視野を制限することにより、像の倍率の変化を小さくして装用者に認識される像の劣化を低減することができることを説明した。眼球の虹彩が開口絞りおよび視野絞りとして機能することを踏まえると、コンタクトレンズ200と同様に、電気回路210がプリントされた眼内レンズ800を焦点距離が変化するように構成し、さらに眼内レンズ800を眼球860の虹彩860aの直後に挿入することで、眼内レンズ800の装用者は、虹彩860aを開口絞りおよび視野絞りとして利用しつつ遠方から近方の範囲にわたってピントの合った像を脳に伝達させることができる。焦点距離を変化させる眼内レンズの構成は、電気回路210がプリントされた構成以外にも、液体レンズのように電流または電圧の変化によりレンズの曲率半径が変化する構成でもよく、レンズが複数の光学素子で構成され、
それら光学素子間の距離が変化する構成でもよく、光学素子材料の屈折率が変化する構成でもよい。