特許第6862212号(P6862212)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862212
(24)【登録日】2021年4月2日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】有用物質の生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 1/04 20060101AFI20210412BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   C12P1/04 Z
   C12P21/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-27821(P2017-27821)
(22)【出願日】2017年2月17日
(65)【公開番号】特開2018-23358(P2018-23358A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2019年12月2日
(31)【優先権主張番号】特願2016-153328(P2016-153328)
(32)【優先日】2016年8月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中西 睦
(72)【発明者】
【氏名】富田 恒輝
(72)【発明者】
【氏名】上田 真澄
【審査官】 馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭46−042599(JP,B1)
【文献】 特公昭47−007352(JP,B1)
【文献】 特公昭46−006398(JP,B1)
【文献】 特公昭48−018476(JP,B1)
【文献】 特公昭47−000675(JP,B1)
【文献】 特開2002−291494(JP,A)
【文献】 特開平10−045792(JP,A)
【文献】 特開2008−200053(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/178465(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/024771(WO,A1)
【文献】 特表2015−508658(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/137624(WO,A1)
【文献】 特開2015−091227(JP,A)
【文献】 特開2012−005456(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/060391(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/04
C12P 21/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液中に含まれる微生物により有用物質を培養液中に分泌生産する方法であり、培養液中に界面活性剤(A)及び糖類(B)を含有し、
糖類(B)が、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、αーシクロデキストリン、糖脂質型バイオサーファクタント及び単糖又は二糖と炭素数1〜28の脂肪族アルコールとがグリコシド結合したアルキルグリコシドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
界面活性剤(A)が糖類(B)を含まない有用物質の生産方法。
【請求項2】
糖類(B)が2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、αーシクロデキストリン、糖脂質型バイオサーファクタント及び単糖又は二糖と炭素数1〜28の脂肪族アルコールとがグリコシド結合したアルキルグリコシドからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の有用物質の生産方法。
【請求項3】
糖類(B)の含有量が、培養液の重量を基準として0.01〜10重量%である請求項1または2に記載の有用物質の生産方法。
【請求項4】
界面活性剤(A)が脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(A11)、脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物と脂肪酸とのエステル(A12)、アルキルエーテルカルボン酸(塩)(A21)、アルキルエーテル硫酸(塩)(A22)、脂肪酸アミドベタイン(A31)及びイミダゾリウムベタイン(A32)からなる群より選ばれる少なくとも1種の界面活性剤である請求項1〜のいずれか1項に記載の有用物質の生産方法。
【請求項5】
界面活性剤(A)の含有量が、培養液の重量を基準として0.1〜10重量%である請求項1〜のいずれか1項に記載の有用物質の生産方法。
【請求項6】
微生物がグラム陰性菌である請求項1〜のいずれか1項に記載の有用物質の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有用物質の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌は、アミノ酸及びタンパク質等の有用物質を製造するために広く利用されている。有用物質生産に用いる細菌として、グラム陰性菌(例えば大腸菌等)が多用されており、遺伝子工学技術の進展に伴って医薬上・産業上有用なタンパク質の遺伝子を大腸菌に導入して有用タンパク質を効率的に製造する技術が知られている。
細菌を用いてタンパク質を発現した場合、目的タンパク質を抽出するために、超音波、高圧ホモジナイザー、フレンチプレス等の物理的破砕法が用いられている。しかし、これらの物理的破砕法はタンパク質を取り出す際、細菌の細胞内に存在する目的のタンパク質以外の物質も大量に混入するため、純度が低下するという問題がある。
【0003】
この問題を解決するタンパク質の生産方法として、界面活性剤を用いたタンパク質の分泌生産方法が知られている。グルタミン酸の生産では、界面活性剤の一種であるポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテートが用いられている(特許文献1)。また、セルラーゼ及びホスファターゼ等のタンパク質の生産においてもポリオキシエチレンソルビタンモノパルミタートやポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート等が用いられている(非特許文献1及び特許文献2)。
分泌生産を行う際、高い生産性を持続でき、生産時間を長くすることが生産性の向上につながる。しかし、得られたタンパク質等の有用物質の活性が低いという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第99/07853号
【特許文献2】国際公開第2010/137624号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】バイオインダストリー協会発酵と代謝研究会編集、「発酵ハンドブック」、共立出版、2001年7月、253頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、活性の高い有用物質を大量に得られる有用物質の生産方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明に至った。
即ち、本発明は、培養液中に含まれる微生物により有用物質を培養液中に分泌生産する方法であり、培養液中に界面活性剤(A)及び糖類(B)を含有する有用物質の生産方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の有用物質の生産方法を用いることで、活性の高い有用物質を大量に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、培養液中に含まれる微生物により有用物質を培養液中に分泌生産する方法であり、培養液中に界面活性剤(A)及び糖類(B)を含有する有用物質の生産方法である。
【0010】
本発明において、微生物としては、グラム陰性菌及びグラム陽性菌等が含まれる。
【0011】
本発明におけるグラム陰性菌として、以下に例を挙げるがこれに限定するものではない。
グラム陰性菌としては、エシェリチア属菌(Escherichia)、サーマス属菌(Thermus)、リゾビウム属菌(Rhizobium)、シュードモナス属菌(Pseudomonas)、シュワネラ属菌(Shewanella)、ビブリオ属菌(Vibrio)、サルモネラ属菌(Salmonella)、アセトバクター属(Acetobacter属)、シネコシスティス属(Synechocystis属)等が挙げられる。
これらのうち、有用物質の生産性の観点から、好ましいのはエシェリチア属菌であり、更に好ましいのは大腸菌である。
【0012】
グラム陽性菌としては、バチルス属(Bacillus属)、サッカロマイセス属(Saccharomyces属)、カンジダ属(Candida属)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium属)、ブレビバチルス属(Brevibacillus属)、ビフィドバクテリウム属 (Bifidobacterium属)、ラクトコッカス属 (Lactococcus属)、エンテロコッカス属 (Enterococcus属)、ペディオコッカス属(Pediococcus属)、リューコノストック属 (Leuconostoc属)、ストレプトマイセス属(Streptomyces属)等が挙げられる。
これらうち、有用物質の生産性の観点から、サッカロマイセス属が好ましい。
サッカロマイセス属としては、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)、サッカロマイセス・マンジニ(Saccharomyces mangini)、及びサッカロマイセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)等が挙げられる。
グラム陽性菌としては、有用物質の生産性の観点から、サッカロマイセス属が好ましく、さらに好ましくはSaccharomyces cerevisiaeである。
なお、本発明において、「有用物質の生産性」とは、有用物質を大量に得ることができることを意味する。
【0013】
微生物としては、有用物質の生産性の観点から、グラム陰性菌が好ましく、さらに好ましくはエシェリチア属菌であり、特に好ましくは大腸菌である。
【0014】
本発明で生産する有用物質としては、タンパク質、オリゴ糖及び核酸等が含まれる。
【0015】
タンパク質としては、酵素{酸化還元酵素(コレステロールオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼ等)、加水分解酵素(リゾチーム、プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、セルラーゼ及びグルコアミラーゼ等)、異性化酵素(グルコースイソメラーゼ等)、転移酵素(アシルトランスフェラーゼ及びスルホトランスフェラーゼ等)、合成酵素(脂肪酸シンターゼ、リン酸シンターゼ及びクエン酸シンターゼ等)及び脱離酵素(ペクチンリアーゼ等)等}、ホルモンタンパク質{骨形成因子(BMP)、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターロイキン1〜12、成長ホルモン、エリスロポエチン、インスリン、顆粒状コロニー刺激因子(G−CSF)、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ナトリウム利尿ペプチド、血液凝固第VIII因子、ソマトメジン、グルカゴン、成長ホルモン放出因子、血清アルブミン及びカルシトニン等}、抗体{1本鎖抗体、IgGラージサブユニット、IgGスモールサブユニット等}、抗原タンパク質{B型肝炎表面抗原等}、機能性タンパク質{プロネクチン(登録商標)、不凍ペプチド、抗菌ペプチド等}、蛍光タンパク質(GFP等)、発光タンパク質(ルシェラーゼ等)及びペプチド(特にアミノ酸組成を限定するものではなく、オリゴペプチド、ジペプチド及びトリペプチド等)等が挙げられる。
これらのタンパク質のうち、タンパク質の作成の容易さの観点から、酵素及びホルモンタンパク質が好ましい。
【0016】
オリゴ糖としては、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、パノース、ラフィノース、シクロデキストリン、ガラクトオリゴ糖及びフラクトオリゴ糖等が挙げられる。
【0017】
核酸としては、イノシン一リン酸、アデノシン一リン酸及びグアノシン一リン酸等が挙げられる。
【0018】
有用物質としては、微生物の有用物質作成の容易さの観点から、タンパク質が好ましく、さらに好ましくは酵素及びホルモンタンパク質である。
【0019】
有用物質がタンパク質であり、微生物がグラム陰性菌である場合、タンパク質がグラム陰性菌内で発現した後、一部又は全てがペリプラズムへ移行する性質を有している事が好ましい。更に好ましくはペリプラズムへの移行に必要なシグナル配列をOpen Reading Frame(ORF)中にコードしているタンパク質である。
ペリプラズムとは、グラム陰性菌の細胞質膜より外側でグラム陰性菌の最表面までの空間の事である。
ペリプラズムへの移行に必要なシグナル配列としては、Sec分泌シグナル配列、TAT分泌シグナル、α−因子由来分泌シグナル等が挙げられる。
【0020】
本発明の有用物質の生産方法で使用される界面活性剤(A)としては、ノニオン界面活性剤(A1)、アニオン界面活性剤(A2)、両性界面活性剤(A3)及びカチオン界面活性剤(A4)が含まれる。
なお、界面活性剤(A)には、後述する糖類(B){糖脂質型バイオサーファクタント等}は含まない。
界面活性剤(A)は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記のノニオン性界面活性剤(A1)としては、脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(A11)、脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物と脂肪酸とのエステル(A12)、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物(A13)、脂肪酸アルキレンオキサイド付加物(A14)、プルロニック型ノニオン界面活性剤(A15)及びポリアルキレングリコール脂肪酸エステル(A16)が含まれる。
【0022】
脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(A11)において、脂肪族アルコールは、有用物質の分泌効率の観点から、炭素数1〜24の脂肪族アルコールが好ましい。
炭素数1〜24の脂肪族アルコールとしては、
炭素数1〜24の脂肪族1価アルコール[メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール];
炭素数2〜24の脂肪族2価アルコール[エチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1、10−デカンジオール、ラウリルグリコール、テトラデカンジオール、ネオペンチルグリコール及び2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール等];
炭素数3〜24の3価アルコール[グリセリン及びトリメチロールプロパン等];
炭素数5〜24の脂肪族3〜8価アルコール[ペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、ソルビタン、ジグリセリン及びジペンタエリスリトール等];等が挙げられる。
【0023】
(A11)において、脂肪族アルコールの炭素数は、有用物質の分泌効率の観点から、6〜18が好ましく、さらに好ましくは8〜14である。
また、有用物質の分泌効率の観点から、2〜8価のアルコールが好ましく、さらに好ましくは2〜6価である。
【0024】
(A11)において、脂肪族アルコールに付加するアルキレンオキサイドとしては、炭素数2〜4のものが含まれ、具体的にはエチレンオキサイド(以下においてEOと略記することがある)、1,2−又は1,3−プロピレンオキサイド及び1,2−、1,3−、1,4−又は2,3−ブチレンオキサイド等が挙げられる。
アルキレンオキサイドとしては、有用物質の分泌効率の観点から、エチレンオキサイド及び/又は1,2−プロピレンオキサイドが好ましい。
【0025】
(A11)において、脂肪族アルコールへのアルキレンオキサイドの合計付加モル数は、培養液への溶解性の観点から1〜30が好ましく、さらに好ましくは1〜20である。
【0026】
(A11)において、脂肪族アルコールに対するアルキレンオキサイドの付加は、ブロック状及び/又はランダム状に付加したものを用いることができる。
【0027】
脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(A11)の具体例としては、ラウリルグリコールのエチレンオキサイド1〜20モル付加物等が挙げられる。
【0028】
脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物と脂肪酸とのエステル(A12)としては、上述の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(A11)への脂肪酸のエステル化物が含まれる。
脂肪酸としては、炭素数2〜22の脂肪酸が含まれ、具体的には、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、ラウリン酸及びオレイン酸等が挙げられる。
脂肪酸の炭素数は、有用物質の分泌効率の観点から、2〜22が好ましく、さらに好ましくは2〜20である。
【0029】
アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物(A13)としては、炭素数1〜24のアルキル基を有するフェノールのアルキレンオキサイド付加物が含まれる。
具体的には、オクチルフェノールのエチレンオキサイド1〜20モル及び/又はプロピレンオキサイド1〜20モル付加物並びにノニルフェノールのエチレンオキサイド1〜20モル及び/又はプロピレンオキサイド1〜20モル付加物等が挙げられる。
【0030】
脂肪酸アルキレンオキサイド付加物(A14)としては、上述の脂肪酸のアルキレンオキサイド付加物が含まれる。脂肪酸として好ましいものは(A12)と同様である。また、アルキレンオキサイドとして好ましいものは(A11)と同様である。
(A14)として具体的には、オレイン酸のエチレンオキサイド9モル付加物(HLB=11.8)、ジオレイン酸のエチレンオキサイド12モル付加物(HLB=10.4)、ジオレイン酸のエチレンオキサイド20モル付加物(HLB=12.9)及びステアリン酸のエチレンオキサイド9モル付加物(HLB=11.9)等]等が含まれる。
なお、本発明におけるHLBとは下記式で計算される数値である(藤本武彦著、界面活性剤入門、142頁、三洋化成工業株式会社発行)。
HLB=20×{親水基の分子量/界面活性剤の分子量}
【0031】
プルロニック型ノニオン界面活性剤(A15)は、両側にエチレンオキシド構造から構成される親水基を有し、この親水基に挟まれるように、プロピレンオキシド構造から構成される疎水基を有するものであり、数平均分子量が200〜30000のものが含まれ、市場から入手できるものとしては、BASFジャパン(株)製のプルロニックシリーズ(例えば、プルロニックF−127NF等)、三洋化成工業(株)製のニューポールPEシリーズ、旭電化工業(株)製のアデカプルロニックL又はFシリーズ、第一工業製薬(株)製エパンシリーズ、日油(株)製のプロノンシリーズ又はユニルーブ等が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル(A16)としては、ポリアルキレングリコールと脂肪酸とのエステル化物が含まれる。
ポリアルキレングリコールとしては、炭素数2〜4のアルキレングリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール及びブチレングリコール等)への炭素数が2〜4のAO(エチレンオキサイド、1,2−プロピレンオキサイド及び1,3−プロピレンオキサイド等)付加物等が挙げられる。
脂肪酸としては、上記のものが好ましく挙げられる。
(A16)として具体的には、(A15)の脂肪酸エステル、EO6モル付加物ステアリン酸エステル(HLB=7.3)、EO65モル付加物のステアリン酸エステル(HLB=17.0)、EO9モル付加物のオレイン酸エステル(HLB=9.4)、EO12モル付加物のオレイン酸エステル(HLB=10.4)、EO30モルPO15モル付加物のオレイン酸エステル(HLB=7.0)、EO290モル付加物のラウリル酸エステル(HLB=18.4)等が挙げられる。
【0033】
ノニオン界面活性剤(A1)のうち、有用物質の分泌効率の観点から、脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(A11)、脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物と脂肪酸とのエステル(A12)が好ましい。
【0034】
前記のアニオン界面活性剤(A2)としては、アルキルエーテルカルボン酸(塩)(A21)、アルキルエーテル硫酸(塩)(A22)、スルホン酸(塩)(A23)、スルホコハク酸(A24)、脂肪酸(塩)(A25)、アシル化アミノ酸(塩)(A26)及びその他のアニオン界面活性剤(A27)が含まれる。
なお、本発明において「酸(塩)」は「酸」及び/又は「酸塩」を意味する。
【0035】
アルキルエーテルカルボン酸(塩)(A21)としては、脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(A11)において、ヒドロキシル基(−OH)を(−ORCOOH;Rはアルキレン基を表す)で置換した化合物及びその塩が含まれる。塩としては、オニウム塩(アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩等)、アルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)等が挙げられる。脂肪族アルコール及びアルキレンオキサイドとして好ましいものは上記(A11)と同様である。
(A21)として具体的には、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンオクチルエーテル酢酸及びラウリルグリコール酢酸等が挙げられる。
【0036】
アルキルエーテル硫酸(塩)(A22)としては、アルコールのアルキレンオキサイド付加物(A11)において、ヒドロキシル基(−OH)を硫酸基(−OSO3H)で置換した化合物及びその塩が含まれる。塩としては、オニウム塩(アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩等)、アルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)等が挙げられる。脂肪族アルコール及びアルキレンオキサイドとして好ましいものは上記(A11)と同様である。
(A22)として具体的には、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム塩及びポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン塩等が挙げられる。
【0037】
スルホン酸(塩)(A23)としては、アルキルスルホン酸(塩)、(アルキル)ベンゼンスルホン酸(塩)、(アルキル)ナフタレンスルホ酸(塩)及びジフェニルエーテルスルホ酸(塩)が含まれる。アルキルとしては、炭素数1〜24のアルキル基が含まれる。塩としては、オニウム塩(アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩等)、アルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)等が挙げられる。
(A23)として具体的には、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩及びナフタレンスルホン酸ナトリウム塩等が挙げられる。
なお、本発明において、「(アルキル)ベンゼン」は「アルキルベンゼン」及び/又は「ベンゼン」を意味し、「(アルキル)ナフタレン」は「アルキルナフタレン」及び/又は「ナフタレン」意味する。
【0038】
スルホコハク酸(塩)(A24)としては、アルキルスルホコハク酸(塩)、アルキルエーテルスルホコハク酸(塩)、ジアルキルスルホコハク酸(塩)、ジアルキルエーテルスルホコハク酸、アミドアルキルスルホコハク酸(塩)が含まれる。アルキルスルホコハク酸及びジアルキルスルホコハク酸としては、脂肪族1価アルコールとスルホコハク酸のエステル化物及びジエステル化物が含まれる。アルキルエーテルスルホコハク酸及び時アルキルエーテルスルホコハク酸としては、(A11)とスルホコハク酸とのエステル化物及びジエステル化物等が含まれる。塩としては、オニウム塩(アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩等)、アルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)等が挙げられる。
(A24)として具体的には、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸二ナトリウム塩、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム塩及びスルホコハク酸ポリオキシエチレンラウロイルエタノールアミド二ナトリウム塩等が挙げられる。
【0039】
脂肪酸(塩)(A25)としては、上記脂肪酸及びその塩が含まれる。塩としては、オニウム塩(アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩等)、アルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)等が挙げられる。
(A25)として具体的には、オクチル酸ナトリウム塩、ラウリル酸ナトリウム塩及びステアリン酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0040】
アシル化アミノ酸塩(A26);アミノ酸のアミノ基をアシル化し、アミド基に置換したものが含まれる。
その他のアニオン界面活性剤(A27)としては、天然由来のカルボン酸及びその塩(ケノデオキシコール酸、コール酸及びデオキシコール酸等)等が挙げられる。
【0041】
アニオン界面活性剤(A2)のうち、有用物質の分泌効率の観点から、アルキルエーテルカルボン酸(A21)及びアルキルエーテル硫酸塩(A22)が好ましい。
【0042】
両性界面活性剤(A3)としては、脂肪酸アミドベタイン(A31)、イミダゾリウムベタイン(A32)、スルホベタイン型両性界面活性剤(A33)及びアルキルアミンオキサイド型両性界面活性剤(A34)が含まれる。
【0043】
脂肪酸アミドベタイン(A31)としては、下記一般式(1)で表される化合物が含まれる。
1−CONH−(CH2n−N+(R2)(R3)−CH2−COO- (1)
一般式(1)において、R1は炭素数1〜24の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐脂肪族基を表し、nは1〜6の整数であり、R2及びR3はそれぞれ水素原子又は炭素数1〜5の飽和若しくは不飽和の直鎖若しくは分岐脂肪族基を表す。
1としては、有用物質の分泌効率の観点から、炭素数1〜24が好ましく、さらに好ましくは炭素数1〜20である。
また、R2及びR3としては、有用物質の分泌効率の観点から、それぞれ炭素数1〜3が好ましく、さらに好ましくはメチル基である。
nとしては、有用物質の分泌効率の観点から、3が好ましい。
(A31)として具体的には、ヤシ油脂肪酸アミドベタイン等(ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等)及びラウリン酸アミドプロピルベタイン等が挙げられる。
【0044】
イミダゾリウムベタイン(A32)としては、下記一般式(2)で表されるものが含まれる。
【化1】
一般式(2)において、R4は炭素数1〜24の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐脂肪族炭化水素基を表す。
4としては、有用物質の分泌効率の観点から、炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基が好ましく、さらに好ましくは炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基である。
(A32)として具体的には、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。
【0045】
アルキルベタイン(A33)としては、下記一般式(3)で表されるものが含まれる。
5−N+(R6)(R7)−CH2−COO- (3)
一般式(3)において、R5は炭素数1〜24の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐脂肪族基を表し、R6及びR7はそれぞれ水素原子又は炭素数1〜5の飽和若しくは不飽和の直鎖若しくは分岐脂肪族基を表し、脂肪族基は、水素原子の一部がヒドロキシル基で置換されていてもよい。
(A33)として具体的には、アルキルジメチルベタイン(ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン及びラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等)、アルキルジヒドロキシアルキルベタイン(ラウリルジヒドロキアミノ酢酸ベタイン等)等]〕;
【0046】
スルホベタイン型両性界面活性剤(A33)としては、下記一般式(4)で表されるものが含まれる。
8−N+(R9)(R10)−(CH2m−SO- (4)
一般式(4)において、R8は炭素数1〜24の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐脂肪族基を表し、R9及びR10はそれぞれ水素原子又は炭素数1〜5の飽和若しくは不飽和の直鎖若しくは分岐脂肪族基を表し、mは1〜5の整数を表す。
8としては、有用物質の分泌効率の観点から、炭素数1〜24が好ましく、さらに好ましくは炭素数1〜20である。
また、R9及びR10としては、有用物質の分泌効率の観点から、それぞれ水素原子又は炭素数1〜3のものが好ましく、さらに好ましくは水素原子である。
mとしては、有用物質の分泌効率の観点から、2が好ましい。
(A33)として具体的には、ペンタデシルスルホタウリン等が挙げられる。
【0047】
アルキルアミンオキサイド型両性界面活性剤(A34)としては、ラウリルジメチルアミンオキサイド等)等が含まれる。
【0048】
両性界面活性剤(A3)のうち、有用物質の分泌効率の観点から、脂肪酸アミドベタイン(A31)及びイミダゾリウムベタイン(A32)が好ましい。
【0049】
カチオン界面活性剤(A4)としては、アミン塩型カチオン界面活性剤(ステアリルアミンアセテート等);及び第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤(ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド及びアルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド等)等が含まれる。
【0050】
界面活性剤(A)としては、有用物質の分泌効率の観点から、ノニオン界面活性剤(A1)、アニオン界面活性剤(A2)及び両性界面活性剤(A3)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、さらに好ましくはアニオン界面活性剤(A2)であり、特に好ましくはアルキルエーテルカルボン酸(塩)(A21)及びアルキルエーテル硫酸(塩)(A22)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
また、界面活性剤(A)の組み合わせとして、有用物質の分泌効率及び有用物質の活性の観点から、ノニオン界面活性剤(A1)とアニオン界面活性剤(A2)との組み合わせ及びノニオン界面活性剤(A1)と両性界面活性剤(A3)との組み合わせが好ましく、さらに好ましくは(A11)と(A22)との組み合わせ、(A11)と(A31)との組み合わせ、(A11)と(A32)との組み合わせ、(A15)と(A32)との組み合わせ及び(A16)と(A31)との組み合わせである。
【0051】
界面活性剤(A)の含有量は、菌体増殖の観点から、培養液〔培地、大腸菌、界面活性剤(A)、ペプチド(B)及びその他培養中に添加する添加剤[その他の成分(C)、後に記載する誘導発現のために用いる添加剤(Isopropyl β−D−1−thiogalactopyranoside等)及び流加培養で供給する栄養源等]の合計重量、以下において同じ〕の重量を基準として、0.1〜10重量%であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜3.8重量%であり、特に好ましくは0.3〜3.8重量%である。
【0052】
本発明において界面活性剤(A)は、これらの界面活性剤をそのまま使用してもよいし、必要により水と混合して、水性希釈液(水溶液状又は水分散液状)として用いてもよい。
水性希釈液における、これらの界面活性剤(A)の合計濃度は、対象となる微生物、生理活性物質の種類及び抽出方法の種類によって適宜選択されるが、有用物質の分泌効率及びハンドリング性の観点から、水性希釈液の重量を基準として、0.1〜99重量%が好ましく、さらに好ましくは1〜50重量%である。
【0053】
本発明の有用物質の生産方法において、培養液中には糖類(B)を含有する。
【0054】
本発明の有用物質の生産方法で使用される糖類(B)としては、単糖の誘導体並びに単糖が2〜60個グリコシド結合で連なったもの及びその誘導体が含まれ、二糖(B−1)、オリゴ糖(B−2)、多糖(B−3)、糖脂質(B−4)及びアルキルグリコシド(B−5)等が含まれる。
【0055】
単糖としては、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース及びヘプトソース並びにこれらの糖のデオキシ糖、ウロン酸、アミノ糖、糖アルコール及びラクトンが含まれる。
【0056】
二糖(B−1)としては、単糖が2個グリコシド結合で結合したものが含まれ、スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、イソトレハロース、ネオトレハロース、ゲンチオビロース、マンノビオース、ガラクトスクロース、キシロビオース及びプリメベロース等が挙げられる。
(B−1)のうち、有用物質の分泌効率及び有用物質の活性の観点から、スクロース、ラクトース及びマルトースからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0057】
オリゴ糖(B−2)としては、単糖が3〜20個グリコシド結合で連なったもの及びその誘導体が含まれ、具体的には、三糖(ラフィノース及びメレジノース等)、四糖(アカルボース及びスタキオース等)、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖、シクロデキストリン{α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、これらの誘導体(メチル化、エチル化、ヒイドロキシ エチル化、ヒドロキシプロピル化、マルト−ス結合化、カチオン化、第4級アンモニウム化、アニオン化、両性化など)等}等が挙げられる。
(B−2)のうち、有用物質の分泌効率及び有用物質の活性の観点から、シクロデキストリンが好ましい。
【0058】
多糖(B−3)としては、単糖が21〜60個グリコシド結合で連なったもの及びその誘導体が含まれ、具体的には、ペクチン、グルコマンナン、ベータグルカン、デキストリン、イヌリン、アガロース、アルギン酸、グリコーゲン、アガロース、マンナン、ヒアルロン酸及びカルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
【0059】
糖脂質(B−4)としては、グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質及び糖脂質型バイオサーファクタント等が挙げられる。
【0060】
グリセロ糖脂質としては、ジアシルグリセロール(アシル基としては、飽和又は不飽和の炭素数6〜24個の直鎖又は分岐鎖状の脂肪酸残基を有するものが含まれ、脂肪酸として具体的にはリノレン酸、リノール酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸等)のヒドロキシル基に糖が共有結合した化合物が含まれ、糖の種類や長さは特に制限されず、単糖、二糖、オリゴ糖又は多糖のいずれであってもよく、二糖、オリゴ糖又は多糖である場合は、1種の糖が連なったものでもよく、2種以上の糖が連なったものでもよい。
グリセロ糖脂質として、具体的には、糖がガラクトースであるもの{ガラクト脂質(モノガラクトシルジアシルグリセロール及びジガラクトシルジアシルグリセロール等)等}、スルホキノボシルジアシルグリセロール等が挙げられる。
【0061】
スフィンゴ糖脂質としては、スフィンゴイドと脂肪酸がアミド結合したセラミドに糖が共有結合した化合物が含まれ、糖の種類や長さは特に制限されず、単糖、二糖、オリゴ糖又は多糖のいずれであってもよく、二糖、オリゴ糖又は多糖である場合は、1種の糖が連なったものでもよく、2種以上の糖が連なったものでもよい。
スフィンゴ糖脂質として、具体的には、糖が単糖であるもの(セレブロシド){例えば、ガラクトセレブロシド及びグルコセレブロシド等}、糖がオリゴ糖であるもの(ガングリオシド)等が含まれる。
【0062】
糖脂質型バイオサーファクタントとしては、一般的に知られているバイオサーファクタント(微生物が生産する両親媒性脂質)のうち、脂質として糖を有するものが含まれ、具体的には、マンノシルエリスリトールリピット、ラムノリピッド、ソホロリピッド、トレハロリピッド及びセロビオリピッド等が挙げられる。
【0063】
糖脂質(B−4)のうち、有用物質の分泌効率及び有用物質の活性の観点から、糖脂質型バイオサーファクタントが好ましい。
【0064】
アルキルグリコシド(B−5)としては、糖(単糖、二糖、オリゴ糖及び多糖)と脂肪族アルコール{炭素数1〜28のものが含まれ、例えば、メタノール、エタノール、炭素数3〜28の直鎖アルコール(具体的にはn−オクタノール、n−ドデシルアルコール及びn−デシルアルコール等)、分岐アルコール等}又は脂肪族チオール(炭素数1〜28のものが含まれ、具体的にはn−オクタンチオール、n−ドデシルチオール及びn−デシルチオール等)とが共有結合したものが含まれ、具体的には、n−オクチル−β−D−グルコシド、n−ドデシルーβ−D−マルトシド及びn−デシル−β−D−マルトシド等が挙げられる。
これらのうち、有用物質の分泌効率及び有用物質の活性の観点から、単糖又は二糖と炭素数1〜28の脂肪族アルコールとがグリコシド結合したものが好ましく、さらに好ましくはn−オクチル−β−D−グルコシド、n−ドデシルーβ−D−マルトシド及びn−デシル−β−D−マルトシドからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0065】
糖類(B)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
本発明で使用する糖類(B)は、有用物質の分泌効率及び有用物質の活性の観点から、二糖(B−1)、オリゴ糖(B−2)、糖脂質(B−4)及びアルキルグリコシド(B−5)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、さらに好ましくはスクロース、ラクトース、マルトース、シクロデキストリン、糖脂質型バイオサーファクタント及び単糖又は二糖と炭素数1〜28の脂肪族アルコールとがグリコシド結合したアルキルグリコシドであり、特に好ましくはスクロース、ラクトース及び糖脂質型バイオサーファクタントである。
【0066】
糖類(B)の含有量は、菌体増殖の観点から、培養液の重量を基準として、0.01〜10重量%であることが好ましく、更に好ましくは0.01〜5重量%である。
【0067】
本発明の有用物質の生産方法で使用される糖類(B)は、そのまま使用してもよいし、必要により水と混合して、水性希釈液(水溶液状又は水分散液状)として用いてもよい。
水性希釈液における、有用物質の生産方法で使用される糖類(B)の重量割合は、対象となる微生物、生理活性物質の種類及び抽出方法の種類によって適宜選択されるが、有用物質の分泌性及びハンドリング性の観点から、水性希釈液の重量を基準として、0.1〜99重量%が好ましく、さらに好ましくは1〜50重量%である。
【0068】
界面活性剤(A)と糖類(B)との組み合わせとしては、有用物質の分泌効率及び有用物質の活性の観点から、ノニオン界面活性剤(A1)、アニオン界面活性剤(A2)及び両性界面活性剤(A3)からなる群より選ばれる少なくとも1種と二糖(B−1)、オリゴ糖(B−2)、糖脂質(B−4)及びアルキルグリコシド(B−5)からなる群より選ばれる少なくとも1種との組み合わせが好ましい。
【0069】
本発明の有用物質の生産方法において、培養液中にはさらに、その他の成分(C)を含有してもよい。
(C)としては、リン酸エステル(C−1)、スピクリスポール酸(C−2)、ペプチド(C−3)及びアミノ酸(C−4)が含まれる。
リン酸エステル(C−1)としては、炭素数1〜50の炭化水素基を有するものが含まれ、炭素数1〜50の炭化水素基としては、炭素数1〜50の鎖状の炭化水素基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ラウリル基、ステアリル基、リノール基及びオレイル基等)、炭素数3〜50の脂環式炭化水素基(シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等)、炭素数6〜50の芳香族炭化水素基(フェニル基、メチルフェニル基、ビフェニル基及びナフチル基等)及び炭素数7〜50の芳香脂肪族基(ベンジル基等)等が挙げられる。
(C−1)として具体的には、メタクリロイルオキシエチルホスホリルエタノールアミン、1,2−ジラウロリルグリセロ−3−ホスホエタノールアミン、1,2−ジエルコイルグリセロ−3−ホスホエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ジブチリルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、モノミニストイルホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、1−パルミトイルグリセロ−3−ホスホコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジカプロイルホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−アラキドニルホスファチジルコリン、ジオクタノイル−L−α−グリセロホスホリルコリン、ジデカノイルホスファチジルコリン、1−ステアロイル−2−アラキドノイルホスファチジルコリン、1,2−ジアラキドニルホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−(9−ヒドロキシ−9−ヒドロペルオキシノナノイル)−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン、ジフィタノイルホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−(5−ヒドロキシ−8−オキソ−6−オクテノイル)−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン、グリセロホスホコリン、デシルホスホリルコリン、ヘキサデシルホスホリルコリン、リソホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、ホスホリルエタノールアミン、ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)350]1,2−ジオレイル−グリセロ−3−アンモニウム塩、ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)1000]1,2−ジオレイル−グリセロ−3−アンモニウム塩、ジオレオイルホスファチジン酸、ホスホリルグリセロール、ホスファチジルグリセロールエチレンオキサイド14モル付加物及びホスホコリン等が挙げられる。
リン酸エステル(C−1)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
これらの内、タンパク質の分泌効率の観点から好ましいのは、炭素数4〜18の炭化水素基を有するリン酸エステルであり、更に好ましいのは炭素数8〜18の炭化水素基を有するリン酸エステルである。
【0070】
、ペプチド(C−3)としては、オリゴペプチド(C−31)、ポリペプチド(C−32)及びアシルペプチド系バイオサーファクタント(C−33)等が挙げられる。
【0071】
オリゴペプチド(C−31)としては、タンパク質構成アミノ酸で構成されるオリゴペプチド及び非タンパク質構成アミノ酸で構成されるオリゴペプチド等が挙げられる。
オリゴペプチド(C−31)の内、タンパク質構成アミノ酸で構成されるオリゴペプチドとしては、アラニルグリシルグリシン、トリグリシン、テトラグリシン、アラニルヒスチジン、グリシルセリン、ロイシルグリシン及びロイシルチロシン等が挙げられる。
【0072】
ポリペプチド(C−32)としては、タンパク質構成アミノ酸で構成されるポリペプチド及び非タンパク質構成アミノ酸で構成されるポリペプチドが挙げられる。
ポリペプチド(C−32)の内、タンパク質構成アミノ酸で構成されるポリペプチドとしては、グルタミン酸リジンコポリマー、ロイシンリジンコポリマー、ポリリジン、ポリグルタミン酸、ポリガンマグルタミン酸、ナイシン、マイクロシン、ラクトフェリン及びデプシペプチド等が挙げられる。
【0073】
オリゴペプチド(C−31)及びポリペプチド(C−32)のアミノ酸数としては、タンパク質の分泌性の観点から、3〜200であることが好ましく、更に好ましくは3〜100である。
【0074】
アシルペプチド系バイオサーファクタント(C−33)としては、サーファクチン等が挙げられる。
サーファクチンとしては、カネカ・サーファクチン[(株)カネカ製]等として市場から入手できる。
【0075】
本発明のタンパク質の生産方法で使用されるペプチド(C−3)は、25℃の水に対する溶解度が1.0〜500.0g/L以下であることが好ましく、また、質量数が5000未満であることが好ましい。
なお、ペプチド(C−3)の質量数は、SDS−PAGE法により求めることができる。
【0076】
ペプチド(C−3)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
本発明で使用するペプチド(C−3)は分泌効率の観点から、タンパク質構成アミノ酸で構成されるオリゴペプチド及びタンパク質構成アミノ酸で構成されるポリペプチドが好ましい。
【0077】
本発明のタンパク質の生産方法で使用されるアミノ酸(C−4)は、タンパク質構成アミノ酸(C−41)及び非タンパク質構成アミノ酸(C−42)等が挙げられる。
【0078】
タンパク質構成アミノ酸(C−41)としては、α−アラニン、アルギニン、アスパラギン、グリシン、ヒスチジン、ロイシン、リシン、セリン、トレオニン及びバリン等が挙げられる。
【0079】
非タンパク質構成アミノ酸(C−42)としては、β−アラニン、カナバミン、シトルリン、H−ホモアルギニン、イソセリン、グリコシアニン、4アミノ絡酸、ホモセリン、アミノアジピン酸、ジアミノピメリン酸、ジアミノブチル酸、ジアミノプロピオン酸及びイソセリン等が挙げられる。
【0080】
アミノ酸(C−4)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
本発明で使用するアミノ酸(C−4)は、分泌効率の観点から、タンパク質構成アミノ酸であることが好ましく、更に好ましいのはα−アラニン、アルギニン、グリシン、リシン及びセリンからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0081】
その他の成分(C)としては、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
その他の成分(C)の含有量は、培養液の重量を基準として、有用物質の分泌効率の観点から、0.05〜5.0重量%であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜3.0重量%である。
【0082】
本発明において培養液としては、上記(A)〜(C)以外に微生物等の宿主の資化可能な炭素源、窒素源その他の必須栄養素を含む培地(TB培地等)を用いることができる。
【0083】
本発明の有用物質生産方法は、有用物質を分泌生産する工程(a)及び培養液から有用物質を分離する工程(b)を含むことが好ましい。
工程(a):有用物質を生産する微生物を培養する培養液と、界面活性剤(A)及び糖類(B)を同時に存在させて有用物質を細胞外(培養液中)に分泌させる工程。
工程(b):工程(a)の後、培養液から有用物質を分離する工程。
【0084】
以下に、本発明の方法で分泌させる有用物質(例えばタンパク質)を、微生物(例えば大腸菌)内で生産する方法の一例[(i)〜(iii)]を示す。
【0085】
(i)発現ベクターの作成
(i−1)目的タンパク質を発現している細胞からメッセンジャーRNA(mRNA)を分離し、該mRNAから単鎖のcDNAを、次に二重鎖DNAを合成し、該二本鎖DNAをファージDNA又はプラスミドに組み込む。得られた組み換えファージ又はプラスミドを宿主大腸菌に形質転換しcDNAライブラリーを作成する。
(i−2)目的とするDNAを含有するファージDNA又はプラスミドをスクリーニングする方法としては、ファージDNA又はプラスミドと目的タンパク質遺伝子又は相補配列の一部をコードするDNAプローブとのハイブリダイゼーション法が挙げられる。
(i−3)スクリーニング後のファージ又はプラスミドから目的とするクローン化DNA又はその一部を切りだし、該クローン化DNA又はその一部を発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することによって、目的遺伝子の発現ベクターを作成することができる。内膜を移行させるシグナル配列(ペリプラズムに目的物質を発現させるシグナル配列)をコードするDNAを同時に連結することもできる。
【0086】
(ii)培養[前記の工程(a)に該当]
(ii−1)宿主大腸菌を(i−3)で作成した発現ベクターで形質転換して組み換え大腸菌を作成し、組み換え大腸菌を前培養する。前培養は培地上(LB培地等)で15〜43℃で3〜72時間行う。
(ii−2)タンパク質の生産に用いる培養液を121℃、20分間オートクレーブ滅菌を行い、ここに培地(TB培地等の微生物等の宿主の資化可能な炭素源、窒素源その他の必須栄養素を含む培地)で前培養した組み換え大腸菌を培養する。培養は、15〜43℃で12〜72時間行う。
この培養液に、誘導発現のため、Isopropyl β−D−1−thiogalactopyranoside等を添加し、続いて、界面活性剤(A)及び糖類(B)(必要によりその他の成分(C))を使用する場合は、上記化合物と培養液を混合し均一化したものを、培養液として用いて同様の操作を行う。
また、培養液に、前記のIsopropyl β−D−1−thiogalactopyranoside等を添加してから6時間から72時間後に上記化合物を加える場合は、上記化合物を加えてから1〜1000時間培養を継続する。
なお、上記の培養工程中、大腸菌の栄養源(消泡剤及びアンピシリン等を含有するグリセリン/タンパク質溶液等)を供給する流加培養を実施しても良い。
【0087】
(iii)精製[前記の工程(b)に該当]
(iii−1)培養液中に分泌されたタンパク質は、遠心分離、中空糸分離及びろ過等で、微生物及び微生物残さと分離される。
(iii−2)タンパク質を含む培養液は、イオン交換カラム、ゲルろ過カラム、疎水カラム、アフィニティカラム及び限外カラム等のカラム処理を繰り返し、エタノール沈殿、硫酸アンモニウム沈殿及びポリエチレングリコール沈殿等の沈殿処理を必要に応じ適宜おこなうにことよって分離精製される。
【0088】
(iii−1)で分離された宿主大腸菌は、その後、新たに培養液を供給することにより、更に培養することができる。その培養液等を更に(iii)の工程に供し精製、培養を繰り返すことにより、タンパク質の連続生産を行うことができる。
【0089】
上記の(iii)のタンパク質の分離・取り出し工程におけるカラムクロマトグラフィーに使用される充填剤としては、シリカ、デキストラン、アガロース、セルロース、アクリルアミド及びビニルポリマー等が挙げられ、市販品ではSephadexシリーズ、Sephacrylシリーズ、Sepharoseシリーズ(以上、Pharmacia社製)、Bio−Gelシリーズ(Bio−Rad社製)等がある。
【0090】
本発明の有用物質生産方法は、界面活性剤(A)及び糖類(B)(必要によりその他の成分(C))と、微生物とを培養液中に同時に存在させて、有用物質を培養液中に分泌させる工程を含む。
この工程において、微生物が生存している限り、微生物が有用物質を作成し培養液中に分泌することができる。
また、微生物が有用物質を作成する能力を有していれば、作成する有用物質の種類は問わず本発明の生産方法が使用できる。
本発明の有用物質生産方法は、微生物内で作成した有用物質が微生物のペリプラズムに移行している場合に特に有効である。有用物質がペリプラズムに移行していることによって、有用物質が培養液中に分泌されやすくなる。
【0091】
本発明の有用物質生産方法の有用物質の生産量の評価は、分泌効率比で表すことができる。
【0092】
分泌効率比とは、本技術により微生物内の有用物質が微生物外へ分泌される比率を示す指標であり、分泌させる有用物質、使用する微生物、使用する本特許記載の化合物により変化する指標である。なお、本発明においては、下記式によって定義される。
分泌効率比=(Xp/Xs)/(Yp/Ys)
Xp:本発明を用いて有用物質を生産した培養液を、遠心分離して得た培養上清中の有用物質量
Xs:本発明を用いて有用物質を生産した培養液の乾燥菌体密度
Yp:糖類(B)及びその他の成分(C)を添加しないこと以外は本発明の方法と同様にして有用物質を生産した培養液を、遠心分離して得た培養上清中の有用物質量
Ys:糖類(B)及びその他の成分(C)を添加しないこと以外は本発明の方法と同様にして有用物質を生産した培養液の乾燥菌体密度
【0093】
本発明において乾燥菌体密度とは、培養液1L中に含まれる微生物を乾燥させた状態の微生物の重量を表す。乾燥菌体密度は、次の手順(1)〜(5)により求める。
手順(1):あらかじめ容器(遠心チューブ)の重量を測定しておく。
手順(2):培養液100mlを手順(1)の容器入れ、遠心分離(4,000G、15分、4℃)して、上澄みを抜き取り、微生物を集菌する。
手順(3):容器中の集菌した微生物を、0.9重量%NaCl水溶液[手順(2)で使用した培養液と同じ体積]で洗い、再度遠心分離(4,000G、15分、4℃)して、上澄みを抜き取り、微生物を集菌する。
手順(4):手順(3)で得られた微生物を容器にいれたままの状態で、105℃にて10時間乾燥させた後、容器と微生物の合計の重量を測定する。
手順(5):手順(4)の後更に105℃で2時間乾燥させた後、容器と微生物の合計の重量を測定して重量変化が、手順(4)で測定した微生物の重量[容器と微生物の合計の重量から手順(1)で測定した容器の重量を減算]の重量を基準として2重量%以下であることを確認する。重量変化が2重量%より大きい場合は、重量変化が無くなるまで105℃で乾燥を持続する。
手順(5)と手順(1)の測定値と手順(2)で使用した培養液の体積(L)を下記式に当てはめることにより、乾燥菌体密度を求める。
乾燥菌体密度(g/L)=([手順(5)の測定値]−[手順(1)の測定値])/[手順(2)で使用した培養液の体積(L)]
【0094】
本発明の有用物質の生産方法における乾燥菌体密度は、有用物質生産量の観点から、培養液の体積を基準として1.5〜500g/Lであることが好ましく、更に好ましくは3〜200g/Lであり、特に好ましくは4〜100g/Lである。
微生物が大腸菌である場合の乾燥菌体密度は、有用物質の生産が実施可能な観点から、培養液の体積を基準として、1.5〜500g/Lであることが好ましく、更に好ましくは3〜100g/Lであり、特に好ましくは10〜50g/Lであり、最も好ましくは12〜27g/Lである。
【0095】
また、本発明の有用物質生産方法を用いて生産した有用物質の活性の評価は、活性値比で表すことができる。
活性値比とは、本技術により菌体外に分泌された有用物質の活性を示す指標であり、分泌させる有用物質、使用する微生物、使用する本特許記載の化合物により変化する指標である。なお、本発明においては、下記式によって定義される。
活性値比=(Xa/Xp)/(Ya/Yp)
Xa:本発明を用いて有用物質を生産した培養液を、遠心分離して得た培養上清中のタ ンパク質の活性(酵素等としての活性)
Ya:界面活性剤(A)、糖類(B)及びその他の成分(C)を添加しないこと以外は本発明の方法と同様にして有用物質を生産した培養液を、遠心分離して得た培養上清中の有用物質の活性(酵素等としての活性)
Xp:分泌効率比で説明したXpと同じ
Yp:分泌効率比で説明したYpと同じ
【0096】
本発明が、高い有用物質生産量を発揮する理由としては、詳細は不明であるが、糖類(B)を用いることで、有用物質の生産量低下の原因となる培養中に生産した有用物質の変性及び/又は分泌した有用物質の凝集を抑制していることが考えられる。
糖類(B)を用いない場合でも、有用物質の変性及び/又は分泌した有用物質の凝集を抑制する性質をもっている化合物を用いた場合であれば、同じく有用物質の生産量を向上させる効果があると考えられる。
【0097】
また、本発明の方法で得られる有用物質は、酵素等として高い活性を示し、特に、糖類(B)としてスクロース、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン若しくはラムノリピッドを用いた時又はこれらの化合物を併用して用いた時に更に高い活性を示す。これについても、前述したように、糖類(B)を用いることで、培養中に生産した有用物質の変性及び/又は分泌した有用物質の凝集を抑制しているためと推測される。
【実施例】
【0098】
以下の実施例、比較例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特記しない限り、部は重量部を意味する。なお、実施例5、11、15、17、22、30および31は、参考例1、2、3、4、5および6である。
【0099】
<製造例1:大腸菌(α)の作製>
プライマー1と2(表1)を用いてPCR法により大腸菌株W3110のアルカリホスファターゼ(phoA)遺伝子を増幅した。PCR断片を制限酵素NdeIとBamHIで処理後、pET−22bプラスミド(Novagen社)のNdeI制限酵素サイトとBamHI制限酵素サイトに結合した。その後λDE3 Lysogenization Kit(Novagen社)を用いて、大腸菌株AG1(ToYoBo社)を改変して作製したAG1(DE3)大腸菌株にこのプラスミドを形質転換してアルカリホスファターゼ発現株[大腸菌(α)]を作製した。発現したアルカリホスファターゼがペリプラズム画分に局在することをMETHODS IN ENZYMOLOGY 353巻 2002年 121頁の方法に基づいて解析し確認した。
【0100】
<製造例2:大腸菌(β)の作製>
プライマー3と4(表1)を用いてPCR法によりBacillus licheni formisのbglC遺伝子を増幅した。PCR断片を制限酵素NdeIとBamHIで処理後、pET−22bプラスミド(Novagen社)のNdeI制限酵素サイトとBamHI制限酵素サイトに結合した。その後BL21(DE3)大腸菌株(Novagen社)にこのプラスミドを形質転換しセルラーゼ発現株[大腸菌(β)]を作製した。発現したセルラーゼがペリプラズム画分に局在することをMETHODS IN ENZYMOLOGY 353巻 2002年 121頁の方法に基づいて解析し確認した。
【0101】
【表1】
【0102】
<製造例3:プルロニックF−127NFのラウリン酸1モル縮合物の作製>
プルロニックF−127NF[BASF社製]30部と、ラウリン酸1部とをジメチルホルムアミド10部中で、反応温度10℃にて10時間エステル化反応させた後、減圧にてジメチルホルミアミドを留去し、プルロニックF−127NFのラウリン酸1モル縮合物を31部得た。
【0103】
<実施例1〜15及び比較例1〜13:大腸菌(α)の培養と大腸菌(α)が産生するホスファターゼの評価>
製造例1で作製した大腸菌(α)の培養液1mlをLB培地[LB Broth, Miller、Difco Laboratories製]10mlに植菌して37℃で12時間振とう培養して前培養液を作製した。
上記の前培養液を遠心分離機[Suprema21、(株)トミー精工製]を用いて、遠心分離し(7000rpm×15分)、上清液除去後の菌体をTB培地(Difco社)10mlに再懸濁し、Isopropyl β−D−1−thiogalactopyranosideを終濃度1mMとなるように添加し、更に表2に記載する界面活性剤(A)及び糖類(B)と、必要によりその他の成分(C)を、培養液の重量[培地、前培養液、Isopropyl β−D−1−thiogalactopyranoside並びに添加する界面活性剤(A)、糖類(B)及びその他の成分(C)の合計重量]を基準として、表2に記載する重量%となるように添加し、37℃で振とう培養を開始し、大腸菌(α)内で、タンパク質であるホスファターゼを生産し、生産したホスファターゼを培養液中に分泌させた。
振とう培養開始後から21時間後に、培養液をサンプリングし、分泌効率(相対比)及び活性値比(相対比)を評価し、結果を表2に記載した。
【0104】
【表2】
【0105】
<実施例16〜35及び比較例14〜26:大腸菌(β)の培養と大腸菌(β)が産生するセルラーゼの評価>
製造例2で作製した大腸菌(β)の終夜培養液0.5mlをLB培地[LB Broth, Miller、Difco Laboratories製]5mlに植菌して30℃で3時間振とう培養を行い、前培養液を作製した。
前培養液5mLを50mLの培地〔酵母エキス[日本製薬(株)製]1.2g、ポリペプトン[日本製薬(株)製]0.6g、リン酸2カリウム0.47g、リン酸1カリウム0.11g、硫酸アンモニウム0.35g、リン酸2ナトリウム12水和物0.66g、クエン酸ナトリウム2水和物0.02g、グリセロール0.2g、ラクトアルブミン水解物1.5g、消泡剤[信越化学工業(株)製、「KM−70」]0.3g、1mM硫酸マグネシウム、微量金属溶液[塩化カルシウム18.9μg、塩化鉄(III)500μg、硫酸亜鉛7水和物9.0μg、硫酸銅5.1μg、塩化マンガン4水和物6.7μg、塩化コバルト4.9μg、エチレンジアミン4酢酸4ナトリウム200μg]、100mg/Lアンピシリン〕に植菌し微生物培養装置[エイブル(株)製、製品名「BioJr.8」]を用いて、pH6.8、30℃を維持したまま通気攪拌培養を開始した。
培養開始から3時間後に、Isopropyl β−D−1−thiogalactopyranosideを終濃度1mMとなるように添加し、更に表3に記載する界面活性剤(A)及び糖類(B)と、必要によりその他の成分(C)を、培養液の重量[培地、前培養液、Isopropyl β−D−1−thiogalactopyranoside並びに添加する界面活性剤(A)、糖類(B)及びその他の成分(C)の合計重量]を基準として、表3に記載する重量%となるように添加し、培養開始14時間後から、グリセリン/タンパク質溶液〔50% グリセリン、50g/L ラクトアルブミン水解物、33g/L 消泡剤[信越化学工業(株)製、「KM−70」]、100mg/L アンピシリン〕を定量送液ポンプ[MP−1000、東京理科器械(株)製]を用いて2ml/hrの速度で滴下を開始した。
培養開始後から48時間後に培養液をサンプリングし、分泌効率(相対比)及び活性値比(相対比)を評価し、結果を表3に記載した。
【0106】
【表3】
【0107】
なお、表2及び3における界面活性剤(A)、糖類(B)及びその他の成分は、以下のものを使用した。
・ラウリルグリコールのエチレンオキサイド1モル付加物[ニューポールDDE−10、三洋化成工業(株)製]
・プルロニックF−127NF[BASF社製]
・プルロニックF−127NFのラウリン酸1モル縮合物:製造例3で得たもの
・ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム[ビューライトECA、三洋化成工業(株)製]
・ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム[サンデッドEN、三洋化成工業(株)製]
・ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン[レボン2000、三洋化成工業(株)製]
・2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン[レボン105、三洋化成工業(株)製]
・スクロース[和光純薬工業(株)製]
・ラクトース[和光純薬工業(株)製]
・マルトース[和光純薬工業(株)製]
・2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン[和光純薬工業(株)製]
・α−シクロデキストリン[和光純薬工業(株)製]
・ラムノリピッド[東京化成工業(株)製]
・マンノシルエリスリトールリピット[和光純薬工業(株)製]
・n−オクチル−β−D−グルコシド[同仁化学研究所製]
・n−ドデシルーβ−D−マルトシド[同仁化学研究所製]
・n−デシル−β−D−マルトシド[同仁化学研究所製]
・ホスファチジルコリン[東京化成工業(株)製]
・ヘキサデシルホスファチジルコリン[東京化成工業(株)製]
・スピクリスポール酸[東京化成工業(株)製]
・ポリグルタミン酸[25℃の水に対する溶解度:15g/L、ポリ−L−グルタミン酸、シグマアルドリッチ社]
・サーファクチン[25℃の水に対する溶解度:30g/L、カネカ・サーファクチン、(株)カネカ製]
・アルギニン[和光純薬工業(株)製]
・グリシン[和光純薬工業(株)製]
【0108】
[分泌効率比の評価方法]
分泌効率比を以下の式によって定義した。分泌効率比は、本技術によりグラム陰性菌内のタンパク質がグラム陰性菌外へ分泌される比率を示す指標である。
分泌効率比=(Xp/Xs)/(Yp/Ys)
Xp:実施例1〜35及び比較例1〜26で得た各培養液を遠心分離(13000G×15min)して得た培養上清中のタンパク質量(タンパク質の重量についての詳細な測定方法は以下に記載)
Xs:実施例1〜35及び比較例1〜26で得た各培養液の乾燥菌体密度
Yp:実施例1〜35においては、比較例1〜26において同じ界面活性剤(A)の種類及び量を使用しているもののタンパク質量、比較例1〜26においては比較例1〜26のそれぞれのタンパク質量
Ys:実施例1〜35においては、比較例1〜26において同じ界面活性剤(A)の種類及び量を使用しているものの乾燥菌体密度、比較例1〜26においては比較例1〜26のぞれぞれの乾燥菌体密度
【0109】
<タンパク質量の定量方法>
培養液を回収後のタンパク質の重量は、培養上清中の総タンパク質をSDS−PAGEで解析をして、タンパク質バンドの濃淡をImageJ(National Institutes of Health,USA)により数値化し、生産した組み換えタンパク質量の定量を行った。(当業者が行う標準的な方法に基づいて行った。)
【0110】
<乾燥菌体密度測定方法>
実施例1〜35及び比較例1〜26における乾燥菌体密度は、次の手順(1)〜(5)により求めた。
手順(1):あらかじめ容器(遠心チューブ)の重量を測定しておく。
手順(2):実施例1〜35及び比較例1〜26で得た各培養液100mlを手順(1)の容器入れ、遠心分離(4,000G、15分、4℃)して、上澄みを抜き取り、グラム陰性菌を集菌する。
手順(3):容器中の集菌したグラム陰性菌を、0.9重量%NaCl水溶液[手順(2)で使用した培養液と同じ体積]で洗い、再度遠心分離(4,000G、15分、4℃)して、上澄みを抜き取り、グラム陰性菌を集菌する。
手順(4):手順(3)で得られたグラム陰性菌を容器にいれたままの状態で105℃で10時間乾燥させた後、容器とグラム陰性菌の合計の重量を測定する。
手順(5):手順(4)の後更に105℃で2時間乾燥させた後、容器とグラム陰性菌の合計の重量を測定して重量変化が、手順(4)で測定したグラム陰性菌の重量[容器とグラム陰性菌の合計の重量から手順(1)で測定した容器の重量を減算]の重量を基準として2重量%以下であることを確認する。重量変化が2重量%より大きい場合は、重量変化が無くなるまで105℃で乾燥を持続する。
手順(5)と手順(1)の測定値と手順(2)で使用した培養液の体積(L)を下記式に当てはめることにより、乾燥菌体密度を求める。
乾燥菌体密度(g/L)=([手順(5)の測定値]−[手順(1)の測定値])/[手順(2)で使用した培養液の体積(L)]
【0111】
[活性値比の評価方法]
活性値比とは、本技術により菌体外に分泌されたタンパク質の活性を示す指標であり、分泌させるタンパク質、使用するグラム陰性菌、使用する本特許記載の化合物により変化する指標である。なお、本発明においては、下記式によって定義される。
活性値比=(Xa/Xp)/(Ya/Yp)
Xa:実施例1〜35及び比較例1〜26で得た各培養液遠心分離して得た上清液中のタンパク質の活性(タンパク質の活性についての詳細な測定方法は以下に記載)
Ya:実施例1〜35においは、比較例1〜26において同じ界面活性剤(A)の種類及び量を使用しているものの上清液中のタンパク質の活性
Xp:分泌効率比で説明したXpと同じ
Yp:分泌効率比で説明したYpと同じ
【0112】
<実施例1〜15及び比較例1〜13において、大腸菌(α)を使って生産したタンパク質の活性測定:アルカリホスファターゼ活性測定>
12.4gのジエタノールアミン(MW=105.14、純度85%)を80mlの蒸留水で希釈後、1MのMgCl2 0.5mlを添加する。更に37℃に保温した状態で、2N塩酸でpHを9.8に調整し、最終液量を100mlとすることで、溶液A[1Mジエタノールアミン緩衝液(pH9.8)]を調製した。
溶液Aに、0.67Mとなるようにp−ニトロフェニルリン酸を溶解し、溶液Bを調整した。
溶液A2.9mlと溶液B0.1mlをエッペンドルフチューブに投入した後に37℃に温調し、続いて実施例1〜15及び比較例1〜13で得た各培養液を遠心分離(13000G×15min)して得た培養上清0.1mlをエッペンドルフチューブに投入し、3秒間転倒混和した。転倒混和後の液をセル(光路長=1.0cm)に移し、水を対照に37℃に制御された分光光度計[PharmaSpec UV−1700、(株)島津製作所製]で405nmの吸光度を、セルに移してから3、4及び5分後に読み取り、時間(分)をX軸、吸光度をY軸とするX−Y座標図プロットし、最小二乗法で直線を引いた時の傾きから1分間あたりの吸光度変化を求める(ΔODTEST)。ブランクは、培養液0.1mlの代わりに、水0.1mlを加え、同様に1分間あたりの吸光度変化を求める(ΔODBLANK)。これらの値を用いて、下記の式よりアルカリホスファターゼ活性を求めた。
アルカリホスファターゼ活性(U/ml)={(ΔODTEST−ΔODBLANK)×3.1}/{18.2×1.0×0.1}
3.1:培養上清添加後の反応液量(ml)
18.2:上記測定条件における、p−ニトロフェノールのミリモル分子吸光係数(cm2/μmol)
1.0:光路長(cm)
0.1:酵素溶液の添加量(ml)
【0113】
<実施例16〜35及び比較例14〜26において、大腸菌(β)を使って生産したタンパク質の活性測定:セルラーゼ活性測定>
セルラーゼ活性としてエンド−1,4−β−グルカナーゼ活性を測定した。
pH7.5の100mMリン酸バッファー水溶液に、17.5g/Lになるようにカルボキシメチルセルロース[和光純薬工業(株)製]を溶解し、基質溶液を調整した。
実施例16〜35及び比較例14〜26で得た各培養液を遠心分離(13000G×15min)して得た培養上清5μLと、基質溶液3mLとを混合し、この混合液を、粘度計(TVE−22L粘度計、2rpm)の40℃に温調したカップに移す。
混合直後に粘度を読み取り、更に1、2、3、4、5及び6分後に粘度を読み取り、時間(分)をX軸、粘度(mPa・s)をY軸とするX−Y座標図プロットし、最小二乗法で直線を引いた時の傾きの絶対値をセルラーゼ活性(エンド−1,4−β−グルカナーゼ活性)と定義した。
【0114】
表2及び3において、培養液中に界面活性剤(A)及び糖類(B)を含有する実施例1〜35は、分泌効率比が1よりも大きいことから、界面活性剤(A)だけの場合と比較して、有用物質を菌体外に大量に分泌させることができることがわかる。また、活性値比も1よりも大きいことから、界面活性剤(A)だけの場合と比較して、得られる有用物質の活性が高くなることがわかる。したがって、本発明の有用物質の生産方法によれば、活性の高い有用物質を大量に得ることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の有用物質の製造方法は、有用物質を生産菌から抽出する際に使用できる。製造される有用物質としては、酵素、ホルモンタンパク質、抗体及びペプチド等が挙げられるが、中でも、製造される有用物質が酵素(プロテアーゼ、セルラーゼ、リパーゼ及びアミラーゼ等)の場合には、食品加工用、洗浄剤用、繊維処理用、製紙用途又は酵素変換用途等として好適に使用できる。