特許第6862235号(P6862235)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862235
(24)【登録日】2021年4月2日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20210412BHJP
【FI】
   F02D29/02 321C
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-61320(P2017-61320)
(22)【出願日】2017年3月27日
(65)【公開番号】特開2018-162764(P2018-162764A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2020年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】秋森 亮佑
【審査官】 家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−234873(JP,A)
【文献】 特開2013−154666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 1/00 − 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセルペダルの踏力を閾値と比較して、車両に設けられた内燃機関への燃料の供給を許可/制限する制御装置であって、
前記アクセルペダルの踏力が前記閾値を跨ぐ回数が既定値に達したとき前記閾値を増大させる増大手段、および
前記増大手段の処理の後の前記アクセルペダルの踏力の変化が既定条件を満足するとき前記閾値を低減する低減手段を備え、前記既定条件が、前記アクセルペダルの踏力が前記増大手段により増大した閾値以上となることである、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に、アクセルペダルの踏力を閾値と比較して、車両に設けられた内燃機関への燃料の供給を許可/制限する、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の装置の一例が、特許文献1に開示されている。この装置によれば、アイドルスイッチからアイドル信号が出力されると、点火時期が徐々に遅角され、その後に燃料カットが実行される。これによって、燃料カットに起因するトルクの急激な変動が抑制され、ドライバビリティを改善することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−69340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、極低車速で走行するとき、ドライバはアクセルペダルを一定に踏んでいるつもりでも、僅かなアクセルペダル操作により、アイドル判定が反転する場合がある。すると、特許文献1のように点火時期を調整する装置では、発生トルクに差が生じ、車両の挙動がギクシャクする。
【0005】
このようなギクシャクは、ドライバによるアクセルペダルの踏み込みの安定性を阻害し、アイドル判定の反転によるさらなるギクシャクを引き起こす。また、燃料カットが作動して発生トルクが0N・mになると、発生トルクの差がさらに拡大し、ギクシャクの程度はさらに激しくなる。
【0006】
それゆえに、この発明の主たる目的は、アクセルペダルの踏力の微動に起因して車両の挙動が不安定となる懸念を軽減することができる、内燃機関の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る内燃機関の制御装置は、アクセルペダルの踏力を閾値と比較して、車両に設けられた内燃機関への燃料の供給を許可/制限する制御装置であって、アクセルペダルの踏力が閾値を跨ぐ回数が既定値に達したとき閾値を増大させる増大手段、および増大手段の処理の後のアクセルペダルの踏力の変化が既定条件を満足するとき閾値を低減する低減手段を備え、前記既定条件が、アクセルペダルの踏力が増大手段により増大した閾値以上となることである。
【発明の効果】
【0008】
アクセルペダルの踏力が閾値を跨ぐ回数が既定値に達したとき閾値を増大させることで、アクセルペダルの踏力と閾値との大小関係は、アクセルペダルの踏力の微動に関わらず安定する。また、その後のアクセルペダルの踏力の変化が既定条件を満足するときに閾値を低減することで、安定状態は、既定条件が満足されるまで継続する。これによって、アクセルペダルの踏力の微動に起因して車両の挙動が不安定となる懸念を軽減することができる。
【0009】
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】この実施例の車両の構成の一例を示すブロック図である。
図2図1に示す車両の要部構成の一例を示すブロック図である。
図3図1または図2に示すECUの動作の一部を示すフロー図である。
図4】(A)はアクセル開度の変化の一例を示す波形図であり、(B)はアイドル判定結果の変化の一例を示す波形図であり、(C)はエンジン回転数の変化の一例を示す波形図であり、(D)は燃料カット機能のオン/オフ制御の一例を示す波形図であり、(E)はエンジンから発生するトルクの変化の一例を示す波形図であり、(F)は車両の挙動の変化の一例を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1を参照して、この実施例の車両10は、駆動機構12およびブレーキング機構14を備える。また、車両10の左前側部および右前側部には前タイヤFTLおよびFTRが設けられ、車両10の左後側部および右後側部には後タイヤRTLおよびRTRが設けられる。
【0012】
駆動機構12は、アクセルペダル16の踏み込みに応じたトルクを発生する。具体的には、アクセルペダル16が踏み込まれると、後述するエンジン22に設けられたスロットルバルブ(図示せず)が開かれる。トルクは、スロットルバルブの開度によって規定され、かつドライブシャフト20を介して前タイヤFTLおよびFTRに伝達される。これによって前タイヤFTLおよびFTRが回転し、車両10が走行する。
【0013】
ブレーキング機構14に付随するブレーキペダル14pが踏み込まれると、前タイヤFTL,FTRおよび後タイヤRTL,RTRに制動力が掛けられ、これによって車両10が停車する。なお、後タイヤRTLおよびRTRは、前タイヤFTLおよびFTRの回転に追従して回転する。
【0014】
図2を参照して、駆動機構12はエンジン22を含む。エンジン22を始動させるとき、ECU18は、リレー34をオンする。バッテリ32の電力はオン状態のリレー34を介してスタータ28に供給され、スタータ28はバッテリ32の電力によってクランキングを実行する。これによって、エンジン22が始動する。
【0015】
エンジン22をなすクランクシャフト22sの回転力は、トランスミッション26を介して、ドライブシャフト20に伝達される。クランクシャフト22sの回転力はまた、オルタネータ30をなす回転軸30sに伝達される。回転軸30sの回転力は電力に変換され、変換された電力はバッテリ32に蓄えられる。
【0016】
走行中の車両10が坂を下り始めたときや交差点で減速するときにアクセルペダル16から足が離されると、アクセル開度(=アクセルペダル16の踏力)が後述するアイドル判定閾値を下回り、エンジン22の回転数もまた後述する燃料カット閾値を下回る。このとき、ECU18は、アクセルペダル16がアイドル状態に遷移し、かつエンジン22の回転数が低減したとみなし、燃料カット機能をオンする。これによって、エンジン22への燃料供給が停止される。
【0017】
車両10が停止する前にアクセルペダル16が再度踏み込まれ、アクセル開度がアイドル判定閾値以上となると、ECU18は、アクセルペダル16が非アイドル状態に遷移したとみなし、燃料カット機能をオフする。これによって、エンジン22への燃料供給が再開され、エンジン22の回転数が増大するとともに、車両10が加速する。
【0018】
ただし、極低車速で走行するとき、ドライバはアクセルペダル16を一定に踏んでいるつもりでも、僅かなペダル操作により、アクセル開度とアイドル判定閾値との大小関係が反転する場合がある。このような反転が繰り返されると、エンジン22のトルクが変化し、車両10の挙動が不安定となる。車両10の不安定な挙動は、ドライバによるアクセルペダル16の踏み込みの安定性を阻害し、車両10の不安定な挙動を助長する。
【0019】
そこで、この実施例では、図3に示すフロー図に従う挙動安定化処理をECU18に繰り返し実行させるようにしている。
【0020】
なお、挙動安定化処理ではフラグFLGの値が参照されるところ、フラグFLGはエンジン22の始動時に別ルーチンによって“0”に設定される。また、図3に示すフロー図に対応する制御プログラムは、メモリ18mに記憶される。
【0021】
さらに、アクセル開度をアイドル判定閾値と比較してアイドル状態/非アイドル状態を判定する処理、ならびにアイドル判定結果とエンジン22の回転数とに基づいて燃料カット機能をオン/オフする処理は、別ルーチンによって実行される。
【0022】
また、この別ルーチンでは、燃料カット機能がオンされている状態で燃料カット閾値が増大されたときにも、燃料カット機能がオフされる。
【0023】
図3を参照して、ステップS1では、アイドル判定結果を別ルーチンから取得する。ステップS3では、フラグFLGが“0”に設定された時点からのアイドル判定結果の切り替わり回数が“3”に達したか否かを判別する。判別結果がYESであれば、ステップS5でアイドル判定閾値を増大させ、ステップS7で燃料カット閾値を増大させる。
【0024】
ステップS5の処理の結果、アクセル開度とアイドル判定閾値との大小関係が反転し難くなる。また、ステップS7の処理の結果、燃料カット機能が別ルーチンによってオフされる。オフされた燃料カット機能がオンされる感度は、燃料カット閾値が増大されることで鈍くなる。ステップS7の処理が完了すると、ステップS9でフラグFLGを“1”に設定し、その後に今回の挙動安定化処理を終了する。
【0025】
ステップS3の判別結果がNOであれば、フラグFLGが“1”を示すか否かをステップS11で判別し、アクセル開度がアイドル判定閾値以上であるか否かをステップS13で判別する。ステップS11およびS13の処理は、アイドル判定閾値が増大された後のアクセル開度の変化が既定条件を満足するか否かを判別する処理に相当する。
【0026】
ステップS11の判別結果およびステップS13の判別結果のいずれか一方がNOであれば、そのまま今回の挙動安定化処理を終了する。一方、ステップS11の判別結果およびステップS13の判別結果のいずれもがYESであれば、ステップS15でアイドル判定閾値を初期化し、ステップS17で燃料カット閾値を初期化する。
【0027】
ステップS15の処理の結果、アクセル開度とアイドル判定閾値との大小関係が反転し易くなる。また、ステップS17の処理の結果、燃料カット機能のオン/オフ切り替えの感度が元に戻る。ステップS17の処理が完了すると、ステップS19でフラグFLGを“0”に設定し、その後に今回の挙動安定化処理を終了する。
【0028】
したがって、極低車速で走行中にドライバがアクセルペダル16を僅かに操作すると、アクセル開度とアイドル判定閾値との大小関係が繰り返し反転し(図4(A)参照)、アイドル判定結果が“アイドル状態”および“非アイドル状態”の間で繰り返し変化する(図4(B)参照)。なお、エンジン22の回転数は、アクセル開度を反映する(図4(C)参照)。
【0029】
燃料カット機能は、“アイドル状態”に対応してオンされ、“非アイドル状態”に対応してオフされる(図4(D)参照)。エンジン22から発生するトルクは燃料カット機能のオン/オフの繰り返しに伴って変化し(図4(E)参照)、車両10の挙動はトルクの変化によって不安定となる(図4(F)参照)。
【0030】
ただし、アイドル判定結果の切り替わり回数が“3”に達すると、アイドル判定閾値および燃料カット閾値が増大される(図4(A),図4(C)参照)。アイドル判定結果は、アイドル判定閾値の増大によって継続的に“アイドル状態”を示す(図4(B)参照)。また、燃料カット機能は、燃料カット閾値の増大によって、オン状態からオフ状態に切り替えられる(図4(D)参照)。
【0031】
燃料カット機能がオフされるとエンジン22への燃料供給が再開され、エンジン22からトルクが発生する(図4(E)参照)。車両10の挙動は、こうして発生したトルクによって安定する(図4(F)参照)。
【0032】
以上の説明から分かるように、エンジン22への燃焼噴射を停止する燃料カット機能のオン/オフを制御するにあたっては、アクセル開度がアイドル判定閾値と比較される。このとき、アクセル開度がアイドル判定閾値を跨ぐ回数が既定値(=3)に達すると、アイドル判定閾値がECU18によって増大される(S5)。アイドル判定閾値は、その後のアクセル開度の変化が既定条件(既定条件:アクセル開度がアイドル判定閾値以上になるという条件)を満足したときに初期化(低減)される(S15)。
【0033】
アクセル開度がアイドル判定閾値を跨ぐ回数が既定値に達したときアイドル判定閾値を増大させることで、アクセル開度とアイドル判定閾値との比較結果は、アクセルペダル16の踏力の微動に関わらず安定する。また、その後のアクセル開度の変化が既定条件を満足するときにアイドル判定閾値を初期化することで、安定状態は、既定条件が満足されるまで継続する。これによって、アクセルペダル16の踏力の微動に起因して車両10の挙動が不安定となる懸念を軽減することができる。
【符号の説明】
【0034】
10 …車両
16 …アクセルペダル
18 …ECU
22 …エンジン
図1
図2
図3
図4