(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
宇宙空間を航行する宇宙機、特にロケット、人工衛星やその搭載機器において、温度管理は重要な要素となる。宇宙空間にある宇宙機は、真空中で太陽光に曝露されるため、太陽光からの輻射により曝露部分の温度が高温化する。一方、太陽光のあたらない部分は輻射により放熱して低温となる。このため、ロケット、人工衛星の稼動期間にわたって搭載機器周辺の温度が適正な作動温度域となるように、入熱を抑制すると共に搭載機器周辺の温度を維持する対策が必要となる。
【0003】
このような対策の一つとして、「サーマルブランケット」とも呼ばれる多層断熱材を適用することが知られている。
多層断熱材は、放射率の低い断熱シートを重ねて形成される。このような多層断熱材では、断熱シートの層間にスペーサを介挿することで、断熱シート相互の接触による熱伝導を防ぎ、断熱効果を高めている。
このような多層断熱材で宇宙機又は宇宙機搭載機器を覆うことで、宇宙機外部からの輻射による入熱を抑制すると共に、宇宙機内部からの輻射による放熱を抑制する。これにより宇宙機の温度環境を適正な作動温度域に維持することができる。
【0004】
このような多層断熱材は宇宙機や宇宙機搭載機器の周辺を覆うように宇宙機本体に装着されるが、宇宙機の調整作業のために艤装した多層断熱材の着脱や位置の調整を繰り返し行うことを要する場合がある。多層断熱材に着脱可能な装着手段を採用することで、このような作業を効率的に行うことができる。例えば、
図12に示すように、多層断熱材(サーマルブランケット)102を、面ファスナ104などを用いて取付面へ装着する方法が知られている。
下記の特許文献1では、サーマルブランケットを、面ファスナ(ベルクロ(登録商標)テープ)を用いて取付面へ装着する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多層断熱材は、断熱シート同士が圧着してしまうと、その部分で熱伝導による熱リークが発生し、断熱性能を悪化させる要因となる。このような圧着箇所は、多層断熱材の装着手段の周辺において生じやすい。
図12に示すように、従来の面ファスナ104を装着手段として用いた場合には、多層断熱材102を面ファスナ104に縫合糸103によって縫い付けるため、面ファスナ104の周辺で断熱シート102aとスペーサ102bの圧着が生じてしまう。
【0007】
一方で、多層断熱材102は断熱シート102a間にスペーサ102bを介挿して積層されて形成されるため、そのままではばらばらになるなど取り扱いにくい。これを取り扱い容易とするため縫製により一体化すると、所望の形状へ変形させにくくなる。例えば宇宙機搭載機器を覆う際に、その立体形状に沿うように、所定箇所で変形させることが容易ではないことがある。これに対し、
図13に示すように、予め、折り目となる線を縫い合わせて縫合部としておくことで、取付対象となる対象物109の所定箇所での折り曲げを容易とすることができるが、この場合は縫合部において断熱シート102aとスペーサ102bの圧着を生じ、断熱性能の悪化を生じてしまう。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、装着手段の周辺の断熱性能の悪化を抑え、所望の形への変形を容易にする多層断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用している。
即ち、本発明の多層断熱材は、断熱シートとスペーサとが積層された断熱部材と、前記断熱部材に隣接して設けられ
、該断熱部材とは異なる係止用シートと、前記断熱部材と前記係止用シートとを貫通して係止する断熱部材係止具と、前記係止用シートに設けられ、装着対象物に対して着脱可能とされた装着部材と、備え、前記断熱部材係止具は、前記断熱部材の各層が密着しないように係止し、前記係止用シートは、スチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン
のいずれかからなり、宇宙機又は該宇宙機に搭載される機器に用いられることを特徴とする。
【0010】
断熱部材と係止用シートとは、断熱部材係止具によって断熱シートとスペーサとが密着しないように係止される。係止用シートに設けられた装着部材によって、断熱部材及び係止用シートが装着対象物に対して着脱可能に取り付けられる。装着部材は、係止用シートに設けられているので、断熱部材に直接取り付けられていない。そして、断熱部材係止具は、断熱部材の各層が密着しないように係止しているので、断熱部材の各層の密着による断熱性能の悪化を生ずること回避することができる。
【0011】
さらに、本発明の多層断熱材では、前記断熱部材係止具は、前記断熱部材と前記係止用シートとを積層方向に貫通する軸部と、前記軸部の両端に設けられた一対の係止部とを備え、前記軸部の長さは、前記断熱部材及び前記係止用シートの積層方向に荷重が加わらない状態で接触したときの厚さよりも長いことを特徴とする。
【0012】
断熱部材係止具の軸部の長さを、断熱部材及び係止用シートの積層方向に荷重が加わらない状態で接触したときの厚さよりも長くすることで、断熱部材の各層を密着させないように係止することができる。
【0013】
さらに、本発明の多層断熱材では、前記係止用シートは、網状又は多孔状のシートであることを特徴とする。
【0014】
係止用シートとしては、網状又は多孔状のシートとすることで、熱伝導を抑制しつつ、重量増加を抑えることができる。
【0015】
さらに、本発明の多層断熱材では、前記係止用シートは、所定方向に沿って折り曲げ線が形成可能な折り曲げ部を備えていることを特徴とする。
【0016】
係止用シートに折曲げ部を設け、所定方向に沿って折り曲げ線が形成されるようにした。これにより、装着対象物の形状に応じて多層断熱材を装着することができる。
【0017】
さらに、本発明の多層断熱材では、前記係止用シートは、複数の係止用シート片と、各前記係止用シート片どうしを接続するシート接続部とを備え、前記折り曲げ部は、前記シート接続部によって形成されていることを特徴とする。
【0018】
係止用シートを複数の係止用シート片に分割し、各係止用シート片を接続するシート接続部を設けることとした。このシート接続部によって折り曲げ部が形成される。シート接続部としては、例えば、粘着テープや樹脂フィルムなどが挙げられる。
【0019】
さらに、本発明の多層断熱材では、複数の前記係止用シート片は、装着対象物の各面に対応した形状とされていることを特徴とする。
【0020】
各係止用シート片を、装着対象物の各面に対応した形状とすることで、装着対象物の形状に合わせて多層断熱材を装着することができる。
【発明の効果】
【0021】
多層断熱材の装着手段の周辺の断熱性能の悪化を抑え、所望の形への変形を容易にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態に係る多層断熱材について、図面を用いて説明する。
【0024】
本発明の第1実施形態に係る多層断熱材1は、
図1および
図2に示すように、断熱部材2と、断熱部材に隣接して設けられる係止用シート3と、係止用シート3に締結される装着部材4と、断熱部材係止具5とを備える。
【0025】
断熱部材2は、断熱シート2aを、スペーサ2bを介挿して10〜20層重ねて形成される。断熱シートの例としては、放射率の低いフィルム、例えば、厚さ10〜20マイクロメートルの樹脂フィルム上に金属を蒸着させたものが挙げられる。好適な例としては、厚さ10〜20マイクロメートルのカプトンフィルム上に金属(Al、Ag、Auなど)を蒸着したものが挙げられる。金属を蒸着させることで光や電磁波の反射率が向上するので、多層断熱材として装着対象物9(ロケット、人工衛星などの宇宙機や宇宙機に搭載される機器など)に装着した際に、外部からの輻射による入熱を抑制すると共に、内部からの輻射による外部への放熱を抑制する。スペーサ2bの例としては、断熱材でつくられた網状部材あるいは多孔性のシート状部材が挙げられ、特に断熱シート2aに用いられるフィルムよりも熱伝導率が低い材質でつくられたものが好ましい。
【0026】
係止用シート3は装着部材4と縫合糸6によって締結される。装着部材4は、多層断熱材1を装着対象物9に装着する際に使用される。例えば、装着対象物9の表面に対となる装着部材8を設け、装着部材4を装着部材8に対して装着する。装着部材4は、断熱部材2とは締結されない。装着部材4は繰り返し着脱可能な装着手段であることが望ましく、特に多層断熱材1の外側からの操作で着脱できることが望ましい。装着部材4の例としては面ファスナが挙げられるが、スナップやフックなどの締結具を用いることもできる。装着部材4により、係止用シート3を、宇宙機や宇宙機に搭載される機器へ繰り返し着脱可能となっている。係止用シート3は、着脱を繰り返しても壊れない程度の強度を持つ。係止用シート3の好適な例としては、スチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレンあるいはこれらの発泡体をシート状に加工したものが挙げられる。係止用シート3の好適な別の例としては、スチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレンでつくられた網状シートあるいは多孔シートが挙げられる。
【0027】
断熱部材係止具5は、断熱部材2と係止用シート3とからなる積層体の面内方向に分散して設けられる。断熱部材係止具5は、軸部5aと、軸部5aの両端に設けられる一対の係止部5b、5cを備える。係止部5bは積層体の係止用シート3の外側に設けられ、係止部5cは積層体の断熱部材2の外側に設けられる。断熱部材係止具5としては、例えばタグガンで取り付けられるタグピンが上げられる。断熱部材係止具5の材質としては、例えばナイロンが挙げられる。
【0028】
軸部5aは、断熱部材2の各層(積層された断熱シート2aおよびスペーサ2b)および係止用シート3を貫通して設けられる。断熱部材係止具5は、軸部5aの長さが、積層して形成された断熱部材2の厚さと係止用シート3の厚さの和以上となるように形成されている。このため、断熱部材2の各層の層間距離は断熱部材係止具5によって大きく狭められることなく密着することがない。従って断熱部材の各層の圧着による断熱性能の悪化を生ずることがない。なお、積層して形成された断熱部材2の厚さと係止用シート3の厚さの和としては、断熱部材の積層方向に荷重が加わらない状態で接触したときの厚さ、すなわち断熱部材2と係止用シート3とが自重によって重なった状態の厚さを意味する。
【0029】
軸部5aは、積層体の貫通部分において断熱部材2の各層および係止用シート3を積層方向に拘束せず、軸部5aと断熱部材2の各層および係止用シート3は軸部5aの延在方向に相対位置を変えることができる。
【0030】
係止部5b、5cは、それぞれが、軸部5aが貫通している積層体の貫通部分に形成された孔の径より長い部分を、軸部5aと交差する方向に有するように形成されている。例えば、係止部5b、5cはそれぞれが棒状もしくは板状であり、それぞれの長手方向の央部で軸部5aと接続し、接続部から軸部5aと交差する方向に、孔の径より長く延在する。これにより積層体から断熱部材係止具5が抜け落ちることを防ぐ。係止部5b、5cは、それぞれが、多層断熱材1の着脱の際に断熱部材係止具5に力が加わっても係止状態を維持できるような材質と形状に形成される。
【0031】
断熱部材係止具5は、積層体の面方向に分散して設けられる。例えば、
図1に示したように積層体の四隅に分散して設けられる。
【0032】
このように、断熱部材係止具5により断熱部材2が係止用シート3に係止され、係止用シート3が装着部材4により装着対象物9に装着されるので、断熱部材2の各層の圧着による断熱性能低下を抑制することができる。
【0033】
次に、本発明の第1実施形態に係る多層断熱材の製造方法について説明する。
【0034】
まず、
図3に示すように、断熱シート2aと、断熱シート2aの間にスペーサ2bを介挿して所定の枚数を積層し、断熱部材2を形成する。断熱シート2aは、例えばカプトンなどの樹脂フィルムに金属を蒸着したフィルムを、所定形状に成形して形成する。(ステップ1−1)
【0035】
次に、
図3に示すように、断熱部材2に隣接するように、係止用シート3を設置し、積層体を形成する。例えば、断熱部材2を係止用シート3の上に載置し、断熱部材2の下側表面と係止用シート3の上面を隣接させる。係止用シート3には、装着部材4を縫い合わせるなどして締結する。装着部材4は、係止用シート3が断熱部材2と隣接する面の反対側に締結される。(ステップ1−2)
【0036】
次に、
図3に示すように、積層体の断熱部材2の上側表面から、断熱部材2の各層と係止用シート3とを貫通するように断熱部材係止具5を挿入する。例えば、断熱部材係止具5としてタグピンを用い、断熱部材2の上側表面からタグガンを用いてタグピンを挿入する。この際、断熱部材2と係止用シート3へ貫通孔を形成しながら挿入するようにしてもよく、あるいは断熱部材2と係止用シート3の少なくとも一部へ予め穴が形成されている場合は、この孔を通ってこれらを貫通するように挿入してもよい。(ステップ1−3)
【0037】
挿入された断熱部材係止具5は断熱部材2と係止用シート3とを貫通した後、係止用シート3の下方で、係止部5bが軸部5aとの接続部を中心に、接続部から軸部5aと交差する方向に、孔の径より長く延在する形状に変形する。これにより、積層体から断熱部材係止具5が抜け落ちないようにして、断熱部材2と係止用シート3とを係止する。例えば、弾性を有する材料で形成され、軸部5aと交差する係止部5bを持つ断熱部材係止具5を用いる場合は、軸部5aと略平行となるように係止部5bを畳んだ状態に固定して、断熱部材2と係止用シート3とを貫通するように挿入し、貫通した後に係止用シート3の下方で固定状態を開放することで、断熱部材係止具5の弾性により形状を回復させ、断熱部材2と係止用シート3とを係止するようにしてもよい。また、軸部5aを軸部の延在方向に滑らかな表面形状に形成することで、積層体の各層が軸部5aをすべって移動でき、所望の形状に変形させやすくできる。(ステップ1−4)
【0038】
上記のステップ1−3およびステップ1−4を繰り返し、所定個数の断熱部材係止具5を、積層体の面方向に分散して設けることで、断熱部材2を係止用シート3へ係止し、多層断熱材1を一体化する。例えば断熱部材2が平面視で多角形の形状を持つ場合は、その各頂点の近傍それぞれに1つ以上の断熱部材係止具5を分散して設けるようにしてもよく、あるいは多角形の辺の一部または全部に沿って周縁部に分散して設けるようにしてもよい。
【0039】
そして、
図2に示すように、一体化した多層断熱材1は、係止用シート3に締結された装着部材4と、装着部材8を介して、装着対象物9に装着される。なお装着部材4と装着部材8は、装着対象物9の形状に合わせて位置及び個数を適宜選択する。例えば装着対象物をロケット用タンクとする場合は、必要となる多層断熱材1の形状と、飛行中にかかる応力の方向とを考慮して、複数の装着部材4と装着部材8との対を配置すればよい。
【0040】
なお、上述のステップ1−1において、
図4に示すように、断熱シート2aとスペーサ2bを積層して断熱部材2を形成した後、その周縁部を縫い合わせて一体化するステップをさらに備えてもよい(ステップ1−1’)。これにより、多層断熱材1を製造する際の取り扱い性を向上させることができる。このステップにおいて、断熱部材2を係止用シート3より大きく形成し、縫い合わせる周縁部を、面方向で係止用シート3より外側に延在させることが好適である。この場合、断熱部材2において係止用シート3に接する部分には縫い合わせた箇所がなく、断熱部材の各層の接触による断熱性能の悪化を局所的に限ることができる。あるいは、艤装の完了後に、係止用シートから延在する部分を、縫い合わせた箇所ごと切り取ることとしてもよい。この場合、縫い合わせた周縁部により生じていた断熱部材の各層の接触状態が緩和される。
【0041】
なお、上述のステップ1−1の別の変形例として、
図5に示すように、断熱シート2aとスペーサ2bを積層して断熱部材2を形成した後、その周縁部に複数の断熱部材周縁部係止具7を分散して設け、一体化するステップをさらに備えてもよい(ステップ1−1’’)。断熱部材周縁部係止具7は、断熱部材2を貫通して設けられ、積層して形成された断熱部材2の厚さ以上の長さを持つ断熱部材周縁部係止具軸部7aと、断熱部材周縁部係止具軸部7aの両端に設けられる一対の断熱部材周縁部係止具係止部7b、7cとを備えるように形成する。具体的には、断熱部材2の上側表面から、断熱部材2の各層を貫通するように断熱部材周縁部係止具7を挿入し、断熱部材2の下方で、断熱部材周縁部係止具係止部7bが断熱部材周縁部係止具軸部7aとの接続部を中心に、接続部から断熱部材周縁部係止具軸部7aと交差する方向に、孔の径より長く延在する形状に変形させる。これを繰り返し、所定個数の断熱部材周縁部係止具7を、断熱部材2の面方向に分散して設けることで、断熱部材2を一体化する。断熱部材周縁部係止具軸部7aの長さが積層して形成された断熱部材2の厚さより長いことから、断熱部材周縁部係止具7によって断熱部材2を一体化しても、断熱部材2の層間距離を大きく狭めることがない。これにより、断熱部材2の各層の密着による断熱性能を悪化させることなく、取り扱い性を向上させることができる。なお断熱部材周縁部係止具7として、前述の断熱部材係止具5と同じものを用い、断熱部材係止具5と同じ手段で断熱部材2へ挿入するようにしてもよい。
【0042】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態に係る多層断熱材について、図面を用いて説明する。
【0043】
本発明の第2実施形態に係る多層断熱材11を
図6乃至
図11に示す。なお、
図6乃至
図11において、
図1あるいは
図2と同一の構成部分については、
図1あるいは
図2と同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0044】
本発明の第2実施形態に係る多層断熱材11は、
図6および
図7に示すように、断熱部材12と、断熱部材12に隣接して設けられる係止用シート13と、係止用シート13に締結される装着部材4と、断熱部材係止具5とを備える。断熱部材12と係止用シート13からなる積層体は、断熱部材係止具5により一体化している。
【0045】
係止用シート13は、複数の係止用シート片13aと、複数の係止用シート片同士をつなぐ可撓性のシート接続部(折り曲げ部)13bとからなる。
図11に示すように、係止用シート13は、装着対象物9を囲う所定の立体形状13’を展開した展開図を構成する面の、少なくとも一部の形状を有する。即ち、各係止用シート片13aは、装着対象物9の各面に対応する形状とされている。具体的には、係止用シート13を、シート接続部13bで折り曲げることで、装着対象物9を囲う所定の立体形状13’を形成できるような形状を持つ。なお
図11に示す係止用シート13では底面にあたる部分を備えず、装着対象物9を上から覆うような形状となっているが、底面を備え装着対象物9全体を覆うような形状としてもよい。
【0046】
係止用シート片13aは、例えばスチレンやポリオレフィン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレンなどを材料とし、剛性を有する平板上のシート片である。装着対象物9の形状に沿わせて多層断熱材11を変形させる際に、係止用シート13が形状を維持し、かつ、壊れずに断熱部材係止具5の係止部5b,5cを係止できるよう、厚さや材質を決定することが望ましい。個々の係止用シート片13aは、装着対象物9を囲う所定の立体形状13’を展開した展開図を構成する面のうちの、少なくとも一つの形状を持つ。係止用シート13の厚さや材質は局所的に変えてもよい。
【0047】
シート接続部13bは係止用シート片13aの周縁部と周縁部をつなぐ可撓性材料であり、係止用シート片13aを、相対位置を変形可能に接続する。例えば、シート接続部13bの例として、係止用シート片13a周縁部へ接着された粘着テープあるいは樹脂フィルムなどが挙げられる。シート接続部13bは、剛性を持つ係止用シート片13aよりも柔軟に形成される。これにより、装着対象物9へ沿わせて多層断熱材11を変形させる際、断熱部材12と係止用シート13からなる積層体を、シート接続部13bの位置で容易に折り曲げることができる。シート接続部13bは、シート接続部13bが係止用シート13の折り曲げ方向の内側に接着された構造をとることが好ましい。
【0048】
断熱部材12は、第1実施形態の断熱部材2と同様に断熱シート12aを、スペーサ12bを介挿して10〜20層重ねて形成される。断熱部材12は、平面視で係止用シート13より大きく、係止用シート13が内側となるよう折り曲げた状態で係止用シートの全体を覆う形状を持つ。例えば
図7に示すように、係止用シート13と概略同じ形状で、その周縁部を面方向で前記係止用シートより外側に延在した形状とする。このような形状とすることで、多層断熱材11をシート接続部13bで折り曲げて装着対象物9の形状に沿わせて変形させる際に、隙間を生ずることなく、かつ断熱部材12の各層の圧着による断熱性能の悪化を生ずることなく、装着対象物を断熱部材12で覆うことができる。なお断熱部材12の周縁部同士は突き合わせとなっていてもよく、あるいは重なり合った状態となっていてもよい。
【0049】
断熱部材係止具5は、断熱部材12と係止用シート13とからなる積層体の面内方向に分散して設けられる。断熱部材係止具5の軸部5aは、断熱部材12の各層(積層された断熱シート12aおよびスペーサ12b)および係止用シート13を貫通して設けられる。断熱部材係止具5は、軸部5aの長さが、積層して形成された断熱部材12の厚さと係止用シート13の厚さの和以上となるように形成されている。これにより、断熱部材2の各層の層間距離は断熱部材係止具5によって大きく狭められることなく、従って断熱部材の各層の圧着による断熱性能の悪化を生ずることがない。なお、積層して形成された断熱部材12の厚さと係止用シート13の厚さの和としては、断熱部材の積層方向に荷重が加わらない状態で接触したときの厚さ、すなわち断熱部材12と係止用シート13とが自重によって重なった状態の厚さを意味する。
【0050】
係止用シート13の厚さが局所的に異なる場合は、これに合わせて予め軸部5aの長さを局所的に変えてもよい。軸部5aは、積層体の貫通部分において断熱部材12の各層および係止用シート13を積層方向に拘束せず、軸部5aと断熱部材12の各層および係止用シート13は軸部5aの延在方向に相対位置を変えることができる。係止部5b、5cは、それぞれが、軸部5aが貫通している積層体の貫通部分に形成された孔の径より長い部分を、軸部5aと交差する方向に有するように形成されている。例えば、係止部5b、5cはそれぞれが棒状もしくは板状であり、それぞれの長手方向の央部で軸部5aと接続し、接続部から軸部5aと交差する方向に、孔の径より長く延在する。係止部5b、5cは、それぞれが、多層断熱材11の着脱の際に断熱部材係止具5に力が加わっても係止状態を維持できるような材質と形状に形成される。
【0051】
断熱部材係止具5は、係止用シート片13aの周縁部を貫通するように、面方向に分散して設けられると好適である。断熱部材係止具5を設ける位置は、係止用シート13をシート接続部13bで折り曲げて装着対象物9を囲う所定の立体形状13’を形成した状態を想定して決める。例えば、
図6および
図7に示すように、立体形状13’の天板にあたる係止用シート片13aの四隅に断熱部材係止具5を設ける。立体形状13’の天板にあたる係止用シート片13aは、シート接続部13bで係止用シート13を折り曲げる際の中心に位置しており、折り曲げる際の位置変動が小さく、従って多層断熱材11を折り曲げる際に断熱部材12の各層と係止用シート13との相対位置の変動が小さい部分に当たる。このため、まず立体形状13’の天板にあたる係止用シート片13aの四隅に断熱部材係止具5を設けることで係止用シート13との相対位置を固定することで、効率よく断熱部材12を係止用シート13へ係止することができる。さらに、その周縁部で接続する各係止用シート片13aの周縁部(シート接続部13bと反対側の周縁部)にも断熱部材係止具5を設ける。これにより、折り曲げる際の相対位置の変動に関わらず、多層断熱材を一体化することができる。
【0052】
次に、本発明の第2実施形態に係る多層断熱材の製造方法について説明する。
まず、装着対象物9を囲う所定の立体形状13’を想定し、この立体形状13’を展開した展開図を作成する。この展開図を構成する個々の面の形状に基づき、それぞれの係止用シート片13aを
図11に示したような形状に形成する。それぞれの係止用シート片13aの厚さや材質は、装着対象物9の形状に沿わせて多層断熱材11を変形させる際に、係止用シート片13aが形状を維持し、かつ、壊れずに断熱部材係止具5の係止部を係止できるよう選択する。それぞれの係止用シート片13aの周縁部を、展開図を形成するようにシート接続部13bで接続して(
図7参照)、係止用シート13を形成する。例えば粘着テープあるいは樹脂フィルムをシート接続部13bとして使用する場合は、係止用シート13を折り曲げる際に内側になる側から、係止用シート片13aの周縁部へ接着させる。係止用シート13には、装着部材4を縫い合わせるなどして締結する。好適な例としては、装着部材4は、係止用シート13を折り曲げる際の中心に位置する係止用シート片13aに締結される。また、多層断熱材の装着のため複数の係止用シート片13aに複数の装着部材4を装着するようにしてもよい。(ステップ2−1)
【0053】
次に、
図7に示すように、第1実施形態に係る多層断熱材1の製造方法と同様に、断熱シート12aと、断熱シート12aの間にスペーサ12bを介挿して所定の枚数を積層し、断熱部材12を形成する。断熱シート12aは、例えばカプトンなどの樹脂フィルムに金属を蒸着したフィルムを、所定形状に成形して形成する。断熱シート12aの形状は、係止用シート13と概略同じ形状で、その周縁部を面方向で前記係止用シートより外側に延在した形状とする。(ステップ2−2)
【0054】
次に、
図7に示すように、断熱部材12に隣接するように、係止用シート13を設置し、積層体を形成する。例えば、断熱部材12を係止用シート13の上に載置し、断熱部材12の下側表面と係止用シート13の上面を隣接させる。装着部材4は、係止用シート13が断熱部材12と隣接する面の反対側に配置される。(ステップ2−3)
【0055】
次に、
図7に示すように、第1実施形態に係る多層断熱材1の製造方法と同様に、積層体の断熱部材12の上側表面から、断熱部材12の各層と係止用シート13とを貫通するように断熱部材係止具5を挿入する。例えば、断熱部材係止具5としてタグピンを用い、断熱部材12の上側表面からタグガンを用いてタグピンを挿入する。この際、断熱部材12と係止用シート13へ貫通孔を形成しながら挿入するようにしてもよく、あるいは断熱部材12と係止用シート13の少なくとも一部へ予め穴が形成されている場合は、この孔を通ってこれらを貫通するように挿入してもよい。(ステップ2−4)
【0056】
挿入された断熱部材係止具5は断熱部材12と係止用シート13とを貫通した後、係止用シート13の下方で、係止部5bが軸部5aとの接続部を中心に、接続部から軸部5aと交差する方向に、孔の径より長く延在する形状に変形する。これにより、積層体から断熱部材係止具5が抜け落ちないようにして、断熱部材12と係止用シート13とを係止する。軸部5aを軸部の延在方向に滑らかな表面形状に形成することで、積層体の各層が軸部5aをすべって移動でき、所望の形状に変形させやすくできる。(ステップ2−5)
【0057】
ステップ2−4およびステップ2−5を繰り返し、所定個数の断熱部材係止具5を、積層体の面方向に分散して設けることで、断熱部材12を係止用シート13へ係止し、多層断熱材11を一体化する。好適な例として、まず立体形状13’の天板にあたる係止用シート片13aの四隅に断熱部材係止具5を設け、さらに、その周縁部で接続する各係止用シート片13aの周縁部(シート接続部13bと反対側の周縁部)にも断熱部材係止具5を設ける。これにより、折り曲げる際の相対位置の変動に関わらず、多層断熱材を一体化することができる。
【0058】
係止用シート13を内側において外側へ凸となる形状に折り曲げる場合に断熱部材12の外側の層は内側の層より曲率半径が大きくなることを想定して、断熱部材係止具5を設ける位置を決める。好適な例として、
図7に示すように、立体形状13’の天板にあたる係止用シート片13aの四隅には概ね垂直の方向(積層方向)に断熱部材係止具5を設け、折り曲げ予定位置から延在する部分においては、外側の層ほど折り曲げ予定位置から前進した位置(離間した位置)を貫通するように、より長い軸部5a’を持つ断熱部材係止具5’を積層方向に対して斜めに設ける。このように断熱部材係止具5’を設ける位置を調整することにより、
図8に示すように多層断熱材11を装着対象物9の形状に合わせて変形させる際にも、断熱部材12の層間を圧着させることがない。なお、
図9に示すように、断熱部材係止具5’の軸部5a’の長さを予め充分に確保した上で、折り曲げ予定位置から延在する部分において断熱部材係止具5’をほぼ垂直に設けてもよい。この場合、
図10に示すように、多層断熱材11を装着対象物9の形状に合わせて変形させた際に、断熱部材係止具5’が断熱部材12を積層方向に対して斜めに貫通する形となる。
【0059】
一体化した多層断熱材11を、係止用シート13に締結された装着部材4と相手側の装着部材8と接続することで、装着対象物9に装着する。装着に際して、所定の立体形状13’を形成するよう、係止用シート13を折り曲げることで、多層断熱材11を装着対象物9の形状に合わせて変形させる。装着部材4と装着部材8は、装着対象物9の形状に合わせて位置及び個数を適宜選択する。
【0060】
なお、第1実施形態に係る多層断熱材1の製造方法と同様に、上述のステップ2−2において、断熱シート12aとスペーサ12bを積層して断熱部材12を形成した後、その周縁部を縫い合わせて一体化するステップをさらに備えてもよい(ステップ2−2’)。このステップにおいて、断熱部材12を係止用シート13より大きく形成し、縫い合わせる周縁部を、面方向で係止用シート13より外側に延在させることが好適である。さらに、艤装の完了後に、係止用シートから延在する部分を、縫い合わせた箇所ごと切り取ることとしてもよい。この場合、縫い合わせた周縁部により生じていた断熱部材の各層の接触状態が緩和される。
【0061】
また、第1実施形態に係る多層断熱材1の製造方法と同様に、上述のステップ2−2において、断熱シート12aとスペーサ12bを積層して断熱部材12を形成した後、その周縁部に複数の断熱部材周縁部係止具7を分散して設け、一体化するステップをさらに備えてもよい(ステップ2−2’’)。断熱部材周縁部係止具7を、断熱部材12の上側表面から、断熱部材12の各層を貫通するように挿入し、断熱部材2の下方で、断熱部材周縁部係止具係止部7bが断熱部材周縁部係止具軸部7aとの接続部を中心に、接続部から断熱部材周縁部係止具軸部7aと交差する方向に、孔の径より長く延在する形状に変形させる。これを繰り返し、所定個数の断熱部材周縁部係止具7を、断熱部材2の面方向に分散して設けることで、断熱部材2を一体化する。断熱部材周縁部係止具7として、前述の断熱部材係止具5と同じものを用い、断熱部材係止具5と同じ手段で断熱部材12へ挿入するようにしてもよい。
【0062】
なお、上述した実施形態では、複数の係止用シート片13bをシート接続部13bで接続し、シート接続部13bで係止用シート13を折り曲げたが、係止用シート13を分割せず、切り込みや窪みにより折り目となる線を作っても良い。