【実施例1】
【0017】
本発明のスクロール圧縮機の実施例1を
図1〜
図3を用いて説明する。
図1は本実施例1を示すスクロール圧縮機の縦断面図、
図2は
図1に示す給油ポンプ付近の要部拡大断面図、
図3は
図2に示す支持ボルト付近の要部拡大断面図である。
【0018】
まず、
図1により、本実施例1のスクロール圧縮機の全体構造を説明する。
スクロール圧縮機1は、圧縮機構部2と駆動部3等が密閉容器100内に収納されて構成されている。
【0019】
前記圧縮機構部2は、固定スクロール110、旋回スクロール120及びフレーム(主フレーム)160等から構成されている。
前記固定スクロール110は、端板110bと、該端板110bに垂直に立設する渦巻状ラップ110aを有し、前記端板110bにおけるラップ中央部側には吐出口110cが設けられている。また、この端板110bの外周部は前記フレーム160に複数のボルト21により固定されている。
【0020】
前記旋回スクロール120は、端板120bと、該端板120bに垂直に立設する渦巻状ラップ120aを有し、前記端板120bの背面側には旋回ボス部120cが形成されており、この旋回ボス部120cの内周面には旋回軸受103が設けられている。なお、120dは前記旋回ボス部120cの端面(旋回ボス部端面)である。
【0021】
前記固定スクロール110と前記旋回スクロール120を噛み合わせて圧縮室130を形成し、この圧縮室130は、前記旋回スクロール120が旋回運動することによりその容積が減少して圧縮動作が行なわれる。この圧縮動作では、前記旋回スクロール120の旋回運動に伴って、冷媒ガスなどの作動流体が吸入管140を介して前記圧縮室130へ吸込まれ、この吸込まれた作動流体は圧縮行程を経て、前記固定スクロール110に形成されている前記吐出口110cから密閉容器100内の吐出空間136に吐出される。
【0022】
その後、圧縮された冷媒ガスは、前記固定スクロール
110及び前記フレーム160の
外周面に形成されている通路(図示せず)を介して前記密閉容器100内の前記駆動部3
側に流れ、ここから吐出管150を介して密閉容器100外の冷凍サイクル等へ吐出され
る。従って、前記密閉容器100内の空間は吐出圧力に保たれる。
【0023】
前記旋回スクロール120を旋回運動させる前記駆動部3は、ロータ107a及びステータ107bからなる電動機107と、回転軸101等により構成されている。なお、前記旋回スクロール120は自転防止機構の主要部品であるオルダム継手134により自転が防止されて旋回運動を行うように構成されている。
【0024】
前記オルダム継手134は、前記旋回スクロール120と前記フレーム160との間により形成されている背圧室180に設けられている。また、前記オルダム継手134には直交する2組のキーが形成されており、1組のキーが前記フレーム160に形成したキー溝を滑動し、残りの1組のキーが前記旋回スクロール120の背面に構成したキー溝を滑動するように構成されている。
【0025】
前記回転軸101は、主軸部101a、副軸部101b及び偏心ピン部101cを有しており、前記主軸部101aは前記フレーム160に設けられた主軸受104で回転自在に支持され、前記副軸部101bは副軸受ハウジング133に設けられた副軸受105により回転自在に支持されている。
【0026】
なお、前記副軸受ハウジング133は、前記密閉容器100の下部にタック溶接により固定された副フレーム(下フレーム)137に、複数のボルト22で取り付けられている。また、前記密閉容器100内の底部には油溜り部131が形成されており、前記主軸受104は前記電動機107の圧縮機構部2側に、前記副軸受105は前記油溜り部131側にそれぞれ配置されている。
【0027】
前記回転軸101の前記偏心ピン部101cは、前記旋回スクロール120の旋回ボス部120c内に設けた前記旋回軸受103に挿入されている。従って、回転軸101の前記偏心ピン部101cは、前記旋回軸受103に対して回転軸方向に移動可能でかつ回転自在に係合されている。
【0028】
本実施例においては、前記主軸受104、前記副軸受105及び前記旋回軸受103に、それぞれすべり軸受が用いられている。また、これら旋回軸受103、主軸受104及び副軸受105への給油は、前記回転軸101内に形成されている油通路(給油経路)102と、前記回転軸101の下端側に設けられている給油ポンプ106により行なわれる。
【0029】
即ち、密閉容器100の下部空間の前記油溜り部131に溜めた油(潤滑油)を、前記給油ポンプ106で吸引すると共に前記油通路102を介して、前記旋回軸受103へ油を供給する経路と、油通路102から分岐する分岐油通路102aを介して前記副軸受105へ油を供給する経路と、前記油通路102から分岐する分岐油通路102bを介して前記主軸受104へ油を供給する経路が形成されている。
【0030】
前記旋回スクロール120の背面側に形成されている前記背圧室180は、前記固定スクロール110、前記旋回スクロール120及び前記フレーム160により囲まれて形成されている空間である。また、前記旋回ボス部120c内はほぼ吐出圧力の油が導かれる高圧室181となっている。前記背圧室180と前記高圧室181とはシール手段により圧力的に分離されている。
【0031】
前記シール手段は、前記旋回スクロール120の背面に設けられている前記旋回ボス部120cの端面120dに対面する前記フレーム160の端面部に構成されたリング状溝161と、このリング状溝161に配設されたシール部材172により構成されている。前記旋回ボス部端面120dは、前記シール部材172と接するシール面である。また、前記背圧室180内に配設されている前記オルダム継手134等の摺動部を潤滑するために、前記シール手段は、前記旋回ボス部端面120dに形成され、前記シール部材172を跨いで前記高圧室181と前記背圧室180を連続的に、或いは旋回スクロール120の旋回運動に伴って断続的に連通させるスリット状や丸穴形状等の溝170も備えている。
【0032】
従って、前記旋回軸受103や前記主軸受104から排出された高圧の油は、前記シール部材172でシールされ、前記背圧室180側への流出が抑えられるため、前記高圧室181は、ほぼ吐出圧力程度の圧力空間になる。即ち、密閉容器100内のほぼ吐出圧力の油が給油ポンプ106のポンプ作用により昇圧されるため、旋回軸受103や主軸受104などの隙間部を通過する際に減圧作用を受けるものの、前記高圧室181はほぼ吐出圧力となっている。
【0033】
なお、204は前記フレーム160に設けられ前記回転軸101のつば部101dを支持するスラスト軸受、184は前記旋回軸受103及び前記主軸受104から排出された油を前記油溜り部131に導くための排油パイプ、138は前記給油ポンプ106を前記副軸受ハウジング133に支持させるための支持ボルトである。
【0034】
ここで、従来のスクロール圧縮機の構成を、
図10を用いて説明する。
図10は従来のスクロール圧縮機を示す縦断面図であり、
図1に示す本発明の実施例1のスクロール圧縮機と同一部分についての説明は省略し、異なる部分を中心に説明する。なお、
図1と同一或いは相当する部分には同一符号を付している。
【0035】
図10に示す従来のスクロール圧縮機では、主軸受104や副軸受105に転がり軸受を用いている。また、給油ポンプ106から吐出された油は回転軸101の油通路102を介して旋回軸受103に供給される。また、前記旋回軸受103から排出された油の一部はシール部材172の部分を通過して、背圧室180に供給され、残りの大半の油は転がり軸受で構成された前記主軸受104へ供給されるシリーズ給油方式となっている。
なお、転がり軸受で構成されている前記副軸受105には、分岐油通路102aを介して前記油通路102を流れる油の一部が供給される。
【0036】
これに対し、
図1に示す本実施例では、旋回軸受103だけでなく、主軸受104及び副軸受105にもすべり軸受を用いているので、各軸受部103〜105に十分な量の油を確実に供給しなければ、軸受信頼性を確保できない。このため、本実施例では上述したように、油通路102から各軸受部103〜105に、前記油通路102からの油を並列に分配する分配給油方式としている。この分配給油方式の場合、前記シリーズ給油方式よりも供給量を増加させる必要があるため、給油ポンプ106の容積を
図10に示す従来のものより、2倍以上に設定しなければ各軸受103〜105への必要給油量を確保できない。
【0037】
このように、スクロール圧縮機の低コスト化のために小形・高速化したり、各軸受のすべり軸受化に伴い、給油ポンプ106の容積増大を図る必要があり、これに伴い、給油ポンプ106の吐出圧力と吸込圧力の圧力差が増大することを、
図11及び
図12を用いて説明する。
図11は給油ポンプの動作原理を説明する図、
図12は給油ポンプの回転周波数と吐出圧力比率との関係を示すグラフである。
【0038】
図11に示すように、前記給油ポンプ106としては、一般にトロコイド式ポンプと呼ばれる内接歯車形の歯車ポンプが用いられている。このトロコイド式ポンプは、
図11に示すように、歯形がトロコイド曲線により形成されたインナロータ106a及びそれに噛み合わさって駆動されるアウタロータ106bにより構成された内接歯車形の構造となっている。前記インナロータ106aは、その中心に穴106aaが形成されており、この穴106aaには回転軸101(
図1参照)の下端部が挿入されて係合され、前記回転軸101が回転するとインナロータ106aが回転駆動される。このインナロータ106aの回転に伴ってアウタロータ106bも回転する。
【0039】
前記インナロータ106aの歯数はZ(この例では8)であり、前記アウタロータ106bの歯数はZ+1(この例では9)となっている。この歯数の関係で前記インナロータ106aとアウタロータ106bが噛み合うことで、それらの間に形成される空間は、前記インナロータ106aの回転と共に、容積が次第に拡大し、その後次第に減少する。容積が拡大する過程で吸込ポート106cから油を吸い込み、容積が減少する過程で吐出ポート106dから油が吐出されて回転軸101の油通路102に供給される。
【0040】
油通路102に供給された油の一部は、分岐油通路102aから副軸受105に給油され、その後、副軸受ハウジング133と回転軸101との間の内部空間に流出し、更に前記副軸受ハウジング133と前記給油ポンプ106との間に形成された軸方向隙間を通過して油溜り部131へ排出される。
【0041】
図12は、基準となる容積の給油ポンプAと、この給油ポンプAに対し容積が2.5倍の給油ポンプBにおけるポンプの回転周波数とポンプの吐出圧力比率との関係を示す。即ち、給油ポンプAの回転周波数が100Hzの場合の吐出圧力比率を1とし、該給油ポンプAの各回転周波数における吐出圧力比率を曲線Aで示している。また、曲線Bは、給油ポンプAの容積の2.5倍の容積をもつ給油ポンプBにおける各回転周波数における吐出圧力比率を曲線Bで示している。
【0042】
この
図12に示すように、給油ポンプの回転周波数を低下させるにつれ、吐出圧力比率は低下していく。また、容積を2.5倍に増大させた給油ポンプBの吐出圧力比率は回転周波数が100Hzの場合、吐出圧力比率が2.5となり、回転周波数を低下させるにつれ吐出圧力比率も低下するものの、給油ポンプAにおける吐出圧力比率に対して、同じ回転周波数であれば、給油ポンプBの吐出圧力比率は約2.5倍程度に増加していることがわかる。
【0043】
前記給油ポンプAは、主軸受及び副軸受に転がり軸受を採用し、シリーズ給油方式としている従来のスクロール圧縮機に用いられている給油ポンプで、前記給油ポンプBは、主軸受及び副軸受にすべり軸受を採用し、分配給油方式としている上記本実施例1におけるスクロール圧縮機に用いられている給油ポンプである。本実施例1の給油ポンプでは、主軸受及び副軸受にすべり軸受を採用し、分配給油方式として各すべり軸受に十分な量の油を供給するため、給油ポンプの容積を従来の2.5倍程度にする必要がある。
【0044】
このため、本実施例における給油ポンプでは、従来のスクロール圧縮機における給油ポンプよりも給油ポンプの吐出圧力が2.5倍程度高くなり、給油ポンプの吸込側圧力と吐出側圧力との圧力差が増大することがわかった。
【0045】
従来の給油ポンプにおける圧力レベルであれば、ポンプカバー、インナロータ及びアウタロータの摩耗量は少ないが、給油ポンプの容積を従来の2.5倍程度にする本実施例1の圧力レベルになると、給油ポンプの吸込側圧力と吐出側圧力の圧力差が増大し、これに伴い給油ポンプの振動が増大して、特に、ポンプカバーやインナロータが異常摩耗する現象が発生することがわかった。
【0046】
次に、給油ポンプにおけるポンプカバーやインナロータ等の異常摩耗を回避できるようにした本実施例1における給油ポンプ部の構成を、
図1、
図2及び
図3を用いて説明する。
図1に示すように、副軸受ハウジング133の内周面には、すべり軸受で構成された副軸受105が挿入して設けられている。また、前記副軸受ハウジング133の下端部には給油ポンプ106が支持ボルト138により取り付けられている。
【0047】
前記給油ポンプ106の構成を、
図2及び
図3を用いて詳しく説明する。
前記副軸受ハウジング133に取り付けられている前記給油ポンプ106は、
図11を用いて上述したように、トロコイド式ポンプと呼ばれる内接歯車形の歯車ポンプが用いられている。このトロコイド式ポンプは、インナロータ106a及びそれに噛み合わさって駆動されるアウタロータ106bにより構成され、前記インナロータ106aは、
図2に示すように、その中心に穴106aaが形成されており、この穴106aaには回転軸101の下端部が挿入されて係合されている。前記回転軸101が回転するとインナロータ106aが回転駆動され、このインナロータ106aの回転に伴ってアウタロータ106bも回転する。
【0048】
前記インナロータ106aの歯数はZ(例えば8)、前記アウタロータ106bの歯数はZ+1(例えば9)となっている。前記インナロータ106aとアウタロータ106bの間に形成される空間は、前記インナロータ106aの回転と共に、容積が拡大した後減少し、吸込ポート106cから油溜り部131(
図1参照)の油を吸い込み、吐出ポート106dから油が吐出されて回転軸101の油通路102に供給される。
【0049】
前記インナロータ106aとアウタロータ106bはポンプケース106e内に収容され、このポンプケース106eにより、回転自在に支持されている。これらロータ106a,106bの上端面側は小さい隙間を介して前記ポンプケースに固定されたポンプカバー106fにより覆われている。このポンプカバー106fは、吸込室(吸込ポート106c)と吐出室(吐出ポート106d)の気密を保つ機能を有している。
【0050】
前記ポンプケース106eは、前記副軸受ハウジング133に対して、軸方向の隙間s1及び径方向の隙間s2を維持した状態で複数の支持ボルト138により取り付けられており、前記ポンプケース106eは、前記軸方向の隙間s1及び前記径方向の隙間s2の範囲内で、前記副軸受ハウジング133に対して変位できる。従って、回転軸101の振れ回りや、インナロータ自体に作用する圧力アンバランス等により、インナロータ106aが傾斜しても、前記軸方向隙間s1及び径方向の隙間s2により、ポンプケース106eも前記インナロータ106aの傾斜に追従して傾斜できるように構成されている。
【0051】
即ち、
図3に示すように、前記支持ボルト138が挿入される前記ポンプケース106eに形成されている貫通穴106gの径を、前記支持ボルト138の大径部(根元部)138aの外径よりも大きくして、前記径方向の隙間s2を確保している。また、前記支持ボルト138の大径部138aの軸方向の長さaを、前記ポンプケース106eに設けた前記貫通穴106gの軸方向長さbより長く形成することにより、前記軸方向の隙間s1を確保している。
【0052】
また、本実施例1では、複数の前記支持ボルト138のそれぞれに対し、前記支持ボルト138の周囲を取り囲むように、前記副軸受ハウジング133と前記ポンプケース106eとの間に弾性支持部材190が設けられている。この弾性支持部材190は、本実施例では、
図3に示すように、前記支持ボルト138の周囲を取り囲むように、環状の樹脂製リング191と、環状の波板ワッシャ192で構成されている。
【0053】
前記樹脂製リング191と波板ワッシャ192は前記副軸受ハウジング133の下端面に形成された環状の凹溝133aに設けられ、前記ポンプケース106eは前記波板ワッシャ192により前記樹脂製リング191を介して下方に押圧され、これにより前記給油ポンプ106は前記弾性支持部材190により弾性支持されている。
【0054】
前記給油ポンプ106から油通路102に供給された油の一部は、分岐油通路102aから副軸受105に給油され、その後、副軸受ハウジング133と回転軸101との間の内部空間に流出し、更に前記副軸受ハウジング133と前記給油ポンプ106との間に形成された軸方向隙間s1を通過して油溜り部131へ排出される。
【0055】
以上説明したように、本実施例では、前記副軸受ハウジング133に対して、前記給油ポンプ106のポンプケース106eを、軸方向の隙間s1及び径方向の隙間s2を維持した状態で取り付け、且つ前記副軸受ハウジング133と給油ポンプ106のポンプケース106eとの間に、樹脂製リング191と波板ワッシャ192で構成された弾性支持部材190を設けている。
【0056】
従って、給油ポンプ106の容積増大や高速化に伴い、その吸込側圧力と吐出側圧力の圧力差が増加して、ロータ周方向の圧力アンバランス発生によるインナロータ106aの傾斜や、回転軸101の振動によるインナロータ106aの傾斜が増大しても、前記ポンプケース106eが傾斜することにより、前記インナロータ106aの傾斜を吸収できる。また、前記給油ポンプ106の容積増大に伴う圧力差の増加による給油ポンプ106の振動や、回転軸の高速回転による振動も、前記弾性支持部材190により吸収することもできる。
【0057】
これにより、給油ポンプ106を構成しているポンプカバー106fと、インナロータ106aやアウタロータ106bとが強く接触するのを抑制して、前記ポンプカバー106fやインナロータ106a等の摩耗を低減することができ、スクロール圧縮機の信頼性を向上することができる。
また、特許文献1に記載されているような従来のスクロール圧縮機におけるカバー押えも不要となることから、低コスト化も可能なスクロール圧縮機を得ることができる。
【0058】
なお、前記樹脂製リング191の材料としては、ポルテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)またはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の耐熱性が150℃以上のスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)を用いると良い。
【0059】
また、本実施例1では、環状の前記凹溝133aを副軸受ハウジング133側に設けているが、これに代えてポンプケース106eの上端面に、前記樹脂製リング191や波板ワッシャ192を収容する前記凹溝133aを形成するようにしても良い。
【実施例4】
【0074】
本発明のスクロール圧縮機の実施例4を、
図6及び
図7を用いて説明する。
図6は本実施例4を説明する図で、
図2に相当する図、
図7は
図6に示す給油ポンプの平面図である。本実施例4の説明においても、上述した実施例1と同一部分についての説明は省略し、異なる部分を中心に説明する。
【0075】
上述した実施例1〜3では、複数の支持ボルト138のそれぞれに対し、前記支持ボルト138の周囲を取り囲むように、副軸受ハウジング133とポンプケース106eとの間に弾性支持部材190を設けた例を説明した。これに対し、本実施例4は、複数の前記支持ボルト138の内周側における前記副軸受ハウジング133と前記ポンプケース106eとの間に、円周方向に弾性支持部材190を設けるようにしたものである。
【0076】
即ち、本実施例4でも、前記弾性支持部材190は、環状の樹脂製リングと、環状の波板ワッシャで構成している点では上記実施例1と同様である。しかし、本実施例においては、支持ボルト138の周囲を取り囲むように弾性支持部材を設けるのではなく、複数の前記支持ボルト138の内周側を接続するように、つまり回転軸101の周囲を取り囲むように、前記副軸受ハウジング133と前記ポンプケース106eとの間に、円周方向に大きな環状の弾性支持部材190、即ち、環状の樹脂製リング191aと波板ワッシャ192aを設けたものである。
【0077】
なお、前記樹脂製リング191aと波板ワッシャ192aは、複数の前記支持ボルトの内周側を接続するように、前記副軸受ハウジング133の下端面に形成された環状の凹溝133dに配設され、前記ポンプケース106eは前記波板ワッシャ192aにより前記樹脂製リング191aを介して下方に押圧され、これにより前記給油ポンプ106は前記弾性支持部材190により弾性支持されている。
【0078】
なお、本実施例においても、前記副軸受ハウジング133に対して、前記給油ポンプ106のポンプケース106eは、軸方向の隙間s1及び径方向の隙間s2を維持した状態で取り付けられている。
【0079】
また、本実施例4においては、前記支持ボルト138の内周側における前記副軸受ハウジング133と前記ポンプケース106eとの間に、環状に前記弾性支持部材190、即ち、環状の樹脂製リング191aと波板ワッシャ192aを設けているため、前記弾性支持部材190の内側の空間(副軸受ハウジングの内部空間)と外側の空間(副軸受ハウジングの外部空間)をシールしてしまう。このため、副軸受105(
図1参照)を潤滑して副軸受ハウジング133内に排出された油の排出経路が塞がれてしまい、油溜り部131(
図1参照)側に排出できなくなる。
【0080】
そこで、本実施例4では、
図6、
図7に示すように、前記副軸受ハウジング133の内部空間と外部空間を連通する油排出溝(油排出経路)106hを複数設けて、油排出経路を確保している。他の構成は上記実施例1と同様である。
【0081】
本実施例4においても上記実施例1と同様に、給油ポンプ106に発生する圧力アンバランスや回転軸101の振動によりインナロータ106aの傾斜が増大しても、ポンプケース106eが傾斜できることにより、前記インナロータ106aの傾斜を吸収できる。また、前記給油ポンプ106の容積増大に伴う圧力差の増加による給油ポンプ106の振動や、回転軸の高速回転による振動も、前記弾性支持部材190、即ち、樹脂製リング191aと波板ワッシャ192aにより吸収することもできる。
【0082】
これにより、給油ポンプ106を構成しているポンプカバー106fと、インナロータ106aやアウタロータ106bとが強く接触するのを抑制して、前記ポンプカバー106fやインナロータ106a等の摩耗を低減することができ、スクロール圧縮機の信頼性を向上することができるなど、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【0083】
また、本実施例4によれば、複数の前記支持ボルト138の内周側における前記副軸受ハウジング133と前記ポンプケース106eとの間に、円環状の弾性支持部材190を設ける構成としているので、
弾性支持部材190を1つにすることができ、実施例1〜3のものに対して、部品点数を削減してコスト低減を図れる効果もある。
【0084】
なお、環状の前記凹溝133dを副軸受ハウジング133側に設ける例を説明したが、これに代えて、ポンプケース106eの上端面に、前記樹脂製リング191aや前記波板ワッシャ192aを収容する前記凹溝133dを形成するようにしても良い。
【0085】
また、前記樹脂製リング191aの材料としては、上記実施例1と同様に、ポルテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)またはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の耐熱性が150℃以上のスーパーエンジニアリングプラスチックを用いると良い。
【0086】
更に、上述した実施例4の説明では、複数の前記支持ボルト138の内周側を環状に連続するように前記凹溝133dを形成し、この凹溝133dに環状の弾性支持部材190を配設しているが、必ずしもこの形態に限定されるものではない。例えば、複数の前記支持ボルト138の内周側に、凹溝を円周方向に断続的に形成し、この凹溝に、円弧状や直線状の樹脂製板材と、波板ワッシャやコイルバネで構成された弾性支持部材などを設けてポンプケースを弾性支持する構成としても、ほぼ同様の効果を得ることができる。
【実施例5】
【0087】
本発明のスクロール圧縮機の実施例5を、
図8を用いて説明する。
図8は本実施例5を説明する図で、
図2或いは
図6に相当する図である。また、本実施例5の説明においても、上述した実施例1と同一部分についての説明は省略し、異なる部分を中心に説明する。
【0088】
本実施例5も上記実施例4と同様に、複数の前記支持ボルト138の内周側における前記副軸受ハウジング133と前記ポンプケース106eとの間に、円周方向に弾性支持部材190を設けたものである。
【0089】
即ち、本実施例5においても、支持ボルト138の周囲を取り囲むように弾性支持部材を設けるのではなく、複数の前記支持ボルト138の内周側を接続するように、つまり回転軸101の周囲を取り囲むように、前記副軸受ハウジング133と前記ポンプケース106eとの間に、円周方向に大きな環状の弾性支持部材190を設けている。
【0090】
また、上記実施例4では、弾性支持部材190を、樹脂製リング191aと波板ワッシャ192aで構成して、給油ポンプ106を副軸受ハウジング133に弾性支持するようにしたが、本実施例5では、前記弾性支持部材190を、ニトリルゴム製の円環状のOリング193aで構成し、このOリング193aを、給油ポンプ106のポンプケース106eと副軸受ハウジング133との間に配設して、前記給油ポンプ106を弾性支持している。
【0091】
詳しく説明すると、本実施例5においても、副軸受ハウジング133の下端面に、複数の支持ボルト138の内周側を接続するように、つまり回転軸101の周囲を取り囲むように、前記副軸受ハウジング133と前記ポンプケース106eとの間に、円周方向に大きな環状の弾性支持部材190、即ち、円環状のOリング193aを設けたものである。
【0092】
なお、前記Oリング193aは、複数の前記支持ボルト138の内周側を接続するように、前記副軸受ハウジング133の下端面に形成された円環状の凹溝133dに配設され、前記ポンプケース106eは前記Oリング193aにより下方に押圧され、これにより前記給油ポンプ106は前記弾性支持部材190により弾性支持されている。
【0093】
なお、本実施例においても、前記副軸受ハウジング133に対して、前記給油ポンプ106のポンプケース106eは、軸方向の隙間s1及び径方向の隙間s2を維持した状態で取り付けられている。他の構成は上記実施例1や4と同様である。
【0094】
本実施例5においても上記実施例1や4と同様に、給油ポンプ106に発生する圧力アンバランスや回転軸101の振動によりインナロータ106aの傾斜が増大しても、ポンプケース106eが傾斜できることにより、前記インナロータ106aの傾斜を吸収できる。また、前記給油ポンプ106の容積増大に伴う圧力差の増加による給油ポンプ106の振動や、回転軸の高速回転による振動も、前記Oリング193aにより吸収することができる。
【0095】
これにより、給油ポンプ106を構成しているポンプカバー106fと、インナロータ106aやアウタロータ106bとが強く接触するのを抑制して、前記ポンプカバー106fやインナロータ106a等の摩耗を低減することができ、これによりスクロール圧縮機の信頼性を向上することができるなど、実施例1や4と同様の効果を得ることができる。
【0096】
また、本実施例5によれば、弾性支持部材190をOリング193aだけで構成できるので、構成が簡単で上記実施例4のものよりも安価に製作できる効果もある。
なお、円環状の前記凹溝133dを副軸受ハウジング133側に設ける例を説明したが、これに代えて、本実施例5においても、ポンプケース106eの上端面に、上記Oリング193aを収容する前記凹溝133dを形成するようにしても良い。
【実施例6】
【0097】
本発明のスクロール圧縮機の実施例6を、
図9を用いて説明する。
図9は本実施例6を説明する図で、
図2或いは
図6に相当する図である。また、本実施例6の説明においても、上述した実施例1と同一部分についての説明は省略し、異なる部分を中心に説明する。
【0098】
本実施例6も上記実施例4や5と同様に、複数の前記支持ボルト138の内周側における前記副軸受ハウジング133と前記ポンプケース106eとの間に、円周方向に弾性支持部材190を設けている。
【0099】
即ち、本実施例6においても、支持ボルト138の周囲を取り囲むように弾性支持部材を設けるのではなく、複数の前記支持ボルト138の内周側を接続するように、前記副軸受ハウジング133と前記ポンプケース106eとの間に、円周方向に大きな環状の弾性支持部材190を設けている。
【0100】
また、上記実施例4では、弾性支持部材190を、樹脂製リング191aと波板ワッシャ192aで構成して、給油ポンプ106を副軸受ハウジング133に弾性支持するようにしたが、本実施例6では、前記弾性支持部材190を円環状の波板ワッシャ192bだけで構成し、この波板ワッシャ192bを、給油ポンプ106のポンプケース106eと副軸受ハウジング133との間に配設して、前記給油ポンプ106を弾性支持したものである。
【0101】
なお、前記波板ワッシャ192bは、複数の前記支持ボルト138の内周側を接続するように、前記副軸受ハウジング133の下端面に形成された円環状の凹溝133dに配設され、前記ポンプケース106eは前記波板ワッシャ192bにより下方に押圧され、これにより前記給油ポンプ106は前記弾性支持部材190である波板ワッシャ192bにより弾性支持されている。
【0102】
本実施例6においては、前記弾性支持部材190を円環状の波板ワッシャ192bだけで構成しているので、この波板ワッシャ192bに接するポンプケース106eの部分が摩耗する可能性がある。この摩耗を抑制するため、前記波板ワッシャ192bのポンプケース106e側端部を平坦面に構成すると良い。
【0103】
なお、本実施例においても、前記副軸受ハウジング133に対して、前記給油ポンプ106のポンプケース106eは、軸方向の隙間s1及び径方向の隙間s2を維持した状態で取り付けられている。他の構成は上記実施例1や4と同様である。
【0104】
本実施例6においても上記実施例1や4と同様に、給油ポンプ106に発生する圧力アンバランスや回転軸101の振動によりインナロータ106aの傾斜が増大しても、ポンプケース106eが傾斜できることにより、前記インナロータ106aの傾斜を吸収できる。また、前記給油ポンプ106の容積増大に伴う圧力差の増加による給油ポンプ106の振動や、回転軸の高速回転による振動も、前記波板ワッシャ192bにより吸収することができる。
【0105】
これにより、給油ポンプ106を構成しているポンプカバー106fと、インナロータ106aやアウタロータ106bとが強く接触するのを抑制して、前記ポンプカバー106fやインナロータ106a等の摩耗を低減することができ、これによりスクロール圧縮機の信頼性を向上することができるなど、実施例1や4と同様の効果を得ることができる。
【0106】
また、本実施例6によれば、弾性支持部材190を波板ワッシャ192bだけで構成しているので、上記実施例4のものよりも安価に製作できる。
なお、円環状の前記凹溝133dを、副軸受ハウジング133側に設ける代わりに、ポンプケース106eの上端面に、前記波板ワッシャ192bを収容する前記凹溝133dを形成するようにしても良い。
【0107】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。
更に、上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。