特許第6862311号(P6862311)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862311
(24)【登録日】2021年4月2日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】車両用スライドドアのガイドローラ
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/62 20060101AFI20210412BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20210412BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20210412BHJP
   B60J 5/06 20060101ALI20210412BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20210412BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   F16C33/62
   F16C33/66 A
   F16C19/06
   B60J5/06 H
   C08L101/00
   C08K7/02
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-157443(P2017-157443)
(22)【出願日】2017年8月17日
(65)【公開番号】特開2019-35472(P2019-35472A)
(43)【公開日】2019年3月7日
【審査請求日】2020年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 貴文
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−138334(JP,A)
【文献】 特開2003−239946(JP,A)
【文献】 特開2007−204601(JP,A)
【文献】 特開平08−232945(JP,A)
【文献】 特開2000−103000(JP,A)
【文献】 特開2007−106004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
F16C 33/30−33/66
B60J 5/06
C08K 7/02
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のスライドドアに連結された支持部材に回転自在に軸支されて、車体側に設けられたレールに沿って転動するようになっている、車両用スライドドアのガイドローラにおいて、前記ガイドローラは、前記支持部材に固定される金属製のリング状の内輪と、ベアリングを保持するリテーナと、該リテーナを介して前記内輪に回転可能に保持された金属製のリング状の外輪と、前記外輪の外周面に被覆された摺動層とから構成され、前記摺動層が合成樹脂からなり、前記摺動層の外周面が摺動面であり、
前記摺動層の前記摺動面から前記外輪との界面に向かって、前記摺動層の厚さの25%の領域を摺動面側領域、前記界面から前記摺動面に向かって前記摺動層の厚さの25%までの領域を界面側領域、前記摺動面側領域と前記界面側領域との間の領域を中間領域として、前記摺動面側領域における前記合成樹脂の結晶化度をX1、前記中間領域における前記合成樹脂の結晶化度をX2、前記界面側領域における前記合成樹脂の結晶化度をX3としたとき、
X2−X1が5%未満であり、
X2−X3が5%未満であり、
摺動面側領域における合成樹脂のナノインデンター硬さをY1、中間領域における合成樹脂のナノインデンター硬さをY2、界面側領域における合成樹脂のナノインデンター硬さをY3としたとき、
Y2はY1の115%以上であり、
Y2はY3の115%以上である、ガイドローラ。
【請求項2】
前記X1が20%以上90%未満、前記X2が20%以上90%未満、前記X3が20%以上90%未満である、請求項1に記載されたガイドローラ。
【請求項3】
X2−X1が3%未満であり、X2−X3が3%未満である、請求項1または請求項2に記載されたガイドローラ。
【請求項4】
前記合成樹脂が、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリエチレンのうちから選ばれる1種以上からなる、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載されたガイドローラ。
【請求項5】
前記摺動層が、前記合成樹脂中に分散した繊維状粒子を含有し、該繊維状粒子が、ガラス繊維粒子、セラミック繊維粒子、炭素繊維粒子、アラミド繊維粒子、アクリル繊維粒子、およびポリビニルアルコール繊維粒子のうちから選ばれる1種以上からなる、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載されたガイドローラ。
【請求項6】
前記摺動層が、黒鉛、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化硼素、およびポリテトラフルオロエチレンのうちから選ばれる1種以上の固体潤滑剤を更に含む、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載されたガイドローラ。
【請求項7】
前記摺動層が、CaF、CaCo、タルク、マイカ、ムライト、酸化鉄、リン酸カルシウム、チタン酸カリウムおよびMoCのうちから選ばれる1種または2種以上の充填材1〜10体積%を更に含む、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載されたガイドローラ。
【請求項8】
前記外輪は、前記摺動層との界面となる外周面に、凹凸部を有する、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載されたガイドローラ。
【請求項9】
前記外輪は、前記摺動層との界面となる外周面から、前記ガイドローラの径方向外側に突出する鍔部を有する、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載されたガイドローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂からなる摺動層を備えたガイドローラに係るものであり、詳細には、スライドドアに連結された支持部材に回転自在に軸支され、車体側に設けられたレールに沿って転動するようになっている、車両用スライドドアのガイドローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のスライドドアは、車体開口部の上縁部に設けたアッパレール、車体開口部に隣接する車体後部側壁の高さ方向中央部に設けたセンタレール、及び車体開口部の下縁部に設けたロアレールに、スライドドアの前端上部に設けたアッパガイドローラ、後端の高さ方向中央部に設けたセンタガイドローラ、及び前端下部に設けたロアガイドローラをそれぞれ転動可能に係合させることによって、スライドドアを車体側壁に沿ってスライド可能に支持し、スライドドアをスライド開閉できるようにしている。
【0003】
車体側に設けられたガイドレールに沿って転動するガイドローラは、金属製の内輪と、ベアリングを保持するリテーナを介して内輪に回転可能に装着された金属製の外輪と、外輪の外周面を覆う合成樹脂製の摺動層とから構成される。この構造によると、金属製のガイドレールと外輪とが直接接することがなく、摺動層がガイドレールに転接するため、ドア開閉時の静音性が向上する。
【0004】
ところで、スライドドアのガイドローラは、スライドドアの上縁前端のアーム部材(支持部材)の先端にガイドローラがかしめ固定され、ガイドローラが水平方向に回動可能に保持されるが、アーム部材の揺動により支軸が傾いてガイドロ−ラ自体が傾いたまま転動される場合があり(特許文献1の図3参照)、樹脂製の摺動層が破損しやすくなる。この点、特許文献1〜3には、リング状の外輪の外周面上端に突出部が一体に形成され、リング状の外輪の上端面から突出しているガイドローラが開示されている。このようなガイドローラは、仮に樹脂製の摺動層が破損したとしても、鍔部がガイドレールと干渉するので、ガイドレールからの脱落が防止されやすい利点を持っている。
【0005】
他方、特許文献4の転がり軸受では、被覆部材の接合力を向上させるために、外輪の外周面および側面に拘束溝を形成し、外輪の外周面および側面を覆うように被覆部材を接合することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−328791号公報
【特許文献2】特開2006−28882号公報
【特許文献3】特開2007−106004号公報
【特許文献4】実開平6−73445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、スライドドアのガイドローラは、アーム部材の揺動により支軸が傾いてガイドロ−ラ自体が傾いたまま転動される場合があるが、その場合、樹脂製の摺動層の上縁がガイドレール面と接触することで局所的な負荷を受けながら転動され、その結果、
ガイドレール部材と接する摺動層の表面の合成樹脂は、ガイドレール部材に引きずられて、摺動方向への弾性変形量が大きくなり、摺動層の表面に割れ等の損傷が起こり、または、摺動層が外輪から脱落、もしくは、外輪と摺動層の密着性が低下し、摺動層が外輪から剥離する虞がある。例えば特許文献1〜3のように外輪に鍔部が一体に形成されたガイドローラの構造であっても、ガイドローラ自体が傾いて転動されると、摺動層の上縁が局所的な負荷を受けるが、その負荷が摺動層の内部を伝播し、摺動層と外輪との界面まで達するようになると、摺動層の脱落や剥離が起こる可能性がある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、従来技術の上記欠点を克服して、摺動層の表面に割れ等の損傷が起き難く、摺動層の脱落や剥離を防止することが可能な車両用スライドドアのガイドローラを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によれば、車両のスライドドアに連結された支持部材に回転自在に軸支されて、車体側に設けられたレールに沿って転動するようになっている、車両用スライドドアのガイドローラが提供される。このガイドローラは、支持部材に固定される金属製のリング状の内輪と、ベアリングを保持するリテーナと、このリテーナを介して内輪に回転可能に保持された金属製のリング状の外輪と、この外輪の外周面に被覆された摺動層とから構成される。
この摺動層は合成樹脂からなり、摺動層の外周面が摺動面であり、摺動層の摺動面から外輪の外周面との界面に向かって、摺動層の厚さの25%の領域を摺動面側領域、界面から摺動面に向かって摺動層の厚さの25%までの領域を界面側領域、摺動面側領域と界面側領域との間の領域を中間領域として、摺動面側領域における合成樹脂の結晶化度をX1、中間領域における合成樹脂の結晶化度をX2、界面側領域における合成樹脂の結晶化度をX3としたとき、X2−X1が5%未満であり、X2−X3が5%未満である。さらに、摺動面側領域における合成樹脂のナノインデンター硬さをY1、中間領域における合成樹脂のナノインデンター硬さをY2、界面側領域における合成樹脂のナノインデンター硬さをY3としたとき、Y2はY1の115%以上であり、Y2はY3の115%以上である。
【0010】
本発明の一具体例によれば、X1が20%以上90%未満、X2が20%以上90%未満、X3が20%以上90%未満であることが好ましい。
【0011】
本発明の一具体例によれば、X2−X1が3%未満であり、X2−X3が3%未満であることが好ましい。
【0012】
本発明の一具体例によれば、合成樹脂が、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリエチレンのうちから選ばれる1種以上からなることが好ましい。
【0013】
本発明の一具体例によれば、摺動層が合成樹脂中に分散した繊維状粒子を含有することが好ましく、繊維状粒子が、ガラス繊維粒子、セラミック繊維粒子、炭素繊維粒子、アラミド繊維粒子、アクリル繊維粒子、およびポリビニルアルコール繊維粒子のうちから選ばれる1種以上からなることが好ましい。
【0014】
本発明の一具体例によれば、摺動層が、黒鉛、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化硼素、およびポリテトラフルオロエチレンのうちから選ばれる1種以上の固体潤滑剤を更に含むことが好ましい。
【0015】
本発明の一具体例によれば、摺動層が、CaF、CaCo、タルク、マイカ、ムライト、酸化鉄、リン酸カルシウム、チタン酸カリウムおよびMoC(モリブデンカーバイト)のうちから選ばれる1種または2種以上の充填材を1〜10体積%を更に含むことが好ましい
【0016】
本発明の一具体例によれば、外輪は、摺動層との界面となる外周面に、凹凸部を有することが好ましい。
【0017】
本発明の一具体例によれば、外輪は、摺動層との界面となる外周面から、ガイドローラの径方向外側に突出する鍔部を有することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一具体例によるガイドローラの断面を示す図。
図2】本発明の摺動層の断面を示す図。
図3】本発明の他の具体例によるガイドローラの断面を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
車両のスライドドアは、前述したように、車体開口部の上縁部に設けたアッパレール、車体開口部に隣接する車体後部側壁の高さ方向中央部に設けたセンタレール、及び車体開口部の下縁部に設けたロアレールに、スライドドアの前端上部に設けたアッパガイドローラ、後端の高さ方向中央部に設けたセンタガイドローラ、及び前端下部に設けたロアガイドローラをそれぞれ転動可能に係合させることによって、スライドドアを車体側壁に沿ってスライドできるように支持し、スライドドアをスライド開閉できるようにしている。
【0020】
図1に本発明に係るガイドローラ1の断面を概略的に示す。ガイドローラ1は、金属製のリング状の内輪2、複数のベアリング3を保持するリテーナ4、リテーナ4を介して内輪2に回転可能に保持された金属製のリング状の外輪5、外輪5の外周面を覆う合成樹脂6から構成された摺動層7、外輪5と内輪2とを密閉するシールリング8を有して構成されている。シールリング8は、外輪5と内輪2とを密閉することにより、内部に異物が混入しないようにするとともに、ガイドローラ1内に介在するグリスが漏れないようにする機能を有している。
【0021】
リング状の内輪2は、車両のスライドドアに連結された支持部材(図示しない)に固定され、それにより支持部材またはガイドローラ1の軸線を中心として、支持部材および内輪2に対して、外輪5および摺動層7が回転できるようになっている。本明細書においては、この軸線に平行な方向を「軸線方向」、軸線に垂直な方向を「径方向」と称し、環状部材の軸線に近い方の面を「内周面」、軸線から遠い方の面を「外周面」と呼ぶ。
【0022】
外輪5の寸法の一例としては、ガイドローラ1の外径(直径)が15〜23mm、外輪5の外周面の外径(直径)が10〜20mm、ガイドローラ1の軸線方向幅が5〜10mmである。ただし、本発明のガイドローラ1は、これらの寸法に限定されない。
【0023】
図2に、本発明に係るガイドローラ1の摺動層7の断面(摺動面70に垂直方向での摺動部材1の断面)を概略的に示す。ガイドローラ1は、外輪5の外周面上に、合成樹脂6から構成された摺動層7が設けられている。摺動層3の外周面(すなわち、外輪5の外周面と反対側の面)はガイドローラ1の摺動面70として機能する。
【0024】
合成樹脂6は、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンおよびポリエーテルイミドから選ばれる1種以上からなることが好ましい。
摺動層7は、合成樹脂6中に分散した繊維状粒子を更に含有できる。繊維状粒子は、ガラス繊維粒子、セラミック繊維粒子、炭素繊維粒子、アラミド繊維粒子、アクリル繊維粒子、ポリビニルアルコール繊維粒子から選ばれる1種以上からなることが好ましい。この繊維状粒子を含有することにより、摺動層の強度を高めることができる。繊維状粒子の含有量は、5〜10%とすることが好ましい。
【0025】
摺動層7は、黒鉛、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化硼素、ポリテトラフルオロエチレンから選ばれる1種以上の固体潤滑剤をさらに含んでもよい。この固体潤滑剤を含有することにより、摺動層の摺動特性を高めることができる。固体潤滑剤の含有量は、5〜10%とすることが好ましい。
また、摺動層7は、CaF、CaCo、タルク、マイカ、ムライト、酸化鉄、リン酸カルシウム、チタン酸カリウムおよびMoC(モリブデンカーバイト)のうちから選ばれる1種または2種以上の充填材を1〜10体積%を更に含んでもよい。この充填材を含有することにより、摺動層の耐摩耗性を高めることが可能となる。
【0026】
内輪2および外輪5は、軸受鋼(SUJ−2)等のFe合金から形成できる。また、内輪2および外輪5の軌道部には、高周波焼入れ処理が施されることにより、支持部材(図示しない)にかしめ固着し易くするとともに、ベアリング3との摩擦摩耗に対して耐久性を有するように構成できる。
【0027】
摺動層7の厚さ(すなわち、摺動面70から摺動層7と外輪5との界面9までの間の、摺動面70に垂直方向(軸線方向)の距離)は、0.5〜6mmとすることが好ましい。
摺動層7の厚さをTとして、摺動層7の摺動面70から界面9に向かって厚さTの25%までの距離にある領域を「摺動面側領域71」、界面9から摺動面70側に向かって厚さTの25%までの距離にある領域を「界面側領域73」、「摺動面側領域71」と「界面側領域73」との間の領域を「中間領域72」と区分する。
摺動層7の各領域は、
摺動面側領域71における合成樹脂の結晶化度をX1、中間領域72における合成樹脂の結晶化度をX2、界面側領域73における合成樹脂の結晶化度をX3とすると、本発明の摺動層7は、X2−X1が5%未満であり、かつ、X2−X3が5%未満であり、かつ、
摺動面側領域における合成樹脂のナノインデンター硬さをY1、中間領域における合成樹脂のナノインデンター硬さをY2、界面側領域における合成樹脂のナノインデンター硬さをY3としたとき、Y2はY1の115%以上であり、Y2はY3の115%以上であることを満たす。
【0028】
中間領域72の合成樹脂の結晶化度X2は、摺動面側領域71の合成樹脂の結晶化度X1、および、界面側領域73の合成樹脂の結晶化度X3に対して、5%未満とほぼ差異が無い。結晶化度の差が5%以上であると、ガイドレール部材からの負荷が加わったとき、摺動面側領域と中間層領域とで合成樹脂の変形速度が異なるために、摺動面側領域と中間領域との界面(境界)に微小な割れ(クラック)が発生し易くなり、ひいてはそれを起点として摺動面の割れ、および摩耗が起こり易くなる虞がある。
【0029】
また、中間領域72の合成樹脂のナノインデンター硬さY2は、摺動面側領域71の合成樹脂のナノインデンター硬さY1、および、界面側領域73の合成樹脂のナノインデンター硬さY3に対して、115%以上と高い。
なお、ナノインデンター硬さの絶対値については特に限定されないが、一例として、合成樹脂にナイロン(PA66)を用いた場合の中間領域のナノインデンター硬さY2は、7.5〜10.5(MPa)の範囲が好ましく、合成樹脂にポリアセタール(POM)を用いた場合の中間領域のナノインデンター硬さY2は、7.5〜10.5(MPa)の範囲が好ましく、合成樹脂にポリエチレン(PE)を用いた場合の中間領域のナノインデンター硬さY2は、3.5〜6.5(MPa)の範囲が好ましい。
【0030】
このように摺動層の全領域の合成樹脂の結晶化度が同じであるために、アーム部材の揺動により支軸が傾いてガイドロ−ラ1自体が傾いたまま転動される場合、外輪5の軸線方向端部付近における摺動層7の摺動面70がガイドレール部材と接触することで局所的な負荷を受けながら転動されたとしても、摺動面側領域と中間領域とで合成樹脂の変形速度が同じであるために、摺動面側領域と中間領域との界面(境界)付近での微小な割れ(クラック)の発生が抑制されて、それを起点として起こり得る摺動面70の割れ発生が防がれる。他方、仮に摺動層7に加わるガイドレール部材からの負荷が過度の場合でも、摺動面側領域71の合成樹脂のナノインデンター硬さY1が、中間領域72の合成樹脂のナノインデンター硬さY2と比較して低いため、過度な局所的な負荷を受けても摺動面側領域71の合成樹脂が十分な変形能を有するために、摺動面の割れを抑制することができる。また、中間領域72の硬さが高いことで、摺動面側領域の変形が界面側領域73と外輪5との界面9付近には伝播しがたいので、外輪5の外周面(界面9)と接する付近の合成樹脂は外輪5とのせん断が発生し難い。
【0031】
以上の機構により、本発明に係るガイドローラ1は、アーム部材の揺動により支軸が傾いてガイドロ−ラ自体が傾いたまま転動されて、摺動層7の摺動面70が局所的な負荷を受けながら転動する状況であっても、摺動層7の表面に割れ等の損傷が発生することが防がれ、さらに外輪5とのせん断も防止される。
【0032】
本発明では、X1が20%以上90%未満、X2が20%以上90%未満、X3が20%以上90%未満であることが好ましい。
また、X2−X1が3%未満であり、かつ、X2−X3が3%未満であることが更に好ましい。結晶化度の差が3%未満であると結晶化度の差が5%未満の場合よりも、上記の作用効果がさらに高まる。
【0033】
以上の本発明の構成とは異なり、従来のガイドローラは、摺動層の摺動面側領域及び界面側領域の合成樹脂の結晶化度が中間領域の合成樹脂の結晶化度よりも低く、摺動面側領域及び界面側領域の合成樹脂のナノインデンター硬さが中間領域の合成樹脂のナノインデンター硬さより低くなっている。アーム部材の揺動により支軸が傾いてガイドロ−ラ自体が傾いたまま転動される場合、摺動層の摺動面がガイドレール部材と接触することで局所的な負荷を受けながら転動する状況がおこると、摺動面側領域と中間層領域とで合成樹脂の変形速度が異なるために、摺動面側領域と中間領域との界面(境界)で微小な割れ(クラック)が発生し易くなり、それを起点として摺動面の割れ、および摩耗が起こり易くなる虞がある。
また、ガイドレール部材の表面と接する摺動層の表面付近の合成樹脂は、硬さが低く変形し易いために、ガイドレール部材の表面に引きずられて、摺動層の表面に微小な割れ(クラック)等の損傷が起こり、摩耗が起こりやすい。
また、従来のガイドローラには、摺動層の全領域の合成樹脂の結晶化度が同じで、かつ全領域の合成樹脂のナノインデンター硬さが同じであるものもあるが、摺動層の表面へのガイドレール部材の負荷が、外輪との界面まで伝播するようになり、金属製の外輪と摺動層の合成樹脂の弾性変形量の違いによりせん断力が発生しせん断がおこる。小さいせん断部が発生すると、そこを起点としてマクロ的なせん断(剥離)が起こりやすい。
【0034】
なお、図1では、外輪5の外周面をフラットとしているが、外輪5の外周面の形状は、これに限定されないで、特許文献3の図4(B)に示されるように外周面に凹凸が形成されてもよい。外輪5の外周面に凹凸を設けることにより、摺動層と外輪の接合強度を高めることができる。
【0035】
図3に本発明に係るガイドローラ1の別の具体例の断面を概略的に示す。
この第2の具体例によるガイドローラ1が、図1のガイドローラ1と異なる構成は、外輪5の外周面70の軸線方向の一端部側に、外輪5の周方向全長に亘って径方向の外側に向かって突出する鍔部10が形成されること、また、図1のガイドローラ1の摺動層7の摺動面70は、軸線方向長さの両端部を除き概ね平滑になされるが、図3のガイドローラ1の摺動層7の摺動面70は、中央部付近で最も径方向の外側に突出した全体として凸状の曲面になされることである。その他の構成は図1と同じであり、同様の作用効果を有する。
【0036】
上記に説明したガイドローラ1について、製造工程に沿って以下に詳細に説明する。
(1)予め、所定形状に加工した外輪、内輪、ベアリングを準備する。内輪および外輪は、軸受鋼(SUJ−2)等のFe合金から作製できる。また、内輪および外輪の軌道部には、高周波焼入れ処理を施すことにより、支持軸(図示しない)にかしめ固着し易くするとともに、ベアリングとの摩擦摩耗に対する耐久性を有するように構成できる。
【0037】
(2)合成樹脂原材料粒の準備
合成樹脂の原材料としてはナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンおよびポリエーテルイミドのうちから選ばれる1種以上からなるものを用いることができる。任意で、合成樹脂の繊維状粒子を分散できるが、その場合は、繊維状粒子の原材料としては、例えば人為的に造成した無機繊維粒子(ガラス繊維粒子、セラミック繊維粒子など)や有機繊維粒子(炭素繊維粒子、アラミド繊維、アクリル繊維粒子、ポリビニルアルコール繊維粒子など)を用いることができる。
【0038】
(3)摺動層の製造
ガイドローラの摺動層は、上記原材料等から、射出成形機を用いて、「型締め」、「射出」、「冷却」の工程を経て、外輪の外周面に被覆する。
【0039】
「型締め」
シリンダーにホッパーから合成樹脂粒、およびその他の任意材料(繊維状粒子原材料、固体潤滑剤、充填材等)の原材料を投入し、シリンダー内を190℃〜300℃の温度で加熱しながら、シリンダー内でスクリューが回転して、これらの合成樹脂等の材料を溶融混練する。この際、シリンダー内のスクリュー前部に所定量(製品に必要な量)の樹脂が溜められる。
【0040】
「供給(射出)」
シリンダー内のスクリューから押し出された一定量の合成樹脂を、予めセットした外輪の外周面を覆うように金型に供給(射出)する。この際、100〜120MPaと高めの射出圧力で供給(射出)を行い、金型に所定量の樹脂を充填した後は、30〜70MPaで保圧制御を行う。なお、溶融樹脂はスプルー、ランナー、ゲートを経て金型に供給されるが、本発明ではゲートにフィルムゲート方式を用いる。
【0041】
「冷却」
金型温度は、シリンダー内の温度よりも約75℃〜175℃低く(125℃〜135℃)設定し、合成樹脂を冷却時間60秒〜70秒と長く冷却を行う。金型の金型壁内部には、合成樹脂の冷却のために冷却流体通路が形成されている。スクリューから金型に供給(射出)された溶融状態の合成樹脂は、冷却により、次第に粘度が高くなって固化が始まり、外輪の外周面が合成樹脂で覆われた形状で取り出される。摺動面から外輪までの合成樹脂の厚さの寸法の一例としては0.5〜6mmである。
【0042】
(4)組み付け工程
摺動層を被覆した外輪を、リング状の内輪に、複数のベアリングを保持するリテーナを介して回転可能になるように組み付け、外輪と内輪をシールリングで密閉してガイドローラを作製する。
【0043】
(5)組織制御
(結晶化度の制御)
次に、摺動層の合成樹脂の結晶化度の制御方法について説明する。結晶化度とは、結晶性を有する樹脂における、結晶部分の割合を表す。結晶性を有する樹脂は、高分子鎖が規則正しく配列している状態(結晶状態)をとるとされるが、実際には結晶状態と、高分子鎖が糸玉状になったり絡まったりしている状態(非晶状態)が混在している。結晶性を有する樹脂において、この結晶状態の占める割合を、一般的には結晶化度と呼ぶ値で表す。通常は、結晶性を有する樹脂は、溶融状態から急冷すると結晶化度は低くなり、逆に溶融状態から徐冷すると結晶化度は高くなる。
【0044】
結晶化度の制御は、上記のガイドローラの摺動層の製造工程中の冷却工程において金型温度を従来よりも高くし、かつ冷却時間を従来よりも長くすることにより行う。具体的には、金型温度はシリンダー内の温度よりも約75℃〜175℃低く(125℃〜135℃)設定し、かつ冷却時間を60秒〜70秒と長く冷却を行う。これに対して、従来は、金型温度の設定温度はシリンダー内の温度よりも約140℃〜250℃低く(50℃〜60℃)し、冷却時間を15秒〜25秒と短く行なっていた。
【0045】
金型へ溶融樹脂が供給されると固化が開始するが、従来の温度設定および冷却時間に対して、本発明では金型温度が高く冷却時間が長いために、供給金型の壁面に接触するシートの表面付近の合成樹脂は、温度が高い状態から徐冷が行われる。他方、シートの中央部の合成樹脂の温度も、上面付近および下面付近の合成樹脂の温度と同様に高い状態から長い時間をかけて冷却が行われるため、表面付近と同様に徐冷となる。そのために、ガイドローラ(の外輪の外周面)の中央部の合成樹脂と、表面付近の合成樹脂の結晶化度の差がほぼ無くなる。
【0046】
従来技術では、金型の温度をシリンダー内の温度よりも約125℃〜290℃低く(50〜60℃)設定し、かつ冷却時間を15秒〜25秒と短く設定するために、金型の壁面に接触する樹脂の表面付近では急冷が行われ、中央部では徐冷が行われる。そのために、結晶化度は、ガイドローラの外輪の外周面の表面付近に対して中央部の方が高くなる。(実施例の比較例13参照)
【0047】
(ナノインデンター硬さの制御)
ナノインデンター硬さの制御は、上記のガイドローラの摺動層の製造工程中の「射出」のゲート構造において、フィルムゲートで行う。フィルムゲートとは、成形品の幅に沿って一方向から樹脂を供給(射出)させる方式であり、通常はフィルム等の薄肉品に主に適用される方式である。溶融樹脂が一方向から金型に供給(射出)されることで、金型壁面及び外輪面に接触して流れる樹脂の配向性(乱れが起こり易い)に対して、中央部を流れる樹脂は、接触する面を有しないために、樹脂の配向性が整い易くなる。そのために、ガイドローラ(の外輪の外周面)の中央部の合成樹脂は、摺動面付近及び外輪面付近の合成樹脂と比較してナノインデンター硬さが高くなる。なお、樹脂の配向性とは、射出方向に対して、合成樹脂の分子が異方的に配列することを指す。
【0048】
従来技術では、生産性を加味して、例えば3点ゲートを採用しているために、各ゲートから流れる樹脂同士が金型内でぶつかり合う。それにより、ぶつかり合う箇所で、樹脂の配向性が等方的となった脆弱なウエルドラインが、摺動面の厚み方向に対して平行方向に摺動層に発生する。この脆弱なウエルドラインに、局部的な負荷が加わる場合、その箇所を起点として、摺動層の表面に割れ(クラック)および摩耗が発生しやすくなる。
【0049】
(6)結晶化度の測定方法
合成樹脂の結晶化度は、DSC(示差走査熱量計)を用いて、合成樹脂の結晶化に起因する発熱ピーク熱量及び結晶融解に起因する吸熱ピーク熱量を測定し、以下の計算式(1)により算出した。なお、100%結晶融解吸熱ピーク熱量は、合成樹脂が100%結晶状態であると仮定した場合の結晶融解に伴う吸熱ピーク熱量を示す。
結晶化度(%)=[(結晶融解に伴う吸熱ピーク熱量J/g)−(結晶生成に伴う発熱ピーク熱量J/g)]/100%結晶融解吸熱ピーク熱量(J/g)×100 (1)
【0050】
(7)ナノインデンター硬さの比率の測定方法
合成樹脂のナノインデンター硬さ(MPa)の比率は、ナノインデンターを用いて、
試験力を1mN、試験力到達時間、保持時間、除荷時間を各10秒に設定し、先端形状がダイヤモンドチップから成る正三角錐バーコビッチ圧子を使用して、合成樹脂の各領域に圧子を押し込み深さ1μmまで押し込み、その時の圧子が押し込まれた際の硬度(MPa)を任意にて各5点の箇所を測定して比率を求めた後、平均値を算出した。
【実施例】
【0051】
本発明によるガイドローラの実施例1〜10および比較例11〜16を以下に示すとおり作製した。各摺動層の組成は、表1に示すとおりである。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例1〜10および比較例11〜16の摺動層の原材料である合成樹脂(PA66ナイロン66、POMポリアセタール、PEポリエチレン)粒子は、平均粒径が10μmであるものを用いた。実施例7〜9の原材料として用いた繊維状粒子(ガラス繊維)は粒子の平均粒径が、原材料である合成樹脂の平均粒径に対して80%のものを用い、実施例8、9の原材料として用いた固体潤滑剤(Gr)の粒子は、粒子の平均粒径が合成樹脂粒子の平均粒径に対して25%のものを用いた。また実施例9の原材料として用いた充填材(CaF)の粒子は、粒子の平均粒径が合成樹脂粒子の平均粒径に対して25%のものを用いた。
【0054】
上記の原材料を表1に示す組成比率で秤量し、この組成物を予めペレット化した。このペレットをホッパーに投入し、順に型締め、射出、冷却工程を通して、ガイドローラの外輪の外周面に合成樹脂を被覆させた。なお、
実施例1、4、7〜10では、シリンダー温度を280℃、金型温度を110℃、冷却時間を70秒、
実施例2、5では、シリンダー温度を185℃、金型温度100℃、冷却時間60秒、
実施例3、6では、シリンダー温度を150℃、金型温度110℃、冷却時間70秒、
比較例11ではシリンダー温度を290℃、金型温度50℃、冷却時間70秒、
比較例12ではシリンダー温度を260℃、金型温度110℃、冷却時間30秒、
比較例13では従来の温度及び冷却条件にて、シリンダー温度を280℃、金型温度60℃、冷却時間15秒、
比較例14ではシリンダー温度を290℃、金型温度110℃、冷却時間15秒、
比較例15ではシリンダー温度を260℃、金型温度100℃、冷却時間15秒、
比較例16ではゲートに従来の3点ゲート方式を用いてシリンダー温度を280℃、金型温度60℃、冷却時間25秒とした。
【0055】
次に、摺動層を被覆した外輪を、内輪と、複数のベアリングを保持するリテーナを介して内輪に回転可能になるように組み付け、外輪と内輪をシールリングで密閉してガイドローラを作製した。なお、実施例1〜9及び比較例11〜14の内輪および外輪はSUJ−2を用いたが、実施例10は内輪および外輪にSUJ−3を用いた。作製した実施例1〜10および比較例11〜14のガイドローラの外径(直径)は20mmであり、外輪の外周面の外径(直径)は15mmであり、軸線方向幅が7mmであった。また、摺動層の厚さは6mmであった。
【0056】
作製した実施例および比較例のガイドローラの摺動層について、上記に説明した測定方法により、摺動面側領域、中間領域、界面側領域の各領域の合成樹脂の結晶化度の測定を行い、その結果を表1の「合成樹脂の結晶化度」欄に示した。また、中間領域と摺動面側領域との結晶化度の差、中間領域と界面側領域との結晶化度の差を算出し、その結果を表1の「結晶化度の差」欄に示した。
また、各摺動層について、上記に説明した測定方法により、摺動面側領域、中間領域、界面側領域の各領域の合成樹脂のナノインデンター硬さの測定を行ったあと、中間領域と摺動面側領域とのナノインデンター硬さの比率、中間領域と界面側領域とのナノインデンター硬さの比率を算出し、その結果を表1の「ナノインデンター硬さ比」欄に示した。
尚、比較例15の「合成樹脂の結晶化度」及び「結晶化度の差」及び「ナノインデンター硬さ比」は、前記で説明した、ウエルドライン以外の箇所を測定した値及び算出した値を示す。
【0057】
ガイドローラの摺動層の摺動面側領域、中間領域、界面側領域の区分方法は以下の通り行なった。
顕微鏡を用いて摺動層の断面を任意の倍率(50〜200倍)で観察して、摺動層の摺動面に垂直となる方向の厚さTを求めた。摺動面の任意の位置から外輪側へ向かって厚さTの25%の長さ(1/4×T)となる位置に、摺動面に対し平行な仮想線ULを描く。また、摺動層の外輪との界面となる面の位置から摺動面側へ向かって厚さTの25%の長さ(1/4×T)となる位置に、摺動面に対して平行な仮想線LLを描く。摺動層の摺動面から仮想線ULまでの間を摺動面側領域、摺動層の外輪との界面から仮想線LLまでの間を界面側領域、仮想線ULと仮想線LLとの間を中間領域とする。仮想線UL、LLを図2に点線で示す。なお、外輪の外周面に凹凸を有する場合には、摺動層と外輪との界面は、撮影画像中で外輪の外周面の最も摺動面側に近くに位置する凸部の頂部を通り摺動面に対し平行な仮想線とする。
【0058】
上記の方法で区分した摺動面側領域、中間領域、界面側領域の各領域から、結晶化度の測定サンプルを採取した。採取は、摺動層の断面を顕微鏡等を用いて観察しながら、合成樹脂の切除片を、測定可能な規定量である5mg採取した。合成樹脂の結晶化度は、既に説明したとおり、DSCを用いて(1)式から求めた。
【0059】
また、上記の方法で区分した摺動面側領域、中間領域、界面側領域の各領域のナノインデンター硬さは、既に説明したとおり、ナノインデンターを用いて摺動層の各領域の断面を付帯の顕微鏡で観察しながら、各5点の箇所の硬さの測定を行ったのち、比率を算出して平均値を求めた。
【0060】
さらに、各実施例および各比較例のガイドローラを用いて、表2に示す条件で摺動試験を行った。各実施例および各比較例の摺動試験後の摺動層の摩耗量を表1の「摩耗量(μm)」欄に示す。また、各実施例および各比較例は、摺動試験後の摺動層の表面の複数箇所を粗さ測定器を用いて傷の発生の有無を評価した。表1の「割れの発生有無」欄に、摺動面に深さが5μm以上の傷が測定された場合には「有」、測定されなかった場合には「無」と示した。また、各実施例および各比較例の回転摺動試験後の摺動層を摺動面に対して垂直に切断し、摺動層と外輪の界面の「せん断」の発生の有無を光学顕微鏡で確認した。界面の「せん断」が確認された場合には「有」、確認されなかった場合は「無」とし、表1の「界面のせん断の有無」欄に示した。なお、摺動試験は、ガイドロ−ラを特許文献1の図3に示されるように、支軸を10°傾けて摺動させた(表2の傾斜角)。
【0061】
【表2】
【0062】
表1に示す結果から分かるとおり、実施例1〜10は、比較例11〜16に対して、摺動試験後の摺動層の摩耗量が少なくなった。さらに、実施例4〜9は、摺動層の中間領域の合成樹脂の結晶化度X2と摺動面側領域の合成樹脂の結晶化度X1の差(X2−X1)及び中間領域の合成樹脂の結晶化度X2と界面側領域の合成樹脂の結晶化度X3の差(X2−X3)が3%未満となり、摩耗量が特に少なくなった。この理由は、上記で説明したように、負荷が加わる場合の摺動面側領域と中間領域の合成樹脂の変形速度が同じである効果である。
【0063】
さらに、実施例1〜10では、摺動試験後の摺動層表面の割れ発生および界面のせん断発生がなかったが、これも既に説明したように、中間領域の合成樹脂の結晶化度X2と摺動面側領域の合成樹脂の結晶化度X1の差(X2−X1)及び中間領域の合成樹脂の結晶化度X2と界面側領域の合成樹脂の結晶化度X3の差(X2−X3)による効果と、中間領域の合成樹脂のナノインデンター硬さY2と摺動面側領域の合成樹脂のナノインデンター硬さY1、および界面側領域の合成樹脂のナノインデンター硬さY3の比率による効果である。
【0064】
これに対し、比較例11〜14は、摺動層の中間領域の結晶化度が摺動面側領域、界面側領域の結晶化度よりも高くなった。そのため、摺動面の表面に割れが発生し、摺動層と裏金の界面でせん断が発生しやすくなり、結果的に摺動層の摩耗が起きやすくなり、摩耗量が多くなった。
【0065】
比較例15は、摺動層の各領域の結晶化度の差はほぼ無いものの各領域のナノインデンター硬さもほぼ同じであった。そのため、摺動面に加わる負荷が、裏金の界面まで伝播してせん断が発生しやすくなり、結果的に摺動層の摩耗が起きやすくなり、摩耗量が多くなった。
【0066】
比較例16は、供給(射出)に従来の3点ゲートを用いて、金型温度を60℃、冷却時間を25秒に設定したが、摺動層に脆弱なウエルドラインが発生した。このために、ウエルドラインが起点となり、摺動層で割れが発生して、摩耗量が多くなったと考えられる。
【符号の説明】
【0067】
1 ガイドローラ
2 内輪
3 ベアリング
4 リテーナ
5 外輪
6 合成樹脂
7 摺動層
8 シールリング)
9 界面
10 鍔部
70 摺動面
71 摺動面側領域
72 中間領域
73 界面側領域
図1
図2
図3