(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年の炊飯器は、電磁誘導加熱式が主流となっている。電磁誘導加熱に対応した内釜は、熱伝導性の良いアルミ等の非磁性体基材の外面を、誘導加熱可能な磁性材料で覆ったものが多い。そして、内釜底部に対向して設けた誘導加熱コイルにより、内釜外面の磁性材料を誘導加熱し、磁性材料の発熱をアルミ等の基材に伝えることで、内釜内部に強い対流を得て炊飯するのが一般的である。このように、磁性材料と非磁性材料を張り合わせた構造の内釜として、特許文献1や特許文献2に記載されたものがある。
【0003】
特許文献1では、同文献の
図1〜
図7等に示す様に、内釜の内側底部に中心軸を中心として多数の小凹部が配列され、この小凹部領域の大きさを内側底部及び湾曲部の合計領域の約2割程度としている。
【0004】
また、特許文献2では、同文献の
図3〜
図7等に示す様に、鍋の内側底部に、米の粒径よりも小さい幅または直径を有する複数の凹部を形成している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2の内釜では、凹部は底面の中心から内釜底面の外周部まで一様に配置されている。すなわち、凹部は加熱コイルの対向部にも、対向部以外にも一様に配置されている。
【0007】
ここで、電磁誘導加熱を用いて内釜を加熱する場合、誘導磁界は加熱コイルの対向部近傍に集中することから、特許文献1や特許文献2の構成では、内釜の中心部分や内釜端部等の加熱コイル対向部以外の部分に形成された凹部は沸騰泡を発生させる効果が小さい。
【0008】
また、特許文献1や特許文献2の構成では、内釜底面の全体に凹部を設けているため、内釜底面の全体に亘り熱容量が小さくなっており、炊飯を開始してから沸騰が始まる迄の約10〜15分の間は、内釜底面の全体が一様に温度上昇し、内釜底面の温度分布に差があると促進される対流の発生はあまり期待できない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の炊飯器は、非磁性体基材の外面を磁性層で覆った内釜と、該内釜を誘導加熱する加熱コイルと、を備えた炊飯器であって、前記内釜の非磁性体基材は、前記加熱コイルに対向する部位を
前記加熱コイルの幅と等しい幅の環状の薄肉部とし、前記加熱コイルに対向しない部位を厚肉部とすることで、前記内釜の内面に前記加熱コイルと略同形状の凹部を設け
た。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、沸騰前の対流発生の促進と、沸騰後の沸騰泡の発生の促進を両立させることができる炊飯器を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1の炊飯器の基本構成を示す断面図である。
【
図2】実施例1の内釜の内面形状を示す鳥瞰断面図である。
【
図3】実施例1における内釜と加熱コイルの関係の模式図である。
【
図4】実施例2における内釜と加熱コイルの関係の模式図である。
【
図5】実施例3における内釜と加熱コイルの関係の模式図である。
【
図6】実施例4の内釜の内面形状を示す鳥瞰断面図である。
【
図7】実施例4における内釜と加熱コイルの関係の模式図である。
【
図8】実施例4における内釜と加熱コイルの関係の模式図である。
【
図9】実施例4における内釜と加熱コイルの関係の模式図である。
【
図10】実施例5の内釜の内面形状を示す鳥瞰断面図である。
【
図11】実施例5における内釜と加熱コイルの関係の模式図である。
【
図12】実施例5における内釜と加熱コイルの関係の模式図である。
【
図13】実施例5の内釜の内面形状を示す鳥瞰断面図である。
【
図14】実施例6の内釜の内面形状を示す鳥瞰断面図である。
【
図15】実施例7の内釜の内面形状を示す鳥瞰断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の実施例1における炊飯器100の基本構成を示す断面図である。この炊飯器100は、内釜1と、内釜1を誘導加熱する加熱コイル2と、商用の交流電源6から入力された電力を加熱コイル2に供給するインバータ5と、加熱コイル2から生じた磁束を内釜1に導く棒状フェライト等の磁性体3と、磁束を遮るアルミ等のシールド板4を備える。これらのうち、内釜1は、熱伝導性の良いアルミ等の非磁性体基材の外面を、誘導加熱可能な磁性材料の薄層で覆ったものであり、加熱コイル2から発生した交流磁束が印加されることで渦電流が発生し、自身の電気抵抗により発熱するものである。なお、基材の外面に形成される磁性層は、基材に鉄等の磁性材料を溶射またはコールドスプレーすることにより形成しても良いし、磁性材料の薄板を張り付けて形成しても良い。
【0014】
図2は、主に内釜1の内面形状を示す鳥瞰断面図であり、内釜1、加熱コイル2、磁性体3、シールド板4の構造を示したものである。内釜1の基材となる非磁性体11は、加熱コイル2に対向する直上部に環状の薄肉部11aを設け、その他の部分を厚肉部11bとした。なお、
図2に示すように、複数の磁性体3は、加熱コイル2の中央部から放射状に配置される。
【0015】
図3は、
図2に図示したA−B間断面における内釜1、加熱コイル2の関係を模式的に示したものである。ここに示すように、内釜1は、基材である非磁性体11と、その外面を覆う磁性層12で構成され、非磁性体11は、薄肉部11aと厚肉部11bとで構成される。加熱コイル2に図示した方向に電流が流れた場合、加熱コイル2から反時計回りの主磁束φが生じ、磁性層12に鎖交する。その結果、磁性層12内には図示した方向に誘導電流が流れ磁性層12が発熱する。この時、磁性層12内部の加熱コイル中心部近傍は、加熱コイル直上の端部より多くの磁束が鎖交するため、より多くの誘導電流が流れる。その結果、加熱コイル中心部の方が加熱コイル端部より多く発熱する。磁性層12で生じた熱は非磁性体11を伝達した後被加熱物に伝達される。ここで、磁性層12で生じた熱が被加熱物に伝達する経路の熱抵抗θは、伝達経路の距離L、伝達経路の断面積A、熱伝導率λを用いて次の式1で表される。
【0016】
θ=L/Aλ・・・(式1)
ここで、熱伝導率λは材料固有の値であることから、熱抵抗θは距離L、断面積Aに依存していることが分かる。即ち、熱抵抗を低減させるためには、距離Lを短くするか断面積Aを大きな値とすることが有効である。
図3に示した様に、加熱コイル直上の被加熱物に熱が伝達する経路thの熱抵抗を低減させるためには、非磁性体11の厚さt
aを薄くし、Lを短くすることが有効である。
【0017】
本実施例では、被加熱物に熱が伝達する経路th上の熱抵抗を低減させるために、加熱コイル直上の非磁性体11の厚さt
aを他の部分より薄くし(薄肉部11a)、内釜1自体の強度を一定値以上確保する程度に非磁性体11の厚さt
bをt
aより厚くした(厚肉部11b)。なお、薄肉部の厚さt
aと厚肉部の厚さt
bは非磁性体11の材料に応じて設定すればよいが、例えば、薄肉部の厚さt
aを1mmとし、厚肉部の厚さt
bを5mmとしても良いし、薄肉部の厚さt
aを厚肉部の厚さt
bの半分以下としても良い。
【0018】
これにより、従来内釜中心近傍に薄肉部を配置した構成に比べ、加熱コイル2の対向部のみ熱容量を小さくすることができ、炊飯開始から沸騰が始まるまでの約10分から15分の間は、加熱コイル2の対向部と他の部分との温度差を大きくすることができ、対流を大きくすることができる。また、沸騰が始まった後は、薄肉部11aにて、従来よりも強力な沸騰泡を生じさせることが可能となる。これらの結果、本実施例の炊飯器を用いることで、従来よりも炊飯時間の短縮化や消費電力の抑制を達成することができる。
【実施例2】
【0019】
次に、
図4を用いて実施例2の内釜1を説明する。なお、実施例1との共通点は重複説明を省略する。実施例1では、加熱コイル直上部の薄肉部11aの厚さを一定としたが、本実施例では、薄肉部11aの厚さを場所によって変えている。
【0020】
図4に、本実施例における内釜1の断面図を示す。尚、
図4中の記号A、Bはそれぞれ
図2に示すA、Bに対応している。実施例2の内釜1では、加熱コイル中心部の非磁性体11の厚さt
a2が、加熱コイル端部の非磁性体11の厚さt
a1よりも厚いことを特徴としている。先に述べた通り、磁性金属内部の内、加熱コイル中心部の方が加熱コイル端部より多く発熱する。そこで、t
a2をt
a1よりも厚くすることで加熱コイル中心部の熱抵抗が、加熱コイル端部の熱抵抗よりも高くなり、加熱コイル直上部の温度差を低減することが可能となるため、実施例1の構成で得られる効果に加え、沸騰後の加熱ムラが低減するという効果も得ることができる。
【実施例3】
【0021】
次に、
図5を用いて実施例3の内釜1を説明する。なお、上述の実施例との共通点は重複説明を省略する。実施例1、2では、薄肉部11aの幅を加熱コイル2の幅と等しくしたが、実施例3では、薄肉部11aの幅を加熱コイル2の幅よりも狭めている。
【0022】
図5に、本実施例における内釜1の断面図を示す。尚、
図5中の記号A、Bはそれぞれ
図2に示すA、Bに対応している。実施例3の内釜1では、加熱コイル端部と薄肉部11aとの間に、幅W厚さt
a2の立ち上がり部を設ける。沸騰泡が生じやすい加熱コイル中心部のみを薄くすることで、強力な沸騰泡を得つつ内釜1の強度を向上させることが可能となる。尚、t
a2はt
a1〜t
bの間の範囲であれば任意の値で良く、一定値に限定されるものではない。
【実施例4】
【0023】
次に、
図6〜
図9を用いて実施例4の内釜1を説明する。なお、上述の実施例との共通点は重複説明を省略する。上述の実施例では、加熱コイル直上部に、薄肉部11aのみを設ける構成としたが、実施例4では、加熱コイル直上部に、薄肉部11aと厚肉部11bの双方を設ける構成としている。
【0024】
図6は、本実施例における、内釜1、加熱コイル2、磁性体3、シールド板4の構造を示した鳥瞰図である。本実施例において内釜1は、加熱コイル上に、薄肉部11aと厚肉部11bを設け、各々を同心円状に配置されたものである。尚、ここでは、厳密に同心円でなくとも、幾重にも同じ中心が囲まれている物を同心円と呼ぶ。
【0025】
図7に本実施例における内釜1の断面図を示す。尚、
図7中の記号A、Bはそれぞれ
図6に示すA、Bに対応している。
図7に示す様に、薄肉部11aと厚肉部11bが、内釜中心より交互に配置されている。尚、この時、加熱コイル中心近傍の薄肉部の厚さt
a2と、加熱コイル端部近傍の薄肉部の厚さt
a1とを変えることで、実施例2で説明した原理により加熱コイル直上部の加熱ムラが低減する。
【0026】
図8に、本実施例における変形例1を示す。
図7では、薄肉部11aの凸部の厚さを、厚肉部11bの厚さt
bと等しくしているが、
図8では、薄肉部11aの凸部の厚さt
a3を厚肉部11bの厚さt
bとより小さくした。これにより、内釜1の強度と発熱効率を自在に調整することができる。
図9に、本実施例における変形例2を示す。
図7では、薄肉部11aの凸部と凹部の密度を均一にしたが、
図9では密度を加熱コイル中心部と加熱コイル端部とで変える構成とした。これにより、実効的な非磁性体11の厚さを変えるのと等価な効果を得ることができるため、変形例1と同様の効果を得る。
【実施例5】
【0027】
次に、
図10、
図11を用いて実施例5の内釜1を説明する。なお、上述の実施例との共通点は重複説明を省略する。実施例1等では加熱コイル2の対向部に薄肉部11aを設ける構成を示したが、実施例5では、磁性体3の直上部のみに薄肉部11aを設ける構成とした。
【0028】
図10は、本実施例における、内釜1、加熱コイル2、磁性体3、シールド板4の構成を示した鳥瞰図である。本実施例において内釜1は、磁性体3の直上部に薄肉部11aを、その他の部分に厚肉部11bを設けた。なお、
図10に示すA−B間断面は、
図3〜
図5、
図7〜
図9に示す何れの形状でも良い。
【0029】
図11に、本実施例における内釜1のC−D間断面図を示す。尚、
図11中の記号C、Dはそれぞれ
図10に示すC、Dに対応している。上述したように、磁性体3は、加熱コイル2から生じた磁束を内釜1に導くために設けたものであるため、加熱コイル直上の内、磁性体3の直上は特に加熱コイル2から生じた磁束が集中する。従って、磁性体3直上部の部位は、磁性体3直上部以外の部位より多く発熱するため、磁性体3上のみ薄肉部11aを形成し、磁性体3直上部以外の部分を厚肉部11bとすることで、実施例1に示した原理により強力な沸騰泡を生じさせることができる。
【0030】
図12に、本実施例における内釜1の変形例を示す。
図12に示す様に、磁性体中心部の厚さt
a2を磁性体端部の厚さt
a1よりも厚くすることで磁性体中心部の熱抵抗が、磁性体端部の熱抵抗よりも高くなり、磁性体直上部の温度差を低減することが可能となり、加熱ムラが低減する。
【0031】
以上述べた様に、本実施例では磁性体3の直上部に薄肉部を設ける。尚、
図13に示す様に、実施例1〜4と実施例5を組み合わせ、加熱コイル直上部と磁性体直上部の双方に薄肉部11aを設けた構成としても良い。
【実施例6】
【0032】
次に、
図14を用いて実施例6の内釜1を説明する。なお、上述の実施例との共通点は重複説明を省略する。実施例5では、磁性体3直上部の部位にのみ薄肉部11aを設けたが、実施例6では、磁性体3直上部の薄肉部11aを内釜中央まで延長させている。
【0033】
図14には、本実施例における、内釜1、加熱コイル2、磁性体3、シールド板4の構成を示した鳥瞰図である。本実施例では、加熱コイル2の直上に形成された薄肉部11aを、内釜中心部まで延長させた構成である。内釜中心部は、加熱コイル2の直上の磁性層12内部で生じた熱が、非磁性体11に伝達することで加熱される。そのため、
図14に示す様に、加熱コイル2の直上から内釜中心への熱伝達経路を確保することで、実施例1〜5に記した構成に比べて内釜内面中心の温度が上昇し、内釜内面の加熱ムラが低減する。尚、
図14に示す様に、内釜中心への熱伝達経路を、実施例5に示した磁性体3の直上に形成することで、内釜中心の発熱がより促進されるが、必ずしも磁性体3の直上に設ける必要は無い。
【実施例7】
【0034】
次に、
図15を用いて実施例7の内釜1を説明する。なお、上述の実施例との共通点は重複説明を省略する。上述の実施例では、内釜底部にのみ加熱コイル2を設ける構成であったが、実施例7では、内釜底部の他に、内釜側面にも加熱コイル2を配置している。
【0035】
図15は、本実施例における、内釜1、加熱コイル2、磁性体3、シールド板4の構成を示した鳥瞰図である。本実施例では、内釜側面にも加熱コイル2を配置した点が実施例1〜5と異なる。側面に加熱コイルを配置した場合、水面付近を加熱できることから釜内部全体を加熱でき炊きムラをより抑制することができる。本実施例では、該側面に配置した加熱コイル2と対向する部分にも、非磁性体11の厚さを対向しない部分に比べて薄い薄肉部11aを設けることで水面近傍の加熱にも有効である。
【0036】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。