特許第6862318号(P6862318)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862318
(24)【登録日】2021年4月2日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】内燃機関のクランク軸用主軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 9/02 20060101AFI20210412BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   F16C9/02
   F16C17/02 Z
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-172486(P2017-172486)
(22)【出願日】2017年9月7日
(65)【公開番号】特開2019-49272(P2019-49272A)
(43)【公開日】2019年3月28日
【審査請求日】2020年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 志歩
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 康志
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−191420(JP,A)
【文献】 特開2010−196871(JP,A)
【文献】 特開2015−42890(JP,A)
【文献】 特開2016−145616(JP,A)
【文献】 特開2015−152104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 3/00− 9/06
F16C 17/00−17/26
F16C 33/00−33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸のジャーナル部であって、円筒胴部と、前記円筒胴部を貫通して延びる潤滑油路と、前記円筒胴部の外周面上に形成された前記潤滑油路の少なくとも1つの入口開口とを有しているジャーナル部を回転自在に支持するための主軸受であって、
前記主軸受は、それぞれの周方向端面同士を突き合わせることによって円筒形状に組み合わされる第1および第2の半割軸受を有し、
前記第1および第2の半割軸受は、組み合わされたとき、それぞれの突合せ部分の内周面側に、前記主軸受の軸線方向全長に亘って延びる軸線方向溝を共に形成するように構成され、
前記第1および第2の半割軸受は、該半割軸受の周方向中央部を含む主円筒部と、前記主円筒部よりも壁厚が薄くなるように該半割軸受の周方向両端部に軸線方向全長に亘って形成されたクラッシュリリーフ部とを有し、
前記第1の半割軸受の内周面に、油溝が形成され、該油溝のクランク軸の回転方向の後方側の周方向端部は、前記第1の半割軸受のクランク軸の回転方向の後方側のクラッシュリリーフ部に位置し、クランク軸の回転方向の前方側の周方向端部は、クランク軸の回転方向の前方側のクラッシュリリーフ部に位置するか、または、前記第1の半割軸受のクランク軸の回転方向の前方側の周方向端面に開口し、
前記第2の半割軸受の内周面に、部分溝が形成され、該部分溝は、前記第2の半割軸受の2つの周方向端面のうち、クランク軸の回転方向の前方側の周方向端面にのみ開口し、
前記油溝と前記部分溝の溝幅中心が互いに整合し、前記第2の半割軸受のクランク軸の回転方向の前方側の周方向端面における前記部分溝の開口は、前記第1の半割軸受のクランク軸の回転方向の後方側の周方向端面によって遮蔽されることを特徴とする主軸受。
【請求項2】
前記部分溝が、前記第2の半割軸受の前記クランク軸の回転方向の前方側の周方向端面から円周角θ1(ただし、円周角θ1の最小値=5°、円周角θ1の最大値=45°)の範囲に形成されていることを特徴とする請求項1に記載された主軸受。
【請求項3】
前記油溝のクランク軸の回転方向の後方側の周方向端部は、前記第1の半割軸受のクランク軸の回転方向の後方側の周方向端面から円周角θ2(ただし、円周角θ2の最小値=2°、円周角θ2の最大値=7°)の範囲に位置することを特徴とする請求項1または請求項2に記載された主軸受。
【請求項4】
前記部分溝の第2の半割軸受のクランク軸の回転方向の前方側の周方向端面における溝深さ(D2)は、0.3〜1.5mmであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された主軸受。
【請求項5】
前記部分溝の第2の半割軸受のクランク軸の回転方向の前方側の周方向端面における前記部分溝の溝幅(W2)は、前記油溝のクランク軸の回転方向の後方側の周方向端部の位置での溝幅(W1)よりも大きいことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された主軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、内燃機関のクランク軸を支承するための主軸受に関するものである。
【0002】
内燃機関のクランク軸は、そのジャーナル部において、一対の半割軸受から成る主軸受を介して内燃機関のシリンダブロック下部に支承される。主軸受に対しては、オイルポンプによって吐出された潤滑油が、シリンダブロック壁内に形成されたオイルギャラリーから主軸受の壁に形成された貫通口を通じて、主軸受の内周面に沿って形成された油溝内に送り込まれる。また、ジャーナル部の直径方向には第1潤滑油路が貫通形成され、この第1潤滑油路の両端開口が主軸受の油溝と連通するようになっている。さらに、ジャーナル部の第1潤滑油路から、クランクアーム部を通る第2潤滑油路が分岐して形成され、この第2潤滑油路が、クランクピンの直径方向に貫通形成された第3潤滑油路に連通している。このようにして、シリンダブロック壁内のオイルギャラリーから貫通口を通じて主軸受の内周面に形成された油溝内に送り込まれた潤滑油は、第1潤滑油路、第2潤滑油路および第3潤滑油路を経て、第3潤滑油路の末端に開口した吐出口から、クランクピンとコンロッド軸受の摺動面間に供給される(例えば特許文献1参照)。
【0003】
シリンダブロック壁内のオイルギャラリーから主軸受の油溝に送られる潤滑油は、例えば各部品の加工の際に生じた残留異物を随伴する可能性がある。この異物は、ジャーナル部と主軸受の間の摺動面およびクランクピンとコンロッド軸受の間の摺動面に損傷を与える恐れがあり、したがって潤滑油の流れから速やかに外部に排出する必要がある。
【0004】
そこで、主軸受を構成する一対の半割軸受のうちの一方の半割軸受の内周面に沿って形成される油溝の周方向端部を半割軸受の内周面の周方向両端部に形成したクラッシュリリーフ部や軸線方向溝と連通させることで、油溝内に侵入した異物をクラッシュリリーフ部の隙間や軸線方向溝を介して主軸受の外部へ排出する主軸受が提案されている(特許文献2、3)。
【0005】
なお、クラッシュリリーフは、半割軸受の周方向端面に隣接する領域の壁厚を周方向端面に向かって薄くなるように形成することによって、支承する軸との間に形成される隙間領域であり(例えばSAE J506(項目3.26および項目6.4)、DIN1497(セクション3.2)、JIS D3102参照)、一対の半割軸受を組み付けた状態における、半割軸受の突合せ面の位置ずれや変形を吸収する事を企画して形成される(例えば特許文献2参照)。
【0006】
内燃機関用すべり軸受に対する潤滑油の供給については、まず、クランク軸ジャーナル部用主軸受の外部から該主軸受の内面に形成された油溝内に供給され、その潤滑油がクランク軸ジャーナル部用主軸受の摺動面、および、クランクピン用コンロッド軸受の摺動面に供給される。
内燃機関の運転時には、クランク軸ジャーナル部用主軸受の油溝に供給される潤滑油中に、潤滑油路内に残留した異物が混入しがちである。異物とは、油路を切削加工した時の金属加工屑や鋳造時の鋳砂等を意味する。この異物は、クランク軸の回転によって潤滑油の流れに付随し、従来の内燃機関用主軸受では、クランク軸の回転方向の前方側の軸受周方向端部領域に形成されるクラッシュリリーフや軸線方向溝を通じて潤滑油と共に排出される。
しかしながら、軸受の壁に形成された貫通口から油溝内に潤滑油とともに進入した異物は、軸受周方向端部領域のクラッシュリリーフや軸線方向溝に達する前に、ジャーナル部の第1潤滑油路の入口開口から第1潤滑油路内に潤滑油とともに進入してしまうものも多い。第1潤滑油路に進入した異物の一部は、再度、潤滑油とともに油溝に逆流するので早期に軸受の外部へ排出され難い。
【0007】
詳しくは、図16Aおよび16B、ならびに図17Aおよび17Bを用いて、従来技術の作用について説明する。図16Aおよび16Bに示すようにジャーナル部6の表面の潤滑油路6aの入口開口6cが下側の半割軸受142の主円筒面171に位置している間は、ジャーナル部6の表面と半割軸受142の主円筒面171との間の隙間が狭いので、入口開口6cは半割軸受142の主円筒面171に閉鎖され、クランク軸の回転による遠心力の影響により潤滑油路6a内の入口開口6c付近の潤滑油の圧力は極めて高い状態にある。
【0008】
図17Aおよび17Bに示すように、ジャーナル部6の表面の潤滑油路6aの入口開口6cとクラッシュリリーフ170とが連通を開始する瞬間、潤滑油路6a内部の潤滑油の圧力と、クラッシュリリーフ170およびジャーナル部6の表面の間の隙間(リリーフ隙間)内の潤滑油の圧力との差により、瞬間的に潤滑油路6aからリリーフ隙間側への油の噴射流(逆流)が一時的に形成される。
【0009】
その際、油の噴射流とともにリリーフ隙間へ進入した異物Fは、リリーフ隙間内を直進し、慣性力によって軸線方向溝177を通り越して、他方の半割軸受141の油溝141gに進入してしまう。このため、従来の主軸受は、異物が早期に軸受の外部へ排出され難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−277831号公報
【特許文献2】特開平4−219521号公報
【特許文献3】特開2005−69283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、異物排出性に優れた内燃機関のクランク用主軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本願発明の1つの観点によれば、
内燃機関のクランク軸のジャーナル部であって、円筒胴部と、前記円筒胴部を貫通して延びる潤滑油路と、前記円筒胴部の外周面上に形成された前記潤滑油路の少なくとも1つの入口開口とを有しているジャーナル部を回転自在に支持するための主軸受であって、
前記主軸受は、それぞれの周方向端面同士を突き合わせることによって円筒形状に組み合わされる第1および第2の半割軸受を有し、
前記第1および第2の半割軸受は、組み合わされたとき、それぞれの突合せ部分の内周面側に、前記主軸受の軸線方向全長に亘って延びる軸線方向溝を共に形成するように構成され、
前記第1および第2の半割軸受は、該半割軸受の周方向中央部を含む主円筒部と、前記主円筒部よりも壁厚が薄くなるように該半割軸受の周方向両端部に軸線方向全長に亘って形成されたクラッシュリリーフ部とを有し、
前記第1の半割軸受の内周面に、油溝が形成され、該油溝のクランク軸の回転方向の後方側の周方向端部は、前記第1の半割軸受のクランク軸の回転方向の後方側のクラッシュリリーフ部に位置し、クランク軸の回転方向の前方側の周方向端部は、クランク軸の回転方向の前方側のクラッシュリリーフ部に位置するか、または、前記第1の半割軸受のクランク軸の回転方向の前方側の前記周方向端面に開口し、
前記第2の半割軸受の内周面に、部分溝が形成され、該部分溝は、前記第2の半割軸受の2つの周方向端面のうち、クランク軸の回転方向の前方側の周方向端面にのみ開口し、
前記油溝と前記部分溝の溝幅中心が互いに整合し、
前記第2の半割軸受のクランク軸の回転方向の前方側の周方向端面における前記部分溝の開口は、前記第1の半割軸受のクランク軸の回転方向の後方側の周方向端面によって遮蔽されていることを特徴とする主軸受が提供される。
【0013】
上記主軸受にて、好適には、
前記部分溝が、前記第2の半割軸受の前記クランク軸の回転方向の前方側の周方向端面から円周角θ1(ただし、円周角θ1の最小値=5°、円周角θ1の最大値=45°)の範囲に形成されている。
【0014】
上記主軸受にて、好適には、
前記油溝のクランク軸の回転方向の後方側の周方向端部は、前記第1の半割軸受のクランク軸の回転方向の後方側の周方向端面から円周角θ2(ただし、円周角θ2の最小値=2°、円周角θ2の最大値=7°)の範囲に位置する。
【0015】
上記主軸受にて、好適には、
前記部分溝の第2の半割軸受のクランク軸の回転方向の前方側の周方向端面における溝深さ(D2)は、0.3〜1.5mmである。
【0016】
上記主軸受にて、好適には、
前記部分溝の第2の半割軸受のクランク軸の回転方向の前方側の周方向端面における前記部分溝の溝幅(W2)は、前記油溝のクランク軸の回転方向の後方側の周方向端部の位置での溝幅(W1)よりも大きい。
【0017】
(1)本発明によれば、主軸受は、第1および第2の半割軸受を有し、第1の半割軸受の内周面に、主軸受の外部から潤滑油が供給される油溝が形成され、該油溝の周方向両端部は、第1の半割軸受のクラッシュリリーフに位置し、第2の半割軸受の内周面に、第2の半割軸受の2つの周方向端面のうち、クランク軸の回転方向の前方側の周方向端面にのみ開口する部分溝が形成される。
図14Aおよび14Bに示すように、本願発明においても、ジャーナル部6の表面の潤滑油路6aの入口開口6cが第2の半割軸受42の主円筒面71(主円筒部の内面)に位置している間は、入口開口6cは第2の半割軸受42の主円筒面71に閉塞されるが、潤滑油路6a内の潤滑油は、クランク軸の回転による遠心力によって入口開口6c側へ向かって押圧されるために、特に内燃機関の運転でクランク軸の回転速度が大きいときには、潤滑油路6a内の入口開口6c付近の潤滑油の圧力は極めて高い状態にある。
図15Aおよび15Bに示すように、ジャーナル部6の表面の潤滑油路6aの入口開口6cと第2の半割軸受42の部分溝42gとが連通を開始する瞬間には、潤滑油路6a内部の潤滑油の圧力と、部分溝42g内の潤滑油の圧力との差によって、潤滑油路6aから部分溝42g内に瞬間的に噴出し逆流する高圧の潤滑油の噴射流が形成される。潤滑油路6aに混入した異物Fは、この潤滑油の噴射流により部分溝42gに進入する。部分溝42gに進入した異物Fは、部分溝42gの開口へ向かって流れる。このとき、潤滑油に対し比重が大きい異物Fは、遠心力の作用により部分溝42の溝底面に沿って流れる。
【0018】
油溝41gと部分溝42gの溝幅中心が互いに整合している。油溝41gは、クランク軸の回転方向の後方側の周方向端部43が第1の半割軸受41のクランク軸の回転方向の後方側クラッシュリリーフ部70に位置し、部分溝42gは、第2の半割軸受42のクランク軸の回転方向の前方側の周方向端面72のみに開口しており、油溝41gと部分溝42gとが互いに流体連通する関係にない。この構造では、互いに接触状態にある2つの周方向端面72に位置する部分溝42gの開口が、油溝41gを有する第1の半割軸受41の周方向端面72で塞がれる。したがって、開口の遮蔽構造が、部分溝42gの溝底に沿って開口まで移動してくる異物Fに対する障壁になり、異物Fの周方向移動速度が低下し、異物Fの直進運動の慣性力が低下する。
一方、第1の半割軸受41の周方向端面72と第2の半割軸受42の周方向端面72との突き合わせ接触界面に沿って、それら周方向端面72の軸受内周面側に位置する2つの角縁部に傾斜面76が形成されて、主軸受4の軸線方向幅全体に亘る軸線方向溝77が形成されている。この構造により、部分溝42gと、これに連通する軸線方向溝77に沿って流れる潤滑油に、周方向移動速度の低下した前記異物Fが付随し易く、異物Fが潤滑油と共に主軸受1の軸線方向端部から円滑に排出される。
【0019】
軸線方向溝77については、この横断面積を過大にすると、潤滑油の漏れ量が増大するため、異物Fの排出が可能な限りにおいて、可及的に横断面積を小さくすることが好ましい。具体的には、乗用車用等に搭載される小型内燃機関の場合には、軸線方向溝77の溝幅を、0.2mm〜1mm、溝深さを0.2mm〜1mmにすることが好ましい。ただし、油溝の幅や深さの寸法は内燃機関の仕様によって決まるものであり、この寸法に限定されない。
【0020】
(2)潤滑油に比して比重の大きな異物Fは、部分溝42g内を流体連通部へ移動する間、遠心力の作用で溝底に沿う。そのため、部分溝42gの上部領域(溝底に近い下部領域ではなく、クランク軸に近い側の上部領域)を流れる潤滑油中の異物量が少ない(図5参照)。この部分溝42gの上部領域を流れる異物量の少ない潤滑油は、第2の半割軸受42のクラッシュリリーフ部70の表面および第1の半割軸受41のクラッシュリリーフ部70の表面とクランク軸のジャーナル部6の表面との間の隙間を、周方向に直進して油溝41g内に円滑に流れるので、主軸受4からの潤滑油の漏れ量を低減できる。
以上は、油溝41gは、クランク軸の回転方向の後方側の周方向端部43が第1の半割軸受41のクランク軸の回転方向の後方側クラッシュリリーフ部70に位置し、部分溝42gは、第2の半割軸受42のクランク軸の回転方向の前方側の周方向端面72のみに開口しており、油溝41gと部分溝42gとが互いに流体連通する関係にない場合であるが、油溝41gと部分溝42gとが互いに流体連通する関係にある場合には、部分溝42gの溝底面に沿って移動する異物Fが、油溝41g内に送られ易い。また、油溝41gと部分溝42gとが互いに流体連通する関係にない場合であっても、本発明の主軸受4と異なって、部分溝42gに流体連通する軸線方向溝77が存在しない場合には、部分溝42gの開口(開放溝端)に到達した異物Fが第1の半割軸受41の油溝41g内に送られ易い。また、第1の半割軸受41の油溝41gのクランク軸の回転方向の後方側の周方向端部43が、第1の半割軸受41の主円筒面71に開口している場合や油溝41gと部分溝42gの溝幅中心が互いに整合していない場合には、部分溝42gの上部領域を流れる異物量の少ない潤滑油は、油溝41g内に円滑に流れなくなる、或いは、流れ難くなるため、主軸受4からの潤滑油の漏れ量が増加する。
【0021】
(3)本発明の主軸受4では、部分溝42gの開口(開放溝端)が、油溝41gを有する第1の半割軸受41の周方向端面72で塞がれる構造になっており、この構造が、部分溝42gの溝底に沿って開口(開放溝端)まで転動してくる異物に対する遮断効果を発揮する。この遮断効果を最大限にするために、部分溝42gの溝底幅が十分に大きくなるように、溝底を平坦面にすることが好ましい。
【0022】
(4)本発明の好適形態として、部分溝42gが、第2の半割軸受42のクランク軸の回転方向の前方側の周方向端面72から第2の半割軸受42の周方向中央部側へ向かって円周角θ1の範囲(ただし、円周角θ1の最小値=5°、円周角θ1の最大値=45°)に形成された場合について説明する。
円周角θ1を5°以上にすると、部分溝42gの十分な長さが確保されて、潤滑油の噴射流とともに部分溝42gに進入した異物Fは、前記流体連通部分に達するまでの間に周方向移動速度が低下しやすい。このため、異物Fは、前記流体連通部分の軸線方向溝77によって軸受の外部へ排出されやすい。円周角θ1を5°未満にすると、この効果が不十分で、異物Fは、軸線方向溝77を通り越して、第1の半割軸受41の油溝41gに進入してしまうものが多くなる。
円周角θ1の最大値を45°にした理由は、部分溝42gを有する第2の半割軸受42の主荷重受部(クランク軸から大きな荷重が作用する、半割軸受42の周方向中央領域)を避けて部分溝42gを形成し、大きな作用荷重に対する第2の半割軸受42の強度を確保するためである。
【0023】
(5)本発明の好適形態として、油溝41gのクランク軸の回転方向の後方側の周方向端部43は、第1の半割軸受41のクランク軸の回転方向の後方側の周方向端面72から円周角θ2(ただし、円周角θ2の最小値=2°、円周角θ2の最大値=7°)の範囲に位置する場合について説明する。
円周角θ2を2°以上にすると、油溝41gのクランク軸の回転方向の後方側の周方向端部43と部分溝42gの開口とが十分に離間し、部分溝42gを流れてきた異物が油溝41gに侵入し難い。円周角θ2を2°未満にすると、部分溝42gを流れてきた異物が油溝41gに侵入してしまうことがある。
また、円周角θ2を7°以下にすると、部分溝42gの上部領域を流れる異物量の少ない潤滑油は、油溝41g内に円滑に流れやすくなる。円周角θ2を7°を超えるようにすると、部分溝42gの上部領域を流れる異物量の少ない潤滑油が油溝41g内に流れ難くなることがある。
【0024】
(6)本発明の好適形態として、部分溝42gの第2の半割軸受42のクランク軸の回転方向の前方側の周方向端面72における溝深さ(D2)は、0.3〜1.5mmである。溝深さ(D2)が0.3mm未満である場合には、部分溝42gの底面側を流れるべき異物が、部分溝42gの上部領域を流れる油にも混入し、油溝41gに侵入しやすくなる。また、溝深さ(D2)が1.5mmを超える場合には、溝深さが深すぎて部分溝42gの溝底面側を流れてきた異物が、軸線方向溝77に侵入し難くなり、主軸受4の外部へ排出され難くなる。
【0025】
(7)本発明の好適形態として、部分溝42gの第2の半割軸受42のクランク軸の回転方向の前方側の周方向端面72における溝幅(W2)は、油溝41gのクランク軸の回転方向の後方側の周方向端部43の位置での溝幅(W1)よりも大きい構成を採用したことについて説明する。
部分溝42gに進入した異物Fは、図9に示すように流体連通部分に達するまでの間は部分溝42g内の軸線方向両端部付近を流れやすい。仮に、異物Fが、軸線方向溝77を越えて第1の第1の半割軸受41側に進入したとしても、第2の半割軸受42のクランク軸の回転方向の前方側の周方向端面72における部分溝42gの溝幅(W2)は、油溝41gのクランク軸の回転方向の後方側の周方向端部43の位置での溝幅(W1)よりも大きい場合には、異物Fは、第1の第1の半割軸受41の油溝41gには進入し難い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】内燃機関のクランク軸を、ジャーナル部およびクランクピン部でそれぞれ截断した模式図。
図2】本発明の実施例1に係る主軸受の正面図。
図3図2に示す主軸受の第1の半割軸受の内周面を見た平面図。
図4図2に示す主軸受の第2の半割軸受の内周面を見た平面図。
図5図2に示す主軸受の機能説明図。
図6図2図4に示す主軸受の第2の半割軸受の周方向端面を示す図(図5におけるVII矢視図)。
図7】本発明の実施例2に係る主軸受の第1の半割軸受の内周面を見た平面図。
図8】実施例2に係る主軸受の第2の半割軸受の内周面を見た平面図。
図9図7図8に示す主軸受の機能説明図。
図10】本発明の実施例3に係る主軸受の正面図。
図11図10に示す主軸受の第1の半割軸受の内周面を見た平面図。
図12図10に示す主軸受の第2の半割軸受の内周面を見た平面図。
図13】本発明の主軸受に形成される油溝および部分溝の溝断面形状の一例を示す図。
図14A】本発明の主軸受の作用を説明するための、軸受内側から見た図。
図14B】本発明の主軸受の作用を説明するための、正面図。
図15A】本発明の主軸受の作用を説明するための、軸受内側から見た図。
図15B】本発明の主軸受の作用を説明するための、正面図。
図16A】従来技術の主軸受の作用を説明した、軸受内側から見た図。
図16B】従来技術の主軸受の作用を説明した正面図。
図17A】従来技術の主軸受の作用を説明した、軸受内側から見た図。
図17B】従来技術の主軸受の作用を説明した正面図。
【実施例1】
【0027】
(軸受装置の全体構成)
図1に示すように、本実施例の軸受装置1は、シリンダブロック8の下部に支承されるジャーナル部6と、ジャーナル部6と一体に形成されてジャーナル部6を中心として回転するクランクピン5と、クランクピン5に内燃機関から往復運動を伝達するコンロッド2とを備えている。そして、軸受装置1は、クランク軸を支承するすべり軸受として、ジャーナル部6を回転自在に支承する主軸受4と、クランクピン5を回転自在に支承するコンロッド軸受3とをさらに備えている。
【0028】
なお、クランク軸は複数のジャーナル部6と複数のクランクピン5とを有するが、ここでは説明の便宜上、1つのジャーナル部6および1つのクランクピン5を図示して説明する。図1において、紙面奥行き方向の位置関係は、ジャーナル部6が紙面の奥側で、クランクピン5が手前側となっている。
【0029】
ジャーナル部6は、一対の半割軸受41、42によって構成される主軸受4を介して、内燃機関のシリンダブロック下部81に軸支されている。図1でシリンダブロック下部に取り付けられる上側の第1の半割軸受41には、内周面に油溝41gが周方向に形成されおり、軸受キャップ82に取り付けられる下側の第2の半割軸受42には、内周面に部分溝42gが形成されている。また、ジャーナル部6は、直径方向に貫通する潤滑油路6aを有し、ジャーナル部6が矢印X方向に回転すると、潤滑油路6aの両端の入口開口6cが交互に主軸受4の油溝41gに連通する。
【0030】
クランクピン5は、一対の半割軸受31、32によって構成されるコンロッド軸受3を介して、コンロッド2の大端部ハウジング21(ロッド側大端部ハウジング22およびキャップ側大端部ハウジング23)に軸支されている。
【0031】
上述したように、主軸受4に対して、オイルポンプによって吐出された潤滑油が、シリンダブロック壁内に形成されたオイルギャラリーから主軸受4の壁に形成された貫通口を通じて第1の半割軸受41の内周面に沿って形成された油溝41g内に送り込まれる。
【0032】
さらに、ジャーナル部6の直径方向に第1の潤滑油路6aが貫通形成され、第1の潤滑油路6aの入口開口6cが油溝41gと連通している。そして、ジャーナル部6の第1の潤滑油路6aから分岐してクランクアーム部(図示せず)を通る第2の潤滑油路5aが形成され、第2の潤滑油路5aが、クランクピン5の直径方向に貫通形成された第3の潤滑油路5bに連通している。
【0033】
このようにして、潤滑油は、第1の潤滑油路6a、第2の潤滑油路5aおよび第3の潤滑油路5bを経て、第3の潤滑油路5bの端部の吐出口5cから、クランクピン5とコンロッド軸受3の間に形成される隙間に供給される。
【0034】
(半割軸受の構成)
そして、本実施例の主軸受4は、一対の半割軸受41、42の周方向の端面を突き合わせて、全体として円筒形状に組み合わせることによって形成される。それぞれの半割軸受41(または42)は、図2に示すように、鋼板上に軸受合金を薄く接着させたバイメタルによって半円筒形状に形成されたものである。半割軸受41、42は、周方向の中央部を含んで形成された主円筒部71と、周方向の両端部に形成されたクラッシュリリーフ部70、70を備えている。
【0035】
クラッシュリリーフ部70とは、半割軸受41、42の周方向端面に近い部分の軸受壁を内周面側で除去することによって形成された、軸受内周面の曲率中心とは異なる曲率中心を有する減厚領域(周方向端面に向かって厚さを減じた領域を指し、SAE J506(項目3.26、項目6.4参照)、DIN1497、§3.2で規定されるとおりである)を意味する。
【0036】
図2図4に、第1の半割軸受41および第2の半割軸受42から成る、クランクジャーナル6用主軸受4を示す。主軸受4は、一対の半割軸受41、42の周方向端面72を突き合わせて、全体として円筒形状に組み合わせることによって形成される(図2参照)。油溝41gは、第1の半割軸受41のクランク軸の回転方向(矢印X参照)の前方側のクラッシュリリーフ部70から、クランク軸の回転方向の後方側のクラッシュリリーフ部70に亘って形成されている。したがって、油溝41gは、両方のクラッシュリリーフ部70に開口(開放溝端)を有する。なお、油溝41gのクランク軸の回転方向の後方側の周方向端部43は、第1の半割軸受41のクランク軸の回転方向の後方側の周方向端面72から円周角θ2(ただし、円周角θ2の最小値=2°、円周角θ2の最大値=7°)の範囲に位置するようにすることが好ましい。また、油溝41gの溝底は平坦である。
また、第1の半割軸受41の周方向端面72の内側(主軸受4の軸線側)に位置する角縁部が、軸受幅方向全体に亘って面取り状に欠截されて傾斜面76になっている。
【0037】
第2の半割軸受42の内周面には、クランク軸の回転方向(矢印X参照)の前方側の周方向端面72から測定して円周角θ1の範囲に、周方向長さの短尺な部分溝42gが形成されている。部分溝42gの溝幅中心と、油溝41gの溝幅中心とは、互いに整合する。なお、部分溝42gの溝底は図6に示されるように平坦である。
なお、第2の半割軸受42の部分溝42gの周方向端部(半割軸受42の周方向中央部側の端部)は、図4等に示すように主円筒部71の内周面に位置するようにすることが好ましいが、これに限定されないで、部分溝42gの周方向端部がクラッシュリリーフ部70に位置していてもよい。
また、第2の半割軸受42の周方向端面72の内側(主軸受4の軸線側)に位置する角縁部が、軸受幅方向全体に亘って面取り状に欠截されて傾斜面76になっている。
この第2の半割軸受41の傾斜面76は、第1の半割軸受41の傾斜面76と対をなし、主軸受4の軸線方向幅全体に亘って延在する断面V字形の軸線方向溝77を画成する。
【0038】
以上の構成により、互いに接触する第1の半割軸受41と第2の半割軸受42の周方向端面72、72において、油溝41gと部分溝42gとが流体連通せず、また、部分溝42gと、軸線方向溝77とが流体連通する。
【0039】
油溝41gと部分溝42gの寸法関係
油溝41gおよび部分溝42gの溝幅: 両溝41g、42gの溝幅W1、W2は互いに等しい(W1=W2)(図3図4参照)。
【0040】
第1の半割軸受41と第2の半割軸受42の斯かる構成によれば、突き合わされた周方向端面72、72において、油溝41gと部分溝42gとが流体連通状態にないから、部分溝42gの開口(開放溝端)が、第1の半割軸受41の周方向端面72によって遮蔽される。この遮蔽作用によって、部分溝42gの溝底に沿って移動する異物Fの移動速度が、周方向端面72への接近に伴って次第に低下する。突き合わされた周方向端面72、72における、異物Fの周方向への直進慣性力低下により、部分溝42gから軸線方向溝77に流れる潤滑油に付随して、異物Fが、主軸受4の軸線方向端部から容易に軸受外部に排出される。
一方、部分溝42gの溝底から離れた溝上部領域を流れる潤滑油中の異物量は少ないが、その潤滑油は、第1の半割軸受41のクラッシュリリーフ70や油溝41gへ流れるので、主軸受4からの潤滑油の流出を抑制できる。
【実施例2】
【0041】
図7図9に示された実施例2について説明する。実施例2は、一部を除いて、実施例1と同じ構成を有する。以下、相違点についてのみ説明する。
部分溝42gの第2の半割軸受42のクランク軸の回転方向の前方側の周方向端面72における部分溝の溝幅(W2)は、油溝41gのクランク軸の回転方向の後方側の周方向端部43の位置での溝幅(W1)よりも大きい。
W1とW2の好適な関係は、1.1×W1<W2<2×W1である。
【0042】
部分溝42gに進入した異物Fは、図9に示すように流体連通部分に達するまでの間は部分溝42g内の軸線方向両端部付近を流れやすい。仮に、異物Fが、軸線方向溝77を越えて第1の第1の半割軸受41側に進入したとしても、第2の半割軸受42のクランク軸の回転方向の前方側の周方向端面72における部分溝42gの溝幅(W2)は、油溝41gのクランク軸の回転方向の後方側の周方向端部43の位置での溝幅(W1)よりも大きい場合には、異物Fは、第1の第1の半割軸受41の油溝41gには進入し難い。
【実施例3】
【0043】
図10図12に示す、主軸受4は、第1の半割軸受41および第2の半割軸受42から成る。第2の半割軸受42は、実施例1における第2の半割軸受42と同一品である。第1の半割軸受41は、以下の点で、実施例1における第1の半割軸受41と違っている。油溝41gの溝深さは、第1の半割軸受41のクランク軸の回転方向(矢印X方向)の後方側の周方向端部43において最小で、クランク軸の回転方向の前方側の周方向端面72に向かって徐々に大きくなっている。なお、クラッシュリリーフ部70における油溝41gの溝深さは、クラッシュリリーフを形成しなかった場合の仮想の主円筒部71の内周面を基準とした溝深さを意味する。そして、実施例1の場合と同様に、油溝41gの溝幅(W1)と、部分溝42gの溝幅(W2)とは互いに等しくなされている(W1=W2)。
【0044】
以上の実施例において、油溝41gおよび部分溝42gの横断面形状を、図13に示すように逆台形状、すなわち両側面を傾斜面にして、溝底幅に比して溝頂部幅を大きくしてもよい。ただし、この場合の油溝41gおよび部分溝42gの溝幅(W1、W2)は、溝底で測定する値である。
また、実施例1および2では、油溝41gの溝深さを、第1の半割軸受41の周方向中央部分から周方向両端面72側に向かって次第に小さくなるようにしたが、本発明の主軸受は、これに限定されず、例えば、油溝41gの深さを、第1の半割軸受41の周方向中央部分では、一定に形成してもよい。
【0045】
なお、実施例1〜3において、第2の半割軸受42のクランク軸の回転方向の後方側の周方向端面72側に、部分溝42gと同様な部分溝を設けて、第2の半割軸受42を左右対称形状にしてもよい。このような左右対称形状を採用することにより、主軸受4の誤った組立作業を未然に防止できる。また、第2の半割軸受42のクランク軸の回転方向の後方側の周方向端面72側に、部分溝42gと異なる形状、寸法の他の部分溝を形成してもよい。
【符号の説明】
【0046】
2 コンロッド
3 コンロッド軸受
4 主軸受
5 クランクピン
5a、5b 潤滑油路
5c 吐出口
6 ジャーナル部
6a 潤滑油路
6c 入口開口
41、42 半割軸受
41g 油溝
42g 部分溝
43 周方向端部
70 クラッシュリリーフ部
71 主円筒部
72 周方向端面
77 軸線方向溝
F 異物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
図17A
図17B