(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ある種類の組織を敏感に表す、またはある種類の組織の微細構造あるいは生物学的状態を敏感に表す、観察対象組織の一または複数のシグネチャ指標を決定する方法であって、前記シグネチャ指標が当該観察対象組織の傾斜磁場パルス磁気共鳴画像法(MRI)から決定され、前記方法が、
−観察対象の種類の組織を表し、ボクセル内非干渉運動(IVIM)および/または非ガウス信号パターンに適していて、傾斜減衰係数bと、評価時に前記種類の組織および微細構造状態を特徴付けるモデルパラメータp(i)の第1の集合とに依存するモデル関数f(b)で表され、前記モデルパラメータp(i)がモデルパラメータベクトル空間を定義し、NPが前記第1の集合におけるモデルパラメータの個数である、拡散MRI減衰信号S(b)の一般減衰モデルを与えるステップ(12)と、
−前記一般減衰モデルを介して一般基準拡散MRI減衰信号SR(b)を定義する、前記組織の基準状態に対応する基準モデルパラメータベクトル(pR(i))を与えるステップ(14)と、
−各モデルパラメータp(i)に対し、前記基準モデルパラメータベクトル(pR(i))内の前記モデルパラメータp(i)に対する一般モデル拡散MRI減衰信号S(b)の部分微分感度dSi(b)を、ゼロから所定の最大値bmaxまでの範囲にあるb値の所定の区間にわたり最大化する注目b値を決定するステップ(16)と、
−前記ステップ(16)で決定された前記NP個の注目b値から、組織の種類および/または微細構造あるいは生物学的状態の特徴付けにおける重要度が低いモデルパラメータに関連付けられた注目b値を除外することにより、注目b値の部分集合を決定するステップ(18)と、
−前記決定された注目b値の部分集合を取得すべく構成された傾斜を有すべくプログラムされた傾斜磁場パルスMRIシーケンスにより、前記観察対象組織の視野(FOV)内にあるMRI画像の集合を取得するステップ(20)と、
−ボクセル1個毎に、またはボクセルの集合を含む所定の注目領域(ROI)毎に、
ボクセルVまたはROIのシグネチャ指標(sADC(V)、Sdist(V)、SCdist(V)、Snl(V)、SI(V))、すなわち前記注目b値の部分集合における注目b値で取得されたボクセル信号に直接依存するスカラー関数であるシグネチャ指標を、前記観察対象組織の一般減衰モデルを一切用いることなく、前記ROIまたは前記ボクセルV内に存在する微細構造状態および前記種類の組織を表す実数として決定するステップ(22;56)とを含む方法。
前記シグネチャ指標が、厳密に単調な関数を有する正規化シグネチャ指標Snlをスケーリングすることにより決定される絶対シグネチャSIである、請求項11に記載の観察対象組織の一または複数のシグネチャ指標を決定する方法。
絶対シグネチャSIに対するROIレベルの統計値が、病変異常の場合は平均、標準偏差、歪みまたは尖度として、またはSI指標が所定の悪性閾値を上回るときボクセルサイズとボクセル数の積として定義される悪性転化体積として決定され、および/または
ヒストグラムが決定され、および/または
絶対シグネチャ指標SIの画像がカラースケールを用いて、3Dレンダリングを施された上で表示される、請求項12に記載の観察対象組織の一または複数のシグネチャ指標を決定する方法。
注目領域に属するボクセルの少なくとも1個のシグネチャ指標の少なくとも1個のマップを表示するステップを含んでいる、請求項1〜16のいずれか1項に記載の観察対象組織の一または複数のシグネチャ指標を決定する方法。
(π/2)の間隔が空けられた位相オフセットθを有する二組のMRE画像を取得して、前記弾性指標eSIを計算する前に平均化する、請求項19に記載の実IVIM弾性画像および/または観察対象組織のコントラスト付剪断剛性を決定するIVIM磁気共鳴弾性画像法。
請求項11または12に記載の方法で決定した正規化およびマッピング済みIVIM/拡散シグネチャ指標SnlまたはSlから、または請求項3で定義された正規化およびマッピング済みIVIM/拡散シグネチャ指標sADCから、観察対象組織の仮想IVIMMR剪断剛性マップをエミュレートする仮想IVIM磁気共鳴弾性画像法であって、関係μ=g(Snl)(g(.)は所定の変換関数)またはμ=h(sADC)(h(.)は所定の変換関数)を介して前記観察対象組織の剪断剛性マップ(群)を計算するステップを含む方法。
観察対象組織の仮想IVIMMR弾性画像をエミュレートする仮想IVIM磁気共鳴弾性画像法であって、一般IVIM/弾性画像減衰モデルを用いて、前記観察対象組織の仮想弾性画像を1Hz〜10000Hzの範囲にある任意の所与の周波数fでシミュレートして表示するステップを含み、前記周波数でのMRE減衰信号S/S0が、一般モデル内でマッピングされた剪断剛性μを、正規化されたマッピング済みIVIM/拡散シグネチャ指標SnlまたはSlあるいは正規化されたマッピング済みIVIM/拡散シグネチャ指標sADCから請求項21または22に記載の方法で決定された観察対象組織の仮想剪断剛性で代替することにより決定される方法。
ある種類の組織を敏感に表す、またはある種類の組織の微細構造あるいは生物学的状態を敏感に表す、観察対象組織のシグネチャ指標を決定する装置であって、前記シグネチャ指標が前記当該観察対象組織の傾斜磁場パルス磁気共鳴画像(MRI)から決定され、
傾斜磁場パルス磁気共鳴撮像を高分解能且つ高精度で実行する磁気共鳴撮像スキャナ(304)と、前記スキャナ(304)を制御して前記スキャナにより取得された撮像データを処理する手段(306)とを含み、
前記磁気共鳴撮像スキャナ(304)が、注目b値の決定された部分集合を取得すべく構成された傾斜を有すべくプログラムされた同一の傾斜磁場パルスシーケンスを用いて、前記観察対象生物組織の視野(FOV)内にあるMRI画像の集合を取得すべく構成され、
前記スキャナを制御して前記スキャナにより取得された撮像データを処理する前記手段(306)が、
−前記観察対象の種類の組織を表し、ボクセル内非干渉運動(IVIM)および/または非ガウス信号パターンに適していて、傾斜減衰係数bと、当該種類の組織および微細構造状態を特徴付けるNPモデルパラメータp(i)の第1の集合とに依存するモデル関数f(b)で表され、前記モデルパラメータp(i)がモデルパラメータベクトル空間を定義する、拡散MRI減衰信号S(b)の一般減衰モデル、および
前記組織の基準状態に対応し、前記一般減衰モデルを介して一般基準拡散MRI減衰信号SR(b)を定義する基準モデルパラメータベクトル(pR(i))、および/または
各々が前記観察対象組織と同種類の組織の第1の較正状態P1および第2較正状態P2に対応していて、事前較正ステップで得られた事前MRI画像から、または既に確定した値から計算された第1の極基準モデルパラメータベクトル(pP1(i))および第2の極基準パラメータベクトル(pP2(i))を、前記第1および第2の較正状態P1、P2並びに対応する基準モデルパラメータベクトル(pP1(i))、(pP2(i))が顕著に異なる状態で格納する手段と、
−各モデルパラメータp(i)に対し、前記基準モデルパラメータベクトル(pR(i))内の前記モデルパラメータp(i)に対する前記一般モデル拡散MRI減衰信号S(b)の部分微分感度dSi(b)を、ゼロから所定の最大値bmaxまでの範囲にあるb値の所定の区間にわたり最大化する注目b値を決定し、
前記NP個の注目b値から、組織の種類および/または微細構造あるいは生物学的状態の特徴付けにおける重要度が低いモデルパラメータに関連付けられた注目b値を除外することにより、注目b値の部分集合を決定し、および/または
上述のような極基準モデルパラメータベクトルが与えられたとき、中性基準モデルパラメータベクトルpN(i)を前記第1の極基準モデルパラメータベクトル(pP1(i))と前記第2の極基準パラメータベクトル(pP2(i))の平均和として計算し、
ボクセル1個毎に、またはボクセルの集合を含む所定の注目領域(ROI)毎に、
前記ボクセルVのシグネチャ指標(sADC(V)、Sdist(V)、Snl(V)、SI(V))、すなわち前記注目b値の部分集合における注目b値で取得されたボクセル信号に直接依存するスカラー関数であるシグネチャ指標を、前記ROIまたは前記ボクセルV内に存在する前記微細構造状態および前記種類の組織を表す実数として決定する処理手段(310)とを含む装置。
請求項24で定義された前記装置に格納され、前記装置により実行された場合に請求項1〜23のいずれか1項で定義された方法のステップを実行すべく構成された命令の集合を含むか、または、
スタンドアローン型コンピュータに格納され、請求項1で定義された方法のステップ(16)、(18)、(22)、(56)および請求項8に定義された方法のステップ(44)を実行すべく構成された命令の集合を含む、コンピュータソフトウェア。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
技術的な課題は、ある種類の組織および/または当該組織が有している生物学的特性に対して極めて顕著に敏感なシグネチャ指標を直接
決定して、取得および処理時間を短縮する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のため、本発明は、ある種類の組織を敏感に表す、またはある種類の組織の微細構造あるいは生物学的状態を敏感に表す、観察対象組織の一または複数の指標を
決定する方法に関し、当該シグネチャ指標は当該観察対象組織の傾斜磁場パルス磁気共鳴画像法(MRI)から
決定され、本方法は、
− 第1のステップにおいて、観察対象の種類の組織を表し、ボクセル内非干渉運動(IVIM)および/または非ガウス信号パターンに適していて、傾斜減衰係数bと、評価時に当該種類の組織および微細構造状態を特徴付けるモデルパラメータp(i)の第1の集合とに依存するモデル関数f(b)で表され、前記モデルパラメータp(i)はモデルパラメータベクトル空間を定義し、NPは当該第1の集合におけるモデルパラメータの個数である、拡散MRI減衰信号S(b)の一般減衰モデルを与え、次いで
− 第2のステップにおいて、当該一般減衰モデルを介して中性基準モデル拡散MRI減衰信号S
R(b)を定義する、当該組織の中性または平均あるいは特定の状態に対応する基準モデルパラメータベクトル(p
R(i))を与え、次いで
− 各モデルパラメータp(i)に対し、第3のステップにおいて、基準モデルパラメータベクトル(p
R(i))内の前記モデルパラメータp(i)に対する一般モデル拡散MRI減衰信号S(b)の部分微分感度dS
i(b)を、ゼロから所定の最大値b
maxまでの範囲にあるb値の所定の区間にわたり最大化する注目b値を
決定し、次いで
− 第4のステップにおいて、第3のステップで
決定されたNP個の注目b値から、組織の種類および/または微細構造あるいは生物学的状態の特徴付けにおける重要度が低いモデルパラメータに関連付けられた注目b値を除外することにより、注目b値の部分集合を
決定し、次いで
− 第5のステップにおいて、
決定された注目b値の部分集合を取得すべく構成された傾斜を有すべくプログラムされた傾斜磁場パルスMRIシーケンスにより、観察対象組織の視野(FOV)内にあるMRI画像の集合を取得し、次いで
− ボクセル1個毎に、またはボクセルの集合を含む所定の注目領域(ROI)毎に、
ボクセルVまたはROIのシグネチャ指標sADC(V)、Sdist(V)、SCdist(V)、Snl(V)、SI(V)、すなわち注目b値の部分集合における注目b値で取得されたボクセル(群)信号に依存するスカラー関数であるシグネチャ指標を、ROIまたはボクセルV内に存在する微細構造状態および当該種類の組織を表す実数として
決定する。
【0010】
特定の実施形態によれば、一または複数の指標を
決定する方法は以下の特徴の一つ以上を含んでいる。
− 注目b値の部分集合を
決定する間、基準信号S
R(b)近傍のモデルパラメータp(i)対する、所定の感度閾値を下回る、および/または使用する一般減衰モデルの有効範囲よりも高い、および/または所定のノイズ閾値レベルを下回る値をもたらす感度dS
i(b)をMRI信号に与える注目b値を除外することにより、更なるフィルタリングが実行される。
− 注目b値の部分集合の基数が2に等しく、低注目b値Lbおよび高注目b値Hbを含み、ボクセルのシグネチャ指標はsADCと表記されて次式で計算される第1種のシグネチャ指標である。
sADC(V)=Ln[S
V(Lb)/S
V(Hb)]/(Hb−Lb)
ここに、S
V(Lb)は、注目b=Lbのとき得られるMRI画像のボクセルの測定された信号を示し、S
V(Hb)は注目b=Hbのとき得られるMRI画像のボクセルの測定された信号を示す。
− 当該シグネチャ指標はSdistと表記された第2種のシグネチャ指標であって、ROIまたはボクセルS
V(b
k)内の注目b値b
kで観察されたベクトル信号パターンと、一般減衰モデルS
R(b
k)を用いて基準状態組織Rについて計算されたベクトル信号パターンとの間の疑似距離を計算することにより
決定され、kは注目b値の部分集合全体にわたる注目値の整数ランクを示し、疑似距離は、S
V(b
k)とS
R(b
k)との間の代数距離または相関係数あるいはスカラー積、または任意の種類の距離である。
− 第2種のシグネチャ指標Sdistは次式で計算される。
【数1】
ここに、G(b
k)は、dS(b
k)=[S
V(b
k)−S
R(b
k)]/S
R(b
k)で計算されるdS(b
k)の符号に応じて偶数または奇数の整数である。
− 当該シグネチャ指標は、第2種のシグネチャ指標の拡張であってSCdistと表記され、ROIまたはボクセル内の異なる条件Cm下での異なる注目b値b
k(m)で観察される2D配列信号パターンS
V(b
k(m),Cm)と、一般減衰モデルを用いて基準状態組織Rについて計算された2D配列信号パターンS
R(b
k(m),Cm)との間の疑似距離を計算することにより
決定され、mは1から整数cにわたるMPG条件集合内のMPG条件を識別する指標を示し、k(m)は条件Cmに対応する部分集合の注目b値の整数ランクを示し、疑似距離は、S
V(b
k(m)、Cm)とS
R(b
k(m),Cm)との間の代数距離または相関係数あるいはスカラー積、または任意の種類の距離であり、特定の距離は次式で定義され、
【数2】
ここに、G(b
k(m),Cm)は[S
V(b
k(m),Cm)−S
R(b
k(m),Cm)]/S
R(b
k(m),Cm)の符号に応じて偶数または奇数の整数であり、特定の条件Cmは、拡散異方性を考慮してMPGパルスの様々な空間方位、および/または拡散効果の制約を考慮して、MPGの時間間隔および持続時間により定義される様々な拡散時間である。
− 上述の方法は、以下のステップ、すなわち
観察対象組織と、異なる所定の基準組織Rjとの間のシグネチャ距離Sdist(V;R
j)またはSCdist(V;R
j)の個数rを計算(jは基準組織Rjを識別する整数指標であって、1〜rの範囲にあり、Sdist(V;R
j)およびSCdist(V;R
j)は各々上で定義されている)し、次いで、
観察対象組織の組織状態または種類を基準組織R
j0の組織状態または種類であると識別するステップを含んでいる。ここに、基準組織指標j
0は、
Sdis(V;Rj
0)=Min
j=1〜r(Sdist(V;R
j))
または
SCdis(V;Rj
0)=Min
j=1〜r(SCdist(V;R
j))
である。
− 本方法は更に、第1のステップと第2のステップの間に、各々が観察対象組織と同種類の組織の第1の較正状態P1および第2の較正状態P2に対応していて、事前較正ステップで得られた事前MRI画像から、または既に確定した値から計算された第1の極基準モデルパラメータベクトル(p
P1(i))および第2の極基準パラメータベクトル(p
P2(i))を、第1および第2の較正状態P1、P2並びに対応する基準モデルパラメータベクトル(p
P1(i))、(p
P2(i))が顕著に異なる状態で与える第7のステップを含んでいる。
− 第2のステップは、中性基準モデルパラメータベクトルp
N(i)を第1の極基準モデルパラメータベクトル(p
P1(i))と第2の極基準パラメータベクトル(p
P2(i))の平均和として計算する第8のステップで代替される。
− 組織の第1の較正状態P1と第2の較正状態P2の関係は、腫瘍組織の場合は「良性」対「悪性」組織、または治療中の組織対未治療組織、または「休眠」対「活性」組織、または「正常」対「炎症」組織、または筋肉、心臓または脳白質組織等の異方性組織の場合は「第1の空間方位」にある組織対「第2の空間方位」にある組織、または脳皮質組織の場合は「第1種の細胞構造」組織対「第2種の細胞構造」組織の関係に対応している。
− 当該シグネチャ指標は、第2種のシグネチャ指標Sdistを用いる第3種の正規化シグネチャ指標であってSnlと表記され、次式で
決定される。
Snl(V)={max([Sdist(V)/Sdist1],0)−[max([Sdist(V)/Sdist2],0}
ここに、Sdist(V)は検査中の組織のボクセルの第2種のシグネチャ指標であり、Sdist1は第1の較正状態P1のボクセルの第2種のシグネチャ指標であり、Sdist2は第2の較正状態P2のボクセルの第2種のシグネチャ指標である。
− シグネチャ指標は、厳密に単調な関数を有する正規化シグネチャ指標Snlをスケーリングすることにより
決定される絶対シグネチャSIである。
− 絶対シグネチャSIに対するROIレベルの統計値は、病変異常の場合は平均、標準偏差、歪みまたは尖度として、またはSI指標が所定の悪性閾値を上回るときボクセルサイズとボクセル数の積として定義される悪性転化体積として
決定され、および/またはヒストグラムが
決定され、および/または絶対シグネチャ指標SIの画像がカラースケールを用いて、Im3Dレンダリングを施した上で表示される。
− 当該種類の組織は、脳、頭部および首器官、胸部、前立腺、肝臓、膵臓、肺、心臓、筋肉または関節からなる器官の組織であり、および/または一般減衰モデルは、多項式または尖度モデル、双指数モデル、統計モデルおよび拡張モデルからなるモデルの集合に含まれる。
− 一般減衰モデルはIVIM/尖度モデルであって、モデル関数S(b)が次式で表される。
【数3】
ここに、S
0はbがゼロに等しいときに拡散重み付け無しで得られる信号、f
IVIMは組織内を非干渉的に流れる血液の体積比率、D
*はIVIM効果に関連付けられた疑似拡散係数、ADC
0はbが0に近づいたときに得られる仮想見かけ拡散係数、Kは尖度パラメータK、NCFはノイズ相関係数である。
− 注目b値の部分集合の基数が2に等しく、低注目b値Lb、および高注目b値Hbを有し、Snl(V)と表記されるボクセルの正規化シグネチャ指標Snlが次式に従い計算される。
【数4】
ここに、X=V、P1、P2、およびb=Hb、Lbに対してdS
X(b)=[S
X(b)−S
N(b)]/S
N(b)であり、S
P1(b)、S
P2(b)、S
N(b)は、モデルおよび自身の第1の極基準モデルパラメータベクトル(p
ref(Q1)(i))、第2の極基準パラメータベクトル(p
ref(Q2)(i))、および中性基準モデルパラメータベクトル(p
N(i))により既に識別された第1の実状態P1、第2の実状態P2、および中性状態に各々対応する信号であるため、信号値S
P1(Lb)、S
P2(Lb)、S
N(Lb)、S
P1(Hb)、S
P2(Hb)、S
N(Hb)を計算することができ、S
V(Lb)は低注目b値Lbと共に得られたMRI画像のボクセルの測定された信号を示し、S
V(Hb)は高注目b値Hbと共に得られたMRI画像のボクセルの測定された信号を示す。
− 本方法は更に、注目領域に属するボクセルの少なくとも1個のシグネチャ指標の少なくとも1個のマップを表示するステップを含んでいる。
【0011】
本発明はまた、以下のステップを含む、観察対象組織から血管を認識するIVIM血管造影法にも関する。
− sADCまたはSnl指標およびIVIM/非ガウスモデル一般減衰信号モデルを
決定する上述の方法を用いて、観察対象組織のボクセルの少なくとも1個のシグネチャ指標の一または複数のマップを
決定し、その際にゼロに等しい第1の低注目b値Lbおよび血液だけを含むボクセル内でのIVIM効果に起因する信号減衰が所定の閾値を上回る高注目b値Hbが選択され、且つシグネチャ指標sADCが
決定され、または太い血管を含むボクセルが第1の極基準組織と見なされ、太い血管を含まないボクセルが第2の極基準組織と見なされ、正規化シグネチャ指標Snlが上述のように
決定される。
− 少なくとも1個のシグネチャ指標マップから血管造影図を導いて表示する。
【0012】
本発明はまた、実IVIM弾性画像および/または観察対象組織のコントラスト付き剪断剛性を
決定するIVIM磁気共鳴弾性画像法にも関し、以下のステップを含んでいる。
− 一般IVIM/弾性画像減衰モデルの観点から2個の注目b値を選択し、第1の極基準モデルパラメータベクトル(p
P1(i))および第2の極基準パラメータベクトル(p
QP2(i))が、25Hz〜500Hzの範囲にある所定の剪断波周波数fで誘起された剪断波により実行された事前較正処理を行う間に既に一度だけ識別されている状態で、較正された高い剪断剛性および較正された低い剪断剛性に各々対応する第1の極パラメータベクトルおよび第2の極パラメータベクトルを与え、次いで
− 選択された2個の注目b値を用いて、組織の視野(FOV)内にある磁気共鳴弾性画像の集合を取得しながら、観察対象組織内に剪断波を誘起すべく所定の周波数fで機械的振動を適用し、次いで
− ボクセル1個毎に、またはボクセルの集合を含む所定の注目領域(ROI)毎に、上で定義したシグネチャ指標SnlまたはSIの場合と同種の計算を用いて弾性シグネチャ指標eSnlまたはeSIを
決定する。
【0013】
特定の実施形態によれば、観察対象組織の実IVIM弾性画像および/またはコントラスト付き剪断剛性を
決定するIVIM磁気共鳴弾性画像法は以下の特徴の一つ以上を含んでいる。
− (π/2)の間隔が空けられた位相オフセットθを有する二組のMRE画像を取得して、弾性指標eSIを計算する前に平均化する。
【0014】
本発明はまた、観察対象組織の仮想IVIMMR弾性画像をエミュレートする仮想IVIM磁気共鳴弾性画像法にも関しており、MRE減衰信号S/S
0が剪断剛性および周波数に依存する一般IVIM/弾性画像減衰モデルを用いて一般モデル内でマッピングされた剪断剛性を上で
決定された正規化弾性シグネチャ指標eSIで代替するか、または同じ一般IVIM/弾性画像減衰モデルを用いて、関係μ=g(Snl)(g(.)は所定の変換関数)を介して請求項で
決定される正規化されたマッピング済みIVIM/拡散シグネチャ指標Snlから組織のマッピングされた剪断剛性を計算することにより、観察対象組織の仮想弾性画像をシミュレートして表示するステップを含んでいる。
【0015】
本発明はまた、ある種類の組織を敏感に表す、またはある種類の組織の微細構造あるいは生物学的状態を敏感に表す、観察対象組織のシグネチャ指標を
決定する装置にも関し、当該シグネチャ指標を当該観察対象組織の傾斜磁場パルス磁気共鳴画像(MRI)から
決定され、当該装置は、傾斜磁場パルス磁気共鳴撮像を高分解能且つ高精度で実行する磁気共鳴撮像スキャナと、当該スキャナを制御して当該スキャナにより取得された撮像データを処理する手段とを含み、
磁気共鳴撮像スキャナは、注目b値の
決定された部分集合を取得すべく構成された傾斜を有すべくプログラムされた同一の傾斜磁場パルスシーケンスを用いて、観察対象生物組織の視野(FOV)内にあるMRI画像の集合を取得すべく構成され、
当該スキャナを制御して当該スキャナにより取得された撮像データを処理する手段は、
− 観察対象の種類の組織を表し、ボクセル内非干渉運動(IVIM)および/または非ガウス信号パターンに適していて、傾斜減衰係数bと、当該種類の組織および微細構造状態を特徴付けるNPモデルパラメータp(i)の第1の集合とに依存するモデル関数f(b)で表され、前記モデルパラメータp(i)がモデルパラメータベクトル空間を定義する、拡散MRI減衰信号S(b)の一般減衰モデル、および当該組織の中性または平均あるいは特定の状態に対応し、当該一般減衰モデルを介して中性基準モデル拡散MRI減衰信号S
R(b)を定義する基準モデルパラメータベクトル(p
R(i))、および/または各々が当該観察対象組織と同種類の組織の第1の較正状態P1および第2較正状態P2に対応していて、事前較正ステップで得られた事前MRI画像から、または既に確定した値から計算された第1の極基準モデルパラメータベクトル(p
P1(i))および第2の極基準パラメータベクトル(p
P2(i))を、第1および第2の較正状態P1、P2並びに対応する基準モデルパラメータベクトル(p
P1(i))、(p
P2(i))が顕著に異なる状態で格納する手段と、
− 各モデルパラメータp(i)に対し、基準モデルパラメータベクトル(p
R(i))内の前記モデルパラメータp(i)に対する一般モデル拡散MRI減衰信号S(b)の部分微分感度dS
i(b)を、ゼロから所定の最大値b
maxまでの範囲にあるb値の所定の区間にわたり最大化する注目b値を
決定し、
− NP個の注目b値から、組織の種類および/または微細構造あるいは生物学的状態の特徴付けにおける重要度が低いモデルパラメータに関連付けられた注目b値を除外することにより、注目b値の部分集合を
決定し、および/または
上述のような極基準モデルパラメータベクトルが与えられたとき、中性基準モデルパラメータベクトルp
N(i)を第1の極基準モデルパラメータベクトル(p
P1(i))と第2の極基準パラメータベクトル(p
P2(i))の平均和として計算し、
ボクセル1個毎に、またはボクセルの集合を含む所定の注目領域(ROI)毎に、ボクセルVのシグネチャ指標(sADC(V)、Sdist(V)、Snl(V)、SI(V))、すなわち注目b値の部分集合における注目b値で取得されたボクセル(群)信号に依存するスカラー関数であるシグネチャ指標を、ROIまたはボクセルV内に存在する当該微細構造状態および当該種類の組織を表す実数として
決定する処理手段とを含んでいる。
【0016】
本発明はまた、上で定義された装置に格納され、当該装置により実行された場合に上で定義された方法のステップを実行すべく構成された命令の集合を含むコンピュータソフトウェアにも関する。
【0017】
本発明は、単に例示的に示す図面を参照しながら以下のいくつかの実施形態の説明を精査することにより理解が深まろう。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示すように、且つ本発明によれば、ある種類の組織を敏感に表す、またはある種類の組織の微細構造あるいは生物学的状態敏感を表す、観察対象組織の一または複数のシグネチャ指標を、当該観察対象組織の傾斜磁場パルス磁気共鳴画像(MRI)から
決定する方法2はステップの集合12、14、16、18、20、22を含んでいる。
【0020】
第1のステップ12において、MPGMRI減衰信号S(b)の振幅またはモジュラスに関する一般信号減衰モデルが与えられる。当該一般減衰モデルは、ボクセル内非干渉運動(IVIM)および/または非ガウス拡散効果が存在する場合に組織内で観察される信号パターンを表すが、必ずしも組織構造との直接且つ物理的関係を意味するものではない。一般減衰モデルは、「b値」と呼ばれる傾斜減衰係数bと、評価時に当該組織の微細構造状態を特徴付けるモデルパラメータp(i)の第1の集合とに依存するモデル関数f(b)で表され、前記モデルパラメータp(i)はモデルパラメータベクトル空間、すなわち状態ベクトル空間を定義する。モデルパラメータベクトル空間の次元は、一般減衰モデルで用いるパラメータのより個数NPに等しく、iはモデルパラメータベクトル空間内での座標ランクを識別する1〜NPの範囲の整数である。
【0021】
一般減衰モデルは例えば、拡散尖度画像とも呼ばれる多項式または尖度モデル、双指数モデル、統計モデル、拡張指数モデル、第5の他のモデル(無名称)、および第6の他のモデル(無名称)であってよい。
【0022】
第1のモデルとして、拡散尖度画像法とも呼ばれる多項式または尖度モデルが、Proceedings of the 12
th Annual Meeting of ISMRM Kyoto,Japan(Ref.#5)で発表されたChabert他の論文「Relevance of the information about the diffusion distribution in vivo given by Kurtosis in q−space imaging」、またはMagnetic Resonance in Medecine,2005;53(6):1432−1440(Ref.#6)に発表されたJensen J.H.他による論文「Diffusional kurtosis imaging:the quantification of non−gaussian water diffusion by means of magnetic resonance imaging」に記述されている。
【0023】
第2のモデルとして、双指数モデルが、Magnetic Resonance Imaging,2009;27(8):1151−1162(Ref.#7)に発表されたMulkern R.V.他による論文「On high b diffusion imaging in human brain:ruminations and experimental insights」に記述されている。
【0024】
第3のモデルとして、統計モデルが、Magnetic Resonance in Medicine,2003;50(4):664−669(Ref.#8)に発表されたYablonskiy D.A.他による論文「Statistical model for diffusion attenuated MR signal」に記述されている。
【0025】
第4のモデルとして、拡張指数モデルが、Magnetic Resonance in Medicine;2003;50(4):727−734(Ref.#9)に発表されたBennett K.M.による論文「Characterization of continuously distributed cortical water diffusion rates with a stretched exponential model」に記述されている。
【0026】
第5のモデルが、Magnetic Resonance in Medicine;2008;59(3):447−455(Ref.#10)に発表されたHall M.G.他による論文「From diffusion−weighted MRI to anomalous diffusion imaging」に記述されている。
【0027】
第6のモデルが、Magnetic resonance in Medicine;2010;63(3):562−569(Ref.#11)発表されたZhou X.J.他による論文「Studies of anomalous diffusion in the human brain using fractional order calculus」に記述されている。
【0028】
いくつかの例として、Iima M.他による第2の論文(Ref.#4)に記述されているIVIM/尖度モデルを用いた場合、モデルパラメータp(i)は、組織内を非干渉的に流れる血液の体積比率f
IVIM、IVIM効果に関連付けられた疑似拡散係数D
*、bが0に近づくに従い得られるであろう仮想的な見かけ拡散係数ADC
0、尖度パラメータKからなる系統に含まれる。
【0029】
第2のステップ14において、基準モデルパラメータベクトル(p
R(i))が与えられる。基準モデルパラメータベクトル(p
R(i))は、注目する組織/器官の中性または平均的状態に、または逆に(例えば悪性の)組織の特定の状態に、あるいは目標とする組織の種類、例えば血管に対応しており、一般減衰モデルを介して基準MPGMRI減衰信号S
R(b)を定義する。
【0030】
基準モデルパラメータベクトル(p
R(i))は、一般に組織の基準状態に対応している。
【0031】
次いで、第3のステップ16において、NP個の注目b値を探索して座標ランクiの各モデルパラメータp(i)に対する傾斜磁場MRI信号の最も高い感度が取得され、パラメータの値は基準モデルパラメータベクトル(p
R(i))の近傍で異なる。このため、MRIスキャナ技術的性能に依存してゼロから所定の最大値b
maxの範囲のb値にわたる、基準モデル拡散MRI減衰信号S
R(b)での前記モデルパラメータp(i)に対するモデル拡散MRI減衰信号S(b)の部分微分感度dS
i(b)の変化を
決定する。
【0032】
一例として、所与のb値での部分微分感度dS
iは次式で定義される。
dS
i(b)=[S
(1+α)
*pR(i)(b)−S
R(b)]/S
R(b) 式#1
ここに、αは百分率、例えば10%)で表されたp(i)の定数増分を示す。
S
(1+α)
*pR(i)(b)は次式で定義される。
S
(1+α)
*pR(i)(b)=S(b;p
R(1),...,p
R(i−1),(1+α)
*p
R(i),p
R(i+1),...,p
R(NP)) 式#2
【0033】
所与のb値での位置S
R(b;p
R(i))近傍のパラメータp(i)に対するモデル減衰信号S(b;(p(i)))のこのような部分微分感度dS
i(b)の概念を反映する他の式を用いてもよい。実際、解析式
【数5】
に近づくdS
i(b)のいずれの式も適している。
【0034】
次いで、第4のステップ18において、NP個の注目b値のフィルタリングが実行され、異なるb値で取得されたMRI画像の個数を減らし、従ってMRIの取得時間を短縮する。
【0035】
このため、第1のフィルタリングは、特徴付けたい組織の種類および/または微細構造あるいは生物学的状態に対して注目度が低いモデルパラメータに関連付けられた注目b値を除外するものである。
【0036】
第2のオプションのフィルタリングは、所定の感度閾値を下回る、および/または使用する一般減衰モデルの有効範囲よりも高い、および/または所定のノイズ閾値レベルを下回る値が生じる基準信号S
R(b)近傍のモデルパラメータp(i)に対する感度dS
i(b)をMRI信号に与える注目b値を除外するものである。
【0037】
従って、基数がNP以下の注目b値の部分集合が得られる。
【0038】
特定のケースとして、部分集合を形成する注目b値の個数はモデルパラメータの総数NPに等しくてもよい。
【0039】
例えば、所定の感度閾値は1%に等しい。
【0040】
次いで、第5のステップ20において、部分集合の
決定された注目b値を取得すべく構成された傾斜磁場パルスによりプログラムされた傾斜磁場パルスMRIシーケンスにより、観察対象生物組織の視野(FOV)内にあるMRI画像の集合が取得される。
【0041】
次いで、第6のステップ22において、ボクセル1個毎に、またはボクセルの集合を含む所定の注目領域(ROI)毎に、ROIまたはボクセルV内に存在する組織の微細構造状態および種類を表す実数としてシグネチャ指標は
決定され、当該シグネチャ指標は、部分集合の注目b値で取得されたボクセル信号に依存するスカラー関数である。
【0042】
計算されたシグネチャ指標の種類に依らず、各注目b値についてROIの全てのボクセルの信号を平均化することにより、ROIレベルでのシグネチャ指標の直接計算が実行されことに注意されたい。
【0043】
シグネチャ指標を定義するスカラー関数が注目b値の部分集合で得られるボクセル信号に直接依存し、観察対象組織の一般減衰モデルを一切用いないことに注意されたい。
【0044】
第1の実施形態として、注目b値の部分集合が2個の注目b値、すなわち低注目b値Lbおよび高注目b値Hbしか含まず、且つガウス拡散のために1980年代に導入されたADC(見かけ拡散係数)概念に従う場合、ボクセルの第1種のシグネチャ指標は「合成ADC」を意味するsADC(V)と表記され、次式で
決定される。
sADC(V)=Ln[S
V(Lb)/S
V(Hb)]/(Hb−Lb) 式#3
ここに、S
V(Lb)は、注目b=Lbのとき得られるMRI画像のボクセルの測定された信号を示し、SV(Hb)は注目b=Hbのとき得られるMRI画像のボクセルの測定された信号を示す。
【0045】
組織特徴の変化に対して最も高い感度を与える注目b値が
決定されたため、当該シグネチャ指標sADCは本質的に、一般減衰モデルのいくつかの感度パラメータまたはモデル自体をも含み、一般IVIM/拡散モデルで用いる単一のADCまたはADC
0値よりも感度が高い、および/または組織特徴に固有である。例えば、Hb=100s/mm
2およびLb=0のような2個の注目b値を用いて得られた極めて高いシグネチャ指標sADCは、特に血流(従って血管)の存在を示す。本例は後で図示するように、合成ADC(sADC)がボクセル内非干渉運動(IVIM)のガウスおよび非ガウス成分の影響をボクセル信号内に含む。
【0046】
第2の実施形態として、第2種のシグネチャ指標はSdistと表記され、ROIまたはボクセルS
V(b
k)内の注目b値b
kで観察されたベクトル信号パターンと、一般減衰モデルS
R(b
k)を用いて計算された基準状態組織内のベクトル信号パターンとの間の疑似距離を計算することにより
決定され、kは部分集合の注目値の整数ランクを示す。疑似距離は、代数距離、相関係数またはS
V(b
k)とS
N(b
k)とのスカラー積あるいは任意の種類の距離であってよい。例えば、第2のシグネチャ指標は次式で定義される。
【数6】
ここに、G(b
k)はdS(b
k)の符号に応じて偶数または奇数であってよく、dS(b
k)=[S
V(b
k)−S
R(b
k)]/S
R(b
k)が成り立つ。
【0047】
例えば、dS(b
k)>0ならばG(b
k)は2に等しく、dS(b
k)<0ならば1に等しい。
【0048】
正または負であり得るSdistの値は、観察対象組織の微細構造または生物学的特性の基準組織に対する偏差の程度の定量的情報を与える。
【0049】
図2に示すように、観察対象組織の拡散MRI信号を基準組織信号プロファイルと比較している(例:「悪性」対「良性」)。いずれかの基準組織との観察された信号プロファイルの近接度から、観察対象組織の性質を直接推定することができる(例:組織Aは「悪性」で組織Bは「良性」)。この「近傍」を定量化すべく、注目b値で取得された信号プロファイル値を用いて、式#4で定義した距離指標Sdistを計算する。
【0050】
また、r個の基準組織Rjの集合Rsetを考えてもよく、jは基準組織を識別する1〜r(すなわちRsetの基数)の範囲の指標であり、各基準組織Rjは自身のパラメータベクトル(p
Rj(i))および対応する減衰信号S
Rj(b)を有している。次いで、検査中の組織と各基準組織Rjとの間のr個のシグネチャ距離Sdist(V;Rj)の集合を次式で計算できる。
【数7】
【0051】
次いで、Sdistを用いることにより、検査中の組織の種類または組織の状態を、検査中の前記組織に最も近いRsetの基準組織Rj
0の種類または状態として推定することができる。従って、j
0は次式で定義される基準組織指標である。
Sdis(V;Rj
0)=Min
j=1〜r)(Sdist(V;R
j))
【0052】
従って、(Sdistset(V;R)と表記された基準組織Rjの)集合Rへの疑似距離としての第2のシグネチャ指標Sdistの第1の拡張は次式で定義できる。
Sdistset(V;Rset)=Min
j=1〜r(Sdis(V;R
j)) 式#5
【0053】
第2のシグネチャ指標Sdistの別の第2の拡張は、異なるMPG条件Cmの集合Cの下にて組織内でMPGMRI信号が得られたものと考えることにより得られ、mはMPG条件を識別するj=1〜cの範囲の指標であり、cは集合Cの基数である。
【0054】
例えば、条件Cmは、拡散異方を考慮してMPGパルスの様々な空間方位、および/または拡散効果の制約を考慮して(MPGの時間間隔および持続時間により定義される)様々な拡散時間である。
【0055】
第2のシグネチャ指標Sdistの第2の拡張はSCdistと表記され、ROIまたはボクセル内での異なる条件下の異なる注目b値b
k(m)で観察された2D配列信号パターンS
V(b
k(m),Cm)と、一般減衰モデルS
R(Cm)(b
k(m))を用いて基準状態組織Rについて測定または計算された2D配列信号パターンS
R(b
k(m),Cm)との間の任意の疑似距離を計算することにより
決定される、k(m)は条件Cmに対応する部分集合の注目b値の整数のランクを示す。
【0056】
例えば、第2のシグネチャ指標は、次式で定義される。
【数8】
ここに、G(b
k(m)),Cm)は[S
V(b
k(m),Cm)−S
R(b
k(m),Cm)]/S
R(b
k(m),Cm)の符号に応じて偶数または奇数の整数である。
【0057】
また、r個の基準組織Rjの集合Rsetを考えてもよく、jは基準組織を識別する1〜r(すなわちRsetの基数)の範囲の指標であり、各々の基準組織Rjは自身の2D配列信号パターンSRj(b
k(m),Cm)を有している。次いで、検査中の組織と各基準組織Rjとの間のr個のシグネチャ距離SCdist(V;Rj)の集合を次式で計算できる。
【数9】
【0058】
次いで、SCdistを用いて、検査中の組織の種類または組織の状態を、検査の前記組織に最も近いRsetの基準組織Rj
0の種類または状態として推定することができる。従って、j
0は次式で定義される基準組織指標である。
SCdis(V;Rj
0)=Min
j=1〜r(SCdist(V;R
j))
【0059】
従って、基準組織Rjの集合Rsetへの第3の疑似距離としての第2のシグネチャ指標Sdistの第3の拡張はSCdistset(V;Rset)と表記され、次式で定義できる。
SCdistset(V;Rset)=Min
j=1〜r(SCdis(V;R
j)) 式#7
【0060】
注目b値の部分集合が各々の取得条件Cmに応じて異なり得ることに注意されたい。
【0061】
図3、および
図1の上記方法の第1の変型例42によれば、2個の基準組織を考える場合、疑似距離に基づくシグネチャ指標すなわち第2種のシグネチャ距離Sdistを正規化すべくSnlと表記された第3種のシグネチャ指標が定義される。このため、注目組織の2個の較正または極状態P1、P2が、パラメータベクトル(p
N(i))が与えられた中性基準状態の近傍で与えられ、これらは第1の極基準モデルパラメータベクトル(p
P1(i))および第2の極基準パラメータベクトル(p
P2(i))に関連付けられている。これら2個の較正状態P1、P2は、第1のステップ12と第2のステップ14の間に挿入された補足的な第7のステップ44において
図2に示すように与えられる。
【0062】
例えば、組織の第1の較正状態P1と第2の較正状態P2の関係は、腫瘍組織の場合は「良性」対「悪性」組織、または治療中の組織対未治療の組織、または「休眠」対「活性」組織、または「正常」対「炎症」組織、または筋肉、心臓または脳白質組織等の異方性組織の場合は「第1の空間方位」にある組織対「第2の空間方位」にある組織、または脳皮質組織の場合は「第1種の細胞構造」組織対「第2種の細胞構造」組織の関係に対応している。
【0063】
より一般に、且つ解決すべき問題に応じて、第1の較正状態P1は生物学的特性をより高いレベルで特徴付けるのに対し、第2の較正状態P2は生物学的特性を低いレベルで特徴付ける。
【0064】
2個の極基準パラメータベクトル(p
P1(i))、(p
P2(i))は、事前較正ステップで得られた類似の組織状態の事前MRI画像から一般減衰モデルを用いて、または文献により既に確定した値から一度だけ取得され、第1の極および第2の極状態P1、P2並びに対応する基準モデルパラメータベクトル(p
P1(i))、(p
P2(i))は顕著に異なる。
【0065】
図4、すなわち
図1の方法2の第2の変型例52および
図3の方法42の第1の変型例52によれば、
図3の第2のステップ14を代替する第8のステップ54において、取得した画像から中性基準モデルパラメータベクトル(p
N(i))を
決定できない場合、当該ベクトルは、第1の極基準モデルパラメータベクトル(p
P1(i))と第2の極基準パラメータベクトル(p
P2(i))の平均として計算される。
【0066】
次いで各極基準モデルパラメータベクトル(p
P1(i))、(p
P2(i))に対して、基準組織として中性組織を用いて第2種の基準シグネチャ指数を一度だけ計算して、各々Sdist1、Sdist2と表記する。これら2個のシグネチャ指数は、実軸上でゼロの近傍に位置し、ゼロ値は中性基準組織ベクトルに対応している。
【0067】
次いで
図3、4の両方において、
図1のステップ22の変型ステップ56として、ボクセルSdist(V)の第2種のシグネチャ指標を基準Sdist1、Sdist2のシグネチャ指標と比較することにより、検査中の組織のROIまたはボクセルに対する正規化シグネチャ指標Snlと表記された第3種シグネチャ指標を得ることができる。第3種のシグネチャ指標Snlは、検査中の組織の、第1の較正組織P1または第2の較正組織P2のいずれかとの「近接度」に関する定量的情報を与える。例えば、第3のシグネチャ指標Snl(V)が次式で定義できる。
Snl(V)={max([Sdist(V)/Sdist1],0)−[max([Sdist(V)/Sdist2],0} 式#8
【0068】
上述の正規化シグネチャ指標Snlは、ボクセルの状態が中性状態であればゼロに等しく、当該組織が第1および第2の較正微細構造状態に類似している場合、逆符号を有している。組織ボクセルIVIM/非ガウス拡散MRIパターンが第1の極状態P1と、極めて類似している場合、その正規化シグネチャ指標は+1に等しく、一方、組織ボクセルパターンが第2の極状態P2に極めて類似している場合、その正規化シグネチャ指標Snlは−1に等しい。正規化シグネチャSnlが+1よりも大きい場合、検査中の組織が有する特徴(すなわち微細構造、生物学的特性等)が、第1の極状態の組織P1が有する特徴よりも顕著であることを意味する。逆に、正規化シグネチャ指標Snlが−1よりも小さい場合、検査中の組織が有する特徴(すなわち微細構造、生物学的特性等)が第2の極状態組織P2が有する特徴よりも顕著であることを意味する。正規化シグネチャ指標Snlが−1〜+1の範囲にあって、正ならば検査中の組織が第1の極状態組織P1の特徴の、または負ならば第2の極状態組織P2の特徴の一部しか共有していないことを意味する。
【0069】
第4の実施形態として、SIと表記された絶対指標が、正規化シグネチャ指標Snlを線形または非線形にスケーリングすることにより
決定される。一例として、中性状態では50、第1の極状態P1では75、および第2の極状態P2では25を中心とする線形大域的SIを与えるべく、第4のシグネチャ指標は次式で表される。
SI=(Snl+1)
*25+25 式#9
【0070】
スケーリングされた正規化シグネチャ指標SIが75よりも大きい場合、検査中の組織が有している特徴(すなわち微細構造、生物学的特性等)が第1の極状態組織P1が有している特徴よりも顕著であることを意味する。
【0071】
逆に、スケーリングされた正規化シグネチャ指標SIが25よりも小さい場合、検査中の組織が有している特徴(すなわち微細構造、生物学的特性等)が第2の極状態組織P2が有している特徴よりも顕著であることを意味する。スケーリングされた正規化シグネチャ指標SIが25〜75の範囲にあって、50よりも大きければ検査中の組織が第1の極状態組織P1の特徴の、または50よりも低ければ第2の極状態組織P2の特徴の一部しか共有していないことを意味する。
【0072】
図5に示すように、距離指標Sdistは更に、正規化処理により改良することができる。中性組織からの信号プロファイルが平坦(水平)になるように
図2から信号プロファイルを回転させることにより、「良性」組織の信号プロファイルが減少している一方、「悪性」組織の信号プロファイルが増大していることが容易に見て取れる。典型的悪性組織の距離を+1に、典型的良性組織の距離を−1に正規化することにより、観察対象組織を分類するための絶対スケール指標Snlが得られる。便宜上、Snlは更にS指標として、良性および悪性病変に対して例えば25〜75の間で再スケーリングすることができる。S指標が50を超えれば悪性病変が現れ、一方、良性病変のS指標は50未満である。S指標が50はるかに上回れば病変は極めて悪性であり、一方、25未満の極めて低いS指標を有する組織は正常な組織を反映している。
【0073】
組織の種類は、脳、頭部および頸部器官、胸部、前立腺、肝臓、膵臓、肺、心臓、筋肉または関節からなる器官の組織である。
【0074】
状態の種類は、病変組織対正常組織、腫瘍組織の場合は「良性」対「悪性」組織、または「治療中」の組織対「未治療」の組織、または「休眠」対「活性」組織、または「正常」対「炎症」組織、または筋肉、心臓または脳白質組織等の異方性組織の場合は「第1の空間方位」にある組織対「第2の空間方位」にある組織、または脳皮質組織の場合は「第1種の細胞構造」組織対「第2種の細胞構造」組織の関係を指していてよい。
【0075】
上述のシグネチャ指標の重要な利点は、これらの指数が減衰モデルの如何に依らず計算されて、モデルパラメータの推定を一切必要としないことである。一般モデルは、基準としての注目b値および信号値と、当該注目b値での状態組織を確定するためだけに用いる。IVIMおよび非ガウス拡散効果を考慮に入れる注目b値への信号の依存度を良好に推定する減衰モデルであれば充分である。
【0076】
図1、3および4に示すMRI法2、42、45の第1の適用例によれば、胸部組織を考慮しており、一般減衰モデルは、Iima M.他による第2の論文(Ref.#4)に記述されているIVIM/尖度モデルである。
【0077】
信号減衰を記述しているモデル関数f1(x)は次式で表される。
【数10】
ここに、S
0はゼロに等しいbに対して拡散重み付け無しで得られた信号、
f
IVIMは組織内の非干渉的血流の体積比率、
D
*はIVIM効果に関連付けられた疑似拡散係数、
ADC
0はbが0に近づくに従い得られる仮想見かけ拡散係数、
Kは尖度パラメータK、
NCFは固定ノイズ補正係数である。
【0078】
一例として、且つ乳癌における悪性および良性病変に対して上述で引用したIima他の論文に記述された以下の表1からのf
IVIM、ADCo、KおよびD
*の典型的な値を用いて、全体的減衰信号に対するこれらパラメータの各々の寄与度を、所定の範囲にわたりb値を変化させることにより、各々の程度の拡散増感について評価した。
【0080】
図6A、6Bに、減衰信号S
N(b)の大域的信号変化に対するモデルパラメータf
IVIM、D
*、ADC0およびKの相対的寄与度dS
i(b)のグラフ62、64、66、68、70、72、74、76を、これらの該パラメータを仮想中性胸部ヒト腫瘍状組織に対応するモデルパラメータ近傍で10%変化させた場合の各複数のb値50、100、200、400、800、1600、2400、3400について示している。
図6A〜6Bは、各パラメータの信号に対する相対的寄与度が、式#10から予想されるように、b値に強く依存すること示すが、f
IVIM、D
*、ADC
0およびKのうち1個のモデルパラメータに関連付けられ感度のグリッドおよび異なる横座標半軸に各々位置する4個の点で示す特定のb値の感度はこの限りではない。例えば、f
IVIM、D
*、ADCoおよびKについて最も敏感なb値は各々400、200、800および3400s/mm
2である。
【0081】
図7A〜7Bに、モデルパラメータを、
図6A、6Bで用いたのと同一の仮想中性胸部ヒト腫瘍状組織に対応するモデルパラメータの近傍で10%変化させた場合の、各モデルパラメータD
*、f
IVIM、ADC
0およびKに対する全体的IVIM/拡散信号の微分感度dS
i(b)のb値にわたる変化を示す。
図7Aにおいて、b値は、横座標軸82上に描かれ、区間[0、3400s/mm
2]にわたり変化しており、異なるモデルパラメータD
*、f
IVIM、ADC
0およびKの百分率で表す寄与度を、同一縦座標軸94を用いて、各々異なる切片84、86、88、90として透視図法で示している。
図7Bは、
図7Aのb値が区間[0、600s/mm
2]にわたり変化した場合の拡大図である。
【0082】
図7A、7Bから、1600〜2400の範囲のb値が、ADCoおよびKの顕著な寄与度を検出するための注目b値としての適当な候補であることが分かる。また、ADCoおよびKの変化が、全体的信号に対してf
IVIMおよびD*よりもはるかに大きな影響を及ぼすことが分かり、拡散がIVIMよりも潜在的に大きい診断値を有していることを示唆する。
【0083】
上述の微分感度に基づいて、「注目b値」と呼ばれるいくつかのb値が、異なる組のIVIM/拡散パラメータ値を有していると仮定すれば、IVIM/拡散パラメータに対する感度を最大化し、従って組織を最適に識別するものと考えられる。
【0084】
候補注目b値の第1のリストを作成して、
図7A、7Bに示す大きい矢印で示すことができる。
【0085】
一例として表1からのデータ、および
図8に示す全てモデルパラメータに対する全体的減衰信号のb値にわたる感度の変化102の合成図を用いて、注目b値の離散的且つ小サイズの集合を識別することができる。100〜200s/mm
2の近傍でLbと表記された1個の「低い」注目b値をIVIMに用いることができ、一方、1400〜1800s/mm
2の近傍でHbと表記と表記された「高い」注目b値を非ガウス拡散に用いることができる。3400s/mm
2を上回るb値は高い組織識別能力も備えているが、そのような高いb値で取得された信号は一般に典型的な商用MRIスキャナでは極めて低くなることに注意されたい。式#10で表した尖度モデルもまた、極めて高いb値で失敗することが知られている。また、いくつかのb値、例えば0〜400s/mm
2の範囲のものは組織状態に全く反応しないように見える。
【0086】
要約すれば、ある種類の組織(ここでは胸部ヒト腫瘍組織)の特性(ここでは悪性)の程度を識別する観点からの組織状態の識別は、例えば上で引用したIima M.他による第2の論文(Ref.#4)に報告されている16個のb値と比較して極めて小規模なb値の集合(2または3個の注目b値)から得ることができ、その際にIVIM/拡散パラメータの評価を必要とするが、本発明の方法ではその必要がない。
【0087】
その結果、取得時間を劇的に短縮することができ、これは特に医療現場において非協力的な患者の場合に重要な関心事である。
【0088】
図8の例では、各々参照符号104、106で示す2個の選択された注目b値は200および1500s/mm
2に等しい。
【0089】
注目b値が識別されたならば、表1のデータと、悪性腫瘍組織、良性腫瘍組織、並びに悪性S
Mと良性S
B組織信号間の信号差dS
M,B(b)=[S
M,B(b)−S
N(b)]/S
N(b)、および仮想「中性」組織信号S
Nを示す各信号の典型的状態M、S、Nの減衰モデルの式#10とを用いて、典型的信号SM(b)、SB(b)およびS
N(b)を一度だけ計算することができる。良性病変が高f
IVIM、低ADCoおよび高K値(Kの有効寄与度の方がADCoの有効寄与度よりも高い)により特徴付けられるのとは逆に、悪性病変が低f
IVIM、高ADCoおよび低K値により特徴付けられるため、dS
M>0且つdS
B<0である予想される。
【0090】
ここで正規化シグネチャ指標Snl(V)を、観察対象組織において測定された信号S
Vに対して次式で定義できる。
【数11】
ここに、組織信号S
V(b)はS
V(0)で除算することで1に正規化され、dS
V(b)=[S
V(b)−S
N(b)]/S
N(b)である。
【0091】
[dSX(Hb)−dSX(Lb)]、但しX=V、MまたはBもまた組織Xの第2種のシグネチャ指標Sdist(X)を表すことに注意されたい。
【0092】
悪性腫瘍組織の場合Slnは0より高く、特に表1の典型的悪性組織Mの場合Sln=1であり、一方、良性腫瘍組織の場合Snlは0より低く、特に表1の典型的良性組織Bの場合Snl=−1である。正規化シグネチャ指標Slnは中性(未定)腫瘍組織の場合0に等しい。
【0093】
図9に示すように、第3の正規化シグネチャ指標Slnは更に、式:SI=(SI+1)
*25+25で定義される第4種のシグネチャ指標SIとして、仮想中性腫瘍組織Nの場合SIが50を中心とし、典型的悪性腫瘍組織Mの場合SI=75、および典型的良性腫瘍組織の場合SI=25であるように線形にスケーリングすることができる。正常な、すなわち腫瘍病変の無い組織の場合、SIは0〜20の範囲にあり、嚢胞性病変または胸管の液体の場合は0を下回る一方、極めて悪性な組織ではSIは100よりもはるかに高くなり得る。
【0094】
上で引用したIima M他による論文(Ref.#4)のデータ結果から、平均SIが悪性病変では76±34、良性病変では31±34であることが分かっている。
【0095】
本発明の方法の第2の適用例および検証例として、悪性腫瘍組織(M)、良性腫瘍組織(B)、仮想中性組織(N)に対応する典型的減衰信号の同一モデルパラメータを用いて、ヒト胸部腫瘍病変の場合に用いたものと同一のIVIM/尖度モデルをヒト頭部および頸部腫瘍のケースにも用いて、同一注目b値が得られた。これらのデータは、2015年6月に開催される次回ISMSM会議で公開および発表予定のIima M.他による第3の論文から抽出したものである。この研究でのS指標の全体的性能(AUC)は、0,89(感度88.9%、特異度84.2%;PPV(すなわち陽性的中率)88,9%、NPV(すなわち陰性的中率)84,2%であって、ADC
0、K、f
IVIMのAUC(各々0.85;0.83;0.58)よりも高い。
【0096】
本発明の方法の第3の適用例および検証例として、ヒト胸部腫瘍病変のケースで用いたものと同一であるが、悪性腫瘍組織(M)、良性腫瘍組織(B)、仮想中性組織(N)に対応する典型的減衰信号モデルパラメータに関して異なるデータに基づくIVIM/尖度モデルをネズミの脳腫瘍データのケースに用いた。これらのデータは、Iima M.他による第1論文(Ref.#3)から抽出したものである。これらのデータを用いて、表1を以下の表2で代替する。
【0098】
これらの新たなデータに基づいて、ここでの2個の注目b値は低注目b値Lbに対して200s/mm
2、高注目b値Hbに対して1600s/mm
2である。ヒト胸部腫瘍組織のケースと同様に、典型的信号SM(b)、SB(b)およびS
N(b)は、表2のデータおよび減衰モデルの式#10を用いて一度だけ計算することができる。
【0099】
次いで、2個の注目b値LbおよびHbで得られた信号(ボクセルまたはROIレベルで)だけを用いて、組織の性質を示唆する絶対シグネチャ指標SIを導いて、カラースケール132に従い、
図11に示すカラーマップ134、136、138、140、142、144に示すことができる。スカラーシグネチャ指標SIは、これらの基準組織が有している特性または特徴の程度の観点から典型的または基準組織(例:悪性、良性、液体等)の信号パターンへの病変信号の「近接度」を反映している。
【0100】
図10に、4個の切片としての4個の例示的SIマップ134、136、138、140および対応する3Dレンダリング142、144がネズミの脳9L神経膠腫モデルにおける腫瘍不均一性を示す。参考としてT2W切片146および組織切片148(CD31染色)を示している。
【0101】
より一般的には、使用したモデルがIVIM/尖度モデルであり、注目b値の集合の基数が2であって低注目b値Lbおよび高注目b値Hbを含む場合、ボクセル(Snl(V)の正規化シグネチャ指標Snlは次式で計算される。
【数12】
ここに、X=V、P1、P2、およびb=Hb、Lbに対してdS
X(b)=[S
X(b)−S
N(b)]/S
N(b)である。
【0102】
S
P1(b)、SP
P2(b)、S
N(b)は、各々が既にモデルおよびそれら各々の第1の極基準モデルパラメータベクトル(p
P1(i))、第2の極基準パラメータベクトル(p
P2(i))、および中性基準モデルパラメータベクトル(p
N(i))により識別された第1の実状態P1、第2の実状態P2、および中性状態に対応する信号であるため、信号値S
P1(Lb)、S
P2(Lb)、S
N(Lb)、S
P1(Hb)、S
P2(Hb)、S
N(Hb)を計算することができ、また、
S
V(Lb)は低注目b値Lbで取得されたMRI画像のボクセルの測定信号を表し、S
V(Hb)は高注目b値Hbで取得されたMRI画像のボクセルの測定信号を示す。
【0103】
正規化シグネチャ指標Snlは、較正機能により線形的または非線形的にスケーリングされて絶対シグネチャ指標SIを与えることができる。一例として、中性状態の場合は50、第1の極状態P1の場合は75、第2の極状態の場合は25に中心がある線形大域的SIを与えるべく、第4のシグネチャ指標は次式で表される。
SI=(Snl+1)
*25+25
【0104】
シグネチャ指数が75よりも大きい場合、検査中の組織が有している特徴(すなわち微細構造、生物学的特性等)の方が第1の極状態組織P1が有している特徴よりも顕著であることを意味する。
【0105】
逆に、スケーリングされた正規化シグネチャ指標SIが25よりも小さい場合、検査中の組織が有している特徴(すなわち微細構造、生物学的特性等)が第2の極状態組織P2が有している特徴よりも顕著であることを意味する。スケーリングされた正規化シグネチャ指標SIが25〜75の範囲にあって、50よりも大きければ検査中の組織が第1の極状態組織P1の特徴の、または50よりも低ければ第2の極状態組織P2の特徴の一部しか共有していないことを意味する。
【0106】
実際には、正規化シグネチャ指標Snlまたは絶対シグネチャ指標SIは、ボクセルレベルで、または手動あるいは自動的に設けられた注目領域(ROI)内で得られる。ROIレベルで、SnlまたはSI上の統計値もまた、Iima他により発表予定の第3の論文に示すように、ヒストグラム(例えば、病変の悪性および不均一性の情報、非対称度および尖度を与える、病変内の平均および標準偏差、SI>50の病変体積を考慮に入れた悪性転化)を用いて導くことができる。1ボクセル毎のS指標に基づく病変のカラーコード化されたマップおよび3Dレンダリングをも生成して病変の顕著性および不均一性をより見やすくする、または生検部位へ向けて空間内で誘導することができる。
【0107】
本発明は、組織特徴に対する感度のために最適化された極めて限定的な「注目」画像の集合しか必要とせず、従って取得時間も極めて短くなる。更に、パラメータ推定値を得るために信号時間曲線と信号の巨大なデータベースとのマッチングは行わず、拡散パラメータを推定する必要無しに、少数の「極基準」画像信号を少数の典型的組織とマッチングするだけであるため、データ処理が迅速になる。
【0108】
複雑な式を用いる反復的な計算を必要とするMRI信号の完全フィッティングに基づく現行方式とは逆に、S指標の計算は直接且つ直線的であるため、処理時間が極めて短くなり、実時間処理に適している(S指標の結果は患者が依然としてMRIスキャナを装着している間に得られ、その結果に応じて追加的な走査を実行する機会が与えられる)。
【0109】
更に、IVIM/拡散MRIに基づく本方法には、造影剤を必要とせずに高い精度で病変の半自動的診断を行える潜在的可能性があり、これは腎性全身性線維症(NSF)のリスクにさらされた患者にとって重要な利点である。この方式には、胸部、前立腺、頭部および頸部、膵臓および肺癌病変の診断への大きな潜在的可能性がある。
【0110】
本方法の第4の適用例によれば、組織内の血管の識別は、それらの「シグネチャ」、すなわちb=0〜b=100s/mm
2の範囲のIVIM/拡散MRI信号の信号減衰がIVIM効果に起因して90%を超えることに基づいて行うことができる。方法42の第1および第2の適用例に関して、IVIM/尖度モデルを用いることができる。しかし、当該ケースのように、低注目b値がLb=0に設定されているのに対し、高注目b値はHb=100s/mm
2に過ぎない。ここで、極めて高い、例えば3
*10
−3mm
2/sよりも大きいADCを有するボクセルは、太い血管を含むものとしてフラグが立てられる。また、太い血管を含むボクセルを第1の極基準組織と見なし、太い血管を含まないボクセルを第2の極基準組織と見なすことにより、正規化された、またはスケーリングされた正規化シグネチャ指標を用いてもよい。用いるシグネチャ指標の種類に依らず、このような血管を含むボクセルにフラグを立てて病変から除去して、(シグネチャ指標法または他の任意の分析法、例えばIVIM/非ガウス拡散モデルのパラメータフィッティングを用いて)より正確な組織分析を行うか、または
図11の3DIVIM血管造影図に示す3DIVIM血管造影図の生成に用いることができる。本例の正常なヒト胸部組織で得られた血管造影図は正常組織よりも暗い血管152を示す。本発明には、造影剤を必要とせずに高い精度で血管造影図を生成できる潜在的可能性があり、これは腎性全身性線維症(NSF)のリスクにさらされた患者にとって重要な利点である。
【0111】
シグネチャ指標SlnまたはSIの他の分野での適用例として磁気共鳴(MR)弾性画像がある。
【0112】
文献米国特許第5、899、858A号明細書(Ref.#12)に記述されているように、従来の方法は、機械的振動により誘起されたMRI信号の位相シフトに依存している。機械的振動は最初、一般に25Hz〜500Hzの範囲にある所定の周波数で外部ドライバを用いて観察対象組織内で誘起される。これらの振動は組織の弾性(ヤング率、剪断剛性)に依存する速度で伝搬する剪断波を組織内で誘起する。次いで、剪断波は、IVIMおよび拡散MRIに用いたものと同様の傾斜磁場パルスが存在する状態で生起し、且つ機械的振動と同一周波数で振動した際にMRI信号の位相シフトを誘起する。
【0113】
次いで、傾斜磁場の極性を交替させることにより2個の測定値が得られ、その結果生じた位相画像を減算して組織内を伝搬する機械的波を反映した位相シフトマップを生成する。数サイクル(典型的には8サイクル)にわたり測定を繰り返すことにより、伝搬する波の空間波長λを推定することができる。次いで以下の関係に基づいて剛性率μを計算して1ボクセル毎に撮像することができる。
μ=ρ.(fλ)
2 式#13
ここに、fは振動周波数およびkg/l単位の組織密度である。
【0114】
このような従来の方式にはいくつかの短所があり、特に複数の波を記録する必要があるため取得時間が長く、長い波長に対応するには空間分解能が限られ、3個のデータセットの複数の切片を取得する際の同期化が困難であり、特に位相接続画像の再構築アルゴリズムが複雑で長時間を要する。
【0115】
図12に示すように、IVIMMRE法と表記する本発明によるMRE法の基本的な方式は、傾斜磁場パルスが存在する場合、各ボクセル内の振動または剪断波が誘起した位相分散がIVIM効果と同様に信号振幅の減少の原因であると考えることである。点164に示す低い剛性率に付随する空間的に急峻な波は、同図の点168(b=100s/mm
2で低い信号減衰170を示す)に示す高い剛性率に付随する空間的に滑らかな波よりも強いMR信号減衰166(b=100s/mm
2で考える)を生成するため、特定の処理を一切必要とせずに強度画像にコントラストが「自然に」生じる。
【0116】
b値(b)に対して所与のボクセル内の位置[r(r+p)](pはピクセルサイズ)で振動により誘起された信号振幅減衰S(b)/Soは、次式で計算することができる。
【数13】
ここに、fは振動周波数、εは振動の振幅、θは振動の位相オフセット、λは空間波長、およびNは傾斜磁場の周期の個数である。
【0117】
式#13で表される剛性率μと空間波長λの関係を用いて、式#14の空間波長λを次式で代替することができる。
【数14】
【0118】
減衰の程度は、組織弾性および取得パラメータ(注目b値、ピクセルサイズ、振動周波数および振幅)に依存する。
【0119】
腫瘍または病変が一般に正常組織よりも大きい剛性率を有することを考慮して、正常組織内の信号を相殺する一方で病変信号は僅かにしか減らさないことで病変を剪断剛性に基づいて顕著に可視化する振動の適切な周波数範囲を見出すことができる。
【0120】
この「強度」効果に対して、「Magnetic Resonance in Medicine,2003,50:1256−1265(Ref.#13)」に発表されたGlaser K.J.他による論文「Shear Stiffness Estimation Using Intravoxel Phase Dispersion in Magnetic Resonance Elastography」または文献US5,825,186A(Ref.#14)に以前から記述されていたが、「位相」方式は現時点でも標準的方法であることに注意されたい。
【0121】
「振幅」に基づく方法が実際には用いられて来なかった理由の一つは、式#14を反転して弾性率μを信号減衰から定量的に取得することが困難な点である。更に、上述の二つの参考文献に記述されている方法はIVIMと拡散効果の両立を考慮していないため、MR信号の減衰をもたらし、弾性の
決定に誤差が生じる恐れがあるためである。
【0122】
図13によれば、IVIM磁気共鳴弾性画像法172は、第1、第2、第3、第4および第5のステップ174、176、178、180および182の集合を実行することにより、ROIまたはボクセル内の組織弾性または剪断剛性の画像および測定値を取得するものである。
【0123】
第1のステップ174において、上述のIVIM/弾性画像効果に基づいて2個の注目b値を、式#14を必要に応じて式#10と組み合わせて一般IVIM/弾性画像減衰モデルとして用いて選択する。
【0124】
IVIM/弾性画像効果とIVIM/非ガウス効果は独立しており、全体的な信号減衰は両者の減衰効果の積である。高注目b値は例えば約Hb=100s/mm
2であり、一方、低注目b値はLb=0に設定されている。このように低いHb値では、IVIM/弾性画像効果に関してIVIMと拡散効果は通常無視できるため、式#14だけで受容可能な一般信号減衰機能を表すことができる。
【0125】
第1のステップ174において、弾性シグネチャ指標eSIの計算を実行すべく、第1の実状態にP1および第2の実状態P2に各々対応する第1の極基準モデルパラメータベクトル(p
P1(i))および第2の極基準パラメータベクトル(p
P2(i))が与えられる。第1の実状態P1は、所定の高い剛性を有する第1の基準組織の微細構造状態であり、一方、第2の実状態P2は所定の低い高い剛性を有する第2の基準組織の微細構造状態である。第1の極基準モデルパラメータベクトル(p
P1(i))および第2の極基準パラメータベクトル(p
P2(i))は、方法172を実行する前に、所定の剪断波周波数で誘起された剪断波が搬送する事前較正処理を行う間に既に一度だけ識別されている。シグネチャ法の利点は、弾性シグネチャ指標がIVIMおよび拡散効果を必然的に考慮することである。
【0126】
しかし、Hbが充分低い特定のケースにおいて、IVIMおよび拡散効果が無視でき、パラメータベクトルが、所与の周波数での弾性率μまたは異なる振動周波数での弾性を表す値の集合のような弾性パラメータに縮退される。
【0127】
次いで、第2のステップ176において、一般に25Hz〜500Hzの範囲にある所定の周波数で外部ドライバを用いて観察対象組織内で機械的振動が誘起される。これらの振動は組織弾性(ヤング率、剪断剛性)に依存する速度で伝搬する剪断波を組織内で誘起する。次いで、剪断波は、IVIMおよび拡散MRI用いたものと同様の傾斜磁場パルスが存在する状態で生起し、且つ機械的振動と同一周波数で振動した際にMRI信号の位相シフトを誘起する。
【0128】
次いで、依然として第2のステップ176が実行されている間、第3のステップ178において、2個の注目bで構成された傾斜磁場パルスMRIシーケンスを用いて組織の視野(FOV)内のモジュラスMR画像の集合を取得する。
【0129】
次いで、第4のステップ180において、ヒト胸部腫瘍組織の悪性の程度、またはネズミの脳腫瘍組織の悪性の程度に関する正規化指標Snlを
決定すべく実行したのと同様に、式#14を式#10と組み合わせて用いて一または複数の振動周波数での極基準モデル信号パターンと、Sdist1およびSdist2の対応する値とを
決定することにより、ボクセル1個毎に、またはボクセルの集合を含む所定の注目領域(ROI)毎に、所定の周波数でのROI/ボクセルの弾性シグネチャ指標eSnlを
決定する。正規化指標eSnlから、線形または非線形較正変換を用いて、スケーリングされたシグネチャ指標eSIを導くことができる。このケースでは弾性率が画像から正式には計算されていないものの、絶対スケールが剪断剛性または弾性率の程度を表す。
【0130】
例えば、第1の極状態P1の剛性率が75000Pa、第2の極状態P2の剛性率が25000Paである場合、第1の粗い近似でシグネチャ指標の剛性率への線形依存性を仮定して、弾性シグネチャ指標eSIを次式のように定義できる。
eSI=(eSnl+1)
*25000+25000 式#16
【0131】
オプションの第5ステップ182において、
決定されたシグネチャeSIを用いて画像を1ボクセル毎に生成して表示する。
【0132】
方法172の更なる改良において、(π/2)の間隔が空けられた位相オフセットθを有する二組の取得された画像を、弾性指標eSIを計算する前に平均化することができる。当該ステップは、(π/2)の周期で伝搬する波の方向に沿って空間内で画像内の信号振幅を変調するため、時折IVIM/弾性画像に見られる所謂「ベネチアンブラインド」効果を減らす。
【0133】
IVIMMRE法172において、ボクセルV内の組織の弾性を反映するシグネチャ指標が、弾性率の計算を必要とせずに得られる。
【0134】
文献US5,899,858に記述された従来の位相シフトMR弾性画像法とは逆に、本発明によるIVIMMR弾性画像法172ではいくつかの短所、特に複数の波周期を記録する必要があるため取得時間が長く、長い波長に対応するには空間分解能が限られ、3個のデータセットの複数の切片を取得する際の同期化が困難であり、特に位相接続画像の再構築アルゴリズムが複雑で長時間を要することが避けられる。
【0135】
図14に、仮想弾性画像を生成する磁気共鳴弾性画像エミュレーション方法192を示す。
【0136】
弾性シグネチャ指標が剪断弾性率μを反映すると仮定すれば、式#14を用いてコントラストがS(b)/S0減衰に基づくマップを計算することにより、取得パラメータ(注目b値、ピクセルサイズ、振動周波数および振幅)の任意の組み合わせに対して仮想IVIM/弾性画像を生成することができる。各ボクセルに対する仮想信号減衰を、剪断弾性率μとして弾性シグネチャ指標を用いて式#14、#15から計算する。本エミュレーション方法により、追加的な実データの取得を必要とせずに仮想弾性画像を取得することができる。例えば、本方法では所与の周波数で得られたデータを用いて任意の振動周波数に対して仮想弾性画像を生成できるため、取得時間が劇的に短縮される。エミュレーション方法192はまた、例えばあるピクセルサイズまたは振動周波数、あるいは(例えば組織が体内の深過ぎる位置にあるため)機械的制約のため到達できない振幅に必要とされる磁場傾斜強度に対して技術的に利用可能な値を越える取得パラメータに対する仮想弾性画像を生成することができる。
【0137】
一般に、仮想弾性画像を生成する磁気共鳴弾性画像エミュレーション方法192は、第1のステップ194および第2のステップ196を含んでいる。第1のステップ194において、観察対象組織に関する弾性シグネチャ指標の一または複数のマップが与えられる。次いで、第2のステップ196において、減衰信号が剪断剛性および周波数に依存するMRE減衰モデルを用いることにより、且つマッピングされた剪断剛性をMRE減衰モデル内のマッピングされた弾性指標で代替することにより、観察対象組織の弾性画像を異なる振動周波数および/または振幅でシミュレートして表示する。これらの画像は、組織剪断剛性により変動するコントラストを有している。
【0138】
仮想弾性画像を生成する上述の能力は更に、外部の振動が全く利用できないケースにも拡張することができる。「JMRM2015,41:654−664(Ref.#15)」におけるAlkalay R.N.他による論文「MR Diffusion is Sensitive to Mechanical Loading in Human Intervetebral Disk Ex Vivo」において組織の弾性と組織の水中拡散特性との間に何らかの関連が予想されることが記述されているように、組織の弾性と組織の水中拡散特性との間に何らかの関連が予想されることに注意されたい。
【0139】
非ガウス拡散が組織の微細構造と密接に関係するため、シグネチャ指標SIが、またはシグネチャ指標sADCさえも剛性率μに密接に関係していると考えることができる。注目b値で取得されたデータだけを用いて、方法42により(すなわち機械的振動を一切使用せずに)取得された正規化シグネチャ指標Snlを、正規化シグネチャ指標Snlと剪断剛性μをμ=g(Snl)式#17のように関連付ける所定の変換関数g(.)、またはシグネチャ指標sADCと剪断剛性μをμ=h(sADC)のように関連付ける所定の変換関数h(.)に従い疑似弾性シグネチャ指標に変換することができる。
【0140】
所定の変換関数g(.)およびh(.)は単調な関数であって好適には一次関数である。
【0141】
図15に示すように、IVIM仮想弾性画像のシミュレーションは、患者から取得してIima M.他による第1論文から抽出した拡散画像から得られた9個の切片のSnlマップを利用することにより首尾よく実行された。
【0142】
これを示すため、μ=K
*eSl(式#15)等の簡単な直接的線形関係(Kは定数)を仮定しているが、他のモデルも可能である。
eSI=(Snl+1)
*25000+25000 式#18
【0143】
適当な周波数範囲内で、Snlが高いボクセルの方が、Snlが低いボクセルよりもはるかに明るく見える。極めて高い周波数では全てのボクセルが極めて低い信号を有するのに対し、極めて低い周波数では全てのボクセルに信号減衰が一切生じない。実際、振動周波数、振幅、b値、および(仮想)ボクセルサイズまでも較正することによりこの効果を強めたり弱めたりすることができ、病変不均一性の強調に役立つ新たなコントラストが生じる。
【0144】
図16に示す別の例によれば、仮想弾性画像が神経膠腫を発症させたマウスの脳で得られた(S.Meriaux、F.Geoffroy、E.Peres、NeuroSpinとの共同研究)。S指標は拡散画像よりも本質的に多くの情報を含んでいないにも拘わらず、600HZおよび770Hzでの仮想弾性画像は従来のT2または拡散MRI画像でさえ視認不可能な腫瘍浸入に対応する内部痕跡トラックを示す。仮想弾性は従って、旧来の弾性画像であっても仮想弾性特性に基づく拡散MRI画像内の構造を明らかにするフィルタとして現れるが、そのような高周波数は現行装置では得られないため他の方法では視認不可能であった。
【0145】
従って、Snl(またはSI)から、位相および振幅方式の両方に対してMREの実験条件を再現する仮想磁気共鳴弾性画像を生成することが可能である。
【0146】
図17によれば、
図14のMREエミュレーション方法192のこのような変型例198において、第1のステップ194が第3のステップ200で代替され、第2のステップ196が第4のステップ202で代替されている。
【0147】
第3のステップ200において、IVIM/非ガウスフレームワークから得られた正規化シグネチャ指標Snlまたはシグネチャ指標sADCの一または複数のマップが与えられて、正規化シグネチャ指標Snlと剪断剛性μをμ=g(Snl)式#17のように関連付ける所定の変換関数g(.)、またはシグネチャ指標sADCと剪断剛性μをμ=h(sADC)のように関連付ける所定の変換関数h(.)に従い剪断剛性マップに変換される。
【0148】
所定の変換関数g(.)およびh(.)は単調な関数であって好適には一次関数である。
【0149】
第4のステップ202において、観察対象組織の仮想弾性画像は、MRE減衰モデルを用いて、取得パラメータ(振動周波数および振幅、ボクセルサイズ、MPG振幅および持続時間)の任意の組み合わせを用いて、および正規化シグネチャ指標SnlまたはsADCマップから
決定された剪断剛性マップを用いて、1Hz〜10000Hzの範囲にある任意の所与の周波数fでシミュレートされて表示される。
【0150】
図18に示すように、異なる程度の肝臓狭窄を示す9人の患者群で事前結果が得られた(山梨大学市川教授との未発表の共同研究結果)。カラースケーリングされたS指標画像は、従来の(機械的)肝臓弾性画像により検証されたように、肝臓弾性特性を密接に反映している。例えば、重度肝線維症(F4)を発症した患者のS指標は約90〜95であり、約5.5〜6.5kPaである実際の剪断剛性に対応している。一方、軽度肝線維症(F1〜F2)を発症した患者のS指標値は約65であり、約2.5〜3.5kPaである実際の剪断剛性に対応している。剪断剛性が約4.5kPaの中度段階(F3)を発症した患者のS指標は約70〜75であった。
【0151】
上述の患者群において、sADCとμとの間に更に強い線形関係μ(kPa)=14.46−13274sADC(mm
2/s)が見出された。従って、全ての患者についてステップ6で得られた肝臓sADCから推定される肝臓剪断剛性は、
図16に示すように、実際の(機械的)MR弾性画像測定から得られた実際の剪断剛性に極めて近かった。
【0152】
上述の方式(仮想MR弾性画像)の利点は以下の通りである。
− 外部の機械的振動を用いる必要が無いため、深い箇所の器官の検査が可能であり、
− 追加的な画像取得の必要が無く、
SIの計算用に注目b値での拡散増感された画像だけが必要であり、剪断波の方向は拡散符号化に用いる傾斜磁場パルスの方向と同一であり、
− 仮想弾性画像が、空間分解能および多切片/3D取得能力に関してIVIM/拡散(実)画像と同一の特徴を有し、
− 信号振幅減衰に基づく仮想MR弾性画像は、本質的にIVIM/拡散効果の補正機能を有し、
− 背景位相効果が無く、位相再構築アルゴリズムが不要であり、
− 最適なコントラストを得るべく任意の範囲の(仮想)振動周波数、およびMRIスキャナ傾斜ハードウェア制約を潜在的に超える任意の範囲の傾斜強度に対して仮想MR弾性画像を実時間で生成可能である。
【0153】
図19によれば、ある種類の組織を敏感に表す、またはある種類の組織の微細構造または生物学的状態を表す、観察対象組織の一または複数のシグネチャ指標を、観察対象組織の傾斜磁場パルス磁気共鳴画像(MRI)から
決定する装置302は、傾斜磁場パルス磁気共鳴撮像動作を行う高分解能且つ高精度で制御する磁気共鳴撮像スキャナ304と、スキャナ304を操作してスキャナ304により取得された撮像データを処理する手段306とを含んでいる。
【0154】
磁気共鳴撮像スキャナ304は、部分集合の
決定された注目b値を取得すべく構成された傾斜にプログラムされた同一の傾斜磁場パルスシーケンスを用いることにより、視野(FOV)内にある観察対象生物組織のMRI画像の集合を、取得すべく構成されている。
【0155】
スキャナを制御して当該スキャナにより取得された撮像データを処理する手段306は、格納手段308、処理手段310および、表示手段312を含んでいる。
【0156】
格納手段308は、
− 観察対象の種類の組織を表し、ボクセル内非干渉運動(IVIM)および/または非ガウス信号パターンに適していて、傾斜減衰係数bおよび当該種類の組織および微細構造状態を特徴付けるNP個のモデルパラメータp(i)の第1の集合に依存するモデル関数f(b)により表され、前記モデルパラメータp(i)がモデルパラメータベクトル空間を定義する、拡散MRI減衰信号S(b)の一般減衰モデルと、
− 一般減衰モデルを介して中性基準モデル拡散MRI減衰信号S
R(b)を定義する、組織の中性または平均的状態あるいは特定の状態に対応する基準モデルパラメータベクトル(p
R(i))とを格納すべく構成されている。
【0157】
基準モデルパラメータベクトル(p
R(i))は一般に、組織の基準状態に対応している。
【0158】
処理手段310は、
− 各モデルパラメータp(i)に対し、中性基準モデル拡散MRI減衰信号S
R(b)における前記モデルパラメータp(i)に対する一般モデル拡散MRI減衰信号S(b)の部分微分感度dS
i(b)を、ゼロから所定の最大値b
maxまでの範囲にあるb値の所定の区間にわたり最大化する注目b値を
決定し、
− NP個の注目b値から、組織の種類および/または微細構造あるいは生物学的状態への特徴付けにおける重要度が低いモデルパラメータに関連付けられた注目b値を除外することにより、注目b値部分集合を
決定し、
− ボクセル1個毎に、またはボクセルの集合を含む所定の注目領域(ROI)毎に,
ボクセルVのシグネチャ指標(sADC(V)、Sdist(V)、Snl(V)、SI(V))、すなわち注目b値の部分集合における注目b値で取得されたボクセル(群)信号に依存するスカラー関数であるシグネチャ指標を、ROIまたはボクセルV内に存在する微細構造状態および当該種類の組織を表す実数として
決定すべく構成されている。
【0159】
シグネチャ指標を定義するスカラー関数が、注目b値の部分集合で得られたボクセル信号に直接依存し、観察対象組織の一般減衰モデルを一切用いないことに注意されたい。
【0160】
コンピュータソフトウェアは、スキャナを制御してデータを処理する手段306にロードされた後で実行されて
図1、
図3、
図4、
図12および
図14に記述したステップを部分的または完全に実行する命令の集合を含んでいる。
【0161】
MRIデータを処理するステップ群が、専用コンピュータソフトウェアを介してMRIスキャナコンソールとは異なる独立コンソール上で実行できることに注意されたい。
【0162】
上述の新たな方式により、取得および処理時間が劇的に短縮される。複雑な数式を用いる反復的計算を必要とするMRI信号の完全フィッティングに基づく現行方式とは逆に、S指標の計算は直接且つ直線的であるため、処理時間が大幅に短縮されて実時間処理に適している。実時間処理は、患者が依然として撮像装置を装着している間に結果が得られ、既に得られた結果に応じて追加的な走査を行う機会を与える処理として理解される。
【0163】
IVIM/拡散MRIの分野において、本発明による、および上で述べた組織の種類を分類する方法の可能な適用例は以下の通りである。
− 悪性/良性病変の自動認識、
− 治療効果の追跡に役立つ悪性転化指標すなわち悪性SIを有する病変体積の計算、
− 往々にして腫瘍体積を減少させる前に均質性を増大させる治療効果のアセス可能にするSIヒストグラム分析に基づく病変不均一性のアセスメント、
− 病変種類、例えば嚢胞、血管腫、組織の識別、
− IVIM血管造影法:何らかのリスクを伴う造影剤を用いずに血管造影図を生成可能な血管の認識、
− IVIM弾性画像:磁気共鳴弾性画像(組織剪断に基づく画像コントラスト)のエミュレーション、
− IVIM弾性画像:モジュラスIVIMMRE画像から導かれたSIマップを用いた実IVIMMRE弾性画像の生成。
【0164】
他のMRIモダリティにおける本発明の方法の可能な適用例として、コントラスト認識シグネチャに基づく悪性/良性病変の認識および組織の種類の識別によるコントラスト強調MRIがある。
【0165】
画像処理アルゴリズムを介した旧来方式のデータ処理の改良に関して、本発明の方法は、
− 偽(多ノイズ)信号値を含むボクセルを除外/補正する3Dクラスタリング、
− より標準的な分析の実行前のSI閾値に基づく病変の自動検出および描写、
− 病変特徴を表示する3D動画を含む、病変切片の高速表示および3Dレンダリング
を向上させる。