【実施例】
【0044】
実施例1
この実施例では、APE1/Ref−1がHIF1α媒介転写による低酸素シグナリングを制御する機序を分析する。さらに、腫瘍サイズおよび腫瘍増殖に対する、APE1/Ref−1阻害剤およびCA9阻害剤による併用処置の効果も分析する。
【0045】
材料および方法
細胞培養:細胞は、Jiang,Zhouら(2010)Cancer Investigation 28(9):885−895、Fishel,Jiangら(2011)Molecular Cancer Therapeutics 10(9):1698−1708、Cardoso,Jiangら(2012)PLoS ONE 10:e47462、Fishel,Wuら(2015)J Biol Chem 290(5):3057−3068に記載されているように、培養維持した。患者由来の腫瘍細胞およびCAF19細胞は、Anirban Maitra博士の研究室(ジョンズ・ホプキンス大学(The Johns Hopkins University))から得た(Jones,Zhangら 2008)。がん関連線維芽細胞UH1303−02は、Walter,Omuraら(2008)Cancer Biol Ther 7(6):882−888に記載されているように、患者腫瘍組織からアウトグロース法を使って単離した。すべての細胞株をSTR分析によって鑑定し(IDEXX BioResearch)、マイコプラズマ汚染について日常的にチェックした。低酸素曝露は、Ruskinn Invivo
2 200低酸素ワークステーションを使って達成した。APE1/Ref−1を過剰発現させるために、Kim,Guoら(2015)Mutat Res 779:96−104に記載されているように、CMV−EGFP−WT APE1/Ref−1およびCMV−EGFPレンチウイルスコンストラクトを使用した。イメージング用の細胞を検出するために、CMV−EGFPレンチウイルスコンストラクトを使用した。さらに、150pfu/細胞のpCL7TdTOMwoレンチウイルスベクターをPa03C細胞およびPanc10.05細胞と共に48時間インキュベートすることで、TdTomatoを安定に発現する細胞を作成した。
【0046】
ウェスタンブロット分析:ウェスタンブロットは、APE1/Ref−1(Novus Biologicals;コロラド州リトルトン)、HIF1α(GeneTex;カリフォルニア州アービン)、STAT1、STAT3(Cell Signaling;マサチューセッツ州ダンバーズ)、NFκB(アブカム(abcam);マサチューセッツ州ケンブリッジ)、CA9(サンタクルズ(Santa Cruz);テキサス州ダラス)およびビンキュリン(シグマ(Sigma);ミズーリ州セントルイス)に対する抗体で、Wang,Luoら(2004)Mol Cancer Ther 3(6):679−686、Fishel,Heら(2008)DNA Repair(Amst)7(2):177−186、Fishel,Colvinら(2010)Hematol 38(12):1178−1188、Jiang,Zhouら(2010)Cancer Investigation 28(9):885−895、Fishel,Jiangら(2011)Molecular Cancer Therapeutics 10(9):1698−1708、Cardoso,Jiangら(2012)PLoS ONE 10:e47462、Fishel,Wuら(2015)J Biol Chem 290(5):3057−3068に記載されているように行った。
【0047】
共免疫沈降:ピアス(Pierce)Co−IPキット(サーモサイエンティフィック(Thermo Scientific))を使用し、Fishel,Wuら(2015)J Biol Chem 290(5):3057−3068に記載の変更を加えて、試料を共免疫沈降した。
【0048】
トランスフェクション:PDAC細胞およびCAF細胞を、Wang,Luoら(2004)Mol Cancer Ther 3(6):679−686、Fishel,Heら(2008)DNA Repair(Amst)7(2):177−186、Fishel,Colvinら(2010)Hematol 38(12):1178−1188、Jiang,Zhouら(2010)Cancer Investigation 28(9):885−895、Fishel,Jiangら(2011)Molecular Cancer Therapeutics 10(9):1698−1708、Cardoso,Jiangら(2012)PLoS ONE 10:e47462、Fishel,Wuら(2015)J Biol Chem 290(5):3057−3068に記載されているように、APE1/Ref−1 siRNAでトランスフェクトした。使用したsiRNAは#1またはスクランブル対照(既報)および2つのLifeTech検証済siRNA(#2、s1445および#4、s1447)(Fishel,Wuら(2015)J Biol Chem 290(5):3057−3068)である。別段の指定がある場合を除き、APE1/Ref−1 siRNA#1を標準siRNAとして使用した。
【0049】
一過性ルシフェラーゼリポーターアッセイ:MIA PaCa−2細胞を、Luo,Delaplaneら(2008)Antioxid Redox Signal 10(11):1853−1867、Fishel,Wuら(2015)J Biol Chem 290(5):3057−3068に記載されているように、X−tremeGENE9 DNAトランスフェクション試薬(ロシュ(Roche)、インディアナ州インディアナポリス)を使って、上述のsiRNAと一緒に、HIF1αによって駆動されるルシフェラーゼを含有するコンストラクトおよびレニラ・ルシフェラーゼ対照リポーターベクターで同時トランスフェクトした。ホタル・ルシフェラーゼ活性およびレニラ・ルシフェラーゼ活性は、以前のように、デュアル・ルシフェラーゼ・リポーター・アッセイ・システム(Dual Luciferase Reporter Assay System)(プロメガ社(Promega Corp.))を使用することによってアッセイした(Luo,Delaplaneら(2008)Antioxid Redox Signal 10(11):1853−1867、Cardoso,Jiangら(2012)PLoS ONE 10:e47462、Fishel,Wuら(2015)J Biol Chem 290(5):3057−3068)。
【0050】
qRT−PCR反応:Fishel,Jiangら(2011)Molecular Cancer Therapeutics 10(9):1698−1708に記載されているように、CA9のmRNA発現レベルを測定するために、qRT−PCRを使用した。細胞を、低酸素(1%および0.2%O
2)の存在下または非存在下で、24時間にわたって、APE1/Ref−1 siRNAで処理するか、一連の量のAPX3330で処理した後、キアゲン(Qiagen)RNeasy Miniキット(カリフォルニア州バレンシア)を使って、全RNAを細胞から抽出した。第1鎖cDNA合成および定量PCRは、Fishel,Vaskoら(2007)Mutat Res 614(1−2):24−36、Jiang,Guoら(2009)DNA Repair(Amst)8(11):1273−1282、Fishel,Jiangら(2011)Molecular Cancer Therapeutics 10(9):1698−1708に記載されているとおりに行った。18S rRNA、RPLPO、およびB2Mを参照遺伝子として使用し、比較Ct法を使って、相対定量的mRNAレベルを決定した(LivakおよびSchmittgen(2001)Methods 25(4):402−408、Fishel,Vaskoら(2007)Mutat Res 614(1−2):24−36、Jiang,Guoら(2009)DNA Repair(Amst)8(11):1273−1282)。CA9用、18S用、RPLPO用、およびB2M用のプライマーは市販されている(アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems))。
【0051】
阻害剤:化合物は、以前に記載されたように調製し、使用した:APX3330(Luo,Delaplaneら(2008)Antioxid Redox Signal 10(11):1853−1867、Fishel,Colvinら(2010)Exp Hematol 38(12):1178−1188、Nyland,Luoら(2010)J Med Chem 53(3):1200−1210、Su,Delaplaneら(2011)Biochemistry 50:82−92)およびSLC−0111(ClinicalTrials.gov、Nishimori,Minakuchiら(2006)J Med Chem 49(6):2117−2126、Pacchiano,Aggarwalら(2010)Chem Commun(Camb)46(44):8371−8373、Lou,McDonaldら(2011)Cancer Res 71(9):3364−3376、Pacchiano,Cartaら(2011)J Med Chem 54(6):1896−1902、McDonald,Winumら(2012)Oncotarget 3(1):84−97、Supuran(2015)J Enzyme Inhib Med Chem:1−16、SupuranおよびWinum(2015)Expert Opin Drug Discov 10(6):591−597)。加えて、SLC−0111類似体FC13−555Aを以下に記載するように合成した。
【0052】
4−[3−(2−クロロ−5−ニトロ−フェニル)−ウレイド]−ベンゼンスルホンアミド FC13−555Aの合成
【0053】
【化4】
【0054】
スルファニルアミド 2(1.0等量)のACN溶液に1−クロロ−2−イソシアナト−4−ニトロ−ベンゼン 1(1.0等量)を加えた。その溶液を室温で3時間撹拌した。白色沈殿物が生成した。それを濾過によって収集し、ジエチルエーテルで摩砕し、減圧下で乾燥することにより、標題化合物を淡黄色固形物として得た。
4−[3−(2−クロロ−5−ニトロ−フェニル)−ウレイド]−ベンゼンスルホンアミド FC13−555A:収率89%;シリカゲルTLC R
f 0.28(酢酸エチル/n−ヘキサン 30%v/v);δ
H(400MHz,DMSO−d
6)7.28(2H,brs,D
2Oとの交換,SO
2NH
2),7.78(2H,d,J 8.8,ArH),7.83(3H,m,ArH),7.94(2H,d,J 8.8,ArH),8.82(1H,,brs,D
2Oとの交換,NH),9.21(1H,s,ArH),10.00(1H,s;ArH);δ
C(100MHz,DMSO−d
6)115.6,118.5,118.8,127.8,128.9,131.3,137.7,138.6,142.9,147.5,152.7;m/z(ESI−MS−正イオン)371.01(M+H);元素分析理論値:C,42.11;H,2.99;S,8.65;元素分析実測値:C,42.15;H,3.04;S,8.62。
【0055】
細胞増殖:単層におけるPDAC細胞増殖は、Fishel,Wuら(2015)J Biol Chem 290(5):3057−3068に記載されているように、アラマーブルーアッセイを使って測定した。APX3330およびSLC−0111で処理した細胞を6日間にわたって低酸素に曝露してからアラマーブルー試薬(インビトロジェン(Invitrogen))を添加し、続いて蛍光分析を行った。倍率変化は、正常培地中で成長する細胞と比較した、表示の阻害剤で処理した細胞についての蛍光の読みを表す。
【0056】
pHアッセイ:細胞内pHは、pHrodo Red AM細胞内pH指示薬(LifeTech)を使って評価した。APX3330およびSLC−0111で処理したPDAC細胞を48時間にわたって低酸素に曝露した後、pHrodo Red AM色素による分析を行った。細胞内pH較正緩衝液(LifeTech)を使って、pH値を決定するための蛍光強度の標準曲線を作成した。増殖の変化を説明するために、結果をMTS分析に標準化した。
【0057】
統計分析.Yuan,Reedら(2006)BMC Bioinformatics 7:85、Fishel,Wuら(2015)J Biol Chem 290(5):3057−3068に記載されているように、2
−ΔΔCT法および共分散分析(ANCOVA)モデルを使って、スクランブル、siAPE1/Ref−1、および低酸素処理に関するqPCRデータポイントを分析した。処理群が複数ある試験におけるデータポイントは、事後多重比較検定(適宜、テューキー、ダネット、またはシダック)を使って分析した。複数の薬物を使ったデータ曲線の評価には、群間で共有される非線形回帰曲線の適合度を各群に関する独立した曲線のそれと比較するために、余分平方和F検定を使用した。処置群と対照群との間の差異は、適宜、ボンフェローニ補正後に、p<0.05であれば、有意とみなした。統計分析は、SAS(バージョン9.3、著作権(著作権)2010、サスインスティチュート社(SAS Institute Inc.)、ノースカロライナ州ケアリー)およびPrism(バージョン6.0f、著作権(著作権)2014、GraphPad Software Inc.、カリフォルニア州ラホーヤ)を使って行った。
【0058】
HIF−1 −/− MEF生成:HIF−1欠損細胞を生じさせるために、HIF−1−floxマウス胚性線維芽(MEF)細胞に、Ad−CMV−Cre(Creアデノウイルス)またはAd−GFP(対照)ベクター(BioLabs、ペンシルバニア州マルバーン)を、5ng/mLポリブレンを使って、24時間、形質導入した(Attardi,Loweら(1996)Embo j 15(14):3693−3701、Rankin,Wuら(2012)Cell 149(1):63−74)。PCRを使ってHIFの欠損を確かめた(
図1)。
【0059】
3D共培養物:以前に記載されているように(Sempere,Gunnら(2011)Cancer Biol Ther 12(3):198−207、Arpin,Macら(2015)Molecular Cancer Therapeutics)、CAF(75μL/ウェル)の存在下および非存在下で3次元的腫瘍スフェロイドを生成させるために、超低接着性96ウェルプレート(コーニング社(Corning Inc.),Life Sciences)を使用した。低継代数患者細胞の遺伝的特徴を保存するために、表示のとおり、EGFP(緑色)またはTdTomato(赤色)を、細胞に安定形質導入した(Jones,Zhangら(2008)Science 321(5897):1801−1806)。3%成長因子低含有マトリゲル(Reduced Growth Factor Matrigel)(RGF、BDバイオサイエンス(BD Biosciences))および5%FBSを含有する無色のDMEM成長培地に、細胞を再懸濁した。プレーティングに続いて、4日目および8日目に、5%血清、3%RGFマトリゲル、および表示の阻害剤を含有する培地で細胞を処理した。12日目に、Thermo ArrayScanハイコンテントイメージングシステムを使ってスフェロイドを分析した(Lovborg,Nygrenら(2004)Mol Cancer Ther 3(5):521−526、Lindblom,Bergら(2012)Toxicol Pathol 40(1):18−32)。ArrayScanにより、TdTomatoおよびEGFPに関して、2.5倍対物レンズを使って3D構造物の画像をキャプチャし、次に2D投影図を処理することで、CAFと腫瘍との両方の総強度および総面積の差異を定量した。
【0060】
結果
HIF1αおよびSTAT3とのAPE1/Ref−1の相互作用は低酸素によって刺激される
以前に公表されたデータは、APE1/Ref−1のノックダウンおよび/または選択的阻害剤APX3330(APX3330ともいう)によるAPE1/Ref−1酸化還元シグナリングの阻害に続いて、STAT3、HIF1α、およびNFκB活性の減少が起こることを証明した(Fishel,Jiangら(2011)Molecular Cancer Therapeutics 10(9):1698−1708、Cardoso,Jiangら(2012)PLoS ONE 10:e47462)。同様に、APE1/Ref−1の阻害は、細胞内の主要HIF−1標的である炭酸脱水酵素IX(CA9)の減少につながることが見いだされた。低酸素シグナリングにおけるAPE1/Ref−1の役割をさらに精査し、低酸素がAPE1/Ref−1とその酸化還元標的との間の相互作用を刺激するかどうかをより明確に決定するために、正常酸素条件下および低酸素(0.2%O
2)条件下の2つの低継代数PDAC細胞株(Panc10.05およびPa03C)の溶解物から、内在性APE1/Ref−1を免疫沈降させた。IPをHIF1α、STAT3、およびNFκBについてプローブした。低酸素条件下ではプルダウン画分中にHIF1αおよびSTAT3が検出され、NFκBは検出されなかったが、正常酸素条件下では、これらの相互作用は検出されなかった(
図2Aおよび
図2B)。APE1/Ref−1とそれが制御する転写因子との間の相互作用が、適当な刺激により、正常酸素条件下で実際に起こることを示すために、TNFα(NFκB)およびIL−6(STAT3)の対照を行った(
図3Aおよび
図3B)。HIF1αおよびSTAT3とのAPE1/Ref−1の相互作用は低酸素条件下では明白である。
【0061】
APE1/Ref−1の過剰発現は、低酸素への曝露後にAPE1/Ref−1と共に免疫沈降したHIF1αおよびSTAT3のどちらについても、より強いシグナルをもたらした(
図2Cおよび
図2D)。低酸素への曝露後の、APE1/Ref−1を過剰発現する細胞からのIP中に、NFκBは、依然として検出されなかった。これは、APE1/Ref−1の量が上記のパネル(
図2Cおよび
図2D)を制限しているわけではないことを示している。転写因子とのAPE1/Ref−1の相互作用が低酸素におけるシグナリングに特異的であることを証明するために、別のSTATファミリーメンバーであるSTAT1をプローブした。Panc10.05細胞からのIPをSTAT1についてプローブしたが、STAT1は、APE1/Ref−1のレベルまたは酸素条件とは無関係に検出されなかった(
図2C)。膵腫瘍微小環境における疾患およびさまざまな細胞タイプ間のシグナリングの複雑さゆえに、CAFにおけるHIF1α、STAT3およびNFκBとのAPE1/Ref−1の相互作用を調べた。結果は、PDAC細胞での結果と同一であった。すなわち、APE1/Ref−1は、低酸素下でHIF1αおよびSTAT3と相互作用するが、NFκBとは相互作用しない(
図4A〜4C)。臨床治験が始まったCA9阻害剤と、APE1/Ref−1遮断に続くCA9の転写制御を証明する以前のデータ(Fishelら,Mol Cancer Ther 10(9):1698−1708)とを考慮して、この実施例では、HIF1αシグナリングと、APE1/Ref−1を介した下流分子CA9の制御とに焦点を合わせた。
【0062】
APE1/Ref−1タンパク質発現は、低酸素によって誘発されるHIF1α媒介転写に寄与した
APE1/Ref−1とHIF1αとの間の相互作用が機能的に重要であることを示すために、MIA PaCa−2細胞を、APE1/Ref−1 siRNAまたはスクランブル対照と並行して、HIF1α駆動ホタル・ルシフェラーゼまたはpLuc−MCS(ベクター対照)で同時トランスフェクトし、細胞を24時間にわたって低酸素に曝露することによって、HIF−1転写活性へのAPE1/Ref−1の寄与を評価した。APE1/Ref−1ノックダウンは、低酸素によって誘導されるHIF1α活性の有意な低減(約47%)をもたらした(
図5Aおよび
図5B)。
【0063】
HIF−1標的CA9の低酸素媒介転写を調べることによって、HIF転写活性に対するAPE1/Ref−1の効果をさらに評価した。2つのPDAC細胞株および1つの膵がんCAF細胞株におけるCA9 mRNAレベルを、APE1/Ref−1ノックダウンおよび低酸素への曝露後に比較した。低酸素によって誘導されるCA9 mRNAレベルは、どちらの低酸素レベルでもすべての細胞株において、APE1/Ref−1ノックダウンによって減弱された(
図5C〜5E)。異なる細胞株における誘導の量の変動は、正常酸素条件下での極端に低いベースラインCA9発現に原因の一部があると考えうる。APE1/Ref−1ノックダウンは、2つの追加初代PDAC細胞株において、低酸素(hypoxid)条件下でのCA9 mRNAレベルを、同様に減弱した(
図6Aおよび6B)。これらの結果を、低酸素に曝露されたMIA PaCa−2細胞において、2つの追加APE1/Ref−1標的siRNAを使って検証し、同様の結果を得た(
図5F〜5G)。CA9の低減がタンパク質レベルでも起こったことを確かめるために、低酸素によって誘導されるCA9タンパク質レベルを、PDAC細胞および膵CAF細胞において、APE1/Ref−1ノックダウン後に、ウェスタンブロットによって評価した。APE1/Ref−1ノックダウンは、低酸素によって誘導されるCA9タンパク質レベルの約70%の低減をもたらした(
図5H〜5I)。
【0064】
低酸素によって誘導されるCA9転写はHIF−1依存的である
CA9転写に対するAPE1/Ref−1および低酸素の効果がHIF−1活性によって媒介されることを確認するために、低酸素によって誘導されるCA9 mRNAレベルを、HIF−1欠損(−/−)MEFにおいて、APE1/Ref−1ノックダウン後に評価した。予想どおり、HIF−1非欠損MEFでは、CA9が、正常酸素対照と比較して30倍誘導された。HIF−1 −/− MEFでは、CA9 mRNAレベルは、低酸素への曝露によって誘導されず(
図7A)、APE1/Ref−1ノックダウンによる影響も受けなかった(
図7B)。これは、APE1/Ref−1発現レベルまたは酸素レベルとは関わりなく、CA9転写がHIF−1依存的であることを示している。これらの細胞におけるHIF−1枯渇はPCRによって確認した(
図1)。
【0065】
APE1/Ref−1酸化還元シグナリングの阻害はCA9転写に影響を及ぼす
APE1/Ref−1は、多機能性タンパク質として、DNA損傷の塩基除去修復(BER(Base excision repair))、RNA品質管理、および還元−酸化(酸化還元)制御にも関与する。APE1/Ref−1のノックダウンはこれらの機能のすべてに影響を及ぼす。酸化還元機能が低酸素シグナリング経路のAPE1/Ref−1媒介制御を担っていることを決定するために、他のAPE1/Ref−1機能には影響を及ぼさないAPE1/Ref−1特異的酸化還元阻害剤であって、2016年の夏に臨床治験が予定されているものを使って、酸化還元機能を調べた。APX3330が、低酸素に曝露されたPanc−1細胞およびMIA−PaCa2細胞におけるCA9 mRNAレベルを減少させることは、以前に示されている。ここでは、これらの結果が、初代細胞およびCAF細胞、ならびに3D共培養物に拡張される。APX3330による処理および低酸素への曝露後に、Pa03C細胞および膵CAF細胞におけるCA9 mRNAレベルは、用量依存的に減弱された(
図7Cおよび7D)。加えて、3D共培養モデルにおいて、APX3330によるAPE1/Ref−1の阻害後に、CA9タンパク質発現を測定した。単層における患者由来Pa03C細胞の場合、正常酸素条件下ではCA9は検出されなかったが、スフェロイドとして成長させると、これらの細胞はCA9を発現した。CAFの存在下で成長させた腫瘍スフェロイドは、より強くCA9発現をアップレギュレートした(約3倍)。これはおそらく、大きなスフェロイドほど大きな低酸素領域を含むと共に、間質要素にはより複雑なシグナリングが存在するからであろう。APX3330によるAPE1/Ref−1酸化還元シグナリングの阻害は、CAF細胞の存在下でも非存在下でも、3D腫瘍培養物における用量依存的なCA9発現の減少につながった(
図7E)。これらのデータは、PDACにおけるCA9およびAPE1/Ref−1のような、新規な標的を検証する前臨床試験のための3D共培養系の使用を支持している。
【0066】
3つのPDAC細胞株において低酸素(0.2%酸素)への曝露後にCA9タンパク質発現およびAPE1/Ref−1タンパク質発現を評価したところ、CA9レベルは経時的に増加するが、APE1/Ref−1レベルは有意に変化しないことが見いだされた。(
図8Aおよび
図8B)。これは、低酸素によって誘導されるCA9発現が、APE1/Ref−1のアップレギュレーションに続発するわけではないことを示している。
【0067】
CA9およびAPE1/Ref−1の二重標的化はPDAC細胞を酸性化し、低酸素下での細胞増殖を阻害する
CA9は低酸素条件下で細胞内pHを制御し、APE1/Ref−1酸化還元活性は、低酸素によって誘導されるCA9発現に寄与する。低酸素条件下での炭酸脱水素活性に関する機能的エンドポイントとして、pHrodo Red AM蛍光pH指示薬を使って、CA9阻害剤SLC−0111およびAPE1/Ref−1酸化還元阻害剤APX3330による処理後に、低酸素に曝露されたPDAC細胞における細胞内(Intracelllular)pHを分析した。SLC−0111およびAPX3330による二重処理は、どちらかの阻害剤単独による処理と比較して、より大きな細胞内pHの減少をもたらした(
図9A)。
【0068】
APE1/Ref−1酸化還元活性の阻害は、APX3330および低酸素による細胞の処理後に、PDAC細胞増殖の用量依存的減少をもたらした。細胞生存性に対するAPE1/Ref−1阻害の効果は、APX3330処理に加えてCA9阻害剤SLC−0111によって処理することにより、低酸素下で、著しく強化された(
図9B)。さらに、APX3330とSLC−0111類似体FC13−555Aとの組み合わせも、単層におけるPDAC細胞を殺すのに著しく有効であることが見いだされた。(
図9C)。これは、低酸素シグナリングタンパク質の遮断がPDAC細胞にとって有害であるだろうという仮説を支持している。これらの結果を支持して、新しいCA9阻害剤が開発されている。
【0069】
CA9およびAPE1/Ref−1の二重標的化は3D共培養モデルにおけるPDAC腫瘍成長を阻害した
腫瘍微小環境をより正確に模倣するために、低継代数患者由来腫瘍細胞とがん関連線維芽細胞とを含むPDACの三次元共培養モデルを利用した。上で証明されたとおり、これらの腫瘍スフェロイドにおいて、CA9のレベルは、CAF細胞と共に成長させた場合の方が高く、CA9発現はAPX3330での処理によって減弱される(
図7E)。3Dモデルでは、SLC−0111によるCA9の阻害が、より強力であり、患者由来細胞の面積の低減によって測定した場合、腫瘍細胞殺滅に対する劇的な効果は、単層の場合より低い用量で観察された(
図10Aおよび
図10B)。細胞殺滅はCAFより腫瘍細胞の方が劇的であり、CAF19細胞がPa03C細胞と共培養された場合は、とりわけそうであった。蛍光強度を測定した場合にも同様の傾向が見られた(データ省略)。重要なことに、CA9の阻害は、CAFの防御的環境にある場合でさえ、腫瘍細胞を効果的に殺すことができた。
【0070】
CA9活性の阻害に並行するSTAT3媒介転写およびHIF媒介転写の遮断がPDAC細胞死を増強するかどうかを決定するために、3D共培養モデルにおいて、APX3330とSLC−0111とを併用した。各細胞タイプにおける蛍光ラベルが異なるので、腫瘍単独でも、共培養された腫瘍およびCAFでも、二重標的化の効果を評価することができた。低酸素に曝露された2D培養物で見られたように、APE1/Ref−1酸化還元阻害へのCA9阻害の追加は、腫瘍スフェロイドにおける細胞殺滅の劇的な増強をもたらした。患者由来PDAC細胞(Pa03CまたはPanc10.05)およびCAF細胞で構成されるスフェロイドを、APX3330およびSLC−0111で処理し(
図10Eおよび10F)、各細胞タイプのマーカーとして蛍光面積を個別に評価した(
図10Cおよび
図10D)。CA9阻害の追加によって、APX3330が誘発するスフェロイド成長阻止の劇的な強化が観察された。APX3330処理で観察される腫瘍細胞面積の減少はSLC−0111の存在下では有意に相違し、これにより、低酸素に曝露された2D培養物において見られた効果が検証された。赤色蛍光強度および緑色蛍光強度を測定した場合にも同様の傾向が見られた(データ省略)。
【0071】
考察
APE1/Ref−1発現の上昇は、膵がん、卵巣がん、胃がん、乳がん、肺がん、膠芽腫、肝臓がん、大腸がんを含む多くのがんに関連し、がんゲノムアトラス(TCGA、cancergenome.nih.gov)から公的に入手できるデータの分析により、APE1/Ref−1発現の上昇に伴うPDAC患者の生存率の有意な減少が明らかになる(
図11A)。腫瘍細胞において、APE1/Ref−1による、STAT3、NFκB、およびHIF−1などのさまざまな腫瘍促進転写因子(TF)におけるシステインのチオールの還元−酸化(酸化還元)は、これらの因子の活性化における決定的ステップである。これらのTFはいずれも、がん治療における、特にPDACにおける重要な標的であるが、特に創薬困難であることが示されている。
【0072】
APE1/Ref−1はPDAC細胞におけるSTAT3活性化およびその結果生じるSTAT3の腫瘍促進効果に寄与する。STAT3とHIF−1の協同的活性はさまざまながんにおいて証明されているが、STAT3へのAPE1/Ref−1の結合がPDAC細胞における低酸素への曝露によって刺激されるという本開示における発見は、PDACにおける潜在的治療標的として、APE1/Ref−1とSTAT3との両方が重要であることを示している。これらの発見は、最終的な臨床治験のために開発されている前臨床STAT3阻害剤を使って、さらに探求されるであろう。さらにまた、低酸素によって誘導されるHIF−1転写活性およびCA9 mRNAレベルを、APX3330処理が減少させることを証明している上記の結果は、刺激的である。というのも、CA9阻害剤は臨床治験に入るところであるか、または臨床治験中だからである。この、後者の発見は、患者への応用により近いだけでなく、APE1/Ref−1による影響を受ける経路に沿って複数のポイントでさまざまなシグナリング経路を遮断するという戦略に基づいているので、大変興味深い。
【0073】
HIF−CA9軸を、APX3330によるCA9のHIF−1生産の遮断、およびSLC−0111を使用することでもたらされる任意のCA9活性の遮断という、2つのポイントで阻害する本開示の戦略は、低酸素PDAC細胞の標的化のための新規なアプローチである。とはいえ、APX3330とSLC−0111との併用に対して感受性であるのは、低酸素PDAC細胞だけではないだろう。APX3330は、十分に酸素供給されている腫瘍細胞において活性化される他のシグナリング経路も標的としており、SLC−0111は別の腫瘍関連炭酸脱水酵素であるCA12も阻害することができる。上記の発見は、追加の細胞酸性化および低酸素PDAC細胞増殖の阻害をもたらすこの戦略を確立する。
【0074】
結論として、ここに提示した実施例は、PDACにおけるAPE1/Ref−1、STAT3およびHIF−1シグナリングとCA9生産との間の密接な関係の引き続いての証拠、およびそれぞれは最低限の毒性を示す2つの小分子阻害剤の併用が、効果的な処置の達成が今なお困難な疾患であるPDACの処置において、重要な次のステップになりうることの初めての証拠を提供する。
【0075】
実施例2
この実施例では、細胞の生存および増殖に対するRef−1/STAT3の二重標的化効果を分析した。
【0076】
材料および方法
三次元成長アッセイ.96ウェルプレートを1%ノーブル寒天(ディフコ(Difco))(50μL/ウェル)でコーティングした。mCherry標識PDAC細胞およびEGFP標識CAFを、3%マトリゲル(BDバイオサイエンス)を含有する通常成長培地に、1:4(腫瘍:CAF)の細胞比で再懸濁し、固化した1%ノーブル寒天の上にプレーティングした。プレーティング後の4日目および8日目に、5%血清+3%マトリゲル+試験対象薬を含有する培地を細胞に供給した。
【0077】
APX3330、JAK2阻害剤(ルキソリチニブ(INCB018424;フィッシャーサイエンティフィック(Fisher Scientific))(「RUX」))およびリードSTAT3阻害剤(PG−S3−001、DR−4−89)を利用して、PDAC低継代数患者由来細胞株(Pa03CおよびPanc10.05)におけるRef−1/STAT3阻害の効果を評価した。増殖に基づく3D共培養アッセイ、および相乗作用、相加作用または拮抗作用を評価するための統計分析を使って、応答を、シュー・タラレイ(Chou−Talalay)法を使って評価した。
【0078】
この実施例は、12日間にわたって同じ生共培養物が視覚化されるように計画し、8日間および12日間共培養した時点でThermo ArrayScanによって画像をキャプチャした。このモデルでは、細胞集団を識別し、定量することができるように、がん細胞および間質細胞に、別個の蛍光タンパク質(腫瘍はmCherry、そしてCAFはEGFP)で印をつけた。有効な組み合わせをスクリーニングするために、3D培養およびイメージング用の適当なプレート(96ウェルプレート)、安定な構造物を形成させるのに必要な1ウェルあたりの腫瘍細胞数(1000細胞)、およびCAFに対する腫瘍の最適な比(1:4)を含む、3D共培養の使用を可能にするいくつかの因子を、前もって最適化した(
図12Aおよび
図12B)。Thermo ArrayScanを使って、3D構造物の二次元投影図をすぐに処理して各細胞集団の総強度および総面積の差異を定量することができるセミハイスループットシステムを開発した(
図13)。こうして、天然のインビボPDAC環境をより忠実に模倣するCAFとの共培養物において、PDAC細胞の薬効を評価することができた。
【0079】
結果
単剤APX3330、RUX、PG−S3−001、およびDR−4−89は、3Dアッセイにおいて既に試験されている。これらの薬剤は、単独の腫瘍スフェロイドも、CAFと共に培養された腫瘍スフェロイドも、効果的に殺した。特に、リード化合物PG−S3−001およびDR−4−89によるSTAT3の阻害は、CAFの存在下でさえ、PDAC細胞における細胞死をもたらし、単剤として、いくらかの活性がインビボで観察された(
図14)。
【0080】
このモデルを使って、APX3330とSTAT3阻害との組み合わせを試験した。ArrayScanおよび96ウェルプレートフォーマットを使って開発されたこのシステムのセミハイスループット性ゆえに、各薬物の組み合わせおよび用量を数多く実行することができる。PG−S3−001およびDR−4−89ならびにRUXによるSTAT3経路をどちらも使用することは、直接的なSTAT3阻害がJAK2によるSTAT3の上流阻害より強力であるかどうかを確かめるのに役立つであろう。
【0081】
図15に示すように、APX3330と組み合わされたRUXは、単独の腫瘍スフェロイドも、CAFと共に培養された腫瘍スフェロイドも、効果的に殺した。
【0082】
実施例3
この実施例では、PDACの生存に対するAPX3330とルキソリチニブ(RUX)との組み合わせのインビボ効果を分析した。
【0083】
APX3330およびRUXを利用して、低継代数患者由来細胞株(Pa03C)がCAFと同時注入されるインビボ共培養モデルにおいて、Ref−1/STAT3阻害の効果を評価した。具体的には、NSGマウス(1処置群につきn=5)を、5日間投薬、2日間休薬で、2週間にわたって、50mg/kgのAPX3330により、1日2回(BID)、腹腔内(IP)処置し、かつ/または各午後の処置時に1日1回(SID)、腹腔内(IP)投与される50mg/kgのRUXで処置した。
図16に示すように、APX3330+RUXの同時処置は、この共培養インビボモデルにおける腫瘍成長を強力に阻害した。併用処置の効果を見るために亜致死量の単剤(50mg/kg)を使用し、併用処置はマウスにおいて忍容性が高かった。
【0084】
上述したことによれば、これら2つのタンパク質の二重標的化は、PDAC細胞に対して合成的致死事象に相当する。
【0085】
実施例4
この実施例では、悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)細胞株における細胞の生存および増殖に対するRef−1阻害の効果を分析した。
【0086】
方法および材料
NF1患者に由来するST8814 MPNST細胞はATCC(LGC Standards、英国ミドルセックス)から購入した。MPNST 24472から樹立された細胞株であるS462 MPNST細胞株は、19歳の女性NF1患者から採取された。言及した細胞株はすべて、75cm
2フラスコにおいて、10%(v/v)ウシ胎仔血清(FCS)および1%(v/v)ペニシリン/ストレプトマイシン(Pen Strep)を補足したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を使って培養した。細胞株は5%CO
2下、37℃でインキュベートした。
【0087】
軟寒天腫瘍形成アッセイ
6ウェルプレートにおいて二層軟寒天アッセイを企てた。簡単に述べると、0.6%寒天層上の、0.35%寒天を含有する完全培地に、10
3個のMPNST細胞をプレーティングした。寒天に完全培地を重層し、細胞コロニーを5%CO
2中、37℃で7日間成長させた。培地を週に3回変え、培地を変える度にプレートを50μMのE3330で処理した。オリンパス(Olympus)カメラを装着したAMG EVOS倒立顕微鏡を使って、代表的な位相差像を撮影した(
図17)。
【0088】
創傷治癒
細胞を35mmプレートに播種し、80〜90%コンフルエントに到達させた。次に、1%(v/v)FBS DMEM中で24時間にわたって細胞を同期させ、ピペットチップで擦過することによって「傷つけた」。死細胞をPBS洗浄で除去した後、DMEM(10%(v/v)FBS)で置き換えた。細胞を50μM E3330で処理し、18時間、インキュベーター(5%CO
2/37℃)に入れておいた。ImageJを使って擦過面積を測定した。オリンパスカメラを装着したAMG EVOS倒立顕微鏡を使って、処理の前および処理の18時間後に、写真を撮影した(
図18Aおよび
図19A)。次に、移動した細胞のパーセンテージを算出した(
図18Bおよび
図19B)。有意性を決定するためにPrismを使ってT検定を行った。3回の独立した実験を行った。