特許第6862362号(P6862362)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6862362上昇した光吸収を有する感光性画素構造体、及び感光性インプラント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862362
(24)【登録日】2021年4月2日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】上昇した光吸収を有する感光性画素構造体、及び感光性インプラント
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/007 20060101AFI20210412BHJP
   H01L 27/144 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   A61F9/007 190A
   H01L27/144 K
【請求項の数】16
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-564722(P2017-564722)
(86)(22)【出願日】2016年6月23日
(65)【公表番号】特表2018-527040(P2018-527040A)
(43)【公表日】2018年9月20日
(86)【国際出願番号】EP2016001073
(87)【国際公開番号】WO2016206809
(87)【国際公開日】20161229
【審査請求日】2019年5月23日
(31)【優先権主張番号】15001873.7
(32)【優先日】2015年6月24日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515328853
【氏名又は名称】ピクシウム ビジョン エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】マーティン・ドテール
【審査官】 木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−54252(JP,A)
【文献】 特表2014−503229(JP,A)
【文献】 特開昭58−171849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
H01L 27/144― 27/148
H01L 31/00 ― 31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前側表面と裏側表面とを有する基板を含む感光性画素構造体であって、少なくとも1つの感光性ダイオードが前記基板の前記表面のうちの一方に設けられており、第1の材料層が前記基板の前記裏側表面の上の少なくとも一部に設けられており、前記第1の材料層が反射層を含み、
少なくとも、前記基板に対して反対側の前記第1の材料層の表面の上に、第2の材料層が設けられており、前記第2の材料層が、チタン及び/又はセラミック層を含むことを特徴とする感光性画素構造体。
【請求項2】
前記基板が、所定の波長又は波長範囲の光を吸収するように構成されている材料、特にシリコン、を含む請求項1に記載の感光性画素構造体。
【請求項3】
前記基板の前記裏側表面の上の前記第1の材料層が、埋め込み酸化物層、好ましくはSiOを含む、又は前記第1の材料層が、金属の層、好ましくはアルミニウムの層又はチタンの層を含む請求項1から2のいずれかに記載の感光性画素構造体。
【請求項4】
前記第1の材料層が、前記基板の、それと一体である一部として形成されている請求項3に記載の感光性画素構造体。
【請求項5】
前記第1の材料層が、埋め込み酸化物層、好ましくはSiO、とアルミニウムの層とを含み、前記埋め込み酸化物層が前記基板と前記アルミニウム層との間に挟まれている請求項1から2のいずれかに記載の感光性画素構造体。
【請求項6】
前記第2の材料層が、少なくとも前記第1の材料層及び/又は前記基板の前記裏側表面を気密に覆う請求項1から5のいずれかに記載の感光性画素構造体。
【請求項7】
前記第2の材料層が、チタンからなる請求項1から6のいずれかに記載の感光性画素構造体。
【請求項8】
前記第1及び/又は前記第2の材料層がチタンを含み、チタン層の厚みが、100nm以上、好ましくは200nm超、最も好ましくは500nm以上である請求項3から7のいずれかに記載の感光性画素構造体。
【請求項9】
前記第1の材料層、好ましくは埋め込み酸化物層が、他の材料の材料特性に適合する厚みを有し、チタンと埋め込み酸化物層の積層体が第1の材料層として用いられる場合、前記埋め込み酸化物層の厚みが約65nm〜210nmの範囲であり、アルミニウムと埋め込み酸化物層の積層体が第1の材料層として用いられる場合、前記埋め込み酸化物層の厚みが約90nm〜170nmの範囲であり、好ましくは、前記埋め込み酸化物層の厚みが、約130nm若しくは430nm又は130nmと300nmの任意の倍数との和である請求項1から8のいずれかに記載の感光性画素構造体。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の複数の画素構造体を含み、前記複数の画素構造体がアレイ状に配置されている感光性画素アレイ。
【請求項11】
第2の材料層が、前記第1の材料層に隣接して設けられている請求項1から10のいずれかに記載の複数の画素構造体を含む感光性画素アレイ。
【請求項12】
前記第2の材料層と前記第1の材料層との間に、好ましくは5nm〜50nm、より好ましくは10nm〜30nm、最も好ましくは約20nm+/−5nmの厚みを有し、且つ好ましくはチタンから形成される接着層が配置されている請求項11に記載の複数の画素構造体を含む感光性画素アレイ。
【請求項13】
請求項1から8のいずれかに記載の感光性画素構造体を有する又は請求項10に記載の感光性画素アレイを有するインプラントであって、前記インプラントが、少なくとも1つの電極を更に含み、前記電極が、前記画素構造体又は画素アレイにおける光電気的生成によって発生した電気刺激パルスを提供するように構成されているインプラント。
【請求項14】
網膜インプラント、好ましくは網膜下インプラントである請求項13に記載のインプラント。
【請求項15】
請求項1から10のいずれかに記載の画素構造体を提供するための方法であって、
−少なくとも1つの所定波長の光を吸収するように構成されている基板を提供する工程と、
−前記基板の上に、好ましくは前記基板の前側表面の上に、感光性ダイオードを設ける工程と、
−前記基板の裏側表面の上に、第1の材料層を設ける工程と
−第2の材料層を、少なくとも、前記基板に対して反対側の前記第1の材料層の表面の上に設ける工程とを含み、
前記第1の材料層は、前記基板を通って前記第1の材料層に透過された光を、前記基板に向けて反射するように構成されている反射材料層を少なくとも含み、
前記第2の材料層が、チタン及び/又はセラミック層を含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
前記第1の材料層がイオン注入によって設けられる及び/又は前記第1の材料層が前記基板から熱成長される請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性画素構造体と、そのような画素構造体を有する感光性インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、網膜色素変性症などの変性疾患により視力を失った患者の視覚の少なくとも一部の回復を助けるインプラントシステムが知られている。網膜組織の一部が変性しているが、網膜の大部分がインタクトなままであり、依然として、光に依存する電気刺激によって直接刺激することができるという事実に基づくことで、視覚は、インプラントで少なくともある程度回復させることができる。この電気刺激は、インプラントシステムによって与えることができる。そのようなシステムは、通常、患者の眼の前方に配置される特別なゴーグルと、インプラント、特に、生体組織又は細胞に接触する複数の電極を含む網膜下インプラントとを含む。
【0003】
ゴーグルには、通常、カメラが設けられる。カメラは、患者の前方の場面を撮像するようになっている。この撮像された場面は、視覚情報から所定のIR光パルス信号に変換されることができる。そのような場合のインプラントは、IR光パルスを受領するようになっており、これに応答して、カメラによって受領された場面内容に基づいてインプラント上の感光性領域が刺激される。次いで、インプラントは、受領した光を、網膜に残存している細胞を刺激することができる電流に変換する。
【0004】
その目的のために、インプラントは、1つ以上の画素アレイを含み、各個々の画素が、1つ以上のダイオード領域と、刺激電極と、場合により、対向電極とを含む。
【0005】
光パルスが画素に向けられる又は画素の感光性領域に向けられる場合、この光パルスの光子の一部が基板に吸収され、基板内の光電効果により電子−ホール対が生成される。これらの電子−ホール対は、画素構造体の各極に移動し、それに応答して対応する光ダイオード回路によって、電極上に電荷が生成することができる。その結果、基板に吸収される光子が多いほど、画素構造体によって生成される電荷は高くなることができる。光子の吸収又は吸収率は、入射光の波長、材料の性質、発生領域、即ち、光活性領域、及び吸収基板の厚みに依存する場合がある。入射光の吸収を上げる、即ち、最終的には、画素構造体における電荷生成を上げるために、基板の厚みを厚くすることができる。しかしながら、基板の厚みを厚くすることが常に望ましいという訳ではない。
【0006】
例えば、そのような感光性画素構造体を含む神経刺激用インプラントが知られている。そのようなインプラントにおいて、残存細胞を高い信頼性で刺激するためには、電流密度、即ち、電磁パルス(例えば、光パルス、特にIRパルス)当たりの位相当たりの、所定時間で運ばれる電荷をできる限り高くして、残存細胞を十分に刺激する必要がある。同時に、インプラントは、低侵襲のために、できる限り小さいサイズを維持する。したがって、理想的には、インプラントは、100μm未満の厚みを有し、理想的には50μm未満、好ましくは30μm以下の厚みを有する。薄いインプラントは、更に、製造を容易にすることができ、特に、インプラントの全厚みを通って延在する構造に関して製造を容易にすることができる。
【0007】
同様に、感光性アレイの解像度を上げるために、個々の画素のサイズ、即ち、電荷発生のために十分な光を検出するために各画素が必要とする表面積は、小さくすることが望ましい。これは、インプラント及び他の感光性構造体(例えば、カメラの感光性チップ、検出デバイスなど)に適用可能であることができる。
【発明の概要】
【0008】
したがって、本発明の目的は、先行技術の問題点の少なくとも1つを解消することにある。特に、本発明の目的は、向上した画素構造体を提供することにある。望ましくは、入射光の吸収を上昇させる。更に、サイズが小さくされた感光性画素構造体を提供することが目的であることができる。更に、上昇した解像度を有する画素アレイ又はインプラントを提供することが本発明の目的であることができる。
【0009】
問題点は、本発明にしたがって、独立請求項1に記載の画素構造体、請求項10に記載の画素アレイ、請求項11に記載のインプラント、及び請求項13に記載の方法によって解決される。有利な形態は、従属請求項にしたがう。
【0010】
本発明の態様によれば、前側表面と裏側表面とを有する基板を含む感光性画素構造体が提供される。少なくとも1つの感光性ダイオード又は感光性領域が、基板の表面の一方に設けられている。更に、第1の材料層が、基板の裏側表面の少なくとも一部に設けられ、材料層は反射層を含む。反射層は、例えば、基板そのものの表面上での構造体の熱成長又はドーピングなどによって、基板の、それと一体である一部(integral part)であることもできる。反射層又は第1の材料層は、基板の表面に別の層として設けることもでき、例えば、電気化学堆積、真空堆積などの従来知られた方法によって堆積させることができる。
【0011】
基板を通って基板と第1の材料層との間の界面、即ち、基板の裏側表面に入射する光の反射率を変える、特に、上昇させることができる任意の材料を、本発明の文脈における「反射材料」又は「反射層」と考えることができると理解される。そのような反射層の反射率の値は、基板材料単独に固有の反射率と比較することができる。なお、本明細書中に与えられる反射率の値は、法線入射(即ち、各表面に対して入射角が直角である)での反射率を意味する。第1の材料層における反射材料としての使用が好適な材料は、例えば、アルミニウム、チタン、白金、及び/又はパラジウム、又はその合金(例えば、ニチノールとしても知られるチタン−ニッケル合金など)を含むことができる。上昇した反射率を与えることができる更なる材料は、酸化アルミニウム、炭化ケイ素などのセラミック層であることができ、これらは、インプラントに好適な気密封止性及び/又は生体適合性特性を与えることもできる。そのような性質を達成するためには、各層の厚みを変えることが必要な場合があり、例えば、気密性被覆を与えるためには、厚くすることが必要な場合がある。
【0012】
「前側表面」は、入射光がその上に又はそれを通して与えられ、その後、基板の外側から基板内に透過する表面を記述するものとする。したがって、「裏側表面」は、「前側表面」に対して基板の反対側である基板又は各層の表面である。基板の「裏側表面」は、前側表面に入射し基板を透過する入射光が、基板の内部から入射する表面を特性付ける。
【0013】
反射層又は反射構造体、例えば、層状構造体を基板内又は基板の裏側表面上に設けることによって、基板の前側表面から基板を透過したときに吸収されない光の部分を、少なくとも一部、基板内に反射させることができる。このようにして、基板の前側表面に元々入射した光のうち吸収される部分を増やすことができる。したがって、より高い電荷を画素構造体で生成することができると同時に、基板又は画素構造体全体の厚みは、厚くならない又は厚くなっても無視できる程度である。
【0014】
本発明の態様によれば、感光性画素構造体の基板は、所定波長又は所定波長範囲、若しくは各種所定波長又は波長範囲の光を吸収するように構成された材料を含むことができる。特に、基板は、シリコンを含むことができる。特に、基板は、赤外光、好ましくは近赤外範囲の赤外光、具体的には約780〜1000nmの範囲の赤外光、特に約830〜915nmの波長を吸収するように構成することができる。基板の代替材料として、ゲルマニウムを用いることができる。
【0015】
特定波長の光吸収は、例えばシリコンの場合などにおいて、材料に固有の特性とすることができる。
【0016】
基板の裏側表面の上の反射層、即ち、材料層の反射層は、埋め込み酸化物(BOX)層を含むことができる。この埋め込み酸化物層は、好ましくはSiOであることができる。しかしながら、シリコンオンインシュレータ(SOI)と一般に称される異なるタイプであることもできる。BOX層は、有利であることができる。これは、製造中、基板がその最終厚みにまで薄くされ、縁をつけられる(edged)と、この層がエッジストップとして作用することができるからである。更に、通常、シリコン最上層又は基板から熱成長するBOX層は、光ダイオード効率を上昇させることができる。これは、Si/SiO界面において、少数キャリアの表面再結合が減少するからである。BOX層は、堆積法によっても設けることができる。更に、反射層は、アルミニウムの層又はチタンの層を含むことができる。再度言及するが、これらの層は、別の層であってもよいし、製造中に、基板層に一体とされてもよい。
【0017】
本発明の幾つかの実施形態においては、第1の材料層は、埋め込み酸化物層、好ましくはSiOとアルミニウムの層とを含む。そのような実施形態においては、埋め込み酸化物層は、基板とアルミニウム層との間に挟まれていることができる。BOX層とアルミニウム層とを組み合わせることによって、材料層が設けられる基板の裏側表面からの反射率を個々の材料層の合計よりも高い値に上昇させることができる。
【0018】
シリコンのみで定義される裏側表面の反射率は、約21%であることを実験的に示すことができた。更に、実験結果により、チタン層を設けることで、裏側表面からの反射率を20〜22%の間にすることができ、BOX層を設けることで、裏側表面からの反射率の値を16〜21%となることが示すことができた。しかしながら、チタン層を設けることで、画素構造体に、生体適合性の気密性被覆を設けることができる点に留意する必要がある。BOX層自体は、容易に作製することができ、光ダイオード効率を上昇させることができる。したがって、裏側表面からの反射率を直ちには上昇させない基板の追加の材料層を設けることによっても、本発明の範囲内の利点をもたらすことができる。
【0019】
基板の裏側表面の上に第1の材料層、即ち、ここでは反射層としてアルミニウム層のみを設けることによって、基板の裏側表面からの反射率を約64%に上げることができた。更なる気密性又は生体適合性被覆なしのアルミニウム層のみの場合、インプラント構造体に直ちには好適ではないことがあるが、本発明の幾つかの実施形態にしたがって、光検出器、カメラ用感光性チップなどの感光性構造体を設けることができる。したがって、本発明は、感光性インプラントに限定されない。
【0020】
本発明の他の実施形態によれば、少なくとも、基板に対して反対側の第1の材料層の表面に、第2の材料層が設けられる。この第2の材料層は、少なくとも、基板の第1の材料層及び/又は裏側表面を気密に覆うことができる。第2の材料層の材料特性は、一般に、第1の材料層について上に示したものと同じであることができる。
【0021】
特定の実施形態においては、第2の材料層は、チタン層であることができる。チタン層は、アルミニウム又はBOXから形成される材料層の表面に設けることができる。このようにして、個々の層の利点を組み合わせることができる。このように、BOX層とチタン層を組み合わせることにより、基板の裏側表面における反射率が最大73%である気密且つ生体適合性の画素構造体を提供することができる。
【0022】
本発明の具体的な実施形態においては、BOX層とアルミニウム層とが設けられ、BOX層は、基板とアルミニウム層との間に挟まれている。埋め込み酸化物層は、好ましくは、SiOからなる又は少なくともこれを含むことができる。そのような実施形態は、基板の裏側表面からの反射率を最大92.5%に上昇させることを可能にする。チタン層は、第1の材料層の一部として又は第2の材料層として設けることができる。
【0023】
結果として、第2の材料層は、チタン及び/又は更なる材料、特に金属を含む又はからなることができる。これらは、画素構造体の少なくとも裏側表面の気密性封止を可能にすることができる及び/又は基板の裏側表面における反射率を更に上昇させることができる。幾つかの実施形態においては、材料の複数の層、例えば、複数のチタン層などを、第1及び/又は第2の材料層に設けることができる。したがって、第2の材料層は、例えば、別の層に続いて堆積されたチタンの層を含むことができる。
【0024】
本発明の幾つかの実施形態においては、第1及び/又は第2の材料層は、チタンを含み、チタン層の厚みは、100nm以上、好ましくは200nm超、最も好ましくは500nm又はそれ以上である。画素構造体の最外層として有利に設けられるそのようなチタン層は、気密性封止を提供することができ、同時に、生体適合性被覆を提供することができる。このようにして、例えば、眼の硝子体などの体の高度に腐食した領域においてインプラント可能な画素アレイに、本発明に係る画素構造体を用いることができる。
【0025】
なお、チタン層の厚みが厚いほど、構造体全体の表面の気密性封止が高くなる。このようにして、十分な気密性封止を提供することができ、そのような実施形態の積層層のチタンは、基板の裏側表面における反射性を最大にするのに十分な厚みを有する。
【0026】
本発明に係る幾つかの実施形態においては、アルミニウム層が第1の材料層又は第2の材料層における更なる層として用いられる場合、アルミニウム層の厚みは、好ましくは50nm超であり、より好ましくは約60nm超である。特に、アルミニウム層は、100nm以上であるように選択することができる。
【0027】
有利には、第1の材料層は、好ましくは、埋め込み酸化物層を含む。この埋め込み酸化物層は、用いられる更なる材料の特性及び/又は厚みに適合する厚みを有することができる。したがって、チタンと埋め込み酸化物層の積層体が第1の材料層として用いられる場合、埋め込み酸化物層の厚みは、好ましくは約65nm〜210nmの範囲である。アルミニウムと埋め込み酸化物層の積層体が第1の材料層として用いられる場合、埋め込み酸化物層の厚みは、好ましくは約90nm〜170nmの範囲である。最も好ましくは、埋め込み酸化物層の厚みは、約130nm若しくは430nm又は130nmと300nmの任意の倍数との和である。
【0028】
第1及び/又は第2の材料層に用いられる更なる材料に応じて埋め込み酸化物層の厚みを変えることによって、基板の裏側表面の上の材料層又は複数の材料層の反射率を上昇させることができ、理想的には最大にすることができる。
【0029】
再度言及するが、埋め込み酸化物層の層厚は、上で示したように、好ましくは130nm、430nm又は130nmと300nmの任意の倍数との和の前後で変えることができる。第1の材料層の反射率は、基板の裏側表面の上の埋め込み酸化物層の厚みの変化に応じて周期的に変わる。この変化の周期は、約300nmである。理想的には、反射率を最大にするために、目標値、例えば、埋め込み酸化物の層厚が約130nmにおける第1の反射率ピークの値にできるだけ近づくことになる。
【0030】
しかしながら、製造プロセスによって、反射率ピークの前後のタイトな範囲内で、埋め込み酸化物層の厚みを制御することは困難である。そのため、埋め込み酸化物層に隣接する第1の材料層の積層体における材料であって、好ましくは埋め込み酸化物層の各種厚みで反射率の勾配が平らである材料が有利である。このように、第1の材料層における埋め込み酸化物層に隣接する反射層として、アルミニウムの使用がチタンよりも好ましい場合がある。この場合、基板の裏側表面に入射する放射線の最大反射率は、約92.5%である。約65nm〜210nmの埋め込み酸化物の厚み範囲において、埋め込み酸化物とアルミニウムの積層体の反射率は、この最大反射率の95%に等しい又はそれより高い。したがって、そのような構成においては、入射光の約90%又はそれ以上を基板の裏側で反射させることができる。
【0031】
対照的に、埋め込み酸化物とチタンの積層体において、そのような埋め込み酸化物/チタン積層体の最大反射率は、基板の裏側表面に入射する放射線の約72%である。反射率が最大反射率の少なくとも95%以上である場合、埋め込み酸化物層の厚みは、約90〜170nmの範囲内で変わり得る。この厚み範囲は、埋め込み酸化物/アルミニウム積層体の場合よりも狭く、製造パラメータのより良好な制御を必要とする。そのような構成においては、入射光の約70%以上を基板の裏側において反射させることができる。なお、上に挙げた例における反射率の値は、表面に対する光の入射角が90°、即ち、法線入射を意味する。
【0032】
本発明の好ましい実施形態は、第1の材料層としてチタン層と共にBOX層を含む。このようにして、上昇した反射率を有し、同時に、生体適合性被覆で気密に封止される画素構造体が提供される。最も好ましくは、BOX層とチタン層との間に、アルミニウム層が設けられる。これは、基板の裏側表面における反射率をより上昇させることを可能にしつつ、再度言及するが、チタンを含む第2の層によって気密性且つ生体適合性の被覆を提供する。
【0033】
気密性が望まれない場合、BOX層をアルミニウム層とだけ積層させることができる。これは、基板の裏側表面における上昇した反射率を可能にし、このことは、カメラチップ、センサ、他の検出要素などの各種用途において有利であることができる。
【0034】
本発明の他の態様によれば、本発明の第1の態様に係る複数の感光性画素構造体を含み、画素構造体がアレイ状に配置されている画素アレイが提供される。画素アレイを提供することによって、複数の個々の感光性画素構造体を相互接続することができる。このようにして、相互接続された画素構造体によって受領又は収集できる情報量を増やすことができる。
【0035】
本発明の更なる態様によれば、感光性画素アレイ又は少なくとも1つの感光性画素構造体を含むインプラントが提供される。本発明の好ましい実施形態に係る感光性画素構造体は、生体組織又は細胞を刺激するのに好適な電極を含むので、インプラントも、少なくとも1つの刺激電極を含む。この電極は、光電気的生成によって発生した電気刺激パルスを提供するように構成されている。これを達成するために、電極又は複数の電極は、各画素構造体又は複数の構造体の感光性領域、即ちダイオードに接続することができる。画素構造体に入射する光に応答して、電荷を画素構造体に発生させることができ、最終的に、画素構造体に関連する電極上に発生させることができる。
【0036】
有利な実施形態においては、第2の材料層が第1の材料層に隣接して設けられる。
【0037】
好ましくは、第2の材料層と第1の材料層との間に、好ましくは5nm〜50nm、より好ましくは10nm〜30nm、最も好ましくは約20nm+/−5nmの厚みを有し、且つ好ましくはチタンから形成される接着層が配置される。
【0038】
感光性画素アレイ又は画素構造体を設けることによって、インプラントは、埋め込まれたときに電気刺激又はエネルギー供給をもたらすことができる感光性インプラントと考えることができる。特に、感光性インプラントは、各電極に接触している又はその近傍に存在している神経組織などの生体組織又は細胞に電気刺激を与えることができる。特に、インプラント、例えば、網膜インプラントは、組織、特に、視覚を引き起こす対象の眼の網膜組織の電気刺激を可能にすることができる。このようにして、インプラントは、患者の視力を少なくとも一部回復させることを可能にすることができる。
【0039】
好ましい実施形態においては、インプラントは、網膜下インプラントである。これは、網膜の損傷した組織をバイパスするために、患者の眼の中、即ち、網膜下にインプラントを埋め込むことを可能にする。その結果、網膜で依然として機能する感受性のある神経細胞の近傍で電気インパルスを発生させることができる。
【0040】
本発明の更に別の態様によれば、本発明の態様の1つに係る画素構造体、最終的には、画素アレイ又はインプラントを提供する方法は、第1の工程として、基板の提供を含む。基板は、光を吸収するように構成されている。好ましくは、基板は、少なくとも1つの所定波長の光を吸収するように構成されている。この波長は、特に近赤外領域に由来する、例えば、780nm超の波長であることができる。基板は、また、複数の所定波長又は1つ以上の所定波長範囲の光を吸収するように構成することができる。更なる工程において、基板上に、少なくとも1つの感光性ダイオード領域が設けられる、好ましくは基板の前側表面の上に設けられる。感光性ダイオードアレイは、画素構造体の基板における光吸収に応答して電荷を発生するように構成されている。更に、前述の工程の後又は前であることができる1つの工程において、基板の裏側表面の上に、第1の材料層が設けられる。この第1の材料層は、基板を通って第1の材料層に透過された光を、基板に向けて反射するように構成されている反射材料層を少なくとも含む。
【0041】
画素構造体によって吸収される入射光の波長は、具体的用途に依存するが、可視、紫外、又は遠赤外領域に由来することもできる。しかしながら、インプラントにおける用途の場合、前述したように近赤外に由来する波長が好ましい。
【0042】
本発明の幾つかの実施形態においては、第1の材料層がイオン注入によって設けられる及び/又は第1の材料層が基板から熱成長される。特に、埋め込み酸化物層を基板層から熱成長させることができる。これは、少数キャリアの表面再結合を減少させることによって、基板に関連した光ダイオードの効率を上昇させることができる。
【0043】
第2の材料層は、少なくとも、基板に対して反対側の第1の材料層の表面に設けられる。この第2の材料層は、特に、表面の気密性封止を改善又は提供する層であることができる。この第2の材料層は、したがって、基板に対して反対側の第1の材料層の表面にのみ設けることができる。しかしながら、第2の材料層は、基板の部分(例えば、側部又は縁部など)及び/又は基板の上面又は画素構造体全体を少なくとも一部更に囲むこともできる。特に、画素アレイが提供される場合、第2の材料層は、画素構造体を少なくとも一部囲むことができる又は画素構造体全体を囲むことができる。
【0044】
本発明の更なる詳細、好ましい実施形態、及び利点は、図面を参照しつつ以下に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る、電極を有する感光性画素の例を示す。
図2図2は、本発明の実施形態に係る、2つの隣接する画素を有する半導体構造体の模式的横断面図を示す。
図3図3は、本発明の実施形態に係る電極アレイを示す。
図4a図4aは、網膜に埋め込まれた基板の模式的断面図を示す。
図4b図4bは、網膜に埋め込まれた、本発明の実施形態に係る感光性画素構造体の模式的断面図を示す。
図4c図4cは、網膜に埋め込まれた、本発明の他の実施形態に係る感光性画素構造体の模式的断面図を示す。
図4d図4dは、網膜に埋め込まれた、本発明の他の実施形態に係る感光性画素構造体の模式的断面図を示す。
図5図5は、本発明の実施形態に係る画素構造体の裏側表面の上の埋め込み酸化物層の厚みに依存する反射係数を表す図を示す。
【0046】
図1は、例示的な感光性画素構造体10を示す。感光性画素構造体10(以下、画素とも称する)は、2つの感光性ダイオード12、12’、中心電極14、及び抵抗体16を含む。画素構造体10の外周には、リターン電極ともしばしば称する対向電極18が設けられている。対向電極18は、各画素構造体10上、例えば、図1に示されるように、各画素構造体10の周囲に載置することができる。これは、リターン電極がローカルであり、画素構造体のアレイ1の異なる中心電極の間にあることを意味する。これは、通常、「バイポーラ」構成とも称される。
【0047】
そのようなバイポーラ配置の場合、2つの構成が可能である。リターン電極は、相互の接続を断つことができる。これは、この場合の画素は、互いから完全に独立していることを意味する。或いは、一種のグリッド様構造体を効果的に形成するために、個々の画素構造体又は画素構造体群のリターン電極全て又はリターン電極群を互いに接続することができる。そのような構造体は、例えば、全画素アレイ1上に延在することができる複数の六角形状画素を含むことができる。そのような画素アレイの例を図3に示す。
【0048】
更なる代替として、中心リターン電極(図示せず)を、画素構造体10とは別に載置することができ、例えば、画素構造体から遠く離れた画素アレイ上の位置に載置することができる。そのような中心リターン電極は、特に、インプラントの遠く離れた場所に設けることができる。そのような構成は、また、モノポーラ構成と称することもある。リターン電極は、必ずしもインプラントの幾何学的中心にある必要はない。更に、複数のそのような中心リターン電極は、インプラント又は画素アレイ上に分布させることが可能である。本発明は、これらの構成のいずれにも好適に用いることができることが理解される。
【0049】
図1の実施形態における画素構造体10は、略対称的な六角形状を有する。この六角形状は、画素構造体の周りに配置され且つ画素構造体を隣接する構造体から電気的に絶縁する溝20によって画定される。図示される実施形態の六角形の各辺に隣接して、更なる画素10’を設けることができる。画素10の画素アレイ1(本発明の文脈において、電極アレイとも称する)の実施形態の例を図3に示す。他の実施形態においては、また、個々の画素の形状は、異なっていることができる。例えば、画素は、八角形状又は矩形状を有することができる。画素は、また、本発明の保護の範囲から逸脱することなく、円形状又はダイヤモンド状又は他の形状、更に任意の形状を有することもできる。
【0050】
個々の画素は、溝20によって互いに分離されている。溝20は、電気的絶縁材料を含む。個々の隣接する画素10、10’は、互いに電気的に絶縁されていることが好ましい。図1の実施形態において示される対向電極18は、画素10の活性領域の周囲を囲む溝20の延在部に沿って配置されており、同一の外形(ここでは、六角形)を有する。画素構造体10’の断面図を、隣接する画素構造体10’と共に図2に示す。
【0051】
図1の実施形態に係る2つのダイオード12、12’は、六角形状画素の領域内に彫られて配置されている。好ましくは、ダイオード12、12’は、対称的に配置される。ダイオード12と12’との間に、絶縁溝20’が設けられる。ダイオード12と12’との間の絶縁溝20’は、通常、絶縁溝20と同じ性質を有する。そのため、画素10の異なるダイオード12、12’は、互いに電気的に絶縁される。画素内(即ち、感光性素子の基板15)に配置された溝20’にかかわらず、溝20、20’によって分離絶縁された物体間の電気的コンタクトは、依然として達成することができることが理解されるべきである。図1に係る実施形態においては、例えば、ダイオード12、12’は、電気的コンタクト22によって接続される。図4に関連して更に詳述するが、このように、ダイオード12、12’は、図1に係る実施形態においては、互いに直列に接続されている。
【0052】
図1に係る実施形態の投影図において、ダイオード12、12’は、画素10の感光性領域を表す。この実施形態においては、ダイオード12、12’の表面領域、即ち、感光性領域は、画素10の対称軸の周りに本質的に対称である。図1の実施形態においては、そのような対称軸が、例えば、画素10のダイオード12、12’を分離する溝20’と一致することができる。他の実施形態においては、ダイオードの数が異なることができる。特に、ダイオード12を1つだけ設けることができる。これにより、画素10内の個々のダイオードを分離するために溝20’を設ける必要がないので、画素の感光性領域を広げることが可能になる。更なる実施形態においては、3つのダイオード又は3超のダイオードを、1つの画素に設けることができる。2超のダイオードを画素10に設ける場合、前記2ダイオード画素構造体について既に述べたように、個々のダイオードを互いに直列に接続することもできる。
【0053】
図1において更に見ることができるように、画素構造体10の中心に、電極14が設けられる。その中心位置によって、電極14は、中心電極とも称する。更に、通常、この電極は刺激に用いられるので、この電極は、刺激電極とも称する。図示される実施形態においては、円形状を有する刺激電極14が設けられる。電極は、種々の形状、例えば、画素10の外形を反映するリターン電極18又は溝20の形状に類似した形状などを有することもできる。ここで図示された実施形態の円形状は、刺激電極14からの電場が均一になることができるように選択した。意図される用途によって、形状は、より均一ではない、局所的に上昇した場分布を可能とする形状も含むことができる。
【0054】
本発明の幾つかの実施形態によれば、画素10の電極14は、周辺組織、好ましくは神経組織、特にin vivoにおける網膜の神経組織の刺激に適合されるものとする。通常、電極は、白金、酸化イリジウム及び/又は窒化チタンを含む。或いは、イリジウム、白金イリジウム、ドープされたダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、PEDOT:PSS、他の知られた材料を、電極材料として用いることができる。電極材料の好ましい構造は、特に、高度な多孔質構造であることができ、例えば、多孔質又はフラクタルTiN、白金構造、又はSIROFがある。そのような構造は、例えば、「ブラックプラチナム」又は「多孔質白金」であると記述されていることが知られている。電極の厚みは、約100nm〜3μmまで様々な厚みであることができる。しかしながら、電極厚みを最大10μm又は10μm超、又は100nm未満にすることも可能である。
【0055】
図1に示される実施形態において、リターン電極18が、画素を囲み、画素周囲の外形(即ち、図示される実施形態における溝20の延在方向)に沿う細長い電極として設けられる。代替の実施形態においては、リターン電極は、複数の電極を含むこともでき、これらは、画素構造体10の周り及び刺激電極14の周りに、規則的に又は任意の分布で分布される。これは、特に、電極アレイ1の周辺部で行うことができる。
【0056】
更に、刺激電極14と対向電極18との間に、抵抗体16(シャント抵抗体とも称する)が配置される。本発明の図1に示される実施形態に係る抵抗体16は、刺激電極14と対向電極18に電気的に接続される。
【0057】
上に示すように、受領した光信号に対する応答として電圧を上げる必要がある場合、1つの画素10について、複数のダイオード、例えば、2つ又は3つのダイオードを設けることができる。そのような場合においては、ダイオードは、直列に接続することができ、ここで、N個のダイオードの電圧は、1つのみのダイオードで生じる電圧よりもN倍高い。他方、ダイオードの個数を増やすことは、一画素当たり、各ダイオードが集める光がより少なくなることを意味する。したがって、直列接続されたダイオードのそれぞれによって生成される電流は、1つだけ又は数個のダイオードを有する場合に比べて、複数のダイオードを有する場合、著しく低下することがある。通常、N個のダイオードを有する回路の電流は、1つのダイオードを有する回路の電流よりもN倍小さい。したがって、これは選択の問題であり、どのパラメータ(即ち、電流又は電圧)が、個々の用途にとってより望ましいかという問題である。神経刺激の具体的な場合においては、必要な刺激パラメータは、励起すべき組織及び/又は個々の細胞、特に神経細胞、インプラントの位置、患者個々の具体的情報、年齢、疾患の状態、及び一般的な生理的状態に依存する場合がある。
【0058】
発生電流を増やすために、基板における光吸収を増やすことが望ましい。図2は、電極アレイ1の一部の断面側面図であり、2つの隣接する画素10、10’を示す。画素10、10’は、図1に示される実施形態に係る画素構造体の画素に対応し、2つのダイオード12、12’を有する。2ダイオード画素のための図1に示されるのと同じ層構造を、本質的に、1ダイオード又は3ダイオード画素にも同様に設けることができる。
【0059】
更に、図2に、第1の材料層30を示す。この材料層30は、図2に示す実施形態の場合のように、基板15の、それと一体である一部として形成することができる。或いは、第1の材料層は、少なくとも一部、基板15の、それと一体である一部であることができる、又は基板15に堆積された層であることができる。
【0060】
第1の材料層30は、基板15の裏側表面に隣接して且つこれに続いて設けられる。第1の材料層30は、例えば、埋め込み酸化物層、特に、SiO層を含むことができる。埋め込み酸化物層は、基板15から熱成長させることができる。基板層は、好ましくはシリコンを含む。更に、第1の材料層30は、埋め込み酸化物層に続く、金属層、例えば、アルミニウム又はチタン層などを含む積層層であることができる。
【0061】
図2に係る実施形態においては、第1の材料層30に隣接する第2の材料層32が、基板15に対して反対側の第1の材料層30の表面の上に設けられる。第2の材料層32は、アルミニウム又はチタン層などの金属を含むことができる、又は金属の積層体を含むことができる。好ましくは、少なくとも基板15の裏側表面の上の画素構造体10の最外層、即ち、第2の材料層32の最外層は、基板15の裏側表面の気密性封止を可能にする又は基板の裏側表面及び画素構造体の側部の少なくとも一部の気密性封止を可能にする材料を含む。このように、図2から分かるように、画素構造体の縁部を気密に封止することができ、画素構造体を、環境の作用による腐食又は劣化から保護することができる。図3に示される画素アレイ1全体又はインプラントを提供する場合、気密性封止を、画素アレイ1の最外層、縁部、及び/又は側部に設けることができる。
【0062】
「層」としての定義、特に、第1の材料層30に関する「層」としての定義は、画素構造体10の特性をよりよく記述するために用いられることが理解される。しかしながら、本発明に係る画素構造体10を製造するために用いられる方法の結果として、基板15、第1の材料層30又は第2の材料層32などの個々の層は、他の層と一体化されてもよい。本発明に係る層構造を提供するために用いられる方法は、例えば、熱成長、イオン堆積、電気化学的堆積、物理蒸着(例えば、スパッタリング及び電子ビーム蒸着など)又は他の方法を含むことができる。その結果、製造される画素構造体は、機能的には、層、例えば、本発明の実施形態に係る層が設けられているものの、実際には、層の外観を有していない又は別々の層であるように見える場合もある。特別な実施形態によれば、少なくとも2つの「層」が1つの接着層33によって分離されることができる。前記接着層33は、好ましくは5nm〜50nm、より好ましくは10nm〜30nm、最も好ましくは約20nm+/−5nmの厚みを有することができる。接着層33は、良好な接着性を有するチタンから形成することができる。第1の材料層30が、基板15上に熱成長される埋め込み酸化物層を含む場合には、層15と30との間に接着層33がないことが好ましい。
【0063】
図3は、画素構造体10、10’のアレイ(即ち、画素アレイ1)を示す。図3に示される実施形態において、画素アレイ1は、細胞又は生体組織を刺激するように構成された刺激電極14を含む画素構造体10、10’のアレイである。したがって、画素アレイ1は、電極アレイとも称することがある。アレイ1における個々の画素構造体10、10’のサイズは、異なることができ、したがって、本発明の範囲から逸脱することなく、各種用途に合わせて調整することができる。図3に示すアレイ1において、各画素10、10’は、六角形状に形成され、基板15上でのスペースに関して能率的な分布を可能にする。このように、基板15上及びアレイ1内の光感受性領域に利用可能なスペースを広げ且つ理想的には最大限にすることができる。図3に示す画素アレイ1は、細胞又は生体組織、特に、神経組織などの生体組織、又は神経細胞を刺激するために、例えば、インプラントに用いることができる。
【0064】
本発明の実施形態によれば、図3に示されないが、第1及び/又は第2の材料層を、アレイの裏側表面、即ち、個々の画素構造体の複数の裏側表面による表面ビルドの周りに形成することができる。更に、第1及び/又は第2の材料層は、アレイに封止又は保護を提供するために、アレイ1の縁部の周りに形成することができる。
【0065】
図4aは、組織、ここでは網膜3に埋め込まれる画素アレイ1の模式断面図を示す。画素アレイ1は、基板15で表されており、ダイオード又は電極などの表面構造体は、同図に示していない。
【0066】
一般に、画素アレイ1又はインプラントを網膜3に埋め込むとき、基板は、図4aにおいて矢印40で表される眼に入射する光が網膜を横断し、基板15の前側表面に入射できるように配置される。基板15の前側表面から、光が入って基板15を横断し、ここで、基板15の材料、入射光の波長、及び他の要素に応じて吸収される。用いられる基板15は、通常、シリコンを含む又はシリコンからなる。
【0067】
シリコン基板の典型的な厚みである30μmで、入射光の波長が830nmの場合、入射光の約85%が吸収される。880nmの波長では、入射光の68%が吸収され、915nmの波長では、入射光の約53%が吸収されるだけである。基板が、視力を回復させるためにインプラントに用いられる場合、基板15を含む画素構造体10の刺激は、網膜の残存視力が妨害されないように、スペクトルの赤外又は近赤外領域である必要がある。基板15に吸収されない光は、基板15の裏側表面に入射する。基板15の裏側表面では、固有の材料特性と反射の法則により、光の約21%が基板に向けて反射され(図4aには図示せず)、光のより多くの部分が、図4aに矢印42で示されるように基板15から出ていき、失われる。
【0068】
図4bに示されるように、本発明の実施形態によれば、基板15の裏側表面の上に、第1の材料層30が基板15に隣接して設けられる。この第1の材料層30は、材料の積層体であることもできる。第1の材料層30は、基板の裏側表面における反射率を上昇させる反射材料層を少なくとも含む。これにより、初期に基板15を、吸収されずに透過した光の多くの部分を、図4bにおいて矢印41で示されるように基板15内に反射させることができる。したがって、光電気反応で失われる光が少ない。
【0069】
図4cは、本発明の更なる実施形態を示し、これによれば、第2の材料層32が第1の材料層30に隣接して設けられる。そのような第2の材料層32は、基板15の裏側表面における反射率を更に上昇させることを可能にすることができる。これは、吸収率を更に上昇させることができる。第2の材料層32は、チタンなどの気密性封止を可能にする材料であることができる。これにより、裏側表面における反射率を上昇させることができ、同時に、画素構造体10又は画素アレイ1全体若しくはインプラントの気密性を達成することができる。気密性カバー層、被覆、又はハウジングを設けるための更なる材料は、酸化アルミニウム、炭化ケイ素などのセラミック層であることができる。
【0070】
図4dは、本発明の更なる実施形態を示し、これによれば、図4cの実施形態と同様に、第2の材料層32が第1の材料層30に隣接して設けられる。再度言及するが、第2の材料層32は、基板15の裏側表面における反射率の更なる上昇を可能にすることができる。第1の材料層30は、二酸化ケイ素から形成することができ、第2の材料層32は、100nm以上の厚みを有するアルミニウムから形成することができ、又はそれぞれ100nm以上の厚みを有するアルミニウムとチタンとの積層体によって形成することができる。アルミニウム又はアルミニウムとチタンの第2の材料層32と、二酸化ケイ素の第1の材料層30との間に、好ましくは5nm〜50nm、より好ましくは10nm〜30nm、最も好ましくは約20nm+/−5nmの厚みを有する接着層33が配置されている。接着層33は、良好な接着性を有するチタンから形成することができる。
【0071】
図5は、埋め込み酸化物層とアルミニウム層(上側のカーブ)と埋め込み酸化物層とチタン層(下側のカーブ)を含む積層された第1の材料の埋め込み酸化物層の厚みに対する反射係数を表すグラフを示す。埋め込み酸化物層の厚みが130nm、430nm又は130nmと300nmの倍数との和の値及びその前後で、BOX/Al積層体の反射率がBOX/Ti積層体の反射率を大幅に超えていることが分かる。更に、BOX/Al積層体のカーブの勾配は、埋め込み酸化物層好ましい厚みの範囲である130nm、430nm又は130nmと300nmの倍数との和において、BOX/Ti層のカーブよりも平らになっている。
【0072】
図5に示されるグラフは、シリコンからなる基板15、SiOとアルミニウム又はチタンが積層した第1の材料層30、及びこれに続く網膜層3のシミュレーション結果に基づいている。このシミュレーションにおける屈折率は、波長880nmにおいて、Siで3.66、SiOで1.4525、Alで2.58+8.21 I、Tiで3.06+3.305 I、網膜組織で1.36と仮定した。これらのデータは、本発明の具体的な実施形態を示しているが、同様又は同一の結論が、特にBOX厚みについて、各種波長又は材料特性の場合にも導かれ得る。これらの例は、本発明の範囲を具体的な例に限定すると解釈されるものではない。むしろ、各種材料、材料厚み、層数、反射率などの様々な実施を本発明の範囲内で行うことができる。
【0073】
本発明によれば、BOX層の厚みを、記載した好ましい厚みである130nm、430nm又は130nmと300nmの倍数との和の前後よりも厚い又は薄い厚みに変えることができることが更に理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図4d
図5