(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記モニタされた粘弾性率に少なくとも部分的に基づいて前記処置にフィードバックを適用することは、前記セグメントの粘弾性率の異なるそれぞれのモニタされた値に基づいて前記切開の軌道をガイドすることを含む、請求項5に記載の器具。
前記モニタされた粘弾性率に少なくとも部分的に基づいて前記処置にフィードバックを適用することは、前記セグメントの粘弾性率の異なるそれぞれのモニタされた値に基づいて行われるいくつかの切開を決定することを含む、請求項5に記載の器具。
前記処置をリアルタイムでガイドするステップが、0.4秒未満の前記少なくとも1つの第2の電磁放射線の前記複数の部分のそれぞれのスペクトル特性の異なるそれぞれの値に基づいて、前記セグメントの粘弾性率の複数の値を決定することを含む、請求項15に記載の器具。
前記処置にフィードバックを適用するステップが、前記セグメントの粘弾性率の異なるそれぞれのモニタされた値に基づいて、前記少なくとも1つのセクションにわたって前記処置をガイドすることを含む、請求項14に記載の器具。
複数のセグメントの各々についての粘弾性率のモニタされた値が、複数の離散要素値の空間依存関数の時間依存的進展を提供する数値解析に基づいて計算される方法であって、各離散要素値は、前記複数のセグメントの少なくとも1つの粘弾性率のモニタされた値から導出され、各離散要素値は、前記処置中に複数の連続した時間の各々で更新される請求項17に記載の器具。
特定のセグメントの粘弾性率のモニタされた値が、前記少なくとも1つの第2の電磁放射線の対応する部分のスペクトルのスペクトル線幅またはスペクトルシフトの少なくとも1つに少なくとも部分的に基づいて決定される、請求項17に記載の器具。
前記第2の消光効率は、前記第1の消光効率よりも大きく、前記少なくとも1つの第3の電磁放射線の受ける部分の数は、前記少なくとも1つの第2の電磁放射線の受ける部分の数よりも少なく、前記少なくとも1つの第3の電磁放射線の各部分が受けられる時間は、前記少なくとも1つの第2の電磁放射線の各部分が受けられるより長い時間である、請求項22に記載の器具。
前記第1の眼球構成要素の前記少なくとも1つのセクションの前記粘弾性率をモニタするステップが、偏光感応装置を使用して前記少なくとも1つの第2の電磁放射線の前記部分を検出して、前記音波の伝播方向に関連する前記少なくとも1つの第2の電磁放射線の前記部分の特徴を決定することを含む、請求項1に記載の器具。
前記第1の眼球構成要素の前記少なくとも1つのセクションの前記粘弾性率をモニタするステップは、2次元センサアレイの異なる位置において前記少なくとも1つの第2の電磁放射線の前記部分のそれぞれを検出することを含む請求項1に記載の器具。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様では、一般に、眼の少なくとも1つの眼球構成要素のモニタされた特性に基づいて処置を実行するための方法であって、眼の第1の眼球構成要素の少なくとも1つのセクションに対して処置を実行するステップと、第1の眼球構成要素内の少なくとも1つの音波と相互作用するように、第1の眼球構成要素の少なくとも1つのセクションに少なくとも1つの第1の電磁放射線を提供するステップであって、少なくとも1つの第2の電磁放射線が、相互作用に基づいて生み出されるステップと、少なくとも1つの第2の電磁放射線の複数の部分を受けるステップであって、各部分が第1の眼球構成要素の少なくとも1つのセクションの異なる対応するセグメントから放出されたステップと、第1の眼球構成要素の少なくとも1つのセクションに実行される処置の間に複数の部分に基づいて第1の眼球構成要素の少なくとも1つのセクションの粘弾性率をモニタするステップと、モニタされた粘弾性率に少なくとも部分的に基づいて処置にフィードバックを適用するステップであって、(1)セグメントの粘弾性率の異なるそれぞれのモニタされた値に基づいて切開の軌道をガイドすること、または(2)セグメントの粘弾性率の異なるそれぞれのモニタされた値に基づいて行われるいくつかの切開を決定することのうちの少なくとも1つを含むステップとを含む。
【0006】
諸態様は、以下の特徴の1つ以上を含むことができる;
この処置は、第1の眼球構成要素の硬さを増加させる処置を含む;
第1の眼球構成要素の硬さを増加させる処置は、眼の角膜のクロスリンキングを含む;
処置は、第1の眼球構成要素の硬さを減少させる処置を含む;
第1の眼球構成要素の硬さを減少させる処置は、切開を含む。
【0007】
モニタされた粘弾性率に少なくとも部分的に基づいて処置にフィードバックを適用するステップは、セグメントの粘弾性率の異なるそれぞれのモニタされた値に基づいて切開の軌道をガイドすることを含む。
【0008】
軌道をガイドすることが、軌道の少なくとも一部の曲率半径、または軌道の長さのうちの少なくとも1つを決定することを含む。
【0009】
モニタされた粘弾性率に少なくとも部分的に基づいて処置にフィードバックを適用することは、セグメントの粘弾性率の異なるそれぞれのモニタされた値に基づいて行われるいくつかの切開を決定することを含む。
【0010】
切開は、キャビテーション気泡の生成に基づいて第1の眼球構成要素の光学的破壊を誘発するレーザ切開を含む。
【0011】
切開は、第1の眼球構成要素の機械的破壊を誘発する機械的切開を含む。
【0012】
第1の眼球構成要素は眼の水晶体を含み、第1の眼球構成要素の硬さを減少させる処置は、水晶体のレーザ誘発光分解を含む。
【0013】
この処置は、第1の眼球構成要素の少なくとも1つのセクションに第3の電磁放射線を提供するために光源を使用する。
【0014】
この処置は、音波のエネルギーの少なくとも一部を提供するために音響源を使用する。
【0015】
少なくとも1つの第2の電磁放射線は、ブリルアン散乱相互作用に基づいて生成される。
【0016】
処置にフィードバックを適用するステップは、リアルタイムフィードバックを適用して処置をリアルタイムでガイドするステップを含む。
【0017】
処置をリアルタイムでガイドするステップが、0.4秒未満の少なくとも1つの各第2の電磁放射線の複数の部分のスペクトル特性の異なる各値に基づいて、セグメントの粘弾性率の複数の値を決定することを含む。
【0018】
処置にフィードバックを適用するステップが、セグメントの粘弾性率の異なるそれぞれのモニタされた値に基づいて、少なくとも1つのセクションにわたって処置をガイドすることを含む。
【0019】
セグメントは、粘弾性率の異方性モニタを提供するために、3つの空間次元に分布させる。
【0020】
複数のセグメントの各々についての粘弾性率のモニタされた値が、複数の離散要素値の空間依存関数の時間依存的進展を提供する数値解析に基づいて計算され、各離散要素値は、複数のセグメントの少なくとも1つの粘弾性率のモニタされた値から導出され、各離散要素値は、処置中に複数の連続した時間の各々で更新される。
【0021】
数値解析は有限要素解析を含む。
【0022】
特定セグメントの粘弾性率のモニタされた値は、少なくとも1つの第2の電磁放射線の対応する部分のスペクトルのスペクトル線幅またはスペクトルシフトの少なくとも1つに少なくとも部分的に基づいて決定される。
【0023】
方法は、眼の第2の眼球構成要素の少なくとも1つのセクションに対して処置を実行するステップと、第2の眼球構成要素の少なくとも1つの音波と相互作用するよう第2の眼球構成要素の少なくとも1つのセクションに少なくとも1つの第1の電磁放射線の一部を部分に提供するステップであって、少なくとも1つの第3の電磁放射線が、相互作用に基づいて生成されるステップと、少なくとも1つの第3の電磁放射線の複数の部分を受けるステップであって、各部分が第2の眼球構成要素の少なくとも1つのセクションの異なる対応するセグメントから放出されたステップと、第2の眼球構成要素の少なくとも1つのセクションに実行される処置の間に少なくとも1つの第3の電磁放射線の複数の部分に基づいて第2の眼球構成要素の少なくとも1つのセクションの粘弾性率をモニタするステップと、第2の眼球構成要素の少なくとも1つのセクションのモニタされた粘弾性率に少なくとも一部に基づいて処置にフィードバックを適用するステップとをさらに含み、少なくとも1つの第2の電磁放射線の複数の部分は、少なくとも1つの第2の電磁放射線に特徴的なスペクトルを分離する第1の消光効率を有するように構成された分光計を通して受けられ、少なくとも1つの第3の電磁放射線の複数の部分は、少なくとも1つの第3の電磁放射線に特徴的なスペクトルを分離する第2の消光効率を有するように構成された分光計を通して受けられる。
【0024】
第2の消光効率は、第1の消光効率よりも大きく、少なくとも1つの第3の電磁放射線の受ける部分の数は、少なくとも1つの第2の電磁放射線の受ける部分の数よりも少なく、少なくとも1つの第3の電磁放射線の各部分が受けられる時間は、少なくとも1つの第2の電磁放射線の各部分が受けられるより長い時間である。
【0025】
第1の眼球構成要素は眼の角膜であり、第2の眼球構成要素は眼の強膜である。
【0026】
第1の眼球構成要素の少なくとも1つのセクションの粘弾性率をモニタするステップは、偏光感応装置を使用して少なくとも1つの第2の電磁放射線の部分を検出して、音波の伝播方向に関連する少なくとも1つの第2の電磁放射線の部分の特徴を決定することを含む。
【0027】
第1の眼球構成要素の少なくとも1つのセクションの粘弾性率をモニタするステップは、2次元センサアレイの異なる位置において少なくとも1つの第2の電磁放射線の部分のそれぞれを検出することを含む。
【0028】
粘弾性率は、複数のセグメントのそれぞれについて決定され、粘性率を表す成分と弾性率を表す成分とを含むパラメータで表される。
【0029】
別の態様は、一般に、眼の少なくとも1つの眼球要素のモニタされた特性に基づいて処置を実行するための器具であって、眼の第1の眼球構成要素の少なくとも1つのセクションに処置を実行するように構成された少なくとも1つの第1の装置と、第1の眼球構成要素の少なくとも1つの音波と相互作用するように、第1の眼球構成要素の少なくとも1つのセクションに少なくとも1つの第1の電磁放射線を提供するように構成された少なくとも1つの第2の装置であって、少なくとも1つの第2の電磁放射線が相互作用に基づいて生成される装置と、少なくとも1つの第2の電磁放射線の複数の部分を受けるように構成された少なくとも1つの第3の装置であって、各部分が第1の眼球構成要素の少なくとも1つのセクションの異なる対応するセグメントから放射された装置と、第1の眼球構成要素の少なくとも1つのセクションに実行される処置の間に複数の部分に基づいて第1の眼球構成要素の少なくとも1つのセクションの粘弾性率をモニタするよう構成される少なくとも1つの第4の装置とを含み、第1の装置がモニタされた粘弾性率に少なくとも部分的に基づいて処置にフィードバックを適用するようさらに構成され、(1)セグメントの粘弾性率の異なるそれぞれのモニタされた値に基づいて切開の軌道をガイドすること、または(2)セグメントの粘弾性率の異なるそれぞれのモニタされた値に基づいて行われるいくつかの切開を決定することのうちの少なくとも1つを含む。
【0030】
他の態様では、一般に、器具および方法は、インビボで患者または動物の眼組織の少なくとも一部分に関する生体力学的情報を空間分解能で提供することができる。眼の組織内から発生させたブリルアン光散乱は、組織の生体力学的情報を得るために使用される。散乱光のスペクトル特性を分析および処理して、角膜実質の弱化や水晶体核の加齢に関連する硬化などの、眼組織の健康および疾患に関連する生体力学的情報を提供する。プローブビームが組織を横切って走査され、ブリルアン散乱光の1次元、2次元、または3次元のスペクトルデータが得られる。得られた情報は、測定されたスペクトル特性から得られた画像またはパラメータの形態で表示される。
【0031】
諸態様は以下の利点の1つ以上を備え得る。
【0032】
本明細書に記載される技術は、患者の眼または生きている動物の眼の角膜、強膜および水晶体などの様々な眼組織および/または構造を含む、眼球構成要素の生体力学的および生理学的特性を得るための装置および方法に関し、眼疾患の診断および/または治療のための処置、ならびに基礎研究および前臨床開発を行うためのものである。この情報は、眼球構成要素の極超音速音響特性に関連するブリルアン光散乱のスペクトル分析から得られる。
【0033】
この技術によって、角膜拡張症や老視といった眼の障害の診断ならびにこれらの問題の治療に関連し、それらにおいて有用である生体力学的情報の非侵襲的な検査が、可能になる。そのため、屈折矯正手術の患者をスクリーニングし、リスクのある候補者を特定し、切除のパターンを最適なものにするための定量的なアプローチが得られる。
【0034】
処置中に眼組織の粘弾性率をモニタするためにブリルアン散乱スペクトロスコピーを用いることにより、モニタされた粘弾性率からのフィードバックを用いながら、その処置をリアルタイムでガイドすることができる。モニタされた粘弾性率は、外科的処置や他のタイプの治療上の処置などの処置に伴う細胞のプロセスによって引き起こされる生体力学的変化の測定を行うことができる。眼球構成要素(または他の生物学的組織)に対する生体力学的変化は、それらの細胞構造(例えば、細胞外マトリックス、コラーゲン線維、星状細胞、角膜実質細胞など)に影響を与える変化を含み得る。
【0035】
眼内圧(IOP)のような特性を説明するために逆モデリングを利用する必要がある場合のある数値解析(有限要素解析など)を使用して、眼の構造をモデリングする他の技術と比較して、本明細書に記載の技術は、逆モデリングなどの追加の計算ステップを必ずしも実行する必要なく、IOPを含む多くの物質特性に関連した、粘弾性率の直接マッピングを可能にする。
【0036】
本発明の他の特徴および利点は、以下の説明および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0038】
水晶体には年月を経て硬くなる傾向があることが、長い間知られている。水晶体が硬化すると、水晶体を保持する筋肉が形状を容易に変えることができなくなり、当事者は近くの物体に焦点を合わせるのがより困難になったり、調節能力が喪失したりする、老視と呼ばれる状態になる。老視は、45歳超のほぼすべての者が患うものである。それにもかかわらず、臨床医は、水晶体の生体力学的変化を特徴付ける手段を有していない。さらに、いかなる薬物もこの状態の進行性を妨害し、緩徐化または逆転させるのに利用できずにいる。
【0039】
白内障、つまり水晶体の混濁は、世界の失明の主要な原因である。加齢性の核白内障が最も一般的な形態であり、65歳以上の米国人住民の50%超が患っている。その蔓延にもかかわらず、今日の白内障患者に対するケアの唯一の標準は、手術、つまり侵襲的な処置であり、患者が処置に適格になるまで何年も悪化した視野に苛まれた後に、通常行われる。米国の約150万人(白内障8700万人のうち)が毎年白内障の手術を受けているが、この状態では8500万を超える者たちが治療を受けていない。水晶体のタンパク質の損傷を治療または予防することができる薬物が積極的に求められている。しかし、白内障のメカニズムの理解が限られていたことと、白内障の起源をモニタすることができる技術が不足していたことで、薬物の開発が妨げられていた。白内障の形成の根底にある詳細なメカニズムはまだ解明されていないが、水晶体の混濁は水晶体のタンパク質の変性に起因し得ることが知られている。この構造的および生理学的な変化により、水晶体の弾性特性が変わる可能性がある。したがって、患者の水晶体の弾力性を測定できることは、白内障の早期診断および非外科的介入の開発に有用であり得る。
【0040】
角膜では、角膜の硬さと眼内圧との力学的バランスが、角膜の適切な形状および正常な機能を維持する上で重要である。したがって、角膜の力学的特性の異常な変化は、視力を低下させ、視野を損なわせる可能性がある。角膜拡張症は、角膜が眼内圧に耐えるほど力学的に十分に強くない場合に発生する、角膜の隆起を意味する。拡張症は、円錐角膜と呼ばれる変性疾患に起因する可能性がある。円錐角膜および角膜突出は、一般の人口1000人のうち1人に発生し、毎年米国の150万人の患者で行われるLASIK手術の合併症であることが多い。これらの状態および処置はすべて、眼の力学的性質に本質的に関連しており、診断の観点からは、非常に早い段階で、眼組織の力学的特性を変化させることが期待される。
【0041】
拡張症は、LASIK(レーザ角膜切削形成術)手術後の稀ではあるが深刻な有害転帰の1つでもある。現在、米国では約150万件のLASIK手術が毎年行われている。LASIKが一般的になるにつれて、LASIK後の拡張症の発生率が増加し続けている。角膜拡張症に対する有望な治療アプローチは、角膜クロスリンキング(CXL)として知られている処置である。これは、角膜の自然に存在するコラーゲン線維をクロスリンクすることによって角膜実質の硬さを増加させるものである。また、角膜の粘弾特性は、眼内圧の眼圧測定にも影響を与えることが知られている。
【0042】
結果として、生体力学的特性は、白内障および屈折障害、例えば近視、遠視、乱視、および老視の発症および進行の診断およびモニタ、ならびに角膜の病理および治療のための適切な標的であり得る。この理由のために、診断、および治療のモニタのために、水晶体、強膜および角膜組織の力学的特性を測定することに大きな関心が寄せられている。しかし、現在の技術では、患者および動物のモデルにおいてインビボのそのような局所的な生体力学的変化を検出することができず、一般的な眼の問題の理解および治療を発展させようとする我々の努力が深刻に頓挫している。
【0043】
従来のスリットランプ検査からもっと新しい画像技術(コンピュータビデオケラトグラフィー、OCT、共焦点顕微鏡観察、超音波、Scheimflug写真撮影)までの通常の技術は、角膜、強膜、結膜および水晶体の構造を画像化するのに優れているが、生理学的および生体力学的情報を提供できない。パキメトリー(厚さの測定)やトポグラフィ(表面の湾曲のマッピング)などの現在の臨床機器は、LASIK後の拡張症のリスクが高い患者をスクリーニングする際、限界がある。正常に見える角膜の患者が合併症を発症してきた。
【0044】
いくつかの技術が、エクスビボおよびインビボでの角膜、強膜および水晶体の力学的特性を特徴付けるために使用されている。例えば、回転式カップ、機械式ストレッチャー、応力ひずみ装置、または膨張検査によって、包括的ではあるが破壊的な分析が行われてきた。他の機械的検査方法には、気泡の生成に基づくレーザ誘起の光学的破壊、および空間情報なしで表面の角膜のヒステリシスを測定する眼の反応分析を含む。超音波は、エラストグラフィなどの非侵襲的方法を可能にするため、魅力的な手段である。特に注目すべきは、超音波パルスエコーの技術および超音波スペクトロスコピーであり、パルスまたは連続波の音波が角膜に発射され、伝播速度および減衰が測定されて組織の粘弾性率が計算される。しかし、超音波ベースの技術は、空間分解能および測定感度が比較的低いという欠点を有する。
【0045】
組織または他のいずれかの媒質におけるブリルアン光散乱は、入射光と物質内の音波との相互作用に起因して生じる。試料に照射される、周波数νおよび波長λを有するプローブ光を考える。自然発生的なブリルアンプロセスでは、熱の変動により音波または音響フォノンが自然に存在する。このような変動は、音波の形態で媒質を介して伝搬する。これらの音波は、屈折率の周期的な変調を発生する。ブリルアン散乱は、少なくとも1つまたは多くの音波または音響フォノンによって発生させることが可能であり、それは位相整合された屈折率の変調を形成する。
【0046】
図1Aは、説明の例示的な実施形態を示す。第1の装置100は、第1の電磁放射線110を提供し、それは眼120に送達される。電磁放射線110の最も適切な形態は、可視または近赤外領域の光である。第1の装置は光源を含むが、光源は典型的には単一周波数レーザ、フィルタリングされた水銀灯、または当技術分野で知られている他のタイプの発光器である。光源は、530nmと1350nmの間の波長を有することができるが、眼に使用するのに安全であることが知られている他の波長を使用することができる。光の線幅は、典型的には1GHz未満、またはより好ましくは100MHz未満であるが、より広い線幅または複数のスペクトル線を有する光源を、適切な装置と組み合わせて使用することができる。
【0047】
電磁放射線110は、角膜122および水晶体124を含むがこれらに限定されない眼組織の様々な部分を探知するために、眼120に向けられる。一般に、結像レンズ130は、電磁放射線110を小さなスポットに集束させるために使用される。結像レンズ130は、球面の凸レンズ、非球面レンズ、対物レンズ、θレンズ、または線集束のための円柱レンズであってもよい。
【0048】
眼組織内の焦点の軸方向位置を走査するために、結像レンズ130を、並進ステージ134に取り付け得る。あるいは、プローブ光の開きを変化させる同調可能な素子を用いてもよい。焦点の横断的な位置を走査するために、1軸または2軸のビームスキャナ140が使用される。スキャナ140は、ガルバノメータ搭載型ミラー、MEMSミラー、並進ステージ、または空間光変調器とすることができる。
【0049】
組織での音響光学的な相互作用は、第2の電磁放射線を発生する光散乱を引き起こす。レイリー散乱とミー散乱、ラマン散乱、およびブリルアン散乱を含む光散乱のいくつかの機構が、当該技術分野で知られている。一般に、生物組織はこれらの散乱メカニズムのすべてを支持するが、ブリルアン散乱は媒質の音波と直接関連する。少なくとも1つの第2の電磁放射線の一部は、結像レンズ130によって集めることができる。エピ検出構成では、相互作用するプローブ光およびブリルアン散乱光は、ほぼ逆の方向に進む。あるいは、2軸構成を採用することができ、それにおいてプローブ光および散乱光は有限角度である。
【0050】
システムは、ビームスプリッタ142を使用して、第1および第2の電磁放射線を反射および伝導することができる。ビームスプリッタ142は、信号生成および収集の効率を最適化するために、等しい50/50の分割比または不等な分割比を有することができる。ビームスプリッタ142は、広いスペクトル帯域幅を有するニュートラルスプリッタ、または多層コーティング、干渉、または回折に基づくダイクロイックスプリッタであってもよい。第2の電磁放射線144の一部は、少なくとも1つの第2の電磁放射線の少なくとも1つの部分144を受けるように構成された第2の装置150に送られる。
【0051】
好ましい実施形態では、第2の装置150は、分光計、モノクロメータ、固定式または走査式のスペクトル用フィルタ、または当技術分野で知られている他の装置のような、少なくとも1つのスペクトル分析装置を使用する。第2の装置150は、第2の電磁放射線144の様々な特性を測定するように構成され、例としてそのスペクトルの中心周波数および幅、ならびに電界の強度および偏光が挙げられるが、これらに限定されない。特に、組織に入る少なくとも1つの第1の電磁放射線110と、ブリルアン散乱光を含む第2の電磁放射線144の少なくとも1つの部分との間における周波数の差が重要である。
【0052】
プローブ光110に対するブリルアン散乱光の周波数シフトν
Bは
【数1】
で得られる。
【0053】
式中、nは調べる組織の局所屈折率であり、Vは試料の音波の速度であり、θは散乱角、すなわち2軸ジオメトリなどでの入射光と散乱光との間の角度である。エピ後方検出構成では、θ=πが適度に良好な近似値である。典型的な軟組織では、音波の速度は1000〜3000m/sの範囲であり、ブリルアン周波数シフトは波長に応じて典型的には2〜20GHzである。
【0054】
ブリルアン散乱光の固有のスペクトル幅または線幅は、
【数2】
によって得られる。式中、αは試料の音波の減衰係数である。
【0055】
縦方向の複素弾性率M=M’+iM”は、式中、実数部M’が弾性率を表し、虚数部M”が粘性率であり、
【数3】
で得られる。
【0056】
したがって、ブリルアン散乱光のスペクトル特性の測定は、眼組織の生体力学的特性に関する情報を提供する。ブリルアン測定によって得られる有用な情報には、音速、音響減衰係数、ブリルアン弾性率、ブリルアン粘性率、および電気歪係数が含まれるが、これらに限定されない。以下でさらに説明するように、組織内の焦点を走査することによって異なる空間的位置を探知することができ、空間的に分解された様式の情報が得られる。ひいては、この空間情報は、眼組織の力学的完全性または健康を診断すべく評価するのに役立ち得る。
【0057】
所与の物質の屈折率および音速は、一般に、局所的な温度および圧力に依存する。この依存性は、房水および硝子体液の温度またはph値の測定を介して、眼の炎症または病理状態の分析のために利用できる。ブリルアン散乱放射の大きさは、電歪係数などの、物質の特性に関連する、試料内の音響エネルギーと光エネルギーの結合に関連している。
【0058】
図1Bは、第1の装置100とビームスキャナ140との間に光ファイバ160を使用する変形的な実施形態を示す。別の光ファイバ162を用いて、ブリルアン散乱光を第2の装置150に送ることもできる。サンプルアームの光ファイバ160は、シングルモードファイバであることが好ましいが、マルチモードファイバ、多モードファイバまたはダブルクラッドファイバを使用することができる。好ましくは、検出アームの光ファイバ182は、シングルモードファイバまたは多モードファイバである。光ファイバ162は、共焦点ピンホールとして機能することができ、試料のプローブ光の焦点から発生した第2の電磁放射線の本質的に一部のみを選択的に収集することを可能にする。この共焦点検出は、3次元分解能による、空間分解のブリルアン測定を非常に容易にする。共焦点検出の原理は、当該技術分野において周知である。光ファイバ162の代わりに、ピンホールの採用などの空間的なフィルタを使用してもよい。ビームの経路に沿った様々な空気−ガラスまたは空気−組織界面での光反射を最小にするか、反射光が可能な限り第2の装置150に入ることを防止することが望ましい。
【0059】
システムは、少なくとも1つの第1の電磁放射線またはプローブ光に対する眼120の位置決めを容易にするように構成された第3の装置170をさらに備えることができる。好ましくは、第3の装置は、前額レスト、顎レスト、眼固定ビーム、および細隙灯という特徴のうちの少なくとも1つを含む。特に、ヒューマンインターフェース180は、カメラを使用して、少なくとも1つの眼組織に対する少なくとも1つの第1の電磁放射線の少なくとも1つの位置を測定することができる。このタイプのビームガイド装置は、プローブビームの照準を促進し、焦点の位置情報を提供することができ、ブリルアン画像または眼組織の生体力学的特性の空間マップの作成に使用できる。
【0060】
このシステムは、第4の装置180をさらに備えることができ、これはインビボで眼にある眼組織の少なくとも1つの部分に関連する情報を表示するように構成される。表示される情報は、ブリルアン周波数シフト、ブリルアン線幅、ブリルアン画像、および極超音速粘弾性率、ならびにブリルアン画像または粘弾特性の空間マップから計算された平均値や勾配などのパラメータを含み得るが、これらに限定されない。
【0061】
システム構成は、少なくとも1つの周波数基準を提供するための第5の装置190をさらに採用することができる。好ましくは、第5の装置190は、ビームスプリッタ142を介して第1の電磁放射線の少なくとも一部を受け、少なくとも1つ、好ましくは複数のスペクトルピークでブリルアン散乱光を再放出するように構成される。例えば、周波数基準190は、既知のブリルアン周波数シフトを有する少なくとも1つの基準物質、固体または液体を含む。あるいは、周波数基準190は、プローブ光源100の波長にロックさせた波長で電磁放射線を放射する光源とすることができる。両方の場合において、周波数基準190からの電磁放射線は、第2の装置150に向けられる。光スイッチ192は、定強度の電磁放射線をゲート開閉するために使用できる。基準周波数は、スペクトル分析を容易にする第2の装置150におけるスペクトル分析装置の較正に寄与する。
【0062】
式(5)および(6)で規定されるブリルアン粘弾性率は、極超音速のGHzの周波数における組織の特性を表す。角膜組織や水晶体を含むほとんどの軟組織は、周波数依存性モジュラスによって特徴付けられる粘弾特性を示す。より緩慢な緩和プロセスは、GHzの音響フォノンなどの高速の力学的または音響的変調に応答する時間がほとんどなく、そのため物質の「柔軟さ」にほとんど寄与しない。その結果、モジュラスは周波数と共に増加する傾向がある。さらに、音響フォノンの伝播は、水の非圧縮性(すなわち、ポアソン比約0.5)のため、典型的にはヤング率または剛性率よりもはるかに高い、縦弾性率によって支配される。有限の緩和時間と低圧縮率という2つの効果により、ブリルアンと標準的な機械的試験の間のモジュラスの大きな違いを述べるための定性的説明が得られる。
【0063】
1つの研究で、我々は様々な年齢(1〜18ヶ月)のブタとウシの取り出したばかりの水晶体を、機械設備が扱うことのできる大きさの小片に切断した。ブリルアンモジュラスの平均は、ブリルアンスペクトルの3次元測定および推定される密度および屈折率から計算した。予想通り、ブリルアンで測定された弾力性は、従来のDCの弾力性よりもはるかに高い。それにもかかわらず、ブリルアンでの測定と標準的な技術との間には明確な関係があるように見え、ブリルアンの痕跡が実際にレンズ状の組織の弾性に関する情報を提供することを示している。従来の応力−ひずみ試験で測定したヤング率と比較することで、ブタとウシの両方の組織のブリルアン(M’)と準静的モジュラス(G’)の間に顕著な相関があることが明らかになった(
図2)。両対数線形関係に対して曲線の適合で高い相関(R>0.9)が得られた。log(M’)=a log(G’)+b、式中、適合パラメータは、ブタ組織ではa=0.093、およびb=9.29であり、ウシ組織ではa=0.034、およびb=9.50であった。
【0064】
本明細書に記載される技術の態様は、様々な処置をガイドするための光学走査技術によるブリルアン・スペクトロスコピーを利用している。例えば、この技術を使用して、眼の切開を伴う処置(例えば、角膜または角膜輪部、または他の眼組織における切開)をガイドするために眼の特徴を明らかにすることができる。例えば、適切なフィードバックを使用してガイドすることができる切開の特徴のいくつかとしては、幅、深さ、長さ、曲率、切開の数、および切開の位置が挙げられる。この特徴評価が有用な状況の一部として、以下が含まれる。
【0065】
1.矯正角膜切開術(AK)または角膜輪部減張切開術(LRI)または弧状切開(AI)などの、以下を矯正するための切開
a.先天性乱視
b.白内障手術時またはその後残存する角膜乱視
c.外傷後の乱視
d.角膜移植後の乱視
e.角膜屈折矯正手術後の乱視
【0066】
2.眼の前房または後房にアクセスするための一次切開を伴う手術(例えば、白内障手術)
a.眼の前房または後房にアクセスするための一次切開(例えば、角膜輪部の切開、角膜穿刺、または強膜穿刺)
b.二次切開−誘発+既存の乱視を矯正するAK(LRIまたはAI)
i.貫通式の切開(例えば、上皮層を含む前面からなされる角膜の切除)
ii.角膜実質内切開(例えば、角膜実質層内で行われる切除、例えばスマイル(SMILE;small incision lenticule extraction)、ポケット、ガイド用平面、アクセスポートなどのための切開として)
【0067】
3.水晶体へのアクセス(例えば、老視手術)および水晶体軟化のための滑動面形成を伴う手術
LRIやAIを含むAKは、先天性乱視、白内障の手術時またはその後の残存する角膜乱視、外傷後の乱視および角膜移植後の乱視を治療するために使用される外科手術である。
【0068】
白内障手術の場合、水晶体および眼内レンズへのアクセスを可能にするために一次切開が行われ、乱視を矯正するために屈折を変えるべく角膜に二次切開または複数切開(AK)が行われ、両者共既存で、一次切開によって誘導された可能性のあるものである。AK切開の2つの例には、上皮層を介して角膜実質層に切断する貫通性のものと、エネルギー源(例えば、フェムト秒レーザ)または機器(例えば、スチール、ダイヤモンドなどから形成されたナイフまたはブレード)を使用することにより、角膜実質の部分を破壊するのみである、角膜実質内のものとがある。本明細書に記載される技術は、AKのみに限定されず、放射状の角膜切開などの切開を含む他の角膜移植に適用したり、角膜の形状を変化させるために熱エネルギー、機械的エネルギーまたは化学的クロスリンキングを適用したりすることができる。
【0069】
AKの手術計画は、患者の年齢、屈折歴、角膜トポグラフィ、パキメトリー、および他のイメージング(例えば光干渉断層撮影(OCT)、波面収差測定、角膜曲率測定および/または角膜および前房光線追跡法)の結果を含む患者データの組み合わせを評価し、切開の長さ、深さ、深さの均一性、角度および位置を含む、切開の性質をガイドするための適切なノモグラムの選択を思い付くようにする。ノモグラムは通常、フェムト秒レーザなどの外科システムと共に使用され、手作業で行われる場合、AKは典型的には外科医の経験に基づいて提起される。どちらの場合も、AKのプランニングを行うことができる。本明細書に記載の技術では、角膜内のブリルアンモジュラス値、またはブリルアンモジュラス値の2Dまたは3Dのブリルアンマップ(例えば、中心側周辺および周辺領域のモジュラスマップ)を作成して、切開の位置および特性評価用のガイドを提供する。これは、術後惹起乱視(SIA)を最小限に抑えること、眼の既存の乱視を矯正すること、または角膜の屈折特性を変化させるために切開を使用する他の処置を含む、様々な目的を有する可能性がある。例えば、角膜または角膜輪部、またはおそらく強膜の切開がなされる場所で、モジュラスまたは応力などの力学的状態に応じて、結果、例えば、乱視の変化は、異なることになることが予想される。一実施形態では、角膜のモジュラスおよび/または強膜のモジュラスの1つまたは複数の測定は、設定された深さまたは/および間隔で完了でき、それは特定の比率(例えば、角膜の厚さ/測定の所望の数)またはパターン(例えば、角膜の深さを通して等距離の点で得られたモジュラス測定)、角膜におけるモジュラス勾配のマッピングを最適化することを含み得る。また、角膜輪部の領域は、2つの力学的に異なる組織構造(剛性の強膜およびよりコンプライアントな角膜、またはその逆)の間の「ヒンジ」領域(移行領域)として、測定に含めることができる。
【0070】
水晶体を軟化する場合には、1つまたは複数のレンズ内切開を行い、滑動面または切断線を形成する。これは水晶体の大部分の硬さを減少させて軟化し、外面の曲率を大きくして屈折力を調節および増加させながらその形状を変えることができると期待されている。
【0071】
いくつかの実施形態では、ブリルアンスペクトル特性(すなわち、粘弾性率が導出される特性)を分離するために使用する分光計は、構成可能なスペクトル効率を備える。このような分光計の例は、より詳細に後述するが、構成可能な数のVIPAステージを使用して消光効率を変更する。満足のいく信号対雑音比を達成するのに十分なノイズをフィルタリング除去するために、いくつかの眼球構成要素はより多くの光を散乱し、より高い消光効率を必要とする。しかしまた、消光効率がより高いと、ブリルアン発生光を集めるために、より長い時間が必要となる(例えば、電荷結合素子(CCD)検出器における長い統合化時間の使用)。各CCDラインの収集時間が長いことは、所与の時間内に走査できる明確なマッピング位置がより少ないことを意味し、したがって、その時間内に取得できるマッピング分解能がより低いことになる(例えば、リアルタイム操作に対し、0.4秒という短さのことがあり得る)。そのため、消光効率とマッピング分解能間でのトレードオフが存在する。しかし、強膜などの特定の眼球構成要素については、より低いマッピング分解能(例えば、角膜の分解能より低いもの)が許容される。(例えば、CMOS、sCMOS、EMCCDなどの)CCD検出器以外の、またはそれに加える様々な検出器のいずれかを2次元センサアレイとして使用することができる。
【0072】
剛性プロファイルを最も効率的に表す(例えば、Z軸において)、角膜や強膜などの眼球構成要素内の特定の位置(例えば、点、ゾーン、領域、層、エリア)が存在し得る。眼球構成要素の様々なタイプの生体力学的ヒートマップは、例えば、等距離を測定することによって、または特定のエリアに測定を集中させることによって生成することができる。例えば、マップは、眼球構成要素の厚さにおける測定の集中の様々な分布を網羅することができる。
【0073】
図2は、眼組織の複数の位置で生体力学的情報を取得し、それによってブリルアン画像を得るために、焦点132が眼120でどのように走査されるかを示す様々な例を示す。軸線の走査、側線の走査、ラスタ領域走査、3次元走査、およびランダムサンプリング走査を含む種々の走査形式が当技術分野で知られている。
【0074】
一例では、プローブ光の焦点は、角膜または水晶体の中心に位置決めされる。この軸上の焦点200が深さの座標(すなわち、Z軸)に沿って走査されると、生体力学的情報の軸方向のプロファイル、またはブリルアン軸方向プロファイルが得られる。軸外の軸方向プロファイルは、角膜または水晶体の光学軸から外れている軸外焦点210を使用することによって得られる。角膜の走査の場合、遠い軸外焦点220を使用することができ、この場合、虹彩が水晶体にプローブ光が入るのを阻害している。
【0075】
別の例では、線形の痕跡230に沿って焦点を動かすことによって、横方向ラインの走査または2次元の断面走査が達成される。X座標およびY座標のエリアで焦点を移動することによって、2次元の正面向きまたは3次元の走査を達成することができる。単純なラスタスキャン240または六角形のスキャン250を使用することができる。
【0076】
エピ共焦点検出では、焦点の軸方向および横方向のスパンが、ブリルアンイメージングの軸方向および横方向の分解能を決定し、これは結像レンズ120の開口数(NA)によって与えられる。所与のNAに対して、軸方向分解能は、2軸構成では逆方向エピ検出よりも高い。角膜および水晶体をプロービングするための適切なNAは、典型的には0.1〜0.9の範囲である。網膜検査の場合、水晶体自体がプローブビームを網膜に集束させることができるので、結像レンズ120を使用しなくてもよい。
【0077】
角膜、水晶体、および網膜での光吸収による熱損傷は、眼の安全性において第1に考慮する事項の1つである。眼に対する最大光露出レベルは、文献で比較的よく知られている。眼の安全性、ならびに最大の信号対雑音比のために、最適の出力レベルのプローブ光を使用する必要がある。例えば、780nmの波長に対して、約0.5〜3mWの連続波出力が、角膜検査および水晶体検査に許容され得る。
【0078】
第2の装置150のスペクトル分析装置は、高いスペクトル分解能、高い感度および高い消光を有するべきである。この比較的低い光力およびブリルアン散乱の比較的低い断面は、第2の装置150で使用されるスペクトル装置の感度に対して厳しい要求を課す。これは、スペクトル分析装置の消光に対し厳しい要求を提起する。
【0079】
スペクトル分析装置として、走査型ファブリペロー干渉計を用いることができる。干渉計は、シングルパス構成またはマルチパス構成のいずれかで、約50GHzのフリースペクトルレンジおよび約1000のフィネスを有するように設計することができる。別の代替のスペクトル分析装置は、バンドパス、ノッチまたはエッジタイプの固定式スペクトル用フィルタである。ある周波数成分の大きさを測定する。この場合、第1の電磁放射線の光周波数は、固定フィルタに対して安定化またはロックされてもよい。第2の装置150のための他の可能な実施形態は、プローブ光とブリルアン散乱光との間のビートに基づくヘテロダイン検出を含む。
【0080】
スペクトル装置の好ましい実施形態の1つは、少なくとも1つの仮想イメージドフェイズドアレイ(VIPA)エタロンを使用する分光計である。VIPA300は、入力光のスペクトルを異なる角度または空間点に分散させる。均一な反射率コーティングを有する通常のVIPAは、そのスペクトル伝達機能において約30dBの消光比を有する。
【0081】
2つ以上のVIPAをカスケードにすることは、分光計の感度を著しく損なうことなくコントラストを高めるための実行可能な選択肢である。単一のVIPAエタロン300は、コーティング方向に垂直な方向への光ビームの伝播を変化させずに、コーティング方向に平行な1つの空間方向に沿って、スペクトルの分散を発生する。複数の単一VIPAエタロンは、各VIPAの向きが前のステージの干渉計のスペクトル分散軸に一致するように、カスケードにすることができる。
図3は、横軸カスケードの原理を示す。第1ステージのVIPA300は垂直方向に沿って位置合わせされ、スペクトルのパターンは垂直に分散される。試料が透過的でない場合、または強い光学反射がある場合、弾性散乱成分は劇的に増加する。弾性散乱(濃緑色の円)とブリルアン散乱(薄緑色の円)の比が分光計のスペクトルの消失を超えると、クロストーク信号がスペクトル軸に沿って現れる(緑色の線)。この「迷光」は弱いブリルアン信号を簡単に圧倒することができる。
【0082】
2ステージのVIPAでは、第2のエタロン310は、第1のエタロン300に直角に配置する。第1ステージを出るスペクトルのパターンは、入力ウィンドウを通して第2のエタロンに入る。両方のエタロンは光を直交方向に分散させるので、2ステージ装置の全体的なスペクトル軸は、エタロンが同一の分散力を有する場合、水平軸から135°の対角線方向に沿っている。第2のエタロン310は、第1ステージの後空間的に重複するが、各空間的位置での周波数が異なるため、ブリルアン信号をクロストークから隔てる。したがって、第2ステージの後、ブリルアンスペクトルが対角の軸にある間、エタロンの制限された消光に起因するクロストーク成分が隔てられ、主に水平軸および垂直軸に限定される。
【0083】
信号と迷光が空間的に隔てられるのに加えて、2ステージ分光計は選択的なスペクトルのフィルタリングも可能にする。適切な開口マスク320を、第1のVIPA300の焦点面に配置することができ、その場合高分解能のスペクトルパターンが形成される。マスク320の例としては、スリットや矩形の開口が挙げられる。このマスクにより、望ましくないスペクトル成分が遮断され、スペクトルの所望の部分のみが第2のVIPA310を通過することが可能になる。最適なパフォーマンスを得るには、2つのブリルアンピーク(2つの隣接するオーダーからのストークスおよびアンチストークス)のみを維持し、すべての弾性散乱ピークをカットする垂直のマスクを有することが望ましい場合が多い。これにより、第2ステージVIPA310におけるクロストークが大幅に低減し、フィルタリングされていない強い弾性散乱光によって照らされる、後に配置されるCCDカメラの画素を過剰に供給するのを回避するのに役立つ。
【0084】
この交差軸のカスケードは、第3ステージに拡張することができる。3つのVIPA分光計では、第3のVIPA330は、前の2つのステージのスペクトル軸に垂直に向けられているので、ブリルアンスペクトルはVIPA330の入力ウィンドウを通って入ることができる。第2のマスク340は、クロストークをさらに低減するために使用される。3つのエタロンの分散が組み合わされるのに起因して、すべてのエタロンが同じ分散力を有する場合、全体のスペクトル軸はさらに約170°に回転する。
【0085】
同じカスケード原理に従って、N個のステージの複数のVIPA干渉計を構築することができる。k番目のVIPAは、先行するk−1のステージを介して分散されたスペクトルを受け入れるために適切な角度に配向される。各ステージの構築ブロックは、モジュール式で、円柱レンズC
K、エタロンVIPA
k、焦点距離f
Kを有する球状のフーリエ変換レンズS
KF、マスクおよび焦点距離f
K,K+1の球面リレーレンズS
k,K+1で構成されている。
【0086】
第1ステージでは、VIPAは、横軸(我々の実験ではθ1=90°)に関して、角度θ
1で方向v1に沿って配向され、そのスペクトル分散方向d1に対して、Ψ
1=θ
1でv1と平行である。二重VIPA干渉計では、第2のエタロンは、第1ステージd1のスペクトル方向に垂直な角度θ
2=Ψ
1±π/2(我々の実験ではθ
2=180°)でv2に沿って位置合わせする。2つのエタロンの後、スペクトルはスペクトル分散方向d2に沿って角度Ψ
2で現れる。3ステージ干渉計では、第3のVIPAは、角度θ
3=Ψ
2±π/2で、d2に対して垂直に配向しなければならない。この装置は、角度Ψ
3での最終的な分散方向s3をもたらす。
【0087】
各ステージについて、k番目のVIPA干渉計によって波長λ
kのビームに課された分散角φ
kは、平面波および沿軸の近似の両方で以前に導出された。VIPA後の球面レンズの焦点距離f
k、つまりS
kfは、k番目のステージの線形分散力を決定する。S
k=φ
k*f
kである。望遠鏡が2つの後続のVIPAステージを連結するために使用されるので、全体的な線形分散はまた、そのような光学システムによって導入される倍率に依存する。すなわち、各k番目のステージは、前のk−1ステージによって得られたスペクトルのパターンに倍率M
k=f
k/f
k−1を導入し、k番目のステージによる有効な線形分散、s’
kは、
【数4】
によって得られる。したがって、全体のスペクトル軸に沿って、Nステージの複数のVIPA干渉計の全線形分散S
Nは、
【数5】
と計算され、スペクトル分解能が理論上改善することを示唆している。すべてのスペクトル分散が等しい、すなわち
【数6】
であるとき、全分散は
【数7】
になる。
【0088】
各ステージによって導入されたスペクトル分散および光学的倍率を知ることにより、総合的な分散軸を計算することができる。
【0090】
ここで、矢印でマークした式は、すべてのステージについて等しい分散および等倍率の場合に適用される。
【0091】
消光に関しては、単一のVIPA分光計は、エアリープロファイルを有する入力ビームに対して、そのフィネスの2乗に比例するC、つまりC〜4F
2/π
2の消光を有する。等しいフィネスFのN個のVIPAエタロンの後、スペクトルの消光またはコントラストは、原則として、C〜(4F
2/π
2)
Nに改善される。
【0092】
我々は、単一ステージ、2ステージ、3ステージのVIPA分光計の消光パフォーマンスを、シングルモードのレーザ光を分光計に直接連結し、S
1f、S
2f、およびS
3fの焦点面にそれぞれCCDカメラを配置することによって実験的に比較した。CCDの限定されたダイナミックレンジを克服するために、0から7の範囲の光学濃度の較正されたニュートラルデンシティ(ND)フィルタを用いて、様々な光出力レベルでスペクトルを記録した。続いて、それぞれの減衰レベルに従って、記録された生スペクトルを再スケーリングすることにより、フルダイナミックレンジのスペクトルを再構成した。単一ステージのVIPAは、5〜25GHzの広い周波数範囲で約30dBの消光レベルを示す。消光は、2ステージで55dB、3つのVIPAエタロンでほぼ80dBに、周波数範囲の中間で改善されている。光学システムの収差を最小化し、ビームの形状またはプロファイルを改善することにより、90dBまで消光を改善できる可能性がある。
【0093】
交差軸をカスケードにする他に、VIPAエタロンの消光比を改善する別のアプローチは、VIPA出力の強度プロファイルをガウス形状というアポダイゼーションとして知られる技法に近づけることである。
図4Aは、アポダイズされたVIPAエタロンを使用する分光計の実施形態を示す。この実施形態では、空間的に変化する透過プロファイルを有する空間フィルタ360が、第1のVIPAエタロン300の直後に使用される。フィルタ360は、そうでなければ指数関数的なビームプロファイルを、切断したガウス分布などの丸みを帯びた形状に変換する。第2のVIPAエタロン310の後に、別のリニア可変フィルタ365が用いられる。スペクトルの分散された出力は、その後、検出装置370に結像される。検出装置は、典型的には、電荷結合素子(CCD)または線形検出器アレイに基づく2次元カメラである。
【0094】
図4Bは、アポダイゼーションフィルタ360の役割を示す。入力光380は、エタロン300に入射し、フェーズドアレイからなる出力ビーム380に変換される。通常、フィルタ360がない場合、この出力ビーム380の強度は指数プロファイル384を有する。フィルタ360の透過プロファイルは、長さに沿って線形、指数関数、またはより複雑な非線形勾配を有することができる。適切に設計された透過プロファイルを有する可変フィルタ360は、指数プロファイル384を、より丸みのあるガウス様プロファイル388に変換する。検出装置370の前のフーリエ変換レンズを通過すると、丸みを帯びたプロファイルが、通常のVIPAエタロンよりも著しく少ないクロストークまたは高い消光比を生じる。リニア可変フィルタでは、通常、40dBを超える消光比が達成可能である。
【0095】
アポダイゼーションの別の実施形態では、VIPAエタロン390は、その反射率および透過率が空間的に変化して、丸みを帯びたガウス様強度プロファイル396を生成するように、出射面394に勾配コーティングをして作製される。例えば、99.9%から90%まで直線的に可変であるコーティング394の反射率の単一のVIPAでは、原則的に一定の位相プロファイルを仮定して、約59dBの消光比を達成することができる。勾配のある反射率は、一般に、空間的に変化する位相プロファイルをもたらす。線形位相チャープは、減衰にあまり影響を与えず、ウェッジを用いることによって補償することができる。15の蒸着されたコーティング層により、反射率は、表面394に沿って15mmにわたって92%から98.5まで変化させることができ、ウェッジからλ/100の偏差を生じさせ得る。より多くの層にすると、約λ/40の増加する非線形の位相変化を犠牲にして、92%から99.5%までのより高い反射率の勾配を達成することができる。
【0096】
システムの構成は、眼組織の複数の空間点を同時に調べるように構成することができる。
図5Aおよび
図5Bは、2つの例を示す。プローブ光の複数の焦点400を形成し、各焦点からのブリルアン散乱光402が中継され、フリースペースまたはファイバアレイ410を介してVIPAエタロン390に結合される。次いで、検出装置に投影された空間スペクトルパターン420が処理されて、調べられる眼組織に関する生体力学的情報を提供する。
【0097】
複数の空間的な点を調べる別の方法は、線状焦点430を使用することである。線状焦点430から発生させたブリルアン散乱光432が中継され、エタロン390に結合される。検出装置に投影された空間スペクトルパターン420は、眼組織に関する情報を生成するために使用される。
【0098】
ラマン・スペクトロスコピーや蛍光スペクトロスコピーなどの他のスペクトルのモダリティは、ブリルアン・スペクトロスコピーと同時に実行することができる。複合的なモダリティでは、眼組織の生化学的および構造的、ならびに生体力学的および生理学的特性に関するより包括的な情報を提供し得る。蛍光、ラマンおよびブリルアンのスペクトルは電磁スペクトルの異なる領域を占めるので、第2の装置150は、これらのスペクトルを分けて、それらを同時に分析するように構成することができる。グレーティングやダイクロイックミラーなどの様々なスペクトル分散素子を使用して、異なる放出機構に関連するスペクトルを容易に分離して分析することができる。分離されたスペクトルは、強度を適切に等化した後、CCDカメラなどの単一の検出装置に投影することができる。あるいは、スペクトルを異なる検出装置に向けることができる。
【0099】
我々は、本記載の原理を証明する実験および実現可能性の研究を行った。我々は、光源、イメージング光学系、分光計、およびコンピュータからなる2つのプロトタイプの機器を開発した。2つのプロトタイプ用の光源は、1MHzの線幅を有する532nmの波長を放射する周波数倍増ダイオード励起Nd−YAGレーザと、およそ100MHzの線幅を有する780nmで放射するグレーティング安定化単一縦モードレーザダイオードである。光は、35mmまたは11mmの焦点距離のレンズを通して試料に集束させる。プロトタイプでは、ビームスキャナと、試料を移動するための電動の並進ステージを使用した。散乱光が同じレンズを通して集められるように、エピ検出構成を採用した。シングルモードファイバを共焦点ピンホールとして使用した。
【0100】
次いで、光をVIPA分光計へと結合させて、電子増倍型CCDカメラの面のスペクトル成分の高空間分離をさせた。分光計は3nmのバンドパスフィルタを用いて蛍光を遮断した。プロトタイプに使用される光学設計は、2ステージVIPA分光計と可変の減衰のニュートラルデンシティフィルタとの組み合わせである。分光計は、約1GHzのスペクトル分解能、約75dBの消光比、および約40のフィネスでの7dBの全挿入損失を特徴とする。
【0101】
インビボで水晶体の弾性を測定する可能性を検証するために、
図6Aに示すように、実験用マウス500(C57BL/6系統)でブリルアンイメージングを行った。麻酔下でプローブビーム510をマウスの眼の中に集束させた。動物をモーター付きステージで動かしながら、散乱光の光学スペクトルが記録された。
図6Bは、前部皮質(i)、水晶体核(ii)、後部皮質(iii)、および硝子体液(iv)のスペクトルパターンを特徴とする、水晶体の眼球光学軸に沿った異なる深度で、分光計のカメラによって記録された未処理のデータを示す。各スペクトルは100msで取得された。
図6Cは、房水から水晶体を通って硝子体までの領域における深さの関数として測定されたブリルアン周波数シフトのプロットを示す。
図6Dは、深さにわたるブリルアンスペクトルの幅の軸方向プロファイルを例示している。これらの曲線から、核の中心におけるブリルアンシフトピーク、ブリルアン線幅ピーク、レンズを横切る平均周波数シフトなど、いくつかの診断パラメータを導出することができる。
【0102】
図6Eは、断面のブリルアン弾性マップを示し、ここで、色は、測定されたブリルアン周波数シフトを表す。画像領域は、それぞれ1.7×2mm
2(XY)、1.8×3.1mm
2(YZ)、2×3.5mm
2(XZ)である。サンプリング間隔100μmで、各軸線(20ピクセル)を走査するのに約2秒、断面(20×25ピクセル)に対して約50秒、3D全体にわたって約20分を要した。これらの画像は、外側の皮質から内側の核まで増加するモジュラスの勾配を視覚化する。
【0103】
インビボのブリルアン顕微鏡法を用いて、水晶体モジュラスの自然の年齢依存性を調べた。18ヶ月齢のマウスの水晶体核の中心で観察されたブリルアンピークシフトは16GHzであったが、1ヶ月齢の若いマウスのシフトは11.5GHzであった。この研究を年齢の異なる12匹のマウスに広げ、加齢と関連のある硬化の明らかな傾向を見出した。次に、毎週マウス1匹を2ヶ月間撮像し、加齢と関連のある一貫したデータを得た。結果は、極超音速の弾性率と動物の年齢との間の定量的(対数線形)の関係を示している。この結果は、マウスにおける水晶体の加齢と関連する硬化を証明する最初の生体内データを示唆している。
【0104】
エクスビボで、ウシの眼に対してブリルアンイメージングを行った。
図7Aは、ウシの眼の前部の区画のブリルアン画像を示す。プローブビームの横方向および軸方向の分解能はそれぞれ1μmおよび5μmであった。ブリルアン周波数シフトは色でコード化されている。深度分解された断面画像(XZ)は、ブリルアン周波数が上皮600から角膜実質604を経て内皮608に徐々に減少することを示す。房水612のブリルアン周波数は、
図6Cに示す周波数と一致する。深さに沿った弾性率の変化は、角膜の形態学的構造と相関があるように思われる。ブリルアンモジュラスは、正常角膜の横方向の大きさに沿ってあまり変動がないように見える。
図7Bは、平面で光学的に区分された角膜の正面向きの(XY)画像を示す。
【0105】
図7Cは、
図7Aの断面画像の中央の0.5mm幅の部分から得られた、横方向に平均化された軸方向プロファイル(X軸に沿っている)を示す。いくつかの特徴が観察された。例として、上皮(620)および角膜実質の前部における深さにわたるブリルアン周波数の急な勾配、中心部分(622)における緩やかで見かけ上減少する勾配、および内皮に向かって角膜実質の最内層での急速に減少する勾配624が挙げられる)。
【0106】
したがって、角膜の硬さの軸方向での挙動を特徴付ける各試料について、3つの傾き(前部、中心および後部)を定義することができる。80〜180μmの深さと定義される前部領域では、平均勾配(620)を1.09±0.26GHz/mmと測定した。300〜600μmの深さと定義される中心領域では、平均勾配(622)を0.36±0.06GHz/mmと測定した。そして、680〜780μmの深さの後部領域では、平均勾配624を2.94±0.18GHz/mmと測定した。3つの勾配測定値間の差は、対応のない両側t検定で計算された3つの比較について、0.001未満のp値で極めて統計的に有意であった。定量化することができる別の特徴的なパラメータは、ブリルアンシフトの平均630または深部全体にわたる空間平均である。
【0107】
赤外線プロトタイプシステムを使用して、ヒトを対象にした角膜および水晶体の最初のインビボの研究を行った。動物による研究で見られた特徴がヒトにも存在し、機器がヒトの角膜と水晶体の弾性を検出するのに感応することを確認した。0.7mWの連続波出力で得られた軸方向プロファイルは、角膜前部から角膜後部へとブリルアン周波数が減少することと、房水から水晶体核へと漸進的に剛性が増加することを示す。
【0108】
角膜処置用のモニタ手段としての可能性を検証した。生体力学的なブリルアンイメージングが、角膜クロスリンキング(CXL)として知られる治療の処置によって誘導された角膜の硬さの変化に感応するかどうかを検証した。CXLは、光増感剤と光照射を介して、角膜実質内のコラーゲン線維間の共有結合の形成を促進する有望な技術である。コラーゲン線維間のクロスリンキングの量を増加すると、より硬い角膜実質がもたらされる。ウシの角膜試料に対してCXL処置を実施した。上皮を除去した後、光増感剤(リボフラビン)を角膜実質に拡散させ、青色光を照射することにより活性化させた。
図8Aは、無処置(左)、上皮除去後(中)、クロスリンキング処置後(右)という3つの異なる状態のウシの角膜試料のブリルアン断面画像を示す。クロスリンキングの処置が、角膜実質におけるブリルアンモジュラスを大幅に増強したのは明白である。クロスリンキング後の組織の収縮は十分に実証されている。
【0109】
ブリルアンパラメータを使用して、CXL処置の効果を定量化することができる。前述のものと同様の処置を利用して、CXL前後の角膜の軸方向プロファイルを得た。CXLによって、角膜実質の領域における深さにわたり、ブリルアン周波数の下り勾配(正常組織については
図7Cの622)が劇的に増加することが見出された。
図8Bは、コントロール対治療サンプル(N=4)の中心勾配の増加(絶対値)を示す。この差は、対応のない両側t検定で0.0001未満のp値で統計的に有意であった。
図8Cは、深さのプロファイルに沿って平均化されたブリルアンモジュラスの平均の統計的に有意な増加を示す。治療した組織の増加は約10%であった。
【0110】
最後に、健康なドナーおよび角膜移植を経た円錐角膜患者から得た外科的に抽出したヒトの角膜に関するブリルアン分析を実施した。中心の勾配とブリルアンモジュラスの平均の両方に統計的有意差があることを見出した。
【0111】
これらの実験結果のすべては、臨床的および前臨床的な眼科学、ならびに基本的な眼の研究において、本記載の有用性があることを示している。ブリルアン眼分析装置は、早期診断、リスクのある患者のスクリーニング、治療反応のモニタ、治療のための新規アプローチの開発、および病因の理解を助ける有用な診断手段であることが証明されていると思われる。
【0112】
水晶体、強膜および角膜の力学的特性は、白内障、老視および角膜拡張症などのいくつかの医学的問題において重要な役割を果たす。これらの障害および年齢は、ひいては組織の力学的特性を変えることが知られている。本記載により、眼の様々な組織の生体力学的および生理学的状態に関連する情報を、生きている患者および動物において非侵襲的に得て、医学的問題の理解、診断および治療に有用な情報を提供することができる。本記載では、眼組織の力学的特性は、ブリルアン散乱を介して眼組織から再放射された光のスペクトルから得られる。その情報は、臨床現場における眼疾患の診断および治療、ならびに基礎および前臨床段階において有用である。
【0113】
本明細書に記載された技術は、局所的または全体的なブリルアンモジュラス値を使用する有限要素解析(FEA)などの数値解析に基づくアルゴリズムを含むアルゴリズムで使用することができる。このような数値解析により、局在レベルの物質の情報が使用できるようになり、それにおいては、眼球構成要素のセグメントに対応するFEAモデルの各要素が、割り当てられた個々の粘弾性率値を有することができる。そのような局所化された物質情報がなければ、FEAモデルの要素(例えば、要素の3D配列のボクセル)は、モデリングされた領域全体にわたって単一の物質定数を割り当てる必要がある可能性があり、そのことはFEAモデルなどに基づいて処置を動的にガイドするのに有用ではない。たとえ割り当てられた物質定数がインサイチュでの測定に基づいて更新できても、眼球構成要素のモニタされた特性に基づいて個々の要素を更新する高解像度の動的に進化するモデルを有することは、ひときわ有用である。ブリルアンモジュラスに加えて、数値モデルを生成するFEAエンジンには、角膜トポグラフィ、曲率、厚さなどの幾何情報、眼内圧、および切開パラメータなどの生理学的情報を含む他の情報を入力することができる。アルゴリズムは、応力−ひずみマップまたは局所応力値を含み得る出力を生成することができる。分析の出力は、様々な切開(例えば、位置、長さ、角度および深さ)をシミュレートし、切開の屈折の影響を予測するために使用できる。このアルゴリズムは、生体力学に基づく応力−ひずみマップを提供することができ、これは所望の外科的な結果または屈折の結果を達成するのに役立つノモグラムに使用することができる。
【0114】
図9A〜9Eは、本明細書に記載の技術を用いてガイドすることができる例示的な切開を示す。
図9Aおよび
図9Bは、それぞれレーザおよび機械的手段による角膜への切開を示す。
図9Cは、角膜構造に影響を及ぼす恐れがある強膜への切開を示す。
図9Dは、角膜輪部減張切開術(LRI)を示す。
図9Eは、切開の位置における角膜の有限要素モデルのメッシュの変形を示す。
【0115】
角膜の周辺の測定値を得るために克服する必要のある課題が存在する可能性がある。測定機器は、周辺の測定のための特定のシステム、または中央の測定と周辺の測定との間で切り替えることができるシステムのいずれかにおいて、そのような測定を行うことをより容易および/またはより効率的にするように構成することができる。例えば、治療用レーザが入射する斜めの角度を考慮することができる。
【0116】
本明細書に記載の技術の態様は、例えば、近視または緑内障などの状態の診断および予後のための強膜のモジュラスまたは剛性のブリルアンスキャンでの測定に適用して、その状態の治療経路を最適化することができる。
【0117】
眼の白い所としても知られる強膜は、コラーゲンおよび弾性線維を含む眼の不透明で線維性の保護外層である。ヒトにおいては、強膜全体が白色であり、色のついた虹彩と対照的である。眼の形状の変化は、近視の進展に寄与することが示されている。近視の進展および進行にどれほど強膜のコンプライアンスまたは硬さが寄与するかを判定するための調査も行われている。角膜のコンプライアンス/硬さの寄与はわずかであると言われてきた。軸性近視は、眼の軸方向の長さが増加することに起因する。湾曲性近視は、眼の1つ以上の屈折面、特に角膜の湾曲に起因する。軸性近視または湾曲性近視の場合、強膜の性質が眼の屈折面の曲率および/または不規則性にどのように影響するか不明である。この分野の諸研究で、眼組織の厚さなどの特性が、極度に近視である者と正視の健常なコントロールとの間でいかに統計的に異なるかが調べられてきた。いくつかの研究で、近視の進展および進行は、硝子体腔の深さの増加によるものであると主張されている。その増加は強膜の拡張または強膜拡張症に関連し得る。病的近視の定義は標準化されていないが、病的近視に対する一般的な使用基準は、6.00Dまたは8.00Dを超える近視の屈折異常(等価球面度数(SE))または26.5mmを超える軸長を含む。
【0118】
また、近視は強膜の変形と密接に関連している可能性があり、強膜の生体力学は近視を予測するための因子と推測されている。公知の治療経路があるにもかかわらず、近視の母集団の約4%を含む病理学的または進行性の近視患者は、依然として治療経路が最適化されていない。近視の処置には、眼鏡、コンタクトレンズ、屈折矯正手術、およびアトロピンによる医療を介した視力矯正が含まれる。強膜の弾性率のインビボでの高空間分解能測定は、本明細書に記載の技術によって、今や可能になった。
【0119】
本明細書に記載の技術は、軸性近視、湾曲性近視および病的近視を含む状態の進行に対し潜在可能性のある予後を促す、強膜および他の眼球構成要素の生体力学的特性を評価するために、ブリルアン散乱の測定を使用する。特定の実施形態では、局所的なブリルアンモジュラスは、強膜表面および強膜内の両方から得られる。付録に記載されている設定を、光源の波長および分光計の消光を含むいくつかの潜在的なパラメータに従って修正することを必要としながら、強膜の反射率を考慮に入れることができる。また、強膜は(角膜、水晶体、および硝子体と比較して)比較的強く光を散乱するので、強膜の内側からブリルアンモジュラスを様々な深度でアクセスさせることは困難である。これを克服するための潜在的なアプローチには、十分に高い消光比、典型的には65dB超、理想的には80dBを超えるブリルアン分光計の機器を使用し、強膜からの弾性散乱を低減することが含まれる。強膜における散乱は波長に依存する。1000nm超の波長または約1300nmまたは1550nmのスペクトル範囲は、強膜からの散乱の減少のため有利であり得る。さらなる実施形態は、プローブ光を強膜に送達し、強膜からのブリルアン散乱信号を捉えるために、導波管または光ファイバ構成を使用し得る光プローブを含むことができる。
【0120】
追加の実施形態は、多様な表面または深さの位置またはその両方における、強膜の1つまたは複数のブリルアンでの測定を含むことがあり、数値的方法、例えば平均または比として組み合わせて強膜生体力学(例えば、係数)を作り出すことができる。このような係数は、角膜を含むがこれに限定されないさらなる眼組織から取得された他の生体力学的測定値と、様々な方法によって比較され、数値的に結合され得る。測定には、同時測定または非同時測定のアレイを含めることができる。
【0121】
強膜および角膜の生体力学的特性を共同して測定および評価する実施形態では、これらの2つの組織からの異なる測定値間の比または比較が、特に有用な場合がある。なぜならば、角膜組織または強膜組織の変形、および強膜と角膜、および結膜(強膜を覆い、角膜に至る)と角膜の間の過渡領域との間の変形が、いかに時間が経つにつれて進行するかに対し見識を与え得るからである。時間の経過と共に進行するだけでなく、この領域の状態の評価はまた、円錐角膜、拡張症、および他の角膜の不規則性をよりよく理解するのに役立ち得る。また、本明細書に記載の技術は、さらなる硬さをもたらす結膜、強膜の周りの薄い層の硬さを測定するため、そして近視の進行、角膜障害および不規則、または拡張症と円錐角膜の素因さえも判定するためのアルゴリズムにフィードバックするために使用し得る。
【0122】
他の実施形態では、局所的ブリルアンモジュラスは、水晶体内から取得するか、白内障手術の場合水晶体の抽出からも取得する。水晶体内からの場合、例えば、老視と併せ、水晶体の治療のための有望な指針を促す。
【0123】
また、ブリルアン顕微鏡法は、縦方向だけでなく横方向の音波の伝播速度および減衰係数を測定するために使用することができる。測定されたデータから、組織の異方性の力学的特性または粘弾特性を判定することができる。各測定について、入力された光の偏光状態に対するブリルアン散乱光の偏光状態、および試料の対称軸に対するブリルアン散乱光の偏光状態を判定することができる。例えば、対称軸は、角膜内のコラーゲン線維の配向であり得る。このような等方性試料の場合、対称性によって、後方散乱ジオメトリにおいて横(剪断)音響モードを検出するべきではない。軸が傾くと、対称性が崩れ、剪断波を測定できる。この測定のために、入力光は、典型的には、直線偏光子または円偏光子を使用して偏光され、散乱光は、例えば、1つまたは複数の偏光子および/または偏光スプリッタを含む偏光感応検出器を介して検出される。この機器はまた、試料に対するビーム軸の相対的な向きを変えるための装置を採用してもよい。装置は、ビームチルトプローブを含むことができる。
【0124】
この技法は、他の処置にも適用することができる。角膜および/または強膜からの生体力学的情報は、介入のための患者特異的な最適プロトコルを決定するのに有用な情報を提供することができる。近視の介入または治療には、強膜クロスリンキングまたはアトロピンなどの薬物が含まれる。
【0125】
眼球の強膜の測定は、強膜クロスリンキングまたはアトロピンなどの薬物の影響のモニタの一部であり得る。
【0126】
強膜後部は、同じプロセスをモニタするために瞳孔を通して非侵襲的に強膜にアクセスすることによって測定できる可能性がある。
【0127】
様々な眼球構成要素のモニタは、非侵襲的なものだけでなく、経扁平部硝子体切除術または網膜レーザ治療のような硝子体網膜の処置といった侵襲的な処置をガイドするのにも有用である可能性がある。
【0128】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲内にある。