(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書中、ヒトBNPまたはヒトBNP断片(合わせてヒトBNP等ということがある)と「反応する」、「認識する」、「結合する」、「交差反応性を示す」は、同義で用いられるが、これらの例示に限定されることはなく、最も広義に解釈する必要がある。抗体がヒトBNP等の抗原(化合物)と「反応する」か否かの確認は、後述する抗原固相化ELISA法、ウエスタンブロッティング、競合ELISA法、サンドイッチELISA法などにより行うことができるほか、表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance
)の原理を利用した方法(SPR法)などにより行うことができる。SPR法は、Biacore(登録商標)の名称で市販されている、装置、センサー、試薬類を使用して行うことができる。
【0010】
本発明の抗体と、ある化合物が「反応しない」とは、本発明の抗体がある化合物と実質的に反応しないことをいい、「実質的に反応しない」とは、例えば、上記ELISA法に基づき、本発明の抗体を固定化して測定を行った場合に、本発明の抗体の反応性の増強が認められないことをいう。詳細には、抗体と化合物との反応性が、コントロール(化合物非添加)の反応性と比べて有意な差がないことをいう。上記ELISA法以外の当業者に周知の方法・手段によっても「実質的に反応しない」ことを確認できるのはいうまでもな
い。
【0011】
本発明において、ヒトBNP(1−32)は、32アミノ酸からなるヒト成熟B型ナトリウム利尿ホルモンであり、7番目と23番目のアミノ酸に存在するシステイン残基による分子内ジスルフィド結合によって17アミノ酸からなる環状部、9アミノ酸からなるN末端部、および6アミノ酸からなるC末端部から構成される。また、108アミノ酸からなるヒトB型ナトリウム利尿ホルモン前駆体(ヒトproBNPということがある)のアミノ酸配列77−108位に相当する。
本発明のBNP断片(3−32)は、BNP(1−32)のN末端の2アミノ酸(大文字表記でSP)がプロセスされて生じる断片であり、BNP断片(4−32)は、BNP(1−32)のN末端の3アミノ酸(SPK)がプロセスされて生じる断片であり、BNP断片(5−32)は、BNP(1−32)のN末端の4アミノ酸(SPKM)がプロセスされて生じる断片である。なお、本明細書において、特に断らない限り、ヒトBNP断片(4−32)の様な記載とヒトBNP(4−32)のような記載は同義で使用している。
【0012】
本発明の抗体は、ヒトBNP断片(4−32)に反応し、かつ、ヒト全長BNP(1−32)とは反応しない抗体である。好ましくは、ヒトBNP断片(4−32)のN末端を含む部位と反応する抗体であり、ヒトBNP断片(4−10)に反応する抗体である。さらに好ましくは、ヒトBNP断片(3−32)及びヒトBNP断片(5−32)のいずれとも反応しない抗体である。
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれでもよく、好ましくはモノクローナル抗体である。
モノクローナル抗体の具体例としては、ハイブリドーマ96201(NITE BP−02331)、96204(NITE BP−02332)、96207(NITE BP−02333)により産生されるモノクローナル抗体(以下、それぞれ、96201抗体、96204抗体、96207抗体ということがある)が挙げられ、さらに、96201抗体、96204抗体、96207抗体と交差反応性を有するモノクローナル抗体又は競合するモノクローナル抗体も本発明の抗体の範囲に含まれる。96201抗体、96204抗体、96207抗体には、当該抗体と同一のエピトープ(抗原決定基)のアミノ酸配列(ヒトBNP(4−10))を特異的に認識しうる抗体が含まれる。96201抗体、96204抗体、96207抗体と競合するモノクローナル抗体には、ヒトBNP(4−10)に対して当該抗体と競合するモノクローナル抗体が含まれ、競合阻害の程度は、50%以上、好ましくは、80%以上、更に好ましくは、90%以上である。
【0013】
本発明の抗体としては、抗体分子全体のほかに抗原抗体反応活性を有する抗体の機能性断片を使用することも可能であり、前記のように動物への免疫工程を経て得られたもののほか、遺伝子組み換え技術を使用して得られるものや、キメラ抗体を用いることも可能である。抗体の機能性断片としては、例えば、F(ab’)2、Fab’などが挙げられ、これらの機能性断片は前記のようにして得られる抗体をタンパク質分解酵素(例えば、ペプシンやパパインなど)で処理することにより製造できる。
【0014】
本発明のモノクローナル抗体の製造には、ヒトBNP(4−32)のN末端を含むペプチドを合成したものを抗原(免疫原)として用いる。N末端を含むペプチドであれば特に限定はされず、例えばヒトBNPの4−26位のアミノ酸残基に相当するペプチド、もしくはヒトBNP断片(4−32)をそのまま用いてもよい。具体的には、ヒトBNP(4−32)のN末端、好ましくはヒトBNPの4−10位のアミノ酸残基に相当するペプチド(以下、ヒトBNP(4−10)とする)をリン酸緩衝生理食塩水などの溶媒に溶解し、この溶液を動物に投与して免疫することにより製造できる。免疫原性を高めるために牛血清アルブミン(BSA)、オブアルブミン(OVA)、またはキーホールリンペットヘ
モシアニン(KLHとする)などと結合させ、得られたコンジュゲートに必要に応じて適宜アジュバントを添加した後、エマルジョンを用いて免疫を行ってもよい。アジュバントとしては、油中水型乳剤、水中油中水型乳剤、水中油型乳剤、リポソーム、水酸化アルミニウムゲルなどの汎用されるアジュバントのほか、生体成分由来のタンパク質やペプチド性物質などを用いてもよい。例えば、フロイントの不完全アジュバント又はフロイントの完全アジュバントなどを好適に用いることができる。アジュバントの投与経路、投与量、投与時期は特に限定されないが、抗原を免疫する動物において所望の免疫応答を増強できるように適宜選択することが望ましい。
【0015】
免疫に用いる動物の種類も特に限定されないが、哺乳動物が好ましく、例えばマウス、ラット、ウシ、ウサギ、ヤギ、ヒツジなどを用いることができ、より好ましくはマウスを用いることができる。動物の免疫は、一般的な手法に従って行えばよく、例えば、抗原の溶液、好ましくはアジュバントとの混合物を動物の皮下、皮内、静脈、又は腹腔内に注射することにより免疫を行うことができる。免疫応答は、一般的に免疫される動物の種類及び系統によって異なるので、免疫スケジュールは使用される動物に応じて適宜設定することが望ましい。抗原投与は最初の免疫後に何回か繰り返し行うことが好ましい。
【0016】
モノクローナル抗体を得る場合、引き続き以下の操作が行われるが、それらの操作に限定されることはなく、モノクローナル抗体それ自体の製造方法については、例えば、Antibodies, A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press,(1988))に記載
の方法に準じて行うことができる。
【0017】
最終免疫後、免疫した動物から抗体産生細胞である脾臓細胞あるいはリンパ節細胞を摘出し、高い増殖能を有するミエローマ細胞と細胞融合させることによりハイブリドーマを作製することができる。細胞融合には抗体産生能(質・量)が高い細胞を用いることが好ましく、またミエローマ細胞は融合する抗体産生細胞の由来する動物と適合性があることが好ましい。細胞融合は、当該分野で公知の方法に従って行うことができるが、例えば、ポリエチレングリコール法、センダイウイルスを用いた方法、電流を利用する方法などを採用することができる。得られたハイブリドーマは公知の方法に従って増殖させることができ、産生される抗体の性質を確認しつつ所望のハイブリドーマを選択することができる。ハイブリドーマのクローニングは、例えば限界希釈法や軟寒天法などの公知の方法により行うことが可能である。
【0018】
ハイブリドーマの選択は、産生される抗体が実際の測定に用いられる条件を考慮し、選択の段階で効率的に行うことができる。例えば、ELISA法、RIA法、ウエスタンブロッティング等により、ヒトBNP断片に反応する抗体を産生するハイブリドーマを選択することにより得られる。具体的には、単一のハイブリドーマを培養して生産される培養上清をさらに、ヒトBNP(1−32)、ヒトBNP(4−32)、ヒトBNP(5−32)を検出用抗原サンプルとして用いたウエスタンブロッティングにより、ヒトBNP(4−32)のみを特異的に認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。もしくは、ヒトBNP(3−10)、ヒトBNP(4−10)、ヒトBNP(5−10)、ヒトBNP(1−32)、ヒトBNP(3−32)、ヒトBNP(4−32)、ヒトBNP(5−32)などを用いた競合ELISAにより、得ることもできる。
【0019】
このようにして選別されたハイブリドーマを大量培養することにより、所望の特性を有するモノクローナル抗体を製造することができる。大量培養の方法は特に限定されないが、例えば、ハイブリドーマを適宜の培地中で培養してモノクローナル抗体を培地中に産生させる方法や、哺乳動物の腹腔内にハイブリドーマを注射して増殖させ、腹水中に抗体を産生させる方法などを挙げることができる。モノクローナル抗体の精製は、例えば陰イオ
ン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、硫安分画法、PEG分画法、エタノール分画法などを適宜組み合わせて行うことができる。
【0020】
このようにして本発明では、モノクロ−ナル抗体96201、96204、96207を得た。この抗体は、後述の実施例に示される通り、ヒトBNP(4−10)と反応するが、ヒトBNP(3−10)、ヒトBNP(5−10)とは反応しないことから、ヒトBNP(4−32)のN末端を含む部位に特異的な抗体である。
【0021】
本発明はさらに、検体を蛋白質変性処理剤で処理した後、上記ヒトBNP(4−32)に特異的な抗体(第1のモノクローナル抗体)と、ヒトBNP(4−32)の認識部位が第1のモノクローナル抗体とは異なる抗体(第2の抗体)を用いて、ヒトBNP(4−32)を測定する方法を提供することができる。
第2の抗体としては、抗血清、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれでもよく、またキメラ抗体や免疫学的特性を保持する抗体断片でもよい。中でもモノクロ−ナル抗体が好ましく、例えば、ヒトBNPのC末端領域の7残基のペプチドをマウスに免疫することにより、当業者がモノクローナル抗体を製造するために通常行う方法(KohlerとMilsteinの方法(Nature、第256巻495頁(1975年)等)により得られたヒトBNP(26−32)を認識する抗ヒトBNP(26−32)モノクローナル抗体(Clone#33236)が挙げられる。また、例えば、ヒトBNPの環状部位を認識するモノクローナル抗体を用いてもよい。
【0022】
第1または第2のモノクローナル抗体は、いずれか、あるいは両方を不溶性担体上に固定された固定(固相)化抗体として使用したり、後述する当業者に周知慣用の標識物質で標識した標識抗体として使用することができる。例えば、不溶性担体にモノクローナル抗体を物理的に吸着させ、あるいは化学的に結合(適当なスペーサーを介してもよい)させることにより固定化抗体を製造することができる。不溶性担体としては、ポリスチレン樹脂などの高分子基材、ガラスなどの無機基材、セルロースやアガロースなどの多糖類基材などからなる不溶性担体を用いることができ、その形状は特に限定されず、板状(例えば、マイクロプレートやメンブレン)、ビーズあるいは微粒子状(例えば、ラテックス粒子、金コロイド粒子)、筒状(例えば、試験管)など任意の形状を選択できる。
【0023】
本発明の第1または第2のモノクローナル抗体と結合可能な標識抗体、標識プロテインA又は、標識プロテインG等を用いることにより、試料中のヒトBNP断片(4−32)を測定することができる。標識抗体を製造するための標識物質としては、例えば酵素、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン、アビジン、又は放射性同位体、金コロイド粒子、着色ラテックスなどが挙げられる。標識物質と抗体との結合法としては、当業者に利用可能なグルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法、又は過ヨウ素酸法などの方法を用いることができるが、固定化抗体や標識抗体の種類、及びそれらの製造方法は前記の例に限定されることはない。例えば、パーオキシダーゼやアルカリホスファターゼなどの酵素を標識物質として用いる場合にはその酵素の特異的基質(酵素が西洋ワサビパーオキシダーゼ(以下、HRPという)の場合には、例えばO−フェニレンジアミン(以下、OPDという)あるいは3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、ALPの場合には、p−ニトロフェニル・ホスフェートなど)を用いて酵素活性を測定することができ、ビオチンを標識物質として用いる場合には少なくともアビジンあるいは酵素修飾アビジンを反応させるのが一般的である。
【0024】
本明細書において、「不溶性担体」を「固相」、抗原や抗体を不溶性担体に物理的あるいは化学的に担持させることあるいは担持させた状態を「固定」、「固定化」、「固相化」、「感作」、「吸着」と表現することがある。また、「検出」又は「測定」という用語は、ヒトBNP断片(4−32)の存在の証明及び/又は定量などを含めて最も広義に解
釈する必要があり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。
【0025】
本発明の方法では、検体にタンパク質変性処理剤を作用させて測定対象のヒトBNP断片を変性させることが好ましい。すなわち、検体をタンパク質変性処理剤で処理した後、本発明のヒトBNP断片(4−32)に反応し、かつ、ヒト全長BNP(1−32)とは反応しない抗体を用いてヒトBNP断片を測定する方法が好ましい。
ここで、「変性」とは、該BNP断片の三次元構造を変化させてタンパク質の内側の少なくとも一部を露出させることを意味する。タンパク質変性処理剤としては、タンパク質の変性効果を有するものであればよく、例えば、界面活性剤、カオトロピック剤、酸、有機溶媒が挙げられる。これらのタンパク質変性処理剤は単独で用いてもよいし、複数のタンパク質変性処理剤を併用してもよい。
上記界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、非イオン性界面活性剤等の界面活性剤が挙げられ、好ましくは、陰イオン界面活性剤、更により好ましくは、硫酸ドデシルナトリウム(SDS)が挙げられる。
上記カオトロピック剤としては、尿素、グアニジン等が上げられる。
上記酸としては、無機酸、有機酸が挙げられ、有機酸としては酢酸、ギ酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸およびその混合物などが挙げられる。好ましくは酢酸である。
タンパク質変性処理剤による処理としては、例えば、15℃〜100℃で1分〜60分処理が挙げられる。
タンパク質変性処理剤の使用量は、免疫測定による測定感度が向上する量を適宜選択することにより、各タンパク質変性処理剤に応じて適宜設定することができるが、通常終濃度で0.01重量%以上が好ましく、免疫測定時の濃度で0.1重量%以下となることが好ましい。
タンパク質変性処理剤を作用させる際には、加熱することが好ましい。加熱により、タンパク質の変性を容易に促進させることができる。すなわち、処理条件としては、60℃以上、より好ましくは約100℃で、5秒〜20分、より好ましくは5分〜15分程度が好ましい。
また、変性剤とともに還元剤を共存させてもよい。好ましい還元剤の例としては、ジチオスレイトール(DTT)、NaBH
4、NaBH
3CN 等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。また、還元剤の濃度は、終濃度で0.001M〜1.0M程度が好ましい。なお、還元剤による処理は、タンパク質変性処理剤による処理と同時に行ってもよいが、タンパク質変性処理剤処理の前に行なってもよい。この場合には、上記還元剤を上記濃度で室温で20分間〜1時間程度作用させることが好ましい。
【0026】
本発明の抗体を用いる測定方法における検出対象の「試料」としては、主に生体(生物)由来の体液を挙げることができる。具体的には、血液(全血)、血清、血漿、尿、唾液、喀痰、膵臓抽出液、涙液、耳漏又は前立腺液などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
本発明により提供される測定用試薬の態様としては、ヒトBNP断片(4−32)の測定ができる試薬であれば、特に限定されるものではない。以下、代表的な標識イムノアッセイ法であるELISA法、イムノクロマトグラフ法と、代表的な粒子凝集イムノアッセイ法であるラテックス免疫凝集法(以下、LTIA法という)を例にそれぞれを説明する。
【0028】
<標識イムノアッセイ法:ELISA法>
試料中に存在するヒトBNP断片(4−32)を検出するための測定用試薬の態様として、以下の要素:
(a)第1のモノクローナル抗体を固定化した固相(プレートなど)、及び
(b)標識物質で標識された第2のモノクローナル抗体、
をあげることができる。
【0029】
第1のモノクローナル抗体を固定化した固相は、試料中のヒトBNP断片(4−32)を捕捉してヒトBNP(4−32)抗体複合体を形成する。標識物質で標識された第2のモノクローナル抗体は、当該ヒトBNP(4−32)抗体複合体に反応してサンドイッチを形成し、標識物質に応じた方法により標識物質の量を測定することにより、試料中のヒトBNP(4−32)を測定することができる。第1のモノクローナル抗体の固相への固定化の方法、第2のモノクローナル抗体の標識物質での標識の方法など、測定試薬を構成する上での具体的な方法は本明細書中に記載された方法のほか、当業者に周知の方法を制限なく使用することができる。この構成の場合、ホモジーニアスな測定系として構成することもできるが、ヘテロジーニアスな測定系として構成することが好ましい。
【0030】
また、測定用試薬の感度や特異性を考慮して、
(a)標識物質で標識された第1のモノクローナル抗体、及び
(b)第2のモノクローナル抗体を固定化した固相(プレートなど)、
という上記とは逆の構成を採用することもできる。
この構成の場合、被検試料と標識物質で標識された第1のモノクローナル抗体含有溶液を混合し、予めヒトBNP(4−32)抗体複合体を溶液中で形成させておき、第2のモノクローナル抗体を固定化した固相に添加することが好ましい。
【0031】
<標識イムノアッセイ法:イムノクロマトグラフ法>
一般的なイムノクロマトグラフ法では、メンブレンなどのシート状の固相支持体上、長さ方向に対して、端から順番に「1.被検試料供給部位」、「2.第1のモノクローナル抗体を含む標識試薬(第1のモノクローナル抗体は金コロイド粒子などの標識物質で標識されている)を、メンブレン上において展開可能に保持した標識試薬部位」、「3.標識物質で標識された第1のモノクローナル抗体とヒトBNP(4−32)の複合体を捕捉するための第2のモノクローナル抗体を固定化した捕捉試薬部位」を被検試料溶液が毛細管現象により連続的に移動するよう構成されている。
具体的には、まず、ヒトBNP(4−32)を含む被検試料を被検試料供給部位に所定量添加すると、試料が固相支持体を展開移動する過程で標識試薬部位に侵入し、ヒトBNP(4−32)が標識試薬(第1のモノクローナル抗体を含む)と結合しヒトBNP(4−32)標識試薬の複合体が形成される。ヒトBNP(4−32)標識試薬複合体はそのままメンブレン上を展開移動し、メンブレン上の第2のモノクローナル抗体を含む捕捉試薬部位に侵入すると、固相支持体上に固定化された捕捉試薬に捕捉され、捕捉試薬(第2のモノクローナル抗体)−ヒトBNP(4−32)標識試薬(第1のモノクローナル抗体)の複合体が捕捉試薬位置に形成される。そして、標識試薬を任意の方法(可視可能な金コロイド粒子の場合はその凝集像、酵素の場合は基質を添加することによる発色反応)で検出することで、被分析物質の存在を判定することができる。
なお、理解を容易にするため、「1.被検試料供給部位」と「2.第1のモノクローナル抗体を含む標識試薬(第1のモノクローナル抗体は金コロイド粒子などの標識物質で標識されている)を、メンブレン上において展開可能に保持した標識試薬部位」を、独立して被検試料の移動方向順に記載したが、上から「1」、「2」の順で積み上げられた構造など、当業者に周知の態様・構成が採用されうることを当業者は当然に理解することができる。
また、本発明の測定試薬キットとしては、上記の基本的な試薬構成に加えて、タンパク質変性処理剤との組み合わせなどが挙げられる。
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
〔試験例1〕本発明のモノクローナル抗体の製造方法
1.合成ペプチドの調製
(1)ヒトBNP断片(以下、ヒトBNPと略す)(4−10)、ヒトBNP(3−10)、ヒトBNP(5−10)
外部業者にペプチド合成を委託した。
(2)ヒトBNP(4−32)
外部業者にペプチド合成を委託した。
【0033】
2.その他の材料
(1)フロインド完全アジュバント:和光純薬工業社製,014−09541
(2)ミエローマ細胞(SP2/O)
(3)RPMI1640, GlutaMAX:GIBCO社製,61870−036
(4)Fetal Bovine Serum (FBS):BIOLOGICAL INDUSTRIES社製,04−001−1A
(5)ポリエチレングリコール溶液(PEG):SIGMA,P7306
(6)HAT 培地:コスモバイオ社製,16213004
(7)96穴プレート:NUNC,167008
(8)HRP標識ヤギ抗マウスIgG(γ)抗体:Southern Biotech社製,1030−05
【0034】
3.免疫用コンジュゲート液の調製
ヒトBNP(4−10)を含むフラグメント溶液(10mg/ml、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で溶解したもの)と、マレイミド活性化KLHもしくはOVA溶液(10mg/ml、PBSで溶解したもの)を、体積比で1:1で混和し、室温で2時間撹拌して反応させた。その後、反応液をPBSに対して2日間4℃で透析することにより、免疫用コンジュゲート液を得た。
【0035】
4.抗ヒトBNP(4−32)モノクローナル抗体産生ハイブリドーマの作製
(1)動物への免疫
前記免疫用コンジュゲート液(0.2〜1mg/ml)とフロインド完全アジュバンドを等量ずつ混合して調製したエマルジョンを用い、メスのBALB/cマウスの皮下もしくはフットパッドに1匹あたり20〜30μgを注射した。さらに、1週間の間隔で7〜8回、該エマルジョンの注射を繰り返した。マウス尾部静脈より採血して得た抗血清中の抗体価を、後述する抗原固相化ELISA法にて測定した。
【0036】
(2)1次スクリーニング(抗原固相化ELISA法)
前記マウス抗血清中の抗ヒトBNP(4−10)抗体の存在を、免疫用コンジュゲート液と同様の方法で作製した、ヒトBNP(4−10)とBSAとのコンジュゲート液を固相化したELISA法(抗原固相化ELISA法)で確認した。抗原固相化ELISA法の詳細は以下である。
(2−1)抗原固相化ELISA用プレートの作製
ヒトBNP(4−10)とBSAとのコンジュゲート液を1μg/mLになるよう、150mM塩化ナトリウムを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.2;以下、PBSという)に溶解し、該溶解液50μLを96穴マイクロプレートの各ウェルに分注して、4℃で1晩静置した。
前記各ウェルを0.05%Tween(登録商標)20を含むPBS(以下、PBSTという)400μLで3回洗浄した後、1%牛血清アルブミンを含むPBST(以下、BSA−PBSTという)100μLを加え、室温で1時間ブロッキングを行った。これをELISA用プレートとした。
(2−2)抗原固相化ELISA法
前記ELISA用プレートの各ウェルをPBST400μLで3回洗浄した後、BSA−PBSTで500倍から13500倍に希釈したマウス抗血清50μLを前記各ウェルに添加し、室温で1時間静置した。 前記各ウェルをPBST400μLで3回洗浄した後、BSA−PBSTで5000倍希釈したHRP標識ヤギ抗マウスIgG(γ)を50μL前記各ウェルに分注し、室温で1時間静置した。前記各ウェルをPBST400μLで3回洗浄した後、0.2%オルトフェニレンジアミン及び0.02%過酸化水素を含むクエン酸緩衝液(pH5.0)50μLを加え、室温で10分間放置後、4.5N硫酸50μLを加えて酵素反応を停止させ、波長492nmにおける吸光度を測定した。測定の結果、抗体価の高かったマウスから、脾臓もしくはリンパ節を摘出して、脾臓由来細胞もしくはリンパ節由来細胞を調製し、細胞融合に用いた。
【0037】
(3)細胞融合
前記脾臓由来細胞もしくはリンパ節由来細胞のいずれかとミエローマ細胞を細胞数で6対1の割合で混合し、PEGを添加して細胞融合させた。該融合させた細胞をHAT培地に懸濁し、CO
2インキュベータ内で37℃、5%CO
2にて8日間培養して、融合細胞(ハイブリドーマ)を得た。
【0038】
(4)ハイブリドーマの選別 (抗原固相化ELISA法)
上述の抗原固相化ELISA法において、マウス抗血清の代わりに融合細胞の培養上清を用いた以外は、同様の方法を行った。測定の結果、吸光度の高いウェルを抗ヒトBNP(4−10)抗体産生ハイブリドーマの存在するウェル(陽性ウェル)として選択した。
【0039】
(5)2次スクリーニング(ウエスタンブロッティング)
上述の1次スクリーニングで選択した抗体産生細胞を培養し、その培養上清を用いて抗BNP(4−32)抗体産生細胞の2次スクリーニングとしてウエスタンブロッティングで更に選別した。
先ず、PBSにヒトBNP(1−32)、ヒトBNP(4−32)、ヒトBNP(5−32)を60μg/mLに溶解し、メルカプトエタノール含有のSDS処理液(コスモバイオ社製 Prod#423437)と1:1で混和後、95℃で10分間処理した。次いでこの溶液をマルチゲルミニII(コスモバイオ社製 Prod#424916)の各laneに10μLずつ添加し、定法どおりにSDS−PAGEを実施した。続いて泳動後のゲルをセミドライブロッティング試薬の陰極液に浸して約10分間振とう後、セミドライブロッティング装置を用いて定法どおりにPVDF膜(コスモバイオ社製 Prod#423536)に転写を行った。PVDF膜を切り分けた後、BSA−PBSTに1時間浸してブロッキングしたのち、BSA−PBSTで適当な濃度に希釈した融合細胞の培養上清を、切り分けたPVDF膜上に添加し、室温で1時間静置した。この膜をPBSTに浸して振とう洗浄後、BSA−PBSTで5000倍希釈したHRP標識ヤギ抗マウスIgG(γ)に浸し、室温で1時間振とうした。更にPBSTに浸して振とう洗浄後、0.2mg/mLに希釈したDAB溶液(同仁化学研究所製 Prod#347−00904)に浸し、10分間静置後に精製水に移して反応を停止した。DABによる検出の結果、ヒトBNP(1−32)溶液及びヒトBNP(5−32)溶液を転写した場合にはバンドが検出されず、且つヒトBNP(4−32)溶液を転写した場合にはバンドが検出される培養上清のウェルを、抗ヒトBNP(4−32)抗体産生の陽性ウェルとして選択した。
【0040】
(6)クローニング及びモノクローナル抗体採取
上述の1次スクリーニング及び2次スクリーニングで選択された抗ヒトBNP(4−32)抗体産生株ハイブリドーマを用いて、ハイブリドーマの単クローン化とモノクローナル抗体の精製を行った。
単クローン化は定法(限界希釈法)で行い、上述の抗原固相化ELISA法と同様の方法で陽性ウェルを選別し、最終的に3種の抗ヒトBNP(4−32)モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを得た。 各細胞の約10
5個をプリスタン前処理したマウス腹腔に投与し、生成した腹水をそれぞれ採取した。採取した各腹水から遠心分離により不溶物を除去し、等量の飽和硫安液を加え、撹拌しながら1晩放置後、遠心分離で沈殿を回収した。回収した沈殿を20mM Tris緩衝液(pH8.0)に溶解し、同緩衝液で透析した。透析内容物それぞれを同緩衝液で平衡化したDEAE−セファロースカラムに別個に吸着させた後、それぞれ同緩衝液中の塩化ナトリウム0〜300mMの濃度勾配で溶出させて得たIgG画分を50mMグリシン緩衝液で透析して、3種の抗体を得た。
【0041】
〔試験例2〕本発明のモノクローナル抗体のエピトープ分析(1)
1.試験方法
96201、96204、96207抗体と反応するヒトBNP(4−32)のエピトープを、以下に記述する競合ELISAにより決定した。先ず、上述の抗原固相化ELISA法と同様の方法でELISA用プレートを作製した。各ウェルをPBST400μLで3回洗浄した後、PBSに溶解したヒトBNP(1−32)、ヒトBNP(3−10)、ヒトBNP(4−10)、ヒトBNP(5−10)をBSA−PBSTで20、2、0.2μg/mLに希釈してELISA用プレートに25μL/ウェルずつ分注した。
次いで、その上からBSA−PBSTで0.1μg/mLに希釈した96201、96204、96207抗体を25μL/ウェルずつ分注し、室温で1時間静置した。前記各ウェルをPBST400μLで3回洗浄した後、BSA−PBSTで5000倍希釈したHRP標識ヤギ抗マウスIgG(γ)を50μL前記各ウェルに分注し、室温で1時間静置した。 更に前記各ウェルをPBST400μLで3回洗浄した後、0.2%オルトフェニレンジアミン及び0.02%過酸化水素を含むクエン酸緩衝液(pH5.0)50μLを加え、室温で10分間静置後、4.5N硫酸50μLを加えて酵素反応を停止させ、波長492nmにおける吸光度を測定した。
【0042】
2.試験結果
結果を
図1に示す。
図1によれば、ヒトBNP(1−32)、ヒトBNP(3−10)またはヒトBNP(5−10)を添加したときは、吸光度の減少は観察されなかった。一方、ヒトBNP(4−10)を添加したときは、濃度依存的に吸光度が減少した。この測定系では、吸光度は、プレートに固相化したヒトBNP(4−10)とBSAとのコンジュゲートに結合した抗体の量に依存する。つまり、ヒトBNP(4−10)の添加により蛍光強度が減少するということは、溶液中の遊離のヒトBNP(4−10)が、96201、96204、96207抗体と固相化したコンジュゲートとの結合を阻害することを示している。従って、96201、96204、96207抗体は、ヒトBNP(4−10)のN末端を含む部位を認識することが明らかとなった。
【0043】
〔試験例3〕本発明のモノクローナル抗体のエピトープ分析(2)
1.試験方法
96201、96204、96207抗体のエピトープを、上述のウエスタンブロッティングにより解析した。具体的には、上述のウエスタンブロッティングにおいて、融合細胞の培養上清の代わりに以下の抗体を用いた以外は、同様の方法を行った。すなわち、上述の方法でヒトBNP(1−32)、ヒトBNP(4−32)、ヒトBNP(5−32)をPVDF膜へ転写し、ブロッキングを行った後、本発明の抗体(モノクローナル抗体96201、96204、96207)、ヒトBNPの環状部位を認識する抗体(モノクローナル抗体(A))、ヒトBNP(1−32)、ヒトBNP(4−32)、ヒトBNP(5−32)を認識しない陰性コントロールとする抗体(モノクローナル抗体(B))を、それぞれBSA−PBSTで5μg/mLに希釈した溶液を、切り分けたPVDF膜上に添加した。
【0044】
2.試験結果
結果を
図2に示す。
図2によれば、96201、96204、96207抗体は、ヒトBNP(1−32)及びヒトBNP(5−32)とは反応せず、ヒトBNP(4−32)のみに特異的に反応することが判明した。
【0045】
〔試験例4〕モノクロ−ナル抗体を用いたヒトBNP(4−32)、ヒトBNP(1−32)のサンドイッチELISA(1)
1.試験方法
PBSに96207抗体を5μg/mLに希釈した溶液を96穴マイクロプレートに50μL/ウェルずつ分注して、4℃で1晩静置した。次いで各ウェルをPBST400μLで3回洗浄した後、BSA−PBST100μLを加えて室温で1時間ブロッキングを行い、これをELISA用プレートとした。前記ELISA用プレートの各ウェルをPBST400μLで3回洗浄した後、PBSに50μg/mLに溶解したヒトBNP(1−32)もしくはヒトBNP(4−32)と、1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)−50mM DTT(ジチオスレイトール)−0.2M PB pH8.5処理液とを1:9で混和し、これを95℃で10分間処理したのち、BSA−PBSTで50ng/mLに希釈してELISA用プレートに50μL/ウェルずつ分注した。該ELISAプレートをPBST400μLで3回洗浄した後、ヒトBNP(26−32)を認識するビオチン標識化した33236抗体をBSA−PBSTで1μg/mLに希釈した溶液を50μL/ウェルずつ分注し、室温で1時間静置した。更にPBST400μLで3回洗浄後、Immuno Pure(登録商標)Streptavidin,HRP Conjugated(PIERCE社製 Prod#21126)をBSA−PBSTで0.2μg/mLに希釈した溶液を50μL/ウェルずつ分注し、室温で30分間静置した。前記各ウェルをPBST400μLで3回洗浄した後、0.2%オルトフェニレンジアミン及び0.02%過酸化水素を含むクエン酸緩衝液(pH5.0)50μLを加え、室温で10分間放置後、4.5N硫酸50μLを加えて酵素反応を停止させ、波長492nmにおける吸光度を測定した。
【0046】
2.試験結果
結果を
図3に示す。
図3によれば、ヒトBNP(4−32)を添加した場合は、ヒトBNP(1−32)を添加した場合に比べて、非常に高い吸光度を示した。これは、固相化した96207抗体は、変性及び還元処理したヒトBNP(4−32)と結合するが、ヒトBNP(1−32)と結合しないことを示している。すなわち、96207抗体は、ヒトBNP(4−32)に特異的な抗体であり、本抗体を使用することでヒトBNP(4−32)と特異的な測定法を構築できることが明らかとなった。なお、変性または還元処理を行わない場合には、ヒトBNP(1−32)、(4−32)のいずれでも発色が確認されなかった(結果図示せず)。このことは、ヒトBNP(4−32)における抗体の結合部位が、変性または還元処理により抗体に認識されやすい状態になったことを示唆するものであり、ヒトBNP(4−32)の特異的な測定には、変性または還元処理が有用であることを示すものといえる。
【0047】
〔試験例5〕モノクロ−ナル抗体を用いたヒトBNP(4−32)、ヒトBNP(1−32)のサンドイッチELISA(2)
1.試験方法
前述のサンドイッチELISA(1)と同様にしてELISA用プレートを作製した。各ウェルをPBST400μLで3回洗浄した後、PBSに200μg/mLに溶解したヒトBNP(4−32)と、1%SDS −0.2M PB pH8.5処理液とを1:9で混和し、これを95℃で10分間処理したのち、BSA−PBSTで200、100、50、25、12.5ng/mLに希釈してELISA用プレートに50μL/ウェルずつ分注した。
【0048】
2.試験結果
結果を
図4に示す。
図4によれば、1%SDSで処理を施したヒトBNP(4−32)を添加した場合、ヒトBNP(4−32)の濃度に依存して高い吸光度を示したことから、ヒトBNP(4−32)に変性処理を施すことで、高い感度を得られることが明らかとなった。
【0049】
〔試験例6〕本発明のモノクローナル抗体のエピトープ分析(3)
1.試験方法
96201、96204、及び96207抗体と反応するヒトBNP(4−32)のエピトープを詳細に絞り込むため、競合ELISAを実施した。先ず、上述の抗原固相化ELISA法と同様の方法でELISA用プレートを作製した。各ウェルをPBST400μLで3回洗浄した後、PBSに溶解したヒトBNP(4−6)、ヒトBNP(4−7)、ヒトBNP(4−8)、ヒトBNP(4−9)、またはヒトBNP(4−10)の各合成ペプチド(いずれも外部業者に合成を委託して得た)を、BSA−PBSTで20、2、0.2μg/mLに希釈してELISA用プレートに25μL/ウェルずつ分注した。以降は、〔試験例2〕“本発明のモノクローナル抗体のエピトープ分析(1)”と同様の方法で行った。
【0050】
2.試験結果
結果を
図5に示す。
図5A及びCによれば、96201及び96207抗体については、ヒトBNP(4−6)、ヒトBNP(4−7)、ヒトBNP(4−8)、またはヒトBNP(4−9)を添加したときは吸光度の減少は観察されず、ヒトBNP(4−10)を添加した場合に限り、濃度依存的に吸光度が減少した。従って、96201及び96207抗体は、ヒトBNP(4−32)のN末端から7番目のアミノ酸を含む部位を認識することが明らかとなった。一方で、
図5Bによれば、96204抗体については、いずれのペプチド抗原を添加した場合においても濃度依存的に吸光度が減少した。従って、96204抗体は、ヒトBNP(4−32)のN末端から3番目のアミノ酸を含む部位を認識することが明らかとなった。
【0051】
〔試験例7〕本発明のモノクローナル抗体のエピトープ分析(4)
1.試験方法
96201、96204、及び96207抗体のエピトープを、上述のウエスタンブロッティングによって更に解析した。具体的には、ヒトBNP(1−32)、ヒトBNP(3−32)、ヒトBNP(4−32)、及びヒトBNP(5−32)を用いた以外は、〔試験例3〕“本発明のモノクローナル抗体のエピトープ分析(2)”と同様の方法で行った。
【0052】
2.試験結果
結果を
図6に示す。
図6によれば、96201、96204、及び96207抗体は、ヒトBNP(1−32)、BNP(3−32)、及びヒトBNP(5−32)とは反応せず、ヒトBNP(4−32)のみに特異的に反応することが明らかとなった。
【0053】
〔試験例8〕モノクロ−ナル抗体を用いたヒトBNP(4−32)、ヒトBNP(1−32)のサンドイッチELISA(3)
1.試験方法
PBSに96201、96204、96207抗体、またはヒトBNP(1−32)とヒトBNP(4−32)のいずれにも反応しない抗体(マウスモノクローナル抗体(C))を5μg/mLに希釈した。この溶液を96穴マイクロプレートに50μL/ウェルずつ分注して、4℃で1晩静置した。次いで各ウェルをPBST400μLで3回洗浄した後、BSA−PBST100μLを加えて室温で1時間ブロッキングを行い、これをELISA用プレートとした。前記ELISA用プレートの各ウェルをPBST400μLで3回洗浄した後、BSA−PBSTで10、5、2.5、1.25、0.63、0.31、0.16μg/mLの各濃度に希釈したヒトBNP(1−32)またはヒトBNP(4−32)を、ELISA用プレートに50μL/ウェルずつ分注した。該ELISAプレートをPBST400μLで3回洗浄した後、ヒトBNP(26−32)を認識するビオチン標識33236抗体(2μg/mL)を50μL/ウェルずつ分注し、室温で1時間静置した。PBST400μLで3回洗浄後、Immuno Pure(登録商標)Streptavidin,HRP Conjugated(PIERCE社製 Prod#21126)(0.2μg/mL)を50μL/ウェルずつ分注し、室温で30分間静置した。前記各ウェルをPBST400μLで3回洗浄した後、0.2%オルトフェニレンジアミン及び0.02%過酸化水素を含むクエン酸緩衝液(pH5.0)50μLを加え、室温で10分間放置後、4.5N硫酸50μLを加えて酵素反応を停止させ、波長492nmにおける吸光度を測定した。96201、96204、または96207抗体を用い得られた吸光度から、マウスモノクローナル抗体(C)を用い得られた吸光度を差し引いた数値を、96201、96204、または96207抗体の反応性による吸光度とした。
【0054】
2.試験結果
結果を
図7に示す。
図7によれば、ヒトBNP(4−32)を添加した場合は、ヒトBNP(1−32)を添加した場合に比べて、非常に高い吸光度を示し、特に96207抗体において顕著であった。更に、ヒトBNP(4−32)では濃度依存的に反応性の上昇が認められた。従って、ヒトBNP(4−32)に特異的な測定法を構築できることが明らかとなった。なお、本試験例では、ヒトBNP(4−32)の変性または還元処理を行っていないが、反応させる抗原量を試験例4あるいは試験例5よりも増量している。このことは、ヒトBNP(4−32)における抗体の結合部位が、変性または還元処理により抗体に認識されやすい状態になるものであるが、変性または還元処理が無い場合でも、抗体の結合を完全に妨害するような状態にあるわけではないことを示唆するものといえる。従来、ヒトBNP(4−32)に対する抗体取得の報告がなかった理由は、この点の見過ごしにあったことが考えられる。