【実施例】
【0112】
本発明を、例示的な実施形態及び実験結果を参照して、以下に、より詳細に記載する。これらの実施形態は例示であり、特定の詳細に限定されない。
【0113】
実施例1:免疫調節遺伝子
PDCD1 の DNA‐メチル化解析に基づく根治的切除術後の前立腺がんを有する患者の予後の診断
本発明に係る方法の実施の範囲内で、局所限局的に前立腺がんを有する患者の予後の診断を、例えば、前立腺及び前立腺に位置する腫瘍の根治的除去(根治的切除)を行った後に、行うことができる。
【0114】
まず、DNA を腫瘍から回収した。例えば、プロテイナーゼ K を用いて腫瘍組織を溶解した後に、シリカ遠心分離カラムを使って DNA を抽出することがこの目的に適していた。腫瘍からDNAを得るために、市販のキット、例えば、QIAamp DNA ミニキット(キアゲン社、ヒルデン、ドイツ(Qiagen N.V., Hilden, Germany))など、が入手可能である。その後、抽出した DNA を亜硫酸水素塩で変換し、原則全てのシトシンを脱アミノ化してウラシルにし、一方でメチル化したシトシンを不変のままにした。続いて、DNA‐メチル化解析を、例えば Infinium HumanMethylation 450 BeadChip(イルミナ社、サン・ディエゴ、カリフォルニア州、米国(Illumina、Inc., San Diego, CA, USA))を使用して製造業者の指示に従ってゲノムワイドで行った。HumanMethylation450 BeadChip からの生データの取得を TCGA Research Network(http://cancergenome.nih.gov/)に記載されている通りに行った。全体として、予後が既知である 417 例の前立腺がんを有する患者の腫瘍由来の生データを取得し、遡及的(レトロスペクティブ(retrospektiven))に解析した。
【0115】
本発明に係る
PDCD1 遺伝子の DNA‐メチル化解析のために、HumanMethylation450 BeadChip の生データに基づいて、相対的なメチル化を算出した。この目的のために、Infinium HumanMethylation450 BeadChip のビーズ対 cg00795812、cg27051683、cg03889044、cg17322655 及び cg20805133 でカバーされる、
PDCD1 遺伝子の中の CpG‐ジヌクレオチドを使用した。このビーズ対は亜硫酸水素塩で変換した DNA に結合するが、その DNA は、変換前、配列 SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:23 及びSEQ ID NO:24 を有していた。まず、各前記ビーズ対及び各患者サンプルの生データに基づいてメチル化値を計算した。これは、メチル化変異体に結合する一対のビーズの信号(S_M)と、非メチル化 DNA に結合する一対のビーズの信号(S_U)とを比較することによって行った。ビーズには、固定されたオリゴヌクレオチドが含まれ、本明細書ではプローブとも呼ばれる。式:メチル化=(プローブ強度 S_M)/((プローブ強度 S_M)+(プローブ強度 S_U))に従って得られる比に基づいて、DNA‐メチル化を計算した。続いて、配列 SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:23 及びSEQ ID NO:24 を有する 5 つの遺伝子座の各々について、決定したメチル化値を算術的に平均した。その後、そのようにして得られたメチル化値に基づいて、前記患者を、既知の予後に応じて、遡及的(レトロスペクティブ(retrospektiven))に 2 つの群に割り付けたところ、
PDCD1 遺伝子座のメチル化に関する閾値として 57.5 %が得られた。ある群は、57.5 %の閾値未満の
PDCD1 遺伝子座のメチル化を有し、以下では低い
PDCD1 のメチル化の群と呼ぶ。従って、
PDCD1 遺伝子座で 57.5 %を超えたメチル化を示した群は、高い
PDCD1 のメチル化の群と呼ぶ。
【0116】
図1は、本発明に係る方法を適用することにより、患者を 2 つの群に分けることが可能となることを示すが、その 2 つの群では、低い
PDCD1 のメチル化の群の患者が高い
PDCD1 のメチル化の群の患者よりも有意に良好な予後を有する。ここで、前記予後は、生化学的な再発が発症する、即ち、前立腺がんに特異的な血液パラメータである PSA が増加する、までの予測時間によって例示される。低い
PDCD1 のメチル化の群では PSA 無再発生存期間の平均値は 92 か月であったが、高い
PDCD1 のメチル化の患者群は平均値 79 か月で、PSA 無再発生存期間が 13 か月短いことが示された。従って、本発明に係る方法を適用することによって、PSA 再発に関して患者を異なるリスク群に割り付けることが可能となった。
【0117】
従って、腫瘍が取り除かれたばかりの患者、及び将来の疾患経過がまだ分からない患者の予後を診断することが可能となる。この目的のために、この患者の腫瘍における
PDCD1 遺伝子の DNA‐メチル化は、例えば、Infinium HumanMethylation450 BeadChipを用いて測定することができる。例えば、このメチル化が 57.5 %の閾値未満である場合、この患者を平均 92 か月の無再発生存期間を有するより良好な予後を有する患者群に割り当てることができる。例えば、患者の腫瘍における
PDCD1 遺伝子のメチル化が閾値を超える場合、この患者では、PSA の再発が早期に起こる可能性が高い。この患者は、その後、追加のアジュバント療法の恩恵を受けることができる。例えば、フォローアップ中にこれらの患者の進行を注意深く監視することも可能であり、PSA 再発の発症も早期に診断され、好ましい治療措置を開始することができる。
【0118】
実施例2:免疫調節遺伝子
CD274 のDNA‐メチル化解析に基づく根治的切除術後の前立腺がん患者の予後の診断
本発明に係る方法を実施することにより、
CD274 遺伝子内の CpG‐ジヌクレオチドの DNA‐メチル化解析に基づいて、悪性疾患の患者の予後の診断を行うことも可能である。例えば、患者を前立腺及び前立腺に位置する腫瘍の根治的除去(根治的な外科的切除)によって治療した後に、腫瘍中の
CD274 遺伝子のメチル化に基づいて、局所限局的に前立腺がんを有する患者の予後を診断することができる。
【0119】
予後が分かっている合計 417 例の患者の腫瘍サンプルを遡及的に検討した。DNA‐メチル化解析は、実施例1に記載のように行った。Infinium HumanMethylation450 BeadChip の生データに基づいて、
CD274 遺伝子座の相対的メチル化を計算するために、ゲノム中で、配列 SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11 及び SEQ ID NO:12 中の CpG‐ジヌクレオチドのメチル化解析を可能にする、5 つのビーズ対 cg15837913、cg02823866、cg14305799、cg13474877 及び cg19724470 を使用した。実施例1に記載したように一対の非メチル化及びメチル化状態に特異的なビーズそれぞれについて比を求め、遺伝子
PDCD1 と同様に実施例1に記載したように、各患者についての相対的メチル化を 5 つのビーズ対それぞれに対して計算した。その後、これらの 5 つのメチル化値を平均化し、患者サンプル当たりの相対的メチル化値とした。そして、そのようにして決定したメチル化値に基づいて、遡及的に分かっている予後に応じて、患者を 2 つの群に分けた。2 つの群に分けることで、
CD274 遺伝子座での相対的メチル化について 52.75 %の閾値が得られた。337 例の患者の群は、
CD274 遺伝子座において 52.75 %の閾値レベル未満のメチル化を有していて、低い
CD274 のメチル化の群と呼ぶ。対応して、52.75 %を超えた
CD274 遺伝子座メチル化を示した群を、高い
CD274 のメチル化の群と呼ぶ。この群は 80 例の患者からなっていた。
【0120】
図2Aは、本発明に係る方法を使用することにより、患者を 2 つの群に分けることが可能になり、低い
CD274 のメチル化の群が高い
CD274 のメチル化の群より有意に良好な予後を有することを示す。この応用例では、生化学的な再発が発症する、即ち前立腺がんに特異的な血液パラメータである PSA が増加する、までの予測時間を予後と定義する。低い
CD274 のメチル化の群では、PSA 無再発生存期間平均値が 2822 日であったのに対して、高い
PDCD1 のメチル化の患者群は平均値 1578日で、PSA 無再発生存期間が 1244 日短いことが示された。従って、本発明に係る方法を使用することにより、PSA 再発に関して患者を異なるリスク群に割り付けることが可能となった。
【0121】
本発明に係る悪性疾患の患者の予後を診断するために、リアルタイム‐PCRを用いた DNA‐メチル化解析を実施することも可能である。この例では、前立腺腫瘍を有していて、予後が既知である 259 例の患者を遡及的に調べたが、これは前述の 417 例の患者とは異なるコホートであった。
【0122】
リアルタイム‐PCR による DNA‐メチル化解析のために、厚さ 10 μm の組織薄切片を調製し、ガラススライド上に載せた。HE セクションを用いて、病理学的検査により腫瘍領域を同定した。次いで、これらの腫瘍領域をメスを用いてガラススライドから掻き取った。腫瘍領域に由来する DNA を、innuCONVERT 亜硫酸水素塩オール・イン・ワン・キット(アナリティック・イェーナ社、イェーナ、ドイツ)(innuCONVERT Bisulfit All-In-One Kit (Analytik Jena, Jena, Deutschland))を用いて、メーカーから提供されている指示に従って、亜硫酸水素塩で変換した。続いて、NanoDrop ND-1000 分光光度計(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社、ウォルトハム、マサチューセッツ州、米国(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA))を用いて、変換された DNA の量を定量した。前立腺腫瘍の DNA‐メチル化解析は、定量的リアルタイム‐PCR(qPCR)を用いて、メチル化特異的に
CD274 遺伝子座を増幅し、同時に定量することで行った。この場合、同じ反応において、メチル化に加えて、全 DNA も測定する デュプレックス‐(Duplex-)又はマルチプレックス‐PCR(Multiplex-PCR)を使用した。全 DNA は、例えば、標的配列に CpG‐ジヌクレオチドが含まれず、それ故に標的配列がメチル化に依存しないで増幅される、プライマー及びプローブを使用して、測定した。今回の場合、全 DNA を測定するのに
ACTB 遺伝子中のある遺伝子座を増幅した。ゲノム中のこの遺伝子座は SEQ ID NO:32 の配列を有し、亜硫酸水素塩による変換の後には SEQ ID NO:7 の配列を有するようになる。この配列を、SEQ ID NO:4 及び SEQ ID NO:5 の配列を有するプライマーを用いて増幅した。増幅産物を配列特異的に検出することは、5‘ 側に蛍光色素 アトー 647N を及び 3‘ 側にクエンチャー BHQ-2 を有する、SEQ ID NO:6 のプローブを用いて行った。
CD274 遺伝子座をメチル化特異的に増幅することは、SEQ ID NO:13 及び SEQ ID NO:14 の配列を有するプライマーを用いて行った。これらのプライマーは、SEQ ID NO:33 の亜硫酸水素塩による変換から生じる配列を増幅する。メチル化が完全に行われている場合、ゲノム中のこの変換された領域は SEQ ID NO:16 の配列を有する。メチル化を特異的に検出することは、5‘ 側に蛍光色素 6-FAM を及び 3‘ 側にクエンチャー BHQ-1 を有する、SEQ ID NO:15 の配列を有するプローブを用いて行った。前立腺腫瘍の変換された DNA 中におけるメチル化状態を DeltaDelta-CT 法により計算し、100 %メチル化している標準 DNA に対するパーセンテージとして表した。標準 DNA としては、メーカー指示に従って innuCONVERT 亜硫酸水素塩オール・イン・ワン・キットを使って先に変換した、人工的メチル化 DNA(CpGenome(登録商標)ユニバーサル・メチル化 DNA;メルク・ミリポア社、ダルムシュタット、ドイツ(CpGenomeTM Universal Methylated DNA; Merck Millipore, Darmstadt, Germany))を使用した。本実施例では、
CD274 メチル化のリアルタイム‐PCR 定量は、20 μl の PCR 反応で、それぞれ 3 回の独立した測定を行った。ここで、次の反応組成が好ましい:35 mM トリス‐HCl、pH 8.4、6 mM MgCl
2、50 mM KCl、4 %グリセリン、各 0.25 mM dNTP(dTTP、dATP、dGTP、dCTP)、2 U FastStart Taq DNA‐ポリメラーゼ(ロシュ・アプライド・サイエンス社、ペンツベルグ、ドイツ(Roche Applied Science, Penzberg, Deutschland))、各 0.4 μm プライマー及び各 0.2 μm 検出プローブ。qPCR は、例えば、AB7500 ファスト・リアル‐タイム PCR システム(ライフ・テクノロジー社、カールスバッド、カリフォルニア州、米国))(AB7500 Fast Real-Time PCR System(Life Technologies Corporation, Carlsbad, CA, USA))を用いて行った。適した温度プロファイルは、例えば以下のステップを含む:95 ℃で 20 分、続いて 56 ℃で 45 秒、95 ℃で 15 秒を 45 サイクル。
【0123】
図2Bは、本発明に係る方法の使用が、リアルタイム‐PCR によって決定した
CD274 遺伝子座のメチル化に基づいて、前立腺がん患者の予後を診断するのに適していることを示す。259 例の患者を、DNA‐メチル化解析に基づいて、異なる予後を有する 2 つの群に割り付けた。腫瘍が 0.975 %を超えるメチル化を示した患者は、93 か月の平均 PSA 無再発生存期間を有し、腫瘍が 0.975 %未満のメチル化を示した患者は、平均 PSA 無再発生存期間が 21 か月延長した(114 か月)。
【0124】
例えば、上記のリアルタイム‐PCR と同様に、予後が未知である患者の腫瘍サンプル中の
CD274 遺伝子座のメチル化を測定することが可能である。例えば、このメチル化が 0.975 %を超える場合、患者は不良な予後であり、93 か月の非再発生存期間が平均となることがある。腫瘍におけるメチル化がこの閾値未満である場合、患者は平均 114 か月の非再発生存期間で、より良好な予後である可能性が高い。
【0125】
この例では、本発明に係る方法を、2 つの異なる技術、即ち、リアルタイム‐PCR と Infinium HumanMethylation450 BeadChip、を使用して行う。患者を予後が良好と不良の群に群分けすることを可能にするメチル化閾値は、52.75 %(Infinium HumanMethylation450 BeadChip)及び 0.975 %(リアルタイム‐PCR)であった。予後群に割り付けるための好ましい閾値が、DNA‐メチル化解析に使用する方法に応じて決まることがあるということは、当業者にとって明らかである。別のやり方としては、それぞれの DNA‐メチル化解析の結果を直接比較できるように、異なる方法を、お互いに対して較正することである。例えば、所定の割合のメチル化を有する 1 つ以上の標準 DNA サンプルの DNA‐メチル化解析を、異なる方法によって実施することで、較正することができる。それぞれの方法において、調べる対象の免疫調節遺伝子のメチル化解析の結果と標準 DNA サンプルのメチル化解析の結果を関連付けることによって、前記測定結果を較正することができ、その結果、異なる方法による較正された測定結果を比較することが可能となる。
【0126】
実施例3:免疫調節遺伝子
PDCD1、
PDCD1LG2 及び
CD274 の DNA‐メチル化解析に基づく悪性黒色腫(メラノーマ)を有する患者の予後の診断
この例では、470 例の悪性黒色腫(メラノーマ)を有する患者の、本発明に係る予後の診断を示す。前記 DNA‐メチル化解析の結果を、実施例1に記載されたように、Infinium HumanMethylation450 BeadChip を用いて取得した。各遺伝子の相対的メチル化を測定するために、まず最初に、実施例1に記載したように、Infinium HumanMethylation450 BeadChip の各選択されたビーズ対に対して、相対的メチル化を測定した。その後、それぞれの遺伝子についてのメチル化の代表値を得るために、遺伝子あたり最大 6 つのビーズ対のこの相対的メチル化を平均した。
CD274 のメチル化解析をするには、ビーズ対 cg15837913(SEQ ID NO:8)、cg02823866(SEQ ID NO:9)、cg14305799(SEQ ID NO:10)、cg13474877(SEQ ID NO:11)及びcg19724470(SEQ ID NO:12)を使用した。これらのビーズによって、例えば、
CD274 遺伝子の配列領域 SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:33 及び SEQ ID NO:76 における CpG‐ジヌクレオチドのメチル化を測定することができる。
PDCD1 のメチル化解析をするには、ビーズ対 cg00795812(SEQ ID NO:20)、cg03889044(SEQ ID NO:22)、cg17322655(SEQ ID NO:23)、cg20805133(SEQ ID NO:24)及びcg27051683(SEQ ID NO:369)を使用した。これらのビーズによって、例えば、
PDCD1 遺伝子の配列領域 SEQ ID NO:3 及び SEQ ID NO:29 における CpG‐ジヌクレオチドのメチル化を測定することができる。
PDCD1LG2 のメチル化解析をするには、ビーズ対 cg07211259(SEQ ID NO:31)を使用した。これらのビーズによって、例えば、
PDCD1LG2 遺伝子の配列領域 SEQ ID NO:84 における CpG‐ジヌクレオチドのメチル化を測定することができる。
【0127】
図3は、DNA‐メチル化解析基づいて、470 例の悪性黒色腫(メラノーマ)を有する患者を予後群に遡及的に割り付けたこと示す。予後に応じて、腫瘍における遺伝子
PDCD1(
図3A)、
CD274(
図3B)及び
PDCD1LG2(
図3C)のメチル化に基づいて、群に割りつけた患者の カプラン‐マイヤー(Kaplan-Meier)生存率分析を示す。群Iには、対応する遺伝子座で閾値未満の低いメチル化を有する腫瘍の患者が含まれる。群IIには、それぞれの遺伝子の閾値を超えてメチル化が増加している腫瘍の患者が含まれる。患者を群分けするための閾値としては、以下のメチル化値を設定した:
PDCD1LG2 については 12.84 %、
CD274 については 13.11 %及び
PDCD1 については 20.54 %。分析した 3 つの遺伝子全てについて、DNA‐メチル化解析をして、腫瘍においてメチル化が増加している患者は、その疾患についてより不良な経過を示すことが示された。本発明に係る方法を使用することで、免疫チェックポイント遺伝子
PDCD1 並びにその対応するリガンドをコードする
CD274 遺伝子の DNA‐メチル化に基づいて、悪性黒色腫(メラノーマ)を有する患者の予後群を診断することが可能となった。また、本発明に係る予後の診断をするために、免疫チェックポイント・タンパク質 PDCD1 のリガンドをコードする別の遺伝子
PDCD1LG2 を使うことができることが示された。
【0128】
この実施例は、本発明に係る方法が、実施例1及び実施例2のような単一の悪性疾患、前立腺がんに限定されるのではなく、例えば、悪性黒色腫(メラノーマ)などの他の悪性疾患においても予後の診断が可能であることを示す。従って、これらの遺伝子の DNA‐メチル化解析に基づく予後の診断は、個々の疾患単位(Entitaten)に限定されず、他の悪性腫瘍にも適用できる。それ故、本発明は、従来の予測方法では個々の疾患単位(Entitaten)に適用性が限られているという問題を解決する。
【0129】
さらに、この例によって、本発明に係る方法の実施形態によって、将来の様々な健康状態に関して予後の診断が可能であることを示すことができる。実施例1及び実施例2では、PSA 再発の発症を正確に予測することができた。PSA 再発は、前立腺腫瘍に限られる特性である。これに対して、本実施例3では、患者の死亡を予測することができた。
【0130】
実施例4:免疫調節遺伝子
TIGIT、
TNFRSF9、
LAG3、
BTLA、
CTLA4 及び
CD40 の DNA‐メチル化解析に基づく、悪性黒色腫(メラノーマ)を有する患者の予後の診断
本発明の方法はまた、免疫チェックポイント遺伝子
TIGIT、
TNFRSF9、
LAG3、
BTLA、
CTLA4 及び
CD40 のメチル化に基づいて、悪性黒色腫(メラノーマ)を有する患者の予後の推定も可能にする。本実施例では、Infinium HumanMethylation450 BeadChip(イルミナ社、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国(Illumina, Inc., San Diego, CA, USA))を使用して、遺伝子の相対的メチル化を測定するための DNA‐メチル化解析の結果を、実施例1で説明したように、取得した。続いて
TIGIT、
TNFRSF9、
LAG3、
BTLA、
CTLA4 及び
CD40 それぞれについて、相対的メチル化を決定した。この目的のために、実施例1に記載したように、ビーズ対のメチル化状態及び非メチル化状態に特異的なビーズから比を求めた。遺伝子
BTLA については、ビーズ対 cg24157392 及び cg19281794 を使用した。これらのビーズは、亜硫酸水素塩で変換する前には SEQ ID NO 37 又は SEQ ID NO 37の配列を有するヒト DNA の配列に結合し、従って、例えば配列領域 SEQ ID NO 276 のメチル化の測定が可能となる。両方のビーズ対は、それぞれ 1 対のビーズで構成され、その内の 1 つは亜硫酸水素塩による変換前に非メチル化である配列に、及びもう 1 つは変換前にメチル化した配列に結合する。これら両方のビーズ対から前記比が求められるが、そこでは、例えば、ビーズ対 cg24157392 について以下に示す:メチル化=(強度 cg24157392_M)/((強度 cg24157392_M)+(強度 cg24157392_U))、ここで、ビーズの cg24157392_M はメチル化バリアントに結合し、ビーズの cg24157392_U は非メチル化バリアントに結合する。同じ手順をビーズ対 cg19281794 に適用した。次いで、ビーズ対 cg24157392 及び cg19281794 の相対的メチル化値を平均化するによって、
BTLA に関する相対メチル化値を計算した。
【0131】
このようにして、遺伝子
TIGIT、
TNFRSF9、
LAG3、
BTLA、
CTLA4 及び
CD40 の相対的メチル化を測定した。
TNFRSF9 の相対的メチル化を測定するためには、ビーズ対cg14614416(SEQ ID NO:51)、cg14153654(SEQ ID NO:54)、cg17123655(SEQ ID NO:55)、cg18025409(SEQ ID NO:57)、cg06956444(SEQ ID NO:58)及び cg08840010(SEQ ID NO:59)を使用したが、そこでは、例えば、ゲノム中の配列領域 SEQ ID NO:308、SEQ ID NO:309 及び SEQ ID NO:321 のメチル化を測定することができる。
CD40 のメチル化を測定する際には、ビーズ対 cg19785066(SEQ ID NO:47)、cg09053081(SEQ ID NO:48)及び cg21601405(SEQ ID NO:49)を使用したが、そこでは、例えば、配列領域 SEQ ID NO:297 及び SEQ ID NO:298 のメチル化を測定するのに適している。
TIGIT のメチル化を測定するためには、ビーズ対 cg02771886(SEQ ID NO:61)、cg08723913(SEQ ID NO:62)、cg17164827(SEQ ID NO:63)、cg04885775(SEQ ID NO:64)、cg23637607(SEQ ID NO:65)及び cg16358924(SEQ ID NO:66)を使用したが、そこでは、配列領域 SEQ ID NO:267 のメチル化を測定するのに適している。
CTLA4 遺伝子の配列領域SEQ ID NO:162 のメチル化を測定するためには、ビーズ対 cg08460026(SEQ ID NO:39)を使用した。
LAG3 の相対的メチル化を測定するためには、ビーズ対 cg04153135(SEQ ID NO:40)、cg20652042(SEQ ID NO:41)及び cg01820374(SEQ ID NO:42)を使用したが、配列領域 SEQ ID NO:161、SEQ ID NO:349 及び SEQ ID NO:351 におけるメチル化を測定するのに適している。
【0132】
図4は、本発明の対象に係る DNA‐メチル化解析に基づいて、470 例の悪性黒色腫(メラノーマ)を有する患者を予後群に遡及的に割り付けたことを示す。腫瘍中の遺伝子
TIGIT(
図4A)、
TNFRSF9(
図4B)、
LAG3(
図4C)、
BTLA(
図4D)、
CTLA4(
図4E)及び
CD40(
図4F)のメチル化に基づいて群に割り付けた患者の カプラン‐マイヤー(Kaplan-Meier)生存率分析を示す。群Iには、対応する遺伝子座で閾値未満の低いメチル化の腫瘍を有する患者が含まれる。群IIには、それぞれの遺伝子の閾値超える高いメチル化の腫瘍を有する患者が含まれる。患者を群分けするための閾値としては、例えば、以下のメチル化値を設定した:
TIGITについては 86.41 %、
TNFRSF9 については 57.80 %、
LAG3 について は 66.94 %、
BTLA については 91.31 %、
CTLA4 については 13.10 %及び
CD40 については 17.16 %。この実施例で検討したすべての免疫調節遺伝子に関して、閾値を超えた高いメチル化の腫瘍を有する患者は、閾値未満のメチル化を示す腫瘍を有する患者よりも、有意に悪い疾患経過を呈することが示された。
【0133】
実施例5:免疫調節遺伝子
PDCD1 の DNA‐メチル化解析に基づく頭部‐及び頸部領域の扁平上皮がん患者の予後の診断
図5は、本発明に係る方法に基づき、528 例の頭部‐及び頸部領域の扁平上皮がんを有する患者を予後群に遡及的に割り付けたことを示す。臨床のエンドポイントを、死亡として定義した。免疫チェックポイント遺伝子
PDCD1 の DNA‐メチル化解析を、腫瘍組織からの DNA において測定した。高い
PDCD1 メチル化を有する患者は、
PDCD1 遺伝子座のメチル化が低い患者よりも悪い経過を示す。閾値として中央値を用いた 2 分化によって、前記患者を群分けをした。即ち、半分の患者サンプル(n = 264 例の患者)が閾値を超えたメチル化値を有し、残りの半分(n = 264 例の患者)が閾値未満であるように、閾値を選択した。
【0134】
リアルタイム‐PCR によって
PDCD1 の DNA‐メチル化解析を行うことも可能であった。リアルタイム‐PCR について、適した条件及び組成は実施例2と同様である。以下のオリゴヌクレオチドを PCR に使用した:SEQ ID NO:25(フォワード・プライマー)、SEQ ID NO:26(リバース・プライマー)及び SEQ ID NO:27 検出プローブ。検出プローブを FAM 及び BHQ-1 で標識した。使用したプライマーによって、SEQ ID NO:368 の配列を有する亜硫酸水素塩で変換された DNA の増幅が可能になる。この配列は、亜硫酸水素塩での変換前には、SEQ ID NO:367 の配列を有していた。頭部‐及び頸部領域の扁平上皮がんを有していて、予後が分かっている、合計 120 例の患者からの腫瘍サンプルを遡及的に調べた。患者を、メチル化解析に基づいて、及び予後に応じて、低いメチル化を有する 40 例の患者の群と高いメチル化を有する 80 例の患者の群に割り付けることができた。高いメチル化を有する患者群は、低いメチル化を有する群と比較して、有意により悪い全生存率を示した(p‐値 < 0.05)。
【0135】
実施例1では、本発明に係る方法の実施形態によって、
PDCD1 遺伝子のメチル化に基づいて前立腺がん患者における予後を診断することが可能であることが示された。これらの前立腺がんは、前立腺の腺上皮から生じるがん腫(カルシノーマ)であった。従って、これらのがん腫(カルシノーマ)は腺がん(アデノカルシノーマ)に属する。実施例3では、本発明に係る方法の実施形態によって、悪性黒色腫(メラノーマ)患者の予後を診断することが可能であることも示された。黒色腫(メラノーマ)は上皮細胞由来ではなくメラノサイト由来であるため、がん腫(カルシノーマ)には属さない。黒色腫(メラノーマ)はがん腫(カルシノーマ)と比較した場合、基本的に異なる悪性疾患である。本実施例5では、頭部‐及び頸部領域の扁平上皮がん患者においても、本発明に係る予後の診断が可能であることをさらに示すことができた。これらの扁平上皮細胞がんは、腺がん(アデノカルシノーマ)と同様に、がん腫(カルシノーマ)に属し、上皮細胞から生じる。腺がん(アデノカルシノーマ)とは対照的に、扁平上皮細胞がんは、腺上皮からではなく、扁平上皮から生じる。従って、本発明に係る方法の実施形態によって、異なる起源のがん腫(カルシノーマ)における予後の診断だけでなく、がん腫(カルシノーマ)ではない悪性疾患の予後の診断も可能であることを示すことができた。これらの結果は、様々な悪性疾患における予後及び/又は予測のために、本発明に係る方法を普遍的に適用できることをさらに示す。
【0136】
実施例6:DNA‐メチル化解析に基づく免疫チェックポイント遺伝子の mRNA‐発現の測定
本発明に係る方法の実施によりまた、遺伝子
BTLA及び
CD27 の mRNA‐発現に基づいて、以下の実施例に示すように、免疫調節遺伝子によってコードされる免疫チェックポイント・タンパク質の発現を測定することも可能になる。
【0137】
mRNA の測定を、例えば、mRNA の抽出後、全 RNA の cDNA ライブラリーを調製し、そして最後に次世代シークエンシングに基づく解析を行うことで、測定することができる。例えば、RNeasy ミニキット(キアゲン、ヒルデン)(RNeasy Mini Kit(Qiagen、Hilden))をメーカーの指示に従って使用し、腫瘍組織から RNA を得ることができる。次に、TruSeq RNA ライブラリ作成キット v2(イルミナ社)(TruSeq RNA Library Preparation Kit v2(Illumina))を使用してメーカーの指示に従ってライブラリーを調製し、HiSeq PE(ペア‐エンド(Paired-End))クラスター・キットv4 cBot(イルミナ社)(HiSeq PE (Paired-End) Cluster Kit v4 cBot (Illumina))を使用して、HiSeq 2500 次世代シークエンサー(イルミナ)(HiSeq 2500 Next Generation Sequencer(Illumina))で分析することができる。mRNA の測定又は全 mRNA 分子の数に対する特定の配列を有する mRNA 分子の相対数を測定することは、TCGA リサーチ・ネットワーク(TCGA Research Network)(http://cancergenome.nih.gov/)に記載された通りに行った。
【0138】
図6は、
BTLA(
図6A)及び
CD27(
図6C)の mRNA‐発現を有する 470 例の患者の悪性黒色腫(メラノーマ)組織における DNA‐メチル化の相関を示す。50 %未満のそれぞれの遺伝子座のメチル化を有する全ての腫瘍は、10 を超える mRNA(
BTLA、
図6A)又は 100 を超える mRNA(
CD27、
図6C)の発現を示すことが分かった。
図6Bは、> 10の
BTLA mRNA 発現である腫瘍を有する黒色腫(メラノーマ)患者が、より低い mRNA‐発現である腫瘍を有する患者よりも有意に良好な予後を有することを示す。
BTLA と同様に、> 100の
CD27 mRNA‐発現である腫瘍を有する黒色腫(メラノーマ)患者が、より低い mRNA‐発現を有する患者よりも有意に良好な予後を有することが
図6Dに示されている。
【0139】
遺伝子
BTLA 及び
CD27 の発現は、患者の予後を診断するために使用されるだけではなく、例えば治療が対応する遺伝子産物に対する治療である場合、治療に応答する可能性を示す。この実施例は、mRNA‐発現の測定を、腫瘍における遺伝子座のメチル化に基づいてすることができて、患者の予後を診断するために使用され得ることを示す。これは、mRNA 自体を直接的に測定することが、mRNA の低い安定性のために、臨床ルーチンにおいては、しばしば制限されるという問題を解決する。
さらに、この実施例は、DNA‐メチル化解析に基づく患者の予後の診断によって、解析された免疫調節遺伝子の発現を同時に推定することも可能になることを示す。その結果、遺伝子産物、即ち、免疫チェックポイント・タンパク質、の発現に応じて、治療がおそらくは作用する、又は治療がおそらくは作用しないと、患者を評価することが可能である。この目的に特に適しているのは、免疫チェックポイント・タンパク質又はその相互作用パートナーに対して直接的に向けられている療法である。特に、これらの遺伝子産物に対するモノクローナル抗体を用いた免疫療法がこの目的に適している。
【0140】
実施例7:組み合わされた DNA‐メチル化解析及び mRNA‐発現解析に基づく悪性黒色腫(メラノーマ)患者の予後の診断
悪性黒色腫(メラノーマ)を有し、及び予後が分かっている 470 例の患者の腫瘍における
CD274 遺伝子の DNA‐メチル化解析及び mRNA‐発現解析を行った。mRNA‐発現及び DNA‐メチル化の測定は、実施例1,3及び6に記載のように行った。
【0141】
図7Aは、検出された
CD274 遺伝子の mRNA‐発現と DNA‐メチル化の、示された閾値と併せた散布図を示し、その閾値に基づいて、高い及び低い mRNA‐発現又は DNA‐メチル化を有する予後群に遡及的に分り付けた。
図7Aは、DNA‐メチル化及び mRNA‐発現の有意な負の相関(Spearman の ρ= -0.546、p < 0.001)を示す。導入されたメチル化の閾値 13.11 %に基づいて、本発明によれば、患者をより高い(群 II+III)及びより低い(群 I+IV)DNA‐メチル化群に割り付けることができる。同様に、
図7Aに示す 18.23 で mRNA‐発現の垂直閾値を導入することによって、高い(群 III+IV)及び低い(群 I+II)mRNA‐発現を示す 2 つの群形成が可能になる。
図7Bは、腫瘍における高い
CD274 のメチル化を有する患者(群 II+III)の、低いメチル化を有する患者(群 I+IV)と比較した、全生存率のカプラン‐マイヤー(Kaplan-Meier)生存率分析を示す。群 II+III の患者は、I+IV 群の患者と比較して、あまり好ましい予後を示さない。
図7Cは、腫瘍における高い
CD274 mRNA‐発現を有する患者(群 III+IV)と低いメチル化 患者(群 I+II)とを比較した、全生存率のカプラン‐マイヤー(Kaplan-Meier)生存率分析を示す。腫瘍において、遺伝子
CD274 の mRNA‐発現が増加した腫瘍の患者(群 III+IV)は、
CD274 の低い mRNA‐発現の腫瘍を有する群 I+II の患者に比べて、より良好な臨床経過である。
図7Dは、腫瘍において、高い遺伝子
CD274 の mRNA‐発現及び低いメチル化を有する患者(群 IV)、高いメチル化及び低い mRNA‐発現を有する患者(群 II)、並びに高いメチル化及び高い mRNA‐発現を有する患者並びに低いメチル化及び低い mRNA‐発現を有する患者(群 I+III)とを比較した、全生存率のカプラン‐マイヤー(Kaplan-Meier)生存率分析を示す。mRNA‐発現解析と DNA‐メチル化解析の両方において、良好な予後を有する群に割りつけられる患者(群 IV:高い mRNA‐発現と低いメチル化)は、mRNA‐発現解析及び DNA‐メチル化解析に基づいて、予後不良群に割り付けられている腫瘍を有する患者(群 II:高いメチル化と低い発現)と比較して、有意に好ましい経過を取る。全ての他の患者(群 I+III)は、群 II 及び IV の予後の間にある予後を示す(
図7D)。
【0142】
図7は、遺伝子
CD274 の例を用いて、悪性黒色腫(メラノーマ)を有する患者の予後をより良く診断するために、mRNA‐発現解析及び DNA‐メチル化解析の組み合わせる、本発明に係る方法の実施形態を詳細に記載している。本発明に係る方法を更なる遺伝子に適用すると、予後をより良く診断することも可能になる。
CD274(
図8A及び
図7D)と比較して、この予後の診断を遺伝子
PDCD1LG2(
図8B)、
PDCD1(
図8C)、
BTLA(
図8D)、
LAG3(
図8E)、
TIGIT(
図8F)、
CD40(
図8G)、
CTLA4(
図8H)及び
TNFRSF9(
図8I)に関しても示すことができる。
図8は、本発明の様々な免疫調節遺伝子の mRNA‐発現と DNA‐メチル化を組み合わせた解析に基づいて、悪性黒色腫(メラノーマ)を有し、予後が分かっている 470 例の患者を遡及的に割りつけていることを示す。患者の群分けを、個々の遺伝子に適する閾値に応じて、
図7と同様に行った。腫瘍において、高い DNA‐メチル化と低い mRNA‐発現を有する患者(群 II)、腫瘍において、低い DNA‐メチル化と高い mRNA‐発現を有する患者(群 IV)、並びに残りの患者(群 I+III)の疾患経過を比較した。すべての検討した遺伝子について、群 II が好ましくない疾患経過を辿り、群 IV が好ましい疾患経過を辿り、残りの患者(群 I+III)が中間の死亡リスクを有することを、示すことができた。従って、群 II は高いリスク群を表し、群 IVは低いリスク群を表す。
【0143】
実施例8:免疫調節遺伝子
PDCD1LG2、
CD274、
PDCD1、
BTLA、
LAG3、
TIGIT、
CD40、
CTLA4 及び
TNFRSF9 についての、組合せた DNA‐メチル化解析と mRNA‐発現解析に基づく悪性黒色腫(メラノーマ)を有する患者の予後の診断
実施例3及び4において、全部で 9 つの異なる免疫チェックポイント遺伝子(
PDCD1LG2、
CD274、
PDCD1、
BTLA、
LAG3、
TIGIT、
CD40、
CTLA4 及び
TNFRSF9)の DNA‐メチル化解析に基づく、悪性黒色腫(メラノーマ)を有する患者の予後の本発明に係る診断を示した。悪性疾患を有する患者の予後を診断することは、異なる遺伝子の DNA‐メチル化解析と mRNA‐発現解析を組み合わせることによってさらに向上させることができる。mRNA‐発現及び DNA‐メチル化の測定は、実施例1及び6に記載のように行った。定量的メチル化値の計算は、実施例3及び4に記載したように、各遺伝子について実施した。予後群への患者の割り付けは、最初に、9 つの遺伝子の mRNA‐発現に基づいて行った。群 I は、9 つの遺伝子の mRNA‐発現に基づいて好ましい予後に割り付けることができる群である。群 I には、9 つの遺伝子の少なくとも 8 つの遺伝子で閾値を超える mRNA‐発現を示した腫瘍を有する患者が含まれる。群 II は、9 つの遺伝子の mRNA‐発現に基づいて、好ましくない予後を割り当てることができる群である。群 II には、解析した 9 つの遺伝子のうち 8 つ未満の遺伝子で閾値を超える mRNA‐発現を示した腫瘍を有する患者が含まれる。続いて、9 つの遺伝子の DNA‐メチル化に基づいて、患者を割り付けた。群 III は、9 つの遺伝子の DNA‐メチル化に基づいて好ましい予後を割り当てることができる群である。群 III には、9 つの遺伝子のうち最大 4 つの遺伝子で閾値を超える DNA‐メチル化を示した腫瘍を有する患者を含む。群 IV は、9 つの遺伝子の DNA‐メチル化に基づいて、好ましくない予後を割り当てることができる群である。群 IV には、解析した 9 つの遺伝子のうち少なくとも 5 つの遺伝子で閾値を超えるメチル化を示した腫瘍を有する患者が含まれる。最終的には、患者の割り付けを、9 つの遺伝子の DNA‐メチル化及び mRNA‐発現に基づいて行った。群 V には、mRNA‐発現と DNA‐メチル化の両方の面で、予後良好な群に割り付けることができる患者が含まれていた。群 V は、群 I 及び 群 III の両方に割りつけられる患者が含まれた。群 VI には、mRNA‐発現及び DNA‐メチル化の両方の面で、予後不良の群にあった患者が含まれていた。群 VI は、群 II 及び群 IV の両方にいた患者を含んでいた。群 VII には、mRNA‐発現又は DNA‐メチル化のどちらかで予後良好な群にあった患者が含まれていた。群 VII は、群 I 及び群 IV の両方、又は群 II 及び群 III の両方、に属していた患者を含んでいた。
図9Bは、解析した 9 つの遺伝子のうち最大 4 つの遺伝子の DNA‐メチル化がそれぞれ不良な予後の群に割りつけられた患者、即ちその遺伝子に関しては閾値を超えるメチル化を示す患者が、全体として良好な予後を呈することを示す(群 III)。対照的に、9 つの遺伝子のうち少なくとも 5 つの遺伝子のメチル化解析に基づいて不良な予後の群に割りつけられた患者(群 IV)は、全体としても有意に不良な予後を呈する。
図9Aは、9 つの遺伝子のうち少なくとも 8 つの遺伝子の mRNA‐発現解析に基づいて良好な予後の群に割り当てられた患者(群 I)が、9 つの遺伝子のうち 8 つ未満の遺伝子しか mRNA‐発現解析に基づいて良好な予後に割りつけられなかった患者(群 II)よりも、全体として有意に良好な予後を呈することを示す。DNA‐メチル化解析に基づいて患者を群分けするための閾値は、例えば、以下のメチル化値が設定される:
PDCD1LG2 について 12.84 %、
CD274 について 13.11 %、
PDCD1 について 20.54 %、
TIGIT について 86.41 %、
TNFRSF9 について 57.80 %、
LAG3 について 66.94 %、
BTLA について 91.31 %、
CTLA4 について 13.10 %、及び
CD40 について 17.16 %。RNA‐発現解析に基づいて患者を群分けするための閾値は、例えば、以下の mRNA‐発現が設定される:
PDCD1LG2 について 5.61、
CD274 について 18.23、
PDCD1 について 7.29、
TIGIT について 12.38、
TNFRSF9 について 0.935、
LAG3 について 9.65、
BTLA について 3.33、
CTLA4 について 13.12、及び
CD40 について 30.14。
【0144】
実施例7(
図8)で、本発明に係る DNA‐メチル化解析及び mRNA‐発現解析の組み合わせると、DNA‐メチル化解析又は mRNA‐発現解析の何れか一つだけに基づく予後の診断よりも、悪性疾患を有する患者の予後について、さらに洗練された診断が可能になることを既に示した。従って、ここに示されるように、DNA‐メチル化解析と mRNA‐発現解析の組み合わせがいくつかの免疫調節遺伝子を含む場合、本発明のこの有利な効果をさらに改善することができる。
図9Cは、今回検討した 9 つの遺伝子の DNA‐メチル化解析及び mRNA‐発現解析の両方に基づいて、それぞれ良好な予後を有する群に属する腫瘍を有する患者(
図9B、群 III 及び
図9A、群 I)は、全体的に非常に良好な予後を有する(
図9C、群 V)、ことを示す。今回検討した 9 つの遺伝子の DNA‐メチル化解析及び mRNA‐発現解析の両方に基づいて、それぞれが不良な予後を有する群である患者(
図9C、群 VI)は、不良な予後を有する。他の全ての患者(
図9C、群 VII)は、群 VI より良好な経過を示し、群 V より不良な経過を示した。
【0145】
実施例9:免疫調節遺伝子
CD40 及び
LAG3 の例による、プロモーターのメチル化と遺伝子内のメチル化に基づく悪性黒色腫(メラノーマ)を有する患者の予後の診断
遺伝子の DNA‐メチル化は mRNA‐発現と逆相関する、と一般的には考えられている。即ち、これは、遺伝子の高いメチル化が遺伝子の低い mRNA‐発現に関連することを意味する。本発明に係るこの例示的な実施形態では、遺伝子内領域で有意な正の相関が存在し得ることが示された。これは、遺伝子
LAG3 及び
CD40 の例によって示された。mRNA‐発現及び DNA‐メチル化の測定は、実施例1及び6に記載のように行った。遺伝子
LAG3 及び
CD40 それぞれのプロモーターの相対的メチル化の計算を、実施例4に記載のように行った。遺伝子内領域の測定に関しては、以下に記載するビーズ対を使用し、実施例1に記載したように互いに比較して、各遺伝子座の相対的メチル化値を得た。
LAG3 の遺伝子内の DNA‐メチル化解析については、ビーズ対 cg11429292(SEQ ID NO:43)及び cg14292870(SEQ ID NO:44)を使用し、例えば、SEQ ID NO:161 及び SEQ ID NO:350 の領域での DNA‐メチル化解析が可能となる。
CD40 の遺伝子内の DNA‐メチル化解析については、ビーズ対 cg06218285(SEQ ID NO:50)を使用し、例えば、SEQ ID NO:297 の領域での DNA‐メチル化解析が可能となる。
【0146】
図10は、本発明に係る悪性黒色腫(メラノーマ)を有する 470 例の患者の予後を診断することの結果を示す。プロモーター及び遺伝子内の領域のメチル化の分析を、単独で及び組み合わせたものに基づいて、患者の割り付けを遡及的に行った。
図10A及び
図10Cは、プロモーター領域に位置する CpG‐ジヌクレオチドの相対的メチル化が、それぞれの遺伝子の mRNA‐発現と負の相関があることを示す。これに対し、これらの遺伝子の遺伝子内領域の相対的メチル化は、プロモーター領域とは対照的に、mRNA‐発現と正に、且つ有意に相関していることが示された(
図10B及び
図10D)。
図10E及び10Hは、遺伝子
LAG3 及び
CD40 のDNA‐メチル化解析について実施例4で既に示した結果を示す。
【0147】
LAG3 及び
CD40プロモーターにおける DNA‐メチル化が増加している患者(群 II)は、好ましくない経過を辿る(
図10E及び10H)。これらの関係は、遺伝子内領域においては、驚くことに逆転している。
図10Fの群 III は、20.67 %を超えた
LAG3 遺伝子の遺伝子内メチル化を示した腫瘍を有する患者を含む。IV群は、20.67 %未満のメチル化を示した腫瘍を有する患者を含む。
LAG3 遺伝子の遺伝子内メチル化が減少した患者は、好ましくない経過を辿る。患者の経過についてのカプラン‐マイヤー(Kaplan-Meier)生存率分析によると、
LAG3 遺伝子の遺伝子内及びプロモーターのメチル化を組合せると、予後の診断が改善されることが示された(
図10G)。群 V には、群 II 及び群 IV の両方に属する患者が含まれる。群 VII には、群 I 及び群 III の両方に属する患者が含まれる。群 VI には、群 II 及び III 又は I 及び IV の何れかに属する患者が含まれる。
LAG3 遺伝子の遺伝子内メチル化及びプロモーター・メチル化の両方に基づいて、不良の予後を示した患者は、特に不良の経過を辿る群を形成した(
図10G、群 V)。
【0148】
CD40 遺伝子のプロモーター及び遺伝子内のメチル化、並びにこの両方の解析を組合せた解析に応じた、患者の経過についてのカプラン‐マイヤー(Kaplan-Meier)生存率分析は(
図10H、10I、10J)、
LAG3 で得られたものと同様の結果をもたらした。群 I(
図10H)には、17.16 %未満のメチル化を示した腫瘍を有する患者が含まれる。群 II には、17.16 %を超えるメチル化を示した腫瘍を有する患者が含まれる(
図10H)。
CD40 プロモーターのメチル化が増加した患者は、不良である経過を辿った。群 III(
図10I)には、35% を超えるメチル化を示した腫瘍を有する患者が含まれる。群 IV(
図10I)には、35 %未満のメチル化を示した腫瘍を有する患者が含まれる。
CD40 遺伝子の遺伝子内メチル化が減少した患者は、不良である経過を辿った。群 V(
図10J)には、群 II 及び群 IV の両方に属する患者が含まれる。群 VII(
図10J)には、群 I 及び群 III の両方にいる患者が含まれる。群 VI には、群 II 及び III 又は I 及び IV の何れかである患者が含まれる。
CD40 のプロモーターと遺伝子内領域の両方の DNA‐メチル化解析に基づいて、良好な予後に割りつけられた患者は、ここで、特に良好な予後を辿る群を形成することが示された。
CD40 遺伝子のプロモーターと遺伝子内領域を組み合わせた DNA‐メチル化解析によって、単独での解析と比較して、予後の診断は、より洗練されたリスク評価という意味において、改善されたものとなる。
【0149】
実施例10:
CD274、
PDCD1 及び
PDCD1LG2 の DNA‐メチル化解析及び mRNA‐発現解析に基づく急性骨髄性白血病を有する患者の予後の診断
本発明に係る方法はまた、悪性血液疾患を有する患者の予後を診断することも可能にする。182 例の急性骨髄性白血病を有する患者由来の悪性細胞の mRNA‐発現解析及び DNA‐メチル化解析を、実施例1及び6に記載のように実施した。DNA‐メチル化解析の結果に基づいて、遺伝子
CD274、
PDCD1 及び
PDCD1LG2 の相対的なDNA‐メチル化の計算を、実施例3に記載のように行った。
【0150】
図11は、182 例の急性骨髄性白血病を有する患者の全生存率のカプラン‐マイヤー(Kaplan-Meier)生存率分析を示す。驚くべきことに、遺伝子
CD274、
PDCD1 及び
PDCD1LG2 のメチル化が閾値未満(群 I、
図11A、11D、11G)の患者は不良の予後を示し、一方で、先の例では、これらの免疫調節遺伝子でメチル化が増加していた患者が不良の予後を呈した。従って、本発明に係る方法を実施することがまた、悪性血液疾患の患者の予後をも診断することを可能にすることは驚くべき知見である。遺伝子
CD274、
PDCD1 及び
PDCD1LG2 の mRNA‐発現の解析(
図11B、11E、11H)によりまた、患者の予後を診断することが可能となった。mRNA‐発現の解析においてさえも、発現が減少した患者(群 IV)は、先に記載した実施例7及び8の結果とは対照的に、より良好な予後を呈することも驚くべきことである。
図11C、11F及び11Iは、DNA‐メチル化及び mRNA‐発現を組合せた解析が、mRNA‐発現及び DNA‐メチル化の個々の単一解析よりも、それぞれ、より洗練されたリスク評価をもたらすことを示す。
【0151】
実施例11:
TNFRSF9、
TIGIT、
BTLA、
HAVCR2、
CD80、
CTLA4、
ICOS、
C10orf54、
HHLA2、
CD160、
KIR2DL4 及び
KIR3DL1 の DNA‐メチル化解析に基づく急性骨髄性白血病患者の予後の診断
本発明に係る方法はまた、他の免疫調節遺伝子を使用しても、悪性血液疾患を有する患者の予後の診断を可能とする。DNA‐メチル化解析には、実施例10で収集したデータを使用した。
TNFRSF9、
TIGIT、
BTLA 及び
CTLA4 の相対的メチル化の測定を実施例4に記載したようにビーズ対についてのデータに基づいて行った。遺伝子
HAVCR2、
CD80、
ICOS、
C10orf54、
HHLA2、
CD160、
KIR2DL4 及び
KIR3DL1 の相対的メチル化を測定するために、及び実施例1に記載のように相対的メチル化を計算するために、以下に記載するビーズ対を使用した。
HAVCR2 についてはビーズ対 cg09574807(SEQ ID NO:46)を使用し、遺伝子領域 SEQ ID NO:286 のメチル化の測定が可能となる。
CD80 のメチル化の測定は、ビーズ対 cg12978275(SEQ ID NO:126)及び cg13458803(SEQ ID NO:127)に基づいて行い、配列領域 SEQ ID NO:163 のメチル化解析が可能となる。遺伝子
ICOSの DNA‐メチル化解析は、ビーズ対 cg18561976(SEQ ID NO:112)及びcg15344028(SEQ ID NO:113) に基づき、配列領域 SEQ ID NO:92、SEQ ID NO:93 及び SEQ ID:95 のメチル化解析が可能となる。
HHLA2 の DNA‐メチル化解析は、4 つのビーズ対 cg00915092(SEQ ID NO:122)、cg14703454(SEQ ID NO:123)、cg11326415(SEQ ID NO:124)及び cg22926869(SEQ ID NO:125)に基づいて行い、配列領域 SEQ ID NO:36、SEQ ID NO:195 及び SEQ ID NO:196 の解析が可能となる。遺伝子
C10orf54 の配列領域 SEQ ID NO:190 及び SEQ ID NO:191 のDNA‐メチル化解析には、ビーズ対 ch.10.1529706R(SEQ ID NO:35)を使用した。
CD160 遺伝子中の配列領域 SEQ ID NO:361、SEQ ID NO:362 及び SEQ ID NO:366 の DNA‐メチル化解析は、ビーズ対 cg12832565(SEQ ID NO:150)、cg10798745(SEQ ID NO:151)及び cg15892497(SEQ ID NO:152)によって行った。遺伝子
KIR2DL4 の配列領域 SEQ ID NO:217 及び SEQ ID NO:218 のメチル化解析には、ビーズ対 cg08326410(SEQ ID NO:143)を使用した。
KIR3DL1 の DNA‐メチル化解析は、ビーズ対 cg15588997(SEQ ID NO:137)、cg08129658(SEQ ID NO:138)、cg02469067(SEQ ID NO:139)、cg19689800(SEQ ID NO:140)、cg06494497(SEQ ID NO:141)及び cg05720980(SEQ ID NO:142)を用いて行い、配列領域 SEQ ID NO:230、SEQ ID NO:231 及び SEQ ID NO:232 のメチル化解析が可能となる。
【0152】
図12は、182 例の急性骨髄性白血病を有する患者の全生存率のカプラン‐マイヤー(Kaplan-Meier)生存率分析を示す。前記患者を、免疫調節遺伝子
TNFRSF9(
図12A)、
TIGIT(
図12B)、
BTLA(
図12C)、
HAVCR2(
図12D)、
CD80(
図12E)、
CTLA4(
図12F)、
ICOS(
図12G)、
C10orf54(
図12H)、
HHLA2(
図12I)、
CD160(
図12J)、
KIR2DL4(
図12K)及び
KIR3DL1(
図12L)の DNA‐メチル化解析に基づいて層別化した。二分化は、最適化された閾値に基づいて行った。閾値の最適化は、良好及び不良な予後を有する患者を最適に分離すること、即ち、Log‐ランク検定の p 値を可能な限り小さくすること、が可能となるように行った。すべての分析した遺伝子について、閾値未満のメチル化である悪性疾患を有する患者(群I)が閾値を超えたメチル化を有する患者と比較して、不良な経過を呈することを示すことができた。
【0153】
実施例12:
CD274、
PDCD1 及び
PDCD1LG2 の DNA‐メチル化解析及び mRNA‐発現解析に基づく低悪性度の神経膠腫(グリオーマ)を有する患者の予後の診断
本発明に係る方法はまた、神経膠腫(グリオーマ)を有する患者の予後を診断することも可能にする。例えば、免疫調節遺伝子
CD274、
PDCD1 及び
PDCD1LG2 の DNA‐メチル化解析及び mRNA‐発現解析を、510 例の低悪性度の神経膠腫(グリオーマ)を有する患者において実施した。DNA 及び RNA の調製、mRNA‐発現解析及び DNA‐メチル化解析並びにそれらの評価は、実施例1及び実施例6に記載の通りに行った。Illumina HumanMethylation 450 BeadChip によって取得されたデータに基づいて遺伝子
CD274、
PDCD1 及び
PDCD1LG2 の相対的メチル化の計算を、実施例3に記載のように実施した。
【0154】
悪性血液疾患について実施例11で既に示されているように、DNA‐メチル化解析、mRNA‐発現解析及びこれら両方の解析の組み合わせによって、神経膠腫(グリオーマ)を有する患者においても、予後を診断することができる。
図13は、神経膠腫(グリオーマ)細胞における免疫調節遺伝子のメチル化が閾値未満である患者(群 I)は、閾値を超えたメチル化の腫瘍を有する患者(群 II)よりも有意に不良の予後であることを示す。このことは 3 つの遺伝子
CD274(
図13A)
PDCD1(
図13D)及び
PDCD1LG2(
図13G)に関して同じように示された。免疫調節遺伝子の対応する mRNA‐発現の解析においても、遺伝子の発現が増加することに基づいて予後が不良の患者を同定することができる(群 III)。mRNA‐発現解析及び DNA‐メチル化解析から、本発明に係る組合せをすることは、死亡することについて高リスク(群 I+III)、中リスク(群 I+IV/II+III)、低リスク(群 II+IV)の 3 つの予後群を形成することができる点で、特に有利であることが分かった。実施例10及び11において、悪性血液疾患に関して既に示されたように、神経膠腫(グリオーマ)においても、悪性疾患についての以前の解析とは対照的に、ここでは、mRNA‐発現が減少し、DNA‐メチル化が増加することが良好な予後に相関するということは、驚くべき発見である。このことは、様々な悪性疾患を有する患者における予後を診断する上で、本発明が有効であることを強調する。
【0155】
実施例13:
CD80、
CTLA4、
ICOS 及び
CD276 の DNA‐メチル化解析及び mRNA‐発現解析に基づく低悪性度の神経膠腫(グリオーマ)を有する患者の予後の診断
本発明に係る神経膠腫(グリオーマ)を有する患者の予後の診断はまた、免疫調節遺伝子
CD80、
CTLA4、
ICOS 及び
CD276 のDNA‐メチル化及び mRNA‐発現に基づいても可能である。本解析は、実施例12に記載したようにして集めたメチル化データ及び発現データに基づく。遺伝子
CD80、
CTLA4、及び
ICOS の相対的 DNA‐メチル化を測定することは、実施例11及び4で記載したように行われる。
CD276 遺伝子の相対的 DNA‐メチル化を測定するには、実施例1で記載したように、ビーズ対 cg24688248(SEQ ID NO:119)、cg14910296(SEQ ID NO:120)及び cg12524179(SEQ ID NO:121)を使用し、数学的に解析する。これらのビーズ対によって、配列領域 SEQ ID NO:181、SEQ ID NO:182 及び SEQ ID NO:183 ついての DNA‐メチル化を測定することが可能となる。
【0156】
図14は、解析した 510 例の低悪性度の神経膠腫(グリオーマ)を有する患者の全生存率のカプラン‐マイヤー(Kaplan-Meier)生存率分析を示す。患者を、免疫調節遺伝子
CD80(
図14A、B、C)、
CTLA4(
図14D、E、F)、
ICOS(
図14G、14H、14I)、
CD276(14J、14K、14L)の DNA‐メチル化解析(
図14A、14D、14G、14J)、mRNA‐発現解析(
図14B、14E、14H、14K)並びに DNA‐メチル化解析及び mRNA‐発現解析の組合せ(
図14C、14F、14I、14L)に基づいて層別化した。DNA‐メチル化に基づく二分化には、以下の閾値を選択した:90.76 %(
CD80)、86.43 %(
CTLA4)、84.75 %(
ICOS)及び 30.08 %(
CD276)。mRNA‐発現に基づく二分化には、中央値を閾値として使用した。群 I には、閾値未満のメチル化を有する患者を含まれ、群 II は、閾値を超えるメチル化を有する患者によって形成される。群 III には、中央値を超える mRNA‐発現である腫瘍を有する患者が含まれるが、群 IV の患者は、腫瘍において中央値未満の mRNA‐発現を示した。
CD274、
PDCD1 及び
PDCD1LG2 について、実施例12と
図13に既に示されているように、患者の予後をまた、遺伝子
CD80、
CTLA4、
ICOS 及び
CD276 の DNA‐メチル化及び mRNA‐発現並びにこれら両方の解析の組合せに基づいて、診断することができる。この場合においても、本発明の主題である免疫調節遺伝子の高い DNA‐メチル化及び低い mRNA‐発現が疾患のより良好な経過と関連しているということは、驚くべき発見であった。
【0157】
実施例14:
TNFRSF25、
TNFRSF9、
CD40、
TIGIT、
BTLA、
HAVCR2、
C10orf54、
HHLA2、
LAG3、
CD160、
KIR2DL4 及び
KIR3DL1 の DNA‐メチル化解析に基づく低悪性度の神経膠腫(グリオーマ)を有する患者の予後の診断
他の免疫遺伝子の DNA‐メチル化解析に基づいて、低悪性度の神経膠腫(グリオーマ)を有する患者の予後を診断することも可能である。
図15に示した結果は、実施例12に記載されるように取得した DNA‐メチル化データの解析に基づく。遺伝子
TNFRSF9、
CD40、
TIGIT、
BTLA、
HAVCR2、
C10orf54、
HHLA2、
LAG3、
CD160、
KIR2DL4 及び
KIR3DL1 の相対的な DNA‐メチル化の測定を行うために、使用するビーズ対と DNA‐メチル化の計算は実施例1,4及び11に記載されている。遺伝子
TNFRSF25 の DNA‐メチル化を測定するには、例えば、これら実施例で使用したように、ビーズ対 cg27224823(SEQ ID NO:153)、cg13331246(SEQ ID NO:154)、cg23588699(SEQ ID NO:155) 及び cg10982045(SEQ ID NO:156)を使用することが可能であり、これらを使用して、配列領域 SEQ ID NO:317、SEQ ID NO:318 及び SEQ ID NO:319 のDNA‐メチル化解析が可能となる。配列領域 SEQ ID NO:317、SEQ ID NO:320 及び SEQ ID NO:321 の DNA‐メチル化解析には、ビーズ対 cg00087884(SEQ ID NO:157)、cg10059687(SEQ ID NO:158)及び cg11756870(SEQ ID NO:159)もまた使用することができる。
【0158】
図15は、510 例の低悪性度の神経膠腫(グリオーマ)を有する患者の全生存率のカプラン‐マイヤー(Kaplan-Meier)生存率分析を示すが、そこでは、患者を遺伝子
TNFRSF25(A)、
TNFRSF9(B)、
CD40(C)、
TIGIT(D)、
BTLA(E)、
HAVCR2(F)、
C10orf54(G)、
HHLA2(H)、
LAG3(I)、
CD160(J)、
KIR2DL4(K) 及び
KIR3DL1(L)の DNA‐メチル化解析に基づいて、遡及的に層別化している。患者の層別化を、遺伝子の相対的メチル化の二分化に基づいて、行ったが、そこでは、以下の閾値を基礎とした:61,88 %(
TNFRSF25)、79.24 %(
TNFRSF9)、43.24 %(
CD40)、80.66 %(
TIGIT)、84.64 %(
BTLA)、2.495 %(
HAVCR2)、66.52 %(
C10orf54)、77.14 %(
HHLA2)、74.34 %(
LAG3)、92.89 %(
CD160)、90.85 %(
KIR2DL4) 及び 52.28 %(
KIR3DL1)。群 I には、閾値未満の DNA‐メチル化を有する患者が含まれる;群 II には、閾値を超える DNA‐メチル化を示した腫瘍を有する患者が割りつけられる。全ての免疫調節遺伝子について、低い DNA‐メチル化は患者の不良な予後と関連することが示された。
【0159】
実施例15:
CD274、
TNFRSF9、
TIGIT、
CD80、
CTLA4、
CD276 及び
HHLA2 の DNA‐メチル化解析に基づく淡明細胞型腎細胞がんを有する患者の予後の診断
先の実施形態で、本発明による方法によって、種々の悪性疾患、例えば腺がん(アデノカルシノーマ)、扁平上皮細胞がん、黒色腫(メラノーマ)、白血病及び神経膠腫(グリオーマ)を有する患者の予後を診断することが可能になることが既に示されている。本実施例においては、本発明に係る方法を、淡明細胞型腎細胞がんを有する患者に適用した。DNA‐メチル化データを、実施例1に記載したようにして取得した。遺伝子
CD274、
TNFRSF9、
TIGIT、
CD80、
CTLA4、
CD276 及び
HHLA2 のビーズ対からのデータに基づく相対的DNA‐メチル化の計算は、実施例3,4,11 及び 13に記載されているように行った。
【0160】
図16は、318 例の淡明細胞型腎細胞がんを有する患者の全生存率のカプラン‐マイヤー(Kaplan-Meier)生存率分析を示すが、そこでは、免疫調節遺伝子
TIGIT(A)、
TNFRSF9(B)、
CD274(C)、
CD80(D)、
CTLA4(E)、
CD276(F) 及び
HHLA2(G)の DNA‐メチル化に基づいて、患者を遡及的に層別化している。各遺伝子についての相対的 DNA‐メチル化値の二分化は、すべての患者の DNA‐メチル化のそれぞれの中央値に基づいて行った。群 I には、中央値未満の DNA‐メチル化の腫瘍を有する患者が含まれ、一方で、群 II には、中央値を超える DNA‐メチル化の腫瘍を有する患者が属する。
図16は、7 つの解析した遺伝子のうち 6 つまでの遺伝子で DNA‐メチル化が増加している(群 I)ことは、不良な予後と有意に相関することを示す。遺伝子
HHLA2 については、驚くべきことに、免疫調節遺伝子が閾値未満のメチル化を有する場合、淡明細胞型腎細胞がんを有する患者の予後が不良であることが示された(
図16G)。 この結果は、先の実施例に記載された腺がん(アデノカルシノーマ)及び扁平上皮がんに加えて他のがん腫(カルシノーマ)について本発明の主題に係る方法を適用することが可能であることを示す。
【0161】
実施例16:
TNFRSF9、
TIGIT、
CD80、
CTLA4、
CD276 及び
HHLA2 の mRNA‐発現解析と組み合わせた DNA‐メチル化解析に基づく淡明細胞型腎細胞がんを有する患者の予後の診断
多様な悪性疾患において、本発明の方法を普遍的に適用できることは、318 例の淡明細胞型腎細胞がんを有する患者における遺伝子
TNFRSF9、
TIGIT、
CD80、
CTLA4、
CD276 及び
HHLA2 の mRNA‐発現と DNA‐メチル化の組合せた解析においてさらに確認された。DNA‐メチル化解析及び mRNA‐発現解析を、実施例1及び6に記載のように実施し、評価した。使用したビーズ対に基づく遺伝子の相対的メチル化の計算は、実施例4,11及び13に記載されている。
【0162】
図17は、318 例の淡明細胞型腎細胞がんを有する患者の全生存率のカプラン‐マイヤー(Kaplan-Meier)生存率分析を示すが、そこでは、免疫調節遺伝子
TIGIT(A)、
TNFRSF9(B)、
CD274(C)、
CD80(D)、
CTLA4(E)、
CD276(F) 及び
HHLA2(G)の DNA‐メチル化と mRNA‐発現の組合せた解析に基づいて、患者を層別化した。二分化を、全患者のメチル化又は mRNA‐発現の中央値に基づいて行った。群 I:中央値未満のメチル化及び中央値を超える mRNA;群 III:中央値を超えるメチル化及び中央値未満の mRNA ;群 II;中央値を超えるメチル化及び中央値を超える mRNA 又は中央値未満のメチル化及び中央値未満の mRNA。この例で分析された遺伝子のうち 6 つの遺伝子について、患者は、死亡することに対して高、中及び低のリスクを有する 3 つの群に割り付けることができることが示された。遺伝子
TIGIT(A)、
TNFRSF9(B)、
CD80(C)、
CTLA4(D) 及び
CD276(E)においては、高い DNA‐メチル化と低い mRNA‐発現(群 I)が特に不良な予後と関連していた一方、遺伝子
HHLA2(F)は全く反対の関係である。このことによっても又、既にこの遺伝子について DNA‐メチル化解析だけをしたときに、実施例15に記載した驚くべき結果が確認される。
【0163】
例示的な実施例13,12,10,8及び7に既に示されているように、本発明の主題に係る免疫調節遺伝子の DNA‐メチル化及び mRNA‐発現を組合せて解析することは、個々に解析するよりも洗練された予後予測を可能にするという点で、この方法の特に有利な実施形態を表す。
【0164】
実施例17:
PDCD1 及び
CD274 の DNA‐メチル化解析に基づく免疫療法に対する悪性黒色腫(メラノーマ)を有する患者の応答性の診断
免疫療法に対する応答性を予測するために、本発明に係る免疫調節遺伝子の DNA‐メチル化解析を適用することを、23 例の悪性黒色腫(メラノーマ)を有する患者のコホートを使って検討した。患者はペムブロリズマブ(Pembrolizumab)による免疫療法を受けた。この活性薬剤は、免疫調節遺伝子
PDCD1 によってコードされる受容体 PDCD1 に対するモノクローナル抗体である。抗体は、受容体 PDCD1 との相互作用によって、
CD274 及び
PDCD1LG2 によってコードされたリガンドの結合を阻止し、そのようにして、PDCD1 並びに CD274 及び/又は PDCD1LG2 の免疫調節効果を変える。23 例の患者のうち 11 例が病気の進行を示し(患者 13〜患者 23)、11 例の患者(患者 2〜患者 12)では疾患は安定したままであったか、腫瘍の質量が減少していた。1 例の患者(患者 1)においては、腫瘍はもはや検出できなくなるまで退縮した。
【0165】
免疫調節遺伝子
PDCD1 及び
CD274 の DNA‐メチル化解析には、腫瘍患者の皮膚転移、リンパ節転移及び遠隔転移の細胞から DNA を得た。転移細胞は、免疫療法を開始する前に外科的に得た。亜硫酸水素塩で変換した DNA への変換は、実施例2に記載のように行った。免疫調節遺伝子の本発明に係る DNA‐メチル化解析を、
CD274 及び
PDCD1 それぞれについて実施例2及び5に記載されるような定量的リアルタイム‐PCR を用いて行った。
【0166】
図18は、免疫調節遺伝子
PDCD1 によってコードされる受容体 PDCD1 に結合する、リガンド CD274 をコードする免疫調節遺伝子
CD274 の患者毎の DNA‐メチル化を示す。ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)療法に応答しない患者 13〜23 は、腫瘍における平均 DNA‐メチル化が 18.5 %であり、一方で、部分的に又は完全に応答する患者群(患者 1〜12)は、腫瘍において平均わずか 6.2 %の DNA‐メチル化しか示さなかった。
【0167】
前記結果は、本発明に係る方法が、免疫療法に対する応答性の予測を支援できることを、
CD274 遺伝子及び活性薬剤ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)の DNA‐メチル化解析の例を用いて示している。特に、前記結果は、DNA‐メチル化に基づいて患者を選択することが可能であることを示し、例えば、
CD274 遺伝子の DNA‐メチル化が低い、例えば 10 %未満の、患者のみがペムブロリズマブ(Pembrolizumab)療法に反応し、高い DNA‐メチル化を有する患者では、本実施例では治療に対して応答する可能性は低い。部分的に又は完全に応答する患者 1〜患者 12のうち、10 例(83 %)は
CD274 の DNA‐メチル化が 10 %未満であることを示し、従って、この例では治療に対して応答性が期待される患者として適切に同定することができる。全体として、8 例の患者が 10 %を超える
CD274 メチル化を有していた。これらの 8 例の患者のうち 6 例(75 %)については、免疫療法に応答しないと予測することは正しかった。
【0168】
この実施例は、本発明に係る免疫調節遺伝子の DNA‐メチル化の測定が、免疫療法に対する応答性を予測するために基本的に適していることを示す。これによれば、本発明に係る免疫調節遺伝子の DNA‐メチル化の測定を、前記免疫調節遺伝子が免疫チェックポイント・タンパク質としてリガンドをコードし、そのリガンドに対応する受容体を阻害することによって前記リガンドの免疫調節効果を変えることが意図された活性薬剤を使用する場合にも、使用することができる。即ち、本発明に係る免疫調節遺伝子の DNA‐メチル化解析はまた、別の免疫調節遺伝子によってコードされる免疫チェックポイント・タンパク質と拮抗的に相互作用する活性薬剤に対する応答性を予測するのにも、適していることが示される。
【0169】
図19は、CD274 と対応する、本発明に係る免疫調節遺伝子
PDCD1 の DNA‐メチル化の測定を示す。応答を示す患者 1〜12 の群において、腫瘍サンプル中、平均 59 %の
PDCD1 遺伝子のメチル化が見出された。このメチル化は、疾患が進行を示し、平均メチル化が 22 %であった患者の腫瘍のメチル化よりも、t‐検定の p 値が 0.008 と、有意に高かった。
PDCD1 遺伝子の DNA‐メチル化のレベルは、このようにまた、免疫療法に対する応答性と相関し、前記療法を開始する前に、
PDCD1 の DNA‐メチル化に基づいて、前記療法に応答する可能性のある患者を同定することが可能である。例えば、12 例(患者 1〜12)中 9 例(75 %)の応答性があった患者の腫瘍は、25 %を超える
PDCD1 遺伝子の DNA‐メチル化を示し、それ故に、応答性がある患者として正しく同定できた。免疫療法によって腫瘍が完全に減少した患者(患者 1)は、この場合、調べたすべての試料の内でメチル化が最も高い 98 %であり、それ故に、特に確実に同定することができた。これとは対照的に、前記治療に反応しない 11 例の患者(患者 13〜23)中 9 例(82 %)は、
PDCD1 のメチル化が 25 %未満であり、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)を用いる選択した免疫療法に応答しない患者として正しく同定することができた。そのような患者は、本発明に係る方法を使用することで、将来、例えば、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)による免疫療法及びその副作用を避けることができる。同時に、これらの患者に対して効果的である可能性の高い別の療法を早期に適用することによって、貴重な時間を得ることができる。例えば、免疫チェックポイント・タンパク質をコードする免疫調節遺伝子について、更に DNA‐メチル化の測定を行うために本発明の方法を使用し、他の免疫チェックポイント・タンパク質の免疫調節効果を変える活性薬剤を使用した療法への応答性を予測し、代替となる療法を個人に合わせて選択することができる。
【0170】
図19はまた、例示として、免疫調節遺伝子の定量的なメチル化を考慮することによって、治療応答性を予測することが可能となることを示す。これにより、患者にとっては、閾値を使用しなくても、治療に対する応答性を予測することが可能になる。本実施例では、腫瘍が完全に退縮した患者 1 は、治療に部分的にしか応答しなかった患者 2〜12 よりも高い
PDCD1 遺伝子のメチル化を示す。
【0171】
免疫療法に対する応答性を更に正確に予測することができるように、本発明に係る様々な免疫調節遺伝子の DNA‐メチル化解析の適用を組み合わせることも可能である。
図18及び19から、完全な腫瘍退縮を示した患者 1 は、腫瘍において、低い
CD274 DNA‐メチル化(3.6 %)及び
PDCD1 の高いメチル化(98 %)の両方を有していた。
CD274 は、
PDCD1 によってコードされる受容体に結合するリガンドをコードする。ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)は、このリガンド‐受容体結合を妨害又は阻害することにより、これらの遺伝子によってコードされる 2 つの免疫チェックポイント・タンパク質の免疫調節効果を変える、活性薬剤である。この発見は、いくつかの免疫チェックポイント・タンパク質、特に同じリガンド‐受容体結合に関与するもの、について、本発明による解析を行うことによって、免疫療法に対する応答性の予測がさらに改善し得ることを示す。このことはまた、本実施例で、12 例の患者(患者 1〜12)のうち、治療に対して少なくとも部分的な応答性を示す患者を、10 %未満の
CD274 メチル化又は 25 %を超える
PDCD1 メチル化の何れかにより、全て(100 %)同定したことによっても示され得る。従って、免疫療法に対する応答性を、これらの患者に対して正確に予測することができる。11 例の治療応答性が無い患者(患者 13-23)のうち、5 例(45 %)は 10 %を超える
CD274 メチル化及び、25 %未満の
PDCD1 メチル化(患者 14-16、19及び21)であった。これらの患者については、
PDCD1 及び
CD274 の組み合わせた DNA‐メチル化解析に基づいて、治療応答性が無いことは特に信頼性をもって予測することができた。
【0172】
実施例18:様々な免疫調節遺伝子の DNA‐メチル化解析及び mRNA‐発現解析に基づく頭部‐及び頚部領域の扁平上皮がんを有する患者の予後の診断
DNA‐メチル化解析を実施例1に記載したように行った。表1に記載の個々の免疫調節遺伝子の相対的メチル化を計算するためには、Infinium HumanMethylation450 BeadChipのビーズ対(イルミナ社、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国(Illumina, Inc., San Diego, CA, USA))を使用した。ゲノム中におけるこれらのビーズ対の標的配列をまた、表1中の対応する SEQ ID NO によって特定する。ビーズ対について、実施例1に記載されたような非メチル化状態及びメチル化状態に特異的な対のビーズを互いに同様に比較することによって、それぞれの相対的メチル化を各患者について計算した。実施例5のように、528 例の頭部‐及び頸部領域の扁平上皮がんを有する患者の全生存率を調べた。
【0173】
実施例6に記載のようにして mRNA‐発現を測定した。表2に列挙した mRNA を調べた。
【0174】
表1にまとめられた結果は、本発明に係る免疫調節遺伝子の DNA‐メチル化の測定が患者の生存と有意に相関し、それによって患者の予後の診断が可能になることを示す。ハザード比1は、コックス比例ハザード・モデルを用いて決定されたものであり、対応する免疫調節遺伝子の DNA‐メチル化値が増加するのに伴って、患者の死亡リスクがどのように増加するかを表わす。1 より大きいハザード比は、DNA‐メチル化値が高いほど患者の死亡リスクが増加することを意味する。1 未満のハザード比の場合、このリスクが小さくなる。
【0175】
この例は、一方では、本発明に係る表1に列挙された免疫調節遺伝子の DNA‐メチル化解析によって、患者の予後の診断が可能になることを示す。さらに、この例は、メチル化閾値に基づいて、患者を異なる予後を有する群に割り付けることによって予後の診断が可能となるだけでなく、例えばコックス比例ハザードモデルのような統計的モデルに基づいて、それぞれのメチル化値に応じて患者の予後がどの程度変化するかをも診断することができることを示す。
【0176】
遺伝子例
ADORA2A、
BTNL2、
C10orf54、
CD160、
CD276、
CD48、
CD80、
CD86、
PDCD1、
TIGIT 及び
TNFRSF18 に基づいて、遺伝子内の様々な領域が本発明に係る方法を適用するのに適しうるということも、表1に示されている。これらの遺伝子において、様々な領域の DNA‐メチル化解析を種々のビーズ対によって調べ、それぞれによって予後の診断をうまく行うことができる、ということから明らかである。
【0177】
表1のハザード比2は、メチル化値が閾値を超える腫瘍を有する患者の死亡リスクが、閾値未満の値を有する患者と比較して、高いことを説明する。例えば、免疫調節遺伝子
CD274 の場合は、SEQ ID NO:425 及び SEQ ID NO:426 を有する 2 つの領域について、驚くべきことに、1 つはメチル化が高くなることは死亡リスクが低下することを伴うこと、一方で、実施例3で示したが、悪性黒色腫(メラノーマ)での
CD274 遺伝子の別の領域のメチル化が高くなることは生存率が悪いことと相関すること、を示している。
CD276 についても同様の所見が見出された。SEQ ID NO:427、SEQ ID NO:428 及び SEQ ID NO:429 に含まれる
CD276 の領域の DNA‐メチル化解析は生存と逆相関すること、即ち、これらの領域のメチル化が高くなることは死亡リスクの低下を伴う。対照的に、SEQ ID NO:430の領域のメチル化は死亡リスクと正の相関がある。このように、遺伝子中の 1 つ又はいくつかの調べる領域を選択することによって、例えば、mRNA‐発現又はタンパク質発現を単独で考慮するよりも、洗練された予後を行うことができ、これは、本発明に係る DNA‐メチル化解析の特に有利な点を表す。
【0178】
表1:528 例の頭部‐及び頸部領域の扁平上皮がんを有する患者の全生存率解析の結果。
記載した遺伝子の DNA‐メチル化と患者の生存との関係を調べた。表中で繰り返し挙げられている遺伝子では、本発明に係るメチル化の測定を、それぞれの遺伝子の異なる領域を含むそれぞれのビーズ対を用いて行った。これらの領域は、それぞれ SEQ ID NO の配列によって決まる。
ハザード比1は、前もって二分化していないメチル化値を表し、ハザード比2は、閾値を超えるメチル化値を有する患者の死亡するリスクが、前記閾値未満の値を有する患者と比較して、相対的に高いこと、を表わす。P‐値1及び2は、ハザード比1及び2それぞれのものを表わす。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0179】
表2は、記載した免疫調節遺伝子の例を用いて、それら遺伝子の mRNA‐発現の解析によっても、患者の生存を予測することが可能になり、それ故に、本発明に係る DNA‐メチル化解析を補完することができること、を示す。患者を、例示した閾値に基づいて群分けした。この閾値は、RNA-Seq によって解析された全 mRNA 分子に対する免疫チェックポイント・タンパク質の mRNA 分子の値(標準化されたカウント)であって、これに基づいて、患者を良好な予後の群と不良な予後の群とに非常にうまく割り付けることができた。腫瘍において
CD274 又は
CD276 の各閾値を超える mRNA‐発現を示した患者は、これらの遺伝子を閾値未満で発現する腫瘍を有する患者よりも、有意に不良な疾患の経過を辿った。しかし、遺伝子
ADORA2A、
BTNL2、
C10orf54、
CD160、
CD27、
CD48、
PDCD1、
TIGIT、
TNFRSF18、
TNFRSF25 及び
TNFRSF4 については、これらの遺伝子をそれぞれの閾値を超えて発現する腫瘍を有している患者は、良好な予後であった。従って、この実施例によって、本発明による予後の診断のための更なる指標として、mRNA‐発現解析を信頼性をもって加えることができることが示された。
【0180】
表2:528 例の頭部‐及び頸部領域の扁平上皮がんを有する患者の全生存率分析の結果。
前記免疫調節遺伝子の mRNA‐発現と患者の生存との間の関係を調べた。ハザード比を、閾値に基づいて二分化した mRNA‐発現値によって決定した。
【表2】
【0181】
実施例19:免疫調節遺伝子の共メチル化及び共発現に基づく DNA‐メチル化及び mRNA‐発現の測定
実施例8に既に示されているように、免疫調節遺伝子はしばしば共発現する、即ち、悪性疾患の細胞及び/又は T‐リンパ球細胞などの免疫細胞は、単一の免疫調節遺伝子を発現するだけでなく、いくつかの免疫調節遺伝子を同時に発現する。この実験において、様々な免疫調節遺伝子の mRNA‐発現及び DNA‐メチル化を、実施例1及び6に記載のように測定した。520 例の頭部‐及び頸部腫瘍の患者サンプルについて mRNA‐発現データを、及び 528 例の頭部‐及び頸部腫瘍の患者サンプルについて DNA‐メチル化データを取得することができた。
【0182】
表3は、例示記載した免疫調節遺伝子について、腫瘍における様々な免疫調節遺伝子の mRNA‐発現には、統計的に有意かつ正の相関があることを示す。従って、単一又はいくつかの免疫調節遺伝子の mRNA‐発現の測定に基づいて、他の免疫調節遺伝子の mRNA‐発現を推論することが可能である。
【0183】
表3:520 例の頭部‐及び頚部腫瘍を有する患者の腫瘍における様々な免疫調節遺伝子の mRNA‐発現についてのスピアマン順位相関(Spearman's p)。
すべての相関は、ICOSLG 及び CD274(p = 0.008)並びに ICOSLG 及び PDCD1LG2(p = 0.070)の相関を除いて、有意水準 p < 0.001 示した。
【表3】
【0184】
PDCD1LG2 及び
CD274 は、両方とも遺伝子
PDCD1 によってコードされる受容体に結合するリガンドをコードする。これらの遺伝子について、DNA‐メチル化の相関を互いに調べた。
PDCD1LG2 の DNA‐メチル化解析には、ビーズ対 cg07211259(SEQ ID NO:31)を、
CD274 の DNA‐メチル化解析には、ビーズ対 cg15837913(SEQ ID NO:8)、cg13474877(SEQ ID NO:11)及び cg19724470(SEQ ID NO:12)を使用した。相関をスピアマン順位相関によって決定し、相関係数をスピアマンのρとして表した。統計的有意性は p 値として示される。結果は、ビーズ対 cg07211259 はビーズ対 cg15837913 と相関(ρ= 0.33、p < 0.001)、cg07211259 は cg13474877 と相関(ρ= 0.24、p < 0.001)、及び cg07211259 は cg19724470と相関(ρ= 0.42、p <0.001)した。これは、例えば、この確立された相関に基づいて、
PDCD1LG2 の DNA‐メチル化解析によって、
CD274 のメチル化を述べることができることを示す。このようにして、例えば、
PDCD1LG2 の DNA‐メチル化解析に基づいて、
CD274 又は
PDCD1 によってコードされる免疫チェックポイントタンパク質を阻害する活性薬剤を使用した療法への応答性を予測することができる。例えば、
PDCD1LG2 の DNA‐メチル化解析により、示された相関に基づいて
CD274 についての DNA‐メチル化が決まる場合、その関連する活性薬剤を使用する療法に対して応答する可能性がある。