(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
ここで、本発明を実施するため発明者らによって企図される最良の形態を含む本発明の一部の特定の実施例について詳細に参照する。これらの特定の実施形態は、添付図面において例証される。本発明は、これらの特定の実施形態に関連して説明されるが、記載される実施形態に本発明を限定することは意図されていない点は理解されるであろう。むしろ、添付の特許請求の範囲により定められる本発明の技術的思想及び範囲内に含むことができる代替形態、変更形態、及び均等物を包含することが意図される。
【0017】
以下の詳細な説明では、本発明の完全な理解が得られるように、多数の特定の詳細事項が記載されている。本発明の特定の例示的な実施形態は、これらの特定の詳細事項の一部又は全部がなくとも実施することができる。他の事例において、周知のプロセス動作は、本発明を不必要に曖昧にしないように詳細には記載していない。
【0018】
本発明の様々な技術及び機構は、場合によっては明確にするために単数形で記載されている。しかしながら、一部の実施形態は、別途記載のない限り、ある技術の複数の反復又は機構の複数の具体化を含む点に留意されたい。
【0019】
(序論)
グラフェンの超低質量及び高い機械的強度により、グラフェンが音の変換用途で魅力的なものになっている。従来は、人の可聴領域(すなわち、約20Hz〜20kHz)全体にわたって均等化された周波数応答を有する静電駆動のグラフェンダイアフラムラウドスピーカーが実証されている。ラウドスピーカーの最大高周波カットオフは決定されず、測定は、利用可能な検出設備によって20kHzまでに限定されていたが、以下に示すように、グラフェンスピーカーは、少なくとも0.5MHzまで作動する。グラフェンによって、広い周波数範囲にわたってダイアフラム自体の質量及びばね定数よりも空気減衰が優支配的になることができる。原理的には、グラフェンの非常に優れた機械的特性、及び空気及び他の媒質との好ましい結合(カップリング)により、超音波音響無線機の中心的要件である音の生成と受信の両方で広帯域トランスデューサーを利用可能にすることができる。本出願で使用する場合の用語「無線機』は、送信機及び受信機を含むシステムである。
【0020】
従来の音響受信機(すなわち、マイクロフォン)において、音波による空気圧の変動により懸架ダイアフラムの動きが誘起され、次いで、この動きは、ファラデー誘導を介して(磁石及びコイルを使用して)、すなわち容量的に電気信号に変換される。ダイアフラムの面質量密度は、マイクロフォンの周波数応答に関する上限を設定する。人の聴覚系において、ダイアフラム(鼓膜)は、比較的肉厚(およそ100μm)であり、平坦なFRがおよそ2kHzまで、最大検出がおよそ20kHzまでに制限される。コウモリにおいては、鼓膜はより薄肉であり、これによって、コウモリは、最大でおよそ200kHzまでの反射した反響定位の鳴き声を聴くことが可能となる。
【0021】
高性能商用マイクロフォンのダイアフラムは、可聴領域からおよそ140kHzまで平坦な周波数応答を提供するように設計することができる。マイクロフォンにおいて、ダイアフラムの薄肉化及び軽量化によって、高周波での音の振動のより忠実な追従が可能となり、このためには、通常、構造的完全性を得るためにより小さな懸架領域が必要である。ダイアフラムが小さいと、主として(応答振動振幅を低減する)ダイアフラムの有効剛性が高くなることに起因して、更に結合の非効率性に起因して、低周波数応答が必然的に犠牲にされる。ダイアフラムが小さいと、検出(すなわち電子変換)上の問題も増大する。可聴領域及び超音波領域の両方をカバーする均等化された周波数応答を有する広帯域マイクロフォンは、技術的に極めて困難である。
【0022】
超音波音響無線機の成果をあげた設計、構成及び作動について、本明細書で説明する。超音波音響無線機の1つの構成要素は、静電結合機械的振動式グラフェンダイアフラムベースの受信機(すなわち、グラフェンマイクロフォン)であり、これは、グラフェンベースの音響送信機とペアにすることができる。グラフェンマイクロフォンは、少なくとも20Hz〜0.5MHz(特性計測装置によって制限される)をカバーする優れた均等化された周波数応答(完全に平坦な帯域応答の10dB変動内)と、野生で反響定位するコウモリを記録するのに十分な感度とを有する。この効率的なグラフェン超音波送信機/受信機無線システムは、無線信号を成功裏に符号化、伝播、及び復号化する。同じ超音波音響無線機を用いて、超音波と電磁波との間の干渉を使用して距離を正確に測定することができる。
【0023】
(装置、システム、及び方法)
図1Aは、グラフェンマイクロフォン150の概略断面図の実施例を示す。グラフェンマイクロフォン150は、2つの電極160及び165間のほぼ中間付近でフレーム157(上から見下ろし視点の
図1Bを参照)にて懸架されたグラフェン膜155を含む。2つのスペーサー170及び175は、電極160及び165それぞれからグラフェン膜155を離隔する。一部の実施形態において、グラフェン膜155と電極160及び165の各々との間の間隔は、約50ミクロン〜1ミリメートル(mm)、又は約150ミクロンである。
【0024】
一部の実施形態において、グラフェン膜155は、単層グラフェン膜(すなわち、グラフェンの単層)である。一部の実施形態において、グラフェン膜155は、多層グラフェン膜である。例えば、一部の実施形態において、グラフェン膜155は、グラフェンの1又は2以上の層を含む。一部の実施形態において、グラフェン膜155は、約0.34ナノメートル(nm)(すなわち、グラフェンの単層の厚さ)〜1ミクロン厚、又は約20nm厚である。より薄肉のグラフェン膜を有するグラフェンマイクロフォンにより、マイクロフォンは、より高い周波数の音波に応答することができる。
【0025】
フレーム157は、グラフェンマイクロフォン150の製造プロセスの際のグラフェン膜のハンドリングを可能にすることができる。また、フレーム157により、グラフェン膜155の一部を懸架することができ、すなわち、他の材料と接触しないようにすることができる。このようにしてグラフェン膜155をフレーム157に懸架することでグラフェンダイアフラムを形成することができ、ダイアフラムは、その周辺部にて係止された半可撓性材料のシートである。一部の実施形態において、フレーム157は、典型的にはディスク中央部において実質的に円形の開口領域を定める材料のディスクである。すなわち、一部の実施形態において、フレーム157は、金属製座金に類似したものであり、該座金は、貫通孔(典型的には円形で中央に)を有する材料の薄板(典型的にはディスク状)である。一部の実施形態において、フレーム157は、グラフェン膜155の一方の側部に取り付けられる。一部の実施形態において、フレームは、厚みが約20ミクロン〜200ミクロン、又は約50ミクロンである。一部の実施形態において、フレームは、約500ミクロン〜6センチメートル(cm)、又は約10mmの外径を有する。フレームによって定められる開口領域は、約100ミクロン〜5cm、又は約8mmの直径を有することができる。
【0026】
一部の実施形態において、フレームは、他の構成を含む。例えば、フレームは、矩形、正方形、又は楕円形を有する開口領域を定めることができ、フレーム材料は、グラフェン膜をこの開口領域にて懸架するように設計される。
【0027】
一部の実施形態において、フレーム157は非導電性材料である。例えば、一部の実施形態において、フレーム157は、ポリマー又はセラミックを含む。例えば、一部の実施形態において、フレーム157はポリイミドである。材料が、グラフェン膜155を支持し且つグラフェンマイクロフォン150へのフレーム157の組み込みを可能にするのに十分な機械的強度を有している限り、多くの異なる材料をフレームに使用することができる。
【0028】
一部の実施形態において、グラフェン膜155は、端子(図示せず)と電気的に接触している。一部の実施形態において、端子は金属線である。例えば、一部の実施形態において、端子は、厚みが約10ミクロン〜30ミクロン、又は約20ミクロンの金線である。一部の実施形態において、他の材料及び他の寸法の端子が使用される。一部の実施形態において、グラフェン膜155の一部は、スペーサー170及び175間に配置される。一部の実施形態において、端子とグラフェン膜155との間の電気的接触は、グラフェン膜155とスペーサー170又はスペーサー175との間の領域に存在する。一部の実施形態において、端子は、スペーサー170及び175によって定められる開口領域においてグラフェン膜155と接触せず、これによって、グラフェン膜155は、端子が振動と干渉することなく音波に応答して振動することが可能となる。
【0029】
一部の実施形態において、スペーサー170及び175は各々、典型的にはディスクの中央部において実質的に円形の開口領域を定める材料のディスクである。すなわち、一部の実施形態において、スペーサー170及び175は各々、金属製の座金に類似したものである。一部の実施形態において、スペーサー170及び175は、非導電性材料を含む。一部の実施形態において、スペーサー170及び175は、ポリマー又はセラミックを含む。一部の実施形態において、スペーサー170及び175は各々、厚みが約50ミクロン〜1mm、又は約150ミクロンである。スペーサー170及び175がより肉厚になると、グラフェン膜は、電極160及び165からの距離がより離れることになり、マイクロフォンは、音に応答してより弱い信号(例えば、より低い信号対雑音比)を生成することになる。一部の実施形態において、スペーサー170及び175は各々、グラフェン膜が電極160及び165に接触するのを阻止するのに十分に肉厚である。
【0030】
一部の実施形態において、電極160及び165は、音によってグラフェンマイクロフォン150内のグラフェン膜155が振動を引き起こすことができるように、小孔(perforations)又は開口部(openings)167を含む。小孔167は、電極160及び165における貫通孔である。小孔167は、どのような断面を有していてもよい。例えば、一部の実施形態において、小孔167は、正方形の断面を有する。一部の実施形態において、小孔167は、円形の断面を有する。一部の実施形態において、小孔167は、約10ミクロン〜500ミクロン、又は150ミクロンの寸法を有する。例えば、小孔167が正方形の断面を有する場合、小孔の辺は、約10ミクロン〜500ミクロンとすることができ、小孔167が円形の断面を有する場合、小孔の直径は、約10ミクロン〜500ミクロンとすることができる。一部の実施形態において、電極は、厚みが約50ミクロン〜1000ミクロン、又は約300ミクロンである。
【0031】
電極160及び165は、電気を通すことができる材料とすることができる。一部の実施形態において、電極160及び165は、ドープシリコン電極である。一部の実施形態において、酸化物層(oxide layer)180又は他の絶縁層が電極160及び165上に堆積され又は形成されて、グラフェン膜155が電極160及び165に短絡するのを防止する。一部の実施形態において、酸化物層180は、厚みが約400nm〜600nm、又は約500nmである。一部の実施形態において、酸化物層はSiO
2層である。
【0032】
一部の実施形態において、電極160及び165が導電性ではないときには、層180は導電性材料である。例えば、一部の実施形態において、電極160及び165は、導電性材料180の層でコーティングされたポリマー、セラミック、又は半導体を含む。一部の実施形態において、導電性材料180の層は、例えば、銅、アルミニウム、銀、又は金などの金属を含む。例えば、一部の実施形態において、電極160及び165はシリコンを含み、導電性材料180の層は金を含む。一部の実施形態において、導電性材料180の層は、厚みが約10nm〜30nm、又は約20nmである。
【0033】
一部の実施形態において、グラフェンマイクロフォン150は、音響キャビティ(acoustic cavity)185を含む。音響キャビティ185が無ければ、グラフェン膜155の前面及び裏面における音圧力は、低い周波数で相殺される傾向があり、結果としてグラフェンマイクロフォン150の応答が低下する可能性がある。音響キャビティ185により、グラフェンマイクロフォン150が、約200Hzよりも低い周波数を感知できるようにすることができる。一部の実施形態において、音響キャビティ185は、第2の電極165に近接したグラフェン膜155の側部を音波から隔離又は部分的に隔離する役目を果たす。
【0034】
例えば、音響キャビティ185は、約1cm幅(例えば、第2の電極165の側部又は背面と接合するのに十分な幅)で、グラフェン膜155から音響キャビティ185の後壁まで約5cmの距離を定めることができる。音響キャビティ185は、グラフェン膜155と音響キャビティ185との間の空気がグラフェンマイクロフォン150の動作中に過度に圧縮されないように十分に大きくすべきであり、空気が過度に圧縮された場合には、グラフェンマイクロフォン150の性能が低下することになる。
【0035】
一部の実施形態において、グラフェンマイクロフォン150は、電極160及びスペーサー170を含まない場合がある。一部の実施形態において、グラフェンマイクロフォン150は、グラフェンマイクロフォン150が電極160及びスペーサー170を含む場合により良好に機能(例えば、より良好な周波数応答)することができる。例えば、電極160は、グラフェンマイクロフォン150がより低い周波数音に応答するように、グラフェン膜155の張力を低減する役目を果たすことができる。
【0036】
一部の実施形態において、グラフェンマイクロフォンの周波数応答は、超音波周波数範囲内にある。一部の実施形態において、グラフェンマイクロフォンの周波数応答は、可聴周波数範囲(例えば、約20Hz〜20kHz)及び超音波周波数範囲を含む。一部の実施形態において、グラフェンマイクロフォンの周波数応答は、約20kHz〜10GHz、約200kHz〜10GHz、約20kHz〜10MHz、又は約200kHz〜10MHzである。
【0037】
図1Cは、静電駆動グラフェンラウドスピーカー(EDGS)100の概略断面図の実施例である。グラフェンラウドスピーカーの実施形態は、米国特許出願第14/737,903号明細書に記載されている。
【0038】
ラウドスピーカー100は、2つの電極110及び115間のほぼ中間にフレーム107にて懸架されたグラフェン膜105を含む。一部の実施形態において、フレーム107にて懸架されたグラフェン膜105は、
図1Bに示されるフレーム157にて懸架されたグラフェン膜155と類似のものとすることができる。一部の実施形態において、グラフェン膜105と電極110及び115の各々との間隔は、約50ミクロン〜1mm、又は約150ミクロンである。
【0039】
一部の実施形態において、グラフェン膜105は、単層グラフェン膜(すなわち、グラフェンの単層)である。一部の実施形態において、グラフェン膜105は、多層グラフェン膜である。例えば、グラフェン膜105は、約1〜100層のグラフェンを含むことができる。一部の実施形態において、グラフェン膜105は、厚みが約20nm〜40nm、又は約30nmである。
【0040】
フレーム107により、グラフェン膜105の一部を懸架することができ、すなわち、他の材料と接触しないようにすることができる。このようにしてグラフェン膜105をフレーム107に懸架することで、グラフェンダイアフラムを形成することができ、ダイアフラムは、その周辺部にて係止された半可撓性材料のシートである。一部の実施形態において、フレーム107は、典型的にはディスク中央部において実質的に円形の開口領域を定める材料のディスクである。すなわち、一部の実施形態において、フレームは、金属製座金に類似したものであり、該座金は、貫通孔(典型的には円形で中央に)を有する材料の薄板(典型的にはディスク状)である。一部の実施形態において、フレームは、厚みが約120ミクロン〜360ミクロン、又は約240ミクロンである。一部の実施形態において、フレームは、約7mm〜21mm、又は約14mmの外径を有する。フレームによって定められる開口領域は、約3mm〜11mm、又は約7mmの直径を有することができる。
【0041】
一部の実施形態において、フレームは、他の構成を含むことができる。例えば、フレームは、矩形、正方形、又は楕円形を有する開口領域を定めることができ、フレーム材料は、グラフェン膜をこの開口領域にて懸架するように設計される。
【0042】
一部の実施形態において、グラフェン膜105は、フレーム107の厚さに沿ってほぼ中間に取り付けられる。例えば、フレーム107が約240ミクロン厚であるときには、グラフェン膜105は、約120ミクロンのフレームがグラフェン膜の各側部から延びるようにフレーム107に取り付けることができる。一部の実施形態において、グラフェン膜は、フレームの厚さに沿って中間点からオフセットしている。
【0043】
一部の実施形態において、フレーム107は、ポリマー、金属、又は半導体材料である。材料がグラフェン膜105を支持し且つフレーム107をマイクロフォン100に組み込むのを可能にするのに十分な機械的強度を有している限り、多くの異なる材料をフレームに使用することができる。
【0044】
一部の実施形態において、フレーム107は、2つの部分を含み、グラフェン膜105は、フレームの一方の部分に取り付けられ、フレームの他方の部分はグラフェン膜の頂部上に積み重ねられて、構造体の2つの部分間にグラフェン膜が挟持されるようになる。例えば、グラフェン膜は、2つの金属製座金形部品をグラフェン膜の両側部に整合させて取り付けることにより、フレームに懸架することができる。
【0045】
一部の実施形態において、グラフェン膜105は、端子(図示せず)と電気的に接触している。一部の実施形態において、端子は金属線である。例えば、一部の実施形態において、端子は、厚みが約10ミクロン〜30ミクロン、又は約20ミクロンの金線である。一部の実施形態において、他の材料及び他の寸法の端子を使用することができる。
【0046】
電極110及び115は、グラフェン膜105を作動させるよう機能する。一部の実施形態において、電極110及び115は、音をラウドスピーカー100から出すことができるように小孔117を含む。小孔117は、電極110及び115における貫通孔である。小孔117は、どのような断面を有していてもよい。例えば、一部の実施形態において、小孔117は、正方形の断面を有する。一部の実施形態において、小孔117は、約200ミクロン〜300ミクロン、又は250ミクロンの寸法を有する。例えば、小孔117が正方形の断面を有する場合、小孔の辺は、約200ミクロン〜300ミクロンとすることができ、小孔117が円形の断面を有する場合、小孔の直径は、約200ミクロン〜300ミクロンとすることができる。一部の実施形態において、電極は、厚みが約425ミクロン〜625ミクロン厚、又は約525ミクロン厚である。
【0047】
一部の実施形態において、電極110又は115の一方は、音をラウドスピーカー100から出すことができるように小孔を含む。一部の実施形態において、他方の電極は、開口領域を定め、必ずしも小孔を含む訳ではない。開口領域は、グラフェン膜を移動可能にすることができ、すなわち、開口領域により、空気/ガスが電極と膜との間に進入して流出できるようになり、これは、膜の移動を妨げる可能性がある。
【0048】
電極110及び115は、電気を通すことができる材料とすることができる。一部の実施形態において、電極110及び115は、ドープシリコン電極である。一部の実施形態において、酸化物層120又は他の絶縁層が電極110及び115上に堆積又は形成されて、ラウドスピーカーの作動時に大きな駆動振幅でグラフェン膜105が電極110及び115に短絡するのを防止する。一部の実施形態において、酸化物層120は、厚みが約400nm〜600nm、又は約500nmである。一部の実施形態において、酸化物層はSiO
2層である。
【0049】
一部の実施形態において、電極110及び115が導電性ではないときには、層120は導電性材料である。例えば、一部の実施形態において、電極110及び115は、導電性材料120の層でコーティングされたポリマー、セラミック、又は半導体を含む。一部の実施形態において、導電性材料120の層は、例えば、銅、アルミニウム、銀、又は金などの金属を含む。例えば、一部の実施形態において、電極110及び115はシリコンを含み、導電性材料120の層は金を含む。一部の実施形態において、導電性材料120の層は、厚みが約10nm〜30nm、又は約20nmである。
【0050】
一部の実施形態において、グラフェンマイクロフォン100は、音響キャビティ130を含む。音響キャビティ130は、グラフェンラウドスピーカー100の低周波数性能を向上させることができる。一部の実施形態において、グラフェンラウドスピーカー100の音響キャビティ130は、グラフェンマイクロフォン150の音響キャビティ185と類似のものである。
【0051】
一部の実施形態において、グラフェンマイクロフォンは、グラフェンラウドスピーカー100と同様の構成を有する。一部の実施形態において、グラフェンラウドスピーカーは、グラフェンマイクロフォン150と同様の構成を有する。
【0052】
一部の実施形態において、グラフェンマイクロフォン及びグラフェンラウドスピーカーは、グラフェン以外の2次元材料を含むことができる。2次元材料は、分子の原子の単層を含む又は単層から成る材料である。例えば、一部の実施形態において、マイクロフォン及び/又はラウドスピーカーは、2次元材料の単一層(すなわち、単層)又は2次元材料の複数の層(すなわち、複数の単層)を含む。一部の実施形態において、2次元材料は、導電性材料を含む。例えば、一部の実施形態において、マイクロフォン及び/又はラウドスピーカーは、六角晶窒化ホウ素(hBN)又は二硫化モリブデン(MoS
2)の単層又は複数の層を含み、hBN又はMoS
2は、薄肉炭素層又は薄肉金属層がその上に配置され、hBN層又はMoS
2層を導電にする。
【0053】
一部の実施形態において、マイクロフォン及び/又はラウドスピーカーは、異なる2次元材料の積層体又はスタックを含む。例えば、マイクロフォン及び/又はラウドスピーカーは、
図1Dに示すように、グラフェン192の1又は2以上の単層に積層又は配置されたhBN191の1又は2以上の単層を含むことができる。別の実施例として、マイクロフォン及び/又はラウドスピーカーは、グラフェン193の1又は2以上の単層を含むことができ、
図1Eeに示すように、hBN194及び195の1又は2以上の層が、グラフェンの1又は2以上の単層の各側部に積層又は配置される。hBN194及び195の1又は2以上の層がグラフェンの1又は2以上の単層の各側部に積層又は配置されたグラフェン193の1又は2以上の単層を含む構造体は、電極上に配置された絶縁層が無くても、グラフェン193が電極に短絡するのを防止することになる。
【0054】
一部の実施形態において、グラフェンマイクロフォンは、穿孔された2つの電極間の中間に懸架された多層グラフェン膜から製造される。次いで、外部音波が、電極を透過してグラフェン膜を変位させ、これによって、グラフェン膜と電極との間のキャパシタンスを変化させ、電荷再配分及び電流を引き起こすことができる。
【0055】
図2A〜
図2Iは、製造プロセスにおける様々な段階でのグラフェンマイクロフォンの概略図の実施例である。例えば、以下で説明する実験で使用されたグラフェンマイクロフォンは、この方法を使用して製造した。グラフェンマイクロフォンで使用されたグラフェン膜は、厚さ約20nm、直径約7mmの多層グラフェン膜であった。最初に、25μm厚のニッケル箔の1cm
2片を電気化学的に研磨し、DI(脱イオン)水で洗浄して、直径25mmの石英製管状炉(
図2A)に装入した。水素焼鈍の後、50sccmメタン及び50sccm水素の並行流で1050℃の化学蒸着法によって、グラフェン層を成長させた。成長チャンバ圧力は、1Torrで制御した。成長は15分続き、グラフェン粒子間のステッチングを改善するために、最後の2分間でメタン流量を200sccmに増大させた。その後、箔を急冷してグラフェン成長を抑えた(
図2B)。取り出し後、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)の層をニッケル箔上にスピンコートし(
図2C)、酸素プラズマ(100Wで1分)を使用して、箔の反対側のグラフェン膜をエッチング除去した(
図2D)。支持フレームとして機能する粘着カプトンテープ上に直径8mmの円形開口(circular aperture)をディスクカッターで作成した。その後、支持フレームをニッケル箔上のPMMA層に取り付けた(
図2E)。次いで、0.1gmL過酸化ナトリウム溶液中でニッケル箔をエッチング除去した(
図2F)。塩化鉄溶液と比較すると、エッチング速度は遙かに遅く(典型的には25μm厚のニッケルを除去するために一晩中のエッチングが必要であった)、結果として得られたグラフェン膜は、アモルファス炭素がなく清浄であった。その後、PMMA層の(支持フレームによって覆われていない)露出領域をアセトン中で溶解させ、フレームによって支持されたグラフェン膜をイソプロパノールで2回洗浄して、空気中で乾燥させた(
図2G)。支持フレームとグラフェンとの間のPMMAは、緩衝材(buffer material)の役目を果たし、歩留まりをおよそ100%まで向上させる(PMMAのないプロセスは、典型的な歩留まりは〜30%である)。一部の事例において、グラフェン膜を光透過によって測定すると、ほぼ20nm厚又はグラフェンの60の単層であった。電気的接触が得られるように、25μm直径金線をグラフェン膜の縁部に取り付けた(
図2H)。最後に、ほぼ150μm厚のスペーサーをフレームの両側に取り付け、続いて、深掘り反応性エッチング(DRIE)を使用してシリコンウェーハで作製された穿孔電極を得た。また、剛性電極も銀ペーストによって取り付けた金線で配線した(
図2I)。金線と電極との間のオーミック接触を可能するために、グラフェン膜に面する電極の表面を導電金属層(20nmのスパッターリングされた金)でコーティングした。この金コーティングは、グラフェン膜上での電圧変化が極めて小さいので、マイクロフォン作動中に電流の流れを遮断する可能性がある接触障壁を排除するのに使用される。尚、ラウドスピーカー用途では、大きい電圧が印加されるので、この金属コーティングは不要である点に留意されたい。
【0056】
一部の実施形態において、グラフェンマイクロフォンを製造するための上述の方法の工程は、グラフェンラウドスピーカーを製造するのに使用することができる。他の方法を使用して、グラフェンマイクロフォン又はグラフェンラウドスピーカーを製造してもよい。
【0057】
一部の実施形態において、導波管又はヘルムホルツ音響キャビティが、グラフェンマイクロフォンに取り付けられる。導波管又はヘルムホルツ音響キャビティは、減衰の変更又は干渉の生成/排除によって、低周波数領域におけるグラフェンマイクロフォンの周波数応答を修正することができる。
【0058】
図3A及び
図3Bは、信号抽出のためのグラフェンマイクロフォン及び関連する回路についての作動原理の実施例を示す。
図3Aに示す実施形態において、電流を電圧に変換するために大きな抵抗器R(例えば、10メガオーム)が使用されている。大きな抵抗器Rは、電流の流れを制限し、グラフェン膜を一定の電荷モードで動作させ、これによって、膜の変位が電圧信号に変換される。これは、従来のマイクロフォンが動作する方法である。しかしながら、この回路は、伝送線路における寄生容量に起因して、高い周波数において問題となる可能性がある。
【0059】
図3Aにおける同等の回路モデルで分かるように、高周波数では、寄生容量は小さなインピーダンスを示し、R両端での電圧降下を低下させる。例えば、1pFの寄生容量(例えば、RG−58同軸ケーブルのおよそ1cmの長さと同等)でさえ、回路応答が1/2πRC=16kHzに制限される。これは、音響マイクロフォン回路では容認可能とすることができるが、これによって、約20kHzからMHz範囲までの超音波信号を検出することはできない。
【0060】
図3Aの従来の回路の制限を回避するために、一部の実施形態では、高速フォトダイオード信号検出で使用されるものと類似した電流感知回路が使用される。このような回路の実施例が
図3Bに示される。
図3Bに示すように、グラフェンマイクロフォンは、グラフェン膜305と、電極310と、電極315とを含む。一部の実施形態において、グラフェン膜305の応答を音から電気信号に変換する回路は、増幅器325と、抵抗器320とを含む。グラフェン膜は、電圧源(図示せず)に接続(例えば、ワイヤ又は端子を使用して)される。増幅器325の正の入力は接地に接続されている。抵抗器320は、増幅器の負の入力及び増幅器325の出力に接続されている。
【0061】
一部の実施形態において、電極310は、接地に接続されている。
図1Aに関して上述したように、一部の実施形態において、グラフェンマイクロフォンは、電極310を含まない。しかしながら,一部の実施形態において、グラフェンマイクロフォンは、グラフェンマイクロフォンが電極310を含む場合により良好に機能(例えば、より良好な周波数応答)する。
【0062】
一部の実施形態において、増幅器325は、低雑音演算増幅器である。一部の実施形態において、増幅器325は、約3mH〜9MHz、又は約6.5MHzの帯域幅を有する。帯域幅が高い増幅器ほど、より高い周波数の音をグラフェンマイクロフォンが感知することができる。しかしながら、帯域幅が高い増幅器ほど、より低い信号対雑音比を有する可能性がある。一部の実施形態において、増幅器325は、低い入力電流雑音を有する。例えば、高速精密Difet演算増幅器OPA602(テキサス州ダラス所在のテキサスインスツルメンツ社)を増幅器325として使用することができる。
【0063】
一部の実施形態において、抵抗器320は、約1メガオーム〜10000メガオーム、約1メガオーム〜100メガオーム、又は約10メガオームの抵抗(resistance)を有する。より大きな抵抗を有する抵抗器320は、より高い信号対雑音比で増幅器325から信号を生成することになる。しかしながら、より大きな抵抗を有する抵抗器320は、グラフェンマイクロフォンの帯域幅を低下させることになり、グラフェンマイクロフォンの高周波数応答が低下する恐れがある。大きい抵抗を有する抵抗器320は、回路が不安定になる恐れもある。
【0064】
一部の実施形態において、電圧源は、約20V〜1000V、又は約30V〜100Vの正又は負のバイアス電圧をグラフェン膜305に印加するように作動する。グラフェン膜305に印加される電圧がより高いほど、より高い信号対雑音比が増幅器325から生成される。
【0065】
図3Bに示す電流感知回路は、0〜およそ0.5MHzの平坦な帯域回路応答を可能にすることができる。電流感知回路は、振動している膜(すなわち、音波によって誘起されている膜の振動)の速度を測定し、より広い周波数応答を得るためにグラフェン膜張力の低減及び過減衰領域でのグラフェンマイクロフォンの作動を可能にする。演算増幅器は、マイクロフォン電極が直接仮想接地に接続されるように構成される。その結果として、等価回路における寄生容量が効果的に短絡され、i
out=i
mic及びv
out=R・i
out=R・i
micが得られる。出力電圧は、マイクロフォン振動に正比例し、寄生容量の影響を受けない。
図3Bに示される電流感知回路はまた、高周波で一貫した利得を維持する。
図3Bに示す回路は、以下で説明するグラフェンマイクロフォンの実験において使用された。
【0066】
グラフェンマイクロフォンの周波数応答を決定するために、フリーフィールド法を使用してマイクロフォンを測定した。簡潔にいうと、周波数を商用ラウドスピーカー上で掃引させ、商用マイクロフォンの応答を測定して周波数応答FR
1(f)を得た。次いで、商用マイクロフォンをグラフェンマイクロフォンと置き換えて測定を繰り返し、FR
2(f)を得た。2つの測定間の差を取ることによって、グラフェンマイクロフォンの周波数応答を得た。この差分測定法では、ラウドスピーカー、結合、及び駆動/増幅回路の応答が排除される。商用マイクロフォンは典型的には、作動範囲内で比較的平坦な周波数応答を有し、従って、この測定は、グラフェンマイクロフォン性能を適正に表すことができる。
【0067】
図4A〜
図4Cは、異なる構成におけるグラフェンマイクロフォンの周波数応答を示している。
図4Aは、商用コンデンサーマイクロフォンを基準にした、可聴領域(20Hz〜20kHz)におけるグラフェンマイクロフォンの周波数応答を示す。ここでは、0dBは、グラフェン膜から生成された3.3nA/Paの応答に相当する。データを収集する際に、ソフトウェアを有するコンピューターサウンドカードベースのシステムを採用した。グラフェンマイクロフォンは、銅製メッシュで作製されたファラデーケージ内に収容した。
図4Aではデータは、500Hzを超えると比較的平坦であるが、低周波数では大幅な応答の低下がある(およそ60dB/decadeまで接近する)。この低下は、上述のグラフェン膜の前後での相殺によって生じ、波長の増大によりマイクロフォンの周りで音が回折できるようになると顕著になる。重要なことに、この低下は、グラフェン膜自体に本来備わっているものではなく、音響設計を適正に行うことで応答を改善させることができる。
【0068】
低周波応答の改善は、音響キャビティをグラフェンマイクロフォン電極の片側に取り付けることによって容易に達成することができる。
図4Bに示すように、音響キャビティをマイクロフォン電極の片側に取り付けることにより、低周波干渉が排除され、グラフェンマイクロフォンは、可聴領域全体にわたって本来備わっている平坦な(<10dBの変動)周波数応答を示した。
【0069】
グラフェン膜の面質量密度が小さいことに起因して、グラフェンマイクロフォンは、人の聴力限界を遙かに超えて周波数に応答することが予想される。しかしながら、超音波領域において広帯域参照マイクロフォン又はラウドスピーカーが無いことに主に起因して、この超音波領域において周波数応答を測定すると、幾つかの問題が出てくる。上述のように、圧電超音波トランスデューサーは、メガヘルツ領域において容易に作動するが、共振周波数においてのみである。広帯域静電グラフェンラウドスピーカーを音波送信機として利用し、静電グラフェンマイクロフォンを受信機として利用した。これらの間の結合の変化に伴う全体的な応答を測定することにより、単一の送信機/受信機の応答を分離することができる。
【0070】
図4Cは、グラフェンマイクロフォンの測定された周波数応答を示す。周波数が、従来のコンピューターサウンドカードの限界を超えるため、ネットワークアナライザーを使用した。応答は、およそ0.5MHzまで比較的に平坦(10dB以内)であるように見える。尚、平坦な周波数応答の測定された最大周波数は、電子増幅回路によって制限されているにすぎず、より高い帯域幅演算増幅器を用いて、又は光検出などの異なる検出方法で拡張することができる点に留意されたい。この結果を低周波数測定(
図4Bに図示)と組み合わせると、グラフェン送信機/受信機のペアは、超音波音響無線機動作にとって理想的な、20Hz〜少なくとも0.5MHzの固有均等化周波数応答(10dB未満の変動あり)を有する。
【0071】
グラフェンマイクロフォンの初期超音波音場試験として、超音波のコウモリの泣き声を記録した。コウモリは、多くの場合、反響定位を使用して完全な暗闇中を進み、餌を求めて動き廻る。コウモリの鳴き声の周波数は、種に応じて、低くは11kHzから、高くは212kHzの範囲である。コウモリ種ウェスタンアブラコウモリ(parastrellus hesperus)がよく見られるカリフォルニア州LivermoreのDel Valle Regional Parkにおいて、グラフェンマイクロフォンを使用してコウモリの音響信号(コウモリの鳴き声)を現地で収集した。スペクトグラムにより、コウモリの鳴き声は周期的なチャープから成り、この間、放出された周波数は、およそ100kHz〜およそ50kHzの周波数において一貫して減少している。各チャープの持続時間は約4msであり、繰り返し周期は約50msであった。コウモリは、周波数掃引技術を利用して、複数の目標を識別し、測定精度を向上させ、互いからの干渉を回避していると考えられる。コウモリの周波数掃引又はチャーピングは、超音波FM無線伝送の一形態を表し、この記録の成功は、超音波音響無線機受信機としてのグラフェンマイクロフォンが有効であることを実証している。
【0072】
図5Aは、超音波送受信装置(すなわち、超音波音響無線機)の概略図を示す。
図5に示すように、超音波装置500は、送信機505と受信機510とを含む。送信機505は、本明細書で記載するラウドスピーカーの何れかとすることができる。例えば、送信機505は、
図1Cに示すグラフェンラウドスピーカー100とすることができる。受信機510は、本明細書で記載するマイクロフォンの何れかとすることができる。例えば、受信機510は、
図1A及び1Bに示すグラフェンマイクロフォン150とすることができる。
【0073】
図5Bは、超音波送受信装置の使用方法を例示する流れ図の実施例を示す。方法550のブロック555において、送信機を用いて音波を生成する。一部の実施形態において、送信機はグラフェン膜を備える。一部の実施形態において、音波は、約20kHz〜10GHz、約200kHz〜10GHz、約20kHz〜10MHz、又は約200kHz〜10MHzの周波数を有する。例えば、音波は、
図5Aに示す送信機505を用いて生成することができる。
【0074】
ブロック560において、受信機を用いて音波を受信する。一部の実施形態において、受信機はグラフェン膜を備える。例えば、音波は、
図5Aに示す受信機510を用いて受信することができる。受信機で受信した音波は、低電力を有することができる。例えば、受信機によって受信された音波の電力は、約1femtowatt(すなわち、1×10
15ワット)又はそれよりも大きいとすることができる。
【0075】
図5Bに示す方法550を用いると、異なる周波数を送受信することができる。例えば、方法550を実行して第1の周波数音波を送受信することができ、その後、方法550を繰り返して、第2の周波数音波を送受信することができる。一部の実施形態において、第1及び第2の周波数は両方とも超音波周波数範囲にある。一部の実施形態において、第1及び第2の周波数は、少なくとも約50Hz、少なくとも約100Hz、少なくとも約1kHz、又は少なくとも約10kHzだけ互いから周波数が離隔される。例えば、第1の周波数は、約20kHz〜200kHzとすることができ、第2の周波数は、約500MHz〜1.5GHzとすることができる。
【0076】
一部の実施形態において、音波は、情報を送信するのに使用される。例えば、一部の実施形態において、音波は振幅変調を含む。音波の振幅は、振幅変調で送信されている波形に比例して変化する。一部の実施形態において、音波は周波数変調を含む。音波の周波数は、周波数変調で送信されている波形に比例して変化する。音波の振幅変調又は周波数変調により、音波が情報を含むこと又は伝えることが可能になる。例えば、送信機505に関連する電子回路は、音波の振幅又は周波数を変化させて、音波において情報を符号化することができる。受信機510に関連する電子回路は、受信した音波を復調して、情報を抽出することができる。
【0077】
一部の実施形態において、音波は、電力を送信機から受信機に伝送するのに使用される。例えば、音波を用いて電力を伝送し、装置に給電するか、又は装置のバッテリーを充電することができる。一部の実施形態において、音波は、約500ミリワット〜5ワット又は約1ワットの電力(power)を有する。音波は、受信機にて受信された後、DC電力に変換することができる。超音波波を用いて装置のバッテリーを充電することは、電磁誘導を用いて装置のバッテリーを充電することに比べて有利とすることができ、超音波を用いると、電磁誘導と比べて送信機及び受信機を互いからより離すことができる。
【0078】
図6A〜
図6Cは、超音波送受信装置の性能の実施例を示す。
図6Aは、送信機605と受信機610とを含む超音波送受信装置600の実施例を示す。送信機605は、例えば、本明細書で記載するグラフェンラウドスピーカーの何れかとすることができる。受信機は、例えば、本明細書で記載するグラフェンマイクロフォンの何れかとすることができる。
【0079】
EM放射線の影響の可能性を排除するために、送信機及び受信機の両方をEM通信が可能ではないファラデーケージ内に設置した。5kHzの鋸波(90%振幅変調(AM))を有する0.3MHzの電子キャリア正弦波を変調させた。オシロスコープによって、ミキシングされた信号をモニターした(
図6B)。電気信号は、超音波信号を空中に送信するグラフェン送信機に送られた。ミキシング後の周波数は、人の聴力限界を十分に上回っているので聞き取れない。
図6Cは、グラフェン受信機によって検出されて電気信号に再変換された超音波信号を示す。受信信号は、送信信号を正確に複製し、情報は高忠実度で送信される。尚、鋭い鋸歯変調によって、周波数領域内の正弦波の単一デルタ関数のようなピークが遙かに広いピークに拡張され、グラフェン超音波音響無線機の広帯域特性は、鋸歯の形状(すなわち符号化情報)を保持するのに不可欠である点に留意されたい。狭帯域圧電超音波トランスデューサーには、この特性が無い。
【0080】
超音波送受信装置の別の用途は、位置検出、すなわち距離測定である。超音波を位置検出に使用することは、十分に確立されており、高指向性ソナー様の反射構成でグラフェン送信機及び受信機を使用することが確実に可能である。ここでは、異なる実施形態の電気音響干渉を検討する。
【0081】
図7A及び
図7Bは、音響信号及び電磁(EM)信号とこのような装置から取得された信号との間の干渉を利用することができる距離測定装置700の概略図の実施例を示す。グラフェン送信機705は、同じ周波数の音響波並びにEM波を送信するように作動する(EMアンテナ710が、グラフェン送信機705駆動装置電子回路に追加されている)。距離Lだけ離れたグラフェン受信機725が、EM信号と共に音響信号を受信する(EM受信アンテナ730が、グラフェン受信機725上のトランスデューサー電子回路に追加されている)。
【0082】
音は、EMよりも遙かに緩慢に伝播するので、受信機725のグラフェン膜によって受信された音響信号は、電子受信アンテナ730のEM信号に対して位相差を生じることになる。
【0083】
図7Bで分かるように、周波数掃引が実施されると、干渉は、波長λの変化に起因して強め合う干渉と弱め合う干渉との間で交番する。強め合う干渉の条件は次式である。
【数1】
式中、Lは、受信機と送信機との間の距離、λは音波の波長、nは整数である。最も近い2つの強め合うピークは、次式に従う必要がある。
【数2】
λ=v/fを使用すると(ここで、vは音速、fは周波数である)、次式を得る。
【数3】
【0084】
距離Lは、音速を2つの最も近い強め合う干渉ピークの周波数差Δfで除算したものに等しい。3つの異なる距離30mm、45mm、及び85mmだけ離して、グラフェン送信機/受信機ペアを設置した。測定した周波数掃引が、
図7Bにおいて3つのグループで上から下に示される。ペアがより遠くに離れるほど、信号はより弱くなり、2つの強め合うピーク間の周波数差もより小さくなる。ピークをフィッティングすることによって、11.28±0.08kHz、7.657±0.003kHz、及び4.05±0.07kHzの周波数差Δfがそれぞれ見つかった。音速344m/sを使用すると、これは、30.49±0.22mm、44.92±0.02mm、及び84.94±0.84mmの測定距離に対応する。このようにして、この単純な電気音響周波数掃引構成を用いることで、mm未満精度が容易に達成される。
【0085】
(グラフェンマイクロフォンの電気的モデル化)
導電性の振動グラフェンダイアフラムは、固定電極を有する可変コンデンサーを形成する。キャパシタンスは次式となる。
【数4】
式中、εは真空誘電率、Aはグラフェン膜の面積、及びxは電極の1つからグラフェン膜までの距離である。ダイアフラムが、およそ50VでDCバイアスされると、電荷が電極上に誘起され、これは、Q=CVで記述される。ダイアフラムの振動は、システムキャパシタンスを変化させ、電極上の電荷変動を誘起し、次式のような電流を生成する。
【数5】
式中、uは、電極に対する膜の速度である。従って、グラフェンマイクロフォンは、電流が音波を符号化する場合、無限大の内部抵抗を有する電流源としてモデル化することができる。グラフェンダイアフラムが空気と共に振動する薄膜限界において、uは、空気の局所速度場に等しく、振幅Uは次式となる。
【数6】
式中、pは音圧レベル(SPL)、Z=400N・s・m
-3は空気の音響インピーダンスである。従って、マイクロフォン電流源の振幅は、音のラウドネスに正比例し、可聴周波数と無関係である。第2及び第3の式を使用すると、V=50V、A=25mm
2、x=150μmで、40dB SPL(1mでほぼ穏やかな会話)での電流振幅は2pAであることが分かっている。このレベルの電流は、慎重な信号調整回路設計で確実に測定することができる。
【0086】
(グラフェンマイクロフォン動作と比較した従来のマイクロフォン動作)
従来のマイクロフォンは、振動する膜の電圧変化を測定する。動作を
図8に示す。
図8に示すマイクロフォンの動作は、
図3Aに示す回路を用いて実施することができる。従来のマイクロフォンにおいて、膜は、極めて大きな抵抗器に接続され、電荷Qは、動作中ほとんど一定である。ガウスの法則により、電荷Qで2つのプレート間の電圧降下が得られる。
【数7】
式中、Qは膜上の電荷、d
0は平衡位置での膜と電極との間の距離、Sは膜の面積、Asin(ωt)は、振幅Aでの膜振動変位、εは真空誘電率である。電圧応答を測定する場合、AC部分は、振動変位の振幅Aに比例することが分かっている。
【0087】
この場合、過減衰システムは、平坦な帯域応答を生成しない。システムを高調波振動子としてモデル化した場合、次式となる。
【数8】
式中、mは膜質量、ζは減衰係数、kはばね定数、Fは音圧SPsin(ωt)に等しい膜に印加された駆動力である。振動振幅の解は、以下となる。
【数9】
【0088】
システムが過減衰となった場合、減衰項ζωが他の項よりも支配的となり、従って、A〜ω
-1となる。これは、測定された電圧信号もまた、周波数が増加するにつれて減少することを意味する。これは、張力が相対的に高い膜が望ましい従来のマイクロフォンの場合であり、ばね定数項kが支配的であり、平坦な帯域応答を有することができる。
【0089】
上述のように、グラフェンマイクロフォンは、電流検知機構を使用して高周波領域における機能をサポートする。
図9は、グラフェンマイクロフォンの動作の実施例を示す。
図9に示すように、回路は、変位の代わりに、実際には振動速度を測定している。
図9に示すマイクロフォンの動作は、
図3Bに示す回路で実施することができる。
【0090】
グラフェン膜は、電圧Vで保持される。グラフェン膜上の電荷量は、実際には変化しており、振動情報を抽出する電流が生成される。グラフェン膜又は固定電極上の電荷は、平行板コンデンサーを使用して、次式で計算することができる。
【数10】
振動振幅は、通常グラフェン膜と電極との間の距離よりも遙かに小さく、A<<d
0にて式を1次式にテイラー展開することができる。
【数11】
電荷の時間変動は、次式の測定電流である。
【数12】
測定電流の振幅がAωに比例することが分かっている。
【0091】
ここで、運動方程式に戻って、以下を求める。
【数13】
従って、減衰項ζが他の項よりも支配的となる過減衰システムによって、一定の流振幅、すなわち平坦な帯域周波数応答が得られる。
【0092】
(結論)
約20Hz〜0.5MHzの理想的な均等化された周波数応答を有する静電グラフェン超音波音響無線機が立証された。受信機構成要素は、野生のコウモリの鳴き声を記録する際に独立して音場試験を行っている。振幅変調及び周波数変調通信が立証され、新規の電気音響距離測定方法が、mm未満の精度を有する超音波無線受信機で確立された。
【0093】
上術の本明細書では、本発明を特定の実施形態を参照しながら説明してきた。しかしながら、当業者であれば、特許請求の範囲で記載される本発明の範囲から逸脱することなく様々な修正及び変更を行うことができることを理解している。従って、本明細書及び各図は、限定ではなく例示的意味とみなされるべきであり、全てのこのような修正形態は、本発明の範囲内に含まれるものとする。