特許第6862617号(P6862617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6862617嫌気性アンモニア酸化反応(Anammox反応)と水素酸化脱窒反応による複合脱窒反応を長期維持するための方法とそのための装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862617
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】嫌気性アンモニア酸化反応(Anammox反応)と水素酸化脱窒反応による複合脱窒反応を長期維持するための方法とそのための装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/34 20060101AFI20210412BHJP
   C02F 3/10 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   C02F3/34 101A
   C02F3/34 101B
   C02F3/34 101C
   C02F3/34 101D
   C02F3/34 Z
   C02F3/10 Z
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-34499(P2017-34499)
(22)【出願日】2017年2月27日
(65)【公開番号】特開2018-140325(P2018-140325A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2020年1月24日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.集会名:「第19回 日本水環境学会シンポジウム」 開催年月日:平成28年9月13日 開催場所:秋田県立大学 秋田キャンパス 主催者:公益社団法人 日本水環境学会 2.刊行物名:「第19回 日本水環境学会シンポジウム講演集(平成28年)」 公開年月日:平成28年9月13日 発行所:公益社団法人 日本水環境学会
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、国際科学技術共同研究推進事業 地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム「微生物学と水文水質学を融合させたネパールカトマンズの水安全性を確保する技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】風間 ふたば
(72)【発明者】
【氏名】亀井 樹
【審査官】 松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−099730(JP,A)
【文献】 特開2007−190491(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/035885(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/28− 3/34
C02F 3/02− 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) アンモニア態窒素含有水中の硝酸態窒素濃度が低下するように、前記アンモニア態窒素含有水中への水素の供給を維持する工程と、
(b) 前記アンモニア態窒素含有水中の前記硝酸態窒素濃度が低下しないように、前記アンモニア態窒素含有水中への水素の供給を制限し続ける工程と、を含み、
前記工程(a)と(b)において、前記アンモニア態窒素含有水のpHは、6.5-8.7に維持され、前記アンモニア態窒素含有水の温度は、25-42℃に維持される、
Anammox菌と水素酸化脱窒菌を固定した微生物担体を用いた前記アンモニア態窒素含有水の処理方法。
【請求項2】
前記工程(a)と(b)において、前記アンモニア態窒素含有水のpHは、7.0-8.5に維持され、前記アンモニア態窒素含有水の温度は、32-37℃に維持される、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記工程(b)は、水素ガスの供給停止によって成し遂げられる、請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記工程(a)と(b)は、交互に実施される、請求項1乃至3の1つに記載の処理方法。
【請求項5】
前記アンモニア態窒素含有水において、
単位時間あたりの硝酸態窒素濃度の低下率が所定の値以下となった場合、あるいは単位時間あたりの亜硝酸態窒素濃度の上昇率が所定の値以下となった場合に前記工程(a)から前記工程(b)に遷移し、
単位時間あたりのアンモニア態窒素濃度の低下率が所定の値以下となった場合に前記工程(b)から前記工程(a)に遷移する
請求項1乃至4の1つに記載の処理方法。
【請求項6】
前記工程(a)から前記工程(b)への遷移は、単位時間あたりの硝酸態窒素濃度の低下率が所定の値以下となるために必要な工程(a)の状態の継続時間の経過後、あるいは単位時間あたりの亜硝酸態窒素濃度の上昇率が所定の値以下となるために必要な工程(a)の状態の継続時間の経過後に、
前記工程(b)から前記工程(a)への遷移は、単位時間あたりのアンモニア態窒素濃度の低下率が所定の値以下となるために必要な工程(b)の状態の継続時間の経過後に
それぞれなされることを特徴とする請求項1乃至5の1つに記載の処理方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のアンモニア態窒素含有水の処理方法を実施するための処理装置であって、
反応槽と、
Anammox菌と水素酸化脱窒菌を固定した微生物担体と、
水素供給源と、
水素供給量制御手段と、
pHメーターと、
温度制御手段を備え、
前記水素供給量制御手段は、アンモニア態窒素含有水中の硝酸態窒素濃度が低下するように又は低下しないように、前記アンモニア態窒素含有水中への水素の供給を調節可能に構成されている、
処理装置。
【請求項8】
前記水素供給量制御手段は、前記アンモニア態窒素含有水中の硝酸態窒素濃度が低下しないように、前記アンモニア態窒素含有水中への水素の供給を停止可能に構成されている、請求項7に記載の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素含有排水の処理方法、特に、嫌気性アンモニア酸化反応(Anammox反応)と水素酸化脱窒反応(HD反応)による複合脱窒反応に基づくアンモニア態窒素含有水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
河川や海洋等の水系における富栄養化の原因物質の1つに、アンモニア態窒素がある。アンモニア態窒素は、工業排水や生活排水中に存在するため、これらの排水は、適切に処理をした後に水系に放出する必要がある。アンモニア態窒素は、硝化反応-脱窒反応に基づく排水処理法により窒素ガスにまで分解することによって適切に処理されている。
【0003】
近年、Anammox反応に基づいて、アンモニア態窒素と亜硝酸態窒素を窒素ガスに還元する独立栄養微生物反応の研究が進められている。Anammox反応は、窒素除去効率が高く、さらに余剰汚泥の生成も少ないことから、硝化反応-脱窒反応に基づく排水処理法と比べて60%程度ものコスト削減が可能になり、ゴミ浸出水や嫌気消化脱離液など高濃度のアンモニア態窒素含有水の処理に適用されている。
【0004】
しかしながら、Anammox反応は、化学式1の通り、硝酸態窒素が発生し、除去するアンモニア態窒素のうち約23%程度が硝酸態窒素として残留する(非特許文献1)。
[化学式1]
【数1】
【0005】
従って、高濃度のアンモニア態窒素を含有する排水をAnammox反応に基づいて処理する場合、硝酸態窒素処理手段(例えば、有機物を添加し従属栄養微生物による脱窒反応に基づく硝酸態窒素還元処理手段、併設する下水処理場での処理手段をAnammox処理槽の後段に設置する必要があり、その結果、処理コストが増加してしまう問題があった。
【0006】
Anammox反応により硝酸態窒素を除去するため、および硝酸態窒素の生成を防ぐため、化学式2-3の水素酸化脱窒反応に基づく技術が開発されている(特許文献1、特許文献2)。
[化学式2]
【数2】
[化学式3]
【数3】
【0007】
非特許文献2では、化学式4に示す複合脱窒反応による窒素除去の可能性が検討されている。
[化学式4]
【数4】
上記複合脱窒反応(化学式4)では、硝酸態窒素が化学式3により亜硝酸態窒素まで部分的に還元され、次に、アンモニア態窒素と蓄積した亜硝酸態窒素がAnammox反応により除去される。また、非特許文献2には、HD反応を担う微生物群の成長速度がAnammox反応を担う菌に比べ約100倍速く長期間運転すると亜硝酸態窒素は蓄積せずに窒素ガスまで脱窒が進行し、結果として複合脱窒反応が崩壊してしまうことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-190491
【特許文献2】特開2007-190492
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Strous M., Heijnen J.J., Kuenen J.G., Jetten M. S. M., 1998, Appl. Microbiol. Biotechnol. 50, 589-596
【非特許文献2】Kamei, T., Naitoh, D., Khanitchaidecha, W., Kazama, F., J. Water Environ. Technol. vol.13, p167-178, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献2は、この複合脱窒反応を用いた処理装置の報告や、この反応を長期維持した実証実験やそのための条件については報告していない。本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、HD反応とAnammox反応による複合脱窒反応を長期維持するための方法及びそのための装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、複合脱窒反応用の処理装置において水素ガスの供給量を減少させて実験を行った。しかしながら、亜硝酸態窒素の蓄積量が減少するだけでなく硝酸態窒素の還元量も減少し、その結果、非特許文献2の結果と同様に、複合脱窒反応が崩壊してしまった。また、これらの減少は、装置内部に溶存する水素濃度とは明瞭な相関性を見出せなかった。
【0012】
更に、本発明者らは、水素ガスの供給期間と非供給期間を設けて実験したところ、驚くべき事に、複合脱窒反応を容易に制御するでき、且つ、長時間の運転であっても複合脱窒反応を維持できることを明らかにした。これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明によれば、
(a) アンモニア態窒素含有水中の硝酸態窒素濃度が低下するように、アンモニア態窒素含有水中への水素の供給を維持する工程と、
(b) アンモニア態窒素含有水中の硝酸態窒素濃度が低下しないように、アンモニア態窒素含有水中への水素の供給を制限し続ける工程と、を含み、
工程(a)と(b)において、アンモニア態窒素含有水のpHは、6.5-8.7に維持され、アンモニア態窒素含有水の温度は、25-42℃に維持される、
Anammox菌と水素酸化脱窒菌を固定した微生物担体を用いたアンモニア態窒素含有水の処理方法
が提供される。この処理方法によって、上記複合脱窒反応が崩壊せず、かかる反応を長期間維持することができる。
【0014】
また、本発明によれば、
アンモニア態窒素含有水の処理方法を実施するための処理装置であって、
反応槽と、
Anammox菌と水素酸化脱窒菌を固定した微生物担体と、
水素供給源と、
水素供給量制御手段と、
pHメーターと、
温度制御手段を備え、
上記水素供給量制御手段は、アンモニア態窒素含有水中の硝酸態窒素濃度が低下するように又は低下しないように、上記アンモニア態窒素含有水中への水素の供給を調節可能に構成されている、
処理装置
が提供される。この処理装置によって、上記複合脱窒反応が崩壊せず、長期間維持することができ、更に、Anammox反応とHD反応とで反応槽を分ける必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、Anammox反応とHD反応とを組み合わせた複合脱窒反応の模式図を示している。
図2図2は、本発明による処理装置の模式図を示している。
図3図3は、本発明による処理方法(水理学的停留時間:7時間)の結果を示している。
図4図4は、本発明による処理方法を長期間実施した結果を示している。
図5図5は、本発明による処理方法を長期間実施した際に回収した遊離汚泥を用いたアンプリコン解析の結果を示している。
図6図6は、Dok 59 spの系統解析結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、例示であって、本発明の範囲は、以下の実施形態で示すものに限定されない。また、本願明細書中において本発明に関する理論又は原理を例示的に示しているが、本願発明の説明を容易にするために例示しているものであり、特定の理論又は原理によって本願発明の範囲は制限されない。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑をさけるために、適宜説明を省略する。
【0017】
<複合脱窒反応>
本発明は、図1に示すAnammox反応とHD反応とを組み合わせた複合脱窒反応に基づくものである。水素は、水素供給源(水素ガスボンベ、水素生産菌、水の電気分解による供給など)によって供給される。Anammox反応において、アンモニア態窒素及び亜硝酸態窒素が、嫌気性アンモニア酸化菌(Anammox菌)によって窒素(ガス)、硝酸態窒素及び水に変換される(以下の化学式1を参照)。
[化学式1]
【数5】
一方、HD反応においては、硝酸態窒素及び水素が、水素酸化脱窒菌(HD菌)によって亜硝酸態窒素、窒素(ガス)及び水に変換される。HD反応においては、以下の2種類の反応(化学式2及び3)が生じる。
[化学式2]
【数6】
[化学式3]
【数7】
Anammox反応において生じた硝酸態窒素は、HD反応に利用され、HD反応で生じた亜硝酸態窒素は、Anammox反応に利用される。これら2つの反応における硝酸態窒素と亜硝酸態窒素との間での変換過程においてアンモニア態窒素が窒素(ガス)に変換されることで、窒素含有水中のアンモニア態窒素が減少する。
【0018】
<窒素含有排水の処理方法>
本実施形態において
(a) アンモニア態窒素含有水中の硝酸態窒素濃度が低下するように、アンモニア態窒素含有水中への水素の供給を維持する工程と、
(b) アンモニア態窒素含有水中の硝酸態窒素濃度が低下しないように、アンモニア態窒素含有水中への水素の供給を制限し続ける工程と、を含み、
工程(a)と(b)において、アンモニア態窒素含有水のpHは、6.5-8.7に維持され、アンモニア態窒素含有水の温度は、25-42℃に維持される、
Anammox菌と水素酸化脱窒菌を固定した微生物担体を用いたアンモニア態窒素含有水の処理方法
が提供される。本実施形態における処理方法において、「Anammox菌と水素酸化脱窒菌を固定した微生物担体」を用いる。かかる担体は、当業者にとって公知の方法で製造することができ、また、製造業者から購入することもできる。例えば、かかる担体は、下水処理施設内で生じる汚泥や工場排水を用いて、担体(ポリエステル製不織布、セラミックス、ポリウレフィン製スポンジ、ポリエチレングリコール系ゲル、微生物の自己造粒物(グラニュール))にAnammox菌と水素酸化脱窒菌を集積し培養することによって製造することができる。Anammox菌としては、Candidatus Jettenia sp.を例示することできるが、Anammox反応に関与することができる菌種であれば、これに限定されるものではない。また、HD菌としては、Dok 59 sp.とSulfuritalea hydrogenivoransを例示することができるが、HD反応に関与することができる菌種であれば、これらに限定されるものではない。微生物担体中の菌種は、本実施形態にかかる処理方法を実施中に反応槽中に生じる遊離汚泥を採取し、この遊離汚泥を用いて、16S rRNA(v4超可変領域)を対象としたアンプリコン解析を行なうことによって同定することができる。上記菌種は、それぞれ別々の担体に固定されていてもよく、同一の担体上に固定されていてもよい。微生物担体の数、サイズ及び量は、アンモニア態窒素含有水の量、アンモニア態窒素の濃度又は反応槽の容量に応じて、変更してもよい。「アンモニア態窒素含有水」は、アンモニア態窒素を含有する水であれば、上水下水を問わないが、例えば、各国の行政機関又はその国の地方行政機関が定める基準以上のアンモニア態窒素を含有する水(家庭排水、事業排水、工場排水、地下水など)が挙げられる。また、「アンモニア態窒素含有水」は、硝酸態窒素及び/又は亜硝酸態窒素を含有する水を脱窒するためにアンモニア態窒素を添加した水も含む。
【0019】
<水素の供給を維持する工程>
本実施形態の処理方法における工程(a)は、アンモニア態窒素含有水中の硝酸態窒素濃度が低下するように、アンモニア態窒素含有水中への水素の供給を維持する工程である。本工程においては、Anammox反応よりもHD反応が優勢である。硝酸態窒素濃度を低下させるのに必要な水素の供給量は、1Lのアンモニア態窒素含有水(又は反応槽の1L)あたり3、4、5、6、7、8、9及び10ml/minからなる群より選択される2点間の範囲内であってもよく、10ml/min超えであってもよい。また、硝酸態窒素濃度を低下させるのに必要な水素の供給量は、アンモニア態窒素含有水中の水素濃度を直接測定することで設定してもよい。例えば、1気圧、35℃(アンモニア態窒素含有水の温度)の条件下において、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.2及び1.3mg/L並びに飽和濃度からなる群より選択される2点間の範囲内の水素濃度となるように水素を供給してもよい。なお、本工程における水素濃度は、アンモニア態窒素含有水中における溶存水素濃度であり、硝酸態窒素濃度が低下する(即ち、HD反応が進行する)のであれば、特に限定するものではない。また、水素は、外部水素源からアンモニア態窒素含有水に水素ガスを曝気にて(例えば、散気球を使用して)供給させてもよく、水素ガス透過膜とアンモニア態窒素含有水が接した状態において上記膜から水素ガスを透過させることによって供給させてもよい。別の実施形態において、水素は、水素発生剤(酸化カルシウムとアルミニウムの粉末など)の添加によって供給してもよく、アンモニア態窒素含有水中に水素生産菌を存在させることによって供給してもよい。なお、水素の供給は、硝酸態窒素濃度を低下させるのに必要な水素濃度が維持されるのであれば、連続供給、可変量供給、段階供給若しくは間欠供給又はそれらの組み合わせであってもよく、適切なセンサー(水素センサー、気泡カウンターなど)に由来する水素に関する測定値(溶存水素濃度、気泡数など)に基づいて、フィードバック制御されてもよい。
【0020】
ある実施形態において、硝酸態窒素濃度を低下させるのに必要な水素量が供給されているか否か(又は、水素濃度が維持されているか否か)は、アンモニア態窒素含有水中の硝酸態窒素及び/又は亜硝酸態窒素の単位時間あたり(例えば、1時間あたり)の濃度変化によって確認してもよい。例えば、硝酸態窒素の減少及び/又は亜硝酸態窒素の増加が確認できた場合は、HD反応に必要な水素濃度が維持されている(水素ガスの供給量が十分である)と判断することができる。このように硝酸態窒素の減少及び/又は亜硝酸態窒素の増加が確認できた場合は、水素の供給を維持する工程(工程(a))を維持する。
なお、水素ガスの供給量(又は水素濃度)はあらかじめ硝酸態窒素の減少と亜硝酸態窒素の増加とがともに確認出来るような値に設定するとよい。かかる値は、例えば、スモールスケール(又はラボスケール)の反応槽を用いて得られた値に基づく予想値であってもよく、実際に使用する反応槽を用いて得られた値(実測値)であってもよい。水素ガス供給量が少なすぎると、硝酸態窒素の減少と亜硝酸態窒素の増加とがともに確認できない。この場合は、水素ガスの供給量を増やすと良い。
また、硝酸態窒素濃度の低下率が所定の値以下となった場合、あるいは、亜硝酸態窒素の上昇率が所定の値以下となった場合は、次の工程(例えば、水素の供給を制限し続ける工程(工程(b))に移ってもよい。
【0021】
ある実施形態において、本工程は、単位時間あたりの硝酸態窒素濃度の低下率:[(1-(単位時間後の硝酸態窒素濃度/硝酸態窒素濃度))*100]が50、40、30、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2又は1%以下となった場合(すなわち所定の値以下となった場合)に、次の工程(例えば、水素の供給を制限し続ける工程)に遷移してもよい。あるいは単位時間あたりの亜硝酸態窒素濃度の上昇率:[((単位時間後の亜硝酸態窒素濃度/亜硝酸窒素濃度)-1)*100]が50、40、30、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2又は1%以下となった場合(すなわち所定の値以下となった場合)に、次の工程(例えば、水素の供給を制限し続ける工程(工程(b)))に遷移してもよい。
【0022】
別の実施形態において、本工程は、経験則、アンモニア態窒素含有水の量又はアンモニア態窒素の濃度に基づいて設定した特定の時間(例えば、1時間、5時間、10時間、15時間、1日、5日、1週間以上)だけ実施して、次の工程(例えば、水素の供給を制限し続ける工程)に遷移してもよい。本実施形態の処理方法は、排水処理基準を満たす場合、本工程において終了させてもよい。
【0023】
また、本実施形態の処理方法が、全体として、実施可能であれば(即ち、脱窒し続けることが可能であれば)、本工程において、硝酸態窒素濃度を低下させるのに必要な水素量が供給されていない(又は、水素濃度が維持されていない)期間が含まれていてもよい。たとえば、かかる期間は、本工程の期間の20、10、5、2、1、0.5、0.2又は0.1%以下であってもよい。かかる期間の例として、例えば、ある工程から本工程へ移動した際に生じる本工程の立ち上げ期間である。
【0024】
<水素の供給を制限し続ける工程>
本実施形態の処理方法における工程(b)は、アンモニア態窒素含有水中の硝酸態窒素濃度が低下しないように、アンモニア態窒素含有水中への水素の供給を制限し続ける工程である。本工程においては、HD反応よりもAnammox反応が優勢である。「水素の供給を制限し続ける」という表現は、水素ガスの供給停止を意味するものであってもよく、本実施形態の処理方法が、全体として、実施可能である(即ち、脱窒し続けることが可能である)水準で水素ガスが連続的又は間欠的に供給されていることを意味するものであってもよい。ある実施形態において、本工程は、水素ガスの供給停止によって成し遂げられる。水素ガスの供給停止は、安価且つ簡便にHD反応を停止させる方法であるため、好適である。ある実施形態において、本工程におけるアンモニア態窒素含有水中の水素濃度は、水素測定器の検出限界よりも低い濃度(例えば、0.001mg/ml未満)に維持される。
【0025】
「硝酸態窒素濃度が低下しない」という表現は、単位時間あたりで硝酸態窒素濃度が実質的に低下していないことを意味し、例えば、単位時間あたりの硝酸態窒素濃度の低下率:[(1-(単位時間後の硝酸態窒素濃度/硝酸態窒素濃度))*100]、又は本工程期間あたりの硝酸態窒素濃度の低下率:[(1-(本工程終了時の硝酸態窒素濃度/本工程開始時の硝酸態窒素濃度))*100]が5、4、3、2、1、0.5又は0.1%以下であれば、「硝酸態窒素濃度が低下しない」としてもよい。
【0026】
ある実施形態において、本工程は、単位時間あたりのアンモニア態窒素濃度の低下率:[(1-(単位時間後のアンモニア態窒素濃度/アンモニア態窒素濃度))*100]が50、40、30、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2又は1%以下となった場合(すなわち所定の値以下となった場合)に、次の工程(例えば、水素の供給を維持する工程(工程(a))に遷移してもよい。別の実施形態において、本工程は、経験則やアンモニア態窒素含有水の量、アンモニア態窒素の濃度に基づいて設定した特定の時間(例えば、1時間、5時間、10時間、15時間、1日、5日、1週間以上)だけ実施して、次の工程(例えば、水素の供給を維持する工程)に遷移してもよい。逆にアンモニア態窒素濃度の低下率が上記の所定の値以上の場合は水素の供給を制限し続ける工程(工程(b))を継続する。本実施形態の処理方法は、排水処理基準を満たす場合、本工程において終了させてもよい。
【0027】
本実施形態の処理方法が、全体として、実施可能であれば(即ち、脱窒し続けることが可能であれば)、本工程において、硝酸態窒素濃度が低下する期間が含まれていてもよい。たとえば、かかる期間は、本工程の期間の20、10、5、2、1、0.5、0.2又は0.1%以下であってもよい。かかる期間の例として、例えば、ある工程から本工程へ移動した際に生じる本工程の立ち上げ期間である。
【0028】
したがってある実施形態においては、上述したように、アンモニア態窒素含有水において、硝酸態窒素の減少及び/又は亜硝酸態窒素の増加が確認できた場合は工程(a)を継続する。
また、単位時間あたりの硝酸態窒素濃度の低下率が所定の値以下となった場合、あるいは単位時間あたりの亜硝酸態窒素濃度の上昇率が所定の値以下になった場合に工程(a)から工程(b)に遷移する。
一方、アンモニア態窒素含有水において、単位時間あたりのアンモニア態窒素濃度の低下率が所定の値よりも大きい場合は工程(b)を継続する。
そして、単位時間あたりのアンモニア態窒素濃度の低下率が所定の値以下となった場合に工程(b)から工程(a)に遷移する。
【0029】
ある実施形態においては、工程(a)から工程(b)への遷移は、単位時間あたりの硝酸態窒素濃度の低下率が所定の値以下となるために必要な工程(a)の状態の継続時間の経過後、あるいは、単位時間あたりの亜硝酸態窒素濃度の上昇率が所定の値以下となるために必要な工程(a)の状態の継続時間の経過後としてもよい。いずれもあらかじめ実験等により必要な時間を見積もることができる。
また、工程(b)から工程(a)への遷移は、単位時間あたりのアンモニア態窒素濃度の低下率が所定の値以下となるために必要な工程(b)の継続時間の経過後としてもよい。これもあらかじめ実験等により必要な時間を見積もることができる。
【0030】
<アンモニア態窒素含有水のpH及び温度>
本実施形態の処理方法におけるアンモニア態窒素含有水のpHは6.5-8.7、温度は25-42℃の範囲であればよい。これはAnammox反応及びHD反応を担うAnammox菌と水素酸化脱窒菌の生育が確認される範囲である。しかしながらこれら菌がより活性化するためにより好ましくは、pHは7.0-8.5、温度は32-37℃の範囲とするとよい。また、アンモニア態窒素含有水のpHは、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.0、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6及び8.7からなる群より選択される2点の範囲内であってもよい。アンモニア態窒素含有水のpHの調節に使用するpH調節剤は、限定するものではないが、0.1N HCl、CO2ガス、0.1N NaOHが挙げられる。pHの調節は、例えば、pHコントローラーに接続したpHメーターにてpHを測定し、pHコントローラーのフィードバック制御にて自動的に適切なpH調節剤が投入されることで実施してもよい。pHメーターの設置場所は、特に限定するものではないが、反応槽の排出口付近であってもよい。
【0031】
本実施形態の処理方法が、全体として、実施可能であれば(即ち、脱窒し続けることが可能であれば)、各工程において、アンモニア態窒素含有水のpHが上記範囲の外になる期間が含まれていてもよい。たとえば、かかる期間は、各工程の期間の20、10、5、2、1、0.5、0.2又は0.1%以下であってもよい。かかる期間の例として、例えば、ある工程から別の工程へ移動した際に生じる菌の成長速度の変化によってpHが変化した期間である。
【0032】
また、アンモニア態窒素含有水の温度は、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41及び42℃からなる群より選択される2点の範囲内であってもよい。アンモニア態窒素含有水の温度の調節に使用する温度調節手段は、限定するものではないが、反応槽に設けた電熱手段又はウォータージャケットであってもよく、反応槽又は処理装置全体を収容可能な恒温室であってもよい。温度の調節は、例えば、温度コントローラーに接続した温度計にて温度を測定し、温度コントローラーのフィードバック制御にて自動的に実施してもよい。温度計の設置場所は、特に限定するものではないが、微生物担体の付近であってもよい。
【0033】
本実施形態の処理方法が、全体として、実施可能であれば(即ち、脱窒し続けることが可能であれば)、各工程において、アンモニア態窒素含有水の温度が上記範囲の外になる期間が含まれていてもよい。たとえば、かかる期間は、各工程の期間の20、10、5、2、1、0.5、0.2又は0.1%以下であってもよい。かかる期間の例として、例えば、新たなアンモニア態窒素含有水を反応槽に投入した際に温度が変化した期間である。
【0034】
<各工程は、交互に実施される>
ある実施形態において、水素の供給を維持する工程と水素の供給を制限し続ける工程は、交互に実施される。かかる工程を交互に実施する回数は、特に制限はなく、アンモニア態窒素等に関する排出基準に適合する濃度になるまで繰り返してもよい。
【0035】
<処理装置>
本実施形態において
アンモニア態窒素含有水の処理方法を実施するための処理装置であって、
反応槽と、
Anammox菌と水素酸化脱窒菌を固定した微生物担体と、
水素供給源と、
水素供給量制御手段と、
pHメーターと、
温度制御手段を備え、
上記水素供給量制御手段は、アンモニア態窒素含有水中の硝酸態窒素濃度が低下するように又は低下しないように、上記アンモニア態窒素含有水中への水素の供給を調節可能に構成されている、
処理装置
が提供される。
本実施形態の処理装置Aの概略を図2に示している。反応槽9は、アンモニア態窒素含有水が反応槽の下部側面から流入し、反応槽9の上部側面から排出される構成である。反応槽9は、水素ガスが反応槽中に滞留しないように解放されている。反応槽9中には、Anammox菌と水素酸化脱窒菌を固定した微生物担体4が2つ吊るされている。反応槽9中に満たされたアンモニア態窒素含有水は、攪拌器2によって撹拌される。反応槽9中のアンモニア態窒素含有水10の水面には、酸素の取り込みを防止するためにポリプロピレン製ビーズ1を浮かばせる。処理中にアンモニア態窒素含有水10のpHに変化がないかpHメーター6でモニタリングする。pHに変化がある場合は、pH調整器具と連結した電磁弁8をpHコントローラー7が操作して、pH調整を行なう。なお、pHコントローラー7は、この時のpH設定範囲(pH=7.8-8.3)を例示している。また、アンモニア態窒素含有水10の温度は、温度制御手段(図示せず)によって適切な温度に維持される。
【0036】
本実施形態の処理装置Aにおいて、水素供給量制御手段3は、アンモニア態窒素含有水10(あるいは図2の流出水)の硝酸態窒素濃度をモニタしアンモニア態窒素含有水10中の硝酸態窒素濃度が低下するように又は低下しないように、アンモニア態窒素含有水10中への水素の供給を調節可能に構成されている。アンモニア態窒素含有水10中の硝酸態窒素濃度が低下するように、アンモニア態窒素含有水10中への水素の供給を維持する場合は、水素供給量制御手段3が水素供給源に関する電磁弁8を操作して、水素ガスが散気球5を介してアンモニア態窒素含有水10に導入される。アンモニア態窒素含有水10中の硝酸態窒素濃度が低下しないように、アンモニア態窒素含有水10中への水素の供給を制限し続ける場合は、水素供給量制御手段3が水素供給源に関する電磁弁8を操作して、水素ガスがアンモニア態窒素含有水10に導入されるのを抑制する。
【0037】
ある実施形態において、水素供給量制御手段3は、アンモニア態窒素含有水10(あるいは図2の流出水)の硝酸態窒素濃度をモニタしアンモニア態窒素含有水10中の硝酸態窒素濃度が低下しないように、アンモニア態窒素含有水10中への水素の供給を停止可能に構成されている。アンモニア態窒素含有水10中の硝酸態窒素濃度が低下しないように、アンモニア態窒素含有水10中への水素の供給を制限し続ける場合は、水素供給量制御手段3が水素供給源に関する電磁弁8を閉じて、水素ガスがアンモニア態窒素含有水10に導入されるのを停止する。
ここで、水素供給量制御手段3は、アンモニア態窒素含有水10(あるいは図2の流出水)の硝酸態窒素濃度に加え、亜硝酸態窒素濃度、アンモニア態窒素濃度をモニタ計測するようにしてもよい。またモニタされた硝酸態窒素濃度に代えてモニタされた亜硝酸態窒素濃度、アンモニア態窒素濃度からアンモニア態窒素含有水10中の硝酸態窒素濃度を制御するように動作するようにしてもよい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
実験例1
<微生物担体>
活性汚泥をポリエステル製不織布とともに密閉した培養装置内(容積2L)に封入した。その後、アンモニア態窒素と亜硝酸態窒素を20-100mg-N/L程度、またそれぞれの濃度比が1:1.3程度に調整した培養培地(参考文献:van de Graaf et al., (1996) Autotrophic growth of anaerobic ammonium-oxidizing micro-organisms in a fluidized bed reactor. Microbiology, 142(8), 2187-2196.)を水道水から作成し、十分に脱気処理(溶存酸素濃度を0.3mg/L以下まで調整)したのちに培養装置に連続的に供給した。定期的に添加するアンモニア態窒素と亜硝酸態窒素の濃度、あるいは培地の供給量を増やすことで、微生物の増殖を促し担体上に集積させた。この時培養装置は、微生物群の成長速度が速い35-37℃に保ち、また内部をマグネチックスターラーで十分に攪拌した。
【0040】
<装置及び条件>
本処理装置は、水素ガス滞留による暴発を防ぐため、反応槽の上部を解放した構成とした。処理する排水の水面には酸素の溶け込みを防ぐためにポリプロピレン(PP)ビーズを浮かばせた。反応槽内部には、十分に集積培養したAnammox菌群が固定された微生物担体(不織布を使用)を吊り下げた。実験で使用する水は、表1に示す組成の模擬地下水にアンモニウムイオン((NH4)2SO4)と硝酸イオン(NaNO3)をそれぞれ40 mg-N/Lを添加した水(試験水)を用いた。
【表1】
試験水は、装置底部から供給し、撹拌機(200rpm程度の速度)によって十分に微生物担体に接触させ、上部流出口から排出させた。また、内部生物反応を最大に引き出すために、ヒーターを用いて常に水温が35℃程度になるよう調温した。pHコントローラーと接続したpHセンサーを流出口付近に設置し、試験水のpHが7.8-8.3になるようにモニタリングした。pHが上昇した際は、pHコントローラーにより、炭酸ガスを内部に供給し指定値に調整した。水素ガスは、水素ガスボンベからガス流量計により流速を調整し供給した。また、電磁弁を制御するタイマーを用い、水素ガスフローラインを開閉しガスの間欠供給を行った。
【0041】
窒素負荷速度(NLR)と窒素除去速度(NRR)は、以下のように算出した。

NLR [kg-N/m3/d] = {Inf.DIN [kg-N/L] × 流速 [L/d]} / リアクター容積[m3]
NRR [kg-N/m3/d] = {ΔDIN [kg-N/L] ×流速 [L/d]} /リアクター容積[m3]
DIN:NH4 -N, NO2-N, NO3-N濃度の総和
ΔDIN:流入水ー流出水DIN濃度変化
【0042】
実験例2
<連続運転>
水素ガスを連続供給して試験水を処理した。水素ガスの供給量は、20、15及び10ml/minとした。表2に示す通り、水素ガスを連続供給すると、亜硝酸態窒素の蓄積が減少するだけでなく硝酸態窒素の還元量も減少し、Anammox反応が阻害された。その結果、複合脱窒反応が崩壊した。また、これらの減少は、装置内部に溶存する水素濃度とは明瞭な相関性を見出せず、ガス供給量の減少により装置性能の停滞が生じたことを意味した。
【表2】
【0043】
実験例3
<間欠運転-短時間運転>
水素ガスを反応槽(約4L)の体積1Lあたり5ml/min供給しガスの供給と非供給を繰り返した。試験水の水理学的滞留時間(HRT)は7時間とした。水素濃度水素ガス非供給期間は、0時間目から2時間目と、5時間目から7時間目とし、水素ガス供給期間は、2時間目から5時間目とした。結果を図3に示す。水素ガスを供給した後、水素ガスの供給を遮断することによって、アンモニア態窒素の低下が観察された。また、水素ガス供給期間において、亜硝酸態窒素の蓄積量が増加していることから、硝酸態窒素の還元量が増加していることが明らかとなった。
【0044】
実験例4
<間欠運転-長時間運転>
水素ガスを反応槽(約4L)の体積1Lあたり5ml/min供給しガスの供給と非供給を繰り返した。表3に示した通り、20分の間に水素ガスの供給・非供給時間を設け、1時間の間に3回それを繰り返し、ガス供給時間を水理学的滞留時間に対する比率として算出し、装置の性能との比較を行った。装置は、約半年間にわたり運転した。
【表3】
結果を図4に示す。特定のHRTに対し水素ガス散気比率70%(14分供給、6分非供給)とした際に、120日以上に渡り装置性能を維持することに成功した。171日目の装置性能は一日あたり流入負荷0.28 kg-N/m3/dの時に、0.24 kg-N/m3/dを示し、またアンモニア態窒素および硝酸態窒素はそれぞれ71%と99%の除去を示した。すなわち、流出水中のアンモニア態窒素は11mg-N/L、硝酸態窒素は1mg-N/L以下を示した。硝酸態窒素がやや卓越して除去されていることを鑑みて、流入水の組成はアンモニア態窒素と硝酸態窒素が1:1.4の割合で存在するものが最適である。さらにまた、水素ガスを間欠的に注入することで、従来技術(水素ガスを連続的に供給することを想定)にくらべ、約25%程度の削減に成功した。
【0045】
実験例5
<微生物の同定>
実験例5における実験の0日目、5日目、10日目、46日目及び171日目に、反応槽中の遊離汚泥を0.1g(湿重量)程度採取し、16SrRNA(v4超可変領域)を対象にしたアンプリコン解析(株式会社ファスマック、日本)を行った。結果を図5及び6に示す。長期運転後もAnammox菌群として知られる種(Candidatus Jettenia sp.)が全体の細菌に対して15.3%程度(第二優占菌)とし、HD菌(Dok 59 sp.あるいはSulfuritalea hydrogenivoransに近縁種)とともに存在していることを明らかにした(図5および6)。すなわち、水素ガスの間欠供給により複合反応を担う微生物群の割合を適切に保持できたため反応の長期維持に成功したことが裏付けられた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6