特許第6862622号(P6862622)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862622
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】発酵製品製造装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20210412BHJP
   C12M 1/28 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   C12M1/00 D
   C12M1/28
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-227509(P2016-227509)
(22)【出願日】2016年11月24日
(65)【公開番号】特開2018-82658(P2018-82658A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2019年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000228
【氏名又は名称】江崎グリコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143085
【弁理士】
【氏名又は名称】藤飯 章弘
(72)【発明者】
【氏名】木村 重成
(72)【発明者】
【氏名】橋本 大志
(72)【発明者】
【氏名】植野 丈
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−506410(JP,A)
【文献】 実開平07−014899(JP,U)
【文献】 実開昭60−177799(JP,U)
【文献】 特開平11−113561(JP,A)
【文献】 実開昭60−177800(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0054936(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00− 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵培養タンクと、液体を前記発酵培養タンクに導く主配管とを備える発酵製品製造装置であって、
前記主配管の上方において、該主配管に対してバイパスとして接続されるバイパス配管を備えており、
前記バイパス配管は、上方を向いて開口し発酵用種菌が投入される接種口を有する種菌投入部と、前記種菌投入部に連通すると共に、前記主配管に接続される種菌案内配管部とを備えており、
前記種菌案内配管部は、前記接種口から投入された発酵用種菌をその自重により、前記種菌案内配管部における前記種菌投入部との接続箇所よりも、前記バイパス配管内を通過する液体の流れ方向下流側位置に案内可能に構成されており、
前記種菌案内配管部と前記主配管との接続部の直上に前記接種口が設けられていることを特徴とする発酵製品製造装置。
【請求項2】
前記種菌案内配管部は、前記接種口から投入された発酵用種菌を前記主配管に直接的に案内可能であることを特徴とする請求項1に記載の発酵製品製造装置。
【請求項3】
前記バイパス配管は、前記主配管と前記種菌案内配管部との接続位置に対して前記主配管内を流れる液体の流れ方向上流側における前記主配管の所定位置に一方端が接続し、前記種菌案内配管部に他方端が接続する迂回配管部を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の発酵製品製造装置。
【請求項4】
前記種菌案内配管部は、直線状に形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の発酵製品製造装置。
【請求項5】
前記種菌案内配管部は、水平に設けられる前記主配管に対して垂直に接続していることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の発酵製品製造装置。
【請求項6】
前記接種口は、クリーンベンチ内に配設されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の発酵製品製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵製品製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ヨーグルトや、チーズ、サワークリーム、クレーム・フレッシュといった種々の発酵製品が知られている。このような発酵製品は、牛乳等の材料を微生物等の作用で発酵させることにより加工した食用製品である。このような発酵製品は、例えば、特許文献1に開示されているような装置によって製造されている。
【0003】
特許文献1に開示の装置は、図9に示すように、発酵培養タンク100と、牛乳等の原材料を発酵培養タンクに導く主配管101と、該主配管に対してバイパスとして接続されるバイパス配管102とを備えて構成されている。また、バイパス配管102には、乳酸菌等の発酵用種菌が収容された容器103が連結配管104を介して接続されており、当該容器103及び連結配管104を介して種菌をバイパス配管102内に投入することができるように構成されている。バイパス配管102内に投入された種菌は、主配管101及びバイパス配管102の内部を通過する牛乳等の液体原材料の流れによって発酵培養タンク100にまで導かれ、当該発酵培養タンク100内において牛乳(原材料)の発酵が進行し、ヨーグルトやチーズといった発酵製品が製造されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4880601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、主配管及びバイパス配管内を流れる牛乳(原材料)の作用によるバイパス配管内に投入された発酵用種菌の流れ方に着目すると、牛乳(原材料)の流れに伴って種菌が発酵培養タンク側へと導かれることになるが、図9において点線の円にて囲んだ個所の拡大図である図10に示すように、バイパス配管102内を流れる牛乳の一部分は連結配管104内にも導かれるため、バイパス配管102内に投入された種菌の一部がこの連結配管104内の流れに乗って該連結配管104内に留まってしまい、規定量の発酵用種菌が発酵培養タンクに供給されないという問題があった。このような問題が発生すると、製造ロット毎に発酵培養タンク内の発酵製品の発酵状況が変動してしまい、均一な品質の発酵製品を製造することが難しくなってしまう。
【0006】
本発明は、このような問題を解消すべくなされたものであって、規定量の発酵用種菌を発酵培養タンクに供給することができ、均一な品質の発酵製品を効率よく製造することができる発酵製品製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の前記目的は、発酵培養タンクと、液体を前記発酵培養タンクに導く主配管とを備える発酵製品製造装置であって、前記主配管の上方において、該主配管に対してバイパスとして接続されるバイパス配管を備えており、前記バイパス配管は、上方を向いて開口し発酵用種菌が投入される接種口を有する種菌投入部と、前記種菌投入部に連通すると共に、前記主配管に接続される種菌案内配管部とを備えており、前記種菌案内配管部は、前記接種口から投入された発酵用種菌をその自重により、前記種菌案内配管部における前記種菌投入部との接続箇所よりも、前記バイパス配管内を通過する液体の流れ方向下流側位置に案内可能に構成されており、前記種菌案内配管部と前記主配管との接続部の直上に前記接種口が設けられていることを特徴とする発酵製品製造装置により達成される。
【0008】
この発酵製品製造装置において、前記種菌案内配管部は、前記接種口から投入された発酵用種菌を前記主配管に直接的に案内可能であるように構成することが好ましい。
【0009】
また、前記バイパス配管は、前記主配管と前記種菌案内配管部との接続位置に対して前記主配管内を流れる液体の流れ方向上流側における前記主配管の所定位置に一方端が接続し、前記種菌案内配管部に他方端が接続する迂回配管部を備えていることが好ましい。
【0011】
また、前記種菌案内配管部は、直線状に形成されていることが好ましい。
【0012】
また、前記種菌案内配管部は、水平に設けられる前記主配管に対して垂直に接続していることが好ましい。
【0014】
また、前記接種口は、クリーンベンチ内など清浄な空間内に配設されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、規定量の種菌を発酵培養タンクに供給することができ、均一な品質の発酵製品を効率よく製造することができる発酵製品製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る発酵製品製造装置の概略構成模式図である。
図2図1に示す発酵製品製造装置の要部拡大図断面図である。
図3】接種口の密閉構造を説明するための説明図である。
図4】発明者が行った配管内送液流速と液体の首部への進入高さとの関係を確認する試験に供した種菌投入部周辺領域を模した配管構成に関する説明図である。
図5】配管内送液流速と液体の首部への進入高さとの関係を確認する試験結果を示すグラフである。
図6図1に示す発酵製品製造装置の変形例を示す要部拡大図である。
図7図1に示す発酵製品製造装置の変形例を示す要部拡大図である。
図8図1に示す発酵製品製造装置の変形例を示す要部拡大図である。
図9】従来の発酵製品製造装置を示す概略構成模式図である。
図10】従来の発酵製品製造装置における問題点を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る発酵製品製造装置について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる発酵製品製造装置1の概略構成模式図であり、図2は、その要部拡大断面図である。なお、各図は、構成の理解を容易ならしめるために部分的に拡大・縮小している。本発明に係る発酵製品製造装置1は、原材料を発酵用種菌の作用で発酵させて発酵製品(例えば、ヨーグルトや、チーズ、サワークリーム、クレーム・フレッシュといった種々の発酵製品)を製造するための装置であり、図1に示すように、発酵培養タンク2と、主配管3と、バイパス配管4とを備えて構成されている。なお、以下において、原材料として牛乳を用いた場合について主に説明するが、原材料は、牛乳に特に限定されるものでは無く、発酵製品の原料となる液状材料であればどのようなものであっても採用することができる。また、発酵用種菌についてもその種類は限定されず、製造される発酵製品の種類に応じて適宜選択することができる。
【0018】
発酵培養タンク2は、原材料及び発酵用種菌を貯留し、原材料の発酵を進行させるための容器であり、本実施形態に係る発酵製品製造装置1においては、複数備えるように構成されている。この発酵培養タンク2としては、例えば、内部に攪拌機を備えて構成される従来から知られている発酵製品製造用のタンクを採用することができる。
【0019】
主配管3は、牛乳等の液体原材料や、内部洗浄用の水といった液体を発酵培養タンク2に導くための配管ラインである。主配管3の途中には、所定間隔を空けて配置される分岐配管31が連通接続しており、各分岐配管31を介して発酵培養タンク2が主配管3に接続している。なお、各分岐配管31の途中には、バルブがそれぞれ設けられており、各バルブの開閉操作により、主配管3内を流れる原料等の液体が、各発酵培養タンク2内に供給されるように構成されている。
【0020】
バイパス配管4は、発酵培養タンク2が設けられる主配管3に対してバイパスとして接続される配管ラインである。このバイパス配管4は、主配管3の内部を流れることになる液体の流れ方向に対して発酵培養タンク2よりも上流側に配設されている。また、バイパス配管4は、主配管3の上方において、当該主配管3に対してバイパスするように構成されている。主配管3とバイパス配管4との各接続部には三方バルブが設けられており、各バルブの開閉操作により、主配管3内に供給される原料等の液体が、バイパス配管4内を流れるように、或いは、バイパス配管4内を流さずに主配管3内のみを流れるように、液体の流れ方向を切り替えることができるように構成されている。なお、図2においては、主配管3とバイパス配管4との接続部に設けられる三方バルブを省略して記載している。また、主配管3やバイパス配管4から構成される配管ラインに配置される各バルブについては、原材料等の液体の流れを切り替えることができるものであれば特にその種類や個数は限定されない。
【0021】
バイパス配管4は、図1及び図2に示すように、上方を向いて開口する接種口43を有する種菌投入部40と、種菌案内配管部41と、迂回配管部42とを備えて構成されている。種菌投入部40は、断面視円形の筒状体であり、一方の開口が上方を向くように、他方の開口が下方を向くようにして配置されており、当該他方の開口が、種菌案内配管部41と連通接続している。上方を向く開口は、発酵用種菌が投入される接種口43を構成する。また、一方の開口と他方の開口との間の筒状の部分は、首部44を構成している。なお、接種口43は、投入される発酵用種菌が、接種口43回りにこぼれ落ちないように構成されるものであり、「上方を向いて開口する接種口43」における“上方”とは、鉛直上方の意味の他、斜め上方の意味を含む概念である。したがって、種菌投入部40の首部44は、鉛直上方に延びるように構成してもよく、或いは、斜め上方に延びるように構成してもよい。本実施形態においては、種菌投入部40を直線状の筒状体として構成し、水平に設けられる主配管3の所定部分に対して垂直に配置される種菌案内配管部41の一方端(上方端)に接続するように構成しているため、首部44は鉛直上方に延びるように構成されている。
【0022】
また、種菌案内配管部41は、上方を向いて開口し発酵用種菌が投入される接種口43を有する種菌投入部40と連通すると共に、主配管3に連通接続されるように構成されている。迂回配管部42は、主配管3と種菌案内配管部41との接続位置に対して主配管3内を流れることになる液体の流れ方向上流側における主配管3の所定位置に一方端が連通接続し、種菌案内配管部41に他方端が連通接続するように構成されている。
【0023】
また、種菌案内配管部41は、直線状に形成されており、水平に設けられる主配管3の所定部分に対して垂直に接続して構成されている。また、種菌投入部40は、主配管3に対して垂直に接続される種菌案内配管部41の上端部に配設されている。つまり、種菌案内配管部41と主配管3との接続部の直上に接種口43が設けられている。このような構成により、接種口43から投入された発酵用種菌は、その自重によって、種菌案内配管部41の内部を落下して主配管3に直接的に案内されることとなる。換言すると、接種口43から投入された発酵用種菌は、種菌案内配管部41における種菌投入部40との接続箇所よりも、バイパス配管4内を通過することになる液体の流れ方向下流側位置に案内されることになる。
【0024】
種菌投入部40における首部44の先端、つまり接種口43は、蓋体5によって密閉可能に構成されている。蓋体5は、バイパス配管4内を通過する液体が接種口43から漏れ出ることを防止できるような構成であれば、特に限定されない。接種口43の密閉構造としては、例えば、図3(a)に示すように、首部44の先端部における外周面に雄ねじを形成すると共に、有底筒状の蓋体5の円筒部内周面に雌ネジ形成し、両者を螺合して密閉するような構造を採用することができる。また、図3(b)に示すように、首部44の先端部における内周面に雌ネジを形成すると共に、外周面に雄ねじが形成された蓋体5を用いて、両者を螺合して密閉するような構造を採用することもできる。また、蓋体5としては、図3(c)に示すように、有底筒状の蓋体5の内面側における底部にテーパ部51を備えるように構成してもよい。このテーパ部51は、蓋体5の内面側における底部から離隔するに従い縮径する形態を有している。また、テーパ部51は、蓋体5を接種口43に取り付けた際に、首部44の内側に配置されるように構成されている。
【0025】
次に、本発明に係る発酵製品製造装置1の作動の一例について説明する。まず、主配管3とバイパス配管4との各接続部に設けられる三方バルブを操作して、主配管3内に供給される原料等の液体がバイパス配管4内を通過しない配管ライン構成とする。併せて、複数ある発酵培養タンク2の内、発酵培養タンク2aが接続する分岐配管31上のバルブを開状態とし、その他の発酵培養タンク2b〜2dが接続する分岐配管31上のバルブを閉状態とする。
【0026】
次いで、主配管3を介して原料等の液体を発酵培養タンク2aに所定量供給する。その後、主配管3からの液体の供給を一旦停止させた上で、三方バルブを操作して、主配管3に導かれる液体がバイパス配管4内を通過し、二つの三方バルブ間における主配管3を液体が通過できない配管ライン構成とする。そして、接種口43における蓋体5を取り外した後、当該接種口43を介して、規定量の発酵用種菌をバイパス配管4内に投入する。接種口43から投入された発酵用種菌は、その自重によって(重力の作用によって)、種菌案内配管部41の内部を落下して主配管3に直接的に案内されることとなる。なお、取り外された蓋体5は、発酵用種菌投入後、接種口43に取り付け、当該接種口43を密閉する。
【0027】
その後、発酵培養タンク2aへの原料等の液体の供給を再開することにより、液体をバイパス配管4内に引き込み、その流れにより発酵用種菌を発酵培養タンク2aへと導き、発酵培養タンク2aへの植菌が完了し、発酵培養タンク2a内での発酵を所定時間進行させ発酵製品を製造する。ここで、バイパス配管4の内部を通過する原材料等の液体の流速は、0.5m/s以上に設定することが好ましい。この数値未満であると、投入された発酵用種菌が、原材料等の液体の流れに乗らず配管内に留まってしまい、発酵培養タンク2内へと導かれないおそれがある。
【0028】
なお、発酵培養タンク2aに対する原材料の液体及び発酵用種菌の供給が完了した後、発酵培養タンク2aが接続する分岐配管31上のバルブを閉状態とし、主配管3及びバイパス配管4内を熱水による滅菌洗浄を行い、次の製造ロット(例えば、発酵培養タンク2bに対する原材料の液体及び発酵用種菌の供給)に備える。
【0029】
本発明に係る発酵製品製造装置1は、バイパス配管4が、上方を向いて開口し発酵用種菌が投入される接種口43を有する種菌投入部40と、種菌投入部40に連通すると共に、主配管3に接続される種菌案内配管部41とを備えており、当該種菌案内配管部41が、接種口43から投入された発酵用種菌をその自重により(重力の作用により)、種菌案内配管部41における種菌投入部40との接続箇所よりも、バイパス配管4内を通過することになる液体の流れ方向下流側位置に案内可能に構成されている。つまり、バイパス配管4内を流れることになる液体の流れ方向に沿って見た場合に、種菌案内配管部41は、種菌投入部40との接続箇所に対して下流側の位置に発酵用種菌を案内することになる。この結果、投入された規定量の発酵用種菌は、種菌投入部40における首部44内を接種口43に向かって流れる液体の流れの影響を受けること無く、発酵培養タンク2内部に導かれ、従来問題となっていたような規定量の発酵用種菌が発酵培養タンク2に供給されないという事態を効果的に防止することができ、製造ロット毎の発酵製品の品質の均一性を確保することが可能となる。
【0030】
また、本実施形態においては、種菌案内配管部41を直線状に形成し、水平に設けられる主配管3の所定部分に対して垂直に接続するような構成を有している。このような構成により、バイパス配管4をコンパクトに構成することができる。また、種菌案内配管部41と主配管3との接続部の直上に接種口43が設けられているため、投入された発酵用種菌を極めてスムーズに主配管3側に直接的に導くことが可能となる。
【0031】
また、上記従来技術の欄に記載した従来装置の場合、発酵培養タンクに発酵用種菌を供給するにあたって、発酵用種菌が流動性を持った液状である事を前提としているため、凍結状の発酵用種菌や凍結乾燥状の発酵用種菌などは、解凍する、もしくは無菌的な水などに溶解するなどの操作が必要となり、発酵培養の工程数が増えてしまう。これに対し、本発明に係る発酵製品製造装置1は、液状化された発酵用種菌の他、凍結状の発酵用種菌や凍結乾燥状の発酵用種菌を直接利用することが可能な構造であり、発酵製品を製造する際の使用可能な発酵用種菌の種類・形態の制限を受けることなく、少ない工程数で発酵製品を製造することが可能となる。
【0032】
また、本実施形態において、種菌投入部40は、接種口43と種菌案内配管部41との間に、上方に延びる首部44を備えるように構成されているが、この首部44の長さ(mm)は、バイパス配管4内を流れる液体の流速をX(m/s)とした場合に、以下の数式から算出されるYの値(mm)以下に設定されることが好ましい。なお、本実施形態においては、首部44の長さとは、図2において示されるように、種菌案内配管部41と迂回配管部42の他方端との接続部の上側境界部分から接種口43までの距離を意味する。
[数式] Y=27.4X−6
【0033】
上記数式で算出されるYの値(mm)以下の数値に首部44の長さを設定することにより、上述の効果に加えて、バイパス配管4内を熱水で滅菌洗浄する際の高い滅菌効果及び良好な作業性を得ることが可能となる。以下、この効果について説明する
【0034】
まず、発酵製品製造装置1によって発酵製品を製造する場合、製造ロット毎、或いは、一日の操業が終了する段階で洗浄を行い、次の製造ロットでの発酵培養タンク2への植菌の際に、前回の製造ロットにおける植菌時の発酵用種菌が万が一にも混入しないようにすることが求められる。装置における配管ライン内部の洗浄においては、例えば、80℃以上の熱水(液体)を主配管3及びバイパス配管4の内部に引き込んで配管内をすすぎ、更に、熱水の熱によって配管内が滅菌される。なお、バイパス配管4内を流れる液体(熱水)の流速は、0.5m/s以上に設定することが滅菌効果を考慮すると好ましい。この数値未満であると、配管ラインを通過する際の放熱により、熱水温度が低下してしまい、所望の滅菌効果を得られなくなるおそれがある。
【0035】
このような熱水による配管内部の洗浄においては、配管内の各部分で十分な熱がいきわたる必要があるが、例えば、首部44が長い場合、空気だまりが発生してしまい、接種口43に十分な熱が伝わらず、発酵用種菌投入時に接種口43近傍の首部44内面に付着した微量の発酵用種菌が配管ライン中に残存してしまい、滅菌不良を起こす懸念が残る。しかしながら、上記数式から算出される値(mm)に基づいて首部44の長さ(mm)を設定することにより、バイパス配管4に導かれた熱水とその熱が、首部44の最奥部、つまり接種口43にまでいきわたり、前回の製造ロットにおける植菌時の発酵用種菌が、配管ライン中に残存してしまうことを効果的に防止することが可能となる。
【0036】
また、上記数式から算出される値(mm)に基づいて首部44の長さ(mm)を設定することにより、洗浄効果の他に、植菌時における効果も得ることができる。つまり、植菌時において、接種口43を介して投入された培養用種菌は微量ながら接種口43近傍の首部44内面に付着することが懸念されるが、首部44の長さ(mm)を上記数式から算出される値(mm)に基づいて設定することにより、首部44内に進入する液体の流れに伴って、発酵培養タンク2側へと導くことができるという効果が得られる。
【0037】
ここで、本発明の発明者は、本発明に係る発酵製品製造装置1について、種菌投入部40における首部44の長さに関し、該首部44に十分に液体が回り込む液体流速との関係を明らかにする試験を行ったので、この試験について以下説明する。
【0038】
試験内容は、図4に示すように、内径35mmのチーズ(T字型)配管を用い、各流速におけるチーズ配管の首部44への液体(水)の侵入高さを計測した。なお、首部44の上端はブラインドキャップで蓋をして閉栓した状態で、図4に示す流れ方向で液体(水)を流した。
【0039】
下記表1に、試験結果を示す。また、表1における配管内送液流速と、液体の進入高さとの関係を示すグラフを図5に示す。表1及び図5のグラフから、液体の進入高さ(mm)と配管内送液流速(m/s)との間には相関関係が認められ、下記近似式が得られた。
[液体の進入高さ(mm)]=27.4×[配管内送液流速]−6
【0040】
【表1】
【0041】
配管内送液流速に対する液体の進入高さは、上記近似式で表される関係を有しているため、この近似式に基づいて首部44の長さ(mm)を設定することにより、つまり、上記数式(Y=27.4X−6)に基づいて首部44の長さ(mm)を設定することにより、洗浄時において、バイパス配管4に導かれた熱水とその熱が、首部44の最奥部、つまり接種口43にまでいきわたり、前回の製造ロットにおける植菌時の発酵用種菌が、配管ライン中に残存してしまうことを効果的に防止することが可能となることが分かる。
【0042】
以上、本発明の一実施形態に係る発酵製品製造装置1について説明したが、該発酵製品製造装置1の具体的構成は、上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態においては、種菌案内配管部41を直線状に形成し、水平に設けられる主配管3の所定部分に対して垂直に接続するような構成を採用しているが、例えば、図6に示すように、直線状に形成された種菌案内配管部41を主配管3に対して傾斜させて接続するように構成してもよい。このような構成であっても、接種口43から投入された発酵用種菌は、その自重により(重力の作用により)、種菌案内配管部41の内部を滑り落ちて主配管3に直接的に案内されることになる。つまり、バイパス配管4内を流れる液体の流れ方向に沿って見た場合に、種菌案内配管部41は、種菌案内配管部41における種菌投入部40との接続箇所に対して下流側の位置に発酵用種菌を案内することになる為、首部44内を接種口43に向かう液体の流れの影響を受けることなく、規定量の発酵用種菌を発酵培養タンク2内部に導くことが可能となる。
【0043】
また、上記実施形態においては、種菌案内配管部41を直線状に形成しているが、接種口43から投入された発酵用種菌が、種菌案内配管部41における種菌投入部40との接続箇所よりも、バイパス配管4内を通過する液体の流れ方向下流側位置に案内可能となる形態であれば、その形状は特に限定されず、例えば、図7(a)に示すように、湾曲状に形成してもよく、或いは、図7(b)に示すように、下向きに流れる液体を一旦上方側へと反転させ、再度下向きに流すような配管形状に形成してもよい。このような形状であっても、接種口43から投入された発酵用種菌は、バイパス配管4内を流れる液体の流れ方向に沿って見た場合に、種菌案内配管部41における種菌投入部40との接続箇所に対して下流側の位置に案内されることになる為、首部44内を接種口43に向かう液体の流れの影響を受けることなく、規定量の発酵用種菌を発酵培養タンク2内部に導くことが可能となる。
【0044】
また、上記実施形態において、例えば、図8に示すように、発酵製品製造装置1がクリーンベンチ6を備え、当該クリーンベンチ6内に種菌投入部40が有する接種口43を配設するように構成してもよい。クリーンベンチ6としては、従来から知られている様々なものを採用することができる。例えば、作業空間としての内部空間を有するケーシングの前方開口に上下動開閉式のスライド透明カバー等が設けられ、天部に塵埃や細菌等を吸着する高性能(HEPA)フィルタ及び送風機が設けられたものを採用することができる。送風機は、例えば、シロッコファン及びモータから構成されており、高性能(HEPA)フィルタの上方に配置されており、送風機のスイッチをONすることにより、ファンモータが一定の回転数で回転し、この定常運転において、上記高性能(HEPA)フィルタを介して清浄化された空気が作業空間内に吹き出されることにより、作業空間が無菌操作に必要な清浄な状態に保たれる。このように、クリーンベンチ6の内部に接種口43を配置するように構成することにより、接種口43を介して発酵用種菌を投入する際に、発酵用種菌以外の細菌や酵母などの微生物がバイパス配管4、主配管3、及び発酵培養タンク2内に混入することを効果的に抑制することが可能となる。
【0045】
また、上記実施形態においては、主配管3を介して原材料の液体を発酵培養タンク2内に供給するように構成されているが、このような構成に限定されず、例えば、主配管3とは異なる配管ラインを別途設け、当該配管ラインを介してからも原材料の液体を発酵培養タンク2内に供給できるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 発酵製品製造装置
2 発酵培養タンク
3 主配管
4 バイパス配管
40 種菌投入部
41 種菌案内配管部
42 迂回配管部
43 接種口
44 首部
5 蓋体
6 クリーンベンチ
図1
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図3
図4
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