(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記第1支持部の平均流量孔径が0.05μm以上20μm以下であり、上記第2支持部の平均流量孔径が0.01μm以上1μm以下である請求項1又は請求項2に記載の半透膜。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係る半透膜は、非晶質樹脂を主成分とする半透膜層と、この半透膜層を支持するシート状の支持体とを備え、上記支持体が、多孔質の第1支持層と、この第1支持層の一方の面に積層される多孔質の第2支持層とを有し、上記第2支持層の平均流量孔径が第1支持層の平均流量孔径よりも小さく、上記半透膜層が上記第2支持層に含浸している。
【0013】
当該半透膜は、支持体が第1支持層とこの第1支持層よりも平均流量孔径が小さい第2支持層とを備え、第2支持層に非晶質樹脂が含浸することで半透膜層が形成されている。当該半透膜では、第2支持層に非晶質樹脂を塗工等により含浸させる際、毛細管現象により第1支持層よりも孔の細かい第2支持層に樹脂が密集し、ピンホール、クラック等の欠陥のない半透膜層が形成される。また、当該半透膜は、非晶質樹脂の含浸量を低減させても密な膜が第2支持層内に形成されるため、薄膜化が容易である。さらに、当該半透膜は、薄膜化した半透膜層の少なくとも一部が第2支持層内で支持されるため、取扱いが容易である。
【0014】
さらに、当該半透膜では、半透膜層の主成分が非晶質樹脂であり、この非晶質樹脂は、分子間空隙が結晶質樹脂の分子間空隙よりも大きいため、ガス等の分子を選択的に通過させる適度な空隙を容易かつ確実に形成できる。そのため、当該半透膜は優れた分離性能を有する。
【0015】
なお、「非晶質樹脂」とは、結晶構造を有さない樹脂をいい、例えばJIS−K0050(1996)に準拠して測定される結晶化度が5%以下のものをいう。「主成分」とは、最も含有量が多い成分であり、例えば含有量が50質量%以上の成分をいう。「平均流量孔径」とは、孔径の平均値に対応した指標であり、細孔径分布測定器等を用いるバブルポイント法(ASTM F316−86、JIS−K3832(1990))による測定結果から求められる。具体的には、バブルポイント法により、膜が乾燥している場合及び膜が液体で濡れている場合について膜に加えられる差圧と膜を透過する空気流量との関係を測定する。そして、この測定により得られたグラフをそれぞれ乾き曲線及び濡れ曲線とし、乾き曲線の流量を1/2とした曲線と濡れ曲線との交点における差圧をP(Pa)としたとき、式d=cγ/Pで表されるd(μm)の値が「平均流量孔径」である(cは定数で2860であり、γは液体の表面張力(dynes/cm)である)。
【0016】
上記第1支持層の平均流量孔径に対する上記第2支持層の平均流量孔径の比としては、1/1000以上1/5以下が好ましい。このように第1支持層と第2支持層との平均流量孔径の比を上記範囲とすることで、半透膜層の形成容易性を高められると共に、半透膜層の分離性能を向上できる。
【0017】
上記第1支持層の平均流量孔径としては、0.05μm以上20μm以下が好ましく、上記第2支持層の平均流量孔径としては、0.01μm以上1μm以下が好ましい。このように第1支持層及び第2支持層の平均流量孔径をそれぞれ上記範囲とすることで、半透膜層の形成容易性を高められると共に、支持体の強度及び当該半透膜の分離性能を向上できる。
【0018】
上記第1支持層のバブルポイントとしては10kPa以上350kPa以下が好ましく、上記第2支持層のバブルポイントとしては500kPa以上3000kPa以下が好ましい。このように第1支持層及び第2支持層のバブルポイントをそれぞれ上記範囲とすることで、半透膜層の形成容易性を高められると共に、支持体の強度及び当該半透膜の分離性能を向上できる。なお、「バブルポイント」とは、イソプロピルアルコールを用い、ASTM F316−86に準拠して測定される値を意味する。
【0019】
なお、上記第1支持層の空隙率としては40%以上90%以下が好ましく、上記第2支持層の空隙率としては30%以上80%以下が好ましい。このように第1支持層及び第2支持層の空隙率をそれぞれ上記範囲とすることで、支持体の強度及び当該半透膜の分離性能を向上できる。なお、「空隙率」とは、多孔質層の任意方向の断面において空隙の占める面積の割合を意味する。
【0020】
上記半透膜層の平均厚さとしては、0.2μm以上10μm以下が好ましい。このように半透膜層の平均厚さを上記範囲とすることで、半透膜層の強度及び分離性能を向上できる。
【0021】
上記半透膜層が、上記第1支持層と第2支持層との界面まで含浸しているとよい。このように半透膜層が第1支持層と第2支持層との界面まで含浸することで、半透膜層の緻密性を高められると共に、半透膜の薄膜化も促進することができる。
【0022】
上記非晶質構造を有する樹脂が非晶質フッ素樹脂であるとよい。このように半透膜層に非晶質フッ素樹脂を用いることで、半透膜層の分離性能を向上できると共に、半透膜層の耐候性、耐薬品性等を高めることができる。
【0023】
上記第1支持層の主成分及び第2支持層の主成分がフッ素樹脂であるとよい。このように支持体にフッ素樹脂を用いることで、支持体の機械的強度、耐候性、耐薬品性等を高めることができる。
【0024】
上記第1支持層が延伸フィルムであるとよい。このように第1支持層として延伸フィルムを用いることで、適度な強度と平均流量孔径とを備える第1支持層を比較的容易に構成できる。
【0025】
本発明の別の実施形態に係る半透膜の製造方法は、非晶質樹脂を主成分とする半透膜層と、この半透膜層を支持するシート状の支持体とを備える半透膜の製造方法であって、多孔質の第1支持層と多孔質の第2支持層との積層によりシート状の支持体を得る積層工程と、上記支持体に非晶質樹脂の分散液を含浸させる分散液含浸工程と、上記分散液が含浸した支持体を乾燥する乾燥工程とを備え、上記第2支持層の平均流量孔径が第1支持層の平均流量孔径よりも小さい。
【0026】
当該半透膜の製造方法は、支持体が第1支持層とこの第1支持層よりも平均流量孔径が小さい第2支持層とを備え、第2支持層に非晶質樹脂を含浸させることで半透膜層を形成する。当該半透膜の製造方法では、第2支持層に非晶質樹脂の分散液を塗工等により含浸させ、その後乾燥することで、毛細管現象により第1支持層よりも孔の細かい第2支持層に樹脂が密集し、ピンホール、クラック等の欠陥のない半透膜層が形成される。また、当該半透膜の製造方法では、非晶質樹脂の含浸量を低減させても密な膜が第2支持層内に形成されるため、半透膜の薄膜化が容易である。さらに、当該半透膜の製造方法では、薄膜化した半透膜層の少なくとも一部が第2支持層内で支持されるため、取扱いが容易な半透膜が得られる。
【0027】
さらに、当該半透膜の製造方法では、半透膜層の主成分として非晶質樹脂を用いるため、ガス等の分子を選択的に通過させる適度な空隙を有する半透膜層を容易かつ確実に形成できる。そのため、当該半透膜の製造方法により優れた分離性能を有する半透膜が得られる。
【0028】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施形態に係る半透膜及び半透膜の製造方法について図面を参照しつつ詳説する。
【0029】
<半透膜>
図1に示す当該半透膜は、非晶質樹脂を主成分とする半透膜層1と、この半透膜層1を支持するシート状の支持体2とを備える。支持体2は、多孔質の第1支持層3と、この第1支持層3の一方の面に積層される多孔質の第2支持層4とを有する。また、第2支持層4の平均流量孔径は、第1支持層3の平均流量孔径よりも小さく、半透膜層1が第2支持層4に含浸している。
【0030】
当該半透膜では、第2支持層4に非晶質樹脂を塗工等により含浸させる際、毛細管現象により第1支持層3よりも孔の細かい第2支持層4に樹脂が密集し、ピンホール、クラック等の欠陥のない半透膜層1が形成される。また、当該半透膜では、非晶質樹脂の含浸量を低減させても密な膜が第2支持層4内に形成されるため、薄膜化が容易である。さらに、当該半透膜では、薄膜化した半透膜層1の少なくとも一部が第2支持層4内で支持されるため、取扱いが容易である。
【0031】
(第1支持層)
第1支持層3は、半透膜層1を支持する支持体2を構成する多孔質膜である。
【0032】
第1支持層3の材質としては、特に限定されないが、機械的強度、耐候性、耐薬品性等に優れるフッ素樹脂を主成分とすることが好ましい。このフッ素樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビリニデン(PVdF)等が挙げられる。これらの中で、ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。また、これらの樹脂を単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0033】
第1支持層3は、上述の主成分となる樹脂以外の他の樹脂や添加剤を含有してもよい。主成分となる樹脂の含有量の下限としては、80質量%が好ましく、90質量%がより好ましい。
【0034】
第1支持層3の平均厚さは特に限定されないが、第1支持層3の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、第1支持層3の平均厚さの上限としては、200μmが好ましく、100μmがより好ましい。第1支持層3の平均厚さが上記下限より小さいと、支持体2の強度が不十分となるおそれがある。逆に、第1支持層3の平均厚さが上記上限を超えると、当該半透膜が不要に厚くなるおそれがある。
【0035】
第1支持層3の平均流量孔径は、第2支持層4の平均流量孔径よりも大きい。第1支持層3の平均流量孔径の下限としては、0.05μmが好ましく、0.1μmがより好ましく、0.2μmがさらに好ましい。一方、第1支持層3の平均流量孔径の上限としては、20μmが好ましく、10μmがより好ましく、1μmがさらに好ましい。第1支持層3の平均流量孔径が上記下限より小さいと、当該半透膜の圧損が大きくなるおそれがある。逆に、第1支持層3の平均流量孔径が上記上限を超えると、支持体2の強度が不十分となるおそれがある。
【0036】
第1支持層3のバブルポイントの下限としては、10kPaが好ましく、50kPaがより好ましく、150kPaがさらに好ましい。一方、第1支持層3のバブルポイントの上限としては、350kPaが好ましく、300kPaがより好ましく、250kPaがさらに好ましい。第1支持層3のバブルポイントが上記下限より小さいと、支持体2の強度が不十分となるおそれがある。逆に、第1支持層3のバブルポイントが上記上限を超えると、当該半透膜の圧損が大きくなるおそれがある。
【0037】
第1支持層3の空隙率の下限としては、40%が好ましく、50%がより好ましく、60%がさらに好ましい。一方、第1支持層3の空隙率の上限としては、90%が好ましく、85%がより好ましい。第1支持層3の空隙率が上記下限より小さいと、当該半透膜の圧損が大きくなるおそれがある。逆に、第1支持層3の空隙率が上記上限を超えると、支持体2の強度が不十分となるおそれがある。
【0038】
第1支持層3の構造は、多孔質体であれば特に限定されないが、延伸フィルムであることが好ましい。つまり、第1支持層3としては、押出や流延により形成した非多孔質の樹脂フィルムを延伸により多孔質化した層が好ましい。また、延伸フィルムとしては、多軸延伸フィルム及び一軸延伸フィルムが挙げられるが、延伸加工性に優れる一軸延伸フィルムが好ましい。このように延伸フィルムを第1支持層3に用いることで、フッ素樹脂を主成分とし、かつ適度な強度と平均流量孔径とを備える第1支持層3を比較的容易に構成できる。
【0039】
なお、第1支持層3の形成方法としては、例えばキャビティ内に複数の棒状体、エア噴出孔等を配設した金型から合成樹脂を押出成形する方法も適用できる。
【0040】
(第2支持層)
第2支持層4は、半透膜層1が含浸される多孔質膜であり、半透膜層1の骨格として半透膜層1を直接支持する。なお、第2支持層4は第1支持層3の一方の面に直接積層されている。
【0041】
第2支持層4の材質としては、特に限定されないが、第1支持層3と同様、機械的強度、耐候性、耐薬品性等に優れるフッ素樹脂を主成分とすることが好ましく、第1支持層3の主成分と同じ樹脂を主成分とすることが好ましい。第2支持層4は、上述の主成分となる樹脂以外の他の樹脂や添加剤を含有してもよい。主成分となる樹脂の含有量の下限としては、80質量%が好ましく、90質量%がより好ましい。
【0042】
第2支持層4の平均厚さは特に限定されないが、第2支持層4の平均厚さの下限としては、0.2μmが好ましく、1μmがより好ましい。一方、第2支持層4の平均厚さの上限としては、10μmが好ましく、5μmがより好ましい。第2支持層4の平均厚さが上記下限より小さいと、十分な強度の半透膜層1を形成できないおそれがある。逆に、第2支持層4の平均厚さが上記上限を超えると、当該半透膜が不要に厚くなるおそれがある。
【0043】
第2支持層4の平均流量孔径は、第1支持層3の平均流量孔径よりも小さい。第1支持層3の平均流量孔径に対する第2支持層4の平均流量孔径の比の下限としては、1/1000が好ましく、1/500がより好ましく、1/100がさらに好ましい。一方、上記平均流量孔径の比の上限としては、1/5が好ましく、1/6がより好ましく、1/8がさらに好ましい。上記平均流量孔径の比が上記下限より小さいと、第2支持層4の平均流量孔径が小さくなり過ぎて半透膜層1を構成する非晶質樹脂が含浸し難くなるおそれや、第1支持層3の平均流量孔径が大きくなり過ぎて支持体2の強度が不十分となるおそれがある。逆に、上記平均流量孔径の比が上記上限を超えると、第2支持層4における毛細管現象が発揮され難くなり、緻密な半透膜層1が形成し難くなるおそれがある。
【0044】
また、第2支持層4の平均流量孔径の下限としては、0.01μmが好ましく、0.02μmがより好ましく、0.03μmがさらに好ましい。一方、第2支持層4の平均流量孔径の上限としては、1μmが好ましく、0.1μmがより好ましい。第2支持層4の平均流量孔径が上記下限より小さいと、半透膜層1を構成する非晶質樹脂が含浸し難くなるおそれがある。逆に、第2支持層4の平均流量孔径が上記上限を超えると、支持体2の強度が不十分となるおそれがある。
【0045】
第2支持層4のバブルポイントの下限としては、500kPaが好ましく、750kPaがより好ましく、1000kPaがさらに好ましい。一方、第2支持層4のバブルポイントの上限としては、3000kPaが好ましく、2000kPaがより好ましく、1500kPaがさらに好ましい。第2支持層4のバブルポイントが上記下限より小さいと、支持体2の強度が不十分となるおそれがある。逆に、第2支持層4のバブルポイントが上記上限を超えると、半透膜層1を構成する非晶質樹脂が含浸し難くなるおそれがある。
【0046】
第2支持層4の空隙率の下限としては、30%が好ましく、50%がより好ましく、70%がさらに好ましい。一方、第2支持層4の空隙率の上限としては、80%が好ましく、75%がより好ましい。第2支持層4の空隙率が上記下限より小さいと、半透膜層1を構成する非晶質樹脂が含浸し難くなるおそれがある。逆に、第2支持層4の空隙率が上記上限を超えると、支持体2の強度が不十分となるおそれがある。
【0047】
支持体2の平均厚さに対する第2支持層4の平均厚さの比の下限としては、0.02が好ましく、0.025がより好ましく、0.03がさらに好ましい。一方、上記比の上限としては、0.10が好ましく、0.09がより好ましく、0.08がさらに好ましい。上記比を上記範囲とすることで、支持体2に含浸した非晶質樹脂を主に第2支持層4に存在させることができ、比較的薄い半透膜層1を形成することができる。
【0048】
また、第2支持層4は、第1支持層3よりも非晶質樹脂を含む溶液や溶媒に対し濡れ性が高いことが好ましい。ここで、「濡れ性が高い」とは、JIS−R3257(1999)に準拠して測定される水の静的接触角が小さいことをいう。また、有機溶媒については、AATCC 118における撥油性試験での濡れ状態が高いことをいう。
【0049】
第2支持層4の構造は、第1支持層3よりも平均流量孔径の小さい多孔質体であれば特に限定されない。第2支持層4は、例えば以下の方法により容易かつ確実に形成できる。
【0050】
以下では、第2支持層4をフッ素樹脂粉末を使用して作製する場合について説明するが、第2支持層4の製法はこれに限定されるわけではない。
【0051】
まず、フッ素樹脂粉末を溶剤中に配合したフッ素樹脂含有液を平滑なフィルム上に塗布する。フッ素樹脂含有液を塗布する方法は特に限定されないが、平滑なフィルム上にフッ素樹脂含有液を単にコーティングする方法、第1支持層3を用いこの第1支持層3と平滑なフィルムとの間にフッ素樹脂含有液を注入する方法等が挙げられる。
【0052】
第1支持層3と平滑なフィルムとの間にフッ素樹脂含有液を注入する方法の場合、第1支持層3上にフッ素樹脂含有液をコーティングした後、気泡が入らないように平滑なフィルムで第1支持層3のフッ素樹脂含有液が含浸された部分を被覆するとよい。これにより、第1支持層3と平滑なフィルムとの間へフッ素樹脂含有液を配置することができる。
【0053】
フッ素樹脂含有液を平坦なフィルム上又は第1支持層3上にコーティングする際、キャピラリー方式、ロール方式、ダイ(リップ)方式、スリップ方式、バー方式等の塗工機を塗布装置として利用できる。特に薄膜の第2支持層4を形成するためには、キャピラリー方式、ダイ方式、スリット方式及びバー方式の塗工機が好ましく、キャピラリー方式の塗工機がより好ましい。キャピラリー方式の塗工機は第2支持層4を薄膜化することができると共に、毛細管現象を利用した非接触の塗布が可能であるため、膜厚の精度を向上させることができる。
【0054】
フッ素樹脂含有液を平滑なフィルムに塗布した後、又はフッ素樹脂含有液を第1支持層3上に塗布しこの第1支持層3のフッ素樹脂含有液を含浸させた部分に平滑なフィルムを被覆した後、フッ素樹脂含有液に含まれる分散媒の乾燥が行われる。乾燥は、分散媒の沸点に近い温度又は沸点以上の温度に加熱することにより行うことができる。乾燥によりフッ素樹脂粉末を含む皮膜が形成されるが、この皮膜をフッ素樹脂の融点以上に加熱して焼結することにより、第2支持層4を得ることができる。なお、乾燥と焼結とを同一工程で行ってもよい。
【0055】
このようにして、第2支持層4を形成した後、この第2支持層4上の平滑なフィルムの除去が行われる。除去の方法は、特に限定されないが、平滑なフィルムが金属箔の場合は酸等により溶解除去する方法等が例示される。
【0056】
上記分散媒としては、通常、水等の水性媒体が用いられる。上記フッ素樹脂粉末とは、フッ素樹脂の微粒子の集合体であり、例えば乳化重合等により得ることができる。フッ素樹脂含有液中のフッ素樹脂粉末の含有量の下限としては、15質量%が好ましく、20質量%がより好ましく、25質量%がさらに好ましい。一方、上記含有量の上限としては、75質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、65質量%がさらに好ましい。フッ素樹脂粉末の含有量が上記下限より小さいと、第2支持層4の強度が不十分となるおそれがある。一方、上記含有量が上記上限を超えると、第2支持層4の平均流量孔径が小さくなりすぎ、当該半透膜の圧損が大きくなるおそれがある。
【0057】
上記フッ素樹脂含有液としては、PTFEを主成分とするフッ素樹脂粉末を分散媒中に分散させたものが好ましい。PTFEを主成分とするフッ素樹脂含有液を用いることで、耐薬品性、耐熱性等に優れる第2支持層4を得ることができる。
【0058】
上記フッ素樹脂含有液としては、PTFE粉末と熱可塑性フッ素樹脂粉末とを含む混合物を分散媒中に分散させたフッ素樹脂含有液が好ましい。また、上記混合物中においてPTFE粉末が主成分であるフッ素樹脂含有液がより好ましい。このようなフッ素樹脂含有液を用いることで、より緻密な第2支持層4を得ることができる。その結果、例えば高温時等におけるガスや水蒸気、有機溶媒等の浸透を抑制する効果がより優れる第2支持層4を得ることができる。ここで、熱可塑性フッ素樹脂としては、PFA、FEP、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPA)、ETFE等が挙げられる。これらの中でPFAが好ましい。PFAは熱分解が進みにくい傾向があるため、第2支持層4に発生する欠陥を減少させることができる。これらの樹脂は単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0059】
PTFE粉末と熱可塑性フッ素樹脂粉末との混合物中の熱可塑性フッ素樹脂粉末の配合量の上限としては、37体積%が好ましく、20体積%がより好ましく、10体積%がさらに好ましい。熱可塑性フッ素樹脂粉末の配合量が上記上限より多いと、例えば多孔質体である第1支持層3にこの混合物を塗布した場合に、これに含まれる熱可塑性フッ素樹脂がその表面張力により多孔質体の骨格部等に凝集し欠陥が生じやすくなるおそれがある。
【0060】
また、上述した欠陥は、PTFEを主成分とするフッ素樹脂粉末に、高濃度条件でゲル化する水溶性ポリマーを添加することによっても低減することができる。上述の熱可塑性フッ素樹脂とこの水溶性ポリマーとを共にフッ素樹脂含有液に添加することにより、上述の効果は顕著になる。
【0061】
この水溶性ポリマーがノニオン性であれば、フッ素樹脂の分散性への影響がないか又は少ない。従って、水溶性ポリマーとしては、アニオン性、カチオン性よりもノニオン性のものが好ましい。また、このノニオン性の水溶性ポリマーの重量平均分子量の下限としては、5000が好ましく、10000がより好ましく、15000がさらに好ましい。上記重量平均分子量を上記下限以上とすることで、乾燥の際、水が完全に除去される前にゲル化して膜が形成されるため、水の表面張力に起因するクラックの発生を抑制することができる。これらの中で、ノニオン性で重量平均分子量が10000以上の水溶性ポリマーが好ましい。このような水溶性ポリマーとして、例えばポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、デンプン、アガロース等が挙げられる。これらの中で、ポリエチレンオキサイド及びポリプロピレンオキサイドが好ましく、ポリエチレンオキサイドが特に好ましい。これらの水溶性ポリマーは、単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。ここで、「重量平均分子量」とは、ゲル浸透クロマトグラフィを用い、標準ポリスチレン換算値にて求めた重量平均分子量を意味する。
【0062】
フッ素樹脂含有液中の水溶性ポリマー含有量の下限としては、0.5mg/mlが好ましく、1.0mg/mlがより好ましく、5.0mg/mlがさらに好ましい。一方、上記水溶性ポリマー含有量の上限としては、35mg/mlが好ましく、30mg/mlがより好ましく、25mg/mlがさらに好ましい。上記水溶性ポリマー含有量が上記下限より小さい場合、水溶性ポリマーをフッ素樹脂含有液中に含有させる効果が十分発揮されないおそれがある。一方、上記水溶性ポリマー含有量が上記上限より大きい場合、フッ素樹脂含有液の粘度が高くなりすぎ、取り扱い性が低下するおそれがある。
【0063】
フッ素樹脂含有液を塗布する方法や平滑なフィルムの膜厚のバラツキや撓みによっては、塗布装置の塗工治具がフィルムの表面に直接接触してフィルム表面を傷付けることがある。結果的にフィルム表面上の傷が第2支持層4に転写されて表面凹凸が発生したり、ピンホールなどの欠陥が発生する。そこで、潤滑剤として陰イオン性界面活性剤をフッ素樹脂含有液に所定量加えるとよい。陰イオン性界面活性剤の添加量の下限としては、0.5mg/mlが好ましく、1.5mg/mlがより好ましく、2.5mg/mlがさらに好ましい。一方、上記添加量の上限としては、30mg/mlが好ましく、20mg/mlがより好ましく、10mg/mlがさらに好ましい。上記添加量を上記下限以上とすることで、第2支持層4の摩擦係数を低くすることができ、それにより表面凹凸やピンホールなどの欠陥の発生を抑制することができる。一方、上記添加量が上記上限より小さいと、フッ素樹脂含有液の粘度が高くなり過ぎるおそれがあり、またフッ素樹脂の凝集が生じやすくなる等の問題が生じるおそれがある。さらに、上記添加量が上記上限未満の場合、第2支持層4に分解残渣が残って変色が起きやすくなるおそれがある。
【0064】
陰イオン性の界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸エステル塩などのカルボン酸型、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸エステル塩などの硫酸エステル型、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩などのリン酸エステル型等の界面活性剤を挙げることができる。ただし、陰イオン性の界面活性剤の添加によりフッ素樹脂粉末の分散性が低下するため、界面活性剤を配合した場合は配合後、沈降、分離等が生じない時間内に生産を完了させるか、若しくは常に超音波などの振動を加え続けながら生産するとよい。
【0065】
(半透膜層)
半透膜層1は、非晶質樹脂を主成分とし、第2支持層4に厚さ方向の少なくとも一部が含浸している。
【0066】
上記非晶質樹脂は、分子間空隙が結晶質樹脂の分子間空隙よりも大きいため、ガス等の分子を選択的に通過させる適度な空隙を容易かつ確実に形成できる。そのため、当該半透膜は優れた分離性能を有する。また、半透膜層1における微小孔の大きさは非晶質樹脂の分子間空隙に依存する。そのため、上記非晶質樹脂としては、一定範囲の分子量を有し、かつ半透膜層1の硬化時等に重合しないものであれば良い。よって、当該半透膜では、上記非晶質樹脂として多くの樹脂種を選択可能である。
【0067】
上記非晶質樹脂としては、例えばシリコーンゴム、フッ素ゴムなどのゴム又はエラストマー、非晶質フッ素樹脂、ポリイミド、セルロース、ポリスルホン、ポリアラミド等が挙げられ、これらの中でも支持体の機械的強度、耐候性、耐薬品性等を高め易い非晶質フッ素樹脂が好ましい。
【0068】
上記非晶質樹脂の重量平均分子量の下限としては、10,000が好ましく、50,000がより好ましく、100,000がさらに好ましい。一方、上記重量平均分子量の上限としては、5,000,000が好ましく、1,000,000がより好ましく、50,000がさらに好ましい。上記重量平均分子量が上記下限未満であると、半透膜層1の強度が低下するおそれがある。逆に、上記重量平均分子量が上記上限を超えると、非晶質樹脂溶液の粘度が高くなり、含浸性が低下するおそれがある。上記重量平均分子量を上記範囲とすることで、分離性能をさらに向上させることができる。
【0069】
上記非晶質樹脂のガラス転移点の下限としては、30℃が好ましく、60℃がより好ましく、90℃がさらに好ましい。一方、上記ガラス転移点の上限としては、350℃が好ましく、250℃がより好ましく、150℃がさらに好ましい。上記ガラス転移点を上記範囲に設定することで、当該半透膜の取り扱い性が向上する。ここで、「ガラス転移点」は、JIS−K7121(1987)に準拠して測定される温度を意味する。
【0070】
上記非晶質樹脂の結晶化度の上限としては、5.0%が好ましく、4.5%がより好ましく、4.0%がさらに好ましい。一方、上記結晶化度の下限としては、特に限定されるわけではないが、0.5%が好ましい。上記結晶化度を上記上限以下とすることで、ガス等の分子を選択的に通過させる適度な空隙を有する半透膜層1を得ることができる。
【0071】
上記非晶質樹脂の水接触角の下限としては、95°が好ましく、100°がより好ましく、105°が好ましい。一方、上記水接触角の上限としては、125°が好ましく、120°がより好ましく、115°がさらに好ましい。上記水接触角を上記範囲とすることで、撥水性が高く吸湿の影響のない半透膜層1を得ることができる。ここで、「非晶質樹脂の水接触角」とは、水と非晶質樹脂とが接する状態において水の自由表面と非晶質樹脂の面とがなす角を意味し、JIS−R3257(1999)に規定された静滴法に準拠して測定される。
【0072】
半透膜層1は、
図1のように第2支持層4全体に含浸していてもよく、第2支持層4の厚さ方向の一部にのみ含浸していてもよい。また、半透膜層1は、第2支持層4に厚さ方向に含浸しない部分を有していてもよい。さらに、半透膜層1は、
図1のように第2支持層4と平均厚さが同じである必要はなく、第2支持層4よりも平均厚さが小さくてもよく、また第2支持層4よりも平均厚さが大きくてもよい。ただし、半透膜層1は、第1支持層3と第2支持層4との界面まで含浸していることが好ましい。このように第1支持層3と第2支持層4との界面まで半透膜層1を含浸させることで、半透膜層1の緻密性を高められると共に、当該半透膜の薄膜化を促進することができる。
【0073】
半透膜層1の平均厚さは特に限定されないが、半透膜層1の平均厚さの下限としては、0.2μmが好ましく、0.5μmがより好ましい。一方、半透膜層1の平均厚さの上限としては、10μmが好ましく、5μmがより好ましい。半透膜層1の平均厚さが上記下限より小さいと、ガス等の分子が透過し易くなって分離能が低下するおそれや、強度が不十分となるおそれがある。逆に、半透膜層1の平均厚さが上記上限を超えると、ガス等の分子が透過し難くなり分離効率が低下するおそれがある。
【0074】
(半透膜の透気度)
当該半透膜のガーレー秒の下限としては、6000秒が好ましく、7000秒がより好ましく、8000秒がさらに好ましい。一方、上記ガーレー秒の上限としては、特に限定されず、その値が大きければ大きいほどよい。上記ガーレー秒を上記下限以上とすることで、半透膜により分離されるガス等の選択性を向上させることができる。
【0075】
ここで、ガーレー秒とは、JIS−P8117(2009)に準拠して求められる透気度(空気の透過量)を表す数値であり、具体的には、100mlの空気が645cm
2の面積を通過する時間(秒)を表す。薄膜が欠陥を有する場合は、その欠陥を通って空気が透過するため、ガーレー秒は小さくなる。欠陥が少なくなるに従って、空気が透過しにくくなり、ガーレー秒は増大する。
【0076】
薄膜の欠陥が微少な場合には、上記ガーレー秒による測定だけではその欠陥を十分に検出できない場合がある。このような微少な欠陥は、表面張力の比較的低いアルコール、エーテル、パラフィン、フッ化ポリエーテルなどの液体を用いて、フッ素樹脂膜への浸透性を見る方法により確認することができる。例えば常温、常圧下において、水平に配置した膜面上にイソプロパノール(IPA)を塗布し、毛細管現象と重力とにより自然に膜内部を通り抜けて膜下面に達するIPAの有無を確認するIPA浸透試験により、ガーレー秒の測定によっては検出されないような微少な欠陥の有無を検出することができる。
【0077】
IPA浸透試験は、具体的には、下面に濾紙を接触させた273cm
2の膜上に、10mlのIPAをハケで均一に塗り、その30秒後に、上記濾紙へのIPA吸着の有無を肉眼で観測し、IPA浸透の有無を検出することにより行われる。
【0078】
<半透膜の製造方法>
当該半透膜の製造方法は、多孔質の第1支持層と多孔質の第2支持層との積層によりシート状の支持体を得る積層工程と、上記支持体に非晶質樹脂の分散液を含浸させる分散液含浸工程と、上記分散液が含浸した支持体を乾燥する乾燥工程とを備える。また、当該半透膜の製造方法において、第2支持層の平均流量孔径は第1支持層の平均流量孔径よりも小さい。
【0079】
当該半透膜の製造方法では、第2支持層に非晶質樹脂の分散液を塗工等により含浸させ、その後乾燥することで、毛細管現象により第1支持層よりも孔の細かい第2支持層に樹脂が密集し、ピンホール、クラック等の欠陥のない半透膜層が形成される。また、当該半透膜の製造方法では、非晶質樹脂の含浸量を低減させても密な膜が第2支持層内に形成されるため、半透膜の薄膜化が容易である。さらに、当該半透膜の製造方法では、薄膜化した半透膜層の少なくとも一部が第2支持層内で支持されるため、取扱いが容易な半透膜が得られる。
【0080】
(積層工程)
第1支持層と第2支持層との積層方法としては特に限定されず、例えば第1支持層と第2支持層とを別途製造した後に熱圧着により第1支持層と第2支持層とを接合する方法、第1支持層及び第2支持層の一方の表面に樹脂溶液を塗布及び乾燥することで上記一方の層上に他方の層を形成する方法、第1支持層とフィルムとの間に樹脂溶液を注入及び乾燥させ、その後フィルムを除去することで第1支持層上に第2支持層を形成する方法等が挙げられる。
【0081】
これらの中で、第1支持層と第2支持層とを別途製造した後熱圧着する方法が好ましい。このような方法を用いることで、微細な孔径を有する第1支持層及び第2支持層を備える支持体が容易に得られる。
【0082】
具体的には、第1支持層と第2支持層とを重畳し、第1支持層又は第2支持層の主成分の樹脂の融点以上に加圧しながら加熱することで、第1支持層と第2支持層とを融着させる。なお、ここでの「融点」とは、第1支持層の融点と第2支持層の融点のうちいずれか高い方を意味する。
【0083】
上記加熱温度の下限としては、上記融点と同じ温度が好ましく、融点+5℃がより好ましい。一方、上記加熱温度の下限としては、融点+20℃が好ましく、融点+10℃がより好ましい。上記加熱温度が上記下限より小さいと、第1支持層及び第2支持層の接着強度が不十分となるおそれがある。逆に、上記加熱温度が上記上限を超えると、第1支持層及び第2支持層が溶融するおそれがある。また、加熱時の圧力の上限としては、例えば100kPa以上1000kPa以下とできる。
【0084】
(分散液含浸工程)
分散液含浸工程では、例えば非晶質樹脂を含む分散液を塗付することで非晶質樹脂を第2支持層に含浸させる。この分散液としては、非晶質樹脂と有機溶剤とを含むものが好適に使用できる。非晶質樹脂として非晶質フッ素樹脂を用いる場合、この有機溶剤としては、フッ素系溶剤が好適に用いられる。
【0085】
上記分散液における非晶質樹脂の含有量の下限としては、0.1質量%が好ましく、1質量%がより好ましい。一方、非晶質樹脂の含有量の上限としては、20質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。非晶質樹脂の含有量が上記下限より小さいと、半透膜層の形成効率が低下するおそれがある。逆に、非晶質樹脂の含有量が上記上限を超えると、分散液の粘度が上がって非晶質樹脂が第2支持層に含浸し難くなるおそれがある。
【0086】
上記分散液の粘度の下限としては、10mPa・sが好ましく、50mPa・sがより好ましく、100mPa・sがさらに好ましい。一方、上記分散液の粘度の上限としては、10000mPa・sが好ましく、5000mPa・sがより好ましく、2000mPa・sがさらに好ましい。上記分散液の粘度が上記下限より小さいと、半透膜層が緻密にならないおそれがある。一方、上記分散液の粘度が上記上限を超えると、分散液の粘度が上昇して非晶質樹脂が第2支持層に含浸し難くなるおそれがある。
【0087】
分散液の表面張力は、第2支持層の臨界表面張力よりも低いことが好ましい。これにより、分散液が容易に第2支持層内に含浸する。なお、第2支持層の臨界表面張力は、JIS−K6768(1999)に準拠して測定されるぬれ張力を意味する。
【0088】
上記分散液の平均塗布厚さ(ウェット厚さ)は、形成する半透膜層の平均厚さにより設定されるが、例えば1μm以上50μm以下とすることができる。
【0089】
(乾燥工程)
上記分散液の塗布後、上記分散液が含浸した支持体を乾燥することで、溶剤を除去し、第2支持層に含浸した半透膜層が得られる。なお、乾燥後にさらにアニール処理を行うことが好ましい。
【0090】
上記支持体の乾燥は室温(例えば25℃)で行うことができる。また、上記アニール処理の温度の下限としては、150℃が好ましく、180℃がより好ましい。一方、アニール処理の温度の上限としては、300℃が好ましく、250℃がより好ましい。また、アニール処理の時間の下限としては、10分が好ましく、20分がより好ましい。一方、アニール処理の時間の上限としては、1時間が好ましく、40分がより好ましい。アニール処理の温度又は時間が上記下限より小さいと、半透膜層の緻密性が低下するおそれがある。逆に、アニール処理の温度又は時間が上記上限を超えると、支持体や半透膜層が加熱により変形や損傷するおそれがある。
【0091】
なお、第2支持層の分散液の塗布面に予め表面改質を行っておくとよい。この表面改質としては、表面改質剤によるコーティングやプラズマ処理などが挙げられる。上記表面改質剤としては、例えばシランカップリング剤が挙げられる。
【0092】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0093】
当該半透膜は、支持体が複数の第1支持層又は/及び複数の第2支持層を有していてもよい。この場合、半透膜層が1対の第2支持層に挟持されるように構成するとよい。また、支持体は第1支持層及び第2支持層以外の層を有してもよい。
【0094】
また、当該半透膜は、ガス分離膜として好適に使用できるほか、逆浸透膜(RO膜)等の分離膜としても好適に使用可能である。
【0095】
ガス分離膜としては、当該半透膜は酸素富化機能を奏するため、酸素発生器として、例えば呼吸器疾患における酸素吸入ヒーリング(酸素カプセル、エアーコンディショナーなど)、燃焼機関の燃焼効率向上、NOx低減酸素センサー用隔膜(酸素より大きい酸性物質H
2Sなどからのセンサーの保護)等の用途に適用できる。
【0096】
また、当該半透膜は二酸化炭素富化機能を奏するため、二酸化炭素発生器として、例えば農業ハウスや、海草、水草などの培養等の用途に適用できる。さらに、当該半透膜は窒素富化機能を奏するため、分析用や各種プロセスでの不活性ガスパージ用等の窒素発生器に適用できる。
【0097】
また、当該半透膜は、天然ガスやバイオガスから二酸化炭素とメタンとを分離するメタン濃縮装置、天然ガス改質や石炭ガス化法等で発生する水素と二酸化炭素との混合ガスから水素を抽出する水素抽出装置、火力発電所等からの二酸化炭素と窒素とを含む排ガスから二酸化炭素を抽出する二酸化炭素抽出装置などにも適用できる。この二酸化炭素抽出は温暖化対策やドライアイスの製造に寄与する。
【実施例】
【0098】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0099】
<実施例1>
第1支持層としては、平均流量孔径0.45μm、平均厚さ70μmの延伸ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム(住友電工ファインポリマー社の「ポアフロン(登録商標)FP−045−80」)を用いた。
【0100】
次に、以下のように第2支持層を形成した。まず、PTFE分散液(旭硝子社の「AD911」)、パーフルオロメチルビニルエステル共重合体(MFA)ラテックス及びテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)共重合体分散液(デュポン社の「920HP」)を混合した。これらの成分の配合比としては、MFA/(PTFE+MFA+PFA)及びFA/(PTFE+MFA+PFA)で表されるフッ素樹脂固形分の体積比率がそれぞれ2%となるようにした。この混合液に、ポリエチレンオキサイド(重量平均分子量200万)及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルトリエタノールアミン(花王社の「20T」)を、濃度がそれぞれ3mg/ml及び10mg/mlとなるように添加してフッ素樹脂分散液を調製した。
【0101】
次いで、平均厚さ50μmのアルミ箔をガラス平板の上に皺がないように広げて固定し、上記フッ素樹脂分散液を滴下した。その後、スライドシャフト(日本ベアリング社の「ステンレスファインシャフトSNSF型」、外径20mm、ステンレス鋼製)を転がすようにして上記フッ素樹脂分散液をアルミ箔の一方の面に均一に広げた。
【0102】
上記フッ素樹脂分散液塗布箔を80℃で60分間乾燥させ、次いで250℃で1時間加熱、さらに340℃で1時間加熱し、その後自然冷却することでアルミ箔の一方の面に第2支持層を形成した。この第2支持層の平均流量孔径は0.055μmであり、平均厚さは2.6μmであった。
【0103】
次に、第1支持層と第2支持層との積層について説明する。まず、上記PFA共重合体分散液を蒸留水で4倍の容積に薄め、上記ポリエチレンオキサイド及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルトリエタノールアミンを濃度がそれぞれ3mg/ml及び10mg/mlとなるように添加し、PFA希釈分散液を調製した。
【0104】
次に、上記第2支持層とアルミ箔との積層体を、第2支持層側が上になるようにガラス平板の上に皺がないように広げて固定し、上記PFA希釈分散液を滴下し、上記スライドシャフトを用いて第2支持層上に均一に広げた。この塗布膜が乾燥する前に、上記第1支持層を重ね合わせた。このアルミ箔、第2支持層及び第1支持層の積層体を、80℃で60分間乾燥させ、次いで250℃で1時間加熱し、さらに320℃で1時間加熱し、最後に317.5℃で8時間加熱した。乾燥及び加熱後、アルミ箔を塩酸により溶解除去することで、第1支持層と第2支持層との積層体を得た。
【0105】
上記第1支持層と第2支持層との積層体の第2支持層側の面に、非晶質樹脂分散液としての非晶質フッ素樹脂分散液(旭硝子社の「サイトップ(登録商標)CTX809」)を平均厚さが30μmとなるように塗布した。この非晶質フッ素樹脂分散液を第2支持層の全体に含浸させた。塗布後、室温で15分、50℃で15分、80℃で30分乾燥させ、次いで200℃で30分アニール処理をすることで平均厚さ2.6μmの半透膜層を形成した。
【0106】
<比較例>
第1支持層として上記実施例1と同じ延伸PTFEフィルムを用い、この延伸PTFEフィルムの一方の面に、上記実施例1と同じ非晶質フッ素樹脂分散液を平均厚さが30μmとなるように塗布した。この非晶質フッ素樹脂分散液を第1支持層の全体に含浸させた。塗布後、室温で15分、50℃で15分、80℃で30分乾燥させ、次いで200℃で30分アニール処理をすることで平均厚さ2.6μmの半透膜層を形成した。
【0107】
<参考例>
実施例1と同様にして第1支持層及び第2支持層の積層体を作製し、上記積層体の第2支持層側の面に針で引っ掻き傷を付与した。続いて、上記積層体の第2支持層側の面に、実施例1と同様の非晶質フッ素樹脂分散液を平均厚さが30μmとなるように塗布した。この非晶質フッ素樹脂分散液を第2支持層の全体に含浸させた。塗布後、室温で15分、50℃で15分、80℃で30分乾燥させ、次いで200℃で30分アニール処理をすることで平均厚さ2.6μmの半透膜層を形成した。
【0108】
<半透膜の外観観察>
実施例1、比較例及び参考例の半透膜をそれぞれ片面側から目視で観察し、光沢の有無を確認した。
【0109】
<SEMによる半透膜の断面観察>
実施例1、比較例及び参考例の半透膜のそれぞれについて、SEMにより断面を観察し、断面の状態を確認した。
【0110】
<半透膜の欠陥検査>
実施例1、比較例及び参考例の半透膜のそれぞれについて、半透膜に含まれる欠陥の有無を検査した。この検査にはヘキサンを用い、実施例1及び参考例の半透膜についてはヘキサンを第2支持層側の面に塗布した。一方、比較例の半透膜についてはヘキサンを第1支持層の一方の面に塗布した。ヘキサンが半透膜を透過しこの半透膜が半透明になった場合は、半透膜に欠陥があると判断される。
【0111】
<透気度>
実施例1、比較例及び参考例の半透膜のそれぞれについて、透気度を測定した。透気度は、JIS−P8117(2009)に準拠して20ヶ所測定し、これらを平均することで求めた。
【0112】
これらの結果を表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
<半透膜の選択的透過性>
実施例1と同様にして半透膜層の平均厚さが5μm、支持体の平均厚さが25μmの半透膜を実施例2として作製した。この実施例2の半透膜を用いて、気体の選択的透過性を調査した。表2にヘリウム、窒素及びメタンの透過度及び透過係数を示す。また、表3にヘリウムと窒素との分離係数、ヘリウムとメタンとの分離係数、窒素とメタンとの分離係数を示す。分離係数は2種類の気体のうち一方の気体の透過率を他方の気体の透過率で除することにより求めることができる。ここで、半透膜の選択的透過性の実験は、JIS−K7126(2006)に準拠して行った。半透膜の加圧側と減圧側との圧力差は94.5cmHg、半透膜の透過面積は15.2cm
2であった。
【0115】
【表2】
【0116】
【表3】
【0117】
表2及び表3から、当該半透膜によればヘリウムを選択的に透過できることが分かる。
【0118】
さらに、実施例1と同様にして半透膜層の平均厚さが1.8μm、支持体の平均厚さが25μmの半透膜を作製した。その後、この半透膜に異なる混合ガスを実施例3〜5として供給し、それぞれの気体の選択的透過性を実施例2と同様に調査した。表4に各気体の透過度及び透過係数を示す。また、表5に実施例3〜5の気体間の分離係数をまとめて示す。さらに、表6に各実施例の半透膜に供給した混合ガスの分離前の各成分の体積比と、分離後の各成分の体積比とを示す。なお、半透膜の加圧側と減圧側との圧力差は実施例3で94.1cmHg、実施例4、5で94.5cmHgであり、半透膜の透過面積は15.2cm
2であった。
【0119】
【表4】
【0120】
【表5】
【0121】
【表6】
【0122】
表4〜6から、当該半透膜によれば、酸素、二酸化炭素及び水素についても選択的に透過できることが分かる。具体的には、当該半透膜によれば、実施例3に示されるように、二酸化炭素、酸素及び窒素の混合ガスから酸素濃度の高いガスを得ることができる。また、実施例4に示されるように、二酸化炭素及びメタンの混合ガスから高純度の二酸化炭素ガスを得ることができる。さらに、実施例5に示されるように、水素及び二酸化炭素の混合ガスから、高純度の水素ガスを得ることができる。