(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862663
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】防音床材の施工構造
(51)【国際特許分類】
E04F 15/18 20060101AFI20210412BHJP
E04F 15/02 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
E04F15/18 602F
E04F15/02 G
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-46164(P2016-46164)
(22)【出願日】2016年3月9日
(65)【公開番号】特開2017-160676(P2017-160676A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2019年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】前川 直輝
(72)【発明者】
【氏名】新名 勝之
【審査官】
西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−024413(JP,A)
【文献】
特開昭63−078961(JP,A)
【文献】
実開平07−010205(JP,U)
【文献】
特開2000−064580(JP,A)
【文献】
特開2004−116038(JP,A)
【文献】
特開2000−017823(JP,A)
【文献】
特開昭62−129461(JP,A)
【文献】
特開平06−299686(JP,A)
【文献】
中国実用新案第2926376(CN,Y)
【文献】
特開平08−302973(JP,A)
【文献】
特開2014−029065(JP,A)
【文献】
特開2007−046227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/18
E04F 15/02
E04F 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実部同士の係合により複数の防音床材を結合させつつ床下地上に設置した防音床材の施工構造であって、
前記防音床材は、側面部に前記実部を有する基材と、前記基材の表面側に積層された化粧シートと、前記基材の裏面側に積層された軟質材層と、を備え、
前記実部の下方に、前記実部と前記軟質材層と前記床下地とに囲まれた空間を形成し、該空間内にスペーサーを配して、該スペーサーにより前記実部を前記床下地上に支持し、
前記軟質材層は、前記基材側に配したクッション層と、前記床下地側に配した防音層とを備え、
前記クッション層と前記防音層を、ポリエチレンテレフタレート発泡体、フェノール樹脂発泡体、シリコーン発泡体、ユリア樹脂発泡体、またはアクリル樹脂発泡体で構成し、
前記スペーサーの厚さを前記軟質材層の厚さ−0.7mmよりも厚くし、且つ前記軟質材層の厚さ未満とした防音床材の施工構造。
【請求項2】
実部同士の係合により複数の防音床材を結合させつつ床下地上に設置した防音床材の施工構造であって、
前記防音床材は、側面部に前記実部を有する基材と、前記基材の表面側に積層された化粧シートと、前記基材の裏面側に積層された軟質材層と、を備え、
前記実部の下方に、前記実部と前記軟質材層と前記床下地とに囲まれた空間を形成し、該空間内にスペーサーを配して、該スペーサーにより前記実部を前記床下地上に支持し、
前記軟質材層は、前記基材側に配したクッション層と、前記床下地側に配した防音層とを備え、
前記クッション層をポリエチレン発泡体で構成し、
前記防音層をポリウレタン発泡体で構成し、
前記スペーサーの厚さを前記軟質材層の厚さ−0.7mmよりも厚くし、且つ前記軟質材層の厚さ未満とした防音床材の施工構造。
【請求項3】
前記軟質材層を構成する軟質材よりも硬質な樹脂発泡体で前記スペーサーを構成した請求項1又は請求項2に記載の防音床材の施工構造。
【請求項4】
前記スペーサーをエチレン酢酸ビニル共重合樹脂の発泡体で構成した請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の防音床材の施工構造。
【請求項5】
前記スペーサーの厚さを前記軟質材層の厚さ未満とし、
前記実部における前記防音床材の沈み込み量を0.7mm未満とした請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の防音床材の施工構造。
【請求項6】
鉤状の前記実部同士の係合により複数の防音床材を結合させた請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の防音床材の施工構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防音床材の施工構造に関する。
【背景技術】
【0002】
床下地上に施工された防音床材は、側面部に実部を有する基材と、基材の表面側に積層された化粧シートと、基材の裏面側に積層された軟質材層と、を備えている。軟質材層は軟質な樹脂発泡体等で構成されているため、下階に伝達する床衝撃音(足音など)を低減する効果を有している。しかしながら、人が防音床材を踏んだ際に軟質材層が圧縮されて防音床材が沈み込み、その結果、実部において音が発生する場合があった(以下「実鳴り」と記す)。軟質材層の硬度を高めて圧縮されにくくすると、実鳴りは生じにくくなるものの、防音性(床衝撃音の低減効果)が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−087158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、実鳴りが生じにくい防音床材の施工構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明の一態様に係る防音床材の施工構造は、実部同士の係合により複数の防音床材を結合させつつ床下地上に設置した防音床材の施工構造であって、防音床材は、側面部に実部を有する基材と、基材の表面側に積層された化粧シートと、基材の裏面側に積層された軟質材層と、を備え、実部の下方に、実部と軟質材層と床下地とに囲まれた空間を形成し、空間内にスペーサーを配して、スペーサーにより実部を床下地上に支持したことを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、実鳴りが生じにくい防音床材の施工構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態に係る防音床材の施工構造を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。
図1に示すように、本実施形態の防音床材の施工構造は、床下地20上に複数の防音床材10が設置されることにより構成されている。防音床材10は、側面部に実部10aを有する基材1と、基材1の表面側に積層された化粧シート2と、基材1の裏面側に積層された軟質材層3と、を備えている。このような構成の防音床材10の複数が、実部10a同士の係合により結合されつつ床下地20上に設置されている。防音床材10と床下地20は接着剤や両面テープで接着してもよいし、接着しなくてもよい。
【0009】
軟質材層3は、樹脂発泡体等の軟質な素材(軟質材)で構成されており、基材1側のクッション層4と床下地20側の防音層5との2層構造とされている。クッション層4は、例えばポリエチレン発泡体からなり、人が防音床材10を踏んだ際に良好な踏み心地を発現するためのクッション性を有している。また、防音層5は、例えばポリウレタン発泡体からなり、床衝撃音を低減する防音性(遮音性)を有している。なお、軟質材層3は、2層構造に限定されるものではなく、3層以上の複数層構造としてもよい。また、クッション性と防音性とを共に有するならば、軟質材層3は、例えば樹脂発泡体からなる単一層構造としてもよい。
【0010】
図1に示すように、実部10aの下方には、軟質材層3は配されておらず、実部10aと軟質材層3と床下地20とに囲まれた空間9が形成されている。そして、該空間9内には、軟質材層3を構成する軟質材よりも硬質な素材で構成されたスペーサー30が配されており、該スペーサー30により実部10aが床下地20上に支持されている。
【0011】
スペーサー30の形状を直方体状又は立方体状とし、各実部10aごとにそれぞれスペーサー30を配して、1つの実部10aを1つのスペーサー30で支持してもよい。また、スペーサー30の形状を長尺の棒状とし、1列に並んだ複数の実部10aの下方に、実部10aの列に沿うように棒状のスペーサー30を配して、複数の実部10aを1つの棒状のスペーサー30で支持してもよい。さらに、スペーサー30は、接着剤や両面テープで基材1に接着してもよいし、接着せず基材1と床下地20との間に挟み込むだけでもよい。
【0012】
従来においては、実部の下方にも軟質な軟質材層が配されているため、実部は下方から支持されていない状態となっている。そのため、人が防音床材を踏んだ際に軟質材層が圧縮されて防音床材が沈み込み、その結果、実鳴りが発生する場合があった。
これに対して本実施形態においては、実部10aがスペーサー30によって下方から支持されているため、人が防音床材を踏んだ際の防音床材10の沈み込みが抑制され、その結果、実鳴りが生じにくい。
【0013】
実部10aを確実に支持して防音床材10の沈み込みを抑制するためには、スペーサー30の厚さを軟質材層3の厚さ以下とすることが好ましく、軟質材層3の厚さと同一とすることがより好ましい。防音床材10が0.7mm以上沈み込むと実鳴りが生じやすいので、スペーサー30の厚さは、軟質材層3の厚さ−0.7mmよりも厚く且つ軟質材層3の厚さ以下とすることが好ましい。また、スペーサー30の素材は、軟質材層3を構成する軟質材よりも硬質な樹脂発泡体とすることが好ましい。例えば、スペーサー30の素材としては、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA樹脂)の発泡体があげられる。
【0014】
基材1の素材は特に限定されるものではなく、木や樹脂でもよいし、木と樹脂の複合材でもよい。
また、実部10aは基材1の側面部から外方に突出して設けられており、隣接する他の防音床材10の実部10aと係合して防音床材10同士を結合させることができるようになっている。実部10aの構造は、隣接する両防音床材10の実部10aが
図1のように鉤状となっていて、鉤状の上実と下実とが係合するようになっていてもよいし、一方の防音床材10の実部10aが凸状の雄実、他方の防音床材10の実部10aが凹状の雌実となっていて、雄実と雌実とが嵌合するようになっていてもよい。
【0015】
化粧シート2の種類は特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の樹脂を含有するフィルム又はシートを基材とする化粧シートや、チタン紙を基材とする化粧シートがあげられる。
【0016】
軟質材層3(クッション層4、防音層5)やスペーサー30の素材としては、上記に例示したものの他では、ポリスチレン発泡体、ポリウレタン発泡体、ポリプロピレン発泡体、ポリエチレンテレフタレート発泡体、フェノール樹脂発泡体、シリコーン発泡体、ポリ塩化ビニル発泡体、ユリア樹脂発泡体、アクリル樹脂発泡体、ゴム発泡体等があげられる。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0017】
〔実施例〕
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
図1に示す防音床材と同様の構成の防音床材を製造した。すなわち、基材の表面側に化粧シートが積層され、裏面側にクッション層と防音層との2層構造である軟質材層が積層された防音床材を製造した。そして、この防音床材の複数を実部同士の係合により結合させつつ床下地上に設置した。防音床材(防音層)と床下地は両面テープで接着した。
【0018】
実部の下方には軟質材層が配されないように軟質材層を形成し、実部と軟質材層と床下地とに囲まれた空間を実部の下方に形成した。そして、該空間内に、軟質材層を構成する軟質材よりも硬質な素材で構成されたスペーサーを配し、該スペーサーにより実部を床下地上に支持した。
【0019】
防音床材の基材の素材は、ポリプロピレンと木粉とを混合した複合材である。クッション層の素材は圧縮倍率8倍のポリエチレン発泡体であり、防音層の素材は発泡倍率18倍のポリウレタン発泡体である。スペーサーの素材はEVA樹脂発泡体である。また、クッション層の厚さは3.5mmであり、防音層の厚さは3.4mmであり、スペーサーの厚さは6.9mmである(表1を参照)。
【0021】
(実施例2)
スペーサーの厚さが6.9mm未満である点以外は実施例1と同様である(表1を参照)。
(比較例1)
実部の下方に空間が形成されておらずスペーサーを使用しない点以外は実施例1と同様である(表1を参照)。すなわち、実部の下方には、クッション層と防音層との2層構造である軟質材層が配されている。
【0022】
(比較例2)
防音層の素材であるポリウレタン発泡体の発泡倍率が異なる点以外は比較例1と同様である(表1を参照)。
(比較例3)
防音層の素材であるポリウレタン発泡体の発泡倍率が異なる点以外は比較例1と同様である(表1を参照)。
【0023】
(比較例4)
防音層の素材であるポリウレタン発泡体の発泡倍率が異なる点以外は比較例1と同様である(表1を参照)。
(比較例5)
クッション層と防音層の厚さ及び防音層の素材であるポリウレタン発泡体の発泡倍率が異なる点以外は比較例3と同様である(表1を参照)。ただし、クッション層の厚さを大きくした分だけ防音層の厚さを小さくしたため、軟質材層の厚さは変わりない。
【0024】
(比較例6)
クッション層の素材であるポリエチレン発泡体の圧縮倍率が異なる点と、クッション層の厚さが異なる点と、防音層がない点以外は比較例5と同様である(表1を参照)。ただし、防音層をなくした分だけクッション層の厚さを大きくしたため、軟質材層の厚さは変わりない。
【0025】
このようにして製造した実施例1、2及び比較例1〜6の防音床材の施工構造について、人が防音床材を踏んだ際の踏み心地、実鳴り、及び防音性を評価した。結果を表1に示す。
踏み心地は、人が足で防音床材を踏んだ際の感触であり、防音床材の沈み込みが少ない方が踏み心地は良好である。表1においては、踏み心地が良好であった場合は○印で示し、踏み心地が不良であった場合は×印で示した。
【0026】
実鳴りは、人が足で防音床材を踏んで防音床材が沈み込んだ際に実部から発生する音である。表1においては、実鳴りが発生しなかった場合は○印で示し、実鳴りが発生した場合は×印で示した。
防音性は、標準軽量衝撃源を用いてJIS A1440−1に規定された方法により測定した。そして、靴履きでの歩行など比較的軽量の負荷で発生する硬い衝撃音のうち125Hz、250Hz、及び500Hzの衝撃音の低減レベルを判定した。なお、受音室の容積は60m
3であり、スラブの厚さは200mmである。表1においては、JIS A1419に規定された軽量床衝撃音の遮音等級がLL50であった場合は◎印で示し、LL55であった場合は○印で示し、LL55超であった場合は×印で示した。
【0027】
実施例1、2は、スペーサーによって実部が支持されているので、実鳴りが発生しなかった。また、踏み心地及び防音性も良好であった。
これに対して、比較例1は、スペーサーによって実部が支持されていないので、実鳴りが発生した。また、クッション層の厚さが不十分であるため、踏み心地が不良であった。ただし、防音層の機能は十分であったため、防音性は優れていた。
【0028】
比較例2は、比較例1と同様に、スペーサーによって実部が支持されていないので、実鳴りが発生した。また、比較例1の踏み心地を改善するために、防音層の素材であるポリウレタン発泡体の発泡倍率を低くしたが、踏み心地を改善するには至らなかった。ただし、防音層の機能は十分であったため、防音性は優れていた。
【0029】
比較例3は、比較例1、2と同様に、スペーサーによって実部が支持されていないので、実鳴りが発生した。また、比較例1、2の踏み心地を改善するために、防音層の素材であるポリウレタン発泡体の発泡倍率を比較例2よりもさらに低くしたが、踏み心地を改善するには至らなかった。防音層の機能は十分であったため、防音性は優れていたが、ポリウレタン発泡体の発泡倍率が低いため、比較例1、2と比べると防音性は若干低かった。
【0030】
比較例4は、比較例1〜3の踏み心地を改善するために、防音層の素材であるポリウレタン発泡体の発泡倍率を比較例3よりもさらに低くしたので、踏み心地が良好となった。また、スペーサーによって実部が支持されていないが、防音層の素材であるポリウレタン発泡体の発泡倍率を比較例3よりもさらに低くしたので、防音床材の沈み込みが低減され、実鳴りが発生しなかった。ただし、その結果、防音層の機能が低下し、防音性は不良となった。
【0031】
比較例5は、スペーサーによって実部が支持されていないが、クッション層の厚さを大きくしたので、実鳴りが発生しなかった。また、踏み心地も良好であった。ただし、クッション層の厚さを大きくした分だけ防音層の厚さを小さくしたため、防音層の機能が低下し、防音性は不良となった。
【0032】
比較例6は、スペーサーによって実部が支持されていないが、クッション層の素材であるポリエチレン発泡体の圧縮倍率を高め且つクッション層の厚さを大きくしたので、実鳴りが発生しなかった。また、踏み心地も良好であった。ただし、防音層をなくしたため、防音性は不良となった。
【符号の説明】
【0033】
1 基材
2 化粧シート
3 軟質材層
4 クッション層
5 防音層
9 空間
10 防音床材
10a 実部
20 床下地
30 スペーサー