(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記第1信号及び前記第2信号に基づいて、前記検知対象が前記電波センサに近づいた距離又は前記検知対象が前記電波センサから離れた距離を示す移動量を算出し、前記移動量を前記検知対象の有無の判定に用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の衛生機器。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
本実施形態に係る衛生機器は、高周波の電波を放射するドップラーセンサなどの電波センサを有する。この衛生機器は、電波センサの出力に基づいて、器具の動作を制御するものである。以下では、まず、衛生機器として洋式腰掛便器を有するトイレ装置を例に挙げて説明する。但し、本実施形態は、小便器を有するトイレ装置や自動水栓装置にも適用可能である。
【0032】
図1は、本実施形態に係るトイレ装置を表す斜視図である。
図2は、本実施形態に係るトイレ装置の要部構成を表すブロック図である。
図1に表したトイレ装置は、洋式腰掛便器(以下説明の便宜上、単に「便器」と称する)800と、その上に設けられた衛生洗浄装置100と、を有する。衛生洗浄装置100は、ケーシング400と、便座200と、便蓋300と、を有する。便座200と便蓋300とは、ケーシング400に対して開閉自在にそれぞれ軸支されている。
【0033】
なお、本願明細書の説明において「方向」を用いる場合がある。この「方向」は、便座200に座った使用者からみた方向をいう。例えば、便座200に座った使用者の前方を「前方」とし、便座200に座った使用者の後方を「後方」とする。
【0034】
図2に表したように、ケーシング400の内部には、電波センサ(ドップラーセンサ410)と、制御部420と、被制御部401と、が設けられている。
ドップラーセンサ410は、マイクロ波又はミリ波などの高周波の電波を放射(送信)し、放射した電波の検知対象(被検知体)からの反射波を受信する。反射波には、被検知体の有無や状態に関する情報が含まれている。ドップラーセンサ410は、放射した電波と反射波とに基づいて、検知信号を出力する。制御部420は、ドップラーセンサ410から出力された検知信号に基づいて、被制御部401へ制御信号を出力する。これにより、被制御部401の動作が制御される。
【0035】
被制御部401は、洗浄ノズル473と、ノズルモータ476と、ノズル洗浄部478と、便座開閉ユニット441と、便蓋開閉ユニット442と、便器洗浄ユニット443と、脱臭ユニット444と、温風ユニット445と、便座暖房ユニット446と、を有する。この例では、ドップラーセンサ410の検知信号に基づいて制御される器具とは、被制御部401に含まれる上記の要素の少なくともいずれかである。
【0036】
洗浄ノズル473は、ノズルモータ476からの駆動力を受け、便器800のボウル801内に進出したり後退することができる。つまり、ノズルモータ476は、制御部420からの信号に基づいて洗浄ノズル473を進退させることができる。洗浄ノズル473は、吐水口474から水又は温水を噴射することができる。これにより、使用者の局部を洗浄することができる。ノズル洗浄部478は、その内部に設けられた図示しない吐水部から殺菌水あるいは水を噴射することにより、洗浄ノズル473の外周表面(胴体)を殺菌あるいは洗浄することができる。
【0037】
制御部420には、マイコンなどの回路が用いられる。便座開閉ユニット441は、制御部420からの信号に基づいて便座200を開閉できる。便蓋開閉ユニット442は、制御部420からの信号に基づいて便蓋300を開閉できる。使用者が例えばリモコンなどの操作部500を操作すると、便器洗浄ユニット443は、制御部420からの信号に基づいて便器800のボウル801内の洗浄を行うことができる。脱臭ユニット444は、フィルタや触媒などを介して臭気成分を低減させる。温風ユニット445は、便座200に座った使用者の「おしり」などに向けて温風を吹き付けて乾燥させる。便座暖房ユニット446は、トイレ室内に温風を吹き出してトイレ室を暖房する。
【0038】
図1に表したように、ドップラーセンサ410は、例えば便座200の後方に設けられている。具体的には、便座200の後方であってケーシング400の内部の前方部に設けられている。
【0039】
図2に表したように、ドップラーセンサ410は、発振器411と、送信部414(アンテナ)と、受信部416(アンテナ)と、ミキサ部418a、418bと、位相シフト手段413と、を有する。ドップラーセンサ410は、Ich信号とQch信号とを含む検知信号S0を出力するセンサである。この例では、送信側のアンテナと受信側のアンテナとは別々に設けられている。但し、送信側のアンテナと受信側のアンテナとを共通としてもよい。
【0040】
発振器411に接続された送信部414から、高周波、マイクロ波あるはミリ波などの10kHz〜100GHzの周波数帯の電波が放射される。例えば、10.50〜10.55GHzまたは24.05〜24.25GHzの周波数を有する送信波T1が、トイレ装置の前方に向けて放射される。受信部416は、人体などの検知対象からの反射波T2を受信する。
【0041】
送信波の一部(信号Sig1)及び受信波の一部(信号Sig2)は、ミキサ部418aに入力されて合成される。これにより、Ich信号が出力される。
【0042】
また、受信波の一部(信号Sig3)は、位相シフト手段413に入力される。位相シフト手段413は、信号Sig3の位相をずらして、信号Sig4を出力する。位相シフト手段413の一例としては、受信波をミキサ部418bへ伝える配線の長さや配置を変更する方法が挙げられる。信号Sig4と信号Sig3との位相差は、例えば60°以上120°以下であり、できるだけ90°に近いことが望ましい。この例では、信号Sig4と信号Sig3との位相差は、90°(π/2、4分の1波長)である。送信波の一部(信号Sig5)及び信号Sig4は、ミキサ部418bに入力されて合成される。これにより、Qch信号が出力される。
【0043】
図3は、ドップラーセンサの検知信号を例示する概念図である。
図3の横軸は、時間t(s:秒)を表し、縦軸は、信号の出力(V:ボルト)を表す。
【0044】
検知信号S0(Ich信号及びQch信号のそれぞれ)は、周波数の低いベースラインに周波数の高い信号が重畳した波形を有する。
【0045】
検知信号S0には、ドップラー効果に関する情報が含まれる。すなわち、送信波が移動する検知対象によって反射されると、反射波の波長がドップラー効果によってシフトする。ドップラーセンサ410に対して検知対象が相対的に移動すると、検知対象の速度に比例した周波数ΔFの成分を含む検知信号が得られる。従って、ドップラー周波数ΔFを測定することによって、検知対象の速度を求めることができる。
【0046】
また、検知信号S0には、定在波に関する情報(定在波信号)も含まれる。すなわち、ドップラーセンサ410と検知対象との間には、送信波と、検知対象によって反射された反射波と、が互いに干渉することによって定在波が生じている。
【0047】
図3には、Ich信号とQch信号とを表している。Qch信号の位相は、Ich信号の位相に対して90°ずれている。
例えば期間P1において、使用者がトイレ室に入室する。このとき、ドップラーセンサ410は、ドップラーセンサ410に近づく使用者からの反射波を受信する。これにより、検知信号は、ドップラー効果を反映して振動する。期間P2において、使用者が便座200に着座する。このとき、使用者は、ドップラーセンサ410に対して更に近づくため、検知信号は振動する。
【0048】
期間P3〜P5において、使用者は、便座200に座った状態である。期間P3及び期間P5においては、使用者は、静止している。期間P4のように、使用者が着座中に身体を前傾させたり、揺らしたりなどの動作を行うと、検知信号は、ドップラー効果に応じて振動する。
【0049】
期間P6において、使用者が便座200から離座する。このとき、使用者は、立ち上がってドップラーセンサ410から離れる。これにより、検知振動は、ドップラー効果を反映して振動する。期間P7において、使用者がトイレ室から退室する。このとき、使用者は、ドップラーセンサ410から更に離れるため、検知信号は振動する。また、
図3に表したように、検知信号の振幅は、検知対象(使用者)とドップラーセンサ410と間の距離が短いほど、大きい。
【0050】
このようなIch信号、Qch信号は、
図2に表したように、増幅回路421a、増幅回路421bにそれぞれ入力される。また、ドップラーセンサ410と制御部420との間には、適宜、ノイズを除くためのローパスフィルタなどのフィルタ回路(図示せず)が設けられる。Ich信号から定在波に関する第1信号S1(電圧Vi)が得られる。すなわち、制御部420は、検知信号に含まれる第1信号S1を取得する。例えば、第1信号S1は、定在波の信号強度を示し、Ich信号の直流成分を含む。
また、Qch信号から定在波に関する第2信号S2(電圧Vq)が得られる。すなわち、制御部420は、検知信号に含まれる第2信号S2を取得する。例えば、第2信号S2は、定在波の信号強度を示し、Qch信号の直流成分を含む。
以上より、検知信号を増幅してノイズが除かれた第1信号S1及び第2信号S2が得られる。なお、増幅回路やフィルタ回路は、制御部420に含まれていてもよい。
【0051】
制御部420は、取得した第1信号S1及び第2信号S2に基づいて、検知対象の有無や状態(動作)を判定する。制御部420は、判定結果に基づいて、被制御部401へ制御信号を出力する。これにより、例えば使用者の入室が検知されると、便蓋300が自動で開く。また、使用者の退室が検知されると、便蓋300が自動で閉じる。また、例えば、ドップラーセンサ410が使用者の着座を検知している場合に、使用者が操作部500を操作すると、洗浄ノズル473がボウル801内に進出し、吐水口474から水又は温水が噴射される。また、例えば、便座洗浄ユニット443及び脱臭ユニット444は、使用者の離座が検知されることで制御される。
【0052】
図4(a)及び
図4(b)は、実施形態に係る第1信号S1及び第2信号S2を説明する概念図である。
図4(a)に表したように、ドップラーセンサ410は、距離Lだけ離れた反射物Re(例えば人体などの検知対象)に向けて電波を放射し、その反射波を受信する。ここで、反射物Reは、例えば静止している。検知対象が移動していても静止していても、ドップラーセンサ410と検知対象との間には、送信波と反射波との干渉によって定在波が生じる。したがって、検知対象が静止していても、定在波の情報を含む第1信号S1及び第2信号S2を検知することが可能である。
【0053】
図4(b)は、静止した反射物Reとドップラーセンサ410との間の距離Lに対する、第1信号S1の値(電圧Vi)の変化を表す。また、
図4(b)は、距離Lに対する第2信号S2の値(電圧Vq)の変化を表す。第1信号S1と第2信号S2との位相差は、90°である。第1信号S1は、距離Lが変化すると、信号レベルSL1を中心に振動する。第2信号S2は、距離Lが変化すると、信号レベルSL2を中心に振動する。
【0054】
信号レベルSL1及び信号レベルSL2は、それぞれ、ドップラーセンサ410の周囲の環境に依存する。例えば、トイレ室には検知対象(人体)以外にも電波を反射する反射物が存在する。このため、ドップラーセンサ410の検知信号は、例えば、人体からの反射波と、それ以外の反射物からの反射波と、の干渉の影響を受ける。また、ドップラーセンサ410に含まれる各要素(例えば位相シフト手段413、ミキサ部418a、418bなど)の電気的特性は、周囲の温度などに依存する。このため、ドップラーセンサ410の検知信号は、周囲の温度の影響も受ける。以上により、信号レベルSL1及び信号レベルSL2は、周囲の環境によってそれぞれ変化し、信号レベルSL1と信号レベルSL2とは、互いに異なる場合がある。
【0055】
反射物までの距離Lが長くなると、ドップラーセンサ410が受信する反射波の強度が低くなる。このため、信号レベルSL1を中心とした第1信号S1の振幅は、距離Lが長いほど小さい。同様に、信号レベルSL2を中心とした第2信号S2の振幅は、距離Lが長いほど小さい。
【0056】
次に、第1信号S1及び第2信号S2に基づく、検知対象の有無や状態(動作)の判定について説明する。
図2に表したように、制御部420は、基準値算出手段422a、422b、差分算出手段423a、423b、判定部423及び駆動制御部430を有する。判定部423は、二乗和解析手段424、位相解析手段425、周波数解析手段426、接近離反量算出手段427及び判定手段428を有する。なお、
図2に表したブロック図は、一例であり、実施形態は、これに限定されない。例えば、制御部420に含まれる機能ブロックの一部は、適宜、分割又は統合されてもよい。例えば、判定部423と駆動制御部430とが別体として設けられていてもよい。
【0057】
第1信号S1は、基準値算出手段422a及び差分算出手段423aに入力される。基準値算出手段422aは、第1信号S1から信号レベルSL1を求め、その電圧値を基準値Vi_base(第1基準値)として、差分算出手段423aに出力する。差分算出手段423aは、第1信号S1の電圧Viと基準値Vi_baseとの差(電圧V
I)を算出する。すなわち、V
I=Vi−Vi_baseが算出される。電圧V
Iは、判定部423に入力される。
【0058】
同様に、第2信号S2は、基準値算出手段422b及び差分算出手段423bに入力される。基準値算出手段422bは、第2信号S2から信号レベルSL2を求め、その電圧値を基準値Vq_base(第2基準値)として、差分算出手段423bに出力する。差分算出手段423bは、第2信号S2の電圧Vqと基準値Vq_baseとの差(電圧V
Q)を算出する。すなわち、V
Q=Vq−Vq_baseが算出される。電圧V
Qは、判定部423に入力される。
【0059】
なお、例えば、ドップラーセンサ410は、1〜3ms(ミリ秒)程度ごとに測定及び検知信号の出力を行い、第1信号S1及び第2信号S2は、例えば1〜3ms程度ごとに制御部420に入力される。これに伴い、電圧V
I及び電圧V
Qは、例えば1〜3ms程度ごとに判定部423に入力される。
【0060】
図5(a)及び
図5(b)は、実施形態に係る判定部の処理を説明するグラフ図である。
図5(a)は、電圧V
I及び電圧V
Qの距離Lに対する変化を示す。すなわち、
図5(a)では、
図4(b)に表した電圧Vi及びVqからオフセットが除かれている。
【0061】
二乗和解析手段424は、電圧V
Iと電圧V
Qとの二乗和を算出する。すなわち、二乗和解析手段424は、
V
E2=V
I2+V
Q2
=|Vi−Vi_base|
2+|Vq−Vq_base|
2 (1)
を計算する。
図5(a)に表したように、電圧V
Eは、電圧V
I及び電圧V
Qの振幅を表す。
図5(a)において、電圧V
Eの波形は、電圧V
I(又は電圧V
Q)の波形の極大値をつなぐ曲線状である。
図5(b)は、XY直交座標系において、電圧V
Iの値をX座標とし、電圧V
Qの値をY座標とする点Pを示す。点Pを極座標系で表した場合の動径が電圧V
Eに相当する。
【0062】
前述した通り、電圧V
I及び電圧V
Qの振幅(電圧V
E)は、距離Lに依存する。従って、電圧V
Eを算出することにより、検知対象とドップラーセンサ410との間の距離Lを算出することができる。
【0063】
検知対象が静止している場合、例えば距離L=La(定数)の場合には、ドップラーセンサ410の検知信号からは、距離L=Laのときの電圧V
I及び電圧V
Qしか得ることができない。すなわち、検知対象が停止している場合には、
図5(a)に表したような電圧V
Iの波形及び電圧V
Qの波形が測定されない。このため、
図5(a)のように極大値から振幅(電圧V
E)を算出することができない。この方法では、検知対象が静止している場合、検知対象までの距離や検知対象の有無を判定することは困難である。
【0064】
これに対して、実施形態においては、
図5(b)に表したように、第1信号S1と基準値との差の二乗と、第2信号S2と基準値との差の二乗と、の和に基づいて、電圧V
Eを算出する。このため、検知対象が静止していたとしても、検知対象の有無を精度よく判定したり、検知対象までの距離を算出したりできる。例えば、トイレ装置においては、使用者がトイレ室内に居るか否かや、使用者が着座中であるか否かを精度よく判定することが可能となる。
【0065】
図6(a)及び
図6(b)は、ドップラーセンサを用いて検知対象までの距離を算出する参考例の方法を示すグラフ図である。
図6(a)は、
図5(a)に示した電圧V
I及び電圧V
Qを全波整流した信号|V
I|及び|V
Q|を表す。
図6(b)は、|V
I|と、|V
Q|と、の合成信号V
Sを示す。合成信号V
Sは、ある距離Lにおいて、|V
I|及び|V
Q|のうちのいずれか大きい方の値を有する信号である。
【0066】
図6(b)から分かるように、合成信号V
Sは、電圧V
Eを近似する。このため、検知対象の移動したときの電圧V
I及び電圧V
Qの波形が測定されている場合には、合成信号V
Sを算出することで、距離Lを推定することができる。この方法では、位相が異なる複数の出力を用いることによって、検出精度を向上させることができる。
【0067】
しかし、例えば、
図6(b)に表した距離L=Lbにおいては、電圧V
Eと合成信号V
Sとの差が比較的大きくなる。すなわち、推定される検知対象までの距離の誤差が比較的大きくなる。位相が互いに90°異なる2つの信号を用いた場合、電圧V
Eと合成信号V
Sとの差は、最大で電圧V
Eの29%程度となる場合がある。
【0068】
これに対して、実施形態においては、V
I2+V
Q2からV
Eを算出することができる。このため、上記のような誤差が生じない。したがって、参考例の方法に比べて、さらに精度を向上させることができる。なお、第1信号S1と第2信号S2との位相差が90°である場合には、V
I2+V
Q2=V
E2であるが、位相差が90°からずれると、V
I2+V
Q2のV
E2に対する誤差が大きくなる。位相差が60°以上120°以下の場合には、電圧V
Eの算出誤差を29%程度以下とすることができる。位相差は、90°にできるだけ近いことが望ましい。
【0069】
位相解析手段425は、ドップラーセンサ410の検知信号の位相θを算出する。例えば、位相θは、
図5(b)に表した点Pの極座標の偏角である。位相解析手段425は、式(2)〜(6)によって、位相θを算出する。
θ’=tan
−1(|Vq−Vq_base|/|Vi−Vi_base|) (2)
θ=θ’(点Pが第1象限に位置する場合) (3)
θ=π−θ’(点Pが第2象限に位置する場合) (4)
θ=π+θ’(点Pが第3象限に位置する場合) (5)
θ=2π−θ’(点Pが第4象限に位置する場合) (6)
位相θは、ドップラーセンサ410から検知対象までの距離Lの変化に伴って変化する。位相θの変化を検知することにより、検知対象の移動を検知することができる。また、位相θの変化量から距離Lの変化量(すなわち検知対象の移動距離)を算出することができる。
【0070】
距離Lの変化量は、
図5(a)に表した電圧V
Iの波形(または電圧V
Qの波形)から算出することも可能である。ドップラーセンサ410が放射する電波の波長をλとすると、
図5(a)に表した電圧V
Iの波形において、1つの波あたりの長さは、λ/2である。すなわち、ある極大値を与える距離Lと、その隣の極大値を与える距離Lと、の差は、λ/2である。例えば、ドップラーセンサ410が放射する電波の周波数が24GHz程度の場合には、λ/2は、6.2mm程度である。したがって、波の数を数えることにより、検知対象の移動距離を算出することができる。また、例えば、前述の位相θが360°変化することは、距離Lがλ/2変化することに相当する。
【0071】
図5(a)に表した電圧V
Iの波形において、波の数を数える方法は、極大値の数又は極小値の数を数える方法(ピーク検知)や、電圧V
Iがゼロとなる回数を数える方法(ゼロクロス検知)がある。しかしながら、ピーク検知やゼロクロス検知では、検知対象の移動距離は、例えばλ/2の倍数として算出されるため、検知対象の移動距離がλ/2よりも短い場合には、高い精度で検知対象の移動を把握することが困難である。
【0072】
これに対して、実施形態においては、第1信号S1及び第2信号S2に基づいて、位相θが算出される。位相θは、検知対象が静止していても、第1信号S1及び第2信号S2を取得するたびに算出可能である。距離Lの変化がλ/2に満たない場合、すなわち、位相θの変化量が360°未満の場合であっても、位相θの変化量を算出することができる。距離Lの変化が僅かであっても位相θの変化量を算出することができるため、高い精度で検知対象の移動を把握することができる。
【0073】
周波数解析手段426は、ドップラーセンサ410の検知信号の周波数fを算出する。周波数fは、位相解析手段425によって算出された位相θの単位時間当たりの変化量に対応する。すなわち、周波数解析手段426は、式(7)及び式(8)によって、周波数fを算出する。
f=Δθ/(2π×Δt) (7)
Δθ=θ(n)−θ(n−1) (8)
ここで、θ(n)は、n回目の検知信号から算出された位相θである。θ(n−1)は、n−1回目の検知信号から算出された位相θである。Δtは、n回目の検知信号が取得された時刻と、n−1回目の検知信号が取得された時刻と、の間隔である。Δtは、例えば1〜3ms程度である。なお、式(7)及び式(8)によって周波数fを複数回算出し、それらの値を平均してもよい。
【0074】
Δθ(位相θの変化量)は、検知対象の移動距離を表すため、周波数fは、検知対象の移動速度を表す。距離Lの変化が僅かであっても、位相θと同様にして、周波数fを算出することができる。したがって、高い精度で検知対象の移動を把握することができる。なお、例えば、検知対象がドップラーセンサ410に近づくときのΔθを正の値とし、検知対象がドップラーセンサ410から離れるときのΔθを負の値とする。
【0075】
また、接近離反量算出手段427は、所定の期間においてΔθの積分値S
θを算出する。既に述べたとおりΔθは距離Lの変化量を表すため、積分値S
θによって、所定の期間における検知対象の移動距離を算出することができる。すなわち、積分値S
θは、検知対象がドップラーセンサ410に近づいた距離(接近量)又は検知対象がドップラーセンサ410から離れた距離(離反量)を示す移動量である。なお、所定の期間の例については、後述する。
【0076】
判定手段428は、以上の電圧V
E、周波数f及び位相θを用いて、検知対象の有無や状態を判定する。例えば、使用者の入退室、着座、及び離座が判定される。各判定における判定条件については、後述する。
【0077】
判定手段428における判定結果は、駆動制御部430に入力される。駆動制御部430は、入力された判定結果に関する信号や、操作部500からの信号に基づいて、被制御部401へ制御信号を出力する。
【0078】
図7(a)〜
図7(c)は、使用者が着座動作及び離座動作を行った場合の制御部の処理を説明するグラフ図である。
図7(a)は、ドップラーセンサ410から出力されるIch信号及びQch信号を示す。
図7(b)は、
図7(a)に示したIch信号及びQch信号から算出された電圧V
Eを示す。期間P8において、使用者は便座200への着座動作を行っている。期間P9においては、使用者は便座200に着座中である。期間P10において、使用者は便座200からの離座動作を行っている。
図7(b)に表したように、使用者が着座動作を行うと、使用者とドップラーセンサ410との間の距離が短くなるため、電圧V
Eが高くなる。そして、使用者の着座中においては、電圧V
Eは高い値を維持する。使用者が離座動作を行うと、使用者とドップラーセンサ410との間の距離が長くなるため、電圧V
Eは低くなる。
【0079】
制御部420の判定手段428は、例えば、電圧V
Eの値が所定の閾値V
th1(>0)よりも大きいときは、使用者がトイレ室内にいると判定する(人体検知)。判定手段428は、電圧V
Eの値が閾値V
th1より小さいときは、使用者がトイレ室内にいないと判定する(人体非検知)。人体検知及び人体非検知から、使用者がトイレ室に入室したこと及びトイレ室から退室したことを判定できる(入室判定、退室判定)。
【0080】
判定手段428は、例えば、電圧V
Eの値が所定の閾値V
th2(>V
th1)よりも大きいときは、使用者が着座中であると判定する(着座検知)。判定手段428は、電圧V
Eの値が閾値V
th2より小さいときは、使用者が着座していないと判定する(着座非検知)。着座検知及び着座非検知から、使用者が便座200から立ち上がったことや便座200に座ったことを判定できる(離座判定、着座判定)。
【0081】
図7(c)は、
図7(a)に示したIch信号及びQch信号から算出された周波数fを示す。
図7(c)においては、使用者がドップラーセンサ410に近づいている場合の周波数fを正の値とし、使用者がドップラーセンサ410から遠ざかっている場合の周波数を負の値としている。なお、本願明細書において特に示さない場合、周波数fは、式(7)から算出される値の絶対値である。
【0082】
図7(c)に表したように、使用者が着座動作を行うと、使用者がドップラーセンサ410に近づくため、周波数fは正の値となる。着座中においては、使用者とドップラーセンサ410との間の距離の変化は小さいため、周波数fは略ゼロである。そして、使用者が離座動作を行うと、使用者がドップラーセンサ410から遠ざかるため、周波数fは負の値となる。
【0083】
電圧V
Eだけでなく周波数fも判定に用いることができる。例えば、期間P10のように、電圧V
Eが低く且つ周波数f(の絶対値)が大きい場合に、判定手段428は、使用者が離座を行ったと判定することができる。このように、周波数fも判定に用いることによって判定の精度を高めることができる。
【0084】
図8(a)〜
図8(c)は、使用者が便器の掃除を行った場合の制御部の処理を説明するグラフ図である。
図8(a)は、ドップラーセンサ410から出力されるIch信号及びQch信号を示す。
図8(b)は、
図8(a)に示したIch信号及びQch信号から算出された電圧V
Eを示す。
図8(c)は、
図8(a)に示したIch信号及びQch信号から算出された周波数fを示す。期間P11において、使用者は便器800の側方に立っている。期間P12において、使用者は屈んで便器800を掃除する。期間P13において、使用者は再び立ち上がって便器800の側方に立っている。
【0085】
前述した通り、この例ではドップラーセンサ410は、前方に向けて電波を放射する。このため、期間P11において使用者が便器800の側方に立っている場合には、使用者は電波を反射しない。したがって、
図8(b)に表したように、期間P11においては、電圧V
Eは低い。期間P12において使用者が掃除のために屈むと、ドップラーセンサ410から放射された電波が使用者に反射されるため、電圧V
Eは高くなる。その後、期間P13において使用者が立ち上がると、再び電圧V
Eは低くなる。このとき、
図8(c)に表したように、期間P13において、使用者の立ち上がる動作に応じて周波数f(の絶対値)は高くなる。
【0086】
図8(a)〜
図8(c)に示した例においても、例えば、期間P13において、周波数fが高く且つ電圧V
Eが低い場合に、判定手段428は、使用者が着座していないと判定することができる。
【0087】
図9(a)〜
図9(d)は、使用者が着座動作及び離座動作を行った場合の制御部の処理を説明するグラフ図である。
図9(a)は、ドップラーセンサ410から出力されるIch信号及びQch信号を示す。
図9(b)は、
図9(a)に示したIch信号及びQch信号から算出された電圧V
Eを示す。
図9(c)は、
図9(a)に示したIch信号及びQch信号から算出された周波数fを示す。
図9(d)は、
図9(a)に示した範囲R1の拡大グラフである。
【0088】
期間P14において、使用者は便座200への着座動作を行っている。期間P15においては、使用者は便座200に着座中である。この例では、着座中の使用者は、静止しておらず背中を掻くなどの動作を行っている。つまり、期間P15において使用者は、略連続的に手を動かしている。期間P16において、使用者は便座200からの離座動作を行っている。
【0089】
期間P14における電圧V
Eの変化、期間P16における電圧V
Eの変化は、それぞれ、
図7(b)の期間P8における電圧V
Eの変化、期間P10における電圧V
Eの変化と同様である。
【0090】
同様に、期間P14における周波数fの変化、期間P16における周波数fの変化は、それぞれ、
図7(b)の期間P8における周波数fの変化、期間P10における周波数fの変化と同様である。
【0091】
期間P15では、使用者が着座中のため、使用者とドップラーセンサ410との間の距離が短い。このため、
図9(b)に表したように電圧V
Eは高くなる。このとき、使用者の手は略連続的に動いているため、ドップラーセンサ410から出力される検知信号には、この手の動きに対応した成分が含まれている。例えば、
図9(d)に拡大して表したグラフのように、ドップラーセンサ410の出力には、手の動きに対応して、高周波成分が含まれる。しかし、
図9(c)に表したように、周波数fにおいては、使用者の手の動きに対応した成分は小さく、例えば実質的に無視できる程度の大きさである。このため、期間P15において周波数fは略ゼロとなる。
【0092】
このように、着座や離座などの胴体の動きによる周波数fの変化は大きいが、手の動きなどの微小な動作による周波数fの変化は小さい。これについて、
図10を参照して説明する。
【0093】
図10は、実施形態に係る制御部が解析する信号の概念図である。
図10は、
図5(b)に関して説明した極座標系に対応する。ドップラーセンサ410が使用者を検知していないとき、電圧V
Eは、例えばゼロである。このとき、
図10の点Aのように、動径が電圧V
Eである点は、基準点(例えば原点)に位置する。ドップラーセンサ410が使用者を検知すると、動径が電圧V
Eである点は、例えば
図10の点Bとなる。すなわち、極座標系において、点Bの位置ベクトルの大きさは、電圧V
Eの値と等しい。ドップラーセンサ410が使用者の動き(接近又は離反)を検知すると、位相θが変化する。すなわち、点Bは、基準点の回りを回転する。
【0094】
既に述べたとおり、電圧V
E(第1信号S1と第2信号S2から求められる振幅)は、ドップラーセンサ410が受信する反射波の強度により定まる。例えば、電圧V
Eを、使用者の胴体からの反射波に起因する成分と、使用者の手からの反射波に起因する成分と、に分けることができる。すなわち、点Bの位置ベクトルを、ベクトルV1(胴体接近に伴う信号ベクトル)と、ベクトルV2(手の動きに伴う信号ベクトル)と、に分解することができる。
【0095】
一般的に使用者の胴体は、使用者の手よりも大きい。このため、使用者の胴体からの反射波の強度は、使用者の手からの反射波の強度よりも高い。従って、ベクトルV1の大きさは、ベクトルV2の大きさよりも大きい。使用者の胴体が動くとベクトルV1が回転するため、点Bの位置を示す位相θは、例えば
図10に示した範囲R2のように、基準点を中心として360°の範囲で変化する。一方、使用者の胴体が静止した状態で、使用者の手が動いた場合には、ベクトルV1は変化せずにベクトルV2が変化する。このときには、点Bの位置を示す位相θは、例えば
図10に示した範囲R3のように、基準点を中心として変化する。
【0096】
このように、ベクトルV2はベクトルV1よりも小さいため、使用者の手の動きに伴って位相θが変化する範囲R3は狭い。以上説明したように、位相θの変化は、電波の反射量が大きいもの(胴体等)の動きを反映し、電波の反射量が小さいもの(手等)の動きの影響は小さい。手の動きによる位相θへの影響は、例えば無視できる程度である。これにより、例えば、使用者の着座中の微小動作と、離座動作と、を高い精度で判別することができる。
【0097】
次に、
図11(a)〜
図13(b)を参照して、第1信号S1の基準値及び第2信号S2の基準値の算出について説明する。
図11(a)〜
図11(c)は、本実施形態に係るトイレ装置を表す断面図である。
図11(a)〜
図11(c)に示した範囲R4は、ドップラーセンサ410から電波が放射される方向を示している。
【0098】
図11(a)は、便蓋300及び便座200が閉じている状態である。この状態では、ドップラーセンサ410から放射された電波の一部は、便蓋300及び便座200によって反射される。
図11(b)は、便蓋300が開き便座200が閉じている状態である。この状態では、ドップラーセンサ410から放射された電波の一部は、便蓋300によっては反射されず、便座200によって反射される。
図11(c)は、便蓋300及び便座200が開いた状態である。この状態では、ドップラーセンサ410から放射された電波の一部は、便蓋300及び便座によって反射されない。
【0099】
既に述べたとおり、第1信号S1の信号レベルSL1及び第2信号S2の信号レベルSL2は、ドップラーセンサ410の周囲の環境によってそれぞれ変化する。このため、
図11(a)〜
図11(c)に示した各状態の信号レベルSL1は、互いに異なる場合がある。また、
図11(a)〜
図11(c)に示した各状態の信号レベルSL2は、互いに異なる場合がある。同様に、信号レベルSL1及び信号レベルSL2は、温度によっても変化する場合がある。
【0100】
図12(a)及び
図12(b)は、第1信号及び第2信号を例示する概念図である。
図12(a)及び
図12(b)に示した例では、便蓋300が開く前の状態において、基準値Vi_baseと基準値Vq_baseとによって、電圧V
Iの振動の中心と、電圧V
Qの振動の中心と、が揃えられている。そして、便蓋300が開くことによって、ドップラーセンサ410の周囲の環境が変化するため、信号レベルSL1及び信号レベルSL2が変化する。この例では、便蓋300が開いた後には、信号レベルSL1は、信号レベルSL2と異なる。すなわち、便蓋300が開くことによって、信号レベルがずれた状態となる。
【0101】
差分算出手段423aで信号レベルSL1として用いられる基準値Vi_base、及び、差分算出手段423bで信号レベルSL2として用いられる基準値Vq_baseを更新しない場合は、
図12(a)に示すように、信号レベルがずれたままの状態である。その後、使用者が着座したときに、信号レベルがずれたままだと、電圧V
Eや位相θ等の算出に誤差が生じる。
【0102】
これに対して、実施形態においては、
図12(b)に示すように、便蓋300が開いた後に、基準値算出手段422aは基準値Vi_baseを更新し、基準値算出手段422bは基準値Vq_baseを更新する。これにより、使用者が着座したときには、信号レベルが揃えられている。従って、電圧V
Eや位相θ等の算出の誤差を抑制することができる。
【0103】
図13(a)及び
図13(b)は、実施形態に係る基準値算出手段の処理を例示するグラフ図である。
図13(a)に表した例では、基準値算出手段422aは、第1信号S1に基づいて、基準値Vi_baseの変更と、基準値Vi_baseの変更の停止と、を実行する。具体的には、第1信号S1の所定時間あたりの変化が所定の閾値V
th5未満であるときに、基準値算出手段422aは、基準値Vi_baseを更新する。すなわち、基準値Vi_baseは、ドップラーセンサ410が使用者を検知していないときに更新される。
そして、第1信号S1の所定時間あたりの変化が閾値V
th5以上であるときには、基準値算出手段422aは、基準値Vi_baseを更新しない。すなわち、基準値Vi_baseは、ドップラーセンサが使用者の入室を検知しているときには更新されない。
【0104】
同様に、基準値算出手段422bは、第2信号S2に基づいて、基準値Vq_baseの変更と、基準値Vq_baseの変更の停止と、を実行する。具体的には、第2信号S2の所定時間あたりの変化が所定の閾値V
th6未満であるときに、基準値算出手段422bは、基準値Vq_baseを更新する。すなわち、基準値Vq_baseは、ドップラーセンサ410が使用者を検知していないときに更新される。そして、第2信号S2の所定時間あたりの変化が閾値V
th6以上であるときには、基準値算出手段422bは、基準値Vq_baseを更新しない。すなわち、基準値Vq_baseは、ドップラーセンサ410が使用者の入室を検知しているときには更新されない。
【0105】
このように、ドップラーセンサ410が使用者を検知していないときに基準値を更新することで、環境の変化に対応することができる。例えば温度などによって信号レベルが変化しても、電圧V
Eや位相差θ等の誤差を抑制することができる。従って、判定の精度を高くすることができる。一方、使用者を検知しているときに基準値を変更しないことによって、基準値は正確に使用者不在時の第1信号S1及び第2信号S2の信号レベルに設定されるため、検知対象の有無を精度よく判定することができる。
【0106】
基準値Vi_base及び基準値Vq_baseは、器具の状態ごとに予め定められた値であってもよい。例えば、
図13(b)に表した例では、基準値Vi_base及び基準値Vq_baseは、便蓋300の状態ごとに予め定められている。
【0107】
具体的には、制御部420は、便蓋300が閉まった状態の基準値Vi_baseと、便蓋300が閉じた状態の基準値Vi_baseと、を記憶している。そして,便蓋300の各状態に応じて、基準値算出手段422aは、記憶された基準値Vi_baseのいずれかを出力する。
同様に、制御部420は、便蓋300が閉まった状態の基準値Vq_baseと、便蓋300が閉じた状態の基準値Vq_baseと、を記憶している。そして、便蓋300の各状態に応じて、基準値算出手段422bは、記憶された基準値Vq_baseのいずれかを出力する。
【0108】
このように器具(この例では便蓋300)の状態ごとに基準値を設定することによって、器具の状態の変化に対応することができる。器具の状態によって信号レベルが変化しても、電圧V
Eや位相差θ等の誤差を抑制することができる。従って、判定の精度を高くすることができる。
【0109】
また、基準値算出手段422aは、器具が作動した後の第1信号S1に基づいて、基準値Vi_baseを更新してもよい。具体的には、便蓋300が開いた後、便蓋300の動きが停止した状態となると、基準値算出手段422aは、その状態の第1信号S1から基準値Vi_baseを算出する。基準値Vi_baseの算出には、例えば、所定時間内の移動平均を用いることができる。
同様に、基準値算出手段422bは、器具が作動した後の第2信号S2に基づいて、基準値Vq_baseを更新してもよい。具体的には、便蓋300が開いた後、便蓋300の動きが停止した状態となると、基準値算出手段422bは、その状態の第2信号S2から基準値Vq_baseを算出する。基準値Vq_baseの算出には、たとえば、所定時間内の移動平均を用いることができる。
これにより、各状態に応じた基準値を用いて電圧V
Eや位相差θ等を算出することができる。従って、器具の状態の変化や、環境の変化(トイレ室毎の壁等の構造の変化や温度の変化)に対応することができる。電圧V
Eや位相差θ等の誤差を抑制することができ、判定の精度を高くすることができる。
【0110】
以下、実施形態に係る衛生機器の動作の具体例について説明する。
図14(a)〜
図14(e)は、実施形態に係る衛生機器の動作を例示するタイムチャートである。この例では衛生機器は、洋式腰掛便器を有するトイレ装置である。
図14(a)は、検知対象(使用者)の動作に伴う電圧V
Eの二乗(V
E2)の変化を示す。
図14(b)は、使用者の動作に伴う周波数fの変化を示す。
図14(c)は、使用者の動作に伴うΔθの積分値S
θの変化を示す。また、
図14(d)及び
図14(e)は、判定部423による判定結果(検知結果)を示す。
図14(d)は、使用者のトイレ室への入室の有無の判定結果を示し、
図14(e)は、使用者が便座に座っているか否かの判定結果を示す。
【0111】
時刻t
2において、使用者がトイレ室に入り始める。すると、使用者がドップラーセンサ410に接近するにつれてV
E2は大きくなる。このとき、周波数fは使用者の移動速度に応じて高くなる。また、積分値S
θは、使用者がドップラーセンサ410に接近した距離に応じて大きくなる。
【0112】
判定手段428は、時刻t
2〜t
3のように周波数fが所定の閾値f
th1よりも高い期間、及び、時刻t
3〜t
4のように周波数fが閾値f
th1を下回った時刻から所定の時間t
a以内の期間において、V
E2が所定の閾値V
th1よりも大きいと、検知対象が有ると判定する。すなわち、判定手段428は、使用者が入室したと判定する。または、判定手段428は、V
E2が閾値V
th1よりも大きくなり、且つ、積分値S
θが所定の閾値S
θth1よりも大きくなると、使用者が入室したと判定する。
【0113】
時刻t
6に使用者の入室が終了する。このとき、使用者の移動速度は低いため、周波数fは、所定の閾値f
th3以下となる。また、接近離反量算出手段427は、周波数fが閾値f
th3以下のときは、Δθの積分を行わない。
【0114】
例えば、V
E2及び積分値S
θによって使用者がトイレ装置に接近したことが分かると、制御部420は、便蓋開閉ユニット442に制御信号を送信する。これにより、時刻t
11において便蓋300が開き始める。その後、時刻t
12において便蓋300が開き終わり、便蓋300の動作が停止する。前述した通り、便蓋300の動作が停止すると、基準値算出手段422a及び422bは、基準値Vi_base及びVq_baseを更新する。
【0115】
便蓋300の動作が停止すると、積分値S
θはリセットされる。例えば、時刻t
12において、接近離反量算出手段427は、積分値S
θをゼロにする。すなわち、積分値S
θは、式(9)によって算出される。
【数1】
なお、k=m〜nは、積分が行われる時間の範囲を表す。前述のように便蓋300の動作が停止すると積分値S
θはリセットされるため、mは、器具(便蓋300)の動作が終了した時刻に対応する。すなわち、積分値S
θは、器具が作動した後におけるΔθの積分値である。このように、器具が作動した後に積分値S
θをリセットすることによって、器具が作動したことによる積分値S
θの変化を無視することができる。これにより、検知対象(使用者)の動きを正確に認識することができる。
【0116】
また、積分値S
θは、周波数fが閾値f
th3よりも高い期間におけるΔθの積分値である。例えば、周波数fが閾値f
th3よりも高い場合には、検知対象が動いたことを明確に判断できる。このような場合にのみ積分を行うことによって、検知対象の明確な動き以外による積分値S
θの変化を抑制することができる。これにより、検知対象の動きを正確に認識することができる。
【0117】
時刻t
21において、使用者が便座200への着座を開始する。すると、使用者がドップラーセンサ410に接近するにつれてV
E2は大きくなる。このとき、周波数fは使用者の移動速度に応じて高くなる。また、積分値S
θは、使用者がドップラーセンサ410に接近した距離に応じて大きくなる。
【0118】
判定手段428は、時刻t
23〜t
24のように周波数fが所定の閾値f
th2よりも高い期間、及び、時刻t
24〜t
25のように周波数fが閾値f
th2を下回った時刻から所定の時間t
b以内の期間において、V
E2が所定の閾値V
th2よりも大きいと、使用者が着座したと判定する。または、判定手段428は、V
E2が閾値V
th2よりも大きくなり、且つ、積分値S
θが所定の閾値S
θth2よりも大きくなると、使用者が着座したと判定する。
【0119】
例えば時刻t
31から時刻t
46のように、使用者が着座中であると判定されている間において周波数fが閾値f
th3以下の場合には、Δθは積分されない。
【0120】
時刻t
41において、使用者が便座200から立ち上がり始める。すると、使用者がドップラーセンサ410から離れるにつれてV
E2は小さくなる。このとき、周波数fは使用者の移動速度に応じて高くなる。また、積分値S
θは、使用者がドップラーセンサ410から離反した距離に応じて小さくなる。
【0121】
判定手段428は、時刻t
43〜t
44のように周波数fが所定の閾値f
th2よりも高い期間、及び、時刻t
44〜t
45のように周波数fが閾値f
th2を下回った時刻から所定の時間t
b以内の期間において、V
E2が所定の閾値V
th3よりも小さいと、使用者が離座したと判定する。または、判定手段428は、V
E2が閾値V
th3よりも小さくなり、且つ、積分値S
θが閾値S
θth2よりも小さくなると、使用者が離座したと判定する。
【0122】
その後、時刻t
51において、使用者は退室を始める。すると、使用者がドップラーセンサ410から離れるにつれてV
E2は小さくなる。このとき、周波数fは使用者の移動速度に応じて高くなる。また、積分値S
θは、使用者がドップラーセンサ410から離反した距離に応じて小さくなる。
【0123】
判定手段428は、時刻t
53のように周波数fが所定の閾値f
th1よりも高い時刻から所定の時間t
c以内の期間において、V
E2が所定の閾値V
th1よりも小さいと、使用者が退室したと判定する。または、判定手段428は、V
E2が閾値V
th1よりも小さくなり、且つ、積分値S
θが閾値−S
θth1よりも小さくなると、使用者が退室したと判定する。
【0124】
例えば、制御部420は、使用者が退室したと判定すると、便蓋開閉ユニット442に制御信号を送信する。これにより、時刻t
61において便蓋300が閉まり始める。その後、時刻t62において便蓋300が閉まり終わり便蓋300の動作が停止する。すると、基準値算出手段422a及び422bは、基準値Vi_base及びVq_baseを更新し、積分値S
θはリセットされる。
【0125】
以上説明したように、判定手段428は、電圧V
Eだけでなく、周波数f及び積分値S
θ(位相θ)も入室判定、退室判定、着座判定及び離座判定に用いることができる。使用者のドップラーセンサ410に対する姿勢によっては、使用者の入室中や着座中であっても、低い確率で電圧V
Eが低くなる場合がある。そこで、電圧V
Eだけでなく周波数f及び積分値S
θも判定に用いる。これにより、検知対象の動作後などに期間を限って判定を行ったり、検知対象の移動距離(接近量及び離反量)を判定に用いたりすることができ、誤検知を防ぐことができる。
【0126】
図15(a)〜
図15(d)は、実施形態に係る衛生機器の動作を例示するタイムチャートである。この例は、洋式腰掛便器を有するトイレ装置において使用者が小用を行う場合である。
図15(a)は、検知対象(使用者)の動作に伴う電圧V
Eの二乗(V
E2)の変化を示す。
図15(b)は、使用者の動作に伴う周波数fの変化を示す。
図15(c)は、使用者の動作に伴うΔθの積分値S
θの変化を示す。また、
図15(d)は、使用者のトイレ室への入室の有無の判定結果を示す。
【0127】
時刻t
102において、使用者がトイレ室に入り始める。すると、使用者がドップラーセンサ410に接近するにつれてV
E2は大きくなる。このとき、周波数fは使用者の移動速度に応じて高くなる。また、積分値S
θは、使用者がドップラーセンサ410に接近した距離に応じて大きくなる。
【0128】
判定手段428は、時刻t
102〜t
103のように周波数fが所定の閾値f
th1よりも高い期間、及び、時刻t
103〜t
104のように周波数fが閾値f
th1を下回った時刻から所定の時間t
a以内の期間において、V
E2が所定の閾値V
th1よりも大きいと、使用者が入室したと判定する。または、判定手段428は、V
E2が閾値V
th1よりも大きくなり、且つ、積分値S
θが所定の閾値S
θth1よりも大きくなると、使用者が入室したと判定する。
【0129】
時刻t
106に使用者の入室が終了する。このとき、使用者の移動速度は低いため、周波数fは、所定の閾値f
th3以下となる。また、接近離反量算出手段427は、周波数fが閾値f
th3以下のときは、Δθの積分を行わない。
【0130】
例えば、V
E2及び積分値S
θによって使用者がトイレ装置に接近したことが分かると、制御部420は、便蓋開閉ユニット442に制御信号を送信する。これにより、時刻t
111において便蓋300が開き始める。
その後、時刻t
112において便蓋300が開き終わり、便蓋300の動作が停止する。前述した通り、便蓋300の動作が停止すると、基準値算出手段422a及び422bは、基準値Vi_base及びVq_baseを更新する。また、便蓋300の動作が停止すると、積分値S
θはリセットされる。
【0131】
時刻t
121において、使用者が操作部500を操作する。これにより制御部420から便座開閉ユニット441へ制御信号が送信され、便座200が開き始める。そして、時刻t122において便座200が開き終わり、便座200の動きが停止する。便座200の動作が停止すると、基準値算出手段422a及び422bは、基準値Vi_base及びVq_baseを再び更新する。また、便座200の動作が停止すると、積分値S
θはリセットされる。
【0132】
その後、使用者が立った状態のままで用を足す。このとき、使用者の胴体はドップラーセンサ410に対して大きく動かないため、周波数fは、例えば閾値f
th3以下となる。使用者が用を足している間においても、周波数fが閾値f
th3以下の場合には、Δθは積分されない。
【0133】
その後、使用者は退室を始める。すると、使用者がドップラーセンサ410から離れるにつれてV
E2は小さくなる。このとき、周波数fは使用者の移動速度に応じて高くなる。また、積分値S
θは、使用者がドップラーセンサ410から離反した距離に応じて小さくなる。
【0134】
判定手段428は、時刻t
132のように周波数fが所定の閾値f
th1よりも高い時刻から所定の時間t
c以内の期間において、V
E2が所定の閾値V
th1よりも小さいと、使用者が退室したと判定する。または、判定手段428は、V
E2が閾値V
th1よりも小さくなり、且つ、積分値S
θが閾値−S
θth1よりも小さくなると、使用者が退室したと判定する。
【0135】
例えば、制御部420は、使用者が退室したと判定すると、便座開閉ユニット441及び便蓋開閉ユニット442に制御信号を送信する。これにより、便座200及び便蓋300が閉まり始める。その後、便座200及び便蓋300が閉まり終わり、動作が停止する。すると、基準値算出手段422a及び422bは、基準値Vi_base及びVq_baseを更新し、積分値S
θはリセットされる。
【0136】
図16(a)〜
図16(e)は、実施形態に係る衛生機器の動作を例示するタイムチャートである。この例では衛生機器は、小便器を有するトイレ装置である。
図16(a)は、検知対象(使用者)の動作に伴う電圧V
Eの二乗(V
E2)変化を示す。
図16(b)は、使用者の動作に伴う周波数fの変化を示す。
図16(c)は、使用者の動作に伴うΔθの積分値S
θの変化を示す。また、
図16(d)は、人体検知の結果(検知対象の有無の判定結果)を示す。つまり、この例では、ドップラーセンサ410によって、使用者が小便器に接近しているか否か、が判定される。
【0137】
時刻t
202において、使用者が小便器に接近する。すると、使用者がドップラーセンサ410に接近するにつれてV
E2は大きくなる。このとき、周波数fは使用者の移動速度に応じて高くなる。また、積分値S
θは、使用者がドップラーセンサ410に接近した距離に応じて大きくなる。
【0138】
判定手段428は、時刻t
202〜t
203のように周波数fが所定の閾値f
th1よりも高い期間、及び、時刻t
203〜t
204のように周波数fが閾値f
th1を下回った時刻から所定の時間t
a以内の期間において、V
E2が所定の閾値V
th1よりも大きいと、使用者が小便器に接近したと判定する。または、判定手段428は、V
E2が閾値V
th1よりも大きくなり、且つ、積分値S
θが所定の閾値S
θth1よりも大きくなると、使用者が小便器に接近したと判定する。
【0139】
時刻t
206に使用者の入室が終了する。このとき、使用者の移動速度は低いため、周波数fは、所定の閾値f
th3以下となる。
【0140】
その後、使用者が用を足す。このとき、使用者の胴体はドップラーセンサ410に対して大きく動かない。このため、使用者が腕などを動かしても、周波数fは、例えば閾値f
th3以下となる。接近離反量算出手段427は、周波数fが閾値f
th3以下のときは、Δθの積分を行わない。
【0141】
その後、使用者は小便器から離れ始める。使用者がドップラーセンサ410から離れるにつれてV
E2は小さくなる。このとき、周波数fは使用者の移動速度に応じて高くなる。また、積分値S
θは、使用者がドップラーセンサ410から離反した距離に応じて小さくなる。
【0142】
判定手段428は、時刻t
213のように周波数fが所定の閾値f
th1よりも高い時刻から所定の時間t
c以内の期間において、V
E2が所定の閾値V
th1よりも小さいと、使用者が小便器から離反したと判定する。または、判定手段428は、V
E2が閾値V
th1よりも小さくなり、且つ、積分値S
θが閾値S
θth2よりも小さくなると、使用者が小便器から離反したと判定する。
【0143】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、ドップラーセンサ410や制御部420や被制御部401などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などやドップラーセンサ410の設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。