特許第6862675号(P6862675)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862675
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】防振制御装置
(51)【国際特許分類】
   G03B 5/00 20210101AFI20210412BHJP
   H04N 5/232 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   G03B5/00 J
   H04N5/232
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-83755(P2016-83755)
(22)【出願日】2016年4月19日
(65)【公開番号】特開2017-194530(P2017-194530A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2019年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】311015207
【氏名又は名称】リコーイメージング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】大田 真己斗
【審査官】 越河 勉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−152330(JP,A)
【文献】 特開2012−163824(JP,A)
【文献】 特開2008−020703(JP,A)
【文献】 特開2000−180911(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0134639(US,A1)
【文献】 特開2015−169927(JP,A)
【文献】 特開2007−212556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 5/00−5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像装置の角度ぶれおよび/又は回転ぶれを検出する第1ぶれ検出手段と、
撮像装置の平行ぶれを検出する第2ぶれ検出手段と、
前記第1ぶれ検出手段の出力信号と前記第2ぶれ検出手段の出力信号とに基づいて像ブレ補正手段を駆動制御し、像ブレを抑える制御部とを備え、
前記制御部が、前記第1ぶれ検出手段の出力演算値が第1基準レベル以下の状態が所定期間継続した場合、前記所定期間以降において、前記第1ぶれ検出手段の出力演算値が第1基準レベルと異なる第2基準レベルを超えない限り、角度ぶれおよび/又は回転ぶれと平行ぶれのうち少なくともいずれか一方に対する像ブレ補正処理の補正効果を抑えることを特徴とする防振制御装置。
【請求項2】
前記制御部が、前記第1ぶれ検出手段の出力演算値が第1基準レベル以下の状態が所定期間継続した場合、前記所定期間以降において、角度ぶれおよび/又は回転ぶれに対する像ブレ補正処理および平行ぶれに対する像ブレ補正処理のうち少なくとも一方を実行しないことを特徴とする請求項1に記載の防振制御装置。
【請求項3】
前記制御部が、前記第1ぶれ検出手段の出力演算値が第1基準レベル以下の状態が所定期間継続した場合、前記所定期間以降において、前記第1ぶれ検出手段からの出力信号および第2ぶれ検出手段からの出力信号のうち少なくとも一方の出力信号から算出される像ブレ量に対し、1より小さい係数を乗じることを特徴とする請求項1に記載の防振制御装置。
【請求項4】
前記第2ぶれ検出手段が、前記第2ぶれ検出手段からの出力信号に基づいて算出される像ブレ量を抑えるデジタルフィルタをさらに備え、
前記制御部が、前記第1ぶれ検出手段の出力演算値が第1基準レベル以下の状態が所定期間継続した場合、前記所定期間以降において、前記デジタルフィルタ機能をONに定めることを特徴とする請求項1に記載の防振制御装置。
【請求項5】
第2基準レベルが、第1基準レベルよりも大きいことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の防振制御装置。
【請求項6】
前記第1ぶれ検出手段の出力演算値が、角速度もしくは位置であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の防振制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の防振制御装置を備えた光学機器。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手振れなどに起因する像ブレを抑える防振制御装置に関し、特に、像ブレ量の演算処理に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラなどでは、手振れによる画質低下を防ぐため、光学レンズあるいは撮像素子を光軸直交平面に沿って移動させる手振れ補正装置が設けられている。手振れには、大別して、ヨーイング、ピッチングなどの角度振れ、光軸中心周りの回転ぶれ、そしてカメラが垂直水平方向に動く平行ぶれ(並進ぶれ、シフトぶれともいう)がある。
【0003】
一般的な撮影条件、例えば遠距離で撮影倍率の低い撮影条件では、角度ぶれが支配的であり、平行ぶれによる像ブレの影響は少ない。しかしながら、至近距離で撮影倍率の高い撮影条件(マクロ撮影)などでは、平行ぶれによる影響が大きくなる。そのため、角度ぶれとともに平行ぶれを検出し、これらを合わせて像ブレ量を演算する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3513950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加速度センサの出力は、手振れ周波数域において、外乱ノイズ、温度変化、あるいは姿勢変化に伴う重力変化など、環境変化の影響を受けやすい。平行ぶれ量は加速度センサから出力される加速度を2回積分することによって得られるため、その変化に伴う誤差量は累積的に大きくなる。例えば、三脚を使った長秒露光による撮影の場合平行ぶれの累積的誤差が顕著となり、風などの影響によって揺れてしまう場合には高精度の手振れ補正を行うことが難しい。また、ジャイロセンサについても、累積的誤差が顕著になる場合もある。
【0006】
したがって、平行ぶれ、角度ぶれ、あるいは回転ぶれの検出が環境変化などによって影響を受けても、適切に像ブレ量を算出し、手振れ補正を精度よく行うことが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の防振制御装置は、光学機器、電子機器などに適用可能であり、撮像装置の角度ぶれと回転ぶれの少なくとも一方(以下、角度ぶれおよび/又は回転ぶれという)を検出する第1ぶれ検出手段と、撮像装置の平行ぶれを検出する第2ぶれ検出手段と、第1ぶれ検出手段の出力信号と第2ぶれ検出手段の出力信号とに基づいて像ブレ補正手段を駆動制御し、像ブレを抑える制御部とを備え、制御部が、第1ぶれ検出手段の出力演算値が第1基準レベル以下の状態が所定期間継続した場合、第1ぶれ検出手段の出力演算値が第1基準レベルと異なる第2基準レベルを超えない間、角度ぶれおよび/又は回転ぶれと平行ぶれのうち少なくともいずれか一方に対する像ブレ補正処理の補正効果を抑える。像ブレ補正効果を抑えるため、例えば第2基準レベルを、第1基準レベルよりも大きくすることができる。
【0008】
例えば制御部は、第1ぶれ検出手段の出力演算値が第1基準レベル以下の状態が所定期間継続した場合、角度ぶれおよび/又は回転ぶれに対する像ブレ補正処理および平行ぶれに対する像ブレ補正処理のうち少なくとも一方を実行しないようにすればよい。電源ON、レリーズボタン半押し、全押しなど撮影シーケンスの所定動作に合わせて像ブレ補正処理を実行する場合、実行/非実行の判断処理を所定時間間隔で実行し続け、所定動作時の判断内容に従って実行/非実行を定めることができる。
【0009】
また、制御部は、第1ぶれ検出手段の出力演算値が第1基準レベル以下の状態が所定期間継続した場合、第1ぶれ検出手段からの出力信号および第2ぶれ検出手段からの出力信号のうち少なくとも一方の出力信号から算出される像ブレ量に対し、1より小さい係数を乗じることもできる。あるいは、第2ぶれ検出手段が、第2ぶれ検出手段からの出力信号に基づいて算出される像ブレ量を抑えるデジタルフィルタを設けている場合、制御部は、第1ぶれ検出手段の出力演算値が第1基準レベル以下の状態が所定期間継続した場合、デジタルフィルタ機能をONに定めることができる。
【発明の効果】
【0010】
このように本発明によれば、様々な撮影条件に対して手振れの誤検出を防ぎ、適正な像ブレ補正処理を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態におけるデジタルカメラのブロック図である。
図2】手振れ補正装置を示した図である。
図3】演算部のブロック図である。
図4】撮影シーケンスのフローチャートである。
図5】像ブレ補正ON/OFFの判定処理を示すフローチャートである。
図6】、角速度の時系列的変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、図面を参照して本実施形態について説明する。
【0013】
図1は、第1の実施形態であるデジタルカメラのブロック図である。図2は、手振れ補正装置を示した図である。
【0014】
デジタルカメラ10は、カメラ本体20と、カメラ本体20に着脱自在に装着される撮影レンズ30とを備え、撮影レンズ30には、固定レンズ群31A、変倍レンズ群31B、フォーカシングレンズ群31Cを含む複数のレンズ群から成る撮影光学系31が収納されている。カメラ上部にはレリーズボタン(図示せず)が設けられており、カメラ背面にはLCDなどの画像モニタ24が設置されている。
【0015】
DSP(Digital Signal Processor)などで構成されるシステムコントロール回路40は、レリーズボタンさらには電源ボタン(図示せず)など操作部材に対する入力操作に応じて、撮影動作、画像記録処理、再生表示処理などカメラ全体の動作制御を行なう。カメラ動作制御に関するプログラムは、ROM(図示せず)などのメモリに記憶されている。
【0016】
スルー画像を表示する場合、撮影光学系31、絞り32を通った被写体からの光が、イメージセンサ22の受光面に結像する。システムコントロール回路40では、イメージセンサ22から順次読み出される1フィールド又は1フレーム分の画素信号に対し、ホワイトバランス調整、色変換処理などの画像信号処理などを施し、カラー画像データを生成する。生成された画像データにより、リアルタイムの動画像がスルー画像として画像モニタ24に表示される。
【0017】
システムコントロール回路40は、レリーズボタンが半押しされると、撮影操作スイッチ26からの信号によって半押し操作を検出する。そして、コントラスト方式によるAF処理を実行し、フォーカシングレンズ群31Cを駆動して焦点調整を行う。また、生成される画像データから被写体像の明るさが検出されることにより、シャッタスピード、絞り値などの露出値を演算する。
【0018】
さらにシステムコントロール回路40は、撮影操作スイッチ26からの信号によってレリーズボタンの全押しを検出すると、絞り/シャッタ駆動回路23を制御し、演算された露出値に基づいて絞り32、シャッタ21等を駆動する。これによって、1フレーム分の画像信号がイメージセンサ22から読み出される。
【0019】
システムコントロール回路40は、読み出された1フレーム分の画素信号に基づいて静止画像データを生成する。生成された静止画像データは、画像メモリ25に記録される。再生モードが設定されると、画像メモリ25に記憶された一連の記録画像のうち選択された画像が読み出され、画像モニタ24に再生表示される。
【0020】
ユーザはメニュー画面において撮影内容を選択することが可能であり、例えば、ブラケット撮影、あるいは、長秒露光撮影などを設定することが可能である。長秒露光撮影が設定されると、撮影時に数秒あるいはそれ以上の長時間に渡るシャッタスピードを設定して撮影を行う。
【0021】
撮影レンズ30は、撮影光学系31の解像力、絞り32の開口径などのレンズ情報データを記憶する通信用メモリ33を備えている。撮影レンズ30がカメラ本体20に装着されると、記憶されたデータがシステムコントロール回路40へ送られる。
【0022】
カメラ本体20内には、像ブレ補正装置50が撮影光学系31の後方に配置されている。像ブレ補正装置50は、図2に示すように、固定支持基板に対して光軸垂直平面に沿って移動可能な可動ステージ54を備えている。ただし、図2は、可動ステージ54を前方(撮影レンズ側)から見た図である。
【0023】
イメージセンサ22の背面は回路基板22bに装着されており、回路基板22bの開口部54a中央部に位置するように、回路基板22bが可動ステージ54に取り付け固定されている。回路基板22bの背面にはイメージセンサ駆動用FPC(Flexible Printed Circuits)55が接続されている。
【0024】
可動ステージ54の前面には、一対の駆動用巻き線コイル(ボイスコイル)C1、C2が、イメージセンサ22の下方側に所定間隔離れて配置されており、また、イメージセンサ22の左右両サイドに一対の駆動用巻き線コイルC3、C4が配置されている。巻き線コイルC1、C2、C3、C4は、可動ステージ54の裏面に固定された駆動制御用FPC56に実装されており、可動ステージ54に形成された開口部54b1、54b2、54b3、54b4から可動ステージ54の前面側に露出している。
【0025】
駆動制御用FPC56に実装された巻き線コイルC1、C2、C3の略中央には、ホールセンサH1、H2、H3が実装されている。前側ヨーク板(図示せず)の裏面(イメージセンサ22と向かい合う面)には、巻き線コイルC1、C2、C3、C4と対向する位置に永久磁石(図示せず)が配置されている。
【0026】
巻き線コイルC3、C4に駆動電流が流れると、巻き線コイルC3、C4は電磁石として機能し、コイル近傍において磁界変化が生じる。前側ヨーク板に設けられた永久磁石と巻き線コイルC3、C4との磁気相互作用により、可動ステージ54がX方向(カメラ横方向)に沿って移動する。また、巻き線コイルC1、C2に駆動電流が流れると、同様に磁気相互作用によって可動ステージ54がY方向(カメラ縦方向)に移動する。
【0027】
ジャイロセンサ28は、カメラ10のヨーイング、ピッチングの角度ぶれと、光軸周りの回転ぶれを検知する複数のジャイロセンサ28で構成されており、カメラ本体20のX,Y,Z3軸回りの角速度をそれぞれ検出する。演算部80は、ジャイロセンサ28からの出力信号(第1出力信号)に基づいて角度ぶれ、回転ぶれによる像ブレ補正量(変位量)を算出する。ただし、像ブレ補正量はX方向、Y方向それぞれの成分ごとに求められる。
【0028】
一方、加速度センサ29は、手振れのうち平行ぶれが生じたときの加速度を検知する。加速度センサ29は、例えばイメージセンサ22背面付近で光軸上に沿った場所に配置されている。ただし、加速度センサ29は、カメラ10を通常姿勢でユーザが保持したときの水平方向に対応するX方向(カメラ横方向)に沿った加速度検出用のセンサと、それに垂直なY方向に沿った加速度検出用のセンサをそれぞれ備え、X方向、Y方向に沿ってカメラ10が変位したときの加速度をそれぞれ検出する。演算部60は、加速度センサ29からの出力信号(第2出力信号)に基づいて、平行ぶれによる像ブレ補正量(変位量)を算出する。
【0029】
システムコントロール回路40は、ジャイロセンサ28、加速度センサ29からの出力信号に基づいて像ブレ補正量を演算する。そして、移動部材駆動回路59へ駆動信号を出力し、手振れによる像ブレを相殺するように可動ステージ54をX−Y平面に沿って移動させる。このとき、ホールセンサH1〜H3からの信号に基づいて可動ステージ54の位置をフィードバック制御する。
【0030】
加速度センサ29からの出力信号には、手振れによって生じる平行ぶれ方向の加速度成分だけでなく、重力加速度成分が含まれている。演算部60は、以下説明するように、ジャイロセンサ28からの出力信号を用いずに重力加速度成分を除去する。
【0031】
図3は、演算部60のブロック図である。ここでは、Y方向に応じた加速度センサ出力信号に対する演算部の構成について説明する。X方向に応じた加速度センサ出力信号に対しても同様の構成となる。
【0032】
演算部60は、ローパスフィルタ(LPF)62とハイパスフィルタ(HPF)64とを備え、さらに、HPF66、積分器68、HPF70、積分器72とを備える。HPF64、66は、重力加速度成分を除去する機能をもち、積分器68、HPF70、積分器72によって重力加速度成分を除いた並進振れ成分の像ブレ量を演算する。加速度センサ29から出力された信号は、LPF62の側(以下、サブ側という)とHPF66の側(以下、メイン側という)に分岐される。
【0033】
演算部60のサブ側では、LPF62によって高周波ノイズが除去された後、HPF64によって重力加速度成分が除去される。重力加速度(=9.8m/s)は一定値であり、その周波数は極めて小さいものとみなせる。HPF64は、重力加速度成分を短時間で正確に取り除く機能を有し、ここではHPF64のカットオフ周波数fmが、比較的大きな5Hzに定められている。
【0034】
HPF64は、積分器(図示せず)を備えており、重力加速度成分に応じた値が積算される。カットオフ周波数fm=5Hzの場合、時定数(=1/2πfm)はおよそ0.03秒となる。一般的に時定数の6倍で100%近く収束することから、およそ0.18秒程度で収束する。
【0035】
一方、メイン側に送られた加速度センサ29からの出力信号は、HPF66へ入力され、重力加速度成分が除去される。重力加速度成分除去後の信号は、平行振れに応じた加速度成分に相当し、積分器68、HPF70、積分器72を経由することで2回積分される。これにより、手振れ(並進振れ)による像ブレ量の値がシステムコントロール回路40へ入力される。システムコントロール回路40では、撮影倍率に応じて並進振れによる像ブレ量が補正される。
【0036】
HPF66は、HPF64と同様の回路構成であって、加速度センサ29からの出力信号が入力されると、重力加速度成分に応じた値が積分器に積算される。手振れの周波数が1Hz〜10Hzの範囲にあり、1Hz前後の平行振れ成分もHPF66を通過させることから、HPF66のカットオフ周波数fnは、サブ側のHPF64と比べて小さく設定されている。
【0037】
HPF66の非常に小さいカットオフ周波数fnでは、カメラ10の姿勢変化が生じてから平行振れの検出を有効に行うまでに時間がかかり、その間有効に像ブレ補正を行うことができない。そこで、サブ側のHPF64の積分値を利用したメイン側のHPF66の演算処理を、撮影シーケンスに応じて行う。
【0038】
具体的には、電源が立ち上がると、HPF64とHPF66両方において内部演算処理が行われ、図示しないレリーズボタンが半押し状態になる、あるいは電源立ち上げ直後などのタイミングで、サブ側のHPF64の積分値に対してカットオフ周波数比fm/fnを乗じた値を、HPF66に入力し、HPF66の積分値として出力させる。レリーズボタンが全押しされると、HPF64からHPF66への積分値入力を停止し、HPF66の動作によって重力加速度成分を除去する。
【0039】
本実施形態では、外乱などによって像ブレ量の誤差が増大するのを防ぐため、角度ぶれ、回転ぶれに対する像ブレ補正の実行/非実行および平行ぶれに対する像ブレ補正の実行/非実行を、ジャイロセンサ28からの出力信号に基づいて判断する。以下、これについて詳述する。
【0040】
図4は、撮影シーケンスのフローチャートである。図5は、像ブレ補正ON/OFFの判定処理を示すフローチャートである。
【0041】
電源がON状態になると、像ブレ補正ON/OFFの判定処理を実行開始する(S101)。そして、レリーズボタンが半押しされると合焦動作、露出演算処理が実行される。レリーズボタンが全押しされると、像ブレ補正ON/OFFの判定処理を終了する(S101〜S106)。したがって、レリーズ全押し時あるいはその直前の判定結果に基づいて、露光期間中の像ブレ補正処理を行う。なお、レリーズ半押しタイミングに合わせて像ブレ補正処理を実行してもよく、また、電源ON直後から続けて像ブレ補正処理を実行してもよい。
【0042】
図5に示す像ブレ補正ON/OFFの判定処理は、所定時間間隔で実行される。ステップS201では、像ブレ補正実行時の補正効果を表すフラグが「F2」であるか否かが判断される。本実施形態では、露光期間中に行われる像ブレ補正処理の実行判断基準となる閾値を、出力信号の出力変化に応じて切り替える。ここでは、相対的に低い閾値と角速度を大小比較する処理をフラグ「F1」で表し、相対的に高い閾値と角速度を比較する処理をフラグ「F2」とする。
【0043】
ステップS201においてフラグは「F2」ではなく「F1」に設定されていると判断されると、ステップS206へ進む。ステップS206では、角速度が第1基準レベルL1以下であるか否かが判断される。ただし、角速度の絶対値と第1基準レベルL1の絶対値の大きさが比較される。角速度が第1基準レベルL1以下の場合、像ブレ補正処理がOFF設定されるとともに(S207)、第1基準レベルL1以下の状態が一定期間A以上続いているか否かが判断される(S208)。なお、判定開始時ではフラグが「F1」に初期設定されている。
【0044】
図6は、角速度の時系列的変化を示したグラフである。三脚撮影の場合、手振れは生じておらず、検出される角速度は比較的小さな値に収まっている。したがって、ジャイロセンサ28からの出力信号レベルが低レベルである状態が一定期間A経過している場合、三脚撮影を行っているとみなすことができる。一定期間Aおよび閾値となる第1基準レベルL1は、事前に三脚撮影した場合のジャイロセンサ28から出力信号レベルを計測するなどによって定めることができる。
【0045】
ステップS208において、角速度が第1基準レベルL1以下である状態が一定期間A以上継続していると判断されると、フラグが「F2」に定められる(S209)。フラグF2が設定されると、次のルーチンにおいて、角速度は第2基準レベルL2以下であるか否か判断される(S201、S202)。
【0046】
図6に示すように、第2基準レベルL2は第1基準レベルL1よりもその絶対値が大きい。フラグが「F2」に設定された後角速度が第2基準レベルL2を超えなければ、像ブレ補正処理はOFFに設定される(S203)。したがって、図6に示すタイミングでレリーズボタンが全押しされた場合、像ブレ補正処理は露光期間中実行されない。
【0047】
一方、ステップS202において、角速度が第2基準レベルL2を超えていると判断されると、フラグが「F2」から「F1」に切り替わり、像ブレ補正処理がONに設定される。(S203、S204)。このような判定処理が、レリーズボタン全押しされるまで続けられる(図4のステップS101〜S106)。
【0048】
ここでは、X,Y,Z軸の中の1つの軸のジャイロセンサからの出力に基づいて判定処理を行っているが、2つ、3つの軸のジャイロセンサの出力信号を用いる場合、それらを複合的に取り扱う。例えば、重み付け係数を各軸のジャイロセンサ出力値に乗じて加算するなどして出力信号を合算する。
【0049】
このように本実施形態によれば、角度ぶれおよび回転ぶれに対する像ブレ補正処理と平行ぶれに対する像ブレ補正処理を行う像ブレ補正装置50を備えたデジタルカメラ10において、ジャイロセンサ28からの出力信号から検出される角速度が第1基準レベルL1以下であってその状態が期間A継続する場合、角速度が第1基準レベルL1よりも大きい第2基準レベルL2以下であれば、それ以降の区間Xでは像ブレ補正処理設定をOFFに設定する。
【0050】
撮影倍率の高い三脚撮影では、風の影響でカメラが軽く揺れてしまっても、累積検出誤差が大きくなる平行ぶれに対しては像ブレ補正効果を抑えたい。三脚撮影では、風がなければ像ブレがほとんど生じないことを考慮すれば、三脚撮影と判断することによって、その後風でカメラが揺られても瞬間的、例外的なものと捉えて像ブレ補正処理を実行させない。図6に従うと、期間A以降の区間Xでは、角速度が第2基準レベルL2以下である限り、像ブレ補正処理をOFF設定し、像ブレ補正処理を行われない。これによって、平行ぶれ誤検出による像ブレ補正処理実行を防止することができる。一方、手持ち撮影の場合、第1基準レベルL1を一定期間下回ることが困難であり、それでもなおユーザがたまたま一定期間手振れを生じないようにカメラを保持したとしても、角速度が第2基準レベルL2を超えるような手振れが発生すると、フラグF2からフラグF1に切り替わることによって、像ブレを効果的に抑えることができる。
【0051】
なお、本実施形態では、角度ぶれおよび回転ぶれに対する像ブレ補正処理と、平行ぶれに対する像ブレ補正処理のON/OFF設定を同時に行っているが、別々に判定を行ってもよい。また、角度ぶれおよび回転ぶれに対する像ブレ補正処理もしくは平行ぶれに対する像ブレ補正処理いずれか一方のみON/OFF判定をすることも可能である。例えば、平行ぶれによる像ブレ量の累積検出誤差が大きい場合、平行ぶれに対する像ブレ補正処理だけをON/OFF設定してもよい。
【0052】
さらに、像ブレ補正処理をON/OFF設定の代わりに、制御目標値(像ブレ量)に対し係数(<1)を乗算することによって、像ブレ補正効果を抑えるようにしてもよい。あるいは、演算される像ブレ量を小さくするデジタルフィルタを設け、条件を満たす場合にはデジタルフィルタ機能をONにさせてもよい。
【0053】
第1基準レベルL1と第2基準レベルL2の大小を入れ替えてもよい。また、角速度が第1基準レベルA以下の状態であっても像ブレ補正効果を抑制せず、角速度が第1基準レベルA以下の状態が期間Aを経過してから初めて像ブレ補正効果を抑制するようにしてもよい。さらに、ジャイロセンサの角速度の代わりに位置(変位量)に基づいて判定処理を行うことも可能であり、ジャイロセンサからの出力信号の演算値を用いればよい。
【符号の説明】
【0054】
10 デジタルカメラ(撮像装置)
20 カメラ本体
28 ジャイロセンサ(第1ぶれ検出手段)
29 加速度センサ(第2ぶれ検出手段)
30 撮影レンズ(光学機器)
40 システムコントロール回路(制御部)
50 像ブレ補正装置(像ブレ補正手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6