(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
  本発明に係る水処理システムは、少なくともカビ臭物質を含有する被処理水からカビ臭物質を除去して浄化するとともに、カビ臭物質を分解して無害化する水処理システムであり、水処理装置及び分解処理装置を備えている。
 
【0013】
  本発明に係る水処理装置は、通水圧損係数が200mmAq・s/cm
2以下でありかつ細孔径30Å以下の細孔容積が全細孔容積の95%以上である吸着素子に処理対象の水である被処理水を通流させ、吸着素子に被処理水中の少なくともカビ臭物質(例えば2−メチルイソボルネオール(以下、「2‐MIB」とも言う。))を吸着させて処理水を排出する吸着工程と、吸着素子にガスを通気させて、吸着素子に付着した付着水を除去する脱水工程と、吸着素子に加熱ガスを通気させて、吸着素子に吸着された少なくともカビ臭物質を脱着する脱着工程と、を順に繰り返し実行する装置である。
 
【0014】
  また、本発明に係る水処理装置は、以下の構成のものと言うこともできる。つまり、水処理装置は、吸着素子を収容した処理槽と、前記処理槽に接続され、前記処理槽内の前記吸着素子に被処理水を通流させて前記吸着素子に被処理水中の少なくともカビ臭物質(例えば2−メチルイソボルネオール)を吸着させ、処理水を排出する水通流部と、前記処理槽に接続され、前記処理槽内の前記吸着素子にガスを通気させて前記吸着素子に付着した付着水を除去するガス通気部と、前記処理槽に接続され、前記処理槽内の前記吸着素子に加熱ガスを通気させて前記吸着素子に吸着された少なくともカビ臭物質を脱着する加熱ガス通気部と、を備えた装置である。
 
【0015】
  本発明に係る水処理装置は、上記構成により、吸着素子の交換をする必要がなく、処理対象の被処理水に含まれるカビ臭の原因物質である2‐MIBを効果的に除去する水処理を連続的に行うことができる。以下、本発明に係る水処理装置の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
 
【0016】
  また、本発明に係る分解処理装置は、水処理装置から排出された排出ガスに含まれているカビ臭物質を分解して無害化するための装置である。分解処理装置としては、例えば、燃焼装置、有機溶剤回収装置、冷却凝縮装置などの一般的に用いられるガス処理装置を適宜選択することができる。
 
【0017】
  以下、本発明に係る水処理システムの実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明に係る水処理システムの一実施形態の概略構成を示している。本実施形態の水処理システム300は、水処理装置100及び分解処理装置200を備えている。
 
【0018】
  水処理装置100は、吸着素子11,12をそれぞれ収容した複数の処理槽10,20と、各処理槽10,20内に被処理水を導入するための被処理水導入ラインL1(水通流部)と、各処理槽10,20内にガスを供給するためのガス供給ラインL5(ガス通気部)と、各処理槽10,20内に加熱ガスを供給するための加熱ガス供給ラインL3(加熱ガス通気部)と、を備えている。また、本実施形態の水処理装置100は、各処理槽10,20内の吸着素子11,12により清浄化された後の水である処理水を排出するための処理水導出ラインL2(水通流部)と、各処理槽10,20内に供給されたガス及び加熱ガスを排出するためのガス排出ラインL4と、ガス排出ラインL4から分岐して被処理水導入ラインL1に還流する循環ラインL6(返送ルート)と、をさらに備えている。
 
【0019】
  なお、本実施形態の水処理装置100は、吸着素子11,12を収容した処理槽10,20を複数備えている。そして、ダンパーやバルブなどを用いて各ラインL1〜L6を制御し、被処理水を導入・導出する経路、ガスを供給・排出する経路、加熱ガスを供給・排出する経路を適宜切り替えることで、吸着工程を行う処理槽と、脱水工程を行う処理槽と、脱着工程を行う処理槽とに分けられている。これにより、吸着工程をいずれかの処理槽により連続して行うことが可能であり、いずれかの処理槽にて吸着素子による被処理水の清浄化(吸着工程)が行われている間、他の処理槽では吸着素子の再生化(脱水工程及び/又は脱着工程)を行うことが可能である。
 
【0020】
  図1に示すように、本実施形態の水処理装置100は、それぞれ吸着素子11,12を内部に収容した処理槽10,20を2つ備えている。なお、吸着素子11,12及び処理槽10,20の数は限定されない。後述する各処理槽10,20内における吸着工程、脱水工程及び脱着工程は、各バルブV1〜V12の開閉操作を行い、被処理水を導入・導出する経路、ガスを供給・排出する経路、加熱ガスを供給・排出する経路を適宜切り替えることで行われる。
 
【0021】
  各処理槽10,20には、被処理水導入ラインL1がそれぞれバルブV7,V8を介して接続されている。また、各処理槽10,20には、処理水導出ラインL2がそれぞれバルブV2,V4を介して接続されている。
 
【0022】
  水処理装置100は、被処理水導入ラインL1により各処理槽10,20内に被処理水を供給して各処理槽10,20内の吸着素子11,12に被処理水を通流させることで、被処理水に含まれる少なくとも臭気物質(特にカビ臭物質)を吸着する処理(吸着工程)が行われる。被処理水にカビ臭物質以外にも有機物質が含まれている場合には、吸着工程では、その有機物質も吸着される。これにより、被処理水が清浄化される。清浄化された後の処理水は、処理水導出ラインL4より各処理槽10,20の外部に排出される。
 
【0023】
  吸着素子11,12は、活性炭素繊維の構造体を含んでいる。活性炭素繊維は、表面に微細な細孔を均一に多数有しているので、被処理水中のカビ臭物質の極めて高い除去効率を実現できる。活性炭素繊維の構造体は、原料である繊維を後述する構造体に加工し、炭化・賦活して得ることができる。
 
【0024】
  原料となる繊維は、特に限定されるものではないが、例えばフェノール系繊維、セルロース系繊維、アクリロニトリル系繊維、ピッチ系繊維などが好ましい。中でも、フェノール系繊維は、炭化・賦活後の活性炭素繊維の収率が高く、繊維強度が強い点でさらに好ましい。
 
【0025】
  フェノール系繊維としては、フェノール樹脂に脂肪酸アミド類、リン酸エステル類、セルロース類よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物(配合物)を混合した混合物を紡糸して得られるフェノール系繊維を原糸としてもよい。これにより、さらに繊維強度を高めることができる。
 
【0026】
  活性炭素繊維の構造体としては、不織布、織物、編み物を挙げることができる。この中でも、不織布、織物、編み物が好ましく、織物、編み物のような繊維束(例えば糸)で形成されたシート状の構造体がより好ましい。編み物もしくは織物は、均一に繊維が交絡された不織布と比較して、糸で形成された構造体のため、吸着素子11,12内の活性炭素繊維が適度に粗密構造をとるとともに活性炭素繊維が規則正しく配列する構造をとる。よって、後述する吸着素子11,12の通水圧損係数が小さくなり、詳細は後述するが、吸着工程において吸着素子11,12を被処理水が通流しやすくなる、つまりは吸着素子11,12の通水効率が向上するので、多量の被処理水を吸着処理により清浄化することができる。加えて、吸着素子11,12を被処理水が通りやすくなることで、吸着素子11,12に付着する付着水の量が減少するので、脱水工程における吸着素子11,12の脱水効率を向上することもできる。織物と編み物とでは、編み物がさらに好ましい。同じ長さの経糸と緯糸との交錯によって格子状の構造となる織物と比較して、縦方向もしくは横方向に糸を編んだ構造をとる編物の方が、上述した粗密構造をとりやすいので、通水圧損係数がより小さくなって吸着素子11,12の通水効率及び脱水効率が向上するからである。なお、繊維束からなる活性炭素繊維の構造体は、織物や編み物に限定されず、例えば糸を固めてシート状にしたものであってもよい。
 
【0027】
  繊維束からなる活性炭素繊維の構造体が編み物である場合、編み物の組織構造は、フライス編(ゴム編)、天竺編(平編)、両面編(パール編)に分類されるニットの他、タック、ウェルトも含むよこ編、デンビー編、コード編、アトラス編などを含むたて編、またこれらの編組織を複合した編み物(例えば、フライス編とタック編とを複合した両畦編など)を挙げることができるが、特に限定されるものではない。なお、この中でも、フライス編は、適度な粗密構造をとるため好ましい。編物の例を
図2に示す。
 
【0028】
  繊維束からなる活性炭素繊維の構造体が織物である場合、織物の組織構造は、一重組織、重ね組織、添毛組織、からみ組織などを挙げることができるが、特に限定されるものではない。織物の例を
図3に示す。
 
【0029】
  繊維束からなる活性炭素繊維の構造体における繊維束の太さは、100μm〜600μmが好ましい。100μm未満の場合、繊維束の強度が低下し、吸着素子1,12として組織構造を保持できない可能性があり、600μmを超えると、より粗密構造をとるので、吸着工程時に被処理水のショートパスが生じるなど、吸着性能が低下する可能性があるからである。ここで、繊維束の太さは、構造体のSEM写真を用いて、複数箇所の直径を測定することから求めることができる。
 
【0030】
  また、繊維束として糸を用いる場合、糸は所定の番手の一本の糸で形成される単糸や、二本以上の単糸を撚って形成される撚糸などを挙げることができるが、上述した繊維束からなる活性炭素繊維の構造体における繊維束の太さに収まれば、特に限定されない。また、原料の糸の繊度は、綿繊度で40番手単糸〜5番手単糸、またその繊度に相当する撚糸(20番手双糸など)を想定できるが、炭化・賦活によって、糸径が収縮するため、原料の繊度は、活性炭素繊維の構造体として、好適な糸径の範囲となる繊度であればよい。
 
【0031】
  吸着素子11,12に用いられる活性炭素繊維の構造体は、その物性として、細孔径30Å以下の細孔の細孔容積が全細孔の細孔容積の95%以上である。本出願の発明者が、被処理水中のカビ臭の原因である2−MIBを効果的に除去するためにはどのような物性を吸着素子11,12が有する必要があるのかについて鋭意研究を重ねた結果、吸着素子11,12の所定径の細孔の割合に大きく関連しており、細孔径が30Å以下の細孔の細孔容積が全細孔の細孔容積の95%以上あれば2−MIBを効果的に吸着可能であり、カビ臭などの異臭のない水道水とすることができることを見出したため、本発明に係る水処理装置100の特徴とした。
 
【0032】
  細孔径30Å以下の細孔の細孔容積V(cm
3/g)、及び、全細孔の細孔容積Vp(cm
3/g)は、後述する測定方法により測定することができる。そして、V及びVpの値から、Vに対するVpの割合(%)を式:(V/Vp)×100から求めることができる。
 
【0033】
  また、吸着素子11,12に用いられる活性炭素繊維の構造体は、その物性として、通水圧損係数が200mmAq・s/cm
2以下である。通水圧損係数とは、被処理水が吸着素子11,12を通過する際の圧力損失の大きさを示し、通水圧損係数が小さいほど通水時の圧力損失が低く、被処理水が流れやすいことを示す。本発明に係る水処理装置100では、吸着素子11,12の通水圧損係数が200mmAq・s/cm
2以下と非常に小さいことから、吸着工程において吸着素子11,12により多くの被処理水を通流させて吸着処理することができる。これは、特に水道水などの浄水を清浄化する際に有効である。水道水などの浄水を清浄化するためには、1日で数千〜数十万tの多量の水を高速で吸着素子11,12に通して吸着処理する必要があるが、本発明に係る水処理装置100では、吸着素子11,12の通水効率が向上していることで、水道水などの浄水についても良好に処理することができる。尚且つ、上述の通り、吸着素子11,12が活性炭素繊維の構造体であるので被処理水との接触効率が高く、カビ臭物質の吸着サイトである細孔径30Å以下の細孔容積の割合が大きいため、吸着速度が速く、高速で通水しても十分なカビ臭物質の除去性能を得ることができる。なお、吸着素子11,12の通水圧損係数は、後述する測定方法により測定することができる。
 
【0034】
  なお、吸着素子11,12に用いられる活性炭素繊維の構造体の上記以外の物性は特に限定されるものではないが、吸着素子の吸着量や強度、コストなどを考慮すると、BET比表面積が900m
2/g〜2500m
2/gであることが好ましく、全細孔容積が0.4cm
3/g〜0.9cm
3/gであることが好ましい。なお、BET比表面積は、後述する測定方法により測定することができる。
 
【0035】
  なお、本実施形態では、吸着素子11,12は、活性炭素繊維の構造体を含む構成としているが、通水圧損係数が200mmAq・s/cm
2以下でありかつ細孔径30Å以下の細孔容積が全細孔容積 の95%以上の材料であれば、活性炭素繊維の構造体を含むものに限定されない。例えば、不織布や織物・編物の担持体(それ自体に吸着能は無い)に、30Å以下で粉末状の活性炭やゼオライトを添着して外表面積を増やした吸着素子を用いてもよい。また、これ以外の構成のものでもよい。
 
【0036】
  本実施形態では、処理対象の被処理水に含まれる処理対象物質は、2−メチルイソボルネオール(2−MIB)を例に説明しているが、以下の有機物質についても、本実施形態の水処理装置100は同様の除去効果がある。例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アクロレインなどのアルデヒド類、メチルエチルケトン、ジアセチル、メチルイソブチルケトン、アセトンなどのケトン類、1,4−ジオキサン、2−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル類、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのグリコール類、酢酸、プロピオン酸などの有機酸、フェノール類、トルエン、キシレン、シクロヘキサンなどの芳香族有機物質、ジエチルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのエーテル類、アクリロニトリルなどの二トリル類、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエチレン、エピクロロヒドリンなどの塩素有機物質、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドの有機物質、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン (PCDD)、ポリ塩化ジベンゾフラン (PCDF)、ダイオキシン様ポリ塩化ビフェニル (DL-PCB)などのダイオキシン類、テトラサイクリン、オセルタミビル、リン酸オセルタミビル、ベザフィブラート、トリクロサンなどの抗生物質、ベザフィブラート、フェノフィブラートなどの抗脂血症剤成分、ジクロフェナク、サリチル酸、アセトアミノフェンなどの解熱鎮痛剤成分、カルバマゼピンなどの抗てんかん剤成分、フミン酸、フルボ酸などのフミン物質、ヘキサメチレンテトラミン、ジオスミンなどを一例として挙げることができる。本実施形態の水処理装置100が処理する被処理水に含まれる処理対象物質は、これらのうちの1種類あるいは複数種類であってもよい。
 
【0037】
  図1において、各処理槽10,20には、ガス供給ラインL5及び加熱ガス供給ラインL3がそれぞれバルブV5,V6を介して接続されている。なお、ガス供給ラインL5及び加熱ガス供給ラインL3は、各処理槽10,20に接続される下流側の一部分が共通しており、上流側で分岐していて、それぞれバルブV11,V9を有している。さらに、各処理槽10,20には、ガス排出ラインL4がバルブV1,V3を介して接続されている。
 
【0038】
  吸着工程後、水処理装置100は、ガス供給ラインL5により各処理槽10,20内にガスを供給して各処理槽10,20内の吸着素子11,12にガスを通気させることで、各吸着素子11,12に付着した付着水を除去する処理(脱水工程)が行われる。各吸着素子11,12は、付着した付着水がガスの通流により除去されて乾いた状態となることにより、その後の加熱ガスによるカビ臭物質の脱着を容易にすることができる。吸着素子11,12にカビ臭物質以外の有機物質も吸着された場合には、その有機物質も脱着される。
 
【0039】
  脱水工程において各処理槽10,20内に供給されるガスは、例えば空気、窒素、不活性ガス、水蒸気などを挙げることができるが、特に限定されない。脱水工程にて脱水された付着水はガスとともにガス排出ラインL4より各処理槽10,20の外部に排出される。このとき、付着水は、バルブV12の開操作により循環ラインL6より被処理水導入ラインL1に還流され、被処理水として再び吸着素子11,12に通流させるために各処理槽10,20内に導入される。これにより、工程数を省略することができるので、効率的である。
 
【0040】
  脱水工程後、水処理装置100は、加熱ガス供給ラインL3によりにより各処理槽10,20内に加熱ガスを供給して各処理槽10,20内の吸着素子11,12に加熱ガスを通気させることで、各吸着素子11,12に吸着した少なくともカビ臭物質を除去する処理(脱着工程)が行われる。脱着工程において各処理槽10,20内に供給される加熱ガスは、例えば100〜400℃に加熱された空気、窒素、不活性ガス、水蒸気などを挙げることができ、特に限定されないが、本実施形態では加熱された水蒸気が用いられている。脱着工程にて脱着されたカビ臭物質は加熱ガスとともに脱着ガス(排出ガス)としてガス排出ラインL5より各処理槽10,20の外部に排出される。カビ臭物質以外の有機物質も脱着された場合には、脱着ガスにはその有機物質も含まれる。
 
【0041】
  各処理槽10,20から排出された脱着ガスは、本実施形態では冷却器30に供給されて冷却凝縮される。冷却器30は、脱着ガスを冷却する装置であり、脱着ガスの冷却方法は特に限定されない。例えば、冷却水などの冷媒を用いた熱交換により間接的に脱着ガスを冷却する方法を採用することができる。水処理装置100から排出された脱着ガスは、冷却器30にて冷却凝縮され、カビ臭物質などを含む濃縮水として濃縮水排出ラインL7から分解処理装置200に供給されて処理される。脱着ガスにカビ臭物質以外の有機物質が含まれていた場合には、その有機物質も分解処理装置200にて処理される。
 
【0042】
  分解処理装置200は、例えば
図4に示すように、曝気装置21及び燃焼装置22を備えた装置を用いることができる。
図4の分解処理装置200では、冷却器30から供給される濃縮水を曝気装置21にて曝気することでカビ臭物質をガス化させ、燃焼装置22でガス化したカビ臭物質を燃焼することでカビ臭物質を分解する。濃縮水にカビ臭物質以外の有機物質が含まれていた場合には、その有機物質も分解される。
 
【0043】
  曝気装置21は、曝気槽211及び曝気槽211へ気泡ガスを供給するガス供給器212を有している。曝気槽211では、冷却器30から供給された濃縮水がガス供給器212から発生する気泡と接触することで、濃縮水中のカビ臭物質がガス中に移動する。そして、曝気槽211からは、カビ臭物質濃度が低減された曝気水と、カビ臭物質を含んだ曝気ガスとが排出される。ここでも、カビ臭物質以外の有機物質が含まれていた場合には、その有機物質もカビ臭物質の処理に準じて処理される。
 
【0044】
  曝気水は、返水ラインL8より被処理水導入ラインL1に還流され、被処理水として再び吸着素子11,12に通流させるために各処理槽10,20内に導入することが好ましい。
 
【0045】
  燃焼装置22は、熱交換器221及び加熱炉220を備えている。曝気槽21から排出された曝気ガスは、曝気ガス排出ラインL9を通って燃焼装置22に供給されるが、まず、熱交換器221にて熱交換により予熱され、そして、加熱炉220に送られて、加熱炉220にて所定温度で燃焼される。このとき、曝気ガス中のカビ臭物質が酸化分解することで、清浄化された高温の処理ガスが清浄ガス排出ラインL10から排出される。ここでも、カビ臭物質以外の有機物質が含まれていた場合には、その有機物質もカビ臭物質の処理に準じて処理される。高温の処理ガスは、熱交換器221に送られ、熱交換器221にて曝気ガスとの熱交換で曝気ガスを予熱した後、装置外へ排出される。
 
【0046】
  燃焼装置22としては、曝気装置21から排出された曝気ガスを燃焼する装置であれば、特に限定されるものではなく、例えば、曝気ガスを650℃〜800℃の高温で直接的に酸化分解させる直接燃焼装置、白金触媒などを利用して曝気ガスを触媒酸化反応させて酸化分解する触媒燃焼装置、蓄熱体を利用して熱回収を行ないつつ経済的に直接酸化分解を行なう蓄熱式直接燃焼装置、白金触媒などと蓄熱体とを組み合わせて効率的に曝気ガスを触媒酸化反応させて酸化分解する蓄熱式触媒燃焼装置などを用いることができる。
 
【0047】
  また、分解処理装置200としては、
図5に示すような、冷却器30から供給される濃縮水中のカビ臭物質をラジカル類によって酸化分解する促進酸化法を用いた湿式酸化分解装置を用いることができる。
 
【0048】
  図5に示す分解処理装置200は、反応槽31を備えている。また、分解処理装置200は、ラジカル類を発生させる機器として、オゾン発生器32、紫外線ランプ33及び薬剤供給器34のいずれか1つ以上を備えている。なお、薬剤とは過酸化水素などの酸化剤である。反応槽31では、オゾン、薬剤、紫外線などが供給されることで、濃縮水中にヒドロキシラジカルなどのラジカル類が発生し、濃縮水中のカビ臭物質はラジカル類と酸化反応することで分解される。そして、カビ臭物質の濃度が低減された分解水が反応槽31から排出される。詳しくは説明しないが、フェントン法、電気分解法を用いた装置もラジカル類を発せさせて濃縮水中のカビ臭物質を酸化分解する湿式酸化分解装置である。この場合も、カビ臭物質以外の有機物質が含まれていた場合には、その有機物質もカビ臭物質の処理に準じて処理される。
 
【0049】
  分解水は、返水ラインL8より被処理水導入ラインL1に還流され、被処理水として再び吸着素子11,12に通流させるために各処理槽10,20内に導入してもよい。
 
【0050】
  以上、
図1を用いて説明した本実施形態の水処理システム300では、説明の簡略のため、ポンプやファンなどの流体搬送手段やストレージタンクなどの流体貯留手段などの構成要素を示していないが、これら構成要素は必要に応じて適宜の位置に配置すればよい。
 
【0051】
  上記構成の水処理システム300によれば、水処理装置100の吸着素子11,12は、被処理水中のカビ臭の原因である2−MIBを効果的に吸着可能な細孔径30Å以下の細孔容積が全細孔容積の95%以上であるから、被処理水中のカビ臭物質(2−MIB)を効果的に除去することができる。加えて、吸着素子11,12は、通水圧損係数が200mmAq・s/cm
2以下と非常に小さくて、吸着工程において吸着素子11,12を被処理水が通流しやすいので、水道水などの多量の水を吸着処理により清浄化することができる。さらに、効率的にカビ臭物質を除去できるため、後段の分解処理装置200を小型化でき、分解処理にかかるエネルギーを低減し、省エネルギーに貢献することができる。尚且つ、吸着素子11,12が活性炭素繊維の構造体であるので被処理水との接触効率が高く、カビ臭物質の吸着サイトである細孔径30Å以下の細孔容積の割合が大きいため、吸着速度が速く、高速で通水しても十分なカビ臭物質の除去性能を得ることができる
 
【0052】
  以上、本発明の一実施形態について説明したが、上述した実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないため、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内での全ての変更を含むものであり、よって、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
 
【0053】
  例えば、上述した実施形態では、水処理装置100は、吸着素子が複数(
図1では2つ)の処理槽にそれぞれ収容され、吸着工程を行う処理槽と脱水工程及び脱着工程を行う処理槽とを交互に切り替えることで吸着素子による吸着工程が連続して行われる構成となっている。しかし、吸着素子を回転可能とし、吸着工程でカビ臭物質を吸着した吸着素子の部位を、吸着素子の回転により、脱水工程、脱着工程へ移動するように水処理装置100を構成することによっても、水処理装置100として吸着素子による吸着工程を連続して行うことが可能である。
 
【0054】
  また、必ずしも吸着素子による吸着工程が連続して行われるように水処理装置100を構成する必要はなく、処理槽を1つとし、脱水工程及び脱着工程中は処理槽への被処理水の供給を一時的にストップしてタンクなどに貯水し、脱着工程後の吸着工程で一時的に貯水された被処理水も併せて吸着処理する構成としてもよい。
 
【実施例】
【0055】
  以下に本発明の実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
  フェノール系繊維であり、繊維径24μm、比表面積1950m
2/gの不織布である活性炭素繊維のシート状構造体を積層した吸着素子(厚み150mm・重量2kg)を作製し、
図1と同様のダンパー切替方式の水処理装置に設置した。なお、吸着素子の全細孔の細孔容積に対する細孔径30Å以下の細孔の細孔容積の割合は95%以上であり、吸着素子の通水圧損係数は140mmAq・s/cm
2であった。
【0057】
  吸着工程では、20ng/lの2−MIBを含む被処理水(水温30℃)を単位時間あたり48m
3/hの供給量で14時間処理槽に導入した。次の脱水工程では、0.1MPaの飽和水蒸気を処理槽に供給し、吸着素子に付着した水分を除去した。次の脱着工程では、0.1MPaの過熱水蒸気(250℃)を処理槽に供給し、吸着素子に吸着された2−MIBを脱着した。脱着された2−MIBを含む水蒸気は、冷却器にて液化凝縮し、濃縮水として回収した。
【0058】
  脱着工程が完了した後、再び吸着工程へ移行するサイクルを複数回実施し、吸着工程を計100時間行った。吸着工程を100時間行った後の出口2−MIB濃度は、表1に示すように1ng/l以下であり、2−MIBが効果的に除去されていた。また、表1に示すように、吸着工程に使用したポンプ電力は2.8KW/hであり、脱着工程に使用した水蒸気量は2.9kg/hであった。
【0059】
  また、水処理装置から排出された濃縮水は、
図5に示す分解処理装置へと導入し、分解処理装置では、ラジカルの発生源として、オゾン及び過酸化水素を供給し、河川に放流可能な濃度まで分解処理した。その際に使用した分解処理装置の消費電力は概算値で4kWであった。
【0060】
[実施例2]
  フェノール系繊維を用いた綿繊度10番手の糸を使用したフライス編を炭化・賦活処理して、糸径(繊維束の太さ)400μmの糸(繊維束)で、比表面積1950m
2/gの活性炭素繊維のシート状構造体を積層した吸着素子(厚み150mm・重量3kg)を作製し、
図1と同様のダンパー切替方式の水処理装置に設置した。なお、吸着素子の全細孔の細孔容積に対する細孔径30Å以下の細孔の細孔容積の割合は95%であり、吸着素子の通水圧損係数は85mmAq・s/cm
2であった。
【0061】
  吸着工程では、20ng/lの2−MIBを含む被処理水(水温30℃)を単位時間あたり48m
3/hの供給量で17時間処理槽に導入した。次の脱水工程では、0.1MPaの飽和水蒸気を処理槽に供給し、吸着素子に付着した水分を除去した。次の脱着工程では、0.1MPaの過熱水蒸気(250℃)を処理槽に供給し、吸着素子に吸着された2−MIBを脱着した。脱着された2−MIBを含む水蒸気は、冷却器にて液化凝縮し、濃縮水として回収した。
【0062】
  脱着工程が完了した後、再び吸着工程へ移行するサイクルを複数回実施し、吸着工程を計100時間行った。吸着工程を100時間行った後の出口2−MIB濃度は、1ng/l以下であり、2−MIBが効果的に除去されていた。また、表1に示すように、吸着工程に使用したポンプ電力は1.7KW/hであり、脱着工程に使用した水蒸気量は2.4kg/hであった。
【0063】
  また、水処理装置から排出された濃縮水は、
図5に示す分解処理装置へと導入し、分解処理装置では、ラジカルの発生源として、オゾン及び過酸化水素を供給し、河川に放流可能な濃度まで分解処理した。その際に使用した分解処理装置の消費電力は概算値で3kWであった。
【0064】
[比較例1]
  8/32メッシュの粒状の活性炭を積層した吸着素子(厚み150mm・重量80kg)を作製し、ダンパー切替方式のない水処理装置に設置した。なお、吸着素子の全細孔の細孔容積に対する細孔径30Å以下の細孔の細孔容積の割合は80%以下であり、吸着素子の通水圧損係数は80mmAq・s/cm
2であった。
【0065】
  比較例1では、20ng/lの2−MIBを含む被処理水(水温30℃)を単位時間あたり48m
3/hの供給量で100時間連続して処理槽に導入して吸着工程を行った。吸着工程を100時間行った後の出口2−MIB濃度は、1ng/l以下であり、2−MIBが効果的に除去されていた。また、表1に示すように、吸着工程に使用したポンプ電力は1.6KW/hであった。
【0066】
[比較例2]
  8/32メッシュの粒状の活性炭を積層した吸着素子(厚み150mm・重量12kg)を作製し、
図1と同様のダンパー切替方式の水処理装置に設置した。なお、吸着素子の全細孔の細孔容積に対する細孔径30Å以下の細孔の細孔容積の割合は80%以下であり、吸着素子の通水圧損係数は80mmAq・s/cm
2であった。
【0067】
  吸着工程では、20ng/lの2−MIBを含む被処理水(水温30℃)を単位時間あたり48m
3/hの供給量で15時間処理槽に導入した。次の脱水工程では、0.1MPaの飽和水蒸気を処理槽に供給し、吸着素子に付着した水分を除去した。次の脱着工程では、0.1MPaの過熱水蒸気(250℃)を処理槽に供給し、吸着素子に吸着された2−MIBを脱着した。脱着された2−MIBを含む水蒸気は、冷却器にて液化凝縮し、濃縮水として回収した。
【0068】
  脱着工程が完了した後、再び吸着工程へ移行するサイクルを複数回実施し、吸着工程を計100時間行った。吸着工程を100時間行った後の出口2−MIB濃度は、1ng/l以下であり、2−MIBが効果的に除去されていた。また、表1に示すように、吸着工程に使用したポンプ電力は1.6KW/hであり、脱着工程に使用した水蒸気量は36kg/hであった。
【0069】
  また、水処理装置から排出された濃縮水は、
図5に示す分解処理装置へと導入し、分解処理装置では、ラジカルの発生源として、オゾン及び過酸化水素を供給し、河川に放流可能な濃度まで分解処理した。その際に使用した分解処理装置の消費電力は概算値で15kWであった。
【0070】
【表1】
【0071】
  なお、実施例及び比較例における吸着素子の各物性の測定は、下記の方法により行った。また、処理槽入口・出口の水中の2−MIB濃度は、固相マイクロ抽出(SPME)−GC/MS法により分析し測定した。
【0072】
・細孔径30Å以下の細孔の細孔容積V
  相対圧力0〜0.95の範囲で上昇させたときの試料への窒素吸着量を複数点測定し、この結果をMP法によって解析範囲0〜30Å、t決定式H.Jの条件で解析し、吸着時の細孔径分布数表の結果より30Å以下の細孔容積V(cm
3/g)を算出した。
【0073】
・全細孔の細孔容積Vp
  全細孔容積Vp(cm
3/g)は、相対圧0.95における窒素ガスの気体吸着法により測定した。
【0074】
・BET比表面積
  BET比表面積(m
2/g)は、液体窒素の沸点(−195.8℃)雰囲気下、相対圧力0.0〜0.15の範囲で上昇させたときの試料への窒素吸着量を数点測定し、BETプロットにより試料単位質量あたりの表面積を求めた。
【0075】
・通水圧損係数
  通水圧損係数(mmAq・s/cm
2)は、厚み150mmに充填した吸着素子に対し、吸着素子に対して通水線速3mm/sで純水を通水した際の吸着素子の圧力損失(mmAq)を測定し、当該値を風速と厚みで除することにより求めた。
【0076】
  表1の結果から、比較例1は、実施例1及び実施例2と同程度の2−MIBの除去性能を得るためには、約27倍〜40倍の吸着素子重量が必要であり、尚且つ、100時間ごとに、新品に交換する必要がある。また、
図1と同様のダンパー切替方式の水処理装置に設置された比較例2でも、実施例1及び実施例2と同程度の2−MIBの除去性能を得るためには、約4倍〜6倍の吸着素子重量が必要であることが分かる。よって、実施例1及び実施例2では、比較例1及び比較例2に比べて、2−MIBの除去性能が極めて効果的であることが確認される。
【0077】
  また、表1の結果から、比較例2は、吸着素子から2−MIBを脱着させるのに必要な過熱水蒸気(加熱ガス)の量(脱着水蒸気量)が実施例1及び実施例2に比べて、12倍以上必要であり、その分、濃縮倍率が極めて低く、12倍以上の濃縮水が排出されて、濃縮水の処理エネルギーが余分に必要であることが分解処理装置の消費電力から確認される。よって、実施例1及び実施例2では、比較例2に比べて、吸着素子を再生するための再生エネルギーを大幅に低減できるうえ、濃縮水の処理エネルギーを大幅に低減できることが確認される。
【0078】
  さらに、表1の結果から、実施例2は、実施例1と比べて、吸着素子から2−MIBを脱着させるのに必要な脱着水蒸気量が低く、濃縮倍率が
高いことが分かる。よって、実施例2では、実施例1に比べて、吸着素子を再生するための再生エネルギーを低減できるうえ、濃縮水の処理エネルギーを低減できることが確認される。そのうえ、実施例2は、実施例1と比べて、吸着素子に被処理水を通流させるために必要な電力が低く、
吸着処理に必要なエネルギーが低減できることが分かる。よって、実施例2では、実施例1に比べて、水処理システム全体で、省エネルギー(低コスト)にて水処理が可能であることが確認される。