(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862703
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】反射型マスク及び反射型マスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20210412BHJP
【FI】
G03F1/24
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-143151(P2016-143151)
(22)【出願日】2016年7月21日
(65)【公開番号】特開2018-13616(P2018-13616A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】福上 典仁
【審査官】
冨士 健太
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−232844(JP,A)
【文献】
特開2004−029403(JP,A)
【文献】
特開2015−015420(JP,A)
【文献】
特開2008−205291(JP,A)
【文献】
特開2015−053433(JP,A)
【文献】
特開2001−203160(JP,A)
【文献】
特開2014−053576(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0041102(US,A1)
【文献】
韓国公開特許第10−2015−0056435(KR,A)
【文献】
特開2014−183075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00−1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に多層反射層及び吸収層がこの順に形成され、前記吸収層に設定した回路パターン領域の外側の少なくとも一部に、前記吸収層および前記多層反射層が除去されてなる遮光枠を有する反射型マスクであって、
前記遮光枠よりも前記回路パターン領域側の位置に、前記吸収層および前記多層反射層が除去されてなる補助パターンを有し、該補助パターンの幅は前記遮光枠の幅よりも小さく、
前記多層反射層の前記遮光枠に隣接する側面は、改質処理が施されておらず、
前記補助パターンの幅は、2μm以上10μm以下であり、
前記補助パターンは、前記遮光枠のエッジから当該補助パターンのエッジまでの距離が5μm以上50μm以下であり、
前記遮光枠及び前記補助パターンは、前記回路パターン領域の外周全周を閉じるものではないことを特徴とする反射型マスク。
【請求項2】
前記多層反射層は、前記多層反射層の前記遮光枠に隣接する側面における層構成と、前記側面から離れ、前記多層反射層の中央に位置する部分における層構成とが同じであることを特徴とする請求項1に記載した反射型マスク。
【請求項3】
前記多層反射層と前記吸収層との間に保護層を備え、
前記多層反射層の幅は、前記保護層の幅と同じであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した反射型マスク。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した反射型マスクの製造方法であって、
基板の表面に、多層反射層と、回路パターン領域を有する吸収層とがこの順に形成されたマスクブランクに対し、前記回路パターン領域にメインパターンを形成し、前記回路パターン領域の外周に前記補助パターン及び前記遮光枠を形成する際に、
前記メインパターンを形成した後に、前記補助パターン及び前記遮光枠を一つの工程で形成することを特徴とする反射型マスクの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した反射型マスクの製造方法であって、
基板の表面に、多層反射層と、回路パターン領域を有する吸収層とがこの順に形成されたマスクブランクに対し、前記回路パターン領域にメインパターンを形成し、前記回路パターン領域の外周に前記補助パターン及び前記遮光枠を形成する際に、
前記メインパターンを形成した後に前記補助パターンを形成し、その後、前記遮光枠を形成することを特徴とする反射型マスクの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した反射型マスクの製造方法であって、
基板の表面に、多層反射層と、回路パターン領域を有する吸収層とがこの順に形成されたマスクブランクに対し、前記回路パターン領域にメインパターンを形成し、前記回路パターン領域の外周に前記補助パターン及び前記遮光枠を形成する際に、
前記メインパターンを形成する前に前記補助パターンを形成し、前記メインパターンを形成した後に前記遮光枠を形成することを特徴とする反射型マスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス等をリソグラフィ技術により製造する際に使用するフォトマスクおよびその製造方法の技術に関する。より詳しくは、極端紫外領域の波長の光を光源としてパターン転写を行う際に適用可能な反射型マスク(EUVマスク)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路は性能及び生産性を向上させるために微細化、高集積化が進んでおり、回路パターンを形成するためのリソグラフィ技術についても、より微細なパターンを高精度に形成するための技術開発が進められている。これに伴い、パターン形成に使用される露光装置の光源についても短波長化が進められ、波長13.5ナノメートル(nm)の極端紫外光(Extreme Ultraviolet光。以下、「EUV光」と称する。)を用いたパターン転写のプロセスが開発されている。
EUV光を用いるリソグラフィでは従来の193nm等の深紫外光とは異なり、あらゆる物質の屈折率が1に近い値であり、吸収係数も大きいことから、屈折を用いた透過光学系を用いた露光ができない。そこで、屈折率差の大きい材料を交互に積層した多層膜ミラーを用いた反射光学系の露光装置が用いられている。具体的にはモリブデンとシリコンとを使用した多層反射膜が主に用いられる。
【0003】
フォトマスクについても同様に、基板上にモリブデンとシリコンとを交互に積層してなる多層反射膜を形成した上に、EUV光を高効率で吸収する材料で露光パターンを有する吸収層が形成される。たとえば吸収層の材料としてはタンタルを主成分とするものが典型的に用いられる。また、多層反射膜の最上層にはルテニウムなどを成分とする保護層が形成されているものも使用されている。
図1に反射型マスクブランク(EUVマスクブランク)の構造の一例を示す。
反射型マスクを用いて半導体基板上に転写回路パターンを形成する際、1枚の半導体基板上には複数の回路パターンのチップが形成される。隣接するチップ間において、チップ外周部が重なる領域が存在する場合がある。これはウエハ1枚あたりに取れるチップを出来るだけ増加したいという生産性向上の要請に応じて、チップを高密度に配置することから発生する場合がある。この場合、この領域については複数回(最大で4回)にわたり露光(多重露光)されることになる。この転写パターンのチップ外周部はマスク上でも外周部であり、通常、吸収層の部分である。しかしながら、吸収層上でのEUV光の反射率は、0.5〜2%程度あるために、多重露光によりチップ外周部が感光してしまう問題があった。このため、マスク上のチップ外周部に通常の吸収層よりもEUV光の遮光性の高い領域(以下、遮光枠と呼ぶ)を設ける場合がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、反射型マスクの吸収層から多層反射層までを掘り込んだ溝を形成することで多層反射層の反射率を低下させることにより、露光光源波長に対する遮光性の高い遮光枠21を設けた反射型マスクが提案されている。
図2にその構造を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−212220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この遮光枠を形成する為に多層反射層をエッチングにより除去すると、遮光枠の端部で多層反射層の応力が解放されることによって、遮光枠近傍のパターンに位置ずれが生じる。また、このような応力解放による変形においては、遮光枠の端部に近くになるにしたがって、その位置ずれ量は大きくなる。このことから、遮光枠よりも内側にあって遮光枠端部に近いパターンは基板中心から外側に向かって設計値よりも位置がずれてしまうことになる。
図3に遮光枠21を形成することによって発生する位置ずれのイメージを示す。
図3(a)は遮光枠形成前で、
図3(b)は遮光枠形成後である。破線A−A’の位置に遮光枠21のエッジが来るように遮光枠を作製しても、多層反射層02を除去すると変形によって遮光枠21のエッジの位置がずれ、それと同時にマスクパターン(破線B−B‘)も位置ずれが生じる。遮光枠エッジからの距離に対するパターン位置ずれ量の実測データを
図4に示す。パターン位置ずれが発生する領域(遮光枠21のエッジからの距離)や位置ずれの程度は、多層反射層の持つ内部応力の大きさに依存するが、現在の標準的な反射型マスクブランクでは、約600MPa程度の圧縮応力を有している。この場合、遮光枠21のエッジから約600umまでの領域において、およそ0.5nm以上の位置ずれが発生することが、弊社の実験および力学シミュレーションで確認している。すなわち、この領域に存在する半導体デバイスパターンは、本来あるべき位置からずれた場所に出来てしまう。
【0007】
このような位置ずれは、複数の層からなる半導体デバイスを順次リソグラフィ工程にて製造する場合に、各層の重ね合わせ精度低下を招き、半導体デバイスの動作不良の原因となってしまう。また、位置ずれを起こすパターンはデバイスパターンだけでなく、デバイスパターンの周辺に配置するチップアライメントマークにも影響するため、露光装置でこの位置ずれしたアライメントマークで露光アライメントを実施するため、デバイス回路パターン領域は設計よりやや縮小されて転写されてしまうことになり、ウエハ上に転写される像の位置精度(他のレイヤーとの重ね合わせ精度)が低下してしまう要因となってしまう。
【0008】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、反射型マスクに遮光枠を形成しても遮光枠近傍の回路パターンの位置ずれが小さい反射型マスクを提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題を解決するために、本発明の一態様の反射型マスクは、基板の表面に多層反射層及び吸収層がこの順に形成され、前記吸収層に設定した回路パターン領域の外側の少なくとも一部に、前記吸収層および前記多層反射層が除去されてなる遮光枠を有する反射型マスクであって、前記遮光枠よりも前記回路パターン領域側の位置に、前記吸収層および前記多層反射層が除去されてなる補助パターンを有し、該補助パターンの幅は前記遮光枠の幅よりも小さいことを特徴とする。
前記補助パターンの幅は、例えば10μm以下である。
また前記補助パターンは、例えば前記遮光枠のエッジから当該補助パターンのエッジまでの距離が1μm以上100μm以下である。
【0010】
また、本発明の一態様である反射型マスクの製造方法は、上記一態様の反射型マスクの製造方法であって、基板の表面に、多層反射層と、回路パターン領域を有する吸収層とがこの順に形成されたマスクブランクに対し、前記回路パターン領域にメインパターンを形成し、前記回路パターン領域の外周に前記補助パターン及び前記遮光枠を形成する際に、前記メインパターンを形成した後に、前記補助パターン及び前記遮光枠を一つの工程で形成することを特徴とする。
また、本発明の他の態様である反射型マスクの製造方法は、上記一態様の反射型マスクの製造方法であって、基板の表面に、多層反射層と、回路パターン領域を有する吸収層とがこの順に形成されたマスクブランクに対し、前記回路パターン領域にメインパターンを形成し、前記回路パターン領域の外周に前記補助パターン及び前記遮光枠を形成する際に、前記メインパターンを形成した後に前記補助パターンを形成し、その後、前記遮光枠を形成することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の他の態様である反射型マスクの製造方法は、上記一態様の反射型マスクの製造方法であって、基板の表面に、多層反射層と、回路パターン領域を有する吸収層とがこの順に形成されたマスクブランクに対し、前記回路パターン領域にメインパターンを形成し、前記回路パターン領域の外周に前記補助パターン及び前記遮光枠を形成する際に、前記メインパターンを形成する前に前記補助パターンを形成し、前記メインパターンを形成した後に前記遮光枠を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の態様によれば、多層反射層の除去による掘込み式の遮光枠を有する反射型マスクにおいて、遮光枠近傍の回路パターン領域に形成されたパターン部分の位置ずれを低減することが可能となる。その結果として半導体デバイス製造におけるレイヤー間の重ね精度が向上し、高品質かつ高い収率で半導体デバイスを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】一般的な遮光枠を有する反射型マスクの概略平面図である。
【
図3】一般的な遮光枠を有する反射型マスクの遮光枠形成による位置ずれのイメージで有り、(a)は遮光枠を形成する前の反射型マスクの遮光枠エッジ付近のイメージ図、(b)は従来の遮光枠を形成した後の反射型マスクの遮光枠エッジ付近での応力解放(局所変形)のイメージ図である。
【
図4】従来の反射型マスクの遮光枠形成による遮光枠近傍での位置ずれ量の例を示す図である。
【
図5】一般的な遮光枠でマスク基板上の位置を表す座標軸とマスク上に形成した遮光枠を示す概念図である。
【
図6】一般的な遮光枠で遮光枠の有無によるX軸方向のずれ量の差を計算した結果を示す図である。
【
図7】本発明に基づく実施形態に係る反射型マスクの概略平面図である。
【
図8】本発明に基づく実施形態に係る反射型マスクの遮光枠エッジ部を示し、(a)は拡大平面図、(b)は拡大断面図を示す。
【
図9】本発明に基づく実施形態に係る反射型マスクの遮光枠エッジ部での応力解放(局所変形)のイメージ図で有り、(a)は遮光枠を形成する前の反射型マスクの遮光枠エッジ付近のイメージ図、(b)は本発明に基づく補助パターン付き遮光枠を形成した後の遮光枠エッジ付近での応力解放(局所変形)のイメージ図である。
【
図10】反射型マスクブランクの概略断面図である。
【
図11】本発明に基づく実施形態に係る反射型マスクの作製工程(パターン形成まで)を示す概略断面図である。
【
図12】本発明に基づく実施形態に係る反射型マスクの作製工程(遮光枠および補助パターン形成)を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に基づく実施形態について図面を参照して説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造等が下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
図1は一般的な反射型マスクブランクの断面を図示したものである。反射型マスクブランク100は、
図1に示すように、基板01の上に、EUV光を反射する多層反射層02と、多層反射層02の保護層03と、パターンを形成する回路パターン領域を有する吸収層04とがこの順に形成されて構成される。また、基板01の裏面には静電チャックを使用するための導電膜05が形成されている。
ここで、以下の説明では、多層反射層02と吸収層04との間に保護層03を有する場合で説明するが、保護層03は存在していなくても良い。
【0016】
基板01としては、たとえば酸化チタンを含む酸化ケイ素からなる超低熱膨張ガラス(Low Thermal Expansion Material、以下LTEMと略記する場合もある)が用いられる。EUV光を反射する多層反射層02としては、例えば露光光の波長が13.5nmの場合、珪素からなる膜とモリブデンからなる膜とをおおよそ4nm、3nmとして交互に40ないし50対積層したものが用いられる。多層反射層02の表面には、多層反射層02の表面を保護するための保護層03が形成されていることが多く、その保護層03はキャッピング層などとも呼ばれる。吸収層04は、EUV光を吸収する性質の物質であり、たとえばタンタルを主成分とする膜が用いられる。吸収層04は、パターン欠陥検査の感度を高める等の目的で多層構造となっている場合もある。
【0017】
本実施形態の反射型マスクは、
図2に示すように、平面視で、前記の回路パターン領域22(露光領域)の外周部に遮光枠21が形成されている。反射型マスクで用いられる一般的な遮光枠の形態は、反射型マスクブランクの吸収層から多層反射層までを掘り込んで、つまり除去してなる溝を形成することで設けられる。この遮光枠21は、EUV光の反射率を低下させることにより、露光光源波長に対して高い遮光性を有する。
一般に反射型マスクブランクの多層反射層02は圧縮方向の内部応力(約600MPa)を持っている。多層反射層02を枠状にエッチング除去すると、多層反射層02が途切れる端面のところで圧縮応力が解放される。LTEMとして用いられているガラスと多層反射層02の弾性係数を比較すると、多層反射層02の方が数倍大きい。このため、遮光枠21より内側(回路パターン領域側)においては外側に向かって、遮光枠21より外側では内側に向かって多層反射層02が伸びる方向に変形し、これに伴う変形に、ガラスからなる基板01に発生する反発する力がつりあうところで、前記の変形は止まることになる。
【0018】
このようにして、遮光枠21のエッジで多層反射層02の応力が解放されることによって、遮光枠21の近傍に位置するパターンの部分に位置ずれが生じる。また、このような変形においては、パターンが遮光枠21のエッジに近くになるにしたがって、その位置ずれ量は大きくなる。このことから、遮光枠21よりも内側にあって遮光枠21のエッジに近いパターンは基板01の中心から外側に向かって設計値よりもずれてしまうことになる。例えば、
図3の(a)から(b)のように遮光枠21を形成することで、遮光枠形成前のメインパターンの位置(破線B−B‘)が、遮光枠形成後に外れてしまう。ここで、メインパターンとは、回路パターン領域に形成される回路パターンに相当するパターンを指す。
【0019】
この遮光枠21近傍のパターンの位置ずれ量は、実際にフォトマスクを作製し、遮光枠21形成前後のパターン位置を測定し、差分を出すことにより、位置ずれ量を求めることができる。実際に作製した反射型マスクで遮光枠形成前後での、遮光枠近傍でのパターン位置ずれ量を
図4に示す。
図4は、横軸は遮光枠21のエッジからの距離で、縦軸は位置ずれ量である。ただし、
図4は、本発明に基づく補助パターンを形成しない場合である。
図4から分かるように、遮光枠21に近づくほど位置ずれ量は大きくなっており、遮光枠21から遠ざかると位置ずれ量は小さく、後述の補助パターンを形成しない場合、遮光枠21のエッジから概ね600μm以上では、位置ずれ量が0.5nm以下となり、ほとんど見られない。ただし、この位置ずれの程度や遮光枠21エッジからの影響距離は、使用する反射型マスクブランクの持つ多層反射層の内部応力に依存するため、全てのブランクで一定というわけではない。
【0020】
また、位置ずれ量を求める別の方法として、例えば多層反射層02の内部応力値と各層(基板01、多層反射層02、吸収層04など)のポアソン比やヤング率などの機械的物性値を用いて、構造解析用のシミュレーションソフトウェアで計算・予測するという方法もある。
前記多層反射層02の内部応力は、多層反射層02を形成する前後の表面の平坦度を計測し、応力によって生じたたわみ量から計測することができる。たとえば、曲率半径と応力の関係を表すストーニーの式と呼ばれる式を適用しても良いし、より精密には構造解析用のソフトウェアで計算した結果とのフィッティングにより求めてもよい。
【0021】
図5は6インチ角の反射型マスクの中心を原点として、マスク上の位置を表す座標軸とマスク上に形成した2mm幅の遮光枠21を示している。前記の構造解析用のシミュレーションを用いて、X軸上の膜表面の各点について遮光枠形成によってずれるX方向の位置ずれ量を計算した結果を
図6に示す。ここで遮光枠21は基板の中心からX軸方向に52mmから54mmの2mm幅に形成した場合である。シミュレーションによって求めたこの結果は、実際に反射型マスクを作製して、遮光枠形成前後のパターン位置を測定し、その差分から求めた位置ずれ量の結果と非常によく一致する。
【0022】
(本実施形態の反射型マスクの遮光枠21の構造の説明)
本実施形態の反射型マスクは、このような遮光枠形成に伴う遮光枠近傍のパターンの位置ずれ量を低減できるフォトマスクである。本実施形態の反射型マスク500における全体像の概略平面図を
図7に示す。
図7に示すように、従来の反射型マスクと異なり、メインパターンを形成する回路パターン領域22と遮光枠21の間に補助パターン23が形成されている。
図7における符号Cの部分の拡大平面図を
図8(a)に、その拡大断面図を
図8(b)に示す。本実施形態の反射型マスクの補助パターン23は、回路パターン領域22と遮光枠21の間に、吸収層04、保護層03及び多層反射層02を除去することで形成されている。この補助パターン23は、遮光枠21に沿って、例えば平行に延在するように形成されている。
【0023】
ここで、遮光枠21及び補助パターン23は、回路パターン領域22の外周全周を閉じるように形成されている必要はない。
従来の反射型マスクにおいては、幅の広い遮光枠21(通常2〜3mm程度)の形成による、多層反射層02の応力解放が大き過ぎるために、遮光枠21のエッジから200〜300μm程度離れた場所にあるメインパターンの位置ずれを誘発してしまう。本実施形態の反射型マスクでは、遮光枠21よりも幅の狭い補助パターン23を内側に形成するために、応力解放も小さく抑えることが出来るため、メインパターンの位置ずれも小さく出来るためである。
【0024】
本実施形態の反射型マスクにおける補助パターン23の幅は10μm以下であることが好ましい。それは、10μmよりも広いパターンを形成してしまうと、補助パターン形成による応力解放が大きくなり過ぎるので、結局、従来の遮光枠21(補助パターン無し)と同程度のメインパターンの位置ずれが発生してしまうからである。
また、本実施形態の反射型マスクにおける補助パターン23の形成位置は、遮光枠21のエッジからの1μm以上100μm以下の場所に形成することが好ましい。遮光枠21のエッジから100μm以上離れた場所は、すなわちメインパターンに近い場所であることから、補助パターン形成による応力解放の影響が、メインパターンに現れてしまうためである。従って、補助パターン23は、相対的にメインパターンから遠く、且つ遮光枠21のエッジに近い場所に形成するのが望ましい。我々は補助パターン23の幅や形成位置による実験を行い、最適な幅と形成位置を見出した。
【0025】
次に、本実施形態の反射型マスクの作製方法について説明する。本実施形態の反射型マスクの製造工程を大別すると、前記の反射型マスクブランクに対し、(A)メインパターンを形成する工程、(B)補助パターン23を形成する工程、(C)遮光枠21を形成する工程、の3つの工程を有する。本実施形態の反射型マスクを実現するためには、これら3つの工程の行う順序が重要である。
すなわち本実施形態においては、反射型マスクの製造方法は、以下の3つの製造方法(製造方法1、製造方法2及び製造方法3)がある。
【0026】
(製造方法1)
製造方法1は、(A)メインパターンを形成する工程の後に、(B)補助パターン23を形成する工程と(C)遮光枠21を形成する工程の両方を同時に一つの工程として実施する製造方法である。
(製造方法2)
製造方法2は、(A)メインパターンを形成する工程の後に、(B)補助パターン23を形成する工程を実施し、その後に(C)遮光枠21を形成する工程を実施する製造方法である。
(製造方法3)
製造方法3は、(B)補助パターン23を形成する工程の後に、(A)メインパターンを形成する工程を実施し、その後に(C)遮光枠21を形成する工程を実施する製造方法である。
【0027】
製造方法1と製造方法2では、開口幅の狭い補助パターン23によって、開口幅の広い遮光枠21の応力解放の影響を遮断する効果によって、回路パターン領域22に形成したメインパターンの位置ずれ量を低減している。
一方、製造方法3は、メインパターンの形成前に、補助パターン23を形成しておくことにより、多層反射層02の応力の一部を予め解放しておくことで、その後の遮光枠21の形成により解放される応力を減らすことが出来る。その結果、回路パターン領域22の位置ずれ量を低減している。
【0028】
ここで、(C)遮光枠21を形成する工程を実施し、その後(A)メインパターンを形成する工程を実施する、という製造方法も考えられるが、メインパターンの形成前に、2〜3mmと開口幅の広い遮光枠21を形成すると、遮光枠21を形成する工程によって発生する異物が、回路パターン領域22の吸収層04の表面に付着し、メインパターンを形成する工程にてパターン欠陥となってしまうおそれがある。このため、メインパターン形成前には、極力、吸収層04の表面の清浄度が保たれている必要がある。従って、メインパターン形成前に出来ることは、前記製造方法3に示したように、開口幅が比較的狭い補助パターン23を形成する工程くらいである。
【0029】
以上のように、製造方法1〜製造方法3のいずれかの方法で、
図9の(a)から(b)のように遮光枠21及び補助パターン23を形成するように製造することで、遮光枠形成による位置ずれを低減した反射型マスクを得ることができる。
【実施例1】
【0030】
以下に本発明の実施例を示す。
図10は本実施例で用意した反射型マスクブランク400である。このブランク400は、基板01の上に、波長13.5nmのEUV光に対して反射率が64%程度となるように設計されたMoとSiの40ペアの多層反射層02が、その上に2.5nm厚のRuからなる保護層03が、更にその上に70nm厚のTaSiからなる吸収層04が、この順に形成されている。
本ブランク400に対し、先に述べた製造方法1にて、本実施例の反射型マスクを作製した。すなわち、ブランク400の吸収層04の上に、ポジ型化学増幅レジスト09(FEP171:富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ)を200nmの膜厚で塗布した(
図11(b)。その後、電子線描画機(JBX9000:日本電子)にて、マスク中心部の10cm×10cmの回路パターン領域に線幅200nmのライン&スペースパターンからなるメインパターンを形成し、その後の工程で形成する遮光枠21の内側エッジの位置から1μm間隔でマスク中心まで配置するように位置測定パターンを描画し、110℃、10分のPEBおよびスプレー現像(SFG3000:シグマメルテック)により、レジスト9部分にメインパターンと位置測定パターンのレジストパターンを形成した(
図11(c))。
【0031】
次いで、ドライエッチング装置を用いて、CF4プラズマとCl2プラズマにより、吸収層04をエッチングし(
図11(d))、レジスト剥離洗浄することで、メインパターンと位置測定パターンを有する反射型マスク401を作製した。
次いで、上述の位置測定パターンをパターン位置精度測定機(LMS−IPRO:ケーエルエー・テンコール)で測定した。
次いで、上述のメインパターンおよび位置測定パターンを有する反射型マスク401に対して、2mm幅の遮光枠21と10μm幅の補助パターン23を形成する工程を行った。このとき、遮光枠21のエッジと補助パターン23のエッジの距離が5μmとなる位置に補助パターン23を配置した。反射型マスクにi線レジスト39を500nmの膜厚で塗布し(
図12(b))、そこへi線描画機(ALTA:アプライドマテリアルズ)により遮光枠21のパターンと補助パターン23を描画、現像を行うことにより、レジストパターンを形成した(
図12(c))。
【0032】
次いで、ドライエッチング装置を用いてCHF
3プラズマ(ドライエッチング装置内の圧力50mTorr、ICP(誘導結合プラズマ)パワー500W、RIE(反応性イオンエッチング)パワー200W、CHF
3:流量20sccm、処理時間10分、これらは、以下の表記で同じ。)により、前記レジストの開口部の吸収層04と保護層03と多層反射層02とを垂直性ドライエッチングで貫通・除去し(
図12(d)、(e))、
図12(e)に示すような形状を得た。
次いで、硫酸系の剥離液とアンモニア過酸化水素水により、レジスト剥離・洗浄を実施し、ドライエッチングで残ったレジストを除去し(
図12(f))、本発明の反射型マスク402を作製した。
【0033】
ここで、表1に示すように、補助パターンの幅及び、遮光枠からの距離を変更した本実施例1〜実施例4、及び比較例の反射型マスクを作製して、下記のように位置ずれを評価した。
【0034】
【表1】
【0035】
各例に対し、遮光枠21を形成した後に、再び位置測定パターンをパターン位置精度測定機(IPRO:ケーエルエー・テンコール)で測定し、遮光枠形成前後の測定結果から遮光枠形成によるメインパターンの位置ずれを算出した。その評価を表1に併記する。
表1から分かるように、補助パターン23を有しない従来の遮光枠21に対して、本発明に基づく補助パターン23を有する遮光枠21で大幅な改善が見られた。
同様に、補助パターン23の幅を2μmに狭めた場合や遮光枠21エッジと補助パターン23エッジの距離を50μmに離した場合のメインパターンの位置ずれ量を測定した結果、いずれの場合も、補助パターン23を有しない従来の反射型マスクに対して、大幅な改善が見られた。メインパターンの中で最も位置ずれが起きやすい最外周部の位置ずれ量は、比較例1の反射型マスクが1.3nmであるのに対し、本実施例1〜4では、補助パターン23を有することで、全ての場合で、位置ずれの0.5nm以下に低減できた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明を実施することにより、遮光枠21を形成する反射型マスクにおいて、遮光枠近傍のパターンの位置ずれを低減することが可能となる。
【符号の説明】
【0037】
01・・・基板
02・・・多層反射層
03・・・保護層
04・・・吸収層
05・・・裏面の導電膜
09・・・レジスト
21・・・反射型マスクの遮光枠
22・・・回路パターン領域
23・・・補助パターン
24・・・回路パターン領域と補助パターンとの間のパターンの無い領域
24’・・・補助パターンと遮光枠との間のパターンの無い領域
39・・・レジスト
100・・・遮光枠を形成していない反射型マスク
200・・・遮光枠を形成した従来の反射型マスク
300・・・遮光枠と回路パターン領域の間に補助パターンを形成した本発明の反射型マスク
400・・・実施例で使用した反射型マスクブランク
401・・・実施例でパターン形成まで行った反射型マスク
402・・・実施例で遮光枠および補助パターン形成まで行った反射型マスク
500・・・反射型マスク