特許第6862705号(P6862705)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6862705ポリエステルフィルム用非水系オリゴマーブリード防止剤、およびポリエステルフィルムのオリゴマーブリード防止方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862705
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム用非水系オリゴマーブリード防止剤、およびポリエステルフィルムのオリゴマーブリード防止方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/10 20060101AFI20210412BHJP
   C08J 7/046 20200101ALI20210412BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20210412BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20210412BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20210412BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20210412BHJP
   B05D 7/04 20060101ALI20210412BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   C08G18/10
   C08J7/046 ACFD
   B32B27/40
   B32B27/30 A
   B32B27/36
   B05D5/00 Z
   B05D7/04
   B05D7/24 302P
   B05D7/24 302T
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-143878(P2016-143878)
(22)【出願日】2016年7月22日
(65)【公開番号】特開2018-12795(P2018-12795A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 良樹
(72)【発明者】
【氏名】山崎 彰寛
(72)【発明者】
【氏名】東本 徹
【審査官】 前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−104853(JP,A)
【文献】 特開2015−199947(JP,A)
【文献】 特開2015−052118(JP,A)
【文献】 特開2016−069653(JP,A)
【文献】 特開2011−132521(JP,A)
【文献】 特開2014−188937(JP,A)
【文献】 特開2016−055584(JP,A)
【文献】 特開2011−208106(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0047085(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08G 18/00 − 18/87
C08G 71/00 − 71/04
C08K 3/00 − 13/08
C08L 1/00 − 101/14
C09J 7/04 − 7/06
B32B 1/00 − 43/00
B05D 1/00 − 7/26
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基含有(メタ)アクリレート(a1)及びアルキル(メタ)アクリレート(a2)を含む反応成分からなるアクリルコポリマー(A)、イソシアネート基を少なくとも3つ有するポリイソシアネート(B)、ならびに有機溶剤(C)を含有し、さらに(A)成分に含まれる水酸基および(B)成分に含まれるイソシアネート基のモル比率〔NCO/OH〕が0.2〜5である、ポリエステルフィルム中に含まれるポリエステルオリゴマーのブリードを防止する、ポリエステルフィルム用非水系オリゴマーブリード防止剤。
【請求項2】
(A)成分のガラス転移温度が50℃〜120℃である請求項1の非水系オリゴマーブリード防止剤。
【請求項3】
(A)成分の水酸基含有量が0.6〜6mmol/gである請求項1又は2の非水系オリゴマーブリード防止剤。
【請求項4】
(A)成分の重量平均分子量が5000〜100000である請求項1〜3のいずれかの非水系オリゴマーブリード防止剤。
【請求項5】
(B)成分が、芳香族系ポリイソシアネート(b1)を含む請求項1〜4のいずれかの非水系オリゴマーブリード防止剤。
【請求項6】
(B)成分のイソシアネート基含有量が1〜8mmol/gである請求項1〜5のいずれかの非水系オリゴマーブリード防止剤。
【請求項7】
(C)成分がケトン系、エステル系および芳香族系溶剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む請求項1〜6のいずれかの非水系オリゴマーブリード防止剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの非水系オリゴマーブリード防止剤をポリエステルフィルムの少なくとも片面に塗工することを特徴とする、ポリエステルフィルム中に含まれるポリエステルオリゴマーのブリードを防止する、ポリエステルフィルムのオリゴマーブリード防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルム用非水系オリゴマーブリード防止剤、よびポリエステルフィルムのオリゴマーブリード防止方法に関する。

【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、透明性、寸法安定性、機械的特性や耐薬品性等に優れているため、磁気テープ、コンデンサー、包装、製版や電気絶縁用途などで広く利用されている。最近では、高い透明性が求められる光学フィルム用途、特にタッチパネル等に使用される透明導電性積層体の基材に汎用されている。
【0003】
前記透明導電性積層体は、ポリエステルフィルム表面に直接、あるいはアンカー層を介して、スパッタリングによってITO(酸化インジウムスズ)皮膜を積層する。その後、ITOの結晶化のために150℃程度の高温で熱処理される。
【0004】
ところで、ポリエステルフィルムは高温で長時間加熱された場合、フィルム中に含まれるオリゴマー(ポリエステルの低分子量成分、特にエステル環状三量体)が、フィルム表面に析出(以下、“ブリード”ともいう)し、フィルム外観の白化による視認性の低下、後加工の欠陥、工程内や部材の汚染などが起こる。
【0005】
ポリエステルオリゴマーのブリードを防止する技術としては、ポリエステルフィルム表面にポリエステル樹脂とポリイソシアネートとの二液反応樹脂からなるオリゴマー封止層を積層させたものが公知である(特許文献1)。このフィルムは一定のブリード防止効果を発揮するが、長時間加熱された場合には、その効果は不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−328646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高温かつ長時間の加熱時に、ポリエステルオリゴマーがフィルム表面に析出することを抑制できるオリゴマーブリード防止剤を提供することを主たる課題とする。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、所定のアクリルコポリマーおよびポリイソシアネートを含むブリード防止剤により、前記課題を解決できることを見出した。即ち本発明は、以下の非水系オリゴマーブリード防止剤、よびポリエステルフィルムのオリゴマーブリード防止方法に関する。

【0009】
1.水酸基含有(メタ)アクリレート(a1)及びアルキル(メタ)アクリレート(a2)を含む反応成分からなるアクリルコポリマー(A)、イソシアネート基を少なくとも3つ有するポリイソシアネート(B)、ならびに有機溶剤(C)を含有し、さらに(A)成分に含まれる水酸基および(B)成分に含まれるイソシアネート基のモル比率〔NCO/OH〕が0.2〜5であるポリエステルフィルム用非水系オリゴマーブリード防止剤。
【0010】
2.(A)成分のガラス転移温度が50℃〜120℃である前記項1の非水系オリゴマーブリード防止剤。
【0011】
3.(A)成分の水酸基含有量が0.6〜6mmol/gである前記項1又は2の非水系オリゴマーブリード防止剤。
【0012】
4.(A)成分の重量平均分子量が5000〜100000である前記項1〜3のいずれかの非水系オリゴマーブリード防止剤。
【0013】
5.(B)成分が、芳香族系ポリイソシアネート(b1)を含む前記項1〜4のいずれかの非水系オリゴマーブリード防止剤。
【0014】
6.(B)成分のイソシアネート基含有量が1〜8mmol/gである前記項1〜5のいずれかの非水系オリゴマーブリード剤。
【0015】
7.(C)成分がケトン系、エステル系および芳香族系溶剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む前記項1〜6の非水系オリゴマーブリード防止剤。
【0018】
.前記項1〜7のいずれかの非水系オリゴマーブリード防止剤をポリエステルフィルムの少なくとも片面に塗工することを特徴とする、ポリエステルフィルムのオリゴマーブリード防止方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の非水系オリゴマーブリード防止剤は、高温かつ長時間での加熱時に、ポリエステルオリゴマーがフィルム表面に析出することを抑制できるため、加熱後も高い透明性を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のポリエステルフィルム用非水系オリゴマーブリード防止剤(以下、非水系オリゴマーブリード防止剤という)は、水酸基含有(メタ)アクリレート(a1)(以下、(a1)成分ともいう)及びアルキル(メタ)アクリレート(a2)(以下、(a2)成分ともいう)の反応生成物であるアクリルコポリマー(A)(以下、(A)成分ともいう)、および(B)多官能イソシアネート化合物(B)(以下、(B)成分ともいう)ならびに有機溶剤(C)(以下、(C)成分ともいう)を含有するものである。
【0021】
(a1)成分としては、分子内に(メタ)アクリロイル基と少なくとも一つのヒドロキシアルキル基とを有する化合物であれば、各種公知のものを特に制限なく使用できる。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−(ヒドロキシメチル)シクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシフェニル、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(1−メチル−2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド等のヒドロキシ(メタ)アクリレート類等が挙げられ、これらは二種以上を組み合わせることができる。
【0022】
(a2)成分としては、分子内に(メタ)アクリロイル基とアルキルエステル基を有する化合物であれば、各種公知のものを特に制限なく使用できる。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸イコシル、(メタ)アクリル酸ドコシル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロペンタニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等が挙げられ、これらは二種以上を組み合わせることができる。
【0023】
また、(A)成分の反応成分には、更に芳香族系ビニルモノマー、(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも一種の単量体(a3)(以下、(a3)成分ともいう)を含めることができる。
【0024】
芳香族系ビニルモノマーとしては、分子内にビニル基と芳香族環を有する化合物であれば、各種公知のものを特に制限なく使用できる。具体的には、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン等のスチレン類や、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸4−メチルベンジル等のアリール(メタ)アクリレート類などが挙げられ、これらは二種以上を組み合わせることができる。
【0025】
前記各成分の使用量(重量%)は特に限定されないが、オリゴマーのブリード防止の点から、通常、以下の通りである。
【0026】
<(a3)成分を用いない態様>
(a1)成分:5〜80重量%程度、好ましくは10〜60重量%程度
(a2)成分:20〜95重量%程度、好ましくは40〜90重量%程度
【0027】
<(a3)成分を用いる態様>
(a1)成分:5〜80重量%程度、好ましくは10〜60重量%程度
(a2)成分:5〜90重量%程度、好ましくは25〜80重量%程度
(a3)成分:5〜15重量%程度、好ましくは10〜15重量%程度
【0028】
(A)成分の反応成分には、前記(a1)成分〜(a3)成分以外のビニルモノマー(以下、(a4)成分)として、例えば、2,4,4−トリメチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、ビニルシクロヘキサン、2−メチルビニルシクロヘキサン等のαオレフィン類や、(メタ)アリルアルコール、4−ペンテン−1−オール、1−メチル−3−ブテン−1−オール、および5−ヘキセン−1−オール等の不飽和アルコール類、(メタ)アクリル酸、3−ブテン酸、4−ペンテン酸、5−ヘキセン酸、フマル酸、(無水)マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸類等を含めてよい。また、これらは二種以上を組み合わせることができる。また、(a4)成分の使用量は特に限定されないが、(a1)成分、(a2)成分及び(a3)成分の合計に対して通常20重量%未満である。
【0029】
(A)成分は、各種公知の方法で製造できる。具体的には、例えば、前記各成分を無溶剤下又は適当な有機溶剤中で、通常はラジカル重合開始剤の存在下、80〜180℃程度において、1〜10時間程度共重合反応させることにより得ることができる。該ラジカル重合開始剤としては、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート等が挙げられる。なお、その使用量は特に限定されないが、通常、(A)成分の反応成分の総重量に対して0.1〜2重量%程度となる範囲である。また、該有機溶剤としては後述のものを挙げることができる。
【0030】
(A)成分の物性は、特に限定されないが、オリゴマーのブリード防止の点から、通常水酸基含有量が、固形分で0.6〜6mmol/g程度、好ましくは0.7〜4mmol/g程度、より好ましくは0.8〜3mmol/g程度である。なお、水酸基含有量は、JIS K−0070に準じて測定した水酸基価(mgKOH/g)を水酸化カリウムの分子量(Mw.56.1)で除した値である。また、前記同様の点から、ガラス転移温度は50〜120℃程度、好ましくは60〜100℃程度、より好ましくは70〜90℃程度である。重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法におけるポリスチレン換算値)も特に限定されないが、前記同様の点から通常5000〜100000程度、好ましくは10000〜75000程度、より好ましくは20000〜60000程度である。
【0031】
(B)成分としては、分子内にイソシアネート基を少なくとも3つ有するポリイソシアネートであれば、特に限定されず、各種公知のものを使用できる。(B)成分は、(A)成分とウレタン化反応することにより、オリゴマーブリード防止層に架橋構造を与える。
【0032】
(B)成分の具体例としては、芳香族系ポリイソシアネート(b1)(以下、(b1)成分という)、脂肪族系ポリイソシアネート(b2)(以下、(b2)成分という)および脂環族系ポリイソシアネート(b3)(以下、(b3)成分という)などが挙げられる。これらは二種以上を組み合わせることができる。
【0033】
(b1)成分の具体例としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート及びキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物のビウレット体、イソシアヌレート体およびアダクト体の誘導体(b1−1)(以下、(b1−1)成分という)、(b1−1)成分とジオール化合物との反応物(b1−2)(以下、(b1−2)成分という)、トルエン−2,4,6−トリイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートおよびトリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェートなどの芳香族系トリイソシアネート化合物(b1−3)(以下、(b1−3)成分という)等が挙げられる。これらは二種以上を組み合わせることができる。
【0034】
ジオール化合物は、特に限定されないが、具体例としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、オクタンジオール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールなどが挙げられる。これらは二種以上を組み合わせることができる(以下、ジオール化合物というときは同様)。
【0035】
(b2)成分の具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートおよびリジンジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネート化合物のビウレット体、イソシアヌレート体およびアダクト体の誘導体(b2−1)(以下、(b2−1)成分という)、(b2−1)成分とジオール化合物との反応物(b2−2)(以下、(b2−2)成分という)、1,6,11−ウンデカントリイソシアネートおよび1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート等の脂肪族系トリイソシアネート化合物(b2−3)(以下、(b2−3)成分という)等が挙げられる。これらは二種以上を組み合わせることができる。
【0036】
(b3)成分の具体例としては、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、水添キシレンジイソシアネートおよび水添トリレンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート化合物のビウレット体、イソシアヌレート体およびアダクト体の誘導体(b3−1)(以下、(b3−1)成分という)、(b3−1)成分とジオール化合物との反応物(b3−2)(以下、(b3−2)成分という)、ビシクロヘプタントリイソシアネートなどの脂環族系トリイソシアネート化合物(b3−3)(以下、(b3−3)成分という)等が挙げられる。これらは二種以上を組み合わせることができる。
【0037】
ここで、前記(b1−1)成分、(b2−1)成分および(b3−1)成分のそれぞれのビウレット体は、下記構造式によって表される。
【0038】
【化1】
(式中、Rはジイソシアネート化合物の残基を表す。)
【0039】
また、前記(b1−1)成分、(b2−1)成分および(b3−1)成分のそれぞれのイソシアヌレート体は、下記構造式によって表される。
【0040】
【化2】
(式中、Rは、ジイソシアネート化合物の残基を表す。)
【0041】
また、前記(b1−1)成分、(b2−1)成分および(b3−1)成分のそれぞれのアダクト体は、下記構造式によって表される。
【0042】
【化3】
【0043】
(式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基又はOCN−R−HN−C(=O)−O−CH−で示される官能基を表し、Rはジイソシアネート化合物の残基を表す。)
【0044】
(b1−2)、(b2−2)および(b3−2)成分は、いずれも各種公知の方法で製造できる。具体的には、イソシアネート成分と前記ジオール化合物とを、前者のイソシアネート基(NCO’)と後者の水酸基(OH’)とのモル比〔NCO’/OH’〕が通常5〜20程度、好ましくは10〜20程度となる範囲で、通常40〜80℃の下、1〜5時間程度、ウレタン化反応させることによって、得ることができる。
【0045】
これらの中でも、オリゴマーのブリード防止の点から、前記(b1)成分が好ましく、(b1−1)成分、(b1−2)成分がより好ましく、芳香族ジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、アダクト体またはそれらのジオール化合物との反応物が特に好ましい。
【0046】
(B)成分の物性は、特に限定されないが、オリゴマーのブリード防止の点から、イソシアネート基含有量が、固形分で通常1〜8mmol/g程度、好ましくは2〜7mmol/g程度、より好ましくは3〜6mmol/g程度である。なお、イソシアネート基含有量は、JIS K−7301に準じて測定した値である。
【0047】
(A)成分および(B)成分の含有比率は、特に限定されないが、(A)成分に含まれる水酸基および(B)成分に含まれるイソシアネート基のモル比率〔NCO/OH〕で、通常は、0.2〜5程度、好ましくは0.3〜3程度、より好ましくは0.5〜2程度である。該モル比率が0.2を下回ると、オリゴマーのブリードが抑制し難く、5を超えると、フィルムとの密着性が低下しやすくなる。
【0048】
(C)成分の具体例としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、アセチルアセトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶剤等が挙げられ、二種以上を併用できる。これらの中でも、非水系オリゴマーブリード防止剤のポットライフの観点よりケトン系溶剤、エステル系溶剤および芳香族系溶剤からなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましく、同様の点からケトン系溶剤がより好ましい。なお、(C)成分に、水を併用すると、水は(B)成分と反応しやすく、塗膜にした際に、フィルムとの密着性が低下しやすくなるため好ましくない。
【0049】
(C)成分の使用量は、特に限定されないが、塗工性の点から、本発明の非水系オリゴマーブリード防止剤の固形分濃度が通常、1〜50重量%程度、好ましくは5〜30重量%程度となる範囲である。
【0050】
本発明の非水系オリゴマーブリード防止剤には、必要に応じて、各種公知の硬化触媒(D)(以下、(D)成分という)を含めてよい。(D)成分の具体例としては、例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7(DBU)等の3級アミン系化合物;ジブチル錫ジクロライド、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジブロマイド、ジブチル錫ジマレエート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫スルファイド、トリブチル錫スルファイド、トリブチル錫オキサイド、トリブチル錫アセテート、トリエチル錫エトキサイド、トリブチル錫エトキサイド、ジオクチル錫オキサイド、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジバーサテート、トリブチル錫クロライド、トリブチル錫トリクロロアセテート、2−エチルヘキサン酸錫等の錫系化合物;ジブチルチタニウムジクロライド、テトラブチルチタネート、ブトキシチタニウムトリクロライド等のチタン系化合物;オレイン酸鉛、2−エチルヘキサン酸鉛、安息香酸鉛、ナフテン酸鉛等の鉛系化合物;2−エチルヘキサン酸鉄、鉄アセチルアセトネート等の鉄系化合物;安息香酸コバルト、2−エチルヘキサン酸コバルト等のコバルト系化合物;2−エチルヘキサン酸ビスマス、ナフテン酸ビスマス等のビスマス系化合物等が挙げられ、二種以上を併用できる。
【0051】
(D)成分の使用量は、特に限定されないが、通常、(A)成分と(B)成分の合計100質量部(固形分換算)に対して、0.01〜5質量%(固形分換算)程度となる範囲であればよい。
【0052】
本発明の非水系オリゴマーブリード防止剤の調製方法としては、特に限定されないが、例えば、(A)成分、(B)成分および(C)成分、必要に応じて、(D)成分を各種公知の手段で混合することなどが挙げられる。なお、混合順序は特に限定されない。
【0053】
本発明の非水系オリゴマーブリード防止剤には、必要に応じて、(A)成分以外のバインダー樹脂(ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂等)、防滑剤、防腐剤、防錆剤、pH調整剤、酸化防止剤、顔料、染料、滑剤、レベリング剤、ブロッキング防止剤、消泡剤等を含めてよい。
【0054】
本発明に係る積層ポリエステルフィルムの製造方法は、本発明の非水系オリゴマーブリード防止剤を、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に塗工し、加熱することを特徴とする。
【0055】
基材のポリエステルフィルムは、特に限定されず、各種公知のものを使用できる。具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリプロピレン−2,6−ナフタレートなどが挙げられる。これらの中でも、基材フィルムの透明性が高い点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートが好ましい。また、ポリエステルフィルムの厚みも、特に限定されず、通常、10〜188μm程度、好ましくは25〜100μm程度であればよい。
【0056】
前記ポリエステルフィルムは、必要に応じて、該フィルムと非水系オリゴマーブリード防止剤との密着性を向上させるため、フィルム表面に易接着処理、コロナ処理、プラズマ処理などを施してもよい。
【0057】
本発明の積層ポリエステルフィルムの製造方法における塗工手段としては、特に限定されず、各種公知のものを適用できる。例えば、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター及びバーコーター等が挙げられる。また、塗工量も特に限定されず、通常、乾燥後の質量が0.05〜2g/m程度、好ましくは0.1〜1g/mとなる範囲であればよい。
【0058】
前記製造方法における加熱条件も特に限定されず、通常、90〜130℃で30秒〜2分程度である。
【0059】
得られた積層ポリエステルフィルムは、必要に応じて、養生処理を施してもに伏してもよい。処理条件は特に限定されないが、20〜50℃で1〜24時間程度である。前記処理によって硬化皮膜の耐溶剤性が良好になる。
【0060】
本発明のポリエステルフィルムのオリゴマーブリード防止方法は、前記非水系オリゴマーブリード防止剤をポリエステルフィルムの少なくとも片面に塗工することを特徴とする。
【0061】
基材のポリエステルフィルム、塗工手段および加熱条件は、前記記載のとおりである。
【実施例】
【0062】
以下、実施例及び比較例を通じて、本発明を詳しく説明するが、それらにより本発明の範囲が限定されない。また、各実施例及び比較例において、部又は%は質量基準である。
【0063】
<ガラス転移温度>
ガラス転移温度は、市販の測定器具(製品名「DSC8230B」、理学電機(株)製)を用いて測定した。
<重量平均分子量>
重量平均分子量は、市販のゲルパーミエーションクロマトグラフィー機器(製品名「HLC−8220GPC」、東ソー(株)製)を用いて測定した。なお、測定値はポリスチレン換算値で示す。
<水酸基含有量>
水酸基含有量は、JIS K−0070に準じて測定した水酸基価(mgKOH/g)を水酸化カリウムの分子量(Mw.56.1)で除した値である。
(式1)水酸基含有量(mmol/g)=(水酸基価)/(水酸化カリウムの分子量)
<イソシアネート基含有量>
イソシアネート基含有量は、JIS K−7301に準じて測定した。
【0064】
製造例1<アクリルコポリマー(A−1)の合成>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素導入管を備えた反応容器に、メタクリル酸メチル192.0部、アクリル酸ノルマルブチル7.2部、及びアクリル酸2−ヒドロキシエチル40.8部、並びにメチルエチルケトン360部を仕込み、反応系を80℃に設定した。次いで、アゾビスイソブチロニトリル1.2部を仕込み、80℃で5時間保温した。次いで、アゾビスイソブチロニトリル2.4部を仕込み、反応系を同温度付近において更に4時間保温した。その後反応系を室温まで冷却することにより、ガラス転移温度70℃、水酸基含有量1.43mmol/g(固形分)、及び重量平均分子量50000のアクリルコポリマー(A−1)の溶液(固形分濃度30%)を得た。
【0065】
製造例2<アクリルコポリマー(A−2)の合成>
製造例1と同様の反応容器に、メタクリル酸メチル177.6部、アクリル酸ノルマルブチル20.9部、アクリル酸2−ヒドロキシエチル17.5部、及びスチレン24.0部、並びにメチルエチルケトン360.0部を仕込み、反応系を80℃に設定した。次いで、アゾビスイソブチロニトリル1.2部を仕込み、80℃で5時間保温した。次いで、アゾビスイソブチロニトリル2.4部を仕込み、反応系を同温度付近において更に4時間保温した。その後反応系を室温まで冷却することにより、ガラス転移温度70℃、水酸基含有量0.62mmol/g(固形分)、及び重量平均分子量45000のアクリルコポリマー(A−2)の溶液(固形分濃度30%)を得た。
【0066】
製造例3(ポリイソシアネート(B−3)の合成)
製造例1と同様の反応容器に、トリレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(製品名「コロネート2037」、東ソー(株)製、固形分濃度50%)445.5部、1,6−ヘキサンジオール5.0部、及びメチルエチルケトン308.6部を仕込み、60℃で3時間ウレタン化反応を実施した。その後室温に冷却することによって、イソシアネート基含有量3.3mmol/g(固形分)のポリイソシアネート(B−3)の溶液(固形分濃度30%)を得た。
【0067】
<非水系オリゴマーブリード防止剤の調製>
実施例1
(A)成分として(A−1)333.3部(固形分換算:100重量部)、(B)成分としてコロネート2037(東ソー(株)製、固形分濃度50%)を74.9部(固形分換算37.5部)及びメチルエチルケトン346.3部をよく混合し、固形分濃度8.8%の非水系オリゴマーブリード防止剤を調製した。
【0068】
実施例2〜8、比較例1〜3
表1に示すような種類あるいは使用量に変えて、実施例1と同様の方法で非水系オリゴマーブリード防止剤を調製した。
【0069】
[試験用フィルムの作製]
バーコーターを用いて、乾燥時の膜厚が0.3g/mになるように実施例1の非水系オリゴマーブリード防止剤をPETフィルム(コスモシャインA4300 50μm厚 ヘイズ:0.9 東洋紡績(株)製)上に塗工し、ドライヤーにて10秒送風した。ついで反対面に実施例1の非水系オリゴマーブリード防止剤を塗工し、順風乾燥機内乾燥(120℃、1分間)させて、試験用フィルムを作成した。実施例2〜8及び比較例1〜3の非水系オリゴマーブリード防止剤についても同様にして、試験用フィルムを作成した。
【0070】
[加熱前の透明性]
試験用フィルムのヘイズ値を、ヘイズメーター「HM−150」(村上色彩技術研究所)を用いて、JIS K−7136に準拠して測定した。なお、未塗工のPETフィルムを比較例4としても評価した。
【0071】
[加熱後の透明性]
試験用フィルムを温度150℃で3時間加熱した後、前記同様の方法でヘイズを測定した。なお、未塗工のPETフィルムを比較例4としても評価した。
【0072】
【表1】
※各成分の使用量は、固形分換算値で示す。
【0073】
(B−1)コロネート2037:(トリレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、イソシアネート基含有量3.8mmol/g(固形分)、東ソー(株)製、固形分濃度50%)
(B−2)コロネートHX:(ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、イソシアネート基含有量5.1mmol/g(固形分)、東ソー(株)製、固形分濃度100%)
(B−3)製造例3のポリイソシアネート(イソシアネート基含有量3.3mmol/g(固形分)、固形分濃度30%)
(F−1)クラレポリオールP−1010(ポリエステルポリオール 水酸基含有量2.0mmol/g(固形分)、クラレ(株)製)