【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために成された本発明の第1の態様は、試料にX線を照射し該試料で回折された回折X線を検出する波長分散型のX線回折装置であって、
a)連続X線を試料に照射するX線照射部と、
b)前記X線照射部からのX線の照射に対して前記試料で回折されたX線を通過させる
、後記平板分光結晶の波長分散方向に直交する方向に延伸する細長い形状である開口
、を有するスリットと、
c)前記スリット
の開口を通過したあと
該開口の延伸方向に直交する面内で拡がる回折X線を反射しつつ波長分散する平板分光結晶と、
d)前記平板分光結晶による波長分散方向に配列された複数の微小X線検出素子からなり、該平板分光結晶により波長分散された回折X線の波長毎のX線強度をそれぞれ検出するX線検出部と、
を備えることを特徴としている。
【0014】
また上記課題を解決するために成された本発明の第2の態様は、試料にX線を照射し該試料で回折された回折X線を検出する
波長分散型のX線回折装置であって、
a)連続X線を試料に照射するX線照射部と、
b)前記X線照射部からのX線の照射に対して前記試料で回折されたX線を通過させる開口を有するスリットと、
c)前記スリットを通過したあと拡がる回折X線を反射しつつ波長分散する湾曲分光結晶と、
d)前記湾曲分光結晶により波長分散された回折X線のうち該湾曲分光結晶において特定の方向に回折されたX線の強度を検出するX線検出部と、
e)前記湾曲分光結晶へ入射する回折X線と該結晶面との成す角度と該結晶で回折して前記X線検出部へと向かうX線と該結晶面との成す角度とを一定の関係に保ちつつ、前記湾曲分光結晶及び前記X線検出器をそれぞれ回動させる波長走査部と、
を備えることを特徴としている。
【0015】
さらにまた上記課題を解決するために成された本発明の第3の態様は、試料にX線を照射し該試料で回折された回折X線を検出する
波長分散型のX線回折装置であって、
a)連続X線を試料に照射するX線照射部と、
b)前記X線照射部からのX線の照射に対して前記試料で回折されたX線を通過させる開口を有するスリットと、
c)前記スリットを通過したあと拡がる回折X線を平行化させるマルチキャピラリX線レンズと、
d)前記マルチキャピラリX線レンズで平行化された回折X線を反射しつつ波長分散する平板分光結晶と、
e)前記平板分光結晶により波長分散された回折X線のうち該平板分光結晶において特定の方向に回折されたX線の強度を検出するX線検出部と、
f)前記平板分光結晶へ入射する回折X線と該結晶面との成す角度と該結晶で回折して前記X線検出部へと向かうX線と該結晶面との成す角度とを一定の関係に保ちつつ、前記平板分光結晶及び前記X線検出器をそれぞれ回動させる波長走査部と、
を備えることを特徴としている。
【0016】
本発明の第1乃至第3の態様によるX線回折装置では、エネルギー分散型X線回折装置と同様に、幅広い波長のX線を含む連続X線を照射可能なX線照射部を用い、この連続X線を、位置が固定された(つまりはゴニオメータ等により回動されない)試料に対し照射する。そして、試料で回折されたX線をスリットを通して取り出す。したがって、本発明の第1乃至第3の態様によるX線回折装置において、X線照射部、試料、及びスリットの位置関係は固定である。
【0017】
本発明の第1の態様によるX線回折装置では、スリットを通過したあとに拡がりつつ進行する回折X線は平板分光結晶に当たり、平板分光結晶で反射されるとともに該平板分光結晶における回折現象により波長分散される。回折X線は様々な波長のX線を含むが、試料の結晶面間隔に応じた特定の波長のX線の強度が高く、他の波長のX線強度は低くなっている。こうした波長毎に強度の相違する、波長分散後のX線は、X線検出部に含まれる波長分散方向に配列された複数の微小X線検出素子にそれぞれ入射する。したがって、X線検出部では所定の波長範囲に亘るX線強度が略一斉に得られる。つまり、本発明の第1の態様によるX線回折装置では、X線の波長とX線強度との関係を一度に得ることができる。この場合、平板分光結晶とX線検出部の位置は固定でよい。
【0018】
本発明の第2の態様によるX線回折装置では、第1の態様と同様に、スリットを通過したあとに拡がりつつ進行する回折X線は湾曲分光結晶に当たり、該湾曲分光結晶で反射されるとともに波長分散される。第1の態様では、この波長分散された様々な波長のX線を略一斉に検出するが、この第2の態様では、X線検出部は、湾曲分光結晶で反射されたX線のうち特定の方向に向かうX線のみを検出する。つまり、或る時点で検出されるのは特定の波長のX線のみである。波長走査部は、湾曲分光結晶へ入射するX線と該結晶面との成す角度と該結晶で回折してX線検出部へと向かうX線と該結晶面との成す角度とを一定の関係に保ちながら、その角度が所定範囲で変化するように、湾曲分光結晶とX線検出器とをそれぞれ回動させる。即ち、波長走査部は、湾曲分光結晶でのブラッグ式を満たすX線がX線検出器に常に入射するように波長走査を実行する。つまり、本発明の第2の態様によるX線回折装置では、波長走査部による機械的な駆動によって、X線の波長とX線強度との関係を得ることができる。
【0019】
また本発明の第3の態様によるX線回折装置では、スリットを通過したあとに拡がりつつ進行する回折X線はマルチキャピラリX線レンズにより平行化されたのちに平板分光結晶に当たり、平板分光結晶で反射されるとともに波長分散される。第1の態様では、この波長分散された様々な波長のX線を略一斉に検出するが、この第3の態様では、X線検出部は、平板分光結晶で反射されたX線のうち特定の方向に向かうX線のみを検出する。したがって、第2の態様と同様に、或る時点で検出されるのは特定の波長のX線のみである。波長走査部は、平板分光結晶へ入射するX線と該結晶面との成す角度と該結晶で回折してX線検出部へと向かうX線と該結晶面との成す角度とを一定の関係に保ちながら、その角度が所定範囲で変化するように、平板分光結晶とX線検出器とをそれぞれ回動させる。即ち、波長走査部は、平板分光結晶でのブラッグ式を満たすX線がX線検出器に常に入射するように波長走査を実行する。つまり、本発明の第3の態様によるX線回折装置では第2の態様と同様に、波長走査部による機械的な駆動によって、X線の波長とX線強度との関係を得ることができる。
【0020】
本発明に係るX線回折装置の第1乃至第3の態様のいずれにおいても、スリットを通過したX線は分光結晶に当たり、その進行方向が変えられてX線検出部に到達する。そのため、その検出面が試料から直接臨めるような位置にX線検出部を配置する必要がなく、試料が放射性物質である場合でも試料から放出される放射線がX線検出部の検出面に直接入射することを防止することができる。それによって、X線検出部への放射線の入射によるバックグラウンドノイズの影響を軽減することができる。また、X線検出部として半導体検出器を用いる場合でも、放射線による検出面の劣化を回避して、検出器の寿命を延ばすことができる。
【0021】
また、本発明に係るX線回折装置の第1の態様では、所定の波長範囲のX線強度分布、つまり試料に対するX線回折パターンを得るのに機械的駆動部が不要である。そのため、装置の構造が簡素であり、小形・軽量化に有利であるとともに、故障の発生も低減することができる。一方、第2及び第3の態様では、試料に対するX線回折パターンを得るのに機械的駆動部が必要であるものの、試料自体を回動させる必要はなく、試料から離れた位置に機械的駆動部を設けることができる。それにより、試料が放射性物質である場合に、機械的駆動部の故障が発生しても放射線量が相対的に少ない部分の修理を行えばよいので、故障修理や保守が容易になる。
【0022】
また本発明に係るX線回折装置では、上述したように、X線照射部、試料、及びスリットの位置関係は固定である。即ち、X線照射部から試料に向かうX線の経路、及び、試料で回折し分光結晶に向かうX線の経路は、常に同じである。そこで、本発明に係るX線回折装置では、好ましくは、前記X線照射部から前記試料に向かうX線が通過する入射側開口と、該試料で回折し前記平板分光結晶又は前記湾曲分光結晶に向かうX線が通過する出射側開口とが設けられ、試料が収納される試料室をさらに備える構成とするとよい。
この場合、試料室は放射線遮蔽材料から成るものとするとよい。これにより、試料が放射性物質である場合でも、不要な放射線の外部への拡散を軽減することができる。
【0023】
さらにまた上記構成では、前記試料室は放射線遮蔽作用を有する材料から成り、前記入射側開口及び前記出射側開口には、放射線透過性を有し気体の流通を阻止する材料から成る窓が取り付けられている構成とするとよい。
【0024】
この構成によれば、例えば試料が放射性物質の粉体等であって飛散し易い場合でも、その試料自体が試料室から外部へと飛散することが避けられるので、より高い放射線防護性を達成することができる。
【0025】
また本発明に係るX線回折装置では、前記平板分光結晶又は前記湾曲分光結晶として結晶面間隔の相違する複数のものが切り替え可能である構成としてもよい。
【0026】
この構成によれば、平板分光結晶又は湾曲分光結晶を結晶面間隔の相違するものに適宜切り替えることによって、測定可能なX線の波長範囲を広げることができる。それにより、より多くの種類の物質についての測定が可能となる。