(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、金型は複数の部材で構成されており、熱源から加工点(金型とグリーンタイヤとの接触点)までの間には少なくとも2つの部材接合面(金属接合面)が存在する。グリーンタイヤを加硫する際の熱源温度や加熱時間など(加硫条件)は、このような部材接合面における伝熱を考慮して設定されているが、例えば接合面への異物の付着やベアリング等の部材移動機構の劣化による接合不良などにより、接合面における伝熱状態が悪化する場合がある。
接合面における伝熱状態が低下すると、加硫条件によって意図されている加工点温度よりも実際の加工点温度が低くなり、加硫不良によるタイヤ品質の低下につながる可能性があり、好ましくない。
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、複数の部材で構成されるタイヤ加硫装置の金型の伝熱状態を監視することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、
本発明にかかる金型監視装置は、タイヤ加硫装置の金型の伝熱状態を監視する金型監視装置であって、前記金型は複数の部材が接合されて形成されており、前記複数の部材の接合面における前記複数の部材間の温度差を検出する温度差検出部と、前記温度差に基づいて前記金型の前記伝熱状態を診断する診断部と、
を備え、前記温度差検出部は、前記接合面で接する2つの部材の前記接合面近傍に、当該接合面の延在方向に沿ったピットをそれぞれ設け、当該ピット内にそれぞれ熱電対の素子を設置して前記温度差を検出する、ことを特徴とする。
本発明にかかる金型監視装置は、
前記素子はそれぞれ、前記接合面から1cmの位置に設置されており、前記素子間の距離は2cmである、ことを特徴とする。
本発明にかかる金型監視装置は、前記診断部は、前記温度差が閾値以上となった場合に前記金型の前記伝熱状態が悪化していると診断する、ことを特徴とする。
本発明にかかる金型監視装置は、前記温度差が前記閾値以上となった場合に報知する報知部を更に備える、ことを特徴とする。
本発明にかかる金型監視装置は、前記タイヤ加硫装置の運転状態を取得する運転状態取得部を備え、前記診断部は、前記タイヤ加硫装置の運転状態に基づいて前記閾値を変更する、ことを特徴とする。
本発明にかかる金型監視装置は、
前記運転状態取得部は、前記金型の開閉状態を取得し、前記診断部は、前記金型の開け閉め後所定時間以内でない場合には前記温度差が第1閾値以上となった場合に前記金型の前記伝熱状態が悪化していると診断し、前記金型の開け閉め後所定時間以内の場合には前記温度差が第1閾値より大きい第2閾値以上となった場合に前記金型の前記伝熱状態が悪化していると診断する、ことを特徴とする。
本発明にかかる金型監視装置は、前記接合面をはさんで対向する
前記熱電対の素子のうち、前記金型内の熱源から遠い方の温度が所定温度以上高い場合、前記
熱電対の故障の可能性を検出する故障検出部を更に備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、複数の部材が接合された金型において、複数の部材の接合面における部材間の温度差を検出し、温度差に基づいて接合面における伝熱状態を診断するので、金型の加熱能力が正常に機能しているかを確認しながら加硫を行うことができ、タイヤ品質を向上させる上で有利となる。
本発明によれば、温度差が閾値以上となった場合に金型の伝熱状態が悪化していると診断するので、金型の素材や使用状態に合わせて閾値を設定することができ、診断精度を向上させる上で有利となる。
本発明によれば、温度差が閾値以上となった場合に報知を行うので、伝熱状態が悪化している箇所の状態を確認したり、伝熱状態の悪化の原因を除去することができ、金型の伝熱状態を正常に保つ上で有利となる。
本発明によれば、タイヤ加硫装置の運転状態に基づいて閾値を変更するので、グリーンタイヤの搬入出時のように金型内の温度分布が大きく変化する際にも精度よく伝熱状態の診断を行う上で有利となる。
本発明によれば、接合面において近接した位置に2つのセンサを設けるので、部材間の温度差を精度よく検出する上で有利となる。
本発明によれば、単一のセンサで温度差そのものを検出することができるので、温度差の検出精度を向上できるとともに、温度差検出部における処理負荷を低減することができる。
本発明によれば、金型内の熱源から遠い方の温度が高い場合にセンサの故障の可能性を検出するので、診断部における診断結果の信頼性を向上させる上で有利となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる金型監視装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
図1は、実施の形態にかかる金型監視装置10の構成を示す説明図である。
金型監視装置10は、タイヤ加硫装置20の金型22の伝熱状態を監視する。
タイヤ加硫装置20は、グリーンタイヤGを金型22と加硫用ブラダ24間の空間に配置し、熱および圧力を加えてゴム材料の弾性を増加させるとともに、タイヤを所望の形状に成形する装置である。
タイヤ加硫装置20は、金型22、加硫用ブラダ24、図示しない加熱媒体供給機構および加硫制御装置28によって構成される。なお、本実施の形態では、金型監視装置10と加硫制御装置28とを1つのコンピュータで兼ねるものとする。
【0009】
金型22は、複数の部材が接合されて形成されており、環状に組付けられタイヤ完成時にトレッド面およびショルダー部に接するセクショナルモールド2202と、環状に上下一対で設けられタイヤ完成時にサイドウォール部およびビード部に接する配置されるサイドプレート2204、2206と有している。
それぞれのセクショナルモールド2202の外周面には、セグメント2208が取り付けられる。このセグメント2208は、メタルベアリング2211を介して下部メタルプレート2212の上で摺動可能に配置される。そして、上下移動するジャケット2214の内周傾斜面とセグメント2208の外周傾斜面とが摺動可能に係合していて、ジャケット2214の上下移動により、それぞれのセグメント2208が下部メタルプレート2212上でタイヤ径方向に摺動して、複数のセクショナルモールド2202がそれぞれセンターポスト2602に対して進退移動する構造になっている。
ジャケット2214、上部メタルプレート2216、上部プラテン板2218および上部サイドプレート2204は、一体的に上下移動する。また、下部サイドプレート2206は、下部プラテン板2210に固定されている。
【0010】
金型22内部にグリーンタイヤGを載置する際は、一体となったジャケット2214、上部メタルプレート2216、上部プラテン板2218および上部サイドプレート2204を上方向に移動させる。するとセグメント2208およびセクショナルモールド2202が径方向外側に移動して、センターポスト2602を中心としたグリーンタイヤGを載置する空間が形成される。
その後、下部サイドプレート2206上にグリーンタイヤGを載置し、ジャケット2214、上部メタルプレート2216、上部プラテン板2218および上部サイドプレート2204を下方移動させて、それぞれのセクショナルモールド2202をセグメント2208とともにセンターポスト2602方向に前進させて環状に組み付けて、上部サイドプレート2204および下部サイドプレート2206とともに型締めする。
【0011】
上部サイドプレート2204、下部サイドプレート2206およびセグメント2208は例えば鉄で形成されており、セクショナルモールド2202は例えばアルミで形成されており、上下のメタルプレート2216、2212は例えば真鍮(砲金類)で形成されている。
【0012】
上下のプラテン板2218、2210およびジャケット2214の内部には、熱水等の加硫用加熱媒体が供給される配管が設けられている。この加硫用加熱媒体が熱源であり、金型22内部のグリーンタイヤGとセクショナルモールド2202またはサイドプレート2204、2206との接点が加工点となる。
ここで、上述のように金型22は複数の部材が接合して構成されているため、熱源と加工点との間には、金型22を構成する部材同士の接合面が存在する。例えば、ジャケット2214内の熱源から加工点までの間には、ジャケット2214とセグメント2208との接合面F1およびセグメント2208とセクショナルモールド2202との接合面F2が存在する。また、上下のプラテン板2218、2210内の熱源から加工点までの間には、プラテン板2218、2210とメタルプレート2216、2212との接合面F3およびメタルプレート2216、2212とサイドプレート2204、2206との接合面F4が存在する。熱源の熱は、これら接合面を経由して加工点まで伝達され、グリーンタイヤGを加熱する。
【0013】
加硫用ブラダ24は、ゴム製の袋状部材であり、グリーンタイヤGの内側(インナーライナー側)に挿入される。加硫用ブラダ24の筒状形状の軸心部には中心機構26が設けられており、加硫用ブラダ24を保持している。
中心機構26のセンターポスト2602には、加硫用ブラダ24の内部に加硫用加熱媒体となるスチームや加圧媒体となる窒素ガスを注入する注入管、加硫用ブラダ24の内部のスチームおよび窒素ガスを加硫用ブラダ24の外部に排出する排出管等が設けられている。
【0014】
加硫制御装置28は、グリーンタイヤGの寸法や材料等に合わせて予め設定された加硫制御プログラムに従って加熱媒体の供給用弁の開閉等を行い、所定の加硫条件でグリーンタイヤが加硫されるようにしている。
【0015】
つぎに、金型監視装置10の構成について説明する。
図4は、金型監視装置10のハードウェア構成を示すブロック図である。
金型監視装置10は、CPU202と、不図示のインターフェース回路およびバスラインを介して接続されたROM204、RAM206、ハードディスク装置208、ディスク装置210、キーボード212、マウス214、ディスプレイ216、プリンタ218、入出力インターフェース220などを有している。
ROM204は制御プログラムなどを格納し、RAM206はワーキングエリアを提供するものである。
ハードディスク装置208は金型22の伝熱状態を監視するための専用のプログラム(金型監視プログラム)やタイヤ加硫装置20を動作させるための専用のプログラム(加硫制御プログラム)を格納している。
ディスク装置210はCDやDVDなどの記録媒体に対してデータの記録および/または再生を行うものである。
キーボード212およびマウス214は、操作者による操作入力を受け付けるものである。
ディスプレイ216はデータを表示出力するものであり、プリンタ218はデータを印刷出力するものであり、ディスプレイ216およびプリンタ218によってデータを出力する。
入出力インターフェース220は、後述するセンサ類との間でデータの授受を行うものである。
【0016】
図5は、金型監視装置10の機能的構成を示すブロック図である。
金型監視装置10は、上記CPU202が上記金型監視プログラムを実行することにより、温度差検出部21、運転状態取得部23、診断部25、報知部27、故障検出部29として機能する。
温度差検出部21は、金型22を構成する複数の部材の接合面における複数の部材間の温度差を検出する。本実施の形態では、温度差検出部21は、接合面で接する部材同士の接合面をはさんで対向する位置にセンサS(S1,S2)を設け、当該センサの検出値に基づいて部材間の温度差を検出する。
【0017】
図2は、センサSの設置状態の一例を示す説明図である。
図2は、セグメント2208とセクショナルモールド2202との接合面F2周辺の拡大図であり、接合面F2をはさんで対向する位置に、2つのセンサS1,S2が設置されている。2つのセンサS1,S2は、それぞれ部材表面から約10mmの位置に設置されており、センサ間の距離は約20mmである。センサS1はセグメント2208の接合面付近の温度を、センサS2はセクショナルモールド2202の接合面付近の温度を、それぞれ検出して温度差検出部21へと出力する。
【0018】
図3は、
図2のA−A断面図である。
図3Aに示すように、セグメント2208およびセクショナルモールド2202の接合面F2近傍にそれぞれ接合面F2の延在方向に沿ったピット40を設け、この中にセンサSを設置する。
このようなセンサ対を、金型22内の接合面の各所に設置する。
センサSは、例えば
図3Bに示す熱電対42、または
図3Cに示す温度センサ44(例えば白銀系の抵抗変化型温測素子など)であり、これらの素子をシースなどで被覆して強度を向上させている。
特に熱電対42は、温度差を鋭敏に測定可能であるとともに、出力されるデータの解釈も規格化しやすいなどの利点があり、特に好ましい。なお、温度センサ44をセンサSとして用いる場合は、温度差検出部21で2つの温度センサ44の検出値の差分を温度差として算出する。
【0019】
運転状態取得部23は、タイヤ加硫装置20の運転状態を取得する。本実施の形態では、金型監視装置10が加硫制御装置28を兼ねているため、運転状態取得部23は、加硫制御プログラムの実行状態を取得することによりタイヤ加硫装置20の運転状態を取得することができる。
運転状態取得部23は、特に金型22の温度状態が大きく変化するグリーンタイヤGの出し入れのタイミングを取得するのが好ましい。
【0020】
診断部25は、温度差検出部21で検出された部材間の温度差に基づいて金型22の伝熱状態を診断する。
上述のように、金型22において、熱源からの熱は部材間の接合面を介してグリーンタイヤG表面(加工点)に到達するが、接合面に異物が挟まっている場合や、接合面間に空隙が空いている場合などには、接合面における伝熱が正常に行えず、加工点の温度が想定よりも低くなる場合がある。よって、温度差検出部21で接合面における部材間の温度差を検出し、診断部25で部材間の温度差が所定値未満であるかを確認することにより、接合面における伝熱が正常に行えているかを確認する。
【0021】
診断部25は、部材間の温度差が閾値以上となった場合に金型22の伝熱状態が悪化していると診断する。部材同士が接合(接触)している場合、接合開始後十分に長い期間が経過した後は部材間の温度差はゼロとなる。よって、部材間の温度差が閾値以上となった場合には何らかの原因でその箇所の伝熱状態が悪化していると考えられる。
断部25は、例えばタイヤ加硫装置20の運転状態に基づいて上記閾値を変更するようにしてもよい。例えば、グリーンタイヤGを搬入するために金型22が開かれている際には金型22内の熱が空気中に放熱され、部材温度が低下する。更に低温のグリーンタイヤGが金型22内に搬入されると、セクショナルモールド2202やサイドプレート2204、2206などグリーンタイヤGに接する部材温度は更に低下する。よって、金型22各部に温度の不均衡が生じ、接合面においても温度差が大きくなると予測される。
このため、例えば金型22の温度に不均衡が生じる運転状態時(例えば、金型22の開け閉め後所定時間未満)と、これ以外(例えば、金型22の開け閉め後所定時間以降)とで閾値を変更するようにしてもよい。具体的には、金型22の温度に不均衡が生じる運転状態時には、これ以外の時よりも閾値を大きくする。これにより、診断部25による診断の精度を向上させることができる。
【0022】
また、診断部25は、温度差の大きさに基づいて金型22の伝熱状態の悪化度合いを段階的に判定してもよい。例えば、温度差T1未満であれば正常、温度差T1以上T2(>T1)未満であれば注意喚起レベル、温度差T2以上であれば警報レベル、など、伝熱状態の悪化度合いを段階的に判定してもよい。
また、診断部25は、接合面を形成する部材の素材の違い(熱伝導率や比熱の違い)を考慮して閾値を設定してもよい。
【0023】
報知部27は、部材間の温度差が閾値以上となった場合、すなわち部材間の伝熱状態が悪化していると診断された場合に報知する。報知部27は、例えばディスプレイ216に部材間の伝熱状態が悪化している旨、およびその箇所を表示する。また、図示しないスピーカを金型監視装置10に設け、音声により報知を行ってもよい。
報知を受けた加硫作業者は、温度差が大きくなっている接合面を確認し、異物の付着や部材のずれ等が生じていないかを確認する。
【0024】
故障検出部29は、接合面をはさんで対向する2つのセンサのうち、金型22内の熱源から遠い方の温度が所定温度以上高い場合、センサSの故障の可能性を検出する。金型22内では熱源から加工点に向かって熱が伝達され、熱源から遠い方の部材の温度が高くなることはほとんどない。よって、このような温度状態が検出された場合には、センサSの故障であると判断し、例えば報知部27を用いて報知を行う。
なお、故障検出部29で検出できる故障形態には限りがあり、例えばセンサSが劣化して温度差を小さめに出力する場合などは、伝熱状態の悪化に気が付かない危険がある。よって、例えば定期的にセンサSを交換するなど、運用上の注意が必要である。
【0025】
図6は、金型監視装置10の処理を示すフローチャートである。
温度差検出部21は、接合面における複数の部材間の温度差を検出する(ステップS600)。温度差が閾値以上の場合(ステップS602:Yes)、診断部25は、金型22の伝熱状態が悪化していると判断し、報知部27が伝熱不良を報知する(ステップS604)。
また、故障検出部29は、接合面のうち熱源から遠い方の温度が所定温度以上高いか否かを判断し(ステップS606)、遠い方の温度が所定温度以上高い場合には(ステップS606:Yes)、センサSの故障の可能性があるものとして報知する(ステップS608)。
【0026】
以上説明したように、実施の形態にかかる金型監視装置10は、複数の部材が接合された金型22において、複数の部材の接合面における部材間の温度差を検出し、温度差に基づいて接合面における伝熱状態を診断するので、金型22の加熱能力が正常に機能しているかを確認しながら加硫作業を行うことができ、タイヤ品質を向上させる上で有利となる。
また、金型監視装置10は、部材間の温度差が閾値以上となった場合に金型22の伝熱状態が悪化していると診断するので、金型22の素材や使用状態に合わせて閾値を設定することができ、診断精度を向上させる上で有利となる。
また、金型監視装置10は、温度差が閾値以上となった場合、すなわち伝熱状態が悪化している場合に報知を行うので、伝熱状態が悪化している箇所の状態を確認したり、伝熱状態の悪化の原因を除去することができ、金型22の伝熱状態を正常に保つ上で有利となる。
また、金型監視装置10は、タイヤ加硫装置20の運転状態に基づいて閾値を変更するので、グリーンタイヤGの搬入出時のように金型22内の温度分布が大きく変化する際にも精度よく伝熱状態の診断を行う上で有利となる。
また、金型監視装置10は、接合面において近接した位置に2つのセンサSを設けるので、部材間の温度差を精度よく検出する上で有利となる。センサSとして熱電対42を用いれば、単一のセンサで温度差そのものを検出することができるので、温度差の検出精度を向上できるとともに、温度差検出部21における処理負荷を低減することができる。また、センサSとして温度センサ44を用いれば、それぞれの部材の温度を検出することができるので、例えば加熱媒体の過熱不良など、接合面の伝熱状態以外の原因で加熱不良が生じていることも検知することができる。
また、金型監視装置10は、金型22内の熱源から遠い方の温度が高い場合にセンサSの故障の可能性を検出するので、診断部25における診断結果の信頼性を向上させる上で有利となる。