特許第6862730号(P6862730)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6862730Sm−Fe−N系磁石材料及びSm−Fe−N系ボンド磁石
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862730
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】Sm−Fe−N系磁石材料及びSm−Fe−N系ボンド磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/059 20060101AFI20210412BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20210412BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20210412BHJP
【FI】
   H01F1/059 160
   C22C38/00 303D
   B22F3/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-181262(P2016-181262)
(22)【出願日】2016年9月16日
(65)【公開番号】特開2018-46222(P2018-46222A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂崎 巌
(72)【発明者】
【氏名】杉山 岳文
【審査官】 久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−003812(JP,A)
【文献】 特表2016−526298(JP,A)
【文献】 特開平06−020813(JP,A)
【文献】 特開平09−074006(JP,A)
【文献】 特開平05−226123(JP,A)
【文献】 特開平11−293418(JP,A)
【文献】 特開2001−068315(JP,A)
【文献】 特開2001−135509(JP,A)
【文献】 特開2006−183151(JP,A)
【文献】 特開平08−055712(JP,A)
【文献】 特開2004−111515(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1434466(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/00−1/117
B22F 3/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Smを7.0〜12原子%、
Hf、Zr、及びScから成る群から選ばれる1種又は複数種の元素を0.1〜1.5原子%、
Mnを0.1〜0.5原子%、
Nを10〜20原子%、
Coを0〜35原子%、
Siを0.1〜0.5原子%、
Alを0.1〜0.5原子%
含有し、
残部がFeであって、
主相がTbCu7型の結晶構造である
ことを特徴とするSm-Fe-N系磁石材料。
【請求項2】
大気中で室温から昇温して120℃の温度に2000時間保持した後に室温に戻したときの磁束と該昇温前の磁束との差を該昇温前の磁束で除した値である2000時間保持減磁率と、大気中で室温から昇温して120℃の温度に1時間保持した後に室温に戻したときの磁束と該昇温前の磁束との差を該昇温前の磁束で除した値である初期減磁率につき、前記2000時間保持減磁率の前記初期減磁率からの低下量の絶対値が2.2%以下であることを特徴とする請求項1に記載のSm-Fe-N系磁石材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のSm-Fe-N系磁石材料の粉末とバインダから成るSm-Fe-N系ボンド磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Sm-Fe-N(サマリウム−鉄−窒素)系磁石、及び、小型、薄肉、あるいは複雑な形状であることを要する用途に好適に用いられる等方性のSm-Fe-N系ボンド磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、強力な磁力(最大エネルギー積)を要する用途向けの永久磁石には、主にNd-Fe-B(ネオジム−鉄−硼素)系磁石が用いられているが、Nd-Fe-B系磁石を凌ぐ特性を有する磁石としてSm-Fe-N系磁石が知られている(特許文献1、非特許文献1)。Sm-Fe-N系磁石は、Nd-Fe-B系磁石と同程度の飽和磁気分極を有し、且つ、Nd-Fe-B系磁石よりも異方性磁界及びキュリー温度が高いうえに酸化し難く錆が生じ難いという特長を有する。
【0003】
一般に、磁石の原料として使用される粉末は、磁気的には等方性磁石粉末と異方性磁石粉末に分類される。ここで等方的磁石粉末とは、個々の合金粉末が多数の微細な結晶粒で構成されており、且つ、それぞれの結晶粒の磁化容易方向が無秩序になっているものをいう。一方、異方性磁石粉末とは、個々の合金粉末が1つの単結晶になっているか、個々の合金粉末が多数の微細な結晶粒で構成されていたとしても、それぞれの結晶粒の磁化容易方向が特定の方向に揃っているものをいう。Sm-Fe-N系の合金粉末には、主に、準安定でありTbCu7型と呼ばれる六方晶の結晶構造が主相であって液体急冷法等により得られる等方性磁石粉末と、安定相でありTh2Zn17型と呼ばれる菱面体晶の結晶構造が主相である異方性磁石粉末がある。
【0004】
Sm-Fe-N系磁石を構成する結晶は、温度が約500℃を超えると分解してしまう。そのため、Sm-Fe-N系磁石は、製造時に1000℃前後の温度まで昇温する必要がある焼結磁石にすることができず、ボンド磁石として用いられている。一般にボンド磁石は、磁石粉末とバインダを混合したコンパウンドを圧縮成形機や射出成形機等で成形することにより製造されるため、磁束密度の大きさはバインダや空隙が存在する分だけ焼結磁石より劣るものの、小型、薄肉、あるいは複雑な形状のものを容易に得ることができるという特長を有する。また、TbCu7型の等方性磁石粉末から作製される等方性のSm-Fe-N系ボンド磁石は、Th2Zn17型の異方性磁石粉末から作製される異方性のSm-Fe-N系ボンド磁石と比較すると、最大エネルギー積は小さいものの、成形時に磁場を印加する必要性がないため、生産性が高く、また、着磁パターンの自由度が高いという利点がある。このような等方性のボンド磁石の特長と上述のSm-Fe-N系磁石の特長(異方性磁界及びキュリー温度が高いうえに酸化し難く錆が生じ難いこと)を利用して、等方性のSm-Fe-N系ボンド磁石は、厳しい環境下で使用される自動車向けのモータ等に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-057017号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】大松澤 亮、村重 公敏、入山 恭彦 著、「超急冷法により作製したSmFeNの構造と磁気特性」、電気製鋼、大同特殊鋼株式会社発行、第73巻第4号第235〜242頁、2002年10月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、着磁後の磁石は、温度が高くなるほど磁束密度が低下する。そして、一旦温度が高くなってから室温に戻ったとき、磁束密度は一部回復するものの、完全には元に戻らない。このような室温から加熱した時の磁束密度の低下を「熱減磁」といい、熱減磁のうち室温に戻ったときに磁束密度が回復する分を「可逆減磁」、回復しない分を「不可逆減磁」という。一般に、複数の磁石を対象として長期の磁束密度の経時変化を調べる場合、磁石を室温よりも高い所定の温度に保持して磁束の測定を行うことが難しいため、所定の温度に所定時間保持した後に室温に戻したときの磁束を測定し、不可逆減磁で当該磁石の評価を行っている。一般に、「減磁後の磁束」と「着磁後であって減磁前の磁束」の差を後者の磁束で除した値を「減磁率」と呼び、特に、「温度上昇後に室温に戻したとき(減磁後)の磁束」と「着磁後であって温度上昇前の室温における(減磁前の)磁束」の差を後者の磁束で除した値を「不可逆減磁率」と呼ぶ。減磁率及び不可逆減磁率は、本明細書での定義より負の値となる。
【0008】
通常の磁石では、温度が上昇して一定の温度に達するまでは磁束密度は比較的大きく低下(減磁)するが、その温度に長時間保持している間にも磁束密度は徐々に低下(減磁)する。前述のように加熱状態で磁束の測定を行うことが難しいため、所定温度に達するまでの減磁は、該所定温度に1時間保持した後に室温に戻したときの磁束を用いて求められる初期減磁率を用いて評価される。また、本明細書では、所定温度に長時間保持している間の減磁は、該所定温度に当該長時間保持した後に室温に戻したときの磁束を用いて求められる不可逆減磁率の、初期減磁率からの低下量を用いて評価される。
【0009】
従来のSm-Fe-N系ボンド磁石では、加熱保持中の経時変化による減磁はNd-Fe-B系ボンド磁石よりは小さいものの、例えば大気中に120〜150℃の温度で2000時間保持したときの不可逆減磁率は初期減磁率よりも2%以上低下してしまう。Sm-Fe-N系ボンド磁石を高温環境下で長時間使用するためには、このような減磁をできるだけ抑制する必要がある。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、等方性(TbCu7型)であって、高温環境下で長時間使用するのに適したSm-Fe-N系磁石材料及びSm-Fe-N系ボンド磁石を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係るSm-Fe-N系磁石材料は、
Smを7.0〜12原子%、
Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)、及びSc(スカンジウム)から成る群から選ばれる1種又は複数種の元素を0.1〜1.5原子%、
Mn(マンガン)を0.1〜0.5原子%、
Nを10〜20原子%、
Coを0〜35原子%(従って、Coを含有しなくてもよい)、
Siを0.1〜0.5原子%、
Alを0.1〜0.5原子%
含有し、
残部がFeであって、
主相がTbCu7型の結晶構造である
ことを特徴とする。
【0012】
後述のように、本発明者が行った実験において、Sm-Fe-N系磁石材料を大気中で高温環境(該実験では120℃)に長時間保持したところ、本発明に係るSm-Fe-N系磁石材料は、充分長時間(該実験では2000時間)保持後の不可逆減磁率の、初期減磁率からの低下量の絶対値が、Mnの含有率が0.1原子%未満である場合及び0.5原子%を超えた場合には2.2%を超えるのに対して、該含有率が0.1〜0.5原子%の範囲内にあるときには2.2%以下であることが確認された。このように、本発明に係るSm-Fe-N系磁石材料によれば、Mnを0.1〜0.5原子%含有することにより、高温環境下において磁束密度の時間による変動(熱減磁)を抑えて安定化し、それにより、高温環境下で長時間使用するのに適した磁石の材料が得られる。
【0013】
Hf、Zr、及びScから成る群から選ばれる元素(以下、元素Tとする)は、TbCu7型構造を得るために添加される元素である。また、Fe原子の一部をCoに置換することにより、飽和磁化を大きくすることができると共に、キュリー温度が高くなり耐熱性が向上する。但し、Sm-Fe-N系磁石材料中のCoの含有率が35原子%を超えると、却って飽和磁束密度及び残留磁化が低下してしまうため、当該含有率は35原子%以下とする。
【0014】
なお、本発明に係るSm-Fe-N系磁石材料は、不可避的不純物としてO(酸素)及びH(水素)をそれぞれ最大で0.3原子%、並びにCr(クロム)、Ni(ニッケル)及びCu(銅)をそれぞれ最大で0.1原子%含有し得る。また、本発明に係るSm-Fe-N系磁石材料は、C(炭素)を最大で0.5原子%含有していてもよい。Sm-Fe-N系磁石材料は、これらの範囲内の量の元素を含有していても、上記の範囲内の量のSm、T、Mn、N、Fe及びCoを含有していれば(但し、Coは含有していなくてもよい)、本発明に含まれる。
【0015】
また、上記の各元素の含有率は、元素毎に異なる有効数字で示している。それらの有効数字よりも高精度に含有率を測定することができた場合には、有効数字よりも1桁小さい桁で四捨五入した値が上記範囲内に含まれていれば、本発明の要件を満たす。例えば、Mnの含有量が小数第二位までの精度で測定され、その測定値が0.05原子%である場合には、該測定値を小数第二位で四捨五入した「0.1原子%」が上記範囲内に含まれることから、Mnの含有率の要件を満たすこととなる。
【0016】
本発明に係るSm-Fe-N系磁石材料はさらに、Si(ケイ素)を0.1〜0.5原子%含有する。これにより、熱減磁を一層抑制することができる。同様に、本発明に係るSm-Fe-N系磁石材料は、Al(アルミニウム)を0.1〜0.5原子%含有することによっても、熱減磁を一層抑制する。本発明に係るSm-Fe-N系磁石材料は、SiとAlの双方を0.1〜0.5原子%ずつ含有する
【0017】
本発明に係るSm-Fe-N系ボンド磁石は、本発明に係る上記Sm-Fe-N系磁石材料の粉末とバインダから成る。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、等方性(TbCu7型)であって、高温環境下で長時間使用するのに適したSm-Fe-N系磁石材料及びSm-Fe-N系ボンド磁石を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るSm-Fe-N系ボンド磁石の実施例及び比較例における、120℃・2000時間保持の不可逆減磁率の、初期減磁率からの低下量を、Mnの含有量が異なる複数の試料について示すグラフ。
図2】本実施例及び比較例における120℃保持の不可逆減磁率の経時変化を示すグラフ。
図3】本実施例及び比較例における120℃保持の不可逆減磁率の初期減磁率からの低下量の経時変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係るSm-Fe-N系磁石材料及びSm-Fe-N系ボンド磁石の実施形態を説明する。
本実施形態のSm-Fe-N系磁石材料は、Smを7.0〜12原子%、Hf、Zr、及びScから成る群から選ばれる1種又は複数種の元素(元素T)を0.1〜1.5原子%、Mnを0.1〜0.5原子%、Nを10〜20原子%、Coを0〜35原子%、残部としてFeを含有している。このSm-Fe-N系磁石材料は、例えば以下の方法により作製することができる。
【0021】
まず、上記成分のうちNを除く各成分を配合して溶解させることにより、原料となる溶湯を作製する。次に、高速回転しているロールの表面にこの溶湯を噴射することにより急冷し、それにより合金のリボンを作製する。このリボンを、不活性雰囲気下であって700℃〜800℃の範囲内の温度で熱処理することより、アモルファスや準安定相の一部を安定相に変化させる。この操作は、次の窒化処理を行った後の保磁力をより高くするために行う。
【0022】
その後、窒素原子を有する分子を含むガス中でリボンを加熱することにより該粉末を窒化する。この操作により、飽和磁化、保磁力、及び最大エネルギー積を高める。窒素原子を含む分子を含むガスとして、アンモニアと水素の混合ガスを好適に用いることができる。この例ではアンモニアガスが窒素原子を有する分子から成るガスである。窒化処理中の加熱温度や圧力は使用するガスによるが、一例では、アンモニアと水素の容積比が1:3であるガスを用いる場合には加熱温度を450℃程度とし、圧力は例えば管状炉中に前記ガスを流しながら処理を行うことでほぼ大気圧(大気圧よりもわずかに加圧)とする。この窒化処理の時間を調整することにより、Nの含有率が10〜20原子%となるようにする。以上の操作により、粉末状のSm-Fe-N系磁石材料(以下、「Sm-Fe-N系磁石粉末」とする)が得られる。
【0023】
上述のように、一般にSm-Fe-N系磁石には主相がTh2Zn17型の結晶構造であるものと、主相がTbCu7型の結晶構造であるものがあるが、本実施形態では元素Tを0.1〜1.5原子%含有させることにより、主相がTbCu7型であるSm-Fe-N系磁石粉末が得られる。
【0024】
本実施形態のSm-Fe-N系磁石粉末において、さらにSiを0.1〜0.5原子%含有させることや、Alを0.1〜0.5原子%含有させることもできる。それらSi及び/又はAlを含有させる場合にも、Sm-Fe-N系磁石粉末の作製方法は上記と同様である。本実施形態のSm-Fe-N系磁石粉末にSi及び/又はAlを含有させることにより、当該Sm-Fe-N系磁石粉末から作製されるSm-Fe-N系磁石は、それらの元素を含有しない場合よりも長期的な熱減磁を抑制することができる。
【0025】
本実施形態のSm-Fe-N系ボンド磁石は、上記方法により作製されたSm-Fe-N系磁石粉末にバインダを混合して成形することにより製造することができる。バインダには、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂や、ナイロン等の熱可塑性樹脂を用いることができる。例えば、本実施形態のSm-Fe-N系磁石の粉末にエポキシ樹脂を2質量%混合し、圧縮成形を行うことにより本実施形態のSm-Fe-N系ボンド磁石が得られる。
【実施例】
【0026】
以下、実際に作製したSm-Fe-N系ボンド磁石の磁気特性を測定した実験結果を示す。この実験では、表1に示した含有率で各元素を含有するSm-Fe-N系磁石の粉末に2質量%のエポキシ樹脂を加えて混合・混練し、直径10mm 、高さ7mmの円柱状に圧縮成形後、硬化処理を行うことによりSm-Fe-N系ボンド磁石を作製した。Feは、表1では含有率の値を省略したが、残部を占めている。また、表1では、19個の実施例の試料を、Si及びAlの組成によりG1〜G4の4つのグループに分けた。グループG1ではSi及びAlの組成は共に0.04原子%以下(小数第二位で四捨五入すると0.1原子%未満)、グループG2ではSiの組成は0.05〜0.54原子%(同・0.1〜0.5原子%)であってAlの組成は0.04原子%以下、グループG3ではSiの組成は0.04原子%以下であってAlの組成は0.05〜0.54原子%、グループG4ではSi及びAlの組成は共に0.05〜0.54原子%である。比較例の試料は、Mnの含有量が0.04原子%以下又は0.55原子%以上(小数第二位で四捨五入すると0.1原子%未満又は0.5原子%を超える値)である。
【表1】
【0027】
各実施例及び比較例の試料について、着磁後、並びに、着磁後にさらに120℃の炉内に1時間及び2000時間保持した後に室温に冷却したときの磁束を測定する実験を行った。得られたデータから、「初期減磁率」と、「2000時間保持の不可逆減磁率」を求めた。そして、図1及び表2に示すように、2000時間保持の不可逆減磁率の、初期減磁率からの低下量(以下、「2000時間保持時低下量」とする)を求めた。
【表2】
【0028】
図1のグラフより、比較例(×印、及び+印の記号で示したデータ)よりも実施例(黒四角形、黒菱形、白丸形、及び白三角形の記号で示したデータ)の方が2000時間保持時低下量が小さいことがわかる。具体的には、2000時間保持時低下量が、比較例では2.2%を超えるのに対して、実施例では2.2%以下である。これは、比較例よりも実施例の方が高温環境下での磁束の安定性(即ち、熱安定性)が高く、かかる環境下での長時間の使用に適していることを意味している。
【0029】
また、図1のグラフにおいて実施例同士を比較すると、グループG1(黒四角形)よりもグループG2(黒菱形)及びG3(白丸形)の方が2000時間保持時低下量が小さく、グループG2及びG3よりもグループG4(白三角形)の方が2000時間保持時低下量が小さい(グループG2とグループG3は同程度)。これは、Sm-Fe-N系ボンド磁石がSi及び/又はAlを0.05〜0.54原子%含有することによって熱安定性がより高くなることを示している。なお、比較例(Mnの含有量が0.04原子%以下)においてSiを0.05〜0.54原子%含有するもの(+印)は、2000時間保持時低下量がいずれの実施例にも及ばないことから、熱安定性にはSiよりもMnの方が大きく寄与することがわかる。
【0030】
図2に、実施例1及び実施例17、並びに比較例2及び比較例3の試料につき、120℃保持の不可逆減磁率の経時変化を示す。また、図3には、図2と同じ試料を対象として、120℃保持の不可逆減磁率について初期減磁率からの低下量の経時変化を示す。室温から保持温度に上昇する際には比較的大きく減磁するが、これら図2及び図3のグラフが示している温度保持後には対数時間に従って直線的に減磁することがわかる。実施例の試料は、この対数時間に対する減磁率の傾きが比較例よりも小さい。不可逆減磁率の初期減磁率からの低下量も同様である。これら図2及び図3のグラフからも、比較例よりも実施例の方が熱安定性が良好であることがわかる。
【0031】
表3に、室温における各試料の残留磁束密度Br、保磁力iHc、及び最大エネルギー積(BH)maxを示す。これらBr、iHc、及び(BH)maxには、実施例と比較例の間に有意な差は見られない。この実験結果より、本実施例のSm-Fe-N系ボンド磁石では、室温における保磁力iHc及び残留磁束密度Brが同程度のものにおいて、熱安定性を高くすることができることが確認された。なお、実施例と比較例を問わず、室温における保磁力iHcを、粉末熱処理の条件(温度、時間)を適切に設定することによって高くすることにより、不可逆減磁率の初期減磁率からの低下量を小さくすることができるが、その場合には残留磁束密度Brが低下してしまう。
【表3】
図1
図2
図3